千早「戻れぬ道を歩もう」 (8)
ステージへと踏み出す。
照らすスポットライト。サイリウムの波。
ああ、私はここに帰ってきたんだ。そう思うと嬉しくもあり、反面怖くもある。
歌える。本当に?
また声が出なくなったら。観客達はどう思うだろう。
失望? 怒り? それとも興味すら湧かない?
怖い。期待に応えられないかもしれない自分が存在する事が。
怖い。また自分の存在意味を失うかもしれない事が。
怖い。あの人の信頼を失う事が。
気が付いたらステージの真ん中で足が震えていた。唇を噛み締め堪えようとしても止まらない。
普段強がってみせても所詮私なんかこの程度のちっぽけな存在に過ぎないんだ。過去に捕らわれ前を向く事すら出来ない、これが本当の私。
今すぐステージ裏へと駆け込めるならどれほど楽だろうか。もうそれでいいんじゃないか。どうせ私は期待に応えられない。
そう思って舞台袖に視線を送ると、あの人と目が合った。
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彼は微笑んでいた。
頑張れ、千早なら出来るさ!
無理するな、焦らなくていいんだ!
そうじゃない。
彼は私のやりたいようにやれ。そう言う代わりに笑いかけてくれている。
足の震えが止まるのを感じ、ふと観客席を見る。
なんだ。ファンのみんなも笑ってくれてるじゃないか。
やりたいようにやれ。そう言ってくれてるじゃないか。私は何に怯えているんだ。
握り締めたマイクを口元に近付ける。伴奏が始まると同時に肺へと空気を送り込む。
歌おう。精一杯。例え音程を外そうとも、リズムを間違えようとも。
私の。今の私の歌を伝えよう。
彼の為に。ファンの為に。
「——ねえ、目を」
私のこれまでの人生は幸せとは言い難いものだった。
弟を亡くし、声を無くし。絶望が染め上げるだけの人生だった。
暗く淀んだ世界。それこそが私の生きる世界。そう、思ってた。
「そっと私を、照らす光」
そんな世界に差し込んだ一筋の光。塞ぎ込んでいた私を包んでくれた暖かな光。
「聞こえてるよ君のその声が」
いつまでそこに居るんだい? ほら、笑顔をみせて。さあ。
痛みを勇気へと変えて、立ち上がって。
彼がそう教えてくれたから、私は歩きだす事が出来た。
暗闇が覆う世界から、一歩。踏み出せた。
「歩こう。戻れぬ道」
踏み出した先は真っ白で。何が起きるかすら分からなくて。
でも気付いたら私の周りにはたくさんの人がいて。彼が私の手を掴んで引っ張ってくれて。
「祈りを響かすように」
振り返った先にあるはずの暗闇の世界は消え去っていて。
代わりに手を振ってくれるあの子がいた。
もう大丈夫だよ。
だから前を向いて。
歩き出して。
そう聞こえ、私は頷いて歩き出す。
「約束するよ、夢を叶える」
どんな未来かは分からない。けど歩もう。
「Thank you for love」
過去への戻れぬ道じゃなく、新たな道を彼と共に——。
おわり
P「なになに…政府広報によると『女子のみなさん、30代前半までに妊娠・出産した方がいいですよ』だってさ」
千早「は?」
小鳥「はい?」
律子「正座」
>>84
いくらなんでも4レスとかアリなのか?
びっくりしたんだけど
あとお前さん、人に読ませようとする気ないだろ
すいません向こうに投下するはずが間違えました
改めて向こうに投下してきます
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