エレン「勘違いして擦れ違い掛け違ったボタン」(88)

エレクリ

 夢。夢。夢。
それは私が始めてみる明晰夢だった。

『妾の子』

 虐げられていた自分。疎外されていた自分。
隔絶されていた自分。見たくない、惨めな自分がはっきりとそこに居た。
夢なら覚めてと幾度と無く願ったけれど、
それが聞き届けられることも無く、私の目の前に居るもう一人の私が
記憶の中の嫌な思い出をなぞる。



 

 

「やめて」

 口にして呟いた言葉は反響して輪郭もあやふやに消えていった。
頭がぐらぐらするのに視界だけは鮮明で、
思い出したくない映像を背ける事もできずに見続ける。

『消えてくれ』

 ふと、後ろから聞こえた声は最近知ったもの。
咄嗟にそちらに意識が行くとさっきまでビクともしなかった身体は
あっさりと後ろを振り返る。

「……ユミル」

 大柄な友達が私を侮蔑したような表情でこちらを見下ろしていた。
そして今一度こちらに向かって口を開く。

『うざいんだよ。偽善者』

 唾棄するように呟いて。そしてその影は消えて別の人になる。

『大嫌いです』

 サシャ。

『顔も見たくない』

 アニ。

『……』

 ミカサ。

 次から次へと見知った人物に変わっては、
私に罵詈雑言を吐いていく。
それに耐えられなくなって私は頭を抱えるようにしてしゃがみ込み叫ぶ。
嫌だ。助けて。誰か助けて。大声で、精一杯誰かに聞こえるように……。

―――

「はぁっ……はぁっ……」

 薄い布団を勢いよく跳ね上げて起き上がる。
視界は薄ぼんやりとしていて、まだ夢から覚めてないのかと思った。

「……はぁっ……はぁっ」

 荒い息を整え周囲を見渡すと見慣れた寮の部屋で、
暗いのは単にまだ夜も明けぬ深夜だったからで。

「……はぁ~」

 びっしょりと汗をかいた額に張り付く前髪を払い、
安堵のため息を吐く。そして再度周囲を見渡す。
どうやら同室の人達を起こさずにすんだらしい。

 とりあえず私は再び布団に横になる。

「……」

 真っ暗な月明かりのみの部屋。
変な目覚めをしてしまい眠気は皆無で、
どうしてもしっかりと覚えている夢が闇の中に浮かぶ。

 誰にも認められなかった私の事。
無かったことにしたい過去。
無かったことにされた私。

「……うぅっ」

 ぐるぐると回る思考に呻きながらまた起き上がる。
気分転換に顔でも洗おうと思いそのまま静かに部屋をでる。

 冷たい空気が支配する廊下。
寮の玄関を開ける音が空気をわずかに震わせる。
私はスリッパのまま外に出て、
そのまま痛いほどに冷えているだろう井戸に向かう。

「……」

 全身をじっとりと包む汗が外気に触れて冷え、
意識がはっきりとすると同時に足元の不安定感も消えていく。
そこで私はあえて夢で見た事を冷静になった頭で思い返す。

 ――多分、あれは私の不安の形だろうと思う。
私には自信という物が無い。否定されてばかりの人生だったから、
自分を信じるという事ができない。

 だから私自身が信じることのできない、好きになれない自分を誰かが
信じてくれる好いてくれる訳が無い。という不安の現れ、だと思う。

 そんな私がそれでも自信が持てることがあるとすれば、
それは多分容姿のことだろうか。
こういうとむしろ自信過剰な発言ともとられてしまうかも知れないけれど。
これはとても間接的な自信だ。

 女神。天使。エトセトラ。
訓練生男子達が私の事をそう表現している事を
実のところ私は知っている。
あれだけしょっちゅう言っていれば流石に気づく。
だから、これだけ言われているのだからその半分位の自信は持ってもいいんだよね?
という間接的な自信。

 私にあるとすればこれだけだった。

「……っ!」

 井戸から掬った水で顔を叩く。
冷たいよりも痛い程の水はさらに意識を覚醒させる。 

 でもその間接的な、他人に依存した自信は
最近揺らぎ始めている。たった一人の存在によって。

「……エレン」

 同期の男の子。
あまり話した事は無いけれど、
とにかく目立つ彼の事は前々から知っていた。

『あ? わりぃけど他当たってくれ、俺忙しいんだ』

 今日の昼の事。
他人の評価によって辛うじて自分を保っている私に、
彼のその一言はとても重たかった。

 特に彼が同期の中でも一際純粋で素直な人間だと言うのが、
その私のダメージを加速させる。

 もしかして彼の評価が正しいんじゃないか、
周りが気を使ってるだけで、私がそれに気づかないだけで。

 嘘をついたり周りに合わせたり、
そういうのと無縁の彼の発言が正しいのでは?
そう思うと不安で仕方なくなる。

『俺がそんなこと知るかよ。
 そういうのは女子に聞けよ』

 軽くあしらわれた。まともに相手にされなかった。
もしそれが真実なら私はどうやって私を保てばいいのか。

「……」

 おもむろに私は強く頬を叩き、
寒さとは別の理由で震える身体を叱咤し寮に戻る。
今日は、もう寝れそうにない。

―――

 僕が朝起きて一番にすることは毎度違うけれど、
それでもいくつかの選択肢の中でどれが一番頻度が高いかと言うと
幼馴染で親友であるエレンを起こすという事が一番多い気がする。

「エレン起きて、朝だよ」
「ん……うぁ……」

 昨日もまたぞろ夜遅くまで一人特訓をしていた様で、
目を擦りながら起き上がるエレンはまだまだ
寝たり無いという顔をしながら欠伸をかみ殺していた。

「おはようアルミン」
「ん、おはよう」

 こうしてその日の朝も始まった。

ちょっとうんこ

 着替えてエレンと共に部屋を出て、
食堂に向かう廊下でミカサと合流し
三人で雑談を交わしながら歩く。

 いつもの朝、いつもの光景。

「ねぇアルミンちょっといいかな?」

 いつもじゃなくなったのは朝食中。
三人で決まった場所に座って代わり映えのしない食事を口にしているところに、
クリスタがこそこそとやってきてそういった。

「べつにいいけど……ここじゃダメな話かい?」

 問い返すとクリスタは気まずそうに小さく頷いて、
チラリと隣のエレンを見た。僕はそれを受けて
残った朝食を全部口に詰め込んで手招きするクリスタについていった。

初春「糞スレが伸びてる理由もわかりませんし」

初春「百番煎じのSSは、書いてる奴も読んでる奴も何考えてるんですかねぇ」

初春「独自性出せないなら創作やるんじゃないっつーの」

初春「臭過ぎて鼻が曲がるわ」

佐天「初春?」

初春「結果として面白くないのは許せます」

初春「パクリ二匹目のドジョウ百番煎じは許せませんね。書いてて恥ずかしくないんですか?」

初春「ドヤ顔してる暇があればとっとと首吊って死ねよ」

初春「そうネットに書いてありました」

佐天「なあんだネットかあ」

 人気の無い中庭。
そんな所へ異性に呼び出されたりしたら
誰でも少しは期待する。僕だってそうだ。
ましてやそれが気になってる女の子だったりしたらもう。

「アルミンってエレンと幼馴染なんだよね?」

 しかしそんな期待もなんのその、
クリスタの口からでた言葉はそんな雰囲気はまるでなかった。

 まぁ端からわかっていたことと、
「それがどうかしたの?」と平然と言う。
するとクリスタは意を決したように。

「エレンの好みのタイプとか知ってる?」

 そう言った。

「エレンのタイプ?」

 それは女性の、という事だろうか?
その場合正直僕には力になれそうもない。
というか僕に限らず誰も答えられないだろう問いだ。
なにせこれまでの付き合いで一度もエレンが
そう言った話題を出したことが無いから。

 仮に他の人間が話を振っても興味ないと一蹴していたし
例えクリスタの質問でも答えられそうに無い。
だから僕は「ごめん、それはちょっと答えられないなぁ……」と
言葉を濁した。

「えっ……、ど、どうしても?」

 僕の台詞を受けてクリスタがわかりやすく動揺した。
そんなにエレンの好みが知りたかったのだろう。
という事はつまりそういう事で、どうやら僕の淡い恋は知らぬ間に砕けたようだ。
乾いた笑いすらでない。

初春「一番の害悪はそういったSSを持ち上げてる人たちなんですけどね」

佐天「ふーん」

「うん、無理だね」

 気落ちしながら答える。まさかエレンとは。

「そ、そっか……ごめんなさいアルミン……」

 しかしクリスタの落ち込み具合は僕以上で、
やや顔色まで悪くしながら「じゃ、じゃあね」と逃げるようにこの場から立ち去ってしまった。
僕はと言うとまるで予想をしてなかった話の流れに呆然としていて。

「おうアルミン! 女神様となに話してたんだよ?」

 そこへ食事を終えたライナーがやってきて、
少々乱暴に肩を組んできた。

「あーライナー……」
「ん? どうした元気ないな、クリスタと話しててなにを元気なくすことがあるんだ?」

 茶化した笑いを浮かべながら顔を寄せるライナー。

「どうやらクリスタはエレンの事が好きらしいよ」

 実に楽しそうなその顔を僕と同じにさせたい。
落胆していて僕はそんな意地悪な思考と共にあっさりとその言葉を口にした。

―――

 私はあの後一晩中寝ないで考えていた。
どうすればいいのか、私が私であるためにどうすればいいのか。
考えて考えて、辿り着いた答えは認めさせるという事。

 エレンにも私を認めてもらいたい。
純粋で素直な、思いを言葉にすることを躊躇わない彼に認められて
彼の口からそれを言ってもらえれば。きっと私の不安定な自信は
もっとしっかりしたものになると思ったから。

「……はっ……はっ」

 そう思って、アルミンに声を掛けた。
エレンに認めてもらうために、エレンの事を知ろうと思った。

「でも……」

 ダメだった。それどころかあしらわれた。
初めてアルミンが私の問いに答えてくれなかった。
誰よりも付き合いの長いアルミンなら知らない筈が無いのに。

「いや……」

 夢が、夢じゃなくなる。
正夢? 嫌だ、そんなのは嫌だ。
また透明になるのは嫌。

 走り続けていた足はだんだんとその動きを鈍くして。
やがて立ち止まる。

「私、どうしたらいいんだろう?」

 地面に向かって吐いた言葉に返事は当然返ってこなかった。

地の文で書かれると物凄く読む気がなくなるのは俺だけ?

―――

 俺はよく鈍感と言われる。主にアルミンにだ。
確かに感覚はミカサやライナーに比べるとまだまだ磨く余地があるし、
アニの細かな攻撃の挙動とかも見極めが甘いと思う。
けど鈍感と言われる程ではないとも思う、
自慢じゃないが成績だっていい方で教官にだって最近はよく褒められる。

 しかしそういうとアルミンは決まって「そういう所が鈍感なんだよ」と
呆れた様な困った様な笑みで言われる。
どうにもアルミンが言いたいのはそういう意味での感覚とは別の物らしい。

「……つっても、よくわかんねえな」
「どうしたのエレン」
「いや、俺が鈍感だのどうのって話だよ」

 机に肘をつきながらため息をついてミカサに答える。
目の前では教官が黒板に図を書いたりしている。
言ってしまえば今は座学の時間だ。

>>39
それは報告しなくていいです

 あまり得意とは言いがたいし、
アルミンから教えて貰った方がわかりやすくて効率がいいから
最低限の意識を向けてあとはぼんやりと周りを見てしまう。

「ん?」

 そして視界に入ったのは最近なにかと話しかけてくるクリスタだった。
この所は話す機会も多くなったもののそれまではほとんど話したことはなかった。
といっても元々目立つ奴だったし入隊当時から男子に囲まれてるのもあって
それなりに知ってはいた。けれどいま視界に入ったクリスタは隣にユミルが座ってるだけで
他に誰も周りに座っていなかった。

「珍しいな」

 俺の呟きにミカサが「なにが?」と目を瞬かせる。

「いや、あそこ」

 教官の目にとまらないように顔は動かさずに指先でクリスタを指す。

「……どこが?」

 しかしミカサはピンとこないようで首を僅かに傾げる。

「ほら、普段だったらライナーだとかなんだとかが近くに座って
 話しかけたりしてるだろ?」

 そして教官に内容について話すように言われて慌てて、
クリスタがこっそり教えてやるという流れを何度か見たことがある。

「そういえばそう。……アルミンはどうおもう?」

 ミカサの奥。俺の二つ隣に座って真面目に話を聞いて板書をしていた
アルミンは話を振られるとは思ってなかったのか戸惑いながらも
「さ、さぁ? よくわからないよ」と若干噛みながら答えた。

「そっか、割と仲いいからアルミンなら知ってると思ったけど」
「はは、エレンの方が最近はよく話してるんじゃない?」
「そうか?」
「……そうだよ」

 ミカサを間に挟んでいたからよく見えなかったけれど、
そういうアルミンの表情は少しだけいつもより元気が無かった気がした。

―――

「少しだけ距離を置いたほうがいいんじゃないかな?」

 僕の言った言葉に愕然とした様子のライナーに、
僕は慌ててそう付け加えると怪訝そうな顔で意図を聞いてくる。

「なんでエレンなのかなって考えてみたんだ。
 エレンはクリスタとほとんど接点ないのに、って。
 それで思ったんだけど、逆に僕達の距離が近すぎたんじゃないかなって」
「……まぁ確かに、言われてみればそうかも知れないな」

 あごに手を当てて思案し、頷く。

「クリスタはあの通り人がいいし優しいから
 決して口にはしないけど、一人で居たい時ってのは誰にでもあるでしょ?
 それにライナー、正直僕等も年頃だ彼女と話すときに下心が皆無だったかと聞かれたら……」
「うぅん、それは……無いとは言い切れないな」

 僕達くらいの年代はそういうのに敏感だ。
クリスタの様な女の子は特にそうだろう。
もしかしたら口にはだせなかったけれどそういうのが嫌だった部分もあるのかも知れない。

「なるほどな……。だから、か」
「うん、エレンは唯一って言っていいくらいそういう事に無頓着だからね。
 逆に興味を持ったってのがあるのかも知れない。
 あれで顔は悪くないし、訓練には真面目で成績もいいしね」

 言ってからライナーと顔を見合わせてため息をつく。
気づくのが遅すぎたという後悔のため息か。

「わかった。思い当たる節もあるし一理ある、
 ちょっと距離感を見直した方がいいのかも知れないな」
「うん。僕達の無遠慮な態度で気を悪くさせてるかもしれないなら
 改めたほうがいいからね。同じ仲間として」
「ふっ、アルミンは強いな。失恋直後でそんな気を持てるなんて。
 よし他の連中には俺から言っておこう」
「ありがとうライナー」

 そういって僕達は別れた。今思えばもう少し冷静になってから
もう一度考えて口にすればよかったのに。そう後悔せずにはいられない。

―――

 井戸の底。澄み切った水が音も無く溜まっている。
風も受けないその場所には月と、力ない私の顔が映っていた。

「……誰か……」

 あの日見た夢が、どんどん現実になっている気がする。
色んな人が、私から距離を置いているような。
話をしても今一盛り上がらないし、気まずそうに切り上げられる。
このまま私はまた一人になってしまうのだろうか、
折角できたと思った私の場所は張りぼてで、虚構で、偽者で、
私はただの浮かれた道化だったのだろうか。

「……エレン」

 どうすればいいのか、皆目検討がつかなくなった私に残ったのは
エレンの事だけだった。彼に認められなくちゃ。彼にさえ認められれば。
精神的疲労から来る思考の停滞は少しずつ積み重なっていくけれど、
その事に私は気づくことはなかった。

あのさ、マイクロソフトの勝手に再起動するインストールをどうにかする方法ない?

どういうこと?

 
「おはようエレン!」

 他の全てが沈殿し限りなく純粋になった上澄みさながらの目的意識の所為か。
翌日からの私は打って変わってハイテンションになっていた。

「今日の訓練ペア組もう?」

 とにかくエレンに話しかけた。

「ねぇ隣いい?」

 時間があれば傍に居るように心がけた。

「新しい髪飾りにしてみたんだけどどう思う?」

 少しでも私を向いてくれるように努力した。
日に日に私を囲う輪の半径が広がっていくのを感じながら、
私はがむしゃらになっていた。

>>57
何分後に再起動しますって奴

トイレ行くか→再起動してる……
が頻発しすぎワロえない

―――

 俺がいつか珍しいと感じたクリスタと周りの距離感。
それはいつしか当たり前になっていた。

「ねぇねぇエレン!」

 多分丁度その次の日位からだった気がする。
こうしてクリスタがいままで以上に俺に話しかけてくるようになったのは、
一見して気にしていないように明るく振舞っているものの、
その笑顔の裏に必死さを俺は感じていた。

 ただそれが一体どういう理由から来るものかわからず、
触れていいのかどうかもわからなかった俺は
とりあえず保留し続けていた。

「なぁクリスタ」

 でもそれも限界だった。
頻繁に話しかけられりゃ仲良くなる、
仲良くなれば日に日に痛々しくなるその表情に気づいてしまう。
気づけば、それを段々見ていられなくなってくる。

「どうしたんだよ……、お前なにを抱えてんだよ」

 そしてある日二人で倉庫整理の当番になったとき、
俺はそう。聞いてしまった。

「俺でよけりゃ力になるぞ?」

 終わりを告げる言葉を。

―――

 私が求めていた言葉。

「本当に?」
「あぁ、任せろ……。つか気になってたんだけど」

 そこでエレンは言うかどうか迷ったように
目を宙に彷徨わせる。

「お前、最近なんかみんなから距離……置かれてないか?」

 申し訳なさそうにそういうエレンに、
私は思わず抱きついた。訓練生の中では突出した物ではないけれど、
それでも私よりは一回り以上大きい彼の胸に飛び込む。

「お、おい……っ!」

 欲しかった言葉を貰えて感極まったのか、なんなのか。
私にもわからなかった。

「ねぇエレン。一つだけ聞かして」

 顔を胸にうずめたままのくぐもった声。

「エレンは私の事どう思ってる?」
「え、えっと……」
「私は好きだよ。私、エレンが居ないとダメみたい」

 彼の口から答えがでる前に私の偽りの無い思いを言う。
エレンは優しいから、きっと――。
万が一これでエレンに拒絶されたら私はもう。

「お、おう……。お、俺もまぁ、クリスタの事は好きだよ」

 おずおずと私の背中に回されるエレンの腕。
それだけで全てが報われた気がした。

―――

 クリスタがエレンに依存している事に気がついたのは
もう全てが手遅れになってからだった。

 クリスタの心の奥に存在する闇の事も、
僕の勘違いや不思慮な発言が彼女を追い詰めたことも、
その結果拠り所を求めた彼女がエレンに依存する事になったことにも。
まるで僕は気がついていなかった。

「えへ……えへへ……」

 エレンに寄り添い微笑むクリスタと、それを甘んじて受けるエレン。
傍から見れば普通の恋人同士にしか見えないけれど。
しかしとても歪で、目を背けたくなる光景だった。

 けれど、クリスタの信用を失った僕の言葉はもう既にクリスタに届かず。
しかしエレンに言って貰った場合最後の寄り代を失ったと思った彼女が
本当に壊れてしまいかねない。
今の僕、否、僕達にできることはもうこの不安定な二人の関係が
一刻でも長く続くことを祈ることだけだった。

「ねぇエレン」
「なんだ?」
「……ずっと、ずっと一緒に居て、私を見ていてね」

 ――どうか少しでも永く。

―――

 クリスタが俺に依存している事には気がついていた。
それと同時に俺もクリスタに依存している事にも気がついていた。
構われてばかりで守られてばかりの俺を頼ってくれる、
俺だけに助けを求めてくる彼女は心の中の知らない部分を引っかいたんだと思う。

 俺とクリスタは周りから見てどう見えるのだろうか?
恋人だろうか? 兄妹だろうか? 主従だろうか?

 俺には植物的に見える。
支えが無ければ上を向くこともできず地べたを這い蹲る蔓と、
蔓にまかれなければ存在を主張できない棒の様な。
あるいはアブラムシと蟻か。蝶と花か。

 所属兵団の選択はもう目の前に迫っている。
俺は――。

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  なんか客が来て遅れてごめんなさい
  黒くないクリスタを書けと以前言われて勢いで立てた

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