女騎士「拷問してやる!」騎士「お願いいたします!」(199)

地下室──

女騎士「今日からここが、貴様の寝床だ」ブンッ

騎士「はうわっ!」ドサッ

騎士「ああ……あああ……たまりません……」

女騎士「さて、貴様の国の軍事について知ってることを洗いざらい吐いてもらう」

騎士「俺は仲間は売らん」キリッ

女騎士「そうか、ならば仕方ない」

女騎士「捕虜は丁重に扱うべしなどという法もあるが」

女騎士「あんなもの、律儀に守る兵などいない」

女騎士「拷問してやる!」

騎士「お願いいたします!」

女騎士「私は拳闘を趣味としていてな──」

女騎士「試合で男をノックダウンしたこともある」

女騎士「さて、何発耐えられるかな?」シュッシュッ

騎士「拳ですか!? 拳でございますか!?」

女騎士「殴られたくなくば、情報を吐け」

騎士「俺は仲間は売らん」キリッ

女騎士「後悔しろ!」

ドズゥッ!

騎士「うげぇっ……お、お、あ~~~~~!」

女騎士「ジャブ!」シュッ

ドスッ!

女騎士「フック!」ビュッ

ドカッ!

女騎士「アッパー!」ブオンッ

ガゴッ!

女騎士「ストレート!」シュバッ

ドゴッ!

騎士「あおお~~~~~! あ、あ、あ~~~~~!」

騎士「ありがとうございます、ありがとうございます!」

女騎士(有り難い……有ることが難しい)

女騎士(つまりめったに味わわないような苦痛だったということか)

女騎士「痛かっただろう?」

騎士「はい! すっごい痛かったでしゅ!」

女騎士「どうだ、ならば吐く気になったか?」

騎士「俺は仲間は売らん」キリッ

女騎士「そうか──ならば今度は蹴りもつけるぞ!」

女騎士「私はキックボクシングをたしなんでもいたのだ」

騎士「ありがとうございます! 遠慮なくいただきます!」

女騎士「でりゃっ!」シュバッ

ドゴッ!

女騎士「せいやっ!」ビュバッ

ズガッ!

女騎士「だりゃっ!」ブオワンッ

バゴンッ!

女騎士「そりゃっ!」ビュワッ

ズドッ!

騎士「あうあああ~~~~~! いい! いいわぁ~~~~~!」

女騎士「ハァ……ハァ……」

女騎士(こっちの手足が痛くなってきた……!)

騎士「ハァ……ハァ……あぁあん……」

女騎士(だが、こいつも息切れしている! だいぶ参ってきたのであろう)

女騎士「そろそろ吐いたらどうだ? 私も鬼ではないぞ」

騎士「俺は仲間は売らん」キリッ

女騎士「強情な奴だ!」

女騎士「ならば鞭打ちの刑だ!」

騎士「いよっ、待ってました!」

女騎士「ハァッ!」ヒュッ

ビシッ!

女騎士「どうだ!」ヒュッ

バシィッ!

女騎士「吐け!」シュッ

ベチィッ!

女騎士「吐かんか!」シュバッ

バチィッ!

女騎士「愚か者め!」ヒュバッ

ベシィィッ!

騎士「うおおお~~~~~ん! すごい、すごいぞお! 体中で火花散ってる!」

女騎士「お前のアナルバージン豚煮込みwww」

騎士「ありがとうございます!」

女騎士「鞭の方がダメになってしまった……」ボロッ…

騎士「あっ、あっ、あっ」ビクビクッ

女騎士(痙攣している……いよいよ死が近いということか)

女騎士「どうだ……もういいだろう?」

女騎士「そろそろ吐け!」

騎士「俺は仲間は売らん」キリッ

女騎士「やむをえんな」

女騎士「私としてもここまでやったんだ」

女騎士「今さら引き返せん」

女騎士「爪をはぐ。手足全てだ!」

騎士「うひょ~っ!」

女騎士「そらっ」ギリッ…

ベリッ!

女騎士「もいっちょ!」ギリギリッ…

ベリベリッ!

女騎士「足の爪もだ!」ギリッ…

ベリリィッ!

女騎士「ダメ押しで、剥がしたところに塩を塗り込んでやる!」

ヌリヌリ……

女騎士「ついでにはいだ爪を鼻の穴に押し込んでやる!」

グリグリ……

騎士「おっほぉぉ~~~~~う! こりゃたまりませんなぁ~~~~~!」

女騎士「もはや、貴様の手足の指先は血にまみれている」

女騎士「いい加減、強情を張るのはやめろ! 見苦しいぞ!」

女騎士「頼むから、吐いてくれ!」

騎士「俺は仲間は売らん」キリッ

女騎士「あくまで忠義を貫くか……」

女騎士「過ぎた忠義は身を滅ぼすだけだぞ!」

女騎士「こうなったら爪を剥がれた手足に油を塗り、焼いてくれる!」

騎士「すばらしいですね!」

女騎士「両手両足に油をかけて、と」ドボドボ…

女騎士「さあ覚悟はいいな」

女騎士「このマッチの火が油に引火すれば、貴様は地獄の苦しみを味わうことになる」

女騎士「──返事もなしか」

女騎士「いい度胸だ!」シュボッ

女騎士「ならば私も心を鬼にする!」

ボワァァァッ!

騎士「あっとぅ~~~~~い! よいですぞ、よいですぞ~~~~~!」

女騎士「チッ……。音を上げる前に火が消えてしまうとはな……」

女騎士「しかし、貴様の手足は重度の火傷を負った!」

女騎士「もういいだろう、諦めろ!」

女騎士「貴様はよくやった!」

女騎士「さあ……吐け! 貴様の国の情報をな!」

騎士「俺は仲間は売らん」キリッ

女騎士「ならば仕方ない……」

女騎士「その体、我が剣で切り刻んでくれる!」チャキッ

騎士「よっしゃあ!」

女騎士「せいっ!」ビュアッ

ザンッ!

女騎士「ハァッ!」シュパッ

ズバッ!

女騎士「でりゃっ!」ブオンッ

ザシュッ!

女騎士「とうっ!」シュッ

ドスッ!

女騎士「ぬんっ!」シュビッ

ズシャッ!

騎士「いたきもちいぃひぃ~~~~~ん! し~あ~わ~せぇ~……」

女騎士「おい、いい加減にしろ!」

女騎士「いくらなんでも、このままでは死ぬぞ!」

女騎士「吐け! 吐くんだ!」

騎士「俺は仲間は売らん」キリッ

女騎士「この強情ものがぁ~~~~~!」

女騎士「どこまでもどこまでも!」

女騎士「私を楽しませおって~~~~~!」ブオンッ

ザバシュッ!

騎士(嗚呼……この瞬間を待っていた……)

騎士(嗚呼……最高の至福……)ガクッ

女騎士「!」

女騎士「おい?」

女騎士「起きろ!」ツンツン

女騎士「起きんか!」ペチペチ

女騎士「……死んでる」

女騎士「ああ、なんということだ!」

女騎士「こんなに忍耐強く、私を楽しませてくれた男は初めてだったのに!」

女騎士「つい勢い余って殺してしまった!」

女騎士「私はなんと愚かなことをしてしまったのだ!」

墓──

女騎士「…………」

司祭「ずいぶん熱心に祈りを捧げていますね」

司祭「よほど大切な方だったようですね?」

女騎士「ええ、私の最高のパートナーになる素質を持っていました」

女騎士「でも、私は楽しさのあまり手加減を忘れ、ついこの手で──」

司祭「なにやら複雑な関係だったようですね」

司祭「それほどまでに悔いているのなら、神はきっと許して下さいますよ」

女騎士「はい……」

あの世──

騎士「……ん」

騎士「ここは?」

門番「あの世です」

門番「ここに二つの道があります」

門番「永遠の平和を享受できる天国への道と」

門番「永遠の苦痛を味わわされる地獄への道」

門番「あなたは生前、特にいいことも悪いこともしていないので」

門番「ここでどちらに行くかを自分で選ぶことができます」

門番「まあ聞くまでもない二択ですが、どうしますか?」

騎士「地獄で」

閻魔「ふむ、わざわざ地獄を選ぶとは……」

閻魔「今までに全く例がなかったわけではないが、変わった奴がいたものだ」

騎士「いえいえ」

閻魔「いっとくが、一度選ぶともう戻れんからな」

閻魔「あとでやはり天国で、ということはできんからな」

騎士「はい!」

閻魔「まあ大した罪も犯していないし……。鬼娘よ、針山地獄に連れてゆけい!」

鬼娘「アイアイサー!」ビシッ

針山地獄──

鬼娘「針山に刺されて苦しみな!」ポイッ

グサッ!

騎士「あうっ!」

グサグサッ!

騎士「あおおおお~~~~~っ!」

鬼娘「フフフ、地獄をなめるからだ! 穴だらけになっちゃいな!」

鬼娘「なんなら閻魔様に内緒で天国行きにしてやっても──」

騎士「いい! これはいいぞぉ~~~~~!」ゴロゴロ

グサグサッ!

鬼娘(コイツ、針山を楽しんでいる!?)

鬼娘「ちょ、ちょっと待て!」

騎士「はい?」

鬼娘「お前痛くないのか?」

騎士「痛いですよ」

鬼娘「じゃあなんで、そんなに嬉しそうなんだ!」

騎士「え、バレちゃいました?」

鬼娘「バレバレだ、バカが!」

騎士「バカですみません! もっと罵って下さい!」

鬼娘「えぇ~い、血の池地獄に連行する!」

血の池地獄──

グツグツ……

鬼娘「今からお前を、この中に叩き落としてやる!」

騎士「わぁ~お、こりゃたまりませんなぁ」

騎士「ダイブ!」バッ

ドッボーン!

鬼娘「ハハハ、自分から飛び込むとはバカめ! ここは溶岩よりも熱い血の池地獄!」

鬼娘「しかも死人であるお前は死ぬこともできないんだ!」

騎士「あっつぅ~~~~~いん!」

鬼娘「そうだろう、そうだろう!」

鬼娘「アタシも鬼だけど鬼じゃない! 降参するなら天国に行かせてやっても──」

騎士「いいわぁ~~~~~いいわぁ~~~~~!」

鬼娘「!?」

閻魔「ふむ……どんな地獄でも効果なし、と」

鬼娘「はい……」

鬼娘「笑ったり、もだえたり、はしゃいだり……」

鬼娘「これじゃ、他の亡者に示しがつきません」

鬼娘「アタシもちょっとノイローゼになっちゃいそうです」

鬼娘「ストレスでツノがしおれちゃいましたよ」シナッ…

閻魔「うぅむ、分かった……」

閻魔「その騎士をワシのもとに呼べい!」

鬼娘「アイアイサー!」ビシッ

閻魔「単刀直入に聞こう」

閻魔「おぬしは痛いのが好きなのか?」

騎士「はい、好きです!」

閻魔「本当か? ウソをつくと、舌を抜くぞ」

騎士「ぜひ、抜いて下さい!」

騎士「あ、いや、抜かないで下さい! 絶対に抜かれたくないです!」

騎士「実は痛いのが嫌いなんです! だから早く抜いて──いや抜かないで下さい!」

閻魔「……もういい」

鬼娘「ダメだこりゃ……」

鬼娘「どうしますか、閻魔様」

閻魔「う~む、あれはもう手がつけられん」

閻魔「あれではいくら痛みを与えても、喜ぶだけだ」

閻魔「おぬしがいったように、他の亡者に示しがつかんな」

閻魔「こうなったら文字通り──」

閻魔「苦痛を与えるのはやめて、放っておくしかあるまい」

閻魔「あの手の輩にはこれが一番だ」

閻魔「さっそく、あの騎士を放置地獄へ連れていけい!」

鬼娘「アイアイサー!」ビシッ

鬼娘「今度の地獄はこっちだ」

騎士「次はどんな責め苦が待っているのですか?」ワクワク

鬼娘「なにもないぞ」

騎士「は?」

鬼娘「なにもない空間に、お前は永遠に放置される」

鬼娘「それだけの地獄だ」

騎士「そ、そんなっ! イヤです! ダメです! 他の地獄に──」

鬼娘「もう手遅れだ! さっさと入れ!」ポイッ

騎士「うわぁぁぁぁぁっ!」

閻魔「これで一件落着だな」

閻魔「奴は痛みも苦しみもない世界にて、存分に苦しむことになろう」

鬼娘「ちょっと可哀想な気もしますけどね」

鬼娘「それにしても……あんな恐ろしい人間は初めてでしたよ」

鬼娘「地獄の責め苦をものともしないとは……」

閻魔「人間の中には、“マゾ”という肉体的・精神的な痛みを快感に感じる人種がおる」

閻魔「そのほとんどが、不遇な自分を慰めるための自称マゾだったり」

閻魔「あるいは、あまりに強烈な苦痛には結局耐えられない紛い物なのだが」

閻魔「中にはああいう“本物”もいるのだ」

閻魔「ワシも地獄生活は長いが、あんなヤツに出会ったのは初めてだ」

おお~…… おお~……

閻魔「ん? なんだこのうめき声は?」

おお~…… おお~……

鬼娘「どんどん大きくなっていきますね!」

おお~…… おお~……

閻魔「この声は──放置地獄からだ! おい、今すぐ行ってこい!」

おお~…… おお~……

鬼娘「アイアイサー!」ビシッ

騎士「おおおおお~~~~~っ!」

騎士「おおおおおおおおおお~~~~~っ!」

騎士「いい! いい! いい! いい! いい!」

騎士「たまらぁ~~~~~ん! あ~~~~~ん!」

騎士「俺が痛みや苦しみを好きなのを知ってて、あえての放置!」

騎士「おおおおお~~~~~っ!」

騎士「おおおおお~~~~~っ!」

騎士「サイコーッ!」ビクビクッ

鬼娘「…………」

鬼娘「──という具合でした。ありゃ何万、何億年でも耐えますね」

鬼娘「放置されてるという状況すら、奴にとっては快感に過ぎないようです」

鬼娘「それも、とびっきりの」

閻魔「……ハァ」

閻魔「これ以上、放置しておくとどんどん声がでかくなり」

閻魔「地獄中に奴のあえぎ声が響き渡るはめになる」

閻魔「ワシもこれ以上、この気持ち悪い声を聞きたくない!」

閻魔「すぐに放置地獄から釈放せいっ!」

鬼娘「ア、アイアイサー!」ビシッ

騎士「もっと入っててもよかったんですけど」

鬼娘「うるせえ!」

鬼娘「……どうしますか、閻魔様」

鬼娘「いっそ苦痛どころか幸福だらけの天国に送っちゃいますか?」

閻魔「いや、無駄だろう」

閻魔「放置地獄と同じことを繰り返すだけだ」

閻魔「苦痛が好きなのに幸福ばかりの場所に送られて云々と、もだえるに決まってる」

鬼娘「……ですよねぇ」

閻魔「……こうなったら手は一つしかない」

閻魔「現世に帰ってもらおう」

鬼娘「それしかないですね。そうしましょう。是非そうして下さい」

閻魔「オイ、おぬし」

騎士「はい?」

閻魔「現世行きのチケットだ」バサッ

閻魔「これを、向こうにいる門番に見せればおぬしは生き返れる」

閻魔「また生を満喫してこい」

鬼娘「じゃな! 長生きしなよ!」

騎士「まぁ……くれるっていうんならもらいますけどね」

騎士「死んだらまた、よろしくお願いしますね」

騎士「針山でも血の池でも放置でも、何でもいいんで。あ、できれば放置で」

閻魔「チケットは100枚ある。今回一枚使っても、あと99回死ねる」

閻魔「全て使いきったらフリーパスにしてやる」

騎士「どんだけ俺は嫌われてんですか」

騎士「でも……嫌われるって、いいですよね!」ゾクゾクッ

閻魔「さっさと帰れ!」

鬼娘「二度と来んな!」

墓──

司祭「毎日毎日、祈りを捧げて……熱心ですね」

女騎士「司祭様……」

女騎士「きっとこうしていれば、また彼に会えるんじゃないかと思って──」

モコモコ……

司祭「ん?」

ドバァッ!

司祭「どひゃあ、墓の下から人間が現れた!」

騎士「やあ、女騎士さん久しぶり! 地獄からよみがえったよ!」

女騎士「おお、待っていたぞ!」チャキッ

女騎士「さすがに一度死んだんだから、もう吐く気になったろう?」

騎士「俺は仲間は売らん」キリッ

女騎士「コイツめ!」シュッ

ザシュッ!

騎士「ぐわぁっ! あはぁ~~~~~ん……」

騎士「やっぱり……女騎士さんの責めが一番だな」

騎士「地獄の責めもなかなかだったけど、義務でやってる感が見え見えだったし」

騎士「あと、針山だの血の池だの、ちょっと非現実すぎて……放置はアリだったけど」

騎士「──ってワケで、やっぱり俺の最高のパートナーは女騎士さんだ!」

女騎士「まったく嬉しいことをいってくれる! もう一回斬るぞ!」ブオンッ

ズバッ!

騎士「ぐええっ! いいわぁ~~~~~!」

騎士「ちなみに俺は、何度死んでも大丈夫になりました!」

騎士「どんどん斬って下さい!」

女騎士「いい加減に吐け!」ブンッ

ザンッ!

騎士「きゃうぅ~~~~~ん!」

司祭「おお、これぞ奇跡! いや愛する男女が引き起こした必然!」

司祭「そうだ! お二人とも、せっかくですから我が教会で結婚しませんか!」

騎士「ああ、そうしよう!」ブシュウゥゥ…

女騎士「私と貴様は、これからはずっと一緒だ!」シュバッ

ザシュッ!

こうして二人の騎士は結ばれましたとさ。



めでたしめでたし

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