モバP「シンデレラ舞踏会?」 (327)

事務所

先輩P「おうそうだよ。まぁ、舞踏会っていっても踊ったりはしないんだけどな」

先輩P「なんでこんな名称がついているのかっていうのは俺にはわからない」

先輩P「まぁ、簡単に言うとこれは他の事務所のアイドル達が年に一度集まるイベントのようなものだ」

先輩P「ほかの事務所同士のアイドルの親睦を深めたり、プロデューサー同士の情報交換の場所だ」

先輩P「まぁ、仕事で来ないアイドルもいるがな。それが今日あるんだ」

モバP「そ、そうなんですか? ところでなんで僕にそんな話を?」

後輩P「モバPさん! あなただけなんっすよ! うちのプロデューサーとして契約している人間の中で舞踏会の招待状が来ていないのは!」

モバP「え?」


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先輩P「この舞踏会はアイドルとそのプロデューサー。プロダクションの社長にしか送られないものなんだ」

モバP「あ、いや、僕もアイドルのプロデューサー……」

先輩P「お前には担当アイドルがいないだろう?」

先輩P「そんなのはプロデューサーと呼べない。だから招待状が送られてこなかったんだ」

モバP「あ、ああ! そういう理由で僕のところには来なかったんですね!」

モバP「ははは、そうなんだ……」

先輩P「まぁ、お前にアイドルが担当できるのはあと10年先の話だろうな」

先輩P「大体、なんだお前のその髪の毛は? 寝癖だらけじゃないか。後はなんでスーツを着ていないんだ」

モバP「ま、毎朝早くてなかなか髪を弄っている時間がなくて……」

モバP「後服装は事務所の雑用がメインですから……その……」

先輩P「なに言い訳してるんだよ! プロデューサーでもアイドルと一緒で身だしなみには気を使わなくちゃいけないんだよ!」

先輩P「仕事先でそんな恥ずかしい姿晒せる訳無いだろ!」

モバP「すいません」

後輩P「そうっすよ! なんっすかその1000円カットで切ったような髪の毛は!」

モバP「う、うん。よくわかったね」

後輩P「はぁ~? 大人になっても1000円カットなんて恥ずかしくないんすか?」

モバP「ご、ごめん」

先輩P「ん? おい、ここまだ汚れているじゃねーか」

モバP「え? そ、そこはもう清掃したんですけど……」

モバP「見た目も全然汚れてないですし」

先輩P「俺が汚れてるって言ったら汚れてるんだよ!」

先輩P「お前、もう一度ここ清掃しておけよ」

モバP「そ、そんな」

先輩P「じゃあ、俺らは今日の舞踏会のために美容院にいってくるから。留守番頼むぞ」

後輩P「はっはっは! 先輩、今日は事務所との不仲説がある渋谷凛ちゃんを引き抜きをするために気合はいってるっすね」

後輩P「まぁ先輩なら楽勝っすよ!」

先輩P「お、そうか?」

モバP(し、渋谷凛? あのトップアイドルの子だ! あんな子がうちみたいな中堅プロダクションに来てくれたら凄いことになるはずだ!)

モバP「せ、先輩! 頑張ってくださいね!」

先輩P「うっせー! お前には関係ねーよ」

モバP「すいません……」

先輩P「……」

先輩P「でもな後輩P。おそらくほかの事務所のプロデューサーも狙ってるだろうからかなり厳しくなるぞ」

先輩P「まぁ、当たって砕けろだ」

先輩P「ほら、ぼさっとしてないでいくぞ」

後輩P「うっす! あ! モバPさん後で焼きそばパン買ってきてもらってもいいっすか?」

後輩P「それからジャンプもお願いしておくっす! それじゃ!」

ガチャ バタン

モバP(そういえば渋谷凛ちゃんって事務所と不仲って噂が流れてて退所するんじゃないかってどこかの記事に書かれていたっけ……)

モバP「……」

モバP(アイドルが一堂に集結する舞踏会か……)

モバP(僕もできることなら行ってみたいなー)

モバP(まぁ、無理なんだけどね)

モバP(僕も早く担当アイドルがつくといいな)

モバP(事務所にプロデューサーとして勤務してから三年間。僕は一度もアイドルプロデュースを担当したことがない)

モバP(仕事のほとんどは電話の応対や事務処理がほとんどで後は雑用などをこなしている)

モバP(きっと、ここに所属しているアイドルは僕のことを事務員だとおもっているんじゃないかな)

モバP(なんでそんなことをしているかというと社長に嫌われてしまっているのが原因だ)

モバP(社長の命令でずっと僕はこうやって雑務をしていてアイドルをプロデュースしていない)

モバP(なぜ嫌われているかというと僕の父親が関係している)

モバP(僕の父親は昔プロデューサーをしていた。そして、ここの社長も昔プロデューサーをしていて父親とは犬猿のなかだったようだ)

モバP(父さんはもう死んじゃっていてその話を聞けなかったんだけどここに採用されてからその話を社長から聞いた)

モバP(そこから社長の嫌がらせが始まった。それは伝染するように他の先輩プロデューサーや後輩プロデューサーにも広がっていった)

モバP(そうして今の状況になっている)

モバP(やめようと思ったことは何度もある。でも、僕は逃げたくなかった)

モバP(こんなんで逃げ出していたらアイドルのプロデュースは無理だって言い聞かせて)

モバP(でも……)

モバP(父さん。そろそろ僕は限界が来そうです)

モバP(どうしてこんなことになっちゃたんだろう)

モバP(今頃一生懸命アイドルのプロデュースをしていると思ったのに)

モバP(昔思い描いていた自分と今の自分は全然違うや)

モバP(他の事務所に移るって手もあるけど今の僕にはそんな気力もないや……)ポロポロ

モバP「あれ? おかしいな。涙が……」

モバP「ははは、情けないなー。僕」

モバP(僕にはもう昔のような情熱がないのかな?)

コンコン

モバP「あ! はい! ちょっと待っててください!」

モバP(いけないいけない。涙を拭わないと)

モバP「い、いま開けますねー!」

モバP(佐川の人かな?)

ガチャ

?「おはようございます」ニッコリ

モバP「……?」

ちひろ「あ、私は怪しいものじゃありませんよ。千川ちひろというものです」

名刺

ちひろ「以後お見知りおきを」

モバP「え、えぇ?」

モバP「い、頂きます」

モバP(取引先の人かな? 全然見たことないけど……)

モバP(えっとー名刺には……○○プロダクション? 聞いたことない名前)

ちひろ「まぁ立場話もなんですし。中で話しましょうか」ズカズカ

モバP「えええ!?」

モバP(きゅ、急になんなんだ……)

ちひろ「へー、結構いい事務所ですね」

ちひろ「ここのソファに座ってもいいですか?」

モバP「か、構いませんよ」

ちひろ「失礼します」ボスン

ちひろ「あ、お茶とかは結構ですから」

ちひろ「その代わりモバPさんは私の対面の席に座ってもらってもいいですか?」

モバP「は、はい」ボスン

モバP(ん? いまこの人僕の名前を呼んだよね? なんで知ってるんだろう)

ちひろ「改めまして、私は○○プロダクションの事務員をしている千川ちひろです」

モバP「あ、僕はここのプロデューサーのモバPです」

ちひろ「それは知っています」

モバP「やっぱり知ってるんだ…」

モバP「あの、なんで僕のことを知っているんですか?」

ちひろ「それは今日なぜここに来たかということにも繋がるんですけど……」

ちひろ「単刀直入に言います。私はあなたを引き抜きに来ました」

モバP「ひ、引き抜き!?」

ちひろ「はい。ヘッドハンティングなんてお洒落な言い方もありますね」

ちひろ「だから私はあなたのことを知っていたんです」

モバP「な、な、な、なんで僕なんですか!?」

モバP「その、自分で言うのもなんですけど僕には実績なんて皆無ですし」

モバP「そのうえなにか秀でた才もあるわけではないですよ?」

モバP「引き抜かれるなんてそんな……」

モバP「えーっとだからその……」

モバP「あ! わかりました! 事務員としてのスカウトですね!」

モバP「それなら納得できますね。うん」

ちひろ「いいえ違いますよ。私はあなたをプロデューサーとしてヘッドハンティングしてるんです!」

モバP「しょ、正気ですか?」

モバP「そ、それとここは僕が所属する事務所の中なんですけど……」

モバP「堂々と引き抜きの話なんてしちゃっていいんですか?」

ちひろ「誰もいないのはわかってますから」

ちひろ「それにあなたの社長からも承諾は得ています」

モバP「え……」

ちひろ「あんなゴミはくれてやるって言われましたけど、正直私にはダイヤの原石にしかみえませんけどね」

モバP「……」

モバP「いや、社長の言う通りですよ。僕なんて……」

ちひろ「そんなに卑下しないでください。あなたは間違いなくいいプロデューサーになります」

モバP「どうしてそう思うんですか?」

ちひろ「あなたの父親がどんな人だったか知っているからです」

モバP「僕の父さんを知っているんですか?」

ちひろ「はい。こっちの業界では有名人ですから」

ちひろ「その息子がこっちの業界にいるという情報を小耳に挟んで調べてみたらびっくりですよ」

ちひろ「まさか中堅事務所の雑用係をしていたなんて思いもよりませんでした」

モバP「と、父さんが凄くたって僕は……」

ちひろ「大丈夫です。あなたは誠実で真面目ですし絶対いいプロデューサーになります」

ちひろ「まぁ、度胸があったらもっといいんですけど……」

ちひろ「そこは今後鍛えていくんで目を塞いでおきます」

ちひろ「今はダメでも今後の伸びしろに私は期待しているんです」

ちひろ「それに私の話を断ると路頭に迷いますよ?」

ちひろ「あなたは実質あの社長からクビ宣言をされているんですから」

ちひろ「まぁ、プロデューサーになりたいって夢を諦めたいなら別ですけどね」

モバP「そ、それはいや……です!」

モバP「でも、今の僕には昔のような熱い情熱がないような気がするんです……」

モバP「僕は昔から父さんの職業、アイドルのプロデューサーになるのが夢でした」

モバP「勿論父さんに憧れてというのもあります」

モバP「でも、一番のきっかけは子供の頃にみたアイドルのコンサートでした」

モバP「そのステージに立っているアイドルはとってもキラキラしていました」

モバP「普通の女の子だったはずなのに今はどうしてこんなにも輝いているのか子供の僕は不思議でしょうがなかったです」

モバP「その子にもしかしたら魔法がかかっているんじゃないか。そう疑いました」

モバP「そして、僕はそのとき気づいたんです。この魔法は僕のお父さん。アイドルのプロデューサーがかけているものなんだって」

モバP「そこから僕はその魔法使いになりたくて今日まで頑張ってきました」

モバP「でも……僕にはもう昔抱いていた感情はとうに消え失せているような気がするんです」

ちひろ「そうですか……じゃあ確かめてみますか?」

モバP「え?」

ちひろ「じゃーん。これはなんでしょう」

モバP(胸ポケットから取り出した封筒はなんだろう)

ちひろ「今日のシンデレラ舞踏会の招待状です!」

モバP「えぇ!? どうしてそんなものを……」

ちひろ「それは企業秘密です。ほら、ちゃんと貴方の名前ですよ?」

モバP「ほ、本当だ……! ぼ、僕の名前だ!」

ちひろ「ここで自分の気持ちを確かめてみてください」

モバP「あ、ありがとうございます! ちひろさん!」

ちひろ「どういたしまして」

ちひろ(この反応を見る限り感情なんて変わっていないようですね)クスクス

ちひろ「ただ、今のままではいけませんね」

モバP「え?」

ちひろ「ふふ、今夜は私がモバPさんに魔法をかけてあげます」

モバP「ど、どういう意味ですか?」

ちひろ「モバPさんを私の腕で輝かせてあげますよ!」

ちひろ「さぁ! そうと決まればうかうかしていられません!」

ちひろ「私についてきてください!」

モバP「あ! ちょっと! ちひろさん!」

東京某所 美容院

美容師「今日はどういった髪型にしますかー?」

モバP「え、えっと」

モバP(こんな高そうでお洒落な美容院来た事ない……)

ちひろ「今日は披露宴みたいなものがあるのでとにかく格好よくしてください!」

美容師「かしこまりました」ニコ

モバP(ぼ、僕はどうなるんだろう……)

一時間半後

美容師「はい、できました」

美容師「いやー、こんなにも切ったりセットするのが楽しかったお客様は初めてですよ」

美容師「見違えましたね」

ちひろ「か、顔の形はいいと思ってましたけど……」

ちひろ「まさか髪型をしっかりするだけでここまでイケメンに様変わりするなんて……」

ちひろ「モデルさんっていわれても違和感ないですよ」

美容師「そうですね」

モバP「そ、そうですか?」

モバP「お、おかしくないですかね?」

美容師・ちひろ「「とんでもない!」」

モバP「そ、そうですかね?」

ちひろ「よーし! なんだかさらにやる気が出てきました!」

ちひろ「つぎは洋服をどうにかしましょう!」

モバP「で、でもここのお代……」

モバP「僕、そんなにもってないですよ?」

ちひろ「あ、ここのお代は私が払っておきますから安心してください!」

モバP「い、いいんですか?」

ちひろ「はい♪」

ちひろ(その代わりうちの事務所に来たらスタドリをたんまり買わせますけどね)

鬼「ちひろ様と同格など」
悪魔「恐れ多い」

東京某所 スーツ店

ちひろ「ふふ、スーツで他のプロデューサーに負けるわけにはいかないですからね」

モバP(う、うわ……凄い高そうなお店……)

モバP(こんなところにいるのって場違いのような気が)

店員「今日はどうなされたんですか?」

モバP「え、あ、その……」

モバP(洋服屋さんの店員さんに話しかけられるとどうも戸惑ってしまう)

ちひろ「なに戸惑っているんですか。それでもプロデューサーですか?」

モバP「ご、ごめんなさい」

ちひろ「すいません! この店で一番高くて彼に似合うスーツを持ってきてください!」

モバP「ええ!?」

店員「かしこまりました」

数十分後

試着室前

ちひろ「準備できましたかー?」

モバP「い、一応できましたけど」

ちひろ「じゃあ出てきてください」

カシャー

モバP「ど、どうですか? おかしくないですか?」

ちひろ・店員「「!」」

ちひろ「これは……」

店員「こ、ここまでお似合いになるお客様は初めてです」

ちひろ「ほ、本当ですね…」

ちひろ(この様子だとモデルやったほうがモバPさんのためになるんじゃないですかね)

モバP「あ、あんまりジロジロみないでもらえますか?」

ちひろ「あ、ご、ごめんなさい」

ちひろ「えっとー、それでこれ一式でいくらですか?」

耳打ち

店員「……」ゴニョゴニョ

ちひろ「あ、そんなもんですか」

ちひろ「じゃあ現金でお願いします」ス

モバP(え!? 今、数枚じゃきかない諭吉さんをあの店員さんに)

店員「かしこまりました」

――

洋服店前

ちひろ「ふー。だいぶ見違えましたね」

モバP「そ、そうですかね?」

ちひろ「きっと舞踏会ではモテモテですよ!」

モバP「あはは。流石にそれはないですよ」

モバP「アイドルが僕に興味を示してくれるなんてありえませんから」

ちひろ(モバPさんは自覚がないから天然たらしとかになりそうです)

モバP「今日はなにからなにまでありがとうございました」

ちひろ「いえいえ」

モバP「僕はこれから自分の気持ちを確かめに行きますね」

ちひろ「はい。私はあなたに精一杯の魔法。プロデュースをしてあげました」

ちひろ「私にとってもあなたにとっても、いい結果になることを祈りますね」ニッコリ

モバP「はい!」

ちひろ「あ、でも9時までにはうちの事務所に来てくださいよ?」

モバP「え? どうしてですか?」

ちひろ「その時間帯に営業に行っていた社長が帰ってくるんです」

ちひろ「そこで社長が顔を合わせたいと言っていました」

ちひろ「だから、もし舞踏会で自分の気持ちを確かめてプロデューサーになろうと思ったなら9時にうちの事務所に来てください」

ちひろ「いいですね?」

モバP「はい。わかりました」

モバP「……」

モバP「でも、もし僕が――」

ちひろ「大丈夫ですよ。そのときはそのときです」

ちひろ「っと、もう舞踏会は始まっていますよ?」

モバP「あ! もうそんな時間だったんだ……」

モバP「じゃあ僕は行きますね!」タッタッタ

ちひろ「いってらっしゃーい」

ちひろ「……」

ちひろ「頑張ってくださいね」クス

とりあえず今日はここまで。

また明日か明後日

都内某所 パーティー会場

凛「……」

プロデューサーA「あ、渋谷凛くんだね。私は○○プロダクションの――」

プロデューサーB「凛ちゃん! ちょっと向こうでお話しな――」

プロデューサーC「渋谷さん! もしよければこの名刺に書かれた番号に電話を――」

先輩P「俺は――!」

先輩P(くそ! 人が群がっていてちゃんと会話できねー!)

ワラワラ ガヤガヤ

凛P「あなたたちなにをやっているんですか!」

凛P「この場でアイドルの引き抜きをするのはマナー違反ですよ!」

凛P「さぁ! 凛から離れてください!」

一同「「……」」スタスタ

「ちぇ……なんだよくそ」「まぁ、まだチャンスはある」「本番はこれからだ」「次こそは必ず……!」

凛P「一応みんなどこかへ行ったみたいだな」

凛P「まったく……元はといえば凛がうちの事務所をやめたいなんて言い出さなければこんなことにならなかったんだ」

凛P「それが週刊誌にばれてネットなんかでも話題を呼んでしまったのは知っているよな?」

凛「……」

凛P「ことの重大性がわかっているのか?」

凛「ごめん……」

凛P「お前にはまだまだ稼いでもらわなくちゃいけないんだ」

凛P「変な荒波を起こすなよ」

凛「うん……」

凛(……)

凛(この人にはきっと私がお金に見えているんだと思う。もしくは道具かもね)

凛(さっきまでいた他のプロデューサーも同じ)

凛(どうせみんな私のことをアイドル、『渋谷凛』としてしか見てくれていないんだよ)

凛(『渋谷凛』という偶像を扱い金儲けをすることしか考えてない。きっとね)

凛(プロデューサーや業界人は誰も私のことなんて見てくれてない……)

凛(金のなる木。そんなイメージしかないんだと思う)

凛(私はそれが原因でアイドルをやめようと考えた)

凛(私のことをお金だと思っている大人たちは、私に商品価値がなくなれば平気で捨てるだろうからね)

凛(だったら、売れている時期にやめてしまった方が悔しみもなく終われるかなって思ったんだ)

凛(まぁ、でも仕方ないのかもね。業界の人たちも商売でやっているんだから。お遊びじゃない)

凛(でも……)

凛(正直のところアイドルを辞めるのは……嫌だな)

凛(ファンの方や事務所の仲間のことを考えると……胸が痛くなる)

凛(ファンや事務所の仲間は私のことをちゃんと私として見てくれるからね)

凛(そこさえなければもっとすっぱりアイドルをやめられたんだけど……)

凛(でも、もうやめるって決めちゃったし)

凛(事務所は渋っているけど、なんとしてでも私は事務所を抜ける)

凛(あとそれから……)

凛(もし私のプロデューサーが、うんうん。もっと違うプロデューサーでもいい」

凛「その人が私のことをちゃんとお金としてじゃなくて見てくれていたら、まだアイドルは続けられていたかもね)チラ

凛P「どうかしたのか?」

凛(この様子だとどう転がっても無理だろうけど)

凛「うんうん。なんでもないよ。ちょっと外の風に当たってくるね」スタスタ

凛P「あ、おい! 変なPに話しかけられても無視するんだぞ!」

凛「わかってるよ」

はりきって夜に投下します。

パーティー会場前

凛「ふー」

凛「……」

凛「寒い」

凛(ドレスとストールだけで外に出るのはやっぱり自殺行為だよね……」

凛「ま、あの息が詰まりそうな会場よりかはましかな」

凛(このまま帰っちゃおうかな)

凛(……後が面倒だしやめとこ)

コツコツ

凛(ん? あれ、誰かな?)

モバP「こ、ここが会場か」

モバP「緊張してきた…」

凛(身長が高くてびっしりとスーツが似合ってる)

凛(モデルみたいな人……)

凛(会場を見てるってことは今回の舞踏会の参加者かな)

凛(男だしプロデューサーなんだろうけど)

凛(あんな人見たことない。現場にいれば目立つだろうから記憶に残っているだろうし)

凛(でも見たことないってことは……新人?)

凛(それともこの会場のスタッフかな)

モバP「……」チラ

凛「あ……」

凛(やば、目合わせちゃった)

モバP「あ、えっと、どうしようかな」

凛(なにか話し掛けたそうな素振りをしているけど……)

モバP「あ、あの!」

凛「なに?」ビク (声大きい……)

モバP「こ、ここはシンデレラ舞踏会の会場で合っていますかね?」

モバP「あ、いや! えっと僕は怪しいものじゃなくて一応? プロデューサーの人間なんですけど……」

凛(この人プロデューサーなんだ……全然そんな風には見えないけど)

凛(でも見たことないってことは新人Pなのかな)

凛(そういえば変なPに話しかけられても無視しろって言われてたっけ)

凛(今回は不可抗力ってことで別にいいかな)

凛「なんで私に話しかけたの?」

モバP「それは…その。ドレスを着てるし参加者の人かなって」

凛「ふーん。そうなんだ」

モバP「も、もし間違ってたら、ごめんなさい」

凛(プロデューサーのわりには気弱な人…)

凛(仕事取ってくる時とかどうしてるんだろう)

凛(まぁ、こういうタイプのプロデューサーは嫌いじゃないかも)

凛「随分と頼りないプロデューサーなんだね」

モバP「あ、あはは……そうですかね」

凛「うん」

凛「だから、しょうがないから教えてあげるよ」

凛「私は参加者でここはシンデレラ舞踏会の会場で間違いないよ」

モバP「そ、そうですよね! あー、よかった」

モバP(念のため確認しておいたけどやっぱりここでいいみたいだ。よし)

モバP「……?」

凛「どうかした?」

モバP「ああ、いや別に」

モバP(この子、参加者ってことはアイドルだよね)

モバP(この子のことを知っているような気がするんだよなー)

モバP(まぁ、いいか。アイドルなら顔くらい見たことあるはずだしね。今はこの子が誰かは置いておこう)

モバP(急がないとイベントが終わっちゃうしね!)

モバP「ありがとうございます! じゃあ僕は早速中に入ることにします!」

モバP「あ、でもあなたはどうするんですか?」

凛「私はまだここにいるから大丈夫」

モバP「でも風邪を引いたら」

凛「大丈夫だから」

モバP「そうですか…」

モバP「じゃあ、また中で会いましょう」スタスタ

凛「うん」

凛(ちょっと頼りなさそうなプロデューサーだったけど優しそうな人だったね)

凛(見た目だけはかっこいいし。私のプロデューサーとは大違い)

凛(ああいうプロデューサーも中にはいるんだね…)

モバP(うーん。でもあの子本当に誰だったんだろう)

モバP(凄い輝いてるように見えたし結構有名な子なのかな?)

モバP(っといけないいけない。そのことは置いておくんだった)

モバP(今は早く会場の受付に向かわないと)

モバP(あーでも緊張するなー)

モバP(ここにたくさんのアイドルやそのプロデューサーがいるって考えると)

モバP(おなか痛くなってきた……)

モバP「……」スタスタ ガチガチ

凛(……)

凛(緊張してるのかな? 凄い硬くなってる)

凛「はぁ……。しょうがないな、もう」スタスタ

凛「ねぇ」

モバP「え?」

凛「やっぱり私も中に入ろうとおもうんだ」

モバP「あ、え? そ、そうですか! あはは、実を言うと一人じゃ心細くて…」

凛「あんたそれでもプロデューサーなの?」

モバP「それを言われてしまうとなにも言えないんだけど…ごめん」

凛「名前は? それから敬語は別にいらないから」

モバP「え? モバPです…じゃなくて。だけど」

凛「モバP。モバPのところのアイドルは苦労してそうだね」

モバP「あはは、まだ担当アイドル持ったことないから今後苦労させちゃうのかもね」

凛「そうなの?」

モバP「うん」

モバP「まぁ、やめちゃう可能性もあるしもしかしたら一生持てないかもしれないけど」ボソ

凛「なにか言った?」

モバP「うんうん。なんにも言ってないよ」

凛「そっか」

凛「そういえばまだ名前、名乗っていなかったね」

凛「私の名前は渋谷凛。よろしくね」

モバP「しぶや、りん?」

モバP「あのトップアイドルの!?」

凛「え? もしかして知らないで会話していたの?」

モバP「う、うん。ごめんね……」

モバP「うわー! でもそっかあのアイドル渋谷凛なんだ!」

モバP「だから僕は知ってたんだ! どうして気付かなかったんだろう!」

モバP「通りで輝いているわけだね!」

モバP(これもきっとプロデューサーの魔法のおかげなんだろうなー!)

モバP(渋谷凛ちゃんのプロデューサーさんに会ってみたいなー)

凛「プロデューサーなのになんでファンみたいな反応してるの?」

モバP「ご、ごめんね」

凛「さっきから謝ってばっかりだし」

モバP「ご、ごめ――あ」

凛「その癖、やめたほうがいいよ」

モバP「そ、そうだね」

凛(この人本当にプロデューサーなのかな? なんだか不安になってきた…)

凛「ねぇ、聞きたいんだけど。所属している事務所ってどこなの?」

モバP「えーっと……○○プロダクション、かな?」

凛「なんで疑問形?」

モバP「それには色々あって…まぁ、細かいことは気にしないでよ。あはは」

凛(ますます怪しくなってきた…)

凛(まぁ、悪そうな人じゃないし大丈夫、だと思う)

パーティー会場内

ガヤガヤ

モバP「凄い人だね。本当に舞踏会みたいだ」

凛「踊ってなんていないけどね」

凛「どうして舞踏会、なんて名前がついているんだろう」

モバ「ほんとうなんでだろうね」

凛「……」

凛(さっき受付の人に見せた招待状を見る限り本物のプロデューサーみたい)

凛(まぁ、新人だからあんな反応したのかな?)

凛(だとしたら納得できるけど)

モバP「へぇーでもここにいる人全員がアイドルやそのプロデューサーなんだ…」チラ

モバP「あ! あそこにいるのは十時愛梨ちゃんだ!」

モバP「あそこには神崎蘭子ちゃん!」

モバP「うわー! どれも本物だぁ……」キラキラ

モバP「みんなやっぱり綺麗に輝いているなー」

モバP「元はみんな普通の女の子だったのに……すごいなぁ」

凛「ねぇ、モバP。動物園にいる子供みたいだよ?」

モバP「そ、そうかな? あはは、アイドルを見てはしゃぐなんてプロデューサーとしてだめだよね」

凛「……」

凛「うん。そうだね」

凛「でも、別にいいんじゃない」

モバP「え?」

凛「アイドルを見てはしゃげるなんてプロデューサー業が板に付いたらなくなってしまうものだから」

凛「今はそれでも別にいいと思うよ」

モバP「そうかな? 僕は有名じゃないもしくは成り立てのアイドルとか見ても興奮しちゃうけど……」

凛「興奮?」

モバP「ああ、変な意味じゃなくて」

モバP「この子がどんな風に今後輝いていくのかなって想像すると興奮しちゃうんだ」

モバP「今みたいにね」

凛「ふーん」

凛「でも、そのうちきっと考えることは変わってくると思うよ」

モバP「どんな風に?」

凛「このアイドルはどのくらいの利益が出せそうか」

凛「きっと歳を重ねていけばこういう考えに変わっていくはず」

モバP「ず、随分と生々しいことを言うね」

凛「……商売だから」

モバP「……」

モバP(トップアイドルだからこそ出る言葉……なのかな?)

凛「ごめん。ちょっと暗くなったね」

モバP「そうだね」

凛「あ……」

凛「今、十時さん手が空いたみたいだよ」

凛「呼んでみる?」

モバP「い、いいよ別に! ほら、それに渋谷凛っていうトップアイドルとお話が出来るってだけでも凄いことなんだし」

モバP「あ、でも渋谷凛ちゃんのプロデューサーさんの方がお話してみたいかも…」

凛「なにそれ。私じゃ不満?」

モバP「ああ、いやそういうわけじゃないけど……」

凛「別に気にしてないから弁解とかいいよ」

凛「でも、モバPはうちのプロデューサーとは会わない方がいいよ」

モバP「どうして?」

凛「どうしても」

モバP「ど、どうしてそんな気になるような言い方するかな……」

ヒソヒソ ガヤガヤ

「おいあいつ誰だ」「みない顔だな」「どこの事務所の人間だ」

モバP「ん? なんか注目が集まってるような気がするんだけど……」

凛「……」

凛「気のせいじゃない?」

とりあえず今日はここまで

今夜投下します

モバP「だといいんだけどね」

モバP「それにしてもみんな本当に輝いていていい顔してるね」

凛「アイドルだからね。当然だよ」

モバP(彼女たちはきっと最初はどこにでもいる普通の女の子だった)

モバP(この渋谷凛ちゃんも)チラ

モバP(普通の学校に通って普通の勉強をして)

モバP(もしかしたらアイドルになる前は恋愛なんかもしていたのかもしれない)

モバP(そのことで悩んだりしていたのかもしれない)

モバP(アイドルとは遠い世界で暮らしていた)

モバP(けれど彼女たちは今この会場にいる)

モバP(プロデューサーがかけた魔法のおかげで)

モバP(僕も……僕もできるなら!)

モバP(ここにいるアイドルたちのように女の子に魔法をかけてみたい!)

モバP(僕みたいな気弱でプロデューサーらしくない人間には無理かもしれない)

モバP(けど、それでも僕はアイドルのプロデュースがしたいんだ!)

モバP(小さい頃にみたステージのアイドルのように! ここにいるアイドルたちのように!)

モバP(僕は女の子たちを輝かせたいんだ!)

モバP「あ……」

凛「どうかしたの?」

モバP「いや……」

モバP(なんだ……もう答えは出てたんだ)

モバP(僕はアイドルのプロデュースがしたい。その気持ちに変わりなんてなかったんだ)

モバP(幼い頃に思い抱いた感情は決して消え失せてなんていなかった)

モバP(色々事務所であったせいで感情に曇りがかっていただけなんだ)

モバP(僕は……まだなれる)

モバP(僕はまだアイドルのプロデューサーになれるんだ!)

モバP「あはは。どうして気付かなかったんだろう」

モバP「いや、ここに来たからこそ気づけたのかな」

モバP「ありがとうちひろさん。僕はまだまだやれるようです」

モバP(それから父さん。あの時は限界とか思ってしまったけどまだまだやれそうだよ)

モバP(あははじゃあそうと決まったらもう○○事務所を目指そうかな)

モバP(折角ここに来たのに勿体無い気もするけど……)

モバP(でも、もう僕は満足した)

モバP(次に来るときは一人前のプロデューサーになってアイドルたちを引き連れて来たいな)

モバP(それまでこの会場はお預け)

モバP(また来れる日を思いながら今日から頑張ろう)

モバP「渋谷凛ちゃん。今日はありがとうね」

凛「え? もう帰るの?」

モバP「うん。この後用事があるからね」

凛「そっか。なら仕方ないね」

モバP「ありがとうね。話せてよかったよ」

凛「どういたしまして」

凛「私もいい退屈しのぎになったよ」

凛「それと……」

凛「面倒なのもモバPがいてくれたから近寄ってこなかったし」

ヒソヒソ

モバP「あ」

モバP(そういえば渋谷凛ちゃんって事務所との不仲説があって退所する噂があったんだっけ…)

モバP(もしかしたら今日この会場でいろんなプロデューサーからお誘いを受けたのかもしれない)

モバP「えっと、僕が帰ったらまずい?」

凛「別に気にしなくてもいいよ。私も、もう帰るから」

モバP「え? 最後までいなくていいの?」

凛「もういいよ。ここにいたってなにもすることないし」

凛「私のプロデューサーに後で色々言われるだろうけど」

凛「適当に家に帰る用事ができたからって言い訳するから」

モバP「君がいいなら僕はそれでいいけど……もし帰るところが今ばれたら」

凛「フラッと抜け出せば気づかれないよ」

モバP「そう?」

凛「うん。じゃあ、いこっか」スタスタ

モバP「あ、ちょっと待ってよ!」

――

先輩P「くっそ」

後輩P「先輩、全然だめだったんっすか?」

先輩P「ああ、そりゃもうな」

先輩P「まだ会話できるならましだ」

先輩P「あの人混みじゃ会話すらままならない」

後輩P「た、大変そうっすね」

先輩P「ああ本当そうだ」

後輩P「そういえば渋谷凛ちゃんは全然みかけないっすけどどうしたんっすか?}

先輩P「さぁな。15分前に消えてそれっきりだ」

先輩P「くそ。事務所に帰ったらモバPを締め上げなきゃ気が収まらねーな」

後輩P「先輩! 手伝うっすよ!」

先輩P「お、じゃあなにしてやるかな」

ヒソヒソ ガヤガヤ

先輩P(今気づいたがやけに周りがざわつき始めてるな。なにかあったのか?)

先輩P「ん? あいつは……」

後輩P「どうかしたんっすか?」

先輩P「あ、いや…」ゴシゴシ

先輩P「俺は目が狂っちまったのか?」

先輩P「あそこにモバPが……しかも隣にいるのは渋谷凛だ!」

後輩P「あ、あれっすか? 先輩Pさん似てますけど別人っすよ」

後輩P「第一あんなにかっこよくないっす」

先輩P「いや間違いなくあいつだ!」

後輩P「はい? だってここは招待状がなければ」

先輩P「きっとあいつは偽物かなにかを作ってこの会場に入ってきたんだ」

先輩P「どうやって作ったかはわらかないがな」

先輩P「しかも俺たちにわからないようにするために着飾ってやがるんだ」

後輩P「なるほど! それは許せないっすね! だったら早くとっちめて」

先輩P「いや、焦るな。これはチャンスだ」

後輩P「え?」

先輩P「やつを利用して渋谷凛と交渉をする」

先輩P「理由はわからないがあいつは今渋谷凛と一緒にいる」

先輩P「雰囲気を見ても悪い感じじゃなさそうだ」

先輩P「いくぞ!」

後輩P「う、うっす!」

――

凛「ほら、急がないと扉開けていくよ?」

モバP「待って!」

モバP「お、おわっと!」

ドスン

凛「何転んでるの?」

モバP「いや、急いでたらつまづいちゃって……」

凛(本当、頼りないなー……)

凛「はぁ……大丈夫?」

凛「手、掴まって」ス

モバP「あはは、ごめんね」

凛「子供じゃないんだから」

モバP「そ、そうだね。ありがとう立たせてくれて」

とりあえず今日はここまでにします。

次は書き溜めしていっきに終わらせるため来週投下します。

書き溜めて終わらせようかと思ったら思いの外時間が取れなかったんで

最後までは書けませんでした。なので、とりあえず切りのいいところまでは投下したいとおもいます。

具体的には八時くらいに投下します

先輩P「モバP!」

モバP(こ、この声は!)

モバP「せ、先輩?」

モバP(やばいもしかしたらいつもみたいにまたいびられちゃうかも!)

先輩P「いやー、モバPじゃないか。今日は来てたのか」

モバP(あれ? いつもと雰囲気が違うような)

後輩P「モバPさん! 今日はいつもより一層男前っすね!」

モバP「えーっと。そう?」

モバP(後輩君もいつもと感じが違うような…)

先輩P「そこにいるのは渋谷凛君かな?」

凛「そうだけど」

凛「誰?」ボソボソ

モバP「えっと僕の『元』事務所の先輩さんだよ」ボソボソ

凛「ふーん」

先輩P「モバPとはどういう関係なんだい?」

凛「さっき外で話しただけの関係だよ」

先輩P「そうだったのか! 仲良さそうにしていたからびっくりだったよ」

先輩P「そういえば名乗るのがまだったね。これ名刺ね」

後輩P(おー! 先輩さすがっす! 自然に名刺を渡したっすよ!)

凛「どうも」

先輩P「そうだ。もしよかったら今度うちの事務所に遊びにこない?」

先輩P「モバPはいつでも事務所にいるから会えるし、もし気に入ったなら一度だけでもいいから」

モバP「せ、先輩。実はちょっと話さなければならないことがあるんですけど」

モバP「事務所ではその。いつでもあえないというか。もう二度と事務所にはいないというか」

先輩P「なに?」

モバP「そのー……なんていいますか」

モバP(うわー。後でしっかり挨拶しなきゃと思ってたけどまさかこのタイミングで言うことになるとは)

モバP(よ、よし。ここは腹を括ってしっかり言おう!)

モバP「先輩! この度私モバPはあの事務所を去ることになりました!」

先輩P「あ?」ギロ

先輩P「お前、今うちの事務所を去るっつったか?」

モバP「は、はい……」

モバP(め、めっちゃ怒ってる! そりゃ突然やめるなんて言ったら怒るよね)

後輩P「モバPさん本当なんすか?」

モバP「う、うん。とある事務所からお誘いを受けてね」

先輩P「お前、それがなにを意味しているのかわかっているのか?」

モバP「えーっと。そうですね。事務処理をする方がいないので新しくできる方を補充しなきゃいけなくなりますね」

先輩P「違う。そんなのはどうとでもなる。問題はお前が事務所を裏切った。そのことだ」

モバP「裏切ったもなにも社長からクビ宣告されて――」

先輩P「また言い訳か!?」

モバP「ご、ごめんなさい!」ビシ

先輩P「大体お前が他所の事務所にいってもプロデューサーが務まるわけがないだろう」

モバP「……」

モバP(このまま言われっぱなしでいいのかな?)

モバP(今まではなにも言い返してこなかったけど……」

モバP(でも、僕はちひろさんのいる事務所でプロデューサーになるって決めたんだ)

モバP(このまま言われっぱなしでいいわけがない!)

モバP「それは、やってみなくちゃわからないと思います」

先輩P「あ?」

モバP「う……」

モバP(逃げちゃダメだ)

モバP「た、確かに僕はダメダメかもしれません」

モバP「でも、物事やっぱりやってみなくちゃわからないと思うんですよ」

先輩P「お前、随分言うようになったじゃねーか」

先輩P「そうだな。じゃあ一つゲームをするか」

先輩P「そこの渋谷凛に俺とモバPだったらどっちのアイドルになりたいか決めてもらうんだ」

モバP「え……」

先輩P「いいかな?」

凛(さっきとこの人キャラ変わりすぎ…)

凛(まぁ、猫被ってたってことかな)

凛(怒りのあまり今はその猫が取れちゃったみたい)

凛「別にいいけど」

先輩P「ありがとう」

先輩P「なぁ、知ってるか」

先輩P「こいつプロデューサーとして事務所に三年間勤務していたんだが事務処理以外の仕事をしたことがないんだ」

先輩P「三年間も事務処理しかしたことがないプロデューサーなんて飛んだ笑い話だろう?」

凛「ふーん。そうなんだ」チラ

凛(なるほどね。プロデューサーっぽくないと思ったら事務員をやってたんだ)

モバP「……」

先輩P「理由はこいつを見ていればわかるだろう?」

先輩P「情けなくて度胸もなくてプロデューサーとして以前に男として終わってやがる」

先輩P「それに比べて俺はプロデューサーとしての実績を持っていて男としても頼りになるぜ」

後輩P「そうっすよ! 先輩はとっても頼りになるっす!」

後輩P「モバPさんはその真逆っすよ!」

先輩P「渋谷。冷静に考えろ。どっちのアイドルになってみたいんだ?」

モバP(先輩のいってることは正しい。間違ってはいない)

モバP(悔しいけど先輩の言っていることを否定することができない)

モバP(僕みたいな人間よりも先輩みたいな仕事が出来て頼りになるプロデューサーのほうがいいに決まってる)

モバP(アイドルなら絶対先輩を選びたがるはずだ)

モバP(この渋谷凛ちゃんだってきっと……)

凛「そうだね。確かにモバPは頼りなくて男らしくないね」

凛「普通に考えればあんたを選ぶ」

先輩P「そうだろ?」

モバP(やっぱりそう、なるよね)

凛「でもね」

モバP「え?」

凛「私はモバPを選ぶよ」

先輩P「は? おいおい。聞き間違いか? 今モバPを選ぶって言ったか?」

凛「うん。悪い?」

先輩P「はっはっは! 後輩P、どうやら渋谷凛はあまり頭が良くないみたいだぜ!」

後輩P「そ、そうっすね」

後輩P(あー、先輩めっちゃ怒ってるっす……もう渋谷をうちに引き込もうとかそういうのが頭から抜けてるっすよ)

先輩P「理由は?」

凛「短い時間しか彼とはいないけど人柄の良さが伝わってきたから」

凛「そして、あんたは会って数分もたってないけど人柄が悪いのがわかったから」

凛「私はどんなに実績があって頼りがいのあるプロデューサーでも人柄が悪ければ選ぶことはないよ」

凛「だからモバPを選んだの」

モバP「凛ちゃん……!」

先輩P「……」チ

先輩P「おい。いくぞ」スタスタ

後輩P「うっす!」スタスタ

先輩P「それからモバP。お前二度と俺の前に面見せるなよ」

モバP「は、はい」

先輩P(あのくそがき……あんな女を事務所に入れようと思った数分前の自分が恥ずかしいぜ)

凛「……いこっか」スタスタ

モバP「う、うん」

モバP「ねぇ、渋谷凛ちゃん」

凛「さっき、下の名前で呼んだでしょ?」

モバP「そ、そうだった? ごめん」

凛「うんうん。下の名前でいいよ。フルネームじゃ呼びにくいでしょ?」

モバP「そういえばそうだね」

モバP「じゃあ凛ちゃん」

モバP「その、ありがとうね」

凛「なにが?」

モバP「さっき僕に気を使ってくれたんでしょ?」

凛「そんなんじゃない。私気を使うのとか苦手だから」

モバP「じゃあ……」

凛「あれは本心だよ。嘘偽りのないね」

モバP「そ、そうなんだ。あははちょっと嬉しかったかも」

凛「ま、できることならモバPをプロデューサーにはしたくないけどね」ニコ

モバP「え? そ、そんな……」

凛「じょ、冗談だよ! そんな泣きそうな顔しないでよ」

モバP「う、うん」

凛「でも、モバPって事務員みたいなことしてたんだね」

モバP「あはは、恥ずかしいけどね」

モバP「でも、今後はプロデューサーとしてやっていくからね!」

凛「そっか。頑張ってね」

モバP「もちろん!」

モバP(これで先輩や後輩君ともおさらばか……)

モバP(理不尽なことばかりされていたけどあれもいい経験だったのかな?)

凛「いいね。なにかに頑張れるって」

モバP「ん? どうして?」

凛「今の私は頑張れていたことが頑張れなくなってるから」

凛「だから、素直に羨ましいかも」

モバP「そうなの?」

凛「うん。私も昔はあんなに一生懸命だったのにな……」

凛「って、なに言ってるんだろう私。ごめん。今の忘れて」

モバP「う、うん。わかった」

モバP(そう言われてもなかなか忘れられないけどね)

モバP(これはアイドルのことを言ってるのかな?)

モバP(もしかして今の発言が移籍するっていう噂に関係してたりして)

モバP(……変に勘ぐるのはやめよう。きっと彼女にだって言いたくないことなんだろうしね)

凛P「凛!」

凛「ぷ、プロデューサー!?」

凛(やばい! 見つかった!?)

モバP「え?」

凛P「見てたぞ」

凛「見てたっていつから?」

凛P「お前たち二人がこの会場に入ってきたときからだ」

凛P「人混みに紛れてずっと観察していた」

凛P「一体どういった関係なのかってね」

凛P「まぁ、見た感じまだ出会って間もないみたいだったけど」

凛「……」

凛P「そこの君!」

モバP「僕ですか?」

凛P「そう君だ。どこの事務所の人間だ?」

モバP「えーっと。○○プロダクションです」

凛P「聞いたことのない事務所だな。まぁいい」

凛P「初めに言っておくけど凛はやらないからな」

モバP「や、やらない? 僕はただ凛ちゃんと喋っていただけなんですけど……」

モバP(もしかして引き抜きだと勘違いされているのかな?)

モバP(うわー。でもこの人が凛ちゃんのプロデューサーかー)

モバP(僕とは違って貫禄があるね)

凛「ち、違うよ。彼は私を引き抜こうとするために一緒にいたんじゃないんだよ」

凛P「どうだか……どうせいい顔して凛を取り込もうとする魂胆なんだろ」

凛P「凛、お前は騙されているんだ」

凛「そんなことない。モバPはそんなような人じゃないよ」

凛P「たった数十分の関係でなにがわかるっていうんだ」

凛P「大体、変なPに話しかけられても無視しろって言っただろ」

凛「それは……外で彼が困っていたんだよ。それで助けてあげてその流れで……」

凛P「言い訳はしなくていい」

凛P「君、どうやら今から帰るみたいだね。さっきしゃべっている内容がチラッと聞こえたよ」

モバP「そ、そうなりますね」

凛P「どうせ一緒に帰ってさらに仲良くしようと考えていたんだろうけどそれはさせない」

凛P「一人で帰ってくれないか? 凛は舞踏会にまだ参加するから」

モバP「あー、いえ。僕はそんなつもりじゃなかったので……」

モバP「それは全然構いません」

モバP(すっごく疑われちゃってるなー……誤解を解こうにも話聞いてくれなさそうだし)

モバP(ちょっとだけお話してみたかったけど、こうも初対面から好感度が低いとそれも無理だよね)

凛P「そうか。なら、帰ってくれ」

凛P「そして二度と凛に話しかけないでくれるか?」

モバP「あ、あはは……はい」

凛「私も一緒に帰るよ」ムス

凛P「どうしてだ?」

凛「あんな会場にいたくないから。プロデューサーとしても私が帰ったほうが都合がいいんじゃないの?」

凛「引き抜きだとか気を揉まなくて済むんだからさ」

凛P「それはだめだ。ここで帰らせたらあの噂が本当であることを俺たちが言っているよなものだからな」

凛「別にいいじゃん。そんなの」

凛P「よくない。お前にはそれがわかるだろ?」

凛「わからないよ……」グ

凛「私はもう帰るって決めたんだよ? だから行かせて」 

凛P「だめだ」

凛「私は人間! 道具じゃない! あんたの言うことばかりは聞いていられない!」

凛「大体さっきだってなに!? 二度と凛に話しかけるなとか言ってたけどあんたにそんな強制力があるの?」

凛P「あるさ。俺はアイドル渋谷凛のプロデューサーだからな」

凛「プロデューサーだからってそんなのないよ!」

凛P「お前はうちの事務所の所有物だ! そして、俺はその物を操るための人間だ」

凛P「だから、そのくらいの強制力があって当たり前じゃないか」

凛「私はものじゃない! 道具じゃない!」

凛P「うちの事務所と契約している以上お前はものだ!」

凛P「ほら、くだらないこといってないで戻るぞ」ガシ

凛「いや!」

モバP「あのー……」

凛P「なんだ君。まだいたのか」

モバP「ちょ、ちょっと言い過ぎなんじゃないですか?」

凛P「なぜ君に言われなくちゃならない。これはうちの問題だ。首を突っ込まないでくれ」

モバP「そうかもしれないですけど……」

モバP「二人とも感情的になっているように見えますしお互い冷静になりましょう。ね?」

凛P「私は冷静だよ」

モバP「あはは。冷静だったらアイドルを道具呼ばわりなんてしないですよ」

凛P「私は冷静だと言っただろ。アイドルが道具だというのも私のちゃんとした意見だ」

モバP「あー……冗談ですよね?」

モバP「アイドルとプロデューサーは信頼関係が大事だし流石に今の発言は凛ちゃんに謝ったほうが…」

モバP「このままだと仕事に支障が出ちゃいますよ?」

凛「この人、本気だよ」

凛「この人には私が仕事をこなして人気を集めてお金を稼ぐ道具にしか見えてないんだよ」

モバP「それは、なんていうか。あはは、笑えないですね」

凛P「君にどう思われようと私は気にしない」

凛P「さあ、帰ってくれ」ギロ

凛(プロデューサー凄い怖い顔してる……)

凛(モバPだったら怖気づいて大人しく帰っちゃうだろうね)

凛(情けないし度胸ないし男らしくないし……)

モバP「帰りません」

凛「え?」

凛P「はぁ……凛のわがままだけで手一杯だというのに」

凛P「もう一度言う―」

モバP「アイドルを道具呼ばわりされて帰るわけにはいきません」

モバP「すみません。これだけはどうしても譲れません」

モバP「アイドルは人間です。決して道具ではありません」

モバP「訂正してください」

凛P「断る」

モバP「訂正してください!」

モバP「アイドルは老若男女あらゆる人間を魅了する存在です!」

モバP「それがただの道具にできると思いますか!?」

モバP「ただの道具があのような輝きを放てるというんですか!?」

モバP「僕はそうは思いません」

モバP「だから彼女たちは道具ではありません!」

凛P「ああ、そうかもしれないな。だが、私にとっては道具だ!」

凛P「君は君でその思いを持っておけばいい」

凛P「私は違う。ただそれだけのことだ」

モバP「……」

モバP「どういっても考えは変わらないみたいですね」

モバP「だったらせめて凛ちゃんに謝ってください!」

モバP「道具呼ばわりされて彼女は絶対傷ついているはずです!」

凛P「そうなのか? 凛」

凛「……別に」

凛「もう、あんたがそういう考えを持っているのはわかりきってたし」

凛「でも、嫌な思いになったのは確かだよ」

凛「けど謝らなくていいよ」

凛「謝って許せるような段階じゃないから」

凛P「凛…」

凛「私帰るね」

凛P「あ、おい!」

凛「ついてきたら舌噛み切るよ」

凛P「じょ、冗談だよな?」

凛「私は本気。そして、舌を噛んだらそこにいるモバPになにが原因だったか説明してもらうから」

凛P「く……」

凛「……」スタスタ

モバP「失礼します」ペコリ

――

イベント会場

着替え室前

凛「お待たせ」

モバP「うん」

モバP「その、大丈夫?」

凛「うん」

凛「プロデューサーね。普段はあんなこと直接私に言ったりはしないんだよ」スタスタ

モバP「そうなの?」スタスタ

凛「今日はイライラしてたから思わず言っちゃたんだと思う」

モバP「そうなんだね」

凛「みっともないところ見られちゃったね」

モバP「あははお互い様だよ」

凛「あ……」

凛(足、震えてる?)

モバP「ば、ばれちゃった?」

モバP「じ、実はさっき凛ちゃんのプロデューサーに食ってかかったときから足の震えが止まらないんだよ」

凛「怖かったの?」

モバP「そ、そりゃ怖かったよ! 僕はぺーぺーの新人だし凛ちゃんのプロデューサーに意見できるような人間じゃないから……」

凛「そうだったんだ。でも、なおさらどうしてあんな風に食ってかかったの? 怖かったんなら普通引き下がるでしょ?」

凛「とくにモバPは度胸ないんだし」

モバP「まぁ、そうなんだけど……」

モバP「怖いとかよりもやっぱり怒りのほうが先行しちゃったからなのかもね」

モバP「アイドルを道具呼ばわりされたら黙っていられないよ」

モバP「それに、ちょっと悲しかったな。あんな大きなプロデューサーがアイドルを道具発言するなんて」

凛「……」

凛「業界の大多数がそういう目でアイドル見てると思うよ」

凛「やっぱ商売だからね」

凛「モバPもそのうち…」

モバP「僕はならないよ」

凛「え?」

モバP「僕はそんなこと絶対思わない」

モバP「アイドルはね。僕の夢を叶えてくれる存在なんだ」

モバP「そんな存在をどうやったら道具なんて目で見れるのかな?」

凛「どういう意味?」

モバP「僕は昔アイドルを輝かせることが夢だったんだよ」

モバP「ああ、もちろんその夢は継続中だけどね」

モバP「アイドルなしでは僕の夢は叶わない」

モバP「だからそんな存在を道具、なんて目で僕は絶対に見れないよ」

凛「夢が叶ったら?」

モバP「夢が叶った後も夢は続くよ? 今度はこんな子を輝かせてみたいとかね」

凛「そうなんだ」

モバP「ちょっと聞かれたくないかもしれないけど移籍うんぬんの原因はあのプロデューサー?」

凛「まぁ、一つの原因かな。後は業界人に対する嫌気とか」

モバP「そっか。そういえば、帰りはタクシー?」

凛「できればそうしたいんだけどお金今無くて…」

モバP「そうなんだ。うーん。お金足りるかわからないけど僕が出すよ」

凛「いいの?」

モバP「さすがにアイドルを夜の街の中歩かせるわけにはいかないからね」

凛「でも」

モバP「大丈夫だから」

凛「…ふふありがとうね。あ、そういえば私、一つ謝らなければならないことがあったんだ」

モバP「なに?」

凛「さっきさ。頼りないとか男らしくないとか度胸ないとかいってごめんね」

モバP「そ、そのこと!?」

モバP「いいよ事実なんだし謝らなくても!」

凛「うんうん。そんなことなかったよ」

凛「さっきのモバPとっても頼りになる感じだったし男らしかったよ」ニコ

モバP「や、やめてよ。恥ずかしいよ!」

凛「恥ずかしがらないでよ」

モバP「か、からかわないでよ。どうせ冗談でしょ?」

凛「冗談じゃないって」

凛「モバPなら本当に私のプロデューサーになってもいいかもね」

モバP「あはは。もしそれが本当なら僕のアイドルやってみる?」

凛「え……!?」

モバP「って! 僕なんかがアイドル渋谷凛のPなんて務まらないけどね」

凛「ああ……うん。そうかもね」

凛(モバPのアイドルをやってみないかって言葉すっごく嬉しかった)

凛(もし、叶うのなら本当にモバPのアイドルになってもいいのかも)

凛(冗談とかそんなんじゃなくて)

凛(彼ならきっと私をちゃんと見てくれそうだし)

凛(本当はやめようかと考えていたけど、モバPのいる事務所に移籍っていうのも悪くないかも)

凛(そうすればやってみなくちゃわからないけどアイドルを続けられるかもしれない)

凛(お願い……しようかな?)

以上です。なるべく早めに書き上げたいので頑張ります。

今日の夜の六時から投下します

モバP(そろそろ外に出る扉が見えてきたね)

モバP「扉は僕が開けるよ」ガチャ

凛「う、うん」

モバP「外はちょっと寒いね」

凛「そうだね」

モバP「寒くない?」

凛「今日は油断しちゃって薄着だから若干寒いかも……」

モバP「そっか。じゃあ」ヌギヌギ

凛「ん?」

モバP「はい。僕のジャケットを肩にかければ多少は寒さが紛れるでしょ?」

凛「い、いいよ! 別に大した寒さでもないし」

モバP「だめだって風邪ひいちゃうでしょ? ほらタクシー待つ間だけでも」

凛「……わかった」

モバP「それじゃあ、はい」

凛「ありがとう」

凛「やっぱり大きいんだね」

モバP「あはは。凛ちゃんよりは身長あるからね」

凛「ちょっとだけ寒さがましになったよ」

モバP「ならよかったよ」

モバP「そういえば家ってどこらへんにあるの?」

凛「○○だよ」

モバP「○○!? ってことは……」

モバP(タクシーで帰るとなると僕の有り金全部使わないとだめだ)

モバP(そうなると電車が使えない! 9時までに事務所に行くことができないかも!)

モバP(でも、タクシーで帰らせるって言っちゃったし……)

凛「ねぇ、モバP」

モバP(あー、もうどうしよう!)

凛「ひとつだけお願いがあるんだけどさ……」

モバP(今、何時だろう……)

凛「驚かないで聞いてくれる?」

モバP(こんな時間か! 電車なら余裕だけど、走って行ったらなかなか厳しい時間だ!)

凛「実はね――」

モバP(もう考えてられない! 走っていこう! 何時間かかるかわからないけど!)

モバP「ごめん凛ちゃん!」

凛「え?」

モバP「僕このあと用事があってもう行かなきゃいけないんだ!」

モバP「これ、お金! それじゃ!」タッタッタ

凛「あ、ちょっと!」

凛「行っちゃった……」

凛「というか、連絡先すら交換してなかった」

凛「また、会えるかな?」

凛「私が事務所をやめずにアイドルを続けていたら、すぐにでも会えるよね?」

凛「あ……」

凛「ジャケット私に貸したまんまじゃん」

凛「はぁ……まったくしょうがないな」

――

都内某所 ビルの5階

モバP「はぁ……はぁ……」

モバP「時間は、五分前」

モバP「なんとか間に合った……」

モバP「長距離走だけは昔から得意で良かった。まさかこんなところで生きるなんて」

モバP「ここでいいんだよね?」

モバP(事務所の看板もしっかりここにあるしあってるみたい)

モバP(うーん、やっぱり緊張するなー)

ガチャ

ちひろ「こんばんわ」

モバP「ちひろさん!?」

ちひろ「外から走ってくるのが見えたんですよ」

モバP「ああ、なるほど」

ちひろ「どうやら自分の気持ちは確かめられたみたいですね」

モバP「はい!」

ちひろ「ふふ、いい返事にいい顔ですね」

ちひろ「とりあえず、中に入ってください」

モバP「はい」スタスタ

モバP(へぇー、ビルの外観は年季を感じさせたけど事務所内はそうでもない)

モバP(小綺麗で古臭さを感じさせないし部屋全体が明るいね)

ちひろ「それにしてもどうして走ってたんですか?」

モバP「とある女の子にお金を貸してしまいまして……」

モバP「公共の交通機関が利用できなかったんですよ」

ちひろ「なんですかそれは……」

ちひろ「というかあの会場から走ってきたんですか?」

ちひろ「そこそこ距離ありますけど…」

モバP「なんとかしました」

ちひろ「まぁ、いいです」

ちひろ「それよりもジャケットはどうしたんですか?」

モバP「え? あ……」

モバP(やばい! そういえば凛ちゃんに貸したままなんだった!)

モバP(焦ってて忘れてたよ…)

ちひろ「もしかしてモバPさん」

ちひろ「なくしてしまったんですか?」

モバP「……それに限りなく近いですね。はい」

ちひろ「モバPさん」

モバP「はい」

ちひろ「あれは誰が誰のために買ってあげたものですか?」

モバP「ちひろさんが、僕のために、です」

ちひろ「それを無くされたらどんな気持ちになるとおもいます?」

モバP「とっても……嫌な気持ちになります」

ちひろ「よくわかってるじゃないですか」ニッコリ

ちひろ「あれ、いくらしたかわかってるんですか?」

モバP「きっと僕には一生かかっても買えないような額のスーツなんだとおもいます」

ちひろ「正解です」

ちひろ「あーあ、そんなものをなくすなんて」

ちひろ「どうしてしまいましょうか」

ちひろ「これは弁償の可能性も…」

モバP「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」ペコリペコリペコリ

ちひろ「しょうがありませんね」

ちひろ「じゃあ、私の提案を飲んでくれたら許してあげます」

モバP「な、なんですか!?」

ちひろ「私の事務所で働いている間この二種類のドリンクを月に10本ずつ買ってもらいます!」

モバP「ち、ちなみにおいくらですか?」

ちひろ「一本100円で月2000円です」

ちひろ「滋養強壮疲労回復! そこらの栄養ドリンクより断然お得で効き目も保証しますよ!」

モバP(僕結構疲れっぽくてよくドリンク買うんだよな)

モバP(だったら、この話はお得かも!)

モバP(ジャケットをなくしたのも許してもらえて栄養ドリンクが安く買える!)

モバP(どこが製造してるのかわからないドリンクだけど……)

モバP「買います!」

ちひろ「毎度ありです!」

ちひろ「これで一応ジャケットの件はなかったことにしますけど次は気をつけてくださいよ?」

ちひろ「大事な書類なくしたりしたら激怒しますよ?」

モバP「以後気をつけます……」

ちひろ「じゃあ、社長室に案内しますね」

モバP「はい」

ちひろ(ジャケットをなくされたのはショックでしたけど)

ちひろ(自然にドリンクを勧めることができて定期的に買ってもらえることができたのでよしとしましょう!)

ちひろ(これで家にある在庫が処分できます!)

ちひろ「ここが社長室です」

ちひろ「もう中で待ってますよ?」

モバP「そ、そうですか」

ちひろ「二回ノックして失礼しますで大丈夫ですからね」

ちひろ「私はまだ仕事が残ってるのでデスクのほうにいますね」

モバP「わかりました」

モバP(この事務所の社長さんか)

モバP(ちひろさんはいい人だしここの社長さんもきっといい人なんだろうなー)

モバP(よし、じゃあ部屋の中に入ろう!)

モバP「失礼します」コンコン

ガチャ

社長「やぁ、初めまして」

モバP「は、初めまして! 私の名前は――」

社長「ああ、名乗らなくても大丈夫だよ。話は全部ちひろ君から聞いているからね」

社長「それにかしこまらなくても平気だよ」

モバP「そ、そうですか」

社長「そこにかけてくれ」

モバP「失礼します」

社長「私の名前は社長。今後ともよろしくね」

モバP「はい! よろしくお願いします!」

社長「うん。よろしく頼むよ」

社長「君と契約するにあたって社長として色々話さなければいけないことがあるが……」

社長「書類関係の話や堅苦しい話は一旦置いておいて親睦でも深めようか」

モバP「え? あ、はい」

社長「まずはうちの事務所に来てくれてどうもありがとう」

モバP「い、いえ。拾ってもらったのは僕のほうですから」

社長「はっはっは。拾ったなんてとんでもないよ」

社長「でも、びっくりしたんだよ? ちひろさんが血相変えて私のところに君のことを知らせてくれたときは」

社長「まさか、あの人の息子さんだったとはね」

モバP「父さんを知ってるんですか?」

社長「ああ、大学からの友人だよ」

社長「もちろん、プロデューサーとしても切磋琢磨した中だったんだ」

モバP「そうだったんですか……」

社長「お父さんのことは残念だったね。まだ若いのに……」

モバP「いえ。父さんはきっと満足な人生を送れたので幸せだと思いますよ」

社長「はっはっは。そうかもね。彼は本当にアイドルのプロデュースが好きだったからね」

社長「君もどうやらそこは父親譲りっぽいね」

モバP「え?」

社長「目を見ればわかるさ。君はお父さんと同じ目をしている」

モバP「あはは。ありがとうございます」

社長「ところでシンデレラ舞踏会はどうだったかね?」

モバP「え?」

社長「楽しんでもらえたなら私としては嬉しいねー」

社長「君宛の招待状を手配したのは私だったんだよ」

モバP「そ、そうだったんですか!?」

社長「ああ、そうだよ」

社長「実はあのイベントの主催者は毎年私なんだ」

モバP「社長が主催者だったんですか……通りで簡単に招待状を作れるわけですね」

社長「どうやらちひろ君はそのことを君に伝えていなかったようだね」

モバP「あ、はい。企業秘密だって」

社長「はっはっは。ちひろ君らしいね。そんな秘密ありゃしないのに勝手にそんなことを言うなんてね」

モバP「そうなんですか?」

社長「ああ。きっと彼女のなりの遊び心なんだろうね」

モバP「でも、凄いですね。わざわざアイドル同士の親睦やプロデューサー同士の社交の場のイベントの主催をするなんて!」

社長「あーいや。実はそれは建前であって本当の意味は違うんだ」

モバP「え? 違うんですか?」

風呂入ってきます。明日の朝方までやるんで気長に読んでてください

モバP「違うんですか?」

社長「ああ、そうだよ」

社長「あれは今いるプロダクションのプロデューサーでは馬が合わない、というアイドルのために作られたものなんだよ」

社長「アイドルが自分に合ったプロデューサーを探す場所なんだ」

社長「そこで理想のプロデューサーを見つけたい場合、所属している事務所に言えば無条件でそのプロデューサーのアイドルになれるんだよ」

モバP「ええ!? そうだったんですか?」

モバP「でも、聞いてないですよ…」

社長「はっはっは。当たり前じゃないか。そんなことをアイドルに伝えれば弱小プロのアイドルが大手に入りたがって嘘をつく場合があるからね」

社長「プロデューサーも同じで変に意識させたりしないのとアイドルにその情報を吹き込んだりしないために教えていないんだよ」

社長「ああ、そうだよ」

社長「あれは今いるプロダクションのプロデューサーでは馬が合わない、というアイドルのために作られたものなんだよ」

社長「アイドルが自分に合ったプロデューサーを探す場所なんだ」

社長「そこで理想のプロデューサーを見つけたい場合、所属している事務所に言えば無条件でそのプロデューサーのアイドルになれるんだよ」

モバP「ええ!? そうだったんですか?」

モバP「でも、聞いてないですよ…」

社長「はっはっは。当たり前じゃないか。そんなことをアイドルに伝えれば弱小プロのアイドルが大手に入りたがって嘘をつく場合があるからね」

社長「プロデューサーも同じで変に意識させたりしないのとアイドルにその情報を吹き込んだりしないために教えていないんだよ」

社長「知っているのは各事務所の社長だけなんだよ」

モバP「でも、そのことをしらなければ見つかったとしてもアイドルはそのことを言い出しにくいんじゃないんですか?」

モバP「事務所に『素敵なプロデューサーが見つかったから移籍させて』なんて……」

社長「はっはっは。本当に理想ならそのくらい言えるだろう」

社長「もし言えなかったとしたらその程度の思いだったということさ」

モバP「なるほど……」

社長「実際そうやって何組もカップルは成立してるしね」

モバP「そうなんですか?」

社長「ああ、そうだよ」

モバP「ひとつ疑問があるんですけどいいですか?」

社長「なんだね?」

モバP「各事務所の社長はなんでわざわざこれに参加してるんでしょうか?」

モバP「自分が手塩に育ててきたアイドルが取られるかもしれないのに……」

社長「単なる事務所同士の意地の張り合いだよ」

社長「仕事でどうしても参加できない理由以外でアイドルを参加させなかったら」

社長「自分の事務所のプロデューサーに絶対的な自信を持っていない証明になってしまうからね」

社長「事務所の看板的にもやはり参加せざるを得ないんだよ」

社長「それにもしかしたら自分の事務所に活きのいいアイドルが入ってきてくれるかもしれないからね」

社長「みんな参加してしまうんだよ」

モバP「なるほど…」

社長「このことはね。イベント名にも関係してるんだよ」
 
モバP「あ、そういえばシンデレラ舞踏会って名前でしたよね」

モバP「なんであんな名前にしたんですか?」

社長「君は昔話のシンデレラを読んだことがあるかい?」

モバP「子供の頃にちょっとだけ…」

社長「その作品では王子様が自分にあった異性を探すために舞踏会を開くだろう?」

社長「このイベントもアイドルが自分に合ったプロデューサーを探すために開いたから」

社長「展開が似てるねってことでシンデレラ舞踏会って名前にしてみたんだよ」

モバP「なるほど。だから踊らないのに舞踏会ってついてるんですね」

社長「そういうことだよ」

社長「まぁ、この場合作中で例えるならアイドルたちが王子様で、シンデレラがプロデューサーってことになっちゃうんだけどね」

モバP「そうですね」

モバP「でも、どうして社長はわざわざ僕にそんなことを教えてくれたんですか?」

モバP「プロデューサーにも教えないって言ってたのに……」

社長「このイベントの第一回目の主催者は私と君のお父さんだったんだよ」

社長「二回目以降は私が全部を引き継いでるけどね」

モバP「ぼ、僕の父さんがですか!?」

モバP「し、知らなかった…」

社長「ああ。君のお父さんのアイドルの一人がね、どうしてもプロデューサーを変えたいって言ったんだ」

社長「自分に合ったプロデューサーを自分で見つけたいと言ってね」

社長「君のお父さんはそんな我がままなアイドルのためにシンデレラ舞踏会を開いたんだよ」

社長「アイドルのためだからと言ってね……」

社長「第一回目は今より事務所が集まらなくてね。弱小プロばかりが参加していたよ」

社長「それでも、結局そのアイドルは自分で自分に合うプロデューサーを見つけて事務所を変えたんだ」

社長「そのとき君のお父さんは笑顔だったよ」

社長「『俺の下では彼女は輝けなかった。彼女が輝ける道が開けて良かった』そう言ってね」

社長「私はその出来事をきっかけに君のお父さんを尊敬するようになったよ」

社長「この人には何十年経っても勝てない。そんな風にも感じたんだ」

社長「まぁ、アイドルを思いやれば自分に合った人間をプロデューサーにしてあげたいからね」

社長「そのことは私も共感できたからその後は私単独主催で継続することを決めたんだ」

社長「気がつけばこんな大きなイベントになっていたのは驚きだけどね」

モバP「そう、だったんですか」

社長「どうだい? 君のお父さんはとってもいいお父さんだろう?」

モバP「はい。やっぱり父さんはすごいプロデューサーでした……」

社長「ふふ、そうかい」

社長「そうだね。じゃあこんなところで一旦世間話は切り上げて真面目な話をしようか」

社長「それが終わったあと、君のお父さんの武勇伝はこのあと、飲み屋で一杯やりながら話そうか」

モバP「いいんですか?」

社長「いいとも。昔話に花を咲かせるのも悪くないだろう。今はそんな気分だよ」

モバP「はい! ありがとうございます!」

――

次の日

事務所

ちひろ「社長。ここにドリンクが入ったダンボールおいてもいいですか?」

社長「私は構わんがね、その、自分の家においてくれないかな?」

ちひろ「しょうがないじゃないですか。家はもうこのダンボールで埋め尽くされているんです」

ちひろ「コンテナも借りたりしているんですけどそっちもいっぱいなんですよ」

ちひろ「また新しいコンテナ借りるんでその間だけですから」

社長「だといいんだけどね」

ちひろ「最近発注が多くて困りますよ」

ちひろ「まぁ、売上が上がるのはいいことですけどね」

社長「はっはっは。ちひろ君は相変わらず商売上手のようだね」

ちひろ「副業は禁止されてないんですよね?」

社長「別に怒ってるわけじゃないよ」

社長「素直に尊敬しているだけだ」

ちひろ「なら、いいんですけどね」

ガチャ

みく「おはようにゃー」

ちひろ「あ、みくちゃんおはようございます」

社長「みく君おはよう」

みく「ちひろちゃんも社長ちゃんもおはようにゃ!」

みく「みくは今日も元気にゃ!」

ちひろ「それはよかったです。ところで新しいプロデューサーの話はもう聞いていますよね?」

みく「ばっちりにゃ!」

社長「はっはっは。みく君。実はそのプロデューサー凄くイケメンなんだよ?」

みく「ほ、本当にゃ!?」

ちひろ「モデルさんみたいなんですよ」

みく「そ、それは期待がもてるにゃ」

ガチャ

ちひろ「早速来たみたいですよ」

みく「どれどれにゃ!」

モバP「おはようございます!」

ちひろ「……」

社長「……」

みく「……」

みく「話と違うにゃ」

モバP「あ、君がみくちゃんだね」

ちひろ「も、モバPさん!?」

ちひろ「その髪の毛はどうしてそうなったんですか!?」

ちひろ「まるで中学生が始めてワックスをつけて失敗してしまった髪型じゃないですか!」

モバP「え? そ、そうですか?」

モバP「とりあえずわっくすをつけてみたんですけど……」

モバP「だめですか?」

ちひろ「だ、だめだめですよ!」

みく「ちひろちゃん! 話と違うにゃ!」

みく「確かに身長高くて顔も整っているけどこれはなんか違うにゃ!」

ちひろ「みくちゃんいってることはよくわかるけどちょっと待っててくださいね!」

ちひろ「モバPさん! 一緒に給湯室で髪の毛洗いますよ!」

ちひろ「そんな髪型で営業にいかれたら困ります!」

ちひろ「寝癖だらけの髪の方がまだましですよ!」

モバP「え、ええ!? 折角朝やったんですけど……」

ちひろ「文句言わずについてきてください!」

モバP「はい……」

みく(ふ、不安にゃ……この先、みくはどうなってしまうにゃ……)

明日から本気出す。寝ます

ジャバジャバ

ちひろ「もう、どうしてこんなワックスの付け方したんですか」

モバP「身だしなみには気を付けろと言われていたんで…」

ちひろ「努力は認めますけどもっと勉強してから使ってください」

モバP「すみません…」

ちひろ「はい。これでOKです」

ちひろ「タオルで拭いて15分もすれば乾きますから」

ちひろ「髪の毛を短くして寝癖を直したモバPさんはかっこいいんで変にいじらないでも大丈夫ですよ」

ちひろ「昔は長くてボサボサで清潔感なかったですけど……」

モバP「そうなんですか?」

ちひろ「はい。次からはドライヤーで寝癖だけを直してきてください」

モバP「わ、わかりました」

ちひろ「じゃあ。みくちゃんのところに戻りますよ」スタスタ

モバP「はい!」

ちひろ「みくちゃん。お待たせしました。あれ社長は?」

みく「仕事があるとかで部屋の中に入っていったにゃ」

ちひろ「そういうことですか」

ちひろ「では改めて紹介します」

ちひろ「こちらが新しいプロデューサー。モバPさんです」

モバP「初めまして! モバPです。よろしくお願いします!」

モバP(よ、よし。しっかり挨拶できた。俺、挙動不審になってないよね?)

モバP(あー、でも前川みくちゃんか。写真とまったく同じでカワイイや)

モバP(この子はきっといいアイドルになる!)

モバP(まぁ、僕の手腕にもかかってるんだけど……)

みく「よ、よろしくにゃ」

みく「ちひろちゃんちょっといいかにゃ?」

ちひろ「なんですか?」

みく「さっきのはどういうことにゃ」ヒソヒソ

ちひろ「あれは事故みたいなものです」ヒソヒソ

みく「事故にゃ?」ヒソヒソ

ちひろ「でも、今は普通にかっこいいですよね?」ヒソヒソ

みく「た、確かにそうにゃ」ヒソヒソ

ちひろ「だったら細かいことは気にしなくていいじゃないですか」ヒソヒソ

ちひろ「今後髪については私がきっちり指導しますから」ヒソヒソ

ちひろ「それに、みくちゃんくらいの年だとやっぱりかっこよくて若いプロデューサーと一緒に仕事したいですよね?」ヒソヒソ

ちひろ「だったらこの際もう細かいことはいいじゃないですか」ヒソヒソ

みく「それもそうにゃ」

みく「モバPちゃん! 今後ともよろしくにゃ!」

モバP「? よろしくね」

ちひろ「じゃあ、早速今日は地方局の番組の収録があるので行ってきてもらってもいいですか?」

モバP「い、いきなり実践ですか!?」

ちひろ「大丈夫です。私もついていきますから」

ちひろ「それじゃあ、二人とも行きますよ」

ちひろ「それからモバPさん」

モバP「なんですか?」

ちひろ「これは昨日モバPさんが買ったスーツ一式と同じスーツ一式です」

モバP「ええ!? もしかしてちひろさん。わざわざ買いなおしてくれたんですか?」

ちひろ「そうですよ」

ちひろ(本当は社長が就労記念ということであなたにプレゼントってことで渡してくれって言われてたんですよ)

ちひろ(そのことは社長から口止めされていますから言えません)

ちひろ(なんでも社長からだと言ってしまうと遠慮してしまうからだとか)

モバP「ち、ちひろさん……」ウルウル

モバP「僕、次は絶対なくしません! 大切にします!」

ちひろ「はい。そうしてくださいね」ニッコリ

ちひろ「それではそんな安っぽいスーツとっとと脱いで着替えてください」

モバP「は、はい! わかりました!」

――

シンデレラ舞踏会から三日後

収録スタジオ

凛「あの……」

AD「ん? なんだい凛ちゃん?」

凛「このジャケットと同じようなものを着たプロデューサーを見かけませんでした?」

AD「そ、そのジャケットって高級スーツじゃないか!」

AD「そんなスーツを着られるプロデューサーなんて物凄く限られてると思うけど……」

AD「社長さんとかではないんだよね?」

凛「はい」

AD「んー。それにこのサイズかー……ごめん。心当たりないよ」

凛「そうですか…」

AD「落し物かなにか?」

凛「あ、いえ。借り物です」

凛「失礼します」

凛(あれから三日たったけどモバPの情報はゼロ)

凛(事務所の名前もネットで検索したけど出てこなかった)

凛(まだ出来たての事務所とかでサイトがないのかもしれない)

凛(はぁ……会えるのはいつになるんだろ)

凛(けど、会えたとしても私はモバPのところに行けるかどうかはわからない)

凛(私のプロデューサーになってほしいとお願いしてモバPがOKを出したところで)

凛(うちの事務所が私を手放すとは考えられないから)

凛(現実的に考えてやっぱり無理なのかな?)

凛「それ以前に会えるかどうかすら疑問だよ……」

カメラマン「凛ちゃん」

凛「?」

カメラマン「さっきのジャケットの話なんだけどさ」

カメラマン「心当たりあるかも」

凛「本当ですか!?」

カメラマン「うん。たまたま二日前くらい地方局の収録の手伝いをしたんだけどね」

カメラマン「そのジャケットとまったく同じのを着てたプロデューサーがいたよ」

凛「し、身長が高くてほっそりしてて顔は……!」

カメラマン「うん。かっこよかったよ」

凛(モバPだ!)

カメラマン「いやー、凄く印象に残る人だったよ」

カメラマン「ちょっとおどおどした感じだけどルックスがあまりにも良かったからね」

カメラマン「最初は出演者かと勘違いしたよ」

凛「れ、連絡先とか知ってますか!?」

カメラマン「さすがにそこまでは……」

凛「そうですか…ありがとうございます」

凛(やった。一つだけ情報がもらえた)

凛(そうだよね。あんまり大きな事務所ではないってことは小さな仕事を頻繁にこなすはず)

凛(ってことは、小さな仕事の現場に行けばもしかしたらモバPに会えるかもしれない!)

――

タクシー内

凛「……」

凛P「……」

凛P「その、この前は悪かったな」

凛「別に」

凛P「そうか…」

凛P「凛、聞きたいんだが毎日持ち歩いてるその袋はなんだ?」

凛「関係ないでしょ」

凛P「……」

凛「そうだ。一つだけお願いがあるんだけどさ」

凛P「なんだ?」

凛「ローカル系の仕事。回してくれない?」

凛「後は夜中にやってるアイドルバラエティとか」

凛P「な、なに言ってるんだ!?」

凛P「ローカルの仕事はまだしも夜中にやってるアイドルバラエティなんて……」

凛P「お前は少し自覚がなさすぎる。大物アイドルがそんなものをやらなくたって」

凛「本音は金にならないからでしょ?」

凛P「それは…」

凛「じゃあ、3ヶ月だけの間でいい」

凛「空いてるスケジュールの中で小さな仕事を入れまくって」

凛P「……わかった」

凛「ありがとう」

凛P「でも、三ヶ月経ったらちゃんと仕事してくれよ」

凛「わかってるって」

凛「……」

凛(早く会いたい)

――

自室

凛「今日も疲れた……」

凛「……」ジー

凛「ジャケットに埃ついてないか確認しよ」

ガサガサ

凛(うん。大丈夫みたい)

凛(そういえば私の部屋にずっと置いてあるけど変な匂いとかついてないよね? 大丈夫だよね?)

凛(渡した時に変な匂いがするって思われたら嫌だし…)

凛(ちょっと確認してみよ)

凛「……」クンクン

凛(新品のスーツの匂いとモバPの匂いが混ざってるような匂い…なのかな?)

凛(ちょっとだけいい匂い)

凛(まぁ、あれから洗ってないし洗剤の匂いとかつかないもんね)

凛「平気みたい」

凛「あれ? でも今の私の行動って傍から見ればとても変態に見えるんじゃ……」

凛「まぁ、いっか。寝よ」

凛(モバP、私がモバPのアイドルになりたいっていったらどんな顔するのかな?)

凛(やっぱり最初は驚いた顔して次は焦った表情?)

凛(で、ちょっとあたふたしたりして……)

凛(ふふ、容易に想像できるね)

凛(モバPのアイドルになれるかわからないけど……)

凛(そんなことよりもまず今は会いたいな…)

次の日

雑誌の取材

凛「……」ボー

凛(モバP…)

記者「渋谷さん?」

凛「あ、ごめなさい。なんでしたっけ…」

また次の日

学校

凛「……」ボー

凛(モバP)

教師「渋谷さん! 渋谷凛さん!」

凛「あ…」

教師「ここの問題答えてください」

教師「どうしたんですか? 疲れているんですか?」

教師「アイドル活動もいいですけど学生の本分は勉強ですよ?」

凛「すいません」

またまた次の日

楽屋

凛「……」ボー

凛(モバP)

凛「あ、コーヒー冷めちゃった……」

またまたまた次の日

ドラマ 撮影現場

凛「……」

恋人『お前だけはどこにもいってほしくないんだよ!』

凛「……」カキカキ

モバP『お前だけはどこにもいってほしくないんだよ!』

愛梨「どうして台本の恋人の名前のところに斜線を引いて違う人の名前入れたりしてるの?」

凛「え!? あ、いや! これは違うんだよ!」

愛梨「ん?」

――

楽屋

凛「はぁ……」

ガチャ

奈緒「お、凛だ」

凛「おはよう」

奈緒「どうしたんだよ。最近ずっとぼーっとしてるけど」

凛「ちょっとね」

奈緒「もしかして事務所まだやめられそうにないのか?」

凛「あ、そのことなんだけどね」

カクカクシカジカ

奈緒「へー。そんなことがあったのか」

奈緒「でも、よかったぜ! 凛がまだアイドル続けてくれるなんてよ」

凛「まだわからないけどね。事務所が移籍を許してくれるかわからないし」

奈緒「そこは頑張るしかないよなー」

奈緒「んで、そのーモバPつったか? ジャケットを頼りにして探してる最中なんだろ?」

凛「そうだよ」

奈緒「見つかるといいな。というかこっちの人間ならすぐに見つかるだろ」

凛「それがなかなか見つからないんだよ」

奈緒「そうなのか……」

奈緒「あたしもなるべくそれっぽいやつがいたら凛に連絡取るようにするぜ」

凛「ありがとう奈緒」

凛「もう大変だよ。四六時中モバPのことを考えちゃったりしてさ」

奈緒「ちょっと待て。四六時中?」

奈緒「ってことは、最近ボーッとしてるのはモバPのせいなのか?」

凛「うん。たぶんそうだと思う」

奈緒「し、四六時中……」

奈緒「なぁ、普通いいプロデューサーが見つかっただけでそんなにその人のことを思うか?」

凛「そう? 現に私は思ってるけど……」

奈緒「凛……もしかしてさ」

奈緒「その人のこと、ぷ、プロデューサーとして好きになったのとあともう一つ」

奈緒「お、男としても好きになったんじゃないのか?」

凛「つまり……」

奈緒「こ、こ、こ、恋に落ちたんじゃねーのか!?」

凛「ち、違うよ!」

奈緒「あ、あたしは経験したことないからよくわかんないけど……」

奈緒「でも、好きになった男のことって四六時中考えちゃうもんなんだろ!?」

凛「違う違う! 違うって!」

凛「あの人はプロデューサーとして……!」

奈緒「で、でもよ! 四六時中ってなるとちょっと異常じゃなねぇか!?」

奈緒「仕事してるときとかならまだしもよ!」

凛「た、確かにかっこいいしスタイルいいし優しいし頼りなさそうに見えて意外に頼りになったりする人だけど!」

凛「私は別に……」

凛(でも、言われてみれば確かにそうかもしれない)

凛(ここ最近の私はちょっと異常だ)

凛(私のことをちゃんと見てくれるプロデューサーが見つかったのは嬉しい)

凛(けど、奈緒の言う通りそれだけでその人のことをここまで思うのかな?)

凛(それにこの前無意識にやっちゃったけど台本のことだって…)

凛(もしかして私本当に……)

奈緒「まぁ、その。ゆっくり考えろよ」

奈緒「あたしが言ってることだし間違いだってこともあるだろ?」

凛「そう、だね」

奈緒「お、そうだ。今度加蓮誘ってどっかいかねーか?」

凛「うん。いくいく」

奈緒「じゃあ、あそこの新しくできたさ――」

前川みく(15)
http://i.imgur.com/YT3yvH2.jpg
http://i.imgur.com/eOtY37v.jpg

十時愛梨(18)
http://i.imgur.com/RmqTGY9.jpg
http://i.imgur.com/L0Ynx4b.jpg

神谷奈緒(17)
http://i.imgur.com/TfaWlvd.jpg
http://i.imgur.com/I1W1jvW.jpg

――

三ヶ月後

公園

モバP「はくしょん!」

みく「モバPちゃん大丈夫かにゃ?」

モバP「うん。ちょっと寒気がしただけ」

みく「ごめんにゃ…」

モバP「あはは。いいよ。川に落ちちゃったのは事故なんだしさ」

みく「でも、みくが落なければモバPちゃんは風邪をひかなかったにゃ」

みく「それに、お気に入りのスーツまで汚しちゃったにゃ……」

モバP「スーツは今クリーニングに出してるし平気だよ」

モバP(昨日の地方局の番組の収録でみくちゃんと僕は川にいた)

モバP(それはアイドル同士が魚を釣って、釣った魚のポイントを競いあう番組の企画だった)

モバP(最初はこの仕事を断ろうと考えていた)

モバP(みくちゃんは魚が嫌いでこの手の仕事はできないだろうと判断していたからだ)

モバP(しかし、みくちゃんはどんな仕事でもやりたいといってこの仕事を受けることにした)

モバP(本番中みくちゃんは自分が魚嫌いなのを必死に押し殺して収録に参加していた)

モバP(僕も傍から無言のエールを送りながら見守っていた)

モバP(いざ、魚釣りが開始して始めて数分でみくちゃんの釣竿に魚がヒットした)

モバP(みくちゃんはリアクションを取りながら魚を釣り上げた)

モバP(だけど、釣り上げた瞬間その魚がみくちゃんの頬に触れてしまいみくちゃんは混乱してしまった)

モバP(混乱したみくちゃんはそのまま川に落っこちてしまう)

モバP(たまたまみくちゃんが落ちてしまったところは急流で他に比べて川底も深かった)

モバP(混乱状態のみくちゃんは溺れてしまっていた)

モバP(僕はジャケットを脱ぐのを忘れてみくちゃんを助けるために川に飛び込んだ)

モバP(川の中に入った僕はとりあえずみくちゃんを抱き抱えて流されるところまで流されて)

モバP(浅くて川の流れがゆったりのところで川の中からみくちゃんと一緒に陸地へと戻った)

モバP(結局みくちゃんはちょっとだけ水を飲み込んだだけで大事には至らなかった)

モバP(それが昨日のこと)

みく「……」

モバP「落ち込まないでよ。スーツも平気だし僕は軽く風邪をひいただけだから」

みく「だといいにゃ」

みく「……」

モバP(これは僕が風邪をひいたこともそうだけど仕事で失敗しちゃったのも元気のない原因みたいだね)

モバP「昨日番組のプロデューサーに怒られちゃったね」

みく「そうにゃ……」

モバP「大丈夫だってまだまだチャンスはいっぱいあるから!」

みく「でも、失敗しちゃったにゃ…」

みく「その上モバPちゃん風邪引いちゃうしスーツも汚れてしまったにゃ…」

モバP「みくちゃん」

みく「なんにゃ?」

モバP「成功の反対ってなんだと思う?」

みく「それは簡単にゃ。失敗にゃ」

モバP「残念。違うよ」

みく「じゃあなんにゃ?」

モバP「なにもしないことだよ」

モバP「失敗っていうのはその数だけ成功に繋がる可能性がある」

モバP「いや、もしかしたらその失敗一つが一つの成功よりも価値のあるものの場合もある」

モバP「でも、なにもしなければ成功することなんてない」

モバP「それ以前に失敗もしないからなにも得られない」

モバP「これって失敗よりも最悪じゃない?」

みく「た、確かにそうにゃ」

モバP「だから僕は成功の反対はなにもしないことって考えてるんだよ」

みく「そういうことだったのかにゃ」

モバP「みくちゃん。あの失敗は気にしなくていいんだよ」

モバP「むしろ頑張ったと自分を褒めるべきだよ」

モバP「魚嫌いなのにあの仕事をしたんだって!」

モバP「結果的には失敗しちゃったけど」

モバP「得られたものは成功よりも価値のあるものだと僕は思うな」

みく「そう言われるとなんだか元気が出てきたにゃ!」

モバP「そう? よかったよかった」

みく「あ、でもスーツは…」

モバP「あれはいいんだってば。もう一着あるしね」

みく「そうなのかにゃ?」

モバP「うん。ある人に貸してるんだけどね。僕が一人前のプロデューサーになって出会ったときにでも返してもらおうかなって思ってるんだ」

モバP「だから気にしなくてもいいよ」

みく「……わかったにゃ」

みく「モバPちゃん」

モバP「何?」

みく「モバPちゃんってとっても頼りになるにゃ!」

みく「川に落ちたみくを助けてくれるし、慰めるのも上手にゃ」

モバP「あはは唐突だね」

みく「みくが今思ったことをいっただけにゃ」

モバP「ありがとうね」

モバP(凛ちゃん。三ヶ月経った僕はちょっとだけ成長しているみたい)

モバP(おどおどすることも少なくなったし、ちょっとだけ頼りがいのある男になれたみたいだよ)

モバP(まぁ、誰のおかげかというと……間違いなくちひろさんだ)

モバP(『一ヶ月間ちひろのプロデューサー養成メニュー』あれは本当に辛かった)

ちひろ『わたしが訓練教官のちひろです』

ちひろ『話しかけられたとき以外は口を開かないでください』

ちひろ『口でクソたれる前と後に“サー”と言ってください。分かりましたか、ウジ虫!』

モバP「さ、サー!」

ちひろ『ふざけないでください!大声だしてください!タマを落としたんですか!?』

モバP『サー!!!』

モバP(……)

モバP(出だしはまだまだ優しかった)

モバP(始まって一日もすればもっと酷い罵詈雑言の嵐)

モバP(雌豚だのあなたは人間じゃないだの害虫だの腐った○○○など……)

モバP(トイレで目を泣き腫らしてたっけ…)

モバP(でも、そうやって厳しいトレーニングを積んだおかげで僕はたくましくなった)

モバP(情けなかった僕をちひろさんが鍛え直してくれたんだ)

モバP(感謝してもしきれない)

モバP(今はもう訓練が終わったため優しいちひろさんに戻ってくれている)

モバP「じゃあ、そろそろ休憩は終わりにして地方局でやるドラマの撮影に行こうか」

モバP「あ、その前に眼鏡っと…」

みく「にゃ? モバPちゃん眼鏡なんかつけてたかにゃ?」

モバP「あー、これはねー。今朝コンタクトをどっかにやっちゃったみたいなんだよ」

モバP「だから、今日は仕方なく眼鏡つけてるんだ」

モバP「似合わないかな?」

みく「似合っているにゃ!」

モバP「あはは。ありがとう。さ、いくよ」

みく「わかったにゃ!」

モバP「あ、後さ。帰りにマスク買ってもいいかな?」

モバP「今着けてるので最後だからさ」

みく「それは全然構わないにゃ」

モバP「そっか」

――

地方局のドラマ撮影

凛P「ほら、ついたぞ」

凛「うん」

凛P「言っておくが、今日で最後だからな」

凛「わかってるって」

凛P「全く、急遽うちの事務所の子が役の降板したからってお前が参加しなくても……」

凛P「どこまでお前のわがままに付き合わされるんだ……」

凛「私の勝手でしょ」

凛P「それから毎日持ち歩いてる紙袋」

凛P「いい加減それがなんなのか教えてくれないか?」

凛「いや」

凛P「まぁ、いい。お前のわがままも今日で終わりだ」

凛P「いくぞ」

凛「うん」

凛(あれからなんの情報も得られないまま三ヶ月が経った)

凛(決められた期間は過ぎようとしている……)

凛(今日がラストチャンス。これに全てをかけるしかない)

凛(これを逃してしまえばモバPに会えるのはもっともっと先のことになってしまう)

凛(それだけは……なんとしても避けたい)

凛(これ以上は我慢の限界だからね)

凛(日に日にモバPを想う心は強くなっていって……)

凛(その積もった想いは膨れ上がりすぎてしまった)

凛(胸が苦しくて……辛い)

凛(食欲もなくてまるで病気にかかったみたい)

凛(結構前に奈緒が言ってたけど……)

凛(これは恋なのかもしれない)

凛(私はプロデューサーとしても男としても彼に惚れてしまったのかも…)

凛(今、モバP何してるのかな?)

凛(頑張ってアイドルをプロデュースしてるのかな……)

凛(それでそのアイドルと仲良くなってたりして……)

凛「はぁ……」

凛(会いたい……)

凛(でも、モバPは見つけられないで終わりそう)

凛(どうすればいいんだろう……)スタスタ

モバP「あはは。じゃあお願いしちゃおうかな」

みく「みくのセンスに任せるにゃ!」

凛「え……?」

凛(今すれ違った人モバPにそっくりじゃなかった?)

凛(声も似てたような気がするし…)

凛(マスクしてて顔がはっきりわからなかったけど……)

凛(でも、眼鏡なんてかけてたっけ?)

凛(それに雰囲気も全然違うようにみえたし……)

凛(モバPはもっとおどおどした感じなのに、あの人は堂々とした感じだった)

凛(今私が持ってるジャケットとは違ってちょっと安っぽいスーツ着てたし他人の空似?)

凛(それにモバPだったらすれ違ったなら私に気づく…わけないよね。私も今メガネと帽子してるんだし)

凛(うちのプロデューサーのことももう時間が経ってるし顔も覚えてないでしょ)

凛(だったら……他人の空似でもモバPかもしれない可能性があるなら)

凛(追ったほうがいいに決まってる!)

凛(もう迷ってられない!)

凛(すぐにでも走り出せば間に合うはず!)タッタ

凛P「凛!? 待て!」ガシ

凛「放して!」

凛P「お前、これから撮影なんだぞ!? どこに行くんだ!」

凛「お願い! どうしても今からあわなきゃならない人がいるの!」

凛P「仕事を放り投げるのか?」

凛「会ったらすぐに戻ってくるから! だから放して!」

凛P「だめだ! お前どうしたんだ? 仕事を放り投げるようなやつじゃなかっただろ!」

凛「いいからはな……して!」

ガ

凛P「いっつ!」

凛P(こいつ踵で足の指の付け根を!)

凛「……!」タッタッタ

凛P「あ、おい凛!」



凛(ごめんプロデューサー! わがままいってる自覚はあるし)

凛(どんな仕事でも仕事の直前にどこかに行くのはアイドルとして間違ってるけど……)

凛(そんなことよりも今私はモバPに会いたいの!)

凛(自分勝手な女でごめんね)

凛(プロデューサーのこと色々言ってたけど今の私はあんたと対して変わらないね)

凛(えっと。それでさっきのモバPかもしれない人、どこにいっちゃったんだろ?)

凛(ここはドラマの撮影スタジオで、もし今から帰るんだったらとりあえず出口に向かったはず)

凛(出口を目指そ!)タッタッタ



ドラマ 撮影スタジオ 出口

凛「はぁ……はぁ……」

凛「いない……」

凛「どうしよう……」

凛「プロデューサーとのやり取りがなかったら追いついていたかも」

凛「もう見つからない?」

凛(でも、今から帰るんだったら駅を使う可能性があるよね)

凛(モバPの担当アイドルそんなに忙しくないはずだしきっとタクシーなんて使わないはず)

凛(ここから一番近い駅に向かえばもしかしたら会えるかもしれない!)

凛(でも撮影は?)

凛「……」

凛「ごめん!」タッタッタ

凛(スマートフォンのアプリで……)

凛(ルート検索……)

凛(あーもう! 走りながらだからぶれる!)

凛(モバP待っててよ!)

――



凛「はぁ……はぁ……ん、はぁ…」

凛「どっかにいるかな……」

凛「探してみよう!」

10分後

凛(改札口の中までみたけど見当たらない)

凛(いないかもうどこかに行っちゃってるのかな……)

凛(いや、でもまだこの辺にいるかもしれない!)

凛(探しに行こう)

――



駅 ベンチ

凛「……」

凛(結局半日走り回ってモバPらしき人を見つけることはなかった)

凛(今はもう走り疲れて座っていても足が痛い…)

凛(こんなに必死になって走ったのっていつぶりだろ)

凛(小学校の持久走の時以来?)

凛(よく覚えていない)

凛「はぁ……」

凛(仕事を放り出して、挙句モバPらしき人も見つけることができなかった…)

凛(私なにやってるんだろう。)

プルル

凛「プロデューサーからだ」

ピ

凛「もしもし」

凛P『渋谷凛!』

凛(めちゃくちゃ怒ってる……)

凛(まぁ、当然だよね)

凛P『全く何を考えてるんだ!』

凛P『他の仕事とかぶってしまったと見え見えの嘘でなんとかしたが』

凛P『仕事を放り出すなんてどういうことだ!』

凛「ごめん……」

凛P『ごめんで許されるわけないだろ!』

凛P『お前本当にどうしたんだ!? 最近ずーっとボーッとしてるし』

凛P『仕事を放り出すどころかお前は寝坊すらしたことがないだろう!』

凛P『時間だってきっちり守るし真面目なやつだったと記憶してるぞ!』

凛「ごめん……ごめんね……」ポタポタ

凛P『泣いて許されることじゃない!』

凛P『とりあえず説教は明日する。覚悟しておけよ』

ピ

凛「……」ポタポタ

凛(自分が惨めでしょうがない…)

凛(最悪な日……)

凛(もうモバPに会えないのかな?)

凛(いつか会えるかもしれないと思ってたけどきっともう無理なんだ)

凛「いやだ……」ポタポタ

凛「もうあえないなんて嫌だよ……」ポタポタ

凛(たった短い時間一緒に過ごしただけの関係)

凛(けど、私は彼にプロデューサーとして男として恋をしてしまった)

凛(こんなにも会えないのが苦しい)

凛(こんなにも会いたいと思う)

凛(こんなにも……隣にいないのが寂しいと思う……)

凛(これが恋じゃないわけないよね……)

五十代くらいのサラリーマン「ねぇ、きみどうしたの?」

凛「……」

サラリーマン「家出かな? もしよかったらうちに来ない? 部屋空いてるよ?」

凛「……」

サラリーマン「あ、お小遣いがほしいのかな?」

凛「あっちいって……」

サラリーマン「ん?」

凛「あっちいってよ!」

サラリーマン「きゅ、急に大声出すな――」

モバP「おじさん。早く帰らないと家族の人が心配するよ」

凛「あ……」

サラリーマン「だ、誰だお前」

モバP「それとも、あっちに行ってみる?」

サラリーマン「そっちは交番じゃないか…」

モバP「うん」ニッコリ

サラリーマン「……」イソイソ

モバP「ふー、大丈夫だった?」

モバP「まったくだめだよ。こんな駅でこんな時間にいるなんて」チラ

モバP(あれ? この子凛ちゃんに似てるような…)

モバP(まぁ、こんなところにいるわけないし人違いか)

凛(モバ……P?)

凛(あ、いやさっきの人だ……)

凛(近くで見ると本当似てる)

モバP「じゃあ、僕はもう家に帰るから」スタスタ

凛「ね、ねぇ!」

モバP「ん?」

凛「モバ……P?」

モバP「え?」

モバP(もしかしてこの子本当に凛ちゃん!?)

モバP(あちゃー…どうしよう)

モバP(一人前のプロデューサーとしてから凛ちゃんの前に登場したかったんだけど……)

モバP(凛ちゃんの驚く顔を思い浮かべながら毎日頑張ってるのに……)

モバP(今ここで出会ってしまうわけには……)

モバP(でも、向こうは僕だって確証を持ってわかっているわけじゃなさそうだしここは誤魔化してみようかな?)

モバP「ひ、人違いですよー」

モバP(誤魔化せたかな?)

凛「……眼鏡とマスクとってもらってもいいですか?」

モバP「お、親の遺言でメガネとマスクを付けて絶対に人前にいるようにと言われてるから無理なんだ」

凛「じゃあ……このジャケット。このジャケットを着てみてください!」

モバP「これ……」

モバP(はぁ……もうだめみたい)

モバP「わかったよ。着るよ」

……

モバP「はい。着たよ」

凛「ぴったり……」

モバP「さっきは黙っててごめんね」

モバP「僕だよ凛ちゃん」

凛「モバP!」ダキ

モバP「え? ちょ!? なんで!?」

凛「会いたかった…」

モバP「ええ? いや、あの、凛ちゃん!? 人、人見てるから!」

――

公園

モバP「さっきはごめんね。嘘ついて」

凛「どうして嘘なんかついたの?」

モバP「いやー、凛ちゃんに会うのは一人前になってからって決めてたからさ」

凛「ふーん。そうなんだ」

モバP「怒ってる?」

凛「わかる?」

モバP「そらもう……」

凛「許して欲しい?」

モバP「うん……」

凛「いいよ。でもその代わり一つだけお願い聞いて」

凛「もうちょっとだけこっちに寄ってくれる?」

モバP「それは構わないけど……」

モバP「これでいいの?」

凛「……」

凛「うん。いいよ」

モバP「でもさ。なんで凛ちゃんあんなところにいたの?」

凛「それは…」

カクカクシカジカ

モバP「なるほど。僕をあの撮影スタジオで見かけて探してたんだ……」

凛「そうだよ」

モバP「でも、それで仕事投げちゃったんでしょ?」

モバP「別にジャケットくらいそこまですることなかったのに……」

モバP「なんだかごめんね」

凛「なんでモバPが謝るの?」

凛「仕事を投げたのは私のプロ意識の甘さだよ」

凛「私情で仕事を放り出すなんてね」

凛「優しいのはいいんだけどたまには人を叱らなきゃだめだよ?」

凛「その様子じゃまだ自分のアイドルに怒ったことないでしょ」

モバP「あはは。みくちゃんは真面目だし一生懸命だから怒る隙がないんだよ」

凛「みくちゃんっていうんだ……」

モバP「どうしたの?」

凛「別に」

モバP「でも、凛ちゃんがあのスタジオにいたのは驚いたなー」

モバP「台本には載ってなかったよね?」

凛「急遽参加することが決まったんだよ」

モバP「んー、でも凛ちゃんみたいな大物アイドルがなんで地方でやるドラマに?」

凛「それは……内緒」

凛「でも、モバPもなんであの場所にいたの?」

凛「私はてっきり帰ったものだと……」

モバP「ショッピングいしてたんだよ」

モバP「ほら、手に洋服の袋があるでしょ?」

凛「買い物だったんだね」

モバP「うん。実は……これをみくちゃんに見せたらね」

凛「アフロ?」

モバP「のカツラね」

モバP「いやー、最近はアフロがトレンドヘアーだって聞いて僕自身も格好いいなって思ってたんだよ」

モバP「んで、そのことをみくちゃんにいったらモバPちゃんの美的感覚はおかしい」

モバP「どうせ私服も残念なものになってるだろうからってみくちゃんが洋服を選んでくれたんだよ」

モバP「それでショッピングをしていたんだよ」

凛「とりあえずアイドルが苦労してるんだなってことは伝わったよ」

凛「でもさ。モバP三ヶ月みない間に変わったね」

モバP「あはは。頑張ってるからね」

凛「昔より全然堂々としてるよ」

モバP「うん。ありがとう」

モバP(ちひろさんのトレーニングのおかげなんだけど)

とりあえずここまで

あ、いやもうちょいだけかけそうだから書いちゃうね

凛「ねぇ、モバP。一つだけ聞いてもらいたい願い事があるんだ」

モバP「なに?」

凛「私をね……モバPのアイドルにしてもらいたいんだよ」

モバP「え……?」

凛「ごめん。ちょっと唐突だったかな?」

凛「でも、早くこの言葉を言いたくってさ」

モバP「と、唐突もなにも…・」

モバP「凛ちゃん本気で言ってるの?」

凛「私は本気だよ」

凛「まだ事務所には言ってないんだけどね」

凛「色々と面倒になりそうだけど……そこは私がなんとかするよ」

モバP「いや……だってうちは弱小プロだよ?」

モバP「大手のそっちとは仕事もそんなないし……」

凛「仕事量じゃないよ」

凛「私はモバPのアイドルになりたい。ただそれだけだよ」

モバP「な、なんで僕なんかのアイドルに……」

凛「私はモバPの元だったらアイドルを続けられるかもしれないからだよ」

凛「常日頃事務所の人間や業界の人が私を私として見てくれなくて鬱憤が溜まっていたんだ」

凛「それが溜まりに溜まって私はアイドルをやめようと思った」

凛「本音を言えばアイドルはやめたくなかったんだよ? 仲間の存在やファンの存在があったからね」

凛「それにアイドルのお仕事自体面白いし」

凛「でもそれを上回るくらいのストレスが溜まってて……私はアイドルをやめることを決断したんだ」

凛「そんなときにモバPに出会ったんだよ」

凛「出会って色々あって……」

凛「モバPは業界の人の中でも私を私として見てくれる存在だと思ったんだ」

凛「そんな存在がプロデューサーになってくれるなら私はまだアイドルを続けられると思った」

凛「だから、私はモバPのアイドルになりたい」

凛「私はね。アイドルとしてプロデューサーのモバPに惚れたんだよ」

凛(そして、女として男のモバPに惚れたんだよ)

凛(でもその言葉はもっと先まで取って置かないと)

凛(今はまだ言うべきじゃない……)

モバP「……そうだったんだ」

モバP「でも、僕が凛ちゃんのプロデューサーなんて…」

モバP「まだぺーぺーの駆け出しだよ?」

凛「いいのそれでも」

凛「だめ……かな?」

凛「私をアイドルにするのは無理?」

モバP「……」

モバP「僕はいいよ」

モバP「凛ちゃんをプロデュース出来るなんて夢みたいだからね」

凛「本当!?」

モバP「ただ、まだ僕たちの口約束の段階だから正式にアイドルになれるようにしないとだめだけどね」

凛「うん。そうだね」

凛「よかった。モバPがOKしてくれて。もしかしたら断られるかと思って不安だったんだよ?」

モバP「あはは。ちょっと前の僕だったら二の足踏むか断っていただろうね」

モバP「それほどまでに渋谷凛ってアイドルのプロデューサーをするのは怖いからね」

凛「あ……でも移籍するにあたって結構揉めるかもしれないよ?」

凛「うちの事務所私を手放す気ないみたいだし……」

凛「迷惑かけちゃうけど大丈夫?」

モバP「大丈夫だよ」

モバP「こっちにはとっておきの秘策があるからね」

凛「秘策?」

モバP「とりあえずうちの事務所に来て。話はそれから」

本当に今日はここまで。明日完結予定

19時から

事務所

モバP「ただいまもどりましたー」

ちひろ「お帰りなさいです。遅かった……ですね?」

ちひろ「……」

ちひろ「そちらの方は?」

凛「渋谷凛です。初めまして」

ちひろ「……」

ちひろ「ん?」

ちひろ「えーっと。私の聞き間違いでしょうか?」

モバP「ちひろさん本物ですよ」

ちひろ「ええ!? 本物なんですか!?」

凛「はい」

ちひろ「また、どうしてそんな子がここに…」

モバP「それは話すと長くなっちゃうんですけど…」

モバP「とりあえず急いでいるんで社長室に行ってもいいですか?」

ちひろ「それは構いませんけど…」

ちひろ「モバPさん。もしかしてなにかしでかしたんですか?」

モバP「あはは。そうかもしれませんね」

ちひろ「まぁ、詳しい話は後で聞きます」

ちひろ「急いでいるんだったら早く社長室へ行ってください」

モバP「ありがとうございます」スタスタ

凛「事務員の人?」

モバP「そうだよ。とってもよくしてもらっているんだ」

凛「ふーん。美人さんだったね」

モバP「ああ、確かにそうだね。後は優しいし」

凛「……」

凛「モバPって年上好き?」

モバP「あはは。どうだろう」

凛「ふーん」

モバP「どうしてそんなこと聞くの?」

凛「別に」

モバP「? じゃあ、ここが社長室だから。僕が先に入るからね」

凛「うん」

モバP「失礼します」コンコン

社長『入っていいよ』

ガチャ

モバP「こんばんわ」

社長「こんばんわ」

社長「おや? そちらの子は?」

凛「渋谷凛です」

社長「おー。最近旬なアイドル渋谷凛君か」

社長「なぜ君がモバP君と一緒に?」

モバP「社長、そのことなんですけど……」

カクカクシカジカ

社長「なるほど。シンデレラ舞踏会でモバP君と会いモバP君のアイドルになりたいと……」

凛「はい」

社長「うちとしては大歓迎なんだけどね…」

モバP「社長。この場合あれが使えますよね?」

社長「ああ、そうだね。あれが使えるね」

凛(あれ? モバPが言ってた秘策のことかな…?)

社長「でも、渋谷君。君はまだそのことを事務所に伝えていないんだよね?」

凛「はい……実は」

社長「事務所に伝える勇気。君にはあるかい?」

社長「もちろん言うのは怖いだろう。なにを言われるのかわかったものではないし」

社長「自分のわがままで事務所に迷惑をかけるのは忍びないだろう」

社長「だけど、本当にモバPくんのアイドルになる覚悟があるなら伝えられるよね?」

凛「もちろんです。そのためにここにいますから」

社長「じゃあ、早速その覚悟を見せてもらおうかな」

社長「明日君の事務所に行ってそのことを伝えてくるんだ。いいね?」

凛「はい。わかりました」

モバP「社長、僕もついていっていいですか?」

社長「…そうしたほうがいいかもしれないね」

社長「私の方からアポは取っておくから明日の朝、渋谷君と一緒に行ってきてくれ」

社長「そして、向こうがOKを出してくれれば正式に移籍の話を進めようじゃないか」

凛「本当ですか?」

社長「私は嘘が苦手なんだよね」

凛「ありがとうございます」

社長「いやいや、私としても願ったり叶ったりだよ」

社長「では、モバP君彼女を送ってやりなさい」

モバP「はい」

社長「あ、その前に……一旦渋谷君は外に出ててもらってもいいかな?」

凛「? わかりました」

ガチャ パタン

モバP「「社長? なんですか?」

社長「これを君に渡しておこうかと思ってね」

モバP「これは?」

社長「これはシンデレラ舞踏会参加の同意書だよ」

社長「たぶん、渋谷君クラスになると事務所側がごねるだろうからね」

社長「これを見せて黙らせてあげなさい」

社長「君の付き添いを認めたのもそのためだよ」

モバP「なるほど……」

社長「いやー、まさかモバP君が渋谷君を釣り上げちゃうなんてね。びっくりだよ」

モバP「あはは」

社長「君のもとでアイドルになるのが彼女にとってもいいことだ」

社長「頑張ってくれよ」

モバP「はい」

――

次の日

凛の事務所前

モバP「うわー、ここが凛ちゃんの事務所かー」

モバP「結構大きいね」

凛「大手だからね。こんなものだよ」

凛「でも、ごめんね。私のわがままでこんなことになるなんて…」

モバP「あはは。いいよ。凛ちゃんのためだもん。このくらいなんともないよ」

凛「だったらいいんだけど……」

凛「迷惑な女じゃない?」

モバP「そんなことないって。それじゃあ、いこっか」

凛「うん……」

事務所内

ヒソヒソヒソ

モバP(圧倒的アウェー……)

モバP(まぁ、こういうのにはだいぶ慣れたし平気だけどね)

事務員「ここが社長室です」

凛「ありがとう」

モバP「ありがとうございます」

コンコン

凛社長『入ってくれ』

モバP「失礼します」

凛「入るよ」

ガチャ

凛社長「……」

モバP「初めまして○○プロダクションのモバPというものです」

凛社長「……」

凛社長「渋谷。話というのはなんだ?」

凛「えっとー」

凛(いざとなるとやっぱり言い出しにくいね)

凛(でも、モバPがここにいるのに尻込みすることはできない)

凛「私、この人のアイドルになりたいの」

凛社長「それは移籍の申し出ということか?」

凛「そうだね」

凛「私はこの人と一緒に仕事をしたい。この人のアイドルになりたい」

凛「私はシンデレラ舞踏会でモバPに出会ってアイドルとしてプロデューサーの彼に惚れたんだよ」

凛「だから、私はモバPのいる○○プロダクションに移籍したい」

凛社長「断る」

凛「だろうね……そう言われると思った……」

凛「でも私は引かないよ」

凛「もしこの移籍を断るって言うなら私はアイドルをやめる」

凛「数ヶ月前言った時はやめられなかったけど…」

凛「もしやめられなかったら家に引きこもって仕事でないよ」

凛社長「また、やめる……か」

凛「わがまま言ってる自覚はある」

凛「でも、例えわがままだとしても私はモバPのアイドルになりたいんだよ」

凛社長「渋谷。俺がお前にどれだけの金額をかけたのかわかっているのか?」

凛社長「まだまだお前には金を回収してもらわなきゃ困る」

凛「あいにく私は黙って金だけを運んできてくれるロボットじゃないの」

凛「なんて言われようと私が移籍する意思を変えることは出来ないよ」

モバP「僕からもお願いします」

凛社長「いいのか? こいつは私情で仕事を投げ出すようなやつなんだぞ?」

凛(プロデューサー。社長に言ったんだ)

モバP「そのことには僕にも原因があります」

モバP「それに社長さん。あなたも大人だったら約束を守ってください」

モバP「これ……なんだかわかりますよね?」

凛社長「……」

モバP「シンデレラ舞踏会の参加同意書です。あなたのサインがここには記されていますよ」

モバP「書類上のことは絶対なんじゃないんですか?」

凛社長「知らないなそんなもの」

モバP「ふざけないでください」

凛社長「……」

凛社長「この事務所のケツ持ちに誰がいるのか知ってるのか?」

凛社長「東京で最大の極道だぞ」

モバP「脅しですか?」

凛社長「言ってみただけだ」

凛社長「ただ、そういう人間がもしかしたら君の事務所の目の前をウロウロするかもしれないよってことだよ」

凛「え……?」

凛(そんなことされれば○○プロダクションに凄い迷惑になる……)

凛(私の考えが甘かった)

凛(移籍に関しては渋ると思ってたけどまさかヤクザを使うなんて…)

凛(……撤回したほうがいいかな?)

凛(今から撤回すればヤクザなんて使われずに迷惑をかけることはない)

凛(でもモバPのアイドルになりたい気持ちを抑えることはできないし)

凛(ああ、でも私が移籍しちゃえばモバPとそのプロダクションに多大な迷惑が…)

凛(今でさえ迷惑かけているけど……)

モバP「構いません」

凛「モバP……?」

凛社長「ほう」

モバP「ヤクザだろうがなんだろうと呼んでください」

モバP「僕も凛ちゃん同様絶対に引きませんよ」

モバP「彼女が僕のアイドルになりたいと言ってくれた」

モバP「そんなアイドルをたかがヤクザで脅されたごときで手放すほど僕は腐っていません!」

凛社長「……」

訂正

>>295 (今でさえ迷惑かけてるけど…) ×

    (今でも迷惑かけてるけど…)○

凛社長「はぁ…わかった」

凛社長「いいだろう。移籍を認めてやろう。書類上の問題で多少時間はかかるだろうけどな」

モバP「本当ですか!?」

凛社長「ああ、それにヤクザ云々も冗談だ。うちのバックにそんなのはいない」

凛「じゃあ…! なにもせずに黙って私の移籍を認めてくれるんだね!」

凛社長「そういうことになるな」

凛社長「渋谷の代わりのアイドルなんて金を注ぎ込めばいくらでも作れる」

凛社長「移籍なりなんなりするがいいさ」

凛社長「ただし、今まで通りいっぱい仕事がくると思うなよ」

凛「いいよそれでも。私はモバPのアイドルになるって決めたんだから」

凛社長「そうか……」

凛社長「さぁ、もう話は終わったんだから出てってくれ。気分が悪い」

凛社長「後はお前らの社長と話をするだけだ」

モバP「はい!」

――

凛の事務所 前

モバP「やったね凛ちゃん!」

凛「うん!」

凛「ありがとうねモバP」

モバP「あはは。僕こそありがとう」

モバP「僕のアイドルになりたいっていってくれて」

モバP「とっても嬉しかったよ」

凛「これから色んなことがあると思うけど……」

凛「よろしくね」

モバP「こちらこそ!」

凛「うん。あ、でもモバPの言ってた秘策っていうのはあの同意書ってやつ?」

モバP「まぁ、そんなところ。歩きながら説明するよ」

モバP(あ、けどこのことって言っても大丈夫なのかな?)

モバP(まぁ、大丈夫だよね)

カクカクシカジカ

凛「そうだったんだ……だから社長も移籍の話を飲んでくれたんだ」

モバP「そういうこと」

凛「でも、よかった。たまたまそんな制度があってくれて」

凛「そうじゃなかったら私、モバPのアイドルになれなかったかもしれないし」

モバP「あはは。そうかもしれないね」

スタスタ

凛「あ……」

モバP「どうしたの急に立ち止まって」

凛P「凛……」

モバP(凛ちゃんのプロデューサーさん?)

凛P「お前、事務所を移籍するって本当なのか?」

凛「うん。このモバPのね」

凛P「君はシンデレラ舞踏会で会ったやつか?」

モバP「あ、はい。そうです」

凛P「そうか……」

凛P「……」

凛P「まぁ、移籍するのが決まったのであればまた新しいアイドルを育てるだけだ」

凛「プロデューサー」

凛「一応言っておくね」

凛「今までお世話になりました」

凛「いこっかモバP。社長さんに報告しに行こうよ」スタスタ

モバP「え、えっと。うんそうだね」スタスタ

凛P「……」

――

事務所

社長室

ガチャ

モバP「社長!」

社長「はっはっは。話は聞いてるよ」

社長「めでたく話が通せたみたいだね」

モバP「はい!」

社長「渋谷君。君の覚悟見せてもらったよ」

凛「はい」

社長「これからもよろしくね」

社長「私は君とモバPくんを全力でサポートするよ」

凛「お願いします」

社長「とりあえず移籍は決まったけどまだまだ書類関係でやらなきゃいけないことがあるから」

社長「そこは私とモバP君。それから事務員のちひろくんに任せてくれ」

凛「はい」

社長「では、改めて。我が○○プロダクションにようこそ。渋谷凛君」

凛「よろしくお願いします!」

凛「なんだか夢みたいだよ……本当に移籍できるなんて…」

モバP「夢じゃないよ。現実だよ」

凛「そうだよね。うん。ちゃんと現実だ」

モバP「じゃあ僕からも改めて」

モバP「凛ちゃんのプロデューサーになるモバPです。よろしくお願いします」

凛「モバPのアイドルになる渋谷凛です。よろしくお願いします」

凛「ふふ、なんだかちょっぴり変だね」

モバP「あはは。そうだね」

社長「ところで君達。おもしろいデータがあるんだけど聞いてみるかい?」

モバP「なんですか?」

社長「実はシンデレラ舞踏会で結ばれたアイドルとプロデューサーは」

社長「男と女としても結ばれることが多いんだよ」

社長「というか、100%結婚してるんだよ」

凛「……」

モバP「え? それ本当ですか?」

社長「本当だよ」

モバP「あはは。まさか凛ちゃんに限って僕となんて、ね?」

グイ

モバP「ちょ? 凛ちゃん。なんで僕の顔に手のひら押し付けるの……」

凛「こっちみないで……」

モバP「な、なんでぇ」

凛「いいから見ないでってば!」

社長「はっはっは。渋谷君、トマトみたいだね」

凛「…外出る」スタスタ

モバP「え!? なんでさ!」

社長「今日からまた一段と賑やかになりそうだね」

社長(……)

社長(また一人君が立てた企画のおかげでアイドルがいいプロデューサーに巡り会えたよ)

社長(まぁ、君が関わったのは一回限りなんだけどね)

社長(アイドルが一人喜んでいるんだ。草葉の陰で君も喜んでいるのかな?)

――

事務所

モバP(あれからちょっとだけ時が流れて……今日)

モバP(凛ちゃんが正式にうちの事務所のアイドルになった)

モバP(事務所の窓は少しだけ開いてて、優しく暖かい風と日差しが入ってくる)

凛「渋谷凛です。よろしくお願いします」

パチパチ

モバP「うん。自己紹介ありがとう」

モバP「えっと、右からうちの事務所の人を紹介するね」

モバP「まずは社長だよ。もう結構会ってるからいらないかもだけど」

社長「はっはっは。期待してるよ」

凛「はい。頑張ります」

モバP「次に事務のちひろさんね」

ちひろ「千川ちひろです。よろしくお願いします」ニコ

凛「よろしくお願いします」

モバP「それで最後に同じ事務所の先輩にあたることになるのかな?」

モバP「前川みくちゃんだよ」

みく「……」ム

モバP「あれみくちゃんどうしたの?」

みく「……なんでもないにゃ」

モバP「だといいんだけど」

みく「……」ジー

凛「……」ジー

バチバチバチ

モバP「どうして二人ともに睨みあってるの?」

みく・凛「別に」

モバP「ん?」

みく(これは女の勘にゃ)

凛(これは女の勘……)

みく・凛(この女は間違いなくプロデューサーに惚れている)

メラメラ

社長「おー、熱い。ちひろ君。私にはちょっと熱すぎるよ」

ちひろ「私もやけどしそうです…」

ちひろ「原因の彼はまったく気づいていないようですけど」

モバP「?」

みく「そういえばモバPちゃん。この前あそこに新しいおしゃれな喫茶店が出来たにゃ」

みく「『二人っきりで』今度一緒に行こうにゃ?」

モバP「いいね! いくよいくよ」

凛「…・…」ム

凛「ねぇモバP。今度うちの近くにペットショップができたんだけど一緒に行ってくれない?」

凛「『二人っきりでね』」

モバP「ん? ああ、全然いいよ」

みく「……」ジー

凛「……」ジー

みく「モバPちゃん! みくがたまたま持ってたポッキーがあるにゃ! 食べるにゃ?」

モバP「うん。頂こうかな」

みく「あ、みくが食べさせてあげるから別に動かにゃくていいにゃ」

みく「はい、あーんにゃ」

モバP「ん? んん」パキパキ

モバP「あ、ありがとうね」モグモグ

みく「……」ドヤ

凛「ちょっともらうね」

みく「あ! 勝手に取ってかないでほしいにゃ!」

凛「モバPお腹空いてるでしょ。はい」

モバP「ん? う、うん」パキパキ

みく「ちょっとなにするにゃ!」

みく「ここは先輩であるみくに譲るべきにゃ!」

凛「仕事を始めたのは私のほうが先だし仕事量も私のほうが先輩だよ」

みく「そ、それを言われると……」

みく「ま、まぁみくは凛ちゃんとは違ってモバPちゃんと関わってる時間が多いからここは譲るにゃ」

みく「みくは大人にゃ~」

凛「人との付き合いに時間は関係ないよ」

凛「大切なのは密度だよ。私はその密度が前川さんよりも上だよ」

みく「むかー!」

みく「みくだってモバPちゃんと濃い時間を過ごしているにゃ!」

モバP「ふ、二人とも喧嘩はやめて!」

凛「取り込み中!」みく「静かにするにゃ!」

モバP「すいません……」

社長「はっはっは。賑やかになりそうだとは思ったけど」

社長「一人増えただけでここまで賑やかになるとは予想してなかったよ」

ちひろ「そうですね」

モバP(父さん今後色々苦労しそうだけど僕は楽しくやっていけそうです)

モバP(みくちゃんと……)

モバP(凛ちゃん……)

モバP(僕は彼女たちにどんな魔法をかけてあげることができるかな?)

モバP(父さんのように綺麗な魔法で輝かせてあげたいよ)

モバP(いや、あげたいじゃなくて絶対輝かせるよ!)

モバP(……)

モバP(父さん)

モバP(僕の夢は子供のときから変わらずに――)

モバP(女の子に魔法をかけることができる魔法使いだよ)

end

以上、無駄が多いシンデレラの翻案みたいなものでした。

また暇なときにでも違った作品で翻案にチャレンジしたいとおもいます。

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