地下室──
女騎士「今日からここが、貴様の寝床だ」ブンッ
騎士「はうわっ!」ドサッ
騎士「ああ……あああ……たまりません……」
女騎士「さて、貴様の国の軍事について知ってることを洗いざらい吐いてもらう」
騎士「俺は仲間は売らん」キリッ
女騎士「そうか、ならば仕方ない」
女騎士「捕虜は丁重に扱うべしなどという法もあるが」
女騎士「あんなもの、律儀に守る兵などいない」
女騎士「拷問してやる!」
騎士「お願いいたします!」
女騎士「私は拳闘を趣味としていてな──」
女騎士「試合で男をノックダウンしたこともある」
女騎士「さて、何発耐えられるかな?」シュッシュッ
騎士「拳ですか!? 拳でございますか!?」
女騎士「殴られたくなくば、情報を吐け」
騎士「俺は仲間は売らん」キリッ
女騎士「後悔しろ!」
ドズゥッ!
騎士「うげぇっ……お、お、あ~~~~~!」
女騎士「ジャブ!」シュッ
ドスッ!
女騎士「フック!」ビュッ
ドカッ!
女騎士「アッパー!」ブオンッ
ガゴッ!
女騎士「ストレート!」シュバッ
ドゴッ!
騎士「あおお~~~~~! あ、あ、あ~~~~~!」
騎士「ありがとうございます、ありがとうございます!」
女騎士(有り難い……有ることが難しい)
女騎士(つまりめったに味わわないような苦痛だったということか)
女騎士「痛かっただろう?」
騎士「はい! すっごい痛かったでしゅ!」
女騎士「どうだ、ならば吐く気になったか?」
騎士「俺は仲間は売らん」キリッ
女騎士「そうか──ならば今度は蹴りもつけるぞ!」
女騎士「私はキックボクシングをたしなんでもいたのだ」
騎士「ありがとうございます! 遠慮なくいただきます!」
女騎士「でりゃっ!」シュバッ
ドゴッ!
女騎士「せいやっ!」ビュバッ
ズガッ!
女騎士「だりゃっ!」ブオワンッ
バゴンッ!
女騎士「そりゃっ!」ビュワッ
ズドッ!
騎士「あうあああ~~~~~! いい! いいわぁ~~~~~!」
女騎士「ハァ……ハァ……」
女騎士(こっちの手足が痛くなってきた……!)
騎士「ハァ……ハァ……あぁあん……」
女騎士(だが、こいつも息切れしている! だいぶ参ってきたのであろう)
女騎士「そろそろ吐いたらどうだ? 私も鬼ではないぞ」
騎士「俺は仲間は売らん」キリッ
女騎士「強情な奴だ!」
女騎士「ならば鞭打ちの刑だ!」
騎士「いよっ、待ってました!」
女騎士「ハァッ!」ヒュッ
ビシッ!
女騎士「どうだ!」ヒュッ
バシィッ!
女騎士「吐け!」シュッ
ベチィッ!
女騎士「吐かんか!」シュバッ
バチィッ!
女騎士「愚か者め!」ヒュバッ
ベシィィッ!
騎士「うおおお~~~~~ん! すごい、すごいぞお! 体中で火花散ってる!」
女騎士「お前のアナルバージン豚煮込みwww」
騎士「ありがとうございます!」
女騎士「鞭の方がダメになってしまった……」ボロッ…
騎士「あっ、あっ、あっ」ビクビクッ
女騎士(痙攣している……いよいよ死が近いということか)
女騎士「どうだ……もういいだろう?」
女騎士「そろそろ吐け!」
騎士「俺は仲間は売らん」キリッ
女騎士「やむをえんな」
女騎士「私としてもここまでやったんだ」
女騎士「今さら引き返せん」
女騎士「爪をはぐ。手足全てだ!」
騎士「うひょ~っ!」
女騎士「そらっ」ギリッ…
ベリッ!
女騎士「もいっちょ!」ギリギリッ…
ベリベリッ!
女騎士「足の爪もだ!」ギリッ…
ベリリィッ!
女騎士「ダメ押しで、剥がしたところに塩を塗り込んでやる!」
ヌリヌリ……
女騎士「ついでにはいだ爪を鼻の穴に押し込んでやる!」
グリグリ……
騎士「おっほぉぉ~~~~~う! こりゃたまりませんなぁ~~~~~!」
女騎士「もはや、貴様の手足の指先は血にまみれている」
女騎士「いい加減、強情を張るのはやめろ! 見苦しいぞ!」
女騎士「頼むから、吐いてくれ!」
騎士「俺は仲間は売らん」キリッ
女騎士「あくまで忠義を貫くか……」
女騎士「過ぎた忠義は身を滅ぼすだけだぞ!」
女騎士「こうなったら爪を剥がれた手足に油を塗り、焼いてくれる!」
騎士「すばらしいですね!」
女騎士「両手両足に油をかけて、と」ドボドボ…
女騎士「さあ覚悟はいいな」
女騎士「このマッチの火が油に引火すれば、貴様は地獄の苦しみを味わうことになる」
女騎士「──返事もなしか」
女騎士「いい度胸だ!」シュボッ
女騎士「ならば私も心を鬼にする!」
ボワァァァッ!
騎士「あっとぅ~~~~~い! よいですぞ、よいですぞ~~~~~!」
女騎士「チッ……。音を上げる前に火が消えてしまうとはな……」
女騎士「しかし、貴様の手足は重度の火傷を負った!」
女騎士「もういいだろう、諦めろ!」
女騎士「貴様はよくやった!」
女騎士「さあ……吐け! 貴様の国の情報をな!」
騎士「俺は仲間は売らん」キリッ
女騎士「ならば仕方ない……」
女騎士「その体、我が剣で切り刻んでくれる!」チャキッ
騎士「よっしゃあ!」
女騎士「せいっ!」ビュアッ
ザンッ!
女騎士「ハァッ!」シュパッ
ズバッ!
女騎士「でりゃっ!」ブオンッ
ザシュッ!
女騎士「とうっ!」シュッ
ドスッ!
女騎士「ぬんっ!」シュビッ
ズシャッ!
騎士「いたきもちいぃひぃ~~~~~ん! し~あ~わ~せぇ~……」
女騎士「おい、いい加減にしろ!」
女騎士「いくらなんでも、このままでは死ぬぞ!」
女騎士「吐け! 吐くんだ!」
騎士「俺は仲間は売らん」キリッ
女騎士「この強情ものがぁ~~~~~!」
女騎士「どこまでもどこまでも!」
女騎士「私を楽しませおって~~~~~!」ブオンッ
ザバシュッ!
騎士(嗚呼……この瞬間を待っていた……)
騎士(嗚呼……最高の至福……)ガクッ
女騎士「!」
女騎士「おい?」
女騎士「起きろ!」ツンツン
女騎士「起きんか!」ペチペチ
女騎士「……死んでる」
女騎士「ああ、なんということだ!」
女騎士「こんなに忍耐強く、私を楽しませてくれた男は初めてだったのに!」
女騎士「つい勢い余って殺してしまった!」
女騎士「私はなんと愚かなことをしてしまったのだ!」
墓──
女騎士「…………」
司祭「ずいぶん熱心に祈りを捧げていますね」
司祭「よほど大切な方だったようですね?」
女騎士「ええ、私の最高のパートナーになる素質を持っていました」
女騎士「でも、私は楽しさのあまり手加減を忘れ、ついこの手で──」
司祭「なにやら複雑な関係だったようですね」
司祭「それほどまでに悔いているのなら、神はきっと許して下さいますよ」
女騎士「はい……」
あの世──
騎士「……ん」
騎士「ここは?」
門番「あの世です」
門番「ここに二つの道があります」
門番「永遠の平和を享受できる天国への道と」
門番「永遠の苦痛を味わわされる地獄への道」
門番「あなたは生前、特にいいことも悪いこともしていないので」
門番「ここでどちらに行くかを自分で選ぶことができます」
門番「まあ聞くまでもない二択ですが、どうしますか?」
騎士「地獄で」
閻魔「ふむ、わざわざ地獄を選ぶとは……」
閻魔「今までに全く例がなかったわけではないが、変わった奴がいたものだ」
騎士「いえいえ」
閻魔「いっとくが、一度選ぶともう戻れんからな」
閻魔「あとでやはり天国で、ということはできんからな」
騎士「はい!」
閻魔「まあ大した罪も犯していないし……。鬼娘よ、針山地獄に連れてゆけい!」
鬼娘「アイアイサー!」ビシッ
針山地獄──
鬼娘「針山に刺されて苦しみな!」ポイッ
グサッ!
騎士「あうっ!」
グサグサッ!
騎士「あおおおお~~~~~っ!」
鬼娘「フフフ、地獄をなめるからだ! 穴だらけになっちゃいな!」
鬼娘「なんなら閻魔様に内緒で天国行きにしてやっても──」
騎士「いい! これはいいぞぉ~~~~~!」ゴロゴロ
グサグサッ!
鬼娘(コイツ、針山を楽しんでいる!?)
鬼娘「ちょ、ちょっと待て!」
騎士「はい?」
鬼娘「お前痛くないのか?」
騎士「痛いですよ」
鬼娘「じゃあなんで、そんなに嬉しそうなんだ!」
騎士「え、バレちゃいました?」
鬼娘「バレバレだ、バカが!」
騎士「バカですみません! もっと罵って下さい!」
鬼娘「えぇ~い、血の池地獄に連行する!」
血の池地獄──
グツグツ……
鬼娘「今からお前を、この中に叩き落としてやる!」
騎士「わぁ~お、こりゃたまりませんなぁ」
騎士「ダイブ!」バッ
ドッボーン!
鬼娘「ハハハ、自分から飛び込むとはバカめ! ここは溶岩よりも熱い血の池地獄!」
鬼娘「しかも死人であるお前は死ぬこともできないんだ!」
騎士「あっつぅ~~~~~いん!」
鬼娘「そうだろう、そうだろう!」
鬼娘「アタシも鬼だけど鬼じゃない! 降参するなら天国に行かせてやっても──」
騎士「いいわぁ~~~~~いいわぁ~~~~~!」
鬼娘「!?」
閻魔「ふむ……どんな地獄でも効果なし、と」
鬼娘「はい……」
鬼娘「笑ったり、もだえたり、はしゃいだり……」
鬼娘「これじゃ、他の亡者に示しがつきません」
鬼娘「アタシもちょっとノイローゼになっちゃいそうです」
鬼娘「ストレスでツノがしおれちゃいましたよ」シナッ…
閻魔「うぅむ、分かった……」
閻魔「その騎士をワシのもとに呼べい!」
鬼娘「アイアイサー!」ビシッ
閻魔「単刀直入に聞こう」
閻魔「おぬしは痛いのが好きなのか?」
騎士「はい、好きです!」
閻魔「本当か? ウソをつくと、舌を抜くぞ」
騎士「ぜひ、抜いて下さい!」
騎士「あ、いや、抜かないで下さい! 絶対に抜かれたくないです!」
騎士「実は痛いのが嫌いなんです! だから早く抜いて──いや抜かないで下さい!」
閻魔「……もういい」
鬼娘「ダメだこりゃ……」
鬼娘「どうしますか、閻魔様」
閻魔「う~む、あれはもう手がつけられん」
閻魔「あれではいくら痛みを与えても、喜ぶだけだ」
閻魔「おぬしがいったように、他の亡者に示しがつかんな」
閻魔「こうなったら文字通り──」
閻魔「苦痛を与えるのはやめて、放っておくしかあるまい」
閻魔「あの手の輩にはこれが一番だ」
閻魔「さっそく、あの騎士を放置地獄へ連れていけい!」
鬼娘「アイアイサー!」ビシッ
鬼娘「今度の地獄はこっちだ」
騎士「次はどんな責め苦が待っているのですか?」ワクワク
鬼娘「なにもないぞ」
騎士「は?」
鬼娘「なにもない空間に、お前は永遠に放置される」
鬼娘「それだけの地獄だ」
騎士「そ、そんなっ! イヤです! ダメです! 他の地獄に──」
鬼娘「もう手遅れだ! さっさと入れ!」ポイッ
騎士「うわぁぁぁぁぁっ!」
閻魔「これで一件落着だな」
閻魔「奴は痛みも苦しみもない世界にて、存分に苦しむことになろう」
鬼娘「ちょっと可哀想な気もしますけどね」
鬼娘「それにしても……あんな恐ろしい人間は初めてでしたよ」
鬼娘「地獄の責め苦をものともしないとは……」
閻魔「人間の中には、“マゾ”という肉体的・精神的な痛みを快感に感じる人種がおる」
閻魔「そのほとんどが、不遇な自分を慰めるための自称マゾだったり」
閻魔「あるいは、あまりに強烈な苦痛には結局耐えられない紛い物なのだが」
閻魔「中にはああいう“本物”もいるのだ」
閻魔「ワシも地獄生活は長いが、あんなヤツに出会ったのは初めてだ」
おお~…… おお~……
閻魔「ん? なんだこのうめき声は?」
おお~…… おお~……
鬼娘「どんどん大きくなっていきますね!」
おお~…… おお~……
閻魔「この声は──放置地獄からだ! おい、今すぐ行ってこい!」
おお~…… おお~……
鬼娘「アイアイサー!」ビシッ
騎士「おおおおお~~~~~っ!」
騎士「おおおおおおおおおお~~~~~っ!」
騎士「いい! いい! いい! いい! いい!」
騎士「たまらぁ~~~~~ん! あ~~~~~ん!」
騎士「俺が痛みや苦しみを好きなのを知ってて、あえての放置!」
騎士「おおおおお~~~~~っ!」
騎士「おおおおお~~~~~っ!」
騎士「サイコーッ!」ビクビクッ
鬼娘「…………」
鬼娘「──という具合でした。ありゃ何万、何億年でも耐えますね」
鬼娘「放置されてるという状況すら、奴にとっては快感に過ぎないようです」
鬼娘「それも、とびっきりの」
閻魔「……ハァ」
閻魔「これ以上、放置しておくとどんどん声がでかくなり」
閻魔「地獄中に奴のあえぎ声が響き渡るはめになる」
閻魔「ワシもこれ以上、この気持ち悪い声を聞きたくない!」
閻魔「すぐに放置地獄から釈放せいっ!」
鬼娘「ア、アイアイサー!」ビシッ
騎士「もっと入っててもよかったんですけど」
鬼娘「うるせえ!」
鬼娘「……どうしますか、閻魔様」
鬼娘「いっそ苦痛どころか幸福だらけの天国に送っちゃいますか?」
閻魔「いや、無駄だろう」
閻魔「放置地獄と同じことを繰り返すだけだ」
閻魔「苦痛が好きなのに幸福ばかりの場所に送られて云々と、もだえるに決まってる」
鬼娘「……ですよねぇ」
閻魔「……こうなったら手は一つしかない」
閻魔「現世に帰ってもらおう」
鬼娘「それしかないですね。そうしましょう。是非そうして下さい」
閻魔「オイ、おぬし」
騎士「はい?」
閻魔「現世行きのチケットだ」バサッ
閻魔「これを、向こうにいる門番に見せればおぬしは生き返れる」
閻魔「また生を満喫してこい」
鬼娘「じゃな! 長生きしなよ!」
騎士「まぁ……くれるっていうんならもらいますけどね」
騎士「死んだらまた、よろしくお願いしますね」
騎士「針山でも血の池でも放置でも、何でもいいんで。あ、できれば放置で」
閻魔「チケットは100枚ある。今回一枚使っても、あと99回死ねる」
閻魔「全て使いきったらフリーパスにしてやる」
騎士「どんだけ俺は嫌われてんですか」
騎士「でも……嫌われるって、いいですよね!」ゾクゾクッ
閻魔「さっさと帰れ!」
鬼娘「二度と来んな!」
墓──
司祭「毎日毎日、祈りを捧げて……熱心ですね」
女騎士「司祭様……」
女騎士「きっとこうしていれば、また彼に会えるんじゃないかと思って──」
モコモコ……
司祭「ん?」
ドバァッ!
司祭「どひゃあ、墓の下から人間が現れた!」
騎士「やあ、女騎士さん久しぶり! 地獄からよみがえったよ!」
女騎士「おお、待っていたぞ!」チャキッ
女騎士「さすがに一度死んだんだから、もう吐く気になったろう?」
騎士「俺は仲間は売らん」キリッ
女騎士「コイツめ!」シュッ
ザシュッ!
騎士「ぐわぁっ! あはぁ~~~~~ん……」
騎士「やっぱり……女騎士さんの責めが一番だな」
騎士「地獄の責めもなかなかだったけど、義務でやってる感が見え見えだったし」
騎士「あと、針山だの血の池だの、ちょっと非現実すぎて……放置はアリだったけど」
騎士「──ってワケで、やっぱり俺の最高のパートナーは女騎士さんだ!」
女騎士「まったく嬉しいことをいってくれる! もう一回斬るぞ!」ブオンッ
ズバッ!
騎士「ぐええっ! いいわぁ~~~~~!」
騎士「ちなみに俺は、何度死んでも大丈夫になりました!」
騎士「どんどん斬って下さい!」
女騎士「いい加減に吐け!」ブンッ
ザンッ!
騎士「きゃうぅ~~~~~ん!」
司祭「おお、これぞ奇跡! いや愛する男女が引き起こした必然!」
司祭「そうだ! お二人とも、せっかくですから我が教会で結婚しませんか!」
騎士「ああ、そうしよう!」ブシュウゥゥ…
女騎士「私と貴様は、これからはずっと一緒だ!」シュバッ
ザシュッ!
こうして二人の騎士は結ばれましたとさ。
めでたしめでたし
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