ことり「海未色とれいん」 (93)
「今日はみんなの新しいお友達を紹介します」
教室のドアの向こうがわからきこえた先生と、みんなの声に、胸がドキドキする。
「はーい、入って?」
うう……緊張しちゃう……。
変じゃないかな?ことり……。
そしたら、ガラガラっと音がして、
「どうしたの?」
「ひゃっ!?」
今入ろうと思ってたのに、先生がいきなりドアをあけるからびっくりして変な声が出ちゃった。
……恥ずかしいな。
自分の足と、新しいうわばきだけを見ながら、教室へ。
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地の文有り、ことうみ(の予定)です。
遅筆ですがやっていきます。感想、アドバイス、批評など頂けたら嬉しいです!
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教室の真ん中につくと、みんなが声をたてたの。
『可愛い~』『ねえ、どこから来たの?』『名前は?』『お友達になろうよ!』
「こらこら、みんな質問は後でね?」
先生が黒板に、ことりの名前をチョークでコツコツって書いて、
「じゃあ、自己紹介お願いしていいかな」
転校するまえから、つぎの学校のためにずーっと考えてた自己紹介。
さいしょは……あ、なんだっけ……?
緊張して頭がまっしろになっちゃった。
で、でもなにかいわないと……。
――――ちゅん、ちゅん。
朝……?
窓から見える木の枝に列をなして止まっている小鳥さんたちの声が、ことりにとっての目覚まし時計になりつつあります。
パステルカラーのまぶしい朝の陽射しを体にあびながら、
「んーっ……」
っと伸びをしました。
なんだか懐かしい夢を見たなぁ……。
ことりの記憶よりも鮮明だったさっきの夢が、本当にあったことなのか、それともただの空想だったのか、もうわからないくらい前の話。
改めて窓の外を眺めてみると、雲ひとつない青空。
「うんっ、今日もいいお天気♪」
パジャマを着替えて、顔を洗って、歯を磨いて、髪を整えて……。
そんないつも通りの朝。
お休みの日なのに、学校に行く日と変わらない時間に目が覚めちゃった。
二度寝もしようかと考えたけど、せっかく小鳥さんたちが起こしてくれたんだから、二度寝しちゃうのももったいないかなって思ってベッドからスムーズに出られました。
昨日穂乃果ちゃんと海未ちゃんとメールしてたことを思い出して、ふふっと笑みがこぼれました。
と、同時にちょっぴりアンニュイな気分。
実は、ことりには今、誰にもいえない悩みがあるのです。
すこし前から、海未ちゃんを見るとドキドキしちゃうんです。
姿勢をぴんと伸ばして授業を受ける海未ちゃん、部活中にみんなをまとめている海未ちゃん。
穂乃果ちゃんの突拍子もない発言に呆れている海未ちゃん……。
そんな海未ちゃんの一つ一つの動作や言葉がたまらなく可愛くて。
それに、みんなに対して思う可愛いとはちょっと種類が違うというか……うまく言葉で説明はできないけど。
本当はこの気持ちが何なのか、なんとなくわかっているんです。
でも、それが普通じゃないから、海未ちゃんに告げても困らせるだけだから。
親友や幼馴染の関係を崩したくないから、ずっとこのままでもいいかなぁって最近は思うんです。
~~~~~~~
午後2時。
まだまだ冷たい空気を、頭の遥か上に煌々と輝くお日様が少しだけ暖めてくれています。
ことりが部室に着くとテーブルの上に置き手紙があって、『各自屋上に集合』とのこと。
屋上の扉を開くと、2年生と3年生はみんな揃っていました。
1年生はまだ来てないみたい。
「こんにちは~」
と挨拶。
するとみんなが挨拶を返してくれます。
「今日はかなり暖かいわね」
「久々の晴れやね。太陽パワーで今日のうちは絶好調やで!」
「穂乃果も絶好調ー!」
「うちも穂乃果ちゃんに負けないように頑張らなな!」
扉がかちゃりと開いて
「みんな早いのね」
「おはようにゃ~!」
1年生のみんなも着きました。
今日も全員揃って練習開始です♪
「それでは今日は新曲のダンスから始めましょうか」
仕切り役の海未ちゃんと向き合う形でみんなが一列に並んでいます。
ラジカセの再生ボタンを押して、最初の隊形に並んだみんなの中に急いで入っていく海未ちゃん。
メトロノームの音が合わせて録音された伴奏が流れてきます。
ところで、再生のボタンってどうして横向きの三角形なんだろう?
まだ完璧に覚えきったとはいえないダンス。
前にいる絵里ちゃんの動きを見ながらなんとかついていけてます。
「穂乃果!振りが逆です!」
「あっ!」
ちらっと横を向いた海未ちゃんが穂乃果ちゃんの間違いに気付いて教えてあげました。
海未ちゃんの指摘につられたのか凛ちゃんの動きも一瞬たどたどしくなっちゃいました。
可愛いなぁ~と思っていると、
「ことりもステップの順番が違いますよ!」
「えっ!?」
ついつい……。
やっぱりよそ見はよくないですね。
それにしても、海未ちゃんはよく見てるなぁ。
やっぱり日舞に武道に……って多彩だよね。
おまけにスクールアイドルとしてもとっても可愛いなんて反則だと思いませんか?
一通りのダンス練習が済んで、
「はぁ……疲れた~」
額から汗が流れて、顎にしずくをつくった穂乃果ちゃんが勢いよく屋上に座り込みました。
「はいっ、穂乃果ちゃん」
「あっ、ありがとう!」
そういってタオルで顔をぬぐう穂乃果ちゃん。
疲れたとはいってもまだまだ元気が残っていそうな穂乃果ちゃん。
穂乃果ちゃんの好きなことに対する情熱とパワーは本当にすごいなぁって毎回思わされます。
でも逆をいうと嫌いなことには……。
まあ、そこも含めて魅力的ですよね♪
休憩を終え、次は音楽室です。
真姫ちゃんがピアノで曲を弾いて、みんなで歌の練習です。
まずは発声練習。
「~♪」
心地いいみんなの歌声とピアノの音色が耳に入ってきます。
それだけでなぜかさっきまでの疲れが吹き飛んだ気分。
ちゃんとした曲を歌い始めてしばらくすると、凛ちゃんが音楽室の小さいパーカッション系の楽器類が入った箱からマラカスを取り出して……。
シャカシャカシャカシャカ♪
「いまこ~こで~見つけた♪ って、凛ー!ちゃんと歌いなさい!」
真姫ちゃんが凛ちゃんを一喝。
ピアノの音色まで真姫ちゃんの気持ちに合わせて強くなったような。
「沢山だね~♪」シャカシャカシャカ♪
歌いながらマラカスをリズミカルに振る凛ちゃん。
「ってそういう問題じゃないわよ!」
ちなみにことりは、マラカスもありだと思います。
夕方のチャイムが少し前に鳴って練習も終わり、今は穂乃果ちゃんと海未ちゃんとで帰り道です。
すると穂乃果ちゃんが突然、
「あー、ごめん二人とも!穂乃果ちょっと買い物頼まれてたんだった!」
といって手を合わせてきました。
その奥にはばつの悪そうな表情の穂乃果ちゃん。
「二人で先に帰ってて!」
「付き合いましょうか?」
「え?大丈夫?」
「ことりも平気だよっ」
そんなわけで、急遽道を曲がってスーパーへ向かうことになりました。
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>>2の補足
少し設定を変えたりしている部分もあります。
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どどんと大きなたたずまいのお店。
食べ物から子供たちのおもちゃまでなんでも揃うお店です。
穂乃果ちゃんが鞄の中から紙を取り出しました。
どうやら買う物のリストみたいです。
ちょうどお夕飯の材料を買いに来た人で賑わっていました。
「それじゃーちょっとマッハで買ってくるから!」
カートを手に、お店の中でそんなスピード出したら危ないんじゃないかって思うくらいの速さで穂乃果ちゃんの背中が遠ざかっていきます。
「あっ!そんなにスピード出したら危ないです……って、もう行ってしまいましたね」
「あはは……」
穂乃果ちゃんに注意するときの呆れ顔の海未ちゃんは結構好きです♪
呆れてはいるんだけど、とっても優しい顔なんだよ!
「私達はどうしましょう……。とりあえずそこのカフェにでも入って休憩しましょうか」
「そうだね~」
お店の中にもお店がいくつかあり、カフェもその一つ。
カフェの外装は大きなガラス張りになっています。
ガラスはちょうど下から1mくらいのところからすりガラスになっていて、窓際の席でも顔が隠れるようなつくりです。
自動ドアをくぐると、コーヒーのいい香りが漂ってきました。
ブラックコーヒーはあんまり好きじゃないけど、この香りはなんだかとっても落ち着きます。
ドリンクを注文して席につきます。
ことりはレモンティーで、海未ちゃんはまさかのブラックコーヒーです!
でもブラックコーヒーを飲んだ海未ちゃんの顔が一瞬引きつったから、もしかしたら苦手だったのかも?……なんて推理してみたり。
もしそうだとしたら、見栄をはった海未ちゃん……とっても可愛い!
って、よくよく考えたらこれ海未ちゃんと二人っきりなんだよね……!
そうはいっても、流石に何年も一緒にいるから、緊張したりすることはないんだけど。
「最近ダンス上達しましたよね。ことり」
先に会話を始めたのは海未ちゃん。
「ありがと~!でも今日はちょっとぼーっとすることが多くて駄目だったね」
「どうかしたのですか?」
「ううん!海未ちゃんが可愛いなあ~って思ってただけ!」
「なっ、何を言ってるのですか!」
ことりがからかうとかすかに海未ちゃんの頬が赤くなりました。
あ、もちろん海未ちゃんは可愛いですよ?
照れ隠しみたいにコーヒーを一口飲む海未ちゃん。
「こっ、ことりの方が可愛いです!」
どきっと胸の音が大きくなりました。
海未ちゃんからの反撃に驚きと嬉しさと恥ずかしさが溢れてきて、胸の鼓動が速くなって。
「あっ、ありがとう……」
どうやら、海未ちゃん以上にことりの方が『可愛い』って言われ慣れていないみたいです。
海未ちゃん限定なのかもしれないけど。
手で触って確認しなくても、頬が赤くなってしまっているのがわかっちゃう。
前ならこんなに焦ることなんてなかったのになぁ……。
「……」
「……」
沈黙。
店内の音楽と他のお客さんの声があるけれど、ことりと海未ちゃんの間にだけは三点リーダがたくさん浮いています。
えっと……え~っと。
何を喋ろう?
というか、ことりと海未ちゃんってこんなにぎこちなかったっけ?
「あー……お、お腹すいちゃったね」
我ながら苦しい話題……。
「そうですね。もう6時ですか」
「うん……」
それでまた会話が途切れちゃった。
どうしようどうしよう!何か話題を!
なんて思っていると……。
ぐー。
「ひゃっ!?」
低いとも高いともつかない音で、ぐーっと鳴ったのはことりのお腹でした。
い、今の海未ちゃんに聞かれてなかった……よね?
ちらっと、海未ちゃんの方を見ます。
「ことり……今」
「はっ、恥ずかしいから言わないで!」
「ぷっ……くくく」
笑いをこらえきれなくなった海未ちゃんの肩が小刻みに上下に震えています。
だんだん大きくなってくる笑いを止めようと手を口に当てています。
「ひどいよ!海未ちゃん!」
「くふふふ、す、すみません! でも……んふふ、いい音でしたよ?」
顔どころか体中が一気にぼーっと熱くなる感じがしました。
「恥ずかしいよぉ……」
思わず手で顔を覆ってしまうほど、本当に恥ずかしい……。
「ま、まあ生理現象ですから……あ!なんなら何か食べますか?」
「ううん、大丈夫だけど……」
沈みこんだことりを海未ちゃんがいろいろと慰めてくれます。
恥ずかしい思いをしたけど、ちょっぴり役得かな?なんて思ったり。
そうしていると海未ちゃんの携帯が鳴って、
「あ、穂乃果の買い物が終わったそうですよ。そろそろ出ましょう?」
お会計を済ませてお店を出ると、大きく膨れ上がったビニール袋を提げた穂乃果ちゃんがこっちを見て
「えー!二人とも穂乃果を差し置いてカフェでスイーツ食べてたの!?」
「お茶してただけです!それに穂乃果は家に帰れば甘い物がたくさんあるでしょう」
「餡子はもういいよぉぉぉぉ」
駄々をこねている子供みたいに穂乃果ちゃんが腕を振って、提げているビニール袋も重たそうにぶんぶん動きます。
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「はい、お茶です!」
「ありがと~、かよちゃん」
かよちゃんが淹れてくれたお茶から湯気がふわふわ。
湯気の上に顔を乗せると、お茶のいい香りがします。
そんな部活中。
がたっ。
突然椅子から音を立てて、立ち上がったにこちゃん。
にこちゃんは手をぐーっと握って体の横につけたまんま、かすかに震えています。
「ど、どうしたんにこっち」
「った……やったわぁぁぁぁ!!!!」
耳がツーンとなるくらい、にこちゃんの声が狭い部室の中いっぱいに響きます。
「う、うるさいわよにこちゃん!!どうしたの?」
「こ、これ!見て!」
興奮冷めやらぬ、みたいな感じでにこちゃんが窓際のパソコンの画面を、びしっ、びしっと何度も指差します。
みんなが立ってパソコンの方へ向かうからぎゅうぎゅう状態。
先陣を切ってにこちゃんの前へ出たのは穂乃果ちゃん。
ことりはというと、海未ちゃんと絵里ちゃんに埋もれそうですが、なんとか画面をのぞいています。
「こ、これって……!」
「そう!スクールアイドルフェスティバルから招待がかかったのよ!!」
「すごいっ!!!!!」
ことりのすぐ後ろでかよちゃんが大きな声を出したから、思わずびくっとなっちゃいました。
にこちゃん作のμ'sのホームページには「コンタクト」欄があって、出演依頼が送れるようになっているみたいで。
今まで出演依頼なんてきたことを少なくともことりは知らないから、多分これが出演依頼第1号ですね!
「それで……スクールアイドルフェスティバルとは何ですか?」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
にこちゃんの気迫に流石の海未ちゃんもたじろぎます。
「アンタそれでも本当にスクールアイドル!?」
「は、はあ……」
「まぁいいわ。『スクールアイドルフェスティバル』、読んで字の如くスクールアイドルの祭典よ」
得意げな顔で説明をはじめるにこちゃん。
うんうんとにこちゃんの話の相槌をうつかよちゃん。
それと、困惑気味で眉毛がへの字の海未ちゃん。
「『ラブライブ!』とは違うのですか?」
「まあ同じようなものね。スクールアイドルのイベントとしてはこの2つが二大イベントなのよ」
スクールアイドルフェスティバルへ出られることになって、どっと部室が賑やかになりました。
どんな曲を歌うのか、どんな振り付けにするのか、どんな衣装にしたいのか。
みんなでアイデアを出し合います♪
「新曲にしようよ!」
「そうはいっても……海未や真姫は大丈夫?」
「私は別に構わないけど」
「同じくです」
「やったぁー!」
スクールアイドルフェスティバルまでまだ期間はあります。
ことりも衣装作り頑張らなくっちゃ!
どんなのにしようかな?
頭の中でいろんなデザインの案が飛び交っては消え、飛び交っては消え。
二人が作った曲の雰囲気にも合わせたいし、夢が膨らみます!
お風呂から上がって、自分の部屋のパソコンの電源を入れました。
起動を待つ間に髪を乾かしちゃいます。
髪を乾かし終えるよりもずっと先にパソコンのスタンバイは準備完了になっているんですけどね。
過去のスクールアイドルフェスティバルの動画を見ようと思います。
大きな野外ステージ、ものすごい人数のお客さん、何やらクレーンらしきもので吊られたプロ用のカメラで収録されていたり。
当然ことり達がやってきたようなライブとは比べ物にならないほどのスケールで……。
すごい……!
もちろん、会場の様子もすごいんだけど、何よりもすごいのはステージの上のスクールアイドルの人。
本当に同じ年代の人なのかなぁって思っちゃうほど。
キラキラ輝いてるその姿を、しばらく食い入るように見つめてしまいました。
こんなのを見たら少し怖気づいちゃうけど、それよりも、出てくるやる気の方が何倍も上です!
ことりは画面の中のスクールアイドルの人や、μ'sのみんなほど輝ける自信はないけど精一杯やりたいなって思います。
それに、衣装なら誰にも負けない自信があります!
衣装係としてみんなに貢献できたら嬉しいなっ。
スケッチブックと鉛筆、色鉛筆を取り出して、ベッドにもたれかかりながらイメージを描いてみることにしました♪
・
・
・
「ふぁ……」
視界がぼんやり。
電気はついたままで、その光がとっても眩しい……。
状況を理解するのにしばらく時間がかかりました。
といってもその時間のほとんどはぼーっとなってただけだけど、どうやら寝ちゃってたみたいです。
色鉛筆はテーブルに出されたまま、スケッチブックと鉛筆はことりの足元に転がっています。
スケッチブックと鉛筆をテーブルに置いて、一呼吸。
時計を確認すると、朝の5時でした。
「えっ!?こんなに寝ちゃってたんだ……」
これでもかっていうほど寝ちゃって、二度寝しようという気にもなりません。
かといって何もしないのも暇だし……。
気分転換にちょっとお散歩でもしてみようかな?
お母さんに見つからないように、そろっとそろっと歩いて、ドアも必要最小限の音しか出ないように閉めました。
家の中と外ではまるで別世界で、冷たい風がことりの体を包んで、思わずぶるぶるっと震えてしまいました。
はぁっと息を吐くと、月明かりに照らされたことりの白い息が夜暗に溶けてなくなります。
こつこつと小さく靴の音を立てて、見慣れた音ノ木の道を歩きます。
かすかにこだまする風の低い音が、眠りについている静かな町を引き立てて……なんだか幻想的でいい感じ♪
でも、やっぱりちょっと寒い……。
よくよく考えたら、真っ暗闇の中に一人だけだし、後ろにお化け……なんているわけないかぁ。
なんて考えていたら、突然、ことりの肩をとんとんと叩かれる感覚がしました。
っ……!?
反射的に体がびくっと。
お化けのことなんて考えなきゃよかった!
それに、こんな時間に肩を叩かれるなんてまさか本当に……。
恐る恐る後ろを振り返ると、
「あ、やっぱりことりでしたか」
「う、海未ちゃん……」
トレーニング用の服装に身を包んだ海未ちゃんでした。
急にどっと疲れたような気分に……ちょっぴり拍子抜け。
「はぁ~、びっくりしたぁ」
「ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったのですが」
そういって微笑む海未ちゃん。
「何をしていたんですか?こんな時間に」
「ちょっとお散歩だよ?海未ちゃんはトレーニング?」
「ええ。ことりは帰る途中ですか?」
「うん」
「じゃあ家まで送りますよ。危ないですから」
「えっ、いいよいいよ!大丈夫!」
「いいえ!第一、私に声をかけられたとき、ものすごく驚いていたじゃないですか」
「……あはは」
そんなこんなでことりの小さな冒険は海未ちゃんを仲間に引き連れて、ゴールへ向かいます。
運が良かったのは、今がまだ暗くて、頬が赤くなってるのを見られなかったことかな?
そして、こうやって海未ちゃんと喋れているのも♪
本日はここまでとさせていただきます。
「」の前に名前付けたほうが分かりやすいでしょうか?
朝方の風がことり達の背中を押します。
海未ちゃんからふんわりと漂い香るいい匂いが、いい感じ♪
全然汗臭くないし、本当にトレーニングしてたの?
「海未ちゃんって、いっつも朝こうしてるの?」
「いえ、いつもという訳ではありませんが、稽古のない日はこうしていますよ」
「でもそれじゃあ毎日運動してるってことだよね!?」
「ええ……もう慣れっこですよ」
「だから全然太らないんだねぇ」
「ことりだって、全然痩せていますよ?」
「そう?」
「はい!」
いつもよりほんのちょっぴり声の大きさ小さめで。
新聞配達のバイクとすれ違ったり、ほのかに薄紫の空を小鳥が飛んでいたり。
「ねえ……海未ちゃんは、好きな人とか……いる?」
海未ちゃんがいることと、普段見れない街の顔が見れたりしたせいか、気分が高翌揚しちゃって、こんな質問をほとんど無意識にしてしまいました。
海未ちゃんはというと虚をつかれたような様子。
「え」
困ってる顔も可愛い!……じゃなくて、どうしよう!なんでこんなこと言っちゃったんだろう。
ことりの中の海未ちゃんと結ばれたい気持ちがことりを乗っ取っちゃったのかな?
この時間が無限に長いように感じられて、胸の奥から湧きあがってくる後悔。
「や、やっぱりなんでもない!ごめんね?変な質問……えへへ」
「い、いえ。そうですね……ノーコメント、で」
「そっかぁ……うん」
なんとなく体よくあしらわれちゃったような。
でも、それで良かったかな、なんて。
これで『いる』って言われても『いない』って言われても、きっとことり落ち込んじゃいます……。
「そうだ、ことり」
「なぁに?海未ちゃん」
「今度のお休みの日、二人でどこか行きませんか?」
ドキッ。
急に心拍数があがっちゃった。
きっと海未ちゃんは普通にことりと遊んだり、喋ったりしたいだけなんだろうけど、ことりがさっきまであんなこと考えてたからつい――。
「う、うん!いいよ♪」
でも海未ちゃんと一緒に過ごせるなら、楽しいよね!
穂乃果ちゃんと海未ちゃんと、いっつも三人一緒だけど、たまには二人で……っていうのも全然アリだよね。
穂乃果ちゃんには悪いけど……次のお休みは海未ちゃんと一緒に楽しませてもらおうかな?
「さて、着きましたよ」
ふわふわ浮かれていたら、あっという間にゴール地点。
やっぱり、楽しい時間は早くすぎてしまうものなんですね……。
気持ちが浮かんだり、沈んだりして疲れちゃった。
今日はもう一眠りしちゃいたいなぁ。
睡魔がことりの瞼を下ろそうと頑張っているような気がします。
支援
高揚が高翌揚になっちゃってるしsagaつけた方がいいのでは
「んしょ……」
掃除の時間。
教室のゴミ袋を捨てる役目を任されました。
ゴミ……とはいえ結構重くて手が疲れちゃいます。
ゴミ捨て場は校舎を外に出て裏側にあります。
歩くたびに、ビニール袋がかさっかさっ。
ちょうどあっちに見える校舎の角を曲がれば見えてきます!
「ねーねー、隣のクラスの園田さんっているじゃん?」
「あー。スクールアイドルしてる?」
ん?海未ちゃんのお話?
「そうそう。……園田さんってね、レズらしいよ」
「はあ!?」
……っ!?
思わず校舎の壁から半分ほど出ていた足を引っ込めて、隠れるようにちぢこまってしまいました。
「ちょ、声が大きいって!」
「あ、ごめん。でもレズかー……まあいてもおかしくはないと思うけど、ちょっとヒクなー」
「ま、あくまでも噂だけどね。どうする?告白されちゃったら」
「無理だな。そもそも私ノーマルだし」
…………。
海未ちゃんのことを好き勝手言ってる……。
海未ちゃんはそんなこと無いよ!……なんて言いにいける雰囲気じゃないよね。
でも、海未ちゃんは違っても、ことりは……世間的にみれば『それ』なんだよね。
やっぱり、気持ち悪いのかな?
おかしいのかな、ことり。
「やばっ、掃除時間終わっちゃった!」
「急いで戻るよ!」
えっ!?
考えすぎててチャイムに気付かなかったのかなぁ……。
うう……気が重い。
それからは、なんだかぼーっとしちゃって、練習も身が入りませんでした。
絵里ちゃんからは『具合が悪いんじゃない?』なんて心配されちゃったり……。
早めに帰っちゃった方がいいって提案されたから、甘えさせてもらいました。
そのほうが、ことり、楽だったから。
そんなわけで、今はベッドの中。
練習中も、目線は自然と海未ちゃんのほうを向いちゃって。
ことりが帰る時に心配そうな表情をしてた海未ちゃんの顔が頭から離れないよ……。
そしたら、ことりの携帯が鳴って。
この着信音はメールだね。
いつもより重く感じる毛布から顔と手を出して、携帯を持って画面を見ます。
送信者は……海未ちゃん。
胸がきゅうっと苦しくなる感じ。
『ことり、今日は大丈夫でしたか?
明日、遊ぶ約束してたの覚えてますか?
辛かったらまた今度でもいいですよ!
あと、このメールにも返信しなくて結構です。』
そうだった……明日は海未ちゃんとのお約束の日。
なんでかなぁ。海未ちゃんのメールをみたら少し楽になったような。
やっぱり海未ちゃんはいつでも優しいです。
あ、海未ちゃんに返信しないと!
『心配かけさせちゃってごめんね?
もう大丈夫!明日はいけます♪
いつもの場所に10時からでよかった?』
この内容でいいかな?って何回か読み返してみたり……。
悩んだ末に、ところどころにデコレーションや顔文字を付け足しました。
もう、いつまでもくよくよしてちゃダメだよね!
明日こんなことりを海未ちゃんに見せられないもん。
今日はもう忘れちゃおう。
でも最後に一つだけ。
もうことりは海未ちゃんのことはそういう意味で『好き』なんじゃない。
そうやって自分に暗示をかけました。
……海未ちゃんを困らせたくないから。
あとはもう何も考えずに目を閉じて、意識がなくなるのをずっと待ちました。
「んん……ふわぁ」
ぐっすりよく眠れました。
いつもなら、もう一回目を閉じても……って思っちゃうけど、そんなこともないくらいにすっきりしてます。
カチコチと音を響かせている時計を見てみると。
あ、あれ?
短い針が9と10の間で、長い針が6?
く、9時半!?
ことり7時半にアラームかけておいたはずだよね!?
なんで鳴ってないの!?
今日は小鳥さん達も起こしてくれなかったし……って数が増えてる!
子供が生まれたのかなぁ……ってほっこりしてる場合じゃなかった!
急いで洗面所へかけて、顔を洗って、時計をちらちら確認しながら歯磨き。
早く終わらせちゃいたいのに、手は抜けないし。
「あ、ことり。おはよう」
「おはあはん、ひょうあはおはんいらない!」
「え、何?」
も、もう!なんで分かってくれないのお母さん!
しぶしぶ歯磨きの手を止めて、
「今日朝ごはんいらないから!」
「はいはい、わかったわ」
なんとか歯磨きを終えて部屋へ戻ると、時間はもう9時45分。
これから髪も整えて、服を着て……どうしよう、間に合わないよ――。
さーっと血のひくような音が聞こえたのはことりの気のせいでしょうか?
クローゼットを開いて……あぁ!もうどれ着たらいいの!
とりあえずこのお気に入りの一式でいいかな?
いや、このスカートは海未ちゃんの前で一度着たことあるような……。
やっとの思いで身支度をすませて、家を出たのは10時。
これじゃあ間違いなく海未ちゃんを待たせちゃうよ……!
小走りだから、すれ違う人が何事だって感じで振り向いてきます。
もう何分走ったかわからないけど、海未ちゃんが見えてきました!
はぁ……トレーニングやっててよかった。
海未ちゃんもことりに気付いて手を振ってきました。
ことりも手を振り返します。
海未ちゃんとの距離あとわずか!
……なのに、ことりの足元のバランスが崩れて、
「わっ……!」
このままじゃ、地面に……っ。
覚悟を決めて目を閉じました。
……あ、あれ?
痛くない。
ゴツゴツのかわりに、なんだかふわふわしてる?
「だ、大丈夫ですか……?」
その感覚の正体は海未ちゃんの体でした。
あの一瞬の間にことりと距離をつめて、支えてくれるなんて……。
って、海未ちゃんの体に抱きついてるような形になってるから、顔が、近い……!
「ご、ごめんね……」
「もう!そそっかしいですよ!」
「ごめんなさい……お寝坊しちゃって」
ことりはというと、公園のベンチで海未ちゃんに絶賛怒られ中です。
なんだか穂乃果ちゃんの気持ちがわかったかも。
「ああもう、髪も乱れてしまってますし……。後ろ向いてください」
「え?」
「いいから」
海未ちゃんにうながされるがまま、足をベンチの横側に移動させます。
しばらくして、ことりの髪が優しく持ち上げられました。
少し驚いて、海未ちゃんのほうを振り返ると、
「あっ。前向いててください」
ちらっと見えた、海未ちゃんの手には、鮮やかな漆塗りの高級そうな櫛が握られていました。
持ち上げられた髪の毛に、すーっと櫛が通っていく感じがします。
海未ちゃん、ことりの髪を整えてくれてるみたいです。
すーっと、すーっと、梳かされていくのと同時に、昨日の重苦しい悩みまでどこかへ飛んでいくような感じがして。
「ありがとね、海未ちゃん」
「いいえ。しかし、ことりの髪は綺麗ですね」
「そうかなぁ?海未ちゃんのほうが黒くてつやつやしてて、綺麗だよ」
「そんなこと……。ことりのような髪の毛、憧れますよ」
「それじゃあ髪を染めてみたら?ことりのは地毛だけど」
「……遠慮しておきます」
「ふふ、だよね。今の海未ちゃんが一番だよ」
でも、明るい髪の色の海未ちゃんもとっても可愛いと思います!
澄んだ風がことり達の上の枝葉を揺らして、そこから斜めに射す木漏れ日がふわっとあったかくて。
なんだかいい雰囲気♪
一週間以内に完成させて、その時まとめて投下します。
忘れてません…が、もう少しだけ待ってください…!
質問なのですが、皆さんは暗い話でも大丈夫でしょうか?
本来考えていたストーリーは暗い場面も入ってくるようになるのですが、苦手な方も少なからずいらっしゃると思うので明るく軽めなストーリーも分岐で用意しようかと思うのですがどうでしょうか?
そうですか!
ひとまず本来の話を完成させてしまって、余力が残っていたら分岐を書こうと思います。
ちなみに最終的にことうみから変えるつもりはありませんので。グダグダ喋ってすみません!
そのあとお互いの行きたいところを言い合って、まずはことりの希望で、裁縫屋さんへ。
「こんなところに裁縫屋さんがあったのですね」
「うん!品揃えも良くて、行きつけのお店なの」
海未ちゃんは珍しそうにお店の中を見回します。
まだライブ衣装のデザインは案の段階を抜け切れてないけれど、布地やアクセサリーを見て目安にしようと思っています。
「そういえば、海未ちゃんも編み物できたよね?」
「人並みに……ですが。それに私はミシンを使うのはあんまり得意じゃなくて、手際もことりほど良くないですよ」
「そうかな?前にお手伝いしてもらったときとか、すっごい上手だと思ったよ?」
「本当ですか?ことりに褒めてもらえると自信がつきますね」
二人でお店のものを物色しながらお喋り。
その片手間に気に入った材料を花柄のメモ帳に簡単にスケッチしたり、メモしたり。
店内にほどよく小さい音量で流れる音楽を聴くと、なぜかすごく落ち着いてしまいます。
お次は海未ちゃんの希望で、裁縫屋さんの近くにある大きなチェーンの本屋さんへ。
本屋さんの自動ドアをくぐると、あの独特のインクや紙の匂いが漂ってきます。
「海未ちゃんは何を見るの?」
「参考書ですよ」
棚に所狭しと並べられた参考書の中から、海未ちゃんは数学の参考書を取り出して、中身を真面目な顔で確認しています。
ことりも英語の参考書をパラパラしつつも、真面目な海未ちゃんの顔に自然の目がいってしまいます。
「……?どうしました?」
気付かれてしまいました……。
記録、1分30秒!
「う、ううん!なんでもないよ~?」
「あっ、ごめんなさい。退屈させてしまいましたか……?」
「えっ!?全然そんなことないよ!」
気を遣わせてしまったのか、海未ちゃんは早々と参考書選びを終わってしまいました。
ちょっぴり悪いことしちゃったかも……。
「これからどうします?」
海未ちゃんの左手には本屋さんの膨らんだ袋が一つ。
意識してるのかわからないけど、車道側を歩いてくれる海未ちゃん。
ことりの目線が上から下に下りて、海未ちゃんの細くて白い手に移ります。
断られることはないと思うけど、言うのは恥ずかしいような……。
ううん、言っちゃえ!
「その前に、手つなご?」
目を見開いてことりの顔を見てくる真っ赤な海未ちゃん。
「だめ?」
「人に見られたら恥ずかしいですし……」
「大丈夫だよ!ね、お願い♪」
「……はぁ、私が断れないのを知っていて」
顔をうつむかせながら、右手を差し出してくれる海未ちゃん。
すかさずことりの左手でとります。
「温かいですね……ことりの手」
「海未ちゃんの手も、つめたくて気持ちいいよ!それに、手がつめたい人ほど心はあったかいって言うでしょ?」
「そんなの迷信ですよ」
「え~、そうかなぁ?」
「はい!ことりの手は温かいですが、心もとても温かいですから、そんなのは迷信に決まっています」
そんなことを言われると、手も体もあったかいを通り越して熱くなってきちゃいそうで……。
こんなことを素で言ってくる海未ちゃんはなかなかすごいと思います。
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「ただいま~♪」
「お邪魔します」
海未ちゃんと相談して、残りの時間はことりの家でまったり過ごすことに!
ことりと海未ちゃんで、お昼ご飯に卵サンドを作りました。
「簡単に作れてしまったのに、美味しいですね!」
そういってサンドイッチをほおばる海未ちゃんを横目にこくりと頷いて。
海未ちゃんも言ってた通り、簡単につくれて失敗することもないので一人のときはよくつくって食べます。
ことりも海未ちゃんも、エプロン姿のままキッチンで食べてるからちょっぴりお行儀が悪いかもしれませんね?
でも、お母さんもどこかに出かけてしまったみたいなので、今は気にしません!
お久しぶりです。
少し前にPCが壊れて書き溜めが飛んだのと、別SSを書いていたりと、放置していました。
今やっているものが完成し次第またやっていこうと思っております。
もし読んで頂けるのなら、待つというより、完成したら見てやるくらいの気持ちで見て頂けると幸いです。
このSSまとめへのコメント
こういうの好き