ニート「働け…?」(324)

ニート「どういうことだお」

母  「どういうこともクソもないよ。28にもなって毎日毎日パソコンばっかりいじりやがって」

母  「2週間以内にバイトでもなんでも見つけないと家から追い出すからね」

ニート「そんなご無体な!!」

母  「問答無用! いいかい? 2週間だからね!」

ニート「やばいお…」

ニート「さてどうするか」

ニート「とりあえず求人サイトに行ってみるお」カチカチ

ニート「ん? 時給1050円!? これはいいお。えーっとなになに?」

ニート「深夜のカラオケ店。18歳以上の男性希望。学歴は不問…」

ニート「深夜は酔っ払いに絡まれる確率高いからパスだお」

ニート「これは近所の飲食店だおね。時給730円。ホーム、キッチン、どちらもできる方希望。学歴不問」

ニート「接客業なんてコミュ障の僕には無理だお。料理もできないお。パス」

ニート「コンビニ、時給642円」

ニート「安い。パス」

ニート「ロクなバイトないおねー」

ニート「あーあ。こんなだから不景気だなんだ言われるんだお。ニュース全然見ないけど」

ニート「お、FC2動画に良いのが上がってるお」

ニート「これはいいお。スク水プレイなんてありふれているけど女優さんの肉付きがちょうどよくてエロいお」

 シコシコ シコシコ

ニート「うう…っ! もうだめだお…凛子ッ! 膣内で射精すぞッ!!!」

ニート ドピュ ドク

ニート「ふう」

 パタン パタン

ニート「この音はッ! カーチャンが階段をあがって僕の部屋に向かってくる音だお! 至急警戒態勢に入るッ!」布団かぶりっ

母  『こらたかしー』ガチャ

ニート「カーチャンッ!」

母  「どうね、いいバイトは見つかったね」

ニート「ああ、いや、中々この近辺ではバイト募集してなくて…」

母  「じゃあ遠くても交通費支給のところを探せばいいじゃない」

ニート「えー、いや、ええーー」

母  「なんね。ご自慢のパソコンでバイトのひとつも探せやしないのかい」

ニート「ま、前にも話したけど、僕には今構想12年の最高のシナリオがあるわけだお」

ニート「もう少しで完結までのアイディアが出せるってのにバイトを探せだなんて、カーチャンは息子の夢と可能性を奪うつもりかお?」

ニート「この作品を社会に発表すれば一つの会社を立ち上げるのも難じゃないお?」

ニート「今はまだ準備段階なんだお」

母  「…一体それを何十年言い続ける気だい」

ニート「…………」

母  「とにかく、2週間以内に働けないと出てってもらうことに変更は無し。家だって結構苦しいんだから」

母  「豚を飼う余裕なんてないんだよ」バタン

ニート(87kgという至って平均的な体型なのに、豚はないんじゃないのかお…)

ニート「けど、バイトおねぇ」

ニート「そんなことしてたら小説も書けないお」

ニート「最強のラノベ書いてビリビリ文庫で大賞受賞して、僅か3巻で600万部を突破、アニメも大ヒット」

ニート「劇場映画が何本も作られ、二期は全国放送、最終的には億万長者になって声優さんと結婚する計画は延期おね」

ニート「なーんか楽そうなバイトないかおー」カチカチ

ニート「ん? テレフォン…アポインター? へ、平均時給1500円!!? なんだこれは!!」

ニート「学歴、性別不問。勤務時間は基本朝の10時から15時まで!? なんという好待遇…!」

ニート「早速電話してみるお」ピッピピピッ

ニート「…………」

ニート「WEB受付やってるお。こっちで応募するお」カタカタ

ニート「『ご応募ありがとうございました。後日こちらから面接日などご連絡致します』。ふむ」

ニート「電話なら一日座ってられるし、クーラーも暖房も効いてて快適だし。最高だお」

ニート「ついに僕も社会デビューしちゃうお?」


 2日後


 ヴーッヴーッ

ニート「んー、今でるお」

ニート「もしもし」

???『お忙しいところ失礼いたします。こちら○×社担当の斎藤と申します」

斎藤 『先日ご応募いただいたテレフォンアポインターの件についてお電話致しました。山田たかしさんでいらっしゃいますか?』

ニート「!! ぁ…はい、やま、ゃま、だ、ですけど…ゥフッ」

斎藤 『アルバイトの面接日と場所をお知らせしますので、何かメモなどをご用意ください」

ニート「ぇ? ぁ、は、はぃ…」ゴソゴソ

ニート「…よ、用意、し、ましたお」

斎藤 『それではお知らせいたします。面接日は6月3日の月曜日、15時から…場所は…」

斎藤 『以上になります。何かご質問などはありますでしょうか?」

ニート「ぁ、ぃぇ…」

斎藤 『失礼しました。当日は履歴書もご持参ください。それでは』

ニート「ぁ、はぁ…」

 ピッ

ニート「ふう」

ニート「僕の神対応と神谷浩史顔負けのイケボで好印象は与えられたかお?」

ニート「まったく、己の才能が悩ましいお」

ニート「この歳でさえなければ、声優を目指して女の子にキャーキャー言われまくるのも良かったけどおね」

ニート「やはり僕の夢、否、人生の運命はラノベ大作家だお」

ニート「山川流や平面読もメじゃないお☆」



面接日当日


ニート「今持ちうる最高の私服でビシッと決めたお」

ニート「3時間も前に家を出ていればきっと遅刻はないおね。じゃあ行ってくるお」バタバタ ガチャ

ニート「…………」

ニート(外って、こんなに明るかったっけお…)

ニート(太陽の光が眩しいお。空が必要以上に青くて、地面も真夏のように熱いお)

ニート(もうすぐ梅雨に入るのにどうしてこんなに暑いんだお。厚すぎて頭がまともに働かないお)

ニート(なんだか息も苦しくなってきたお…。地球温暖化進みすぎだお…)

ニート(あ、近所のおばさんたちだ。こっち、見てるのかお? 何か話してるみたいだお…)

ニート(なんか…笑ってる? ヒソヒソ話してる…。ああ、僕のこと見て笑ってるんだろうおか…)

ニート(「あれ、たかしくんじゃなぁい?」「あらほんと。外に出てるの久しぶりにみたわ」「お仕事もしてないんでしょう? 最近の若い人って」)

ニート(恥ずかしいお恥ずかしいお恥ずかしいお。まともに前が見れないお。足も震えてる気がするお)

ニート(…やっぱり外は嫌いだお)

ニート(…おうちかえる)バタン

ニート「結局家から30mほどしか歩けなかったお…」

ニート「3時まであと2時間…」

ニート「はやく行かないと…」

ニート「…………」


 カタカタカタカタカタカタ カチッ


ニートだけど外に出られない

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/017(月) 12:53:49.85 ID:■■■■
   もう10年以上引きこもってるけど外に出たい


ニート「勇気でる応援レスないかな」
ニート「……レスつかないおね」
ニート「ここでも僕はのけものなのかお」f5
ニート「! レスついてるお!」


2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/17(月) 12:55:02.11 ID:■■■■
   ほーん。で?いちいち同意求めんなカス^^


ニート「…………」f5

3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/03(月) 12:55:21.35 ID:■■■■
   外でろ

4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/03(月) 12:55:28.09 ID:■■■■
   働け

5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/03(月) 12:56:59.22 ID:■■■■
   親が泣いているぞ



ニート「平日のこの時間のVIPはニートの気持ちが分かるニートがいるんじゃないのかお!?」机ドンッ

ニート「結局大学生とか仕事中に隠れて2ちゃんやってるような奴しかいないんだおね」

ニート「ここでもニートは肩身せまいんだおねはいはい」

ニート「はあ…」f5

9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/17(月) 13:00:11.07 ID:■■■■
   俺は昼は出られないけど夜やまだ薄暗い早朝なら外に出られる
   人の目が気になるんだな、やっぱ

ニート「やっとわかってくれるレスが来たお…」カタカタカタカタカタ カチッ

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/17(月) 13:01:00.00 ID:■■■■
   >>9そうなんだお
   けどバイトしないと出てってもらうって母ちゃんが
   

ニート f5

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/17(月) 13:01:36.59 ID:■■■■
   >>1さあ、なんでこんなスレ立てたわけ?
   結局は働きたくないから言い訳してるようにしか見えないんだが

12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/17(月) 13:21:15.41 ID:■■■■
   外に出られなくても働け


ニート「う……」

ニート「けどそうかもしれないお…働きたくないから外に出たくないだけかも…」

ニート「はあ。水を一杯飲もう」パタパタ

ニート「ごくごく。はあ。水道水はくっそまずいお。ん? テーブルになにかあるお」

ニート「これは昔死んじゃった父ちゃんと唯一三人で一緒に撮った写真だおね」

ニート「水に濡れてふやふやになってるお。母ちゃんも管理が甘いおねー」

ニート「? まだ何かあるお」

ニート「えーと、母ちゃんの字だおね」


『たかしへ。いってらっしゃい』


ニート「…………」

ニート「はやく、いかないと」

ニート ガチャッ

おばさん「やだー」「それでー」「うふふふふ」

ニート(あの人達まだ井戸端会議やってたのかお! 暇だおね!!)

ニート ドキドキドキドキ テクテクテクテク

おばらん「えー!?」「クスクス」

ニート ビクッ

ニート(やっぱり、僕のこと笑って…)

おばさん「それで娘が『おとうさんのぱんつといっしょにあらわないで!』っていうのよー!」

おばさん「お年頃ねぇー」「ふふふ」「うちは男の子だから心配ないわね!」

ニート(な、なんだ。僕のこと笑ってたんじゃ、ないんだ)

ニート「やばいおやばいお。気づいたらもう2時だお」

ニート「面接場所まではタクシーで行くとして、履歴書に貼る顔写真まだ撮ってないお」

ニート「確か駅に証明写真撮る機械があったおね」

ニート「そこで撮るお」ドスドス

 駅

ニート「あったおあったお」

ニート「えーっと、いくらだお? 700円ッ!!!? クソ高いお!! ぼったくり乙だお!!!」

ニート「仕方ないお。これも家を追い出されないための出費だお」チャリーン

ニート「えーっと、これとこれとこれ選択してー」

機械 『3・2・1』パシャッ

ニート「さて、どんなイケメンに撮られているかお?」ごそごそ

ニート「!!!???」

ニート「誰だこのブサイク」

ニート「証明写真は顔映りが悪いと言うおがこんなに別人に映すだなんて聞いてないお」

ニート「ま、仕方ないおね。これを履歴書に貼るお」ごそごそ

ニート「!!??」

ニート「はさみわすれた」

ニート「どうするおどうするお」

ニート「もう2時半だお。とりあえずコンビニでハサミ買うお」ドスドス

店員 「ラッシャセー」

ニート「これくれお」

店員 「アリャッシター」


 ウィーン

ニート「タクシーで移動しながら履歴書に貼るお。ヘーイ! タクシー!」

運転手「どちらまで?」

ニート「○×社までよろしくだお! 超特急でお願いするお!」

運転手「了解です」

ニート チョキチョキ ペタッ

運転手「お兄さん、もしかして○×社のアルバイトか何か受けんですか?」

ニート「お? よく分かったおね。テレポンアポ…アポーターの面接に行くんだお」

運転手「テレフォンアポインターか。わたしも昔やったことあるんだけどね、きついですよ」

ニート「そうなのかお? 冷房暖房完備で、座ってやれる仕事なんて楽勝だと思うけどお」

運転手「うーん、肉体的にはそうかもしれないけど、精神的にね…」

ニート「まさかブラックなのかお」

運転手「まあ、今から面接にいくという君に余計なことを吹聴するのもなんだ…。はい、つきましたよ」

ニート「速いおね。おっさんは確かな腕をもつタクシー運転手だお」

運転手「はは。どうも」

運転手(駅から500m内なんてあっという間に着くっつーの)

ニート「いそぐおいそぐお」ドスドス ウィーン

ニート(確か電話ではまず受付に聞けって言われたおね)

ニート「あ、あの」

受付嬢「本日はどういったご用件でしょうか」

ニート「えっと、あ、えーっとあ、ババ、バイブの、」

受付嬢「はい?」

ニート「ば、バイトの、めめめめん面接、に、きたんです、け、ど…」

受付嬢「アルバイトの面接ですね。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

ニート「っあ! 山田、山田たかし、ですっ!」

受付嬢「山田たかしさんですね。少々お待ちください」

ニート(緊張するお)

受付嬢「後ほど担当の斎藤がまいりますので、そちらの面接室でお待ちください」
ニート「お」

 3分後

 ガチャッ

斎藤 「やーどうもです。面接官の斎藤です」
ニート「お」
斎藤 「それでは履歴書をお預かりします」

ニート「お」

斎藤 「えー、山田たかしさんですね。年齢は28と」

ニート「はあ」

斎藤 「高校中退ですか。お仕事はされていなかったのですか?」

ニート「まあ」

斎藤 「成程。我社のアルバイトは個人の成績により時給が左右されるのですが、そちらはご存知ですか」

ニート「えっ。時給1500円って書いてましたけどお」

斎藤 「それは平均ですね。まったく契約がとれなかったら、当然時給は下がりますし、たくさん取れればその分上がります」

ニート「そうなのかお」

斎藤 「ええ。まあほとんどの人は1000円~2000円ほど稼げていますので、あまり気にされることではないのですが、認識はしておいてください」

ニート「お」

斎藤 「ちなみに給料は週払いです。1週間の契約数により、その週の時給が決まりますので」

ニート「ハイテクだおね」

斎藤 「は? はあ。では何か質問はございますか」

ニート「別にないお」

斎藤 「ではここに判子を。あ、判子はご用意してきましたのでこれで」

ニート「はあ」 ペタン

斎藤 「どうも」 サッ

ニート(音速の如き契約書の取り方だお)

ニート(おかげであんまり契約内容見れなかったお)

ニート(せっかちな面接官だおねぇ)

斎藤 「本日の面接は以上になります。結果は後日ご連絡しますので」

ニート「お」

 ウィーン

ニート「ふう」

ニート「面接も大したことないおね。僕の超人対応で合格も確実だお」

ニート「安心したら腹減ったお。コンビニかどっかでパンか何か買うお」ドスドス

ニート「お、向こうにファミマあるお。信号待ちするお」

ニート「…………」

ニート「待ち時間長いおね」

 ブオオオオン ブオオオオン ブオオオン

ニート「外は車がうるさいお。とっとと帰りたいお。ん?」

ニート「あの信号待ちしているタクシー、さっき僕を送ってくれたおっちゃんだお」

ニート「まだこの辺うろちょろしてたのかお」

ニート「おーいおっちゃ……お?」

ニート「ん? なんか車内の様子が…」

運転手『で、ようきゅ…は……んだ』

黒タイツ『…から…だまって……しれ』

ニート「車内で運転手のおっちゃんが謎の黒タイツに刃物をつきつけられている!?」

ニート「まさかこれはタクシージャック…!?」

ニート「ど、どうするお…!? とりあえず警察に連絡……してたらおっちゃん何されるか分かんないお」

ニート「ええい当たって砕けろだお!」ドスドス

運転手「金なら渡すから、出てってくれないだろうか」

黒タイル「金はどうでもいいんだよ!! 俺はてめぇに用があんだ!!」

運転手「わたしの処女は誰にも渡せん!」

黒タイツ「俺はそっちの人間じゃねぇ! このキズに、覚えはねぇか…」 ペラッ

運転手「そ、その頬のキズは…!」

黒タイツ「俺は貴様に復讐するために地獄から這い上がってきたのさ」

運転手「ひ、ひいい」


 ゴンゴン

黒タイツ「誰だ!?」

ニート『そこのお前! なにやってるんだお!!』

黒タイツ「ちいっ。通行人に気づかれた! 走れオラッ!」

運転手「ひいいいい! けどまだ信号は赤で、歩行者がたくさん…」

黒タイツ「ちくしょう!」バンッ

ニート「おっ!? 急に車から出てきて颯爽と逃げていくお! ちょっと待つおー!」ドスドス


運転手「た、たすかった……?」


黒タイツ「俺はここで捕まるわけにはいかねー!」バタバタ

ニート(十年前だとたしかそっちは確か行き止まりなんだおよね)

黒タイツ「!? 行き止まりだと!?」

ニート「観念するお。抵抗できない運転手のおっちゃんを脅して金を盗んで逃走しようとしたのだろうけど、貴様もここで終わりだお」

黒タイツ「くそっ…シャバにでてきてまだ1週間とたってねぇっつうのに」

ニート「前科持ちかお。じゃあ今度こそ死刑だおね」

黒タイツ「俺はここで捕まるわけにはいかねーんだッ!」チャッ

ニート「そういえば刃物持ってたんだおー! 怖いお! 刺されるお! 助けて! 母ちゃん!!」

黒タイツ「オラどけ。死にたくなければな」

ニート(ど、どうするお。ここで犯罪者をみすみす逃がしてしまうのかお…)

ニート(今期のアニメ面白いのたくさんあるし、来期には実況向けと思われるクズ原作、君のいる町も始まるし)

ニート(ガルガンの最終話もすごく気になるし、まだむろみさんでゆかりんぺろぺろしたりないし)

ニート(ちはやふるだって最終回絶対見たいしマジェプリだってなんかもっと熱くなるって話題だし)

ニート(京アニがどんな筋肉ホモアニメを作るのかだって興味あるお!)

ニート(し、死にたくないお…!)

ニート(…戦わなければ勝てない)

ニート(戦え… 戦え…! 戦え!)

ニート(戦わなければ…生き残れない! お!)

黒タイツ「おい。早くどけよ」

ニート ごそごそ

黒タイツ「あん? てめぇ何やってんだ」

ニート 「チャキーン」

黒タイツ「!? てめぇ…」

ニート「コンビニでハサミを買ったのはきっと運命だお! いけえ断裁分離のクライムエッジ!」ヒュッ

黒タイツ くちゅっ

黒タイツ「○×△■※★◇!!!!!」

ニート「股間に切っ先がクリーンヒット。新品ゆえの切れ味…。すまない、これも戦争なんだお」

ニート「もしもし警察ですか? 今ここにタクシージャックの犯人が…」

 翌日

母  「ちょっとあんたあんたあんた!!!」バタバタ

ニート「なんだお。僕は昨日走ったせいで全身筋肉痛なんだお」

母  「あんた、昨日犯罪者を捕まえたんだってね?」

ニート「そうだけどお。僕の勇姿を見せたかったお」少ない頭髪をファサア

母  「あんた、新聞に、新聞にでてるわよ!!」

ニート「なんだおと!? みみみみせるお!!」バッ


記事 『現役ニート、奇跡の逮捕協力~タクシー運転手は語る~(太文字)』

ニート「…………」

記事 『都内在住のT.Yさん(無職)は、先日6月3日午後3時30分頃に都内の大通りで~』

記事 『タクシー運転手は「彼がいなくてはわたしは今頃この世にいなかったかもしれない」と、涙ぐみながら語ってくれた~」

ニート「……なんで僕が無職だって知ってるんだお」

母  「どうせ警察に事情徴収された時に喋ったんじゃないの?」

ニート「あ」

警察 『協力ありがとうございます。事情徴収などをしたいと思いますので、一旦警察署までご同行願えますか』

ニート『ぼ、僕も暇じゃないん、で…』

警察 『そうですか…。ではお名前と連絡先をお教え願えますか』

ニート『あ、はい。えっと、都内の……や、山田たかし、で」

警察 『失礼ながらご職業などは…』

ニート『え、あ、っと……む、無職です……」

警察 『…そうでしたか。では後日またご連絡しますね』

ニート『お』

ニート「あの時はモノホンの警察官に興奮してつい正直に言っちゃったんだお!! くそうあの警察、口が軽いおね!! 死ねお!!」

母  「でもあんた、ほら、なんかいいこと書いてあるよ」

ニート「お?」

記事 『この事件をきっかけに、就職難である現状に更なる不満の声があがった』

記事 『彼のような勇気ある人物も職につけないという社会状況を、政府は今一度考え直すべきである』

ニート「なるほど、やはり僕は悪くなかったお。政府が、国が悪いんだお」

母  「言い訳すんじゃないよ」バシッ

ニート「あいた」

母  「ま、少しでもこれを機に、就職難に何らかの対策が投じられればいいね。じゃ、あたしパートの時間だから」

ニート「いってらだお。あ、帰ってくるときに9代目メロンパンを買ってきて欲しいお」

母  「自分の身体で働いて、 自分の労力で給料もらったら、 自分のお金で買いなさい」

ニート「お」

 バタン パタパタ

ニート「しかし僕が新聞に…小さい記事だけど、なんだか心地いいお」

ニート「もしかしたらスレ立ってるかも!」カチカチ

【東京都】無職がタクシージャックの犯人を逮捕協力

1 :名無しさん@13周年:2013/06/04(月) 09:44:30.12 ID:■■■■■
  東京都市内で3日、午後3時頃に、タクシーが飯田四郎(43)にハイジャックされた。
  信号待ちをしていたT.Yさん(無職)はタクシーの運転手と顔見知りだったようで、
  偶然異変に気づき、声をかけると飯田四郎はタクシーから飛び出し逃亡を測った。
  犯人は追いついたT.Yさんともめ合いになり、気絶させられたあと通報で駆けつけた警官により逮捕された。
  飯田四郎は6年前にコンビニ強盗で逮捕されており、先週刑務所から出所していたらしい。

  タクシー運転手は「彼がいなければわたしは殺されていた」などとどこか確信めいた様子で話しており、
  警察はこの事件には何か裏があると見て、捜査を続けている。
  
  ソース
  http://×××

2 :名無しさん@13周年:2013/06/04(火) 09:45:01.09 ID:■■■■■
  T.Yさん(無職)

3 :名無しさん@13周年:2013/06/04(火) 09:45:48.30 ID:■■■■■
  (無職)

4 :名無しさん@13周年:2013/06/04(火) 09:46:03.24 ID:■■■■■
  無職www


ニート「無職無職うるせーお! てめーらだって無職だろうがお!」
ニート「僕の勇敢な姿を笑いものにするなんてひどすぎるお」スクロール

ニート「お?」


28:名無しさん@13周年:2013/06/18(火) 09:48:15.41 ID:■■■■■
  しかし運転手と犯人は何か因果関係でもあったのか?
  殺されてたとかビビリ杉

29:名無しさん@13周年:2013/06/18(火) 09:48:42.59 ID:■■■■■
  >タクシー運転手は「彼がいなければわたしは殺されていた」などとどこか確信めいた様子で話しており
  結構な事件の臭い

ニート「たしかにあの時、運転手のおっちゃんの顔真っ青だったお…」
ニート「もしかして僕は何か大きな事件に巻き込まれちゃったりするのかお!?」
ニート「まあそんなラノベみたいな展開あるわけないお」
ニート「アニメ見よ」

テレビ『だれもがーうつーむーくまちー(デーエトアラーイ』

ニート「折紙たんぶひいいいいい!」

ニート「折紙たん折紙たん折紙たん!! ふああああ////」

 ピリリリリリリリリリ

ニート「今狂三ちゃんがやばいとこなんだお! あとにするお!」

 ピリリリリリリリリリ

ニトー「無視」

 ピリリリリリr ピタッ

ニート「右目の時計はこういうことだったのかおやべええお!!」

 ピリリリリリリリリリリリリリリリ

ニート「うっさいお! もしもしお!」

斎藤 『あ、山田さんですか? ○×社の斎藤です』

ニート「! し、失礼し、たお。なな、何か用かお?」

斎藤 『はい。面接の合否をお伝えしようかと』

ニート「ほう」

斎藤 『あー、まあ、一応、一応ね、採用という形で』

ニート「!」

斎藤 『しばらくは様子見ですがね。ウチはよっぽどじゃないと不合格にはならないんで』

斎藤 『あー、早速ですが、明日出勤していただけますか? 出勤時間は通常の朝10時からですが』

ニート「平気だお」

斎藤 『持参するものはとくにありません。ではまた明日』

ニート「お」ピッ

ニート「…受かっちゃった」

ニート「なんか、喜ぶべきはずなのに、どこか虚しいお…」

ニート「この10年以上に渡る警備生活ももうおしまいなんだおね」

ニート「アニメ、全部みれなくなっちゃうお…」

ニート「けど働いたらBDがいつも以上に買えちゃうからよしとするお」

ニート「高くて諦めていたアルティメットまどかのフィギュアも買うお」

ニート「カイジのBD-BOXも欲しいおね…そうだ! 外に出られなくてずっと買えてなかったマガジンもまた買い始めたいお」

ニート「アニメグッズがたんまり買えるかと思うと、働くことも苦痛じゃないお!」

ニート「早速母さんに電話するお」ピッ

ニート「あ、まだパートの時間だおね。メールにするお」ピッピッピ

 夕方

 バタン バタバタバタ

母  「たかし! あんたバイト決まったって…!」

ニート「言われたとおり2週間以内にアルバイト見つけたお。これで出ていかなくていいおね?」

母  「…………」

ニート「どっどうしたんだお!?」

母  「うっ……ううっ……」

ニート「!!!?? なななななんで泣いてるんだお!!」

母  「あのクズが…アルバイトの面接に、自分で行って、受かって…これから働くだなんて…」

ニート「母ちゃん…」

母  「よかった…よかったよぉ……。お母さん、心配してたんだよ、これでも」

ニート「…………」

母  「あんたが高校を辞めて、外に出なくなって…昔から人付き合いは苦手な子だったけどさ…」

母  「よかった、よかった。本当によかった」

ニート「…………」

母  「頑張ってね、頑張ってねぇ、たかしぃ」ボロボロ

ニート「お、お!」

母  「あ、小豆と鳥モモ買ってきたんだよ。お赤飯と、あんたの好きなから揚げ、作るからね。ちょっと待っててね」

ニート「お!」

ニート(僕は母ちゃんにこんなに心配されてたんだお…)

ニート(それなのに僕は毎日ロクに部屋から出ずにゲームやアニメや2ちゃんばかり…)

ニート(初給料がはいったら、母ちゃんの好きな編み物の材料か何か買ってやろうかなぁ)

 ピリリリリリリリリリ

ニート「電話だお」

ニート「? 知らない番号からだお」

ニート『もしもしお』

運転手「山田たかしさんですか?」

ニート「その声は運転手のおっちゃんかお!」

運転手『おお。先日はどうもありがとう。ほんとにもう助かったよもう』

ニート「例には及ばないお。人間として当然のことをしたまでだお」

ニート「しかしどうして僕の携帯番号を知っているのだお?」

運転手『クソポリ…いや、警察の人から聞いたんだ」

ニート「ほどなる」

運転手『今度お礼に自宅まで伺おうかと思っているのだけれど、予定はあるかな?」

ニート「明日から仕事が入るから無理だお!」フンッ

運転手『そ、そうか…。なら、今から行ってもいいかい? 30分も時間は取らせないし…』

ニート「今からなら別にいいお。家の場所も警察の人から聞いたのかお?」

運転手『いや、住所までは。名前と携帯番号しか』

ニート「じゃあ教えるお。東京都----」

運転手『……ありがとう』

ニート「いえいえお」

運転手『じゃあ後ほど、お礼の品を持ってお伺いするよ』

ニート「お」

ニート(誰かに感謝されたのなんて初めてだお)ほくほく


母  『たかしー。ごはんできたよー』

ニート「はーいだお!」

母  「いっぱい食べなぁ」

ニート「ありがたくいただくお!!」モグモグムシャムシャ

母  「ふふ。あたしも食べるかね」モグモグ

ニート「そういえば、後で昨日のタクシーのおっちゃんがお礼に来てくれるおから」

母  「あらそうね。じゃあ早く食べないとねぇ」

ニート「お」

ニート(仕事があるというだけでこんなにも夕飯の時間がなごやかになるなんて)

ニート(今までは会話もロクになく、あってもいつ働くのとか外にでろとか、そんなのばかりで)

ニート(こんな、こんな単純なことで母ちゃんとの関係がよくなるだなんて)

ニート(新聞でもニュースでも僕はヒーロー。母ちゃんとの仲も円満)

ニート(僕はもう無職の引きこもりなんかじゃないんだお!)

母  「あ、そうだこれ。忘れないうちに」スッ

ニート「なんだおこの紙切れ」

母  「あんたが10年間通販やら何やらで使った金額」

ニート「」

母  「これでも生活費は引いてあげてるんだからね。単純にあんたが娯楽に使ったお金だよ」

母  「あたしが月にアニメのビデオや声優のCDに払ってあげてたんだから、ちゃんと返してよね」

母  「まったく、ビデオ一本が1万円近くするなんて。信じらんないよ」

母  「それを毎月毎月毎月毎月」

母  「返してね」

ニート「…………お」

 ピンポーン

ニート「あ、きっとおっちゃんだお」

母  「あたしも出なくて大丈夫かい?」

ニート「いいや、これは『大人』同士のやりとりなんだお。親が出てきてはサマにならないお」

母  「はいはい」

 ピンポーン

ニート「今でるお!」バタバタ

 ガチャッ

運転手「こんばんは」

ニート「どうもだお」

運転手「先日はどうもありがとうございました。本当に感謝しています。これ、お礼の品です」

ニート「いやいやいいんだお、お気になさらずにだお」

運転手「君がいなくてはわたしは死んでいた。感謝してもし尽くしきれないほどだ」

ニート「それは新聞でも思ったのだけどお、どうして殺されてたって思ったんだお?」

運転手「…明日のニュースでも話されると思うのだが、実は昨日の犯人は、以前数件のコンビニ強盗と、殺人を犯していてね」

ニート「お」

運転手「十五年ほど前だったかな。ちょうど彼がコンビニに押し入ってる時に、煙草を買いに行ったわたしと鉢合わせして、殴り倒してしまったんだ」

ニート「お!?」

運転手「わたしは大学の時は柔道黒帯だったんだよ。それで、ね」

ニート「なるほど。逆恨みってやつかお。やっぱり犯罪者の脳みそは理解しがたいおね」

運転手「はは。けど流石に、狭い車内で後ろから刃物で狙われたら手も足もでない。君が気づいてくれて本当に助かった」

ニート「礼には及ばないお。って、お礼受け取ってる奴が何を言ってるんだおって話だけどおね」

運転手「はは」

ニート「なんかおっちゃんとは、普通に気軽に話せるお。きっと良い人なんだろうおね」

運転手「……そうかい。それは、よかった」

ニート「?」

運転手「それで、今日は、お母さんはいないのかい?」

ニート「…え?」

運転手「いや、お母様にもお礼のひとつを言おうかと思って」

ニート「…なんで母ちゃんなんだお?」

運転手「え? いや、だから、親御さんにお礼を」

ニート「なんで父ちゃんじゃなくて母ちゃんなんだお?」

運転手「…………」

ニート「普通は母親じゃなくて父親を呼ぶものだと思うお。それに、どうして僕が親と同居してると知ってるんだお?」

ニート「自慢じゃないが僕は老け顔だお。見る人によっては30代後半と思う人もいるお」

ニート「老け顔じゃなくてもこの年齢なら家庭を持っていてもおかしくないお?」

ニート「ちなみに警察の人に家族構成は話していないお」

運転手「…表札に、書いてあったから」

ニート「ウチの表札には山田としか書かれていないお」

運転手「…………」

ニート「…………」

運転手「…この家、結構狭いよね」

ニート「お?」

運転手「一軒家というと聞こえはいいけれど、この大きさだと一階には6畳がひと部屋に台所、風呂、トイレがついていて、二階は四畳半がひと部屋ってところだろうね」

運転手「この広さだとギリギリ二人は住めるかもしれないけど、三人はキツイ」

運転手「君が無職なのは新聞やニュースで知っていたから、親御さんと同居してるのはなんとなく想像できるし」

運転手「この家には車を止める場所がない。近くにも駐車場は無い。けど自転車は置いてある」

運転手「その自転車も小さめで、サドルの位置も低かったから、父親ではなく母親と同居してるんだと思ったんだ」

運転手「どうかな? これでわかってもらえたかな?」

ニート「……すごいお」

運転手「へっ」

ニート「おっちゃんすごいおねー! 探偵になれるお!」

運転手「そ、そんなことはないさ。て、照れるな///」

ニート「家の構造も完璧に当たってるお! なんで畳間までわかるんだお!?」

運転手「昔建築系の仕事をしていたことがあってね。それでなんとなく」

ニート「柔道黒帯、建築の知識もあり、タクシーも運転できる、頭も回る。おっちゃんスペックやばすぎだお!」

運転手「は、はは。じゃあわたしはこれで」

ニート「? 母ちゃんに会わないのかお?」

運転手「それはまた今度の機会にするよ。それじゃあ」

ニート「あ、そういえばおっちゃんの名前聞いてないお!」

運転手「謎の彼氏Xだ」

ニート「偽名乙!」

運転手「はっはっは。名乗る程の者でもないよ。じゃあ、おやすみ」

ニート「おっちゃんおやすみー!」バタン

 バタバタ

母  「おかえり。結構話し込んでたね」

ニート「お! おっちゃんが探偵みたいですごかったんだお! つい聞き入っちゃってたお!」

母  「へえ。どんな人なんだい?」

ニート「モグモグ。柔道黒帯で、建築できて、すごく頭がいいんだお!」

母  「柔道黒帯で建築できてずる賢い…?」

ニート「おっちゃんはずる賢いって感じはしないお! とにかく、家を見ただけで家族構成がわかるくらいすごいんだお!」

母  「……その人、名前なんてんだい」

ニート「聞いたんだけどごまかされたお。たぶん田中太郎とか、顔に似合わないダサイ名前なんだと思うお」

ニート「名前がダサいと履歴書に書くのも恥ずかしいお。かといって光宙とかのアレな名前もアレだけどお」

母  「…………」

ニート「母ちゃん?」

母  「いいや、なんでもないよ。それより、明日から早速通勤なんだろう」

ニート「そうなんだお! すごく緊張するお!」

母  「がんばってね」

ニート「お!」

 翌日

斎藤 「今日から入る新人の山田くんだ! 質問などされたらしぶらずに丁寧に教えてあげること! いいな!」

バイト「「「はい!」」」

斎藤 「良い返事だ。じゃあ山田くん、一言挨拶を」

ニート「よ、よろしくお願いしますだお」

斎藤 「では各自今週のノルマに入れ! 最低でも一人15名だ! それより下回れば当然減給! はじめ!」

バイト ササッ

斎藤 「山田くんはまず、仕事を覚えることから始めてくれ。基本を説明するから、分からないことがあれば先輩方に聞くように」

ニート「は、はいだお」

バイト「今日の朝会、新人はいったから優しかったわね(小声)」

バイト「早速入った新人にビビられて辞められるのも困るもんね(小声)」

ニート(なんだか嫌なこと話してるお)

 斎藤 「山田! 聞いているのか!?」

ニート「はははっはいだお!」

斎藤 「では今の所を自分で説明してみて」

ニート「え? え、えーと…」

斎藤 「話はきちんと聞くように。ではもう一度説明するぞ」

ニート「すみません…」

斎藤 「…メモくらい、とったらどうだ」

ニート「…すみません」

バイト「斎藤さんって、自分では言葉選んで話してるつもりなんだろうけど、あの声と喋り方が怖すぎるのよねー(小声)」

バイト「あのバイトくん、もう涙目よ。もしこれで契約取れなかったら、絶対辞めちゃうよ。可哀想(小声)」

斎藤 「わかったか?」

ニート「は、はいだお」

斎藤 「では一回シミュレーションをしてみよう。私が客だ」

ニート「えっと、も、もしもし」

斎藤 「もしもしではない! 『こちら○×社でございます。我社の住宅に関する情報をお届け致します~』だ!」机ドンッ

ニート「ひいいっ! こ、こちら○×社でございますうう!!!」



斎藤 「うむ。まあいいだろう」

ニート「ほっ」

斎藤 「シミュレーションに3時間もかかったのは君が初めてだ」

ニート「すみません…」

斎藤 「では早速、電話をかけてみよう」

ニート「えっもう!?」

斎藤 「あそこが君の席だ。隣で見ていてやるから、電話しなさい」

ニート「は、はい…」


 ピポパポ プルルルルルル プルルルルルルル ガチャッ

電話先『はい』

ニート「こっこちら○×社でごじゃいまするるっ」

電話先『はあ』

ニート「こ、この度は、ですね、我社の住宅に関する情報をお届けさせていただきたく…」

電話先『そういうの、困りますんで』ガチャッ 

 プツッ ツー ツー

ニート「……切られました」

斎藤 「そういう客の方が多い。数本打てば聞いてくれる人もいる。諦めずに次だ」

ニート「…はい」

プルルルルッルル

ニート「あ、こちら○×社の」

電話先『何かの勧誘ですか? そういうの困るんですけど』

ニート「も、申し訳ございません、あの、話だけでも」

電話先『そもそもさあ、どうやって電話番号入手してるわけ? 個人情報どっから仕入れてんの?』

ニート「あっと、えっと、ええ?」

電話先『犯罪だよねそういうの。のくせに商品売りつける電話すんの? どんな根性してるわけ?』

ニート「…………」

電話先『こういうのもうやめてくんね? もうかけてくんなよ』ガチャッ

ニート「…ひどいこと言われて切られました」

斎藤 「よくあることだ。次」

ニート「……はい」

 

 プルルルルル

ニート「あ、こちら○×社でございますが、この度は」

電話先『あーはいはいはい。また何かの勧誘ですか? 新聞もヤクルトも家はいらないんで』

ニート「いえ、あの、この度は我社の住宅に関する…」

電話先『え? 何? 押し売りすんの?』

ニート「」

電話先『もうさー、いいからさ、こういうのさぁ。本当迷惑なんだよね。無駄な時間とらせんなっていうか」

にーと「」

電話先『じゃ。そういうことで』ガチャッ

ニート「……切られました」

斎藤 「次」

ニート「あ、こちら○×社の」ガチャッ

ニート「…切られました」

斎藤 「いちいち実況するな。黙って次」



 夜

ニート「五十人近く電話してひとりしかまともに話を聞いてくれなかったお…」

ニート「しかも契約してくれなかったし…」

ニート「そんで契約が取れないのは君の話し方のせいだとか言われて、斎藤さんに夜までシゴかれるし…」

ニート「働くって、大変だお」

ニート「ニートであるときの引け目と同じくらいきついお」


 ガチャッ

ニート「ただい---ん? 誰か来ているのかお?」

ニート「…男物の革靴……?」

母  『…ら、今更なんで……』

???『…つに…だのぐ…ぜん、だった……』

ニート(母ちゃん? 誰と話してるんだお…)

母  『それでも…言って…とと、…ことがあるでしょう…』

???『はんせ……している。許…し…れ』

母  『…警察には行ったんでしょうね』

???『それこそ、今更だけどな』

母  『まあね。あれからもう15年、経ってしまっているものね』

???『カナダでの生活は悪くはなかったよ』


ニート(お、おっちゃん…?)

運転手『だが、わたしを助けてくれたのがアイツだったのには、切れぬ縁を感じた』

運転手『お互いこの歳ではあるが、やり直してはもらえないだろうか』

母  『意味がわかりません。あんたは私の中ではただのクズな親父だよ』

母  『どうせ生活が苦しいんでしょう。タクシーの運転手やってるのなら』

母  『あんたのことだから借金もあるんでしょうに。赤の他人に、あの人が残してくれたものは渡せないよ』

運転手『…そうかい』

母  『わかったら出て行って』

運転手『ああ。けど…』

運転手『最後でいいから、たかしに、俺の息子に、会わせてはもらえないだろうか』

ニート「!?」ガタッ

母  「!」

運転手「!」

ニート「…な、なんで…ッ」バタバタ バタンッ

母  「た、たかし!」

運転手「あーあ、聞かれてしまったようだ」

母  「あんた、まさかわざと…」

運転手「え、なんだって?」

母  「……出ていきな」

運転手「は?」

母  「出て行け! ここから! いますぐに!」

運転手「…わかったよ」

母  「たかし!」バタバタ

運転手「…………」


母  『たかし! たかし!』 ドンドン

ニート「…………」

母  『たかし、出てきなさい! 話を聞きなさい!』ドンドン

ニート(なんで、なんでだお? 運転手のおっちゃんが僕の父ちゃん…?)

ニート(けどけど、写真では違う人が父ちゃんだったお。若い時のだったけど、おっちゃんとは明らかな別人だったお…)

ニート(もしかして母ちゃんはクソビッチで男を取っ替え引っ変えしてたのかお…)

ニート(何が何やらわからないお)

ニート(会社では斉藤さんに怒られっぱなしだし、電話先の人にも冷たくあしらわれるし、母ちゃんはクソビッチだし…)

ニート(もういやだ)

母  『たかし! 出てこいって言ってるだろう!!』

ニート(うるさいお。何も聞きたくないお)

母  『…分かった。聞こえにくいだろうけど、聞いておくれ。ここから話す』

ニート「…………」

母  『あたしはね、高校のときにあの運転手と…』

ニート「聞きたくないって言ってるお!!」バンッ

母  「!」

ニート バタバタ ガチャンッ

母  「たかし!」

母  「たかし……」

ニート「……勢いで出てきたけど、行くアテがどこにもないお…」

ニート「腹減ったお」ぐるるるるるる

運転手「あれ、たかしじゃないか?」

ニート「お、おっちゃん……」

----

運転手「微糖でよかったかい?」

ニート「ありがとうだお。コーヒーだなんて大人っぽいお」

運転手「はは。君は自分のことを老け顔だと言っていたが、どちらかというと子供っぽいな」

ニート「そうかお? 汚らしいおっさんみたいであまり好きではないお」

運転手「きっとわたしに似たんだろう。シブみのきいた良いオトコになるぞ君は」

ニート「さりげなく自分のことホメてんじゃねーお」

ニート「…………」

運転手「?」

ニート「……あれは、本当なのかお」

運転手「え? あいつから話は聞いてないのか?」

ニート「…説明しようとしてたけど、聞く前に逃げてきたお」

運転手「……そうか。まあ、仕方ないか」

運転手「けど、これだけは聞いて欲しい。わたしは、悪くないんだ」

ニート「お?」

運転手「ある事情でわたしは警察から追われていた。だから逃げていたんだが」

ニート「それは、さっき少し聞いたんだけどお、おっちゃんは犯罪者なのかお?」

運転手「世間から見ると犯罪者だが、わたしは自分が犯罪を犯したとは思っていない」

運転手「むしろ正しい行いをしていたと思う。わたしは自分の信念をつらぬいただけなのだ」

ニート「かっちょいーお」

運転手「だろう。だからお前にだけは信じて欲しい」

ニート「よく分かんないけどお、信じてやるお」

運転手「ありがとう」

ニート「おっちゃんと知り合ってまだちょっとしか経ってないけど、悪い人には見えないお」

ニート「コーヒー、ごちそうさまだお」

運転手「じゃあまた」

ニート「お! またお」


ニート「勢いと流れでおっちゃんと別れたけど、家に帰るのもなんか気まずいお」

ニート「…会社、くらいしか、行くところは…」

ニート「でも……あそこ、行きたくないお…。でも、家に帰るのも…」

ニート「この時間ならもう、斉藤さんも帰ってるよおね?

 ガチャン ドスドス

ニート「お? 誰かいるお」ガチャッ

斎藤 「あれ、何君。帰ったんじゃなかったの」

ニート「斉藤さん、こんな夜中まで何してるんだお」

斎藤 「あー、これね。最近電話したところで断られたところをまとめてんだよ」

斎藤 「断った翌日にまた同じような電話をされたら苦情になんだろ」

斎藤 「だから次に電話するのは2ヶ月後にすんだよ」

ニート「そういうのって、コンピューターがしてくれるんじゃないのかお?」

斎藤 「それがしてくれねーんだよ。数ある電話番号の中から契約してくれたトコと断られたトコの区分はしてくれんだけどよ」

斎藤 「いつ断られたかとか、どういう内容で断られたかとかは記録されねーんだ」

斎藤 「だからこっちが区分して次に電話するときの対策を練らねーとダメなんだよ」

ニート「よくわからないけど、斉藤さんも大変なんだおね」

斎藤 「そうなんだよなあもう。上に立つ者も大変だぜ。時々責任なすりつけられるし」

ニート「お」

斎藤 「…………」

ニート「…………」

斎藤 「……で」

ニート「お?」

斎藤 「お前は何しにきたの」

ニート「ちょっと、母ちゃんと喧嘩して」

斎藤 「その歳になって家出か」

ニート「返す言葉も見つからないお」

斎藤 「けどなー、喧嘩別れとかになったら辛いぞ」

ニート「お?」

規制されたのでもしもしから投稿するお…



斎藤 「俺が19の時に、いなくなったんだ」

ニート「お!?」

斎藤 「家出するほど家庭は荒れてないし、交友関係も問題なさそうだったのに、突然消えたんだ」

斎藤 「俺は最初はめちゃくちゃ気になってたんだけど、次第に行方不明の兄貴がいるんだよなーくらいにしか思わなくなった」

斎藤 「両親はずっとお祈りしたり警察に頼み込んだりしてたけど」

斎藤 「それで5年後…俺が24の秋に、海で漁師の網に引っかかってた死体が、兄貴のだと連絡が入った」

斎藤 「涙も出なかったよ。あんな無残な死に方したのが、自分の兄貴だって信じられなかったからな」

斎藤 「いつ死別してもおかしくない。せっかく縁があるんなら大事にしろ。好きなやつでも嫌いなやつでも」

ニート「……お」

斎藤 「なぜこんな話をしてしまったのか。深夜のテンションでおかしくなってんのかな」

ニート「……お」

斎藤 「そんなしんみりした顔すんなよ。まあいい。これ手伝え新人」ドサッ

ニート「お!!!??」

斎藤 「このチェックごとに分類する簡単なお仕事です。ほらやれ」

ニート「お、おお…。けどその前に、母ちゃんにメール入れてもいいかお?」

斎藤 「……ああ、してやれ」

 翌日

斎藤 「本日は祝日だ!! 家庭に家主がいる可能性は極めて高い! 心して取り掛かり、一件でも多く契約を取るように!」

バイト「「「はいっ!」」」

ニート「お!」

斎藤 「それでは作業開始ッ!」

バイト『ねえねえ聞いたー?』

バイト『ああ、強盗事件でしょ? ほんの僅かな隙間から侵入して家を荒らす奴』

バイト『こわいよねー』

ニート(また物騒な事件が起こってるみたいだおね…)

バイト「やーまっだくん!」ポン

ニート「ほぁ!」

バイト「仕事にはもう慣れた?」

ニート「ぼぼぼぼぼぼちぼちでんな!」

バイト「ふふ。そっか。けど目の下のクマやばくない? 昨日もそんなだったっけ?」

ニート「これは昨日斎藤さんに仕事を手伝わされて」

バイト「なにそれー。新人イビるなんてやっぱり斎藤さんコワーイ」

バイト「「「「コワーイ」」」」

斎藤 「ほらそこ! しゃべってないで電話かける!!」

バイト「「「「はーい」」」」

ニート(斎藤さんってもしかしていじられキャラ…?)資料ペラペラ

ニート「お?」

ニート「あの、バイトさん」

バイト「なあに? 山田くん」

ニート「この会社って、家以外にもビルとか建ててるんですか?」

バイト「ビルだけじゃないわよー。ショッピングセンターとか、学校とかも建てるわよ」

ニート「そんなに色んなことしてるのかお!」

バイト「うーん。建てる、っていうか、建てる契約をするってかんじかな。建設会社と」

ニート「?」

バイト「ちょっと斎藤さーん、新人くんにこの会社の説明ちゃんとしてないんですかーぁ?」

斎藤 「うっさいわ! それくらい自分で自然と分かることだろう!!」

バイト「基本の説明もロクにしないなんて、斎藤さんサイテー」

バイト「「「「サイテー」」」」

斎藤 「お前らうるさいぞ! 電話しろ電話!! 契約とれ!!」

バイト「「「「はーい」」」」

ニート(斉藤さん実は面白い人…?)

バイト「ああ、うちの会社のことだけどね、単純に、ビルの建設依頼があったら、ビル作る会社と依頼主を契約させるだけだよ」

バイト「ビル建てたいけどどの建築会社にお願いすれば分からないって人の為に、条件に適したところを紹介するの」

バイト「万が一建物が損壊したり、それで死者が出たとしても、仲介役であるうちに責任はこないわけだし」

斎藤 「そこまで言う必要はないだろう」

バイト「あ、す、すみません……」

ニート「?」


 夕方

斎藤 「はいじゃあ本日はここまで! 終了! タイムカード押してとっとと帰れ!」

バイト「「「お疲れさまでーす」」」

ニート「おつだお」

ニート(これから家に帰るんだお)

ニート(メール送っといたから、母ちゃん、大丈夫だおね?)

ニート(怒ってないといいけどお…)

 ガチャガチャ

ニート「た、ただいまー」

ニート「って、なんだおこの家の惨状は!!」

母  「パートから帰ってきたらこの有様だったんだよ…そ、それで、通帳と判子が…」

ニート「…え」

母  「なんで、どうして…」ボロボロ

ニート「も、もしかして!」バタバタバタ

 バタン!

ニート「ぼ、僕のデスクトップPCもなくなってるお---!!!! 15万(親の金)もしたのに--!!」

ニート「そ、それだけじゃないお…この10年間集めに集めてきたアニメのDVDアンドブルーレイ(親の金)が…」

ニート「声優さんのライブDVDもCDの初回盤(親の金)も…」

ニート「レアものの漫画しかも初版(親の金)もラノベ(親の金)も全部全部…」

ニート「なくなってるおー!」

母  「あんたの部屋からもかい…1階も、金目のものは全部持ってかれてるよ」

ニート「そんな、なんで」

母  「…………」

ニート「と、とりあえず警察にいくお!」ダダーッ

母  「…………」バコンッ

母  「…よかった……これは、盗られてなかった」

警察 「わかりました。ここ最近多発している強盗事件と同一犯、またはその便乗犯の線で捜査が進められるかと思います」

警察 「通帳に関しては、今すぐに契約の銀行に連絡して、引き出しが来ても対応しないようにするべきです」

母  「は、はい…」

ニート「PC盗むなんて許せないお。絶対殺してやるお」

警察 「大変失礼ですが、通帳にはどれくらいの金額が入っておられたのでしょうか」

母  「全部で9つの講座がありまして…その、計7000万ほどです」

ニート「!!!????」

警察 「そ、そうですか…それは、至急こちらでも何らかの対策をしないと、大変大きな額ですので…」

警察 「犯人の逃走に使われる可能性もありますし、とりあえず警視庁の方に連絡しますので」

母  「お願いします。あの人が、あたしたちのために、残してくれたものなんです…」

ニート「…………」

 家

母  「こんなにガラガラの家なんて、居心地が悪いね」

ニート「そ、そうだおね…」

母  「絶対に、あの人だわ」ボソ

ニート「え」

母  「絶対に、あの運転手が、全部全部持ってったんだよ!」

ニート「おっちゃんはそんなことしないお!!」

母  「何言ってるの!? あんたはあの人のこと何も知らないからそんな風に言えるんだよ!」

ニート「何も知らなくても、悪い人かそうでないかくらいわかるお!」

母  「10年以上も他人と接してこなかったあんたに何がわかるってんだい! 最近まで引きこもりだったくせに!!」

ニート「ぅ……」

母  「…そうか、あんた、あいつに何か吹き込まれたね?」

ニート「…………」

母  「じゃあ話そう。今度はちゃんと聞いてもらうからね」

母  「あたしとあの人は、高校生の時に知り合ったんだ」

母  「工業高校でね、あたしはインテリア科だったんだけど、部活が同じ美術部でね」

母  「大学も同じ大学に行って、そのまま卒業して結婚。あの時のあの人は本当に誠実な人で」

母  「今思うと、騙されていたのかね。真面目で、誠実で、だけどすごく話しやすくて」

母  「あの人は建築の仕事について、その優秀っぷりから、若くして設計のほとんどを任された」

母  「あたしにも色んな設計を見せてくれてね。どれがいいかな、どれがおもしろいかなってね、楽しそうに話してたよ」

母  「その生活が崩れたのは突然だった。ある日いつもより少し大きな地震があったんだよ」

母  「本当にいつもより少し大きいだけの地震だった。家の中のものがたくさん倒れたりする程度の」

母  「なのに、ビルや家が次々に1階から崩れた。あの人が設計したものばかりが」

母  「4つだったかな。崩れたのは。建設中のものも含めれば6つ。数は多くないけど、死んだ人の数は四桁を超えた。周囲の建物も通行人も巻き込んだから」

母  「原因は手抜き工事。瓦礫から結合がゆるい鉄パイプやら何やらがたくさん見つかったよ」

母  「それに元のビルの大きさから考えても、明らかに瓦礫の量が少ないんだ」

母  「それに元のビルの大きさから考えても、明らかに瓦礫の量が少ないんだ」

母  「材料ケチって人員ケチって、設計までケチって、ケチってケチってケチりまくって、たくさんの人を死なせた」

母  「過失致死傷罪で当然逮捕状が出されたよ。あの人はわたしに何も言わずそそくさと逃げてったけどね」

母  「逃げるってことは、罪を贖う意志がないということだ。自分のしたことが悪い事だと思ってないんだ」

母  「人間として、最低だよあの男は」

ニート「じゃあ、僕は…」

母  「あいつが出て行ったとき、あんたは生後3ヶ月だった。紛れもなくあいつの子だ」

ニート「…お」

母  「それから色々あって、あの写真の人に助けられた。血のつながりは運転手でも、父親であるのはあの写真の人だ」

ニート「その写真の父ちゃんのことも、僕はあまり覚えてないお」

母  「あんたが5歳の時に事故で死んでしまったから。本当に良い人だったのだけれど」

ニート「…………」

母  「この話は終わり。お風呂入って寝な」

ニート「…うん」

運転手『世間から見ると犯罪者だが、わたしは自分が犯罪を犯したとは思っていない』

運転手『むしろ正しい行いをしていたと思う。わたしは自分の信念をつらぬいただけなのだ』



ニート(僕は、おっちゃんの言葉を信じたい、お)



 早朝


ニート「昨日は全然眠れなかったお」

ニート「携帯携帯…」

ニート「あれ? 僕の携帯がないお。1階に忘れてたかな…」ドスドス

ニート「あったあった」

 ガチャガチャ バタン

ニート「?」

ニート「母ちゃん、こんな朝早くからどこ行くんだお…?」

ニート「あれ、この机にあるのって…風景画? これ母ちゃんが書いたのおか? 上手いおね」

ニート「……ちょっとだけ後つけてみるお」コソコソ

 テクテク テクテク

ニート「ここ、こないだおっちゃんと話した公園だお」

運転手『なんだい、話って』

母  『あらやだ。しらばっくれちゃって』

ニート(おっちゃんとあいびきー!? いや、逢引とは言わないおか…?)

母  『昨日、家から金目のものと、通帳が持ってかれた。何か知らないかと思って』

運転手『さあ。そんなこと俺に聞かれても困る』

母  『前科持ちであるあんたが一番怪しいじゃない。返してよ、通帳。と、あの子の気持ち悪いコレクション』

ニート(気持ち悪いとはなんだお! というかやっぱりキモがられてたんだおね僕!)

運転手『あの、だから、知らないって言って』

母  『嘘だ!! 絶対あんたが盗んだんだよ!!』

運転手『……嫌われたもんだな、俺も』

母  『…………』

運転手『あのさ、そんなに犯罪者が嫌いなのか?』

母  『当たり前だろう! 大量殺人に窃盗。死刑でも許されない! 今すぐ警察につきだしてやる!!!』

運転手『それについては説明をしたはずだ。なぜ分かってくれない』

母  『犯罪者の思考なんて分かりっこない!』

運転手『はは。たかしと同じことを言うんだね』

母  『当然! 親子ですから!』

運転手『はは』

母  『笑ってんじゃないよ! 返せよ通帳! コレクション!!』

運転手『君は歳をとってもかわらないね。脳筋のところも若い頃そのまんまだ』

母  『はあ!!?』

ニート(母ちゃんが怒りっぽいのは昔からだったのかお…)

運転手『じゃあもう一度説明しよう。わたしが犯罪者ではない根拠を』

母  『だから何度聞かされても信じないってんだろ!』

運転手『うん、黙って聞こうか。わたしは当時、高いデザイン性と快適な空間を作り上げる若き才能であり、大人気建築家だった』

ニート(こいつは何を言ってるんだお)

運転手『同時にいくつもの設計を担当し、3年で17もの建物を建て上げた。建築途中をいれると24だ』

運転手『その時のわたしはまさに人生の絶頂期だった。次々と設計アイディアが生まれ、次々と建物を建て上げ…』

ニート(なんか話が長くなりそうだお…)

運転手『だが、実際にわたしは設計をしただけであって、建築そのものには深く関われていない』

運転手『同時にいくつもの設計をしたため、まともに建築状況に指示を出せなかったものも多かった』

運転手『それがあの地震でくずれたビルだった』

母  『経過を見れなかったから崩れただなんて、冗談もほどほどにしな。結局は設計ミスだろう。現場監督は設計図通りに仕事をしたにすぎない』

運転手『だけど、わたしが深く関われなかった建物のみが手抜き工事になったというのは、いささか不自然じゃないか』

母  『それは偶然にかけた言い訳。聞きたくもない』

運転手『設計図がすり替えられていたとしたら…?』

母  『はあ? 誰が 何のために』

運転手『それは、わからないけど…』

母  『ふん。妄想でほかに犯人を生み出そうなんて。これだから犯罪者は』

運転手『…………』

母  『3日。3日待ってやるから、それまでに警察に出頭するか、通帳を返してね。それじゃ』トコトコ

運転手『…………』

ニート「お、おっちゃん」

運転手「! たかし…」

ニート「あ、あの」

運転手「そうか、全部聞かれちまったか」

ニート「おっちゃんって、フリーの建築家だったのかお?」

運転手「ん? いや、ちゃんと会社に勤めてた。そこの会社の大体の設計を任されていたよ」

ニート「その会社、なんていうんだお」

運転手「○○会社だ。当時はかなり有名で、大手の建築会社だったんだけどな。ある意味俺のせいで、倒産ちしまった」

ニート「……ありがとうだお」

運転手「? もう帰るのか…?」

ニート「いや、バイトだお」

運転手「こんな朝早くからか?」

ニート「ちょっと、調べ物ができたお」

会社

ニート「おはようございますだお!!」

斎藤 「おわ! お前こんな朝早くから来んなよ! 寝れないだろ!」

ニート「あ、おやすみだったのですかお。これは失礼しましたお」

バイト「あれー? 山田くんじゃない。こんな早くに出勤なんてめずらしい」

ニート「え? ば、バイトさん? なんでこんな朝早くに…もしかして斎藤さんとバイトさんって」

斎藤 「違うわアホ。こないだのお前みたいに、カレシと喧嘩して出てきたってだけだ。何もねぇ」

バイト「ええーっ。斉藤さん、あんなに激しかったのにひどいっ」

斎藤 「クビにするぞお前…」

ニート「それはいいとして、ちょっとお二人に聞きたいことがあるんだお」

バイト「なにかしら?」

ニート「今から、えーと、28年前くらいに、倒産した建築会社があったおよね? 確か、○○会社」

バイト「ああ、あるわね。私が産まれる前の話だけど、建築界に大きな変動があったから知ってるわ」

バイト「○○会社の二番手だった△△会社が自然の成り行きで一番になったんだけど」

バイト「それより異常に成果を伸ばしてきたのが××会社! 今まで一番の弱小で、名前聞いても『どこそれ?』程度にしか認知されてなかったのに」

バイト「○○会社が潰れてから一気にその名前を売るようになったの」

バイト「××会社は○○会社と全体的な雰囲気も似ている建物を作る会社だったから、お客さんはみんな○○会社に流れちゃって」

バイト「けど○○会社が潰れたら同じような建物を建てる××会社に依頼が殺到。どんどん質の高い建築物を作り上げて、橋まで作っちゃってんのよ」

バイト「○○会社が落ちて一番喜んだのは、××会社じゃないのかなぁ」

ニート「…なるほど。貴重な情報ありがとうだお」

バイト「え? これだけでいいの?」

ニート「え?」

バイト「実はね、これ裏で言われてることなんだけど、○○会社の『手抜き工事』は、××会社が手を回したんじゃないかって」

ニート「!」

斎藤 「それは俺も聞いたことがあるぜ。設計図のすり替え、だったか」

ニート「!」

バイト「それそれ。詳しいことは誰にもわからないんだよね。なにせ実行犯が事故死しちゃってるから」

斎藤 「設計図をすり替えた犯人が、事故か自殺かはたまた他殺かって話か。電車で轢かれたんだっけな」

バイト「私は会社の人間が口封じのために殺したんじゃないかなーって思ってるんだけどね」

斎藤 「そいつ、結構金にガメつい奴だったらしいからな。会社で働いてる他にも、副業と称していろんなことやってたらしいし」

バイト「そこらへんはただの噂ですけどねー。って、この話のほとんどが噂ですけど」

ニート「…超絶貴重な情報に感謝するお…。あと、今日は急用ができたのでバイトはお休みにしてほしいお」

斎藤 「はあ!? ここまで来といて何言ってんだおまえ!!」

ニート「また明日だお!」バタバタ

斎藤 「……あのやろう」


 ネットカフェ

店員 「ラシャーセーカイインカードオモチデスカー」

ニート「これカード! 時間はフリータイム!」

店員 「ッシター」

ニート ドスドス ガチャッ カタカタカタ カチッ 

28年前の○○会社倒産のあれこれ知ってる奴きてくれ

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/07(金) 07:11:58.02 ID:■■■■
     ほんのわずかな情報でもいい
     何か知ってたら頼む

ニート「何か情報求むお」f5

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/07(金) 07:12:43.42 ID:■■■■
     ggrks


3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/07(金) 07:13:11.36 ID:■■■■
     まず自分で調べましょうって学校で習わなかった?


ニート「こいつらはいつもこうだお! 特定する奴も鬼女板とか地下ドル板の奴らばかりなんだお!」机バンッ

ニート「こいつらをアテにするのはダメだお。自分で調べるお」

ニート「『○○会社 倒産』っと…」カタカタ スクロール カチカチッ

記事『○○会社倒産! 裏に蔓延る建設会社の黒い争い』
記事『昨年倒産した○○会社。急速に利益を伸ばしてきた××会社ですが、何かウラがあるのではないかと、記者はにらんでいます』

ニート「うーん、バイトさんたちから聞いたことと殆ど内容は同じだお…」バックスペース

検索結果『○○会社倒産は意図的なものなのか』
検索結果『○○会社、倒産の原因は手抜き工事』
検索結果『手抜き工事によるビル崩壊、○○会社責任を問われる』

ニート「似たような検索結果ばっかりじゃないかお! ネットのくせに使えないおね!」

ニート「設計資料のすり替えが事実だという、証拠かなにかがあればいいんだけどお…」

ニート「そんなもんあればとっくに警察が真犯人をタイーホしてるおよね」

ニート「あれ? けど、斉藤さんは犯人は電車で轢かれたって言ってたから、誰が犯人かはわかってるってことだおよね」

ニート「ちょっと斉藤さんに電話してみるお」イソイソ

プルルルルルル

斎藤 「はい、こちら○×会社です」

ニート「あ、斉藤さんかお? 山田ですお」

斎藤 「おお、山田か。っはぁ、どうした?」

ニート(なんか息荒いおね)「それがですね」

斎藤 「ちょっ…おまやめっ……(小声)」

ニート「お?」

斎藤 「いやなんでもない。どうしたんだ?」

ニート「あのですね、さっき言ってた電車で轢かれた犯人って、どうして犯人だって分かったんだお?」

斎藤 「ああそれか? んなの単純に……ぅっ」

ニート「!? なんだお!?」

斎藤 「き、気にするな……く、うぅっ……」

ニート「…………」

斎藤 「そ、それでだな、その犯人と分かった理由だが…」

ニート「お」

斎藤 「電車で轢かれた男の身元を警察が調べたら……くはっ!」

バイト『もー。斉藤さんはやいですよー』

ニート「………」

斎藤 『黙ってろ(小声) で、身元を警察が調べたら、××会社に勤める設計士だということが分かったんだ』

斎藤 『彼には親も家族も友人もいなくて、というか見つからなくてな。あまり詳しいことはわからないんだが』

斎藤 『会社が波に乗ってる時期に自殺はありえないし、電車から落ちる事故なんてそうそうありゃしない。だから他殺の線が強いだろうってなって』

斎藤 『他殺なら会社側が口封じに殺った、って話が一番しっくりくるだろってなったんだ』

斎藤 『あくまで同業者同士の噂の話だけどな』

ニート「それだけでも十二分だお! そいつの名前は分かるかお?」

斎藤 『たしか普通にニュースでも公表されてたぜ? ググれば出てくるだろ』

ニート「ありがとうだお!」プツッ ツーツー

斎藤 「…なんだあいつ。なんか調べてんのか?」

バイト「斎藤さんはやすぎですよー。反則ですー」

斎藤 「だからハンデで30秒スタート待ってやったじゃねーか。お前が遅すぎんの」

バイト「マリオカートなんてめったにやらないから仕方ないじゃないですか。今度はスタート2分くらい待ってくださいー」

斎藤 「バーカ誰がやるか。そろそろ仕事戻んぞ」

バイト「はーい」


ニート「あのふたりはやはりそういう関係だったんだお」

ニート「なんだろうこの虚無感」

ニート「あ、ググんないと」

ニート「『××会社 電車 死亡』と…」カタカタ

検索結果『東京駅山手線、森下雄一郎(26)事故死』

ニート「これかお?」カチカチ

記事 『東京駅の山手線外回りにて、午後3時頃に森下雄一郎(26)が死亡した』
記事 『彼は××会社に勤めており、社員は特に思いつめている様子などはなかったと言う』
記事 『警察は事故と事件の両方から操作を続ける模様』

ニート「森下雄一郎…」

ニート「この頃は2ちゃんねるもなかったし、あまり情報はないおね」

ニート「うーん」

ニート「設計図をすり替えたのが森下雄一郎だから殺されたのか、誰かが設計図をすり替えたという事実を知ったから殺されたのか」

ニート「たぶんどっちかなんだろうけど、後者だったら更なる真犯人を探さないと…」

ニート「もー! わけがわからないよ!」

ニート「ちょっと帰ろう」ドスドス

 家前

ニート「気づいたらもうすぐ12時なるお」

ニート「母ちゃんはパートに行ったかお?」

 ガチャン トコトコ

ニート「? 母ちゃん、似合わない黒い服なんか来てどこに行くんだお?」

ニート「菊の花…もしかして」コソコソ


ニート「け、結構歩くおね…ぜえぜえ」

ニート「……ん、ここって…」

ニート「墓地…」

ニート(森下、って、まさか森下雄一郎の?)

ニート(けどなんで母ちゃんが森下雄一郎の墓参りなんかしてるんだお)

ニート(それにさっきの口ぶりだと、まるで森下が自分の恩人のような…)

ニート(どういうことだお)

母  「たかし…?」

ニート「!」シマッタ

母  「なんであんたがここに」

 近くのファミレス

母  「人の後をつけるだなんて、感心しないね」

ニート「それについては謝るお。けど、けどどうして母ちゃんが、森下雄一郎のお墓参りなんかしてるんだお」

母  「あんたなんで森下さんのこと……」

ミスったお
>>257の前に↓

母   ゴソゴソ センコウアゲ-

ニート「…………」コソコソッ

母  『…最近来れてなくてごめんなさいね。色々あって』

母  『あたしもたかしも元気よ。たかしは最近ようやっと仕事をはじめたんだ』

母  『…通帳ね、盗まれちゃった。ごめんなさいねぇ。あんたがせっかく残してくれたものだったのに』

母  『あら、お供えの飲み物買ってくるの忘れちゃってたわ。買ってくるね、ごめんね』タッタッタ

ニート「母ちゃんがお墓参りって…もしかして」ガサガサ


『森下家之墓』

ニート「……え?」

>>257の続き
母  「お得意のパソコンで調べたのかね。まったく、あんな鉄の箱にどんな情報が詰まっているのか、恐ろしいよ」

ニート「説明して欲しいお。母ちゃんと森下のあいだには何があるんだお」

母  「…信じる信じないはあんたの自由だけどね」

母  「あの人とはね、大学時代の同級生でもあったんだよ」

ニート「ファッ!?」

母  「結構仲がよくてね。まあ大学卒業後、一切連絡は取らなくなったけど、建築の職についたくらいは知ってた」

母  「運転手が手抜き工事で逃亡したとき、助けてくれたっていうのが、その森下さんだったのさ」

母  「別に恋愛ドラマみたいなことはなかったよ。本当に友人といった感じで。あたしが働いてる時に、あんたの面倒みてくれたりとかさ」

母  「それだけなら別によかったんだけど。森下さんね、あたし名義の通帳を作ってくれて、そこに毎月仕送りをしてくれてたんだよ」

母  「それはもう結構な金額でね。五年間で七千万も溜まっちまった」
ニート「あの通帳はそういうことだったのかお…」

母  「ん。もういらないって言っても、絶対毎月送ってくれた。あたしはいつか返さないとと思って、手は付けなかったけど」

ニート「なんで森下はそんなに金を持ってたんだお」

母  「××会社の設計士だったようで。会社が波にのってるからと…。あと、絵を描くのも好きで、副業としてこっそり絵も売っていたらしい」

ニート「こないだ机に置いてあった風景画は森下の?」

母  「なんだあんた、見てたのかい。そうだよ。あの絵は森下さんがあたしにくれたものだ」

母  「あんたが五歳になってまもない頃。電車に轢かれて死んでしまったけどね」

母  「あたしはあの人の連絡先を知らなかったんだよ。振込もいつもATMからの現金振込だったし、電話をしてくれても公衆電話からだったみたいだし」

母  「だから森下さんが死んだ時も、ニュースを見るまでは気づかなかった」

母  「恩人の死に気づかなかったなんて、薄情な奴だよね」

ニート「連絡先を知らなかったんだから、仕方ないお」

ニート「じゃあ母ちゃんは、子育てで大変な時期に、森下に助けてもらったんだということかお?」
母  「まあ、そうなるね。森下さんがいなかったら、あんたを育てながら働くなんて…難しかったと思うよ」

ニート(どういうことだお。森下は設計図をすり替えた人間じゃないのかお? なんでそんなあくどい人間が、人を助けたりするんだお)

ニート(やっぱり、森下じゃなくて××会社が全ての黒幕なのかお?)

母  「話はこれくらいでいいかい? パートに遅れちまう」

ニート「あ、ご、ごめんお。話を聞かせてくれてありがとうだお」
母  「あんたもちゃんと仕事行きなさいいよね」チリーン アリガトウゴザイマシター

ニート(森下は母ちゃんの恩人で、絵も描いていて、××会社の設計士)

ニート(おっちゃんの設計図を適当な物にすり替えた張本人…)

ニート(どっちの森下が本当の森下なんだお)

ニート(誰か生前の森下を知る人はいないのかお…)

ニート(そうだ!)

 家

ニート「多分ここら辺にあるはず…」ゴソゴソ

ニート「あった! 母ちゃんの友人の連絡先とか丁寧にファイリングされているクリアファイルー!」てってれー

ニート「母ちゃんは交友関係結構広いからおね…えーっと、あ、あったお」

ニート「住所まで細かく書かれてるおね。この人とは仲がいいのかお? じゃあこの人にするお」

 プルルルルルルルルルルルル

同級生『はい』

ニート「あっ! もしもし、えっと、母ちゃん…いや、大学時代の同級生の、山田の、む、息子でうけおっ!」

同級生『山田? 山田って、あー、山田ね。その息子くん…たかしくんだっけ? がどうしたの?」

ニート「は、はいぃ。あのその、森下雄一郎さんについて、知っていることはないかなと」

同級生『森下って、あの森下くん? 電車で亡くなった…」

ニート「そうだお」

同級生『彼とは直接的に仲が良かったわけじゃないよ。山田と仲良かったから、一緒にいるところとかはよく見かけたけど…卒業してからは特に』

ニート「大学時代の話でいいから、森下について教えて欲しいんだお」

同級生『…はあ。えっとね、本当に私は話したことはめったにないから詳しくは分からないけど』

同級生『森下くんはおとなしくて、友達もあんまりいなかった。山田と、その、旦那が一緒にいるのをいつも眺めてるってポンジョンだった』

同級生『私も一度声をかけたことあるけど、すごく困った顔をされて。まあ人付き合いが苦手な人なんだろうなって』

同級生『けど山田と話すときだけはね、すごく楽しそうなんだよね。幸せそうっていうかさ』

同級生『遠目にもわかったよ。森下くんが山田のこと、まあ、好きなんだろうなって』

同級生『仲間内では話題でね。男子なんて卒業までに森下くんが山田を奪うことができるかって、賭け事もしてたくらい』

同級生『結局卒業後山田は結婚しちゃったんだけどね』

同級生『私が知ってるのはこのくらいだよ。森下くんと仲が良かった人なんて山田くらいだったから、誰に聞いても詳しくはわからないと思う』

ニート「ありがとうだお。それだけでも十分ですお。あ、もういっこ聞きたいんだけどお」

同級生『なあに?』

ニート「森下が絵を描いているところを、見たことはあるかお』

同級生『絵? うん、まあ設計図とか、ビルとかの絵はよく描いてたよ。細かくて上手くて分かりやすくて、その線では教授からの評価も高かったみたい』

ニート「…そうかお。ありがとうだお。すごく参考になったお」

同級生『いえいえ。じゃあ山田にもよろしくね。たかしくん』

ニート「お」ピッ


ニート「…証拠はないけど、でも、筋は通ってるお…」

三日後 早朝 公園

母 『通帳とコレクションは持ってきたかい?』

運転手『だから、犯人は俺じゃないって、何度言えば分かるんだ』

母 『頼むから、返してくれ…大事なお金なんだよ…』

運転手『そんなこと、言われても…』

ニート「そこの修羅場ちょっと待つお!」

母 「たかし!?あんた何でここに」

ニート「こないだ母ちゃんが三日待ってやるって言っていたから、今日来るかなって思って待ち伏せしてたんだお」

ニート「母ちゃん、どうして森下が母ちゃんを助けてくれたのか…それは分かっているのかお?」

運転手「森下?」

ニート「母ちゃんの大学時代の同級生だお。おっちゃんが逃げてから、彼が母ちゃんを助けてくれたんだお」

ニート「どうして森下が母ちゃんを助けたのか。それはずっと、母ちゃんに片思いしてたからなんだお」

母 「え…?」

ニート「母ちゃんは気付いてないようだけど、こないだ同級生の子に電話してみたらすぐに分かったお。森下は、母ちゃんのことが好きだったんだお!」

ニート「だけど母ちゃんはおっちゃんと結婚して、そのおっちゃんは設計士としても大成功したんだお」

ニート「対して森下は、自分の恋は実らず勤める会社も弱小。おっちゃんに対して大きなコンプレックスを抱いていたに違いないお」
ニート「きっと最初は、出来心だったと思うお。おっちゃんが忙しい時を見計らって、こっそり設計図を似たようなものに…だけど構造は明らかな手抜きなものにすり替えたんだお」

ニート「結果、建物は崩壊。たくさんの人が死んだ。おっちゃんは犯罪者として指名手配」

ニート「そこで初めて、自分がしたことの重大さに気が付いたんだお」

ニート「警察も頭からおっちゃんの責任と決め付けて、まともに捜査しなかったから、自分のところに警察がくることもなかった」

ニート「後悔と懺悔の気持ちが入り混じって、自首も考えたと思うお。けど、できなかった」

ニート「そして、あることが頭の中に浮かんだんだお。もしかしたら、母ちゃん…ずっと好きだった山田と、一緒になれるかもしれないと」

ニート「それからは××会社で活躍したり絵を描いたりする傍ら、母ちゃんにお金を振り込んだり、僕の面倒を見たりと、彼なりの努力をしたお」

ニート「結局母ちゃんは、森下のことは友達としてしか見ることはできなかったみたいだけどお…」

母  「…………」

ニート「そして森下は、自殺なのか、殺されたのか、それとも本当に事故だったのかは分からないけど、電車に轢かれて死んだ」

ニート「僕はこう、考えたお。証拠はなにもないけれど、そう考えるのが一番、しっくりくる」

母  「馬鹿なこと言わないで! 森下さんはいつも優しくて、私のことを助けてくれて…すごく、すごく良い人だったんだよ…それを…」

運転手「いや、確かに筋は通っている。それだと、色々と説明はつく」

母  「あんたまで何を! 自分の罪がごまかせると思ってそうやって…」

運転手「だって俺は本当に、あんな設計はしていないんだ! 俺は設計士の仕事に誇りをもってたんだよ!」

運転手「いつか水族館や美術館などにだって挑戦したかった…それがあんな、あんなことでめちゃくちゃになって…」

ニート「母ちゃん。母ちゃんに優しかった森下も、本当の森下なんだお。だけどおっちゃんにコンプレックスを抱いていた森下だって、本当の森下なんだお」

ニート「よく人は、誰々の本性とか、裏の顔とか言ってくるけど、でも普段の顔も、そうじゃない顔も、全部本当の顔なんだお。人は、色んな表情を持ってるんだお」

ニート「母ちゃんには見せなかったけど、自分のしたことに怯えてる森下だって、絶対にいたはずだお」

ニート「だけど、後戻りできなかった…そうやって犯罪を重ねてきたんだお。自分の中の罪悪感と闘いながら」

母  「そんな…そんな……」

運転手「…………」

ニート「母ちゃん、あの、畳の下に隠してある絵…もらっても、いいかお?」

母  「な、なんでだい。あれは、あれは森下さんが残してくれた…」

ニート「母ちゃん」

母  「………ッ。わかった。わかったよ。もう、もういいよ…もう、全部…」

ニート「おっちゃん。母ちゃんを、よろしく頼むお」

運転手「……わかった」

 ○×会社

ニート「おはようございますだお」

斎藤 「はよーっす。はやいな山田。時給700円の山田」

ニート「うるさいお。僕なりに頑張ってはいるんですお」

斎藤 「努力で契約が取れたら苦労はしないな。まずそのだお口調を直せ」

ニート「すみませんお」

斎藤 「ナメとんのかお前」

ニート「別にナメてはいないですお。それで、あの、これを斉藤さんに」

斎藤 「あん? なんだこのでっかい包み。ワイロか? 悪いがそういう類は一切受け付けない主義で…」

ニート「いいから、受け取って欲しいんだお」

斎藤 「…なんだよこれ」

ニート「開けて欲しいお」

斎藤 「?」ガサガサッ

斎藤 「…これは」

ニート「返さなくちゃと、思ったんだお」

斎藤 「なんでお前が、これを」

ニート「話せば長くなるんだけどお…」


ニート「というわけで、森下が母ちゃんにくれた絵が、それなんだお」

斎藤 「…なるほど」

ニート「けどそれは、森下が描いた絵ではない…そうだおね」

斎藤 「…………」

ニート「一度罪を犯した森下は、その過度なストレスからか、結構精神を病んでいたと思うんだお」

ニート「そして、第二の罪を犯した。それが…」

斎藤 「監禁か」

ニート「お。正直な話、建設会社の設計だけで母ちゃんに毎月仕送りをするのは、結構きつかったんだお」

ニート「自分の生活もあるし、お金が入れば良い部屋にも住みたくなるし」

ニート「そこで思いついたのが、画家の卵である人間を監禁して、絵を描かせ、それを売ることだったんだお」

ニート「お金を稼ぐ方法なんていくらでもあるのに。精神を病んでたせいなのか元からそういう素質があったかは分からないけど」

ニート「そして森下は五年間、画家を監禁して絵を描かせ続けた」

ニート「絵はそこまで有名にはならなかったけど、マニアな人の間ではちょっとした話題にもなた。繊細で、綺麗で、独特な色合いを出す画家がいるって」

ニート「だけどある日、自殺なのか、森下が直接殺したのかは分からないけど、画家が死んだ」

ニート「森下は画家の死体をどう処理しようかと悩んだ結果…海に沈めるという手を思いついた」

ニート「重石が甘かったのかどうかして、遺体は漁師の網に引っかかってひきあげられた」

ニート「…ごめんなさいと、あやまるべきなのかお…」

斎藤 「…お前が謝ることじゃねぇよ。結局は森下が、全部ひとりでやったことだ」

ニート「けど、森下がそんなことをしたのは、母ちゃんを助けようとしたからで…」

斎藤 「お前には関係ないだろ。引け目に感じることなんか一切ない」

ニート「…ありがとうだお」

斎藤 「…そうか。残ってたのか。兄貴の描いた絵」

ニート「たぶん、探せば誰かが持っているかとも思うんだけどお、そうそう簡単には見つからないと思うし…」

斎藤 「いや、ありがとうな。大事にするよ」

ニート「…お。で、ちょっと聞きたいんだけどお」

斎藤 「なんだ?」

ニート「森下は…自殺だったと思いますか? それとも……他殺だったと、思いますか?」

斎藤 「…………さあ、な」

ニート「…………」

ニート(数日後、警察から大量窃盗犯の逮捕の知らせが入ったお)

ニート(僕のPCやコレクションは片っ端から売られてしまったみたいで戻ってこなかったお…)

ニート(母ちゃんの通帳は対応が早かったせいか一円も引き出された様子はなく、全部戻ってきたみたいだけど…母ちゃんは全額赤十字団体に寄付した)

斎藤 「おいこら山田ァ! 先月のお前の契約数いくらだと思ってんの? 一ヶ月でたったの六件だぞ? 馬鹿にしてんのかおい!」

ニート「すすすすみませんお! けど中々仕事に慣れなくて…」

斎藤 「お前が働き始めてからどれくらいたった? 半年だぞ半年! なのにまだ仕事に慣れないとかどの口が言ってんだ? ああ?」

ニート「ご、ごめんなさい…」

後輩 「山田さんまた怒られてるよ…」「仕方ないでしょ…あの契約数だし…」「話し方もなんかね…」

ニート「ちょっとそこ! 聞こえてるお!」

斎藤 「お前の胸に俺の声は聞こえてるのかなぁ!?」

ニート「ごごごごごめんなさい!」

後輩 「「プークスクス」」

バイト「山田くんがんばってねー」

ニート(----あれから半年が経ったお)

ニート(運転手のおっちゃんは変わらずタクシーの運転を続けているようで、時々街で出くわすことがあるお)

ニート(タクシー代を半額にしてくれてもいいのに、しっかりと代金を要求してくるから憎らしいんだお。でも、仕事に関して真面目な人なんだと分かるお)

ニート(母ちゃんはあの一件以来、東京を出て沖縄に行ってしまった。定期的にハガキが届くけど、現地で外人のお友達もたくさんできたようで、楽しくやっているっぽいお)

ニート(運転手のおっちゃんの話によれば、二人はちょくちょく連絡を取り合っているらしい。仲直りしたと考えてもいいのかお?)

ニート(斉藤さんは毎日怒鳴り散らしてくるし、バイトさんも彼氏と別れてすっきりしたと、サービス残業を進んでしてくれるんだお)

ニート(そして僕はといえば--契約数全然取れないけど…今のところまだ、ここで仕事を続けているお)

ニート(またいつ嫌になって辞めるか分からない。いつニートに戻るか分からない。けど)

ニート(いま自分にやれることを、一生懸命やろうと。そう思って毎日、頑張ってるお)


おわり

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom