子供「お母さーん! 押し入れからモンスターボール出てきたー!」(66)

母「ヤダ! いつのだろう!?」

子供「わかんなーい。だけど、ホコリかぶってるよ」

母「ヤダヤダ! ちょっと、あなたー!」

父「んー? 何? 大掃除はかどってるか?」

母「それどころじゃないわよ! 押し入れの奥からモンスターボールが出てきたって!」

父「うわっ・・・・・・」

子供「開けてみるぅ?」

母「やめなさい!」

父「まいったなぁ、去年の大掃除ではここ、放置してたからなぁ」

母「最後にここ開けたの、いつだろう」

父「さぁ、この押し入れは全然つかわないしなぁ」

子供「僕ずっと触ってないよー」

父「お前じゃないか? このモンスターボール」

母「私じゃないわよ! モンスターボールなんてここ数年、触れてもいないわ」

父「うーん。まったく記憶にないしなぁ・・・・・・」

子供「じゃあ、空なんじゃない?」

父「かもな」

母「嫌よ、それで腐った死体が出てきたりしたら」

父「業者でも呼ぶか?」

母「うーん・・・・・・でも、この前聞いた話だけど、○○さんちでも似たようなことがあって、業者に頼んだんだって」

子供「○○さんちってー?」

母「ほら、草むらの近くの、よく木ノ実をくれるおじさんのうちだよ」

子供「あー! あのおじさんかー」

母「モンスターボールの中からキャタピーの死体が出てきたらしいんだけど」

父「うわっ」

母「なんでも、子供が捕まえて、そのままだったらしくて、ポケモン愛護法に基づいて、罰金を払わされたそうよ」

父「罰金!? 嫌だなー・・・・・・業者の作業料もかかるんだろ? ちょっとなぁ・・・・・・」

母「むしポケモンだったから罰金も少なかったらしいけど、種類によっては有期の禁固刑もありえるって・・・・・・」

子供「お父さん、逮捕されちゃうのー!?」

父「さ、されないよ・・・・・・ハハハ」

父「や、やっぱり、自分たちで確認しよう」

母「それでもし中身が入ってて、警察に知られたら・・・・・・死体遺棄なんてことに、ならないわよね」

父「まさか、ポケモンだぞ? 法律上は、器物扱いだし・・・・・・」

母「そう、ね。バレなきゃ大丈夫よね。わざわざ、業者に金とられるのも嫌だし」

父「よし、じゃあ、中身を確認するか」

母「外でやってね」

子供「僕もいく~」

父「よし、こんだけ山奥にくれば大丈夫だろう」

子供「じゃあ、中身を確認しよ!」

父「う、うん」

父「・・・・・・離れてろよ」

子供「はーい」

父「そら」

ヒューン ポワン

死体「」

父「ぬおわ!」

子供「わー! 死体だー!」

子供「死体だ死体だー!」キャッキャ

父「コラ! ばっちいから触るんじゃない!」

父「しかし、ひどいな・・・・・・すっかりミイラ化してる・・・・・・これ、なんだ?」

死体「」

父「なんか、猫っぽいけど・・・・・・」

子供「あー!」

父「ん? なんだ、どうした」

子供「これ、エネコだー!」

父「エネコ? なんでエネコが・・・・・・うちに?」

子供「思い出した! おじさんから貰ったんだ!」

父「おじさん? ホウエンのおじさんか?」

子供「うん! 去年うちにきたときに、くれたんだ。前、僕が『エネコほしい』って言ったから、つかまえてきてくれて」

父「で、そのまま押し入れに入れっぱなしか?」

子供「うん。忘れちゃってた。ボールのまま押し入れの中にしまわなければよかった」

父「ったく、いつも言ってるだろ、見た目はボールでも、中には命が入ってるんだって」

子供「ごめんなさーい」

父(まあ、無理もないな。こんな球に命が詰まってるなんて、俺でさえ実感しにくい)

父「さ、エネコに『ごめんなさい』して、お墓つくってやろうな」

子供「うん!」

父「ただいまー」

母「おかえり。どうだった」

父「入ってたよ」

母「うへぇ、何が?」

父「エネコ。ほとんど皮と骨だよ。モンスターボールに入ってなかったら、とっくに風化してたな。ありゃあ」

母「あー嫌だ嫌だ。なんでそんなのがうちにあったの?」

父「お義兄さんがくれたんだってよ。それを忘れて放置してたって」

子供「ごめんなさーい」

母「もう!」

子供「あー、テレビでおんなじことやってるよー」

父「ん? おんなじこと?」

アナウンサー『さあ、年末の大掃除シーズン。近年急増しているのが、これ、「モンスターボールの放置」』

コメンテーター『最近増えてますねー。よく聞きます』

アナウンサー『モンスターボールが開発されて以来、ポケモンの持ち運びに便利と評判だったわけですが』

アナウンサー『ポケモンを小さなボールの中にしまった結果、そこにポケモンがいるのだという意識が薄くなってしまう』

アナウンサー『そういった傾向が強まり、今、ポケモン愛護団体からボール使用に対する反論が出ているんですねー』

コメンテーター『この無機質な球が置かれているだけでは、そこに生き物がいるのだと、思えない』

コメンテーター『ポケモンが入っているのは理解しているんですよ。だけど、ダイレクトに命を感じることはできないんです』

アナウンサー『わかります。だから、ウチではポケモンはみな、放し飼いなんですよ』

コメンテーター『ですけど、都会に住む人はスペースがありませんから。そういった人々の間でも、ボールは普及してるわけです』

父「実際、無理だよな。モンスターボールの廃止なんて、いまさらさ。こんだけ普及してるんだもん」

母「ねぇ。便利だし」

子供「だよねー」

~ゴミ収集所~

後輩「せ、先輩。今年もすごいっすよ。モンスターボールの山」

先輩「うは、すげえな。何個あるんだよ」

後輩「さぁ・・・・・・。これ、何個かは中身入ってるんですかね?」

先輩「どうだかな。だが、うちの方針は、『モンスターボールは不燃ゴミ』だから」

後輩「中身は確認しないんすよね?」

先輩「そう。確認作業なんていちいちやってられねえし」

先輩「もし、中身が入ってたら、役所に報告しねえとなんねーの」

先輩「面倒だろ? でもさ、ほら」

ギギギギギギ ズズゥン

先輩「中身を確認しないまま、プレスにかけちまえばさ、真相は闇の中よ」

後輩「そうっすね。俺たちはただ、ボールをプレスにかけてるだけっすもんね」

先輩「っそ、俺たちが処理してるのは、モンスターボールだ」

先輩「ポケモンじゃない」

後輩「なんとも、割り切るのが大変でしたけど、慣れましたね」

先輩「ハハハ。だって、見た目はただのボールだしな」

後輩「そういう風に考えると、なんかいいっすね。あの玩具みたいなデザインは」

先輩「遊び飽きられた玩具か。あながち間違ってねえな」

後輩「あっ、また次のモンスターボールが運ばれてきましたよ」

先輩「大掃除シーズンはひでえな。楽できねえわ」

先輩「・・・・・・」

後輩「先輩、プレスしたモンスターボールが埋め立て処分場に運ばれるとき、いつも手を合わせますよね」

先輩「ん。なんとなくな」

後輩「割り切るとか言って、全然割り切れてないじゃないっすか」

先輩「ばーか。なんとなくって言ってるだろ」

後輩「そっすか。じゃあ俺も」

先輩「・・・・・・ふぅ、まだまだ仕事は終わらねえぞ」

後輩「はい。はやく次のやつらをプレス機に放り込んじまいましょう」

先輩「そうだな」

その後も、モンスターボールが潰される音が止むことはなかった。

~完~

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