男「……」
男「虐められてるんだよ。クラスの中で孤立して、それで無視されたり殴られたりするようになったんだ」
男「もうつらい思いをするのは嫌なんだ。だから死にたい。死にたいんだよ、俺は」
自殺屋「……」
自殺屋「どうしてあなたは、虐められるようになったんですか?」
男「……ああ。最初は俺以外にも虐められているやつがいたんだよ。そいつが泣いてたから、見ていられなくなって助けたんだ」
男「そしたらすぐに俺自身が孤立して、いじめられる立場になっちまった」
男「――あいつも薄情だ。俺は助けてやったのに、俺が殴られてる時は助けに来てくれないんだから」
自殺屋「あなたはそれを、後悔していますか?」
男「当たり前だ。あんなことしなけりゃよかった。誰かを助けようなんて思わなければよかった」
男「まったく。自分がどうなるかくらい考えてから動けばよかったんだ……」
自殺屋「そうですか。――ではこれを」 スッ
男「これは、……拳銃?」
自殺屋「はい。これであなたには、自分自身を撃ちぬいてもらいます」
自殺屋「それでは、今からあなたを過去に送りたいと思います」
自殺屋「――ちなみに、途中で嫌になって帰りたい場合。ここに帰りたいと、強く願ってください」
自殺屋「そうすれば、私がこの時代まで引っ張ってきます」
男「……いいよ、そんな話は。どうせ戻ろうとなんて思わない」
自殺屋「そうですか……」
自殺屋「――それでは、準備はよろしいですね?」
男「…………」
男(……俺には、もう未練も何も、無いんだ……!)
男「ああ。大丈夫だ」
自殺屋「それでは――――」
スッ――
男(……なんだ。この感覚は……)
男(体がどんどん沈んでいく……。そうか、これが、過去に行くということか……)
男(…………)
悪い、一つとばした!!
男「――ちょ、ちょっと待て。ここに来たら、痛みも苦しみもなく自殺できるって聞いたんだ」
男「拳銃で死ぬんじゃあ、相当痛いじゃねぇか!」
自殺屋「痛みはありません。この拳銃であなたが撃ち殺すのは、今のあなたではなく、過去のあなたですから」
男「……なに?」
自殺屋「あなたはこれから過去に行ってもらいます。そして、子供のころの自分自身を撃ち殺すのです」
男「――――」
自殺屋「そうすれば痛みもない。それに、あなたが居たという事実さえ、無くなる」
自殺屋「それは完璧な形の、最高の自殺です」
男「――――なるほど。分かった」
男「俺は自分の歴史を、過去、子供の頃の自分を殺すことで、完全に断ちきるってことだな?」
自殺屋「はい」
男「…………」
男「分かった。その方法でやろう」
>>11 に重複するけど一応順番通りに
自殺屋「それでは、今からあなたを過去に送りたいと思います」
自殺屋「――ちなみに、途中で嫌になって帰りたい場合。ここに帰りたいと、強く願ってください」
自殺屋「そうすれば、私がこの時代まで引っ張ってきます」
男「……いいよ、そんな話は。どうせ戻ろうとなんて思わない」
自殺屋「そうですか……」
自殺屋「――それでは、準備はよろしいですね?」
男「…………」
男(……俺には、もう未練も何も、無いんだ……!)
男「ああ。大丈夫だ」
自殺屋「それでは――――」
スッ――
男(……なんだ。この感覚は……)
男(体がどんどん沈んでいく……。そうか、これが、過去に行くということか……)
男(…………)
――――過去の世界
男「――――はっ!」
男「なんだ!? どこだここは!」キョロキョロ
男「…………」
男「いや。ここは見覚えがあるぞ」
男「確か数年前に無くなってしまった、家の近くの公園だ」
男「区画整理で今じゃあ道路になってるが、この光景は間違いない」
男「…………」
男「それで、俺は、どうするんだ?」
男「…………」
男「いや。どうするも何もないか。この時代の自分を探しだして、この拳銃で撃つんだ……!」
男「よし。じゃあ行くぞ」
――――夕方・道路
男「…………」
男(……そういえば俺が子供の頃、誰かに拳銃を向けられたような記憶がある……)
男(こうして生きているっていうことは、殺されたわけじゃあ無かったみたいだが)
男(…………それは、俺、だったのか?)
男(タイムパラドックスがどうとか、難しいことは分からないけど)
男(俺が今も生きている、という矛盾は、いったいどこから来ているんだ……?)
男「…………」
男「まぁいいか。そんなことはどうでもいい」
男「どうせすぐ。殺してしまえば、全部はっきりするんだから」
スタスタスタ
男「…………っ!」
男(――いたっ! 過去の俺だ!)
男【子供】「~♪」
男(呑気に歌なんか歌ってやがる! 音痴なんだからもっと音量落とせ馬鹿野郎!)
男【子供】「~♪」 ブンブン
男(おまけに、ゲームボーイをストラップで握って振り回し始めた! 千切れたらどうするんだクソガキが!)
ジャー
男【子供】「ゴクゴク」
男(おいおい。公園の水を、蛇口に口をつけて飲んでるぜ……)
男(あの時はなんの疑問も抱かなかったが、今思い返すとかなり不衛生なことしてたんだな……)
男【子供】「~♪」 スタスタ
男(――――って、あいつ行っちまうじゃねぇか!)
男(家に帰っちまったら、さすがに殺すのは難しい。外にいるうちになんとか殺さないと)
男(…………)
男(よしっ! 行くぞ!)
男「――おい、ちょっと待てそこのクソガキ!」
男【子供】「?」
男「おっと変な声をあげるんじゃねぇぞ。この拳銃が見えるか?」
男「変な動きをした途端、お前は心臓を撃たれてぶっとぶことになるぞ」
男「――もっとも、動こうが動かまいが、俺の目的はお前を――――――」
男【子供】「わ! 拳銃だ! すげえ!」 ダッ
男「――――って、こっち来て触ろうとするんじゃねぇ! ガキに触らせていいようなものじゃねぇんだよこれは!」
男【子供】「何それ! 兄ちゃん、警察の人!?」
男「違う違う。俺はどっちかっていうと真逆の――――だから、銃に触るなクソガキ! 暴発したら危ねぇだろうが!!」
男【子供】「ちょっと貸してくれよ!」 グッ …カチッ
男「って、安全装置外してんじゃねぇ!!」
……
――――それからしばらく後
男「…………」
男「結局、殺せなかったな……」
男「にしても相当なクソガキだった。人の言うことは聞かねぇし」
男「ただ好奇心ばかり旺盛で、他には何も見えず、……気持ちが悪いくらいまっすぐだ」
男「…………」
男「……今日殺せなかったのは仕方ない。明日、明日こそ殺そう」
男「お前に恨みは無いけど…………いや、まったく無いわけでもないか」
男「お前が変なことをしなければ、こうやって殺すことも無かっただろうに……」
男「……とにかく殺す。明日こそ、この拳銃であいつを撃ちぬく」
男「それで全部にケリがつく」
男「……」
――――次の日・公園
男「…………」 ムクリ
男「……公園のベンチというのは、こんなにも寝心地が悪いものだったのか」
男「というより、少しくらい金を用意しとくべきだったな。腹は減るわ背中は痛いわ……」
男「……さて、じゃあ、あいつがまたここを通り掛かるまで待つか……」
――――夕方・公園
男「…………」
男「…………」
男「……おっ!」
スタスタ
男(来た!)
男【子供】「ほら。この公園だ!」
男(……?)
男【子供】「俺はいつもこの公園で遊んでるんだ! いい公園だろ!」
女の子「……うん」
男「っ!?」
男(な、何――――っ!?)
男(まさか、この俺が、この俺が、……女の子と、一緒に歩いているだと――――!?)
男(なんてことだ! あいつを殺す理由がまたひとつ増えちまった!)
男【子供】「きみ、いつも一人で退屈だろ? 暇な時はここに来てよ。俺と一緒に遊ぼう!」
女の子「うん…………。ありがとう」
男(しかもナチュラルに口説いてやがる!! なんだよあの会話スキル! 俺はもってねぇぞ!)
男(しかも、一人ぼっちの子を連れてきたのか? なんだそれ、変な所で正義感があるというか……)
男(…………こりゃあイジメとか見過ごせないタイプだな確かに。……忌々しいが)
男(お前のその正義感のせいで、俺は今こうして自分を殺すはめに陥ってるんだがな。このクソガキが……)
男【子供】「よし! じゃあブランコでも漕ぐぞ!」
女の子「う、うん」
男(なんかいい雰囲気じゃねぇか……。くそっ……)
男(――あいつを殺せば、俺は自動的に消滅するはず。だから殺すのに人目を気にする必要は無いんだが……)
男(さすがに、同級生がすぐ近くで撃たれたらあの女の子のトラウマになっちまう)
男(あの子がいなくなるのを、ここに隠れて待つしか無いな……)
男「…………」
ガサガサ
男「…………ん?」
ガサガサ
男(……何だ? 誰かが、俺と同じように隠れているのか……?)
男(俺が言うのも何だが、怪しいな――――)
ガサガサ バッ!
男「!」
不審者「へ、へへへ……」
男【子供】「――な、何だ!?」
女の子「――――!!」
男(な、なんだあいつ! マジでやばそうな目をしてやがる!)
不審者「へへ、へ……。ちょっとそこのお嬢ちゃん、こっちに来なよ……」
女の子「!」
ガッ
不審者「へへへへっ。逃さねぇよ嬢ちゃん。――おお。近くで見るとこれまた、綺麗な髪をしてる」
不審者「かなりの上玉だぁ。へっへっへ……」
女の子「――いや! 離して……っ!」
不審者「へっへっへ。ほら。これを見な嬢ちゃん」
女の子「!」
不審者「ああ。こいつぁ拳銃だ。あまりあばれんじゃねぇよ。俺だってこんなの使いたかぁねぇんだ」
女の子「――!」 ガクガク
男(――クソっ。なんだよこの状況は!)
男(というより、あいつは――俺は何をしてやがんだこんな時に!)
ガタガタ
男【子供】「……」 ガタガタ
男(クソガキが! ブルってんじゃねぇよ! 俺が拳銃向けた時は平気だったくせに!)
男(マジでやばそうなやつになった途端、怖がってんじゃねぇ! 助けを呼ぶなり戦うなりしろってんだ!)
カタカタ
男(何、怖がってんだよてめぇは――!!)
カタカタ
男(何、奥歯をカタカタ鳴らしてんだよ――俺は――――!!)
不審者「へっへっへ。ほら。怖いだろう? そうさ、怖いのさ。分かったらおとなしく、俺についてこいよ」
男【子供】「――」 ガタガタ
男「――――――――――くそっ!!」
バッ
男「――――動くな!」 ガチャ!
不審者「――?」
男「――本物の拳銃だ。変な動きをしたら撃つ」
男(……震えるなよ、俺。せめて、外面だけでもしっかりしておけ!)
不審者「……へへ。誰だか知らねぇが、あんまり邪魔、するなよ……」
不審者「あんまり俺に近寄ると、そこのガキの頭をぶっ飛ばすぜ……?」
男【子供】「!?」
男「いいぜ。やってみろよ」
男「お前がそのクソガキを殺す間に、俺はお前を撃つ」
不審者「!?」
スタ
不審者「ち、近寄るんじゃねぇよ! ほら。拳銃だぞ!?」 ブンブン
男「…………」
スタ
不審者「くそ! なんでコレがモデルガンだってバレてるんだよ! ふざけんじゃねぇ!」 ポイッ
男「…………」
スタ
不審者「――だ、だけどなぁ。このナイフは、本物だぞ……!」 キラリ
男「…………」
スタ
男(……あと少しだ……あと少しで、女の子に手が届く……)
不審者「そ、それ以上近づくんじゃねぇ……!」
男(あと四歩……あと三歩……)
不審者「ち、近づくなって言ってるだろうがっ!!」
ダッ
男「!!」
ドスッ!
男「――がっ!」
男(くそ! 腹を刺された!)
男「ふ、ざけんなよ――――」
バンッ!
男(――くっ! 外した! なんて反動の強さだ!!)
不審者「――――え!?」
男「?」
不審者「そ、その銃は、モデルガンじゃ、ない……?」
男「――それなら、最初に、そう、言っただろうが……!」
不審者「――ひ、ひいぃいぃぃいい!!」
バタバタバタ
男(…………逃げた、のか……)
ドクドク
男(腹が、痛い……。血が、止まらねぇ……)
男「――がふっ」
男(おいおい。このままだと、死んじまうぞ……)
男(痛い死に方が、嫌だからここに来たってのに。……なんて痛さだよ。くそっ)
ドサッ
女の子「!!」
男(……ああ、駄目だ。……もう、何も……)
男【子供】「!」
タッタッタ
男(……クソ。お前、今更動けるようになってんじゃねぇよ……)
男(…………)
男(なんだよ。その目は……。なんでそんな目で、俺を――――)
男(――――)
――――暗い夢の中
男「――――」
男「――――俺の中にあった、誰かに銃を向けられた記憶ってのは……」
男「……不審者が、俺に向けたモデルガンの事だったのか……」
男「そりゃ、あんだけ怖がってたんだ。俺と会ったことは忘れても、そのことだけは覚えてるだろうよ……」
男「――――」
男「――そして」
男「ようやく、思い出した――――」
男「さっきの、アイツの目……。あれはきっと、憧れの目だったんだ」
男「子供の頃の俺は、今の俺に憧れたんだ。さっそうと現れた、弱い人間を助ける、ヒーローとして……」
男「だからイジメられてる奴を、見捨てられなかった。弱い人間を助けるということに、憧れていたから」
男「ナイフに刺されながらも必死に不審者を追い払った男に、憧れていたから……」
男「…………」
男「……はははっ。ははっ――」
( 自殺屋「あなたはそれを、後悔していますか?」 )
男「――――」
男「……後悔なんて、出来るわけ、無いだろ……っ!!」
男「誰かを助ける人に憧れた人間として!」
男「誰かに憧れの目を向けられた人間として!」
男「イジメられてる人間を助けたら、胸を張らずには、いられないだろうが!!」
男「助けたことを後悔するなんて、出来るはず、無いだろうが……っ!」
男「…………っ」
男「何があっても、強く生きていくしか、無いだろうがっ――――」
男「――――」
――――病室
男「――――」 パチッ
男【子供】「あ、目が覚めた!」
男「…………」
男【子供】「兄ちゃん、大丈夫!? どっか痛くない!?」
男「……馬鹿。まだ痛いに決まってるだろ……」
男【子供】「でもお医者さんは、当たりどころが良くて、内臓は殆ど傷つけられてなかったって……」
男「そっか。……そりゃ良かった」
男「…………」
男【子供】「なぁ、兄ちゃんはさ。ヒーローなのか?」
男「……そうかも、な」
男【子供】「すごくカッコ良かった!」
男「そりゃあそうだろ。だってお前、震えてばっかだったからな……」
男【子供】「う……」
男「…………」
男【子供】「…………」
男【子供】「…………なぁ」
男「ん?」
男【子供】「俺も、さ、……兄ちゃんみたいに、なれるかな……?」
男「――――」
男「――ははっ。はっはっはっはっはっ!」
男【子供】「な、何がおかしいんだよ!」
男「――なれるさ。そっくりそのまま、俺みたいになれる」
男【子供】「だけど俺、あの時は怖がってて」
男「大丈夫だ。次はちゃんと動けるから」
男【子供】「でも、誰かを助けるなんて……」
男「きっとお前も、二人の子供を、助ける時が来るだろうよ……」
男【子供】「……?」
男「もっとも片方は、いけすかないクソガキかもしれないけどな……」
男【子供】「???」
男「――さて、そろそろもう帰れよ。夜も遅い」
男【子供】「――――」
男「母親が心配してるだろ」
男【子供】「う、うん。分かった」
男【子供】「じゃあ明日もここに来るよ! さよなら!」
タッタッタ
男「…………」
男「……よし。じゃあ俺も、帰るか」 ムクリ
男「……結構痛むが、あいつが言ったとおり、命に支障があるレベルじゃあ無さそうだ」
男「あいつを殺すっていう目的は、もう無くなった」
男「元の時代に帰ろう」
スゥ……
男「…………現実は、ちょっとだけ辛いかもしれないけど……」
男「せめて…………」
男「自分がしたことを、誇りに思って、生きていこう――――」
――――現実
男「――――」
自殺屋「――ー戻ってきたんですね」
男「――ああ」
自殺屋「その様子だと、しばらくは大丈夫みたいですね」
男「まぁ、な」
男「……しかしその様子だと、結構、無事に戻ってくる人も多いみたいだな」
自殺屋「はい。それはもう。半分くらいはそうですよ」
男「…………そっか」
男(別に、俺の場合だけじゃない……)
男(自殺したいと思っている人にとって、楽しく生きていた時の自分を殺すってことは……)
男(かなりの……精神的苦痛を、味わうことになるはずなんだ……)
男「……痛みも苦しみもない自殺と聞いてきたが、……なんとも、蓋をあけてみりゃあ真逆じゃねぇか……」
自殺屋「……」 ニコニコ
男「……とにかく、ありがとうな」
自殺屋「はい」
男「じゃあな」
ガチャ バタン
男「…………」
男「……行くか」
スタ
男「――――」
スタスタ
男(…………あいつに、呆れられないように……)
男(もう、前だけを向いて、真っ直ぐに……)
男(真っ直ぐに、進んでいくんだ――)
――終わり――
終わり。
読んでくれた人はありがとう。
変なオチとか期待してた人はなんかスマン…
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