男「君のいる世界、いない世界」 (39)


静寂と喧騒が同居する独特な年明けの雰囲気も一段落し、街がいつもの日常に戻り始める一月初旬。
俺は、人気のない夜の公園にある滑り台の上に立ち、ただ遠くを眺めていた。


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~公園~

男「……この滑り台の上から飛び降りたら死ねるかな……って無理か……」

?「死にたいんですか?」

男「だ、誰!?」キョロキョロ

?「おっと、これは失礼。私は……そうですね……神様、とでも申しときましょうか」

男「……は?」

神「厳密には違うんですけど、まぁ神様と認識していただいて問題ありません」

男「……」

男(危ない人かな……変な目に会いたくないし、関わるのはよそう……)

神「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。怪しいものではありませんから」

男(どう見ても怪しいだろ!)

神「それで、あなたは死にたいんですか?」

男「え? べ、別に死にたくないけど……」

神「そうですか?私には、あなたが死にたそうに見えたんですが」

男(何なんだこの人……まさか俺が死にたいって言ったら死神ですとか言って、襲いかかってくるとか……)

神「まぁ、私が神様なんてことをいきなり信用しろ、と言っても無理な話ですよね」

男「い、いや……あっ! そういえば俺、用事を思い出したんで、これで……」ソロ~ッ

神「男さん、17才。○○高校に通う高校二年生……」

男「えっ……何で俺のことを……」

神「言ったでしょ、私は神様だって。このくらいのことは朝飯前です」

男「で、でも名前とかぐらいなら、簡単に調べられます……よね」

神「そうですね……それではこれならどうですか? あなたは先月、友人の幼馴染みさんを事故で亡くし、その死を受け入れられずにいる」

男「!?」

神「そして、どこにもいるはずのない彼女を探し、フラフラとこの公園へとやってきた」

男「……」

神「しかし、当然彼女がいるはずもない。彼女のいないこんな世界ならいっそ死んでしまいたい。そんな思いから、大した高さもない滑り台の上に登って、飛び降りようとしてみた……ってことなんでしょ?」

男「あなた……何なんですか?」

神「神様です。信じてくれましたか?」

男「そんなこと信じれるわけ……」

神「それにしても、人間とは愚かな生き物ですね」

男「は?」

神「たった一人の人を失っただけで、自分のいる世界を否定しまう。人の死なんて、速いか遅いかの違いだけで、必然だというのに」

男「……どういう意味ですか、それ!」

神「あれ? 怒ってしまいましたか? これは失礼しました。私は神様として、素直な感想を述べたつもりでしたが」

男(本当に何なんだこいつ。まぁ、いいや関わるだけ無駄だな。さっさと切り上げて帰ろう……)

神「それで、最初の質問に戻るのですが、あなた……死にたいんですか?」

男「だから、死にたくないって言ってるだろ! しつこいな! 俺はもう帰るんで、それじゃ」ダッ

神「私ならもう一度幼馴染みさんに会わせてあげられますよ」

男「はぁ? あんた、人をからかうのも大概にしろよ」

神「からかってなどいません。本当に出来ますから」

男「出来るわけないだろ! あいつは死んだんだよ! 死んだ人間は生き返らないんだよ!」

神「確かに、死んだ人間を生き返らせることは出来ません」

男「はぁ? あんた言ってることがむちゃくちゃ……」

神「しかし、彼女が死んでない世界を創ることが私には出来るのです」

男「死んでない世界?」

神「そうです。今あなたがいるこの世界は彼女が死んでしまった世界。当然、彼女にはもう二度と会えない。しかし、彼女が死んでない世界ならば彼女にまた会えますよ」

男「……」

神「所謂、パラレルワールドというものです。どうですか?」

男「どうですかって……言ってる意味が分からないんですけど。それを聞いて俺にどうしろと?」

神「どうせ死ぬつもりなら、少し私に協力していただけませんか?」

男「だから! さっきからあなたの言ってる意味が分からないんですけど!?」

神「あ~もう、焦れったいですね。とりあえず、体験してもらったほうが早そうです」

男「は?」

神「百聞は一見にしかずですよ。それでは、いきますよ……はい、どーん!」

男「えっ……」

男(あれっ……意識が……遠くなっ……)

~自宅・自室~

ーチュンチュンー

男「……はっ! あ、朝!?」バッ

男(……さっきのは夢? あれ? 俺はどうやって公園から帰って来たんだっけ? やべぇ、何も覚えて……幼馴染みの死んでない世界……)

男「まさか……そんなはずは……」

ガチャ

男母「男、あんた今日から学校でしょ。早く起きないと遅刻するわよ」

男(そういえば、昨日で冬休みは終わりか……いや、そんなことより……)

男「あ、あの母さん……」

男母「何?」

男(待て、幼馴染みって生きてる? なんて聞いて、昨日のことが夢だったら……とうとう、俺がおかしくなったって思うよな……いや、それだけじゃない。みんなが、幼馴染みの死を思い出して傷つくかもしれない……)

男「いや、何でもない」

男母「何なの? 変な子ね」

男「それより俺、朝ごはん要らないから。すぐに学校に行ってくる」ダッ

男母「えっ? ちょっと……行っちゃった。本当に変な子ね」

~学校・教室~

ガラッ

男「はぁはぁ……」

男(いない……よな。やっぱり昨日のことは夢だったんだ……)

友「おっす、男。朝から息なんて切らしてどうしたんだ?」

男「えっ、あっ……いや……」

友「まさか、俺に会いたくて新学期そうそう走って登校してきたとか?」

男「んなわけないだろ」

友「ひどい! 冗談なのに……」

男(当たり前か。死んだ人間がいるはず……)

?「ちょっと、なんで私を置いてくのよ!」

男「えっ……」

?「えっ、じゃないわよ! 家を出るあんたが見えたから声かけたのに、無視して走っていったでしょ!馬鹿!」

男「幼……馴染み……」ポロポロ

幼「えっ……ちょっと……泣いてるの!? もしかして、馬鹿って言ったから?」アタフタ

男「幼馴染み……幼馴染みなんだよな!」ギュッ

幼「へっ……なんで抱きつくのよ! 本当にどうしたの!?」

友「ひゅ~! 朝から熱いねお二人さん!」

幼「み、みんな見てるよ! ちょっと離して……///」

男「ヒッグ……ヒッグ……」

幼「あ~もう! 何なの! 私にどうしろってのよ!?」

~学校・人気のない所~

幼「どう? 落ち着いた?」

男「あぁ……」

幼「じゃ、はい」スッ

男「?」

幼「ハンカチよ。まずはその酷い顔を拭きなさい。どうせ不精なあんたはハンカチとか持ってないでしょ」

男「……」ジーッ

幼「何?」

男「本当に幼馴染みだよな?」

幼「他に誰に見える?」

男「だよな……なぁ、ちょっと俺の頬をつねってみてくれないか?」

幼「あんなに辱しめられたんだから、むしろおもいっきりビンタでもしたい気分なんだけど?」

男「それでもいいよ」

幼「……あんたって、そういう趣味なわけ?」

男「ち、ちげぇよ! いいから、早くしてくれ」

幼「……はぁ」ギュ~ッ

男「いたたたた!」

幼「これで満足? ドMさん?」

男「だから違うって! まぁ、とにかくこれが現実だってのは理解したよ」

幼「はぁ? 何言ってるの? 現実に決まってるでしょ」

男「いや、まぁそうなんだけど……何て言うか……」

男(どう説明したらいいんだろう……自称神様って奴に会って、幼馴染みが死んだ世界から死んでない世界に来た? いやいや、こんなこと言ったって信じてもらえないだろ……)

幼「何?」

男「その……お前が死んだ夢を見たんだ」

幼「は?」

男「だから、お前が死んだ夢を見たの! それで、その……何か怖くなって……」

幼「ぷっ……何それ? 怖い夢見て泣いたってわけ? あんた幾つよ」

男「うるせぇな! 怖かったんだから仕方ないだろ……」

幼「へぇ~私がいなくなるのがそんなに怖かったんだ?」ニヤニヤ

男「……あぁ、本当に怖かったよ。あんな思いするのは二度とごめんだ」

幼「えっ……そ、そう……」

男「……」

幼「……」

男「……」

幼「……その……からかって、ごめん」

男「いいよ、別に。それより、早く教室に戻ろうぜ」

幼「うん」

~放課後~

幼「めずらしいわね、あんたから一緒に帰ろうとか言ってくるの」

男「あぁ、たまにはな」

男(学校での幼馴染みはいつも通りだった。いつもの学校、いつもの教室、当たり前の日常があった……幼馴染みが死ぬまの)

男「それより、今日は始業式だから学校が午前中で終わったし、どっか遊んでかね?」

幼「えっ? いいけど……どうしたの、急に?」

男「別に、そういう気分なだけ」

幼「ふ~ん、もしかして、今日見たって言う夢が原因?」

男「違うよ。本当に遊びたい気分なだけだって」

男(この世界が夢だろうが、幻だろうが、今は目の前にいる幼馴染みと1秒でも一緒にいたい……)

幼「あ、そう。まぁいいけど、全部あんたのおごりね!」

男「なっ? お前何言って……」

幼「これはもう決まり! それじゃ、よろしく!」

男「ったく、しょうがねぇか……」

~帰り道~

幼「あ~遊んだ、遊んだ!」

男「くそ~人の金だと思って……」

幼「私に一回抱きつけたと思えば安いもんでしょ?」

男「どこがだよ! このぼったくり!」

幼「ひど~い。私は安心価格がもっとうなのに」

男「お前はどこのキャバクラだ……」

幼「へへっ、また次回の来店お待ちしてま~す」

男「……ったく」

幼「それじゃ、私こっちだから……」

男「えっ……あぁ」シュン

幼「あれ~その顔は何?もしかして、まだ私と一緒にいたいとか?」

男「ち、ちげぇよ!」

幼「本当に~?」ニヤニヤ

男「そんなんじゃねぇよ……そんなんじゃねぇけど……」

幼「けど? 何?」

男「……///」

幼「……はぁ。もう、あんたって昔から無駄に心配性よね」

男「……うるせぇ」プイッ

幼「ちょっと、頭下げて」

男「な、何で?」

幼「いいから、下げる!」

男「分かったよ……」スッ

幼「……」ギュッ

男「おまっ!? 何を!?///」

幼「聞こえる?」

男「はぁ? 何が!?」

幼「私の心音」

―ドクン、ドクン―

男「……聞こえる」

幼「私は生きてるよ。今日も明日も明後日も、一ヶ月後も一年後も……」

男「そんなの……分からないだろ」

幼「分かるよ」

男「何で?」

幼「だって私だもん」

男「理由になってねぇよ」

幼「なってるの。だから、無駄な心配をしない! 分かった?」

男「……分かった」

幼「分かったんなら、さっさと離れろ、この変態!」パッ

男「はぁ!? お前から抱き寄せたんだろうが!」

幼「し~らない」

男「はぁ……じゃもういいよ、変態で」

幼「……ねぇ、ドキドキした?」

男「んなっ!? するわけ……」

幼「私は……結構したよ、ドキドキ///」

男(そういえば、少し心音が速かったような……)

男「……俺も、した」

幼「へぇ~、ドキドキしたんだ?」

男「ちょっとだけな……」

幼「ムッツリスケベ」

男「テメェ……」

幼「へへっ。今日、私も恥ずかしい思いしたしね……誰かさんのせいで」

男「うっ……」

幼「だから、これはその仕返し」

男「はいはい、悪ございましたね」

幼「分かれば、よし」

幼「……」

男「……」

男「じゃ……また明日な」

幼「うん、また明日」ニコッ

男(また明日……か。この世界にはそんな当たり前のことを言い合えるこいつがいるんだよな)

~自室・夜~

男「はぁ、何か今日は疲れた……ってか、本当にどうなってんだろう。何の説明もなくこんなことにしやがって、あの自称神様。こっちも何が現実か分からなくなってきたぞ……」

神「呼びましたか?」

男「!?」

神「何をそんなに驚いているんですか?」

男「ここ……俺の部屋なんですけど、どうやって入って来たんですか?」

神「私は神様ですから。何てことありません」

男「……」

神「で、どうでしたか? 幼馴染みさんの死んでない世界は」

男「どうって……何か突然のことで現実感がないっていうか……これって本当に現実なんですか?」

神「紛れもなく現実ですよ。あなたも体験したでしょう?」

男「まぁ……」

神「これで、私が神様だと理解していただけたと思います」

男「神様かどうかは分かりませんけど、普通ではないことは認めます」

神「むっ、なかなか疑い深いですね……」

男「それより! 俺をこの幼馴染みが死んでない世界に連れて来て何がしたいんですか? というか、どうなってるんですかこれ!? 現実って言われても、やっぱ意味わからないんですけど!?」

神「今から説明しますので、まずは落ち着いてください」

男「す、すみません」

神「あなたに体験してもらったように、この世界では先月、幼馴染みが事故で亡くなっていませんね?」

男「はい……」

神「それは幼馴染みさんが事故に遭う日を境に、私がもう一つの世界を創ったからです」

男「それがこの世界ですか?」

神「そうです。この世界では、幼馴染みさんは事故に遭わず、その後の日常を過ごしています」

男「……俺はその日常を知らないんですけど」

神「大丈夫です。そこら辺は私が違和感がないように調整しておきましたので」

男「調整って……」

神「あなたも公園にいたはずが、今朝気づいたらベッドの上にいたでしょ?」

男「つまり、みんな気づいたら今日だった……みたいなことですか?」

神「まぁ、そんな感じです」

男「はぁ……で、何で俺にこんな体験をさせてくれたんですか?」

神「それはあなたには私の実験に協力していただこうと思いまして」

男「実験……ですか?」

神「はい。あなたにはしばらく二つの世界で生活していただき、最後にどちらを本当の世界とするか、選択していただこうと思いまして……」

男「ちょっ、ちょっと待ってください!何ですか? 二つの世界で生活って……しかも、世界を選ぶって……」

神「そうですね……それじゃちょっと、時計を見てもらえますか?」

男「時計を?」チラッ

神「何時ですか?」

男「ちょうど、深夜0時で……」クラッ

男(あれっ……また、意識が遠く……)

男「はっ!?あ、あれ?今のは?」

神「今、あなたはまた幼馴染みさんのいない世界に戻って来ました」

男「え?」

神「あなたが今いる世界は幼馴染みさん死んだ世界……つまり、昨日まであなたが絶望していた世界です」

男「……」

神「このように深夜0時をもって、あなたには二つの世界を行き来してもらいます」

男「……あなたの目的はなんですか?」

神「言ったでしょ? ただの実験です。あなたが二つの世界の内どちらを選ぶか興味があるんです」

男「そんなの……実験になりませんよ。俺がどっちの世界を選ぶかは分かるでしょ?」

神「ま、現状はそうでしょうね」

男「何ですか? その含みのある言い方」

神「いえ、他意はありませんよ。ただ、そうですね……確かにこの世界で、あなたは大切なものを失いました。でも、それでこの世界はあなたにとって生きる価値のない世界ですか?」

男「……」

神「まぁ、これは実験ですので、私があまり口出しするのはフェアじゃないですね」

男「いえ、それでも俺は選択を変えるつもりはありませんから……」

神「そうですか。では、この実験にお付き合いいただけるということで、よろしいですね?」

男「はい。幼馴染みを取り戻せるなら、付き合います」

神「ありがとうございます。まぁ、あなたの意思は固いようですが、実験ですので、ちゃんと両方の世界で生活していただきます」

男「分かりました。それで、期間はどれくらいなんですか?」

神「そうですね……私も長い期間、二つの世界を存在させ続けるのはきついですから……」

男「そうなんですか?」

神「色々と理をねじ曲げてますので……」

男「恐いんですけどそれ……」

神「まぁ、とりあえず私の気分次第ということで」

男「アバウト過ぎますよ!」

神「細かいですね、男さんは。こちらにも都合があるんですよ。それでは、数ヶ月ということでどうですか?」

男「はぁ……分かりました、数ヶ月ですね」

神「はい。でも、あなたは二つの世界で生活するので、単純に倍の日数生活することになります。なので、結構長く感じるかもしれませんね」

男「え?」

神「あれ? 言ってませんでした?あなたには両方の世界で同じ月日を過ごしていただきます 」

男「それじゃ……今日は……」

神「もう一度、始業式のある日ですね」

男「……」

神「どうしました?」

男「いえ、何でもありません」

神「そうですか。それでは、これからよろしくお願いしますね」

男「はい」

神「困ってそうでしたら、また私から声をかけますので」

男「いきなり現れないでくださいね」

神「私は神出鬼没なので、お許しください」

男「自分で言うんですね……」

神「それでは、失礼します」

男(あっ……消えた)

男「ったく、変なことになったな……」

男(でも、これはいいこと……だよな)

男「……寝るか」

~朝・学校~

男「……あんま、寝られなかったな」

ガラッ

男「おはよう」

友「えっ?あっ、お、おはよう……」

男「?」

男(あぁ……そうか。幼馴染みが死んでから、俺は周りに腫れ物みたいに扱われてたんだった。いや、そう扱わせたんだな、俺が)

男「はぁ……」

男(昨日……いや、もう一つの世界での今日があったから普通に挨拶したが、幼馴染みが死んでから、俺、誰ともまともに口聞いてなかったな……)

男「……」キョロキョロ

男(やっぱ幼馴染みの姿はない……って、当然か。教室の雰囲気もあっちの世界よりも暗い……気がする)

友「な、なぁ、男」スッ

男「えっ、な、何?」

男(友が気を遣ってるのが伝わってきて、何かこっちまで緊張する)

友「その……何と言うか……」

男「?」

友「もう……大丈夫か?」

男「大丈夫って……幼馴染みのこと?」

友「えっ、あっ、いや……そうなんだけど……その……」

男「ごめん、心配させて……」

友「いや、いいんだ。ただ、幼馴染みさんが亡くなってから、お前話しかけられる雰囲気じゃなかったのに……何か今日は少し違う感じがして……冬休みの間に、何かあったのかなって」

男(今の俺の状況を説明しても……駄目だよな)

男「ちょっと、色々あってな。少しだけ元気が出たって、ところだよ」

友「そうか……まぁ、よかったよ。少しでも元気が出てくれて」

男「心配してくれてありがとう、友」

友「だから、いいって。俺も幼馴染みさんが亡くなったのはショックだったけど、お前は俺の比じゃなかったろうし……」

男「友……」

友「わ、わりぃ。知ったような口聞いちまって」

男「全然。気にしないから」

男(幼馴染みが死んで悲しいのは俺だけじゃない……よな。みんな悲しんでるんだ。ただ、俺は自分の殻にこもって、目をそらしてた。でも、そもそも幼馴染みが死んでいない世界なら誰も悲しまないんじゃないか? )

友「お前が元気になるなら協力するから、遠慮せずに頼ってくれよ」

男「あぁ、ありがとう」

男(幼馴染みがいて、みんながいる。そんな世界の方がいいに決まってる。自称神様は意味深なこと言ってたけど、こんな実験に意味なんてあるのか……)


それから二つの世界を行き来するようになって、一週間の月日がたった。

始めは二つの世界での生活に戸惑ったが、特に問題が起こるわけでもなく大分慣れてきていた。

~学校・教室~

男(この生活が始まって一週間。って実質は二週間経つわけだけど……特別なことが起こるわけでもないし、マジでこの実験って意味あるのか……)

男「はぁ……」

男(今日は幼馴染みのいない世界か……こっちの世界はやっぱり苦痛だ。何か息苦しさのようなものを感じる)

男「……」チラッ

男(それが幼馴染みがいないせいなのか、教室に漂う、どことなく暗い雰囲気のせいなのかは分からないけど。いや、どちらにしろそれは幼馴染みの死に起因することか……)

男「……」ガタッ

男(ちょっと、廊下に出て外の空気でも吸ってこよう)

男「ふぅ……」

男(少しはマシだな……)


?「きゃっ!」ドンッ バサーッ

男「えっ?」

?「す、すみません! すみません!」

男「いや、俺もボーッとしてたから……大丈夫? 同級生さん 」

同「は、はい。大丈夫……って、あーっ! ノートが!」アタフタ

男「うわっ……ちらばっちゃったね。拾うよ」スッ

同「あ、ありがとうございます」ペコッ

男「これ何のノート?」

同「先ほどクラスで集めた宿題のノートです」

男「あぁ、集めてたね。でも何で同級生さんが? 先生が集めてたよね?」

同「先生は急ぎの用があるそうで、私に休み時間にノートを職員室へ運ぶよう頼まれました」

男「そうなんだ。でも一人でこの量は大変でしょ? 運ぶの手伝うよ」

同「い、いえ、そんなの悪いです。頼まれたのは私ですし」

男「気にすることないよ。クラスの提出物だし。ほらっ、半分渡して」グイッ

同「そ、それではお願いします」サッ

男「じゃ、運ぼっか」

同「はい」

男「……」

同「……」

男「……」

同「……」

男(そういえば俺、同級生さんと同じクラスなのに、ほとんど話したことないな。何か気まずいぞ……)


同「あの……」

男「ん? 何?」

同「い、いえ……何でもありません」

男「そ、そう……」

男(同級生さんも沈黙が気まずいのかな?)

同「……」チラッ

男「……」

同「……」チラッ チラッ

男「……」

同「……」チラッ チラッ チラッ

男「え~と、何かな……」

同「えっ、あっ、いや、その……」アセアセ

男「どうしたの?俺の顔に何かついてる?」

同「い、いえ、そういうわけでは……ただ……」

男「ただ?」

同「ただ……」スーッ ハーッ

男「?」

同「ただ、最近男くんが少し元気になったみたいなので良かったなって……」

男「……」

男(そっか……友も言ってたけど、俺、そんなにひどく見えてたんだな……)

同「あっ、す、すみません! 私なんかが余計なこと言って」アタフタ

男「そんなことないよ。心配してくれてたんだね。ありがとう」

同「いえ、私も大切な人を失う気持ちは少し分かるので……」シュン

男「えっ?」

同「えっ、あっ、いや……あっ! 職員室に着きましたね。早くノートを先生の机に置いて、教室に戻りましょう。次の授業に遅刻してしまいます」

男「う、うん。そうだね……」

男(あんまり深く聞かない方がいいのかな? でも、どういう意味なんだろう……)


~教室~

男「なぁ、友」

友「何?」

男「お前、同級生さんのこと知ってる?」

友「そりゃ知ってるよ。同じクラスだもん」

男「そういうことじゃなくて、同級生さんのもっとこう……詳しい情報を……」

友「えっ、何? お前まさか同級生さんのこと……」

男「ち、ちげぇよ!」

友「とか言って、本当は……」ニヤニヤ

男「だから違うって!」

友「あっ……わ、わりぃ。そうだよな。そんなはずないよな。冗談でも言うべきじゃなかった……」シュン

男「は? 何だよ急に……あぁ、幼馴染みのことか……」

友「お前が最近元気になってきたから、調子に乗りすぎた。ごめん」

男「いいよ、別に。というか、あまりそのことで気を遣わないでくれ」

友「えっ、でも……」


男(俺が今も幼馴染みと会ってる……何て言えないよな。でも、それがあるから俺はこっちの世界でも普通にいられるわけで……)

友「でも、お前幼馴染みさんのこと好きだったんだろ?」

男「なっ!? 何で!? 」

友「付き合ってないってのは知ってるけど、端から見れば一目瞭然だしな」

男「……」

男(俺は確かに幼馴染みが好きだった……いや、好きだ。でも、肝心な時に素直になれず、現状の関係から抜け出せないでいる)

友「あっ、いや、ごめん……」

男「だから! もういいって言ってるだろ!? ったく、幼馴染みの話はお前が暗くなるから禁止な」

友「分かったよ。でも何か……逆にごめんな」


男「さっきから謝りすぎだからお前……それで、同級生さんのことだけど……」

友「あぁ……でも、俺も仲いいわけじゃないからそんなに知らないぞ」

男「だよな……」

友「何でまた同級生さんのことを?」

男「いや、彼女がちょっと気になること言っててな……」

友「ふ~ん。何て言ってたの?」

男「秘密」

友「何だよそれ!」

男「それより、同級生さんの誰か親い人が亡くなったとか聞いたことないか?」

友「え、ないけど……何か関係あるの?」

男「いや、知らないんならいいだ」

友「そうか。でも、そんなこと聞いてくるってことは……あんまり探らない方がいいんじゃないか?」

男「やっぱそう思う?」

友「当たり前だろ。お前だって……」

男「分かってるよ。分かってるけど……」

男(大切な人を失う気持ちが分かるって言った彼女の表情はとても悲しそうだった。あの顔はまだその悲しみの傷が癒えてないないんじゃないかなって……)

友「まぁ、止めはしないけど、デリケートな問題なら同級生さんを傷つけるかもしれないぞ」

男「あぁ、肝に命じとく」

男(その気持ちを共感できる俺なら、彼女のことを少しは楽にできるかもと思うのは傲慢なのかな……)


~放課後・教室~

男(あれから同級生さんの事が気になってる内に学校が終わってしまった)

男「さて、帰るか……」

同「あの……男くん」スッ

男「えっ? あ……何?」

同「今、少しお時間よろしいですか?」

男「いいけど……どうしたの急に?」

同「いえ、もしかして私が今日言ったことを気になさってるのではないかと思いまして……」

男「それは……」

同「勘違いならいいんですけど……あれから、私に視線がよく向けられていた気がして……」

男(そんなに露骨だったのか俺……)

同「もし、そのことを気になさっているのなら、もう気にしないでください。あれは誰にも話すつもりのない、私の独り言のようなものですから……」


男「……無理だよ」

同「えっ?」

男「同級生さんはそう言うけど、俺はもう聞いちゃったもん。それを無視することは出来ないよ」

同「……」

男「それに、大切な人を失う気持ちが分かるって言った時、同級生さんの顔は悲しそうだった。放っておけないよ」

同「……」

男「余計なお世話かもしれないけど、もしよかったら話してみてよ。俺も大切な人を失う気持ちは……分かるから」

同「……」

男「……」

同「……分かりました」

男「本当に? ありがとう」

同「ただ、その……学校では誰かに聞かれるかもしれないので……」

男「あぁ、そうだね。それじゃ……場所を変えようか」

同「すみません」


~とある喫茶店~

男「ここなら、学校からも離れてるし大丈夫だよ」

同「すみません、私のワガママでわざわざ……」

男「気にしないで。話を聞きたいって言ったのは俺だし」

同「いえ、それでも……ありがとうございます」

男「それじゃ……聞かせてもらえるかな?」

同「はい……でもその前に、私は男くんに謝らなければなりません」

男「えっ? 何を?」

同「私は、大切な人を失う気持ちが少しは分かると言いましたが……あれは、嘘なんです」

男「嘘?」

同「その、嘘……のつもりはなかったのですが、男くんの失うとは違うんです。なのに私、勘違いさせるようなこと言ってしまって……すみませんでした」

男「そっか……でも、嘘つくつもりはなかったんでしょ?」

同「はい……」

男「それに違うって言っても、同級生さんも何かを失ってるんだよね?」

同「それは……今からお話しさせていただきます」

男「うん」


同「……男くんには、私がどんな人に見えますか?」

男「えっ? どうしたの急に?」

同「どう……見えますか?」ジーッ

男「え、えっと……そうだね……同級生さんは真面目で、誰にでも優しい……いい人、かな」

同「そう……ですか……」

男「あれ? 不満かな? 俺は素直にそう思ってるんだけど。今日だって、クラスのノート運んでたし……」

同「いえ、そういうわけではありません。それは素直に嬉しいですよ。ただ、私はそんな人間じゃないんです」

男「どういうこと?」

同「本当の私は、いい人なんかじゃありません」

男「……」

同「私が人のために何かをしているのは、誰かのためじゃなくて、自分が必要とされたいという下心です」

男「えっと……話が見えないんだけど……」

同「す、すみません。話し方が下手で……」

男「責めてるんじゃないよ。ただそのことと、大切な人を失うってことが、どう繋がるのかが分からなくて」

同「そうですよね。でも、私が本当はそういう人間だってことを知っていて欲しかったんです」

男「そっか。大事なことなんだね」

同「はい。それで……大切な人を失うって話なんですが……」

男「うん」


同「……私の母はプロのピアノ演奏者でして、その影響もあり、私は物心つく前からピアノを弾いていました」

男「へぇー」

同「母は、私にも将来プロの演奏者になって欲しかったようで、厳しく稽古をつけられました。とても辛かったんですが、私が上手く弾けたり、コンクールで入賞すると喜ぶ母を見るのがとても嬉しくて、一生懸命頑張りました」

男「……」

同「しかし、私には才能がなかったようで、次第に期待に応えるのが難しくなると同時に、その母の期待が薄れていくのを感じていました 」

男「……」

同「それでも、何とか母の期待を取り戻そうと、私は必死に練習に打ち込みました。私が上手くなれば、いい成績を残せば、母はまた私を見てくれる、と……そんな私に、母はかろうじて期待をしてくれていたと思います」

男「……」

同「でも、私はあるコンクールで母を完全に失望させてしまいました……」

男(同級生さん、すごい辛そうな顔だ。本当に悲しい思い出なんだな……)

同「もう後がないと思っていた私は、そのコンクールに向けて、限界まで自分を追い込みました。生活の全てをピアノに捧げていたと言っても過言ではなかったと思います。そうして迎えたコンクールだったのに、私は……」

男「……駄目だったの?」

同「何も弾けなかったんです」

男「えっ?」


同「自分の演奏の順番がきたとき、何も弾けなかったんです。ピアノの前に座った途端に頭が真っ白になって、何の曲を弾くつもりだったのか、どうやってピアノを弾くのか、なぜ自分がここにいるのか……」

男「……」

同「暫く呆然とした後、私は怖くなってその場から急いで逃げ出しました」

男「……」

同「そのコンクールの日から、私は……ピアノをやめました」

男「お母さんは何も言ってこなかったの?」

同「はい。何も……言ってくれませんでした」

男「……」

同「それ以前に、その日から母とはまともに話してません……いいえ、話してもらえません。必要最低限の事務的なやり取りだけなんです」

男「そんな……」

同「期待に応えられなかった私は、母の中でいない存在になったのでしょう。同時にそれは……私が母を失ったってことなんです」

男「それが……同級生さんの言ってた、失う?」

同「はい。なので、私は男くんと違って大切な人が亡くなっているわけじゃないんです。なのに……気持ちが分かるなんて軽はずみなこと言ってしまって……」

男「いいよ、それは。でもそうか……それが、最初に言ってた必要とされたいに繋がるんだね」


同「はい……それまでの私は、母の期待に応えるためにピアノしかやってこなかったのに、自分から唯一の居場所をなくしてしまったんです……」

男「……」

同「居場所なくした私は誰からも必要とされず、どうしていいのかも分からない。だから、良いことをして、誰かに必要とされたがっているんだと思います……」

男「……同級生さんはそれでいいの?」

同「仕方ないんです。自分で招いた事態ですし……」

男「そんな……同級生さんは頑張ってたんでしょ?」

同「はい……」

男「だったら、このままなんて……」

同「いいんです。もう……どうにもならないことですから……」

男「……」

男(俺がとやかく言うことじゃないのは分かってる。でも、こんな話を聞いしまって、目の前でそんな悲しそうな顔をされたら……)

男「同級生さん!」バンッ

同「は、はい!?」ビクッ

男「俺と……友達になってよ!」

同「え?」キョトン


男「同級生さんは幼馴染みを亡くして悲しんでる俺を心配して、見てくれていた。そんな人が俺には必要なんだ」

同「それは……でも、男くんには見守ってくれる人が他にも……」

男「俺は、同級生さんに見ていて欲しいんだ!」

同「……」

男(言ってること無茶苦茶だな俺……それでも、同級生さんをこのまま放っておくことはできない……彼女の失うは俺と違うのかもしれないけど、誰かを失った悲しみには違いないんだから……)

同「……」

男「……」

同「ふっ、ふふふっ……」

男「ど、同級生さん?」

同「ご、ごめんなさい。でも、何だか可笑しくて」

男「俺、言ってること無茶苦茶だもんね」

同「そうですね、無茶苦茶です。でも……とても嬉しいです」

男「え?」

同「男くんは……優しいですね」

男「そ、そうかな? でも、同級生さんの方が優しいと思うよ」

同「私の優しさは、自分勝手な優しさです。男くんのとは全然違います」

男「俺だって大差ないよ。目の前で同級生さんが悲しんでるのを放っておけないって自分勝手な理由なんだ。偽善って言われたら言い返せないよ……」

同「そんなことありません! 絶対にありません! だって、私は……嬉しかったんですから。その優しさが偽善なんてことは有り得ません」

男「……ありがとう」


同「それでその……男くん」

男「何?」

同「その……私と、お友達になってください///」

男「……ぷっ」

同「えっ? な、何で笑うんですか?」アセアセ

男「いや、だって……それ俺が先にお願いしたことでしょ?」

同「そ、それはそうですけど……」

男「まぁ、どっちが先かなんてどっちでもいいか。よろしくね、同級生さん」ニコッ

同「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」ニコッ

男「……ぷっ、ぷくく」

同「え? 何でまた笑うんですか?」

男「いや、何か奇妙な友達のなりかただな、と思って」

同「そうですか?」

男「普通、友達になろうってなるもんじゃないよ。いつの間にかなってるもんじゃない?」

同「そ、そうなんですかね? 私、ずっとピアノばかりだったので、人との関わり方に疎くて……あまり親しい人がいないんです」シュン

男(そういえば、同級生さんが誰かと特別親しくしてるイメージがない。みんなに公平な感じだ。だから誰も、同級生さんに踏み込めなかったんだな)

男「なら、俺が親しい友人第一号だ」

同「そ、そうですね///」

こうして、幼馴染みのいない世界の俺と同級生さんは友達になった。

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