結衣「異世界への行き方?」(76)
京子『千歳!綾乃!明日駅前集合なー!』
___
千歳『綾乃ちゃん!当然私は辞退するで!頑張ってきいや!』
綾乃『なっなっなっなっ頑張ることなんてナイナイナイアガラよ!』
___
綾乃「歳納京子に遊びに誘われた……」
綾乃「どの服来ていこうかしら……あーでもないこーでもない……」
___
結衣「京子はまだ来てないよ」
綾乃「えっ?えっ」
結衣「あいつ集合時間の30分前に起きたんだって。さっきメール来た。」
綾乃「そっそうなの」
綾乃(船見さんも誘われてたのね……まあそうよね……)
綾乃(というか千歳が辞退した意味……)
結衣「……」
綾乃「……」
結衣(綾乃と二人きりになってしまった)
結衣(綾乃はシャイだからなあ……こっちから何か話題振るか)
結衣「今日はワンピースなんだ。すごく似合ってるね」
綾乃「えっ!あっあっ……そっそうかしら。」
結衣「うん。綾乃らしくてとてもいいよ。綾乃はいつもお洒落でうらやましいな。」
綾乃「そっそんなことないわ!船見さんだってその服とっても似合ってるわよ!」
結衣「そう?ありがとう。ねえ、今度一緒に服を買いに行こうよ。ぜひ綾乃に服選びを手伝ってほしいな。」
綾乃「ふっ船見さんがいいなら……。」ドキドキ
結衣(どうやって時間潰すかなー)
結衣「京子が着くまでもう少し時間かかりそうだな。その辺ブラブラしてない?」
綾乃「そっそうね!この辺りにはお店もたくさんあるし。」
結衣「じゃあ行こうか。あっちの通りに行ってみない?」
綾乃「そうしましょうか。あっ!あの服屋さん!なんだかよさそうな雰囲気じゃない?」
結衣「うーん……今日は持ち合わせが少ないからなあ……。見るだけっていうのも、なんだか今日は違う気がする。」
綾乃「今日は違う気がする?」
結衣「綾乃と一緒に服を見るのは今日じゃなくて、また別の日の楽しみとして大事にとっておきたいんだ。」
綾乃「たっ楽しみに!?」ドキッ
結衣「うん、楽しみにしてる。ところで綾乃、動物好き?」
綾乃「えっ!すっ好きだけど……突然どうしたの?」
結衣「ペットショップ」
結衣「いろんな動物がいるね」
綾乃「そうね。どうして突然ペットショップに入ろうと思ったの?」
結衣「気まぐれだなあ。たまたまペットショップが目に入ってきたんだ。もし干物屋が目についていたら干物屋だったよ。振り回してごめんね。」
綾乃「いえ、全然平気よ。ペットショップなんて久し振りで楽しいわ。船見さんは好きな動物いる?」
結衣「犬だな。あいつらは従順でいいよ。綾乃は?」
綾乃「(従順でいい……?)私は鳥ね。」
結衣「鳥?」
綾乃「そう、鳥。子供の頃インコを飼っていたの。そういえばそのインコに関するとても不思議な話があるのよ。」
綾乃「体が白で背中が青のセキセイインコだったわ。いつも手の平に乗せて遊んでいたの。」
結衣「うん」
綾乃「夕ごはんを食べた後だったわ。その日も同じようにインコと遊んで、眠くなったら鳥かごの中に戻して、そしてしっかりとかごに鍵をかけたの。
それが私の日課だったのね。いつもそうしてから寝ていたの。」
結衣「ふむふむ」
綾乃「けれども朝起きたら鳥かごの中にインコの姿は無かったわ。」
結衣「へえ」
綾乃「鳥かごには昨日のまま鍵がかかっていたのによ?私は急いでお母さんとお父さんに報告したわ。
けれど、私がどんなに一生懸命説明しても、二人は私が鍵をかけ忘れたんだというの。確かに普通に考えればそれ以外ありえないわ。
でも、私はその日鍵をかけたことを、今でも鮮明に思い出せるくらいはっきりと覚えているの」
結衣「うんうん」
綾乃「きっと私が寝ている間に鳥かごのインコが世界から消えてしまったのよ」
結衣「それは悲しかっただろうね」
綾乃「とても悲しかったわ。それからしばらくは毎日泣いて過ごしたと思う。あっ、当然今はもう大丈夫よ?
気を使わせてしまったらごめんなさい。でも今でもたまに考えるの。あのインコはどこへ消えてしまったのかって」
結衣「ふふっ」
綾乃「っ!ごっごめんなさい!私ったらつい喋りすぎちゃって……」
結衣「いやいや、綾乃がそんなにたくさん私に喋ってくれて嬉しいよ。それに話もすごく面白かった。とても不思議な出来事だね。」
綾乃「そう、とても不思議なの。でも最近は昔と違う考えをするようにもなったわ」
結衣「どんな?」
綾乃「私が寝ている間にお父さんとお母さんがインコを逃してしまったの」
結衣「それは事故じゃなくて、故意にってことだよね?」
綾乃「そうよ。事故だったらちゃんと謝ってくれるはずだもの」
結衣「でもかごには朝しっかりと鍵がかかっていたんだろ?」
綾乃「そうなの。私が鍵をかけ忘れたということにするなら、逃した後鍵をかける必要はないはずなのに。
でも最近はこの考え方のほうがずっとまともに思えるわ。きっと昔より物事をもっと現実的に捉えるようになったのね」
結衣「どうしてインコを逃したんだろう」
綾乃「それも分からないわ。とても不思議な話なの。」
京子「なーにが?」
綾乃「とっ歳納京子!なんでここに!?」
結衣「私がメールで呼んだんだよ。おい、遅いぞお前」
京子「悪い悪い!猛スピードを出してノンストップで来たよ!」
京子(というのは嘘でしばらく遠くから二人が会話してるの見てたんだよね)
(なんかやたら楽しそうだったなあ。というかこの二人ってこんなに仲良かったっけ?)
京子「……結衣のばーか」
結衣「なんだお前」
_____
3月になった。放課後私と京子はいつものように部室にいた。
あかりとちなつちゃんは、今日はまだ来ていない。
京子「2人とも来ないね」
結衣「うん」
京子「暇だ」
結衣「そうだね」
京子「今月末私の誕生日だよ」
結衣「知ってるよ」
京子「何か面白い話して」
結衣「難しい振りだな……。じゃあ雛人形の話」
京子「雛人形?」
結衣「明後日雛祭りだろ?だから」
京子「うん」
結衣「お雛様とお内裏さまをそれぞれどちら側に置けばいいのか分かる?」
京子「あー、そう言われると分からないな」
結衣「雛人形の飾り方って陰陽説の影響を受けているんだって。昨日TVで言ってた」
京子「陰陽説?」
結衣「うん、陰陽説。世界には陰と陽の異なる2つの気があって、
昔の人はこの世のあらゆるモノやコトはそれらのバランスによって構成されていると考えたんだ。
そしてどちらの気がより強く現れるかによって物事を分類したんだと。
太陽は陽、月は陰、ペットショップは陽、干物屋は陰なんて感じにね。」
結衣「で、それによると男は陽、女は陰、左は陽、右が陰なんだと。」
京子「つまりお雛様が右でお内裏様が左?」
結衣「うん。まあこれは古式の並べ方で京都とか西日本の話なんだけどな。
私たちの地域じゃ全く逆になるらしい。理由はしらん。」
京子「今までの話はなんだったんだよ!」
結衣「あー、えっと、つまりこの話の教訓は、伝統なんて案外いい加減ってことだよ」
京子「だいぶ飛躍したな」
結衣「陰も陽もないんだよ。好きに置けばいいんだ」
京子「ねえ結衣、一緒に異世界に行かない?」
結衣「何言ってんだお前」
京子「異世界への行き方をこの前聞いたんだよ!行こうぜ!」
結衣「聞いたって誰からだよ」
京子「廊下歩いてたら耳に入ってきた」
結衣「どうしようもないな」
京子「行き方を教えるぞ。まず三階の音楽室の脇にあるトイレに行くんだ。
入ったら電気をつけて、そして消す。これを二回繰り返す。
その後手洗い場にある二枚の鏡の正面に立つ。そこで夜の十二時を待つんだ。
そうすると異世界に行ける。」
結衣「夜の十二時?無理に決まってるだろ。警備員につまみ出されるぞ」
京子「時計を使うんだよ。時間を狂わせた時計を持っていく。そうすれば勘違いしてくれるんだ。」
結衣「勘違いって……誰が?」
京子「知らん」
結衣「そこのトイレじゃなきゃ駄目なのか?」
京子「そこじゃなきゃ駄目だ」
結衣「どうして世界で七森中のトイレだけが異世界への入り口になるんだ?」
京子「しらん」
結衣「異世界に行くとどうなるんだ?帰って来れるのか?」
京子「しらん」
結衣「手紙でも残していこうか?」
京子「うるせー!さっさと行くぞ!」
____
ちなつ「ごめんね、私の用事手伝わせちゃって」
向日葵「大丈夫ですわよ。今日は生徒会の仕事もありませんでしたし。」
櫻子「そうそう。向日葵なんかこき使えばいいんだよ」
ちなつ「あっ!ならせっかくだし今日娯楽部に来ない?お礼もしたいし!」
ちなつ「遅くなりましたー……ってあれ?誰もいない」
向日葵「鍵は開いてましたのにね」
ちなつ「全く!京子先輩は不用心なんだから」
櫻子「船見先輩は?」
ちなつ「結衣先輩はいいのよ。ちょっと待っててね、今お茶の準備するから。そこに座ってて」
櫻子「どっこいしょっと。そういえばさー、花子がお化け見たらしい」
私達が向かっているトイレは特に利用者が少ないとかいうわけではない。
私も利用したことは何度もあるし、そこで何か問題が起きたことは一度もない。
当然私は京子の言っていることなど信じていなかった。
移動中京子は一言も話さず、私はそれを不審に思った。
そのうちに目的のトイレに着いた。
扉の前で京子は立ち止まった。
結衣「入らないのか?」
向日葵「お化け?」
櫻子「うん。下校中に見たって。デカくて黒くてぐにゃぐにゃだって」
向日葵「それはお化けというんですの?」
櫻子「花子がそういうんだもん。見てると頭がぼーっとするんだって。
で、気がついたらもういなかったって」
ちなつ「あれっ?なにこれ」
向日葵「どうしたんですの?」
ちなつ「押し入れで茶道具探してたらこんなのが」
櫻子「木箱?」
京子「なんでもないよ、入ろう」
トイレの中は思っていたより暗かった。利用者はいない。
先ほど話した通り、京子は電灯のスイッチのオンオフを二度繰り返した。
それを見て私は自分のやっていることが途端にばかばかしく思えてきた。
こんなことになんの意味があるのだろう?京子は何を考えているのだろう?
京子「……時計をPM11時58分にセットしたよ。後は手洗い場の鏡の前で二分待つだけ」
結衣「右と左どっちの鏡だ?」
京子「さあ……一人一枚でいいんじゃない?」
___
櫻子「開けてみて!」
ちなつ「うん……これは」
向日葵「雛人形?」
向日葵「どうして雛人形が?」
ちなつ「さあ。和室だからじゃない?」
向日葵(和室だから……?)
櫻子「お内裏様とお雛様だけ?」
ちなつ「他には見当たらないね。きっと簡略化してある安物なのよ」
櫻子「まあいいやとりあえず飾ろうよ!明後日雛祭りじゃん!」
ちなつ「うん……あれ?どっちが右でどっちを左に置くんだっけ?」
櫻子「そんなの決まってるの?」
向日葵「当たり前ですわ。正しい並べ方くらいあるに決まってるじゃない」
櫻子「じゃあどっちにどっちを置くんだよ」
向日葵「いや……まあ……知りませんけど」
櫻子「はあ?だからバカおっぱいって言われるんだよ!」
向日葵「バカはあなたでしょう!」
___
京子は右側の鏡、私は左側の鏡の前に立った。
鏡に写った自分の顔を見ながら現状について考えてみた。
京子の言っていることが正しければ、私たちは後数十秒後に異世界へ行く。
今までも京子は沢山くだらない提案をしてきた。
これもそのうちの一つなのだろうか?
なんとなく違う気がする。根拠は経験則という以外にないけれど。
時間は後何秒残っているだろう?
もしかしたらもう0時を回っているのではないか?
……どうして、京子はあかりとちなつちゃんを待たなかったのだろう?
ここまで考えた時何かに体を引っ張られた。
ちなつ「まあまあ……別にどっちでもいいでしょ。右も左も」
向日葵「じゃあ右にお雛様を置きますわ」
櫻子「ということは左にお内裏様だな」
ちなつ「二つしかないとしょぼいね」
櫻子「このお雛様、急に出てきたの?」
ちなつ「うーん、今までそんなに詳しく押入れ探したことなかったからね。
まあ単に今まで気づかなかったってだけで前からあったんじゃない?」
向日葵「急に出てくるわけないじゃない。櫻子はバカですわ」
櫻子「うるせーバカおっぱい!」
京子が私の制服の裾をおもいっきり引っ張っていた。
結衣「おい、どうしたんだ」
京子は返事をしなかった。
私は異様な雰囲気を感じ取った。
結衣「お前、もしかして本当に信じているのか?本当に異世界に行けると思っているのか?」
そう言った後で、私は京子の膝ががくがくと震えているのに気づいた。
結衣「ここから出よう。おい、行くぞ」
けれども京子は私を離そうとしない。
私は京子が持っていた時計を奪った。
0時まであと3秒だった。
2
1
0
トイレの扉が開いた。
あかりが入ってきた。
あかり「あれえ?京子ちゃんと結衣ちゃんだ」
あかり「京子ちゃん?結衣ちゃん?」
___
結衣「ただいま」
ちなつ「あ!結衣先輩!おかえりなさい!どこ行ってたんですか~!私ずっとずっと心配してました~!」
京子「ただいま!」
ちなつ「京子先輩こんにちは部室開けっ放しでどこほっつき歩いてたんですか?不用心です今度から気をつけてください」
あかり「ただいまぁ」
ちなつ「はあ?あかりちゃんいついなくなってたの?さっきまで一緒だったのに」
あかり「ちなつちゃんひどいよお……」
櫻子「こんにちは先輩方!」
向日葵「おじゃましています」
京子「お!おっぱいちゃんとちっぱいちゃんじゃん!」
___
結衣「結局異世界には行けなかったな」
京子「そうだな」
結衣「聞きたいことはいろいろあるんだけど……もういいや。何も起こらなかったんだ。」
京子「そっか」
結衣「もしかしたらやり方が悪かったのかもしれない」
京子「やり方?」
結衣「例えば、私たちはトイレの中に入ってから時計を合わせたよな?
でもそれじゃあ騙せないだろ。時計を狂わす作業はトイレへ入る前にやらないとバレバレだろ。
いや、何を騙すのかは分からないけどさ」
結衣「あとはあかりのせいとかね。あかりは0時になる0.0001秒前に入ってきたのかもしれない。
誰かが儀式の途中で入ってくると全部駄目になってしまうとか、いかにもありそうな話じゃないか?」
結衣「それか……」
結衣「実はもうここが異世界だったりね」
結衣「自分でも何言ってるのかよく分からなくなってきた……まあいいや。
とりあえず、あんな気味の悪いこと、私はもうしないからな」
京子「おう」
どうして私はこんな噂を信じてしまったんだろう?
どこの廊下で誰が話していたうわさ話だったっけ……?
異世界へ行くことを想像するととても怖かったが、それでも私は試してみたかった。
その気持ちの根源はきっとこんな感じだろう。
私は結衣と本当の意味で二人だけになりたかった。
___
それから2週間が経った。
その間現実に大きな問題が起こることはなく平凡に日々が過ぎていった。
少なくとも、私と結衣の周辺では。
今日はホワイトデーだ。
京子「お返しちょうだい」
結衣「なにも貰ってない」
京子「ちなつちゃん」
ちなつ「いやです」
あかり「あかりクッキー作ってきたよお」
京子「うおお!あかりー!」
あかり「えへへ。あかり今日は用事があるからもう帰るね」
結衣「ありがとな、あかり。気をつけてね」
ちなつ「誘拐されないようにね」
あかり「大丈夫だよお」
結衣「その自信はなんだ」
誘拐……。
今月になってから市内で誘拐事件が立て続けに4件起きている。
被害者は幼稚園児から小学生までの女の子だ。
子供たちはまだ見つかっていない。
当然犯人も。
あかり「だってあかりはもう中学生だよ。大人だよお。
被害にあってるのは皆子供なんでしょ?」
結衣「まあ、今ところはな。でも次は分からないぞ」
ちなつ「それにあかりちゃんに限っては話が別よ。
あかりちゃんなんて幼児どころかトンボ捕まえるより楽よ」
京子「そういえば、なんで犯人も分かってないのに誘拐事件なんだ?」
ちなつ「決まってるじゃないですか。子供が立て続けに4人も行方不明になってるんですよ?
年齢がぐちゃぐちゃなら話が別ですが、全員子供ときたら誘拐以外ありえませんよ。
しかも全員女の子です。ここまできたらもう犯人の目的まで察しがつくじゃないですか。」
あかり「目的ってぇ?」
ちなつ「言っていいですか?」
結衣「あかり、早く帰りな。用事があるんだろ?」
ちなつ「あっ……帰っちゃった。まあそういうわけで、誘拐以外ありえないんですよ」
京子「そうかなあ……」
ちなつ「じゃあ誘拐以外何があるってんですか」
京子「たとえば……突然消えちゃうとか」
ちなつ「はあ?何言ってんですか?あかりちゃんだってそんなこと言いませんよ」
京子「うーん……」
こんなことを言ったのには理由がある。
私は今月になってから人が消える夢をよく見るのだ。
夢の中で誰かと会う。
それは知人の場合もあるし、全く知らない人ということもある。
その人の影がどんどん薄くなっていく。
影が消えると同時にその影の持ち主も消えてしまう。
___
ちなつ「じゃあここで。結衣先輩~!さようなら!また明日!あっ京子先輩も」
結衣「じゃあねちなつちゃん」
帰り道、私は結衣に打ち明けた。
京子「ねえ結衣、私最近変な夢を見るんだ」
結衣「どんな?」
京子「誰かが消えちゃう夢」
結衣「だからさっきあんなことを言ったのか」
京子「うん。なんだかとても不安になるんだ」
結衣「心配し過ぎだよ。夢なんて右脳が勝手に創りだしたイメージなんだから」
京子「右脳?」
結衣「右脳は直感力や想像力の世界なんだよ。音や空間を認識したり、
何かをイメージしたりとかね。怖い夢は右脳の仕業さ。」
結衣「反対に左脳はもっと現実的な世界だ。論理的で計算高く、常識から外れた異質さを受け入れない。」
結衣「京子って絵がうまいだろ?絵を書くのは右脳の仕事だ。
きっと京子は右脳がとても発達していて、夢がとてもリアルな感触を残すんだよ。
京子を不安にさせるくらいにね。」
京子「なんで右脳は夢を作るんだろう?」
結衣「なんでだろうね。現実だけじゃつまらないからじゃないか?」
京子「なんだそれ」
結衣のおかげで、私は今までに見たあの不吉な夢を発達した右脳の印として誇らしく思うことができた。
一方で頭の片隅に小さな違和感が残る。何かが微かに引っかかる。
この違和感は右脳と左脳のどちらにあるものだろう?
この日花子ちゃんが失踪した。
直感力じゃなくて直観力…
私はそれを翌朝のニュースで知った。
櫻子ちゃんと花子ちゃんが一緒に夕飯の買い物へ行き、その帰り道に事件は起きた。
一瞬の出来事だ。
櫻子ちゃんの証言によると、時刻確認をしようとケータイを見るために数秒間花子ちゃんから目をそらしたら、
もう姿はなかったらしい。悲鳴も聞こえなかったようだ。
櫻子ちゃんはその日学校へ来なかった。
ごらく部も生徒会もギクシャクしている。
特に向日葵ちゃんは大きなショックを受けていた。
警察は櫻子ちゃんを疑っている。証言の状況があまりに不自然だからだ。
私はたまらなく不安になり、結衣の元へ駆けつける。
京子「ねえ結衣、今日泊まりに行っていい?」
結衣「うん、いいよ」
京子「ありがと」
結衣「うん」
結衣「大丈夫だよ。きっと」
京子「うん」
家に着くとすぐに結衣は布団をしいた。
私たちは一緒に布団へ潜った。
布団の中で私は結衣に尋ねた。
京子「ねえ、結衣。結衣は櫻子ちゃんが犯人だと思う?」
結衣「まさか、思わないよ」
京子「じゃあ櫻子ちゃんの証言に嘘はないと思ってるんだよね?」
結衣「ああ、そうだな」
京子「花子ちゃんが、まるで消えるように失踪したことも」
京子「私が夢を見るようになったのも、一連の事件が起きたのも、全部今月からなんだ」
京子「私は今までに5回夢を見て、そこで5人、人が消えるのを見た」
京子「誘拐事件は5回起きている。被害者は5人。そして一連の事件はおそらく同一のものだよね」
京子「昨日の事件によると、被害者は一瞬で失踪する。まるで消えるように」
京子「ねえ、私の夢とこの事件には一体どんな関係があるのかな?」
結衣「もう寝よう、目をつぶって。いくら考えても答えなんて出ないよ」
疲れが溜まっていたのだろう、目を閉じるとすぐに眠気がどっと押し寄せてきた。
結衣「京子は何も悪くないんだよ。全部右脳のイメージなんだ」
結衣がそういった時、私は頭の片隅にあった違和感の正体に気づいた。
『右脳と左脳』
『お雛様とお内裏様』
『トイレの二枚の鏡』
事件が起こり始めたのは異世界へ行く実験をした後からだ。
結衣には言わなかったが、私はそのことに気づいていた。
あの日トイレの手洗い場で、私は右側の鏡、結衣は左側の鏡の前に立っていた。
雛人形の飾り方はお雛様が右でお内裏様が左。それに右脳と左脳。
最近右と左がずっと私の頭に引っかかっていた。
一体これらは何を暗示しているのだろう?
それとも思わせぶりな偶然の一致にすぎないのだろうか?
考えているうちに眠りに落ちた。
それから私はいつもと違う夢を見た。
私は5人の女の子に出会った。
そのうちの一人は花子ちゃんだった。
きっと彼女たちは行方不明事件の被害者だろう。
彼女たちはぼんやりとしたまま動かない。
何も見えていないし、聞こえていないようだ。
「話しかけても無駄ですよ」
私の後ろからちなつちゃんが現れた。
ちなつちゃんの顔には目と鼻と口がなかった。
不思議と私は驚かなかった。
ちなつ「彼女らは影が食べられちゃってますからね。何にも関心をしめしません」
京子「どうしてちなつちゃんがいるの?」
ちなつ「どうしてもこうしてもありません!それもこれも京子先輩が入り口を開いたせいです!」
京子「入り口?入り口って何?」
ちなつ「何もウニもないんですよ!ニョロニョロが大量発生しています!まったく京子先輩はどうしようもないですね!」
京子「ニョロニョロ?」
ちなつ「黒くてぐにゃぐにゃしたお化けですよ!でかい芋虫みたいなやつです!
そいつが花子ちゃんたちの影を食べたんです!まったく京子先輩は!あかりちゃん並ですね!」
京子「あなた……ちなつちゃんなの?」
ちなつ「そんなことはどうでもいいんです!」
ちなつちゃんらしきものが私に覆いかぶさってきた。
ちなつ「京子先輩を犯します」
京子「は?」
ちなつ「猛レイプしてやります!犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯して犯しまくるんです!」
京子「ちっちなちゅ~?何を言っているのかな~?」
そう言い終わる暇もなく、ちなつちゃんらしきものは私の服を思い切り引っ張った。
京子「何してるのちなつちゃん!やめて!」
ちなつ「力づくにこいつを引き千切るんですよ。その後は強姦強姦強姦です。死なないでくださいね」
京子「どっどうしたの突然!?なんでこんなことするの!?影って何!?」
ちなつ「影は影です!影がないということは日がないということです!
それがなくなれば消えてしまうのは当然です!
いいから黙って犯されろです!」
京子「やめてっ!なんでもするから!」
ちなつ「今、なんでもするって言いましたね?」
ちなつ「それじゃあこのまま無抵抗に犯されろです!
私が無慈悲かつアナーキーに弄んでやります!
これから始まるのは世界最上級のファック・イリュージョンです!
京子先輩はカーニバルに参加できることを誇りに思ってください!」
京子「いっいやだ……!そっそうだ!ちなつちゃん!右と左!何か聞き覚えない!?」
ちなつ「……右と……」
ちなつ「左?」
ちなつ「そんなの決まってます!右のパイオツと左のパイオツです!
右の乳首を1秒間に1万連打ぶっぱなして消滅させてやります!
それと同時に左乳首です!暴力的かつ執拗にこねくり回して月に届くほど長く変形させてやります!」
ちなつちゃんは私の服を引きちぎった。
下着だけになった私にちなつちゃんらしきものがのしかかっている。
京子「やめて……ちなつちゃんは、結衣のことが好きなんでしょ?」
ちなつ「この場はひとまず性欲を満たせれば京子先輩だろうがあかりちゃんだろうが問題ありません。
それに京子先輩が悪いんです!京子先輩がいる限り私の気持ちは叶いません!」
ちなつ「なので京子先輩を犯します」
ちなつちゃんらしきものは実に手際よく私のパンツとブラジャーを剥ぎ取った。
全裸になった私の体を右腕で抱え込み動きを封じると、左手の指を私の女性器に添えた。
ちなつ「質問に答えてください。嘘をついたり答えなかったりしたら、
すぐにこの指を突っ込んで処女を卒業させてやります。
当然まんこだけじゃないですよ?どっちもです」
ちなつ「京子先輩はオナニーしたことありますか?結衣先輩をおかずにしましたか?」
あまりの質問に私はすぐに返答することができなかった
ちなつ「早くしてください!ぶち込みますよ!」
京子「しっ……したことない……!したことないです!」
ちなつ「では次の質問です。結衣先輩とセックスしたいと思ったことはありますか?」
私は答えなかった。
ちなつ「ぐずぐずしないでください!ぶち込みますよ!」
それでも私は答えない。
ちなつ「じゃあ質問を変えます!結衣先輩を性欲のこもった目で見たことは?性的な対象として捉えたことは?」
あまりの羞恥に耐えられず、私は泣きだしてしまった。
ちなつ「なに泣いてるんですか?あかりちゃんじゃあるまいし。これじゃあ私が悪いみたいじゃないですか!
いやならさっさと入り口を閉じてください!でないと……」
「世界がめちゃくちゃになってしまいます!」
悪夢から覚めた。
時計は深夜二時をまわっている。
私がぎゅっと結衣に抱きつくと、結衣は目を覚ましてしまった。
結衣「どうした、こんな時間に?」
京子「とても嫌な夢を見たの。のっぺらぼうのちなつちゃんが、私にめちゃくちゃしてくるの」
結衣「そうか、よしよし。怖かったね」
夢の中でちなつちゃんらしきものに浴びせられた質問を自分の中でもう一度反芻してみる。
私は激しい自己嫌悪に陥った。
その後しばらく沈黙が続いた。
そして私は結衣に尋ねた。
京子「ねえ、私が明日の朝目を覚ましても、結衣はここにいるよね?
この世界から消えたりしないよね?」
結衣「消える?インコみたいに?」
京子「インコって……何?」
結衣「なんでもないよ。たぶん消えないと思う。」
京子「たぶんじゃ嫌なの。絶対って約束して。」
結衣「あまりに突拍子もないことを言われると、もしかしたらそうなってしまう可能性もなくはないんじゃないかって思えてきた。
確かに0じゃないかもしれないな。京子が明日目を覚ましたら、私は世界から消えているかもしれない。」
京子「意地悪しないで」
結衣「ごめん。絶対どこにも行かないって約束するよ。」
京子「ねえ結衣、結衣は私に隠し事をしてるよね?」
結衣「隠し事?いっぱいあるよ」
京子「そういうんじゃないの。もっと大きくて重大なもの」
結衣「重大って……どのくらい」
京子「世界がめちゃくちゃになるくらい」
結衣「お前なあ、寝ぼけてんだよ。もう一回寝とけ」
京子「私、知ってるんだよ。だって雛人形の話も、脳の話も、鏡に立つ位置も、全部結衣から出た話なんだもん」
結衣「…………もう、寝ろよ」
京子「いつか教えてね」
結衣「……京子は、好きな人いる?」
京子「……わかんない」
結衣「そっか」
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません