男「エルフの書物が読めなくて不便だ……奴隷でも買うか」(1000)

男「ここまで頑張ってきてすげぇ今更だけど、辞書を引くのが面倒すぎる」

男「今なんか、エルフの奴隷が市場にいるみたいだし、買おうか」

男「幸いにもお金はあるし」

男「というか、メイドが玉の輿で結婚してしまってから、どうにも屋敷が汚いし……」

男「奴隷って言うぐらいだから、掃除とか料理とかもしてくれるだろう」

男「今思えば満足な食事もしてないし」

男「独り言も多くなってきてしまったし」

男「一人は寂しいし」

男「…………」

男「……うん」

男「どれ、ちょっくら久しぶりに外に出て、奴隷市場にでも足を向けるか」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1329061140(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)

(できれば)毎日三十分ほどてきとうに書いてく

気長にチラチラとたまにたまに覗いてくれるだけで良いです

暇つぶし兼オナニー的なね

◇ ◇ ◇
山道
◇ ◇ ◇
男「はぁ……はぁ……はぁ……」ザッザッザッ…

男(全く……なんでこんな山奥の屋敷なんだ……)ザッザッザッ…

男(おかげで馬車は呼べないし、近くの城下街に行くまで半半日もかかる……!)ザッザッザッ…

男(街道に出たら馬車を捕まえられるが……それまでこの距離を歩かされるのは……辛い)ザッザッザッ…

男(……まぁ、近くに湖はあるし、食べられる野草も多いから、滅多に街まで降りなくて済むからまだ良いほうか……)ザッザッザッ…

男(なんだかんだで城下街からも近いってことだし……うん、悪いことばかりじゃない)ザッザッザッ…

男(悪いことばかりじゃないはずなんだ……!)ザッザッザッ…

男(言い聞かせろボク! そうしないと心が折れそうだ……っ! この山道に……っ!!)ザッザッザッ…!!

男「……はぁ……はぁ……よしっ、街道に、ついた……」

男(あとは馬車が通るまで街へと向かって歩いて……通ったらお金を払ってでも乗り込んでやる……!)

◇ ◇ ◇
 城下街
◇ ◇ ◇

男「着いた……」

男(すぐに馬車が通ってくれて良かった……まだ日が沈んでないのに着けたのは正直大きい)

男「おじさん、ありがとうございました。それで、お代の方は……?」


商人「ああ、いいよいいよ。お代は結構」

男「え?」

商人「困ったときはお互い様、ってね」

男「でも……本当に良いんですか?」

商人「構わんさ。どうせ途中で乗せてやっただけだし、荷物みたいなもんさ。
商人「昔みたいに戦争してたってんなら、戦争のためとか言って取られてた通行税分ぐらいは貰ったかもしれねぇが……今は、そういうのも無くなったからな」

男「はぁ……」

商人「ま、気にすんなって。平和になった世の中に、感謝感謝」

男「ん~……でもそれじゃあ、ボクの気が済まないというか……」
男「あ、それじゃあ、その商品を何処に卸すか教えてくれませんか? 用事を済ませた後にでも買い物に寄らせてもらいますよ」

商人「おっ、そうかい?」

男「はい。直接的なお礼にはならないかもしれませんが……それぐらいなら、ボクにも出来ますから」

◇ ◇ ◇
 街の中
◇ ◇ ◇

テクテクテク…

男(戦争……ね)

男(エルフとの激しい戦争が終わって……もうそろそろ一月、か……)

男(軍事費の徴収を、商業の中心ともいえるこの城下街への通行料でまかなっていたっていうのに……)

男(軍事費から復興費用と名目を変え、税収を上げたままにすることも出来たのに、ソレをせずにすぐに止め……)

男(それでも、復興費用が捻出できると計算した……)

男「…………」

男(沢山の若い男が兵として駆り出され、死んで……)

男(……化物に変えられ、理性を保てず、命を絶って……)

男(おかげで、人以外の犠牲を少なくして、勝った戦争……)

男「その復興費のアテが……敗戦国となったエルフの奴隷、か……」

男(金持ち貴族から無理矢理お金を取り上げようとも渋るに決まってる)

男(それ故の交換条件、と言ったところか)

男(……一つの命に対し、なんて扱いだ……)

男「……でもまぁ、その奴隷を買いに来てる時点で、ボクも同じか……」

男(でも、一つ疑問なんだよなぁ……)

男(そもそも貴族は、人間の奴隷を買っているはずだ)

男(ということは、今更新しく奴隷を買う必要性もない訳で……)

男(例えそれがエルフでももう必要ない可能性が大きい訳で……)

男(……それで一体全体どうやってこの国は、エルフの奴隷、ってだけで、復興費のアテになるだろうと読んだんだろう……)

男(買い手がほとんどいなくなり、商品が行き渡った後に、類似品を売るようなものだ)

男「……この国は賢いのかバカなのか、分からないなぁ……」

男(奴隷――まぁ詰まるところ、召使いだとか執事だとかメイドだとか言われる人って、そんなに大勢はいらないと思うんだけど……)

男(奴隷だとお金を一括で払うだけで済む、っていっても、多かったら邪魔になるわけで……食費などなどの維持費で)

男(ボクのところに前までいてくれたメイドみたいに「雇用」となると、月々お金を払わないとならない代わりに維持費はそれぞれが負担してくれるけれど……結局、雇用費が奴隷でいう維持費みたいなもんだし)

男「…………」

男(……ん~……ダメだ。色々と思案してみたけど、やっぱりよく分からない。エルフの奴隷、ってだけで、復興費にあてられるほどの税収を期待できる理由が)

男(……まぁ、ボクがそこまで真剣に考える必要もないか)

男(案外ボクみたいに、エルフ文字を読ませたいだとか、魔法とは違うエルフだけが使える“秘術”とやらが見てみたいだとか、そういう理由があったりする人対象なのかもしれない)

男「……にしても……」

男(エルフの奴隷市場はどこだ……? 看板も何も無いから分からないな……まぁ、他国民の売買だから、公には出来ないんだろうけれど)

男(……そういえばボク、そもそもの人間の奴隷市場も見たことがないや……)

男「…………」

男(……仕方が無い。てきとうに店の人に聞くか)

男「あの、すいません」

店主「はいいらっしゃい! なんにしましょう」

男「あ、ごめんなさい。買い物じゃなくて、訊ねたいことがあるんですけど……」

店主「おっ、なんだい?」

男「エルフの奴隷市場って、こっからどうやっていけますか?」

店主「っ!?」

店主「……おい兄ちゃん。若いのに、どえらいことを聞いてくるねぇ……」

男「あ、いえ。ボクこれでも、あまり若くは――」

店主「いや、すまねぇ。若いからこそ必要なんだよな」

男「ん~……あ~……そう、ですね……そうかもしれません」

男(若いときの時間は貴重だから、家事全てを引き受けてくれる存在が一人いるだけで、かなり時間が取れるもんなぁ……)

店主「……で、奴隷市場、だったな」

男「あ、はい。そうです。エルフの、ですけど」

店主「兄ちゃんも物好きだねぇ……エルフだなんて」

男「ちょっと、必要になりまして」

店主「おいおい……そんな料理に一品足りなくて、みたいに言ってるけど、結構な値段だぜ?」

男「分かってますよ。人――ああ、この場合はエルフですけど――ともかく、命一つ……他人の人生一つ丸々を、買うわけですからね」

店主「それなりの金はあるって訳か……」

店主「……悪いが、コッチも危ない橋を渡るんだ。タダ、って訳にはいかねぇな」

男「あ~……なるほど」

男(やっぱり、道徳的に命を買うというのはどうか、とか言ってる団体もいるだろうし……当然か)
男(そういう団体の目から逃れるために、情報のやり取りには慎重になるはずだ)
男(そしてもし、この人のせいで、その団体に場所が知られてしまったら……その先は言わずもがな)
男(その市場にその団体が押し入り、法律上は奴隷市場が認められているからといっても、その団体は奴隷制度を許さない)
男(だから市場に対し、法律で許される範囲での嫌がらせをし……もしくは、買われる前の奴隷に人権はあるが誰の所有物でもない、という法律の部分を利用し、勝手に逃がしたりし……市場を崩壊させる)
男(そして、そのキッカケを作ってしまったこの人は、同じ商売仲間からの、迫害に遭う)
男(情報という商品を、アッサリとばら撒いてしまうのだから)
男(……確かに。そんなリスクがあるのにタダで教えて、というのは、ムシが良すぎる)

男「……分かりました。では、このぐらいでどうでしょう?」

ジャラ

男「一応、金貨にして三十枚ほど用意しました。これならあなたのせいで情報が漏洩したとバレてしまった場合でも、どこかに逃げ、三年は贅沢をして暮らしていけるかと思います」

店主「えっ……お、おい! こりゃ……マジもんかっ!?」

男「もちろんです。あなたを危険な目に遭わせるかもしれないというなら、このぐらいは出すべきでしょう」

店主「おいおい……おめぇ、一体なにもんだ?」

男「ちょっと小金を持っているだけの、見た目だけ若作りなただのオッサンですよ」
男「それで、どうですか? 教えてくださるなら、これはあなたのものですけれど」

店主「ははっ。ああ、いいぜ。これだけもらえるってんなら、教えてやるよ」

男「ありがとうございます」

金貨30枚って3年どころじゃないだろ
と無駄に突っ込んでみる

男「あ、そうだ。適当な場所を教えてもらうと厄介なので、コチラも」

トン

店主「……? なんだ、この水が入ったビンは」

男「ボク、これでもちょっと魔法をかじってまして。もし教えてもらえた場所が嘘だった場合、もしくはこの水を捨てようとした場合、すぐさまこの中身が暴れまわります」

店主「は? 水が、か?」

男「はい。まぁ、あなたの顔を覆って窒息死させる分には十分な量かと」

店主「っ!?」

男「ボクの命令一つで動きます。あ、でも次の朝日が昇れば自動的に魔法は解除されますので、その時は普通に飲み水として使ってください」

店主「……ただの小金持ってるオッサンが、魔法使いねぇ……」

男「魔法を使えたから小金を持ってる、といった方が正しいかもしれません」

店主「はん。ま、良いぜ。金貨三十枚のやり取りだ。これぐらいの賭けは当然だろうな」

男「賭け、ですか?」

店主「ああ。もしかしたらお前が、場所を聞き出すと同時にその魔法を使うかもしれないし、言った通り使わないかもしれない、っていう賭けだよ」

男「ボクはちゃんと教えてくれたら使いませんよ」

店主「俺だってこんなことされなくてもちゃんと教えるさ」

男「あ……そうか。そうですね。その日にあった人間同士ですから、互いに信用しないのは当然ですね……忘れてました」

店主「なんだそりゃ。ま、俺は三十枚という大金のために、命ぐらい賭けてやろうってだけさ」

今日はここまで
眠いし明日仕事だし…
っていうかもう書き溜め無くなってきたや……

>>12 スマヌ……スマヌ!!
ファンタジー小説とか読まないし現実での金の価値も分からんかったのよ……
でもそうか…もう少し金貨枚数少なくても良かったのか

再開させてもらいます

もう金貨に対しては無知が招いたミスなので…笑ってやってください
このままの貨幣価値でいくけど

テクテクテク…

男(さて……奴隷市場の場所を教えてもらったけど……本当にエルフはいるのだろうか……?)

男(今はエルフとの戦争が終わったばかりだから、逆にエルフしかいないだろと言われたけど……)

男(……エルフ以外の奴隷は買う気がしないからなぁ……)

男「あ」

男(ここだ)

男(外観は普通の民家……だけど、扉の付け根に白い造花が咲くように二つ植えられてる……)

男(間違いない……と思う)

男「えっと……」

男(ノックの回数は、三回。で、四秒待った後、二回。そして十秒待つと……)

トントントン

……

トントン

……………………

ガチャ

奴隷商「ようこそいらっしゃいました。地下の市場へようこそ。さ、中へお入りください」

男(ランプと机と椅子が一つずつあるだけの部屋。その奥に見える下りの階段……良かった。話に聞いていた通りだ)

奴隷商「本日の御用は……訊ねるまでもありませんね。早速ですが、どういった子をご所望で?」

男「えっと……エルフの子っていますか?」

奴隷商「もちろんですとも。○○商人協会からのご来店ということですので、取り扱わせてもらっております」

男「え? 誰から紹介されたのかとか、分かるの? あ、ノックの回数か」

奴隷商「左様で」

男(他の紹介だとまた別のノックの仕方だったんだろうなぁ、きっと)

奴隷商「それで、エルフの、どのような子を?」

男「そうだなぁ……」
男(やっぱり、召使いとしての仕事よりも、文字を読んでもらうのが本業みたいになる訳だし……)

男「最低条件としてはやっぱり、頭が良い子かな」

奴隷商「なるほど……物分りが良い子と。すでに調教されている子ですね?」

男「調教?」

男(あ~……教育されてる子、ってことかな? でも確かエルフの文化って、全員が自分達の文字ぐらいなら読めるはずだったような……?)
男(改めて教えることなんて何もないんじゃ……。……あ、もしかして――)

男「――それって、こちらの文字は読めますよね?」

奴隷商「それはもしかして……人間の文字、ということですか?」

男(うわっ……ヒゲを蓄えたおっさんにキョトンとされたよ……)

奴隷商「そうですな……まぁ、読める子を用意することは出来ますよ。ですが、それが何か?」

男「いえ、やっぱり読めた方が色々と捗りそうですし」

奴隷商「はあ……」

男(得心いってないって感じだなぁ……まぁ良いや)

男「あ、それと出来れば、料理が出来た方がありがたいかも」

奴隷商「料理、ですか……? ……さすがに、わたくし共ではそこまで把握しきれておりませんなぁ」

男「そうですか……あ、いえ、なら別に良いんです。あわよくば出来れば便利、だと思った程度ですから」

男(それに頭が良い子を連れて帰れれば、きっと料理ぐらい覚えてくれるだろう)

奴隷商「それよりもお客様、外見のご要望などはありますか?」

男「外見……。……ん~……でもエルフって、基本的に皆美しいですし……大丈夫ですよ」

奴隷商「まぁ、わたくし達人間にしてみれば、あの珠のような肌とそこから造形された顔立ちは、どれも美しく見えますからな」

男「ですね」

奴隷商「それで……なんなら、味見でもされていきますか?」

男「味見?」

男(……もしかして、さっき言った料理のことでも気にしてくれてるのかな……?)

男「いえいえそんな、お気遣いなく」

奴隷商「そうですか……? まぁ、帰ってからのお楽しみ、というのもありですからな」

男「はい。そうさせてもらいます」

奴隷商「若い見た目にも関わらず、随分とがっつかない。ここにくるあなたぐらいの年代……特に傭兵業を営んでいたり、冒険者をしている方などは、味見だけして帰っていく方もいるというのに」

男「へぇ~……」

男(まぁ、エルフが作ってくれる料理、ってのには、確かに関心がくすぐられるものがあるかも)
男(……でも、探せばそういう食堂もありそうなんだけどな……意外にもないのかな……?)

男「でもそれだと、商売にならないんじゃないんですか?」

奴隷商「いえいえ、味見料はしっかりと頂きますので、大丈夫ですよ」

エルフメイド「長。終わりました」

奴隷商「ああ、ご苦労」
奴隷商「申し訳ありません。随分と玄関で長話をさせてしまいまして」

男「あ、そんな。気にしませんよ。わざわざありがとうございます」

奴隷商「見た目の指定がないようですので、どうぞ地下に降りて吟味してください」
奴隷商「地下からは、こちらのエルフがあなたを案内いたしますので」

エルフメイド「よろしくお願いいたします」ペコ

男「あ、これはどうもご丁寧に。よろしくお願いします」

エルフメイド「では、私についてきてください。暗いですから、ランプの明かりを見失ってしまいますと、足を踏み外してしまいますよ」

男「何から何まで、ありがとうございます」

奴隷商「では、よきお買い物を」

カツン、カツン、カツン…

男(うわ、本当に真っ暗……っていうか結構深い……? 街の地下なのに、こんなに……)

エルフメイド「……大丈夫ですか?」

男「あ、はい。大丈夫です」

エルフメイド「そうですか」

男「ありがとうございます。気を遣っていただいて」

エルフメイド「…………」ジッ

男「……? ……あの、何か?」

エルフメイド「……いえ……ただ、こういう場面で、人にお礼を言われたのは、初めてでしたので……少し驚きました」

男「そうですか? あ~……でも、自分はお客様だぞ、って客が多いから、そうなのかも」

エルフメイド「そういうわけではないのですが……」

男「?」

エルフメイド「……いえ、なんでもありません」

エルフメイド(ネットリと絡みつくような視線……隙あらば犯そうとしている気配……それらが全く無い)
エルフメイド(見た目も若いし……どうしてこんな人が、私達を買いに……?)

カツン

エルフメイド「着きました」

男「うわ……階段よりも暗い。あ、でも声が響く……結構広い?」

エルフメイド「こちら、階段側の壁にある部屋が、味見用の部屋となっております」

男「はあ……いえ、まぁボク、味見するつもりはないんで」

男(料理を作ってもらってる間、こんな暗いところにいるのもヤだし……)

エルフメイド「えっ……? では、どの子を買うのか決めて、すぐに買っていかれるのですか……?」

男「まぁ、そうなるかな……?」

エルフメイド(冒険者でも傭兵でもない装備だけれど若いから、テッキリ……)
エルフメイド(まさか、肥やしに肥やした貴族がやるような、外見だけでの買い物を……? でもあの人たちみたいに、誰でも良いから犯したい、って感じでもないし……何故?)

男「ともかく、見て行って良いですか?」

エルフメイド「あ、はい。では、ご案内致します。右側の通路と左側の通路、どちらから行かれますか?」

男(広い通路の左右に、それぞれ牢屋のような形で無数の部屋がある……そうだなぁ……)

男「左利きなんで、左からで」

コツ、コツ、コツ……

男(ん~……こうやって、牢屋の中を照らされながら見て回っても、やっぱりよく分からないな……)

男(そもそも外見だけ見て回らされても、頭が良いかどうかなんて分かんないし)

男(それに……牢屋の中をランプが照らすたびに、中の子が息を呑んで、怯える……)

男(服も……服、なんて定義していいかどうか分からない代物だし……)

男(まぁ、服に関しては、奴隷という扱い上、人間でもそうなんだけど……)

男(でも……この怯え様は……?)

男(この……怖いけれど、今以上に怖いことをされそうだけれど、それでも、何かに期待しているような……)

男(光を浴びることを望んでいるのに……恐怖心が蓋をしてくるけれど、ちょっとだけ期待しているような……

男(怯えていながらそんなものが垣間見える、この様子は……?)

男(少しだけ異様な、この空気は……一体……なんなんだ?)

男(そもそも、奴隷、といっても、暴力を振るったり、相手を傷つけたりすることは、人間が信仰する神によって否定されている)

男(ボク自身はそんなことをあまり気にしてはいないけれど……国家という枠組みにおいて、信仰心は重要視しなければならないことだ)

男(だからこそ、奴隷制度自体、否定している団体がいる)

男(奴隷という言葉は人間の心を傷つける行為であり、神の意思に背く行為だと)

男(だが、それなら……行き場を無くした子供や人間は、どうやって居場所を見つければ良いのだろうか……?)

男(奴隷制度を無くした先に……親を亡くした戦争孤児の行き先は、無い)

男(だからこそ、奴隷への暴力は禁じられている。道徳的に、もあるが、法律的にも)

男(それは、捕虜と同じ扱いではないこのエルフ達にも、適応されているはずだ)

男(この子たちもまた、戦争孤児なのだから)

男(この、ボクを案内してくれている、メイド服を着たエルフさんも……)

男(……だからこそ、どうしてこんなに怯えの色を見せるのか……分からない)

男(親を亡くして、この場に押し込められ、陽の光を浴びていないから……?)

男(いや、それは期待している部分だろう。怯えの向こう側のものだ。外に出られるかもしれない、といった感情だ)

男(なら……怯えは? まだまだココにいないといけないのかもしれないという絶望……?)

男「…………」

男(……バカなボクに、分かる訳も無い、か……)

エルフメイド「……その子にされるのですか?」

男「えっ?」

エルフメイド「いえ、先ほどからその子の前で立ち止まり、見つめているようでしたので……てっきり」

男(金色の長い髪……ランプの明かりで反射して尚輝いて見える白い肌……)
男(そして、キレイな――今まで見てきた人間という種族を超えるほど可愛い、少女)
男(今まで見てきたエルフよりも、少し幼く見える顔立ちをした、そんな子)

エルフ少女「…………」

男(……もしかしたら、こういうのを運命っていうのかもしれない)

男(この子だけが、怯えの中に、強い決意を秘めているように見える)

男(やっぱり、バカなボクには、その決意が何なのかは、分からないけれど……)

男(それでも、ココを出た先――出ることを希望としているのではなく、出た先で――
男(自分がしたいことを、どんな困難や苦痛があろうとも成し遂げようと、覚悟しているような、そんなモノが見える)

男(昔のボクみたいで、若くて……無謀と周りから蔑まれそうな……そんな……)

男「……そうですね」

エルフ少女「っ!」

男「この子にします。いいえ、この子にしたい」

エルフメイド「そうですか。お買い上げ、ありがとうございます」

エルフメイド「…………」ジッ

男「……? あの、手続きとか――」

エルフメイド「この子、私達の中でも、まだ若い子です」

男「……は?」

エルフメイド「ついたった今、この地下に閉じ込められました」
エルフメイド「今まで必死に、あなた達人間から逃げて、逃げて、逃げ続けていたのに……」

エルフメイド「一緒に逃げていた親は陵辱され、この子のために自殺して、この子を狙う人間を殺して……
エルフメイド「そして、この子だけが生き残り、貧困に喘ぐ人間の女に拾われ……お金と引き換えに、ここに売られました」

男「…………」

エルフメイド「人間という生き物を、信じていません。いえ、それを言ったら、他の皆も信じてはいないのですが……
エルフメイド「ただ、抗ってもムダだと、抗えば抗うほど辛いと、教え込まれていません。……それでも、良いのですか?」

男「…………」

男(そう……思えばこの子たちは、敵国の男に売られる子、なのだ。
男(例えこの国が奴隷への非暴力を法律で定めていようとも、敵国であった彼女達に、ソレが信じるに値するものになるはずがない)

男「……そりゃ、怯えもするわな」ボソッ

エルフメイド「えっ?」

男(何をされるか分からないんじゃ……当然だ)
男(ましてこの子のように、親を目の前で殺されたり、法律を無視した人間に目の前で陵辱された子なんて、この場には沢山いるだろう。最悪、直接陵辱された子だって……)

男(そして、そんな奴らに捕まって、捕まった先で、人間に、人間はそんなことをしないと、教え込まれても……信じられるはずがない)
男(それでも……無理矢理、信じ込まされて、一種の催眠状態のようなものにされ、売られる……)
男(いや……そうならないと出られないと、思い知らされる)

男(そして、出た先では、自分を救ってくれたヤツだから尽くしに尽くせと、教え込まれ……)
男(もう……元々自分が“こう”なってしまったのが、同じ人間だと言うことも忘れてしまい……)

男「……いえ、なんでもありません」

男(……きっと、怯えていた子達はまだ、悪いのはそもそも人間だったというのを忘れていない、誇り高い子達なんだ)

男「ただ、それでも構いませんと、そう言いました」

エルフメイド「そうですか……分かりました。それでは、長を呼んで参りますので、しばらくお待ちください」

男「あ、ランプは……」

エルフメイド「大丈夫です。私、目はよく見えますので。暗闇の中でも、上まで上がっていけます。ですので、ランプはあなた様にお預けします」

男「……ありがとうございます」

エルフメイド「いえ。こちらこそ、お買い上げ、ありがとうございます」



エルフメイド「きっと……あなたに買われたこの子なら、幸せになれる……そんな気がします」

すいません
今日はここまでにします
もう明日には書き溜めが無くなりそうな勢い

続ける
…けれど、今日はちょっと時間無いかもです
支援してくれてる方、すいません

~~~~~~

エルフ少女(わたしは、人間という生き物を信用していない)

エルフ少女(むしろ大嫌いだ)

エルフ少女(そもそも、わたし達を商売道具や性欲の捌け口としてしか見ない、戦争に勝ったからと言って敗戦国の民であるわたし達にこんな扱いを強いてくる彼らを、好きになれというのは……無理な相談だ)



奴隷商「へへっ……いい買い物をしたぜ」

ガチャリ

エルフ少女(首輪……?)

奴隷商「その辺にいる女が拾ってきたとは思えねぇ上玉だ。こりゃ、金貨五十枚の価値は確かにある」

エルフ少女(私一人の命を、金貨たった五十枚と称する)
エルフ少女(そもそも命に値段をつけること自体が、間違いだというのに)

奴隷商「おい」

エルフメイド「はい」

奴隷商「コイツを空いてる牢に入れておけ。今日あたりから調教を始める」

エルフメイド「かしこまりました」

奴隷商「へへっ……顔立ちの割りに大きなその胸……イジリ回すのが楽しみだぜ」

ギュッ!

エルフ少女「いたっ……!」

奴隷商「可愛い声で鳴きやがる……興奮してくるぜ」

エルフ少女「……っ」キッ!

奴隷商「その睨みつけるような視線……覚えておくぜ。長い時間あの地下に閉じ込められりゃ、そういう目も出来なくなるからな」
奴隷商「そうなってからお前を見た時ってのが、すげぇ気持ち良いんだよなぁ、コレが」

エルフ少女(下衆が……!)

奴隷商「へへっ……ほら、さっさと連れて行け」

エルフメイド「かしこまりました」

コツコツコツ…

エルフ少女「……どうしてあの人に従ってるの……? あなたも、わたし達エルフの同胞でしょう?」

エルフメイド「同胞だからです」

エルフ少女「は?」

エルフメイド「あの人の傍に仕える人がいなければ、皆に満足な食事も与えてくれません」

エルフ少女「……まさか、あなたは……」

エルフメイド「……毎日汚されるだけで、同胞の食事が約束される……私が彼女達に出して、毒も何も混じらないことが確認できる……それだけで、私の心は随分と助かるのです」

エルフ少女「そんなことしなくても……誰か攻撃系の秘術使いの力で……!」

エルフメイド「首輪、嵌められましたよね?」

エルフ少女「? この白いの……?」

エルフメイド「多少の衝撃では壊れない。いえ、壊れたり外れたりしたら、さっきの上の人に連絡がいく」
エルフメイド「そして同時に、つけられ続けている間ずっと、こちらの魔翌力を遮断する。そういう装置です」

エルフ少女「魔法道具(マジックアイテム)……」

エルフメイド「はい。ただ、普通の魔法道具なら秘術でも使えたのでしょうが……どういうわけかコレ、おかしな術式の組み上がりをしているせいで、秘術のために必要な精霊への感度すらも鈍くされてしまっているのです」

エルフ少女「…………」

エルフメイド「ですので今、私が使える秘術はたった三つ」

エルフメイド「空気の振動を操作して、声を上まで響かせないようにすること」
エルフメイド「心の中で同じ秘術を施した同胞と会話が出来るようになること」
エルフメイド「そして、口以外からの体液を体内に留めないようにすること」

エルフメイド「この三つです」

エルフ少女「口以外の体液の吸収疎外……? それに何の意味が……?」

エルフメイド「ありますよ。なんせ私達は――」



エルフメイド「――人間達に陵辱されるために、下で飼われるのですから」

コツコツコツ…

エルフメイド「この国の法律では、奴隷を犯したり理不尽な暴力を振るったりすることは、原則的に禁止されています」

エルフメイド「ですが私達は、そういったことをされる目的でココにいる」

エルフメイド「だからこそココも、こういった地下に作られているのです。地上だと摘発される可能性がありますから」
エルフメイド「決してこの国の奴隷反発派が面倒だとか、そういった理由ではありません」

エルフメイド「純粋に、人間達は、法を汚しているのです」

エルフ少女「なら……ならそれこそ、外に出て訴えれば……! 今まで一人も、ここから出たことがないの!?」

エルフメイド「……あります。市場ですから、買われれば出て行きます」
エルフメイド「そして、さっき言った二つ目の秘術で知っていますが、国に直接訴えた人もいます。

エルフメイド「……でも、現状はこのまま」

エルフ少女「なんで……!?」

エルフメイド「分かるでしょう? 国も、容認しているのです」
エルフメイド「きっとココは、国への上納金が多いのでしょう」

エルフメイド「いえもしかしたら、国自体、指示を出している可能性があります」
エルフメイド「私達を既存の奴隷と同じ商売方法で、奴隷以上に酷いことが出来る名目で売れ、と」

エルフメイド「この国は戦争で勝ったとはいえ、私達に傷つけられた場所を復興する費用が、足りませんから」

エルフ少女「私達を使って、お金持ちからお金を取っている……?」

エルフメイド「ただ税金を上げては貴族達の反感を買う」
エルフメイド「故に、私達エルフという、“性欲や暴力をぶつけても良い特別な奴隷”を売ることで、対価としているのでしょう」

エルフ少女「くっ……!」ギリッ!

エルフメイド「でも……それだけではありません」

エルフ少女「えっ?」

エルフメイド「私達は娼婦のように、この地下で、冒険者や騎士などにも“味見”と称され、犯されます」
エルフメイド「そのお金もまた、きっと国へと渡っている。……だからこその、体液阻害の秘術なのです」

エルフメイド「人間は、人間とエルフの間に子は生されないと思っている」
エルフメイド「生されることを知らない」
エルフメイド「だから好きなように膣内に出してくる」

エルフメイド「ソレを阻害しなければ……私達の身体はボロボロになり、望まれぬ生命が生まれ、そしてその生まれた生命を自分で絶てば……精霊に嫌われ、秘術が使えなくなる」
エルフメイド「それだけは何としても……避けなければなりません」

エルフ少女「だからこその、阻害……」

エルフメイド「そういうことです」

コツコツコツ…

エルフメイド「…………」

エルフ少女「…………」

カツン

エルフメイド「さて……では、牢の場所に着いたところで、あなたにも先ほどの秘術を施します」
エルフメイド「心の中での会話と、体液阻害の秘術の二つを」

エルフ少女「……お願い」

エルフメイド「心の中での会話は、一度口頭で会話していることが必須条件となります」

エルフ少女(……わたしでも使える基礎的な秘術、か……)

パァッ

エルフ少女(眩しい……)

エルフメイド「これで大丈夫です」

エルフ少女「下に着いてから使ったのは、外にバレないようにするため?」

エルフメイド「そうですね。声は誤魔化せても、光を誤魔化す秘術を今は仕えませんから」

エルフ少女「そう。……うん、そうね。で、わたしの部屋はどれ?」

エルフメイド「コチラに」

エルフ少女「真っ暗ね。人間の目だと見えないんじゃない?」

エルフメイド「だからこそ、私のような案内人が必要なのでしょう」

エルフ少女「……こんな場所が見えないぐらい劣等な種族に、負けたなんてね……」

エルフメイド「戦争は、何があるのか分かりませんから」

エルフ少女「女子供に生まれたわたし達じゃあ、詳しくも分からない、か……」

エルフ少女(男のエルフも、里の皆も、どれだけ生きてるのか分かんないし……)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(お父さんも、殺されて……お母さんは、陵辱されて……)

エルフ少女(……あの時、お母さんの腕を縛った縄も、もしかしたらこの首輪と同じものだったのかな……だから、満足に秘術を使うことも出来なくて……)
エルフ少女(人間の一人に捕まってしまった私を逃がすために、秘術を、阻害されながらも必死に組み上げて……人間を殺してくれて、救ってくれた)

エルフ少女(自分の身を、犠牲にしてまで)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(お父さんは後ろから刺されるし……。……本当、人間ってのは、卑怯で愚劣な奴らの集まりだ)

エルフ少女「……大嫌い」ボソッ

ガチャン

カチッ

sageのチェックは外して>>55みたいにsagesagaとでも打たないとsage優先になるよ

エルフ少女「…………」

エルフ少女(わたしは、まだまだ若い)

エルフ少女(人間よりかは長く生きているけれど、それでも、若い)

エルフ少女(満足に秘術を扱うことも出来ず……)

エルフ少女(この先はただ、きっとあの人に言われた通り、陵辱されるだけの日々を過ごすのだろう)

エルフ少女(上にいたあのオジサンに調教と称して汚されて)
エルフ少女(冒険者や騎士の溜まりに溜まった性欲を吐き出されて犯されて……)
エルフ少女(秘術がなければ子を生すような行為を、延々と繰り返されるのだろう)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(でも……それでも、挫けなければいずれ、外へと出れる)

エルフ少女(きっとそれは、誰かに買われるという、この場にいるよりもさらに辛いことになるかもしれない出来事になるのかもしれないけれど……)

エルフ少女(それでも……わたしは、挫けない)

エルフ少女(挫けてなるものか)

エルフ少女(ここにいるよりも辛い陵辱の日々を歩まされようと、ここにいる同胞を救う手立てを、きっと見つけてみせる)

エルフ少女(わたしが……ここにいる皆を助け……人間へと、復讐してみせる)

エルフ少女「……絶対に」グッ

スイマセン
今日はここまでにします

支援してくれてる方、すげぇ励みになります
モチベ上がります
本当にありがとうございます


稚拙文だけど完走できるように頑張る…!
でも明日はちょっと無理ですので明後日で



>>59 “sage saga”か…なるほど。

ということはageながらsagaを使うときは“saga”単品で
sageながらsagaを使うときは“sage saga”で良いんですね…次から使います

再開させてもらいます

~~~~~~

牢前

奴隷商「この子……ですか」

エルフメイド「はい。お客様はコチラの子をご所望のようです」

奴隷商(チッ……まだ俺が手も付けてねぇってのに……なんで数あるエルフの中からコイツを選ぶんだ)
奴隷商(勿体ねぇ……俺が楽しむ前に、こんなヤツに渡してたまるかってんだ)

奴隷商「分かりました……ですがお客様、一つ申し訳ないお話があります」

男「? どうかしましたか?」

奴隷商「実はこの子、まだココにきて一日も経っていません。つまり、奴隷としての商品価値がないのです」

男「なんだ、そんなこと。別に構いませんよ。変に奴隷として出来上がって、へりくだられたりするのも面倒ですし」

奴隷商(ちっ……余計に買わせたくならしちまったか……見た目若いクセに奴隷をゼロから教え込むのが好きってことかい)

奴隷商「いえ、それではこちらの、商売人としてのプライドが許せません。ですので、今回は別の子を――」

男「金貨二百枚でどうでしょう?」

奴隷商「――……え?」

男「ですから、金貨二百枚です。確か奴隷の相場は、一人あたり金貨八十~百枚だったと記憶しています」
男「売るのが人ではなくエルフという種族に変わろうとも、奴隷商とは戦争孤児の住処と働き処を斡旋する職業、という名目が変わっていない以上、価値は不変なはず」

奴隷商(チッ……コイツ、中途半端に無知なやつかよ……その法律は表向きでしかない、ってことを知らねぇ)
奴隷商(現実問題、裏ではソレがエルフに適応されず黙認され、例の人権団体にすら訴えても捻じ伏せられる、ってのによ……)

男「ですから、その二倍を出すと言っています」
男「もちろん、オーバーした分はボクの気持ちでしかないので、『お金を多く取られた腹いせとして例の人権団体にこの奴隷市場の場所を訴えてやる』なんてことはしません」

男「まぁ訴えたところであなたは真っ当に奴隷商をしているようですし、団体からイヤがらせを受けようとも、国が補償してくれることになるでしょうが」

奴隷商(だが……裏のその常識を相手に教えるのは罪になる。あくまで相手が勝手に悟るような形でねぇとダメだ)
奴隷商(でなければイザってとき国が“相手が勝手に勘違いをしていた”ということに出来なくなる。……まだ、国から暗殺者を差し向けられるのはゴメンだ)

奴隷商「……脅し、というわけですか」

男「そんなつもりは微塵も。それとも、“脅し”と捕らえてしまうようなことを何かしているので?」

奴隷商「まさか」
奴隷商(確証は無いが叩けば埃ぐらい出てくるんだろう、出来れば団体に場所がバレたくないだろう、互いに損はしない取引だろう、って感じの脅しなんだろうが……さて……)

奴隷商(一回でも味見をしてくれてりゃ、向こうが勝手に大丈夫なんだと思い込んでくれて、裏の法律を個人個人の解釈でなんとなく悟ってくれるんだがな……今までの貴族共や傭兵共みたいによ)
奴隷商(奴隷商と一部の貴族にしか、口止めを含めたこの法律は伝わってねぇからな……)

男「あ、お金が用意できるかどうか、信用できませんか? ちなみに、これが本物です」

ジャラ

男「布袋の中に、確かに二百枚あるはずです。一つの袋に百枚ずつですから、二つ」
男「どうです? あなたほどの人なら、そうして手に持つだけで分かるでしょう?」

奴隷商(確かにこの重みは……一枚二枚の誤魔化しはあるかもしれねぇが、それに近い数はある……)

奴隷商(くそっ、裏の法律を知ってりゃ、調教してないことを盾にもっと吹っかけることも出来るってのによ……! そしたらさらにもう五十枚は堅い)
奴隷商(相手が相手ならもっと上だ。それを、たった二百枚でだと……!)

奴隷商「…………」

男「迷いますか……それとも、商品としての価値が出来ていないのを高額で売ることに、気が引けますか……?」

奴隷商(んな高尚な理由で戸惑ってねぇよ、くそがっ……)
奴隷商(裏を知ってるか否かの確認も迂闊に出来やしねぇし……マジで大損だ)
奴隷商(あれだけの上玉を一度も抱けねぇ上に……)

奴隷商(……普通の相場で考えた場合、抱いて調教済みとして他の貴族に売るなら、大体百二十ってところだろ。それプラス八十で、アイツを抱かずに売る……ってことになるのか)

男「……まぁ、商人とは信用が大事ですからね。これがきっかけで信用が地に堕ちるかもしれないと不安になるのも分かります」
男「そのせいで、奴隷という売れない命を大量に抱え込むようなことになってしまっては、すぐに破産してしまいますしね」

男「そこで、提案です」
男「もう金貨二百枚出しますから、あなたが売りたい奴隷をもう一人、買います」

奴隷商「……処分品を高額で買い取ってくれる、ということですか」

男「身も蓋も無い悪い言い方をすれば、そうなりますかね」

男(売れないからといって奴隷を殺すことは罪になる。人権があるせいだ)
男(故に、買い手が無い奴隷はただの穀潰しにしかならない)
男(なんにせよ奴隷商とは、維持費がかかるものなのだ)

奴隷商(その売れ残りを引き取ってくれる……確かに人間の奴隷での商売だったら、願ってもねぇことだ)
奴隷商(だが今この地下牢にはエルフしかいねぇ。正直どいつも美しく、どいつもいつ買い手がついてもおかしくはねぇ奴等ばっかりだ)

奴隷商(俺だって性欲が続く限り全員調教と称して毎日だって犯したい)
奴隷商(だから……普通に考えれば、損になる)
奴隷商(“味見”に来る奴等の相手だって一人減ることになるんだしな)

奴隷商「…………」

奴隷商(だが……ここで堕ちきった奴を差し出したら……?)
奴隷商(もう、地下から出してくれるなら何をされてもいいと、犯されて犯されて犯され果てた先に、そういう考えに成り果ててしまったヤツを、差し出せば……?)

奴隷商(……裏の法律を悟ってくれるかもしれねぇし、エルフ自身が相手に教えるかもしれねぇ……)
奴隷商(……確かにこの男はもう奴隷を買いには来ねぇだろうから、先行投資という形にはならねぇが――)

奴隷商「――分かりました。それで手を打ちましょう」

奴隷商(そんな小難しいことを抜きにして、金貨プラス二百枚は大きい)
奴隷商(それだけありゃ、国へ徴収される復興費とは別に、俺の腹へと入れる分も大量に生まれる。給料とは別でチョロまかすのが楽勝なほどの大金だ)

男「では、交渉成立ですね」

奴隷商「ですが、よろしいので? 交渉が成立した後に言うのもなんですが、確かご要望では、調教が済んでいる子、ということでしたが」

男「まぁ、構いませんよ。おそらくは読めるでしょうし」

奴隷商「はぁ……」

奴隷商(読める……? そういやコイツ、あの時もそんなこと言ってたな……どういう意味だ?)

男(エルフの文化レベルの高さを信じるなら、まぁ大丈夫だろう)
男(最悪、人間(コッチ)の文字は読めなくても、意味さえ伝えてくれればどうにでもなるだろうし)

男「それよりももう一人、譲ってくれるというはどの子ですか?」

奴隷商「そうですね……おい、ちょっと」

エルフメイド「はい、御用でしょうか」

奴隷商「七番の子を出してくれ」

エルフメイド「……彼女を、ですか……?」

奴隷商「ああ。エルフばかりになってからずっといる最後の子だろう。今回の取引なら彼女が一番の適任だ」

エルフメイド「……かしこまりました」
エルフメイド「……どうされます?」

男「え? ボク?」

エルフメイド「はい。お顔、見ていかれますか?」

男「まぁ……そうですね。一応は」

エルフメイド「こちらになります」

奴隷商「ではお客様。確認が済み次第、上までお願いいたします。お支払いの方、済ませましょう」

男「あ、はい。分かりました。ありがとうございます」

ギィ…

エルフ奴隷「ぁ……」

エルフメイド「……大丈夫?」

エルフ奴隷「お客様……ですか?」

エルフメイド「ええ」

エルフ奴隷「外に……外に、出してもらえる……? もらえるなら、何だってするよ……?」

男(……なんだ……?)

エルフ奴隷「私を……使ってくれても、良いから……」

男(……なんなんだ……?)

エルフ奴隷「何をしてくれても、良いから……」

男(なんなんだ、この子は……!?)

エルフ奴隷「外に……外に、出してください……」

男(細い身体……なんてものを通り越して、病的なまでに痩せた身体つき……)
男(栄養が行き届いてないのが分かる、ボロボロの毛先……)
男(エルフとは思えないほどの、不健康な肌の色……)

男(何より、何を見つめているのか分からない、こちらを辛うじて見ているのだけが分かる、視点の定まらない、虚ろな瞳……)

エルフ奴隷「使っても、出してくれなかった人、ばっかりだけど……あなたも、そうかも、しれないけれど……でも、お願い」
エルフ奴隷「私は、今、あなた以外に、頼める人を、知らない……」

男(見えていない……訳ではないのだろう。その瞳に色はある)
男(ただ、生気が無い)
男(その整った顔立ちにも、瞳にも)

男(……さっきの子とは違い、気概も、覚悟も、何もかもが枯れ果てて消え失せた、そんな目をしている)
男(全てを諦め、絶望しきったような……まさに、さっきの子とは、真逆の子)

エルフ奴隷「味見してくれてもいい。それで気に入らなかったら放置してくれてもいい」
エルフ奴隷「でも、どうか……私に、出る機会を……」

男(手を伸ばし、助けを請うその姿……見ているだけでも痛々しい)

男(……奴隷になる、とは、こういうことなのか……?)
男(全てを諦めさせられ、人間には逆らえないものだと教え込まされ、暗く狭い中に閉じ込め続けられた結果が……これなのか……?)

男(精神は崩れ始め、外に出して開放してという願望だけで辛うじて繋がって残された……)
男(これこそが、奴隷の完成系、だとでも言うのか……?)

男(確かに……ココまで精神が崩れれば、外に出してくれた人間のいうことは聞くだろう)
男(外に出してくれた人間が自分の全てだと、そう思うだろう)

男(……ボクは今まで、人間の奴隷すらも、見たことが無い)
男(だから、何が正常で、どこからが異常なのか、分からない)
男(分からないが……少なくともボクの偏見では、異常以外の何物でもない)

男(人間の奴隷なら、こんなにはならないはずだ)
男(人間の奴隷なら、住む場所と食事は約束されるから、買ってくれるだけで感謝するはずだ)

男(だがエルフには、それが分からない)
男(人間に買われたら何をされるか分からない)
男(犯されるかもしれないし、暴力や好奇心の捌け口にされるかもしれないと、不安になる)

男(そうして、分からないから……こんなになるまで、教え込まれる……。……そういうことなのか……?)

男(不安を感じないほどまでに精神を崩壊させるのが、さっきあの男が言っていた、“奴隷としての商品価値”なのか……?)



男(そして何より……)





男(どうすれば、こんなになるまで、この子の精神が、壊れかけるんだ……?)

すいません
今日はここまでにします

楽しみにしてくれている人がいて嬉しかったり
本当はもうちょっといっぺんに書いていきたいんだけどね…
その日に書いてる分がその日になくなるワロタ状態なので許して欲しいです

再開~…だけど、今日もちょっと短くなるかも……

~~~~~~

奴隷商「エルフ達に何をされたか、ですか?」

男「はい。正直、ただ暗闇に閉じ込めておくだけで、あそこまで精神的が衰弱して追い詰められるのはおかしいかと思いまして」

奴隷商(ちっ……今勘付くか。しかも中途半端に)
奴隷商(だが俺が直接教えたりしたら、それこそお陀仏だ)

奴隷商「特には何も。ただ、エルフは月明かりを浴びて力を得る種族ですからね」

男「月明かりを……?」

奴隷商「はい。ですので、ずっと地下に閉じ込めているせいで、ああなってしまうのでしょう」
奴隷商「ほら、人間だって日光を浴びていなければ、心が滅入っていくでしょう? それと同じですよ」

男「……………………」
男「……そうですか。そう……なるほど、ね……分かりました」

奴隷商(ま、口から出まかせだけどな)

~~~~~~

エルフ少女「金貨二百枚」
エルフ少女「それが、わたしの値段なのね」

エルフメイド「そういうことです」

エルフ少女「あの男が買った値段の四倍か……で、この首輪は取ってもらえないの?」

エルフメイド「残念ながら。エルフの秘術を封じる枷である以上に、逃げ出した際に買い手が私達の元に訴えに来れば探してあげる、というアフターサービスでもありますから」

エルフ少女「そ。……ま、外してもらえたところで、わたし、秘術なんてあまり使えないけれど」

エルフメイド「秘術と言えば、あなたに使った秘術、アレはあなた自身の意思でいつでも解除できますので」

エルフ少女「ということは、わたしが望み続ける限り、あなたとは心の中でいくら距離が離れていようとも会話が出来るということ?」

エルフメイド「私もソレを望めば、ですけれど」

エルフ少女「……っていうかわたし、あなた以外にこの『心の中での会話』の秘術を使えそうにないんだけど……」

エルフメイド「直接会話するしない以前に、すぐさまココを離れることになりましたからね……まぁ、仕方ないでしょう」

エルフ少女「ま、妊娠しないままで済むから十分か。買ったアイツに何されるか分かったものじゃないし」
エルフ少女(何をされても絶望せず、抗う力を備え続けられるってことでもあるし……)

エルフ奴隷「外に、出られる……?」

エルフメイド「はい。先ほどあなたが手を差し伸べた男の人……彼が、あなたを買ってくれました」

エルフ奴隷「……?」

エルフメイド(誰か顔も見てなかった、って感じですか……本当、精神がギリギリのところにいますね……)

エルフ奴隷「じゃあ、私は、その人に、尽くさないといけない……」

エルフメイド「……それを彼が望めば、ですけれど」

エルフ奴隷「私を救ってくれた、優しい人……私に、月と太陽を見せてくれる、ご主人さま……私の全てを捧げてでも、感謝しなければいけない人……」

エルフメイド「…………」

エルフ奴隷「今までみたいに、期待させて、好き放題にして、結局出してくれなかった人とは違う……私を、出してくれる人……えへへぇ~……」

エルフメイド(……私は、本当に無力だ……)

エルフメイド(ずっとここにいて、私がこうなる前からここにいて、秘術を施す前から犯され続けていて、運良く子を孕んでいなかった子……)

エルフメイド(でも……私より後に来た子とは違って、心の中で会話をすることも出来ず、一人寂しく、自分以外の子が犯される声の中、誰にも弱音を打ち明けられない状況で貪られてばかりだったというのは……想像するだけで、泣きそうになる)

エルフメイド(今でこそ秘術のおかげで、心の中での会話も出来るし、絶対に子を孕まない身体になっているけれど……それまでは皆、一人で、支えも無く、頑張ってきていた)
エルフメイド(人間の子を孕むかもしれないという恐怖と共に)

エルフメイド「…………」

エルフメイド(私よりも前にいた、彼女の他に買われていった子たち――この子と一緒に入れられた子たちにも、同じことは出来たけれど……皆もう、心の中で語りかけても、返事をしてくれません)

エルフメイド(何も、応える余裕が無いのでしょう)

エルフメイド(……秘術を施してからずっと、気をつけていましたが……ふと、突然、きっかけもなく、こうなってしまった彼女……)

エルフ奴隷「好きです……大好きです。私を救ってくれた、ご主人様……」

エルフメイド(虚ろな瞳で、笑みを浮かべ……うわ言のように、その言葉しか知らないかのように、愛と忠誠を紡ぎ続ける彼女……)

エルフメイド(……自分勝手な願いだけれど……)

エルフメイド「……どうか、救われて欲しい……」

~~~~~~

奴隷商「では確かに。金貨四百枚、受け取りました」

男「はい。これであの二人は、連れて帰っても良いんですよね?」

奴隷商「ええ。先ほど馬車を呼んでおきましたので、すぐに来てくれるでしょう。馬車の料金は、サービスさせて頂きます」

男「ありがとうございます」

奴隷商「その代わりと言ってはなんですが、一つ彼女達に対して注意事項が」

男「? なんですか?」

奴隷商「彼女達に付いている首輪、アレを外さないで欲しいのです」

男「……どうしてです?」

奴隷商「アレは彼女達が逃げた際、こちら側が探知するための目印になる……いわば魔法道具(マジック・アイテム)のようなものです」
奴隷商「そのためもし逃げられた際は、こちらまでご足労願えば、捜索させていただきます」

男「なるほど……」
男「……人間の奴隷ならばしないことをするんですね」

奴隷商「ま、逃げる可能性は大いにありますから」

男「……確かに。人間側の奴隷について教えても、信じてもらえませんからね」

カツン

エルフメイド「長、お客様、お待たせしました。お二人を連れて参りました」

奴隷商「ご苦労」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」

奴隷商「さあお前達、この方がお前達を外に出してくれるお方だ。ちゃんと挨拶をしろ」

エルフ奴隷「あなたが……私のご主人さま……? 私を、暗闇から出してくれる人……?」
エルフ奴隷「外に出してくれる、優しい人間……?」

男「…………そうだよ」

エルフ奴隷「やった。えへへ、よろしくお願いします、ご主人さま」ペコ
エルフ奴隷「なんなりと、私にご命令ください。この身体で、どんなことをしてでも、ココから出してくれた恩をお返しいたします」

男「ははっ、まぁ、そう固く考えなくてもいいけど……ともかく、よろしく」

エルフ奴隷「はい」ペコ

男「…………」

男(相変わらず、瞳に色が無い……こちらを見ているけれど、ボクを見てはいない)
男(……外へと出してやることで、元気になればいいんだけど……)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(思っていたよりも早く出られる……それは嬉しい)

エルフ少女(でもこの男……若くて優しそうな見た目に反して、何でも出来る奴隷として私達を買ったってことは……そういうことをするのが目的なのよね……?)

エルフ少女(……これから酷いことをしてくる相手に、よろしくも何も無いって)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(でも、ここで明らさまに敵対意思を表明する必要もない)

エルフ少女(ここは媚を売って、アイツを油断させて、あわよくばこの首輪を取ってもらえば……)

エルフ少女(いいえ。最悪取ってもらわなくても、私にはお父さんに仕込まれた剣術がある)

エルフ少女(コイツも金貨二百枚という大金を払ったのであろうところを見ると、お金持ちであることに違いは無い)

エルフ少女(ならばコイツの家に、武器の一つや二つはあるはず。剣だってあるはず)

エルフ少女(ソレさえ奪えれば後は……首輪を壊し、ここに戻ってきて、皆を助けられる)

エルフ少女(秘術の代わりに教えてもらえた……この力があれば……!)

エルフ少女(そして、首輪を壊せれば使える、数少ない秘術の一つさえ使えれば……!)

エルフ少女(だから、それまでは我慢して――)

エルフ少女「――よろしくお願いします、旦那様」ペコ

エルフ少女(愛想を振りまいておけばいい)



男「旦那様、か……結婚しないといけない歳なのは違いないけど……まだしてないのにそう呼ばれるのは違和感あるなぁ……でもま、よろしく」

男(にしても……分かりやすい子だ。感情がすぐ表に出るだけに、自ら進んでその言葉を言ってるんじゃないのがすぐに分かる。……ま、別に良いんだけど)

やべぇ…もう時間だ
すいません、今日はここまでにします

たった十分とかふざけすぎだろ…という独り言

再開~

~~~~~~
◇ ◇ ◇
 馬車内
◇ ◇ ◇

ガラガラガラ…

男「さて……」

男(エルフが二人になったのは誤算だったけど……まぁ、もらった金貨の半分も使わなかっただけ良しとしよう)

男(それよりも……今からどうするか)

男(せっかく街にまで出てきたんだから、食料とか日用品とか、色々と買い溜めも済ませておきたい。屋敷に戻ればココに来るまで結構な時間になるし)

男(でもそうなると、買い物をした後あの屋敷に戻ろうと思ったら夜になってしまう)

男(それに……この二人の服も買うとなると、もっと時間もかかるしな……)

男(まさか着の身着のまま連れて帰ることになるとは……奴隷ってそういうもんなのか……?)

男(……まぁ、仕方が無い)

男「すいません。街外れの方にある宿に行ってもらえませんか?」

エルフ少女「え?」

御者「かしこまりました」

エルフ少女「……屋敷に戻るんじゃないんですか?」

男「ちょっと、寄り道してから帰ろうと思ってね。でもそれだと屋敷まで時間が掛かっちゃって危ないから、今日は街に滞在しようかと思って」

エルフ少女(……何? 宿で一度私達を犯そうっていうの……? 屋敷がどこか知らないけど、それまでもたないなんて……とんだエロ野郎ね)

男「……あの、何か不都合でもあった?」

エルフ少女「いえ、全ては旦那様の意思ですから」

エルフ奴隷「ご主人さまの望むがままに。早速、出してもらえたお礼をさせてもらえるのですね」

男「お礼……?」

エルフ少女(とぼけちゃって……犯すつもりでしょ? まったく……)

エルフ少女「はぁ……」フイ

男「?」

男「それじゃあスイマセン。明日、太陽が昇り始めて少ししたら、この宿屋の前に来てくれませんか? 我侭をきいてもらえる分、お金は増やしますから」

御者「かしこまりました」

ガラガラガラ…

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」

男「さて、と……」

カランカランカラン…

男「すいません」

主人「あいよ。泊まりかい?」

男「はい。あ、ここって一階は食堂にもなってるんですね」

主人「おうよ。ま、表通りにある宿屋みたいに、客の入りがあまり良くねぇからな。こうやって兼業にしないとやってられないんだよ」

男「なるほど」

主人「で、三名様かい?」

男「はい」

主人「……内、二名はエルフ、か……」

男「あ……ダメでしたか?」

主人「いやいや、そんなことは。ただエルフの奴隷を買う金があるんなら、こんなところに泊まらんと屋敷に戻るか、表の方にある広くて豪華な宿屋に行けば良いんじゃねぇのかい?」

男「いやぁ~……実はボクの家、街を出たところにあるんですよ。で、今日はもう帰っても遅くなるし、買い物もして帰りたいから、泊まろうかと思いまして」

男「ココを選んだのは単純に、表通りだと二人の格好が目立つからですよ」
男「実は今日二人を買ったばかりで、服も何も無くて……今から買いに行こうかと思いまして」

エルフ少女「……!」

主人「ほぅ、そうかい。ま、確かにその服装だと表は歩かせられねぇわな」

男「オヤジさんも、あまりやらしい目で見ないでやって下さいね」

主人「はっは~、そいつは無理ってもんだぜ。ま、でも手は出さねぇよ。オレはカミさん一筋だからな」

男「ははっ、なるほど」

主人「で、部屋数はどうする?」

男「二部屋でお願いします」

主人「その二人は同じ部屋で?」

男「はい。人間ばかりの場所で部屋を別々にされたら、不安になるかと思いますし」

主人「ちげぇねぇ」

主人「ほれ、それじゃあコレが部屋の鍵だ。場所は二階に上がって奥から二番目の、向かい合わせ二つの部屋だ」

男「ありがとうございます」

主人「お、そうだ。カミさんが帰ってきたら呼んでやるよ。オススメの服屋を教えてもらいな」

男「何から何まで……本当にすいません」

主人「良いってことよ」

男「こうやって親切な人がいるから、泊まるならやっぱりこういう場所の方が落ち着くんですよねぇ」

主人「ははっ、奴隷を買うほど金持ってるヤツのセリフには聞こえねぇな」

男「案外、こういう人もいるもんですよ。あ、そうだ。良かったら桶と水を借りても良いですか?」

主人「ん? ……ああ……なるほど。身体を拭くのか」

男「はい」

主人「ウチは部屋毎に風呂なんてねぇからなぁ……ま、それぐらいなら構わねぇよ」

男「ありがとうございます。部屋に戻ってから取りに来ますね」

男「さて……それじゃあ、ボクはコッチの部屋にいるから。あとで宿屋の女将さんに良い服屋の場所を聞いたら、一緒に行こう」

エルフ少女「……あの」

男「ん?」

エルフ少女「部屋、別々で良かったんですか?」

男「? なんで? あ、もしかして、二人だけでも不安だったりする?」

エルフ少女「いえ、そういう訳では……」

エルフ少女(……てっきり宿屋で襲われるものだと思ってたのに……あ、もしかして、夜に一人ずつ相手にするとか……? 二人いっぺんは趣味じゃないとか、そういうの……?)

エルフ奴隷「ご主人さま、私は、ご主人さまと同じ部屋でも良いですよ?」

男「ん~……でも、出来れば二人で一緒にいてもらった方が良いと思うんだけどなぁ……」

エルフ奴隷「じゃあ、三人で一部屋でも良かったのでは……? 部屋代が勿体無いですし……別々だと、その……お礼も、し辛いですし……」

男「部屋代なんて気にしなくても良いよ。それにお礼とか、そういうのは今は考えなくても良いって。屋敷に戻ってから働いてもらう訳だし」

エルフ奴隷「……そう、ですか……」

エルフ少女(はは~ん……なるほど。街とかこういう人がいるところではヤれないタイプか。これは、結構なヘタレってことね)

男「うん。ま、そういう訳だから、ボクが呼びに来るまでは、ゆっくりしてて」
男「あ、後で水を溜めた桶を借りてくるから、布も渡すし、身体を拭いたら良いよ。多少はサッパリとすると思うし」

エルフ奴隷「かしこまりました」

ギィ

エルフ少女「あ、ちょっと! ……じゃなくて、旦那様」

男「ん?」

エルフ少女「その、もう一つ聞きたいことがあるんですけど……」

男「どうしたの?」

エルフ少女「その……わたしの聞き間違いなら、ただ図々しいだけの女に見えるから、あまり聞きたくは無かったんですけど……その、気になったもので……よろしいですか?」

男「うん、良いよ」

エルフ少女「その……さっき、服屋の話をしているとき、わたし達の服がどうとか言ってましたけど……」

男「ああ……うん。そうだよ。屋敷に戻る前に、保存食とかそういうのも買いたいけど、それよりも先に二人の服を何着か買って帰ろうかと思って」

エルフ少女「えっ……?」

男「ん? あれ? そんなに驚くこと?」

エルフ少女「いえ、そんなことは……ただ、よろしいのかと思いまして」

男「当たり前だろ。そんな胸元と腰周りを辛うじて隠してるだけに近い、肌着がいつ見えてもおかしくない布だけみたいな格好で街中をうろちょろなんてさせられないし」

エルフ少女「でも……奴隷、と呼ばれてますし、こういうものだとばかり……」

男「まぁ、エルフの文化での奴隷と、人間の文化での奴隷は意味合いが違うからなぁ……ま、その辺は買い物中にでも説明するよ」

エルフ少女「はぁ……」

男「ま、今はとりあえず、気にせず気にせず。リラックスリラックス」
男「どうせ服買った後、早速荷物持ちとして利用させてもらうんだからさ。体力、蓄えといてね」

~~~~~~

エルフ少女(とかなんとか言ってたのに……わたし達の服を五着ずつほど買わせたら、早々に宿屋に戻ってきて、一人でコッソリと買い物に行くんだもん……)

エルフ少女(ホント……訳わかんない)

エルフ少女(この買ってもらった服だって……あの人の趣味じゃなくて、わたし達が欲しいものとか、店員のオススメとか、そういうのだし……)

エルフ少女(……なぁにが、服はかさばるから先に宿屋に戻ろう、よ)

エルフ少女(重い物をわたし達に持たせたくないからって、そんなこと言って……気を遣って……)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(もっと、酷いこと沢山されると思ってたのにな……)

エルフ少女(っていやいや! 油断はダメだ!! まだあの人の屋敷にすら戻っていない!!)

エルフ少女(きっとこれは……そう! まずは親しくなって、容易に股を開かせようとか、そういう下心が満載な行為に違いないっ!!)

エルフ少女(でもそんな小細工、わたしには通用しない! そうやって策を弄している間に、わたしだって行動を起こす!)

エルフ少女(まずは……もう一人、一緒に買われた彼女と話をしておかないと……)

エルフ少女「ねぇ」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「ねぇってば」

エルフ奴隷「……あ、私?」

エルフ少女「そ。っていうか、今この部屋にはわたしとあなたしかいないでしょ?」

エルフ奴隷「そうですね……。……ご主人さま、どこにいったんでしょう? 心配ですね」

エルフ少女「はぁ? 別に心配じゃないって」

エルフ少女(出かけた目的だって推測できてるし)

エルフ奴隷「でもあの方は、私とあなたを、こうやって外に出してくれた救世主ですよ? 服だって買ってもらえましたし。何かに巻き込まれてるかもしれないかと思うと……」

エルフ少女「マジか……モロに人間の手の平の上じゃん……」

エルフ奴隷「え?」

エルフ少女「あのさ……同胞だからこの際言っておくけど、あなた、騙されてるわよ」

エルフ奴隷「……騙されて……?」

エルフ少女「そう」

エルフ少女「大体、わたし達がこんな目に遭って、里を焼き払われてしまったのだって、そもそもは人間のせいでしょ?」
エルフ少女「それなのに同じ人間に救われて“救世主”はおかしいでしょ」

エルフ奴隷「……? そうでしょうか……?」

エルフ少女「は?」

エルフ奴隷「だって、人間の中に、悪い人間と良い人間がいて、悪い人間が私達の里を焼き払ったり、虐殺したり陵辱したりしただけで……」
エルフ奴隷「ご主人さまはそうなって閉じ込められた私達を助けてくれた、良い人間なんですよ?」

エルフ少女「いやいやだから、その原因自体を作ったのがそもそも人間だって話じゃないの」

エルフ奴隷「人間だから悪、というのは短絡的では? 現に私達の同胞にだって、悪いことをする人はいたじゃないですか」

エルフ少女「いや……そりゃいたけど……でもそういうのは同胞から追放したし」

エルフ奴隷「人間に、そのことは分かりません。それと同じです」

エルフ少女「いやいや、違うでしょ。全然全くこれっぽっちも違う。もうあなたってば洗脳されすぎ」

エルフ奴隷「あなたも、その人個人を見ようとしていなさすぎるかと」

エルフ少女「人個人だなんて、アイツとは知り合ってまだ一日も経ってない。二度目の太陽を拝んでも無いのにそうやって言って……決め付けてるのはあなたじゃない?」

エルフ奴隷「一日も経っていない私を外に出してくれた。それだけで、決め付けるには十分」

エルフ奴隷「今まで、私の身体を好き勝手にして――陽の光を浴びさせてくれると約束したくせに、結局は貪るだけ貪って、注ぎ込むだけ注ぎ込んで何もしてくれなかった人間とは違う」
エルフ奴隷「それだけで私は、ご主人さまを“ご主人さま”と呼べる価値があると思ってる」

エルフ少女「はん。それっぽく話せるようになったと思ったら、そういう世迷い言を口から出すの?」
エルフ少女「アイツだって結局、あなたを貪るだけ貪るだけの存在かもしれないのに」

エルフ奴隷「私は、ソレで構わない」

エルフ少女「はぁ?」

エルフ奴隷「好きなだけ犯せば良い。あの暗闇から――同胞が苦しんで喘がされて泣かされて叫ばされた声が染み込んだ、耳を塞いでも声が聞こえてくるあのイヤな場所から、こうして救ってくれただけで、私は全てを捧げられる」
エルフ奴隷「例えソレが、この身をすぐさま打ち滅ぼす内容でも……精神を壊されるような、酷い内容でも……」

エルフ奴隷「一時の夢を、瞬間の願望を叶えてくれた恩を、返したいの」

エルフ少女「……あ、っそ。分かった。それがあなたの強い意思だと言うのなら、同胞として邪魔はしないわ」

エルフ奴隷「……そう」

エルフ少女「でも、代わりにわたしの邪魔もしないでね」

エルフ奴隷「あなたの邪魔……?」

エルフ少女「わたし達がいたあの場所にいる同胞全てを救い、ついでに、人間へと復讐を果たすという目的の邪魔」

エルフ奴隷「……する理由が無い。同胞を救ってくれるのなら」

エルフ少女「邪魔をしろ、ってあの『あなたが全てを捧げるご主人さま』に命令されても?」

エルフ奴隷「ええ。あなた達が同胞である以上、絶対に」

エルフ少女「…………」

エルフ少女「なら良いわ。本当は協力し合おうと思ったけど、ま、それだけ妄信してるなら、その言葉が聞けただけで十分よ」

エルフ奴隷「だって……」

エルフ少女「ん?」

エルフ奴隷「だって……あそこにいた皆とは、あまり話せなかったけれど……それでも、私の心を支えてくれようとしてくれたことに、代わりはないんだもの」
エルフ奴隷「だから……協力する」

エルフ少女「……ふ~ん……ま、分かったわ。手伝って欲しいことが出来た時には、声をかける」
エルフ少女「もうこうして会話した以上、心の中での会話も出来るんでしょ?」

エルフ奴隷「うん」

エルフ少女「なら、その時がきたら、語りかけるから、よろしく」

エルフ奴隷「ん」スッ

エルフ少女「…………ん」スッ

ガシッ

エルフ少女(でもさ、もしわたしの協力要請がアイツのお願いやら命令やらと真逆だったら、あなたは本当に、わたし達を同胞として見てくれるの……?)

エルフ少女(……って、意思を持って心の中で問いかけてみたいけど……止めとこう)

エルフ少女(しっかりと話は出来てたけど……握手も交わせたけれど……でもまだ、そういうしっかりとした意思を確立できるほど、心が安定しているようにも思えないし)

エルフ少女(何より……この握手に力を込めれていないことが、不安で仕方が無いのよ……)

今日はここまでにします
ありがとうございました~

今日も投下はじめます

~~~~~~

男「後は……そうですね。これも、三人分換算で五日分ほど」

万屋「お客さん……そんなに買って大丈夫ですかい? そりゃ、ここの仕入れをやってる人に送ってもらったお礼ってのは分かりましたが……」

男「え? あ、お金ならちゃんとありますよ」

万屋「そうじゃなくて、腐らせないかってことですよ。せっかく買ってもらっても腐らせちゃ、勿体無いでしょ」

男「あ~……そういうこと。なぁに、大丈夫ですよ。家に帰ったらすぐに保存しますから」

万屋「保存ったって……保存食に加工できないものまで買っていってやせんか?」

男「それらはほら、帰ってからすぐに食べますし」

万屋「にしてもこの量は……」

男「ん~……でも確かに、そろそろ買うのは止めておいた方が良いかもなぁ……一人で持って帰るのも大変そうだ」

万屋「家は、すぐそこで?」

男「まさか。街の外ですよ。だからこうして一気に買い溜めしてるんです。ココまで来るのだって割りと苦労しますしね」

?「ん? あれって……」

男「じゃあ、とりあえず、今まで言ったやつで、纏めてもらって良いですか?」

万屋「へい、まいどありっ」

?「お久しぶり! 男くんっ!」ポン

男「ん?」

?「へぇ~……自分から率先して街まで来るなんて、珍しいね」

男(……誰だっけ?)

?「さすがに、食事する分には買い出しに出ないといけないもんね」

男(ショートカットの髪……明るい笑顔……子供と大人の中間ぐらいな低い身長……ああ~……見たことはある。確かにある。その記憶はある)
男(あるのに……あるのに名前が……)

?「…………」

男「…………」

?「……もしかして、あたしのこと……分からない?」

男「……………………はい」

?「……はぁ……それって本当? 冗談とかじゃなく?」

男「…………………………………………はい」

?「そっかぁ~……男“様”は月が一度顔を出すまでだけの半月という短い期間とはいえ、世話をしてくれた人の顔も忘れる人で無しだったんですね」

男「あ! その呼び方は……!」

?「ようやくですか……?」ハァ…

男「ごめんなさい……でも、ほら、屋敷で見てた時とは、格好が違うから」

?「服装なんてそりゃ、屋敷を出たら代わりますよっ。外にまでメイド服では出かけられませんし」

男「え? でも街まであのエプロンドレスの服で行ってたような……」

?「た、たまにですよ! たまにほら、着替えるのが面倒で……! ……じゃなくて!」

男「はい。すいません。お久しぶりです、メイドさん」

元メイド「元メイド、だけれどね」

元メイド「で、男くん、本当に久しぶり」

男「久しぶりです。どうです? 結婚生活は」

元メイド「まだよ」

男「あれ?」

元メイド「あのねぇ……つい四日程前にようやく月が隠れ終えたばかりで、まだ婚約を申し込まれて約半月が経ったところなのよ?」
元メイド「プロポーズされてはい結婚、とはさすがにいかないらしいのよ。貴族社会では」

男「はぁ……」

元メイド「だから花嫁修業として旦那さんの屋敷に行くことになって、男くんの勤め先を解雇させてもらったんじゃない」

男「あ、退職金とかそれまでのお給金は払いましたよね?」

元メイド「ちゃんともらったわよ。というか、払ったほうが忘れててどうするの?」

男「いやいや、すいません……」

元メイド「全く……本当、いつまで経ってもズボラなんだから」

男「返す言葉もないです……」

元メイド「そもそも結婚だって、次の満月の日にするから呼ぶ、って約束したのに……呼ばれてないくせに呼ばれたと思って結婚生活を聞いてくるのはどうなのよ?」

男「いやもうほんと……魔法とか色々な実験が忙しくて……日にちの感覚が無くなってきてるんですよ」
男「つい一月ほど前にようやく戦争が終わったなぁ、ぐらいしか記憶に無くて……」

元メイド「えぇ~……? 大丈夫なの、それ? 一人暮らししてて平気?」

男「まぁ、それなりに。ちゃんとやってますよ」

男「あ、でもそういえば、ここ三日は何も食べて無かったかも……」

元メイド「はぁっ!?」

男「いや、実験に夢中になるとどうも……」

元メイド「……本当にさぁ……無理矢理にでも食べさせないと食べることも忘れるよね、男くんって。身体、壊すよ」

男「とっくに自分の身体使った実験で壊れてるようなものだし、今更……」

元メイド「それとこれとは別!」

男「ですよね~」

元メイド「ちゃんと食べてちゃんと寝ること! ちなみに、どうせ何日も寝てないんだろうから聞くけど、何日寝てない?」

男「……同じ三日」

元メイド「はい間があった! 今ウソついたような間があったよっ! で、本当のところはっ!?」

男「……五日です」

元メイド「あぁっ!?」

男「いやホントごめんなさい。今日は街に泊まるので実験も出来ないですしゆっくりと休みます」

元メイド「今日“は”じゃないよ。で、ご飯はどうするの?」

男「食事も宿屋の下の食堂で取りますので大丈夫です」

元メイド「サラダも注文するのよ」

男「分かりました」

元メイド「まったく……本当、世話の焼けるご主人様だこと」

万屋「ほれ兄ちゃん、待たせたな」

男「あ、すいません。ありがとうございます」

万屋「袋八つほどになっちまったが、一人で大丈夫か?」

男「あ~……じゃあ、三つだけで。あとの五つは、後で取りに来て良いですか?」
男「先に最初の三つ、泊まってる場所に置いてきます」

万屋「ああ、別に良いぜ」

男「それじゃあすいません。お願いします」

元メイド「……ねえ、男くん。塩は買わなくて良いの?」

男「あ、そっか……確かに置いてた分が無かったかも……」

元メイド「それでどうやって保存食に加工するつもりよ……っていうか、一人暮らしのクセに買いすぎじゃない?」

男「えっと……その、実は今日、エルフを二人ほど買いまして」

元メイド「え? 奴隷として?」

男「はい」

元メイド「あ~……なるほど。それで家事全般を引き受けてもらおうと、そういうこと」

男「まぁ、そういうことです」
男(本当は書物を読んでもらう“ついで”なんだけど……ややこしくなりそうだし黙っていよう)

元メイド「ま、それで良いのかもね。男くん、あたしがいないとどうもてきとうに生活してるみたいだし」
元メイド「誰か世話をしてくれないと何も自分でしないんだから」

男「返す言葉もありません……」

元メイド「そういうことなら……ねぇおじさん」

万屋「ん? どうしたお嬢ちゃん」

元メイド「塩を三……いえ、四キロほどちょうだい」

万屋「まいどっ」

元メイド「あ、支払いは男くんね」

男「えぇ~……?」

元メイド「あなたの家のものよ? 当たり前じゃない」

男「でも、四キロもいります……?」

元メイド「基本的に腐らないものだし。というか男くんの家には確か、魔法で腐らせるのを遅らせている場所があったでしょ?」

男「……まあ」

元メイド「塩は別に入れなくても良いけど、保存食に加工しないものとかの食料は、とりあえずそこにぶち込んじゃえば良いのよ。あたしは買い溜めたやつそうさせてもらってたし」

男「はぁ……」

元メイド「というかそもそも、そうなると保存食として漬け込む必要性もあんまり無いことになるんだけど……ま、料理として味のバリエーションが増えるから、塩はあった方が良いのよ」

元メイド「あ、それとごめん、おじさん。台車借りても良い? 銅貨は払うからさ」

万屋「へい、まいど! ま、お嬢ちゃんほどか弱い子が、四キロもする塩を直接運べっていうのは酷だからな。タダにしてやるよっ」

元メイド「わぁ! ありがとうございますっ!」ニコッ

男(媚売りだ……)

元メイド「なにか?」

男「いえ、別に何も」

元メイド「とりあえず、台車の上に塩四キロ……あと、乗せれる荷物乗っけちゃいなさい」

男「ん~……八つ全部乗るかな……?」

元メイド「いや無理でしょ。どうせ台車を返しに来ないといけないんだし、つぎ宿に戻る時に全部持って帰れる程度置かしてもらえばいいのよ」

男「じゃあ……五つほど乗せれるかな……?」

元メイド「ん……まぁ、グラついてるけど……大丈夫か」

元メイド「さあ、男くん、台車を押しなさいっ!」

男「え~……? ボク、運動とか体力使うのとか苦手なんだけど……」

元メイド「じゃあ乙女にこの重い荷物を押させるの……?」

男「…………分かりました」

元メイド「分かればよろしいっ」

男(っていうか、塩は別にいらない、とかついさっき本人が言ってたのに……買わせて、それでボクが苦労するハメになるなんて……なんか、納得いかない)

元メイド「あたしは荷物が落ちないかちゃんと見張っといてあげるから、安心して」

男「はぁ……ありがとうございます。って、え? 宿屋までついてくるつもりですか?」

元メイド「もちろん」

男「用事があって街にいたんじゃ……」

元メイド「暇だから散歩してただけ。っていうか、あそこがちょっと息苦しくて……旦那さんは良い人なんだけど、使用人とか、大旦那さんの兄弟とか姉妹とか、ちょっと口煩いのよ」

男「えっと……結婚相手って、あのキミを連れて行った、お歳を召してた人……?」

元メイド「んな訳ない。相手はあの人の子供よ」
元メイド「年齢的にはそうね……あなたの見た目そのままの年齢、ってところ?」

男「随分と若い……」

元メイド「姉さん女房ってやつよ。なんか、そのせいかさらに気を遣っちゃう」

ガラガラガラ…

男「でもメイド、料理も掃除も出来るんだし、別に怒られるようなことはしてないんじゃ……?」

元メイド「それが逆に気に入らないみたいなのよ。旦那さんが一人っ子だからか、妙に神経質でね」
元メイド「ま、あの大旦那の兄弟に至っては、しっかりとしすぎてるあたしが邪魔みたいだけど」

男「あ~……もしかして、遺産とかそういうの?」

元メイド「そう。大旦那さんは良い人で、旦那さんも良い人で、二人とも大好きなんだけど……他がもうその二人の遺産目当てなのが丸分かりでとてもとても……」

元メイド「きっとあたしの旦那さんになる人を騙したり唆したりして、なんとかお金が欲しいんでしょ。ま、あたしが許さないけど」

男「メイドのお金だから……?」

元メイド「っていうか、人が頑張って稼いでたお金を横から掠め取ろうっていう性根が気に食わない。お金に関して厳しいのよ、あたしは」

男「まぁ、だからあの人も『メイドを息子の嫁に』って思ったんだろうけれど……」

元メイド「しっかりしてるのが伝わったのね、きっと」

男「街で偶然見かけて必死に値切ってるのを見かけて……とか、あまりロマンスには溢れないけどね……」

元メイド「良いのよそういうのは。要はキッカケなんだから」
元メイド「あと、さっきから所々メイドって言ってる。もう違うんだから」

男「これはごめんなさい」

ガラガラガラ…

元メイド「っと、そういえばエルフを買ったんだよね? 二人」

男「はい」

元メイド「あたしが使ってた部屋に、あたしが使ってた掃除道具とか掃除の参考書とか、あとあたしがメモしてたノートとかあるから、使わせてあげて」

男「……そんなの残してたの……?」

元メイド「……こういうのもアレだけど、普通、住み込みの使用人が出て行った部屋って確認しない?」

男「まぁ、メイ――元メイドさんが使ってた部屋だから、キレイなままだろうと思って……」

元メイド「そのままあたしを見送った後、実験にすぐさま戻ったと」

男「まぁ……はい」

元メイド「はぁ……ま、良いんだけど。ともかくそういう訳だから」

男「分かりました」

元メイド「あ~……どうしよ。顔でも見ていこうかなぁ……? あ、でも今日買ったばかりか……じゃあ人間を警戒してるかも……」

男「正解です。だからまぁ、今度また街に来たときにでも紹介しますよ」

元メイド「紹介するって……男くん、あたしが嫁いだ先って分かるの……?」

男「……いえまぁ、分かりませんけれど」

元メイド「ほらね。ま、そろそろこの買っていた量の食材が消えそうだと思ったら、また街を歩くことにするわ」

男「そうしてもらえると、助かります」

ガラガラガラ…

男「それはそうと、ボクと一緒にこうして並んで歩いてるのは良いんですか? もしかしたら、その口煩い人たちの誰かが見てるかもしれないのに」

元メイド「そうなっても大丈夫よ。あなた、大旦那さんと知り合いでしょ?」

男「知り合いってほどじゃ……ただ、元メイドさんを解雇するときに会っただけで……」

元メイド「それで十分。大旦那さんは自分達の兄弟姉妹をあまり好んでないみたいだし、特徴聞いてあなただと分かったら、浮気を疑うフリして何もしない、ってことをするでしょう」

男「……もしかして、そうやって相手の方に偽者の武器を握らせるために、ボクを利用した……?」

元メイド「自信満々に取り出した武器が幻想で、その武器が砕け散る瞬間がいずれやってくるかと思うと……ゾクゾクすると思わない?」

男「……まぁ、元メイドさんらしい発想ですね」

元メイド「大旦那さんもあたしの性格を悟ってくれてるし、すぐさま利用してくれるからちょうど良いのよ」

男「……なんか、それだと旦那さんよりも大旦那さんの方が好きみたいに聞こえますけど」

元メイド「まさか。旦那の方が大好きよ。大好きすぎて話題に上らせるのが恥ずかしいだけ」
元メイド「っていうか、あたしって誰かに惚気を話すのが苦手なのよ。特に、あなた相手にはね」

男「はぁ……」

元メイド「ま、そもそも好きじゃなかったら結婚を断る女だってことぐらい、短い付き合いの男くんでも分かってるでしょ」

男「はい。お金は大好きだけれどお金のためには生きたくない女性だ、ってことは分かってます」

元メイド「……なぁんか失礼な言い方」

男「冗談だろうと予測出来るはいえ、別れ際に『これで玉の輿だ!』って言ったツケですよ」

ガラッ…

男「っと、すいません。今日はここに泊まっているので」

元メイド「そうなの? 明日は何時出発?」

男「出来れば早朝にと。あの屋敷への山道を初めて歩く二人を連れてますから。出来る限り早い方が良いかと思いまして」

元メイド「あ~……それじゃ見送れないか……」
元メイド「でもま、確かにそれが良いかもね。一度でも往復したら案外あっさりと簡単に道を歩くコツとか順路とか覚えられるんだけど、初見だとね」

男「それはメイドさんが優秀なだけでは……」

元メイド「元メイド、ね」

男「すいません……」

元メイド「ま、良いけど」

元メイド「じゃま、あたしも屋敷に戻るわ」

男「はい。ありがとうございました」

元メイド「その台車、ちゃんと返しに行くのよ」

男「当たり前ですよ。荷物も半分以上、預けたままですし」

元メイド「あ、あと荷物は宿屋にお願いして一階のどこかに置かしてもらった方が楽よ」
元メイド「そんな大荷物、朝っぱらから大移動させるのもしんどいでしょ。案外こういう宿屋なら貸してくれたりするし」

男「豆情報、ありがとうございます」

元メイド「んじゃ、今度の今度こそ、バイバイ。また次の機会に」

男「はい。また次の機会に」

男「さて、と……」

男「それじゃあ、残りの荷物を受け取りに行こうかな」


カランカランカラン…


男「すいません。ただ今戻りました。あの、この荷物なんですけど、出来れば明日の朝まで一階で預かってもらえま――」


パタン









プロローグ・終了

ああ~…プロローグだけで一週間と一日かかっちゃったよ…
なんかポンポンと無駄に多く書いてしまったような……

ともかく、ようやく次からスレタイの本来書きたいこと書いていきます
最初はすぐに奴隷を買って、ってはずだったのに…どうしてこうなった……


ともかく、ここまで付き合ってくれてる方、ありがとうございます
支援とか期待とか色々と励みになって頑張れてます

でも明日は更新無理なので続きは明後日で
本当、期待してくれている人、申し訳ない…

期待に添えられる自信もないし面白いものを書ける自信もないけど、引き続きこの「書きたいことを書いてるだけのオナニーみたいなもの」に付き合っていただけるなら、どうぞよろしくお願いします

くそぅ…時間が無いよ……
再開しますけど、短いです……すいません

◇ ◇ ◇
 山道
◇ ◇ ◇

ザッザッザッ…ザッ!

男「はぁ~……やっと戻って来れたぁ~……」

エルフ奴隷「はぁ、はぁ、はぁ……」

エルフ少女「ふぅ……はあぁ……はぁ……」

男「あ~……ごめん。しんどかったよね?」

エルフ奴隷「いえ、そんなことは……」

エルフ少女「当たり前です。っていうか、なんでこんな山奥に住んでるんですか? 途中から馬車を降りて、山を登るハメになるなんて、思いませんでしたよ」

男「いやだって、あそこから先は馬じゃ歩けないし……軍馬でも連れてこないと」

エルフ少女「じゃあ買いましょう、軍馬」

男「買えるわけないよ……軍でも何でもないのに……」

エルフ奴隷「それよりもご主人さま、それだけの大荷物を運んで、よく山を登れましたね。尊敬します」

エルフ少女「あ~……それは確かにですね。大量の食料は日用品が入った沢山の袋と塩を四キロ……その全てを一人で、しかも山道という辛い場所でよく運べましたね」

男「いやいや、褒めてもらったところ悪いけど、ボクは別にそこまで力持ちじゃないよ。むしろ運動も体力仕事も全くといっていいほど出来ないぐらい苦手だし」

エルフ少女「え? でも現に運べてません?」

男「魔法を使ったからね」

男「ボクの魔法を使う方法はちょっと特殊でね」
男「ほら、荷物を馬車から降ろしてもらった後、何か水を振り掛けてたでしょ? あれで物の重さを一時的に感じられない程、軽くしてたんだ」

男「昨日の夜、そういえば塩を四キロとなればこの道は歩けないってようやく気付いてね……慌てて組み立てたんだ」

エルフ少女(どうして買う段階で気付かなかった……)

男「上手くいってて良かったよ」

エルフ奴隷「ですか確か、私の記憶だと人間が使う魔法とは、空間に文字を描き、自らの体力を魔力へと変換し、何かしらの現象を引き起こすものだったはずでは?」

男「あれ? 詳しいね。確かにその通りだよ」
男「文字を描いてしたいことを世界に訴え、そのしたいことに準じた体力を魔力としてもっていかれて、したいことを具現化する」

男「……でもま、ボクの場合はソレが出来なくてね。別の手段をとってるんだ」

エルフ奴隷「別の手段ですか?」

男「うん。えっと――」

エルフ少女「その話、長くなるならまずは屋敷に戻りません?」

男「あ、そうだね。目の前に家があるのに外で話すことも無いしね」

男「それに、もうだいぶ日が昇ってきてる。そろそろ真上に差し掛かりそうだ。……先にご飯にしよう。その後に、屋敷の中を案内するよ」

エルフ少女(水平に切り取られたかのような平坦に開けた場所)

エルフ少女(そこに上から、ドン、と置かれたような、違和感と存在感がある屋敷)
エルフ少女(門扉と壁に囲われた、二階建ての屋敷)

エルフ少女(パッと見は豪華に見えるけど、門を通り中へと入ってみると、その抱いた感想は一変した)

エルフ少女(まず、屋敷に行くまでの道の左右は雑草で生い茂っている)
エルフ少女(道自体にも所々野草が生えているし、手入れが行き届いていないのが見て取れる)

エルフ少女(次に、屋敷に入る前に見た外壁に汚れが目立つ。……長年、雨風に耐え凌がされてきた証拠だろう。だからまぁ、仕方が無いと言えば仕方が無い)

エルフ少女(でも屋敷の中に入ってすぐ、この建物全ての床に敷いているのであろう絨毯に足跡がついたままなのはどうかと思う)

エルフ少女(大方この足跡は、今目の前にいる、この荷物を両手で抱えるよう大量に持っている男のものなのだろう)
エルフ少女(わたし達が入ってきた出口に向けて、足の方向が向いている。きっとわたし達を買いに街へと出てきた時のものだと思う)

エルフ少女(……ここまできたら、さすがに掃除ぐらいはしたら、とわたしでも思う。というかそもそも、歩いて汚してしまうぐらい汚れているのなら靴の裏ぐらい拭けば良いと思う)

エルフ少女(…………っていうかもう、なんか全体的にホント……埃っぽすぎる……この足跡が内側から伸びてきてくれていなかったら、人が住んでいなかったのではと疑うレベル)

エルフ少女(外観も多少古臭いし……廃墟だと思われたり噂されたりしても文句が言えないよ……これじゃ)

――食後――

男「さて……食器も水に浸けてきたし、早速屋敷の中を案内しようか」

エルフ奴隷「……あの……」

男「ん? どうしたの?」

エルフ奴隷「その……食べ終えてしまってから言うのもなんなのですが……私達の食事、アレで良かったのですか?」

男「え?」

エルフ少女(確かに……ソレはわたしも思った)

エルフ少女(昨日の晩と今朝は仕方が無い。店で注文したものと、夜のうちに作ってもらっていたサンドイッチだから、変えようも無い)

エルフ少女(でもついさっきの食事は、彼が作ってくれたもの)

エルフ少女(奴隷にも人権がある、とされていない――まして人気なんてないこの屋敷で……尚且つ、注文したもの以外を出せない場所でもない、この場所で……)
エルフ少女(食事自体を与えないことも、残りカスのような質の低いものを食事として出すことも出来たはず……)

エルフ少女(なのにも関わらずコイツは……コイツ自身が食べているものと同じものを、わたし達に出してきた)

エルフ少女(奴隷として買った――犯すためだけに買った、わたし達に……)

男「あ、もしかして、美味しくなかった? いや、まぁおいしくはないよね」
男「パンは少し固くなってたし、肉だって申し訳程度に味付けして焼いただけ。野菜に至っては水洗いしてちぎっただけの代物だもんね」

男「そりゃ、文句も言いたくなるか」

エルフ奴隷「そ、そういう意味で言ったわけでは……!」

男「いいよいいよ。気を遣わなくて」

エルフ奴隷「ほ、本当ですっ! 少なくとも、私に昨日まで与えられていた食事よりかは、ずっとずっとおいしかったですっ!! あったかくて、一生懸命さが伝わってきて、それで……それで……!」

男「あ……あ~……そう? まぁ、そんなに必死になるんだから、その通りなんだろうけど……」

エルフ奴隷「あ……すいません。ご主人さま相手に、差し出がましいことを……」

男「いやいやそんな、かしこまらなくて良いよ。むしろそこまで言ってくれて嬉しい、っていうか……うん。……ありがとう」

エルフ奴隷「…………」モジモジ

男「ま、まあ! そんなことよりもほら、屋敷の案内だ」
男「まずは、キミ達の部屋からだな」

エルフ少女「っ」

エルフ少女(きた……さて、わたし達の部屋はどんなところだ……?)

エルフ少女(犯すためだけの存在であるわたし達に与えられる部屋だけれど……出来ればあの地下みたいに固い地面ばかりの場所は遠慮願いたい)
エルフ少女(けれども……ま、寝れる場所さえ区切ってくれていれば、それだけで満足するべきなのだろう)

エルフ少女(きっと最悪な場所は、あの場所にあった小さなベッドすらも無い、ただの囲いの中なのだろうから)

男「二階にある部屋だと、基本的にどこをつかってくれても良いんだけど……そうだなぁ……どうせなら前までいたメイドさんの隣にしようか」

ガチャ

エルフ奴隷「っ!」

エルフ少女「……えっと……」

男「ん? あ、狭かったらごめんね? でもこの屋敷って基本的にここぐらいしか寝れる部屋は無いし……」

エルフ少女「い、いえいえそんな! 狭いわけないですよっ! むしろ広いぐらいです!」

エルフ少女(昨日泊まった宿屋の部屋より広いし……クローゼットもベッドも大きいのが一つずつ。鏡台まであるし姿見鏡まである……)

男「そう?」

エルフ奴隷「あの、ご主人さま? ここを私達二人で使えばよろしいのですか?」

男「まさか。ベッドが一つしかないのに二人で使えなんて酷なことは言わないよ」

エルフ少女(いや、あのベッドだと二人ぐらい入れそうですが……というか、カーテン類を取り外してあるけど……アレ、天蓋付きだよね……?)

男「どちらかがこの部屋で――」

エルフ少女(もしかして、どちらかが地下牢とか?)ハッ!
エルフ少女(それでその日の気分で犯したい方をこの部屋に入れ、その日の晩にやってくるとか……!)

男「――どちらかが同じ間取りの隣の部屋を使ってもらおうかな」

ゴンッ!

男「? どうかした? 急に頭ぶつけて……」

エルフ少女「いえ……おかまいなく……」

エルフ少女(まさかそんな普通のことを言われるとは……なんか、やらしいことを想像したわたしがダメな人みたいな気分になる……)

あ~…もう時間だ~……
続きは明日で……

明日こそはもうちょい時間があれば良いなぁ…

再開~
…また今日も時間が…

男「それじゃあ部屋はそういうことだから、屋敷の案内が終わった後にでも、昨日買った服を持って上がってきてね」

エルフ奴隷「かしこまりました」

男「それじゃあ、次は浴場とか見ていこうか」

エルフ奴隷「はい」

エルフ少女(浴場……!? ……なるほど。確かに屋敷だもんね。浴場の一つぐらいあって当然だ)

男「一階にあるんだけど……あんまり広くは無いから、期待しないでね」

エルフ少女(とかなんとか言って……アンタ自身も入るから広くなくなる、とかいうオチでしょう?)
エルフ少女(湯浴みをして油断しているわたし達の背後からいきなり胸をわし掴み……! みたいなことをしてくるつもりね……!)

エルフ少女(良いわ……だったら最初から、そういうことが出来ないように細工をしててやる……!)

ガラ

男「ここが浴場だよ」

エルフ少女「…………」

エルフ少女(ほ、本当に広くない……いやまぁ、一人でなら余裕だろうケド……二人で一緒に、となると途端に辛くなる広さだ)

エルフ少女(でも普通浴場と言えば、屋敷クラスのものだとそれなりの広さがあるものなんじゃ……?)
エルフ少女(それとも、わたしが勝手に人間に対してそう思い込んでいただけ……?)

男「いやぁ~……恥ずかしい限りで。でもほら、水を汲んで入れて、火で焚く訳だからさ、これぐらいの広さでちょうど良いんだよ。意外に」

エルフ少女(まぁ確かにそうかもしれないけれど)

エルフ奴隷「ですが……これだと、ご主人さまと一緒に入ると窮屈そうです」

男「ま、入る必要も無いからね。基本的には一人で入ってよ。あ、好きな時に入って良いからね」

男「外から火を焚くことも出来るけれど、ボクを呼んでくれたら魔法で水をお湯にしてあげる」

エルフ少女(なるほど……その後にでもどこかに陣取って覗きを……!)

男「そしたら、誰かが入っているのに気付かず裸でご対面! なんてトラブルも回避出来るでしょ? ボクも覗くつもりはないし」

男「なんせここ、そこの窓さえ締め切っていれば中を覗けないようになってるし。脱衣所へと通じる扉も内側から鍵をかけられるし」

男「まぁ、水を汲んで入れないといけない手間はあるけど……脱衣所を出てすぐのところに裏口があって、そこに井戸があるから、すぐに汲めるとは思うよ。あ、もちろん裏口も内側から鍵が掛かるから」

男「そこにある岩を使って蒸し風呂も出来るし、お湯を作る時にでも一緒に熱するから」



エルフ少女「」

エルフ少女「えっと……旦那様? 少し疑問が……」

男「ん?」

エルフ少女「その……本当に、覗くつもりがないのですか……?」

男「うん」

エルフ少女(即答っ!?)

エルフ少女「えっと……でも、ほら……内側からの鍵を、開けるための方法とか……」

男「ん~……鍵開けの魔法なんてボクは知らないし……そもそもマスターキー――というか鍵の束だってどこにやったか分からないし……覗けない、って言った方が近いかな」

エルフ少女「はぁ……」

男「ま、その方が安心で、二人とも良いんじゃない……?」

エルフ少女「まぁ、確かに……良いんですけど」

エルフ少女(良いんだけど……なんだろう、この腑の落ちなさは)

男「で、次は食堂――は、さっき昼食を取った場所だから分かるし、調理場の方かな」

テクテクテク…

エルフ少女(……分からない……全くもって、分からない。……この人がわたし達を買った理由が)

エルフ少女(本当にただのお手伝いとしてわたし達を買ったの……?)

エルフ少女(でも昨日の買われる時の会話から察するに、相当なお金を積んだのに……人間の奴隷と同じことをさせる……?)

エルフ少女(……それともまさか、昨日服を買う時に言ってたみたいな、表向きの奴隷制度を鵜呑みにしてるとか……?)

エルフ少女(……いやいや、そうして油断させるのが狙いなのかもしれない)

エルフ少女(自分に都合の良い方を想定していたら痛い目を見る)

エルフ少女(それにもしかしたら、無理矢理犯すのが嫌いなだけで……それで『お前達をあの地獄から救ってやったのだぞ』みたいな恩を着せ、惚れさせ、犯そうという魂胆なのかもしれない)

エルフ少女(もしそうなら半分は成功しているともいえるのだし)

エルフ少女(隣を歩く彼女とか)

エルフ少女(まだまだ……コイツを信用するに値しない)

男「調理場へは、食堂横のこのドアから行くんだ」

ガチャ

男「一つ部屋を挟むけど、まぁここは物置みたいなものだと思って」
男「あ、街で買った服とか、さっき荷物として持ってきたものは全部ここにあるから、服もその荷物の山から探してね」

エルフ奴隷「はい。かしこまりました」

ガチャ

男「で、ここが調理場」
男「塩に漬け込んだり干したりして保存食にしたものとか、腐るかもしれない食料とかは、基本的にここに置いてあるから。もちろん、調理道具もここに揃ってあるから、料理はここで」

男「床が掃除しやすいよう水を流せるようになってるせいで、ちょっと外気が漏れてて寒いかもしれないけど、ま、料理するときはちょうど良いかな」

エルフ奴隷「あの、すいません……」

男「ん?」

エルフ奴隷「部屋の隅にあるあの大きな木箱はなんですか?」

男「ああ、アレは食料を保管するためのものだよ」

男「基本的にはこの中に食料を入れておけば、保存食に加工しなくても腐るのが遅くなるようになってるんだ」

男「方法はまぁ、この木箱の中に置いてある瓶の水に施した魔法のおかげ」
男「蓋を開ける度に魔法の効果が切れちゃうから、閉める前にその都度ボクが魔法を施し直さないといけないけれどね」

男「だから、開ける時は絶対にボクに教えて。ま、ここのカギはボクが持ってるから、木箱を壊さないとそもそも開けられないんだけど」

エルフ少女「へぇ~……人間ってそんな魔法が使えるんですね」

エルフ少女(少なくともわたし達の秘術では聞いたことが無い)

男「というか、まだボクしか使えないかな」

エルフ少女「え?」

男「毎回術式を施し直すのが面倒だし、誰しもが使える訳じゃないから、まだ国には方法を教えてないんだ」
男「ま、試作型をそのまま使い回してるようなものかな。いつか、時間があれば完成させるつもりだけど」
男「……魔法で止まってたら、たぶん二度とは完成しないかもしれないけど」

エルフ奴隷「……もしかしてご主人さま、私達を買ったお金というのは……」

男「あ~……キミは察しが良いよね」
男「ま、そういうこと。新しい魔法の術式を見つけた褒美、みたいなものだよ。この屋敷もそうだけど」

エルフ少女(金貨四百枚出してさらに余裕があって、しかも山の上とはいえ屋敷をもらえるほどって……)

男「ともかくそういう訳だから、案外この屋敷の中は、試作品で一杯だったりするわけ」
男無闇やたらに触ったら爆発する、なんてことはないけど、ちょっと困ったことになるかもしれないから注意してね」

男「この調理場にだって、他にも煤が干し場に近づかないようになる術式とか、空気を常に外へと追い出し中へと入れる術式とか、色々と、水に施して置いてあったりするし」

エルフ少女(なるほど……蓋が開いた瓶が所々に置いてあるのはそのせいか……)

男「とまぁ、屋敷の中はこんな感じだけど……何か質問でもある?」

エルフ奴隷「ご主人さまの部屋はどちらにあるのですか?」

男「ボクの部屋? 実験部屋と兼用で一つあるだけ。場所は、二階に昇る階段横の、物置スペースに見せかけたドアの向こう側」

エルフ奴隷「かしこまりました」

男「? なにを?」

エルフ奴隷「…………」

男「……んまぁ良いや。他に質問無いんなら……そうだなぁ……とりあえず、自分達の部屋でも片付けてもらおうかな?」

エルフ奴隷「自分の部屋、ですか……?」

男「さっき見せた二階の部屋。あそこだってちょっと埃っぽいし、服だって五着ほどとはいえ整理しないといけないと思うし」
男「とりあえず、今日中には自分で満足いくように、片付けておいて」

男「あ、掃除道具は、階段登ってすぐの一番目の部屋にあるはずだから」

エルフ奴隷「……かしこまりました」

エルフ少女「分かりました」

エルフ少女「……それで、旦那さまは何をなさるおつもりで?」

男「ボク? ボクはそうだなぁ……今日はもう研究って気分じゃないし……というか、本を読んでもらわないと先に進むのが面倒だし……だから買ってきた訳だし……」ブツブツ

エルフ少女「?」

男「ん~……ま、ココで今日買ってきた食料とかを片付けておくよ」

~~~~~~

ギィ

エルフ少女「あ、掃除道具ってこれのことか……」

エルフ少女(箒とか雑巾とか、鏡台の横に立てかけてある。……っていうか、本当にわたし達が使う部屋と間取りが一緒だ……)

エルフ少女「……ん?」

エルフ少女(本が一冊……に、紙が数枚挟み込まれてる……?)

エルフ少女「なんだこれ?」

ペラ

エルフ少女「あ……」

エルフ少女(掃除の仕方の本……? と、この紙は……メモ? あ、掃除のコツとかこの屋敷で触っちゃいけないものとか、本とは違うけれど効率の良い方法とか、なんか色々と書いてある……)

エルフ少女「……そういえば、前任者がどうとか言ってたっけ……」

エルフ少女(真面目に仕事してたんだなぁ……。……今ココにはいないけど、どんな人だったんだろう……?)
エルフ少女(奴隷だったんならまだいるはずだけど……もしかして、死んだとか……?)

ペラ

…パラ

エルフ少女「ん? 何か落ちた……」

『後任者さんへ
  男さんは研究に没頭すると、何も食べなくなります。引っ張ってでも食堂に引っ張り込んで下さい。
  それと、寝ずにいることも多々あります。時たま倒れることがありますので、その場合は心配せず、寝かせてあげてください。
  当然、お風呂も入りません。頃合いを見て入れてやってください。
  オススメは、自分が入る、といって熱させた後、閉じ込める方法です。面白いほど何度も引っかかります。
  あと、研究室に入れない、となるのはいけないので、カギの束を鏡台の引き出しに隠しておきます。
  悪用は、禁物ですよっ
                                              メイド』

エルフ少女「…………キレイな字」

エルフ少女(というか、優しい字……)

エルフ少女(これだけで、アイツが想われてたのがよく分かるなぁ……)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(……良い人、なのかなぁ……)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(……この人が前任者……で良いのよね? ってことは、死んではないってことよね……?)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(……いや、結論を急くことも無い、か……)
エルフ少女(もしかしたらこの人は殺されてしまって、まだアイツを慕ってた頃に――わたし達が今されてるようなことをされて好いたままの頃に……殺される前に、綴った手紙かもしれないし)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(……ともかく、当初の予定通り、どこかで武器を調達しておこう)
エルフ少女(今なら屋敷を見回ってるって名目で歩き回れるし)

エルフ少女「!」ハッ!

エルフ少女「そういえば……あの子は一体いつになったらくるの……?」

~~~~~~

エルフ奴隷「ご主人さま」

男「ん? あれ? 一緒に階段上がってなかったっけ?」

エルフ奴隷「はい。ですが、少し気になることがあったので……荷物を置いてから、戻ってきました」

男「気になること?」

エルフ奴隷「はい。あの……私、ご主人さまに、恩返しがしたいのですが……」

男「あ~……そういえばそんなことも言ってたねぇ……」

エルフ奴隷「はい。ご主人さまの望まれることでしたら、なんでもします」

男「なんでも……なんでもかぁ……ん~……そうだなぁ……でも、自分の部屋の片付けは良いの?」

エルフ奴隷「後に回します」

男「そ、っか……。……んじゃ、お願いしたいこともあるし……お願い、しようかな」

エルフ奴隷「はい。なんなりと」

今日はここまでにします
なんかこう、展開が地味に地味に遅い感じがするのは、書き溜めしたものにさらに追記していってるせいです

…収拾つかなくなったら笑おう

またまた時間無いケド再開~

…気がつけばなにやら色々と論争になっててビックリした

それでも気にせず投下していく

あえてレスをしないことで物語の先を答えない方向性で…!

ジュー…

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「…………」

男「……ん? あれ? キミまでどうしたの? 部屋の片付けは?」

エルフ少女「いえ……その子がいつまで経っても来ないのでどうしたのかな、と思いまして」

男「ああ、探しに来たの?」

エルフ少女「はい。……で、料理、ですか……?」

男「うん。恩返しがしたいって言うから、今日の晩御飯を作ってもらえる腕があるかどうかも兼ねてね」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女(心の中で語りかけても返事が無いからどういう状況か心配したけど……っていうか真剣なのに、なんか思い通りにいってない感じ……?)

エルフ少女「というより、兼ねるってどういう意味ですか?」

男「実は今ちょうど、あの火そのものを実験してもらってるんだ」
男「水の中に火の術式を施す方法において、料理をする上での火力の調整は可能かどうかについてね」

男「前々から試したかったんだけど、危ないからって試させてくれなくてね……ようやく念願叶って、って訳」

エルフ少女「はぁ……」
エルフ少女「……で、旦那様は言っていた通り、食品の片付けと」

男「そう。あの箱に直す食料と、塩漬けする食料とを分けてるところ」

エルフ少女「別に、全部箱の中に押し込めても良いんじゃないですか?」

男「え? でもほら、塩漬けした食べ物とかおいしいし……」

エルフ少女「はぁ……」

男「ま、この辺の作業はボクに任せてくれて良いよ。前の人に上手な作り方は教わっておいたから」

エルフ少女「……まぁ、分かりました」
エルフ少女「でも、作ってるところ悪いですけど、まだ夕食には早いですよね? ついさっき昼食食べたばかりですし……」

男「作ったものを木箱に入れる実験もするからね。前の人はアツアツのものを晩御飯の時間バッチリに作ってくれてたから試せなかったし」

エルフ少女「それって大丈夫なんですか?」

男「理論上はね。あの木箱は中の時を極端に遅れさせるよう術式を組み立ててるし」

エルフ少女「時を……? ということは、旦那様やわたしがあの中に入っていれば、実質不老不死みたいになるってこと……?」

男「それが狙いで作ったんだけど……でも、ネズミを中に入れて実験したときは、箱を開けると同時に死んでたよ」

エルフ少女「え?」

男「たぶん、意識があるものを中に入れると死滅してしまうんだと思う」
男「ま、表面だけの時間の流れを遅くしているヤツの改良品だし、きっと中身だけ変わろうとする奔流に色々と耐えられないんだと思う」

エルフ少女「? ? ?」

男「あ~……ごめん。ま、あまり気にしないで。魔法の術式とかの説明って、ボクはどうも苦手でさ」

エルフ少女「まぁ、ともかく、重要な点を抜き出すとすれば……夕食の方は大丈夫と、そういうことですか?」

男「大丈夫かどうかの確認を兼ねての様々な実験、だよ。ま、この匂いから察するに、おいしいものが出来るだろうけど」

エルフ少女「ふ~ん……」

エルフ少女「…………」

エルフ少女「…………っ」

エルフ少女「…………」サッ

エルフ少女「……じゃあ、わたしは部屋の掃除に戻ります」

男「あ、そう?」

エルフ少女「はい。料理してくれているあの子の部屋も、掃除しようかと思いますし」

男「なるほど。仲間想いだね」

エルフ少女「それほどでも」
エルフ少女「では、失礼します」

男「うん。掃除、頑張ってね」

エルフ少女「はい、ありがとうございます」

タッタッタッタッ…

タッタッタッタッ…

エルフ少女「…………」

タッタッタッ…タン、タン……

エルフ少女(……奪えた)

エルフ少女(奪ってきちゃった……)

エルフ少女(……調理場にあった刃物を……)

エルフ少女(丁寧に鞘までついてる、キレイなヤツを)

エルフ少女(……もしかして、バレる?)
エルフ少女(バレてる上で泳がされてる……?)

エルフ少女(いや、バレない。バレてない。そうあることを祈るしかない)
エルフ少女(違う。そうじゃない。絶対にバレていないし、バレることもないんだ)

エルフ少女(いっぱいあった鞘のついた刃物類の中から一本くすねただけだ)

エルフ少女(一本足りなくても、バレるとは思えない)

エルフ少女(バレたところで、誤魔化すことだって出来る)

エルフ少女(出来るはずだ)

エルフ少女「……大丈夫……」

エルフ少女(そう……大丈夫。言い聞かせろ)
エルフ少女(言い聞かせて安心と警戒の中間を見つけ出せ)

エルフ少女(警戒ばかりに気を取られるな)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(そう……これで……これで良い)
エルフ少女(これで……武器は手に入れた)

エルフ少女(後は、突き刺す機会を、窺うだけ……)

エルフ少女(自由になるためのキッカケを、見つけ出すだけ)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(……でも……本当に、良いのだろうか……?)

エルフ少女(今のところわたしは――いや、わたし達は、アイツに酷いことは何もされていない)

エルフ少女(むしろ、辛い目に遭う前に救い出してくれて……辛い場所に塗れた状況から助け出してくれた)
エルフ少女(あの子が言う通りの、救世主だ)

エルフ少女(今のところは)

エルフ少女(それなのに……殺して良いのだろうか……?)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(ダメだ……あの手紙と、今までの行動のせいで躊躇いが生まれてる……)

エルフ少女(わたしに秘術を施してくれた同胞がいる、あの場所から皆を救うためにも、早々に行動へと移らなければいけないのに……)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(……迷いがあっては刃が揺れる。刃が揺れれば隙が生まれる。生まれた隙は、死に繋がる……)

エルフ少女(……お父さん……どうしよう……どうしたら良いと思う……?)

エルフ少女(お母さん……寂しいよ……わたし一人じゃ、ロクに決められないよ……決意だって、出来ないよ……っ)

エルフ少女「…………違う……」

エルフ少女(そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない……一人で決められない、決意できない、じゃない)
エルフ少女(……しなくちゃいけないんだ)

エルフ少女(わたしにはもう、家族はいない)

エルフ少女(その絶望を受け入れて……あらゆる絶望を受け止める覚悟をして、前へと進むと決めたんだ……)

エルフ少女(だから……)

エルフ少女「……だから……決断する」

エルフ少女(…………)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(いけないこと、なんだろうけれど……人間を、信じてみようだなんて考えは、逃げで情けないことなんだろうけれど……)

エルフ少女(それでも……わたしは……)

エルフ少女(迷いが断てるまで待つという、逃げの決断をする……!)

エルフ少女(迷いが断てたその時、すぐさま行動へと移るという、情けない決断を、下す……!)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(アイツが、わたし達を傷つけようと――聞かされた通りのことを、されていたそのままのことを、しそうになった、その瞬間に……)

エルフ少女(救世主じゃないと確信でき、迷いが無くなったその刹那――)

エルフ少女「――その心臓を、貫く」

エルフ少女(そんな、同胞を二の次に置く、決断を……)

◇ ◇ ◇
 夕食後
◇ ◇ ◇

男「いや~……おいしかった」

エルフ奴隷「ありがとうございます」

エルフ少女「ごちそうさまでした」

エルフ奴隷「お粗末さまです」

男「もしかして、料理とか得意だった?」

エルフ奴隷「……戦争中に、よく」

男「……そっか……」

エルフ少女「…………」

男「ま、ともあれおいしかったよ。これからは調理場、好きなように使っていいから。というより、使って欲しい」

エルフ奴隷「……?」

男「これからこの屋敷の料理は、キミに一任するってこと」

エルフ奴隷「はぁ……」

男「反応薄いね……もしかしてイヤだった……?」

エルフ奴隷「あ、いえ、そういう訳では……」

男「ま、これも恩返しの一つだと思ってくれたら助かるよ」

エルフ奴隷「……かしこまりました」

男「んじゃ、お風呂でも沸かそうか。今日は水もボクが溜めるから、二人はそのままゆっくりしてて。熱くしたら呼びに来るから」

エルフ少女「あ、ありがとうございます」

男「いえいえ。それじゃあごゆっくり」

ガチャ

バタン

エルフ少女「……う~ん……ああは言ってくれてたけど、本当は手伝った方が良かったかな……?」

エルフ奴隷「……――」ブツブツ…

エルフ少女「……ん?」

エルフ奴隷「……――」ブツブツブツ…

エルフ少女「? どうしたの? なにかあった?」

エルフ奴隷「……どうして――」

エルフ少女「……え?」

エルフ奴隷「どうして、襲わないの……? 私に、魅力が無いから……? それとも――」ブツブツ

エルフ少女「……ちょっと、大丈夫……? どうかしたの?」

エルフ奴隷「このままじゃ……恩返しが出来ない……出来ないと、また戻される……いらない子は、あの暗いところに……イヤ、イヤ、イヤ……」ガクガク…

エルフ少女「ちょっ、ちょっと! 震えてるじゃ――」ガッ

エルフ奴隷「っ!」

バッ!!

エルフ少女「あっ」

エルフ奴隷「…………」ブルブル

エルフ少女「ご、ごめん……」

エルフ少女(自分の両肩を抱いて……)

エルフ少女「……もしかして、寒い……とか?」

エルフ奴隷「連れて、帰る……の……?」

エルフ少女「……えっ?」

エルフ奴隷「私を、あそこに、戻すの……? 私は、戻されるの? あの救いの無い場所に? 言ってたみたいに? 無理矢理? あの犯される場所に? 流し込まれる場所に? 悲鳴が消えない場所に? 髪を引っ張り突っ込みながら教え込んだみたいに? 恩返しが出来ない子はいらない子だからと返されてしまうの? あそこに?」ガクガク…

エルフ少女「そ、そんなこと――」

エルフ奴隷「ヤだ……ヤだ……ヤだよ……恩返し、しないと……買ってくれた恩を、返さないと……何としても、満足させないと……戻っちゃう……あの暗くて、黒くて、濁ったものを吐き出してくる、場所に…………ヤだ……ヤだ……」ブルブル

エルフ少女「…………」

エルフ少女(なに……これ……)

エルフ少女(これが……彼女に植え付けられた、恐怖……?)

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「怖い……怖い……こわい……こわい……イヤ……もう、同胞が、苦しめられる声も、同胞が、悲しむ声も、……何も、イヤ……! 頭の中に響いて離れない声を、また、耳で聞くのは……イヤ……! ヤだ…ヤだよぉ……」

エルフ少女「…………」

エルフ少女(……人間、めっ……!)ギリッ

エルフ少女(どうして……! どうしてわたしは、躊躇ったんだ……! アイツだって、この子にしたようなことをするかもしれないじゃないかっ……!)

エルフ少女(迷いを絶てるまで待つ……? 違う……それじゃあ遅い……!)

エルフ少女(犯されてからでは遅すぎる……!!)

エルフ少女(これ以上、彼女の精神が追い詰められてからじゃあ……っ!)

エルフ少女(なんて……なんて生温いことを考えてたんだ……! わたしはっ!)

ドンッ!!

エルフ奴隷「っ!」ビクッ

エルフ少女「……ごめん。イラついて、壁殴っちゃった」

エルフ奴隷「あ……」

エルフ少女「あなたにじゃないよ。自分の、甘ちゃん具合に、苛立っただけ」

エルフ少女「ともかく、さ……わたし、食器とか洗ってくるから、もう少しここで休憩でもしてて」
エルフ少女「お風呂できたら、先に入って良いから」

エルフ奴隷「あ……いえ、私が」

エルフ少女「良いよ。ゆっくりしてて」

エルフ奴隷「いいえ、させて下さい。コレも恩返しらしいので……せめて少しでも、返しておきたいですし……」

エルフ少女「…………」
エルフ少女「……そっか……分かった。じゃあ、任せる」

エルフ奴隷「はい」

エルフ少女「調理場は、あなたの場所だものね」

今日はここまでにします
ありがとうございました

すまない1です
今日はちょっと無理

…ではない

でも3時頃にさせて欲しいです
待ってくれていて読めない人がたくさん出てくるかと思いますが、本当にすいません

早く片付けてくるぜ…

宣言より20分も遅れて再開~
別に体調的には大丈夫なので、ありがとうございます

予想とかされてるのを見かけたけど、もし当たってても先の展開とか変えないよ?
だから当たっててもそのまま進めたりするから
王道好きな1とは普通によく被ると思う

◇ ◇ ◇
  深夜
◇ ◇ ◇

――エルフ少女自室――

エルフ少女(アイツを殺す……そのためにはどうすれば良い?)

エルフ少女(こちらは刃物一本。お世辞にもわたしの得意な間合いを取れる武器にはなり得ない)

エルフ少女(狙うのなら、不意を衝いた一撃必殺)

エルフ少女(その機会を狙えるのは……いつ……?)

エルフ少女(……入浴時? ……いや、これまで見てきた彼の魔法から考えると、水を使う魔法を得意としているように思う)
エルフ少女(魔法については詳しくないけど……あんな生活を便利にするものだけが彼の魔法とは、考えられない)

エルフ少女(なら……研究中? 前任者の人の置き手紙によると、研究を始めると自分も周りも見えなくなるらしいし……何より、その扉を開ける鍵を、わたしは手に入れている)

エルフ少女(……でも……場所が魔法使いの研究室っていうのは……さすがに危なすぎるか……)

エルフ少女(習得の難しい秘術の中には、死に瀕している者でも呼吸さえしているのならば完全復活させることが出来る、といったものがある)
エルフ少女(万一アイツが魔法でソレを身に着けていて……あまつさえ、見せてもらっていた魔法のように、水に施しておいて飲むだけとか触れるだけとかで、その効力が発揮されてしまったら……?)

エルフ少女(……返り討ちになること請け合いだ)

エルフ少女「……くそっ」

エルフ少女(ダメだ……やっぱり、いくら考えても殺せる機会が見つからない……)

エルフ少女(不意を衝く以外でも色々と、入浴中にも考えてみたけど……ダメだ。どれも上手くいくようには思えない)

エルフ少女「……やっぱり……もうしばらく後にするしかないか……」

エルフ少女(親しくなったフリをして、アイツの研究室にある魔法を把握する)

エルフ少女(そして、絶好の殺せる機会を見つけ出す)

エルフ少女(今はまだ、魔法がどれだけ貯蔵されているのか分からないから、手出しが出来ないだけ)

エルフ少女(魔法がどういうもので、アイツが使う魔法がどういったものか、理解することにも努めれば……機会は、必ず訪れる)

エルフ少女(見つけ出すことが、出来る)

エルフ少女「……よしっ」グッ

エルフ少女(それまではごめん……同胞の皆、もう少しだけ、待ってて欲しい……)

ガチャ

エルフ少女(……ん?)

タッタッタッ…

エルフ少女(隣の部屋……? あの子が出て行った音――ってもしかして……!)

バッ!

コンコン

男「ん?」

エルフ奴隷「夜分遅くにすいません」

男「ああ……ん? どうかした?」

エルフ奴隷「その……少し、お話よろしいでしょうか?」

男「別に良いけど……なに? 部屋に不備でもあった?」

エルフ奴隷「そういう訳ではないのですが……あの、中に入れてはもらえませんか……?」

男「あ、そっかそっか。ごめん。気が利かなくて」

ガチャ

男「廊下って普通に寒いのに気付かなくて、本当ごめん」

エルフ奴隷「いえ、そんな。……もしかして、もうお休みになられてましたか?」

男「まさか。明日に備えて少し早く寝ようとは思ってたけど、中々寝付けなくてね……今進めたい実験の本とは別の本を読んでたところだから、大丈夫だよ」
男「もし実験の方の本を読んでたら、ノックにすら気付かなかったかもしれないけど」

~~~~~~

――ではすいません、失礼します――

――ああ、どうぞ。汚くてごめんね――

――いえ、そんな――

バタン

エルフ少女「…………」

コソコソ

エルフ少女(やっぱり……アイツの部屋に入って行ったか……)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(……どうする……? このまま突入するべきか……? 部屋の鍵だって掛けていないようだし、今すぐ部屋へと突入することは可能だけど……)

エルフ少女(ただその場合、負ける覚悟はしておくべき、か……)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(……でも、突入する覚悟はしておくべきかもしれない)

エルフ少女(あの子が中に入った……それもおそらくは、“恩返し”と称して、自ら犯されるために)

エルフ少女(そうすることでしか、恩返しの術がないと、人間に刷り込まれてしまったせいで)

エルフ少女(確かに、それであの子の精神は落ち着くかもしれない)

エルフ少女(でもそれは、意図的に少しだけ精神を崩すことで均衡を保とうとする、諸刃の剣みたいなものだ)

エルフ少女(今彼女に必要なのは、恩返しのために犯されること、じゃない)

エルフ少女(犯される方法以外でも恩を返せることを知ること、だ)

エルフ少女(でなければ……文字通り、精神が崩壊してしまう)

エルフ少女(これ以上の、脅迫概念に囚われての性行為は……してはいけない)

エルフ少女(危うさを失い、精神を消し去り、ただただ“する”ためだけの――恩返しを行うためだけの、人形に成り果ててしまう)

エルフ少女(それだけは……避けなければならない)

エルフ少女(同胞として)

エルフ少女(例え今の本人が、成り果てることを望んでいようとも)

エルフ少女(手を引き、足を止めさせなければならない)

エルフ少女(だから……――)

エルフ少女(――……だから、そういうことになりそうになった、その瞬間……)



エルフ少女(……殺される覚悟で、アイツを殺しにかかる……!)

~~~~~~

男「……で、どうしたの? こんな夜遅くに」

エルフ奴隷「その……ご主人さま……恩返しを、させて下さい」

男「……また、か……」ボソ

エルフ奴隷「え……?」

男「ん~……どうもね、ずっと気になってたんだ。キミはどうしてそこまで、恩を返すことにこだわるの?」

エルフ奴隷「それは……だって……そうしなければ、あの地下に返されると……そう、言われてたから……」

男「少なくとも、今のキミの働きで地下へと返す理由なんてないよ」

エルフ奴隷「ウソです」

男「嘘なもんか」

エルフ奴隷「ウソです。だって……言われました」

エルフ奴隷「身体で恩を返す価値しか、お前には無いんだと」

エルフ奴隷「何度も何度も、痛い思いをさせられながら、言われ続けました」

エルフ奴隷「痛みがある場所へと戻りたくなかったら、買ってくれた人へと恩を返し続けろと……身体で、返し続けろと、そう……言われてきました」

男「…………」

男「……身体で、か……」

エルフ奴隷「…………」

男「ん~……キミは勘違いをしていないかな?」

エルフ奴隷「え……?」

男「身体で返す、というのは、何もやらしいことだけじゃない。働いて返すこともまた、身体で返す、って言うじゃないか」
男「つまりは、ボクの望む“身体で返す”というのは、そういうものなんだよ」

エルフ奴隷「そんな……そんなはず、ありません……だって……だって、人間の男が……私達エルフを買う理由は……人間に出来ないことを……してもらうためだって……」

男「……そうだね。確かに、人間に出来ないことをしてもらうために、ボクはキミ達を買ったと言える」

エルフ奴隷「で、では……! 私を……人間の奴隷には出来ないことが出来る私を……っ!」

男「何がキミをそこまで駆り立てるのか分からないけど……ボクは、奴隷にも人権がある、という条文を破るつもりはないよ」

エルフ奴隷「だから、私が望めば、その負担がなくなるからと……! それが、恩返しに――」

男「ダメだ!!」

エルフ奴隷「っ!」ビクッ!

男「……ごめん。でも、それ以上は、ちょっと言わないで欲しい」
男「何を言うのか分かっちゃってるけど……それだと、言っても言わなくて、変わらないのかもしれないけれど……それでも、今はまだ、ちょっと……ね……」

エルフ奴隷「あ……」

エルフ奴隷「…………」

エルフ奴隷「……はい。かしこまりました」

男「でも、ボクがキミ達を買った理由は、本当に人間には出来ないことをしてもらうつもりだからだよ」

エルフ奴隷「……では、ご主人さまが私達を買った理由というのは、なんなのですか?」

エルフ奴隷「私達を憐れんだからですか?」

エルフ奴隷「それとも、私達を救いたかったからですか?」

エルフ奴隷「自尊心を満たしたかったからですか?」

エルフ奴隷「悲劇のヒロインを助ける、ヒーローの気分を味わいたかったからですか?」

男「いやいやそんな、難しいことじゃないよ」

エルフ奴隷「では……?」

男「まぁ、本当に簡単なことなんだけど……」
男「ちょっと……辞書を引くのが面倒になってね」

エルフ奴隷「……は?」

男「エルフの書物を読む上で、スラスラと読めないとちょっと不便だからさ」

エルフ奴隷「……………………え?」

男「つまりは――」



男「――エルフの書物が読めなくて不便だ……奴隷でも買うか――」


男「――ってなったから、二人を買ったわけ」

~~~~~~

エルフ少女「…………………………………………」ボーゼン

~~~~~~

エルフ奴隷「…………………………………………」ボーゼン

男「ああ、くだらなすぎて呆然としちゃったかな」

男「まぁでも、本当にそういう理由なんだ」

男「次に進めたい実験ってのいうのが、実はエルフが使う秘術でね」

男「基礎的な部分はまぁ、辞書片手になんとか解読出来たんだ」

男「周りにいる、目に見えない精霊に語りかけ、その力を行使する……」

男「そういう基礎的な部分とか、語りかける上での注意事項とか、そういうのは分かるんだよ」

男「ただ人間のように魔力を用いなかったりするそういう詳しい部分を解読するとなると、本当に何度も何度も辞書を引くことになって面倒でね……」
男「ま、その辺の部分を読んでもらうか教えてもらうかしてもらおうと思って、キミ達エルフを買ったの」

エルフ奴隷「で……では……その……それだけのために、あの大金と思われる金貨を……?」

男「いや、もちろんそれだけのためじゃないよ」
男「掃除も食事も、身の回りの世話もついでにやってもらおうかと思ってね」

エルフ奴隷「…………」

男「あとはまぁ、今までメイドがいてくれて話し相手がいたんだけど、いなくなってから独り言も増えてたし……その解消も兼ねてたかな」

エルフ奴隷「じゃあ……じゃあ、本当に、あなたは……」

男「うん。今日みたいなことをしてくれて、尚且つ、キミ達が使う文字の本を読んでくれるだけで……十分、恩返しになると思ってるよ」

男「知識を分けてもらうんだ」
男「それもまた、身体で返す、って言うんじゃないかな……?」

エルフ奴隷「…………」

エルフ奴隷「…………」

男「…………」

エルフ奴隷「……………………」グス

男「え?」

エルフ奴隷「あ……えっ、あ、う……」グスグス…エグ

おおと子「え、えと、あの……その……んと……ごめん。……ちょっと、目の前で突然泣かれると、困るっていうか……」

エルフ奴隷「えっ、あ、ご、ごめん……いえ、す、すいま、せん……!」エグ…グス

男「い、いやまぁ、謝ることはないんだけど……その、何か、悲しませちゃった……かな……?」

エルフ奴隷「そうじゃ……そうじゃ、ないん、です……!」ポロポロ
エルフ奴隷「ただ……ただ、うれし、くて……!」グシグシ

男「嬉しい……?」

エルフ奴隷「はい……」グスッ

エルフ奴隷「いままで、ずっと、あそこよりも、ましだけど、ひどいこと、されると、思ってたから……」
エルフ奴隷「そう……言われてたから……」

エルフ奴隷「でも……優しくて……温かくて……だから、安心して、つい、涙が……」

男「……………………」
男「……そっか……今まで気を張り続けてたのが、緩んだんだね」
男「頑張って、きたんだね」ギュッ

エルフ奴隷「あ……」

男「あまり、おじさんに抱きしめられるのはイヤかもしれないけど……でもさ、こういう時ぐらい、もっとあったかい方が良いよね」

エルフ奴隷「あ、ああ……」ポロ…

男「ずっと……我慢してきたんだね」
男「……でも、もう良いよ」

エルフ奴隷「う、ううう……」ポロポロ…

男「この家は、あの場所よりも、優しい場所にするから……」

男「だからさ……」

男「明日から、そうできるように、一緒に頑張れるように……ね」

エルフ奴隷「う、ああああ……」ギュッ

男「……好きなようにしたら良いよ」

男「声を押し殺して泣いても……声を上げて泣いても……好きなように」

男「だってここは……」

男「もうここは……キミ達の家でも、あるんだから」

~~~~~~~

エルフ少女「…………」

スッ

エルフ少女(これ以上、聞くのは失礼、か……)

エルフ少女(泣き声は、好きじゃないし……)

エルフ少女(それに……今は、アイツを殺すことも出来ないし)

エルフ少女(そんなことしたら、それこそあの子の精神が参っちゃうだろうし)

――エルフ少女自室――

パタン

エルフ少女(でも……どうしよう)

エルフ少女(今度の今度こそ、本当に殺していいのかどうか分からなくなった……)

エルフ少女(あの状況であの子を襲わなかった時点で……本当に、犯すつもりはないのだろう)

エルフ少女(……本当、どうしよう……)

エルフ少女「……手っ取り早く、アイツがエルフを助けてくれる側についてくれればなぁ……」

エルフ少女(……ま、向こうが人間である以上、それは無理か……)

ボフッ

エルフ少女「…………」

エルフ少女(……正直、殺したくは無い……)

エルフ少女(あんな風に言ってくれた訳だし……)

エルフ少女「…………」

スッ

エルフ少女(ナイフ……どうしよう……)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(……まぁ、良いや)

ソッ

エルフ少女(とりあえず……掃除の本とメモでも読んで、明日に備えとこう)

◇ ◇ ◇
  翌朝
◇ ◇ ◇

――屋敷前・庭――

エルフ少女「ふっ! はっ! ……はぁっ!」バッ! バッ! ドンッ!

男「ん? お、朝っぱらから元気だね」

エルフ少女「あ……これはどうも旦那様、おはようございます」

男「うん、おはよう。随分様になってるように見えるけど……もしかして、戦える人なの?」

エルフ少女「戦える人、って……」

男「あれ? 何か変だった?」

エルフ少女「いえ……まぁ、そうですね。お父さんに教わりましたから」
エルフ少女「と言っても教わったのは剣術で、この体術は剣を扱いながらしてようやく効果があるようなものですが」

男「へぇ~……剣術かぁ~……格好良いんだろうなぁ~……」

エルフ少女「お父さんのは、娘のわたしから見ても格好良かったです」

男「だろうねぇ。エルフの剣術とか弓術って、遠くから見てるだけで惚れ惚れするし」

エルフ少女「見たことがあるんですか?」

男「……まぁ、ね……遠くからだけど」

エルフ少女「……?」

男「それよりも、こんなに早くどうしたんだい?」

エルフ少女「いえ、早朝にしておかなければならない水汲みを終えたら時間があまりまして」
エルフ少女「それで、昔から日課にしているものをしていただけなんです」

男「なるほど。ということは、次からは少し遅く起きれる訳だ」

エルフ少女「いえ。おそらくは同じ時間に起きると思います。あれぐらいの日の出に起きるように、リズムが出来てしまっていますから」

男「へぇ~……地下にいたのにその辺は狂わないんだ?」

エルフ少女「わたしは、一日もおらず地下から出してもらえましたから」

男「ん~……ということは、もう一人は、まだ起きれないかな……?」

エルフ少女「もう起きてますよ。昨日宿屋に泊まった時も、わたしと一緒に起きてましたし」
エルフ少女「太陽を久しぶりに感じれて良かったと言ってました」

男「そ、っか……」

エルフ少女「……そうだ。旦那様」

男「ん?」

エルフ少女「こちら、お返しします」

ヒュッ

パス

男「…………」

エルフ少女「調理場から拝借していました」

エルフ少女「正直、あなたを殺そうと思って奪ったものですが……昨日、あなたと彼女の会話を聞いたら、殺したくないと思いまして。だから――」

エルフ少女(殺さずに、皆を解放するための足掛かりを得られる方法は、全く思いついてないけれど……それでも)

エルフ少女「――お返しします」

エルフ少女(きっともう、そのためだけに“彼”を殺そうと思うことは、ないだろうから)

男「……昨日の話、聞いてたんだ」

エルフ少女「すいません……盗み聞きしてしまいました」

男「いや、別に良いけどさ。でも、だからってわざわざ直接返さなくても……コッソリと戻しておいた方が良かったんじゃない? もしかしたらコレがキッカケで地下に戻されるかもしれなかったんだよ?」

スッ

エルフ少女「昨日の話しを聞いたと言ったじゃないですか。その程度で戻されるとは思えないと、そう思ったから言いました」

エルフ少女「まぁ、それに……今のところ殺すつもりはなくなりましたが、わたしはまだ、あなたを疑ってはいるままだということを、宣言しておきたくて」

男「…………そっか。……ま、その方が良いか」

男「というわけで、これは君に返すよ」

ヒュッ

パス

エルフ少女「え?」

男「持ってて」

エルフ少女「え……? ですが……」

男「ボクを完全に信じていない人なら、イザって時ボクも殺せるだろうし」

エルフ少女「イザって時……?」

男「そう。ボクが成したいことを成した後……かな」

エルフ少女「成したいこと……秘術に関することですか?」

男「そう。キミ達に協力してもらって完成させたい、秘術を用いた“あるもの”」
男「……そうだね……ソレを完成させた暁にでも――」



男「――宣言どおり、ボクを殺してくれて良いよ」



男「それで色々と、上手く立ち回ってくれるのなら、さ」

今日はここまでにします

一応、第一部に分類されるところまで終わりました
というか終わらせました

…よくよく考えたら>>369、男は「宣言どおり」とか言わなくて良かったな
書き溜めじゃないと後々になってこういうミスが見つかるな…


というわけでストック切れたから明日の――いやもう今日だけど――投下は休みます
また明後日に

ホントもう、色々と遅れてすいませんでした

自分なんかのSSで雑談してくれると割と嬉しかったり
ただ荒れを気にする人の気持ちも読み手としては分かる訳で…

何事もほどほどですな……

ちなみに疑問に答えてないのは「後々明かすかなぁ…」と思ってたりするからです
決して無視とかではないです


というわけで再開~
次から一応第二部のつもり

男「秘術を使うために精霊に語りかけるのは分かる」
男「精霊というのが世界とエルフの橋渡しのような目に見えない物質だというのも、分かる」

男「……じゃあ、この“語りかけ”というのはどうすれば出来るのか、が分からないんだ」

エルフ奴隷「どうすればも何も、普通に」

男「普通に……エルフにとっては普通に出来ることってこと?」

エルフ奴隷「そうですね。小さな頃に親からこう、感覚的なものを教えてもらい、それからは自由に行使できるようになりますし」

男「感覚的なものを教えてもらう……?」

エルフ奴隷「なんと言いますか……説明しづらいんです」
エルフ奴隷「と言うより、とても昔に教えてもらって当たり前のように使い続けてましたから、改めて説明するにはどうしたらいいのか分からないというか……」

エルフ奴隷「ただそうですね……何かこう、呼吸をするだけで、空気とは違うものが身体の中へと入ってくる感覚があるのを、ある日自覚するのです」
エルフ奴隷「それを親に告げたその日に、秘術を用いるために必要なその感覚術を教わり、入ってきている空気とは違うものを遮断するようにして、私達は生活しているのです」

男「ん~……秘術を使う時ってさ、その遮断しているものを受け入れるの?」

エルフ奴隷「そうですね。心か頭の中にある扉を開け、その遮断していたものを入れ替えながら、精霊へと伝わる言葉を発する感じでしょうか」

男「ふ~ん……ちなみにだけど、それって使うときに代償とかあったりする?」

エルフ奴隷「特には無い……と思います。今まで使ってきてそういうのは実感しませんし」
エルフ奴隷「というより、昨日書いてた私達の書物にも、代償は特に無い、と書いてましたよね?」

男「そうだけど、やっぱ本当に使える人の話を聞きたいっていうか、そんな感じ。せっかくだしね」

エルフ奴隷「それなら昨日一昨日とどうして私にあの本を読ませたのですか……」

男「ボクが持ってる唯一のエルフの秘術書物だからね。やっぱり読んでもらって分かることも増えたし」

エルフ奴隷「例えば?」

男「エルフの文字がそろそろ理解できてきたかな。やっぱり、本を目で追いながら読んでもらうと、言葉の意味とかすぐに分かって便利だよ。同時通訳みたいなものだし」

エルフ奴隷(私は隣にあなたの顔があってすごく緊張してたんですけど……)

エルフ奴隷(……向こうは研究のことで頭一杯で、そんな気は無かったのですか)ハァ

男「え? なに? なんのため息?」

エルフ奴隷「別に。何もありませんよ」

エルフ奴隷「ちなみに人間が使う魔法だと、代償は体力ですよね?」

男「そう。体力を魔力に変換し、ソレを用いて直接世界へと望む現象を訴えかけるのが魔法だからね」
男「どうしても魔力変換前の体力は必要不可欠になってきちゃうんだ」

男「憶測だけど、おそらく秘術に代償が無いのは、世界へと望む現象を訴えかける方法が、理に適ってるからなんだと思う」
男「きっと魔法は、無理矢理すぎるんだ」

男「……まぁ、一人間が世界に話しかける訳だし、当然といえば当然なんだろうけどさ」

エルフ奴隷「……もしかしてご主人さまは、体力の消耗なしで魔法と同じようなことが出来るのが便利だから、秘術を使おうと……?」

男「ううん。秘術はやりたいことの足掛かりにすぎないよ」

男「魔法ではなく秘術でないと出来ないことだから、まずは秘術を身に着けようと躍起になってるだけ」
男「……まぁ、月の満ち欠け一つ繰り返してさらにしばらく経った今でも、なんのキッカケも得てないんだけどね」

エルフ奴隷「……もしかして、戦争が終わってからずっと、ということですか?」

男「うん。というか、三十日間かけてこのエルフの書物の解読をしてたんだ」
男「エルフ文字の辞書を見つけてきたり、読み進めようと足掻いたりね」

男「まぁ、キミのおかげでこの本の内容が二日で終わっちゃった訳だけど……これなら自力じゃなくて、早くエルフを買ってれば良かったよ」

男「もし意地を張ってあのまま自力で進めようとしてたら、まだ読み終えれて無かっただろうし、言葉も文字の傾向も理解できてなかったかもね」

エルフ奴隷「……ですが、このタイミングだったからこそ、私達は、あなたに買ってもらえました」

男「……ま、そうだね。そういう意味では、買うタイミングが遅れて良かったよ」

~~~~~~

エルフ少女(彼からナイフを預けられたその日から、わたし達のこの屋敷での生活が始まった)

エルフ少女(わたしは埃っぽくなっていた屋敷すべての掃除)
エルフ少女(彼女は、彼が望んでいた通り、エルフの書物関連の手伝い)

エルフ少女(エルフならばわたしも含め、ほとんどが人間の文字も分かるけれど……それでも、彼女の方が適任だとわたしは思った)

エルフ少女(……まさか、片付けられない女を見るハメになるとは思わなかった……)

エルフ少女(簡単にだけれど片付けていたはずの彼女の部屋を、彼女自身がその日の朝にちょっと掃除しようと思った……らしい)
エルフ少女(そのはずなのに……まさか散らかった掃除道具を見るとは……)

エルフ少女(料理はあんなに出来るのに……どうしてあそこまで効率の悪い掃除しか出来ないのか……)

エルフ少女(本人曰く、他に汚れてる場所を見つけたら、そこに気がいって前までやってたことを忘れる……らしい)

エルフ少女(……まぁ、料理が出来ないに等しいわたしがそのことを責める権利はないんだけど……)

エルフ少女(ともかく、結果的にはバランスが良かった。役割分担がキッチリとしてるし)

エルフ少女(そんな訳で、わたしの目が届かない場所で掃除させられない彼女は、現状掃除が出来ないみたいなものなので、今のうちにエルフ一人を動かせなくしてしまう書物の解読は任せきりにしても大丈夫と言うわけだ)

エルフ少女(で、その解読は昨日で終え、今日は朝食後に何故か彼女が呼び出された……といった感じ)

エルフ少女(……正直、屋敷全体の換気を含めた掃除も、昨日のうちに終えている)

エルフ少女(広いといってもさすがに二日もかけさせてもらえれば、細かいところも含めて屋敷全てを掃除するぐらい容易だ)

エルフ少女(だから本当は、彼女の昼食の準備を手伝いながら、料理でも教えてもらおうと思ってたんだけど……)

エルフ少女「……中々帰ってこないなぁ……」

エルフ少女(調理場の掃除も終わっちゃってるし……やることがない。あ、でも洗濯しないと……あぁ、でもそれは昼食後でも良いか)

エルフ少女(お風呂掃除……も、昼からかな……出来れば彼女に教えておきたいという気持ちもあるし)
エルフ少女(あの狭さなら、汚れに目移りしてしまうこともないだろうし)

エルフ少女「さて……暇だ」

エルフ少女(前任者の人が一人で彼の世話を出来ていた理由が良く分かる)

エルフ少女(部屋が多くても使わないのだから、掃除なんてたまにで済む)

エルフ少女(そうなってくると、本当にこういう時間はやることがない)

エルフ少女(……いや、昼食の準備があるんだけど……それが出来ないし……)

エルフ少女「……早く料理を学ばないとなぁ……」

エルフ少女(というか……もっと本格的にお母さんの料理の手伝いをしてるんだった……)

ドンドン

エルフ少女「ん?」

エルフ少女(玄関のドアノックの音……?)

ドンドンドン

エルフ少女(こんな山奥の屋敷に客? ……怪しい)

スッ…

エルフ少女「申し訳ありません、ただいま!」

エルフ少女(ナイフを後ろ手に構えて……扉は隙間だけを開けて相手を確認するようにするのを意識して……よしっ)

カチャ

ガチャン

エルフ少女「お待たせいたしました」

少年執事「失礼しまっす! 自分! 元メイド様の御使いでここまでやってきました! 少年執事と申す者です! うっす!」

エルフ少女「はぁ……で、ご用件の方は……?」

少年執事「すいませんっす! 男様にこちらのお手紙を渡して来いと命令されたもので!!」

スッ!

エルフ少女「手紙……便箋?」

少年執事「はいっす! どうも郵便商だと届けられないと断られるような辺境な場所みたいなので届けて来いと頼まれたっす!」

エルフ少女「なるほど……これを旦那様に渡せば良いのですね?」

少年執事「頼むっす! あと、出来れば受け取ったという署名も頂きたいっす!! でないとオレが色々とサボったんじゃないかと疑われるっす!」

エルフ少女「……かしこまりました。それでは客間――なんて無かったか――んまぁ、中に入って待っててください」

少年執事「いえ大丈夫っす! 気を遣ってもらわなくても、ここで待たせてもらいます!!」

エルフ少女「……そうですか?」

少年執事「任せてください!」

エルフ少女(何を?)

少年執事「これでも自分、体力には自信ありますので!!」

エルフ少女「はぁ……」

少年執事「昨夜頼まれて今朝早く起きてここまで辿り着けるぐらい元気っすから!!」

エルフ少女「えっ!? あの距離を!?」

少年執事「そうっす!」

エルフ少女「じゃ、じゃあやっぱり中に……何か飲み物ぐらい出しますよ。疲れたでしょう?」

少年執事「いえ!」

エルフ少女「そんなはずは……遠慮しているのなら気にしなくて――」

少年執事「山を登ったのはそこにいる馬っすから!!」

エルフ少女「――って紛らわしいわっ!!」

少年執事「…………」

エルフ少女「……ごほん。すいません。少々取り乱しました」
エルフ少女「それではまぁ、少々お待ちください」

少年執事「うっす!!」
少年執事「あ! あそこにある井戸の水を貰ってもいいっすか!? 馬に飲ませてやりたいんでっ!」

エルフ少女「……ええ、まぁ、構いませんよ」

少年執事「どうもっす! ありがとうっす!!」

エルフ少女「……では」

パタン…

エルフ少女(……うるさかった……)
エルフ少女(っと、早く手紙を渡して来ないと……)



――ははははは……! ほぉら! 飲め飲め!!――

バチャァン

ヒイイィィィン!!

――おっとすまねぇ! こけてぶっかけちまった!! はははははは……っ!!――

――よぉし今度こそ……! っとまたこけ危ない! 蹴ろうとしないで欲しいっす!!――



エルフ少女(……馬か馬鹿かのどちらかが本当に危ない……!)

~~~~~~

コンコン

エルフ少女「失礼します」

男「ん? どうかした? なんか、外がすごく騒がしかったけど……」

エルフ少女「いえ……その、旦那様にお手紙が……」

男「手紙……? こんな場所に……?」

エルフ少女「はい。元メイド様という方らしいのですけれど……」

男「あ……あぁ~……なるほど。もしかしてもうそろそろだったかな……」

エルフ奴隷「?」

男「次の満月って、三日後だったっけ?」

エルフ奴隷「はい。そのように記憶しております」

男「そっかそっか。ってことは、招待状か」

ピッ

カサッ

男「……ん。やっぱりそうだ」

エルフ奴隷「招待状……?」

エルフ少女「なんのですか?」

男「ま、後で説明するよ。ともかく、表にこの手紙を届けた人を待たせてるんじゃない?」

エルフ少女「はい」

サラサラサラ…

男「んじゃ、コレを返しといて」
男「受け取ったって署名と、参加するって書いたやつ」

男「封筒は……この便箋が入ってたやつで良いや」

エルフ少女「良いんですか……? そんないい加減で……」

男「ボクがこうすることも分かってて、きっと白紙の便箋にしたんだろうし、構わないよ」

エルフ少女「はぁ……まぁ、かしこまりました」

~~~~~~

ガチャ

エルフ少女「お待たせしま――」

少年執事「…………」

エルフ少女(って倒れてるーーーーーーーーーーーっ!!)

エルフ少女「大丈夫ですか!?」

少年執事「おっ、書いてもらえたっすか!?」バッ!

エルフ少女(あれ? 意外と元気)

エルフ少女「はい……その、こちらです」

少年執事「どうもっす!」

エルフ少女「あの……大丈夫ですか? 倒れてらっしゃったようですが……」

少年執事「心配無用っす! ちょっと疲れたから寝転んでただけっす!!」

エルフ少女(いやいや……雑草生え放題の場所で寝転ばれても……)
エルフ少女(っていうかもう服に……! お腹に……蹄の跡が……!!)

少年執事「それじゃあ! これで失礼するっす!」

エルフ少女「あ! あの、その……本当に大丈夫ですか?」

少年執事「本当に大丈夫っす! どうせ馬で帰るんで!! 疲れなんて関係ないっすっ!!」
少年執事「よっと」タッ
少年執事「うわっ! お前なんでそんな濡れてんのっ!?」

エルフ少女(あなたのせいだろ……)

少年執事「うぅ~……ズボンがびちょびちょになったっす……でも走ってたらきっと乾くっす!」

エルフ少女(そんなことはない)

少年執事「それじゃ! またいずれっす!」

エルフ少女「……はい。また」
エルフ少女「道中、お気をつけて……」

少年執事「お心遣い、感謝するっす!」

エルフ少女(……まぁ、なんか簡単には死ななさそうだけど……この人)

すいません
今日はここまでにします

明日も投下無理だからもうちょい書きたかったんだけどな…

では、また明後日に

待ってる人もそうでない人も、再開します

~~~~~~

パタン

エルフ少女「……………………」
エルフ少女「…………はぁ~……」

エルフ少女(元気な人だった……)
エルフ少女(元気すぎて、コッチの体力まで吸収されてるんじゃないかと思わせるほど、元気な人だった……)

エルフ少女(……会話しただけのはずなのに、妙に疲れた……)
エルフ少女(次はもう会いたくないな……)

エルフ奴隷「少女さん」

エルフ少女「ん?」

エルフ奴隷「ご主人さまが呼んでます。さっきの手紙の話をするから食堂にとのことです」

エルフ少女「…………んん??」

エルフ奴隷「どうかしましたか……?」

エルフ少女「いえ……その……さっき、わたしの名前……」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」カァ///

エルフ奴隷「せっかく……自然と言えたのに……指摘されたら、結局照れちゃいますよ……」///モジモジ

エルフ少女「あ……えと、その……イヤじゃないんだよ。もちろん。ただその……嬉しくて……さ」

エルフ少女(なにこの可愛い生物……これで同じ同胞って本当? 同じエルフなのってウソなんじゃないの……?)
エルフ少女(わたしじゃこんなに可愛くならないって)

エルフ奴隷「も、もぅ! ともかく私、先に行ってますからっ!」///

タッタッタッタ…

エルフ少女「…………」

エルフ少女(……ん~……前までの虚ろな瞳が無くなってから、明るくなってきたなぁ……)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(……やっぱり、彼を殺さないままで正解だった、ってことか……)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(……考えてもしょうがない。私も早く行こう)

~~~~~~

エルフ奴隷「結婚式、ですか?」

男「そう」

エルフ少女「旦那様の?」

男「まさか。二人の前任者のだよ」

エルフ奴隷「ということは、女性側からの招待ということですか?」

男「そういうこと」
男「というわけで、明日のお昼ごろには出発するから」

エルフ奴隷「……急ですね」

男「まぁ、式自体が三日後だしね。一日だけ街を見て回るのも良いかなぁ、と思って」
男「特別買い足すものも無いけど、まぁ、ついでだから食料を見ても良いし」

エルフ少女「……意外ですね」

男「え? 何が?」

エルフ少女「ギリギリまで研究を続けているのかと思いましたから」

男「んまぁ、正直今は手詰まってるってのが本音」
男「ちょっとリラックスしたら名案も浮かぶかもしないしなぁ、っていう願望もある」

男「まぁともかくそういう訳だから、準備してて」

エルフ奴隷「かしこまりました」
エルフ少女「分かりました」

~~~~~~

エルフ少女「ねえ、一つ聞きたいんだけど」

エルフ奴隷「どうしました?」

エルフ少女「出かける前に、割りと重要なこと思い出したんだけど……」

エルフ奴隷「はぁ……」

エルフ少女「……ちなみに旦那様って今、研究室に戻って本を読み直してるよね……?」

エルフ奴隷「ええ。先ほど、結婚式の話を終えたあと、そう言って戻られましたが……」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「? 本当にどうしたのですか?」

エルフ少女「いや……その、さ……出かける前、よね?」

エルフ奴隷「はい」

エルフ少女「しかも、他人の結婚式っていう、大事なタイミングよね……? 数泊するのよね……?」

エルフ奴隷「そう、言っておられましたね……」

エルフ少女「……あの人……ここ最近、お風呂入ってないよね?」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「……………………あ」

エルフ奴隷「そういえば全く見てないですね……」

エルフ少女「わたし達の為に魔法を使って温めてくれたりしてるのは見たけど、あの人が入るというのは……」

エルフ奴隷「……見てないですね」

エルフ少女「というより、ここ最近は食事以外、ずっと研究室の中のような……」

エルフ少女「食事だって、奴隷ちゃんに本を読んでもらってるから、奴隷ちゃんが食事するからついでに一緒に、って感じだったし……」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………あれ? 名前……」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「……いや本当、そうやって改めて指摘されると恥ずかしいね……」///

エルフ少女「……ごほん」
エルフ少女「ともかく、見てないと」

エルフ奴隷「見てないですね」

エルフ少女「というか最悪、このままだと昼食時もあの部屋から出てこないかも……」

エルフ奴隷「いえ……さすがにソレは……」

エルフ少女「前任者の人の手紙に書いてたんだけど……研究に没頭すると食事も睡眠も入浴もまともにしなくなるとか……」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「……手詰まり、とも言ってましたし、とりあえずまずは、そろそろ食べる昼食に来てくれるかどうかですね」

エルフ少女「で、食べに来てくれたら入浴を促し……」

エルフ奴隷「食べに来いらっしゃらなかったら……」

エルフ少女「無理矢理お風呂の中に突っ込む」

~~~~~~

コンコン

エルフ少女「旦那様。昼食の用意が出来ましたけど」

「…………」

コンコン

エルフ少女「旦那様」

「…………」

エルフ少女(……返事すら無い……研究で何か掴めたのかな……?)

エルフ奴隷「……もしかしたら、中にご主人さま自身がいらっしゃらないのかも……」

エルフ少女「まさか」

ガチャガチャ

エルフ少女「こうして鍵もかかってるし、それは無いと思う」

エルフ奴隷「それでは、昼食はいらないのでしょうか?」

エルフ少女「いや、無理矢理食べさせる」

エルフ奴隷「ですが……」

エルフ少女「これで――」

ジャラ

エルフ少女「――開ければ済む話だから」

エルフ奴隷「鍵の束……」

エルフ奴隷「一体どこでそのようなものを……」

エルフ少女「さっき話した前任者の手紙と一緒に入ってたの」
エルフ少女「二階の各部屋の鍵と、倉庫や食堂や調理場へ通じる扉も当たり前。お風呂場と裏口の鍵もあったし、無いのはあの食料保存の木箱の鍵だけ」

エルフ奴隷「ですが、その軽く見積もっても二十はありそうな数を全て確認するのですか?」

エルフ少女「まさか。二階のそれぞれの部屋の鍵は色で統一されてるし、ココ以外のものも昨日と一昨日で一通り試していたから……たぶんこの鍵のはず……」

カチャン

エルフ少女「ほらね」

キィ

エルフ少女「旦那様~」

男「…………」モクモク

エルフ奴隷「あの……食事の用意が出来ましたけれど……」

男「…………」カリカリ

エルフ少女「……本当に凄まじい集中力……まさか部屋の中に入って声を掛けても聞こえないとは……」

エルフ奴隷「……なんだかこれだけ集中されると、わざわざ止めてまで食事にするのが悪い気がしてくるのですが……」

エルフ少女「いや、それはない。せっかく奴隷ちゃんが作ったのに食べないなんて許せないって」

エルフ奴隷「ですが……」

エルフ少女「大丈夫だって。さすがに肩でも叩けば気付くよ」

エルフ奴隷「叩けますか?」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「だってご主人さまの周り、何か細かい文字がビッシリと書かれた紙が散乱してますが……」

エルフ少女「ん~……踏んで行って良いのかどうかさえ迷う……」

エルフ奴隷「乱雑にはしてますけれど……ぐしゃぐしゃにしていないところを見ると、アレ一枚も十分な研究資料なのでは……?」

エルフ少女「資料、っていうより、旦那様の仮説か何かかも」ヒョイ

男「…………」ポイ

エルフ奴隷「あ、今捨てましたよ」

エルフ少女「で、次の紙を取り、再び一心不乱に書く行為に取り掛かると……」

エルフ奴隷「……で、何が書かれてましたか……?」

エルフ少女「ん~……魔法は詳しくないけど、どうも魔法術式っぽい」スッ

エルフ奴隷「本当ですね」ヒョイ
エルフ奴隷「……ん~……私も特別魔法について詳しいわけではありませんから、分かりませんね……」

エルフ奴隷「ただ、かなり複雑な術式みたいです」
エルフ奴隷「少なくとも、戦闘中に目の前で用いることが出来る代物ではないですね」

エルフ少女「分かるの?」

エルフ奴隷「この紙に書かれてる始まりも終わりも、術式の途中ということぐらいですが」

エルフ少女「え……? ってことは、この落ちてる紙全てが、一連した術式の紙ってこと……?」

エルフ奴隷「さすがにいくつかの術式の紙でしょう……と思いたいところですけれど……もしかしたら、そうかもしれません」

エルフ少女「軽く見て三十枚以上の紙があるけど……?」

エルフ奴隷「ですから、複数の術式の紙が散乱していると思いたいのです」
エルフ奴隷「もしこれだけの紙全てを使って一つの術式なら……戦争用大規模魔法を越える術式の量ですよ」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」

男「…………」ポイ

エルフ少女「……でも今更、戦争用の魔法とは考えられないわよね……?」

エルフ奴隷「……もしかして、魔力を用いて秘術を使うための術式……とか、ですかね……?」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」

男「…………」モクモク

エルフ少女「というか、これだけ真後ろで相談してても気にされないって……」

エルフ奴隷「集中力が凄まじ過ぎますよ……本当に」

エルフ少女「これは、食事も睡眠も入浴もしなくなる、って言われてるのが分かるわ……」

エルフ奴隷「ですね……」

男「…………」カリカリ

エルフ少女「……どうせなら、入浴と食事を一連の流れで済ませてあげた方が良いのかも」

エルフ奴隷「そうですね……昼食後、しばらく経ってからまた入浴で呼ぶとなると、また一度集中力を切らせてしまうことになりますし」

エルフ少女「ね。ってことで、昼食の前に、お風呂場に水でも溜めよう」

エルフ奴隷「溜めてどうするんですか?」

エルフ少女「お風呂に入りたいから温めてくれとウソをついて、入れて、閉じ込める」

エルフ奴隷「え? ……良いんですか? それ」

エルフ少女「その方法が良いって前任者の紙に書いてたし。食事も、後に回した方が良いでしょうし」

エルフ奴隷「まぁ、食べてもらえないかもしれないからと、温め直せるスープにしてましたし大丈夫ですけれど……」

エルフ少女「じゃ、そういう方向で動こうか」

エルフ奴隷「はい」

~~~~~~

キィ

男「…………」モクモク

エルフ少女「……同じ姿勢でまだ書いてる……なぁんて、わたしの独り言も聞こえないんだろうけど」

エルフ少女(とりあえず、水も溜め終わったし……周りにある紙を片付けて声を掛けよう)
エルフ少女(やっぱり踏まない方が良いんだろうなぁ……というか、紙の広がりが大きくなってるし、枚数も増えてる……本当に書き続けてるんだ……)

男「…………」カリカリ

エルフ少女「……とりあえず、順番とかわかんないけど、纏めよう」

男「…………」モクモク

エルフ少女「…………」

男「…………」ポイ

エルフ少女「片付けてる途中で散らかさないでっ!!」クワッ

男「…………」モクモク

エルフ少女「…………」

エルフ少女(冗談とはいえ大声を上げたのに……集中力高すぎ……無視されたみたいで、ちょっとむなしい)

うわっ…もう時間だ……
今日も短くてゴメン……

明日はちゃんと一日開けずに投下しますので
書き溜まってるのに投下する時間が出来ないもどかしさ…

再開します
みんな優しくて投下しやすいな…本当

エルフ少女「旦那様」ポンポン

男「…………」カリカリ

エルフ少女「だ・ん・な・さ・ま!!」バンバン!

男「痛いっ!?」

エルフ少女「はぁ~……やっと気が付きました?」

男「え? あれ? なんで……?」

エルフ少女「鍵なら開けさせてもらいました。前任者の方が手紙と一緒に置いていてくれましたので」

男「あ、そうなんだ……えっと、どうかした?」

エルフ少女「どうかした? じゃありませんよ。昼食の時間になって呼んでも返事が無かったんで、心配したんですよ」

男「うそ!? もうそんなに時間って経ってるの!?」

エルフ少女「はい。正直、もう太陽は天辺から下り始めています。まぁまだ高い位置にはありますけれど」

男「うわ~……集中しすぎてて気付かなかったなぁ……」

エルフ少女「まったくです」

男「…………で、だけど……少し、訊いても良い?」

エルフ少女「はい?」

男「この右肩の痛みと耳が少し鳴ってるのはどういうことなの……?」

エルフ少女「ちょっと強く叩いて大きな声でお呼びしただけですよ?」

男「え? ちょっと……?」

エルフ少女「はい。少し、と言い換えても良いかもしれません」

男「意味合いは同じだよ……」

エルフ少女「それで、どうします? 昼食、食べますか?」

男「そうだね……うん、そうしようかな。キリも良いし」

エルフ少女「……止めたわたしが言うのもなんですが、まだ書きかけだったように見えますけれど……」

男「まぁ、書きたいことは全部頭の中に残ってるからね」
男「それに正直、こうやって書かなくてもすぐに思い出せるし。ボク、記憶力には自信あるんだ」

エルフ少女「なら、どうして紙に書いてるのですか……?」

男「いずれお金になるかと思って」

エルフ少女「お金……」

男「うん。今はお金自体に余裕はあるけど、働いてないし、いずれ無くなる」
男「そうなったら、自分だけで独占しなくても良いやって思うものから、この研究資料を売ろうと思って」

エルフ少女「はぁ……では、この資料化されてる内容は、いずれ世界的に役に立つものと……?」

男「どうだろう」

エルフ少女「え?」

男「たぶん、ボク以外には使えないんじゃないかな? この魔法は。驕りとかじゃなくてね」

エルフ少女「……もしかして、これ全部で一つの魔法ですか?」

男「そう。よく分かったね」
男「あ、てきとうに放り投げながら書いてたのに、まとめてくれたんだね。ありがとう」

エルフ少女「順番はバラバラですけど」

男「ボクは読まないからソレで良いよ」

エルフ少女「それで、その……この魔法は……?」

男「ん、ああ、別に大規模の戦争用魔法とかじゃないよ」
男「ただ、普通に魔力で出来ないことをやろうとしてるから無駄に複雑化しちゃってるだけで、やろうとしてることは“魔力でも精霊に語りかけられるようにする”ってだけだから」

エルフ少女「それだけのことなのに……こんなに複雑になるんですか?」

男「意外にもね。体力から魔力に変換した後、その魔力を複数の信号に分岐させてるんだ」
男「魔力そのままだと世界自身にだけれど、あらゆる無数の信号へと切り替えればどれか一つぐらいは精霊に行き届くんじゃないか、っていう、かなり無茶な方法」

男「本当は、精霊へと直接届く信号を見つけられたら、こんなに長い術式になる必要もないんだけどね」
男「魔力をその信号一つに切り替えるだけで済むんだし」

エルフ少女「? ? ?」

男「あ~……ごめん。下手な説明しちゃったね……」
男「えと……つまりは、どの言葉が相手に届くか分かんないからとりあえず知ってる言語を片っ端から喋っちゃおう、ってことかな……?」

エルフ少女「……はぁ」

男(あ、まだ分かってくれてないや……)

男「まぁ良いや。ともかく、お昼ご飯だったよね? 食堂に行こうか」

エルフ少女「あ、ちょっと待ってください」

男「ん?」

エルフ少女「先に、お風呂を熱くしてもらって良いですか?」

男「良いけど……どうして?」

エルフ少女「わたし達は、先に昼食を済ませましたので」

エルフ少女(まぁウソですけど)

男「え~? ということは、ボク一人?」

エルフ少女「呼びに来たのに無視したのは旦那様ですよ……」

テクテクテク…

男「つまりは、ボクがお昼ご飯を食べてる間、お風呂に入りたいと」

エルフ少女「はい。正直、ちょっと掃除してて汚れちゃいましたし」

男「そんな感じしないけど……?」

エルフ少女「しないけどそうなんですっ」

男「そ、っか。……はぁ~……一人で食事は寂しいなぁ……」

エルフ少女「……傍にわたしが付いていてあげますから」

男「え? そうなの? 二人一緒に入るんじゃ……?」

エルフ少女「入りませんよ、恥ずかしい」

男「てっきり毎日二人一緒に入ってるものとばかり……」

エルフ少女「なんて妄想してんですか」

男「仲が良いからそうだと勘違いしてたんだよ。ごめんごめん」

テクテクテク…

エルフ少女「そういえば、研究は手詰まっていたんじゃないんですか?」

男「書物を読み直してたら、ふとあの本を手に入れた時のことを思い出してね」
男「なんでも可能性があるものに片っ端から手をつける、って覚悟した当時をね」

エルフ少女「はぁ……」

男「だから、ああして片っ端から信号を発信させる方法を思いついたってわけ」
男「もっとも、ボクが知ってる限りの魔法の残滓から見つけられる世界干渉の信号を出すだけで、無限にある信号に変換する訳でもないし、もしかしたら精霊には届かないかもしれないけど」

エルフ少女「……よく分かりません」

男「だよね……ごめん」

エルフ少女「いえ、それよりも……」
エルフ少女「そんな調子で、本当に明日出発されるのですか? 研究の途中だと色々と気になるのでは……?」

男「いやぁ~……さっきも言ったけど、とりあえず将来のお金のためにメモしてるようなものだからね」
男「実際に術式を施して実験するのは、結婚式を終えてからにするよ」

エルフ少女「…………」

男「? どうかした?」

エルフ少女「いえ、意外な言葉だったので……」
エルフ少女「てっきり、研究バカかと思ってましたので……中止にするのかと」

男「失礼な。ボクも人の子だよ」
男「お世話になった人の方を優先するのは、当然だって」

~~~~~~

男「それじゃ、さっさとお湯にするよ」

エルフ少女「はい。岩の方もお願いします」

男「了解」

男「…………」スッ、スッ…

エルフ少女(さて……)

チャプ

男「……ん、お湯加減バッチリだね。後は岩の方を……」スッ、スッ…

エルフ少女(……魔法のため空中に文字を書き終えたのを確認した後に……)

男「よしっ、これで水をかければ蒸気が出てちょうどよく――」

エルフ少女(戸を閉める!)

パタン!

男「――って、あれ?」

カチャン

男「……んん~……? あの……ボクまだ中にいるんだけど」

エルフ少女「分かってますよ」

男「じゃあ、出してくれない?」

エルフ少女「それは無理です」
エルフ少女「だって旦那様……ここ最近、入浴されてませんよね……?」

男「…………」

エルフ少女「…………」

男「…………あ~……! このパターンかぁ~……!! メイドにもよくやられたなぁ~……!!」

エルフ少女「理解してもらえましたか?」

男「……まさか、キミにまでされるとは思わなかった……」

エルフ少女「カギと一緒に注意事項として、メモが残されていました。この方法もそこに」

男「なるほど……なるほどねぇ……察して然るべきだった」

エルフ少女「分かりましたか?」

男「ハメられたのはよく分かりました」
男「さすがに、屋敷を壊してまで逃げるつもりも無いし」

エルフ少女「じゃあ、大人しく入浴してください」
エルフ少女「服は脱いで隅にでも。あ、なんなら濡らしても構いませんよ。どうせ洗濯しますし」

男「そのあたりの流れもそのままだね……いや、偶然一致したのかな……?」
男「ま、ともかく入ることにするよ」

エルフ少女「お願いしますね。わたしは、着替えを持ってきますから」

男「うん。もうここまできたらいつも通り諦めもついたよ」
男「お願いね」

パチャ…

ジュアアアァァァ…

エルフ少女(岩に水を掛けて蒸気を出す音……)

男「ふぅ~……熱い熱い」

カチャ

エルフ少女(窓も開けた音……うん、本当に入ってくれるみたい)
エルフ少女(これなら安心して着替えを取りに行けるかな。ここの鍵も閉めたし、大丈夫かな……)

~~~~~~

エルフ奴隷「どう? 入ってくれました?」

エルフ少女「うん。バッチリ」

エルフ奴隷「……なんとなくですけれど、もしかしてご主人さまは、何かキッカケが欲しいだけなのかもしれません」

エルフ少女「かもね。ああして無理矢理にでも入れてもらえないと、入ろうという気持ちにならないのかも」

エルフ少女(だから“面白いほど引っかかってた”ってことなんだと思う)
エルフ少女(面倒なことだから、あえて自分を“諦められる所まで追い込んでいる”、ってことかも)

エルフ奴隷「…………」クスッ

エルフ少女「ん? どうかした?」

エルフ奴隷「いえ……さっきと言ってる事は変わるのですが、親に構って欲しい子供もそんな感じだなぁ、と思いまして」

エルフ少女「あ~……なるほど。そうとも取れるね、あの行動は」

エルフ少女(素直に言われた通りのことをしても構ってくれないから、あえて困らせる……まんま子供っぽい)

エルフ少女(もし、その通りの気持ちで行動してたら、だけど)

~~~~~~

エルフ少女「旦那様~、着替えの方お持ちしました」

男「…………」

エルフ少女「カギは開けておきますので、出たい時に出てくださいね」

男「…………」

エルフ少女(……返事が無い……?)

エルフ少女「旦那様?」

トントン

男「…………」

エルフ少女「…………」

エルフ少女(……あれ?)

エルフ少女「旦那様……旦那様っ」

ダンダン

エルフ少女(あれあれ……?)

エルフ少女(ん? あれ? どうして?)

エルフ少女(どうして返事が無いの?)

エルフ少女(中の窓からは逃げられないよね?)

エルフ少女(それだけの隙間を開けることは出来ないし)

エルフ少女(アレは蒸気を逃がして調節するための小さな窓だし)

エルフ少女(じゃあ……もしかして……)

エルフ少女「旦那様っ!?」

ガチャガチャ…

カチャン

ガラ

エルフ少女「大丈夫ですか!? もしかして溺れ……て……」

男「…………」

エルフ少女「…………」

男「…………」クゥ~

エルフ少女「……寝てる、だけ……」

エルフ少女「……………………はぁ~……」

エルフ少女(全く……無駄に心配させて……)

エルフ少女「ホント……迷惑……」

エルフ少女(……でも、このまま放っておいたら、本当に溺れるかも……)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(……いやもう、それでもいいかもとは思ってるんだけど……)

エルフ少女(直接手を下す訳でもないし……奴隷ちゃんが悲しむぐらいだろうし……)

エルフ少女(っていうか、なんでわたし、この人の言うとおりに働いてるんだっけ……)

エルフ少女(ここがわたし達の家でもあるって言ってくれたことが、ほんの少しだけ嬉しかっただけで……)

エルフ少女(奴隷ちゃんが悲しまないために、殺したくないだけで……)

エルフ少女(その二つの理由があって、自分で「殺せないな」と思ってしまっただけの話で……)

エルフ少女(別に、言うことを聞く必要も無いと思うんだけど……)

エルフ少女「…………」

キリが悪い…!
悪いけれど…今日はここまでにします

ちょっともうちょい書き溜めと相談してから続きを投下したい

乙乙
なんだかんだ仲良くしてていいな

だいたい こんな かんじかな?

http://wktk.vip2ch.com/dl.php?f=vipper34628.jpg

http://wktk.vip2ch.com/dl.php?f=vipper34629.jpg

>>501
うわ、気持ち悪い物貼ってんなよ
絵師様(笑)はやっぱり気持ち悪い生き物だな
キャラの絵を貼るのがSSスレできらわれてるって分かってんの?

AAまで貼って煽る方が迷惑だよ……
イラスト挿絵に関するマナーについてはよく知らんが傍から見れば煽ってる奴のが気分悪い
>>501も作者に聞いてから投下すれば荒れずに済んだのに

>>511
煽る?叩くの間違いな
SSスレで絵師様(笑)がでてきたら荒れるのは常識だろ

>>1

関西地方にろくな奴がいないことだけわかった

てか基本的に作者としては絵師は嬉しいもんだろ
なんで絵をあげた人が排除されるかわからんわ
排除されるべきは絵師叩きをする奴だろ

あと今回一番荒らしてるのは>>511自身だな

>>527
大丈夫だ、自覚してるぞ
それ以上に、絵師様(笑)が気持ち悪い

ていうか、これだけ荒らせばもう少なくともこのスレに絵師様(笑)はこないでしょ?
絵師様(笑)が絵を貼ったらこれだけ荒れる、荒らされるってわかった?
こんなに素晴らしいSSスレが絵師様(笑)のせいで駄スレになってほしくないんだわ

それ言ってて恥ずかしくなんないの?

>>544
俺が恥ずかしくなるだけで、絵師様(笑)が絵を貼らなくなるなら安いもんだ

ていうか、もうおしまいな!
>>1の次の投下まってようぜ、これ以上無駄にスレを消費しても良いことないしな

いや阿呆、普通に荒すなよ
何さりげに「自分の荒らしは良い荒らし」みたいに言っちゃってるの?
必要悪(キリッ!)気取っちゃったか

俺が言うのもなんだけど、そろそろ落ち着け
>>1が書かなくなるのは俺だって望んでないんだからな
もう俺の言いたいことは言い切ったから、レスしてないし、レスしない

絵師様(笑)は全員絵を貼るな
誰もおまえの上手(笑)な絵なんて見たくない
どうしても貼りたいならTwitterにでもはってろ

ここまで荒れてしまったら、もう>>1がどっちか結論出さないとだめだな
絵師様(笑)歓迎なのか、だめなのか

まぁ、俺のせいだけどな
ここまで荒れるとはなー

これに、懲りたら絵師様(笑)は絵を、貼らないことだな

>>620
何一人で十回も書き込んでるの

>>622
ん?
絵師様(笑)を叩いてたんだよ?
俺の目的は終わったのにまだ荒れてて笑いにきただけだよ

すごいレスの数だと思ったらとんでもないことになってて驚いた
全部こんな駄文の感想を書いてくれてたり、「乙」って言ってくれてるのかと思ってwktkしてしまった自分が恥ずかしい…

ん~…正直>>1としては、別にキャラのイラストは描いてくれても構わんというスタンス
描いてもらえれば嬉しいし
ただ、>>1はキャラ一人一人の外見を明確に隅々まで想像している訳ではないので、描かれても「思い描いてる通りの外見だ!」とか言えないし褒められない
それでも良いなら別に自由にしてくださいな

でもだからと言って、アップするな、と言ってる人を否定するつもりも無い
「面白くないから止めろ」みたいな荒らしじゃなく、純粋に>>1のスレのことを想ってくれてて、それもまた嬉しい訳で…

まぁやっぱり

ほどほどが一番だよねぇ~……

その辺りは結局各々の判断だと>>1は思う
>>1は無責任に責任を放り投げたよっ!!





という前置きをして再開
今日は書き溜めてる分全消費して、明日は投下せずにまた書き溜めしたい
でも>>1がいない間に進んだ約150の半分もいかない量だけどね…

エルフ少女(どうも最近、よく分からなくなってきている)
エルフ少女(わたし自身のことが)

エルフ少女(この人が優しすぎるせい……なのだろうか……?)

エルフ少女(優しくされているつもりは、あまりないけれど)

エルフ少女(ただ、聞かされた恐怖と絶望を味あわせない人だから、安心しているだけで……)

エルフ少女(壊れかけてた奴隷ちゃんが、彼のおかげで持ち直しているのを見て、油断しているだけで……)

エルフ少女(それだけで……わたしは、甘くなっている)

エルフ少女(色々と)
エルフ少女(考えとか、覚悟とか、そのあたりの気持ち全てが)

エルフ少女「……中途半端、だね」

エルフ少女(奴隷ちゃんみたいに彼を信じきることもせず、信じていいのか分からないから疑ったままでいる、なんて半端な位置に、ずっと留まっている)

エルフ少女(自分の気持ちも整理できずに、ただただ楽な方向へと転がっている)

エルフ少女(なんの疑問も持たず、彼の言うとおりに仕事をしていたのが、何よりの証な訳で……)

エルフ少女「……でも」

エルフ少女(心の整理なんてどうすれば良いのか、情けないことに、わたしにはよく分からない)

エルフ少女(彼が、わたしの大好きな両親を殺した人間という種族なのは、理解している)

エルフ少女(……今でも、人間は憎い)

エルフ少女(憎い……はずだ)

エルフ少女(……はず、になってしまっている)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(……両親を目の前で殺されたのに、こんなにも、憎しみが風化してしまっている)

エルフ少女(でも……だからと、両親を殺した人間と同じなのだからと、彼を憎み続ければ良いのかというと、そうでもない気がする)

エルフ少女(……でもその感情は、わたしの都合で見つけただけの、逃げに等しい情けないものなのかもしれない)

エルフ少女(本来は、憎み続け、同じ人間である彼を、恨み続けるべきなのかもしれない)

エルフ少女「…………」

エルフ少女(……何が正しいのか……自分の心の拠り所が、分からない)

エルフ少女(分からない……けれど、とりあえずは……)

エルフ少女「……あの人をお湯から上がらせよう」

エルフ少女(一応は、彼の成し遂げるべきことを成すまでは、殺さない方が良いのだろうから)
エルフ少女(何も分かっていないけれど、成し遂げてもらえれば確実に殺せることは、変わらないのだから)

エルフ少女(……結局はコレも、結論を棚上げしての、中途半端なものだけれど)

エルフ少女「とは言っても……」

エルフ少女(どうやって外へと出そうか……わたし一人じゃ、彼をお湯から上げることすら出来ない)

エルフ奴隷「失礼します、ご主人さま。水差しを持って――どうされたのですか?」

エルフ少女「あ、奴隷ちゃん」
エルフ少女「実は旦那様、湯船の中で眠ってしまったみたいで……」

エルフ奴隷「それは……危ないですね」

エルフ少女「うん。という訳で、外に出そうかと」

エルフ少女「そうですね。……それじゃあ、私は足を持ちます」ヌギヌギ

エルフ少女「良いの?」

エルフ奴隷「もちろんです」ヌギヌギ

エルフ少女「でもどうやって足を――ってなんで脱いでるんですか!?」
エルフ少女「自然すぎて気付くのにワンテンポ遅れたよっ!?」

エルフ奴隷「え? だって、服が濡れてしまうかもしれませんし……」ヌギヌギ

エルフ少女「……その、ですね……理由は分かりましたが、もし、旦那様の目が途中で覚めたら、どうするつもりですか?」

エルフ奴隷「私は別に見られても大丈夫ですし」
エルフ奴隷「むしろ見られたいですし」

エルフ少女「はぁ……まぁ、良いですけど」

エルフ少女(いや、あまり良くは無いけれど……っていうか、思わず敬語になってた自分が恥ずかしい……)

エルフ奴隷「さて……それじゃあご主人さまが溺れる前に、湯船の外へと出しましょうか」

エルフ少女(うわ……本当に全部脱いでる……。……すごい覚悟だなぁ……)

エルフ少女「でも、まずはどうすれば?」

エルフ奴隷「湯船は一人ほどしか入れません……が、隅に寄せればもう一人、立って入ることぐらいは出来ます」
エルフ奴隷「ですのでまずは、ご主人さまを隅に寄せて……私も入って……」チャプ…

エルフ奴隷「それで……手を突っ込んで……両足共見つけ出して……掴んで……」ガシ
エルフ奴隷「っと……それでは持ち上げますので、脇のほうに腕を挟んで、持ち上げてください」

エルフ少女「……頼りになるなぁ~……」ガシ

エルフ奴隷「それでは……せーの、でいきますよ」

エルフ少女「うん」

エルフ奴隷「「せーっの!!」」

バチャア!

エルフ奴隷「きゃっ!!」///

バシャア!

エルフ少女「熱い!?」

エルフ奴隷「あ! す、すいません……」

エルフ少女「お湯が跳ねてきた……濡れた……それも結構」

エルフ奴隷「本当にすいません……」

エルフ少女「いや、別に良いんだけど……どうしたの? 思いのほか重かったから手が滑ったとか?」

エルフ奴隷「いえ、そうではなくて……その……」///

エルフ少女「歯切れが悪い……何かあった?」

エルフ奴隷「まぁ、何かがあったと言えばあったのですが……」///
エルフ奴隷「その……ほら、あの……足と足の付け根の間に……」///

エルフ少女「足の付け根……? ……って、あ」///

エルフ奴隷「…………ね?」///

エルフ少女「ま、まぁ……確かに、何かあるか……男だし……」///

エルフ奴隷「でしょう……?」///

エルフ少女「はい……」///

エルフ奴隷「……見たことあります……?」///

エルフ少女「まぁ……その、おかげさまで、今まで見ずに済んできましたから……」///

エルフ奴隷「……見ます……?」///

エルフ少女「いえ、むしろ見ないようにします……」///

エルフ少女「でも……こんな言い方もアレだけど……奴隷ちゃんは、見慣れてるんじゃ……?」///

エルフ奴隷「そ、そうですけど……何か、違うんですよ」///

エルフ少女「何か?」///

エルフ奴隷「はい。何か。その……暗さとかもあるんでしょうけれど……こう、見ただけで、ドキドキとしてしまって……」///

エルフ少女「……大きさとか」///

エルフ奴隷「ど、どうでしょう……そういうのを意識して、相手のを見てきませんでしたし……」///

エルフ少女「ま、まぁ、当たり前だよね……イヤイヤなんだし……ごめん。無神経なこと言って」

エルフ奴隷「い、いえそんな、謝らないで下さい……その、ほら、互いに何か、興奮状態みたいなものですし……普通ならイヤなことですけど、今は気にならなかったですし……だから、別に気にしてません」///

エルフ少女「そ、そう? それなら良かった……」

エルフ奴隷「え、ええ……」///

エルフ少女「でも、本当にゴメンね……?」

エルフ奴隷「いえ、もう本当、大丈夫ですから」

エルフ少女「……で、その……興奮状態……?」///

エルフ奴隷「い、いやその……言葉の綾、みたいなものですよっ」///

エルフ少女「だ、だよねっ」///

エルフ奴隷「う、うん……」///

エルフ少女「…………」///

エルフ奴隷「…………」///

エルフ少女「は、早く外に出そうかっ」アセアセ///

エルフ奴隷「そ、そうですねっ」アセアセ///

~~~~~~

エルフ奴隷「な、なんとか、外に出せましたね……」

エルフ少女「だね……」

エルフ奴隷「……途中で何度か起こしそうになりましたのに……よく起きませんね……」

エルフ少女「……だね」
エルフ少女「正直、わたしが目を瞑って歩いてたせいでこけた時は、本当に起きたかと思ったけど……」

エルフ奴隷「まぁ、頭が落ちたのはあなたの胸の上でしたし……」

エルフ少女「おかげで服がびしょ濡れになったけどね……」

エルフ奴隷「ご主人さまが怪我をせずに済んだから良いじゃないですか」

エルフ少女「……ま、それもそうか……」
エルフ少女「……ふぅ~……わたしも服脱ごう。張り付いて気持ち悪いや。中は暑かったし」ヌギヌギ

エルフ奴隷「しかし、ソレを差し引いても起きないですね……」

エルフ少女「夜更かしのしすぎとかじゃないの?」ヌギヌギ

エルフ奴隷「……そういえば……」

エルフ奴隷「本を読んだ初日の翌朝、続きを読もうかと思ったら、何十ページか進んでいたんですよ」
エルフ奴隷「その時は私の覚え間違いかと思っていたのですが……もしかしたらアレは……」

エルフ少女「なるほど……自分で夜中に読み進めてた、って訳……っか」バッ

エルフ奴隷「今思えばそういうことなのでしょう。私達の文字が読めるようになってきたというのも、それで得心がいきますし」
エルフ奴隷「きっとその翌日の深夜も、何かしらの方法を思考し続けていたのかもしれません。今朝になって朝食を終えてすぐに私を呼んだわけですし」

エルフ少女「なるほど……」

エルフ奴隷「……にしても……私より大きい……」ボソ

エルフ少女「ん? どうかした?」

エルフ奴隷「いえ……別に」ムネペタペタ

エルフ少女「?」

エルフ奴隷「はぁ~……私より背が低いのに……どうしてでしょう……」ボソ

エルフ少女(な、なにか落ち込んでる……?)

エルフ奴隷「……まぁ、まだ大きいのが好きと決まった訳ではありませんし……」ボソ

エルフ少女「えっと……どうかした?」

エルフ奴隷「いえ……別に何も。少し現実を改めて直視しただけです」

エルフ奴隷「そんなことよりも、早くご主人さまに服を着せないと」
エルフ奴隷「さすがに身体を拭くための布を上から被せているだけでは、風邪をひいてしまいます」

エルフ少女「えっ……? でもそうなると、またアレを見ることになるんだけど……」///

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「…………」///

エルフ奴隷「……耐えましょう」///

エルフ少女「……耐えますか」///





男「…………」
男「……ん~……寒い」

エルフ奴隷「あ」

エルフ少女「え……?」

男「一体なんで……確か湯船に浸かってた」ガバ
男「は……ず……」パチクリ

エルフ奴隷「お目覚めですか? ご主人さま」

エルフ少女「え……? あ、え、あ……」///

男「あ……あれ……? えと、その……ん? なんで、その、二人とも――」

エルフ少女「きゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」///

男「――ご、ごめん!!」///

バタン!!

エルフ少女「見られた……見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた……裸、見られた……っ!」///

男「え? なんで? なんで二人とも裸? あれ? ボクが入浴するって話だったよね? あれ? あれ?? え? ん?」///

エルフ奴隷「何もそんなに慌てて戻らなくても……大丈夫ですよ、ご主人さま」

男「慌てるよ! さすがに慌てない方が無理だよ!!」///

エルフ奴隷「ですから、大丈夫なんですよ。私は見られても大丈夫ですから」

エルフ少女「わたしが大丈夫じゃないんだけど!?」///

エルフ奴隷「まぁ……その……私も想像していたよりも、羞恥心がありましたが……」///

男・エルフ少女「「そういう問題じゃないよね!?」」///

エルフ少女「と、ともかく! 事情は後で説明しますので! わたしは服を着て――ってこれ濡れてるんだ!」
エルフ少女「新しい服に着替えてきますから! それまでゆっくりとしてて下さい!」///

タッタッタッ…

男「あ……! まだちゃんと謝罪……! して……ない、まま……なんだけ、ど……」

エルフ奴隷「……大丈夫ですよ、ご主人さま」

男「え?」

エルフ奴隷「わたしはまだ服を着てません」

男「何が大丈夫なの!?」

エルフ奴隷「あそこで見られていた時は何も感じなかったのですが……ご主人さま相手に見られると、少し恥ずかしいんですね……学びました」

男「そんなこと学ばなくて良いよ!?」

エルフ奴隷「……構わないのですよ、ご主人さま。大丈夫です」

男「だからなにが大丈夫なの!?」

エルフ奴隷「お背中……流せますよ……?」

男「あ……! ……あぁ! そういう!! そういうのねっ!」

エルフ奴隷「何か、期待されました……?」

男「いやいやそんな! 滅相も無い!!」

エルフ奴隷「別に……良いんですよ? 私は。その期待通りのことで――」

男「あー! あああーーーーーー! 聞こえない! 何も聞こえないよーーーっ!」

エルフ奴隷「冗談ですよ」

エルフ奴隷「まぁ、そうして大事にしてくれるのは嬉しいので、大歓迎です」
エルフ奴隷「やっぱりまだ、そういうことはご主人さまでも怖いですから。……気を遣ってくれて、嬉しいです」

男「…………」
男「……何を言ってるのか、ボクには分からないなぁ」

エルフ奴隷「…………」クスッ
エルフ奴隷「そういうところが、私は嬉しいんですよ」

男「…………」

エルフ奴隷「……では、私も服を着て、そろそろ退出させていただきます。水差しを置いてますので、喉が渇いたら飲んでください」
エルフ奴隷「水分の補給は大事、ですからね」

男「ああ、うん。ありがとう」

エルフ奴隷「あ、それと中に入ったままの脱いだ服は、出た後にでも、少女さんの脱いだ服の上に重ねておいてくれたら助かります。先ほど出しておくのを忘れまして」

男「ああ、うん。分かった」

エルフ奴隷「それでは、失礼します」

男「え? もう着替え終えたの……?」

エルフ奴隷「……ご主人さまのエッチ……」

男「えぇ!?」

エルフ奴隷「またまた冗談ですよ」

男「ああ……そう……」

エルフ奴隷「ちなみにですけれど先ほどの、私はまだ服を着てません、というのも冗談でした」

男「そうなの!?」

エルフ奴隷「あの頃から着始めてましたし」

男「……なにか、大分キャラが違うように思うんだけど……」

エルフ奴隷「気のせいでは?」

男「そんなことはないよ……」

エルフ奴隷「でも……まぁ、そうですね……一月なんて、エルフにしてみればすぐですから」
エルフ奴隷「ちょっと外に出て優しくしてくれれば、あっさりと元に戻りますよ」

エルフ奴隷「とは言っても……本当に壊れかけていたのは事実ですので……実はまだ、私の気付かないところで私自身が無理をして、明るく振舞っているだけなのかもしれませんが」

男「…………」

エルフ奴隷「……なんにしても、ご主人さまと少女さんのおかげで、こうして明るくなれているのは事実ですよ」
エルフ奴隷「ご主人さまに救ってもらえて、同胞として向けてくれている少女さんの優しい想いに包まれている……そのおかげです」

エルフ奴隷「あとは、生きている同胞を救えて、死んだ同胞の仇さえ取れれば、きっと私は幸せ過ぎて死んでしまうのでしょうね」

男「…………」
男「……死ぬだなんて、不吉だね」

エルフ奴隷「……ですね……すいません。忘れてください」
エルフ奴隷「では今度こそ、失礼致します」

~~~~~~

エルフ少女「あれ? 旦那様、もう上がってきたの?」

エルフ奴隷「…………」
エルフ奴隷「……いえ、たぶんまだだと思います」

エルフ少女「……なに? 今の思わせぶりな間は?」

エルフ奴隷「そういえばあとで食堂に来てくださいと伝えるのを忘れていたなと、ふと思い出しまして」

エルフ少女「あ~……なるほど。分かった」
エルフ少女「んじゃ、わたしが伝えてくるね」

エルフ奴隷「すいません。よろしくお願いします」
エルフ奴隷「私はスープを温めて来ますので」

エルフ少女「ん。お願い」

タッタッタッ…

エルフ奴隷「…………」

ガラ

――旦那さ、って裸!?――

――え!? ちょ、ノックは!?――

――え、あ、す、すいません! 申し訳ありませんでした! ちょっと、その、動揺していて――

――い、良いから、一旦! 一旦戸を閉めようか!――

――あ、す、すいません!――

パタン!

――って中に入ってきて閉めたら意味がないよっ!?――

――ああ! ごめんなさいぃっ!!――

ガラッ!

パタン!!

エルフ奴隷「…………」

エルフ奴隷「……これで、おあいこですね」
エルフ奴隷「キッカケは出来ました」
エルフ奴隷「仲直りだって、きっとしやすくなりますよ」クスッ

書き溜め分全消費出来た~
だから明日は投下しないです

出来れば次までレスできる数が残っていれば嬉しい
1つでも残っていれば次スレへの案内だって出せるわけですし


…ちなみに今日の分は若干無理矢理な賑やかしパートだったかな、と反省している
でも書けちゃったんだから仕方ないじゃない
自然とキャラが動いたんだから進むしかないじゃない
ということで投下しました
違和感あったらごめんなさい

すんません再開~
ただ今日はまたまた時間が無い…

一日空いたのになんてこった……
投下数少なくなってごめん

~~~~~~
翌日

夕方

◇ ◇ ◇
 城下町
◇ ◇ ◇

男「ん~……思いのほか時間がかかっちゃったね……」

エルフ奴隷「昼食を早めに済ませて出ましたのに……まさかこんな時間になるとは思いませんでしたね」

エルフ少女「山を降りて馬車が捕まえられなかったのが想定外でしたね……」

男「ああ……確かに。ことごとく断れたもんなぁ……」

エルフ少女「もしかして、わたし達がいたせい?」

男「まさか。いきなり三人も乗せる余裕がないからだよ」
男「声をかけた馬車は全部行商の途中だったし、荷物が多いから仕方ないって」

男「ともかく、ずっと歩いていたせいで足がパンパンだね……」

エルフ奴隷「え?」
エルフ少女「そうですか?」

男「……ボクの体力が足りないだけか……」

エルフ少女「いえ、そんなことは……」

男「目線を逸らしながら言われても!」

エルフ奴隷「……ではとりあえず、宿屋に向かいましょうか」

男「あ、誤魔化された」

エルフ奴隷「そんなことは……」

男「まぁでも、宿屋に向かうのは賛成。早くノンビリしたいし」

エルフ少女「場所は……この前のところにしますか?」

男「そうだね。あそこは親切だったし、人気も少ない場所だったから部屋も空いてるだろうしね」

エルフ少女「ちょっと失礼に聞こえる言葉ですけど……まぁ、確かに」

エルフ奴隷「お料理もおいしかったですしね」

男「というわけで反対意見も無いし、このまま向かおうか」

エルフ少女「はい」

テクテクテク…

エルフ奴隷「そういえば、昨日から続けておられた資料作成は終えられたのですか?」

男「うん。徹夜でなんとかね」

エルフ少女「……別に無理に作らなくても良い、とか言ってませんでした?」

男「ははっ……まぁ、集中し始めたら止められなくてね……気付いたら朝だったんだよ」

男「でもそれから少しだけ仮眠したし、体調のほうは大丈夫だよ」
男「入浴した時みたいに、何かの途中で寝ることも無いから安心して」

エルフ少女「そ、そうですか……」///

エルフ少女(うあ……なんか思い出しちゃった……)///

エルフ奴隷「それで、結婚式はどちらでされるのですか?」

男「どちらって……この街でだよ」

エルフ少女「え? だからこの街のどこでやるんです?」

男「ん? だから、この街全体でやるんだよ?」

エルフ奴隷「? ? ?」

男「ん~……?」

エルフ少女「……もしかしてだけど、わたし達と人間の結婚式って、違ってたりします?」

男「あ~……なるほど」
男「エルフの結婚式って、どんなの?」

エルフ奴隷「私達は、夫婦となる二人が月の下、互いに月へと祈り・親へと感謝の言葉を述べ・出会えた運命にこの先の未来を明るくしてくれるよう懇願し・親しきものに改めて報告し・世界に漂う精霊全ての前で一生を共にすることを誓い……」
エルフ奴隷「互いに協力して秘術を紡ぎ、空へと向けて放ち、その後に口付けを交わす……といった、極々静かに行われるものです」

男「へぇ~……」

エルフ少女「旦那様たちは違うんですよね? 話が噛み合わないってことは」

男「確かに。全然違うね。そもそも秘術自体使えないし」

エルフ奴隷「その辺りはほら……魔法で代用したりも出来ますよ?」

男「人間の場合、魔法ですらも使える人は少ないからね」
男「言ってしまえば努力の証で、学問の一種みたいなものだし」

エルフ少女「いや、その話はいいですから……結婚式ってどういうのなんです?」

男「ボク達の場合は、そもそもひっそりと静かな結婚式じゃなくて、街や村全体がお祭り騒ぎのように賑やかに行うものなんだ」

エルフ少女「へぇ~……」

男「満月の夜が訪れる少し前から、生まれた場所の中心で、全ての結婚する夫婦が一堂に介して賑やかにお祝いをする」

男「結婚自体が全ての住人の幸福であるかのように明るく、楽しく、この日を迎えられたことを感謝するかのように……」
男「また自分達と同じ幸せな状況へとやってくる人々を迎えるように、この楽しいイベントを行って、いまだ結婚していない人の結婚意識を向上させることを目的とし、誰かと一緒になる幸せを分かち合い……」
男「満月が真上に昇るその時まで、あらゆる全てに感謝を続ける」

男「それがボク達人間の結婚式だよ」

エルフ少女「なるほど……二人の結婚が、その住人全ての幸せだという気持ちでやるものなんですね」

エルフ奴隷「別の街に住んでいる人同士での結婚ならどうなるのですか?」

男「これから住む場所を基準にやることになってるかな」

エルフ少女「人数が集まらなかった場合は?」

男「さすがに、次の満月まで待ってもらうのもアレだから、一組でもあれば基本的には行うよ」
男「小さな村だとどうかは分からないけど」

エルフ奴隷「なんだか、絆を感じさせられますね」

エルフ少女「そうかな? わたしは全く逆に感じたけど」
エルフ少女「そうでもしないと一体感を抱けない、って主張してるみたい」

男「そういう考え方も確かにあるね」
男「エルフ側の結婚式は、同胞全てを信じているからこそあえて大々的に行わずひっそりと身内だけでする、って感じもするし」

男「それに正直、ボク達のはただどんちゃん騒ぎをする口実が欲しいだけ、ってのもある気もするし」

男「街となると収穫祭とか、そういうのも無いからね。何かしらのキッカケとして、結婚が槍玉に挙げられたんだと思う」
男「現に終戦してすぐの満月の日は結婚式をしなかったし。そういうのをする余裕が無かったからだろうけど」

エルフ奴隷「ということは、戦争を終えてから始めての結婚式ですか?」

男「そうなるね。それに戦争中もしてなかったし、たぶん懐かしいと感じる人と、初めてだと感じる人が混在する結婚式になると思う」

エルフ少女「ふ~ん……街に入ってからずっと、この前より出店が多いと思ったら、そういう理由だった訳ですね……」

男「たぶん、昔やってた結婚式より賑やかになるんじゃないかな? そんな雰囲気があるし」

◇ ◇ ◇
 宿屋前
◇ ◇ ◇

?「あ」

男「うあ……」

スタスタスタ…ピタ

元メイド「ちょっと、今呻かなかった? ねぇ?」

男「いえいえそんな、気のせいですよ……本当」

元メイド「なに? あたしのこと苦手なの? 男くん」

男「いえいえそんな、気のせいですよ……本当」

元メイド「全く同じセリフで返さないで!」
元メイド「正直に答えてみて! ねぇ!」

男「……まぁ、ほら、アレですよ……まさか予想だにしなかった人が待っていたから驚いたとか、そういうのです」
男「決して昔から色々と小言を言われてたせいで苦手意識が芽生えたとか、そういうのじゃないです」

元メイド「ほ~……苦手意識ねぇ……」
元メイド「前会った時はそんな感じしなかったけど?」

男「ですよね。だから苦手意識なんて無いんですって。本当に驚いただけです」

元メイド「…………」

男「…………」

元メイド「……まぁ、そういうことにしておいてあげましょう」

男(良かった……前会った時は久しぶりに会えてちょっと嬉しかったから苦手意識を忘れてただけなんだけど)
男(この前の入浴時の閉じ込め方法とかでちょっと昔のことを思い出して苦手意識が蘇ったことは誤魔化せた)

元メイド「で、しばらくぶり。男くん」

男「はい。メイドさん」

元メイド「元・メイドね」

男「すいません……」

元メイド「まぁ別に良いけど」
元メイド「……で、その二人がこの前言ってた、買ったエルフの二人?」

男「あ、はい。そうです」

時間が~…
まさか5つしか投下出来ないとは……

今日はここまでにします
また明日
すいません

追いついた。乙!
少女ちゃんも奴隷ちゃんも元メイドちゃんもみんなカワイイ!

再開~


>>726 実は書き溜めの段階だと>>1ぐらいの文章なんだ…それが途中で足して足してあれだけ長く……今後気をつけます

エルフ奴隷「あの……ご主人さま……? こちらの方は……?」

元メイド「……なんか、明らさまに警戒してるわね……」

男「これでもマシになった方ですよ」

エルフ少女「で、どちら様ですか?」

元メイド「元メイド。あなた達の前任者、って言った方が分かりやすいかな?」

エルフ少女「あ……あのメモを残してくれた……」

元メイド「そ。あ、カギの束もちゃんと受け取ってくれた?」

エルフ少女「はい。ありがたく使わせてもらってます」

元メイド「それは何より」

エルフ奴隷「…………」ギュッ

男「っと」

元メイド「ソッチの子は男くんにベッタリね……服の裾を掴んで背中に隠れるなんて」

男「元々、地下牢に閉じ込められて長い子でしたから……買って救ってくれたと認識してくれてるボク以外の人間は、まだ苦手なんです。許してあげてください」

元メイド「そのことを責めるつもりなんて毛頭無いって」

男「それにしても、どうして宿屋の前に? 偶然……という訳ではないですよね?」

元メイド「当然」
元メイド「あなたからの返信を受け取って、きっと今日ぐらいに街に来るだろうと踏んで、宿屋の前で待ってたって訳」

男「待ってた、って……もしかしたらココには来ず、他に泊まったかもしれないんですよ?」

元メイド「まさか。あのズボラな男くんが、宿屋を変える、だなんてそんな面倒なことするはずないって」

男「……言い返せない……」

エルフ少女「……旦那様のこと、よくご存知なんですね」

元メイド「半月ほどとはいえメイドやってたからね……って、旦那様て……なんて呼ばせ方してんのよ」

男「好きなように呼んでもらってるだけです。他意はありません」

元メイド「そうなの?」

エルフ少女「まぁ」

元メイド「本当に無理矢理じゃないのね?」

エルフ少女「は、はい……」

元メイド「男様、って呼んであげたら喜ぶわよ。あたしがそう呼んでたし」

エルフ少女「はぁ……」

男「どうしてその理由で喜ぶと思ってるんですか」

元メイド「現に喜んでたでしょ?」

男「まさか過ぎますよ……今と同じで普通でしたよ」

エルフ奴隷「……男様?」

男「いや、今まで通りで良いよ、本当。呼びやすい方でね、うん」

元メイド「そういえばソッチの子はご主人さまって呼んでたわね。……ま、それはメイドなら普通か」

男「それよりも、いつから待ってたんですか?」

元メイド「ん? ん~……まぁ、今みたいに太陽が夕日になる前からかな」

男「え!? ってことは、かなり待ってたんじゃ……」

元メイド「良いのよ。どうせ暇だし」
元メイド「結婚の準備だってほとんど旦那さんがしてくれてるし、今日だってドレスの仕立てが終わって暇だったから待ってただけだし」

男「……良いんですか? そういうので」

元メイド「良いのよ、本当に」
元メイド「現に明日は全日暇だしねぇ……明後日には結婚式なのに」

元メイド「花嫁修業とか結婚の準備とか、そういうのさせられてた頃の方が、結婚に対して実感があったぐらいだし」

男「普通、当事者はそんなに暇じゃないんじゃ……」

元メイド「ま、そこは旦那さんが頑張ってくれてるからね」
元メイド「それに、昨日まで割りと忙しかったのは本当」

元メイド「当日が近づくと準備なんて大方やり尽くしちゃうからね……こうなっちゃうものなのよ」

元メイド「それよりも男くんさ、一つ聞きたいんだけど」

男「なんですか?」

元メイド「その子たち、働いてる時はどんな格好してるの?」

男「どんなって……」

元メイド「……もしかしてだけど……そういった普通の服装のまま働かせてないよね……?」

男「え……? ダメ……ですか?」

元メイド「えぇ~……? むしろなんでそれで大丈夫だと思ってたの……?」

男「まぁ、本人達が動きやすいであろうカッコウで働いてくれてる訳ですし……特に咎めるところもないかなぁ、と」

元メイド「そうじゃない……そうじゃないよっ!」

男「えっ?」ビクッ

元メイド「そうじゃないよ男くん! 分かってないよあなたはっ!!」

男「……えぇ~……?」

元メイド「普通屋敷でのお手伝いさんといえば、メイド服でしょうがっ!!」

男「それは元メイドさんの趣味じゃ……」

元メイド「趣味の何が悪い!!」

男(開き直った……)
エルフ奴隷(開き直りました……)
エルフ少女「開き直った……!?」

元メイド「可愛い子に、あの純潔性と機能性溢れたエプロンドレスを身に纏ってもらえる幸福感……!」
元メイド「あたしが着ていたのを見ていた男くんなら分かるでしょっ!?」

男「……まぁ、手軽にお金持ちになれた感は味わえた……かな……?」

エルフ少女(でもその言い方だと、自分で自分のことを可愛いと言ったようなものみたいだけど……)
エルフ少女(いやまぁ、実際に可愛いさと美人さを兼ね備えた人だけれども)
エルフ少女(……わたしよりも背が高いけど……ちょっとしか変わらないってことは……一般的には低い方……?)

元メイド「それはあたしの質問に答えてない解答だよ!」
元メイド「でもまぁ納得出来る答えでもあるわね!!」

元メイド「あたしも今の屋敷にいる女のお手伝い全員にエプロンドレスを支給したぐらいだし」

エルフ少女(結構はた迷惑なことしてると思う……)

元メイド「やっぱあの服は最高だよ……」
元メイド「最近はミニスカのとか出てるけど、あたしは断然ロング派かな」

男「……それをボクに聞かせてどうしたいんですか?」

元メイド「あ、もちろん男のお手伝いには執事服を支給したのよ」

男「尚のことボクにどういう反応を求めてるんです!?」

元メイド「それまでは私服の上にエプロンつけただけなんて格好してて……本当にただのお手伝いって感じしかしなくて見てられなかったのよね……」

男(自然と無視されてしまった……)

エルフ少女「あ」ハタ

元メイド「ん?」

エルフ少女「いえ、別に……」

元メイド「なに? 言ってみなさいな」
元メイド「もしかして本当にメイド服が欲しくなってくれた?」

エルフ少女「いえ、そもそもその服がどのようなものかを知りませんし……」
エルフ少女「ただそういえば、わたし達は掃除や料理で何かしらの作業をする時エプロンを着けていなかったなと、今思い至りまして」

男「あ~……そういえばそうだったね……まぁそもそもボクの屋敷にエプロンなんて無いんだけど」
男「服買う時に一緒に買うべきだったね。明日あたりにでも買いに行こうか」

元メイド「あいや待たれい!」

男「誰ですか。何ですか」

元メイド「それならもう思い切ってメイド服買っちゃおうよ! エプロンドレスエプロンドレス!!」

男「いえ……別にいいです」

元メイド「なんで!?」

男「というよりそもそも、買ったところで元メイドさんは見れませんよ?」

元メイド「なんで!? 目の前で着て見せてくれるんじゃないの!?」

男「どうしてそこまでしてもらえると……」

元メイド「前任者だからっ!」

男「理由になってないですよ……」

元メイド「ともかく買おうよ!!」

男「え~? 正直エプロン買うだけで済みますし……別に」

元メイド「なら肝心の二人は!? 可愛い服欲しいよね!?」

エルフ少女「わたしも特に欲しいとは……」

エルフ奴隷「私は、ご主人さまの意思に従います」

元メイド「なんと遊び心のない!!」

昨日に続きまた時間が…
今日はここまでにします

今回もたった6レス……
そろそろ長めに時間を取らなきゃなぁ~…
というか取って一気に投下したいよ…マジで

再開~

ちょっと最近中途半端で終わってたという指摘をもらったので
…というか実際そうだと自分でも感じていたので…

とりあえずキリのいい所まで

……まぁ、明日投下できないってのもあるんだけど……

元メイド「分かった! それならあたしが一緒に買いに行ってあげる!!」

男「何を分かったんですか何を……」
男「というか、そろそろ解放してくれません? 宿屋で部屋を取ってゆっくりしたいんですけど……」

元メイド「どうせ男くんの足がパンパンだとかそういうのでしょ? 運動不足を呪いなさい!」

男「当たってるけど呪うほどじゃないです……」

元メイド「それに、部屋なら今はもう満室よ」

男「えっ」

エルフ少女「そうなんですか?」

エルフ奴隷「それは残念です……」

男「っていうかそれならそうと早く言って下さい! こんな悠長に話し込んでる間に他の宿屋も部屋が無くなっちゃいます!」

元メイド「そうよねぇ~……さすがにもっと裏に入った人気のないところで女の子二人と泊まるのは怖いわよねぇ~……」
元メイド「何より今は結婚式という名のお祭り前。戦後初めてだし、沢山の人がこの街に来て、宿屋を利用していることでしょうねぇ~……」

男「分かってくれるのなら、これで失礼しますよ」

元メイド「まあまあ。ちょっとあたしの話を聞いてみない?」

男「そんな時間は――」

元メイド「実は、この宿屋を二部屋、あたしの名義で既に取ってるの」

男「――って、えっ!?」

元メイド「さっきも言ったけど、そろそろどこの宿屋も部屋が一杯になる時期だからさ……」
元メイド「男くんがせっかくココに来ても部屋が満室だと可哀想だと思って、借りておいてあげたの」

エルフ少女「へぇ~……」

エルフ奴隷「…………」

男「…………」
男「…………で?」

元メイド「ん?」

男「その部屋のカギを渡す代わりに二人にメイド服を買ってやってあたしに見せろ、とか、そういうのですか?」

エルフ少女「えっ!?」

エルフ奴隷「…………」

元メイド「相変わらず察しが良いよね、男くんは」
元メイド「まぁ言っちゃうとそういうこと」

元メイド「今の時間だと、もう表側の他の宿屋は部屋が空いてないんじゃないかなぁ……?」

男「……まぁ……その可能性は高いですね……」

元メイド「知り合いのよしみで屋敷に部屋を用意させても良いんだけど……」

男「あなたの旦那さんに迷惑をかけるつもりもありませんし……」
男「なにより、ソッチの方が別の方向で怖いです」

元メイド「悲しいことをサラっと言うわね……」
元メイド「ま、ともかくあたしの作戦勝ちということで」

エルフ少女「……まさかこうなることも予測して部屋を借りていたんですか?」

元メイド「まさか。親切心で借りておいてあげた部屋を、ちょっと交渉テーブルに乗せただけよ」

元メイド「良いじゃない別に。二人の可愛いエルフがメイド服姿を拝ませてくれるんでし」
元メイド「その可愛い姿を独り占めしないであたしにも見せて、ってだけなんだし」

男「…………」

エルフ少女「わたしは別に良いよ、旦那様」

男「え?」

元メイド「へぇ~……」

エルフ少女「そのメイド服とやらを着て、あの人に見せる約束をするだけで、部屋を探す手間がなくなるんですよね……?」
エルフ少女「それなら引き受けましょうよ。部屋も無いかもしれないんだし」

エルフ少女「何より、旦那様ももう歩くのしんどいですよね?」

男「うっ……」

エルフ奴隷「私も良いですよ。でないと、ご主人さまの足にさらに負担がかかりますし……」

元メイド「良い子たちね……本当」

男「なんとなくメイドさんにそういうことをシミジミと言われたくないです……」
男「にしても……情けないなぁ……ボク」

男「女の子にこんなに気を遣われるなんて」

元メイド「運動不足を呪いたくなったでしょ?」

男「……残念ながら、呪いたくなりましたね」

男「にしても……メイド服か……二人の言葉に甘えるにしても……」
男「……う~ん……」

元メイド「なに? 男くんも可愛らしい姿で働いてもらえるようになるんだから、嬉しいことだらけじゃないの」
元メイド「メイド服を合法的に着せる口実も出来るんだし」

男「元々メイド服を着せるのに合法非合法も無いでしょう……」

男「ではなくて……その……エプロンドレスが売られてる店ってどこだったかなぁ、と思いまして」
男「むしろボク、服屋ってあまり知らないから、全く分からないんですよ……だからどうしたものかと思いまして」

元メイド「あ~……そういうこと」
元メイド「んじゃ、あたしの贔屓の店を教えて――」

元メイド「――いや」
元メイド「もういっそ明日、あたしに二人を貸してくれない?」

男「えぇっ!?」

元メイド「だってそしたら、試着してくれてすぐに二人のメイド服が拝めるし……」
元メイド「何より! 男くんに選ばせるより、可愛いのを選んであげられるっ!」

男「……いや、基本的にどれも変わらないでしょう……」

元メイド「ちょっと“一緒に買いに行ってあげる”が両手に花のデート方式になっただけじゃない!」

男「どこのおじさん貴族の発想ですか……」

元メイド「奮発しちゃうよ~。可愛い女の子相手だからねぇ~」

元メイド「ってことで、どう!?」

エルフ奴隷「私は……そこまでなると、ちょっと……」
エルフ奴隷「知らない人間の人と買い物は……怖いです」

元メイド「でも男くんと一緒に買いに行くとなると、服のサイズとか色々と知られちゃうことになるけど……?」

エルフ奴隷「…………」
エルフ奴隷「……うぅ~……」ムネペタペタ

元メイド「ふふっ……で、あなたはどうするの?」

エルフ少女「わたしですか?」
エルフ少女「う~ん……でも正直、その方が効率が良いように思うのも事実ですね」

元メイド「なら決まったようなものね」

元メイド「知らない人間と二人きりなら怖いだろうけど、この子も一緒だとあなたも怖くないでしょ?」

エルフ奴隷「…………」

元メイド「それでも怖いか……」
元メイド「なら、男くんが命令するなら? あたしと一緒に行け! って」

エルフ奴隷「…………」

元メイド「ん~……」
元メイド「なら、男くんがあたしのことを大丈夫だ、と保障するなら?」

エルフ奴隷「…………」…コク

元メイド「よしっ」
元メイド「じゃあ男くん、あたしは別に大丈夫よね? いきなりこの子たちを裏切ったりする人じゃないよね?」

男「……まぁ、確かにメイドさんは信用できる人ですけど……」

元メイド「さっきから注意忘れてたけど、元メイドだから」

男「すいません……クセで」

元メイド「……で、どうなの?」

男「……まぁ、アレですね」
男「一応、護身用の魔法を二人に持たせても良くて、二人がそれで良いと言うのなら、それでお願いしましょうか」

元メイド「あれ……? 思いのほか信用されてない……?」

男「そうではなくて、女の人三人で歩いていると危ないことに変わりはないですよね? 結婚式の前というのは」

元メイド「まぁ、基本的に賑やかなだけに、それに生じて何かしら起きるものだけど……」
元メイド「でもさすがに護衛ぐらいつけるって」

男「いえ。むしろ護衛はつけないでください」
男「もし護衛をつけて人間を増やしてしまったら、二人が怯えてしまいますから」

元メイド「……それもそっか」
元メイド「男くんは二人のことを考えてるんだね」

男「あなたも含めた三人のことをですよ」

男「本当は、今日みたいに一人で待ってるような状況、止めてもらえた方が良いんでしょうけれどね……」
男「今は本当、何があるのか分かりませんし」

元メイド「……そ、っか……」
元メイド「そういえば男くん、あたしが一人で街に買出しに行くときも、色々と持たせたもんね」

男「当たり前ですよ」
男「本当、危ないんですから。広い街というのは。こんなに人が集う前でも」

男「特に女の子なんて……狙われて当たり前という気構えでいても足りないぐらいなんですから」

元メイド「さすがにそこまでいくと心配性すぎると思うけど……」

男「街を見回ってくれている衛兵なんて信用できませんし」
男「ボクが言うのもアレですけれど」

男「で、二人は本当にそれで良いの?」

エルフ少女「わたしは全然」

エルフ奴隷「私は……本当にご主人さまがさっき言ってくれた通りにしてくれるのなら……我慢します」

男「ん、ありがとう」
男「ということで明日、二人のこと、お願いしますね」

元メイド「まっかせて!」
元メイド「うんと可愛いメイド服を買ってあげるから!」

男「……いやだから、ほとんど変わらないでしょうって……エプロンドレスなんて……」

元メイド「そんなことないって」
元メイド「なんなら、明日一緒についてくる?」

エルフ奴隷「えっ?」

元メイド「サイズを測る時とかは店の外にまで出てもらうけど」

エルフ奴隷「ほっ」

男「どうしてそこまで……」

男「でも、まぁ、そうですね……メイドさんに預けても良いのなら、ボクはボクでしたいことをしようと思います」

元メイド「したいこと?」

男「はい。ちょっと、本を探しに行こうかと思いまして」
男「少し、今している実験を発展させるのに必要なものがありますし……それを探しに行こうかと」

男「あとはまぁ、まだ必要には迫られてないですけど、ついでですから少しだけ食料の補充をと」

元メイド「あ、っそ。はぁ~……それじゃあ男くんは、二人の晴れ姿をあの山奥の屋敷に帰るまで見れないって訳か」

男「晴れ姿と言うほどでも無いでしょう……」
男「それに、帰ってから見れるなら、それで十分ですよ」

元メイド「寂しいことを……ま、そういうことなら仕方ないか」

~~~~~~



◇ ◇ ◇
 宿屋内
二人部屋
◇ ◇ ◇

エルフ少女「提案があるんだけど」

エルフ奴隷「提案……ですか?」

エルフ少女「そう。せっかくこの街に来たんだし、やれることはやるべきだと思う」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「それであの人を裏切ることになるかもしれないけど……わたしは、やりたい。同胞のために」
エルフ少女「今も毎日心の中で話す、あの人のために」

エルフ奴隷「……何をですか?」

エルフ少女「ソレは一応の問いかけだよね?」
エルフ少女「本当は分かっている……そんな感じがする」

エルフ奴隷「……その通りです」
エルフ奴隷「あなたが何をしたいと言っているのかは、分かっています」

エルフ奴隷「ただ、確認したかっただけです」
エルフ奴隷「…………」









エルフ奴隷「あなたは……私達を捕まえていたあそこへと向かい……同胞皆を救いたい」



エルフ奴隷「……と、そう言いたいのでしょう?」

エルフ少女「ご明察」

すまない
結局微妙に中途半端になってしまった…

でももう止めないと色々と厄介なことになりそうなんだ…

今日投下しようと思っていたあと五つほどは、明日無理矢理時間を開けて投下します
…あれ? それって結局いつも通りの毎日投下になるんzy(ry

なんか中途半端に投下するとこのスレ消化しそうだなぁ…
出来れば第二部をこのスレで終わらせたい

明日休みになったし、長時間の投下が出来るようになったら第二部終わりまで一気に投下します
それまで可能ならばレス数を余らせてくれたら嬉しかったり

投下開始します
とりあえず第二部をこのスレ中に終わらせたい

そんな気分

エルフ奴隷「ですが、方法はあるのですか?」

エルフ奴隷「この白い首輪のせいで、秘術は満足に使えない」
エルフ奴隷「そして逃げた時の探知にも用いるということですから、きっと私達が近づくことも知られてしまう」

エルフ奴隷「何より、この首輪を物理的に破壊することは叶わないと思ったほうが良いでしょう」
エルフ奴隷「もしそれが可能なら、そもそも探知式としての形を成さないことになりますし」

エルフ奴隷「あっさりと壊れるのなら……探知としての役目を果たさないことになりますし」

エルフ少女「確かに。それがネックだとわたしも思ってた」
エルフ少女「だから今回も諦めた方が良いかなとも思ってた」

エルフ少女「今日の話が出るまでは」

エルフ奴隷「今日の話……?」

エルフ少女「そう」

エルフ少女「旦那様がわたし達に、護身用の魔法を預けてくれるという話」

エルフ少女「さっきわたし達に預けていったこの蓋のされたガラス瓶の扱い方、覚えてる?」

エルフ奴隷「瓶の蓋を開け、水を相手にかけるように使えば発動すると……」

エルフ少女「そう」
エルフ少女「魔法に関してはよく分からないけど、これってつまり、魔力とやらを作れないわたし達でも、限定的で一時的にとはいえ、魔法が使えるってことよね?」

エルフ奴隷「そう……ですね」
エルフ奴隷「言ってしまえば、一度きりの魔法道具(マジックアイテム)のようなものですし」

エルフ少女「これって、どういう仕組みなのか分かる?」

エルフ奴隷「おそらくは、瓶の口を覆うよう表面に薄く“水の中に施してある術式が発動しないようにする”といった術式が施されているのだと思います」
エルフ奴隷「そしてその水の中にある術式を、きっとご主人さまが、事前に魔力を込めていつでも発動可能にしておいてくれている」

エルフ奴隷「それでなんとか“瓶の中に術式発動直前の水が入っている”という形を保ち、魔法を発動しないようにしているのでしょう」

エルフ少女「それで魔法を発動するために、その表面に施してる魔法よりも外に出すことで……」

エルフ奴隷「中にある“魔力と術式が既に込められている水”が魔法を発動させる」
エルフ奴隷「きっと、そんなところでしょう」

エルフ少女「なるほど……だから水をぶちまけるときは勢いよくぶちまけろって言ってたのね……」
エルフ少女「でないと、発動した時魔法が手を巻き込まれちゃうかもしれないし」

エルフ奴隷「……もしかして、この魔法を使って、この首輪を壊すつもりですか……?」

エルフ少女「まさにその通り」
エルフ少女「魔法を使えなくする首輪なら、そもそも魔法に対する耐性は無いに等しいだろうしね」

エルフ奴隷「それは……不可能でしょう」
エルフ奴隷「さっきの説明どおりなら、首ごと吹き飛んでしまいますよ?」

エルフ少女「吹き飛ばない方法があるとしたら?」

エルフ奴隷「え?」

エルフ少女「見てて」

エルフ少女「…………」ブツブツ…

エルフ奴隷「……まさか……」

エルフ少女「」キィィ…ン

エルフ奴隷「秘術が……使えるのですか?」

エルフ少女「正確には、使えるようになれた、ね」
エルフ少女「毎朝日課にしていた運動の後、何度も精霊に話しかけてたら、いくつか応えてくれるようになったの」

エルフ少女「確かに言葉が何度も阻害されちゃうけど……でも何度も試したおかげで、手のひら限定とはいえ、こうして手に集中してくれるようになった」

エルフ少女「ま、わたしが元々近くで戦うときの補助用秘術は得意だった、ってのもあるんだろうけど」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「でも、これが使えるようになったところで、結局は力が増すわけでもなく、ちょっと何かを防げるようになっただけ」

エルフ奴隷「しかし今回は……それを有効活用すると」

エルフ少女「そういうこと」

エルフ少女「この状態で、首輪の近く――顔の前と心臓の前に手を置いておけば……少なくとも、死ぬことはない」

エルフ奴隷「ですが、広範囲の魔法だった場合は……」

エルフ少女「さっき一つ一つ旦那様がしてくれた説明を、奴隷ちゃんが覚えててくれたでしょ? なら、そうじゃない魔法で使えるじゃない」

エルフ奴隷「……狙いが外れたら……」

エルフ少女「奴隷ちゃんなら外さないと、わたしは信じてる」

エルフ奴隷「……それでも、多少の怪我はしますけれど……」

エルフ少女「そうでもしないと同胞を救えないことぐらい、覚悟してる」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「……そこまで覚悟してくれているのなら、私から言うことは何もありません」

エルフ少女「じゃあ……」

エルフ奴隷「私も、同胞は救いたいです」
エルフ奴隷「ご主人さまに救われただけで満足していましたが、その満足に浸かった今――」

エルフ奴隷「――皆を救いたいという、挫かれていた願望が、胸のうちに蘇っています」

エルフ奴隷「それを叶えられる機会だというのなら……」
エルフ奴隷「あなたに怪我をさせてしまうことになりますが……」

エルフ奴隷「是非とも、協力させてください」

エルフ少女「…………」

エルフ少女「でも、成功しても失敗しても、あの人を裏切ることになるよ?」
エルフ少女「この魔法の瓶だって、あのわたし達についてきてくれる女の人を守るための分もあるんだし……」

エルフ少女「提案したわたしが言うのもなんだけど、それでも良いの?」

エルフ奴隷「……構いませんよ」

エルフ奴隷「確かに私は、ご主人さまを信用しているし信頼しています」

エルフ奴隷「ですが今、私をこうして保たせているのは……」

エルフ奴隷「同胞へと欲をぶつけていた人間への復讐心と」
エルフ奴隷「同胞を救いたいという想いと」
エルフ奴隷「ご主人さまから向けられていると実感できるこの暖かな気持ち」

エルフ奴隷「その三つだけです」
エルフ奴隷「もしそのどれか一つでもこの身を離したその瞬間こそ――」



エルフ奴隷「――私が、私でいられなくなる時なのだと思います」



エルフ奴隷「非道を行われ続け、ご主人さまの言葉に救われるより前に成っていたあの私に……」

エルフ奴隷「そのまま、嘘の言葉と醜い性欲をぶつけ続け……」
エルフ奴隷「期待を裏切り希望を投げ捨てさせ……」

エルフ奴隷「その当時抱いていた唯二つだけの支えを壊され成ったものよりもさらに酷い……」



エルフ奴隷「きっと……そんな状態に、私は成ってしまうのだと思います」

~~~~~~

翌日

昼食後

◇ ◇ ◇
 宿屋前
◇ ◇ ◇

男「あ」

元メイド「お待たせ~」

男「本当に一人で来てくれたんですね」

元メイド「まぁ約束だしね」
元メイド「執事にめちゃくちゃ止められたけど」

元メイド「明日はあなたの結婚式なんっすよ! 治安は安定しているとはいえ屋敷でゆっくりとしてて欲しいっす!! それが無理ならせめて自分を連れて行って下さいっす!!」

元メイド「とか言われた」

エルフ少女(あ……そんなしゃべり方の執事がいたっけ……そういえば……)

元メイド「まぁ馬車で送らせるだけ送らせて少し離れたところで待たせてるんだけど」

エルフ少女(……昨日から思ってたけど……随分とやんちゃな人だな……)

元メイド「それじゃあ、早速行きましょうか」

男「あ、もう行きますか」

元メイド「ここで話し込んでても仕方ないしね」
元メイド「何より早く二人のメイド服姿を見たいし!」グッ

男「力強いですね……まぁ、それではよろしくお願いします」

元メイド「はい任された!!」

男「それじゃあ二人とも、誰かに襲われたら遠慮なく渡した魔法、使ってくれて良いからね」

エルフ少女「はい」

男「なんならその人に使ってくれても良いからね」

元メイド「…………」
元メイド「……ん?」

男「いえいえ、さすがに冗談ですよ」
男「その人が襲われても使ってあげてくれと、そう言いたかったんですよ」

元メイド「……本当~?」

男「本当ですよ」

元メイド「……ま、そういうことにしておきましょうか」

~~~~~~

テクテクテク…

元メイド「さて……女三人だけになった訳だけど……」

エルフ少女「…………」
エルフ奴隷「…………」

元メイド「……どこに行こうか?」

エルフ少女「えっ?」キョトン

元メイド「ふふっ、冗談冗談」
元メイド「向かってる場所は決まってるから、安心して」

エルフ少女「はぁ……」

元メイド「……ま、知り合いの知り合いみたいなものだしねぇ……よそよそしくなるのは仕方ないか」

エルフ奴隷「…………」

元メイド「ん~……とはいえ、特に話すこともないしねぇ……」

エルフ少女「あの……」

元メイド「ん?」

エルフ少女「昔あなたが働いていた時の旦那様って、どうだったんですか?」

元メイド「どう、と言われてもねぇ~……たぶん、あなた達と変わらないわよ」

元メイド「魔法の研究ばっかりしてて、食事も睡眠も満足にしない、ズボラな性格」
元メイド「だからこそあのメモと鍵を後任者に託したんだし」

エルフ少女「その……それでは、旦那様の世話をするのが面倒だったとか、そういうのは……?」

元メイド「面倒ではなかったわ。お世話のしがいがあるとさえ思ったぐらいよ」
元メイド「現に男くんは、あたしに何も求めなかったけど、優しくはしてくれたし、感謝もしてくれた」

元メイド「他の屋敷に勤めてた時なんて、我が強すぎるせいで他のメイド達のチームワークを乱しまくり、って陰口叩かれてたこのあたしを、ちゃんと評価してくれたりもしたしねぇ~……」

エルフ奴隷「…………」

元メイド「ん? もしかして、面倒だったりとか?」

エルフ少女「そんなことは……ありません」

元メイド「……迷うのね」

エルフ少女「……そうですね。正直、よく分からないんです」
エルフ少女「最近の自分から、どうも甘くなってるような気がして……」

エルフ少女「こんな話を初対面のあなたにしたりとか……そういうのが」

エルフ少女「旦那様に出会ったばかりのわたしなら……こんな話をすることは、絶対に無かったはずなんです……」
エルフ少女「ですから、もしかして……わたしがこうなったのは、旦那様のせいなんじゃないかとか……そんなことを考えてしまったり」

エルフ少女「あ……すいません。突然こんな話をされても、困りますよね」

元メイド「ん~……なぁんていうかさ、アレよね」









元メイド「あなたって、まだまだ子供よね」

エルフ少女「…………」
エルフ少女「…………え?」

元メイド「ああ、いや。確かにエルフなんだし、わたしより長生きはしてるんだと思う」

元メイド「いや、実際にしてるんだろうケド」

元メイド「でもそういう“生きてきた年齢”って意味の大人子供じゃなくて……精神的な意味での大人子供ってことね」

エルフ少女「……それって、余計にわたしを貶めてません?」

元メイド「そんなこと無いって。むしろ若いって言うのは良いのよ、本当に」

元メイド「まだまだ、色々な形に成長できる可能性があるってことなんだから」

エルフ少女「はぁ……」

元メイド「きっとあなたは、日頃悪いことをしている人が少しでも良いことをしてるのを見ると『あれ? 実はこの人、わたしが思ってるよりも悪い人じゃないんじゃないか』とか錯覚しちゃうタイプよね」

エルフ少女「そ、そんなことは……」

元メイド「本当にそう? よく思い返してみて」

エルフ少女「…………」

エルフ少女(確かに……言われてみれば、そうなのかもしれない)

エルフ少女(わたしは最初、人間全てを恨んでいた)

エルフ少女(戦争に勝ったからといって、わたし達を奴隷扱いしたことも含め……)

エルフ少女(里を焼き払い、男を殺し、女を陵辱し、わたしへ酷いことをしようとしてきた人間……)

エルフ少女(お父さんを後ろから刺し、お母さんを縛って自殺へと追い込んだ、卑怯で愚劣な人間……)

エルフ少女(その集団から同胞を救い、人間全てへの復讐をすることを、わたしは……誓っていたはずだった)

エルフ少女(それが今では……その恨みが本当にあるのかどうかさえ分からないときている)

エルフ少女(あの人が、優しくわたし達に接してくれただけで……人間全てがそうなんじゃないかと、勝手に錯覚してしまっている)



エルフ少女(まさに、指摘された通りだ)



エルフ少女(この人の執事が屋敷を訪れた時だってそう)

エルフ少女(こうして、この人にこんな相談を持ちかけてしまっているのだってそう)

エルフ少女(全て……わたしが勝手に、勘違いしてしまっているだけだ)

エルフ少女(頭では、あの人と人間全体は違うと思い込んでいても……)



エルフ少女(わたしの中の知らないわたし――本質とも呼べるわたしは、そう思い始めてしまっていた)



エルフ少女(人間は、実は優しいのではないのかと)

エルフ少女(わたしの両親を陵辱したり殺したりして酷いことをする奴らこそが、少数なのではないかと)

エルフ少女(戦争で敵国だからという大義名分に溺れた、一時の悪鬼の類でしかなかったのだと)



エルフ少女(そう、間違った認識をしてしまっていた)



エルフ少女(あの人一人のせいで……)





エルフ少女(あの人としか、満足に人間と接してこなかったせいで……)

元メイド「人間がエルフにしたことは、恨まれて当然のことだと、あたしも思う」

元メイド「戦争だから仕方の無いことだと思う反面、もう少しやりようがあったんじゃないかとも思う」

元メイド「思ったところでどうすることも出来ないし……仕方ないと少しでも思ってしまっている時点で、謝罪をしてもただの自己満足にしかならないことも理解している」

元メイド「奴隷という名称で、戦争孤児への救済を人間はやっているけれど……それでも、あたし達がした酷いことが、ゼロへと至る事は絶対に無い」

エルフ少女(そっか……ほとんどの人間は、エルフという奴隷の“本当の扱い”を知らないんだっけ……)

元メイド「でもね……そうやって思っている人間すら少ないのが、現状なの」

元メイド「ほとんどの人間は、戦争で負けたエルフを奴隷として扱うのすら間違っている、と思う人ばかり」

元メイド「もっと酷い扱いをして当然だと思っている人ばかり」

元メイド「だからさ……あたしや男くんみたいに、あなた達にちゃんと接してくれる人間ばかりじゃないことは、理解していて欲しいの」

元メイド「じゃないと……危ないからさ」

元メイド「……ま、その点のことは、この子の方が理解できてるか」

エルフ奴隷「…………」

元メイド「例え男くんが大丈夫だと言っても、警戒は解かない」

元メイド「ずっとあたしを警戒し続けて、満足に口も聞いてくれない」

元メイド「人間全体に対し恨み、男くんだけが特別だという認識を持ってる」

元メイド「……ちょっと悲しいけど、コレがエルフとして、きっと正しい反応なんだろうと思う」

元メイド「ちょっと救いの手を差し伸べたからって対等に付き合えだなんて、酷いことをした立場としてみても、虫のいい話だとあたしでも思うし」

エルフ奴隷「…………」

元メイド「ま……そのことを分からない人間の方が多いんだけど、ね」

エルフ少女「…………」

エルフ少女「……わたしは……」

元メイド「ん?」

エルフ少女「わたしはどうやら、やっぱり甘くなっていたみたいです」
エルフ少女「あなたに指摘されるまで、勘違いをしていました」

元メイド「……そ」

エルフ少女「おかげで、少しだけ……正せた気がします」

エルフ少女(現に、分からなくなっていたわたしが、少しだけ分かった)

エルフ少女(おかげで、モヤモヤだって晴れた)

エルフ少女(わたしが、どういう気持ちでいればいいのかも……中途半端な位置からどうすれば良いのかも、指針が立てられた)

エルフ少女(気持ちの整理をどうすれば良いのかも、漠然とだけれど、分かってきた)

エルフ少女(あの人に対して、素直な気持ちでいれば良いのだということも……)

エルフ少女(心の拠り所が、どこなのかも……)

元メイド「……ま、そうして勘違いを正してやるのは、人間という種族として正しいことなのかどうかは分かんないけど……」
元メイド「でもま、あたし個人としては、良かったと想うわ」

エルフ少女「はい」

エルフ少女「それでも、こうして指摘してくれたあなたまで、あたしは恨んだりすることは出来ないんでしょうけれど」

元メイド「……ふふっ、それは良かった」
元メイド「もしここで恨まれたら、メイド服なんて着てくれなくなるもんねぇ~」

エルフ少女「ふふっ……」

元メイド「……ま、何はともあれ、やっぱり子供ってことよ、あなたは」

元メイド「そうしてすぐに、話を受け止められるんだからね」

元メイド「大人になったらその素直さまで無くなっちゃうからねぇ~……ホント」

エルフ奴隷「…………」

元メイド「そういう子供の部分は、大いに残しておいた方が良いわよ」

元メイド「素直なまま大人になるのが、一番なんだから」

元メイド「っと、そんな話してる間にも、店の前に着いちゃったわね」
元メイド「ちょっと話を通してくるから、待っててちょうだい」

エルフ少女「はい」

ギィ…

――いらっしゃいませ――

――どうも、お久しぶりです――

――おお、今日はどういったご用件で――

…パタン

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「……その、さ」

エルフ奴隷「はい?」

エルフ少女「ごめんね」

エルフ奴隷「……はい?」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「……えと……何が、ですか?」

エルフ少女「ちょっと思い返したら、初めて話した時、何も知らないバカみたいなこと言ってたなぁ、って」

エルフ少女「結局、奴隷ちゃんの言ってたことが正しかったんだなぁ、って思って」
エルフ少女「それをあの時、否定しちゃったことを、謝りたかった」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「……私、なんて言いましたっけ?」

エルフ少女「」ガクッ

エルフ奴隷「初めて話した時……というと、あの宿屋で部屋が一緒になった時ですよね?」

エルフ少女「人間には良い人間と悪い人間がいて、旦那様は良い人間だから何でもしてあげたい、みたいな話です」

エルフ奴隷「……あぁ~……」

エルフ少女「わたしはそれに対して、世迷言って言って、切り捨てた」

エルフ少女「……奴隷ちゃんの言うとおり、人間だから悪、という短絡的な考えに則ってしまっていたから」
エルフ少女「本当は、あなたの言うとおり……良い人と悪い人がいる、ってだけだったのに」

エルフ少女「あなたの方が、わたしよりも大人で――」

エルフ少女(例えそれが、今よりも追い詰められていた状態で発せられていた、壊れかけの言葉だったのだとしても)

エルフ少女「――正しいことを、言っていた」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「だから、謝りたかったの」

エルフ少女「無知に責めたりして、ごめん」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「……その……なんと言いますか……別に、謝らなくて良いですよ?」

エルフ奴隷「でも……」

エルフ奴隷「あの時の私は、ただ何も考えていなかっただけです」

エルフ奴隷「恐怖に怯え、痛みを持って教え込まれたことをそのまま、忠実にこなそうとしていただけです」

エルフ奴隷「辛うじて持っていた二つの支えをほとんど壊され、身に染み込まされた恐怖の場所から遠ざかりたいがために……」

エルフ奴隷「その恐怖を与えてきた人が、目の前に吊り下げてきた救いに、縋っていただけなんです」

エルフ奴隷「実際はそれすらも、ただただ救いの無い絶望へと叩き落とさせるために用意しておいた、偽物のエサでしかなかった訳ですが……」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「ですから……その上での言葉なんですから、別に謝罪なんてしなくても良いんです」

エルフ奴隷「実際、買ってくれた人があのご主人さまで無かったなら、あなたの方が正しかったとも言えます」

エルフ奴隷「人間全てを恨み続けている方が」

エルフ奴隷「自分を買ってくれて救ってくれた人だから優しい人、なんてものは、偏った危ない思考です」

エルフ奴隷「……今だから分かるんです」

エルフ奴隷「ご主人さまにあそこにいてもいいと言われたから、分かれたんです」



エルフ奴隷「私は、運が良かっただけなのだと」



エルフ奴隷「運が良かったから、絶望へと落とされず、希望への橋を掛けてもらえたのだと」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「もし……あの地下牢で、私に色々としてきた人に買われてしまっていたら……私は確実に、壊れていました」

エルフ奴隷「こうして、ご主人さまの知り合いであろうとも警戒する、なんてこともしなかったでしょう」

エルフ奴隷「買ってくれたご主人さまの知り合いだから大丈夫だと、何の根拠もなし思っていたのでしょう」

エルフ奴隷「いえ、思うことすら出来ず、ただただ頭に届く前に――思いと考えに至る前に、納得してしまっていたのだと思います」

エルフ奴隷「だから……私は、別に正しいわけではありません」

エルフ奴隷「ご主人さまが優しくて、本当に私の言うとおりの救世主になってくれただけで……」

エルフ奴隷「偶然にも、私を大切にしてくれる人が、私を買ってくれただけで……」

エルフ奴隷「本当に、運が良かっただけです」

エルフ奴隷「そしてだからこそ……その運そのものとも言えるご主人さまを、私は信頼しているし、信用しているのです」

エルフ奴隷「……まだ、ご主人さま本人にしか、そうは出来ませんが……ね」

エルフ奴隷「私こそが無知だった」

エルフ奴隷「……もしかしたら、そう思うことすら出来ない状況へと追いやられていたかもしれない……」

エルフ奴隷「追いやられていたのなら、その場合は、少女さんの言い分の方が正しかった」

エルフ奴隷「人間全てを悪とみなす方が」

エルフ奴隷「少なくとも、そういう世界へと放り込まれていたでしょう」

エルフ奴隷「ですから……別に、謝らないで下さい」

エルフ奴隷「本当に、偶然、あの人が買ってくれたおかげで……私はこうして、この場にいられているのですから」

エルフ少女「…………」

エルフ少女「……うん、分かった」

エルフ少女「じゃあもう、このことに関しては、謝らないようにする」

エルフ奴隷「はい。それで十分です」

エルフ少女「ん」

ギィ…

元メイド「おまたせっ」
元メイド「さっ、まずは服のサイズから測りましょうか!」

エルフ少女(……わたしは、まだまだ子供だ)

エルフ少女(元メイドさんの指摘どおり)

エルフ少女(…………)

エルフ少女(でも……それが悪いというわけではない)

エルフ少女(事実、そうなんだから)

エルフ少女(言われた通りなんだから)

エルフ少女(肝心なのは、それを受け入れたあとに、どうするか……)

エルフ少女(まだまだ子供でいるのか……それとも、踏み出すのか)

エルフ少女(……両親を亡くしてしまった今、わたしは、踏み出さないといけない)

エルフ少女(両親が前を歩いて、わたしを引っ張って大人へと導いてくれるはずだった、この真っ暗な道を……)

エルフ少女(一人でも、頑張って)

エルフ少女(……確かに、怖い)

エルフ少女(このまま、子供でいた方が、怖くない)

エルフ少女(だけどそれだと、わたしはまた、色々と考え込んでしまう)

エルフ少女(最悪、悪い人間に、騙されてしまうかもしれない)

エルフ少女(守ってくれる大人がいなくなった子供は……悪い大人に、狙われるだけなのだから)

エルフ少女(だからわたしは……進みたい。大人になりたい)

エルフ少女(自分を守るためにも)

エルフ少女(だったら……だったら、どうすれば良いのか)

エルフ少女(前を歩いて手を引いてくれる大人がいなくなったわたしは……どうやって、この真っ暗な道を歩けば良いのか……)

エルフ少女(それが分からなかったから……わたしは、心の拠り所がないと思っていた)

エルフ少女(でも……今なら分かる)

エルフ少女(わたしはただ、既に前を歩いている、尊敬できる大人の背中を目指して、歩けば良いのだと)

エルフ少女(それは、あの人だったり、奴隷ちゃんだったり……)

エルフ少女(一人は、人間だけれども……)

エルフ少女(けれども、その人たちのように成りたいと思い……その背中を追い越すつもりで、追いかけていれば良い)

エルフ少女(今はまだ子供だから、守ってもらってばかりだけれど……)

エルフ少女(いつかは……その人たちの横に並んで、その人たちに追いかけてもらえるような……そんな人に、なれば良い)

エルフ少女(手を引いてくれる大人がいなくなった今、それは過酷で、辛いものなのだろうけれど……)

エルフ少女(こんな状況に追い込んだ悪い人間を、わたしはまだ恨んでいるし、一生恨み続けるし、いずれは晴らすつもりでいるけれど……)

エルフ少女(それで良い)

エルフ少女(復讐は何も生まない、だなんて、絵本の中の言葉を信じられるほどには、わたしも子供じゃなくなってしまった)

エルフ少女(でも……だからと、復讐以外を考えられない大人でも、わたしは無い)

エルフ少女(……今は、それで良い)

エルフ少女(この憎悪が風化してしまうのが、お父さんとお母さんの願いとも思えないし……ね)

エルフ少女(肝心なのは……そう)

エルフ少女(人間全てがエルフにとっては悪そのものなのだろうけれど、その中にもほんの数人、良い人がいる)

エルフ少女(そのことを知って、そのことを的確に見分けられる大人になるために、前を向いて歩く)

エルフ少女(時には、わたしが追いかけている二人に守ってもらいながら……進んでいく)

エルフ少女(復讐によって殺す人間と、そうでない無害の人間を見分ける力を、身につけながら……)

エルフ少女(きっと……それこそが、わたしの中の、わたしの心の拠り所……)

~~~~~~

ギィ…

元メイド「よしっ、じゃあメイド服も買ったし、帰ろうか」

エルフ少女「あの……」

元メイド「ん?」

エルフ少女「本当に良かったのですか? その……四着も買っていただいて……」

元メイド「もちろん。むしろそれぐらい無いと、困ることも多いでしょ?」

エルフ少女「はぁ……」

元メイド「あ、買った服はあなた達が泊まってる宿屋に届けてもらえることになってるから」
元メイド「部屋に戻ってしばらくしたら、届くと思う」

エルフ少女「何から何までありがとうございます」

元メイド「そういうサービスが売りなんだから当然」
元メイド「それに、お礼を言いたいのはこっちよ。なんだかんだで結構付き合せちゃったし」

エルフ少女「ですがこれは、言ってしまえばわたし達の買い物みたいなものですし……」

元メイド「あたしは二人のファッションショーが見れて満足なのよ」
元メイド「ドレスも売ってる店だからって色々着せちゃって……逆に疲れたでしょ?」

エルフ少女「いえ、そんなことは……」

エルフ少女「そういえば、旦那様よりお金を預かって来てますが……」

元メイド「ああ、返しといて」

エルフ少女「ですが……」

元メイド「多くもらいすぎた退職金から払っといたから、って伝言しといてくれれば十分だから」

エルフ少女「……そう、ですか……」

元メイド「そう」
元メイド「んじゃ、宿屋に戻りましょうか」

元メイド「あたしの馬車もその付近で待ってもらうように頼んでおいたしね」

テクテクテク…

元メイド「にしても……良いストレス発散になったわ~……」

エルフ少女「はぁ……」

元メイド「あの屋敷、旦那さんと大旦那さんは良い人だし、あたしのお付きやその二人に付いている使用人は良いんだけど……他の兄弟姉妹がもう結婚について色々とうるさくて……」

元メイド「久しぶりにのんびりと縛られること無くはしゃげたわ」

エルフ少女「……もしかして、そのためにわたし達を……?」

元メイド「可愛い女の子に色々と服を着せて見るのってすごい楽しくてね」
元メイド「屋敷のメイドでも良かったんだけど、やっぱ結婚式までちょっと忙しそうで、お願いし辛いし」

元メイド「だからま、テイの良い代わり、みたいなものだったの」
元メイド「ごめんね。ストレス発散につき合わせて」

エルフ少女「いえ……そんな。構いませんよ」

元メイド「はあ~あ……旦那さんは好きなのに、あの兄弟姉妹だけは本当に何とかならないものか……」
元メイド「こんなことなら、男くんの屋敷に仕えたままのほうが良かったのかも」

エルフ奴隷「…………」
エルフ奴隷「すいません」

元メイド「ん? どうしたの? 珍しいね」

エルフ奴隷「一つ、お訊ねしてもよろしいでしょうか」

元メイド「なになに?」

エルフ奴隷「あなた様は、ご主人さまのことが好きなのですか?」

元メイド「…………」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」

元メイド「……ん~……難しいことを聞くわね……」

エルフ奴隷「すいません……少し、気になったもので」

元メイド「でも、どうしてそう思ったの?」

エルフ奴隷「大人になれば素直になれない、と少女さんにお話している時、なんだか自分について言い聞かせているように見えましたので……」

元メイド「……鋭いのね、あなたって」

エルフ奴隷「ご主人さまにも、同じことを言われました」

元メイド「そ、っか……」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」

元メイド「……ま、そうね」

元メイド「男くんのことは、大好きよ」

元メイド「ただ、今はその感情が恋愛を含んではいないけれど」

エルフ奴隷「今は、ですか?」

元メイド「……ま、仕えていた頃は、ね」

エルフ少女「それなら……どうして、他の方との結婚を?」

元メイド「……待てなかったのよ、あたしが」

エルフ少女「待てなかった?」

元メイド「あの人はね……研究ばかりを見てて、研究が一番だった。自分自身を二番目以下に置いてでもね」

エルフ少女「…………」

元メイド「その研究が終われば、あたしのことを見てくれたのかもしれないけど……なんだろう、やっぱり待てなかった」

元メイド「そもそもあたし自身、男くんを愛していたと、その時は自覚が無かった」
元メイド「ううん。今も無い。さっきの言葉をすぐに否定することになるけど」

元メイド「仕えていた頃に抱いていたあの感情も、本当に恋愛感情なのかどうかが分かんないの」

エルフ奴隷「…………」

元メイド「ただ……今旦那さんに抱いているこの気持ちが恋愛感情なら、あの人に抱いていたあの気持ちも恋愛感情だったんだな、ってだけの話」

元メイド「もしこの気持ちが恋愛感情でないのなら、あたしは旦那さんですら恋愛感情を抱いていないことになる」

元メイド「だから、昔は男くんのことも好きだった、って思い込んでる」

元メイド「思い子もうとしてるのかも」

元メイド「……好きなのは確か。一緒にいて安心するのも絶対」

元メイド「でもそれは、男くんと一緒に話していても、同じ気持ちになるの」

エルフ少女「…………」

元メイド「……ま、あたしと旦那さんの出会いは特殊だからね」

元メイド「政略結婚……とは違うけど、あたしのしっかりした所を彼の父親が見て、その父親の紹介でトントン拍子に結婚が進んだ」

元メイド「そんな感じ」

元メイド「それでも、好きなのは本当」

元メイド「昔の男くんに抱いていた気持ちと同じなのは、本当」

元メイド「花嫁修業をしている間に、そうなれたんだけどね」

元メイド「ま、だから旦那さんの兄弟姉妹に結婚を反対されるってわけ」

元メイド「傍から見れば、お金目当ての平民が擦り寄ってきた、って構図になるわけだし」

エルフ少女「……それなのに明日、本当に結婚するんですか?」

元メイド「するよ。だって好きなんだもん」

エルフ奴隷「本当に、ですか……?」

元メイド「こればかりは本当」

元メイド「あたしを励ましてくれて、助けてくれて、無理をして風邪をひいた時も、イジメに泣いてしまった時も、ずっと傍にいてくれた旦那さんのことを、あたしは愛してる」

元メイド「ただ……この感情が本当に“愛”だという、自信がないだけ」

エルフ奴隷「…………」

元メイド「ま、反対してくるあの人たちを押しのけて結婚しようと思えてるんだから……本当に“愛”なんだろうケド」

――奥様~!!――

元メイド「ん?」

エルフ少女「あれは……」

元メイド「執事ね。どうも馬車の近くまで来ちゃってたみたい」

――ここっす! 危ないですから、ゆっくりかつ早く戻ってきて欲しいっす!!――

元メイド「どっちよ、って話よね」

エルフ少女(確かに……)

元メイド「それじゃ、今日はこの辺で」
元メイド「宿屋もそこを曲がればすぐそこだし、帰れるでしょ」

エルフ少女「はい」
エルフ奴隷「大丈夫です」

元メイド「ん。それじゃあ明日の結婚式、是非とも出席してね」

テクテクテク…

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「気持ちって、複雑だよね」

エルフ奴隷「そう……ですね……」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」

エルフ少女「……よしっ、それじゃあ、行こうか」

エルフ奴隷「……はいっ!」

エルフ少女「同胞を、救いに」

~~~~~~

エルフ奴隷「道は、こちらで合っているんですか?」

エルフ少女「心の中で会話をする秘術の後を辿るよう、精霊に頼んで道案内をしてもらっています」

エルフ奴隷「……そんな精霊、見当たりませんが」

エルフ少女「頭の中にいるからね」
エルフ少女「元々、施してもらった秘術自体、体内に宿すものだったし」

エルフ奴隷「なるほど……」
エルフ奴隷「もうそこまで回復しているのですね」

エルフ少女「奴隷ちゃんだって、毎日会話してたらすぐに使えるようになるよ」
エルフ少女「なんせここは、外なんだから」

エルフ奴隷「そう……ですね」
エルフ奴隷「地下で使ってくれた人がいたぐらいですから……何度も語りかけていれば……いずれ……」

エルフ少女「そう。答えてくれるよ」
エルフ少女「所詮、首輪は魔力を阻害するものでしかなくて、精霊はちょっと探知し辛いだけなんだからさ」

~~~~~~

エルフ奴隷「……中々、複雑な道を行きますね」

エルフ少女「裏通り、っていうのかな……人気が少ない」

エルフ奴隷「でもだからこそ、時折見える人間が……」

エルフ少女「……そうね。柄が悪そう」

エルフ奴隷「……声を掛けられなければ良いのですが……」

エルフ少女「うん。そうなったら厄介だし」
エルフ少女「魔法だって、温存しておきたいしね」

エルフ奴隷「はい……」










?「おや。そこを歩くは……エルフではありませんか」


エルフ少女「っ」
エルフ奴隷「っ」

バッ!

?「ほほ~……しかも、かなりの上物……」

エルフ少女(誰……?)

?「どうかしたのかな、お二人さん。道に迷いましたか?」

?「こんな危ない道を歩いて……人気もありません」

?「それとも……人通りの多い道を歩いては困ることでも?」

?「例えば……屋敷にある服を盗み、逃げ出したエルフ……とか?」

エルフ少女(勘違いしてる……)
エルフ少女(でも……正す必要は無い)

エルフ少女「あなたは……どちら様ですか?」

貴族「わたくしは、貴族というもの。どうぞお見知りおきを」

エルフ少女「……どうして見知っておく必要があるの?」

貴族「どうして……まぁ、そうですね……二人とも、わたくしの元へとやってくる気はありませんか?」

エルフ奴隷「イヤです」
エルフ少女「イヤね」

貴族「おや即答……。……ふふっ……エルフのくせに強気な二人だ……」

貴族「あなた達には首輪がついている。それがある以上、逃げ出しても元のご主人さまの下に連れ戻されるだけです」

貴族「逃げ出すほどイヤだったのでしょう? わたくしの元でなら、そんな辛い思いをさせないことを約束します」

エルフ少女(どこが……ヒョロヒョロとしたヒゲ面じじいめ……間違いなく趣味の悪い性癖持ってそうな雰囲気してるっての)

エルフ少女「そう」

エルフ少女「でも生憎と、そうして捕まるつもりは微塵も無いの、こちらとしてもね」

貴族「ふふっ……逃げ切れると思っている……」

貴族「自惚れるなよ、エルフ如きが」ギッ

エルフ奴隷「……っ!」ビクッ

貴族「お前達は、わたくし達人間の下で飼い馴らされる運命だということを自覚しなさい」

エルフ奴隷「…………っ」ギュッ

エルフ少女(奴隷ちゃんが怯えてる……当然か)
エルフ少女(あんな醜い表情を浮かべた奴らに犯され続けてきたんだから……)

エルフ少女(わたしが、しっかりしないと)

エルフ少女「そっちこそ驕らないで」

貴族「ん?」

エルフ少女「あなた達人間の言いなりになるエルフばかりが、この世にいるわけじゃないのよ」

貴族「そう……そうですか」
貴族「あなたは……特に、わたくしの好みですね……」

貴族「今わたくしの屋敷にいるエルフも最初は全員、そう言っていました」

貴族「ですが今はどうも……張り合いがない」
貴族「怯えてもいないし、ただただ人形のように受け入れるばかり」

貴族「どんなことをしても静かに泣くだけで……愉しみ甲斐がない」

貴族「中にはどうなったのか、狂ったように求めてくるものも出てきたぐらいです」
貴族「なんと……悦びようのないことか……」

エルフ少女「……下種が……!」ギリ

貴族「そう……その表情!」
貴族「その表情が絶望に変わる! それこそが最高にして至高!!」

貴族「ん~……やはり、反抗的な目が屈服する瞬間こそが、良いですよねぇ~……」

エルフ少女(わたしを買ったあの奴隷商も同じようなこと言ってたっけ……)

エルフ少女(本当……人間のほとんどが下種いという考えは、間違いじゃなかった……!)

エルフ少女「そう……言いたいことはそれだけ」

貴族「ん?」

エルフ少女「なら、さっさとその同胞を解放しなさい」
エルフ少女「あなたの屋敷にいる全員をねっ!」

貴族「ほぉ~……おかしなことを言う」
貴族「わたくしが買った奴隷を、あなたが解放しろと?」

エルフ少女「ええ」

貴族「それなら、あなたが代わりにわたくしの元へと来てくれると?」

エルフ少女「寝言は寝てから言わないと」

貴族「ふふっ……面白い」

貴族「わたくしに、勝てると?」

エルフ少女「勝てない道理がない」

貴族「そう……」

貴族「…………ふむ……」

貴族「……時に、あなた」
貴族「ここの治安がよろしくないというのは知ってるかな?」

エルフ少女「は?」

貴族「大きな街となると、人通りが少ない場所が出来てくるのは当然」
貴族「そしてそういう場所は、非合法なことをするならず者が沢山出てくるものです」

エルフ少女「……それがどうしたの?」

貴族「そんな場所に――」



貴族「――高貴な貴族であるわたくしが一人で来るはずもないでしょう?」

エルフ奴隷「っ!」

ガッ!

エルフ少女「な、奴隷ちゃ――」

ガッ!

エルフ少女(ぐっ……!?)

バンッ!

エルフ少女「か、っは……!」

ギ!

エルフ少女(う……腕が……!)

貴族「ははっ……はははっ!」

貴族「全く……だから人間に勝てないと思ったほうが良いと言ったのですよ!」

エルフ少女(な……何が……!?)

貴族「この裏道は複雑ですが、それ故に、こっそりと背後に回りこむことも出来るのです」

貴族「わたくしとの会話に夢中になっている間に、わたくしの護衛としてつれてきたその屈強な二人に、あなた達を捕らえてもらうようお願いしたのですよ」

ならず者A「へへっ」

ならず者B「わりぃな、嬢ちゃんたち」

エルフ少女「くっ……!」

エルフ少女(奴隷ちゃんは地面に押さえつけられ……わたしは、壁に叩きつけられた後、そのまま押さえつけられ……)

エルフ少女(後ろ手に……掴まれて……! 持ってきていた魔法が……っ!!)

エルフ少女(くそっ……! 同胞達が捕まっている場所に……着くことすら許されないのか……わたし達はっ……!)

貴族「さて……捕まえてもらいましたが……どうしましょうか?」

ならず者A「犯しますか?」

貴族「あなた達には犯させませんよ」

ならず者A「ちっ……」

貴族「でも、しっかりとやってくれたのは事実……屋敷にいる子たちなら特別に許しましょう」

ならず者B「マジで!?」

ならず者A「っしゃあ! ついてるぜ! やっぱ貴族様に雇われるが一番だ!!」

貴族「ふふっ、感謝しなさい」

エルフ少女(なんなんだ……この“犯して当たり前”みたいな会話は……!)
エルフ少女(異常すぎる……そのことを自覚していないことも、全て……!)

貴族「それよりも……この二人ですが……」

貴族「……まぁ、元の飼い主を見つけるよりも、わたくしの所に連れて行きましょうか」

エルフ奴隷「っ!」

貴族「その後、探知されて訪れた時にでも、お金の交渉をすれば良いでしょう」

ならず者A「では、連れて行きますか?」

エルフ奴隷(……いや……!)

貴族「お願いします」

エルフ奴隷(いや……! いや……っ!! いやっ……!!)

貴族「新しいのを買いに来ましたが……少し予定額より高くなるかもしれませんが、良い買い物をしましたね」

エルフ少女「くっ……!」

エルフ奴隷(やだ……やだ……やぁ……やぁだ……やだぁ……!!)

















男「いやいや、それはちょっと止めて欲しいな」

ならず者A「っ!」
ならず者B「っ!」

バッ!

男「その二人は、ボクの大切な二人だからさ」

エルフ奴隷「ご……ご主人さま……?」

エルフ少女「旦那様……」

男「ん~……とりあえずさ、その二人は、ボクの大切な二人から手を離してくれないかな?」

ならず者A「あ? 何様だてめぇ」

男「顔を壁や地面に押さえつけて、汚れるからさ」

ならず者B「いきなり出てきてうるせぇ野郎だ……」

男「お前達みたいなのが触れていい存在じゃないことぐらい、自覚して欲しいんだけどな……」

ならず者A「あぁ!?」

ならず者B「てめぇ調子に乗ってんじゃ――」

スパン…!

ならず者B「――え?」

男「次は、腕じゃなくて、眼球でも狙おうかな」

エルフ少女(何が起きたのか……一瞬過ぎて、あまり分からなかった)

エルフ少女(ただ分かったのは……奴隷ちゃんを抑えていた男の腕に、ナイフの形をした水が、突き刺さったことだけ)

ならず者B「ぐっ……! あああぁぁぁ……!」

パチャ、パチャ

ならず者B「いてぇ……! いてぇ……! くそっ! なんでだ! なんで掴めねぇ……!」

男「当然だよ。だって水なんだし。時間が経つかボクが命令すれば、ちゃんと液体に戻るけどさ」

ならず者B「じゃあさっさと戻しやがれ……!」

男「違うなぁ……キミは命令出来ないんだよ。ボクの命令に従ってようやく、ソレが外れるんだから」

ならず者B「ぐっ……!」

ザッ

ならず者B「ほら……離れたぞ! さっさと戻しやがれ……!」

男「もう一人も動いてくれないと。その子も、解放してやって」

ならず者A「ちっ……」

ザッ

男「ん」

テクテクテク…

男「上出来」

パシャア

男「二人とも、大丈夫?」

エルフ奴隷「ご主人さま……」

エルフ少女「どうして、こんな場所に……?」

男「王宮で本を借りた帰り」
男「裏通りにしかない実験器具屋に向かってたら、二人がこうなってるのを見かけてね。助けに来た」

男「ま、事情は後で聞くよ……とりあえずは」

ならず者A「てめぇ……魔法使いか」

男「そうだけど……なに? まだやる?」

ならず者B「このままされっぱなしじゃ気が済まねぇなぁ……!」

男「そう。……ま、それなら少しだけ、本領を見せようか」スッ

ならず者B「あん? なんだその瓶は」

男「ボクの魔法だよ」

バシャア

男「こうやって足元に撒いたらね……ほら、瓶に入っていた量よりも多い水が出てきただろ? 圧縮術式が組み込まれててね、本来この瓶に入る量の三倍は入ってるかな」

ならず者A「それがなんだよ」

男「いや、別に」

男「ただボクは、コレを自在に操作出来る」

男「こんな風にね」

エルフ少女(足元にばら撒かれ、地面に染み込んだ水……)

エルフ少女(それら全ての――染み込んだはずの水だけが浮き上がり、固まり、あの人を中心とした半径一メートルほどの範囲で溜まり、足元に存在した)
エルフ少女(まるで、透明の水槽に水を溜め、その中心に彼が立ったかのような……そんな光景)

男「後はまぁ……コレに指示さえ送れば、キミ達をさっきみたいに突き刺せるんだけど……どうする?」

ならず者A「くっ……!」

ならず者B「……ちっ……!」

男「かしこいね。そう、こんなのを使う魔法使いと戦っても、勝ち目は無いよ」

男「で、そこの貴族さんはどうする? 本当にボクと値段の交渉でもする?」

貴族「…………」

男「これ以上、彼女を物扱いするのなら……この魔法は、あなたに向けて放ちますよ?」

貴族「……帰りましょう」

ならず者A「……へい」

ならず者B「…………」

ザッザッザッ…

エルフ少女「ちょっ――」

男「待って」

エルフ少女「ですが……!」

男「これ以上、話をややこしくは出来ない」

男「……ごめん」

エルフ少女「っ! ……くっ……!」

エルフ奴隷「…………」

男「……さて……姿も見えなくなったし……解除、と」バシャア

エルフ奴隷「その……ご主人さま、ありがとうございました」

男「良いさ。でも、本当に運が良かっただけだけどね」

エルフ少女「……どうして、止めたんですか?」

男「……あのまま喧嘩になったところで、何にもならないからだよ」

エルフ少女「ですが、あの人のところには沢山の同胞が……!」

男「彼は奴隷としてエルフを買ったんだよ。それを奪えば犯罪者はボク達になる」
男「例えそれが、正義になるのだとしてもね」

エルフ少女「……っ!」ギリッ

男「にしても……預けていた魔法を使う暇も無かったの?」

エルフ奴隷「……はい……」

男「そっか……ま、それじゃあ宿屋に戻ろうか」

エルフ奴隷「あの……」

男「ん?」

エルフ奴隷「事情は、聞かないんですか?」

男「聞くよ」
男「ただ、こんな危ない場所よりも、宿屋で話した方が良いと思うしさ」

男「だから、先に戻ろっか」

~~~~~~

◇ ◇ ◇
 宿屋内
男の部屋
◇ ◇ ◇

男「さて……」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」

男「メイドさんと別れてから、あそこへ向かったのは何となく察しがつくんだけど……丁寧に包装された服が入った袋も届いてたし」

男「ただ問題は、どうしてあんな人気のない危ない場所へと向かったのか」

男「それを、教えてもらえないかな?」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」

男「……何か、言い辛いこと?」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「…………」

男「もしかして……ボクのところにいるのがイヤになった、とか?」

エルフ少女「違います!」

エルフ奴隷「それはあり得ません!!」

男「お、おぉぅ……」

エルフ少女「ただ……ただわたし達は……同胞を、救いたかっただけです」

男「同胞? ああ……もしかして、奴隷市場にいた皆を?」

エルフ少女「はい」

男「…………」
男「……でも、奴隷は皆買われた方が、幸せになれるんじゃ……?」

エルフ奴隷「違います」

男「…………」

エルフ奴隷「違うんです」
エルフ奴隷「人間の奴隷と、エルフの奴隷の扱いは……違うんです」

男「…………」

エルフ奴隷「確かに、この国の法律では、同じ扱いとするものとされているようですが……」

エルフ少女「現実は違う」
エルフ少女「現実では……エルフは人間に、おもちゃのような扱いを受けている……」

エルフ奴隷「……私が、そうでした」

エルフ奴隷「あの地下牢で……あなたに買ってもらえたあそこで、何度も何度も、犯されました……」

エルフ奴隷「味見だと、称されて……」

エルフ奴隷「色々なことを、されました……」

男「…………」

男「……そ、っか……」













男「“やっぱり”……そうだったか……」

エルフ奴隷「やっぱり……?」

エルフ少女「どういうこと……?」

男「……ごめん」

エルフ少女「え?」

男「ボクはまず、二人に謝らないといけない」

エルフ少女「謝る……?」

エルフ奴隷「何をですか?」

男「……そうかもしれないと思いながら、そうじゃないと自分に言い聞かせ、それが真実かどうか目も向けないようにしていたことを、だよ」

エルフ少女「え……?」

エルフ奴隷「……いつから、そうだったのですか?」

男「……あの奴隷市場で、奴隷商の人と話したときかな」

男「キミがああまで酷くなっていたのは何かしていたからじゃないか、って問いかけたとき……彼は『月を光を浴びていないから』と答えた」

男「そんな嘘、ボクに通じるはずもないのに」

男「ボクはこれでもその当時、辞書片手にとはいえ、エルフの言葉を解読できていたんだ」

男「月の光を浴びないとエルフが弱っていくだなんて嘘、分からないはずがない」

男「向こうはそのことを知らないから、その嘘が通じるとでも思ったのだと思う」

男「だからこそ、そんな嘘を言ってまで誤魔化してきたんだからもしかして……とは、思っていた」

男「……言ってしまえば、最初からなんだ」

男「キミ達と話をしていたあの最初の時から、ボクはずっと……実はエルフの奴隷は、人間の奴隷とは違って酷い扱いを受けているんじゃないかと、感づいていたんだ」

男「それなのに……何もしなかった。訊こうともしなかった。」

男「だから……ごめん」

エルフ奴隷「……それなら、聞かせてください」
エルフ奴隷「どうして、何もしなかったのですか?」

男「……優先順位があったから」

男「それと……ボク自身、その事実を受け止めたくなかったから……かな」

エルフ少女「優先順位?」

男「ボクのしている研究はね……戦争の被害者を救うために必要なことなんだ」

男「そして……なんとしてもボクが、成し遂げなければならない」

男「ボクの贖罪であり……責任なんだ」

エルフ少女「…………」

エルフ奴隷「それなら……事実を受け止めたくなかった、というのは、どういうことですか?」

男「……ボク自身も、実は元々戦争孤児なんだ」

エルフ少女「え?」

男「それで、この奴隷制度のおかげで、ある宮廷魔法使いに買ってもらい、彼の身の回りの世話をさせてもらい」
男「彼が必死に頑張っている魔法に興味を持って、コッソリと学んで……バレて……それでも怒らず、少しだけ叱ってボクを許して、ボクを認めてくれて……」

男「今みたいに色々と研究が出来るのは、あの人のおかげだと言っても過言じゃない」

男「そして……その制度を提唱した、今の王様を……当時の第二王子を……ボクは、尊敬している」

男「だから、そんな酷いことをしているかもしれないと思いながらも、しているはずがないと、自分に言い聞かせてきてしまっていたんだ」

男「受け入れたくないから、ずっとずっと、拒絶を続けていた」

エルフ奴隷「…………」

男「でも……そっか……現実は、そうじゃなかった……」
男「……それだけの、話だよね」

エルフ奴隷「……どうして、私達の話を、信じてくれたんですか?」

男「ん?」

エルフ奴隷「先ほどの話だと、その王子のことを信じ続け、私達の話の方が嘘だと、断ずることも出来たじゃないですか」

エルフ奴隷「それなのに……どうして?」

男「どうしても何も……まぁ、ボクもうっすらとそうじゃないか、って思ってのもあるけど……」

男「それ以上に、キミのあの酷さの原因が他に何なのかを説明する術を、ボクは知らない」

男「それに……尊敬できる人よりも……――」

エルフ奴隷「……?」
エルフ少女「……?」

男「――……ううん、なんでもない」

エルフ奴隷「? ? ?」

男「ともかく、そういう訳なんだ」

男「酷いことをされていたのを感づいていながら何もしなかったこと……それについて許してくれとは、ボクも言わない」

男「感づいていながら、今日だって、キミ達の同胞を救おうとしなかったことを許してくれとは、ボクは言わない」

男「ただ……もう少しだけ、待っていて欲しい」

エルフ少女「……え?」

男「もう少し……おも少しで目処が立つこの研究を終え、完成したら……することが無くなるから、殺されても良いと言ったけれど……それも含めて、色々と待って欲しい」

エルフ奴隷「……どういうこと、ですか……?」



男「感付いていた、じゃなくて、聞かされたんだ」

男「何もしないわけにはいかない」

男「キミ達が望んでいることを知りながら……何もしないでいられるほど、ボクも大人しくない」



男「だから……約束する」








男「例えそれが罪になることであろうとも……ボクは必ず、出来得る限りのエルフを救い出す」








男「そう、二人に約束する」

第二部終わり~

結婚式? なにそれおいしいの?

そんなの書けるはずないじゃない!
そもそもお風呂場でのガヤガヤだって予定外な>>1の実力でそんなもの書けるはずないじゃない!!



というわけで第二部終わります

第三部からは次スレ立てます

今日はもう疲れたからやんない…
明日は…無理っぽいので、明後日のまた、いつも通りぐらいの時間に
いつも通りぐらいの量を


何度も言うけど>>1のただのオ○ニーなんだから、面白くなくても文句言わないでね…

というか面白いといってくれてる人がいるけど、個人的には「本当にそうなのか?」と半分疑ってるんだぜ
なんでこう、待ってくれてる優しい人が出てきているのか……マジで謎だ
ネタじゃないの? こう、面白くないSSを面白いといって>>1を調子付かせる、みたいな

…マジ不安で仕方が無いぜ…
だってこんなにレスが進むんだよ…? 面白くないから荒らしが出てるんじゃないの……?
本当はこのスレだけで全部終わると思ってたのに…マジで手の平の上で調子に乗って踊ってるだけじゃないのかと不安になるんだ……

雑談厨→荒らし

雑談やめろ+罵倒(煽り)→荒らし

もうすぐ春だからしょうがないな、ゆとりは(煽り)→荒らし

アフィから来ますたw→荒らし

アフィカスくたばれ(煽り)→荒らし

荒らしというか釣りの性質もある
構ってもらえることに快感を感じる輩

あと内容はダミーで、わざとスルーしてない奴もいるから気をつけたほうがいい

この期に及んでスルーしないやつはスルー「できてない」ではなくスルー「してない」荒らしだからな


俺→荒らし

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年11月20日 (木) 16:31:57   ID: k8--tah0

どこに次回あるの?

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