…
……
………
――昼 岩手>理美容店ミヤモリ
白望「……」
白望「ん――あれ……塞……?」
白望(……いない あぁ買い出しだったけ
それにココ、部室じゃない……?)
白望(なら 今のは――)
白望「……夢か――懐かしいな」
>カランカラーン
>ただいまー
白望「……」
胡桃「あっ いま寝てたでしょシロ!」
胡桃「隙あらばサボろうとするんだからもう めっ」
塞「ははっ シロのクセは社会に進出しても健在だね」
白望「店長 持病が芳しくないんで……
長期休暇もらってもいい……?」
胡桃「そーゆーのいーからお仕事する!」
白望「なんてブラックな職場なんだ……」
胡桃「シロが黙ってれば潔白! ホワイトでいられるのっ」
白望「ちぇっ……」
>カランカラーン
照「うえーん」
塞「いらっしゃいませ――って、照さん!?
今日はどうしたの? また道に迷った?」
照「な、長野で……っさ、咲と遊んでて
お菓子の匂いを追いかけてたら はぐれてグスン
石につまづいて……わーん!」
白望(ここ岩手なんだけど……)
胡桃「はい! いつものアメ! 沢山食べて元気だして!」
照「グスッ……ありがとう」
塞「救急箱とってくるね
あっと照さん――携帯は?」
照「どこかに落とした……」
塞「了解 妹さんに連絡しておくね」
胡桃「照さん! こっちのソファーに座ろっ」
照「うん……」
胡桃「シロも! そこお客様のチェアでしょ
そのまま髪切っちゃうよ!」
白望「ふぁい」
照(ペロキャンおいしい)
白望「はい 顔はこの蒸しタオルでキレイにして
――今日も髪は切ってく?」
照「ありがとう うん、切りたい」
白望「おまかせでいい?」
照「うん」
胡桃「エイちゃーん 出番だよー」
>トテテテ ドテンッ……テクテク
エイスリン「コンニチワ!」
照(タンコブ出来てる……)
白望(コケたな……)
胡桃(コケた!)
エイスリン「ジャアカキマスネ!」
エイスリン「~♪」
エイスリン「デキタ!」
照「わぁ……その髪型ステキだね」
エイスリン「フンス」
白望「相手の夢も描けるようになったから……
今のエイスリンは――まぁ」
白望「トレースするだけじゃ“おまかせ”じゃなく
ただのお客様任せだから 多少はエイスリンの主観や……
センスによる手心は加わってるんだけどね――」
胡桃「ね!」
照「ソレは麻雀にも転用できる?」
エイスリン「ヨユーデス!」
照「スゴいね」
エイスリン「ヨクイワレル!」
胡桃「ここの対局でも大人気なんだよ!」
照「スゴい」
エイスリン「デハマタ!」
>トテテテ ドテンッ……テクテク
胡桃(またコケた!)
白望(麻雀が強くなると 他の部分が劣化するって
聞いたことあるけど 本当だったのか……?)
照(ペロキャンおいしい)
塞「――おまたせ エイちゃんの手当てもしてきたから 安心して」
塞「じゃあ照さん痛いところ出しましょうね 消毒するから」
照「しみる……グスン」
塞「今トヨネがミルクティー淹れてくれてるから 我慢しましょうね」
照「うん……が、頑張る……ペロペロ――グスン
ペロペロ」
胡桃(照さん可愛い!)
白望(これで20代だからなぁ……)
>カランカラーン
内木「こんにちわ」
塞「こんにちわいらっしゃいませー あら内木さん
今日は長野からの来客が多い日だね」
内木「そうなんですか? あっ――み、宮永プロ!?
は、はじめまして 内木一太です」
照「はひぃへまふぃへ」
胡桃「こらっ ペロキャン頬張らない!
はしたないからめっ」
照「ふぁーい」
内木(あぁ胡桃店長は今日も可愛いな……ボクも叱って欲しいな
ロリポップキャンディも似合うんだろうな 是非とも頬張った姿を
いつか拝みたいもんだ 駄目かなぁ、しつこく頼み込んでみようか
もし断られても叱らさえすれば どっちに転んでも得になるし――あぁでも次の来店の時に気まずく)
塞「はいはい妄想してないで座ってましょうね
トヨネのミルクティーもそろそろ出来上がりますから
おっと――トヨネー 一人分追加ねー」
内木「本当ですか! 楽しみだなぁ
じゃあ自分も失礼して――宮永プロはどうしてこちらまで?」
照「迷子になってつい」
内木「それは……
長野の迷子センターにお世話になった方がいいのでは」
照「迷子にだって迷子センターを選ぶ権利はある」
胡桃「ある!」
内木「ありますよねー胡桃店長! アハハ!」
白望(ここは迷子センターじゃないんだけど……)
姉帯「きたよー」
塞「お疲れ様トヨネ 私も半分運ぶね」
姉帯「うんっ――はい皆さんどうぞ
熱いから気をつけてねー」
照「美味しい」
内木「ありがとうございます――うん
なんか岩手に来たって気がします これを飲むと」
姉帯「もー大げさだよー」
内木(岩手に着いたらここに直行して
ここを出たら長野に直帰してるから
大げさでもないんだよなぁ……何してんだろボク)
姉帯「じゃあごゆっくりー」
内木「――そういえば 前々から気になってたんですけど
いま姉帯さんがくぐっていったカーテンの向こうって」
胡桃「住居スペース! 私達5人の!」
塞「二世帯だからね 行き来が激しくて不快ならゴメン」
内木「じゃあ一つ屋根の下で乙女たちが百rじゃなくて
女性達5人が暮らす仲慎ましい生活空間なんですね!?」
胡桃「も、もうっ いきなり大きな声ださない!」
内木「すいませんありがとうございます!」
照(ミルクティー美味しい)
白望(みんなが話し込んでると自然とサボれていいな……)
内木(そうだったのか……あの一枚の薄布の向こうは
うら若き女性達が仲慎ましく暮らすプライベート空間……!)
内木(ぶつけどころのない性の渇望……そして 肩を並べながらも
互いを遠ざける同性という距離感によって、夜な夜な募る
彼女達の愛は次第に、一番近い同居相手に向けられる……!)
内木(たまらないなぁ……! 何よりそこには
胡桃店長もいるのか あ、ヤバい……鼻血が)
胡桃「あっ 鼻血でてるよ! はいティッシュ!」
内木(天使だ……この鼻ティッシュは自室に保管しよう……)
胡桃(なぜか分からないけど気持ち悪い! 今日の内木さん)
照「ミルクティー……ごちそうさま
そろそろ髪とか整えて? シロさん」
白望「では向こうの席へどうぞ」
白望「メニューはいつものメイルやら シャンプーやらを込みで?」
照「あとヘッドスパを食べたい」
>ヘッドスパは食べ物じゃないよ
>え!? わたしのスパゲティが……
塞「……なんとなくだけどさ 胡桃」
胡桃「ん?」
塞「シロって照さん相手だと いつもより生き生きしてるよね」
内木(白照! そういうのもあるのか!)
胡桃「あーアレね! なんか照さんの∠がやたら気になるんだって
髪質が髪のソレとはまるで違うからとかなんとか」
塞「あぁなるほど……」
内木(なんだ……そういうんじゃ……ないのか)
>カランカラーン
塞「いらっしゃいませ――あっ 久しぶりね煌さん」
胡桃「久しぶりっ」
煌「ご無沙汰しております いやはや皆様方
息災のようで何よりです」
塞「今日も時間あるのよね?
なら適当にくつろいで行ってよ いま飲み物だしてくるわ」
胡桃「じゃあソファーで座って話そっ
あっ こちらは内木一太さん! 週一で来る常連さんっ」
煌「どうもはじめまして 花田煌と申します!」
内木「あ、ご丁寧にどうも 内木一太です」
煌「それにしても 週一とはすばらですね
どちらからお越しになってるんですか?」
内木「長野からです」
煌「私は東京です! この距離がなければ毎日にでも……あっと
立ったままというのもアレですので座らせてもらいますね
はぁ、やっと落ち着けました」
胡桃「いつも遠いトコからありがとね!」
煌「こちらこそ いつも心安らぐ一時を提供して下さって
感謝していますよ 胡桃さん」
胡桃「えへへ……」
内木(可愛い)
煌「仕事柄 あまり人と接する機会が少ないものですから
様々な人が自然と集まるココは これ以上にないすばらな場所です」
>胡桃の考えたコンセプトが
>煌さんのニーズに当てはまってたんだね
胡桃「えっ」
煌「おっと 初耳ですねぇソレは 店主のコンセプトとは一体?」
胡桃「ちょ、ちょっとシロ そーゆー昔話は……えっと
恥ずかしいからめっ 仕事してなさい!」
煌「よいではないかよいではないかー」
胡桃「キャッ き、煌!? そんなギュッとしちゃダメっ」
内木(ガタッ)
煌「おっと失礼」
胡桃「もうっ」
内木(スッ)
塞「お待たせ煌さん はい
トヨネ特製のミルクティー」
煌「待ってました!」
塞「よいしょ それでみんな何の話をしてたの?
ずいぶん楽しそうだったけど」
>……誕生秘話みたいな話 になるのかな
>この店にとっては
胡桃「シロ!」
煌「あらぁ ますます気になりますねぇ」
胡桃「~っ」
内木(照れる店長可愛い)
塞「はっはーん――誕生秘話か
どおりで胡桃が恥ずかしそうにしてるワケだ」
胡桃「むー……」
塞「はは まぁ、という私にとっても
あまり誇らしい話ではないんだけどね」
煌「そうなんです?」
塞「この店自体 若けの至りの延長線上に
乗っかって出来たようなモノだからさ」
煌「まぁなんとっ 昔馴染みの同級生たちが集まり
お店を開くだけでも希有なケースとお見受けしていましたが
なにやら 嬉し恥ずかしい裏事情まであるのですね?」
煌「すばらです!」
塞(個人的にはその口癖の裏話も聞きたいけどなー)
内木(すばらって何だろう……)
煌「それで! 話して下さるんでしょう!? 店主!」
胡桃「んー……いいよ!」
煌「本当ですか!」
胡桃「恥ずかしいことづくめの思い出だけど
一番の思い出でもあるから! 言って回りたい気持ちもあったんだ」
>ぽふんっ
内木(キタ━(゚∀゚)━!!!!)
胡桃「ね! 塞」
塞「ちょっ……仕事中に充電なし!
膝枕禁止! みんなみてるでしょ」
胡桃「ぷー」
内木(なにこれ可愛いすぎワロタ)
煌「ふふっ 私は構いませんよ
そのままの体制でも一向に――ね 内木さん?」
内木「可愛いすぎワロタ」
煌「えっ 今なんと?」
内木「え? あ、はい――自分としては
永遠にそのままでも一向に、はい」
塞「も、もう……っ」
胡桃「というわけで! 話すねっ 塞も手伝って?」
塞「う、うん……あーもう 二倍で恥ずかしいですけど」
煌「真っ赤になってますよぉ塞さん
スキンシップには奥手なんですねー すばらです」
塞「うー……もう 話しますよ話しますっ
話しながら気分を紛らわせますっ」
胡桃「ははっ あれは確か――私達が高校生三年生になって
1ヶ月くらい後の話っ」
………
……
…
数年前――夕方 岩手>宮守女子 麻雀部室
塞「えっ!? 胡桃、アンタ床屋で散髪してもらってるの?」
胡桃「うんっ 今日の帰りがてら寄ってくよ!」
胡桃「髪も伸びてきたからね
最近、シロも充電されづらそうにしてるし」
白望「くすぐったい……」
塞「いやいや シロがくすぐったがってるのは自分の髪にでしょ」
塞「目元どころか顎先まで隠れてるんだから
シロもいい加減に髪を切りなさい」
白望「ダルい……」
塞「そんな事より胡桃 アンタ今時の女子高生が
床屋で散髪してもらってるなんて よく臆面もなく言えたモノだわ」
胡桃「えっ」
塞「女の子なら美容院で調髪1択でしょ? フツー
理容と美容じゃ 髪に与える意味合いが全然ちがうんだから
法律的にも」
胡桃「でも! アメが食べ放題なんだよ?
待ってる間はファミコンだってやり放題の
そんな至れり尽くせりな空間なんだよ? 床屋って」
塞「はぁ……まったく そんなサービスを目的に
散髪しに行ってる訳じゃないでしょ?
見た目をより良好にする為じゃないの?」
胡桃「……」
塞「それなら床屋で散髪より美容院で調髪しようよ ね?」
胡桃「プルプル」
塞「髪以外も一通り整えてくれるしさ 確かに
遊び心は少ないけど アメもゲームも欲しいなら持参できるでしょ」
」
胡桃「……違う」
塞「……え?」
胡桃「違うよ!」
エイスリン「キャッ」
胡桃「塞は分かってない!」
塞「な、なにがよ」
胡桃「容姿を磨くだけじゃなくて」
胡桃「そーゆートコ以外の事も 満足できる
あのお店が私は好きなの!」
胡桃「ゲームもアメも大事だけど 他にも沢山いいトコロがあって
そーゆートコが大事なの! 惚れ込んでるの!」
姉帯「ク、クルミー……あ」
胡桃「帰る!」
>バタンッ
姉帯「……行っちゃったよー」
塞「……ハァー」
エイスリン「クルミ……オコッテタネ」
塞「ごめんねエイちゃん ビックリさせて」
白望「塞はほんと……胡桃にゾッコンだから」
塞「べ、別にそういうワケじゃ」
姉帯「確かにねー お母さんに髪を切ってもらってるエイスリンさんや
自分で髪を切るシロには 美容室に行けって言わないもん」
塞「……むー だって――」
塞「だって床屋よ? さっき言ったこともだけどさ
いつ潰れるかも分からない場所に通う位なら
もっと将来性のある場所に通った方が 胡桃のためになると思うの」
エイスリン「ベタボレ! ダネ!」
姉帯「ねー」
塞「も、もう あまり茶化さないでよっ」
白望「まぁ……胡桃って可愛いよね」
塞「ちょっ!?」
エイスリン「シュラバダ! サンカクカンケー!」
白望「いや……そうじゃなくて その可愛い胡桃を維持するのが
……必ずしも 美容室とは限らないでしょって話」
塞「いやいや、維持じゃなくてさシロ
胡桃が美容室でもっと可愛くなれば 胡桃も喜ぶんじゃないかって……」
白望「……可愛さって外面を良くすれば 獲得できるモノなのかな」
白望「胡桃が言ってた内面への充足感だって……
塞が言ってるのと同じ位 胡桃の可愛さを引き立てる要素だと……思うけど」
塞「あ……」
姉帯「いつもニコニコしてるからねー」
エイスリン「ポーカーフェイス! エガオノ!」
塞「そう、だよね……ありがとシロ
私、勘違いしてたかもしれない」
シロ「次はあまり……長セリフ喋らせないでね ダルいから
あと――」
シロ「もう1ヶ月は散髪しなくていい? 内面を良好を保つために」
塞「アンタは度が過ぎてるから今日中に切り揃えろ
良好どころかさっき くすぐったい言ってたでしょうに」
シロ「しょぼーん」
姉帯「今ごろ床屋でゆっくりしてるかなー」
塞「そうね 可愛くしてもらってるんじゃない?」
数十分後――夕方 岩手>みちばた
胡桃「……」
>【閉店しました】
胡桃「うーん……? 目の錯覚かな
さっきからどーも 目が有り得ない二文字を捉えるんだけど」
胡桃「ゴシゴシ」
>【閉店しました】
胡桃「…………」
胡桃「……」
胡桃「」
次の日――夕方 岩手>宮守女子 麻雀部室
胡桃「」
塞「……」
胡桃「」
塞「……なにこれ?」
姉帯「例の床屋が閉店してたんだって
朝からずっとこの調子なんだ……」
エイスリン「~♪」
>バッ【 ・v・ → ゚△゚ 】
姉帯「見事なまでの放心だねー」
塞「うーん……まさかここまで入れ込んでいたとは」
エイスリン「シロ! モット! ジューデンガンバッテ!
100マンボルト!」
白望「……無理」
姉帯「ふふ 放心してても充電は欠かさないんだねー」
塞「条件付けされてるんじゃない? シロの顔を見たら
無意識にくっつくように……もう」
胡桃「」
白望「ダルいなぁ……」
塞「明日には立ち直ってくれるといいけど――」
塞(胡桃……)
胡桃「」
次の日――夕方 岩手>宮守女子 麻雀部室
塞「――はい 案の定
精神的に弱った胡桃が風邪をもらって欠席したので
今日はみんなで緊急会議です」
塞「昼にメールしたから議題は行き渡ってるね?」
エイスリン「クルミフッカツ!」
塞「うんそう みんな考えてきてくれた?」
姉帯「うーん……考えてみたけどさー はてさてどうしよー状態だよ……」
エイスリン「スゴイジュウデンヲ! カマス!」
塞「シャドーしながら言わない シロは?」
白望「……ダルい」
塞「シロでさえ思いつかなかったかぁ……」
エイスリン「ムムム――」
塞「……私は胡桃が通ってた理容店に
連絡をとってみたりはしたんだけど もう機材や道具も処分したみたいで……」
塞「思いついた事も どこかの娯楽施設に遠出して
埋め合わせをする……なんて事ばかりだし」
塞「胡桃にも詳しく聞いてみたんだ
再現するにはどんな内容や内装をすればいいのか
みたいな事も メールで……でも、やっぱりダメみたいで」
塞「もう……どうしたらいいか ……グスッ
分からなくて」
姉帯「あわわわー……塞ー 泣かないでー……?」
塞「ん、ゴメン……大丈夫 ありがとうトヨネ」
塞「本当に辛いのは 私じゃなくて胡桃なんだ
私が泣いてたらダメだよね うん」
>お困りのようだね
エイスリン「コノコエハ!」
熊倉「大事な教え子の危機を救うための会議に
私を入れてくれないなんて 寂しいじゃないのさ」
\熊倉先生!/
塞「――というワケなんです」
熊倉「なんだ そんなの簡単じゃないか」
塞「か、簡単なんですか!?」
熊倉「要はあの子が気に入ってる場所に見合った
お気に入りの場所に 髪切り所を仮設してやればいいのさ」
姉帯「そんな場所があるんですか?」
熊倉「通ってたいた髪切り所のように 高校の拘束時間外に
通える場所に限るなら アンタ達が一番よく分かってるだろう?」
白望「……麻雀部 この部室――」
熊倉「まぁ あの子を満足させられるかどうかは
アンタ達次第だけどね まぁ勝算はあるだろう」
熊倉「アンタ達以上に 胡桃を理解できる人はいないんだ
それくらいアンタ達が過ごしている 高校時代という時間は
濃密で、信用に値する力をくれるモンなんだ」
熊倉「それが裏打ちしてくれるよ
アンタ達の行く先々の道をきっとね 私も若い頃は――」
塞「熊倉先生」
熊倉「ん? なんだい」
塞「話が長いです」
熊倉「あ、うん ゴメン……」
塞「でも――ありがとうございますっ
おかげで分かってきました」
塞「どこまで出来るか分からないけど……私は
胡桃のために やれるだけのことはやってみます!」
姉帯「私もいるよー」
エイスリン「イルヨ!」
白望「よ」
塞「みんな……ありがとう」
熊倉「じゃあ私は行くね 頑張ってみんな」
塞「はい!」
二日後――夕方 岩手>宮守女子 ろうか
白望「部室に連れて行くだけなら分かるけど……
胡桃をおんぶする必要はあるの?」
胡桃「」
塞「仕方ないじゃない
シロにくっついて離れないんだから」
塞「風邪も治ってソコは大丈夫ないんだし
なにより今は胡桃にサービスする時間なんだから キビキビ運ぶ」
白望「ダルい……」
塞「もう ホントは私が運びたかったのに……」
白望「え?」
塞「なんでもない」
塞「はい到着――じゃあ胡桃を下ろして?」
白望「うん」
白望(くっつかれながら下ろすの難しいな……)
胡桃「」
塞「はい胡桃 どうぞ? この扉を押して
――うん その調子」
胡桃「」
胡桃「……」
胡桃「あれ? ここ部室だよね?」
胡桃「わぁ……!」
――夕方 岩手>宮守女子 麻雀部室
胡桃「スゴい! なにこれっ」
胡桃「照明とか!」
胡桃「壁紙とか!」
胡桃「床もいつもと全然ちがう! ピカピカしてる!」
胡桃「なんか真ん中に椅子もある おっきー鏡も!」
姉帯「いらっしゃいませー胡桃さまー
こちらへどうぞー」
エイスリン「オイデヤス~」
胡桃「トヨネもエイちゃんもエプロンしてて可愛い!」
塞(私もしてるんだけどなー)
胡桃「で、でもみんな コレって一体どーゆー」
姉帯「どうぞー こちらがメニューだよー」
胡桃「メニュー……? 料理がたくさん書いてあるけど」
エイスリン「ウデニヨリヲカケマスヨー」
胡桃「う、うんと……? じゃあこのミルクティーと
クレープをお願い」
姉帯「うんっ しばらくお待ち下さい」
>ガラッ バタン
胡桃「え? え? トヨネー?
行っちゃった……」
塞「じゃあ 準備が整うまでの間
こっちで遊びましょ? 胡桃」
>ウィーンガシャン
胡桃「……」
塞「どうしたの? ボーっとして
風邪で麻雀のやり方を忘れちゃった?」
胡桃「う、ううん 平気」
>トンッ
胡桃(なんだか いつもの麻雀部じゃない)
胡桃(内装もだけど みんなの様子とか)
>トンッ
胡桃(それに……何だろう このニオイ)
胡桃(スゴく落ち着く……)
胡桃(なんだっけ ニオイの名前――)
>トンッ
胡桃(タルカムパウダー? だっけ)
胡桃(えへへ、何だか床屋さんみた
――あっ……)
胡桃(……)
胡桃(そっか――これ……全部みんな)
胡桃(私のため……なんだ)
胡桃「……」
塞「……胡桃? 大丈夫? まだ、どこか悪い?」
胡桃「ううん……グスッ そうじゃないの
ただ、嬉しくて……えへへ」
胡桃「――ありがとね エイちゃん、シロ、塞 あとトヨネもっ」
胡桃「私、もう 無くなった事を悲しんだりしないよっ」
胡桃「無くなった場所を 補えるくらいの場所を
自分で作れるように頑張る!」
胡桃「その気になれば出来るんだって みんなが教えてくれたから」
胡桃「だから ありがとっみんなっ」
/. ノ、i.|i 、、 ヽ
i | ミ.\ヾヽ、___ヾヽヾ |
| i 、ヽ_ヽ、_i , / `__,;―'彡-i |
i ,'i/ `,ニ=ミ`-、ヾ三''―-―' / .|
iイ | |' ;'(( ,;/ '~ ゛  ̄`;)" c ミ i.
.i i.| ' ,|| i| ._ _-i ||:i | r-、 ヽ、 / / / | _|_ ― // ̄7l l _|_
丿 `| (( _゛_i__`' (( ; ノ// i |ヽi. _/| _/| / | | ― / \/ | ―――
/ i || i` - -、` i ノノ 'i /ヽ | ヽ | | / | 丿 _/ / 丿
'ノ .. i )) '--、_`7 (( , 'i ノノ ヽ
ノ Y `-- " )) ノ ""i ヽ
ノヽ、 ノノ _/ i \
/ヽ ヽヽ、___,;//--'";;" ,/ヽ、 ヾヽ
エイスリン「ドウイタシマシテ!」
白望「……お礼なら 後でトシ先生にもね――あと」
白望「いちばん必死になってた対面の人には 特に」
塞「……へ!?」
胡桃「塞が?」
塞「べ、べつに大した事なんてしてないって
私が胡桃の為に必死になる事なんて――」
白望「ふーん……胡桃のためだったんだ
塞以外はみんな 部活仲間のために頑張ってたハズだけど」
塞「も、もうシロ!? そういう屁理屈はなし!」
胡桃「さーえっ」
>ギュッ
塞「キャッ」
胡桃「ありがとう!」
塞「あ、あはは……ふ ふふふふふふ」
エイスリン「サエ! ニヤケテル! カオマッカ!」
胡桃「んっ シロじゃなくて塞でも充電できるかも!
あっちで試そっ ねっ」
白望「……」←これからは少し楽が出来るなぁと喜んでいる
>ガチャ
姉帯「ミルクティーできたよー」
…
……
………
現在――昼 岩手>理美容店ミヤモリ
煌「なるほどなるほど ここの基本的なスタンスは
店主が理容店に対してもっていた 思い入れを元に作られたモノだったんですね」
胡桃「うんっ」
内木「ですけど ここって美容店も併合されてますよね
その点は胡桃店長が認めたって事ですか?」
胡桃「ソコは塞のこだわりっ ねー?」
塞「う、うん……」
煌「すばらですねぇ 対立して別の道に歩むハズだった気持ちが
互いに認めあって 手を結ぶと決めた」
煌「いやはや 羨ましい限りですよ」
内木(これをキッカケにシロ胡が胡塞になった……アリですね)
※実際には理容と美容を合同して経営するのは
あまり勧められたコトじゃないから よい子はマネしちゃダメだし! カナちゃんと約束だし!
>カランカラーン
咲「お姉ちゃん! ……いた
あぁ……よかったぁ」
>あ、咲
>ちょ 直しがダルくなるから動かないで……
塞「いらっしゃいませ咲ちゃん」
胡桃「いらっしゃい!」
咲「塞さん 胡桃さん
いつもお姉ちゃんがお世話になってます」
塞「座って? いまミルクティー持ってくるわ
っと、いい加減にどきなさい胡桃!」
胡桃「はーい……」
内木(一時間足らずで長野からココに来た事はツッコまないのか)
咲「よいしょ――あれ?
副会長じゃないですか! それに煌さんも」
煌「お久しぶりです宮永さん! 以前ここでお会いしてから
半年ぶりといったところでしょうか」
内木「ボクは高校の卒業式以来――になるのかな あはは」
胡桃「不思議! 照さんは二週間おきに迷子になって
内木さんは一週間おきに来てるのに 今まで一度も会わなかったんだ」
煌「ホントですねぇ 私は約2ヶ月おきですし」
内木「ほ、ホントだ! 不思議ですね! あはは
は、はははは……」
内木(ボクの狙いバレてないよな……?)
咲(副会長は胡桃さん目当てなんだろうな)
白望「――おまたせ 一通り終わったよ」
照「ただいま 咲」
咲「もう! ただいまじゃないでしょ
いつもお姉ちゃんは――あ……」
照「おめかししてきた」
咲「お姉ちゃん スゴく可愛い……
いつもだけど、いつも以上に」
胡桃「シロってば相変わらずいい仕事するね!」
シロ「そうすか」
照「私が可愛くなったのは咲のため つまり
私がいつも、道に迷うのは咲のため」
咲「いやその理屈はおかしい! でも――嬉しいよ! お姉ちゃん!」
咲「じゃあはやく帰ろう! お姉ちゃん
私のためにしてくれた事なら 私だけに見せて欲しいもん」
照「うん」
内木(なんというシスコンカップル……!
今日はなんて収穫の多い日だ 来てよかった……!)
白望「会計はこちらで――」
>――お預かりします
>またね あ……咲、今日の夜ごはんはスパゲティが
>カランカラーン
煌「いやはや 宮永妹さんはお姉さんしか
眼中にないといった感じでしたね」
胡桃「シロとエイちゃんがスゴいからねっ
それだってお店の自慢!」
塞「あれ? 咲ちゃんは……あれ? 帰っちゃったの!?」
数時間後――昼 岩手>理美容店ミヤモリ
煌「――さて そろそろ私も失礼しますね」
塞「あれ? もういいの?」
白望「みんなで閉店までのんびりしよう」
内木「しましょう!」
胡桃「シロはのんびりしすぎっ」
煌「……」
煌「いえ 見た目は整えて頂きましたし
それに――良いお話も聞かせてもらえましたので」
塞「そ、そう 私としては適度に思い出した後
忘れてもらえると助かるかな……はは」
煌「考えておきます! では、ありがとうございました
また会う日まで皆さん」
>カランカラーン
煌「……」
………
……
…
――「花田……なんでば東京に行く!」
――「私らと一緒にいよう約束は のうなったんか……?」
煌「……すいません」
煌「やはり私には 皆さんが用意してくれた場所は
荷が重すぎます……私では 皆さんの足を引っ張ってしまう」
――「そんなことなかばいて! インターハイば思い出しと」
――「花田をがとなか言うヤツんおったら 私がやかましゅ言うてやる!」
煌「……すいません」
――「なんでよ……花田 花田はそこまでネガティブばこと言わん!
すらごと言うな!」
煌「……」
――「っ……!」
――「もう知らん! 花田なんて
どこへとも行うてしまえ! 顔も見たくなか!」
…
……
………
>ぴっ、ぴっ
煌(怖いですねぇ 向き合うというのは)
煌(数年もの長い間、一度たりとも連絡を取り合わなかった
仲間達が その相手であれば尚更)
煌(きっと私はずっと逃げていたんですね
あのお店に……)
煌(強い結びつきを感じられる場所に……
別れた仲間達との 繋がりを感じさせてくれる場所に)
>トゥルルル トゥルルルル
煌(店主――次そちらにお伺いする時はきっと
逃げるためではなく 進むためにお邪魔いたします)
煌(そして感謝させて下さいな
自分の意も 仲間の意のどちらも蔑ろにしない
アナタ達の在り方が 私の背中を押してくれた事を)
煌「もしもし、花田 煌です――お久しぶりです 部長」
煌(きっと 仲間達と一緒に――)
カン!!!!
数時間後――夜 岩手>理美容店ミヤモリ
胡桃「さっ そろそろ閉店だよ!
帰った帰った!」
内木「せ、せめてあと一分 いやあと十秒――」
胡桃「めっ」
内木「めっいただきました――」
>カランカラーン
>バタンッ
胡桃「んっー……みんな! 今日も1日お疲れ様!」
塞「お疲れ様ー 先にあっち戻ってシャワー浴びるわ……」
白望「もう動けない……」
胡桃「もう! ソファーで寝たら風邪引くよ!
はい毛布!」
白望「ありがと……」
姉帯「お疲れさまー 二人とも」
胡桃「トヨネっ」
姉帯「ご飯なら あとあと30分くらいで出来上がるよー」
姉帯「今日はちょっと豪勢だから楽しみしててねー」
胡桃「うんっ だってさシロ!」
白望「起き抜けに食べるから……今は寝かせて」
胡桃「りょうかい!」
胡桃(今のうちに明日の仕込みを済ませておこっと
なんたって明日は――)
30分後――夜 岩手>理美容店ミヤモリ
住居スペース>居間
塞「ふーさっぱりさっぱり――うっわスゴっ
ローストビーフにチーズフォンデュ ケーキまであるじゃない」
塞「今日って誰かの誕生日とかじゃないわよね
コレって……」
エイスリン「キネンビ!」
胡桃「開店一周年のね! 正確には明日だけど」
姉帯「腕によりをかけて頑張ったよー」
姉帯「みんなとずーっと一緒にいた記念と
みんなとこれからも一緒にいたい 私からの気持ち」
塞「トヨネ……」
姉帯「えへへ……不束者ですけれど
これからも末永くよろしくねー」
塞「嫁入りかっ――まぁ私からもありがとう
これからもよろしく」
エイスリン「ウンッ アリガトウ」
胡桃「ありがとっ 店長として
これからも邁進するよっ」
白望(一周年か どおりで……あんな夢をみたわけだ
――ん 記念日ってことは……まさか)
エイスリン「シロ! ナンカ アオザメテル!」
白望「店長――明日の店の方針も
もしかして記念日仕様に……?」
胡桃「もちろん! 粗品を配ったり
割引で会計も少し勝手が違ってくるかな
開店前には特別な飾り付けを――」
白望「うん、明日は有給とるね 一日中
夢の中へ旅行しに行くから 探さないで下さい」
胡桃「めっ」
白望「なんてブラックな職場なんだ……」
胡桃「シロの名前で中和すれば グレーゾーン!」
白望「そんな無茶な……」
姉帯「それにしてもスゴイよねー」
塞「スゴイって?」
姉帯「高校生の時みんなとやってた事を 今のお仕事にしてるって」
エイスリン「ハフハフっ! ハムハフハフっ!」
姉帯「あ、わわわー 冷ましながら食べないと火傷するよー エイスリンさん」
塞「仕事なら麻雀でもよかったんだけど 胡桃に誘われてさ
こういうのも 意外と楽しそうかなって思ったのよね」
白望「というのは建て前で……塞は誘われるまでもなく
胡桃の居場所を一緒に作っていきたいって いつも言ってt」
塞「わーわー! もうシロ!」
胡桃「くす――」
塞「もう――でもさ シロまで乗ってくれたのは意外だった」
白望「……麻雀よりはダルくなさそうだし いつも自分で散髪してたから
……実際は免許とか試験とか面倒だったけど」
塞「シロらしい消去法だね」
姉帯「私は美容とかとか興味あったのが強いかなー
もちろん みんな一緒なのが第一だったけどね」
エイスリン「トヨネ! オシャレ!」
胡桃「エイちゃんもオシャレ! スタイリスト!」
塞「ふふっ、今となっては みんなオシャレになっちゃうのかな」
姉帯「うんうん みんな一緒だよー」
>イッショイッショ!
>あ、そこのオタマとってー
>えへへー
…
……
………
数時間後――夜 岩手>理美容店ミヤモリ
住居スペース>塞と胡桃の部屋
塞「――あっ そうだ胡桃?
って胡桃はシャワーだったか」
塞(……胡桃)
>カタン
塞(卒業式に撮ったこの記念写真)
塞(あれからもう何年も経ってるのに
私達はみんな 何も変わらずいられたね)
塞(変わらないために 変えてしまったこともモチロンある
でも 私達の本懐はいつでも同じままだった)
塞(これからもずっと このままでいられるかな……)
>ガチャ
胡桃「さ、塞……?」
塞「胡桃? どうしたの、隙間から顔だけ出して
湯冷めするから早く入ってきなさい」
胡桃「う、うん――えへへ どうかな?」
塞「どうってなにg――へ!?」
胡桃「じゃじゃん! タンスから引っ張り出してきたんだ」
塞「」
胡桃「みんなと話しているうちに色々と思い出しちゃって」
胡桃「あの頃から 腰とか胸周りとか
カラダがまるで成長してないのは複雑だけど……」
胡桃「変わり映えが少ないおかげで
高校の制服を着こなせると考えると 割とお得だね!」
塞「」
胡桃「塞……?」
塞「……は!」
塞(ヤバいヤバいヤバい! いまめちゃくちゃ見惚れてた!
何コレ不意打ちすぎんでしょ! と、とにかく落ち着くんだ 素数を数えてry)
胡桃「あれ……? もしかして変だった?
襟が立ってるとか――」
塞「そ、そそんなワケないひゃニャい!」
胡桃「そっ よかった」
>ピョコン
胡桃「充電充電」
塞(……変わらないなぁ この感触も)
胡桃「さーえっ」
塞「なに?」
胡桃「好き」
塞「私も」
胡桃「お昼もその位オープンならいーのに」
塞「仕事中は別なんです」
胡桃「……分かってる 分かってるけど
ときどき怖くなるのっ」
胡桃「塞の好きがだんだん少なくなって
塞が私を 好きじゃなくなるんじゃないかって」
胡桃「変わっちゃうんじゃないかって……怖くなる」
塞(そっか 胡桃も私と同じことを……)
塞「……」
塞「大丈夫 私は変わらないよ」
塞「胡桃が小さくなったり大きくなったり
どんなに変わってしまったとしても 私の胡桃に対する気持ちは変わらない」
胡桃「ほんと?」
塞「うん だから胡桃は
胡桃の思うままに変わって 頑張ればいいの」
塞「私がいつまでも側にいるから ね?」
胡桃「嬉しい!」
>チュッ
胡桃「じゃあ いつもみたいにシてくれる?」
塞「する!」
塞「っていうか私は 胡桃のその姿を見た時からもう
ギューッとしたくてたまらなかったの――」
胡桃「きゃっ」
昔を懐かしみながらする秘め事は いつも以上に燃え上がり
これからも変わらないという気持ちを誓いあうように
朝日が登るまで、二人は行為をただひたすら繰り返した――
>クルミクルミィ
>サエサエサエー
>ギシアンアン
白望「……この分だと
明日の準備は一人になりそうだな……ダルい」
もいっこカン!!!
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