千早「モノクロの虹」 (66)


アイドルマスター
サイエンス・フィクション2


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あなたの虹は、なにいろ?


列島耐震構造化計画で、日本列島は大陸プレートからの切り離しを成功させた。

最終段階となる重応力制御ダンパー取り付けも無事に終了し、
極東の島国は地震からの解放をみると思われたが……。


石川県の金沢にある耐震技術総合研究所がテロリストに乗っ取られ、
ダンパーの暴走を引き起こそうとしている。

入力された誤作動を発生させる値が実際に出力されるまでの猶予で、
研究所を取り戻さなくてはならない。


安全のために設定されたシステムが、
全島の崩壊まで12時間という僅かな希望を残しているのみである。

この事実を、自衛隊や警察を出動させて国民や諸外国に知られるわけにはいかない政府は、
直轄の秘密組織である彼女たちを動かすことを決定した。


その存在を限られた一部の人間以外絶対に知らない緊急時特別行動部隊「Idle Idol」、通称「アイディ」を。


「国家予算を投じての30年計画も、ここに完成をみる、ということですね」

テレビ画面に映るキャスターが、興奮した様子で話している。


「いやあ、こんなことやりだそう、なんて言い始めたころは私、小学校1年生でしたからね、
そりゃあ、何というか……や、すごいの一言ですよ」

大きなパネルを背に3人が半円のテーブルに座って話し合っていた。


「ボキャブラリーないのね、この人たち」

ため息とともに言葉をはきだしたのは秋月律子だった。

ソファに座って、ノートパソコンを膝に置いている。

折りたたむと厚さが10ミリになる薄型軽量超硬質のモデルだ。

しかしこれは市販されていない。


「だってさ、真美」

サイドテールを揺らして、隣にいる自分の片割れに話しかけた。

「ボビャブラリー? 言いにくいね」

「ホントだね」

何が可笑しかったのか、双子は声を揃えてころころと笑う。

まるで土鈴がなるみたいに。


「ところで律っちゃん副長補佐、そのパコソン、新型? ねえ、新型?」

先に通常運転に復帰した亜美が訊く。

「パソコンね。そうよ」

「前回集まったときはその倍は分厚かったよねえ」

「あれはあれで、スペックも高くて良かったのだけれど、
もう少し軽いやつのほうが何かと便利かなって」


「なるほどー、つまり、律子隊員は太ったというわけですな」

「どうしてそうなるのよ!」

「わあ、怒ったあ!」

二人同時に、一人分の台詞を言って、事務所の中を駆ける。

ここは召集のあったときにしか使わないので、間が空くとやはり埃っぽさが感じられた。


「ちょっと、掃除してないんだから、あんまりドタバタしないの」

「はあい」

珍しく聞き分けが良いのは、これからミッションで大暴れができるからだろうか。

下のほうで階段を昇る音がした。


「律っちゃん、テレビの音量、2つ下げて」

亜美が小声で頼みながら、真美に目配せをした。

テーブルの上にあった4つのおもちゃのエアガンを、それぞれ両手に握る。


「知らんぷりしてて、お願い」

真美が小首を傾げて可愛くねだる。

「分かったけど、知らないわよ」

リモコンを操作しながら、
律子は意地悪風味を5パーセントほど含んだ笑みをつくって、
パソコンのモニターに目を向ける。

テレビの画面には、ここ30年の日本の歴史がダイジェスト風に流れているところだ。

カンカンと、階段を踏んで誰かが上がってくる音がする。


今日はこのあたりで。
感想あればどうぞ。

それではまた。


「この歩き方、ひびきんだよっ」

二人は嬉しそうに、にんまりとした。

「しょーもな」

キーボードを叩いて律子が言った。


この事務所は入口が一つである。

ソファとテレビがある、今律子が座っている所まで直線の通路が4メートル、
窓際まではさらに3メートル。

亜美はついたてに隠れて窓際から。

真美はテレビゾーンの反対側、ホワイトボードの蔭から待ち構える。

二人は、律子を起点に90度になるように位置をとった。

ドアの前で足音が一瞬止まる。


「はいさーい」

溌溂な声が飛んだ。

二歩中に入って。

「あれ、律子だけかあ」

「うーん、元気そうじゃない、響」

「自分、いつだって元気だぞ」

黒く長いポニーテールを軽く揺さぶってさらに入ってくる。


響が、出入り口のドアから合計四歩進んだところで、亜美真美は、襲撃を開始した。


「覚悟ぉ!」

叫ぶと同時に十字砲火を浴びせた時にはもう、響は中腰で疾走していた。

4発のBB弾が虚空をとぶ。

律子を障害物にして、瞬間止まったところにまた、銃弾が殺到する。


「わあ」

律子が声を上げながらパソコンで防御した。

2発の弾が、キンキンと乾いた無機質な音で、あちこちに跳弾する。

「おお、さすが新型カーボンファイバ製」

それを見て満足そうに律子は呟く。


しかし、とんでもなくはやい。

響の動きもそうだが、双子の連射速度も恐るべきものだ。

おもちゃのエアガンを一発撃つごとに毎回スライドを引く動作に無駄がない。

二丁拳銃だから、片方の手を使ってやるのではなく、
腰のベルトや靴の踵でやっているので、まるでダンスのようだ。


また2つのスライドする音を聞いて、響はぐっと屈む。

それから跳躍して、テレビ側の壁を蹴った。

そこに2発が到着するのを見越す。

響が一瞬前にいた場所にカカン、と音が鳴る。

空中で躰を捻って、天井を蹴る。

ついたてを越えて、着地。

同時に亜美を後ろから捕まえた。


「うわあ!」

後ろから抱えながら、亜美の右手にあった銃を構えて、ホワイトボード前の真美に向ける。

「ず、ずっこいよ」

真美がくやしそうに言った

「残念だったな」

白い歯を見せて響は笑って、引き金を引く。

ドン、と室内にまるで本物のような発砲音が響いて、真美の左肩から、赤い血が迸った。


今日はこのくらいで。
また感想あればよろしくお願いします。

ちなみに、
アイドルマスター
サイエンス・フィクション1は、

春香「いくつかの冴えたやりかた」

です。

こちらもどうぞ。(完結しています)

それでは。


そのまま後ろへ倒れこむ。

ここまで、瞬きするほどの短時間だったが、スローモーションのように感じられた。


「え?」

響の口からはこれだけしか出なかった。


「しっかりしてよ! ねえ、真美ぃ……」

「うん、平気だよ」

むくりと起き上がって答える。


「うぇ?」

響が気の抜けた炭酸みたいな声を出した。

「ん、ふふ。ドッキリ大成功—!」

2秒の後。

「うぎゃー、なんだよう!」

頭を抱えて叫ぶ。


律子はほっとしながらも、呆れて声をかける。

「真美、自分で洗濯しなさいよ。それから着替えもね」

「うあーっ。亜美、手伝ってよう」

「嫌だ」

「この裏切り者ぉ」

再びドタバタとやり始めた。


「ホントにびっくりしたさ」

律子の向かいに座った響が言う。

「ねえ、響」

「んん、何だ?」

「壁と天井、拭いておいてね」

「……うん」

バツが悪そうに、こっくりと頷いた。


OVER THE MONOCHROME RAINBOW
なんてゲームがあるんですね。


階下で話し声が聞こえた。

また誰かが登ってくる。

ドアの開く音。

「こんにちはー!」

「おひさしぶりです」

ひょっこりと顔を出したのは真で、後ろからは雪歩が、しずしずとついて来ている。


「あれえ、まだこれだけ?」

室内を見回して、誰ともなしに訊いた。

「そうだぞ。二人をあわせて、まだ6人だけ」

「そうなんだあ……」

「こんなに余裕で大丈夫なのか?」

「あずさお姉ちゃんたちが帰ってくるまでは平気じゃん?」


戦闘用の特殊スーツの着替えを終わらせた真美が言う。

サイドテールをつくらずにいて、おろした髪が新鮮だ。

普段とは違うイメージが、大人っぽさを感じさせるようだった。


「お茶、入れましょうか」

「ありがとう、来たばかりで座ってもいないのに。悪いわね、気の利かない双子で」

「律っちゃん、自分のことは棚上げ?」

「自分のこともだぞ!」

含まれなかった響が不満の声を上げる。


「ふう、僕は座らせてもらおうかな」

脇にあったパイプ椅子を引き寄せる。

ぎい、と鳴った。

「まだまだ賞味期限があるはずだけど……うん、あった」

かぽんという小気味良く空気が弾けて、
懐かしさを感じる茶葉の匂いを、雪歩はそっと吸い込んだ。

蛇口を捻って、水を流す。

少ししたところで用意したやかんを洗った。

ガスの元栓をあけ、コンロのつまみを回す。

パチパチという音の後で、ぼうんと火がついた。


「で、どうして真美は着替えてたの?」

「またいたずらよ」

「ひびきん、ホントに焦ってたよねえ!」

「うんうん。あんなに慌てちゃって……んふふ」

「手が込み過ぎだぞ」

「なになに? どういうことさ」

「それがね……」


亜美、真美が嬉しそうに話す。

真はその場にいられなかったことが悔しいようだった。

律子が止めなかったら、今ここで壁から天井への三角跳びをやって見せようとしただろう。

自分と同じで体術を武器としている響には何かと対抗する真だった。


二人の実力は伯仲で、前線の突撃要員としてかなりの戦力になっている。

中距離からの制圧を主とする多くのメンバーの中にあって、
近距離での突撃、戦闘、制圧の一連の流れを二人は多大な信頼のもとに任されていた。


両人とも銃器を嫌い、自らの躰を矛とすることを良しとしていた。

あくまでも補佐的にということで、
真は手の甲に装着する超伝導ナックル、
響は特殊電磁鋼板ナイフで戦う。


雪歩のスコップ、シャベルはファイバーステンレス。

繊維状構成の合金で、基本的に折れたり曲がることのない刃物だ。

加えて錆に強い。


彼女は左右のベストに差したスコップと、常に携帯するシャベルを用いて戦闘を行なう。

特殊な素材でできてはいるものの、響や真の武器とは違い、
副次的な効果を生み出す機構が備えられてはいない。

刺したり突いたり穴をあけるのに余計なものはいらない、というのが彼女の考えだった。


今日はここまでにします。

何かあればどうぞ。
それではまた。


体調をくずしてしまっているので、
更新は来週になります。
すみません。


皆が各々に会話しながらドアの方に目をやる。

「雪歩、今日もスコップ、ピカピカだね」

「ひびきん、ハム蔵はいないのー?」


ドアが音を立てた。

「あ、もう来ているみたいね」

千早が入ってきた。春香も一緒だ。

「さっき伊織たち見たから、もうすぐ来るよ」

「高槻さんと二人でいるのを見たわ」


「こんにちはー!」

「なんか埃っぽいわね」

間髪入れずに二人が登場する。

「あれ、つけられてた?」

春香がとぼけた顔をした。

「気がつかなかったの?」

千早が訊いた。


「大成功ですー」

今入ってきた伊織とやよい、それから双海姉妹、
あとはまだ来ていない美希の5人が隊では見習いという扱いになっている。


「はは、何のことかな?」

「春香、しっかりないと……」

「あ、ちょっと、みんなー!」

律子がパソコンから顔を上げて叫んだ。

画面が変わる。


上官である二人の姿が映る。

三浦あずさと。四条貴音だった。

「揃ったのかしら?」あずさが訊く。

ぴしと着こなした制服が凛々しい。

「はい」貴音が答えた。

「どうして分かるんだろ?」

極めて小声で、亜美が呟いた。


「美希がいませんけど……」

真が心配そうに訊く。

「美希ちゃんはいいの。調整がちょっと、ね……」

「今いる年少の4人は、今回も後方で支援につくこと。よいですね?」

「はい!」

貴音の言葉にすぐ返事をした。さすがの亜美真美も、こういう時はふざけない。


部隊長のあずさ、副隊長の貴音、この二人だけが制服を着ている。

一瞬の緊張の後、
「それでは、こんにちは。みんなお久しぶりね」

あずさが、少し弾んだ声でみんなに声をかける。

それぞれが挨拶を返した。


今日はここまでにします。
それでは。


間あきました、すみません。
土日で更新しようと思います。

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