黒井「最強の、アイドルとはぁ!」ドンッ (68)

P「お母さんが病気に?」

響「うん……しばらく、沖縄に帰ろうと思うんさー」

P「そうか……」

響「あんまり、調子良くないみたいで……自分、そばにいてやりたいんだ」

P「事情は分かった。しかし、そうなると今後の活動は……」

響「………」

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亜美「ひびきんが沖縄に帰っちゃった!?」

P「響のお母さんの容態があまり良くないそうでな」

あずさ「じゃあ、響ちゃんは……」

P「ええ。今後の活動はしばらく休止になるかと」

雪歩「そんな……」

美希「……こればっかりは仕方ないって思うな」

真美「そうだね、ちかたないね」

P「ところで、春香達の姿が見えないんだが……誰か知らないか?」

真「今日はまだ見てませんけど……何かあったのかな?」

小鳥「春香ちゃんなら、さっき連絡が。今日はちょっとお休みしたいそうです」

やよい「春香さんもですか!?」

律子「千早と貴音からも連絡があったわ。今日は休みたいって」

伊織「………」

雪歩「あの、皆ちょっといいですか?」

P「ん?」

雪歩「話したいことがあるんです。響ちゃんのこと、それから私達のこと」

雪歩「皆と同じ時間を過ごすこと……皆で、一緒に前を進んでいくこと」

雪歩「少し前まで当たり前だったことが、今は難しくなってしまいました」

雪歩「でも響ちゃんのお母さんのことも大事だから……」

雪歩「だから、響ちゃんとしばらく会えなくなるのも、仕方ないと思うんです」

亜美「そうだね……」

雪歩「それで、今春香ちゃん達がいないのは……共に過ごしたいって、心の表れなんじゃないかなって」

真美「……つまり、どういうこと?」

~離島~

響「はいさーい!お客さんごめんね、今日はもうランチ終わっちゃっt」

貴音「沖縄そばを一つ」

響「えっ!?」



春香「響ちゃーん!」ブンブン

千早「ここが我那覇さんのご実家なのね」

響「春香に千早も……!?」

貴音「響、沖縄そばをお願いします」

春香「お母さんの具合、どう?」

響「う、うん……検査入院はしたけど、そんなに悪くは無かったみたい」

響「ただ、しばらくは安静にって……」

春香「本当に?良かったぁ~」

響「……ところで三人とも、どうしてここまで来てくれたんだ?」

千早「私達は、我那覇さんを迎えに来たの」

響「えっ?」

春香「ち、千早ちゃん!まだそうと決まった訳じゃ……」

千早「ただ確認をするためだけに、ここまで来たんじゃないでしょう?」

響「確認?」

貴音「………」ズルズル

春香「うん……本当は、どうしたいのかなって」

響「どうしたいって……」



春香「……すごく身勝手なこと言うかもしれないけど、許してね」

春香「響ちゃんは、このまま活動をお休みして……本当にいいの?」

響「………」

春香「お母さんが心配なのは、すごく分かるんだけれど……」

春香「もう、響ちゃんと一緒に楽しく歌えないのかなって……そう思っちゃって」

響「うぅ……」

貴音「………」ズルズル

千早「我那覇さんはこのまま、島に残って看病するつもりだったの?」

響「……うん。自分がいた方が、やっぱり安心すると思って……」

千早「……春香」ガタッ

春香「千早ちゃん?」

千早「これ以上ここにいても仕方がないわ。帰りの便の事もあるし、もう我那覇さんのことは」

春香「ま、待って!私まだ……まだ、諦めたくない!」

響「………」



春香「響ちゃん、本当に……これでいいの?」

春香「響ちゃんがいなくなったら、私……」

春香「ううん、皆楽しく歌えなくなっちゃう!」

響「春香……」

春香「響ちゃんの気持ちを、教えて欲しいの!」

春香「……本当はまだ、アイドル……続けたいんだよね?」





響「つ、続゙げだい゙ざぁ゙ー!」ブワッ

響「自゙分゙、春゙香゙達゙ど一゙緒゙に゙……ま゙だ、一゙緒゙に゙……!」グスッグスッ

千早「その言葉を待ってたわ、我那覇さん」

響「千゙早゙ぁ゙……」ポロポロ

春香「また一緒に、頑張ろう?」

響「ゔん゙……!」ポロポロ

貴音「響……」

響「貴゙音゙ぇ゙……」ポロポロ

貴音「沖縄そば、ご馳走様でした。まこと美味でしたよ」

~数日後~


律子「響を呼び戻せるなんて、相変わらずすごいですね春香は」

P「伊達にリーダーやってないからなぁ、春香は」

P「前より活気も出てきたし、いやぁ本当に良かった良かった……」



小鳥「プロデューサーさん!大変です、プロデューサーさん!」

P「ん?どうしました小鳥さん」

小鳥「や、やよいちゃんが……!」

~料亭~

やよい「社長……」

高木「やよい君……」

やよい「今まで、本当に……ありがとうございましたっ!」ガルーン



高木「ハッハッハ、それはまだ早過ぎるよやよい君」

高木「君がこれからするのは結婚ではなく、お見合いだ」

やよい「あっ……そ、そうでしたー!」

高木「しかし、今回は無理を言って済まなかったね」

高木「酒が入っていたとはいえ、先方がまさか見合い話を本気にしてしまうとは思わなくてな」

やよい「でも、本当にお断りしちゃって、いいんですか?」

高木「うむ。尤も君にその気が無ければの話だが」

やよい「え?」



高木「……あぁ、いや何、冗談だよ。別に気にせんでくれたまえ」

高木「今年で君も、22になる。不本意だと思うが、これも君の人生にとって、貴重な経験となり得るはずだよ」

やよい「不本意だなんて、そんなことないですよー。こんなに綺麗な和服だって着られましたし……」

やよい「美味しいお料理、たくさん出るんですよね!……あっ、お持ち帰りはできますか!?」

高木「うぅむ、流石に難しいと思うが……私から何とか、頼んでみよう」

やよい「ありがとうございます!」



高木「さて、そろそろ先方が到着する時間だ。君は先に部屋の方で待っていなさい」

やよい「分かりましたー!……あれ?社長は?」

高木「……私は少し、用事がある」

真「よっと」ヒョイ

記者「お、おい!何をす……」

真「このカメラでボクのスカート、盗撮しようとしてたでしょ?」

記者「そ、それは別に、あんたを撮るためじゃ……!」

真「レンズ、バッチリ向けてたじゃないか。警察に突き出したっていいんだけど」

千早「ちょっと、真?あんまり長引かせないでね」

真「分かってるさ」

記者「如月、千早!?……な、何でここに?」

千早「ったく……社長も社長よ。ゴシップ記者に尾行されてるのに気付かないなんて」

真「仕方ないよ、社長ってどこか抜けてる所あるし。事務所移転の話の時もそうだったろ?」

記者「……あんた達は、この料亭で何があるのか知ってるのか?」

真「別に知らなくてもいいことだよ……っと」ドッ

記者「ぐっ……!」ガクリ



千早「ちゃんと気絶してる?痣なんかつけてないでしょうね」

真「へへっ、大丈夫だって。繁華街の時よりは上達してるつもりだからさっ」

千早「あんな大立ち回りはステージの上だけにして。善澤さんだって暇じゃないのだから」

真「はいはい、分かってますよ」

やよい「……遅いなぁ、社長。相手の人も……」


ドタドタドタドタ…


やよい「?」


ガラッ


高木「ま、待ちたまえ天海君!話を聞……ぬぉぉっ!」ドシャァ

やよい「!?」

春香「ハァ、ハァ……やっと見つけたよ、やよい」

やよい「は、春香さん?どうしてここに……」

春香「やよいは、本当にお見合いするつもりなの?」

やよい「えっ?」

春香「結婚したら……皆と過ごせる時間、減っちゃうよね?」

やよい「……社長?」

高木「だから何度も言っているだろう天海君!これは……」

春香「社長は黙ってて下さい!」

春香「お見合いの相手なら、今雪歩に任せてるから。私の話を聞いて、やよい!」

やよい「春香さん、あの……」

春香「やよいは、どうしたいの?」

やよい「えっ?」

春香「社長に言われて、従ってるだけなんだよね?こんなお見合い」

春香「お見合いなんか、したくなかったんでしょ?そうだよね?」

やよい「えーっと……」

春香「本当はアイドル、もっと続けたいんだよね!?」

やよい「あの、春香さん!」

春香「やよい?」

やよい「私、最初から結婚するつもりはなかったんです!」

春香「……え?」

やよい「実はかくかくしかじかで、このお見合い断るつもりだったんですよー」

春香「そうなの?本当に?」

高木「天海君に説明してもこの有様だから、内密に済ませるつもりだったのだよ……」

雪歩「ねぇ春香ちゃん、あの男の人どうするの?外で待たせてあるけど」

春香「ごめーん雪歩、私の早とちりだったみたい!」テヘッ

雪歩「え、そうだったの?」

春香「うん、撤収しちゃって。萩原組の人には申し訳ないけど」

雪歩「ううん、大丈夫。じゃあ、皆にそう伝えてくるね」

春香「ありがとね、雪歩!」



やよい「……あの、社長……お持ち帰りは?」

高木「………」

~数日後~


律子「それにしても、表沙汰にならなくてよかったですね。やよいのお見合い未遂」

P「ああ。社長の付き合いとはいえ、あれは流石に軽率だったよなぁ」

律子「まぁ、物証もありませんし。裏で動いてくれた善澤さんには本当に感謝……」

小鳥「た、大変ですプロデューサーさん!大変ですよ!」

P「今度はどうしました小鳥さん?」

小鳥「て、テレビをつけてください!」

『引退すると言うのは本当ですか、水瀬さん!』

伊織『ええ、引退するわ』パシャパシャパシャパシャ

『引退後は何をされるおつもりでしょうか?』

伊織『そうね、思いっきり旅行でもしようかしら』パシャパシャパシャパシャ

『では、海外に?』

伊織『しばらく定住はしないわね。色々見たい国もあるし』パシャパシャパシャパシャ

『結婚のご予定は!?』

伊織『じゃ、そろそろ飛行機の時間だから』パシャパシャパシャパシャ



律子「伊織……!?」

P「な、何てことだ!」

~空港~


伊織「……新堂」

新堂「ここにおります、お嬢様」

伊織「良い?ちゃんと手筈通りに動くのよ?」

新堂「仰せの通り、選りすぐりの手練れを配置につかせ、万全を期してございます」

伊織「私が海外に出られるかどうかは、貴方達次第なんだからね」

新堂「お嬢様以外に心を動かされる人間は、我々の中にはおりませぬ。ご安心を」

新堂「ところで……高槻様へのご連絡は、如何致しましょう?」

伊織「それは私がやるわ。色々と落ち着いたらね」

真美『……えー、こちら真美。どうぞ』ガガッ

亜美「こちら亜美、どうぞ」

真美『出発口前は黒服の兄ちゃん達がガッチリ固めてました、どうぞ』ガガッ

亜美「何とかごまかして通りぬけられないか、どうぞ」

真美『いおりんに変装して通ろうとしたらあっさり捕まりました、どうぞ』ガガッ

亜美「ええっ!?じゃあ真美は今どこにいるのさ、どうぞ!」

真美『別室に連れてかれて黒服の兄ちゃん達に囲まれてます、どうぞ』ガガッ

亜美「……真美、ダメだったみたい」

やよい「そ、そんな……このままじゃ伊織ちゃんが!」

春香「あずささん、ちょっと」

あずさ「何かしら?」

春香「トイレに行きたいんですけど、案内してくれませんか?」

あずさ「ええと……多分、こっちのはずよ~」テクテク



美希「流石の春香もお手上げ状態なの」

千早「それはどうかしらね」

~機内~


新堂「拘束した双海様は如何しましょう?」

伊織「離陸するまで適当にUNOでもやらせておけばいいわ。まだ出発できないの?」

新堂「間もなく離陸準備が完了致しますので、今しばらくのご辛抱を……」


ガチャッ


あずさ「大丈夫、このドアを抜ければきっとトイレに……あら?」

伊織「!?」

新堂「なっ……!」

春香「あれ、伊織!?」

伊織「あんた達、一体どうやって……」

春香「え、えっと……あずささんと一緒に、トイレを探してただけなんだけど」

伊織「そんなバカなことある訳ないでしょ!?……新堂!」

新堂「はっ」

伊織「早く二人を飛行機から連れ出して!」

春香「ち、ちょっと待ってよ伊織!」

あずさ「あの、すいません……」

新堂「如何されました?」

あずさ「そ、その……トイレは、どこでしょうか?」モジモジ



新堂「こちらの通路奥、一階下にございます。ご案内致しましょう」

伊織「新堂ォォォォォォッ!!」

新堂「……申し訳ございませぬ、お嬢様……!」

春香「ようやく二人になれたね、伊織」

伊織「………」

春香「ねぇ、どうして?何で今引退なんか……」

伊織「しちゃいけないって言うわけ?」

春香「え?」

伊織「別にアンタ達と二度と会わないって訳じゃないのよ?」

伊織「私は私のやりたいことをやりたいから、まず引退するの」

春香「……アイドルは、やりたいことじゃないの?」

伊織「デビューしてからこの9年、アイドルとしてやりたいことはほとんどやってきたわ」

伊織「ううん、もうやり尽くして飽きてる位なの。今はただ、しがらみにしか感じられないのよ」

春香「しがらみって……」

伊織「17歳表記のままアイドルやってるようなアンタには分かんないでしょうけどね」

春香「私だけじゃないよ。千早ちゃんも真も雪歩も美希も響ちゃんも貴音さんも、皆17歳だよ?」

伊織「それはアンタがそうしたんでしょ!」

伊織「真がアイドル辞めて、女優一本で独立しようとした時……」

伊織「アンタはあの時、自分が何したか覚えてる?」

春香「あの時は、仕方ないよ。真が女優になったら、真と一緒に過ごせる時間、減っちゃうし……」

伊織「そう言ってアンタはあずさにできた恋人も別れさせたのよね」

春香「そ、そんな事してない!私はただ、あずささんにアイドル辞めてほしくなかっただけ!」

伊織「亜美の時もそう言って説得したってわけ?」

春香「そうだけど……」

伊織「……こういう事が起きる度に、アンタが説得して回らなきゃいけない状況自体、おかしいとは思わないの?」

春香「べ、別におかしくなんかないよ。私、皆をまとめるリーダーだし……」

春香「皆がアイドルをやりたくない、辞めたいって思っちゃうのは、きっと一時的な事だと思うから……」

伊織「アンタや千早がそうだったからって、皆が皆そうだとは思わないでよ!」

春香「えっ……?」

伊織「本当の事言うとね、誰も春香みたいに一生アイドルを続けたい、なんて思っちゃいないのよ」

春香「……う、嘘、だよね?だって皆は」

伊織「私の言う事を、聞いてくれたから?」

伊織「……皆ね、アンタのワガママに付き合ってあげてるだけなの」

伊織「アンタは皆に優しいから。アンタを悲しませようとしたくなかったの」

伊織「だから皆、アンタの気持ちを考えて……付き合ってあげてただけなのよ」

春香「………」

伊織「でも私の人生は、私だけのもの。アンタのために残りの人生、全てくれてやるほどバカじゃないわ」

伊織「だから、引退したいのよ。アイドルとしてじゃなく、ただの個人として、アンタ達と付き合いたいの」

春香「い、伊織……」



『――春香ね、大きくなったらアイドルになって、皆で楽しく歌を歌いたかったの』

春香「あっ……」

ロリ春香『いつまでも、皆と一緒に、楽しく歌って、踊りたい』

ロリ春香『……春香はここで、諦めちゃうの?』

春香「私は、諦めたくなんかない……でも……」

ロリ春香『大丈夫だよ』

ロリ春香『きっと大丈夫。だって私は、皆を信じてるもん』



春香「……うん、そうだよね。今度もきっと、大丈夫……」

春香「ちょっとくらい、自惚れたって……いいよね……」

伊織「春香?何さっきからブツブツ言って……」

春香「……それでも、今までと同じにはいかないよね?」

伊織「えっ?」

春香「皆が伊織と一緒に過ごせる時間、減っちゃうよね?」

伊織「そ、そうだけど……」

春香「そんな事になったら……もう皆、楽しく歌えなくなっちゃうんだよ?」

春香「それでいいの?伊織は本当に……それでいいの?」

伊織「だからさっきも言ったじゃない、二度と会えなくなる訳じゃないって」

春香「……ねぇ、伊織」ガシッ

伊織「痛っ!ちょっと、何す……!」

春香「伊織の本当の気持ち、私に教えて?」

伊織「春香……!?」

春香「私は、皆を……伊織を、信じてるから……」

春香「本当は、続けたいんだよね?」グッ

伊織「そ、そんな訳……!」



春香「アイドル、続けたいんだよねっ!?」

~数日後~


P「引退宣言を撤回してから、ようやく最近落ち着いてきた感じだなぁ」

律子「一時はどうなる事かと思いましたね……」

P「これも春香が伊織を説得してくれたおかげだな。いやぁ、本当に良かった良かった……」



小鳥「あの、ちょっといいですか?」

P「何でしょう、小鳥さん」

小鳥「プロデューサーさん達は、どうして動かないんです?」

P「え?」

律子「別に何もしてない訳じゃありませんけど。ね、プロデューサー」

P「あぁ。事態の説明をしたり、料亭や空港まで、ちゃんとアイドル達を送ったりしましたよ」

小鳥「そ、それだけ?」

P「それだけって……それ以上の事をしなきゃいけないんですか?」

小鳥「いや、アイドルの説得とかは……?」

律子「それはリーダーである春香の仕事です。私達の仕事じゃありません」

P「961プロなんかが関わってたなら別ですけどね。勘違いを除けば、全て彼女達自身が抱えている問題でしたし……」

P「アイドルの問題であれば、同じアイドル同士で解決させた方が、一番良いじゃないですか」

小鳥「た、確かにそうかもしれませんけど……」

P「間に入って仲裁するよりも、解決を見守ってあげた方がいいんですよ。それが彼女達の為でもあります」

律子「ですよね」

小鳥「今回は良かったですけど、また何か起きたら……」

P「春香が説得してくれたメンバーは、その後一切問題は起こしてません。大丈夫ですよ」

小鳥「でもまだ説得してない子だって、分からないじゃないですか」

律子「残りのメンバーが結婚したり、引退したりですか?」

P「まぁ、結婚は……しないでしょうね。できませんとも言いますけど」

小鳥「何でそう言い切れるんです」

P「ステージ上で男性ファンを相手にするのと、男と付き合うのは訳が違いますから」

律子「雪歩辺りは、まずその点で考えられませんよね」

P「だな。千早は普段から765プロが新しい家族だと言ってはばかりませんし」

P「貴音は、高嶺の花ですから。周りが謙遜しすぎて誰も近寄りません」

律子「あ、今ウマい事言いましたね」

P「仮に近寄る人間がいたとしても、貴音がそれを認めるかどうかは、また別の話です」

小鳥「……美希ちゃんは?」

律子「美希は、プロデューサーと付き合いたがってるようですが……」

P「そもそも俺がアイドルとそんな関係を持つ事自体、あり得ませんよ」

小鳥「ええっ?そ、そんなバッサリと……」

律子「プロデューサーは、美希だけじゃなくてあの子達のプロデューサーですからね」

P「と言うか、バッサリとって。普通あってはならない事じゃないですか」

小鳥「そ、そうですかね?」

律子「そうですよ。アイドルに手を出すようなプロデューサーを、一体誰が望んでるって言うんです?」

小鳥「……じゃあ、プロデューサーさんは結婚されないんですか?」

P「何言ってるんです、もちろんそんな訳無いじゃないですか」

小鳥「そうですか……」





小鳥「へ?」

P「彼女達がデビューしてから、もう9年ですよ9年。まったく縁がないままだと思ってたんですか?」

小鳥「えっ?……ええっ!?」

律子「流石に失礼ですよ、小鳥さん」

小鳥「だ、誰と?一体誰と結婚するんです!?」

P「彼女とです」

小鳥「彼女って……」



律子「……この間、プロポーズを受けまして」

小鳥「えっ」

P「婚約指輪と一緒に、はい」

小鳥「ちょっと待って。いや、ちょっと待って」

P「どうしました?」

小鳥「あんたらさっき散々アイドルは結婚しませんとか言ってましたよね?」

P「ええ。でも俺らは、アイドルじゃありませんので」

律子「仕事だって辞めるつもりありませんしね。ただ、夫婦になるだけですよ」

P「今後は二人で一緒により一層、765プロを盛り上げていこうと思ってます」



小鳥「……ふ、フフ……」

P「小鳥さん?」

小鳥「そうですか、そう来ましたか……でも、残念でしたね」

律子「何がです?」

小鳥「縁談を潰されたのが、やよいちゃんだけだとでも思ってるんですか?」

P「はい?」

小鳥「社長が回してくれた私の縁談、ことごとくぶっ潰されてんです。もう二桁いきそうなんですよ?」

律子「それは、小鳥さんが相手に気に入られなかったからでは……」

小鳥「いいえ!断じて私のせいじゃありませんっ!」ダンッ

小鳥「結婚したからといって寿退職するつもりが無いのも、お二人と一緒でした」

小鳥「良い人だって、見つけられたんですよ?……それを誰が潰してくれたか、分かりますか?」

P「……律子、外回りに行くぞ」ガタッ

律子「は、はい!」ガタッ

小鳥「ふふっ……逃げようったってね、もう無理なんですよ。プロデューサーさん」



律子「プロデューサー……」

P「小鳥さんに話すまで、まだ誰にもバレちゃいないはず……大丈夫だ!」

美希「何が大丈夫なの?」

P「!……み、美希!?」

美希「ねぇ、どこに行こうとしてるの?」ガシッ

P「あぁ、ちょっと外回りにな……離してくれないか?」

美希「どうして?」

P「ど、どうしてって……」

あずさ「もう……抜け駆けしちゃダメじゃないですか、律子さん」ガシッ

律子「あずささん!?」

P「しまったっ!」



雪歩「……律子さんは、私達に任せて。きっと説得してみせるから」グッ

千早「任せたわ、萩原さん」

貴音「千早、ありましたよ。上着の中に隠し持っていたようですね」ピラッ

千早「まだ出してなかったんですか、婚姻届」

P「な、何故こんな……君達さえ変わらなければ、良かったんじゃなかったのか……!?」

千早「……765プロは、私にとって新しい家族なんです」

千早「これ以上変わっていくということは、その新しい家族が壊れていくということ……」

千早「壊れるなんて、もう二度とあってはならないんです。プロデューサー」

P「……765プロ、だと……?」

春香「そうですよ、プロデューサーさん」

春香「私達も含めて、765プロだって変わってほしくないんです」

春香「それが、私……ううん、皆の気持ちなんですよ」

P「だ、だからって、俺や律子や、小鳥さんまで……!?」

美希「ハニーが律子と結婚するくらいなら、ずぅっとこのままでいられる方がいいの」

貴音「いつまでもうつろわぬ関係と日々を、享受致しましょう……あなた様」

P「っ……」

春香「プロデューサーさん?」



P「君は……本当に、アイドルしかやりたくなかったのか?」

春香「……アイドルなら、一人でやればいいだろって、思ってます?」

P「………」

春香「私の夢はね、アイドルになる……なるだけじゃありません」

春香「アイドルになって、皆と一緒に、歌って、踊れることなんです」

春香「……夢を叶えるって、そんなにいけないことですか?」

P「春香……」



春香「もしかしたら、もっと良い方法があったかもしれません」

春香「けど……私は、天海春香ですから!」キラキラ

黒井「――迷いを捨てた、天海春香」

黒井「彼女こそが、まさしく!最強の、アイドルなのだよ!」

黒井「……親父!もう一杯!」タン

屋台の親父「あの春香ちゃんがねぇ」

黒井「いやっ!……アレはもはや、天海春香などではない」ヒック

黒井「765プロという一つの集合体、一つの意志を持った、怪物なのだ!」

黒井「そして765プロに属した者は、絆という呪縛から、決して逃れる事はできんっ」ドンッ

黒井「善澤も、高木も……そう、誰一人としてなぁ!」

屋台の親父「ヘイ、熱燗お待ち」トン

黒井「……気に食わんかぁ?」グビッ

黒井「だがアレならば、生涯現役でアイドルを続けられるぞぉ。それだけの力もある」トン

黒井「どこぞの大御所タレントのように、死ぬまで芸能界を牛耳れることだろう!」ヒック

黒井「どこからどう見ても最強ではないか。君もそう思わないかね?んん?」

屋台の親父「お客さん、もうそろそろ止めといた方が……」

黒井「うるさぁい!黙って聞けぇ!」クワッ

黒井「よく覚えておきたまえ。アレが仲良しこよしを貫いた、765プロの行き着く先……腐敗、そのものなのだ」

黒井「最強ではあるが、最善ではない。まして究極ですらないのだよぉ」ヒック

黒井「もし君がアイドルをあんな大御所のような女に育てるつもりが無いのなら、自分でしっかり手綱を掴んでおくことだ」

屋台の親父「はぁ」

黒井「私ならなぁ、絶対にあのようなアイドルには育てんぞ?何故だか知りたいかぁ?」

屋台の親父「いや、別n」

黒井「私が求めるアイドルはなぁ!私が望む通りの究極でなければならないからだっ!」ドンッ

黒井「仲の良いアイドルがいなくなるだけでブレるようなアイドルなんぞ、何の価値がある!?」ヒック

屋台の親父「えぇ、分かりますよお客さん。だからそろそろ……」

黒井「これでも理解できんと言うのならぁ……」ヒック

黒井「まぁせいぜい、高木が入社前にほざいていたことでも思い出すんだな」ガタッ

屋台の親父「……お客さん?」

黒井「アイドル候補生達をぉ、トップアイドルに導くのは……一体、誰の仕事だぁ?」フラフラ

黒井「彼女達かぁ?……いや、違ぁう!それは……うっぷ!」

屋台の親父「ちょっと、勘定は!?お客さんっ!」





ロリ春香「みんなまとめて♪アイドルマスター♪……ふふっ」



おわり

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