女「男くんおかえりなさい^^」(376)
女「今日もアルバイトお疲れ様だよ。ご飯作ったから食べてね^^」
男「え……?」
女「学校終わってすぐに働くなんて大変だよね」
女「そうそう、今日の夜にサッカーの生中継あるんだよ。男くんサッカー見るの好きだよね。私知ってるよ!」
女「ご飯食べて少しくつろいだら一緒に見ながら応援しようね^^」
男「だ、誰だあんた……どうして僕の家にいるんだ……」
女「ご飯はレンジで1分チンして食べてね。夕食は男くんの好きな物だよ、嬉しいね」
男「し、質問に答えろ!玄関の鍵だってしっかり閉まってたんだぞ!?」
男「お前どこから入ってきたんだ!?」
女「^^」
男「ひっ……」
男「で…出ていけ!!お前なんか知らない!!」
女「大きな声出して騒いだら、またお隣さんから壁叩かれちゃうよ?」
女「ご飯の前にお風呂に入ってリラックスしてきてもいいかもしれないね^^」
男「うるせぇ!!警察呼ぶぞ!?」
< ドンドン
男「わっ、わ……」
女「ね?だから言ったでしょ?」
男「出て行ってくれ……頼むから……警察には言わないから……なぁ……」
女「警察?そんな人たち呼ぶ必要ないと思うんだけど」
男「大ありだろ……お前、泥棒か……? お金なんて僕全然持ってないから諦めてくれ」
女「知ってるよ^^」
男「じゃあ何なんだよテメェ!?」
女「私は私だよ。男くんのことが大好きな私だよ。男くんは私のことどう思っている?」
男「し、しらないよ……やめて……本当に怖い」
女「私、怖くないよ^^ 優しいよ^^」
男「さ……最近 よく背後から視線を感じていた」
男「学校でも、駅でも、バイト先でも、帰り道でも……お前」
男「まさかストーカーってやつじゃないだろうな……だったら迷惑だ、やめてくれ!」
女「迷惑にならないようにするから平気だよ」
男「勝手に決め付けるな!!こっちはただでさえ毎日忙しくて大変なんだよ!!」
男「それを、お前みたいなストーカー女のせいで更に滅茶苦茶にされるなんて御免だ!」
女「大丈夫よ。私が男くんを癒してあげるもん。今日から、ずっと、ずっと」
女「きっと毎日を幸せに変えてあげるわ。一緒にがんばろうね^^」
男「うわああああああああぁぁぁ!!!うわああああああああぁぁぁ!!!」
男「出ていけ出ていけ出ていけ!!僕に近寄るな、話しかけないでくれよぉ!!」
< ドンドンッ
男「うるせぇんだよ!!いつもいつも、ちょっとした音に反応しやがって!! 殺すぞ くそ野郎!!」
女「男くん、落ち着いて^^」
女「窓をあけて少し涼しい風を通そうよ。きっと頭がスッキリできると思うな」
男「落ち着け? お前のせいで僕は……」
男「もうわけ分かんないよ……お願いだから一人にさせてくれよ……」
女「しょうがないなぁ^^」
男「休ませてくれ……」
男「…………あれ?」
男「あ、あいつどこに行った? さっきまでそこに座ってたのに?」キョロキョロ
男「台所にも……トイレにも、風呂にもいない……あとは隠れられる場所は……え、えぇ?」
男「……な、なんだ。ちょっと疲れてたのかな、ちょっと危ないな僕」
男「…………だけど、何であいつが作った食事は残ってるんだろう?」
「シューカツガー」 「ヨネンナルト ガッコ ゼンゼンコナイナー」 「ナイテイガ」
男「さっさと昼ご飯食べて次の授業の教室に向かわなきゃ……」
男「久しぶりに丼ものが食べたいなぁ。天丼がいい」
男「……あ、でもこれ買ったら今月もう煙草買えない。我慢しよ」
友人「おー? よぉー、男じゃないさ。久しぶりだなぁ」
男「え? お、おぉ! こっちこそ久しぶり」
友人「今日ゼミがあってねー。お前は?」
男「の、残り単位のために授業受けに来た……」
友人「あーなるほど。出席重視されるもんね。レポート課題も毎回提出するんだろ? 大変だなぁー」
男「そ、そうかなぁ…あはは…」
友人「それでなー、あいつもう5社も内定もらってるらしくて、でもほとんどアミューズ系な(笑)」
男「…………」
友人「俺も明後日最終あるんだよ。でもここまで来たら全然緊張とかねーな」
友人「おまえは? 授業頑張ってるみたいだけど、就活どうなんだ」
男「えっ?」
男「あ……えっと、あのな……えーっと……!」
男「俺公務員目指してたんだよね! だから今、公務員試験の勉強も兼ねて授業頑張ってるんだ!」
男(ウソだ。毎日無気力に同じことを繰り返して、家に帰っても寝るかPC弄るか、ゲームしてばっかり)
友人「そうなの? スゲーなぁ、お前そんなの目指してたんだ。偉いと思うぜ!」
友人「俺も応援するから、お互い決まったら みんな呼んで久しぶりに飲み会開こう! 楽しみだな!」
男「あ、うん……じゃあ僕 これから授業だから……あはは」
友人「おう!頑張れよ!おつかれー!」
男(なんであんなに眩しいんだよ、あいつ……)
男(急いでバイトに向かわなきゃ)
『1番線に○○行き電車が来ます。危ないから下って~~~』
ムワァ…
男(うわ、やっぱり夕方だと電車の中混んでるなぁ……あれ)
女「…………」
男「!!」
男(き、昨日の夜のストーカー女だ……偶然にしても最悪な……)
男(気付かれないように隠れなきゃ!)
女「…………」
女「…………」ポチポチ
男(よかった。あの女、携帯の画面にくぎ付けでこっちには気づいてないな)
男(……あれ、制服着てるよな。うちの大学の近くにある女子高の?)
男(あいつ年下だったのか……妙に大人びて見えたから、てっきり僕と同じ歳ぐらいかと)
女「」チラ
男「うっ!?」
男(み、見られた……バレた……!?)
女「…………」ス
男(……あ、あれ? 無視された?)
『次は~○○~○○~。お降りの際はお荷物を~』
男「……はっ。お、降りなきゃ」
女「」ス
男(うわぁ……あの女もここで降りるのかよ……マジか)
男(き、気にするな。向こうだって今は僕を無視している。知らんぷりしてさっさとバイト先まで行こう)
女「」テクテク
男「」テクテク
男(あれ? もしかして、行く方向まで同じ……これ、もしかして着けられてるんじゃ)
女「」テクテク
男「はぁ、はぁ、はぁ……うそだろ……ずっと後ろ着いてきてるじゃないか……」
女「…………」
男「どうも、お疲れ様です……」
バイトちゃん「男さん! 今日早いですねー? ていうか額に汗かいてますよ?」
男「うん……ちょっと運動がてら走って来たからさ……すぐに準備して入るよ……」
ガチャリ
バイトちゃん「いらっしゃいませ~!お一人様でしょうか?」
?「あ、いえ。私、今日こちらのお店にアルバイトの面接に来た者で…」
バイトちゃん「ああ!店長さんからお話聞いていますよ!そちらにかけて少し待っててね」
?「はい……あっ」
男「うぁ…………」ピク
女「…………ども」
男「どうして……え……?」
ガチャリ、バタン!
男「…はぁ、はぁ、はぁ! 何で!? どうして!?」
男「どうして あの女が!? 悪い冗談じゃねぇのかぁー!?」
男「…………おおお、落ち着け。落ち着け僕」
店長「い、いきなり飛び込んできてどうしたの……?」トン
男「うわああああああああぁぁぁぁーーー!?」
店長「うわああああぁぁぁーーー!? ……な、何よ。ビビらせんなよ」
男「あ、店長……」
店長「お前顔色悪いけど平気かい? まだ時間じゃないし、少し休んどきなさいよ」
男「……いえ、大丈夫ですから。ちょっと運動した後で息が整わなくて」
店長「あそー? じゃあ話なんだけどさ、新しいアルバイト志望の子が来てくれるんだよ」
店長「ウチけっこうバイトの数足らない状態でしょう? よっぽどじゃない限り通すからサ、お前がその子の面倒見てくれないか」
男「えっ」
バイトちゃん「あ、男さんお疲れ様ですー。私そろそろ上がる時間なんで」
男「そっか……お疲れ様、バイトちゃん……」
バイトちゃん「むー? 男さんまだ気分悪そう。風邪引いちゃったりしてます?」
男「いや特には……ただ」
男「や、やっぱり何でもないよ!」
バイトちゃん「今日は一段と変ですね、男さーん。まぁいいけど」
バイトちゃん「あぁ!そういえば新しく入って来る女の子!見ました!?」
男「」ビクン
バイトちゃん「18歳のピチピチ女子高生ですよ~。あ、今のオヤジ臭い? へへへ…」
バイトちゃん「スタイル良いし、顔も可愛いし。私ああいう女の子好きなんですよねぇ~!」
男「そうなんだ」
バイトちゃん「きっと男さんも気に入りますって! もしかしたら彼女作るチャンスじゃなぁいー?」
男「ははは…………」
男「お疲れ様です。自分、先上がらせてもらいますんで」
店長「おお、お疲れさん……あ、そーだ」
店長「夕方話した通り新人教育お願いするよ。即効で決めちゃったから(笑)」
男「あ、ああ……はい……」
店長「面倒臭がるなよー。いい経験になるって。それに可愛い女の子だしさ」ポン
店長「ちょっぴり上がり症なところあったから、その辺気をつけて色々教えてあげてな」
男(上がり症って……じゃあ何でそんな奴が人の家に堂々と不法侵入してくるんだよ……?)
男(しかも飯まで勝手に作って……いきなり馴れ馴れしく話しかけてきて……!?)
店長「どうした? ぼーっとしちゃって。緊張してんの?」
男「お……お先にしつれいします。それじゃあ」
ガチャリ、バタン
男「今日も疲れたな、色んな意味で……」
男「どうしてあの女急に僕のバイト先まで来たんだよ!」
男「完全にストーカーだ……エスカレートしてくる前に警察へ行かないと」ガチャガチャ
ガチャリ、カチッ
女「男くんおかえりなさい^^」
男「…………えっ?」
女「昨日ご飯食べてくれた?頑張って作ったから自信あったんだよ」
女「そういえば、サッカーは? 見た? 面白かった? どっちが勝ったのかな?」
女「一緒に見れなくてちょっと残念だったかも^^」
男「ひっ」
男「わあああああああぁぁぁ!? うわあああああああぁぁぁ!?」
男「何で!? 何でまた来てるんだよおおおぉぉぉーーー!?」
女「声大きいよ。また怒られちゃうよ^^」
< ドンッ
女「ほらぁ」
男「うわあああぁぁぁ……何で……」
女「疲れてるでしょう? こっちに来て一緒にゴロゴロしようよ」
女「私が癒してあげるからね、男くん^^」
男「ふざけるなぁ!!」
男「どういうつもりだお前! 人のバイト先にまで乗り込んできやがって!?」
女「^^」
男「僕が怖がっている様が見れてそんなに嬉しいか!? えぇ!?」
女「そんなことないよ。私は男くんには元気に笑っていてほしいんだよ」
女「ね?^^」
男「うううっ……!」
女「今日は帰りにスーパーでお惣菜買ってきたんだよね。だからご飯は用意しなかったの」
女「美味しいビールも冷蔵庫でキンキンに冷えているね。きっと一日の疲れもふっ飛ぶよ」
男「み、見てるのか……全部僕の行動を見張っているのか……?」
女「えー^^」
男「冗談じゃない……今日こそは警察呼ぶからな!!」ピッ
男「怖いんだよ、お前! もう僕に関わるんじゃない!」
女「怖くないって言ってるじゃない。私は男くんを脅えさせるつもりないのに」
男「何でなに喋っていても笑顔が崩れないんだよ!? お前、本当に人間か!?」
女「笑顔、かわいいでしょ^^」
男「ひぃ……も、もしもし! 警察ですか!? 頭がおかしい女が部屋にっ」
女「ひどーい^^」
コンコン
男「は、ハハハ……聞こえたか? マジで警察呼んだんだからな!?」
女「そっか」
男「おまわりさん! 今開けます! まだ部屋に例の女が……」ガチャリ
警察官「こんばんは。通報くれたのは君だよね? 見知らぬ女性が一人部屋に入ってきたって?」
男「入ってきたというか……僕が帰って来る前にはもう居たんですよ! ほら、見て!」
警察官「どれどれ、お邪魔します。もしもーし警察の者ですがー…………」
男「いるでしょ!? 女!? そいつですよ! そいつが―――」
警察官「ん? いや……中に人なんて見当たらないんだけれど」
男「…………は?」
男「…………」
警察官「どこかに隠れたのかと思ってたけど、見つからないなぁ」
警察官「窓から逃げるにしても……結構高さあるし、女性はちょっとなー」
男「いたんですよ……僕、見ましたよ……あいつストーカーなんです……」
男「昨日だって勝手に人の家でご飯作るし、今日なんか僕が買い物して帰ってきたのも知っていたし」
男「し、しかも! バイト先に乗り込んできたし! 僕がそいつに新人研修教える羽目になるし!」
警察官「落ち着きなさい」
警察官「うーん、とりあえずここ周辺の見回りは強化するけれど……もしかしたら君が疲れていただけなのかもしれないし」
男「ありえませんよ……なら、どうしてご飯が置かれていたんだよ……」
警察官「また何かあれば呼んでください。一応すぐにこちらへ駆けつけますので。それでは」ガチャン
男「……何でだよ」
「えー、この数値はグラフで細かく説明しましょうね。二つの曲線が~」
男「…………ふぁぁ」
男(眠い。あれから一睡もできなかった。当然だ、あんなことが起きた後だったんだから)
男(確かにあの女は部屋の中にいたんだ。僕は幻なんか見ていない)
男(じゃあ……どうして突然消えたりしたんだ……)
Prrr!
男「!?」
「そこ。携帯の電源は切れっていつも言ってるだろうが」
男「や、やばっ…………あ、親父から?」
ス、タタタタタ…
男「……もしもし 親父?」
父『ああ、たかし。今電話大丈夫かな」
男「う、うん……」
父『勉強は毎日頑張っているか? 就職活動はどうだ?』
男「まぁまぁ、かな……何の用だよ」
父『大事な話があるんだ。お、俺たち夫婦の』
男「やっぱり離婚するんだろ……今さらになって!」
男「何となくは分かってたよ。親父からの電話なんていつも良くない話しかないんだから」
父『たかし……だ、大体母さんが…あの女が悪いんじゃないか……俺はずっと裏切られていたんだぞ…』
父『俺は真面目に汗水流してお前ら家族を養ってきたじゃないか……悪いのはあの女だろ……たかしもそう思うだろう?』
男「知らないよ……もう放っておいてくれよ……聞きたくない」
父『っー……そのうちこっちに帰って来れるか? やっぱり顔を見てきちんと話しておきたい』
男「わかった……じゃあ、今学校だから」
父『仕送りは足りているか?あまり送れなくていつも申しわk――――――ブチッ』
男「……はぁ、ちくしょう」
女「今日からお世話になる女と言います。色々と不慣れで皆さんに迷惑かけてしまうとは思いますけれど……」
女「よ、よろしく…お願いします……」
店長「はい、みんなもよろしくー」
男「…………」
バイトちゃん「…男さん?男さんってば?」
男「えっ!? な、何!?」
バイトちゃん「いやなんだか恐い顔してたから気になって。やっぱり具合悪いんじゃありません?」
男「そんなことはないよ……」
店長「じゃあさっそく女ちゃんには今日から色々仕事を覚えて貰うってわけで。頼むよ、男くん」ポン
男「は、はい」
女「…………」
店長「ほら、お世話になる人なんだから君もあらためて挨拶を」
女「お、お……お願いします…………」
男(この女ぁ……!)
男「いい?基本的に暇を作っちゃいけないから自分で気づいたことには積極的に取り組んでいってください」
男「サーバーの中身が空になったら下の棚から……」
男(真面目に説明聞いてメモも取ってる。こいつ、本当にあの女なのか)
男(いや、精神疾患とかで頭おかしい奴に違いない。それか今はこうして人の目があるから)
女「あのぉ……」
女「わたし、変なことしましたか……? 怒ってたりしてますか……」
男「は……は? お前、自分で無自覚にやってたのか? それとも僕をからかってるのか?」
女「え? えっ?」
がしっ
女「わぁ!?」
男「お前昨日どこへ隠れていやがった!? 何なんだお前!? なぁ!?」
女「や、やめて……痛いです、いやっ……!」
男「しらばっくれるのも」
店員「お、おい。男くん何してんの!? ちょっと!?」
男「離してくれ!! こいつが……」 女「ごめんなさいっ!!」
女「ごめんなさい……私がたぶん気に触るようなことしちゃったから」
男「お前!!」
店員「もう止せって! 怒るにしてもやり方があるだろ、まだ新人の子なんだぞ」
男「……すみません。大人気なかったです」
女「わ、わたしの方こそごめんなさい……すみませんでした……」
店員「きみが一体何をして男くん怒らせたんだよ?」
女「え?いえ、あの…突然男さんが話していたのが止まって、恐い顔していたから、何かわたし変なことしてしまったのかなと」
男「えっ」
店員「……おいおい、教えるにしても仕事中なんだしぼーっとするなよな」
男「す、すみません。先輩……」
男「……」スパー
女「男さんって、煙草吸う人だったんですね」
男「……何?」
女「ご、ごめんなさい……そんな風に見えなかったから……失礼ですよね、いきなり」
男「チッ……」
男(本当にどうしたんだこの女。俺の家にいたときは常に笑顔を浮かべているようなキチガイだったのに)
男(ここじゃ逆にいつも申し訳なさそうにして謝ってばかりの陰気な女じゃねーか)
女「…………」ジー
男「……今度は何ですか?」
女「あの、前にあなたとわたしって会ったことありますよね?」
男(……本格的に意味がわからない! 何言ってんだこいつ!)
男「そりゃあったことあるでしょ……っ」
女「ああ、やっぱり。あはっ」
女「わたしの顔、もしかして覚えていました?」
男(あ、頭が痛くなってきたぞ……マジで馬鹿にしてるだろう、こいつ!)
女「時々 電車の中でも一緒になったりしてました。いつも「あれ?見た事あるかなー」ってわたし思ってて」
女「そんなに話した記憶もなかったし、こっちから話しかけるのも変かなって……ふふ」
男「……ごめん。ちょっと気分悪くなったからトイレ行ってくる」
女「だ、大丈夫ですか?」
男「平気だから……休憩済んだら先に出てて。すぐ行きます」
女「はい……お大事に」
男「見たことあるとか、覚えてるとかじゃねーよ!! はぁ!?」ガンッ
男「あいつふざけてんのか!? それとも僕がおかしくなってるのか!?」
男「あ゛ぁああああああああぁぁぁーーーっ!!」ガンガンッ
男「そりゃ覚えたさ! 部屋に忍び込んでくるような変人の顔を簡単に忘れるわけねぇだろ!」
男「くそっ、くそっ……! これ以上一緒にいるとこっちがおかしくなる」
男「……ここを辞めて別のバイトを探そう。今度はあいつに見つからない所を」
女「男さん……?」
男「はっ!?」
女「あ、ご、ごめんなさい……店長さんからトイレ掃除ついでに教えてもらってって……」
男「…………はぁ」
男「…………」
店長「おー? 今日はまた随分と疲れてる感じだな。大丈夫かい?」
男「店長……僕、そろそろここを辞めさせて欲しいんですが……」
店長「えっ、マジで言ったのか!? す、すまない。今だけは離れないで!」
店長「せめて新人研修済み終えてからで! な? 頼むよっ」
男「……わかりました」
女「お疲れ様です…」
男「ひっ!?」
店長「あー、女ちゃん。今日は大変だったろう。ご苦労様」
女「いえいえ…!」ペコペコ
店長「それじゃあ今日はもう上がっていいから。また次も頑張って」
女「はい! がんばります!」
女「……あのぅ、男さんも上がりですよね。良かったら一緒に帰りませんか? 乗る電車一緒ですし」
男(おいおいおい……まさか今日はそのまま家に着いて来るつもりなのか!? 冗談じゃない!!)
男「い、いや! 僕はちょっと…これから友達の家に行かなきゃいけないから……!」
女「あ……そうですか。話の続きができたらいいなと思ってたんですけど、仕方がありませんよね」
女「それでは、また次も仕事のこと色々教えてくださいね。今日はありがとうございました…」
男「うぅ…………」
店長「初日していきなり懐かれたかぁー? このこのぉ」
男「やめてください……本当に……」
男(今日のあの女、まるで僕の部屋で見るような様子は全く見せなかったな)
男(全然普通の女の子だった。いや、僕のことからかっている言葉も時々あったけれど)
男(一体何考えてんだよ……さっぱり分からねぇよ……)
運ちゃん「お客さん? 着きましたよ?」
男「えっ……あ、ああ。どうも。はい、お金」
運ちゃん「どーも」
ガチャリ、バタン
男「くそっ、あいつのせいで終電あるのにタクシー使っちまった……!」
男「明日の授業は早いし、すぐにシャワー浴びて寝よう」ガチャガチャ
…ぴたっ
男「…………いや、まさかな。さすがに今日は」ガチャリ
男「は、はははは……イヒヒヒ……」
女「おかえり 男くん^^」
男「あっははははははは!! …本当にどうなってんだよっ!?」ガンッ
< ドンッドンッ
女「今日もお隣さんに怒られちゃったね」
男(け、警察は何やってるんだ? 見回りの強化するだなんて僕を安心させるための嘘だったのか?)
男「嫌な予感はしてたさ!どうせ今日もなんだって!やっぱりバイト先でのお前は演技していただけだったんだな……?」
女「んー^^」
男「……警告するぞ。これ以上僕に付きまとったらぶっ殺すからな。本気だぞ」
女「男くんこわーい。ダメだよ、女の子にそんな乱暴な言葉使ったら」
女「嫌われちゃうよ^^」
男「嫌われるならそれで結構だよッ!! 特にお前からはなっ」
女「私は男くんを嫌いになんてならないよ。安心していいわ」
女「今日も本当にご苦労さま。でも、いつも無理していたら大事な体を壊しちゃうからね」
女「ほどほどにしようね^^」
男「うるせぇ!!」
< 「そっちがうるせぇボケェーッ!!」ドンドンッ
男「…………」
女「やーい また怒られたぁ^^」
男「マジで殺すぞ、くそアマ……」
女「そんなにかっかしないで。ただでさえ疲れているんだからさ」
女「今日は夜ご飯は抜きなんだよね。明日早いからもう寝るつもりでしょ。知ってるよ」
男「……どうして知ってるんだ? お前は僕の頭の中を覗けるのかよ?」
女「きみのことなら私は何でも知ってるんだよ。えへへぇー^^」
男「へ、へへ……ダメだ、もう付き合いきれねぇー……」
女「お風呂に入るんだね。でもシャンプー切らしていたの忘れたの? 買い忘れてるみたいだけど?」
男「っー……」ぞく…
男(物色までされていたのか……頼むから本当に警察仕事してくれよ……)
ガチャ
女「さっぱりした? 男くん」
男「お前まだいたのかよ。今日は突然消えたりしないんだな」
女「うん、そうだよ^^」
女「あれ、まだ寝ないんだね。眠くないの? 気にしないで布団に入ってくれてもいいんだよ」
男(できるかそんなこと……)カチッ、カチッ
女「PCでこんな時間にリクルート巡りしちゃうんだ。偉いね」
男(無視だ。とにかく無視。どうせいつもみたいにそのうち消えているはずだから)
男「ん……」カチッ、シュボ…スー
女「煙草は体にもお財布にも優しくないよ^^」
男「」イライラ
女「クリエイター募集だって。男くんは昔から想像力豊かだから合うかもしれないね」
男「黙ってろ……!」
男(どうしてまだいなくならないんだ? 言わなきゃ分からないのかよ、こいつ!?)
男「…………」カチッ
『……アン。アンアン、アァーン……!』
男「……」チラリ
女「男くんも可愛い女の子といつかエッチなことしたいんだよね。知ってるよ」
男「あああああぁぁぁーーーっ!!」ガンガンッ
男「お前いい加減にしろよ!? 僕はこれからオナニーするから部屋から出て行け!!」
女「オナニーしちゃうの?」
女「私が見ていてあげる。そういうのきみ好きよね^^」
男「あっ……ああ……このっ……!」
男「調子に乗ってるんじゃねぇ!!!」
< ドンッッ、ドンドンドンドンッ
男「はぁ、はぁ……はぁ…………え?」
男「…………いない?」
男「――――――ん……あれ、いつのまに布団に入って」
男「あっ!! やばい、授業…………もう間に合わないや」
男(あいつ、また突然消えた。足音もなくだぞ。じ、実は幽霊なのか……?)
男(でもバイト先にあいつは確かに存在する。生きた人間だ。でも)
男「」ぐぅー
男「……お腹減ったな。昨日の夜なにも食ってなかったからかな。朝ごはん作ろ―――」
男「何だ……これ…………サンドイッチ? 傍のメモに何か書いてある」
『男くん おはよう。たぶんお腹減るだろうと思って用意しておいたよ^^』
『追伸:今度は捨てないでちゃんと食べてね』
男「うわぁぁぁ……うわぁぁぁ……」
男「……捨てよう。あいつ、まだ帰ってなかったんだ」
コンビニ店員「いらっしゃいませー」
男「おにぎり二つとお茶ぐらいかな。朝昼兼食だ」
とんとん
男「え?」
女「こんにちは、男さん」
男「うわぁ!?」 女「えぇ!?」
コンビニ店員「……お客さまぁー? どうかされました?」
男「い、いえ! 別に……」
女「すみません。いきなりで。驚かせちゃいましたよね」
女「それにしてもよく色んな所で会いますね、わたしたち。…あ、わたし今から部活動があるんです」
男「……部活? こんな時間に―――あ、土曜か」
女「男さんは?」
男「僕は…………関係ないだろ」
女「え? あ、はい……すみません……」
女「もしかして、それお昼ご飯? 男さんは米派だったんですねぇ」
女「わたしはパンばっかりです。だからすぐ太っちゃうのかもしれない。ふふっ」
男「パン……サンドイッチ……」
女「ん? あ、サンドイッチも大好きです。甘いタマゴを挟んだやつとかー…」
男(何嬉しそうに語ってんだ、こいつ……お前が僕に何をしたか理解してんのか……)
女「もしかしてこれから大学へ? だったら一緒に行きませんか? 確か近くでしたよね うちの高校と男さんの大学って」
男(またかよ! 毎回毎回これじゃ困るぞ。タクシー代だって馬鹿にならないし、大学まで歩いて行ける距離じゃないし!)
男「……わかった。そうしよう」
女「本当? やったぁ」ニコニコ
女「なんだか全部が本当に唐突ですよね。この前まではお互い顔を知ってるぐらいの関係だったのに!」
男(この前まではお前が一方的に僕を知っていたんだろうが!!)
女「あの、男さん? ……も、もしかしてまたわたし怒らせちゃいました?」
男「別に……お前は無神経だからな……」
女「えっ……」
女「あ、あっ、えっと! そういえばいつからあのお店で働いてるんですか? あそこってやっぱりいつも忙しいかったり?」
男「オイ、誤魔化そうとするなよ……?」
男「お前……! 今朝のアレは何のつもりだ。やっぱり僕を怖がらせて楽しんでいるんじゃないのか? あ?」
女「そ、そんなつもりは別に……! ただ男さんがいたから、お話したいなって」
男「違う!! 朝飯だ!! 何だよ あのサンドイッチ!!」
女「え? えぇ…?」
女「ごめんなさい……ちょっと何を言われているのかわからない……」
男「とぼけやがって」
男「嫌がらせはもう止めろ。ストーカーまがいなこともしないでくれ」
男「このままじゃ、僕壊れそうだ……」
女「お、男さん? どうしたの?」
男「お前のせいで頭がおかしくなりそうなんだよ! どうもこうも全部お前のせいだ!」
女「ひっ」
『次は~○○~○○~。お降りの際はお荷物を~』
男「……くそったれ」ス
女「う、ううっ……ぐす……ぁう…」ポロポロ
男(何度も同じことをあいつに言ったけれど、泣かれるなんて反応は初めてだった)
男(あんな風にされると さすがのストーカー女に対しても心が痛んだかもしれない)
男(だからって今までを許す気は全く起きないけれど。あの調子ならそろそろ諦めてくれるだろう)
「デサー」 「ソレホントイッテタノ?」 「ムリダロ」
男(あれ、この声)
友人「本当に言ったの。あのバカ、たぶん見栄張ってんだぜ」
「あいつプライドだけは無駄に高い奴だったしな。その分何もできない口ばっかりだしさー」
「ぶっちゃけ4年でいま毎日一生懸命単位のために来てるのってあいつだけじゃないのぉ~」
友人「かもなぁー。ていうかあれ絶対ニートとかになるぜ。俺なんとなく分かるわ」
「あー、男ならなりそうだよなぁー」
男「…………」
「ていうか毎日来てるならそろそろアイツの話やめね? 聞かれるかもしれないじゃん」
友人「ありえるかも! なら、さっさとボウリング行こうぜ」
「おー」 「うぇーい」 「バイト面倒くせーなぁ」
男(へへ、へへへ……好きに言われちゃってたな……)
J( 'ー`)し『たかし、パパから話聞いたかしら。私たちもう付き合いきれなくなったのよ』
男「聞いたよ。離婚だろ? 勝手に進めてればいいじゃないか。もうこっちには関係ないだろ」
J( 'ー`)し『あなたは私がお腹を痛めて産んだ子よ。関係ないなんてないわ!』
J( 'ー`)し『聞いてよ? あの人ってば勝手なのよ……いいじゃない……私も寂しかったんだから』
男「あー、そうだね。さみしかったね」
父『うぃ~~~……聞けよ、たかし。お前父さんがどれだけ頑張っていたか知ってるだろ?』
父『家族と離れたくないのに単身赴任して一人努力していたんだよ……だけど母さんは」
父『うぇええぇぇ……ちくしょー……どうしてだぁ……』
男「親父が頑張ってたのも知ってるし、僕は感謝しているよ」
ブチッ
男「……もうめちゃくちゃだ」
男(頑張ってるのに勉強はもう頭に入らないし、授業には着いていけない)
男(将来のことだって不安でしょうがない。このままじゃ本当に僕は腐って終わっちまいそうだよ)
男「……今日はバイトいきたくない」
「それじゃあ今日はゆっくりお休みしようよ」
男「え?」
女「男くん おつかれさま^^」
男「!!」
男(ど、どうして……まだ着きまとうのか!? あんなに泣いてたのに!?)
女「どうしたの^^」
男(外では普通の女の子を装っていたのに、今日はなんで……)
男「もうストーカーやめろって言っただろぉぉぉ……!?」ガク
女「男くんのピンチだから来ちゃった」
女「とりあえず一緒にアパートまで帰ろうね。とはいっても もう目の前にあるけどね」
女「バイトはお休み。ね?^^」
男「あ、ああぁ……………」
男「…………」
女「ご飯作るの私も手伝うよ。男くん」
男「いいよ、邪魔しないでくれ。一人でやりたいんだ」
男「お前あっち行ってろ。傍にいられると鬱陶しいんだよ……!」
女「わかったー^^」
男「……僕はバカじゃないのか。どうして自分からあいつを招き入れちゃったんだ」
男「くそー……」コトン
女「あれ、ご飯の数多いね。やっぱり男くんは料理下手だなぁー」
男「やるよ……食ってるときに話しかけられるの嫌いなんだ。そっちがお前の分」
女「男くんすごい。やさしい^^」
男「チッ……」
女「^^」
男(話しかけてはこないけど、ずっと僕が食べてるところニコニコして見てやがる)
男「……すぐ食べたいと冷めるぞ」
女「わかってる^^」
男「猫舌……?」
女「ううん^^」
男(何だコイツ!)
男「……ごちそうさま。早く食べろよ。食器洗いたいから―――」
男「あれ、いない? え?」
男「おい! どこ隠れたんだよ! 気味悪いからさっさと出て来い!」
店長『そうか。最近男くんずっと体調悪そうにしてたからなぁ。仕方ないか』
男「ええ、すみません」
店長『気にするなよ。そういえば、今日は女ちゃんも休むんだわ。開いた穴埋めるの大変だぞー……」
男「え? あいつも休み? どうして」
店長『んー? 何か具合悪いんだって。あの子頑張りやだし、結構無理していたのかもね』
店長『それじゃあ今日はゆっくり休みな。お大事に―――ブチッ」
男「あいつ……まさか僕と合わせてバイト休んだわけじゃないよな……」
男「わけ分かんない奴。朝は泣いてて、また次に会ったらいつもの調子でずっと笑顔でさ」
男「本当にバイトのあの子とストーカーの子は同じ人間なのか……?」
男「……た、煙草買ってこよ」
「ありがとうございましたー」
男「……ふーっ」カチッ、シュボ
男(ずっと考えてるけどさっぱりだ。もしかしたらあの子たち双子ってオチはないだろうか)
男(ていうか、こんな僕のどこに惹かれてストーカーなんてしてるんだろ。自慢じゃないけど好かれる要素一つもないぞ)
男(次に会ったら直接聞いてやろうか……)
女「あっ」
男「え? ……あぁ」
男「どうも」 女「」バッ
男「えっ、ちょっと!? 何で逃げるんだよ!?」
男「おいってば! 待ってよ!」ガシッ
女「っ! ううっ!!」ブンブン
男「お、おい! これじゃあ僕が不審者みたいじゃねぇかっ」
女「はぁはぁ、はぁ…………ご、ごめんなさい」
男(あれ、今度はバイトモード……今日はころころ変わるな……?)
男「いや こっちも急に悪かったよ。でも、さっきはどうして急にいなくなったんだ?」
女「さっき……? えっ、あの時わたしそんな風に男さんと別れていたんですか?」
男「……ん?」
男「なぁ、もしかしてきみって妹かお姉さんいない? 双子のとか」
女「えっと、わたしは一人っ子ですけれど。それが何か」
男(双子の線は消えた。それならストーカーとこの子は同一人物ってことか)
女「そっか、男さんも今日はバイト休んだんだ……」
男「そっちも今日は休んだ方がいいって言ってくれたじゃないか」
女「は?」
男「えっ……覚えてないの? ついさっきの話なんだぞ」
女「ついさっきって……わたし、学校で部活の練習でしたけど」
男「あ、ああ……どうなってんだ……それ嘘じゃないよね?」
女「こんなこと嘘ついたって意味ないと思うけれど…」
男「じゃあさっきまで僕が話していたのは誰なんだよ!? きみだろ!?」
女「し、しらないっ 本当に!」ブンブン
男「…………どうなってるんだ一体」
男「じゃ、じゃあどうして今日バイトを休んだんだ!?」
女「それは……何ていうか……卑怯ですけど、気分が乗らない、というか」
女「きっと今日行っても下手なことして男さんや他のバイトの人たちに迷惑かけると思って」
女「……い、以上、言い訳でした」
男「そう…………本当に僕と会ってないんだな?」
女「会ったのは午前中だけ。何度も言いますけど嘘は一つもついてませんからねっ」
男(ますますわけが分からなくなってきた! それなら僕はさっきまで誰と会話していたんだ!)
男(ご飯を作ってやった奴は!? 僕の目の前でずっとニコニコ笑っていたあいつは!?)
女「男さん? 今日はちょっと様子が変ですけど……本当に大丈夫?」
男「わからねぇよ!!」
男「……ごめん。頭痛くなってきたわ。帰っていいかな」
女「ど、どうぞ……お大事に……?」
男「…………」フラフラ
男「……やっぱり待ってたんだ」
女「あ、男くん おかえりー^^」
男(見た目はあの子とまったく同じ。性格…というか口調や態度は全然だ)
男「お前に一つ聞きたいことがあるんだ。答えて欲しい」
女「いいよ」
男「お前は誰だ……」
男「さっきお前と同じ見た目の女の子と外で話してきた。僕とは食事は取っていなかったそうだが」
男「まぁ、お前も一口も僕が作った料理を口に運ぼうとしていなかったけど…」
男「僕はあの子が嘘をついているとは思えなくなってきた。話していても、どうも辻褄が合わないし」
男「お前……本当に誰だ……」
女「私は男くんが大好きな私だよ。男くん好きだよ^^」
男「答えになってねぇ!!」
男(惚けてるのか、それとも分かっていて……やっぱりあの子はどこか頭がおかしいとかじゃ)
男「ううぅぅぅー……くそっ!!」ゴンッ
< ドンドンドンッ
女「ほーら、また怒られてる^^」
男「っー……いつもいつも壁殴ってんじゃねーよ! こっちだってそっちの爆音で流してる音楽に耐えてんだ!」ドンッ
男「夜に洗濯機は回すわ、ゲームやって一人で発狂するわ……あんたの生活音全部こっちに筒抜けだぞ!?」ドンッ
男「FPSでキルされまくって一々発狂してんだろ!? 下手糞がッ」ドンッ
ドンドンドンドンドン!!
男「ひっ」
「ここ開けろゴラァーッ!!ぶっ殺すぞ!!」ドンドン!
男「……ま、まだあるからな。下手糞なギター鳴らしたりよ!」
男「深夜にやるならアンプ繋いでんじゃねぇ!! ヘッドホンつけろ、ヘッドホン!!」
「ゴラアアアアアアァーーーッ!!」ドン、バンッ、ガンガン
男「散々見逃してきたけど、もう限界だ! 不動産通して大家に文句つけてくるからな!」
「チッ…………」ガチャリ、バタン!
男「…………ははは、あははは。言ってやった。ざまぁみろ」
女「今度は男くんが逆に怒った^^」
男「なぁ、今の聞いてたか!? あいつ結局黙って帰って行ったぞ!? 気分良いなっ!」
女「男くん頑張ったね。よくいままで我慢してきたね」
女「かっこいいよ^^」
男「ははは……はは…………なぁ」
男「何で僕のことをそんなに知ってるんだよ?」
男「ストーカーだからって言っても、限界があるだろ」
男「お前の話聞いてると僕の全部がわかっているみたいだ」
女「そうよ^^」
女「大好きな男くんのことは何でも知ってるわ。だって好きだもん」
女「きみは私のことが好き? 嫌い?」
男「好きなわけねーだろ。お前のせいで僕のプライベート空間は台無しになってるんだから」
男(何となく、こいつのことが僕にも分かってきた気がした)
女「そっか^^」
女「じゃあ、好きになってもらえるように私頑張るね。男くん」
男「…………」
男(あれから数日経ち、僕は度々僕の部屋に現れるストーカー女との生活に、なんだか慣れてきた気がした)
男(相変わらず奇妙な笑顔を絶やさずに、時には僕を誉め、時には小馬鹿にしてきたりという感じが続いている)
男(慣れとはいったが、やっぱり得体の知れない人間が相手だ。完全に部屋の中にいても心は休まらなかった)
男(あれから一度も彼女とは部屋の外で会うことはなかった。かならず僕の部屋で帰りを待っている状態だ)
男(その法則というか何というか…決まりだけは絶対。だから気を休めたいときは漫喫にでも行くような生活を送っている)
バイトちゃん「男さーん? ……おーい、返事」
男「は、えっ?」
バイトちゃん「いま一瞬立ったまま寝てませんでしたかぁー? 眠いの?」
男「いや、平気だよ……夜遅くまで勉強してたから……」
バイトちゃん「最近というか、もうずっとじゃないかな。最後に男さんと体調良かったときに会ったのっていつだっけ~」
バイトちゃん「目の下にクマも作ってるし。なんか死んじゃいそうで怖いんですけど!」
男「またそんな冗談を……!」
女「男さん、ちょっといいですか?」
男「ん? ああ、いいけど……」
男「えっ……?」
女「やっぱりわたしと一緒に映画見るのは退屈ですかね…」
男「いや、そうじゃないよ。どうして僕を誘うのか不思議で」
男「学校の友達とか彼氏とでも行けばいいじゃん……」
女「彼氏なんていません! とんでもない!」ブンブン
男「でも昔いたって話してただろ」
女「そりゃ、昔の話ですよ……今は、いないの!」
男「そ、そうなんだ……」
女「は、はい……そうです……」
男(あいつと同じ顔なのに、どうもこの子とだと緊張してしまう)
男(ていうか、僕もよくほぼ毎日この顔見てて飽きないもんだな……)
女「友達はこういうジャンル興味ない子たちばっかりなんです」ムス
女「でも、せっかくチケット貰ったんだから行きたくて…だけど一人で映画館はちょっと寂しくて」
男「映画ぐらいどうってことないと思うんだけど?」
女「いや、前に一人で遊びに行ったとき怖い人たちに絡まれたことあって……あはは」
女「お願いですっ! もう男さんしか一緒に行ってくれる人、知らないんですっ」
男「りょ、両親と行けばいいのに……僕だって忙しいし……」
女「……そうですか。わかりました」
男「…………あっ、ああ! やっぱり行く! この日なら丁度暇かもしれない!!」
女「本当に!? やったぁー!」ニコニコ
男「へ、へへへ……えへへへ……」
男(下心あるわけじゃないんだ。ただ、何だかこの子を放っておきたくなくて…)
女「男くんおかえりなさい。今日もおつかれさま^^」
男「……」ニヤニヤ
女「男くんどうしたの。顔が怪しくにやけてるよ^^」
男「お前にだけは言われたくねぇよぉ~ へへへ」
女「何か嬉しいことでもあったのかな。こんな嬉しそうな男くんは久しぶりに見たわよ」
男「そう? まぁ、そうかもしれない……!」
男「実は―――――――あっ」
女「んーどうした^^」
男(こいつ、よく分からないけど僕のことが好きなんだよな)
男(同じ顔の女の子だけれど「今週末女の子とデート行く」なんて教えるのは酷いよね)
男「と、友達と遊ぶ約束したんだ! 楽しみでしょうがなーや!」
女「……そう^^」
男(…………ん?)
女「いっぱい楽しめるといいね、男くん」
男「う、うん……そうだな……」
ちょっとお風呂に入ってくるね^^
はよ^^
30分経ってんぞオラ^^
男(美容院にも行って髪は切った。服も新しいのを新調した。あとは……えっと……)
女「男さーん」
男「ひっ!」
女「ごめんなさい、待ちましたか?」
男「い、いや! 別に今来たところだし……問題ないし……」
女「わぁ、男さん髪切ったんですね。服も似合ってて良い感じですよー」
男(この子だって髪切ってるじゃないか……これ、誉めるとこなのか)
男「きみも!!」
女「さぁ、早く映画館入りましょうよ~ 私、昨日から待ちきれなくてドキドキしてましたよぉ」
男「あ、うん……そうですね……」
男(何緊張してるんだ、僕は。いつも見てる顔だし、話だって気軽にする仲だったじゃないか!)
男(……いや、それはあっちの方なのか。この子とのプライベートな付き合いは初めてなんだ)
男(今日まで二人を別の人間と考えて過ごしてきたじゃないか。彼女は僕の部屋のストーカー女じゃない……)
男(あいつ、僕が内緒でこんなことしてるの知ったら怒るのかな……)
女「男さんポップコーン食べますか? わたしお金出すから良かったら」
男「…………」
女「あの、男さん? 聞いてる?」
男「……え? どうした」
女「だからポップコーン……もう、上の空でしたよ今」
男「ご、ごめんなさい。ちょっと考え事してて……食べるよ、僕が出すから」
女「そんな! わたしが無理言って来てもらったんだし、わたしが出します」
男「いや……じゃ、じゃあ割り勘にしよう……それなら問題ないだろ」
女「あー……そ、そうですね。割り勘。うん、良いと思う……」
男(あいつとこんな展開になったらどうなるのかな。いつもみたいにニコニコ黙って 僕が物食べてるところを眺めてくるんだろうか)
店員「お客様? ご注文は?」
男「あっ、えっと―――」
男(映画か しばらく振りだな、見るの。こうして誰かと一緒に出かけたのもだ)
男(いつも家にいてばっかりだもんな。たまにはいいかもしれない……)
女「おぉ……! おー……」
男(よっぽど映画楽しみにしていたんだな、この子。表情がコロコロ変わって可愛らしい)
男(比べてあいつはいつも笑ってばっかりだよなぁ……こんな風に泣いたり、はしゃいだり、怒ったりしたらいいのに)
―『……そう^^』―
男(……あの時、あの時だけはあいつの顔が少し暗くなったように見えたのは僕の気のせいだろうか)
男(どうして――――――あっ)
―『大好きな男くんのことは何でも知ってるわ』―
男(……あいつ、今まで僕のこと全部知っていて話してきた)
男(考えてることも、その日起きたことも、まるで直接頭の中を覗かれているんじゃないかって思うくらい)
男(じゃあ……何であのとき、僕が今日のデートを秘密にしたことが分からなかったんだ?)
男(本当は……気づいていたんじゃないか……? もし そうだとすれば、あいつは知っていて僕を見送ったのか?)
男(好意の対象である僕を)
男「……まさかな」
女「男さん、男さんってば。男さーん?」
男「…………へぇ? あれ」
女「映画終わっちゃいました。ごめんなさい、もしかしてつまらなかった…?」
男「いや、そんなことは! そんなことは……ないと思う……きみと一緒なら楽しい……あっ」
女「…………えっ、今の、あ、あれれ」
男「ちが! ちが、わない……たぶん正直な気持ちだと思う……えっと……」
女「……」
男(ああっ、顔伏せてる! 両手も当てて……変なこと言ってまた泣かせちまったか!?)
女「男さん」モゴモゴ
男「は、はい……なっ、何でしょう……」
女「嬉しいです。ありがとう……」ニコニコ
男「!!」
女「でも男さんよっぽど疲れてるんですね。上映中のこと覚えてました?」
男「ああ、覚えてるよ?」
女「へー……じゃあわたしがポップコーン下にばらまいちゃったことも?」
男「もちろん」
女「はぁ、嘘吐き。そんなことしてませんよー」
男「え!? うわぁ……ごめん悪い……」
女「いいんです。わたしに気を使う必要なんてありませんからねっ」
女「あ、せっかくだからお店見ていきましょうよ! 今日は一日空いてるんですよね!?」
男「空いてるけど……どこ見るつもり? この辺なんて服とか雑貨ぐらいしか……本屋か?」
女「お、男さん……」
男「えっ? 違うのか?」
女「着いてきてください。ここからはわたしがあなたをエスコートしますので!」ぐいっ
男「お、おお…………」
女「むふ~、いっぱい買っちゃいましたね」
男「主にそっちがだけどな。久しぶりに人ゴミに揉まれてちょっと疲れた」
女「だから喫茶店に入ったんでしょう? なんだかおじいちゃんみたい。ふふっ」
男(僕は特にこの子が楽しめるような努力はしていない。なのにこんなに笑顔でいてくれる)
男(いい子なんだな、彼女は。……そんな子がどうして僕を誘ったのか不思議でしょうがない)
女「ここのコーヒー美味しいでしょう? 前に来たときに気に入っちゃって…」
男「ちょっと質問したいんだけど、いいかな」
女「え? あ、どーぞ……わたしに答えられることなら何でも」
男「きみは前に僕と会ったことがあるんだよな? それって、どこだ?」
女「あれ……? もしかして今までずっと覚えてないでわたしと接してたの?」
男「ごめん……正直言えば きみを見かけるようになったのはつい最近の話なんだ」
女「そ、そうだったんですか。別にあやまる必要ありませんよ。もう2、3年も…前ぐらい、かな? うん。たぶんそれぐらい前の話ですし」
男(2、3年前……ダメだ……全く記憶に残っていない……もしかして酔ったときに絡んだとか)
まってるぞ
女「まだ思い出しませんか? ……といっても、あの時はわたし お礼も言わずに逃げちゃったから」
男「それはどこでの話?」
女「駅ですよ。わたしとあなたが一番顔を合わせている場所」
男(駅で……うーん、最近はいつも電車に乗ってたし、最初にあそこで見かけたのはあの日だったし)
男(もっと前……思い出せ……あいつについてのヒントに繋がるかもしれない。あいつが何者なのか)
女「……男さんは、わたしが電車の中で痴漢されていたときに助けてくれました」
男「えっ、痴漢!?」
女「うん。わたしが怖くて固まっていたら、突然わたしとその人の間に入ってくれて。わたしが降りるまでずっと守ってくれていた」
女「お礼を言おう言おうとは思ってたんですけど、わたしなぜか逃げるように電車から飛び出して家に帰っちゃったんです」
女「ほとんど毎日電車であなたの姿を見つけたけれど、何だかお礼を言う勇気が出なくて……明日こそはお礼を言いたい、ずっとそう思っていました」
男「で……期間を置き過ぎてさらに声をかけづらくなった?」
女「」コクリ
展開が読めねぇ
このおじさん、変なんです!
女「ごめんなさい。助けてもらったのに酷いですよね、こんなのって……」
男「いや……いいんだ……」
男(この子を僕が助けた?―――だ、ダメだ。やっぱり思い出せない)
男「……実は見間違えていたりとかは」
女「身間違いなんかじゃない。確信してます。わたし、人の匂いを覚えるのが得意なんです」
女「あのとき嗅いだあなたの匂いはまだ覚えている。同じです」
男「匂いって……そんな、それだって証拠としては不確かじゃないか」
女「ううん、自信を持って言える。それぐらいあの日の出来事はわたしの頭の中に鮮明に残っています」
女「……信じて」
男「…………もし事実だとしたら、本当に僕おじいちゃんだな」
男「物忘れが激しいというか、何というか……ごめん」
男(どうして僕はこの子を助けようとしたんだろうか)
男(可愛い女の子だったから? その後のお礼を期待したから? ……邪な考えしか沸かねぇ)
男(……そもそも助けた女の子が僕の部屋にもう一人の女の子として現れるなんて、まるでおとぎ話じゃないか!)
男(結局あいつは誰なんだ!? 何も答えへ結び付かないじゃないか!?)
女「男さん、今言わせてください。あの時はわたしを助けてくれてありがとうございました」
女「あの日から……あなたはわたしのヒーローでした…………な、なんか今の恥ずかしいですね! 忘れてっ」バタバタ
男「…………」
女「男さん? またぼーっとしてる」
男「いや、聞いてるよ。思いの外今の言葉が嬉しかったから……」
男「そういう「ありがとう」って心が籠もった言葉って、たぶん初めてもらえたから……」
男「なんか、こっちこそありがとう。あはは…素直に嬉しいや…!」
女「そ、それって何か流れ的におかしくありません? ふふっ」
男「なぁ、もしもの話していいかな?」
女「ん? どーぞ、なんだか面白そうですね」
男「……もし、自分の目の前に知り合いと同じ顔の人間が 突然現れたらどう思う?」
女「……ん?ん?」
男「あっ、ごめん! やっぱり今の聞かなかったことに」
女「よくわからないけどー……それってドッペルゲンガーってやつですかね?」
女「ほら、この世には自分と同じ顔の人間が3人いるかもしれないって話ですよ」
男「ドッペルゲンガー……でも、もしそいつがいきなり現れたり消えたりできたりするなら!?」
女「それっておばけとかじゃないですか……」
男「僕もそう思った! 生き霊とかそういう類の!」
女「な、なんだかオカルトちっくな話ですね。面白いです…」
男(そうなんだよ。『もう一人の女の子』が突然現れるなんてやっぱりおかしい)
男(これはもうオカルトの域なんだ……だからあいつは幽霊かなんかで―――)
男(―――この子とあいつを直接会わせたらどうなるんだ?)
女「今日は一日、男さんと遊べてわたしとっても楽しかったです! …あ、男さんは…どうでしたか?」
男「…………え?」
女「今日、わたしと一緒に遊んで楽しんでもらえましたか…?」
男「あ、ああ! そりゃもう楽しかったに決まってる! すごかった!」
女「えへへっ、何ですかその感想……子どもみたい」
男「あははは……ははは…………」
男「…………なぁ、いいかな」
女「はい?」
男「まだ時間あるか……?」
女「時間……あ、はい! まだ余裕ありますよ! いざとなれば親から迎えに来てもらえますし」
男「…………じゃあ 僕の家に今から来れるかな?」
女「えっ…………」
男「ここ。ここが住んでるアパート……隣うるさいかもしれないけど、ごめん」
女「…………」
男(思い切ってここまで連れてきちゃったけど……まずいよな、これ……)
男(女ちゃん、凄く緊張しているじゃないか。ていうか よく付き合ってもない男の家に来てくれたな……)
男「ここが僕の部屋。ぼ、ぼろい玄関扉だろ!? ぼろいよねぇー!! あっははは」
女「っ……」
男「ご、ごめん。別に変なことするつもりで呼んだわけじゃないんだ……少し確かめたいことがあって!」
女「確かめたい……? それ、どういう意味……?」
男「うっ!」
男(絶対変な意味で捉えられたぞ……最悪だ)
男(……前に警察官が部屋に入ってきたとき、あいつは姿を消した)
男(もし今回もそうだとしたら確認も何もない。賭けだ。いてくれ!)
男「じゃ、じゃあ……入ろうか……」ガチャリ
女「……はい」
男(扉を開けるとそいつはいた。いつもみたいに僕を笑顔で迎えてくれた)
女「男くんおかえり^^」
男「いた…………」
女「えっ、何が?」
女「男くん友達といっぱい遊んで楽しかったね。私も男くんが楽しめたのなら嬉しいよ^^」
女「自分のことみたいに嬉しいよ^^」
男「いるんだよ!! 見てくれ、ここだよ!! ほら!!」
女「え、えぇ……何が……何がいるんですか……っ?」
男「いいからこっちに来てくれ! ここに来て!」
女「う……は、はい…………おじゃまします」
男(同じ顔、同じ容姿の二人が僕の目の前にいる。その光景は異様だが、恐怖は感じない)
男「いるんだって!! ここに、きみが!! なぁ!?」
女「男、さん……?」
女ちゃん死んja…
男「見えるだろ!? 今は消えていない!! ここにいるんだよ!!」
女「だ、だから何がいるんですか……わたしには何も見えませんけれど」
男「え?」
女「男くん元気だねぇ^^ そういえば 初めて女の子を部屋に連れて来たね」
女「一つ夢が叶ったんだね^^」
男「えっ……え……」
女「どうしたの 男くん^^」
女「早くきみの好きなように滅茶苦茶にしてあげようよ。彼女もきっとそれを期待してるわ^^」
男「ま、待ってくれ……お前、僕にしか見えていないのか……?」
女「男さん! どうしたんですか!」
女「男くん、どうしたの? もう怖がる必要ないよ。さぁ^^」
女「男さん!」
女「男くん^^」
男「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……えぇ……お前、何なんだ……!?」
カオス展開
女「男さん……わたしそろそろ、帰ります」
男「待ってよ!! 本当に見えていないのかよ!? きみと同じ顔した人間がここにいるんだぞ!?」
女「ま、またお店で……それじゃあ……――――――」ガチャ、タタタタタ…
男「何で…………」
女「男くん逃げられちゃったね^^」
女「自分でさっき考えてたじゃない。私が幽霊かもしれないって。それなのにあんな反応はちょっとおかしいと思うな」
男「……そうなのか? お前、幽霊なのか?」
女「^^」
男(こいつはいつまで経っても答えようとしなかった。痺れを切らし、僕はその体へ初めて手を伸ばした)
スゥ
男「あれ、いない……消えたのか……!」
『グス、グスン……ウウ…ウウゥ……アアァ…』
男「!?」
男(いた。部屋の隅っこに体操座りで収まり、膝へ顔を押しつけて、そいつは泣いていた)
女「……T_T」
ノ´⌒`\ ∩___∩ ━┓ /
γ⌒´ \ | ノ\ ヽ. ┏┛ /
.// “”´ ⌒\ \ / ●゛ ● | ・ /. ___ ━┓
.i / \ ,_ i )\ | ∪ ( _●_) ミ / / ― \ ┏┛
i (・ )゛ ´( ・) i,/ \ 彡、 |∪| | / / (●) \ヽ ・
l u (__人_). | . \ / ∩ノ ⊃ ヽ / / (⌒ (●) /
_\ ∩ノ ⊃ / ━┓\ ∧∧∧∧∧∧∧/ /  ̄ヽ__) /
( \ / _ノ | |. ┏┛ \< > /´ ___/
.\ “ /__| | ・ < ━┓ > | \
―――――――――――――<. ┏┛ >―――――――――――――
___ ━┓ < ・ >. ____ ━┓
/ ―\ ┏┛ < > / ― \ ┏┛
/ノ (●)\ ・ /∨∨∨∨∨∨\ /ノ ( ●) \ ・
. | (●) ⌒)\ / \ | ( ●) ⌒) |
. | (__ノ ̄ | / / ̄ ̄ヽ ━┓ \ | (__ノ ̄ /
\ / / / (●) ..(● ┏┛ \ | /
\ _ノ / | ‘ー=‐’ i ・ \ \_ ⊂ヽ∩\
/´ `\/ > く \ /´ (,_ \.\
| / _/ ,/⌒)、,ヽ_ \ | / \_ノ
| / ヽ、_/~ヽ、__) \ \
男「おい……泣いてるのか……?」
女「……」
男「何で泣いてるんだ? 意味不明で泣きたいのはこっちの方だぞ…?」
女「……」
男「何か言ってくれよ。お前マジで幽霊なのか? だとしたらなんで―――」
女「違うよ。私は幽霊じゃなくて、男くんの私だよ」
女「男くんだけの私なんだよ」
男「……な、何だよそれ。答えになってないだろ?」
女「ううん、きっと これが答えだと思うわ。これ以上追求しない方が男くんのためになるよ」
男「どういう意味だ……何でまだ泣いてるんだよ、おい……」
女「本当だよ。男くんが初めて女の子連れて来るような奇跡を起こしたのに、嬉しいはずなのに」
女「どうしてだろう。涙が止まらないの」
男(こ、これ以上何を聞いても僕の頭が狂いそうになるだけだ……もう、止そう……)
わけがわからぬぇ…
(´・ω・`) しょうがない…
/ `ヽ. …
__/ ┃)) __i |
/ ヽ,,⌒)___(,,ノ\
男「…………なぁ、お前が何者なのか置いておくとして、お前はどうして僕の前に現れたんだ」
女「いつも落ち込んで疲れてる男くんを癒してあげるためだよ」
女「私がいればつまらない毎日が楽しくなれたでしょ」
女「ちょっぴり幸せな気分になれていたでしょ」
男「つまらない毎日……」
女「学校、両親、生活、将来。些細なことも全部不安になるような毎日だったわ」
女「私は男くんのことなら何でも知ってるんだよ^^」
男「…………確かにお前と暮らす毎日は少し楽しかったし、ワクワクしてた」
男「女ちゃんとデートしているときだってお前のことばかり考えて集中できなかったよ」
男「お前が誰なのか分からないし、どうしてあの子と同じ容姿なのかもさっぱりだ……だけど」
男「好きになっていたのかもしれない。お前のことが」
女「^^」
ガチクズゴミハエが集る展開
はよ
男(次の日、僕は大学帰りに電気屋へ寄ってビデオを買ってきた)
女「おかえり男くん。そんな物買ってきて急にどうしたの?」
男「お前は僕の考えてることも分かるんだろ……昨日、お前の存在について考えて思ったんだ」
男「それが正しいのか、正しければ確信できる証拠が欲しい」
男「だから こいつで僕の行動を一日監視する……」
女「そっか、変だね^^」
男(自分でもこんなことするのはおかしいと思ってる……だけど、もう自分で確認するしかないんだ……)
ピッ
女「録画が始まったね^^」
男「そうだな……なんか怖いな……」
男(いつも通りだ。いつも通りにこいつとの生活をこの部屋で送ろう)
男(あとはあのビデオが全てやってくれる)
眠いからはよ
男「ほら、昼ご飯。今日はバイト休むから一日ゆっくりだな」
女「そうなんだ。良かったね。でもあの女の子が心配するかもしれないよ」
女「あのまま何もフォローせずに放っておくの? 本当はあの子のことも好きなんだよね、私知ってるわよ」
男「!!」
女「私は男くんのこと何でも分かるよ。だから本心であの女の子をどう思い始めたのかも分かるわ」
女「それで、私のことも好きになっちゃったのも私には分かる。きみのことなら全部お見通しだよ」
男「お前が僕だけ女ちゃんだからか……?」
男「なぁ、どうしてあの子の姿なんだろうな。僕は本当にあの子を――」
女「助けたよ。そうじゃなきゃ、私はこの姿できみの目の前にいないもん」
男「じゃあ、何で当の本人がそれを覚えていないんだ? それに僕はあの子を一目で見て好意を持ったのか?」
女「質問が多いね^^」
男「一つずつ、僕にわかるように教えろ……もうお前に聞くしか分からないんだ」
女「^^」
女「男くんがあの子を助けたことを覚えていない。それがまず間違いだよ」
男「え……?」
女「だって男くんはあの子を助けてなんかいないんだからね^^」
男「……じゃ、じゃあ やっぱりその出来事は彼女が勘違いしていただけだったんだ」
女「そうだよ。あの子ってばすごい勘違いしてる」
男「何だか騙した気がして申し訳ないな。今さらだけど……お礼の言葉も貰ったのにさ……」
女「そうだよね。男くんがあの子から感謝されるなんて本当に申し訳ないね」
男「ああ、本当にそう思うよ……」
女「うん、本当にそう思うよね」
女「だって 男くんは女ちゃんを助けたヒーローなんかじゃなくて」
女「女ちゃんをいやらしい目で見て、触りまくった変態くんだもんね」
男「…………今、何て言ったんだ」
女「^^」
女「男くんの変態ー^^ えっち、すけべ、痴漢野郎^^」
男「は…………? え、あ……何……?」
女「痴漢野郎^^」
男「ひっ!?」ガバッ
男「それは……お前の勘違いじゃないか、ていうか記憶違いっていうか」
男「僕はあの子を助けもしなかったが、触ってもいないよぉ……面白くねぇ冗談はやめろって」
女「私は本当のことしか言わないよ。だって男くんの私だもん」
女「次はもう一つの質問に答えてあげるネ」
男「や、やめろよ……いいよ、もう……十分だって」
女「段々と思い出してきたわね。自分を取り戻してきたっていうかー」
男「はぁ、はぁ……はぁ、はぁ……」
女「きみは痴漢をしたときはあの子に恋愛感情なんて持ってなかったよ」
女「ただ 性的な目でしか見てなくて、好きにしたい、滅茶苦茶にしたいって」
男「やめろよ……もういいんだよ……!?」
女「どうして私があの子の姿してるのか分かるかな」
女「きみって女を意識するようになってから、女の子にまだ触ったことなかったんだよ」
女「彼女もできない、ずっと童貞、女の人にどう接すれば自分の好意に気づいてもらえるかわからない」
女「そうだったよね?」
男「そうだよ……そんな男探さなくてもそこら辺にいっぱいる! 別におかしくない!」
女「うん、おかしくはないよ^^」
女「初めて性的目的で触れた女の子はあの子だった。そうだよね」
男「……」
女「痴漢してるときに男の人が間に割り込んできて怖かったよね。あの時期は色々あって自棄だったとはいえ、捕まるのは嫌だって」
女「運良く逃げることはできたけれど、ずっと、ずーっと痴漢した罪悪感をさいなまされ続けて、あんまり学校に行かなくなって」
女「授業についていけない。友達とは距離ができる。みんな、自分を置いてけぼりにしていっちゃったね」
男「あ、あああ……ああ……」
女「両親の仲もどんどん崩れていって、何もかも上手くいかなくなってきて」
女「痴漢した罪悪感に構っている場合じゃなくなってきた。だから心の奥底にその気持ちを沈めて閉じ込めた」
男「忘れていたわけじゃなかったんだ……無かったことに、忘れている振りをしていただけだったんだ……」
女「そうだよ^^」
女「自分自身に絶望し始めて、自分を追いこんで男くんはちょっと心がおかしくなっちゃったのよ」
女「それでも幸せが自分に訪れるように毎日思っていた。ずっと、ずっと」
男「……だからお前が僕の前に現れたんだ」
女「うん、そうだよ^^」
女「初めて触れた欲望のままに触れた女の子。痴漢をしたという罪の現れの象徴」
女「もう分かったよね。私がどうしてあの子と同じ姿をしているのか」
男「僕を幸せにするために現れたくせして……その姿だとせっかく忘れた罪を思い出しちゃうじゃないか」
女「だから追求しない方がいいよって教えてあげたじゃない」
女「私のことを何も知らずに暮らしていた方が幸せだったのに」
女「これじゃあまたあの頃に逆戻りだわ」
男「……なんか頭が痛くなってきたかな」
男「少し休むよ……せっかくバイトも休みなんだから、いいだろ?」
女「別にいいと思うよ。休憩しようよ。自分をこれ以上追い込んだらもっとおかしくなっちゃうわよ」
男(……こいつはストーカーでも何でもなかった。知らなければ僕はまだ幸せでいれたのかもしれない)
男(女ちゃんを勘違いさせたまま、あの子ヒーローになって僕は彼女を手に入れられたのかもしれない)
男(……思えば、女ちゃんと一緒にいるときこいつのことばかり思っていたのは好意だけが原因じゃない)
男(あの子への罪の意識が裏返って 結果的にこいつの存在が僕の頭の中をぐるぐる回っていた)
男(僕は痴漢から少女を救ったヒーローじゃなかった。ただのゲスな痴漢だ)
女「おやすみ。ビデオ、しっかり撮れてるといいね^^」
男(昼寝から起きると部屋の中は真っ暗闇に包まれていた。もう夜になっていたんだな)
男(明かりをつけて『あいつ』の姿を探すと、いない)
男(代わりに机の上にラップをかけられたサンドイッチが見つかる。前回のように傍らには一枚メモが残されていた)
『おはよう男くん。きっと起きたときにお腹が空くだろうと思って作っておいたよ^^』
男「…………」
男(僕はいまだ録画し続けているビデオの停止ボタンを押し、テレビに線を繋いでビデオが撮り続けた映像を画面へ映した)
男「部屋の中に僕しかいない……僕しか喋ってないじゃないか……」
男(僕しか喋っていない。あいつの声は映像の中には入っていなかった)
男(代わりに僕があいつが話したことをそっくりそのまま同じ口調で話している)
男(まるで滑稽な一人劇だった。ただ、それを自分が演じていたことを知ると寒気がして仕方がない)
男(話の様子は録画され、最後に僕が布団へ入り「寝る」言って部屋は静かになった)
男「……え」
男(が、突然僕が布団を蹴飛ばし台所へ向かう映像が続く。しばらくして手にサンドイッチを持って現れた)
男(サンドイッチを机におくと、ペンを持ってメモに何か文字を書く。終えるとまた布団へ入っていき 僕は寝始めた)
男「へ、へへ…………何だこれ……」
男「そりゃ あいつがいなくなっても作った食べ物は残るよな、僕が僕のために自分で朝起きて作った食事なんだから……」
男「そして、あいつが食べ物を口にするわけがない。全部僕だったんだから……!」
男「全部が全部、僕の一人遊びだ……! あいつも僕だ! 確かに僕の目にはあいつが映っていたのかもしれない!」
男「でも他の奴らに見えるわけないよな! だって幽霊どころか僕が勝手に想像してそこに存在させた女の子なんだから!」
―『男くんは昔から想像力豊かだから合うかもしれないね』―
男「豊かなんてもんじゃないぞ! 今じゃそれが病気みたいになっちゃったんだもんなぁ!!」
男「うう、ううう……こわい……自分がこわいよぉ……」
ピンポーン
男「ひっ!?」
男「誰だよ……新聞の勧誘か何かだよな……」
男「こんなタイミングで、今何時だ……? もうすぐ8時になるぞ!」
男「くそっ……居留守だ、居留守……」
コンコンコン、ピンポーン
男「うるさい、うるさい、うるさい!」
「男さーん……? 留守ですか?」
男「…………えっ」
「携帯のアドレス聞いておけばよかった…」
ガチャリ
男「…………女ちゃん」
女「あ、いたんですね。良かったぁ……」
男「こんな時間にどうした……僕に何か用か?」
女「えっと……このあいだ変な風に帰っちゃったことあやまりたくて」
男(謝りたいだけでこんな時間にわざわざ一人で来たのか? そんなバカな話があるもんか……)
女「あの時は本当にごめんなさい。わたし、その……まだ経験なくて……」
男「は?」
女「だからぁ……ごにょごにょ……それで、その 緊張してて 何言われたのか自分でも理解できなかったみたいで……」
男「…………あは、はははは」
男(本気で言ってるのかは分からない。だけど、なんて素直なで良い子なんだろう)
男(悪いと思ったらしっかり、いくら時間がかかっても謝ろうとする気持ちが残っていて)
男(また僕みたいなキチガイになにされるか わかったもんじゃないのに、避けようともせずに面と向かって謝りに来てくれた
男「あやまるのは僕の方じゃないかな……」
女「えっ、とんでもないです! わたしがあの時は悪くて!」
男「いや……悪いのは最初から最後まで僕だけだったよ……」
男「ありがとう。こんな奴とまた会ってくれて……ごめん……ごめんなさい、ごめんなさい……」ポロポロ
女「お、男さん!? どうして泣くの!? え、えぇっ」バタバタ
男(僕はこの子にとってもうヒーローなんかじゃない。ただの変態だ)
男(だけど、そんなことは僕が隠し通して女ちゃんに合わせていればけしてバレることはない……)
男(正直に自分の罪を明かしてこの子を傷つけるか、罪を隠してこの子の笑顔を守ってあげるか)
男「…………う、ううっ」
女「急に泣いちゃってびっくりですよ……また体調崩しちゃったんですかね……?」
男「ちがう、そうじゃないよ、そうじゃないんだぁ…!」
男「ごめん。本当にごめんなぁ……悪かったよぉぉ……!」ガク
女「どうしてあやまっているんですか……大丈夫ですよ、この部屋にはわたしが自分の意思で来たんですから」
女「何も、全然傷ついてなんかいませんよ。大丈夫だから……」
男「ちがうっ、ちがうんだって……ごめん、ごめんな……!」
男(もう「ごめん」しか言えなくなった。この子に真実を告げるなんて僕にはできない)
男「ううっ……ごめん……」
女「もう……いい加減にしてください!!」
男「ひっ!?」
女「男さんらしくありませんよ! わたし、そんな男さんは好きじゃない!」
女「……だから、もうあやまらなくていいから いつもの男さんになってくださいよ」
男(いつもの僕って何だ!? この子の目にいつも僕は映っていたんだ!?)
男(今の僕はただの気違えたクズなんだぞ……これが本当の僕なんだよ……!?)
男「…………きみには僕ってどう見えてた? どんな僕?」
女「え?」
女「頼りがいがあるお兄さんでわたしの……ひ、ヒーロー」
女「そ……そんなあなたが、大好きです。好きなんです」
男「えぇ……?」
女「だから、好きだって!!」
男「こ、声が大きい……!」
女「あっ! う~……だって聞こえてないと思って」
男(聞こえた。しっかり聞こえてたよ)
女「…………それで、返事」
男「い、今か……今返さなきゃ……ダメ……?」
女「ダメ!」
男「…………好きだよ。僕もきみが好きだ」
男「……前から好きだったんだ。ずっと見ていた、ずっと」
女「はい……」
男「好きだ(彼女が僕に彼女の中のヒーローを求め続けているのなら)」
男(僕は彼女が満足するまで抱いた象が壊れるまで、彼女の僕を演じよう)
男(それが僕が今彼女にできる最大限の償いだ……きっと)
女「男さんが、変なんです!」
田代「なんだチミは」
男「…………遅いな」
女「男さぁーん! ごめんなさい!」
男「あっ、いいよ。僕も丁度さっき来たところだしな」
女「またそんなバレバレな嘘ついたりして。わたし、男さんのことなら何でも分かっちゃうですからねっ!」
男「ひっ……!」
女「え、どうかしたの……男さん、顔色悪いですよ……?」
男「い…いや、何でもないよ。ちょっとびっくりしただけで」
男(『あいつ』はあの日を境に僕の部屋にあらわれることはなかった)
男(今はこうして誓った通り 彼女の僕を演じて、二人は交際を始めたわけだ)
男(彼女といるととても楽しくて幸せでいられる。けれど、彼女の顔を見るたびに後ろめたさを感じて自己嫌悪に陥りそうになった)
男(これがはたして幸せだといえるのかは僕にはわからない)
女「映画館人いっぱいですねー、やっぱり期待の新作だからどうしても休日はこうなっちゃいますよね…」
女「……逸れないように手繋いでてもいいですか」
男「……ああ、いいよ。繋ごう」 『男くんの幸せってなにかな^^』
男「はっ!?」
女「……ん? あ、わたしよく手冷たいって驚かれるんですけど、もしかしてそれ?」
男「そ、そうじゃないって。違うから……別に……」
女「ふふっ、なら良かったです。男さんの手は大きくてあったかいですね」 『男くんは変態くんだったよね^^』
男「……そっか……うれしい、よ……」 『ほら、前にできなかったこと今日しちゃおうよ^^』
女「うん。わたしも何だかうれしい。へへ、よくわかんないけど」 『この子滅茶苦茶にしたかったんでしょ^^』
男「あははは…………」 『やろうよ。脳無しできそこないの男くんに、こんなに可愛い彼女ができたんだよ^^』
『じゃないと嬉しくないでしょう。ていうか、男くんこの子と一緒にいても全然嬉しそうじゃないね^^』
『幸せじゃないんだよ。自分でもわかるわよね^^ 男くん自分を誤魔化して生きたって辛いだけだよ^^』
『男くんが男くんにとっての幸せを求め続ける限り私は何度でも男くんの前にあらわれるからね^^』
男「…………」 『えへへっ ^^』
おわり
結局平凡なオチだった
はぁ
まぁ、寝るわ
なかなか続きが気になる物語だったよ
乙
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません