モバP「卯月の機嫌が悪い……」(145)

凛「機嫌が悪いって、どこが?」

P「冷たい目で見られないか? 今朝、挨拶したら露骨に無視されたぞ」

凛「ううん。私には普通に挨拶してくれたよ、おはようって」

P「え……じゃあ俺と会った時だけそんな態度なのか?」

凛「……プロデューサー、一体なにやったの?」

P「うーん……まったく心当たりが無いな」

凛「知らない間に何かやっちゃったんじゃない? 卯月って滅多なことじゃ怒らないしさ」

P「アイツ人当たりいいもんなぁ……」

凛「それに比べてプロデューサーときたら、まるで女心が分かってなさそうだよね」

P「まあな。ぶっちゃけ女の考えることはよくわからん!」

凛「男らしく断言したのはいいけど、プロデューサーとしては問題発言だね……」

凛「ま、私もちょっと気になるし。相談くらいなら乗ってあげるよ」

P「おお! ありがとう、ありがとう!」

凛「別にいいって。それで、卯月の機嫌が悪いのはいつから?」

P「ん~……今朝からだな。昨日は普通だったと思う」

凛「昨日は卯月となにか話した?」

P「仕事の話は特に……弁当の話くらいか」

凛「弁当?」

P「うん。ほら、卯月っていつも弁当作ってきてくれるだろ?」

凛「…………え?」

凛「なにそれ。私知らない……」

P「あれ? 話したことなかったっけ?」

凛「聞いたことないよ。卯月にお弁当作ってもらってるの?」

P「平日は毎日な。たまに休日もだけど」

凛「休日も……?」

P「日曜のデートではだいたい作ってきてくれるなぁ」

凛「でっ……デート!?」

凛「卯月とデートしてるの!?」

P「そりゃ、お互い好きならデートくらいするよ」

凛「なに当たり前みたいに言ってんの!?」

P「卯月はもう結婚できる年齢だし、合法だから問題ないぞ」

凛「そ、そういう意味じゃなくて! そもそもプロデューサーがアイドルと付き合うのはマズいよ!」

P「ああ……別に付き合ってないから」

凛「えっ」

P「付き合ってなくてもデートはするだろ?」

凛「……それはそうだけど。あれっ、なんか混乱してきた……私がおかしいのかな……」

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島村卯月(17)

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渋谷凛(15)

凛「じゃあ、デートはこの際いいとするけど。お弁当については、どういう話をしたの?」

P「どういうって……普通に弁当食べて、普通に感想聞かせただけだよ」

凛「……ホントに普通だね。肝心の味の方は?」

P「それも普通……というか、美味しかったよ。でも、1つだけ気になったことがあってさ」

凛「なに?」

P「ひじき」

凛「……ひじき?」

P「好きなんだよ。だから弁当に絶対入れてくれってお願いしてあるんだ」

凛「へぇ。まあ、栄養価が高い割にはおいしいからね」

P「ところが何を間違ったのか、昨日のひじきは異常にブヨブヨでマズくてな」

凛「炊きすぎたのかな……でも、どんなに料理が上手な人でもミスはあるでしょ?」

P「そうだな。それはしょうがないよ」

凛「それで感想は? なんて言ったの?」

P「卯月に『正直に言ってください』って言われたから、正直に言ったぞ」

凛「もしかして、マズいって言っちゃったの?」

P「いやいや。さすがの俺でもダイレクトな言葉は避けたよ」

凛「だよね」

P「考え抜いた末、『コンビニ弁当の方が美味いな』って」

凛「あ、それだ」

P「え?」

凛「機嫌が悪くなった理由、それだよ」

P「なんで? 俺なりにオブラートに包んで言ったんだけど」

凛「オブラートだったんだ。ウニの外殻で包んだのかと思った」

P「だって、はっきりマズいって言うと傷付くだろ?」

凛「コンビニ弁当と比較される方が傷付くよ!」

P「なにィ? どういうことだ?」

凛「それはこっちのセリフなんだけど……」

凛「早起きして頑張って作ったお弁当が、その辺の市販の物よりマズいって言われたらどう思う?」

P「俺ならめっちゃ泣く。一晩中泣いて、実家の母親に電話する」

凛「うわ、情けない……でも、卯月だってそんな気持ちになったんじゃない?」

P「……そういうことか」

凛「卯月のこと、ホントは嫌いとか」

P「好きだよ。卯月がアイドルやめたらプロポーズしたい」

凛「…………」

P「……なに赤くなってんだ」

凛「う、うるさい。よくそんなこと真顔で言えるね……」

凛「でも、それだけ好きなら我慢しようよ」

P「我慢というと?」

凛「ウソでも美味しいって言うとか!」

P「本人のタメにならないだろ」

凛「じゃあ『ちょっと水っ気が多いね』とか言い方があるでしょ!?」

P「お、おお……さっきから、クールな凛がいつになく熱いな」

凛「プロデューサーのせいだけどね!?」

P「でも、好きなものに妥協はしたくないんだ」キリッ

凛「ちょっと……プロデューサーは卯月とひじき、どっちが好きなの?」

P「卯月に決まってるだろ。アホかお前」

凛「アホって……それならどっちを優先するか、答えは出てると思うんだけど」

P「……卯月だろうなぁ。となると卯月の気持ちを汲んでやる方が大切なのか」

凛「そうだよ。なんで言われるまで気付かないの? 小学生?」

P「ははは、前に勤めてた会社でもよくそんな風に怒られたよ」

凛「なにその悲しいエピソード……」

P「しかし、まさか俺の嗜好が卯月の機嫌を損ねていたとは……」

凛「そうみたいだね。ちなみに、私とひじきだとどっちが好き?」

P「…………凛に決まってるだろ」

凛「ちょっと悩んでなかった?」

P「いや、別に?」プイッ

凛「なんで目をそらすの?」

P「…………」

凛「それこそ正直に言ってよ。誤魔化されると余計気になる」

P「じゃあ、オブラートに包んで……」

凛「それはもういい。余計なことされるとまたややこしくなるから」

P「お前、どんどん口が悪くなるな……ファンの前でそんな話し方するなよ」

凛「プロデューサーの前だけだから大丈夫だよ」

P「ああ、それなら大丈夫……か?」

凛「すごく単純に言うと、好きなものを格付けするとどうなるのかなって」

P「格付けか……上から並べるとこんな感じだな」


 卯月 > ひじき > ピーマン > ガンダム00 > 凛 >> [超えられない壁] >> その他の有象無象


凛「私、さりげなくピーマンとガンダムにも負けてる!」

P「ピーマンも結構好きだから、弁当に入れてもらってるよ」

凛「そっちはまだ分かるけど、ガンダム以下って……無機物以下って……」

P「それで……そろそろ話を戻していいか?」

凛「そ、そうだった。ショックが大きすぎてすっかり忘れてた……」

P「これからどうすればいい? 謝るの一手か?」

凛「そうだね。卯月はプロデューサーの無遠慮な言葉で不機嫌になってるんだし、まずは謝ろう」

P「そうすると、あの件も……」

凛「なに? 他にも何かやったの?」

P「あ、いや。大したことじゃないから」

凛「プロデューサーにとっては大したことじゃなくても、ってさっき分かったところだよね」

P「そうでした……」

P「実はさ。弁当食べた後、卯月の機嫌が悪いというか、元気が無いように見えたんだ」

凛「それは、プロデューサーがコンビニ弁当以下とか言うからヘコんだんだよ……」

P「だから『元気ないな。もしかしてあの日か?』って聞いたんだけど」

凛「ちょ……セクハラだよ、それ」

P「違う! そういうつもりじゃなくて、アイドルの体調管理も俺の役目だから……」

凛「そこまで管理しなくていいよ! 悪気が無いにしても酷すぎるよ!」

P「ああ、やっぱりか……良かれと思ってやったんだけど……」

P「俺はこんなにも卯月が好きなのに、伝わらないこの想い」

凛「ドンマイ。他にもきっといい人いるよ」

P「いや、なんで失恋が前提?」

凛「そのうち卯月が愛想尽かすかなと思って……」

P「縁起でもないこと言うな!」

凛「そう? プロデューサーはデリカシー無さすぎて、私なら絶対無理だよ」

P「凛はともかく、卯月に好かれてればいいし」

凛「……それはそれでムカツク。私も気にしてよ」

P「お前、意外とめんどくさいな……」

ガチャッ


卯月「ただいまー」

凛「……お帰り卯月。ちょうどいいところに来たね」

卯月「あっ、凛ちゃん。それと……」

P「卯月。ちょっと話があるんだ」

卯月「…………なんですか?」

P「すまなかった。昨日は、その」

卯月「……もういいです」

P「もういいって……」

凛「愛想尽きたってこと?」

卯月「ち、違うよ! しょうがないから、許してあげるってこと」

P「えっ……」

卯月「プロデューサーさんも悪気があったわけじゃないでしょうし。私も大人気なかったです」

P「いや、そこはちゃんと謝らせてくれ。せっかく弁当作ってきてくれたのに、あんな言い方は……」



卯月「…………はい?」

P「え? だから俺が、コンビニ弁当の方が美味いって言っちゃった話……」

卯月「違います! 私が怒ってるのはそんなことじゃないです!」

P「『そんなこと』って言われたけど」チラッ

凛「私のせい!?」

卯月「ひじきはちょっと失敗しちゃったから、美味しいわけないんです……」

P「じゃあ、なんで弁当に入れたんだ?」

卯月「それは……プロデューサーさんがいつも美味しいって言いながら食べてくれるから、つい……」

P「それならしょうがないなぁ」

凛「うわっ、卯月には甘々だね、プロデューサー……」

P「……弁当の話じゃないとすると、その後『あの日か?』って聞いたことか」

卯月「それも毎月のことですし、もう慣れました」

P「そっか」

凛「そっか、じゃない! 常習犯だったの!?」

P「だからそれも卯月の為を思って言ってたんだって!」

凛「はぁぁ……卯月の寛容さに甘えてばっかりで、恥ずかしくないの?」

P「面目ない……」

卯月「そうじゃなくて! 昨日、電話くれなかったじゃないですか!」

P「電話…………あっ!!」

卯月「ほらぁ!」

P「ごめん! 昨日は残業が長引いちゃって……」

卯月「私、夜の9時くらいまで、ずーっと待ってたんですよ!」

凛「……何の話?」

P「ああ、これも話してなかったっけ。卯月って、いつも俺の家まで晩ご飯を作りに来てくれるんだけど」

凛「普通に初耳なんだけど!?」

卯月「でも遅くなる時は連絡するって、最初に約束しましたよね?」

P「ごめん……本当に忘れてたんだ」

卯月「忘れるのはしょうがないですけど……でも今朝も、何事もなかったかのように挨拶してくるし」

凛「それで不機嫌だったんだ」

P「そりゃ怒るよな……でも作り置きの晩ご飯は美味しくいただいたよ」

卯月「冷めたのじゃなくて、温かいのを食べて欲しかったんです!」

P「はい、すみません……」

凛「でも卯月って一途だから、確かにずっと待ってそうだよね」

卯月「うん。すごく寂しかったけど、頑張って待ってた。でも、ママから電話かかってきて……」

凛「怒られたんだ」

卯月「年頃の娘が~、って決まり文句だったけどね」

P「迷惑かけたな。お義母さんには俺から説明しとくよ」

凛「字がおかしいよね?」

卯月「……過ぎたことはもういいんです。次から気を付けてくださいね。はい、これ」

P「えっ、なにこれ?」

卯月「今日のお弁当です。見たら分かるじゃないですか」

P「あんなに機嫌悪かったのに、作っといてくれたの?」

卯月「だってプロデューサーさん、お弁当が無いと外食かカップ麺だし……」

P「うおおぉぉぉ! 卯月、今すぐ俺の嫁に来てくれ!」ギュゥゥゥ

卯月「やんっ! ま、まだダメですってば、もぉぉ……」

凛「……プロデューサー。プロポーズはアイドルやめてからじゃなかったの?」

卯月「え? これくらいなら毎日聞いてるけど……」

凛「なにそれ、うらや……イラッとするね」

卯月「ところで、今日は早く帰れそうなんですか?」

P「うん。久しぶりにゆっくり風呂に入れそう」

卯月「じゃあ先に帰って、お風呂沸かしておきますね!」

凛「……プロデューサーがいないと家に入れなくない?」

卯月「鍵あるから大丈夫だよ?」

凛「えっ」

P「あぁ、ついでに」

卯月「お掃除もしておきますよ?」

P「助かるわー」

凛「………………」

卯月「その代わりってわけじゃないですけど。お風呂とご飯の後は、その……」

凛「ちょっ……な、なに言い出してるの卯月!?」

卯月「え? また勉強見てもらおうかなって……」

P「今日も勉強か。よく頑張るな」ナデナデ

卯月「えへへぇ……頑張るのが取り柄ですから!」

P「あれ? あれあれ? 凛ちゃんは何を妄想されたんですかね? ん?」

凛「な、なんでもないっ……」

P「じゃあ、勉強が終わったらテレビでも観ながらゴロゴロするかー」

卯月「いいですねっ。そうだ、また膝枕しましょうか?」

P「おっ、いいね。卯月の膝は最高なんだよなー」

凛「……卯月。あまり遅くなると、またお母さんに怒られるんじゃない?」

卯月「泊まりだから大丈夫だよ。凛ちゃんの家に泊まるって言ってあるし!」

凛「勝手に計画に組み込まれてる!?」

P「あ、しまった。布団クリーニングに出してて、今1つしか無いわ」

卯月「……わ、私は一緒の布団でもいいですけど……」

P「えっ?」

凛「…………夫婦か!」


おわり。

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