女騎士「絶対に生きて帰ってやる……」
虜囚「無駄よ……」
女騎士「……銃さえ取り戻せば有利になるんだが……地上階を不必要にうろつく危険を冒したくないな」
虜囚「無駄だって言ってるじゃない……」
女騎士「となれば、雑兵から取り入るしかないか……向上心がある奴を見つけるのは難しくはないだろうし」
虜囚「どうせあなたも、私や私の仲間みたいに……連中の慰み者にされてしまうのよ……」
女騎士「糞が……魔王軍とやらも低俗だな、末端の兵はそこらの蛮族と変わりがない。やはりこんな連中滅ぼさなくては……」
虜囚「ほら見て……私のお腹、こんなに醜く膨れているでしょ……数か月前にオークに……」
女騎士「るッせぇんだよ黙ってろ!!!んなもん捕まったテメーが悪ぃんだろうがボケ!!!!
私は逃げるがテメェはここで豚のお母ちゃんにでもなってやがれ!!!テメェと同じ牢にいるとこっちまで滅入るんだよ!!!」
虜囚「」
虜囚「それじゃあ、貴方はどうしてこんなところに放り込まれたの……」
女騎士「ちょっとしくじっただけだ、私は悪くない」
虜囚「ちょっとって……」
女騎士「魔王の連れてる……何だったかな、勇者だとかいうマセガキのお友達にちょっかいかけただけだ」
虜囚「どんなレベルのちょっかいなの、それ……」
女騎士「魔王軍の懐が知れるな、気が短いったらありゃしねぇ」
虜囚「……軍隊と言うのはどこも理不尽なものよ」
女騎士「まあ、要はお前と似たような境遇にしてやっただけだ」
虜囚「えっ何それは」
女騎士「十か月もすれば、勇者様の子どもという名義でオークの子豚が産まれるぜ」
看守「うるさいぞ、糞女ァ!!静かにできんのかァ!!」
女騎士「そうだぞ糞女!夜中に騒ぎたてやがって、産気づきやがったのか!?」
虜囚「あ、あんた……」
看守「マジかよ……一人減ると、お楽しみの回転率が下がるじゃねェか」
女騎士「ほんとですよまったく!!こいつらなんにもわかってないんですよ!!
毎日哨戒でがんばってる兵士の方の為の慰安の大切さというものがわかってない!!」
虜囚「(やばい、こいつと同じ牢とか凄い嫌……)」
看守「お前は確か……勇者様の女に手を出した捕虜だな。ろくな死に方しねぇぞ」
女騎士「言葉もございません、私はなんと卑しく愚かで非道なおこないをしてしまったのでしょうか……
かくなる上は、命をもって償うほかにございません」
看守「ふん、ツラだけは一丁前だな、オークの好き者なら飛びつきそうなくらいだ。
いいだろ、そんなに言うなら……」
女騎士「(……こいつじゃダメだな、使えねえ。マワされるだけで情報なんか恐らく得られねえ。
くそ、失敗した。幹部連中に顔さえ合わせられれば、いくらでも交渉のしようがあるんだが)」
看守「どうした?」
虜囚「……」
女騎士「(魔王軍は連合に対抗する為、教皇や北方に媚び売りたさに捕虜の扱いを国際法のそれに準じさせてくるはず……
もっとも、実態こそこんな有様だが……殺されはしねえだろ、多分。何にしろ動かなきゃ妊婦さんだ、そんなん勘弁だ)」
虜囚「ちょっと、あなた……」
女騎士「おらっ」
虜囚「がふっ!!」
虜囚「オェェェェ」
女騎士「大変ですわ看守様!!お産が始まりますわ、大変ですわ!!」
虜囚「ちょ……あんた、今……何てこと……殴……」
女騎士「ああ、破水も時間の問題ですわ!!早く医務室へ連れて行ってあげてくださいまし、お早く!!」
看守「ま、マジかよ……ちょっと待ってろ、今医者を」
女騎士「ダメですわ!!こんな不衛生な場所で出産だなんて、生まれてくるお子さんや母体にどんな影響が出るか……」
虜囚「」
女騎士「あなた方魔王軍にはわからないでしょう、人間はごく小さい、埃よりも小さな病の源にも殺されてしまう事もありますのよ!!
人間と魔物の共存を謳う魔王様が知ったらどう思いますかしら!!お願いでございます、ここから出してあげてくださいまし!!」
虜囚「」
看守「わ、わかった、連れて行こう。ちょっと待ってろ」
女騎士「ああ、大丈夫ですか。あと少しの辛抱ですわ」
虜囚「死ぬ……死ぬ……」
女騎士「(死ねwwwww私の為に死ねwwwww)」
看守「うお……重……おら、しっかり立て!」
女騎士「ああ、しっかり……」
看守「いや、お前は出さねえよ?」
女騎士「はい?」
看守「お前は出てくんなって言ってんだよ」
女騎士「えっと……え?」
看守「ちゃっかり出てくんなよ、みんなお前には警戒してるんだからな?」
女騎士「」
看守「陛下や将軍を相手取ってペテンにかけようとするような女だとか聞いてるぜ。騙されるかよ」
女騎士「……」
看守「お前のような奴の言う事、誰が……」
女騎士「なるほど、どういった経路にしろ、そういう情報は末端にまで伝わっているわけか……」
看守「ったりめーだ、このクズ女!やっぱりそういう魂胆が……」
女騎士「そうかそうか……この金髪碧眼、聡明にして高貴な私の噂は、日に日に魔王軍統治圏内に伝わっていくという事か」
看守「だろうな、お前の悪行は帝国……大陸じゅうに広まっていくだろう」
女騎士「そうでございますか……それは実好都合でございます」
女騎士「(私への制裁を個人的な私刑ののちの留置に留めたのは、参謀だかの入れ知恵か。
私の背後関係の裏付けが完全にとれるまで、配慮を留め置いているという事だな。ありがたい)」
女騎士「(しかし、勇者のガキめ。本気で殴る事ないだろ。奥歯折れちまったじゃねーか糞、女の子相手にやりすぎだろ)」
女騎士「(ふむ、無事に助かる確率がはね上がったと思うと、勇者様への怒りがふつふつ湧いてくるな)」
女騎士「(勇者様といい魔王様といい……あんなガキどもに未来と人生を託してる魔王軍ってのはイカレてるな、もったいない。みんな私の為に死ねばいいのに)」
女騎士「(直上型のガキの勇者はともかく、魔王の方は要注意か。あんなコスプレ幼女に負けるわけにはいかんしな……)」
看守「……」
女騎士「あら、ごきげんよう兵士様。今日は何の御用でございますか?」
看守「出ろよ、糞っ……!」
女騎士「はい?」
看守「上層部の決定だ、出ろよ!二度と俺達の前に現れるんじゃねェぞ!!」
女騎士「あれまあ、いかがなさいましたか?お優しい勇者様と魔王様がおっしゃったのですか?」
女騎士「(……案外早かったな。だが、ここまでは予想通り……)」
エルフ三男「騎士様、お迎えに参上いたしました。さあ、こんな掃き溜めのような場所から帰りましょう」
女騎士「まあ、まるで白馬の王子様ですわ。恐悦至極にございます」
勇者「……」
女騎士「(睨んでるwwwwwwwwwwwすっげー睨んでるwwwwwwwwwww)」
エルフ三男「それでは、これにて和解成立と言う事で。よろしいですね、魔王軍の皆様方」
勇者「く……」
エルフ三男「こちらの有する非戦闘員を拉致、監禁……劣悪な環境下におき、苦痛を強いた。公表されては困りますよねえ」
勇者「そ、そいつが……その女が!!」
魔王「よせ、やめよ。これでおしまいだ、ひとまずは終わった事なのだ、勇者よ」
エルフ三男「そちらの人材への被害については……
ま、非常に疑わしいですが、彼女が異常な状況に錯乱してしまったが故に起こした間違いと解釈できましょう」
魔王「それで構わん、どうとでも言え。早く我らの前から消え失せろ、長耳ども」
女騎士「(荒んでんなぁwwwwwwwwwwwwwwwwwwww)」
エルフ三男「そもそも、我々の領地に無断で踏み入ったのはそちらの方であって……何かこちらに非があったのでしょうか?」
女騎士「運命と言うのは数奇なものにございます」
エルフ三男「その上、我らにとって命にも替わる大切な資源である森に火を点けただとか……魔王軍というのは、噂に違わぬ素晴らしい組織です。
もっとも、その知名度のおかげで騎士様をお救いできたのですから……」
女騎士「(こいつ酷い事言うなァ、友達になりたくないタイプだ)」
エルフ三男「人魔の共存共栄、格差是正……そうやって甘言をちらつかせて南部の民衆に夢を見させるのは結構ですが、行いには気を付けた方がいいですよ」
魔王「ありがたく頂戴しておこう。次に貴様らと顔を合わせるとすれば、恐らくは法廷か戦場だろうからな」
エルフ三男「違いありません。あなたがたのような汚らわしい魔物どもに、神聖な森に足を踏み入れてほしくありませんから」
魔王「その見聞の狭さで、その身を滅ぼす事にならぬようにな。洒落にはならぬ爆薬を腹に抱えているようだからな」
エルフ三男「はて……見当が付きませんな」
女騎士「(勇者のガキ、まだ睨んでるよ。私ガキには興味ねえのに……やっぱ処女捨てるならイケメンでしょ……)」
勇者「く……」
将軍甲「おさえろ、勇者……まだあの女には手出しできねぇ……!!」
将軍乙「八つ裂きにしても飽き足りぬ……粉みじんにしてくれる……」
将軍丙「あんな女……魔物とか人間とかそういうの抜きにしても、生かしておいちゃいけないわ……」
魔王「頭を冷やせ、冷静にならねばエルフどもの思う壺ぞ。我らの悲願をこんな所で潰えさせて良いのか」
将軍丙「……」
魔王「南部の人間たちを見よ。こちらが相応な、真摯な応対をすればこそ勝ち得た信頼だ。諦めるな」
勇者「魔王……」
女騎士「wwwwwwwwww」
魔王「何だ、まだ何か用か。早く消えろ、目障りだ」
女騎士「いやwwwwwなんか凄いしんみりしてるからwwwwwwwwww」
魔王「……私達は、元はお前をどうこうする意思など無かった。何がお前をそうさせたのだ?
私にはわからぬ……お前の求めているものが。お前のその狂気が……」
女騎士「(何だコイツ、何が言いたいのかわからん。分かるように言えよポエム娘)」
魔王「お前のその心にも、豊穣な精神が宿る事を祈っているよ……戻るぞ、お前達」
勇者「……」
女騎士「さよならーwwwwwwwwwwwwwww」
将軍甲「野郎……!!」
女騎士「誰とは言いませんけどーwwwwwwwww復讐って何も生まないですよねーwwwwwwそんなカリカリしないでくださいよーwwwwwwww
あ、でも私悪くないしなーwwwwww私あの時錯乱しちゃってたからなーwwwwwwwwwwww魔王様たちの司法じゃ無実だなーwwwwwwww」
勇者「あいつっ!!絶対に許さない、あいつだけは!!」
女騎士「あ、あとwwww出る杭は打たれるって知ってますー?wwwwwwwwwwwあんま調子こかないでくださいねwwwww魔族の癖にwwwwwww」
エルフ三男「騎士様はお戯れが過ぎます……おやめください、続きは戻ってからにいたしましょう」
女騎士「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
敵兵「」
女騎士「ちょりっすwwwwwwwwwwwwwwww」
敵兵「なん……だと……」
女騎士「ちょっと魔族に攫われちゃってさwwwwwマジアイツらゴミだわwwwwwww」
敵兵「お前……死んだんじゃ……」
女騎士「何人か道連れにしたんだけど、なんか失敗しちったwwwwwwwwwww」
敵兵「」
敵兵「いやだ!!いやだいやだいやだ!!!もう殺したくない!!もういやだ!!!」
敵軍中佐「どうしたのだ少尉、取り乱すな、落ち着け!」
敵兵「私を先遣隊から外してください!!お願いです、できる事なら本国に……」
敵軍中佐「何を言う、お前はエルフ達とのパイプを構築した、言うなれば先遣隊イチの功労者だぞ」
敵兵「そ、それは……」
敵軍中佐「広報部や司令部はお前の功績を高く評価している。前線を離れる理由などどこにある、貴様が損をするだけだぞ」
敵兵「う……ううっ……」
敵兵「」
騎士ほ「少尉殿、どうかしたのでしょうか……」
騎士に「風邪でも召されては大変です、医療班に少し診てもらってはいかがでしょうか」
敵兵「」
騎士と「ああ、そういえば……そちらの方、本日付けで大尉の位を拝命なされたそうですわ」
騎士ろ「それはおめでたい事です!お姉様も戻っていらっしゃいましたし、お祝いしましょう!」
敵兵「それも……きっと……罪もない人から……」
騎士に「はい、何でございましょう?よく聞こえませんわ!」
敵兵「(難聴でもないくせに……ひどい……)」
騎士ほ「盛大に……やりましょう……パーティの用意は……私のポケットマネーで何とかしますわ……」
敵兵「う……うわあああ……」
敵兵「俺があのクズをあそこで殺してれば……俺のせいだ……俺の……」
女騎士「あら、何をしているんです」
エルフ三男「これはこれは騎士様。いえね、先方から受け取った賠償物品のリストを確認していたのです」
女騎士「まあ、丁度いいですわね。私も検品をお手伝いしてもよろしくて?」
エルフ三男「それはもう。兵たちも喜びます」
女騎士「ええと……」
女騎士「ああ、この木箱ですわ。開けてみてくださいまし」
エルフ三男「これは……南部で採れた麦芽ではないのですか?品質が良いものならいくらでも……」
女騎士「いいから、開けてみてくださいまし。早く早く」
エルフ三男「はあ……何か面白いものでも入っているのですか?」
女騎士「うーん、そうですわねぇ」
女騎士「十月十日が過ぎれば使えるようになる、北方共同体へのカンフル剤……でしょうか?」
魔術師「かふっ……かふっ……」
エルフ三男「人間の少女ですか?」
女騎士「ええ、ちょっと訳ありの」
エルフ三男「十月十日とは……すみません、理解が及ばないのですが」
女騎士「後々ご説明いたしますわ」
エルフ三男「魔王軍の内通者ならば、この場で始末するのがよろしいでしょうが……わかりました、こちらで収容いたします」
女騎士「お願いしますわ」
女騎士「(……あの虜囚も連れてくりゃあ良かったな。魔王軍の暗部というか陰部というか……
事実が明るみになりゃあ、所詮はケダモノって事を知らしめることができようよwwwwwwwww)」
女騎士「少……大尉殿!次に連合はどうする気なのだ」
敵兵「……」
女騎士「大尉殿!大尉殿!!おい、童貞ィ!!」
敵兵「なんだよう!!」
女騎士「上層部の意向を教えろ!ボサっとしてるんじゃないぞ!!」
敵兵「(こいつ……!こいつ捕虜の癖に……もう捕虜って何だかわかんないよ……)」
女騎士「まさか私の部下に欲情してたんじゃないだろうな童貞。お、図星か?図星なのか?」
敵兵「う、うるさい」
女騎士「せっかくエルフの国家に滞在してるんだから、風俗でも行ってくりゃあいいのに。士官なんだから付き合いもあるだろ。
それとも……やはり私の部下に……?」
敵兵「それはない」
女騎士「だよな、もはや私もどいつが病気持ちだかわかんねーもん」
敵兵「(あぶねぇぇぇぇぇ!!!!)」
女騎士「確か連合は、本音としては教皇領より共同体の方を落として手籠めにしたいんだったな」
敵兵「そういう事になる。西の共和国と南部の異教徒勢力に対抗する保険となるわけだからな」
女騎士「だが、お前らと共同体……半島三国との仲は最悪に近い。東方教会の支配地域もあるにせよ、今のまま行けば反感を買うな」
敵兵「こちらの本国でも共同体の意向を呑むか、問答無用で押しきるかが焦点となっている」
女騎士「めんどくせーな、北部のナショナリズムは。ケンタウリほんっとめんどくさい」
敵兵「だが、万一でも和解ができれば東西の窓口にもなり得る。メリットはかなり大きいぞ」
女騎士「ふん、今さら融和かい。いいだろ、考えてやるよ」
女騎士「使うのはコネだけどなあ!!!」
女騎士「姉上!!姉上、お会いできてうれしいですわ!」
敵兵「(こいつの猫撫で声にも慣れてきてしまった……耳が腐り落ちそうだ……)」
女騎士「姉上ぇぇ」
敵兵(しかし……本当に帝国の貴族のコネクションというのは恐ろしいな……)
女騎士「姉上、お変わりございませんでしょうか?」
敵兵(このゴミの実の姉が……まさか……まさか……帝国陸軍情報部長補佐だなんて……)
姉「あなたが無事でよかったわぁ……あなたこそ、怪我とかしてない?転んだりしなかった?」
女騎士「はい、大丈夫です!!」
姉「よかったぁ、何かあったらすぐお姉ちゃんに言うのよぉ。なんだか物騒な世の中だからぁ」
女騎士「はい!愛しておりますわ姉上!!」
敵兵「(この国終わってるぅー!!)」
女騎士「前に、お前ら連合のカキタレになったっていう騎士どもの話しただろ」
敵兵「……」
女騎士「あの情報部長補佐を見りゃわかるだろ、予算案もあの女が書いて無理くり通してたんだぜwwwwwwww」
敵兵「帝国暫定政府の予算は、連合側で組まなきゃな……」
女騎士「でっきるかなぁーwwwww二重帳簿ならまだいい方だ、慣習と国教会に搾り取られた税収を見て愕然としろwwwwww」
敵兵「お前ら解決する気ないのかよ!!!」
女騎士「ねぇよwwwwwwwww」
敵兵「そもそもお前ら一体何者なんだよ……お前みたいなのが少佐相当官だったり……」
女騎士「お分かりの通り、貴族様だ。崇めろ」
敵兵「(死ねッ!!)」
女騎士「私の身元が上層部に求められたのか?それともお前の好奇心か?」
敵兵「それは……」
女騎士「前者だったらいくらでも話すぞ、これでもかというくらいにな」
敵兵「ええと……」
女騎士「後者でも同じだぞ、お前はよく働いてくれるからな」
敵兵「(捕……虜……?)」
女騎士「私の家系はいわゆる譜代、中央議会と各軍幕僚に対し優越権を有している由緒ある貴族だ。
地方部の公安活動は、我々と情報部、その下の警察で真面目に頑張ってきたんだからな」
敵兵「ま……じ、め……?」
女騎士「情報部が警察活動に足を突っ込んでるのはお察しの通り、組織的・結社活動を封殺する事にある。領地にお前らを呼び寄せたかなかったからな」
敵兵「さすが封建国家だな、絶対暮らしたくない」
女騎士「騎士制度も中世期からスライドしてきただけのものだ、私ら行き遅れと就職ドロップアウト組の人間には有難い受け皿だ」
敵兵「(領民を守る気はこれっぽっちもないのか……)」
女騎士「その中でも姉上はやべーぜwwwww騎士にもなれなかったんだからなwwwwwww」
敵兵「お前が通ったのに!?」
女騎士「名前書けなかったんだからなーwwwwwしょうがないよなーwwwwww貴族たる者名前くらいは書けなきゃなーwwwwww」
敵兵「識字率どうなってんだよァ!!」
女騎士「まあ、さすがに試験当日に頭がモルヒネ漬けになってちゃ字も書けんわ」
敵兵「」
敵兵「それで、あのラリ……情報補佐をどう使う。あんなものを連合の特使になんか採用したくないぞ」
女騎士「お前そんな無謀な事考えてたのかよ……頭膿んでんじゃねーの」
敵兵「お前……」
女騎士「あいつを帝都の庁舎から出す必要なんかねえよ、欲しかったのはハンコだけだ。ほーれ」
敵兵「それ窃盗だろ!!しかも……しかもそれ補佐じゃなくて情報部長って」
女騎士「知るかよ!この国の陸軍情報部の幹部内で不祥事が起きると、必ず部長が謎の不審死を遂げるようになってるから訴えられねえ!問題なし!」
敵兵「」
女騎士「何だよ、文句あるのかよ」
敵兵「偉くなるのも考え物だと思って……」
敵兵「そういえ行き遅れって、お前一体いくつなんだ?そんなに歳いってるのか?」
女騎士「あれ、知らないっけ。今年で十八だぞ」
敵兵「未成年……だと……?」
女騎士「そうか、そっちじゃ二十だかで成人か。大変だな」
敵兵「十八で行き遅れってのは、俺達の間じゃ考えられんな」
女騎士「その点、姉上はそういう面じゃ尊敬するわ」
敵兵「……あれを?」
女騎士「生理きたと同時に共和国のクスリ屋さんに言い寄られてガキ孕まされてさwwwwwww二十二で十歳児の母親だぜwwwww
バカすぎて尊敬するわwwwwwwwwwww跡取り作ってくれてあざーすwwwwwwwwwwww」
敵兵「(この一族がまだ続いていく……だと……)」
騎士ほ「……結局のところ、お姉様は何を狙っておられるのかしら……」
騎士に「帝国は死に体ですものね、与するメリットはありませんが」
敵兵「(こいつらちょっと前は俺達連合の事を野蛮人とか言ってたくせに……この師にしてこの弟子ありだな……)」
騎士ろ「とにもかくにも……魔王軍とやらを根絶やしにするほかございませんわ。あの連中が台頭する事は防がないといけません」
敵兵「和解案を提示してきたのを払いのけたエルフもといお前らのお姉様が余計な単独行動しなけりゃ台頭はもっと遅くなっただろうよ」
騎士ろ「さっきからぶちぶちぶちぶち!!!お姉様ばっかり責めて、何が楽しいんですか!!」
敵兵「えっ」
騎士に「お姉様が悪いというのですか!?どうかしています、これだから連合は!!」
敵兵「(もう……やだ……)」
オーガ文官「よくぞ、あの動乱の帝国から無事に戻った、我が娘よ……」
騎士と「お久しぶりですわ、お父様」
オーガ文官「……して、そちらの方々は?」
騎士と「恩師の騎士様、それと……お友達にございます。皆さん、魔王軍の思想に募った方々ですのよ」
オーガ文官「それはいい!!歓迎いたしますぞ!」
敵兵「お心遣いに感謝いたします」
騎士ほ「うふふ……楽しい共同体行脚……」
女騎士「でけェなあ……きめぇ、死ねよマジで……」
敵兵「(殺される、連合兵ってバレたらマジで殺される……)」
女騎士「おい、何ビクビクしてるんだよ」
敵兵「……あまりに事がうまく進みすぎだと思ってな。あいつ、共同体の娘だったのか……」
女騎士「前に見せた書類に出自を書いておいただろ。忘れん坊めっ☆」
敵兵「……良い予感がしない」
騎士 い…西方有力貴族出身。三女。クズ。コネ入団 。殺人、放火容疑によって極刑。刑死
騎士 ろ…西方有力貴族出身。五女。『い』とは対抗意識を互いに持つ。クズ。コネ入団
騎士 は…中央・文官出身。ギムナジウムでも涙もろいところが指摘される。クズ。コネ入団
騎士 に…南方・農民出身。長女。七人きょうだい。コネ入団
騎士 ほ…中央・文官出身。根暗。キモい。多分キモオタ。コネ入団
騎士 へ…西方貴族出身。プライド高し。クズ。コネ入団。殺人、放火容疑によって極刑。刑死
騎士 と…北方有力貴族出身。威勢がいい。クズ。オーガの血でも入ってるのか。コネ入団
騎士 ち…中央・貴族出身。話した事ない。たぶんクズ。コネ入団
騎士 り…南方・文官出身。たぶんバカ。コネ入団。殺人、放火容疑によって極刑。刑死
敵兵「本当だ、北方有力貴族出身……」
女騎士「だろー。部下に恵まれたもんだわ、日ごろの行いが良いからだな」
敵兵「(こいつの行いが良かったら俺なんか聖人だろ)」
女騎士「しかしせっかく育てた娘が帝国騎士とかお察しだわwwwwwwwwwwwwwwバカくさwwwwwwww」
敵兵「(どこへ行っても行いも言動もクズそのものだな)」
エルフ三男「この気候には堪えますな、大尉殿。湖と台地……森林ばかりの国の者には辛いものがあります」
敵兵「(いたのか!?)」
エルフ三男「いやぁー、まさかぼくがオーガやケンタウリ達の土地に足を踏み入れるとは。屈辱です、死にたいです」
敵兵「えっ」
エルフ三男「足の裏から壊死していくようです、帰りたい」
敵兵「……そ、そんなにお嫌い……ですか」
エルフ三男「ダークエルフだとかいう穢れた血が産まれはじめた元凶と呼ばれますからね、あのオーガとかいう巨人どもは。
ああ、嫌な寒気がします。死にくされゴミども、滑ってピタゴラ死してしまえ」
敵兵「(おかしいな、なんか感染しちゃったかな)」
敵兵「とにかく、我々は宣戦布告しに来たわけじゃないんです。穏便に行きましょう」
女騎士「わぁってるよォ」
騎士ほ「ククク……」
エルフ三男「ええ、承知しております」
敵兵「(学校の先生じゃないんだから……)」
エルフ三男「あっ、ほら見てください、十字架のあしらわれた鉄細工ですよ大尉殿」
敵兵「なるほど、これは見事な……」
エルフ三男「見事に新教に毒されてて無様ですねえ、笑えます」
敵兵「」
騎士ほ「男性器みたいな半島の形しちゃって……フクク……」
敵兵「」
女騎士「やーーーい!!」
敵兵「ストップ」
エルフ三男「いや、それにしても寒い。寒くて寒くて勃起がおさまりません」
敵兵「」
エルフ三男「どうしましょうか、大尉殿」
敵兵「(マジどうかしちゃったのかなこの人)」
エルフ三男「原因はほとんど分かっているのですが……いやはや、お恥ずかしい。兄の血はぼくにも健在のようです」
敵兵「……俺達から離れんでくださいよ。俺の横に居てください」
エルフ三男「いいんですか、エルフはノンケだって食っちまうんですよ」
敵兵「……エルフ『は』!?」
エルフ三男「冗談ですよ、ぼくはノンケです。つい騎士様の無駄に形のいいヒップを想像して催してしまっているだけです」
敵兵「俺のエルフ像を弄んでそんなに楽しいですか」
エルフ三男「やだなあ、会話やめないでくださいよ。ぼくほどフランクな王族はいませんよ」
敵兵「(確かに、味方勢力で一番まともな部類だけどさあ……)」
エルフ三男「ああ、耳あてが鬱陶しいです。早く帰りたい……」
敵兵「俺も、できる事ならここにはいたくないですね……」
エルフ三男「やはり気に病むところがありますか、連合の人間としては」
敵兵「それはもう。かつてから俺達と帝国との仲違いは少なくなかったわけですが……それ以上に、共同体とのいざこざは古来から続いていますんで」
エルフ三男「教皇領による宗教改革、三国王朝の確立。東西衝突があれば、真っ先に被害に遭うのが共同体ですから」
敵兵「北西諸島に次ぐ海運国家というのも、本国の人間には嫉妬の原因なようでして」
エルフ三男「これだから人間は……少しは騎士様を見習ったらどうです、情けない」
敵兵「見習……見習う?」
エルフ三男「ま……半島南部の農業国なんかは、付き合っていて苦にはならない人種が多いから楽なんですけどね」
敵兵「南部……酪農だとかが盛んだと聞いてます」
エルフ三男「帝国中央ほど極端な人権政策を打ち出さない、共同体の北方三国ほどアンチ東方思想は持っていない。中庸なのがいいんですよ。
ぼく達エルフは、血の付き合いと同じくらいおカネの付き合いを大事にしますからね。今回のあなた方との繋がりは、良い縁だと期待していますよ」
敵兵「はあ」
エルフ三男「あなた、連合の人間ならご存知でしょう。かつてヴァイキングと呼ばれた卑しい海賊どもの行いを」
敵兵「……いえ、歴史書で読んだくらいですが」
エルフ三男「そういえば、あなた人間でしたね。失敬」
敵兵「(そういえばこの人エルフだったな……正確にはいくつなんだ……?)」
エルフ三男「さんざっぱら五世紀近くに渡ってフィヨルドを暴れた挙句、ちゃっかり教皇領の不況で同一教化して。
無論、アンチ教皇の一族もあったでしょうから、通商や遠征の有用性を餌に進行を牽制した事実も無きにしも非ずでしょうが……」
敵兵「(やばいっ!おじいちゃんの話長い!これは長くなる!)」
エルフ三男「ま、昨今になってようやく武装中立を周囲に宣言するようになったのは評価できるのですがね。
ぼくもケンタウリ達の事は嫌いなわけじゃあないですよ、好きじゃないだけで、むしろオーガどもが……」
敵兵「あっ、騎士お前パンツ見えてんぞ!」
女騎士「バーロー穿き忘れて寒ィーんだよほっとけ童貞」
エルフ三男「聞いているのですか大尉殿ッ!!」
敵兵「えっあはいすいません」
敵兵「(『ぱんつはどこですか!?』みたいな流れじゃないの?エルフってよくわかんない)」
エルフ三男「パンツの中身の具なんて、童貞のぼくが見ていいものではないでしょうに」
敵兵「(この人何年……何百年童貞なんだろう……)」
エルフ三男「もっとも、彼女に寄り添えるようなエルフになれるよう精進するつもりですがね」
敵兵「えっ」
エルフ三男「ああ、お恥ずかしい。つい他人を前に本音が」
敵兵「(あーおじいちゃんボケちゃったかー、あれに寄り添うとか人間性を孕んだ単語は明らかにそぐわないだろうに……)」
エルフ三男「彼女を捕虜にしたのはあなたの部隊でしたね。ああ羨ましい、さぞ好き勝手できたでしょう」
敵兵「(厭な思い出しかないなあ……あの糞騎士を捕虜にしてから……俺何やってんだろ……)」
敵兵「あの……それだけは、やめといた方が……」
エルフ三男「はい?」
敵兵「いや……あの……」
エルフ三男「はい?」
敵兵「(こわいよォ!!)」
エルフ三男「彼女はエルフはお好きでしょうか……ああ、もう彼女の為ならなんでもします……」
敵兵「(やっぱりエルフってヘンだよォ!!)」
エルフ三男「彼女の為なら……こんな糞オーガの国だろうが何だろうが買ってあげちゃいます……」
敵兵「は?」
敵兵「買……う……?」
エルフ三男「この国、最近になって民主政治が盛んになってきているようでしてね。
あの文官、現在急速に勢力を伸ばしている某党……元労組へ水面下で肩入れしているとお聞きしまして」
敵兵「買うって……買うってあの、どういう事ですかね……」
エルフ三男「文字通り、おカネを払って所有権を譲っていただくのですよ」
敵兵「」
エルフ三男「共同体を外圧で叩き潰すのが無理なら、民主化への移行を……ちょっぴり乱暴に後押ししてしまえばいいとの事で。
有力政党を買い叩いて、その上で現行王朝にタイミング良く不祥事でも起こして頂ければ……」
敵兵「……そ、そんなカネ、一体どこから出て来るって言うんです」
エルフ三男「ぼくのポケットマネーと……帝国情報部の予算と……帝国軍部全体の予算と……」
敵兵「……帝国って、今物凄い額の賠償抱えてますよね」
エルフ三男「そうですねぇ」
敵兵「俺達連合に払えるお金……どうなるんですかね……」
エルフ三男「さあ。共同体を掌握できれば、あるいは……」
敵兵「(あれの姉を情報部長補佐に就かせた時点で、帝国は終わってたわけか……)」
女騎士「ほら、親子水入らずで話し込んでるぜ」
敵兵「……初めてお前ら騎士の人間味というものを感じたな、お前ら木の股から生えてきたんじゃなかったんだな」
女騎士「お、見ろよ。このあたりも随分鉄道の敷設が進んだもんだ、立派立派」
敵兵「ああ、そうだな……」
エルフ三男「騎士様、危のうございます。お下がりください」
敵兵「……」
女騎士「うおッ、足滑ったわりい!」
敵兵「うおッ、押すな糞騎士うおおッ」
オーガ文官「うおっ、何事かねキミ達うおおッ」
エルフ三男「お三方、列車が入って危のうございます。騎士様、大尉殿、お下がりください」
オーガ文官「おぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃwwwwwwww」バキバキバキ
騎士と「お父様ァァァー!!お父様がマグロにィィー!!お父様ァァー!!!」
騎士と「お父様ァー!!お父様がピタゴラ死なされたァァー!!」
女騎士「警察を呼べ!!押した奴を見たぞ!!殺しだ!!」
敵兵「おまっ、お前……」
女騎士「一大事だァー!!これじゃ次の党首は誰になるのかなぁー!!!」
敵兵「お前そりゃねぇだろ!!!」
女騎士「これはきっと連合との融和を拒む対立政党の仕業に違いない!!!ちくしょうー、あのクソたわけどもめェェ!!」
騎士と「お父様の頭がはじけてしまわれたぁぁー!!!」
女騎士「ひゃwwwひゃwwwっひゃwwwwwwwwwwwwwwww」
敵兵「……またちょっと吐いてくる」
女騎士「奴等ほど血に厚い連中はおるまい、巨人族の血を引く娘の『と』が政党をこれから率いていく事になろうよ。
ある程度はアンチ連合で票を稼がにゃあならんだろうが、当面の敵は魔王軍と糞残党どもだ。ケンタウリ支持勢力の駆逐の足掛かりにもなるだろ」
敵兵「お前と言う奴は……」
女騎士「周りのカスどもにもいくらか握らせておいた、ばれやしねえ」
敵兵「自分のカネじゃないと思って……」
女騎士「やかましい!これはよりよく住みやすい、且つ快適で楽しい楽しい『私の』世界の礎となるのだぞ!」
騎士ほ「異議……なし……」
エルフ三男「なんの異論もないですねえ」
敵兵「ひ、ひ、人が一人死んでんねんで!!!!」
女騎士「一人で何を今さら言うておるのだ、ばかたれが!!!」
敵兵「(も、もういやだ……限界だ……こんなクソ野郎と一緒になんていられない、願い下げだ!)」
女騎士「おい、どうした童貞。顔が緑色だぞ、寒さにやられたか」
敵兵(こ、ここから本国へ帰……いや、中佐に何を言われるかわかったもんじゃない……でも、でも……
じ、自分の為に部下の父親をぶち殺して笑ってるような……それ以上の事もしてるバカ女とこのまま……)
女騎士「さー、やる事やったし、宿にチェックインすっか。寒くてこんなとこいられねーよ」
エルフ三男「ああ、寒い寒い……」
敵兵「(俺の人生どっからおかしくなったんだ?7歳の時の初恋から?軍人になってから?)」
女騎士「おいテメー早くしろボケ!!万が一寒さで生理周期乱れたらテメーのせいだぞ、麻酔ナシで去勢すっかんな!」
敵兵「(どう考えてもこいつのせいです、本当にありがとうございました)」
敵兵「(ああ……すごくいいホテルだ……一泊でオレの初任給くらいかかるのかな……ああ……)」
女騎士「おい童貞、死んだ魚の眼をしてるんじゃない、せっかくお前の手柄が増えたのに」
敵兵「オ、オレの手柄……」
女騎士「共同体を飼い馴らす為の大切な一歩じゃないかぁ(ニッコリ」
敵兵「(オレのせいで……政党がひとつ、こいつというゴミムシの手の中に……)」
女騎士「7階から上全部貸しきろうぜ、こんな北の僻地に住んでるクソカスどもに民度なんか期待できねえ、おっかないわ」
エルフ三男「手配いたします」
敵兵「……」
敵兵「あの、すいません、電話貸してもらえますか……お金……あ、はいこれチップ……はい……」
敵兵「(辞めよう……先遣隊なんか辞めて、故郷の駐屯地でゆっくり暮らそう……)」
敵兵「(それで、姪っ子や近所の子供達に自作の絵本や紙芝居を読んでやるんだ……)」
敵兵「(そうだ、人形劇もいいな……非番の日には朝早く起きて、アメか何かをこしらえて……)」
敵兵「(そういえば、幼馴染のやつは元気かな……あいつの父親、熱心な共産主義者だから怖いんだよな……)」
敵兵「……おかしいな、繋がらない。何でだ……外の公衆電話からなら、或いは……」
女騎士「北西諸島が魔王軍に合流だと!?バカ言ってんじゃねー、何でそうなるんだよ!!!」
エルフ三男「これ、ウチの経済紙です。ウソは書きません」
女騎士「ザッケんじゃねーぞ……西方師団よりやっかいなのが参入してきたとか、洒落にならねえ……!!」
エルフ三男「これで連合先遣隊が当てにしていた都市貿易同盟は押さえられる事になります、西方共和国の麻薬資源もじきに……」
騎士ほ「恐らくは、南西部に待機している連合軍が最初に接敵するでしょうが……その……勝ち目は薄いかと……」
エルフ三男「どうやら連中……ドラグーン兵科を正式採用して投入してきているらしいのです」
女騎士「」
エルフ三男「コスト、機材開発、人材育成の両面で、連合王国儀典局以外からは完全に無視されていた筈だったのですが……
何か、ぼく達の知らない技術発展があったのでしょう……名実共に最強のドラゴンライダー兵団です」
騎士ほ「ドラ……ゴン……」
女騎士「そりゃねーだろ……ここに来てドラゴン乗り……?」
騎士に「既存の兵装で武装した兵士と、そのドラグーンの戦力比はどのくらいなのでしょうか」
エルフ三男「あくまで、ぼくの私見ですが……連合軍で採用されている小銃では、当てたところで連中のウロコを貫通する事はできません。
ドラゴンの眼球や口内を狙撃するのがセオリーですが、その機動性は騎馬兵の比ではありません。まず小銃、カービン銃は役に立たないでしょう」
女騎士「」
エルフ三男「また、ドラグーンのみで構成された部隊の予想進軍速度は、ぼく達の軽く7~8倍……接敵後、すぐさまの離脱。
ドラゴンの疲労、乳酸蓄積を考慮し、緩急を織り交ぜたヒットアンドアウェイ戦法で攻撃してくるはずです。敵の刃は、頭の直ぐ上から振り下ろされるのです」
女騎士「」
エルフ三男「対抗できうる策としては、森林や市街地などの入り組んだ地形に誘い込む事くらいでしょうか……
もっとも、内乱を経て誕生した連合王国の誇る百戦錬磨のハイランダー達が、そんな誘いに乗るかどうかは疑問ですが」
女騎士「」
エルフ三男「あの、騎士様、聞いてらっしゃいますか?」
女騎士「そ、それで……結局んとこ……どうなんだ……」
エルフ三男「はい。以上を踏まえた上で、帝国南西部の平地で連合軍のいち勢力がドラグーン隊と交戦した場合……
連合側にいくら肩入れしても、15対1に持ち込むのが限界でしょう。現行兵装で実用化したドラグーンとやりあうのは自殺行為です」
女騎士「」
騎士ほ「歩兵戦列を敷いての連続掃射。密度を濃くすれば、効率は悪くとも射落とせはするはず」
エルフ三男「NON。その効率が悪すぎるのです。いかに連合の使用小銃に後送銃が行きわたり始めたとは言え、
奴らの攻撃インターバルに再装填が間に合うかどうかは疑問が残ります……」
……カタパルトやバリスタ、その他火砲の使用」
騎士に「NON。火砲の場合は連合本部に押収されたものにフルで申請をかけたとして、運搬する為の鉄道が南部には敷設されていません。
また、かつて使用された城塞こそ存在しますが、使い古されたカタパルトとバリスタで何ができましょうか……
……ヒッポケンタウリによるファランクス戦法。」
エルフ三男「NON。ケンタウリを使うなど、騎士様の流儀に反する。一兆歩譲って採用するとしても、歩兵に勝るのは進軍速度のみ。
ドラグーンどもの剣戟に耐えきれるとは思えません」
女騎士「結論は――――
奴らの速度や頑強さ、ドラゴンの自力をも物ともせず、北西諸島の円卓にこの私を座らせる事のできる、そんな方法だ」
女騎士「……そんな手段ねぇよ!!!!!」
女騎士「どーーーーすんだよマジやっべーじゃねーーーかよ!!ドラゴンだぜドラゴン、飛ぶんだぜ!?」
騎士ほ「私……森の中とか部屋の隅で……羽のついた中年男が飛んでるの見た事ありますわ……」
女騎士「ドラゴンなんか私ゃ水路の奥でうずくまってるカメみてぇなのしか見た事ねぇよ!!」
エルフ三男「北西諸島連合王国、伊達にペンドラゴンの居城とは呼ばれておりません。
帝国圏で北西諸島に勝る竜は、せいぜい神話クラスのファフナー、リンドヴルム……騎士様が御存知のタラスクなど、比較になりますまい」
騎士に「……どうしましょう、お姉様」
エルフ三男「そもそも、帝国を中心とする教皇領の影響下における地域に住まうドラコーンと、それ以外の地域では存在そのものが異なります。
赤竜の系譜にあるワイヴァーン種、極東における昇龍などは神格を保有するカミです、言うなれば……」
騎士ほ「ゴキブリとカブトムシのメスくらい違う存在……」
女騎士「マジかよ勝てねぇ……」
敵兵「」
女騎士「あッ、どこ行ってやがったんだクソ童貞!一大事なんだぞ、マスかいてる場合じゃねェぞ!!」
敵兵「ほ、北西諸島が……攻めてきたんだろ……」
エルフ三男「はい。ぶっちゃけた話、勝算はありません。マジもんの魔術師や魔人、聖人が降臨してくれない限り負けます」
敵兵「……負けたってさ」
女騎士「は?」
敵兵「なんかオレ宛に封書が来ててさ……『ドラゴンマジつえーほんと無理、中央拠点まで帰還されたし』だってさ……」
エルフ三男「いやぁ、的中ですねぇ。勝ち目が無さすぎて笑えて来ます。あっはっは」
女騎士「……」
女騎士「(このまま完膚なきまでに連合ぶちのめされたら……どうしよっかなぁ……魔王軍はヤだし、帝国はじきに滅ぶし……)」
エルフ三男「あっはっはwwwっはっはwwwっひゃっひゃっひゃwwwww」
女騎士「るせぇんだよ色ボケが!!」
エルフ三男「ありがとうございます!!」
女騎士「何か手はねぇのか手は……(私が)生き残る手は……!」
敵兵「ドラグーン相手には無理だ……少なくとも、今は帝都へ退くしか手はない……」
騎士ほ「そんなマジつえーおっかねードラグーンが魔王軍にも配備されたら……」
女騎士「お前そういうつまんねー事言うんじゃねーよ!!!まじやめて!!!」
騎士ほ「ふ、ふひひ……」
女騎士「……西洋諸島にとってのドラゴンってのはそもそも何なんだろうか」
エルフ三男「馬に並んでもっとも人間に近しい家畜でしょうね。ドラゴンに至っては家畜という表現すら正確ではないでしょう、
とにかく彼らにとってドラゴンは戦友であり、家族です。だからこそ、産業革命を経てなお竜騎兵の存在に拘ったのでしょう」
女騎士「そっか、ドラゴン好きだからドラゴンに乗ってんのか……そっかそっか……」
エルフ三男「建国の父のモチーフとしても用いられているほどですからね、偉大なる主君だとか、そうしたニュアンスを持ち合わせているのでしょう」
騎士に「士気の高さも段違いと言う事でしょうね……」
女騎士「じゃあ簡単じゃん、ドラゴン人質……じゃねえ、竜質にしてゆすりゃいいんだから」
敵兵「おまっ……ドラゴン信仰ってのは北西諸島だけのもんじゃないんだぞ、帝国圏にだって……」
女騎士「知るかそんなもん、北西諸島のボケどもがそんなズルするからこの手を使わなきゃいけなくなったんだろうが。
文句言われたらそう伝えるしかねぇだろ、悪いのはドラゴン乗りのビチグソ野郎どもだって」
敵兵「(何でこいつ、人の嫌がる事を進んで的確にしたがるの……?)」
エルフ三男「いくらなんでも……それはさすがに反感を買うとかそういうレベルじゃないですね……
まさしく戦闘民族みたいな連中のパトリオティズムに馬糞か何かをブン投げるようなものですから……」
敵兵「(そうだ、言ったれ言ったれ!)」
エルフ三男「(やっぱりあなたって人はすばらしい……あふぅ……
ぼくの考えの及ばないような愚策を、あたかも成功する事が前提にある賢策のように語らうだなんて……ビクンビクン)」
女騎士「にしても、連中が一番信頼を寄せてるドラゴンってのは何なんだろうな。
水路のカメドラゴンの甲羅でもぶち割って連中の進路にでも置いとくか、あいつ弱かったし」
敵兵「ウソだろ……マジでやんの……?」
女騎士「で、怯んだところを一斉にバーン。一騎でも落とせば十分だ、死なない程度に傷めつけて気球にぶらさげようぜ」
敵兵「それ、犬とか牛とか馬でやられても結構キツイぞ……ムチャクチャ可哀想じゃねぇか……」
女騎士「うっせーなぁー!!!!悪ィのは私じゃねえーーーだろぉー!!こんな事させるドラゴンフェチのキの字どもだろーがよぉー!!!!」
女騎士「そんじゃ何か!?お前が他の案でも持ち合わせてるってのかよ!!!」
敵兵「いやっ、それは……ないけど……」
女騎士「ドラゴンフェチ相手に尻尾巻いて逃げ帰ったチンカスどもの下っ端の癖して、文句だけはいっちょまえなんだから救えねぇわ!!!クズが!!」
敵兵「……う、うう……」
女騎士「何泣いてんだよテメー、私がなんか間違った事言ってるってのか!?あ!?」
敵兵「……」
エルフ三男「(いいなあ……ご褒美じゃないか……僕も無意味に怒鳴りつけてほしいなぁ)」
女騎士「帝国ボコボコにした事は褒めてやるが、魔王軍も北西諸島も叩き出せねぇならテメェらなんかいらねぇよボケ!!死にくされ!!」
敵兵「(もうやだ……こいつ大嫌いだ……癇癪起こすし言ってる事マジ頭おかしいし……)」
敵兵「い、言わせてもらうけどな、オレがお前の命乞いに耳を貸さなきゃ……」
騎士ほ「あっ」
騎士に「あっ」
エルフ三男「(あーあ、言い返しちゃった……バカだなぁ……)」
女騎士「貸したテメーが悪ィんだろうがよ!!クソ童貞のくせにケンカ売ってんのかオラァ!!!!」
騎士ほ「(数か月お姉様と一緒に居てどうして気づかないんでしょうか……)」
騎士に「(言った事が数千倍数万倍に返ってくるってのに……)」
女騎士「貸したから返せってのか?マヌケが!!筆おろしでもさせて欲しいってんならヨソあたれボケ!!」
敵兵「だ、だからオレはお前の命の……」
女騎士「見合うほどの情報を山ほどくれてやっただろうが!!まだ不満なのかイヤしんぼめッ!!そんなんだから童貞なんだよゴミ士官!!
引き際も分からねえ、満足に一人じゃ情報も得られねえ、テメーにできんのは部屋で天井のシミをオカズに一発ぶっこくぐれえだよ!!!」
敵兵「ふぇぇ」
エルフ三男「もうらめぇ」
騎士に「敵兵さんが部屋から出てきません。エルフの森に戻るのは明日ですから、まだ余裕はあるのですが」
女騎士「は?何で」
騎士に「な、何でって……昨日……」
女騎士「昨日……そうだよドラグーンが糞ヤベェってのにあの童貞なにやってんだバカか」
騎士ほ「(うふふ……この薄情さ、彼は気づかなかったのかしら……)」
エルフ三男「騎士様、騎士様」
女騎士「はいはい」
エルフ三男「このブス!」
女騎士「んだと糞ガキ!!前立腺に指突っ込んで裏返すぞコンコンチキが!!!」
エルフ三男「んはぁぁぁ!!!!!んぎもぢいいいい!!!!」
女騎士「只今戻りましてよ、皆様方」
敵兵「」
エルフ長兄「ひっ、悪魔!!」
エルフ次男「よ、よく戻られた……何でも、列車の事故を目撃されただとか。何事も無くて何よりだ」
エルフ長兄「……」
女騎士「ねえお兄様、私の話に耳を傾けてはくださいませんか?」
エルフ長兄「お、おにい……さま……?」
女騎士「だめかしら……ぷぎぃー☆」
エルフ長兄「あ、ああ……貴女の言う事なら何でも聞こう」
エルフ次男「(兄者……まだ心の傷が癒えていないのに)」
女騎士「ドラグーンってお兄様は御存知かしら……」
エルフ長兄「ああ……翼竜騎兵の事……だろ?」
女騎士「それを、生け捕りにしたいのですけれど……乗り手だけ始末して、竜だけは殺さずに。
……あ、やっぱり乗り手も竜も生きたまま捕まえる道具が欲しいのですわ!」
エルフ長兄「は?」
エルフ長兄「……あれを真っ向から相手にするのか?」
女騎士「そんな事する気は毛頭ございませんわ。ただの一騎を生け捕りに出来さえすればいいんです」
エルフ長兄「ふむ……」
エルフ次男「(兄者、なぜそこで我々が北西諸島と戦う事が前提になっているのか疑問に思うべきではないのか)」
エルフ長兄「……鳥黐でも使ってみてはどうだ、極東から流れてきた技法書にそういう道具があったが」
女騎士「トリモチ……?」
エルフ長兄「小さな羽虫だかを寄せて、一網打尽する粘着性のものだ。粘度を調整すれば、騎手相手にも……」
女騎士「作れます?」
エルフ長兄「実際に製造した事はないが……」
女騎士「では、すぐに実験を開始しただけます?」
エルフ長兄「……」
女騎士「まあ嬉しい!お願いいたしますわね!!」
エルフ長兄「」
エルフ次男「……この国もおしまいだな……兄者……」
第3部 女騎士遠征編
┼ヽ -|r‐、. レ |
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制作・著作 NHK 落ちてたらSS速報でオナシャス速報
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