キリコ「俺は……死なない!」 箒「キリコーッ!」 (909)

キリコ「所詮、遊びだ」 セシリア「何ですって?」
キリコ「所詮、遊びだ」 セシリア「何ですって?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1365085524/)
の続き



あらすじ
アストラギウス銀河を二分した百年戦争末期、通称レッドショルダーと呼ばれるAT部隊に所属していたキリコ・キュービィーは、敵兵器偵察の作戦に参加する。
その時、地球の女性にしか操縦できない、ISと呼ばれる条約により戦争での使用を禁じられた兵器を、キリコは偶然にも動かしてしまう。

それが原因となり、キリコはIS学園と呼ばれるIS操縦者養成所に転属させられ、死んだはずの義理の姉、織斑千冬、そして、自らの忌まわしい過去を知る女、篠ノ之箒と出会う。
その二人の出会いに、自らの過去を蒸し返され苦悶しながらも、キリコはセシリア・オルコット、凰鈴音、シャルル・デュノアらと監視者の干渉を撥ね退け、仲間と呼べる関係になっていく。

そして、新たな干渉者が一人、キリコの前に現れた。
ラウラ・ボーデヴィッヒ。彼女は復讐に燃え、キリコを執拗に挑発し、戦いの中で殺そうとしていた。
そして訪れた戦いの場。復讐者はキリコの仲間、セシリアと共に立ち塞がる。
互いの信念を内に秘め、泥中の蓮であるはずの学園は、硝煙と鉄の臭いを発し、戦場と化そうとしていた。

キリコ・キュービィー、その異能の輝きに感応し——。






SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1367566588

キリコ「……」

シャル「……」


ラウラ「……」

セシリア「……」


ラウラ「ふっ、まさか……一戦目から当たるとはな……待つ手間が省けた」

キリコ「あぁ……俺も、お前が他のヤツにやられないか、冷や冷やしないで済む」

ラウラ「減らず口を……」

キリコ「……」



ウォッカム(わざわざ彼らが勝つのを眺めている道理も無い……一戦目から全力でやって貰おうではないか……)

ウォッカム(そして、キリコ……お前は、自分と同じ因子を持つ者によって乗り越える……)

ウォッカム(人間を……)

ウォッカム「……ふっ……」



『両チームスタンバイ』


キリコ「……」

ラウラ「せいぜい、死なないように気をつけることだ……」

シャル(セシリア……なんで……)

セシリア「……」


『5、4、3、2……』


キリコ「……」ジャキンッ

ラウラ「……」ガチッ


『スタート!』


ラウラ「来いっ!」

キリコ「……」キュィイイイッ



——


   第九話
   「邪曲」


——

キリコ「……」バシュウッバシュウッ

ラウラ「ふん、開幕早々のソリッドシューターか……無駄だとわかっているはずだ!」キュウウンッ


フッ…… カランカランッ


ラウラ「ふっ……」

キリコ「……」キュィイイッ

シャル『やっぱり強いね……キリコ、どうする?』

キリコ「……まずは、セシリアを倒すぞ」

シャル『……了解』


キュィイイッ


セシリア(やはり、私に狙いを定めてきますか……)

セシリア「……ブルー・ティアーズ」シュンシュンッ

キリコ「……」キュィイイイッ

セシリア「……行きますっ!」




——

セシリア「……お待たせしました」

シャル「あ、セシリア」

キリコ「……来たか」

セシリア「申し訳御座いません、遅くなってしまって……」

シャル「良いよ良いよ、気にしないで」

キリコ「……それより、早速特訓をするぞ」

セシリア「は、はい」

シャル「よし……じゃあさ、キリコ。そろそろ作戦内容を教えてよ」

キリコ「……言ったはずだ。実戦で教える」

シャル「えっ、じゃ、じゃあ僕はどんな動きを……」

キリコ「……俺の援護をしてくれ。前には出なくて良い」

シャル「それだけ?」

キリコ「あぁ。今はな」

セシリア「わ、私には、何か指定等はありますか?」

キリコ「いや、無い。俺達を墜とす気でかかって来てくれれば、それで良い」

セシリア「そ、そうですか」

シャル(それが一番大変だと思うけどね……)

キリコ「……よし、やるぞ」

シャル「うん。じゃあ僕も本気で行くからね」

セシリア「えぇ。私も、対複数戦には若干の覚えがあります。二人掛かりでも、そう簡単に倒せると思わないように」

キリコ「……俺がコインを投げる。それが地面についたらスタートだ」

シャル「わかった」

セシリア「了解ですわ」

キリコ「……」


ピーンッ


キリコ「……」

シャル「……」

セシリア「……」


ポトッ


キリコ「……」キュィイイッ

シャル「行くよ!」ギュンッ

セシリア「……」ヒュンッ


……




バキンッ


セシリア「きゃあっ!」ドサッ

シャル「よしっ! 一本取れた!」

キリコ「……」フィウウンッ……

セシリア「くっ……さすがですわね……」

キリコ「作戦通りには行ったな」

シャル「うん、咄嗟に合わせただけだったけど、この作戦なら行けると思う。あの兵器も、セシリアのブルー・ティアーズ並の集中力が必要だと思うから」

キリコ「あぁ」

セシリア「しかし、キリコさんが回避役を務めるのは良いとして……本当に大丈夫なのでしょうか」

キリコ「問題無い。こいつの機動力なら、あいつのAICの範囲外、なおかつこちらにくぎ付けにする距離を保ちながら攻撃を避ける事は可能だ」

シャル「ブルー・ティアーズのビット四機を相手に一発も当たらなかったからね……」

セシリア「えぇ……キリコさんに集中し過ぎて、シャルルさんの攻撃を避け切れませんでしたわ……。
     また腕が上がりましたわね、キリコさん」

キリコ「……あぁ。こちらに集中してくれれば、棒立ちになる場面もあるだろう。そこを突く」

セシリア(集中力、ですか……)

キリコ「……それと」

シャル「それと?」

キリコ「……少し、武器に細工をしたい」

シャル「細工?」

キリコ「もし、ヤツのタッグが強敵だった場合、それぞれ一対一で相手せざるを得ないだろう。
    その時の対処に、な」

シャル「細工か……うん、ちょっとデュノア社を利用してみるよ。まだ僕の正体がバレた事、報告してないからね。
    その代わり、細工する武器のデータやらも送る事になっちゃうけど……」

キリコ「機体の性能なんて知られても構わない。好きにすると良い」

シャル「わかった。細工の件については、夜にでも聞かせて」

キリコ「あぁ」

シャル「ふぅ……じゃあ、少し休憩挟んでもう一回やろうか」

キリコ「そうだな」

セシリア「……」

シャル「セシリアも、それで良いよね?」

セシリア「……」

シャル「セシリア?」

セシリア「……あっ……え、えぇ。そうしましょう」

シャル「何か気になる点でもあった?」

セシリア「いえ、何でもありません。さぁ、他の方の邪魔にならないように、あちらで休みましょうか」

シャル「そうだね。あ、キリコ。ちゃんとドリンク持ってきたから安心してね」

キリコ「……助かる」

シャル「あはは、良いって良いって」

セシリア「……」

セシリア(私の……弱点……)



——

キリコ「……」キュィイイッ

シャル(キリコが真っ向からセシリアに突っ込んでる……)

シャル(一緒に訓練をして、セシリアの癖や弱点なんかはわかっているから、セシリアを狙うのは定石だね)

シャル(ビットを動かしている最中は、どうしても隙ができる。そこを突いて、先にセシリアを倒さないと)

ラウラ「くっ……アイツめ……」

シャル「……」

シャル(でも……今回は二対二……ラウラもいる)

シャル(……もしかしたら、セシリアが作戦をバラしている可能性もある……)

シャル(けど……)

ラウラ「キリコ! 何処へ行く! 貴様の相手は私だ!」ジャキンッ

シャル「おっと!」ズガガガッ

ラウラ「くっ」キュウウンッ

シャル「二人してキリコキリコ……少しは僕の相手をしてくれてもいいんじゃないかな」

ラウラ「えぇい邪魔だ!」ズギュウンッ

シャル「そんなデカイ攻撃、当たらないよ!」ヒュンッ

シャル(ここはキリコの作戦を信じて、僕に出来る事をしなきゃね)

シャル(……どっちも回避に徹しないといけないから……長期戦になりそうだけど)

シャル(……キリコ、頼んだよ)




箒「キリコ対セシリア、シャル対ラウラという形になったか……」

鈴「えぇ……まずは弱点を知ってる相手から、って事でしょうね」

箒「厄介な事になったな……」

鈴「えぇ……」




キュィイイッ


キリコ「……」ズガガガッ

セシリア「ふっ!」ビュンビュンッ

セシリア(ある程度の距離をとって、牽制のマシンガン……)

セシリア「当たりなさい!」シュンシュンッ

キリコ「……」ヒュンヒュンッ

セシリア(そしてブルー・ティアーズの回避も怠らない……訓練の時と同じですわね)

セシリア(ビット二機だけではキリコさんは止められない。シャルルさんの相手はあの方に任せましょう……)

セシリア(……ブルー・ティアーズの弱点は知られている。ひきつけてミサイルを撃っても、キリコさんにはもう通用しない)

セシリア(……しかし、やるしかありませんわ)

セシリア(いつまでも、以前の私と思わないように……)

セシリア「四機でお相手致します!」

キリコ(来たか……)

キリコ「バルカンセレクター」カチッ

セシリア(単発に切り替えましたか……作戦の通りなのですね)

セシリア(……ですが……)

セシリア「行きますわよ!」

キリコ「……」キュィイイッ

セシリア「避け切れるなら、避けて見て下さい!」

キリコ(作戦、開始だ……)



バシュンバシュンッ
ヒュンヒュンッ


キリコ「……」キュィイッ

セシリア(相変わらずの凄いターン回避ですこと……あの耐圧服も、あの回避時のGに耐える為のものなのでしょう)

セシリア「まだまだ!」シュンシュンッ

キリコ「……」ヒュッ

セシリア「てやぁっ!」

キリコ(ビットの軌道は複雑だ……避けるので精一杯だな……)

キリコ(だが、集中力では俺の方が上だ)

キリコ(……もう少し、我慢するんだ)

セシリア「……」シュンシュンッ

セシリア(そろそろ、ですわね……)

キリコ「……」キュィイイッ

セシリア「……」シュンシュンッ

キリコ「くっ……」ヒュンッ

キリコ(よし、この間合いだ)

キリコ「……」カチッ

キリコ(後は距離をとりつつ……)

キリコ「……」キュィイイッ


シュンシュンッ
バシュンバシュンッ


キリコ「……」



シュンッ……


キリコ(ビット三機が方向転換した……一機を避け、当てる!)


バシュンッ


キリコ「……」ヒュッ

キリコ(今だ!)



セシリア「……甘い、ですわね」


キリコ「っ!」


ズギュウンンッ


キリコ「ふぉっ!」バゴンッ



鈴「あぁっ!」

箒「キ、キリコ!」




キリコ(ば、馬鹿な……)



シュウウッ……


セシリア「ライフルが来るとは、思っていなかったようですわね……まだ行きますわよ、ブルー・ティアーズ!」シュンシュンッ

キリコ「くっ……」キュィイイッ

キリコ(……ヤツは確かにビットに集中していた、ビットが動いていたはずなんだ……なのに何故セシリアはライフルで俺を狙えた……)

セシリア「……」

キリコ(何故だっ!)


シャル「キリコ!?」

ラウラ「何処を見ている!」ビュンッ

シャル「くっ……」ヒュンッ

シャル(横目でしか見てないけど……セシリアがビットを動かしながらライフルでキリコを狙撃した……)

シャル(もしかして……セシリアは……)

シャル(……これは、マズイね……)

箒「以前見た時とは、全く違う動きだった……ビットを動かしている時に、セシリアはそう射撃をしていなかったはずだ」

鈴「……弱点を、克服したって事なんでしょうね」

箒「……」

鈴「どういうつもりかわかんないけど……セシリア、本気でキリコを倒すつもりよ……」

箒「……セシリア……」




キリコ「くっ……」フィウウンッ……

セシリア「驚いてらっしゃいますの? この私が、ブルー・ティアーズを繰りながら、精密に射撃をした事を」

キリコ「……」

セシリア「……いつまでも、自分の弱点をそのままにしておくほど、進歩の無い人間ではありませんの……」

キリコ「……何故だ」

セシリア「……」

キリコ「何故お前がヤツと組んでいる。タッグの申し込みをせず、偶然組まされたのか」

セシリア「いえ……私が望んだ事です」

キリコ「……何故裏切った」

セシリア「裏切った訳ではありません……ただ私は……キリコさん、貴方と戦いたかった」

キリコ「どういう事だ」

セシリア「始めた貴方と戦ったあの日の事……覚えていらっしゃいますか?」

キリコ「あぁ……俺が初めてコイツに乗った日だからな。多少は覚えている」

セシリア「あの日……私は、貴方に負けました」

キリコ「……お前の勝ちだったはずだが」

セシリア「いえ……判定なんてものではなく……私は、貴方に睨まれた時点で負けていた……一流の戦士として感じてはいけない、恐怖を感じて」

キリコ「……」

セシリア「それ以来……私は貴方に対して、名状しがたい感情を抱いていました。
     好意、恐怖、友情、畏怖……そんなものが入り混じったものを……」

キリコ「……」

セシリア「お慕いしている殿方に、そんな感情を抱き……好意で訓練に誘って下っても、あの目が私を震えさせる……。
     私は、完全に貴方を、一種のトラウマとして認識してしまっていたのです」

キリコ「……トラウマ」

セシリア「……好きなのに、怖い……そんな不安定な心情でキリコさんに接していては、他の方にとられる事はおろか、無礼なのです。
     それなのに、私はそれに立ち向かわず、他の事で挽回しようだなどと考えていました。まぁ、そちらは散々でしたが」

キリコ「……そうだな」

セシリア「……ですが、この前……キリコさんがついに、私を必要として下さった……。
     こんな私に、頭を下げてまで……」

キリコ「……」

セシリア「私はその時気付きました……キリコさんは今までに無い程に真剣なのだと。そして……今が、立ち向かうべき時だと。
     全力で来る方に、全力で挑めるようにしなければと……」

キリコ「……」

セシリア「箒さん、鈴さんの仇を撃つ為に本気になったキリコさんと戦い、そして勝ち、あの目を払拭する……。
     これは、裏切りでも、友人の為でも無い……私の覚悟の戦いですの」

キリコ「……覚悟」

セシリア「……全力で来て下さい。私は貴方の敵、それ以上でもそれ以下でもありません。
     私も、今は貴方をそうとしか見ていないのですから」

キリコ「……」

セシリア「……」

キリコ「……良いだろう。お前は、俺の敵だ」ジャキッ

セシリア「……」ビクッ

セシリア(そう、この目……この目を見て、私はキリコさんに惹かれた)

セシリア(夜の虫が、火につられて飛び込んでゆく……私のこの感情は、それに等しいのかもしれません)

セシリア(……ですが、私は立ち向かわなければならない。この方と対等の人間になれるように)

セシリア(一人の男性として、何の迷いも無く好きでいられるように)

セシリア「……だから……」

セシリア「……ブルー・ティアーズ!」シュンシュンッ

セシリア(……私は、貴方に勝つ!)

キリコ「……」キュィイイッ

セシリア(私は、もうその目に怖じる事なんてありません!)

セシリア「せやぁっ!」ズギュウンッ

キリコ「くっ……」ヒュッ

セシリア「まだまだ!」シュンシュンッ

キリコ「つっ……」バゴンッ

キリコ(ビット四機に、本体からの射撃か……マズイな)

キリコ(スモークも、あのビットで素早くかき消される。かと言って接近戦を挑めばあのミサイルが待っている……)

キリコ(……ソリッドシューターは、もう用済みか……)

キリコ「……これで行く」


キュィイイイッ

キリコ「……ソリッドシューター」ジャキッ

セシリア(ミサイルを警戒しての中距離武器ですか……しかし、あのリニアガンはそこまで弾速は速くは無いはず……)

キリコ「……」ドシュドシュッ

セシリア「甘いですわ!」ヒュンヒュンッ

セシリア(こちらの攻撃をかわしながら故、狙いもそこまで正確ではない……こちらも武器に集中しなければなりませんが、
     元々狙いが不正確なものを避けるのは容易いですわ)

キリコ「……」ドシュドシュッ

セシリア「ふっ!」ヒュンッ

セシリア(行きますわよ!)

セシリア「はぁっ!」ズギュウウンッ

キリコ「……」キュウウンッ


ヒュンッ


セシリア(流石ですわね。ビット四機と私の射撃に対しても、もう慣れてくるとは……)

セシリア「しかし、こちらが優勢なのは変わりませんわ!」シュンシュンッ

キリコ「くっ……」バゴンッ

キリコ(マズイな、シールドエネルギーが半分を切ったか)

キリコ「……」ドシュドシュッ

セシリア「当たりませんわよ!」ヒュンッ

キリコ「……」カチッカチッ

キリコ(弾切れか……)

セシリア「弾切れですか! らしくありませんわね!」

キリコ(だが……準備は整った)

セシリア(キリコさんのあの装甲ならば……既にシールドエネルギーは半分を切っているはず……)

キリコ(アイツは、ここで仕掛けてくるだろう)

セシリア(ならば……)ジャキンッ

キリコ「来たか……」

セシリア「行きますわよ!」

セシリア(このミサイルで……)


ドシュンッ
ゴォオオッ

キリコ(……これが、最後のチャンスだ……)

キリコ(ここで仕留めなければ、ラウラとの戦いができなくなる)

キリコ(……だが……俺にも奥の手が無い訳じゃない)

キリコ(コイツの真の機動力を、発揮する時だ)


キュィイイイッ


セシリア「逃げ切れると思って!」シュンシュンッ

キリコ「……」



箒「ま、マズイ……追尾ミサイルとドット、同時だなんて……避け切れる訳が!」

鈴「キリコ! 逃げるなり撃ち落とすなりでもしなさい!」



キリコ(仕掛けられるのは、一回だけだ……)


セシリア(これで決めるっ!)


バシュンバシュンッ
ゴォオオッ


キリコ「……」ヒュンヒュンッ

セシリア「……」

キリコ「……」キュィイイッ


ピタッ


セシリア(止まった!)

セシリア「貰いましたわっ!」ジャキッ

箒「キリコッ!」

鈴「ヤバイ……」

鈴(ミサイルも目前、ビットがとり囲んで、セシリアのライフルはキリコを捉えてる……)

鈴(一発でもどれかに当たれば、もう連弾で決められちゃう……)


セシリア(これで……キリコさんに勝てる……)

セシリア(あの目を……あの目の恐怖を捨て去り、キリコさんと対等な関係になれる!)

セシリア「……これでっ!」




キリコ「今だっ!」


ヒュンッ……


ドガァアアンッ



セシリア「なっ!」

セシリア(あ、あの加速は!)

セシリア(い、イグニッション・ブースト!)



鈴「あ、あのスピードは!」

箒「凄い……ミサイルの間を抜けたぞ!」



キュィイイッ


キリコ「……」キュィイイッ



セシリア「くっ……(奥の手を用意していただなんて……)」

セシリア(あの速度ではすぐに間合いを詰められる……しかし、幸いキリコさんは弾切れの武器を装備中……。
     武器を変える隙に一旦距離を……)


ドゴンッ


セシリア「ぐはっ……」

セシリア(な……何ですの、このダメージは……)

セシリア(な、何かが飛んできた? そ、そんなはずは……)

セシリア「……こ、これはっ!」



箒「た、弾切れのソリッドシューターをアームパンチで撃ち出したぞ!」

鈴「よし! 胴体命中! 動きが止まった!」



キュィイイッ
ヒュンッ



キリコ「……」

セシリア「なっ!(も、もう目の前に!)」

キリコ「これで、トドメだ」



バキンッ


セシリア「っ……」


ズドンッ


セシリア「ぐっ……」


ヒュウウウッ……
ズドォオオンッ



箒「よし!」

鈴「やったぁっ!」



キリコ「はぁ、はぁ……」



セシリア「くっ……」

『シールドエネルギー0。試合続行不可』

セシリア「……そ、そんなっ……」



ワァアアアアアッ



箒「セシリアを倒した!」

鈴「ふぅ……なんとかなったわねぇ……」



キリコ「……」

セシリア「そんな……私が……弱点の無いブルー・ティアーズが、負けた?」

セシリア(そ、そんなはずは……)

セシリア(そんな……)

セシリア(わ、私は……あの目に、恐怖せず、立ち向かったのに……)

セシリア(……)


キリコ「……」



恐ろしい程の強敵。あの時、俺の判断が一瞬でも遅れていれば、こちらが負けていただろう。

そして、最後の彼女が崩れた姿を見た時、俺は彼女の戦う理由を、本当に理解した。
彼女は、真に自分の為に戦っていたのだと。彼女の強さは、その信念に裏打ちされたものだと。
何よりも尊い戦士の誇りの為に戦い、そして自分の知らない所で、恐怖を払拭していたのだと、俺は知ったのだ。

キリコ「……」


「キリコーッ!」


キリコ「……シャルル」


シャル「セシリア倒して疲れてるのはわかるけどさ! ちょ、ちょっと援護してくれないかな!
    今僕に巻きついてるこのアンカーを撃ち落とすとかさ!」ギリギリッ

キリコ「……」ジャキッ


ズキュウウンッ
ブチッ


シャル「よっと……はぁ、助かったよ」

キリコ「……セシリアは片付けた」フィゥウンッ……

シャル「うん、やったね……それじゃあ後は……」



ラウラ「ふん、自分からタッグを組ませろと言ってきた癖にアッサリ負けるとは……使えんヤツだ」


キリコ「……お前だけだラウラ・ボーデヴィッヒ」


ここであのアイキャッチが入るはず
ちょっとご飯食べるので、またその後に来ます

キリコ「……」

シャル「ふぅ……なんとか早めに決着ついてくれて助かったよ。こっちも結構ピンチだったから」

キリコ「すまないな」

シャル「ふふっ、良いって事。さて、それじゃあ……メインイベントだ……」

キリコ「……あぁ」

ラウラ「ふっ、先程の……イグニッション・ブーストと奇をてらう攻撃……中々やるものだなキリコ・キュービィー」

キリコ「……御褒めに預かり、光栄だ」

ラウラ「しかし、あれは貴様の奥の手と見たが……良かったのか、あんな凡骨に使って。
    私にはもう、あの手は利かんぞ」

キリコ「……さぁな。こっちの策は、あれだけじゃない。油断しない事だ」

ラウラ「御忠告感謝しよう……」

キリコ「……」

シャル「……」

ラウラ「……」



……




ウォッカム(普通の人間が、あの三人の中に躍り出てきた結果は……まぁ、こうなるだろうな。正直役者不足だ)

ウォッカム(異能生存体、ヤツらの各能力は人間のそれを凌駕する)

ウォッカム(……しかし、今回は異能生存体の能力を観察することが主では無い。
      確かめる順序は逆だろうが、それは今問題では無い)

ウォッカム(完璧な兵士、その条件は腕、運、機械への適応能力だけでは足りないのだ)

ウォッカム(精神すら、常人を超えねばならない……)

ウォッカム(キリコ・キュービィー……貴様はこれから、過去を乗り越える)

ウォッカム(そして、完璧な兵士となるのだ……)

ウォッカム(私の、崇高なる野望の、為に……)



……

キリコ「……作戦通りに行くぞ」

シャル「……うん」

ラウラ(……来るか)


キュィイイッ



ラウラ(……何を企んでいるのかはわからんが……油断はできんな)

キリコ(少し、シールドエネルギーを使い過ぎた。それはシャルルも同様だろう)

シャル(僕もキリコも、あまりシールドエネルギーは無い……さっさと片付けないと)

ラウラ「はぁっ!」ガキンッ


ヒュンヒュンッ


シャル「おっと!」ヒュッ

キリコ「……」ヒュッ

シャル(あのアンカーは、セシリアのブルー・ティアーズみたく、死角からも狙ってこれる……。
    だけど、ちゃんとそれも踏まえてセシリアと特訓したんだ。二人掛かりならもう当たらないよ!)

キリコ「……」ズガガガッ

シャル(よし、キリコが特定の間合いに入った。AICで機体ごと止められない、かつ離れ過ぎる事の無い間合い)

キリコ(俺はここでヤツの攻撃を引きつけ、ヤツの隙を窺う。そして、わざと懐に突っ込み、ヤツのAICに捕まる)

シャル(キリコが突っ込む時は、ラウラの視界が僕から完全に離れた時。キリコが突っ込んだら、そのまま狙い撃てばいい)

キリコ(ヤツのAICは、セシリアのブルー・ティアーズ以上に集中力がいるだろう。止められる方向及び対象は一つだけと見た)

シャル(だから、ガラ空きになった後ろを狙えば良い……けど……)

シャル「……」ズガガガッ

ラウラ「ふっ、無駄だ……」キュウウウンッ


パスパスッ……


ラウラ「何か作戦があるのかと思って身構えていたら、ただの斉射か……弾薬数が増えれば貫通するとでも思ったか!」ガキンッ

シャル「くっ……」ヒュンッ

キリコ「……」ヒュッ

シャル(とまぁ、こんな感じで……ちょっと油断させないとね……)

シャル(それに……)

ラウラ「喰らえっ!」ジャキンッ


ズキュウウンッ


シャル「うわっと……どこ狙ってるのかな!?」ヒュッ

シャル(キリコが細工した兵器もある……既にその準備は終わってるんだけど、そっちが本当の奥の手……)

シャル(……それまでに、なんとか倒したいけどね)

キリコ「……」キュィイイッ

ラウラ(AICを警戒しての間合い管理か……馬鹿め、私がお前達二人から目を離すと思うのか?)

ラウラ「片腹痛い!」ビゥウンッ

キリコ(ブレード……接近戦か)

ラウラ(近づけば、貴様のあのデカイターン回避もさして怖くは無い……)

ラウラ「行くぞ!」ギュンッ

キリコ(接近戦か……)

ラウラ「はぁっ!」ビュンッ

キリコ「……」ガキンッ

ラウラ「だぁっ!」ビュンッ

キリコ「ふっ」ガキンッ

シャル(凄い、ブレードを殴りで返してる……)

ラウラ「……」ビュビュビュンッ

キリコ「……」ガキガキガキンッ



鈴「す、凄い応酬……」

箒「なんて速さだ……」

ラウラ(ちっ……接近戦には弱いと思ったが、私と同等レベルの動体視力を持っているらしいな……)

ラウラ「せやっ!」ビュンッ

キリコ「そこだ」ガキンッ

ラウラ「何っ!」

ラウラ(弾き返されただと!)

キリコ「……」ブンッ

ラウラ「ちっ」キュウウンッ

キリコ「くっ……」ピタッ

ラウラ「ふふっ……やるな。まさか常人がここまでの動体視力を持っているとは思わなかったぞ」

キリコ「……」

ラウラ「だが、これでトドメだ!」ジャキンッ



シャル「僕を忘れてなぁい!?」ズガガガガッ


ラウラ「なっ!」バゴンッ

シャル「ふふっ、油断大敵……だね」

ラウラ「くっ……雑魚共がぁ!」ガキンッ

シャル「おっと……アンカーはもう避け慣れてるよ!」

キリコ(一度、また距離をとるか)キュィイイイッ

ラウラ「クソッ……」

ラウラ(ちっ……キリコに集中し過ぎたか……あんなヤツの攻撃を喰らうとは……)

ラウラ(……ヤツらめ、まさかこのAICの弱点を……)

ラウラ「ちぃっ!」ガキンッ

シャル『やったねキリコ』

キリコ「あぁ。どうやら、俺の見立て通りらしい」

シャル『このまま作戦通りに押し切ろう。回避は辛いだろうけど、頼むよ』

キリコ「任せろ」



……



山田「キリコ君、また腕を上げてますね……わ、私……もう追いこされちゃったんじゃ……」

千冬「ふっ、だからウカウカしてられないと言ったんだ」

山田「それにしても……キリコ君とデュノア君のコンビネーション、素晴らしいですね。とても上手く連携が取れてます」

千冬「あぁ。短期間で合わせたにしては、良い連携だ。デュノアも、さすがは専用機持ちと言った所だな」

山田「本当に、凄い二人です……」

千冬「……あぁ」

千冬(ラウラ……義憤に燃えるのは良い。しかし、そいつはそんなもので倒せるような、チャチなヤツでは無い)

千冬(キリコ……アイツは……)

千冬(人間という枠で括れるような者じゃ、無いのだからな……)



……


ラウラ「はぁっ!」ビュンッ

キリコ「……」ヒュッ

ラウラ「クソッ!」ジャキンッ ズキュウンッ

キリコ「……」キュィイイッ

ラウラ(何故だ……何故当たらん……)

ラウラ(キリコに負けたあの凡骨でさえ、何度もアイツに攻撃を当てていた……)

ラウラ(なのに……なのに……)

ラウラ(……くっ……)

ラウラ「キィリコォーッ!」ズキュウウンッ

キリコ「……」ヒュッ

ラウラ「ちぃっ……」


シャル「また忘れてるでしょ、僕の事!」ズガガガッ


ラウラ「くっ……」カキンカキンッ

シャル「やぁああっ!」ズガガガッ

ラウラ(やはりそうだ……コイツら、AICの弱点を知っている!)

ラウラ「クソがぁっ!」ビュンッ

シャル「おっと!」ヒュッ

シャル(ふふっ、慌ててる慌ててる)

ラウラ「この最低野郎共がぁ!」

キリコ「……」キュィイイッ

ラウラ「突っ込んで来ても、AICがあるわっ!」キュウウンッ

キリコ「……シャルル!」


シュンッ


シャル「……ふふっ、ちゃんともう懐に入ってるよ!」

ラウラ「なっ……(い、いつの間に懐に!)」

シャル「ほうら、ショットガンの味でも堪能してよ!」ズガンッ

ラウラ「ぐはっ!」バキンッ

ラウラ(な、何故だ……確かにヤツは一瞬私の視界から消えた……しかし、距離はあったはずだ……)

シャル「よし……初めてやったけど、案外上手くいくもんだね」

ラウラ「くっ、貴様……まさかイグニッション・ブーストを……」

シャル「御名答。キリコの真似をしただけなんだけどね……」

ラウラ(コイツ……そんなものが使えるなんてデータは無かった……まさか、この戦いの中で覚えたというのか!)

ラウラ「このっ……雑魚がぁっ!」ジャキンッ


ドガァアアンンッ


ラウラ「ぐはっ……」


キリコ「二連装ミサイルの味も、良いものだろう」


ラウラ「ぐっ……キリコ、貴様ぁっ!」ガキンッ

キリコ「もう、アンカーは見えるぞ」ヒュッ

シャル「だから、僕からも目を離しちゃダメだって!」シュンッ

ラウラ(ま、また懐に!)

シャル「そうら、パイルバンカーだ!」ガキンッ

ラウラ「っ……ぬはっ!」ドゴォッ

シャル「そらそら、そらっ!」ガキンッガキンッ

ラウラ「ぐっ、あっ……」ドゴンッドゴンッ



箒「よし! もう勝ったも同然だ!」

鈴「ドンドンやっちゃいなさいシャルル!」





ラウラ(ま、ける……負けるのか? この私が?)

ラウラ(こんな……こんなレッドショルダーと取り巻きなんかに?)

ラウラ(教官に深い傷を負わせた……こんなヤツらに……)

ラウラ(私が……私が……)

ラウラ(……)

ラウラ(負けるものか……)

ラウラ(負ける訳にはいかん……)

ラウラ(こんな……こんな……)



——




『希有遺伝子実験体C0037、お前の新たな識別名は……ラウラ・ボーデヴィッヒだ』


いつ誰が始めたのかわからない、そんな百年戦争の真っただ中。私は生を受けた。
巨大陣営に組すること無く、戦争に不干渉という立場を決め込んでいた、この地球で。
しかし、そんな惑星で私はただ、戦う為だけに、生まれ、鍛え、育てられた。
日々、訓練、訓練、訓練……全てにおいて、私は最高レベルを出し、そして維持し続けていた。
射撃、対人格闘、AT……あまつさえ、猟兵の様な訓練さえ受けた。
私の技量は、あのアストラギウス銀河最強のAT部隊と噂される、レッドショルダーにも引けを取らない。
私はそれ程の評価を受けていた。

……世界最強の兵器、ISが世に出るまでは。

すぐに私もISへの適合能力を高める為に、左目にナノマシンを埋め込まれた。
しかし……結果は燦々たるものだった。
私の身体はISに適合しきれず、結果も出しきれず、私は出来そこないの烙印を押された。

そんな時、私はあの人に出会った。
彼女は、極めて有能な教官だった。
わずかな時間しか私は指導を受けられなかったが、私はIS専門の部隊で……また最強の座に君臨した。


私は、その人に聞いた。何故それ程までに強いのか、と。
最初は教えてくれなかった。しかし、私は何度も聞いた。
そして……ついに、彼女はこう答えてくれた。


戦争が、レッドショルダーが憎いからだ、と。
力無き者は全て失う、戦争が憎いからだ、と。
もしまた戦争が起きても、抗えるように、と。

その時、その人がした顔は……悲痛なものだった。
私は、何を失ったのかと聞いた。
ただ一言、家族、そう答えてくれた。

私は、その時決心した。
私も、この人の様にならねばならない。
私は……戦争の道具、兵士ではある。だが、それとは違う。
気高い戦士にならねばならない、そう私は決心した。

そして、私は念願叶い、教官のいるIS学園に転属される事となった。
軍よりは基礎訓練の質は落ちるだろうが、教官の指導をまた直接受けられる。
私は心躍らせていた。

あの連絡が来るまでは——。


プルルルルッ
ガチャッ


『ラウラ・ボーデヴィッヒか』

『……誰だ』

『貴様がこれから行くIS学園に、キリコ・キュービィーという男がいる。そいつは、織斑千冬の義理の弟だ』

『……何故、貴様が教官の事を知っている』

『そいつは……レッドショルダー隊員だ』

『っ!』

『織斑千冬が長期間住んでいたサンサを襲撃したのも、レッドショルダーだ。その時、彼女の家族は死んだ。
 その、キリコ・キュービィーを除いてな』

『……』

『そして、そいつはこの前の第三次サンサ攻略にも参加したのだ。自らの故郷を、自らの仇である部隊に所属し、壊滅させたのだ』

『……』

『……この事実を、君は知った。これをどうするかは、君に任せよう……だが、これだけは言える。
 私も、戦争というものは早く終わらせたい。だから、君の協力が必要だ』

『……ヤツを……殺せというのか』

『……そうだ……』

『……断る』

『何故だ』

『卑怯な手で殺しては……ソイツと同じだ……私は……』

『……』

『戦士として、戦いの中でソイツを殺す……』

『……そうか。まぁ、どの道結果は同じだ。協力感謝する』

『協力では無い……これは、仇討ちだ』

『……そうか。では、私はこれにて失礼する』


ツーツー


『……』


教官の家族でありながら……教官の家族を殺したレッドショルダーに入った男、キリコ・キュービィー。
私は、生まれて初めて、明確な殺意を覚えた。
そして、私はここに来たのだ。

なのに……。

なのに……。


力が、欲しい……。

己の信念を達せられる、強い力が。
人の皮を着た悪魔を穿てる、強い力が。


……。


……。


っ……?


なんだ、この音楽は……。


軍歌か?
しかし、どこかで聞き覚えが……。

……。


……そうか。

これは、あの忌まわしい部隊の……。
レッドショルダーの……。



『汝、力を欲するか』


欲しい。


『人の皮を着た悪魔を滅する、力が』


あぁ。


『……ならば、授けよう。しかし、悪魔を穿つには、悪魔になるしかない……』


……構わん。
自分の姿など、知った事か。



『……良いだろう』




——




ラウラ「——うわぁああああっ!」


ジジジジジッ


シャル「うわぁあっ!」ガキンッ



箒「な、何だ!」

鈴「何よあれ!」



ラウラ「ぬうううう……あぁあああっ!」ジジジジッ



ウォッカム(来たか……)



キリコ「大丈夫か、シャルル」

シャル「う、うん……でも、一体何が……」




テーテーテテッテー
ツタタタタッタッタ ツツタタタッタッタッタ



キリコ「……!?」

シャル「な、何? 何この音楽?」



ウォッカム(……素晴らしい)



鈴「ちょ、ちょっと何よこれ……全部のスピーカーから大音量で流れてくるけど……」

箒「……こ、これは……この曲は……」



キリコ「レッド、ショルダー……」



ラウラ「うううううっ……がぁあああっ!」ブクブクブクッ


シャル「あ、あれは……ラウラのISが溶けて、変形してる!?」


ガクッ


キリコ「や、やめろ……」

シャル「ど、どうしたのキリコ!」

キリコ「この曲を、やめさせろ……」

シャル「キリコ……」

シャル(そ、そうか……この曲は、あの部隊の……)


ラウラ「ああぁああっ!」ブクブクッ


シャル(溶けたISが、完全にラウラを包んだ……い、一体、何が起きてるんだ……)




箒「……う、うぅ……」ガクッ

鈴「ど、どうしたの箒? だ、大丈夫!?」

箒(な、なんでこの曲が今……)

箒(レッド、ショルダー……)

箒(人が燃える……)

箒(皆、皆……)



山田「……こ、これは一体……」

千冬「……」

山田「お、織斑先生!」

千冬「……」

山田「織斑先生っ!」

千冬「……あ、あぁ……警戒態勢を、最高にまで上げろ」

山田「は、はいっ!」




ジジジジッ
ブクブクブクッ


シャル(な、なんだ? 何か、形を作ろうとしている?)

キリコ「やめろ……」



山田「……」カタカタッ

千冬「どうした山田先生。早く警報を」

山田「……ダメです! 反応しません!」

千冬「なんだと!?」

山田「一切、こちらの指示が……ダメです、弾かれます!」

千冬(クソッ……セキリュティもまた一新したはずだ……なのに、またこうもアッサリ……)



ウォッカム(……警報などさせるものか。ここでゆっくりと見ることが出来なくなるではないか……)

ウォッカム(まぁ、これは篠ノ之博士の分野だ。安心して眺めるとしよう)




ジジジジッ……



シャル(形が……成った……)

シャル(あれは……まさか……)


キリコ「う、うぅ……」

キリコ(あ、あれは……)

キリコ(AT……ATの形か?)

キリコ「……」

キリコ(いや……)

キリコ(ただのAT……じゃない……)

キリコ(あの、肩は……)




鳴りやまぬ忌まわしい音楽。そんな中、俺の敵は姿を変えた。
三つ目のレンズ。鉄の棺。そして……あの、赤い右肩……。
あの、吸血鬼……レッドショルダーに……。



キリコ「はぁ……はぁ……」


『……』ガインッ


キリコ「はぁ、はぁ……」


『……キ……リ、コ……』


キリコ「やめろ……」


『メルキア、方面軍……第24……戦略機甲歩兵団……』


キリコ「言うな……」


『特殊任務班、X−1……レッドショルダー所属……』


キリコ「やめろ……やめるんだ……」


『キリコ・キュービィー曹長……』



セシリア「!」

シャル「……」


山田「!?」

千冬「っ……」


鈴「レッド……ショルダー……」

箒「……キリコ、が?」




キリコ「はぁ、はぁ……」

『忘れた、とは……言わせ、ん、ぞ……』

キリコ「言うな!」ズガガガッ

『第三次、サンサ攻略、戦……貴様、は……確かに、サンサにいた……レッド、ショルダーとして……』キュウウンッ

シャル(AIC!?)

キリコ「やめろぉっ!」ズガガガッ

『貴様は……自らの、手で……故郷を、燃やし、尽くした……』

キリコ「やめろ……」

『自分の家族を、殺した……レッド、ショルダーに、入り……』

キリコ「……やめろ……」

『貴様は……殺戮を、楽しんでいた!』

キリコ「……違うっ……お、俺は……」

『貴様は……吸血鬼……レッドショルダーだ!』

キリコ「っ……」



……

鈴「そ、そんな……」

箒「……」

鈴「……キ、キリコが……レッドショルダー、だったなんて……」

箒「……」ガクガクッ

鈴「ね、ねぇ箒……」

箒「はぁ、はぁ……」ガクンッ

鈴「ど、どうしたの箒?」

箒「……うぶっ!」タタタッ

鈴「ちょ、ちょっと箒! どこ行くのよ!」


タタタッ


箒「はぁ、はぁ……」

箒「……っ……おぇえええっ……」バシャッ

箒「……はぁ、はぁ……」

箒(キリコが、レッドショルダー?)

箒(嘘だ……嘘だ、嘘だ……)

箒(嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!)

箒(嘘だっ! 嘘だっ! 嘘だぁっ!)

箒(嘘に……決まっているっ!)

箒(何でっ……そんなはずはない……キリコが……キリコが一番良く知っているはずだ……)

箒(レッドショルダーが私達に何をしたのか……記憶に無くとも、わかるはずだ……)


箒(キリコが……)


「お前から離れる訳には、いかなくなった」


箒(キリコがっ……)


「俺は、お前が良いと言った」


箒(嘘だっ……)


「そうすれば、俺はお前の恋人にでも、何にでもなろう」


箒(嘘だ……)



「……待っていろ」


箒「……うそだっ……」

箒「こんな……こんなの……」

箒「せっかく……せっかく……キリコに、あえたのに……」

箒「キリコを……またすきになれたのに……」

箒「こんなのっ……」

箒「こんなの……ひどすぎるっ……」

箒「キリコォッ!」


箒「キリコ……」


箒「キリ、コ……」


箒「……」





……




『いくら、味方の血肉を、喰らった……』

キリコ「違う……」

『いくら、罪無き人を殺めた……』

キリコ「……違うっ!」

『この、最低野郎がぁっ!』

キリコ「……うわぁああっ!」


キュィイイイッ


シャル「! キ、キリコ! 突っ込んじゃダメだ!」

キリコ「……くっ」ジャキッ


ズガガガガッ


『……』キュィイイイッ


キュウウンッ
パスパスッ……


シャル(AICがまだ生きてる……)

キリコ「はぁ、はぁ……」キュィイイッ



『……』キュィイイッ


シャル「キリコ! 一旦退くんだ!」

キリコ「や、やめろ……この曲も、貴様の戯言も……」

シャル「キリコッ!」


『……』カチッ


ズガガガッ


シャル「くっ……(イグニッション・ブーストで……)」


ヒュンッ
パシッ


シャル(よし、キリコを回収した!)

キリコ「……やめろ! 放せ!」

シャル「キリコ! しっかりしてよ!」

キリコ「……ヤツを……ヤツを止めなければ!」

シャル「そんなことより、今はとにかく体勢を立て直さないと!」

キリコ「うぅ……止めろ……」



何故だ……何故……。
未だに鳴り響いているあの曲。
レッドショルダーの行進曲、戦騎達の行進するあの音が、俺を蝕む。
甲高いローラー音、土を踏みしめる音が、脳髄から喉へ流れていく。
何だ、この異様な不快感は……。
俺はついこの間、この曲を聞き、そしてあの部隊にいたはずだ。
あの時には何も感じなかったはずなのに……なのに、何故今頃……。




キリコ「はぁ……はぁ……」

シャル「キリコ! ねぇ!」



吸血鬼と罵られた。人殺しと。
それは、事実だろう。
今までは、何とか堪えられた。
なのに……何なんだ……この震えは。この絞首のような喉の嗚咽は——。



キリコ「……やめ、ろ……」

シャル(駄目だ……完全に錯乱してる……)

シャル(こ、このままじゃ……)


「シャルルさん!」

シャル「!? こ、この声は……」


セシリア「シャルルさん! キリコさんをこちらに!」


シャル「セシリア……ここにいちゃ危ない! 君も逃げるんだ!」


ズガガガガッ


シャル「くっ……」シュンシュンッ

セシリア「シャルルさん! いいから早く! このままでは二人共やられてしまいますわ!」

シャル「っ……」

シャル(イグニッション・ブーストも使える限度がある……)


『……キ、リコ……』ズガガガッ


シャル(狙いも、速さも、ATにしてはかなりの性能だ。元がISだからか……)

シャル(それに、AICも死んでない……かなり厄介だ)

シャル「……くっ……セシリア! エネルギーもう無いと思うけど、IS展開してもっと離れて! 牽制してからキリコを渡す!」

セシリア「はいっ!」

シャル(二人やられるよりは……仕方が無い!)

シャル「てやぁっ!」ズガガガッ


『……』キュウウンッ


シャル「つっ……(走行しながらAICを展開してる……厄介どころじゃないねこれは)」

シャル(……もうこっちのエネルギー切れちゃうけど……)

シャル(……賭けだ!)キュイイインッ


ヒュンッ


『……』ズガガガッ

シャル(イグニッション・ブーストで一旦近づいて……)カキンカキンッ



ヒュンッ


シャル(追いこす!)

『……』キュィイイイッ

シャル「来たね……」ズサァッ

シャル(もう一度!)ヒュンッ


『……』ズガガガッ


シャル「ふっ!」ヒュンヒュンッ

シャル(よし、距離を開けられたぞ!)

シャル「セシリアァーッ!」

セシリア「準備良いですわ!」

シャル「頼んだよぉっ!」ブンッ



ゴォオオッ


セシリア「っ……」


バシッ


セシリア「くっ……」ズササァッ


ズサァッ……


セシリア「はぁ……(な、なんとか受け止められましたわ……)」

キリコ「……やめろ……俺の過去を蒸し返すな!」

セシリア「キリコさん! お気を確かに!」

キリコ「や、やめろ……」

セシリア「……」

セシリア(一体、キリコさんの身に何が起きていると言うんですの……)




『……』キュィイイッ


シャル「君の相手は僕だよ!」ズガガガガッ


『……』キュウウンッ


シャル「くっ……やっぱり効かない、か……」

シャル(マズイな……二人ならAICに対処できるけど、タイマン戦じゃ無敵過ぎだよあれ……)

シャル(……何か、弱点じゃなくても良い。まずは特徴を掴むんだ)

シャル「……」ズガガガッ


『……』キュウウンッ


シャル(……一つだけ、特徴発見)

シャル(AT形態になってから、地上のみを走行してる。ある程度空に逃げれば、なんとかなりそうだ……)

シャル(だけど、あまり離れ過ぎると……キリコの方に向かっていく。きっと……)

シャル(さて、ここからどうしたものか……)



『……』ジャキンッ


シャル「っ! ミサイルか!」

『……』ドシュドシュッ

シャル「くっ……」

『……』ズガガガッ

シャル(ぐっ、まずい……バルカンまで……)


ゴォオオッ


シャル「くっ……」ヒュンヒュンッ


ドガァアンッ


シャル「ぐあっ!」

シャル(くっ、全段回避は無理か!)


『……』ジャキンッ


シャル(早く戻って来てよ! キリコ!)

キリコ「くっ……あ、頭が……」

セシリア「大丈夫ですかっ」

キリコ「はぁ、はぁ……(何故だ……何故今になって、この発作が……)」

セシリア「キリコさん……」

キリコ「俺は……俺は……」

セシリア「……」


シャル「うわぁああっ!」


セシリア「!? シャルルさん!」



シャル「つ、つつっ……」

シャル(ま、まずい……あと一発でも何か貰えば……エネルギーがお陀仏だ……)

シャル「……」

シャル「……キリコッ!」

シャル「早く戻ってきてよ! このままじゃ……」


『……』ズガガガッ


シャル「うわぁっ!」

セシリア「シャルルさん!」

セシリア(わ、私に、シールドエネルギーが残ってさえいれば……)

セシリア「……」

キリコ「……違う……俺は、もう違うんだ……」

セシリア「……キリコさん」

キリコ「望んだ訳じゃない……俺は……俺は!」

セシリア「キリコさんっ」

キリコ「違う……」

セシリア「キリコさん!」

キリコ「違うっ!」

セシリア「……」



バチンッ


キリコ「……」

セシリア「……」

キリコ「セシ、リア……」

セシリア「シールドはまだ残っているから、痛くもかゆくもないでしょう」

キリコ「……」

セシリア「……何を恐れているのです」

キリコ「……俺は……」

セシリア「今、シャルルさんが貴方を庇い、必死になって戦っているのです。自分のシールドエネルギーも残り少ないのに……。
     キリコさんを守ろうと、必死になって……」

キリコ「……」

セシリア「レッドショルダーが、一体なんですの!」

キリコ「……」

セシリア「確かに、レッドショルダーと言えば、味方の血肉を啜る吸血部隊と揶揄されている部隊です。
     ですが、それとキリコさん自身の人間性と、何の関わりがあると言うのです」

キリコ「……お前には、わかるまい」

セシリア「えぇ、わかりませんわ。ハッキリ言って、私にとってその事実はさして興味の無い事です。
     貴方の過去がどうであろうと、私は軽蔑しませんから」

キリコ「……」

セシリア「……自分が否定されるのが嫌ですの?」

キリコ「……」

セシリア「……ならば、安心して下さい。私は絶対に貴方を否定しません。
     今戦っているシャルルさんも、箒さんも、鈴さんも、絶対に貴方を否定しません」

キリコ「……」

セシリア「……それでも、忌まわしい過去を否定したいのであれば、立ち向かいなさい」

キリコ「……」

セシリア「違うと言うのなら……自らが吸血鬼で無いと言うのならば、あの赤の騎兵に立ち向かいなさい!
     立ち向かい、勝ち、そして自分は違うと証明なさい!」

キリコ「……セシリア……」

セシリア「私も、貴方に立ち向かった……私は負けましたが、しかし……今は貴方の事を怖いだなんて微塵も思いません」

キリコ「……」

セシリア「立ちあがりなさい。貴方は、私を一瞬で恐怖させる程の、あの目を持った殿方なのです。
     それが、あんな出来そこないのレッドショルダー等に、負けるはずはありません」

キリコ「……」

セシリア「武器をしっかり持って、戦いなさい。勝って、貴方はやはり違うのだと、私達に思い知らせて下さい」

キリコ「……」

セシリア「……」



ジャキッ


キリコ「……」

セシリア「……そうです。武器は、戦う為の物……そして、自らの信念を乗せる物です……」

キリコ「……すまない、セシリア」

セシリア「謝るのは、勝ってからにして下さいまし」

キリコ「……そうだな」

セシリア「……」

キリコ「……俺は、レッドショルダー……そして、このIS学園の生徒……」


キリコ「キリコ・キュービィーだ」



キュィイイッ


セシリア「……」

セシリア(勝って下さい……)

セシリア(貴方が何者であろうと、貴方を支え続ける人達の為にも……)

セシリア「必ず……」



シャル「ぐっ……」ドサッ

『……』ジャキンッ

シャル「ちっ……」ズガガガッ

『……』キュウウウンッ

シャル「……」カチッ カチッ

シャル(……弾切れ……)

シャル(万事休す、か……)

『……』

シャル(……キリコッ!)



ズガガガガッ


『……!?』カキンカキンッ

シャル「っ……こ、これは……」


キリコ「……待たせたな」


シャル「……遅いよ、キリコ……」

キリコ「……すまない」


『……キリコッ!』ズガガガッ


キリコ「……つかまれ」パシッ

シャル「おわっ!」

キリコ「イグニッション・ブースト……」


ギュンッ


シャル「くっ……(ぼ、僕のリバイヴより速い……さすがは軽装だ)」

キリコ「……セシリア」フィゥウンッ……

セシリア「はい!」

キリコ「シャルルを、頼む。もうコイツのシールドエネルギーは0に等しい」

シャル「……ゴメン、キリコ」

キリコ「謝るのは、俺の方だ。よく持ちこたえてくれた」

シャル「……キリコ」


『キリコ……キリコォーッ!』キュィイイッ


キリコ「……」

シャル「……あれは、過去の自分、なんだね」

キリコ「……あぁ……俺は、行く。アイツの始末は、俺がつけねばならない」

シャル「……負けないで」

キリコ「……あぁ」


キュィイイイッ

キリコ「……」キュィイイッ

『キリコォーッ!』キュィイイッ

キリコ(AICを一人看破するのは、ほぼ不可能に等しいだろう)

キリコ(弾薬も残り少ない……)

キリコ(……だが、まだ活路はある)

キリコ(仕掛けた罠は……まだ生きている)

キリコ(本当にATを模しているなら……装甲はそこまで厚くないはずだ……)

キリコ(一か八か……賭けるしかない)

『死ねぇっ!』ズガガガッ

キリコ(主武装はヘヴィマシンガン、副武装に二連装ミサイル、バルカンか……六連装ミサイルは既に弾切れの様だが……。
    一応スモークもあるようだ、警戒しておこう)ヒュンヒュンッ

『……』キュィイイッ

キリコ(足の接地面の狭さを見るに、ジェット機構もあるだろう……レッドショルダーカスタムか、趣味が悪い……)

『……』ギュィイイッ ズギュウウッ

キリコ(早速来たな……)

『くたばれっ!』ズガガガッ

キリコ「……」ヒュンヒュンッ

キリコ(流石に速いな……地上での性能は、元のそれを上回っているだろう。このセイバードッグにも劣らない……)

キリコ「……」ズガガガッ

『……』キュウウンッ

キリコ(そして言うまでも無く、あのAICがネックだ……)

『……』キュィイイッ

キリコ「……」

キリコ(……やるぞ)


キュィイイイッ



セシリア「キリコさん、突っ込んで行きますわ……」

シャル「何か考えがあるんだ……」

シャル(……頑張って、キリコ……)

キリコ「……」キュィイイッ

『突っ込む気か! 無駄無駄ぁっ!』ズガガガッ

キリコ「……」ヒュンヒュンッ

『……』キュィイッ

キリコ「……一人でも、やりようはある」ジャキッ


ズガガガッ
ドシュドシュッ
ズバババッ


『ふんっ、斉射した所で同方向なら無駄よ!』キュウウンッ

キリコ「……」カチッ

『今の攻撃で……ほとんど弾切れのようだな……』

キリコ「……そのようだな」

『……』

キリコ「……」

『……もう飽きた、貴様には死んでもらうぞ!』

キリコ(あぁ、こちらもそうだ……準備は整った)

『……これが、貴様の最期だ』


バシュウウウッ……
モワァアアッ


キリコ(スモークか……)


キュィイイッ


キリコ(……)

キリコ(見える……)

キリコ(……赤の軌跡が、目で追える……)

キリコ(あの忌まわしい騎兵は……目晦まし等で、誤魔化せるような物じゃない……)


キュィイイッ


キリコ(だが……)

キリコ(俺は、避けない)

『死ねぇっ!』

キリコ「……」ズガガガッ

『無駄だと言ったはずだ!』キュウウンッ

キリコ「……」

『はぁっ!』グワッ

キリコ「ふぉっ!」バキンッ


『……ようやく捕まえたぞ、レッドショルダー……』ググッ

キリコ「ぐっ……」

『……』



シャル「スモークが晴れた……っ! キリコ!」

セシリア「そ、そんな!」

キリコ「……」

『ふっ、お仲間の見ている前で、貴様は殺してやるぞ……お前が、昔サンサの住人にしたように!』ギリギリ

キリコ「くっ……」

『この、人殺し……』

キリコ「……」

『吸血鬼……』

キリコ「……」

『レッドショルダーがっ!』


キリコ「……ふっ」


『……何がおかしい』

キリコ「……そうだ。俺は確かにレッドショルダーだ」

『……』

キリコ「……だがな、俺は望んでなった訳じゃない。レッドショルダーの総指揮者に盾突き、俺はここにいる……」

『……』

キリコ「俺は、誰にも従わない」

『……』

キリコ「俺は……神にだって、従わない……」

『……』

キリコ「貴様の戯言にも、もう惑わされない……俺には、仲間と呼べるものができてしまったようだからな……。
    そいつらの言葉にしか、もう耳は傾かない」

『……貴様っ……』

キリコ「……」

『……殺してやる!』ギリギリ

キリコ「ぐっ……」

『この場で……大衆の前で、レッドショルダーとしての最期をくれてやるっ!』ギリギリ

キリコ「た、大層な事だな……そんな、お前に……一つ良い事を教えてやる……」

『何っ?』

キリコ「……足元を、見てみろ」

『……』チラッ

『……こ、これは……』

『(ソリッドシューターの……弾……)』

『(こいつが一番最初に撃ってきたものだ……)』


キリコ「……終わりだ」ジャキッ

『……っ! ま、まさか貴様っ!』

キリコ「……」


ズギュウウンッ



バゴォオオンッ


『ぐはっ!』ドガァアンッ

キリコ「……ぐっ」ドサッ


シャル「や、やった! 決まった!」

セシリア「い、今の爆発は……」

シャル「あぁ……僕たちが、一番最初にしかけた罠だよ……」



『……』ジジジジッ……

キリコ「……搭乗者が丸見えだな」

ラウラ「……う、うぅ……」

キリコ(……作戦は成功した)

キリコ(訓練を開始した際、ソリッドシューターの弾に、ある細工をするようシャルルに依頼しておいた)

キリコ(大きな衝撃が加わると、クレイモア地雷のように一方向に向けて内部につめた弾薬が、爆散するように……)

キリコ(コイツは、余裕を見せ必ずAICで止めるはず……そう踏んで、敢えて止めさせ、地上に落とさせた……)

キリコ(そして、位置に誘い込み、爆散させる)

キリコ(競技用ではなく、本物の対物兵器向けの仕様だ。ISでも、一たまりもないだろう)

キリコ「……」

ラウラ「……」

キリコ(……今の衝撃でなく、元から気絶していたようだな)

キリコ(……機体が、コイツの感情を暴走させたのか……わからないが、今はとにかくコイツを確保した方が良いだろう)

キリコ「……」グイッ

ラウラ「うっ……」

キリコ(……良し、これで無力化できたはずだ)

シャル「……」

セシリア「か、勝った……」

シャル「うん……」

セシリア「キリコさんが……勝った……」

シャル「うんっ」

セシリア「勝ちましたわ!」

シャル「うんっ!」

セシリア「やりましたわっ!」

シャル「あぁ! やったんだ! キリコが、やった!」

セシリア「キリコさん!」タタタッ

シャル「あ、セシリア待って!」タタタッ


キリコ「……」シュウンッ……



セシリア「キリコさーん!」


キリコ「……セシリア……」

セシリア「良かった……本当に、良かった……」

キリコ「……あぁ」

シャル「はぁ……やったね、キリコ!」

キリコ「あぁ、何とかな」

シャル「……ラウラも、確保できたみたいだね」

ラウラ「……」スースー

キリコ「……寝ているがな」

セシリア「何と言うか、まぁ……」

シャル「あはは、お姫様だっこなんてされて……緊張感無いね……」

キリコ「あれを操っていたのは、コイツではないらしい」

セシリア「と、言うと……」

キリコ「……機械が、何らかの反応を起こし、勝手にコイツの憎しみを利用したのだろう。よくは、わからないが」

シャル「……そっか」

セシリア「……でも、本当に良かったですわ……」

キリコ「あぁ……ISも強制解除されてしまった……また、数日の間使用禁止だろうな」

シャル「あはは……そうだね。でも、それだけで済んで良かったよ」

キリコ「あぁ……」


ラウラ「……ん……うぅ……」


キリコ「……気がついたか」

セシリア「ラウラ・ボーデヴィッヒ! 貴女という人は!」

シャル「ま、まぁまぁ……落ちついて……激戦終わって早々なんだからさ……」

ラウラ「こ、ここは……」

キリコ「……アリーナだ。試合は、俺とシャルルの勝ちだ」

ラウラ「……そうか。私は、負けたか」

キリコ「……あぁ」

ラウラ「……」

キリコ「……」

ラウラ「……キリコ、お前に——」


『……かえ、せ……』

キリコ「っ!」

シャル「!?」


『かえせぇっ!』ズギュウンッ



ラウラ「っ!」

ラウラ(た、弾が……私に……)

ラウラ(し、死ぬのか……)

ラウラ(わ、私が……)


ガバッ


ラウラ「っ……」



バスッ……


ラウラ「……」

ラウラ「……」

ラウラ「……ん……?」



「……ぐっ……」



ラウラ(い、痛く、ない……)

ラウラ(じゃ、じゃあ、今の反動は……)



「キリコォーッ!」


ラウラ(キリコ……)


「キリコさぁんっ!」


ラウラ(……キリコ!)


スッ カチャッ
ズギュウウウンッ



——


「ヤツらが来る!」
「ダメだ! この研究成果を……こんな所でヤツらに!」
「燃やせ! ヤツらの手に渡らないように!」
「うわぁっ!」
「せめて……せめてキリコだけは逃がすんだ! あの子だけは!」
「あの子をヤツらにとられては、絶対にいかん!」
「父さん! 母さん!」
「千冬は! 千冬はどこへ!」
「早くっ!」


「なんで……なんでよ……」
「もっと……もっと早くこれを完成させていれば!」
「これを……」
「……」
「お願い……逃げて……なんとか、してみせるから」
「だいじょーぶ! なんてったってこの天才篠ノ之束さんが大丈夫って言ってるんだから、絶対逃がして見せるよ!」
「だから……キリコちゃんは、逃げて……ね?」


「ほのおが、こんなところまで……」
「あ、あの音だ……あの、高い音……」
「キリコッ! 早くこっちに!」
「手を、はなさないで……」
「絶対に……」


「きゃあっ!」
「ダメ! キリコッ!」
「キリコッ!」


「キリコーッ!」


ここは……。


「こっちだ! 俺は、ここにいる!」


この、炎は……。


「手をっ!」


ここは……あの時の……サンサの……。


「あぁ、絶対に放さない。俺が、お前を守る」

「……放さないで、キリコ……」

「わかってる……」




「箒……」




そうか……。
思い出した……。

俺の、過去を……。
全ての始まりを……。

俺の、宿命を——。



——


何処からか、声が聞こえた。
誰かの名を、必死で呼ぶ声が、二つ。
嗚咽に塗れ、声にならない声で、倒れている者の名を呼んでいた。

私は、その時多分、銃を握っていた。
その、倒れている者の銃だ。
私は無我夢中でそれを引きぬき、撃った。
何を撃ったかはわからない。ほぼ、反射的に体が動いていた。
だから、私は銃を握っていたのだ。

まるで、それが夢なのか、現実なのかわからない、その二つに生じた薄い境界線で起きた出来事の様に。
私は、この一部始終を、ただ眺めていた。
まるで、傍観者の様に。


「……」


「はっ!」ガバッ


「はぁ、はぁ……」


「……起きたか、ラウラ」


ラウラ「……はぁ、はぁ……きょ、教官、ですか……」

千冬「……そうだ」

ラウラ「こ、ここは……一体……」

千冬「安心しろ。ただの学園の医務室だ」

ラウラ「……そう、ですか……」

千冬「……お前は、無事のようだな」

ラウラ「……はい」

千冬「……VTシステム……」

ラウラ「……え?」

千冬「ヴァルキリー・トレースシステムだ」

ラウラ「……何ですか、それは」

千冬「これがお前のISに積まれていた。対象物の戦闘データをコピーし、そのまま再現するプログラムだ。
   どこの誰が入れたのやら……レッドショルダーのデータが入っていたらしい……」

ラウラ「……」

千冬「あれの発生条件はな、搭乗者及び機体のダメージ、そして搭乗者の意志……いや、願望と言った方がいいな。
   それらが揃うと反応して、発動するようになっていたらしい」

ラウラ「願望……」

千冬「血を血で洗うレッドショルダーを殺せるのは、レッドショルダーだけ……そんなつまらん事でも考えたのだろう」

ラウラ「……」

千冬「全く、悪趣味なヤツだよ……」

ラウラ「あ、あのっ!」

千冬「……何だ」

ラウラ「キリコは……キリコ・キュービィーは、何処へ」

千冬「……ここには、もういない」

ラウラ「そ、それは……」

千冬「ん……あぁ、言い方が悪かったな。今ヤツは、市内の病院にいる」

ラウラ「そ、それで! ヤツは!」

千冬「……軽傷だそうだ。命に別条は無い」

ラウラ「……そ、そう、ですか……」

千冬「胴体を、ATの武器で撃ち抜かれたのにな……」

ラウラ「っ!? ……ど、どうして……」

千冬「ヤツは、突如再起したあの機体の攻撃を受けた。お前を、庇ってな」

ラウラ「わ、私を……庇って……」

千冬「そうだ……吸血部隊と呼ばれた部隊にいた癖に、人を庇うとは……面白いヤツだろう、キリコは」

ラウラ「……」

千冬「……」

ラウラ「……教官——」

千冬「ヤツを……許してやってくれ」

ラウラ「っ……」

千冬「……アイツは、確かにレッドショルダー隊員だった。だが、もうヤツは違う。だから、許してやってくれ」

ラウラ「し、しかし教官っ」

千冬「そもそも、ヤツを恨む起因となったのは私だろう。その私が許せと言っているんだ。
   キリコの事は、もう追うな」

ラウラ「……」

千冬「それにな、貴様は実際に、あのサンサの地獄を経験した訳でも無い。
   私からすれば、実害を被っていない貴様がヤツを恨むなど……片腹痛い事だ」

ラウラ「……そう、ですか……」

千冬「……いや、違うな……」

ラウラ「……違う?」

千冬「アイツは、そもそもレッドショルダーじゃないんだ」

ラウラ「……はっ?」

千冬「確かに、アイツはレッドショルダーに配属されはした。しかし訓練は怠け、上官には盾突き……。
   挙句の果てには、お前のような小娘を銃弾から庇った。ヤツは、レッドショルダー失格者だ。故に、違うんだ」

ラウラ「……」

千冬「なりたくてなった訳じゃない……ヤツもそう言っていた。最初は信じていなかったが……まぁ、今回の事で信じてやる事にしたよ。
   だから、レッドショルダーじゃないアイツを、お前が恨む必要は無いんだ」

ラウラ「……恨む……必要は無い……」

千冬「……あぁ」

ラウラ「……」

千冬「……すまなかった」

ラウラ「……えっ?」

千冬「お前を、こんな風にしたのは……私だ。教え子を復讐者などに仕立て、義弟の命を危険に晒した……。
   悪いのは、全て私だ」

ラウラ「ち、違います……そんなことは……」

千冬「いや、そうだ……だから、今までの過ちを背負い、生きていくのは……私だけで良い。
   お前は、これから気兼ねなく、学生生活を楽しめ。それが、お前の新たな役目だ」

ラウラ「……」

ラウラ「……」

千冬「……いや、楽しむと言っても、あまり遊び呆けないように。適度に遊び、適度に励め。
   そうでないと、私のように堅物になってしまうからな。お前は、そうはなるな」

ラウラ「……」

千冬「……お前は、お前。私は、私だ。お前は、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。お前の生き方を、模索しろ」

ラウラ「……私の、生き方……」

千冬「お前は……暴走したあの化け物に、自分でトドメをさした……自分の、残留思念に、トドメをな。
   だからお前はもう、過去を捨てたんだ。復讐者という過去に、お前はケジメをつけた。もう、忘れろ」

ラウラ「……」

千冬「少しの間、お前にはこの医務室で寝て貰う。その暇な間に、見つけてみろ。お前の、生き方を」

ラウラ「……」

千冬「さて、私はもう戻るぞ。忘れ去られた者が起こした事故のせいで、後始末がたんまりとあるからな」

ラウラ「教官……」

千冬「……学校では、先生と呼べ」

ラウラ「……先生」

千冬「よろしい。ではな」


プシューッ

ラウラ「……」

ラウラ(私の、生き方……)

ラウラ(……私は、どうすれば良い……)

ラウラ(……私は、どうすれば赦される……)

ラウラ(……赦し……)

ラウラ(赦し、か……)

ラウラ(……これしかない)

ラウラ(私は、ラウラ・ボーデヴィッヒ……)

ラウラ(今までの罪を清算し……)

ラウラ(そして、あの人と共に……今より先の事を模索してみたい……)

ラウラ(……やる事は、一つ……)

ラウラ「……」

ラウラ「キリコ……キュービィー……」



——

鈴「この馬鹿! また勝手に命を危険に晒して!」

キリコ「……」

シャル「ま、まぁまぁ落ちついて鈴……キリコは怪我人なんだから、優しくしてあげないと……」

鈴「この、馬鹿っ……命知らず!」

キリコ「……俺は、元レッドショルダーだからな」

鈴「そ、そういう話をしてるんじゃないわよ!」

セシリア「ほら鈴さん。キリコさんが困ってらっしゃいますわ。少し抑えて」

鈴「ぬぐっ……はぁ、もういいわよ。馬鹿は死ななきゃ治らないからね」

キリコ「……そうか」

シャル「でも、本当に良かったよ……弾が運良く、器官を傷つけずに貫通して。もう奇跡に近いよ」

セシリア「えぇ……本当に、良かったですわ……」

シャル「意識も、病院についてすぐ戻ってくれたし……キリコの回復力は凄いね。もしかしてトカゲかなんかじゃないの?」

キリコ「ふっ……かもな」

鈴「……キリコが、笑った……それに冗談も言ってる……」

キリコ「……俺にだって、そういう時もある」

シャル「ふふっ、そうかもね」

セシリア「えぇ、そうですわね」

鈴「……うん、そっちの方が、断然良いよ」

キリコ「……そうか」

シャル「入院期間もたったの一週間だしね。本当に凄いよ」

キリコ「あぁ……一つ、聞いて良いか」

シャル「何?」

キリコ「箒は、来ていないのか」

鈴「箒ねぇ……よくわかんないけど、あの化け物が出た直後に、なんか顔青くしてどっかに行っちゃったきり見てないんだよねぇ……」

キリコ「っ……そうか」

シャル「箒に、お見舞いに来て欲しかったんだ」

キリコ「……そんなところだ」

シャル「お、正直だねぇキリコ」

鈴「ちょ、ちょっとキリコ。あたしもいるのよ!」

セシリア「わ、私もいますわ!」

キリコ「あぁ……来てくれて、嬉しいよ」

鈴「……」

セシリア「……」

キリコ「……どうした」

鈴「どうしたの? やっぱ撃たれた時に頭やっちゃった? なんかキャラ変わってるじゃない……」

セシリア「な、何と言うかその……直球と申しますか……」

キリコ「……別に、変わってなんかいないさ。それと、セシリア、シャルル」

セシリア「はい?」

シャル「ん、何? キリコ」

キリコ「あの時、お前達がいてくれて、本当に助かった……礼を言う。おかげで……俺は過去を、払拭できた」

シャル「な、何言ってるのさ!」

セシリア「そ、そうですわ! 私は……ただ、偉そうな事を言って、頬を叩いただけですもの……」

キリコ「いや、あれが効いたんだ。おかげで、平静に戻る事ができた。
    そして、シャルル、お前の援護のおかげで、俺は冷静にアイツと対峙できた」

シャル「い、いやぁ……なんか、キリコにそう言われると、照れちゃうな……」

鈴「むぅ……あたしにはなんか無いのぉ? あたしも一応ここまで運ぶの手伝ったんだけど」

キリコ「あぁ……ここまで運んでくれて、感謝している。鈴」

鈴「うっ……ま、まぁ……わかれば、いいのよね……」

キリコ「……」

シャル「あはは、何照れてるの鈴」

鈴「て、照れてなんかないわよ! べ、別に……そんなんじゃ……」

セシリア「ふふっ……」

鈴「あ、アンタまで笑うんじゃないわよ!」

セシリア「はいはい。照れ隠しもそこまでですわよ」

鈴「くんぬっ……」

キリコ「……」

シャル「……あぁー、ちょっといきなりで悪いんだけど……キリコと反省会したいから、二人きりにさせて貰えるかな?
    10分くらいで良いからさ」

鈴「え、えぇ? 別にそれ今じゃなくても良いんじゃないの?」

セシリア「お二人共お疲れなのですから、また後日でも大丈夫なのでは?」

シャル「い、いやぁ……こういう事は早めに済ませておいた方が良いかな、と思って……」

セシリア「そ、それは熱心で良い事だとは思いますけど……」

キリコ「……鈴、セシリア……少し、席を外してくれないか。俺も、少しシャルルに話がある」

鈴「……ま、まぁ……キリコがそう言うなら……」

セシリア「あまり、無理はしないで下さいね」

キリコ「あぁ、すまない」


プシューッ


キリコ「……」

シャル「……」

キリコ「……何か、重要な話でもあるのか」

シャル「……うん……結構、重い話、かな」

キリコ「そうか。何でも、話してみろ」

シャル「……えへへ、わかった……」

キリコ「……」

シャル「……僕ね、この学園にいる事にする」

キリコ「……むしろ、出ていく気だったのか」

シャル「あ、あはは……まぁ、考えはしたけどね……」

キリコ「……俺は、良いと思うぞ。ここにいた方が」

シャル「そ、そっか……そうだよね、やっぱり」

キリコ「……」

シャル「……僕は、ここにいたい。セシリアや鈴、それに箒みたいな、大切な友達もできたし、それに……」

キリコ「それに?」

シャル「キリコが、証明してくれたから……」

キリコ「証明?」

シャル「うん……自分の過去に何があろうと、絶対に立ち向かえるんだって事、見せてくれたから」

キリコ「……」

シャル「だから……これからはシャルロットって呼んで?」

キリコ「……シャルロット?」

シャル「うん……それが、僕の本当の名前。お母さんがつけてくれた、本物の……」

キリコ「……そうか、シャルロット」

シャル「えへへ、早速呼んでくれたね……」

キリコ「……」

シャル「……先に、キリコに教えたのは……この名前を、この学園で最初に呼んで貰いたかったから」

キリコ「……皆にも、本当の自分を見せるのか」

シャル「うん、そうするつもり。鈴やセシリアが、キリコの過去を受け入れてくれたように……。
    本当の僕も、きっと皆は受け入れてくれると思うから」

キリコ「……そうか」

シャル「だから僕は、怖がらずに、自分をさらけ出す。キリコがそうしたように」

キリコ「……俺は、別にやりたくてやった訳じゃないがな」

シャル「あはは、まぁそうだけどね。でも、僕に凄く勇気をくれたよ」

キリコ「……お役に立てて、なによりだ」

シャル「ふふっ、男子生徒は二人共、脛に傷持つ感じになっちゃったね」

キリコ「……そうだな」

シャル「……クラスの子とかが、受け入れてくれるか心配?」

キリコ「……それも、ある」

シャル「大丈夫だよ。きっと、皆は優しいから」

キリコ「そうか……そうだと、良いな」

シャル「……うん、きっとそうだよ」

キリコ「……そうだな」

シャル「……ありがとう、キリコ。君は、僕の生き方を変えてくれた、大切な人だよ」

キリコ「お前も、な」

シャル「……うんっ」




胸のつっかえが取れたように、俺の心は平静を取り戻していた。
レッドショルダーだった事を受け入れ、そして、俺はあの日の記憶を全て思い出したのだ。
俺は、地獄を呑み込んだ。あの地獄を、俺は克服したのだ。

最も傍にいて欲しい人物を、腕から離した状態で。



キリコ(……箒……)




——


ウォッカム「……これで良い」

ウォッカム(奴はこれで……完璧な兵士に近づいた……)

「ウォッカム閣下、御怪我はありませんか」

ウォッカム「えぇ、勿論。あの生徒達が必死に我々を守ってくれた賜物でしょう。実に良い生徒達だ」

「は、はい……恐縮です」

「閣下、我々もそろそろ……」

ウォッカム「……そうだな。では、私はこれにて……事件の真相が、掴めると良いですな」

「は、はい……」


バタンッ
ブォオオッ


ウォッカム「……」


プルルルッ
ガチャッ

ルスケ『はい、閣下』

ウォッカム「ルスケ、ラストチェックの準備をしろ。残すは、あのボーデヴィッヒのチェックのみだ」

ルスケ『……かしこまりました』


ピッ


ウォッカム「……」

ウォッカム(ここまで、私の胸を躍らせるとは……)

ウォッカム(これが、異能の魅惑というものか……)

ウォッカム(しかし、それに易々と魅入られ、落とされる虫では無い)

ウォッカム(用意は、全て整っている……)

ウォッカム(……)



ブォオオッ……




——



驚異的な速さで、俺は怪我を治した。一刻も早く治し、箒に会いたいという意志の賜物なのか、それはわからない。
それからわずか三日後、俺はその早朝に一人で学園に戻った。
そして俺は、箒の部屋の前にいた。


キリコ「……」


トントンッ


キリコ「……」

キリコ「箒、俺だ。いるんだろう」

キリコ「……」


トントンッ


キリコ「……」

キリコ「俺は、思い出した……三日前の、昏倒の中で。サンサで何が起きたのか、俺は誰を知っているのか……。
    お前が、俺にとって……大事な存在なのだと……思い出したんだ」

キリコ「……」

キリコ「……聞こえているのかは、わからない」

キリコ「……一つだけ、言っておく」

キリコ「本当に……すまなかった……」

キリコ「お前を、忘れていた事……お前を、傷つけた事……」

キリコ「……レッドショルダーに、入った事……」

キリコ「……」

キリコ「……すまない、箒……」

キリコ「……本当に……」

キリコ「……」

キリコ「……また、来る……」

キリコ「……」



セシリア「あっ……キリコさん……」


キリコ「……セシリアか」

セシリア「……箒さん、まだ出てきませんのね……」

キリコ「……あぁ」

セシリア「この三日間、一度も外に出ていない様子で……私も心配になって来たんですが……」

キリコ「……ご覧の通りだ」

セシリア「……」

キリコ「……教室に、行こう」

セシリア「で、ですが……箒さんが……」

キリコ「遅刻するぞ」

セシリア「……し、しかし……」

キリコ「……今はあまり、触れてやらない方が、良いのかも知れない」

セシリア「……はい」


スタスタ

キリコ「……」

セシリア「箒さん……何か悪い病気にでも罹ったのでしょうか……」

キリコ(……俺の、せいだ……)

キリコ(俺が、彼女の事を忘れていたからだ……)

キリコ(俺が、レッドショルダーだと言う事を知ったからだ……)

キリコ(……俺が……)

セシリア「キリコさん」

キリコ「……」

セシリア「キリコさん!」

キリコ「ん……ど、どうした」

セシリア「大丈夫ですか?」

キリコ「い、いや……何でもない。ところで、他の連中はどうなんだ」

セシリア「他の……シャルルさんや鈴さんの事ですか?」

キリコ「あぁ……それと、ラウラだ」

セシリア「は、はぁ……昨日お見舞いに行きましたから、シャルルさんと鈴さんは御存じでしょうが……。
     ラウラさんは、そうですわね……簡単に言うと、大人しくなりましたわ」

キリコ「大人しく?」

セシリア「えぇ……今までの喧騒が嘘のように。真面目に授業を受けて、普通に生活をしている……そんな感じです」

キリコ「……そうか」

セシリア「ですが、たまに……ソワソワしている様子も見受けられたので、まだ用心した方が良いかも知れません」

キリコ「……わかった」


プシューッ


キリコ「……」


「お、キリコ君だ。おはよー」
「キリコ君とセッちゃんおはよー」

セシリア「セ、セッちゃんはおやめ下さい!」


「キリコ君もう怪我大丈夫なのー?」


キリコ「あ、あぁ……」


「ん、どうかした?」


キリコ「……俺が怖くないのか?」


「怖いって、何が?」
「あぁ、この前のあれじゃない? レッドショルダーの」
「キリコ君の前いた部隊でしょ?」


キリコ「……そうだ」


「でも、あんまり関係ないよね」
「IS強いのは、そんなところにいたからなんだーって思ったけど、そこまで気にすることじゃないと言うか」
「キリコ君はラウラさんを庇ったから怪我したって聞いたし」
「キリコ君が優しいのは、皆知ってるもんね」


キリコ「……」

セシリア「……キリコさん」

キリコ「……何だ」

セシリア「私達も、そう思っています」

キリコ「……セシリア」

セシリア「私達は、既に仲間なんですよ。今更そんな過去を聞かされて見限るような人は、いません。そうですわよね?」


「うんうん!」
「女子高生は人情がなきゃやってられないもん」
「そうなの?」
「そうなの」
「そっかー」


セシリア「ほら……だから、もう気にする事はありません」

キリコ「……」

セシリア「貴方は、IS学園の生徒、キリコ・キュービィーですのよ」

キリコ「……そうか」

キリコ(……)

キリコ(だが……しかし……)



山田「はーい、席についてくださーい。今日は……えっと……皆さんに転校生を紹介、します……」


「え、また?」
「最近、多すぎじゃないの?」
「千冬様が毎朝市場でセリ落としてんじゃないの?」
「へいマグロが安いよー!」


山田「し、静かに!」

キリコ「……あいつか」

山田「そ、それでは、どうぞ……」


スタスタ

シャル「シャルロット・デュノアです。よろしくお願いします」

「……」
「……」

山田「え、えっと……デュノア君は、デュノアさん……という事でした」

セシリア「……はいー?」


「えっと……つまり、デュノア君って、女?」
「おかしいと思ってたんだよねー。美少年じゃなく、美少女だったんだ」
「あ、あれ? キリコ君同室だからもしかして……」


キリコ「あぁ、知っていた」


「「えぇーっ!」」
「し、知ってて一緒にいたの!?」


キリコ「あぁ。まぁな——」



ドゴォオオンッ


キリコ「っ!?」

セシリア「な、何ですの!」


鈴「キーリコォーッ!」


キリコ「……り、鈴」

鈴「あ、アンタ……一体どういう事よ!」

キリコ「何がだ」

鈴「し、知ってて……隠してたのかって聞いてんのよ!」

キリコ「シャルロットの事か。あぁ、そうだ」

鈴「ぐっ……妙に仲良いと思ったら、そう言う事か。成程……それを良い事に……部屋であんな事やこんな事をしてたからかぁ!」キュウウンッ

キリコ「……おいっ!」

鈴「このムッツリスケベがぁっ!」キュウウウンッ

キリコ「……鈴!」


バキュウンッ
キュウウンッ


キリコ「……」


「「……」」」

キリコ「……」

キリコ(……何とも、無い……だと?)


ラウラ「危なかったな……」キュゥウウンッ


キリコ「……お前は……」


ラウラ「……」クルッ

キリコ「……理由はよくわからんが、おかげで助かっ——」


ギュムッ

ラウラ「うー、うー」

キリコ「……何のつもりだ」

ラウラ「ほ、ほまふぇはふぁたひぃのひょめにふう!」

キリコ「……何?」

ラウラ「ふぁふぁらひょめは!」

キリコ「……何を言ってるのかサッパリわからないが」

ラウラ「ほ、ほおはらへをはなへ」

キリコ「……何もしないな」

ラウラ「ひない」

キリコ「……良いだろう、放してやる」スッ

ラウラ「……ふぅ……全く、中々強引だな、嫁よ」

キリコ「……何?」

ラウラ「だから、嫁は強引だと言ったのだ……ま、まぁ……それも、悪くは無いが」

キリコ「……」

キリコ(……かわいそうに……あの時の対戦の悪影響が、まだ……)

ラウラ「すー……はー……」

キリコ「……」

ラウラ「……お前は、私の嫁にするっ!」

キリコ「……」

ラウラ「決定事項だ! 異論は認めん!」

キリコ「……は?」

鈴「……え、何この子何言ってんの」

セシリア「……言葉って、難しいですわね……」

キリコ「……つまり、何が言いたいんだ」

ラウラ「……? だから、良いか? 順を追って説明するぞ?」

キリコ「……いや、やはりいらん」

ラウラ「まずお前だ」

キリコ「……」

ラウラ「聞いてるか?」

キリコ「……あぁ」

ラウラ「お前は私の嫁だろ?」

キリコ「……あ、あぁ」

ラウラ「それでな」

キリコ「……ま、待て」

ラウラ「何だ」

キリコ「……いや、続けろ」

ラウラ「そうか。だから、キスしようとしたんだ」

キリコ「……」

ラウラ「そしたらお前が、恥じらいなのかよくわからんが、止めたろ?」

キリコ「……あぁ」

ラウラ「で、今の状況に至る。わかるか?」

キリコ「……いや、わからないな……」

ラウラ「まぁ、それでも構わん。とりあえずキスをだな……」

キリコ「やめろ」

ラウラ「ほら、遠慮するな」

キリコ「や、やめろ」

ラウラ「恥ずかしがるな嫁よ。他の者にも見せつけねばならん」

キリコ「……」


タタタッ

鈴「あ、逃げた」

ラウラ「ま、待て! 待ってくれ嫁!」ギュンッ


ドゴォオンッ


鈴「あぁーあー……穴二つになっちゃったよ……ったく……」


「そうだな……で、誰と誰があけたんだこの穴は……」


鈴「そりゃあたしとラウラだけど……あっ」

千冬「……そうか……」

鈴「……あ、あははっ……ど、どうもー……」

千冬「……二百周だ」

鈴「はい」

シャル(なんだか、また賑やかになったなぁ……)

シャル(あの子も、もうキリコを恨んではいないみたいだし……)

シャル(キリコも、何だか普通の高校生って感じになってきた……)

シャル(僕も……ありのままで、生きていける……)

シャル(それって……)

シャル(……とっても、良い事、だよね)



——

カーテンから漏れてくる光だけが、部屋を照らす。
濾された光が、小さな黒い斑点を映しながら、私の足元を照らしていた。

その光に映されるように、脳裏にあの情景が廻る。
頭に鳴り響くあの曲。肉の焼け爛れた臭い。
土と人を踏みにじるあの音。喉に血の味が貼り付く。
瓦礫は人の墓となり、骸が脚に絡み付く。
私は恐怖で止まらないように、掴んだ手を、握り締める。

掴んだ手を……。
絶対に離すものかと、掴んだあの手が……。
血に塗れていた。
それは本人の血じゃない。
他人の血だった。
私の、母と、父の血もあった……。
あれは……サンサの、血だ。

怖い。
信じたはずのあの人が、私の全てを壊した存在になっていた。
わからない。どうして良いのか。
私はどうすれば良い? なんでこんな事になった?
何であの人はあの部隊に入った? それなのにあの人は私と、そんな事は知らぬと、いつも話していたのか?


吐き気がする。眩暈も。食欲も無い。
ただ口の中に広がるのは、擦り切れた血の味と、空を漂う鉄の臭いだけだ。
涙も、もう出ない。


「……キリコ……」


信じた人の名を口に出す。
また吐き気がした。私はトイレに駆け込んで、吐いた。
また名を呟いた。吐いた。
吐いた。名を。またトイレに。吐いた。

名を——。


——



人の世に、変わらず流れるもの。生を営み、感情を発し、命を芽吹かせ、笑みを交わす。
それは、絶える事の無い不変と呼ぶに等しい光景だろう。
だが、不変と呼ばれるものは、生きている者にこそ程遠いと思い知るが良い。
変わらぬと言う事は、死ぬという事なのだ。

次回、「日常」

生の充足は、死をもって満たされる。



——

案外短く終わって良かったね
今日はここまで



トントンッ


キリコ「……」

キリコ「……箒」

キリコ「……もう、五日だ」

キリコ「出て来て、くれないか……」

キリコ「……」

キリコ「……俺の事を、嫌いになってくれても良い」

キリコ「赦してくれなくてもいい……」

キリコ「ただ、このまま出て来て、少しでも話を……させてくれるなら……」

キリコ「……」

キリコ「……俺に会いたくないというのなら、せめて他のヤツらに顔を見せてやってくれ。俺以外にも、心配しているヤツはいるんだ」

キリコ「……」

キリコ「……また、来る」




あの事件から五日。学園内では、あの事件についての盛り上がりも薄れてきた頃、俺はまた箒の部屋を訪ねていた。
人気すら感じさせない扉の向こうに、幾度となく話しかけた。
しかし俺の声は、誰も通らない廊下の奥に、沈んでいくだけだった。

赦してくれとは言わない。
だが、もう一度、お前の顔を見せてくれ。
そうすれば、俺は完全に、あの忌まわしい記憶から……。


シャル「……まだ、箒は出て来ないんだね」

キリコ「……シャルロット」

シャル「おはよう。部屋に行ったんだけどいなかったから、ここだろうと思ってさ。はい、ジュースだけど」

キリコ「……すまない」

シャル「……あれから五日、か」

キリコ「あぁ……」

シャル「ルームメイトの子は気を遣って他の部屋に退避しちゃってるし、中の様子がわからないのがね……」

キリコ「……」

シャル「……」

キリコ「……俺は、一旦部屋に戻る」

シャル「じゃあ、今度は僕がここで箒を呼んでみるよ」

キリコ「……なら、やはり俺も残るか」

シャル「それはダメ」

キリコ「……」

シャル「キリコ、こっちに帰ってから碌に寝てないでしょ? 僕ともう違う部屋になったからっていっても、それくらいわかるんだからね?
    まだ教室に行くまでは一時間半くらいあるから、それまで寝てなよ」

キリコ「……」

シャル「時間になったら、ちゃんと起こしに行くからさ」

キリコ「……わかった」

シャル「……自分の体も、労ってね? 心配なのはわかるけど、また病院送りになったらどうするの?」

キリコ「……あぁ」

シャル「……自分だけの体じゃないんだからさ……また、皆心配するから」

キリコ「……」

シャル「じゃあ、また後でね」

キリコ「……あぁ」


スタスタ


シャル「……キリコ……」

——


   第十話
   「日常」


——




キリコ「……」



寝る意味も無い。結局、寝ようと思っても、彼女の事をとやかく考える時間になるだけだ。
意識は蝋の火のように、弱く、断続的に続くのだ。
寝る、意味は無い。


ガチャッ


キリコ「……」



シャルロットが部屋を移動し、一人きりになった部屋。
以前はそれが心地よく感じただろう。
しかし、この部屋にいると、ついこの間の事を思い出す。
彼女が、この部屋にいた時の事を。



ガサゴソ


キリコ(ん?)

キリコ(俺の布団に……誰かいる?)

キリコ「……」カチャッ

キリコ(……刺客か)

キリコ(まだ来るというのか……)

キリコ「……そこから出て、両手を上げろ」


「んん……」


ファサッ……


キリコ「……お前は」


ラウラ「おぉ、やっと帰ってきたか……嫁よ……」

キリコ「……人のベッドで、素っ裸になって何をしている」

ラウラ「何って……嫁が夫より遅く起きてはならないらしいから、起こしに来てやったのだが?」

キリコ「……何?」

ラウラ「だから、起こしに来てやった……あれ、待てよ……これでは私が先に起きてしまっているのではないか?」

キリコ「……」

ラウラ「ふん、まぁいい。私はこれから寝るから、起こしてくれ。そうすれば正しいだろう」

キリコ「……一つ聞くが」

ラウラ「何だ」

キリコ「……俺は、お前の嫁なのか」

ラウラ「そう何度も言っているだろう」

キリコ「嫁と言う呼び方は、通常女性に向けて使う言葉だと思うが、その辺はどうなんだ」

ラウラ「そうなのか? この日本では、気に入った相手を自分の嫁と言うらしいが……」

キリコ「……そうなのか?」

ラウラ「そうだ」

キリコ「……そうか」

ラウラ「だからお前は私の嫁だ」

キリコ「……もう好きにしろ」

ラウラ「ふむ……嫁よ」

キリコ「……何だ」

ラウラ「我々は夫婦だ」

キリコ「いつそうなった」

ラウラ「だから同じベッドで寝る義務がある。どうだ、ほら嫁も私と寝ろ」

キリコ「……夫婦でも、寝室は同じでも違うベッドで寝る事はある」

ラウラ「そうなのか?」

キリコ「あぁ」

ラウラ「そうか」

キリコ「だから、お前はそっちのベッドでも使っていろ」

ラウラ「まぁ嫁が言うならそうしよう」

キリコ「あぁ」

ラウラ「良いな、私より遅く起きてはならんぞ」

キリコ「……あぁ。早く寝ろ」

ラウラ「……キリコ」

キリコ「……何だ」

ラウラ「起きたら、話がある」

キリコ「……話?」

ラウラ「そうだ。大事な、話だ」

キリコ「……昼休みで良いか。今は、そんな気分じゃない」

ラウラ「あぁ、それで構わない」

キリコ「なら、昼休みに屋上へ来い」

ラウラ「わかった」

キリコ「……わかったなら、もう寝ろ。ちゃんと起こしてやる」

ラウラ「あぁ、お休み」

キリコ「……」

ラウラ「……」スースー

キリコ(……早いな)

キリコ「……はぁ」ボフッ

キリコ(俺は、どうすれば良い……)

キリコ(今更、こんな事で悩むなんて、自分でも思わなかった……)

キリコ(兵隊になった意味も忘れ、戦いに明け暮れる毎日……)

キリコ(そんな精神が麻痺しそうな日々の中、俺はここに来た)

キリコ(そして、どういう因果か……箒と再会した)

キリコ(大切な……人と……)

キリコ(なのに、俺は……)

キリコ「……」

キリコ(銃の、手入れでもするか……)

キリコ(まだ、監視者は俺を見ている)

キリコ(仲間と、箒の為にも……気は、抜けない)

キリコ(……まさかこの俺が、人を守る為に戦おうだなんてな……)

キリコ(……今は、悩むよりも先に、警戒せねばならない)

キリコ「……」カチャッ

キリコ(ヨラン・ペールゼン……)

キリコ(ヤツが、俺を監視しているのか)

キリコ(……来るなら来い)

キリコ(俺は、お前の実験動物なんかじゃない……)

キリコ(俺は、IS学園一年一組……)

キリコ(キリコ・キュービィーだ……)



——

鈴「あ、なんだ。こんな所にいたのか」

キリコ「……」

セシリア「もう、屋上で食べるなら、言って下さいまし。私達も御供しますから」

シャル「そうだよキリコ」

ラウラ「そうだぞ嫁よ」

セシリア「そうで——ラ、ラウラさん!? い、いつの間に……」

ラウラ「何だ、いちゃ悪いのか。というかそもそも、屋上でキリコと会う約束をしていたのは私だ」

セシリア「な、何ですって!?」

鈴「いや、アンタさ……つい数日前まで、キリコの命を明らかに狙ってた癖に、どういう風の吹きまわし?」

ラウラ「ま、まぁ……これには事情があるのだ」

鈴「どういう事情よ。キリコがレッドショルダーだった時に、なんか恨みでもあったっての?
  それで、まだ懲りずにいるって訳か……」

シャル「ま、まぁまぁ落ちついて。ラウラも、基本悪い子じゃないみたいだしさ」

鈴「どうだか……」

ラウラ「私は、別にお前達と争いをしに来た訳じゃない。私は嫁に……どうしても言いたい事があってここに来ている」

セシリア「きぃ〜……先程からキリコさんを嫁、嫁と……一体どういう関係ですの!?」

キリコ「……その点については放っておけ」

鈴「で、話って何よ」

ラウラ「……なぁ、キリコ」

キリコ「……何だ」

ラウラ「すまなかった」

キリコ「……」

鈴「……」

セシリア「まぁ……」

シャル「……」

ラウラ「お前の顔から、生気があまり感じられない……睡眠、食事もちゃんと摂っている様子も無い。
    もしかしたらこの前の事件で、私がお前にトラウマか何かを思い出させたんじゃないかと思ってな……」

鈴「……それとは、ちょっと違うんだけどね」

ラウラ「……どういう事だ?」

鈴「……今、箒って子が、部屋から出て来ないの。それで今キリコは悩んでる。
  直接話は聞いて無いけど、あの騒動の直後に塞ぎこんだから、キリコがRSにいた事に何か関係がある。
  それをバラしたのはアンタ……今ので、ちょっとはどういう状況かわかった?」

ラウラ「……そうか……すまない」

鈴「……話、まだあるなら続けて」

ラウラ「……」

シャル「大丈夫、もう茶々入れないから。ね?」

ラウラ「……わかった……キリコ」

キリコ「何だ」

ラウラ「……お前には、話しておこう。私が、お前の命を狙った理由を。それで、赦して貰おうとは思わないが、聞いて欲しい。
    それに……」

キリコ「それに?」

ラウラ「……お前に伝えておかなければいけない案件がある」

キリコ「……」

ラウラ「あまり、良い話ではないが」

キリコ「……皆、少し外してくれ」

ラウラ「……いや、お前達にも話す。今思えば、お前達にも相当な迷惑をかけたからな」

セシリア「ラウラさん……」

シャル「……」

鈴「……はぁ……わかったわよ。聞いてあげるから、さっさと話しなさい。ご飯食べる時間無くなるからさ」

ラウラ「キリコ、それでも良いか」

キリコ「……わかった。お前がそう言うなら、俺は構わない。話してくれ」

ラウラ「すまない……はぁ……」

キリコ「……」

ラウラ「私はここに来る前は、ドイツ軍のIS部隊に所属していた。できた当初は、私はISに適応できず、所謂落ちこぼれだった。
    しかし、そんな時私は教官に出会った。そんな落ちぶれた私を指導して下さり、そして部隊で最強の座にまでのし上げてくれた」

鈴「教官って、織斑先生の事?」

ラウラ「そうだ。そして……教官との訓練が終わった時に聞いたのだ。教官の過去を」

キリコ「……」

ラウラ「レッドショルダー……吸血部隊と言われたあの部隊に、教官の家族が殺された……私はそれを聞いて、義憤に駆られた。
    私の恩人である教官の過去を、メチャクチャにしたレッドショルダーを赦さないと。
    そして、ここに来る直前の話だ。私は、何者かからの密告を受けた」

キリコ「……俺が、レッドショルダー隊員だったと、言われたのか」

ラウラ「そうだ。そしてヤツは、お前を殺せと言ってきた。私は……口では否定したが……戦いの場で殺すと言ってしまった。
    そして私は、知っての通り、幾度となくお前達を挑発した」

セシリア「そ、そんな事が……」

シャル「……その、密告者って誰かわかる?」

ラウラ「いや、わからない。逆探知もできず、変声機で声を変えていたからな」

鈴「何よ、それ……裏で糸引いてるヤツがいるっての?」

ラウラ「あぁ……私は、まんまとそれに乗せられ、復讐者を気取った訳だ……」

シャル(僕とキリコがアリーナで襲撃を受けた事も、今回の事件も……その黒幕の計略だったって事?)

鈴「もしかして……私とキリコが戦ってる時に、妙な兵器送りこんできたのもソイツなんじゃ……」

ラウラ「そんな事もあったらしいな……私見だが、まず同じと見て間違いないんじゃないか」

鈴「……くっ……」

ラウラ「そして、私はあんな化け物を生んだ……何より、今もまだキリコを悩ましている……。
    お前達にも、無意味な暴力を振るった……ただ頭を下げるだけじゃ、赦されないのはわかっている……。
    だが、これだけは何度でも言わせて欲しい」

キリコ「……」

ラウラ「……本当に、すまなかった」

シャル「ラウラ……」

セシリア「ラウラさん……」

鈴「……」

キリコ「……」

ラウラ「……話は、以上だ」

キリコ「……」

鈴「……それで?」

ラウラ「……そ、それで、とは……」

鈴「いや、謝るのは良いけどさ。それで、アンタはこれからどうするの? というか、どうしたいの?」

ラウラ「……」

鈴「……考えて無かったの?」

ラウラ「わ、私は……」

鈴「……」

ラウラ「……私は、償いがしたい」

キリコ「……」

ラウラ「実際にその痛みを知っている訳でも無いのに、自らの浅い義を振りかざし、人を傷つけた……。
    何もわかっていない癖に、正義の代弁者面していた自分を払拭し、守るべき者を、守りたい。
    だから、私は……今度は逆に、キリコを守りたい。キリコの命を狙っているヤツはまだいる……だから……」

鈴「……」

キリコ「……」

ラウラ「私は、お前を守る」

キリコ「……」

鈴「……はぁ、なんだか、大きく出たわねぇ……キリコに負けた癖に、守るだなんて」

ラウラ「そ、それは、そうだが……」

鈴「……キリコはそれで良いの?」

キリコ「……別に、謝る必要も無いが……ラウラ、お前が……それで気が済むと言うならな」

ラウラ「……あぁ、そうさせてくれ。もう私は、復讐者の過去を金輪際出さない。お前と共に……これから先の事を、模索したい。
    それが、私に課せられた、義務なのだから」

セシリア(う、うーん……)

シャル(……これって遠回しな告白なんじゃ?)

ラウラ「……頼む」

キリコ「……」

ラウラ「私は、お前の為なら、何だってやる」

キリコ「……そこまでは、望んでいない」

ラウラ「……」

キリコ「だが……俺は、お前を赦す」

ラウラ「……キリコ……」

キリコ「お前のせいか、お前のおかげか……俺はようやく、忌まわしい過去と向き合う事ができた。
    そして、俺は仲間がいると自覚できたんだ……お前が与えてくれたものは、大きい」

ラウラ「……そ、そう、なのか……」

キリコ「だから、お前を赦す」

ラウラ「……」

キリコ「これで、良いのか」

ラウラ「……あぁっ」

シャル(……ふふっ、良い笑顔だね)

鈴「さて、辛気臭い話も終わったみたいだし、ご飯食べましょご飯」

セシリア「ちょ、ちょっと鈴さん……いきなりそれは……」

鈴「良いの良いの。ラウラ、あんたも食べるでしょ?」

ラウラ「……い、良いのか?」

鈴「キリコが赦したんだし、別に良いじゃないの? それとも、あたし達とあんまり仲良くしたくないとか?」

ラウラ「い、いや、そういう訳じゃないんだが……」

シャル「あはは。まぁ突然だけどさ、ラウラも僕達と一緒に食べようよ」

ラウラ「いや……だが……」

シャル「皆もう怒ってないし、それに恥ずかしがらなくても大丈夫だよ」

ラウラ「は、恥ずかしくは、無いんだが……」

シャル「なら、遠慮せずに。ね?」

ラウラ「うっ……そ、そうか……」

セシリア「まぁ、反省したようですし、あんまりいじめるのもアレですしね。では、新しい仲間の歓迎に、私の料理を……」

鈴「それがイジメって言うのよセッちゃん」

セシリア「冗談ですわよ。さすがにもう自覚してますから……」

鈴「……ゴメン」

セシリア「いえ、良いんですのよ……ふふっ……ふふふっ……」

鈴「……今度教えてあげるから、元気だしなよ」

セシリア「……ありがとうございます」

シャル「……とまぁ、こんな感じに遠慮しないで良いからね」

ラウラ「……そうか。た、楽しい連中だな」

キリコ「……」

シャル「ねぇキリコ」

キリコ「何だ」

シャル「ラウラが仲間に入った事だしさ、ちょうどよく明日は休みだからラウラの歓迎会って事で、皆で外に出てみない?」

ラウラ「ふぇっ?」

キリコ「……外に?」

シャル「うん。それに、帰って来てからのキリコも、なんだか元気無いし。外に出て遊べば、少しは元気になるかなぁと思って……」

キリコ「……」

シャル「……箒へのプレゼントとかも買ってさ」

キリコ「……箒……」

シャル「箒との間に何があったかはわからないけど、キリコからのプレゼントならきっと喜ぶと思うよ。
    今は外に呼べるような状況じゃないけど、プレゼントを持って行けば、また出て来てくれるかも……」

キリコ「……」

鈴「シャルロットは性別カミングアウト後でも相変わらず気が利くわねぇ……。
  キリコ、プレゼント選びならあたし達も手伝うからさ、久しぶりに外出てみましょうよ」

セシリア「えぇ。箒さんを心配するのもわかりますが、キリコさんも息抜きをしなければ壊れてしまいますわよ?
     貴方は人で……そしてここは、もう戦場では無いのですから」

キリコ「……そうか」

ラウラ「ほ、本当に私も行って良いのか?」

シャル「ラウラの歓迎会って言ったよ? だから、主役が来ないと始まらないでしょ?」

ラウラ「し、しかし……」

シャル「あ、もしかして、嫌だった?」

ラウラ「そ、そういう訳じゃ……」

鈴「……はい、気をつけ!」

ラウラ「……」ザッ

鈴「これから、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐に任務を与える」

ラウラ「はっ!」

鈴「えぇーこれより、キリコ・キュービィー曹長、シャルロット・デュノア伍長、セシリア・オルコット二等兵。
  そしてこの私、凰鈴音大佐計四名と共にとある任務について貰う」

ラウラ「はっ、了解しました。作戦の内容は」

鈴「このIS学園外の偵察だ。この日本という島国は、大陸に無い文化を多数持っている。
  それを観察し、この学園内での生活を滞りなく進められるようにするのだ。異論はあるか!」

ラウラ「ありませんっ!」

鈴「よろしい! では明朝九時に、必要と思われる装備を整え正門前に集合せよ!」

ラウラ「了解っ!」ビシィッ

鈴「……とまぁ、こんな感じで……九時じゃちょっと早い?」

シャル「……なんというか……あれだね。鈴は人の転がし方が上手いね……」

鈴「あんま褒めなさんなって」

シャル「は、半分半分、かな……」

セシリア「なんで私が二等兵なんですの!」

キリコ「……」

ラウラ「……はっ、私は何を……」

セシリア「鈴さん! なんで貴女が大佐で私が二等兵なんですかと聞いています!」

鈴「いやぁ、なんとなく」

セシリア「納得行きませんわ! 私のような清廉された人物は、情報将校、せめて中尉あたりにして欲しい所ですわ」

鈴「……なんかそれ暗殺者っぽい」

セシリア「何の偏見ですか!」

シャル「ま、まぁまぁ落ちついて……」

ラウラ「……おい、貴様」

鈴「何? あたし?」

ラウラ「貴様……何故私の階級を知っていた」

鈴「階級? え、あんた少佐なの?」

ラウラ「そうだ。ドイツ軍シュヴァルツェ・ハーゼ所属、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐だ」

鈴「へ、へぇー……あんたそんな偉い人間だったの……ゴメン、適当こいたら当たったわ」

ラウラ「そうか……どうやら、密告者ではないようだな」

鈴「な、何疑ってんのよ!」

キリコ「……お前……」

鈴「ちょ、キリコまで……」

セシリア「いつも人を小馬鹿にしているから、疑われて当然ですわね」

鈴「うぇっ」

シャル「あんまり悪い事はできないねぇ、鈴」

鈴「うわぁーん! イジメよイジメー!」

キリコ「……ふっ……」

シャル(あ、笑った)

セシリア「そういえば……再来週に臨海学校でしたわね……」

鈴「放置しなさんな!」

シャル「あっ、そうだった……僕、女子用水着も買いに行かないと……怪しまれるからって言われて、持って無いんだよね……」

セシリア「私も買いたいと思っていましたので、一緒に見ましょう」

シャル「本当? じゃあ僕のも見立てて欲しいなぁ」

セシリア「お任せ下さい。このセシリア・オルコットが、完璧なコーディネートして差し上げますわ!」

鈴「あたしはどうなんのー?」

セシリア「昆布でも巻いてたらどうです?」

鈴「ようし、わかった……臨界学校で覚えてなさいよ……」

セシリア「あまりそういう事に関しては興味が無いので、忘れてしまうかも知れませんわ」

セシリア「あまりそういう事に関しては興味が無いので、忘れてしまうかも知れませんわ」

シャル「ねぇラウラ」

ラウラ「な、何だ」

シャル「ラウラは水着は持ってるの? なんか持って無さそうだったけど」

ラウラ「この学校の指定水着は持っているぞ」

シャル「そ、それは……あれだね……危ないねちょっと」

ラウラ「そうなのか」

シャル「ラウラの水着も、皆で見てあげるよ」

ラウラ「そ、そうか……しかし、そんなに重要なものか?」

シャル「じゃあ簡単に言うよ?」

ラウラ「あぁ」

シャル「そんな水着を来て海に行ったらキリコはドン引きして、ラウラは嫌われちゃいます」

ラウラ「」ズキューンッ

シャル「オッケー?」

ラウラ「……あ、あぁ……」

シャル「よろしい」

シャル(と言うか、キリコ自身も水着持って無さそうだけど……)

キリコ「……何だ、シャルロット」

シャル「え? あ、あぁとその……キリコは水着とかは持ってるの?」

キリコ「持っていないが」

シャル「うーん……じゃあ良い機会だし、キリコのも買っちゃおうか」

キリコ「そうか」

シャル「……ちなみに、私服は? 結構持ってかないと、途中で洗って使う事になるよ?」

キリコ「私服……耐圧服の事か」

シャル「」

鈴「」

セシリア「」

キリコ「……何だ」

ラウラ「耐圧服……あの服は大概の気候にも対処できる装備だ。それを普段から着用するとは、良いセンスだ。さすがは私の嫁だな」

鈴「このっ……バカ軍人共っ……」

キリコ「?」

ラウラ「?」

シャル「」

鈴「あのシャルロットが、まだドン引きしてる……」

セシリア「お気を確かに! シャルロットさん!」

シャル「……はっ! ぼ、僕は一体何を……」

鈴「キリコの私服はたいあつふくー」

シャル「」

セシリア「鈴さん人で遊ばない! シャルロットさん! シャルロットさん!」

シャル「……はぁっ! ぼ、僕の常識が、音を立てて壊れていくぅっ……」

セシリア「はぁ……と、とにかく、皆さんの水着と、キリコさんの私服、そして箒さんへの贈り物を、皆で選びましょう」

シャル「そ、そうだね……うん、そうしよう絶対に。うん、絶対に服買おう」

キリコ「……何か問題があるのだろうか」

ラウラ「さぁ……」

セシリア「あ、明日の九時に正門集合です。遅刻しないように、わかりましたね!」

キリコ「……あぁ」

ラウラ「了解した」

鈴「はーい」

シャル「う、うん……まだ頭がクラクラする……」

鈴「じゃあご飯にしましょっか。今日も多めに作ってあるから、ラウラが食べる分もあるわよー」カパッ

ラウラ「ほう……旨そうだな、何だこれは」

鈴「空芯菜を炒めたヤツと、油淋鶏よ。おいしいんだから」

ラウラ「た、食べてもいいのか」

鈴「セッシーの料理には負けるかもしれないけど、おいしいから食べてみなさいって」

セシリア「鈴さん!」

ラウラ「そうか、では……ん……うん、旨い。旨いぞ」

鈴「そうでしょそうでしょ。まぁ、セシリアさんのりょうりにはまけるけどなー」

セシリア「二度も言わないでよろしい!」

ラウラ「そうか……是非セシリアの料理も食べてみたいな」

セシリア「ぬぐっ……」

シャル(こ、懲りないなぁ鈴も……)

キリコ(……胃腸薬を三人分買っておくか)




——

山田「デザート・スキャンダル。この事件は、ギルガメス艦と思われる艦が不可侵宙域を侵犯し、地図に見える砂漠に墜落した事件です。
   地球につく前に、艦の故障が起き、炎上してしまったので何事も無く済みましたが……。
   IS技術を盗もうと画策したのではないか、との嫌疑が出ましたが、当局は否定しています」

キリコ「……」

キリコ(プレゼント、か……)

キリコ(箒は……一体どんな物が好きなのか……)

キリコ(……竹刀か、防具か……)

キリコ(……一体、何が良いか……)

キリコ(……)

キリコ(箒……)

キリコ(今思うと、俺はアイツを……よく知らない)

キリコ(確かに記憶は、思い出したが……そういう所だけすっぽりと、大きな事を前にして抜け落ちている)

キリコ(……クソッ……)

キリコ(アイツの笑顔、アイツの手……それは思い出せるのに……)

キリコ(……俺は……)



「キリコ君!」


キリコ「……」

山田「キリコ君! 聞いてますか?」

キリコ「……な、何だ」

山田「68ページの百年戦争現代史の三行目です。しっかり集中しないとダメですよ。さぁ、読んで下さい」

キリコ「は、はい……現在も、ミヨイテやロウムス、また辺境の交易惑星マナウラで戦火は続いている。
    終戦が囁かれる中、両陣営は攻撃の手を緩めないでいるが——」

キリコ(……)



——

鈴「いやぁー、外出てこうやって電車乗って街来るのも、久しぶりな感じがするねー」

シャル「そうだねー……最近色々あったからね……」

セシリア「そうですわね……こうして、皆さんで出掛けられる事が、とても幸せに感じます」

ラウラ「早速水着売り場に行こう」

キリコ(……結局、まだ見当つかず、ここに来てしまった……)

キリコ(何か、思い出せ。あの事件の事じゃない、もっと些細な事だ……)

シャル「はいはい。じゃあ、最初に水着見ちゃおっか……あれ、キリコー? どうしたのー、行くよー?

キリコ「……ん……あ、あぁ」

セシリア「水着……腕が鳴りますわね」

鈴「音出せるとか器用な腕ね」

セシリア「貴女……使い方が正しい言葉でも、本当に揚げ足取るのが上手いですわね」

鈴「それ程でも」

セシリア「……もう何も言いません」

シャル(完全にセシリアは鈴のオモチャだね……)

ラウラ(頭の回転が速いというのは、ああいう事を指すのだろうか……)

鈴「んー、じゃあそうねー……キリコちゃんをズキュンと悩殺しちゃうようなの買っちゃおうかしら」

セシリア「……」ジーッ

鈴「どこ見てんのよ」

セシリア「……ふっ」

鈴「鼻で笑ったな! 鼻で笑ったでしょう今! 胸見てさ!」

セシリア「さぁ? というか、無いものを、どうやって見るんですの?」

鈴「ようし、わかった……殴り合いましょう。ね? 外出ましょうよ、ね?」

ラウラ「……」

シャル「ら、ラウラも自分の見なくて良いから……ラウラはかわいいから、そんなの気にしなくてもきっと似合うのがあるよ」

ラウラ「わっ、私が、かわいい、と言うのか……」

シャル「うん。素材が良いから、何だっていけるよ。そう思うよね、キリコ」

キリコ「……そうだな」

シャル(……今の微妙な間は……)

ラウラ「そ、そうか……そうなのか……そうか……」

シャル「あ、ラウラ赤くなってる」

ラウラ「っ! い、いや、これは……その……」

シャル「あははっ、かわいいなぁ」

ラウラ「あう……な、なんだこの辱めは……」

シャル「ラウラかわいいっ」

ラウラ「っー! ……も、もうそれは言うなー!」タタタッ

シャル「あらら……走って逃げちゃった……ちょっとからかい過ぎちゃったか」

キリコ「……難儀だな」

鈴「よし、キリコ! あたしが水着選んであげるから、覚悟しなさい!」

セシリア「何を仰いますの? キリコさんの水着は、私が見ますの。そうですわよね?」

キリコ「……」

鈴「ほら見なさい。セシリアがそんな事言うからキリコ困ってるじゃない」

セシリア「あーら、それは鈴さんの方じゃなくって?」

鈴「なぁにぃ?」

セシリア「何ですの?」

シャル「い、いやぁ……せっかく皆で来たんだから、皆で見ようよ……」

キリコ「……そうだな」

鈴「……まぁ、キリコとシャルロットがそう言うなら、それで良いか」

セシリア「そうですわね」

シャル「あ、あはは……(これツッコミ待ちでわざと喧嘩してるんじゃ……)」

キリコ「……」

シャル「そ、それじゃあ、そこの子供服コーナーで隠れながらこっちを窺ってるラウラを呼び戻そうか……」

鈴「……軍人らしくカバーするのかと思ったらあれね、ひょっこりコッチ見てるわね」

セシリア「……小動物のようですわね」

シャル「ラウラー! 戻ってきてー!」


モ、モウアノコトバハイワナイナー


シャル「言わないから戻っておいでー」


ウ……ワ、ワカッタ……
トコトコ


ラウラ「……」

シャル「よし、偉い偉い。じゃあ水着を見よっか」

ラウラ「わ、わかった」

シャル「ちゃんと似合うの選んであげるからね」

ラウラ「……あぁ」

キリコ(……俺はあそこに引っ提げてある緑ので良いか)

鈴「んー……ねぇキリコ」

キリコ「何だ」

鈴「やっぱさ、アンタは他のとこ見て来てくれる?」

キリコ「……何故だ?」

鈴「いやぁ、今見ちゃうとあれじゃない? だからさ、お楽しみは当日って事で」

キリコ「……?」

シャル(あぁ……確かにそっちの方が良いかな……)

セシリア「ふん……そうですわね……キリコさん、私も鈴さんの意見に賛成ですわ」

キリコ「……そうか。なら、俺はそこのベンチにでも座っている。終わったら言ってくれ」

ラウラ「おい、嫁を仲間外れにするつもりか」

シャル「ラウラ、それは違うよ」

ラウラ「では何だ」

シャル「水着っていうのはね、いつもと違う自分を魅せる服なんだ」

ラウラ「そうなのか」

シャル「うん。いつもと違う自分を見せる事で、相手をドキッとさせる効果もあるんだけど……」

ラウラ「けど?」

シャル「でも、そういうものってさ、事前にそういうのを着るって知られてたら、効果半減でしょ?」

ラウラ「ふむ……確かにな。仕掛けた罠も、相手に知られては意味が無い」

シャル「そう、それと同じなんだよ。相手にどんな罠を仕掛けたのかわからないようにして、効果を存分に発揮させるんだ」

ラウラ「おぉー」

シャル「だから、キリコに僕達がどんな水着を着るのか知られないように、少しの間だけ外して貰うように、鈴は頼んだって訳」

ラウラ「そうか……成程。私は、兵法としての基礎中の基礎を見落としていたようだ……見直したぞ、凰鈴音」

鈴「長ったらしいから鈴で良いわよ。セシリアも呼び捨てか、セッシーかセッちゃんって呼んでいいから」

セシリア「後ろ二つは余計ですの!」

ラウラ「そ、そうか……」

鈴「まぁ、慣れないなら良いけどさ。じゃあ、早速見ましょっか。早く決めないと、キリコ帰っちゃうわよ」

セシリア「そ、そうですわね」

シャル「よーし、頑張って見るぞー」

ラウラ「私も、遅れは取らんぞ」




……

ラウラ「嫁よ、終わったぞ」

キリコ「……そうか」

鈴「よーし、じゃあ今度はキリコの番……あれ、何その袋」

キリコ「あぁ、これか。お前達が選んでいる内に、俺のを買っておいたんだ」

セシリア「……はいー?」

鈴「ちょ、ちょっと。それじゃあ意味無いじゃん! せっかくあたし達が選んであげようとしてたのに!」

キリコ「お前達を待つのも暇だったからな。その間に、済ませておこうと思ったんだ」

ラウラ「流石は嫁だ。時間を有効に使う術を知っている」

シャル「あ、あはは……か、買っちゃったんだ……」

シャル(もう……折角選んであげようと思ったのになー……)

キリコ「で、次はどうするんだ」

鈴「……はぁ……まぁ良いわ。どうせアンタは私服を選ぶってのも残ってる訳だし、そっちをやっちゃいましょう」

セシリア「……そうですわね」

キリコ「……別に、あれでも良いだろう」

シャル「ダメ!」

セシリア「ダメですわ!」

鈴「ダメに決まってんじゃん!」

ラウラ「おぉ、何だこの台は。じゃんけんのマークが出てるぞ。これを押すのか」ポチッ

キリコ「……」

鈴「……戻って来なさい」ガシッ

ラウラ「あうっ……」ズルズル

鈴「……よいっしょ、と……はぁ、この様子だと、アンタもあんまり私服持ってないんでしょう……ついでにそっちも見ますか」

ラウラ「私は別に大丈夫だが」

鈴「お黙りなさいっ、このバカ軍人」

ラウラ「バ、バカとは何だ」

セシリア「今の変な声の出し方は何ですの? ……私の真似ですか!」

鈴「さぁ、なんのことー?」

シャル(鈴凄いなぁ……二人同時にコケにするもんなぁ……)

キリコ「……」

シャル「じゃ、じゃあ、紳士服売り場は階が違うから、あっちに行こっか……終わったらお昼御飯食べよう。ね?」

鈴「そうね。まぁ、キリコは身長あるし、大概似合うでしょ」

セシリア「そうですわね」

ラウラ「耐圧服でも良いと思うがな」

鈴「お黙りなさいっ、このバカ軍人」

セシリア「おやめなさい鈴さん!」

キリコ「……」

シャル「あ、あはは……」



……

キリコ「……しかし、だいぶ買ったな」

シャル「そうだね……でも、良いの? 自分の荷物くらい僕らも持つよ?」

キリコ「一番力のあるヤツに、持たせれば良いだろう。お前らは、楽にしていろ」

シャル「そ、そう……キリコは紳士さんだね」

セシリア「えぇ、素晴らしいですわ」

ラウラ「流石は嫁だな」

鈴「どうせ、日常でも筋力の鍛錬がーって言うんでしょう」

ラウラ「日常でも筋力の鍛錬……貴様っ!」

鈴「なっ、何よ……ビックリするじゃない」

シャル(ラウラはもう強制的にこの軍団に馴染まされたね……)

キリコ「……ごちそうさま」

シャル「ん、早いキリコ。僕も食べないと」

キリコ「あまり急ぐ事はない。ゆっくり食え」

ラウラ「ふむ……上手いな。これは」

鈴「まだこれから買い物あるのに、焼餃子をチョイスするとは思わなかったわ……」

セシリア「……こ、これは食べにくいですわね……け、ケチャップが……」

鈴(こっちはキリコが頼んでたものだからたまにはジャンクフードを、とか言って頼んでたけど……浅はかねぇ)

セシリア「むっ……今鈴さん小馬鹿にしましたわね」

鈴「な、なんのことでしょうか」

セシリア「目でわかりますわよ。顔色窺いは、ある意味礼儀の基本ですのよ」

鈴「ぐぬっ」

シャル「ねぇキリコ。箒へのプレゼントは考えついた?」

キリコ「……まだだ」

シャル「……ふーむ……そっかぁ……」

キリコ「……シャルロット」

シャル「何?」

キリコ「……箒の誕生日は、確か夏だったはずだが」

シャル「じゃあ、もう近いって事か」

鈴「あぁ、その話なら確かしたわよ。確か……いつだったっけな……」

キリコ「……7月7日だ」

鈴「あぁーそうそう。七夕よね、七夕」

ラウラ「たなばた?」

シャル「季節の節目の一つだよ。日本では短冊っていう長い紙に願いごとを書いて、笹にそれをつるす。
    そして、その日が晴れたら、その短冊に書いた願い事が叶うっいう言い伝えがあるんだ」

セシリア「まぁ、よく知ってらっしゃいますわね」

シャル「えへへ、まぁね」

ラウラ「ほう……日本らしい風習だな」

鈴「ついでに言うと、牛郎織女、まぁ織姫と彦星も有名よね」

ラウラ「な、なな、何だ? その、ぎゅうろうしょくじょと言うのは」

鈴「ん? まぁ簡単に言うとさ、神様が娘を嫁がせたんだけど、その後その娘が機織りするのやめたから神様が怒って、田舎に帰ってこーいって怒ったの。
  それで、神様は一年に一度だけ、娘がその結婚相手と会う事を許した。それが7月7日ってわけ」

ラウラ「ほー……何だか、複雑だな」

鈴「まぁ、あたしもぼんやりとしか覚えてないけどね」

キリコ「……俺の、誕生日でもある」

鈴「あらっ、そうなんだ」

セシリア「凄い、偶然ですわね……」

キリコ「……あぁ」

ラウラ「ふん……では、その箒というヤツが織姫で、キリコが彦星というヤツか。
    ……機織りは、続けさせるようにな」

鈴「論点がズレてるわっ」

シャル「……なる、ほど……」

セシリア「……シャルロットさん、どうかされましたか?」

シャル「そうだっ」

キリコ「……どうした」

シャル「それにちなんでさ、星にちなんだアクセサリ、なんて良いんじゃない?」

キリコ「……星?」

ラウラ「おぉ、それは良いな」

鈴「星、かぁ……」

セシリア「星の形は……けっこう、うるさい感じがしますから、難しいような……。
     それに、箒さんのイメージもありますし……」

シャル「ふふん、実はもう目星はついてるんだ」

鈴「……えぇ?」

シャル「ふふっ、ちょっと皆が目を離してる隙に、まぁ色々とね」

鈴「はぁ……やるわねアンタ……」

セシリア「まぁ……」

ラウラ「ふぅ……ごちそうさまだ。では、その店に行くぞ」

鈴「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。まだ食べてるんだから」

セシリア「そ、そうですわ」

ラウラ「作戦行動中は食事を早く済まさんか!」

鈴「ひぃっ」

ラウラ「ほら急げ急げ」パンパンッ

シャル「手拍子しなくても良いんじゃ……」

セシリア「む、むぐぐ……」

シャル「あぁ、ほら喉に詰まらせた……ほら、セシリア水」

セシリア「ごくごく……はぁ、も、申し訳ありません……早く食べるのに、あまり慣れてなくて……」

シャル「だ、大丈夫だよ焦らなくても……ほらラウラ、あんまり急がせたらダメだよ。キリコも言ってあげて?」

キリコ「……ラウラ、焦らなくても良い。時間は、まだある」

ラウラ「むっ……そ、そうか。すまなかった」

シャル「はぁ……じゃあ、僕達が食べ終わって少し休憩したら、行ってみようか」

キリコ「そうだな」

鈴「んー、それでおねがーい」ズルズル

セシリア「わかりました」

ラウラ「了解した」


——

……寝かせて下さい
起きたらまた投下して行きます

シャル「ほら、こっちこっち」

鈴「ふーん、マジのアクセサリショップね……」

セシリア「いつの間にこんな所を……」

シャル「えっとねぇ……あ、あった。これだよ、これ」

鈴「どれよどれよ」

シャル「ほら、これこれ」

鈴「……ふんっ……」

セシリア「……まぁっ……これですか?」

鈴「へぇー……これかぁ……」

ラウラ「ど、どれだ……私にも見せろ……」ピョンピョンッ

キリコ「……それか」

シャル「これ、どうかな? キリコ」

キリコ「……」

シャル「……」

鈴「……」

セシリア「……」

ラウラ「……見えない」

キリコ「……良いんじゃないか?」

シャル「そ、そう思う?」

キリコ「あぁ、この色なら、箒にも似合うだろう」

鈴「うん、良いんじゃない? 星っていっても、リングの中にちっちゃく浮いてるって感じで、うるさくないし」

セシリア「えぇ。とてもかわいらしいですわ」

シャル「これなら、シルバーで品を出しながら、かわいらしさを出せると思う。凛々しいけど、乙女な箒に似合うんじゃないかな」

鈴「なんか後半はあれだけど、まぁ確かにこれなら良いんじゃない?」

ラウラ「嫁、私にも見せてくれ」

キリコ「……あぁ、こっちに来い」

ラウラ「うむ……おぉ、これか。シャルロットの言った通り、星があるな。ネックレスか」

シャル「うんうん。値段も、まぁ安い方だと思うし。それに僕もお金出すからさ」

セシリア「あら、ならば私も出しましょう」

鈴「この流れはあたしもみたいね」

ラウラ「……私もか」

鈴「アンタは、まぁ……詫び代みたいなもんじゃない」

ラウラ「……そうだな。これくらいで許されるなら、いくらでも出そう」

鈴「じゃあアタシの分も」

セシリア「薄情者」

鈴「さすがに冗談よ。それくらいの甲斐性はあるって」

キリコ「……いや、いい。これは、俺一人で買う」

鈴「まぁまぁ。友達の回復願って皆で買うんだから。別に、アンタに気を遣ってるわけじゃないわよ」

セシリア「そうですわ」

シャル「そういう事、ね? キリコ」

キリコ「……」

ラウラ「……私達全員の、贈り物、と言う訳か」

シャル「うん」

キリコ「……すまないが……俺一人で買わせて貰えないか」

シャル「……」

鈴「兵隊って言っても給料安かったんでしょ? こういう時くらい甘えなさいって」

キリコ「そういう、問題じゃない……わがままだが、俺が、アイツに、送りたいんだ」

セシリア「……キリコさん……」

シャル「キリコ……」

鈴「……」

ラウラ「……」

キリコ「……選んで貰っておいて、勝手な言い草かも知れんが……これだけは、やらせてくれ」

ラウラ「……嫁よ」

キリコ「何だ」

ラウラ「……大切なのだな、その、彼女が」

キリコ「……あぁ」

ラウラ「なら……行ってこい。それまで、私達はここで待っている」

鈴「ラウラ……」

キリコ「……わかった」


スタスタ

ラウラ「……」

セシリア「……あれは……そういう、意味ですわよね」

セシリア(キリコさん……ペアで頼みに行くつもりですわね……)

シャル「うん……そうだろうね」

シャル(まぁ、元からそういう風になるようにって応援はしてたけど……いざこうなると、あれだなぁ……)

鈴「……はぁ……」

鈴(負けちゃった、かなぁ……)

ラウラ「さて、お前達は何か見る物は無いのか」

鈴「いやさすがに切り替え早いわ!」

ラウラ「……嫁に華を持たせてやるのも、夫の役目だからな」ドヤァッ

鈴(う、うわぁっ……)

セシリア(あれの意味が……わかってらっしゃらないのですね……)

シャル(無知は……時に罪だね……)

ラウラ「ふっ……では行くぞ、凰分隊。洋服売り場に急行だ」

鈴「えっ、あたし分隊長なの?」

ラウラ「自分で大佐と言ったではないか、隊長殿」

鈴「……そ、そっか……」

ラウラ「あぁ」

鈴「で、では行くぞ。凰分隊、俺様に続けー! きゅぃいいっ」

ラウラ「お、ATか。負けんぞ!」

セシリア「……何してますのあの人達」

シャル「……さぁ……ショックで錯乱してるんじゃない……」

ラウラ「オルコット二等兵! 無駄口を叩かずに来い! デュノア伍長もだ!」

シャル「え、えぇっ?」

セシリア「そ、そのパイロット姿勢をやりますの?」

ラウラ「当たり前だっ! 操縦桿を握らずしてどうやって機体を駆る!」

シャル「え、えぇーっ……」

セシリア「い、いややりませんわよ?」

シャル「え、でも、こう……腕を出して……」

セシリア「ダ、ダメです! 流されてはいけません!」ガバッ

シャル「えぇっ? で、でも……」

セシリア「でももストもありません! お気を確かに!」

シャル「きゅ、きゅぃいいっ……」

セシリア「シャルロットさん! 正気に戻って下さい! シャルロットさん!」

シャル「……はっ! ぼ、僕は何を……」

鈴「……アホらし」

ラウラ「む、なんだやらないのか。敵前逃亡だぞ」

鈴「いや、そもそも敵を認知できないわよ……」

ラウラ「敵は洋服売り場にあり!」

鈴「無理。今更だけど、流石に恥ずかし過ぎるわこれ」

ラウラ「……」

鈴「……どうしたのよ」

ラウラ「あっ……そ、そう、だな……た、確かにこれは……は、恥ずかしいな……」

鈴「……あんた……今頃気づいたの?」

ラウラ「う、うぅ……」

鈴「はいはい。まぁ今のは気の迷いというか……無かった事にして……キリコー? 買ったー?」

キリコ「……あぁ、一応ペアで買った。ところで……」

鈴「そっか。給料何カ月分?」

キリコ「……さぁな、数えていない。ところで……」

鈴「これから洋服選びに行くから、覚悟しなさいよー? また荷物増やしてやるんだから」

キリコ「あぁ……ところで……」

鈴「ところでの先は言わない。オーケー?」

キリコ「……お前ら、ATの真似なんてして何やってたんだ」

鈴「言いたくない」

キリコ「ローラー音を出してたのはお前か」

鈴「知らない」

キリコ「俺様に続けと言ったが、どこへ行く気だったんだ」

鈴「聞きたくない」

キリコ「……大佐」

鈴「あぁーうるさい! うるさいうるさい! それ以上聞かない! わかった!?」

キリコ「……わかった」

鈴「はぁ、はぁ……」

キリコ「……」

鈴「ふぅ……よし、落ちついた」

キリコ「そうか……で、何処へ行くんだ大佐」

鈴「やめてぇ! あたしが悪かったからもうやめてぇ……」

シャル「あ、あはは……」

シャル(キリコ……案外意地が悪いね……)

セシリア「良い気味ですわねぇ、鈴さん」

鈴「そこ! 口を慎みなさいルーキー!」

セシリア「二等兵じゃありません!」

シャル(鈴いると暇しないな……暇欲しいくらいだけど……)

キリコ「……で……服も、買うのか」

シャル「勿論だよ。本日のメイン三つめなんだから」

キリコ「……そうか」

シャル「ほら、鈴、ラウラ。真っ赤になってないで行くよ」

鈴「うぅ……」

ラウラ「あうっ……」

セシリア「まぁまぁ……先程まで威勢はどこへやら……」


——




ガタンガタンッ


鈴「……」スースー

ラウラ「……」スースー

セシリア「ん……」スースー

シャル「ふふっ……三人とも眠っちゃったね」

キリコ「……そうだな」

シャル「まぁ、一番騒いでた三人だもんね……軍人さんだけどラウラは、ちょっと張り切り過ぎちゃったのかも」

キリコ「……あぁ」

シャル「ふふっ、寝顔は本当にかわいい……」

キリコ「……あまり、言ってやるなよ」

シャル「えぇー? でも、本当にかわいいのに、恥ずかしがっちゃって……」

キリコ「……」

シャル「どうしたのキリコ。夕日見て黄昏ちゃってさ」

キリコ「……こういうのも、良いな」

シャル「え?」

キリコ「こうやって、馬鹿をやって、騒いで……笑うというのは」

シャル「……うん。そうだね」

キリコ「……久しく、こういう事が無かったからな……すっかり、忘れていた」

シャル「……うん」

キリコ「……後は、箒が戻って来るだけだ」

シャル「そうだね……早く、元気になってほしい……箒が来て初めて、皆って感じだから」

キリコ「……あぁ」

シャル「……」

キリコ「……」



ニバンセンニ、キュウコウガマイリマス
オノリカエノオキャクサマハー


プシューッ ガコンッ


キリコ「……」

シャル「……ねぇ、キリコ」

キリコ「……何だ」

シャル「箒の事、どれくらい好き?」

キリコ「……」

シャル「……」

キリコ「……夢も、真実も、俺はいらない」

シャル「……」

キリコ「この腕に、かき抱けるだけの、もので良い……」

シャル「……」

キリコ「だから、全てを投げうっても良い程に……彼女は好きだ」

シャル「……そう……中々、臭いセリフを言ってくれるね……」

キリコ「……」

シャル「まぁ、一言で言うと、愛してるってヤツだね」

キリコ「……あぁ」

シャル「良いなぁ、そういうの……」

キリコ「……だが……」

シャル「ん?」

キリコ「俺は……そんな彼女を、裏切った」

シャル「……」

キリコ「彼女と俺は、サンサで出会った」

シャル「サンサ……もしかして……」

キリコ「あぁ……そして……レッドショルダーが、俺達を襲った」

シャル「……」

キリコ「俺と箒が知り合って、一年程経ったくらいの話だ……ヤツらが来たのは」

シャル「……」

キリコ「ヤツらは俺のいた施設を焼き、俺の里親を焼き……そして俺と箒は、二人で逃げた」

シャル「……」

キリコ「手を繋ぎ、炎を縫い、俺達は走った……互いの、手を握って……」

シャル「……」

キリコ「……まるで、その手が……唯一の拠所だったかのように……俺達は、手を離さず、逃げた」

シャル「……それで……」

キリコ「……ヤツらが、追ってきた。俺達の目の前まで」

シャル「ど、どうなったの」

キリコ「……俺は、箒を逃がした」

シャル「キリコは……」

シャル「キリコは……」

キリコ「……逃がす為の、盾だ」

シャル「っ……」

キリコ「俺は、全身を炎で焼かれた。全身を……」

シャル「……」

キリコ「……箒は、それを見ていた。さぞ、ショックだっただろう」

シャル「……だから、キリコがレッドショルダーって聞いた時に……」

キリコ「あぁ……アイツは……信じたはずの人間が、恨みべき相手になったと思っているのだろうな」

シャル「……」

キリコ「……アイツも、家族を焼かれたのかもしれない。もしかしたら見えないだけで、どこかにあの時受けた傷があるのかもしれない。
    もしかしたら……俺を、深く恨んでいるのかも、しれない……」

シャル「……」

キリコ「……俺は、こんな大事な事をつい先週思い出した。今も、昔も、彼女しか拠所は無かったというのに……俺は……」

シャル「……」

キリコ「あの手があったから……俺も、箒も……生きられたというのに……」

シャル「……」

キリコ「俺は……」

シャル「もう、良いんだよ。キリコ」

キリコ「……」

シャル「もう十分、伝わったから……」

キリコ「……」

シャル「……」

キリコ「……そうか……」

シャル「……」

キリコ「……俺も、少し寝る」

シャル「うん。ついたら、起こすから」

キリコ「……すまない」

シャル「平気平気。じゃ、お休み」

キリコ「あぁ」

シャル「……キリコッ」

キリコ「……何だ」

シャル「……応援、してるから」

キリコ「……あぁ」

シャル「うん、それだけ……じゃあ、今度こそお休み」

キリコ「……」

シャル「……」

シャル(……これは……勝負どころの話じゃないね……三人共)

シャル(まぁ僕も、淡い期待を抱いてちゃってたけど、さ……)

シャル「……」

シャル「織姫と、彦星……か……」


ガタンガタンッ
ガタンガタンッ
ガタンッ……


——



トントンッ


キリコ「……箒」

キリコ「いるのか?」

キリコ「……」

キリコ「今日は、話だけをしに来た訳じゃない」

キリコ「……今日は、お前に渡したい物があって来た」

キリコ「……」

キリコ「気に入って貰えるかは、わからない……」

キリコ「……だが、受け取って欲しい」

キリコ「……」

キリコ「……箒」

キリコ「……本当に、すまなかった」

キリコ「俺は……入りたくて、あの部隊に入った訳じゃない」

キリコ「言い訳なのだろうが、自分から入った訳じゃない事は、言っておく」

キリコ「……こんな物を渡して、許されるとも思っていないが……」

キリコ「出て来て、これを受け取ってくれ……」

キリコ「俺は……お前を——」


ガチャッ



「……」


キリコ「……箒」

「……」

キリコ「箒、お前に……」

「……帰れ」

キリコ「っ……」

「お願いだっ……帰ってくれ……」

キリコ「箒、俺は……」

「帰れっ……」

キリコ「……俺は……」

「……お願いだよ……帰ってくれよぉ……」ガクッ

キリコ「……」

「もう、ダメなんだ……もう……何を考えても、お前が出てくる。
 何をしても、お前しか浮かばない……お前の事が、好きなはずなのに……」

キリコ「……」

「なのに……死ぬ程、辛いんだ……」

キリコ「……」

「もう、何も考えたくないのに……何も、見たくないのに……」

キリコ「……」

「私は……もうっ……」

キリコ「……」

「……」

キリコ「箒——」

「帰れ」

キリコ「っ……」

「……」

キリコ「……」

「……帰るんだ、レッド……ショルダー……」

キリコ「……わか、った……」

「……」



ギィーッ…… ガチャンッ


キリコ「……」

キリコ「箒っ……」ギリッ

キリコ「……」


ピンポンパンポーン


『……キリコ・キュービィー、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒ、以上の三名は、早急に職員質に集合せよ。
 繰り返す——』


キリコ「……」



「あっ、キリコ」


キリコ「……」

シャル「キリコ、放送で呼ばれて、る……」

キリコ「……」

シャル「……どうしたの?」

キリコ「……」

シャル「っ……何か、言われた?」

キリコ「……あぁ」

シャル「……」

キリコ「……だが、彼女がしっかり生きている事は、確認できた……それ以上は、望まない」

シャル「キリコ……」

キリコ「……放送で、呼ばれたんだったな」

シャル「……うん」

キリコ「……行こう」

シャル「……うん……」


タタタッ





彼女の傷は、俺の思っていたものよりも、深かった。
もしかしたら、俺が忌避し続けていた傷よりも、遥かに深いのかもしれない。
それなのに、何もできない俺がいた。
人を負かし、人を殺す技量を持っていても、人を癒す事はできないのだ。
俺が今まで必死で成してきた事は、無意味だった。俺は、そう痛感していた。



「……キリコ……」




……

ラウラ「遅いぞ、嫁よ」

キリコ「……すまなかった」

シャル「お、遅れてすみません」

千冬「……よし、揃ったか。明日、お前達に海外に行ってもらう」

シャル「か、かい……」

ラウラ「海外……どこですか」

千冬「ジュネーブにある、ギルガメス共同の研究施設だ」

キリコ「……ギルガメス?」

千冬「あぁ……メルキアが出資した金で動いている研究施設だ。この前の大会で、お前達の試合を見ていたお偉いさんが酷く興味を持ったようでな。
   お前達の機体と能力のデータを取りたいそうだ……」

ラウラ「……何故、ギルガメスの研究施設が……そのような事を」

千冬「……この不可侵宙域は、要するに、両陣営から保護されているというだけだ。ヤツらは幅を利かせているのさ、ここでも」

ラウラ「……」

キリコ「……」

千冬「安心しろ。技術はそもそも外に出ないし、新しい物も作る事はできない。純粋な研究機関だ」

ラウラ「……そう、ですか」

千冬「私も、何度か見に行った事がある。間違い無い」

ラウラ「……教官がそう仰るなら」

シャル「んー……あれ、でも……なんでセシリアは抜きなんでしょうか……あの時、セシリアもいたのに」

千冬「さぁな。指名されたのはお前達三人だけだ」

キリコ「……その、お偉いさんというやつの、名は……」

千冬「ん……名前までは知らんが……この書類を見るに、情報省の人間だな。軍部じゃない、まぁそこは安心して良いだろう」

キリコ(……ペールゼンでは無い?)

千冬「それと……お前達のISは、こちらで預からせてもらう」

キリコ「……」

千冬「お前達は、来週臨海学校だろう。だから、先に機体だけでもあちらに送り、少しでも研究時間を減らすようにしたんだ。
   まぁ、それでもこちらに着く頃には、臨海学校初日の昼以降になっているだろうが……」

シャル「あぁ、ちゃんと配慮して下さってるんですね」

千冬「まぁな。案外話のわかる所で助かったよ。さて、じゃあISを預かる。お前達は渡航の準備をしろ。
   明日の朝七時に、正門に集まれ」

ラウラ「はっ」

シャル「了解です」

キリコ「……了解」



突然の渡航命令。心の蟠りを振り払う事もできず、俺は海外に旅立たされようとしていた。
二度と、あの手を握る事が無いのではないか、そんな、一抹の不安を抱きながら。




——




そして、何もできないまま、翌日が来た。



シャル「んしょっ……ふぅ……キリコ、忘れ物は?」

キリコ「……無いはずだ」

シャル「臨海学校用の荷物も持って行かないといけないんだからね? ちゃんと買った物持ってきた?」

キリコ「……あぁ、全て持ってきた」

シャル「よろしい」

ラウラ「嫁よ。アーマーマグナムは持って来たな」

キリコ「あぁ」

ラウラ「よろしい」

シャル「いや、別にまた戦いに行く訳じゃないんだからさ……」

ラウラ「戦士は、片時も武器を離してはならん。何時、誰が、何処から攻めてくるかなど、わからんのだからな」

シャル「ま、まぁそりゃそうだけど……」

キリコ「……」



「おーい! 三人ともー!」


キリコ「……」

シャル「あ、鈴とセシリアだ」

鈴「ふぅ……いやぁ何とか間に合ったか」

セシリア「キリコさん達が海外に行かれると聞いて、お見送りしようと思ったのですが……この方が寝坊したおかげで、遅れてしまいました」

鈴「良いじゃん、間に合ってんだから。いやー、しかし……腕を買われて海を渡るなんざ、カッコいいじゃん三人共」

シャル「え? え、えへへ……そうかな……」

ラウラ「これも、教官とキリコ、そして不断の努力のおかげだ」

キリコ「……さぁな」

鈴「……キリコ」

キリコ「何だ」

鈴「箒に……あれ、渡せた?」

キリコ「……いや」

鈴「そ、そっか……まぁ、臨海学校があるって! その時雰囲気でも作って渡せば良いからさ!」

キリコ「……」

鈴「安心なさいって! 箒は引きずってでも臨海学校に連れてくから」

キリコ「……鈴」

鈴「……何よ」

キリコ「……これを、箒に渡してやってくれないか」

鈴「こ、これって……あの時のじゃない。自分で渡しなさいよ」

キリコ「……俺は、渡せそうにない」

鈴「何よ。怖気づいたっての?」

キリコ「……」

鈴「え、マジで?」

キリコ「……もう、執拗に……彼女を傷つけたくない」

鈴「……」

キリコ「俺からは渡せない……」

鈴「……」

キリコ「だから、頼む」

鈴「……」

キリコ「……」

鈴「何よっ、それ……」

キリコ「……」

鈴「……はいはい、わかりましたよ。あたしから渡しておくから、さっさと海外逃亡でも何でもしなさいこの腑抜け」

キリコ「……すまない」

鈴「……はぁ……」

シャル(キリコ……それは少し残酷だよ……)



キキィイッ
ガチャッ


山田「おはようございます皆さん。ちゃんと時間通りですね」

シャル「あ、おはようございます」

山田「では、これから空港までお送りしますね」

キリコ「……」

シャル「あれ、山田先生が送ってくれるんですか?」

山田「えぇ。自分が担当している生徒の、門出ですから。私がやりたいってお願いしたんです」

シャル「か、門出……」

山田「はいっ」

シャル「ま、まぁ……そういう事なのかな……」

キリコ「……行くか」

ラウラ「そうだな」

山田「あ、荷物は後ろに乗せて下さいね。席はお好きな所にどうぞ」

シャル「はーい」

ラウラ「……よし」ドサッ

キリコ「……」

シャル「うんしょ」

山田「さて、じゃあ忘れ物はありませんね?」

キリコ「問題無い」

ラウラ「右に同じ」

シャル「左に同じです」

キリコ「……」

山田「あの……席は、助手席も、後ろにもあるんですけど……狭くないですか?」

ラウラ「嫁の隣に夫が座るのは当然」

シャル「こっちの方がお喋りしやすいので、これで大丈夫です」

キリコ「……俺が、助手席に行くか」

山田「あ、いえいえ。そういう事なら、気を遣わないで大丈夫ですよ」

キリコ「……」

山田「さて、じゃあシートベルトを閉めて……では、しゅぱーつ」


ブルゥウウンッ


鈴「キリコー! シャルロットー! ラウラー! ちゃんとお土産買って来なさいよー!」

セシリア「あちらでのお話も聞かせて下さいねー!」

シャル「うーん! バイバイ皆ー!」

ラウラ「土産は任せろー!」

キリコ「……」


ブルゥウウンッ……

鈴「……」

セシリア「……」

鈴「あーあ、行っちゃった……」

セシリア「ですわね……臨海学校までの間、寂しくなりますね……」

鈴「……こんな物まで押し付けてくれちゃってさ……」

セシリア「……」

鈴「……まっ、それだけ信用されてるって事か……」

セシリア「……そうですわね」

鈴「……朝ご飯でも、食べに行きますか。一応、ダメもとで箒も誘って」

セシリア「……えぇ」

鈴「……ペアネックレスの片方……ねぇ……」



——




キィイイイインッ……


シャル「わぁーっ……見てよキリコ! あれエベレストじゃない?」

キリコ「エベレスト?」

シャル「地球で一番標高の高い山だよ! わぁー……あんな遠くでも見えるのか……いや、違うのかな」

ラウラ「しかし、チャーター便の豪華仕様とはな……まるで、VIPにでもなった気分だ」

シャル「うん。ハリウッド映画で大統領とかが乗ってるようなヤツだよね……ホント、凄いなー……」

キリコ「……」

シャル「IS以外で、こうやって空飛ぶのも、案外良いものかもね」

ラウラ「ふむ……嫁よ。飲みものがあるぞ……お前は、酒か?」

キリコ「……酒は、飲めない」

ラウラ「そうか。案外強そうに見えるがな……まぁいい、嫁よ、コーヒーを入れてくれ」

シャル「え、そうなるんだ……」

キリコ「……わかった」

ラウラ「ふむ……しかし、快適だ。軍用機とは、雲泥の差だな」

シャル「そうだねー……」



……



機長「……」


ザザーッ
ピーッ


機長「ん……はい、聞こえています……」

機長「……」

機長「え、今からですか?」

機長「……」

機長「はい……わかりました。航路、変更します」



……



シャル「あ、キリコ。これで映画見れるよ……えっと、こうやって……」


ウィーンッ


シャル「おぉ、スクリーンが出てきた」

ラウラ「ここは定番の、プライベート・ライアンでも見るか」

シャル「えぇー……もうちょっと他の見ようよ……」

ラウラ「……おぉ、地獄の黙示録とブレードランナーがあるじゃないか」

シャル「い、いやぁ……だからこう、もっと柔らかいのを……ね?」

ラウラ「なら何が良いのだ」

シャル「えぇ? う、うーん……まぁ、無難に……これは? 最高の人生の見つけ方」

ラウラ「そんなものは自分で見つける」

シャル「い、いやこれはタイトルで……」

キリコ「……」

ラウラ「嫁は何か見たい物があるか」

キリコ「いや、好きにすると良い」

ラウラ「そうか。ならばやはり地獄の黙示録を……」

シャル「ひぃ……キ、キリコー……止めてよぉ……」

ラウラ「よし、これで操作をす——」


ガクンッ


ラウラ「っ!」

キリコ「!?」

シャル「うわっ!」

ラウラ「な、何だ! 何事だ!」

キリコ「ぐっ……」タタタッ

シャル「うわっ……うわぁっ!」


ドンドンッ


キリコ「おい、機長! どうした!」

機長『わからん! 突然エンジンが止まった! 何とかするから、しっかり捕まっていろ!』

キリコ「くっ……」

ラウラ「キリコ! どうした!」

キリコ「わからない! だが、何かに掴まるんだ!」

シャル「わ、わかった!」

キリコ「……」




ヒュウウゥンッ……




急落下する飛行機。そんな中、身を揺らされ、震えながら、俺達は地へと向かっていた。
地面を抜け、その下に広がる地獄が口を開けて待っている光景が、サブリミナルのように、ちらつく。
平穏など、俺には無いのか……。



——




安らぎの日々が終わる。枕に仕掛けられた不発弾が爆ぜ、平穏は空虚な音を立てて崩れ落ちた。
急転直下、千錯万綜、崩壊の勢いは止まる事を知らない。
手をかざし、いくらその儚さを渇仰しても、あの砂と同じく、掌から抜け落ちてゆく。
砂時計のように、無慈悲にも落ちてゆくしかない。時も、友も、愛さえも。

次回、「帰還」

平穏など、始めから幻想に過ぎぬ。


——

はい、ここまで
自分で何の作品書いてんのかわかんなくなってた
やっと戻れるね

キリコ「くっ……機長! どうだ!」

機長『ダメだ! 上がらん! エンジンが完全にイカレている! 翼も言う事を聞かん!』


グラグラッ


シャル「キ、キリコッ……」

キリコ「……」

ラウラ「機長! パラシュートは無いのか!」

機長『あぁ、ある! 誰か、そこのドアの前に立っているなら、そこの横にある扉がそうだ!』

キリコ「……これかっ!」

機長『計五つあるはずだ!』

ラウラ「わかった! お前達も早くこっちに来い!」

機長『し、しかし……』

ラウラ「制御が効かん船など降りろ! ここで判断を誤れば皆死ぬぞ!」

機長『わ、わかった! 我々もそちらに行く!』

キリコ「……よし」カチッ

ラウラ「キリコ! 二つ回してくれ」

キリコ「わかった……一つずつ投げる。しっかり取れ」

ラウラ「任せろ」

キリコ「……」ヒュッ

ラウラ「……」パシッ カチャッ

キリコ「できたな。シャルロットにも回せ」

ラウラ「わかった」

キリコ「っ……」ガタンッ

ラウラ「今だ!」

キリコ「……」ヒュッ

ラウラ「よしっ」パシッ

シャル「くぅっ……」グラグラッ

ラウラ「(あの様子では投げるのは無理だな……)シャルロット、今そちらに行く。しっかりそこに掴まっていろ!」

シャル「う、うんっ!」

ラウラ(くっ……揺れも酷いが、機体が少しだが横に傾いていてきている……急がねば……)ガタンッ

ラウラ「……」ガシッ

ラウラ(少ないが、椅子を頼りにつたっていくしかない)

ラウラ「……」

シャル「ラウラ……」

ラウラ「もう少しだ、落ちついていろ」


グラッ


ラウラ「なっ!」

機長『マズイ! 落ちるぞ! 何かに掴まれ!』 

キリコ「っ……」



ガタガタッ


ラウラ「うわぁあっ!」

キリコ「ラウラ!」


ガシッ


シャル「……」

ラウラ「はぁ、はぁ……」

シャル「ラウラ! 大丈夫!?」

ラウラ「あぁ……(な、何とか椅子に掴まる事ができたか……)」


ガタンッ


シャル「うわぁっ!」

ラウラ「くっ! 今行くぞ!」



機長『皆持ちこたえてくれ!』


キリコ「……」

ラウラ「はぁ、はぁ……(よし、あと少しだ……)」

シャル「ラウラ! 手を!」

ラウラ「あ、あぁ!」

シャル「ぐっ……」

ラウラ「もう……少しだ……」


ガタンッ


ラウラ「っ……(し、しまった……手が……)」


パシッ

シャル「よし! 掴んだ!」

ラウラ「か、間一髪だな……」

シャル「ぐっ……離さないでね……引き、あげるから……」

ラウラ「あぁ……」

シャル「ふんっ」グイッ

ラウラ「……よし、もう大丈夫だ。すまない……受け取れ」

シャル「こ、これはどうやって……」

ラウラ「まず普通に背負え。そして合図を出したら、そこの紐を引くんだ」

シャル「わ、わかった!」

キリコ「ラウラ! お前達はそっちのドアを開けて脱出しろ!」

シャル「えぇ!? で、でも!」

ラウラ「キリコ! 生身での降下作戦訓練は!」

キリコ「受けた! 早くしろ!」

ラウラ「よし! では先に行く! 何か目印になりそうな場所があったら、それを頼りに来い! 我々もそこを目指す!」

キリコ「わかった!」

シャル「えぇ!? ら、ラウラ!」

ラウラ「もたもたしてる時間は無い! このドアを開けるのを手伝ってくれ!」

シャル「……わかった!」

キリコ「機長! 機体を水平に戻せないか!」

機長『横にまわらないようにするだけで精一杯だ!』

キリコ「……できないなら早く来い!」


ガチャンッ グイッ
ゴォオオオッ


シャル「くっ……す、凄い風……」

ラウラ「私に掴まれ! 同時に出る! 聞こえたか!」

シャル「う、うん!」

ラウラ「行くぞっ!」

シャル「……」


バッ
ゴォオオオオッ

シャル(……じ、地面が遠い……けど……迫って来てる……)

ラウラ(下は……砂漠か……何かあるよりはまだマシか……)


ヒュウウウウッ


ラウラ(くっ……ゴーグル無しでは周りの確認しづらいな……)

ラウラ(ん……あれは……)

ラウラ(……よし……)

ラウラ(シャルロットに合図を出す……)クイクイッ

シャル(あ、あれは……パラシュートを引けって事か……)

シャル(わかった!)

シャル「……」カチャッ


グイッ
バサッ


シャル「うわぁっ!」

ラウラ「……」バサッ

シャル「はぁ、はぁ……(な、何とか……助かった?)」

ラウラ「シャルロットーッ! 聞こえるかーっ!」

シャル「う、うーんっ!」

ラウラ「あっちに何か船らしき物が見える! そこに着陸するぞ!」

シャル「ど、どうやって!?」

ラウラ「左右の紐で操作するんだ!」

シャル「こ、これーっ!?」

ラウラ「そうだ!」

シャル「わ、わかった!」

ラウラ(くっ……キリコも、早く脱出してくれ……このままでは合流すらできなってしまう……)


……



キリコ「何をしている! 早く来い!」


ガチャッ


機長「あ、あぁすまない……」

副機長「パ、パラシュートは!?」

キリコ「これだ! 出るぞ!」


ガチャンッ グイッ
ゴォオオオッ


キリコ「くっ……」

機長「よし、つけたぞ!」

キリコ「……行くぞ!」


バッ
ゴォオオオッ

キリコ「……」

キリコ(……目印……何も無い……砂漠だけだ……)

キリコ「ぐっ……」

キリコ(……ん? あ、あれは……)

キリコ(……よし、あれだ)


グイッ
バッ


キリコ「……はぁ……」

副機長「はぁ、はぁ……」

機長「な、何とかなったな……」

キリコ「あそこに、船の残骸が見えるな?」

機長「ん? ……あぁ、あれか」

キリコ「あれを目指す。あれだけの大きさなら、ラウラ達からも見えた事だろう」

機長「わかった。救難信号も出ているはずだ。管制も認知しているだろう、すぐに救助が来る」

キリコ「……だと良いがな」

副機長「くそっ……な、何で俺がこんな目に……」

機長「泣き事は帰ってからにしろ……見ろ、どこを見ても砂しか無い……」

キリコ「……」

機長「上も地獄、下も地獄だ……」

副機長「……」

キリコ「……そうらしいな」



墜落する飛行機から何とか脱出したものの、俺達は離れ離れになってしまった。
炎熱地獄を眺めながら、俺達はゆらゆらと、風に流されている。
地平線すら、砂と同化したこの世界で。

——


   第十一話
   「帰還」



——

キリコ「機長。あの墜落船は一体何だ」

機長「あれか。恐らく、デザート・スキャンダルで沈んだ船だろう。調査が終わった後は、ATの類は撤去されて、うち捨てられたらしい」

キリコ「……そうか」

機長「……あそこに行っても、何も無いだろうが……」

キリコ「だが、仲間と合流する目印にはなる」

機長「……そうだな。もしかしたら、何か使える物がまだ残っているかもしれん」

副機長「一応、咄嗟に水を持ってきたので、何とか……」

機長「おぉ、でかしたぞ」

キリコ「……着陸の用意をしろ」


ボサッ
カチャッ


キリコ「……」

機長「はぁ、やっとか……まさか、地上がこれ程恋しくなるとはな……」

副機長「えぇ、本当です……」

キリコ「……行くぞ。無駄口は叩くな。余計な体力を使いたくなければな」

機長「……あぁ」

キリコ「……」


ザッ ザッ



——

ウォッカム「……」

ルスケ「キリコ達を乗せた船は、墜落しました。搭乗者全員、脱出には成功したようです」

ウォッカム「それは聞くまでもないが……で、今はどういう状況だ」

ルスケ「はっ。デュノアとボーデヴィッヒが、キリコ達とはぐれたようです」

ウォッカム「ふん……二組になったか……」

ルスケ「そして……国籍不明の揚陸機が二機、あの砂漠に上陸したようです」

ウォッカム「バララントか」

ルスケ「恐らくは。流しておいた情報に食い付いたようです」

ウォッカム「ふん……ヤツらも、あの時の対戦を見て、奪いに来ようとようやく思ったか……。
      わざわざ情報を掴ませたのだ。働いてもらわねばな」

ルスケ「……しかし、よろしいので? もしバララント側にキリコ達が奪われては……」

ウォッカム「ヤツらは、所詮ATしか持たぬ雑魚だ。だが、実験には利用できる、放っておけ。
      万が一捕縛されるような事があっても、こちらにはゴーレムがある」

ルスケ「わかりました。では、このままゴーレムで監視を続けさせます」

ウォッカム「あぁ。周囲に何者も近づけさせないようにしろ、そのバララント隊以外はな」

ルスケ「はっ……」

ウォッカム(……これで決まる……)

ウォッカム(異能の遺伝子は、本当に遺伝が可能なのか。異能とは、遺伝以外でも作成する事ができるのか)

ウォッカム(……キリコは、確かに異能生存体だ。それは疑う余地は無い)

ウォッカム(しかし……一人では足りぬ)

ウォッカム(力は、より強大でなければならぬ。得ようとするものが、大きければ……)

ウォッカム(……)



——



ザッ ザッ


キリコ「はぁ、はぁ……」

機長「はぁ、しかし……熱いな……」

副機長「君は、そんな、厚着で大丈夫、なのか?」

キリコ「耐圧服は、ある程度の環境変化にも対応できる。それと、あまり喋らない方がいい。体力は温存しろ」

機長「……」

キリコ(この丘を、登り切れば……)

副機長「はぁ……ひ、日陰すらない……」


ザッ ザッ

キリコ「……見えたぞ」

機長「んん?」

キリコ「あれが、空から見えた船だ」

副機長「……あれが……」

キリコ「……」


そこには、小さなビル程の炎の消炭が、風と砂に晒されていた。
ギルガメスの大型輸送艇が、広大な砂漠にポツリと突き刺さっている。
あそこに、仲間がいるはずだ。


キリコ「……」

機長「ニュースでは見た事はあるが……本当にあるとはな……」

キリコ「あぁ……移動装置が一機でも残っていれば、幸いなんだがな」

機長「ついでに、水もな」

キリコ「……あぁ」

副機長「しかし、盗賊なんかが荒らしていなければ良いが……」

機長「この辺は、最も街から離れた場所らしいが……どうだろうな……」

副機長「最も街から離れた場所、ですか……ははっ、絶望的だ……」

キリコ「……行くぞ。距離はもう、1kmも無い」



ズササッ……


キリコ「……」

機長「おおっと……」

副機長「……」

キリコ「……」


ザッ ザッ


キリコ「……」

機長「……」

副機長「……はぁ、ひぃ……」



ザッ ザッ
……ィイッ


キリコ「……」

機長「……」

副機長「……」


ザッ ザッ
……ュィイイッ


キリコ「……っ!?」

機長「ん、どうした」

副機長「お、オアシスでも見つかったのか?」

キリコ「静かにしろ……」


……ュィイイイッ


キリコ(この音は……)

キリコ「マズイ……ATだ」

機長「AT? そんな馬鹿な……」

キリコ「走れ!」


ダッ


機長「お、おい!」

副機長「ま、待ってくれ!」


ザッザッザッ


キリコ「はぁ、はぁ……」


キュィイイイッ


機長「な、なんの音だ!」

副機長「だ、誰かが助けに来てくれたんじゃ……」

キリコ「馬鹿を言うな! いいから走れ!」



ザッザッザッ
キュィイイイッ


キリコ「くっ……」


ズガガガッ


副機長「ひぃーっ!」

機長「ぐっ……クソッ! 撃って来やがった!」

キリコ「まだ距離はある! 全力で走るんだ!」

キリコ(横から来たか……マズイな……このままだとかち合う……)

キリコ(マグナムで、やれるだろうか……)カチッ

キリコ「……」

キリコ(やるしかないか……)

キリコ(幸い、周囲にはあの艦が落とした破片がある。カバーする事はできる)

キリコ「あそこの瓦礫に隠れろ! 絶対に頭を出すんじゃないぞ!」

機長「わ、わかった!」



ズガガガッ


副機長「がっ……」バシュゥンッ

機長「お、おい!」

キリコ「振り返るな! 走れ!」

機長「くっ……そっ!」

キリコ「はぁはぁ……」


バッ


機長「はぁ、はぁ、はぁ……」

キリコ(何とか隠れられたが……圧倒的に不利なのに変わりはない)

キリコ(コイツで、持ちこたえなければ……)

機長「し、死んだ……アイツが、死んだぞ!」

キリコ「黙っていろ」

機長「だが!」

キリコ「黙れと言った……死にたいなら、そのまま喋っていても良いが……」

機長「……うぅ……」

キリコ「……」



ズガガガッ
カキンカキンッ


キリコ「くっ……」

機長「ひぃっ!」

キリコ「……」


『撃ち方やめ!』


シュウウッ……


キリコ「……」

機長「う、うぅ……」

キリコ(……攻撃が止まった?)



『キリコ・キュービィー! キリコ・キュービィーはいるか!』


キリコ(……俺?)


『貴様が投降すれば、他の者の命は保障する! 我々は、貴様を保護しに来ただけだ!』


キリコ(あのAT……バララントか……)

キリコ「何故だ! 俺は、ただの学生だ! 今俺はISも持っていない、ただの人間だ!」


『知らん。ただ我々は、貴様を確保する為に来ただけだ。貴様の道理などは関係無い!』


キリコ「ちっ……話にならないか……」

機長「な、何なんだ一体!」

キリコ「……さぁな。どうやら、俺の能力とやらが、必要らしい」

機長「……なら……」

キリコ「俺が出て行っても、アンタは口封じで殺される。不可侵宙域で奴らは軍事行動をとっているんだからな」

機長「……」

キリコ「余計な事は考えるな。俺が援護する、アンタはあれに向かって走れ。良いな」

機長「……わかった」

キリコ「……」

機長「……」



『……30秒以内に出て来い! そうすれば、助けてやる!』


キリコ「……」

機長「……」


『10、9、8……』


キリコ「……」

機長「……お、おい」

キリコ「黙れ」


『5、4、3、2』


キリコ「今だ!」


ザッ


キリコ「くっ」ズキュンズキュンッ

『うお!』パリーンッ

キリコ「走れ!」

機長「はぁっ、はぁっ!」



ズガガガッ


キリコ「くっ……」

機長「ひぃっ!」

『発砲は抑えろ! ヤツを生け捕りにするんだ!』


キュィイイイッ


キリコ「くっ……(敵は五体か……恐らく、まだいるのだろうが……)」


ズガガガガッ


キリコ「……」バッ


カキンカキンッ


キリコ「……」カチッ


ズキュンズキュンッ
パリンパリーンッ



『ちぃっ! レンズをやられた!』

キリコ(ISのおかげか、生身での射撃がやりやすくなったな……)カチャカチャッ

『雑魚は後で良い! ヤツを捕えろ!』

キリコ「……」ジャキッ


バッ


キリコ「……」ザッザッザッ


キュィイイイッ


キリコ「……」バキュンバキュンッ

『うおっ!』パリーンッ

キリコ(レンズを潰すので精一杯か……)

『このっ!』キュィイイッ

キリコ「……」バキュンッ

『うぉおおっ!』カキンッ

キリコ(くっ……この距離では……)

『こいつっ!』グワッ



ガシッ


キリコ「ぐっ……(し、しまった……)」

『隊長! 標的を捕えました!』

『よし、よくやった!』

キリコ「ちっ……(あの船まで、もう少しだと言うのに……)」

『ちっ、そんなチンケな銃でよくやる気になったもんだ』

キリコ「……」

『ISが無きゃただのガキよ……なぁ?』

『あぁ、そうだ』

『へっ、手こずらせやがって——』



ズギュウウウンッ


『うぉっ!』バキンッ


フラッ


キリコ「ふっ!」バッ

『な、なんだ! どこからの攻撃だ!』


ズギュウウンッ


『うわぁああっ!』ドガアンッ


キリコ(カタパルトランチャーを狙った精密射撃……まさか……)

『追え! 逃がすな!』



ズギュウウンッ


『うぉおっ!』ドガァアンッ

キリコ(……ラウラか!)



ラウラ「……」シュウウッ……

シャル「キリコは!?」

ラウラ「無事だ。シャルロット、弾を」

シャル「う、うん! はい!」

ラウラ「……」キュイキュイッ

シャル「あ、キリコと一緒にいた人が船の中に入ったよ!」

ラウラ「一人か」キュイッ

シャル「う、うん」

ラウラ「……そうか」

ラウラ(もう一人は、やられてしまったか……)

ラウラ(無理も無い、か……)


ジャキッ


ラウラ「……」


ピーッ ピーッ ピーッピーッ


ラウラ「……」


ピーピーピーピーピピピピピッ


ラウラ「……」


ズギュウウンッ


『うわぁっ!』バシュウンッ

『くっ……』

『(レンズが壊された為に、レンズを上にあげていた兵をそのまま撃ち抜くか……やるな……)』

『一旦あの船から距離を取れ! 本隊と合流するまで、ヤツらをくぎ付けにしろ!』

『了解!』



ラウラ(キリコの船までの距離、およそ100……近いが、この状況では遠いな……)

ラウラ(今の射撃で、良い威嚇にはなっただろうが……この距離では、こいつの有効射程範囲ギリギリと言ったところか……)

ラウラ(さて……どうする……)

ラウラ「……シャルロット、カバーしていろ」

シャル「えっ? う、うん……」

ラウラ「……」



ズガガガガッ
カキンカキンッ


シャル「わぁっ! こ、こっち撃ってきた!」

ラウラ「……」

ラウラ(現状、敵のATは三体か……まぁ、それだけではあるまい)

ラウラ(この地球で、あまり目立った行動はできない。少数に分け、動いているのだろう……ヤツらは斥候と言った所か……)

ラウラ(この攻撃は、本隊が来るまでの時間稼ぎだ。我らを釘付けにするための……)

ラウラ「……シャルロット! 船の中からまだ使えそうなものが無いか探して来てくれ!」

シャル「わ、わかった!」


カキンカキンッ


ラウラ(今のうちに、あの斥候だけでも残滅せねばなるまい……)

ラウラ「……キリコ、早く来い」

キリコ「……」カキンカキンッ

キリコ(俺への集中が回避されて、幾分やりやすくなったが……)

『おらおら出て来い!』ズガガガガッ

キリコ(依然、釘付けなのは変わらず、か……)

『俺のレンズを割りやがって……早く出てきやがれ!』

キリコ(レンズ無し、肉眼での確認の為に体が丸見えだ……)

『そらそらそら!』ズガガガガッ

キリコ「……」

『ちっ、弾切——』カチッカチッ


ズキュウンッ


『はうっ!』バシュウンッ

キリコ「その隙が、命取りだ……」シュウウッ……

『くっ……クソ、がっ……』ガクッ

キリコ「……」



バッ
ザッザッザッ


キリコ「はぁ、はぁ……」

キリコ(もう、目の前だ……)

『おい! ヤツが逃げるぞ!』

『くっ……過度な攻撃はやめろ! 本隊が間もなく到着する、それまで威嚇射撃を続けるんだ!』


ズギュウウンッ


『ぐおっ!』ドガンッ

『おい! 無事か!』

『う、腕を破壊されました!』

『残骸に隠れろ! 外に出ていては、動いていても当ててくるぞ!』

『りょ、了解!』

『(ちっ、標的が船に入ったか……)』

キリコ「はぁ、はぁ……」ザッザッザッ

シャル「キリコーッ! こっちーっ!」

キリコ「シャルロット! 無事だったか!」

シャル「うん! ラウラも無事だよ! 上の階にいる!」

キリコ「あぁ、だろうな。あの射撃はヤツだろう」

シャル「うん。さっ、キリコ、中に入って!」

キリコ「機長はどこだ」

シャル「機長さんなら、上に行って休んでる。武器を探さないといけないから、早く!」

キリコ「わかった」

ラウラ(キリコが船に到着したか……一人でATも撃破しているし、さすがは我が嫁と褒めよう……)

ラウラ(……この対AT用ライフルでも、やりようはある……)

ラウラ(ISが無くとも、兵士、戦士は戦わねばならない……)

ラウラ(そこが……戦場ならば……)ジャキッ


ピーッ ピーッ ピーッピーッ


ラウラ(瓦礫と瓦礫の間……隙間より見えるカタパルトランチャー……)


ピーピーピーピーピピピピピッ


ラウラ(外しは……せんっ!)


ズギュウウンッ



ドガァアアンッ



ラウラ(これで、残り一機……)ジャキッ



『た、隊長! クソッ! 腕もやられたってのに、やってられるか! 本隊に合流する!』


キュィイイイッ


ラウラ(撤退し、本隊に合流か……良い判断だ、動物としてはな……)

ラウラ(だが……相手の能力を見抜けないようでは……所詮戦士として三流よ……)

ラウラ(今度は、足ごと貰うぞ!)


ズギュウウウンッ


『うわ、うわぁあっ!』バキンッ


ドガァアンッ


ラウラ「……」スッ

ラウラ(……斥候排除、完了……)

ラウラ(使えるATを確認する暇は無い……)

ラウラ(本隊が来るまでに、トラップを仕掛けねば……)タタタッ



……

シャル「や、やった! キリコ! 水と食べ物があるよ!」

キリコ「本当か」

シャル「うん、ちゃんとボトル入りで未開封だから、多分大丈夫なはず」

キリコ「……良かった」

シャル「えっと……ここにあるのは、2Lが10本と、缶詰が……皆の合わせて、二日分、かな……」

キリコ「……」

シャル「び、微妙……」

キリコ「無いよりは、良いだろう」

シャル「う、うん……そうだね」

キリコ「こっちも、良い物を見つけた」

シャル「……何それ」

キリコ「対AT地雷だ。直接反応タイプと、タイマー式があった。中々の数だ」

シャル「使える?」

キリコ「あぁ、何とかな」

シャル「そっか……」



ラウラ「キリコーッ!」タタタッ


キリコ「ラウラ……」

ラウラ「キリコ、怪我は無いか」

キリコ「あぁ。お前のおかげでな」

ラウラ「あれくらいはどうという事は無い。お前の持っているそれは、対AT地雷か」

キリコ「あぁ」

ラウラ「貸してくれ。私が設置してこよう」

キリコ「こっちが直接反応、こっちがタイマー式だ」

ラウラ「わかった」

シャル「えっ、まだ何かやるの」

ラウラ「敵があれだけなはずはあるまい。まだ来るぞ……最低でも、残り15機はな」

シャル「そ、そんな……」

ラウラ「キリコ、私が狙撃をしていた場所に、パイルバンカーカスタムが一丁ある。持って行け」

キリコ「……わかった」

ラウラ「私はこっちのパイルバンカー無しのリパルサーで十分だ……シャルロットは、何か使える武器を見つけたか」

シャル「ううん……食糧は見つけたけど、キリコが見つけた地雷以外の武器は、なにも……」

ラウラ「そうか……だが、でかした。食糧が少なからずあれば、多少は粘れる。敵のATでも奪って、ここから脱出すれば街まですぐだろう」

シャル「うんっ」

キリコ「……シャルロット、これを」スッ

シャル「えっ……これって……」

キリコ「丸腰よりは、このアーマーマグナムでも持っておくと良い。弾は残り12発程しかないが」

シャル「……うん、わかった。ありがたく使わせてもらう」

キリコ「……俺は、銃を取りに行けば良いんだな」

ラウラ「あぁ。それが終わったら、手伝いに来てくれ。コイツを持ちながら動くのは、中々難儀でな」

キリコ「あぁ」

シャル「それ、置けば良いんじゃ……」

ラウラ「武器を手から離してどうする。こんな状況で」

シャル「う、うん……でもそれ何キロあるの?」

ラウラ「30キロだ。小さい子供を担ぐ程度だ」

シャル「さ、30……」

ラウラ「……急げ。あまり時間は無い。何ならあの機長にも探させろ」

シャル「わ、わかった」タタタッ

ラウラ「ISの無い時に……面倒だな」

キリコ「前にもこういう事があったがな……」

ラウラ「……あの密告者が、タイミングを図っている、か……あの研究施設とやらも、一枚噛んでいるのだろう」

キリコ「……まず間違いないだろう。俺は行くぞ」

ラウラ「あぁ、頼む」


タタタッ


ラウラ「……」

ラウラ(我々を招待したのは、ギルガメスの共同機関……か……)


……



タタタッ


キリコ(……これか)

キリコ「……」ジャキッ

キリコ(……時代遅れの、兵器だ)

キリコ(このゴーグルも、いつ以来だろうか……)シュイッ

キリコ(ISが、如何に進んだ兵器かわかるな……)

キリコ「……ん?」

キリコ(これは……猟兵用のマントと、耐圧服か……)

キリコ(俺のサイズに合っているらしい、着替えるとしよう。この制服では、目立ち過ぎる)

キリコ「……」バサッ

キリコ(……ラウラ達のマントも持って行くか)

キリコ(……やるぞ)


タタタッ

キリコ「……ラウラ、状況は」

ラウラ「もう地雷は仕掛け終わってしまった。直接式をとりあえず入口に二つ、瓦礫付近に残りのを。タイマー式は、逃げる時にでも使えるだろうから、まだだ。
    敵の姿は、まだ確認できんな」

キリコ「そうか……すまん。マントだ、無いよりは良いだろう」

ラウラ「おぉ、すまない……ん、耐圧服か。私達のサイズは、流石に無いか」バサッ

キリコ「あぁ、見つけたのもこれ一着だけだ……シャルロット達は、大丈夫だろうか」

ラウラ「機長は一般人だ、期待はしていない。シャルロットはああ見えて、お前に近いくらいの反応能力は持っている。
    ある程度は、自分の身は守れるだろう」

キリコ「……そうか」

ラウラ「……こいつの訓練は」

キリコ「何度かな」

ラウラ「そうか……リーチャーズ・アーミー……彼らがどういう心境だったのか、今ならわかる。
    武装車に生身で突っ込むなど、どうかしている」

キリコ「……そうだな」

ラウラ「……」

キリコ「……」

ラウラ「……来たぞ」

キリコ「何機見える」

ラウラ「……十五機か。予想通りだな」

キリコ「AT揚陸機二機分か……」

ラウラ「……距離、およそ2000……」

キリコ「……」

ラウラ「1800、1700……」

シャル「キリコ!」

キリコ「何か見つけたか」

シャル「ううん、もう何も……この変なのくらいしかなかった……」

キリコ「……ジャッキか」

シャル「ジャッキってあれ? 車とか上げるヤツ?」

キリコ「そうだ……シャルロット」

シャル「な、何?」

キリコ「それをくれ。一応、万が一の為にな」

シャル「わ、わかった」

キリコ「……」カチャカチャッ

ラウラ「1500を切った、用意しろ」

キリコ「わかった」

ラウラ「シャルロットは機長とどこかに身を隠せ。侵入されるまでは、なんとか我々でやる」

シャル「わ、わかった」タタタッ

キリコ「……」

ラウラ「有効射程は60m……」

キリコ「心許ないな」

ラウラ「だが、地雷を撃ち抜くには、そんなの関係無い。私が指示した場所を狙え」

キリコ「了解」

ラウラ「まず最初に狙う地雷はここから11時方向、距離およそ400のATの残骸に仕掛けた。足の関節部分だ」

キリコ「……あれか」

ラウラ「ポリマーリンゲルがまだ生きてるなら……一層ドカンといくはずだ」

キリコ「……」

ラウラ「二回目は、ちょうどそのまま照準を下に30m動かしてみろ。そこに仕掛けた。瓦礫にまぎれているが、下部を注視しろ」

キリコ「……確認した」

ラウラ「後は設置した地雷でどうにか、と言った所だが……そう上手くはいかないだろう。
    この艦のAT搬入口にも仕掛けたから、いざとなったら使え。壁と、床に設置した」

キリコ「……そこまでとは……仕事が早いな」

ラウラ「まぁな。もっと余裕があれば、ATも取りに行けたが……1000を超えた、来るぞ……狙え……」ジャキッ

キリコ「……」ジャキッ

ラウラ「……」

キリコ「……」

ラウラ「……700」

キリコ「……」

ラウラ「……500」

キリコ「……」

ラウラ「今だっ」


ズギュウウンッ
ドガァアアンッ

キリコ「二機撃退」

ラウラ「こちらもだ。次、狙え」

キリコ「……」

ラウラ「今だっ」


ズギュウウンッ
ドガァアンッ


ラウラ「一機だけか……」

キリコ「こっちもだ」

ラウラ「後は仕掛けた地雷にどれだけかかってくれるか……」



キュィイイイッ
ズガガガガッ


キリコ「くっ……」

ラウラ「ソリッドシューターが来るぞ! 退避!」


バッ

シュウウッ
バゴォンッ


キリコ「無事か」

ラウラ「あぁ、何ともない。次の射撃ポイントに行く、ついて来い!」タタタッ

キリコ「了解」



……

機長「ひぃっ!」

シャル「機長さん! 早く安全な所に行きましょう! ここじゃもし侵入されたら真っ先にやられてしまいます!」

機長「な、何故だ……何故こんな事に……わ、私は……ただのパイロットなのに……」

シャル「しっかりして下さい! ほら! あっちの方に!」

機長「さ、触るなぁ!」バッ

シャル「ちょ、ちょっと! 外に出たら危ないですよ!」

機長「はぁ、はぁ、はぁっ」タタタッ

シャル「も、戻って来て下さい!」


バッ


機長「はぁ、はぁっ!」


キュィイイッ


機長「助けてくれぇーっ! 私は、何も関係無いんだぁっ!」



ズガガガガッ


機長「がっ、ぐっ……あっ……」


ドサッ


シャル「あっ……あぁっ……」


『一人射殺。入口にもう一人見える、どうやら女だ』

『構わん、撃て!』


ドガァアアンッ


『うわぁあっ!』

『ちっ、まだ地雷があったか!』



ズガガガッ


シャル「うわっ!」

シャル(こ、ここにいたら危険だ! 早く奥に戻らないと……)

シャル「えぇいっ……」タタタッ


ズガガガッ
カキンカキンッ


シャル「はぁっ!」ズサァッ

シャル(よし……何とかここなら……)

シャル(……こ、こんな銃一つで……大丈夫なのかな……)

シャル「……」ドクンドクンッ

シャル(あ、あの二人が、何とかしてくれる、はず……)

シャル(ラウラは軍の少佐らしいし、キリコは元レッドショルダー……軍人でも筋金入りの部類……)

シャル(ぼ、僕に今出来る事は、二人の邪魔にならないように、安全な場所に隠れる事……)

シャル(そ、そうだ……今はそうしないと……)

シャル(いざという時の為に、これは託されたんだから……)

シャル(まだ……その時じゃない……)

シャル「今は……逃げないと……」


タタタッ


……



ズガガガガガッ
カキンカキンッ


ラウラ「ちっ……もう目の前まで来ているな……キリコ! 直接狙うぞ!」

キリコ「了解」

ラウラ(銃だけを出し……スコープで見る……)

ラウラ(スコープの映像は、直接このゴーグルに送られる……)

ラウラ(故に……このような撃ち方も……)


ズギュウウンッ
バゴォオンッ


ラウラ(……可能……)

キリコ「……」


ズギュウウンッ
ドガァアアンッ


キリコ「こっちも一体仕留めた」

ラウラ「残りは六、七機か……だいぶ減らせたな」

キリコ「あぁ……」

ラウラ「また移動するぞ、そろそろ侵入される頃合いだ。仕掛けた罠のポイントへ急げ」

キリコ「了解」



タタタッ



『えぇい、地雷が邪魔だ! 入口付近の地面をマシンガンで撃ちまくれ!』

『ハッ!』


ズガガガッ
ドカンドカンッ


ラウラ「入口に突っ込んでくる程、馬鹿ではない、か」

キリコ「地雷はどこだ」

ラウラ「あの柱だ。中腹を見ろ」

キリコ「……発見した」

ラウラ「よく狙えよ。そいつを上手く起爆できれば、上から瓦礫を落とせるだろう。
    そこで足を止めた奴らを、私が狙う」

キリコ「わかった」

ラウラ「グレネードか閃光音響弾でもあれば、もっとやりようがあるがな……」

キリコ「……」

ラウラ「来るぞっ」



キュィイイイッ


『機内に潜入! これより捜索を開始します!』


キリコ「……」

ラウラ「合図を待て……」

キリコ「……」

ラウラ「……」


キュィイイッ


『このカーゴの後ろには……ちっ、いないか。そっちはどうだ?』

『こっちも同じだ』

『ちっ、ガキ共が……ちょこまかと……』


ガインッ ガインッ


キリコ「……」

ラウラ「……」


『おい、ちょっとこっちに来てくれ。コイツが邪魔なんだ』

『わかったよ……』


ラウラ「今だっ」

キリコ「……」


ズギュウンッ



ドガァアンッ


『うわぁっ!』

『わ、罠があったか!』


ガラガラッ


『ぐっ、瓦礫が……』


ラウラ「……」


ズギュウンッ


『がぁっ……』バゴンッ


ドガァアンッ


ラウラ「……」シュウウッ……


『いたぞ! あそこだ!』


ズガガガガッ


ラウラ「こっちだキリコ!」

キリコ「あぁ」



タタタッ


『このガキがぁ!』ズガガガガッ

『よせ! 無駄な発砲はするな!』

『こっちの道から昇れるぞ!』


キュィイイイッ


キリコ「次はどうする」

ラウラ「奴らは、下の道を通って来るだろう。そこへ行く」

キリコ「直接対決か」

ラウラ「いや、もう弾が無い。まだ罠を仕掛けてあるから、そいつにおびき寄せる」

キリコ「わかった」

ラウラ「こっちだ」

キリコ「……」


タタタッ


ラウラ「ここだ。一瞬だけ出て、すぐに右に曲がれ。その際、そこのワイヤーに触れてくれるなよ」

キリコ「わかった」

ラウラ「合図するまで待て」



キュィイイッ


『奴ら、どこへ行ったんだ……』

『この船はさして大きくない。すぐに見つかるさ』

『野郎、ぶっ殺してやる』

『男は殺すなよ。俺らまで首が飛ばされちまう』


ラウラ「……」

キリコ「……」


キュィイイッ


ラウラ「今だっ」バッ

キリコ「……」


『おっ、いたぞ!』

『撃つなよ! 追い詰めるんだ!』

『わかっている!』


ラウラ「ふっ」ダッ


『そっちに行ったぞ!』

『曲がれ曲がれ!』

『……ん? あ、あれは……おい! 待て!』

『あぁ? 何か——』



プツンッ
ドガァアンッ


『はぁっ、はぁああっ!』

『うわぁああっ!』

『チッ、味な真似を!』


ラウラ「残りは二機のはずだ……」

キリコ「……残りのトラップは」

ラウラ「もう無い。コイツでやるしかないな」

キリコ「……」ジャキッ

キリコ(ライフル弾は、一発……パイルバンカーの弾薬も同じ、か……)

ラウラ「こっちは残り一発だ」

キリコ「こっちもだ」

ラウラ「ふっ……私達なら、二発もあれば十分か」

キリコ「……」

ラウラ「こっちで待ち伏せするぞ。ついてこい」

キリコ「……」



タタタッ


ラウラ「ここだ」

キリコ「……」

ラウラ「……」


キュィイイイッ


キリコ「……」

ラウラ「……」


ピーッ ピーッ ピーッピーッ


キリコ「……」

ラウラ「……」ゴクッ


ピーピーピーピピピピッ


ラウラ「撃て!」

キリコ「……」


ズギュウンッ


『ぐはっ!』



ズギュウンッ
ガキンッ キュィイイッ


『ちっ、当たるかよ!』


ラウラ「なっ……ターンピックだと!? 陸戦ファッティーには無いはずだ!」

キリコ「……奴は、ただの雑魚とは違うらしいな」

ラウラ「ちっ……」


『喰らえっ!』バシュウンッ


ラウラ「くっ」バッ

キリコ「……」バッ


ドゴォオオンッ
ガラガラッ


ラウラ(が、瓦礫がっ!)

キリコ「っ……」



ガラガラガラッ


キリコ「こ、これは……」

ラウラ(ぶ、分断されたかっ……)

『けっ、標的は瓦礫の向こうか……』

ラウラ(これは……マズイな……)

『まぁ、良い……先に死んでもらうぜ! 嬢ちゃん!』

ラウラ「ちっ……(万事、休すかっ……!)」



……




キリコ「ラウラッ! 無事か!」


「キリコッ!」


キリコ「シャ、シャルロットか」

シャル「ラウラは!?」

キリコ「この瓦礫の向こうだ」

「キリコ! お前は逃げろ! コイツは引き受ける!」

キリコ「だが!」

「この先の道で合流する! 早く行かんか!」

キリコ「ラウラッ!」



ズガガガガッ


キリコ「ラウラァッ!」

シャル「キリコ! 早く行こう!」

キリコ「くっ……」

シャル「ラウラはそう簡単にやられない! そんな事より、早く合流する事を考えないと!」

キリコ「っ……行くぞ!」

シャル「うん!」


タタタッ


キリコ「この先の道で、また合流できるはずだ。あの機長は」

シャル「……死んだ」

キリコ「……そうか。急げ」

シャル「わかった」



タタタッ


キリコ「ここだ……向こうの道が、あの場所から繋がっているはずだ……」

シャル「……」

キリコ「どこか隠れられる場所は無いか……このカーゴしかないか……狭いが、我慢してくれ」

シャル「う、うん」

キリコ「……」

シャル「こ、ここに隠れてればいいんだね」

キリコ「あぁ、俺の後ろにいろ」

シャル「と、ところで……た、弾は?」

キリコ「……パイルバンカー一発だけだ」

シャル「そ、それじゃ……」

キリコ「倒せない訳じゃない。ラウラがちゃんとここまでおびき寄せてくれれば……俺が懐に飛び込んで、仕留める」

シャル「……」

キリコ「……お前も、銃を出しておけ」

シャル「わ、わかった」チャキッ

キリコ「……」

シャル「……」

キリコ「……まだか」

シャル「……ね、ねぇキリ——」



ドクンッ


シャル「……」

キリコ「……何だ」

シャル「……」

キリコ「……どうしたんだ、シャルロ——」



チャキッ


キリコ「……」

シャル「はぁ、はぁ……」

キリコ「……何の……真似だ……」

シャル「……前にも……あった……」

キリコ「……」

シャル「キリコを見てると、殺したくなる時がある……」

キリコ「……何?」

シャル「自分でも、わからない……初めてあった時も、この発作が起きた……皆といる時は出ないのに、二人になると、決まって出る……」

キリコ「……シャルロット、銃を、降ろせ」

シャル「わかってる……でもっ、体が言う事を聞かないんだ!」

キリコ「……」

シャル「キリコ……は、離れて……」

キリコ「……」

シャル「離れてっ!」

キリコ「……」

シャル「うわぁぁああっ!」



パシッ


キリコ「くっ……」

シャル「離して! 離してよ!」

キリコ「お前の脳は、何か細工を施されているはずだっ」

シャル「わかってる……わかってるよ! ……でもっ!」

キリコ「ぐっ……(ど、どこからこんな力が……)」グググッ

シャル「だぁっ!」ブンッ

キリコ「うぉっ!」ドサッ

シャル「はぁっ!」ガシッ

キリコ「ぐっ……(く、首が……)」

シャル「はぁ、はぁ……キリコを見てると……自分が、いつかキリコのせいで死ぬんじゃないかって思いに駆られる……」

キリコ「……かっ……」

シャル「自分が、酷い死に方をするんじゃないかって……そんな、はず……無い、のに……」ギリギリ

キリコ「……シャ、ル……ロッ……」

シャル「殺す……殺したい……」

キリコ「……がぁっ……」

シャル「殺すっ!」



「ふんっ!」ブンッ


バキッ


シャル「がっ……」


ドサッ


キリコ「っ……かはぁー……はぁー……はぁー……」

ラウラ「はぁ、はぁ、はぁ……」

キリコ「ラウ、ラ……」

ラウラ「何だ……今のは……」

キリコ「はぁ、はぁ……」

ラウラ「何故、シャルロットがお前の首を絞めていた……」

キリコ「はぁはぁ……」

ラウラ「答えろ!」

キリコ「……わからない……」

ラウラ「わからないだと? わからないのに突然首を絞めてきたというのか!」

キリコ「……そうだ」

ラウラ「……」


『おっと……手を上げろ』


ラウラ「っ!?」

キリコ「……」



『やっと追い詰めたぞ……このガキ共……』


ラウラ(ちっ……私とした事が、平静を失っていたかっ……)

キリコ「……」

『さぁ、キリコとやら。こっちに来い』

キリコ「……ん?」

キリコ(この手に触れている感触は……)

『俺の部隊を……全員殺しやがって……』

キリコ(……俺のマントの中に……シャルロットが落としたアーマーマグナムが入ったか……)

『早く立て! そっちのお嬢ちゃんを今から撃ってもいいんだぞ!』

キリコ「……」

キリコ(……ばれないように……)

ラウラ「キ、キリコ……」

キリコ(コイツを作動させ……マグナムを……回収……)



ズガガガガッ


キリコ「っ!」


カキンカキンッ


キリコ「……」

ラウラ「……」

『……次は、当てるぞ。早く立て。そんで、まぁどうせ弾切れなんだろうが……その重そうな武器を降ろせ』

キリコ「……」

キリコ(何とか、回収はできた……)

キリコ「……」スッ

ラウラ「キリコ……」

キリコ「言うとおりにしろ……」

ラウラ「……」



ドサッ ドサッ


キリコ「……すまない」

ラウラ「……」

『えぇえぇ、お利口ちゃんだ……おい、お前はこっちに来い』

キリコ「……」

ラウラ「キリコッ」

『嬢ちゃんは黙ってな』カチッ

ラウラ「っ……」

キリコ「……」


ガシッ


キリコ「ぐっ……」

『へへへっ、獲物鷲掴みってな……任務達成だ……』

ラウラ「……」

キリコ「……」

ラウラ(このままでは……)

『んで……まぁあれだな……これからは口封じって訳だ……』

ラウラ「……貴様っ」

『おぉおぉ、その歳で良い目力だ事……嬢ちゃんかわいいし、殺すのには、惜しいが……』

ラウラ「……」

『これも、仕事でね』

キリコ「……」

ラウラ(私は……キリコを……守ると決めたはずだ……)

『……正直いえば、あんまり好きじゃないんだがな……こういうのは……』

ラウラ(なのに……)

『あばよ、嬢ちゃん』

ラウラ(なのにっ!)



「それは、こちらの台詞だ」チャキッ


『——なっ!?』


キリコ「……」


『(コ、コイツいつの間に銃を!? いや、そんなはずはない! コイツの事はそれなりに強く掴んでいたはずだ!)』

『(……ん? あ、あのマントから見えるヤツは……)』


キリコ「軍用トラックも押し上げるジャッキだ。隙間を作るくらい、訳は無いさ」



『——きさまぁああっ!』ジャキッ


ズキュウウンッ
パリーンッ


キリコ「ラウラッ! やれっ!」


パシッ


ラウラ「……うぉおおおおっ!」

『み、見えねぇ! クソッ、どこだ!』ズガガガッ


カキンカキンッ


ラウラ「はぁあああっ!」



ズドンッ


『なっ!?』


ラウラ「これで、終わりだぁああっ!」


ブォオオオッ


『く、クソッタレがぁあああっ!』

キリコ「……」

ラウラ「っ……」



ジャキンッ……


ラウラ「……」

キリコ「……」

『……』



ジジジジジッ……
シャキンッ……


ラウラ「はぁ……はぁ……」

キリコ「……」


フラッ


キリコ「くっ……」ドサッ

ラウラ「や、やった……のか……」

キリコ「あぁ……ATからこれだけ血が漏れてるんだ……死んださ……」

ラウラ「……そうか……」

キリコ「……はぁ……」

ラウラ「……」

キリコ「……」


ラウラ「……シャルロット……奴は……一体……」

キリコ「……」



砂地獄に足を絡まれ、生き残ったのは俺達三人だけだった。
吸血鬼、戦士、そして、錯乱の殺し屋……。
冥府魔道を行くこの妙な一団は、一息の休息をようやく手に入れた。

まだ自らが、砂地獄に足を入れたままだと、知らずに。




——

前半ここまで
飯食ってきますわ

うん、ゴメン
これ下手したら3スレ目行くわ




夢を見ていた。残酷な夢を。
友達に銃を突きつけ、首を絞め、殺そうとしている夢を。
友達は必死で抵抗しているのに、僕も必死でやめようとしているのに、体が言う事を聞かない。

そして、ここからはぼんやりとしていた。
友達が、僕に凶器を振るって、それで僕もそうしていて。
そして最後に、友達が、僕を見下ろしながらとても怖い顔をしていた。
悲痛で、何かに駆られたような顔で。

そんな顔、見たはずもないのに。
いやに、現実的だった。



「……」


(ん……ここは……)

(確か……僕達の乗っていた飛行機が砂漠に墜落して……それで……)

(なんか、沢山のATと戦ってたような……)

(……キリコ……)

(そうだ、キリコだ……キリコは何処?)

(し、死んでないよね? そ、そんなはずは……)

(……キリコ)

(キリコッ!)


「……キリコ……」


「起きたか、貴様」チャキッ

シャル「……」

ラウラ「……」

シャル「ラウ、ラ……」

ラウラ「起きたところですまないが……貴様に質問がある」

シャル「……何の、事……」

ラウラ「貴様、何故キリコを殺そうとした……」

シャル「キリ、コ?」

ラウラ「とぼけるな……貴様は、敵ATが攻めて来ているという危機的状況で、キリコの首を絞めていた!
    その理由を聞かせろと言っているんだ!」

シャル(……僕が? キリコを?)

シャル(そんな……そんな訳は……)



殺す……。


シャル(……あっ……)


殺したい……。


シャル(……そうだ、僕は……)


殺すっ!


シャル(僕は……)


シャル「キ、キリコは! キリコはどこ!」

キリコ「……どうした、シャルロット」

シャル「あっ……よ、良かった……生きてた……」

ラウラ「どの口が言う……」

キリコ「……ラウラ、銃を下げろ」

ラウラ「コイツは、お前を殺そうとした」

キリコ「……下げろ」

ラウラ「仲間だと、思っていたのに……」

キリコ「下げろと、言っている」

ラウラ「悪いが……それはできない。私は、お前に害を成す者に、手を抜けないし抜く気も無い。それが、私の誓いだ」

キリコ「……ラウラ」

ラウラ「……」

シャル「……」

ラウラ「……答えろ」

シャル「……」

キリコ「……シャルロットは、どうやら脳に細工を施されたようだ」

ラウラ「コイツが言ったのか」

キリコ「違う。が、そう見て間違いないだろう」

ラウラ「……密告者、いや、監視者と言った方が良いか……そいつに、やられたと?」

キリコ「あぁ。シャルロット、症状を話してみろ」

シャル「え、あ、うん……」

ラウラ「……」

シャル「別に、キリコ以外の人がいる時は、キリコを見ても普通なんだ。いつも通り、会話もできるし、何も負の感情なんて湧かない。
    でも……キリコと二人きりになった時は……まず間違いなく、発作が来る」

ラウラ「……一時期、キリコと同室だったらしいが……どうやって抑えた」

シャル「キリコより早く寝て……キリコより遅く起きてた。単純だけど、それでなんとか……」

ラウラ「……」

キリコ「それで、妙に部屋でお前が起きてるのを見なかった訳だ」

シャル「うん……」

ラウラ「……では、今はどうだ」

シャル「えっ……今は、全然……多分、ラウラがいてくれてるから……」

ラウラ「……そうか」

シャル「……」

ラウラ「なら、私がいれば無害、という訳か」

キリコ「らしいな」

シャル「う、うん……多分、そう……」

ラウラ「……キリコ」

キリコ「何だ」

ラウラ「……銃を返す。勝手に抜いて悪かった」スッ

キリコ「……あぁ」カチャッ

ラウラ「……シャルロット」

シャル「な、何?」

ラウラ「私は……まだお前を許した訳じゃない。今度、また不穏な動きを見せれば……」

キリコ「ラウラ、いい加減にしろ」

シャル「……キリコ、いいんだよ。友達を殺そうだなんて、妙な発作が起きる僕が悪いんだから……」

キリコ「……」

ラウラ「……私も、過去の自分からして、あまり言えた身分じゃないのはわかっている……。
    だが、今の私はこういう人間なんだ。わかってくれ」

シャル「……うん、わかってる」

ラウラ「……お前のような、明るく、面倒見の良いヤツとは……友人でいたい。
    もう、その発作なんてものを起こさないでくれ……頼む……」

シャル「……ラウラ」

ラウラ「……キリコ。そろそろ行くか」

キリコ「……あぁ」

シャル「そろそろって……ここは……」

ラウラ「砂漠の、ど真ん中だ」

シャル「……」

ラウラ「お前は、あれから丸一日も寝ていたんだ。それまで運んでくれたキリコに礼を言っておけ」

シャル「ま、丸一日も……」

キリコ「……よほど、脳に負荷か何かがかかったんだろう。無理も無い」

シャル「……ごめんなさい、キリコ」

キリコ「気にしていない。ほら、お前も水を飲んでおけ」

シャル「……あり、がとう……」

ラウラ「水は貴重だ。考えて飲むんだぞ」

シャル「……うん」

ラウラ「汗が出たら舐めろ。でないと、電解質が失われ、早死にするぞ」

シャル「……わかった」

ラウラ「そろそろ……岩石砂漠地帯のようだ……遠くの方に、少しだけ見える。その周辺なら、もしかしたら遊牧民なんかがいるかも知れん。
    それまで、倒れてくれるな」

シャル「……うん」

キリコ「……シャルロット、もう自分で歩けるか」

シャル「う、うん。もう大丈夫だよ……」

キリコ「そうか……」

ラウラ「キリコ、今度は私が荷物番をしよう」

キリコ「いや、だいぶ軽くなったはずだ。俺がやる」

ラウラ「だが……」

キリコ「……俺がやる」

ラウラ「……無理はするなよ」

キリコ「あぁ……シャルロット、お前は従軍経験が無い。辛くなったらいつでも言え。また俺が運んでやる」

シャル「そ、そんなの悪いよ……今まで歩いて無かった分、僕も頑張るから」

キリコ「……そうか」

ラウラ「……行こう」

キリコ「……あぁ」



大海の中から、俺達は希望という一滴の雫を探し、歩き始めていた。
あるのは、水のように滑らかな砂と、その青で全てを熔かさんと照りつける空のみ。
自らの足で、踏みしめ、足が沈む。上気した呼吸とその音が合わさり、規則的なリズムを作っていた。


キリコ「……」

シャル「はぁ、はぁ……」

ラウラ「……」

シャル「そ、そういえば……ATは奪えなかったの?」

ラウラ「全て地雷の爆発に呑み込まれたのか、制御系がイカれていた。最後に倒した奴も、パイルバンカーで回路ごと貫いてしまったからな」

シャル「……そっか」

キリコ「……」

ラウラ「……あまり、喋るな。疲れるぞ」

シャル「……うん」



まだ、先は見えない。地平の先が。
俺達が歩いているのか、景色が俺達に合わせて動いているのか、それすらもわからない錯覚に陥る。
地獄はもう近い。向こうから迫る必要も無い。ただ、落ちてくるのを、待つ、ばかり。
俺達に握らされた切符は、片道切符ではない。地獄を往復する、切符なのだ。



——

ウォッカム「……どうだ」

ルスケ「はっ、バララントのAT隊20機を撃退してから二日経ちましたが……以前、三人は生きています」

ウォッカム「そうか……水も食糧も尽きたはずだが、中々しぶとい……」

ルスケ「……ボーデヴィッヒは、生き残るのでしょうか……」

ウォッカム「さぁな。生き残れば、異能である証拠。死ねば、ただの紛い物……それだけだ」

ルスケ「はい……」

ウォッカム「……監視を続けろ」

ルスケ「……はっ」

ウォッカム「……」



——



バララントが襲撃してから、早くも三日目。食糧も水も尽き、俺達は幽鬼のように歩いていた。



キリコ「はぁ、はぁ、はぁ……」

シャル「……」

ラウラ「はぁ、はぁ……」


砂の風景は消えたが、辺りは乾ききった地表が覆う岩石砂漠となっていた。
しかし、何が変わったと言う事も無い。人も、生命すら通らない不毛な大地。
俺達は、肩を落とし、そこを歩き続ける。


シャル「はぁ、はぁ……」


ドサッ

シャル「はぁ、はぁ……」

シャル(も、もう……ダメ……)

シャル(視界が……揺らいでる……)

シャル(いや……もう、見え、ない……)

シャル(キリコ、と……ラウラ、を……よば、なきゃ……)

シャル(おいてか、ないで……)

シャル(僕を……一人に、しない、で……)

シャル(……)

シャル(虫が……よす、ぎる、か……)

シャル(友達を、危険に、晒したり……殺そうと、したりして……)

シャル(それで、また迷惑を、かけて……)

シャル(最期には……一人は、嫌だなんて……)

シャル(……)

シャル(……いや……)

シャル(いやだよ……)

シャル(……おいてかないで……)

シャル(……)

シャル(まえにも……こういうこと、あったっけ……)

シャル(あのときは……じゅうをつきつけられて……)

シャル(ひっしで……こころのなかで、いのちごいしてたっけ……)

シャル(……はぁ……)

シャル(……)

シャル(つかれちゃったな……)

シャル(このまま、ねちゃおう……)

シャル(おきたら、きっと……みんながいて……)

シャル(キリコと、ラウラと……ほうきも……セシリアとりんがけんかしてて……)

シャル(……)

シャル(……おやすみ……)



「何を、涙なんて、貴重なものを流している……」


シャル「……」

ラウラ「起きろ……シャルロット」

シャル「……」

ラウラ「起きろと言っている……二度も、言わせるな……」

シャル「……ラウ、ラ……」

ラウラ「泣くんじゃない……今は、水分が、一番大事なのは……わかっている、だろう……」

シャル「……」

ラウラ「早く立て……キリコも待っている……」

シャル「……もう……」

ラウラ「何だ」

シャル「……もう、僕の事はいいから……二人だけで、先に行って……」

ラウラ「……」

シャル「僕が、いても……足手、まとい、だから……」

ラウラ「……民間人が、舐めた口を聞くな……ほら、肩を貸す。歩くぞ」

シャル「でも……」

ラウラ「……この私に、友人を見殺しにしろと言うのか……この私に、そんな不名誉な事をさせろと言うのか」

シャル「……」

ラウラ「殴る元気があったら、殴り飛ばしている所だ……だが、今はお前に肩を貸す程度の元気しか無い。
    これで、我慢しろ」

シャル「……」

ラウラ「……返事は」

シャル「……うん」

ラウラ「よし、ではいくぞ……ふんっ……」

シャル「……」

ラウラ「これで、歩けるな」

シャル「……うん」

キリコ「……大丈夫か」

ラウラ「あぁ、なんとか、な……」

キリコ「……そうか」

シャル「はぁ、はぁ……」

ラウラ「……行こう」

キリコ「……あぁ」




まだ、見えない。本当にこの先に何かあるのかすら、疑わしい。




キリコ「……」

ラウラ「……」

シャル「……」



そうして、俺達は。



ラウラ「うっ……」フラッ

シャル「……」ドサッ

ラウラ「はぁ……」ドサッ

全員が一斉に。



キリコ「……ぐっ」


ドサッ





力尽きた。



ウォッカム「……」

ルスケ「三人とも、倒れました」

ウォッカム「……そうか」

ルスケ「……」

ウォッカム「……やはり、異能生存体などという物は、眉唾物だったいう事か……」

ルスケ「……」

ウォッカム「それとも、対生物のみにはその能力が適用されるが、環境などに干渉できるのには限度があったと見るべきなのか……」

ルスケ「……」

ウォッカム「……仕方あるまい。今回の戦略動議は、彼ら抜きで認証を得ねばならんな」

ルスケ「ゴーレムだけも、十分に可能かと……」

ウォッカム「……それはわかっている。だが、実に残念だ。死なない、完璧な兵士……そのような存在を、一度この手に治めてみたかった」

ルスケ「……お察しします」

ウォッカム「……」




『生命体には、他に比べ、群を抜いて生存率の高い個体が存在する』


……。


『私は、それを仮に”異能生存体”と名付けた』


……異能……。


『遺伝確立250億分の1。それが、お前だ』


……俺が……。



『躊躇するな! 焼きつくせ!』


……コイツは……。


『全てだ! 一人残らず、研究施設ごと焼きつくせ!』


……。


『こやつらが、異能生存体とかいうものならば、自ずと生存の術を見つけ出すはずだ!』


……俺が、異能……。



『それを、お前に教えてやろう』


……そんな事は、どうでもいい。
俺は、まだ生きなければならない。
ここで死ぬ訳には……いかない……。


アイツが、待っている……。
俺の……。
俺の、宿命が……。




箒が……。




ピーッ ピーッ



ルスケ「……っ!?」

ウォッカム「……どうした。ゴーレムの故障か」

ルスケ「か、閣下……」

ウォッカム「何だ」

ルスケ「あり得ない事です……」

ウォッカム「……どうしたのだ」


ルスケ「キリコ達のいる付近に、突如、て、低気圧が……」

ウォッカム「何っ!?」

ルスケ「何の予兆も無かったはずです……ですが、雨雲を形成し、大きくなっています……ふ、普通ではあり得ない速度で……」

ウォッカム「……ば、馬鹿なっ……」


キリコ「……」

シャル「……」

ラウラ「……」


ポツッ


キリコ「ん……」



ポツポツッ


キリコ(……何だ)


ポツポツポツポツッ


キリコ(……冷たい物が……当たっている……)


ザァーッ


キリコ(これは……)

キリコ「……雨……」


ザァーッ


キリコ「……」



キリコ「……こ、これはっ……シャルロット! ラウラ! 起きろ!」


シャル「う、うぅん……」

ラウラ「……ん……」

キリコ「雨だ! 雨が降っている!」

シャル「あ……」

ラウラ「……め?」

キリコ「あぁ! 早く飲め! まだまだ降って来ている!」

シャル「あ、め……え? 雨?」

ラウラ「そ、そんな……馬鹿な……」

キリコ「本当だ。この冷たさ、この喉を通る感覚……水だ……雨が降っている」

ラウラ「……は、はは……」

シャル「ほ、本当に……」

キリコ「あぁ」

ラウラ「雨……雨だ……」

シャル「……ぃやったぁーっ!」

キリコ「……」

シャル「冷たい……本当に、雨だ……」

ラウラ「夢じゃ……ないよな……」

キリコ「あぁ。余ったボトルに入れておく。お前達も、今のうちに体を冷まして、水を飲むんだ」

ラウラ「……こんな……奇跡が……」

シャル「あははっ! 雨って、こんな気持ちいい物だったんだ!」

キリコ「あぁ……」

シャル「キリコ! 夢じゃないよね! 僕ら、今! 雨にうたれてるんだ!」

キリコ「……あぁっ」

シャル「あははっ! さいっこうだ! さいっこうだよ!」

ラウラ「……信じなければならないな……森羅万象を超えた、法則があるということを……」

キリコ「……」



希望の一滴は、確かに存在した。大海に混じり込んだ、その一滴は。
俺達の渇きを癒し、活力を漲らせてくれた。

これが、ペールゼンの話した俺の能力なのかはわからない。
だが、確かに言える事は、俺達は生きているという事だ。



ザァーッ



キリコ「……」

シャル「ラウラッ! 久しぶりのシャワーだよ!」

ラウラ「……あぁ……一生の中で、一番気持ちの良い……シャワーだ……」


……



ウォッカム「……」

ルスケ「……閣下……」

ウォッカム「……ふふふ……」

ルスケ「……閣下?」

ウォッカム「素晴らしい……素晴らしいぞ、ペールゼン……貴様の見つけた異能生存体は!」

ルスケ「……」

ウォッカム「素晴らしい……私は、奇跡を見た……生きる奇跡を!」

ルスケ「……」

ウォッカム「……ルスケ」

ルスケ「はっ」

ウォッカム「彼らを回収し、動議書を纏めろ。軍の連中の重い腰を、一瞬にして砕く」

ルスケ「はっ、かしこまりました」

ウォッカム「……」

ウォッカム(異能……生存体っ……)

ウォッカム(最高だ……)


——





鈴「……はぁ……授業終わっても暇ねぇ……」

セシリア「そうですわねぇ……」

鈴「キリコ達帰って来るのまだ先だしさぁ……」

セシリア「ですわねぇ……」

鈴「箒もうんともすんとも言わないしさぁ……」

セシリア「えぇ……」

鈴「頼まれたは良いけど、これ……どうやって渡せって言うのよ……」

セシリア「……」

鈴「はぁ……ペアネックレス……かぁ……」

セシリア「……」

鈴「アイツ、こういうの疎い癖に……こうなると、一直線よねぇ……」

セシリア「……えぇ……」

鈴「……あたし達、負けちゃったのかなぁ……」

セシリア「……」

鈴「はぁ……」

セシリア「らしくありませんわねぇ、鈴さん」

鈴「だってさぁ……明らかにキリコの接する態度が違うんだもん……この前あたしと箒が怪我した時だってさぁ……。
  箒には、待っていろ、だなんて言う癖に、あたしには言ってくれないし」

セシリア「……まぁ……」

鈴「それと今回のこれでしょう? 箒と同じ幼馴染のはずなんだけどなぁ……」

セシリア「……」

鈴「はぁーあー……」

セシリア「……溜息は、幸運を逃すキッカケになりますわよ?」

鈴「うるさい……」ゴンッ

セシリア「食事する場所に頭を突っ伏さない」

鈴「痛た……」

セシリア「そんな勢いつけてぶつければ痛いに決まってますわよ」

鈴「はぁーあー……」

セシリア「あぁもう! ジメジメと! まだ負けたと決まった訳じゃないでしょう!」

鈴「でもさぁー……明らかに、こう手ごたえが無いというか……」

セシリア「それは、私も同じです」

鈴「自覚あるなら説教しないでよ……」

セシリア「自覚があるから、こうして友人を諭してるんでしょう?」

鈴「何ソレ」

セシリア「私だって、そう感じてはいます……切実に。ですけど、それをグチグチと聞かされる身にもなって下さいまし」

鈴「……偉そうに……あたしがどんだけ前からキリコを好きだと思ってんのよ」

セシリア「……」

鈴「アンタみたいに、つい最近知り合った仲じゃないんだよ……ずっと昔からなんだ……。
  ふと、あっ、キリコといると、なんか良いなぁって思ってから……その瞬間から、ずっと好きだったんだ……」

セシリア「……」

鈴「はぁ……それがまさか、あたしと似たようなのがいて、そっちになびいて……何が悪かったのかなんて考えて……。
  堂々巡りよ……そりゃ落ち込むわよ……」

セシリア「……」

鈴「……なんだろうなぁ」

セシリア「……」

鈴「キリコは、兵隊なるとか言って勝手に消えて、そう思ったらまたここに来て……。
  そんでもってこの学園では妙に女侍らせて……まぁ、それは本人が興味無いんだろうけどさ……。
  それで興味無いと無いと思ったらこれだもんなぁ……」

セシリア「……」

鈴「……何黙って聞いてんのよ」

セシリア「……もう諦めて聞き流してましたの」

鈴「……頬の一発でも引っ叩かれると思ったのに、こういう展開だと」

セシリア「叩く気にもなりませんわよ」

鈴「……そっ」

セシリア「……」

鈴「はぁ……」

セシリア「……叩きましょうか?」

鈴「……やっぱ、いい」

セシリア「……そうですか」

鈴「……」

セシリア「……」

鈴「……あれ?」

セシリア「……どうされましたか」

鈴「……なんか、ムカついてきた」

セシリア「……」

鈴「箒も箒よ。キリコがレッドショルダーにいたからって、アイツが変わったりする訳ないじゃん。
  昔に何があったかなんて知らないし、そもそも今のキリコ見なさいって説教したのに、塞ぎこんで……」

セシリア「……」

鈴「それでキリコが好意表してきたら引きこもって……良い御身分じゃない……」

セシリア「……」

鈴「……ちょっと」

セシリア「なんですか?」

鈴「やっぱちょっと叩いてよ」

セシリア「はい?」

鈴「いいから叩きなさいよ。気合い入れるから」

セシリア「……もしかして、そういう趣味なんですの?」

鈴「冗談言ってるとこっちが先に殴るわよ。いいからさっさと——」


パチンッ

鈴「イタッ!」

セシリア「……これでよろしいですか?」

鈴「しゃ、喋ってる時にやらないでよ! タイミング考えなさいって!」

セシリア「貴女の愚痴を聞かされて、こちらもやる気が無くなってま——」


パチンッ


セシリア「ひゃっ! ……な、何をするんですの!?」

鈴「なんとなく」

セシリア「な、なんとなく!? 渇を入れるとかでなくて、なんとなくっ!?」

鈴「うん。なんかムカついたから」

セシリア「なっ……この!」パチンッ

鈴「イタッ! ……この!」パチンッ

セシリア「このっ!」パチンッ

鈴「このっ!」パチンッ

セシリア「このぉっ!」バチンッ

鈴「こんのぉっ!」バチンッ

セシリア「はぁはぁ……」

鈴「はぁはぁ……」

セシリア「はぁっ……鈴さん?」

鈴「はぁはぁ……な、何よ?」

セシリア「何だか……まだ、頭に、来ません?」

鈴「うん、すっごく……」

セシリア「二人で、殴り、合うのも、不毛、ですので……はぁっ……」

鈴「うん、何よっ……」

セシリア「ちょっと……この原因に当たりません?」

鈴「うんっ……なんか、ムカつくから、あの引きこもりに当たろう」

セシリア「いつまでもウジウジとされては、こちらも腹が立ちますわ!」

鈴「よし……何がなんでも一発入れてやる!」

セシリア「行きますわよ!」

鈴「おうっ!」


タタタッ


セシリア「はぁああっ!」

鈴「だぁああっ!」


タタタッ

鈴「ここかぁっ!」

セシリア「えぇ! ここですわっ!」


ドンドンドンドンッ


鈴「おら! 箒いるんでしょ! 開けなさいよ!」

セシリア「早く開けなさい!」

鈴「シカトしてんじゃないわよ! このモップ!」

セシリア「ここは掃除用具入れじゃなく、部屋なのですよ! 早く開けなさい!」

鈴「ちっ……こんだけ騒いでも出て来ないとは……」

セシリア「鈴さん! もう扉ごと壊してやりなさい!」

鈴「当たり前よ!」キュイイインッ

セシリア「敵は本能寺にあり!」

鈴「でやりゃぁああっ!」



バゴオオンッ


「なっ……」

鈴「あ、いたっ!」

セシリア「確保! 確保ですわ!」

「お、おいっ……何しに来たっ」

鈴「決まってんでしょ! 憂さ晴らしよ!」

「う、憂さ晴らし?」

セシリア「キリコさんのハートを盗んでおいて、掴んだ後に拒絶するだなんて虫が良すぎますわ!」

鈴「そうだそうだこの泥棒猫!」

「……」

鈴「いつまでもウジウジウジウジしてんじゃないわよ! キリコにフラれたあたし達の身にもなってみなさいよ!」

セシリア「そうですわ!」

「……黙れ」

鈴「誰が黙るもんですか!」

セシリア「こちらはもう頭に来てるんですのよ!」

「お前達に……何がわかる……」

鈴「わかってたまるか!」

「なっ……」

鈴「前にアンタに有りがたい説教してやったの忘れたの!? 過去のキリコじゃなく、今のキリコを追えって言ったじゃない!
  何!? そんなのも覚えられないくらい頭悪いの!?」

「……それは……」

鈴「あぁ、そう? それとこれとは話の次元が違うとかほざいちゃうんでしょ?
  出た出た、陰気な女はこれだから困るのよねぇ……」

「……いいかげんにしろ……」

セシリア「鈴さん、もっと言ってやりなさい!」

鈴「すっこんでなさいレーション以下。アンタの過去に何があったかなんて、知った事じゃないのよ」ダレガレーションイカデスノ!?

「……いいかげんにしろと、言った……」

鈴「口調までキリコに似せちゃってまぁ……ムカツク……そんな風にね、自分が恵まれてる癖に、
  悲劇のヒロイン演じちゃってる子を見ると、虫唾が走るのよ!」

「……このっ!」ブンッ


バキッ

鈴「イッタッ! この、やったわね! このモップ!」バキッ

「ぐっ……この無神経女!」バキッ

鈴「掃除道具!」バキッ

「中国産!」バキッ

鈴「モッピー!」バキッ

「爆弾女!」バキッ

セシリア「鈴さん! 右! 右ですわ! そこをブロー!」

鈴「はぁ、はぁ……」

「はぁ、はぁ……」

鈴「コイツッ!」グイッ

「ぐっ……」

鈴「アンタに、レッドショルダーが何したのかなんて、知らないわよ。家族を殺された、故郷が焼かれた。
  恐らくそんな所なんだろうけど……」

「……」

鈴「でもね、自分だけが不幸だなんて思ってんじゃないわよ。キリコの方が、アンタのうん倍も不幸じゃない!」

「……なぜ、そう思う」

鈴「アイツも、サンサにいたんでしょ……アンタと一緒に……それくらい、なんとなくわかるわよ。
  キリコが何処から来たのかも聞いた事がある。あたしだってアイツの幼馴染なんだ!」

「……」

鈴「それなのに、自分の故郷を焼いたレッドショルダーに自ら進んで入ると思う!?
  嫌々入れさせられたに決まってるじゃない!」

「……」

鈴「それで、考えてみなさいよ……そんな場所に放り込まれて……アイツが、どれだけ苦しい思いをしたか……。
  想像ぐらいつくでしょう!?」

「っ……」

鈴「そんな部隊で生きなきゃいけなかったキリコの方が、ただ好きだった人が予想と違っただけで引きこもってるアンタよりも!
  百倍は不幸よっ!」

「……」

鈴「それなのに……こんな……詫びにだなんてプレゼントまで買ってきたのに、それを無碍にして……。
  アンタ何様よっ! えぇっ!?」

「……」

鈴「受けとんなさいっ!」ズイッ

「……」

鈴「これが、キリコがアンタの為に買ってきた物よ。受け取んなさい」

「……」

鈴「あぁもう! 何躊躇してんのよ! 貰いなさいよ! あたしが持ってても意味ないんだから!」

「……あいつは……」

鈴「何よっ!」

「あいつは……どうせ、私の事を……まだ忘れているままなんだ……」

鈴「……はぁっ?」

「あいつは、最初からそうだ……ここで出会った時から、私の事を忘れて……。
 お前みたいに、私の事は覚えていてくれていないんだぞ?」

鈴「……」

「それなのに……私が大事だと? 嗤わせる……そんなの、詭弁だ……。
 本当に大事だと覚えているなら、そんな場所に入る訳が無い!」

鈴「……」

セシリア「……箒さんの誕生日……」

「……?」

セシリア「7月7日、だそうですわね」

「……どこで、それを」

セシリア「キリコさんが言ってましたわよ。箒の誕生日は俺と同じ日だ、と」

「……」

セシリア「……あの方は……貴女を忘れていません。もし貴女を忘れていたとしても、それは何か悪い悪夢によって、
     見えないようにさせられていた……しかし、キリコさんは今、確実に、貴女の事を覚えていらっしゃいますわ」

「……」

セシリア「……それでも、受け取れないというのなら……貴女に、キリコさんを慕う資格はありません。
     さっさと、この学園から出るなりなんなりして下さい」

「……」

セシリア「……私の知っている篠ノ之箒は、もっと強い御方でした。凛々しく、強者の空気を纏った……。
     貴女がそれと同一人物だと言うのなら、受け取りなさい!」

「……」

セシリア「貴女がそのように、尊敬できる方に見えたのは、キリコさんへの想いがあったからでしょう!?」

「……」

セシリア「……」

鈴「……」

「……私は……」

鈴「……何よ」

「私は……篠ノ之箒だ」

鈴「……」

「キリコは……私の……」

セシリア「……」


箒「……大事な、人だ……」

セシリア「……やっと……」

鈴「わかったわね、この石頭」


箒「……キリコは……私の、運命だ……そう言っても良い。そんな、存在のはずなのに……私は……」


鈴「おうおう、言ってくれるわね」

セシリア「流石ですわねぇ」

箒「……私は……酷い事を……」

セシリア「お久しぶりですわね、箒さん」

箒「……」

鈴「ほれ、反省するより先に挨拶しなさいよ」

箒「……心配を、かけた」

セシリア「はいっ」

鈴「まぁ、あんま気にする事無いんじゃないのー。キリコがRS入ったのと、今回の引きこもりで、イーブンって感じで」

セシリア「こらっ! 少しは口を慎みなさい鈴さん!」

鈴「馬鹿ねぇ。おあいこなんだから、もう気にする必要も無いって意味よ」

箒「……」

鈴「で、気兼ね無く受け取れるでしょ? これ」

箒「……あぁ」

鈴「あら、何? キリコちゃんから直接受け取りたいとか言わないわよね」

箒「い、いや、そんな贅沢は言わん……だから……その……」

鈴「いやしんぼねぇ。ほら、受け取んなさい」スッ

箒「……ありがとう。鈴、セシリア」

鈴「礼はアイツに言いなさいよ」

箒「……あ、開けても……良いのだろうか……」

鈴「ったく早速惚気ちゃって……勝手にしなさいよ」

箒「わ、わかった……」



ガサガサッ


箒「こ、これは……」

セシリア「キリコさんも、きっと箒さんに似合うだろうと、喜んで買ってらっしゃいましたわよ?
     最初は、私達全員で買おうと言う話でしたのに、自分一人で買って贈りたいからと、聞かなくて」

箒「そ、そうか……」

鈴「ほら、開けたんならつけてみなさいって」

箒「わ、わかった……」


スッ


箒「……はぁ……」

鈴「嬉しい溜息ついてないで感想」

箒「き、綺麗、かな?」

鈴「なんで聞くのよ。まぁ、悔しいけど……綺麗よ」

セシリア「とても美しいですわ」

箒「そ、そうか……これを、キリコが……」

鈴「……元気、出た?」

箒「……あぁ」

鈴「そっ、じゃあ良いわ。でね?」

箒「あぁ……ま、まだ何かあるのか」

鈴「さっきっからぶち破った入口の前で、織斑先生がすっごい顔でコッチ見てるんだわ。
  ちょっと、グラウンド三百周してくるから、後よろしくねっ」

箒「……あっ」

セシリア「わ、私も……ですか?」

鈴「当たり前じゃない。さっ、行きましょ行きましょ」

セシリア「……では、箒さん。また」

箒「あ、あぁ……あのっ」

セシリア「なんですか?」

箒「そ、その……キリコは?」

セシリア「今は、海外の研究機関に御呼ばれして、ここにはいませんの。臨海学校には戻ってきますから、その時にお礼を言って下さいね」

箒「そうか……」

セシリア「では、また明日。ご一緒に食事でも食べましょう」

箒「……あぁっ」



ファンリンインタイサ! タダイマトウチャクシマシタ!
ゴツンッ
イタイッ!
……ケッキョクソレキニイッテンジャアリマセンコト?


箒「……」

箒(……綺麗な、ネックレスだ……)

箒(これを……キリコが……)

箒(……)

箒(私は、馬鹿だったな……)

箒(過去を見ない! だなんて、決意した途端にこれだものな……)

箒(そりゃあ、友人から殴り飛ばされるはずだ……)

箒(……)

箒(早く、キリコに会って謝らなければ……)

箒(そして、伝えなければ)

箒(もう、気にしていないと……酷い事を言ってすまなかったと……)

箒(そして……)

箒(回りくどい言い方ではなく、正面から好きだと!)

箒(……)

箒(というか……アイツらなんで最初からあんなに怒っていたんだ?)

箒(最初はまったく違う理由で殴られていたような気がするが……)

箒(……まぁ、良いか)

箒「よし、そうと決まれば、素振りをするか! 集中力を戻すぞ!」


パシッ


箒「待っていろ! キリコ!」



——



キリコ「……はぁ……」

シャル「生き返った、ね……」

ラウラ「あぁ……そうだな……」

シャル「本当に……死ぬかと思った……」

ラウラ「あぁ……自分も、まさか銃弾ではなく、環境にやられるのか、と……腹をくくっていた」

シャル「九死に一生だねぇ……あれ、前にもこんな事あったなぁ」

ラウラ「そうなのか?」

シャル「うん、前にちょっと、ね……」

ラウラ「ふーん……なら、この幸運も、お前のおかげかもしれないな」

シャル「そ、そうかな……」

キリコ「……ちょうどいいくらいの雨量になったな」

シャル「そうだねぇ……このまま、これくらいの感じでずっと降っててくれないかなぁ……」

ラウラ「水もだいぶ確保できた。これなら、街につく事も可能だな」

キリコ「……あぁ——」



キュゥウウウンッ
ドサァアアアッ


キリコ「っ!?」

ラウラ「何だ!」

シャル「ど、どうしたの!」


『……』


キリコ「こ、こいつは……」

ラウラ「IS……きゅ、救助がようやく来たか……」

シャル「……違うよ、これ……この機体……前にキリコ達を……」


『……』ジャキッ


ラウラ「っ! な、何のつもりだ! お前達!」

キリコ「……無駄だ。コイツらは、無人機だ」

ラウラ「無人、機……」

シャル「……」



『キリコ・キュービィー、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒ。我々と一緒に来てもらう』


ラウラ「貴様ら……何者だ!」

キリコ「……」


『……』


ズガガガガッ


キリコ「ふぉっ!」

ラウラ「うわぁっ!」

シャル「きゃあっ!」


『……』ジャキンッ


シュウウッ……



キリコ「……」

ラウラ「……」

シャル「……」


『目標無力化。これより、帰還します』






再度現れた無人機が、疾風の如く俺達を襲った。
状況をかき回すだけだった監視者が、ついに俺達を捕まえに来たのだ。
実験動物を、手に戻す為に。

混濁する意識の中、俺は二人の仲間に手を伸ばそうとした。
二度と触れる事のできぬ錯覚に陥りながら、俺の意識は、ブラックアウトした。



——



野心と盲信、疑心と献身、それらを乗せて船は動き出した。
策謀の渦に飲みこまれ、異能の因子は流れてゆく。
朔望の表裏のように、裏切りの戦士は流れてゆく。
昨日の友は今日の敵、今日の友は明日の敵。
それより先は、知りたくもない。

次回、「別離」

これも、異能の成せる業なのか。


——

はい、今回はここまで
しかしおかしいな。このスレ来てまだ三話なのに、もう500近くまで来たぞ(白目)
スレタイのセリフをこのパートで使えんではないか……

鈴「イェーイ! 臨海学校だー!」

セシリア「はーい!」

鈴「海だー!」

セシリア「海ですわー!」

鈴「山だー!」

セシリア「山ですわー!」

鈴「おいしい料理だー!」

セシリア「ですわー!」

鈴「そう考えていた時期があたしにもありました……」

セシリア「ですわねー……」

箒「……」

鈴「あぁもう! なんで雨なんて降るのよ!」

セシリア「日頃の行いが悪かったからじゃありませんのー……ふふっ……」

箒「ぞっとしないな」

鈴「はぁーあー……こっちにつくなりゲリラ豪雨だもんなぁ……しかもその癖中々上がらないんだもん……」

セシリア「そうですわねー……」

鈴「せめてキリコ達が早く帰ってくればなぁ……ラウラの眼帯伸ばして遊べるのに……」

セシリア「ほんっとうに碌でもない……」

鈴「キリコさぁ……結局耐圧服できそうじゃない?」

セシリア「……まぁ……服は個人の自由ですから」

鈴「にしたって限度があるでしょう。何が好きで高校生活の中で軍の服着てくる馬鹿がいるのよ」

セシリア「まぁ……そういうものに興味が無いのかもしれませんわね」

鈴「まぁねぇ……おじいちゃんかっての……」

箒「アイツは無欲だからな……基本的に」

セシリア「そうですわね。まぁ、それも良い所の一つなのですけど」

鈴「まぁね。まぁこうやって愚痴るのもなんだし、トランプでもやってましょっか」

箒「そうだな」

セシリア「そうですわね」

鈴「はい、じゃあセシリア配るのよろしく」

セシリア「……」

鈴「ルールどうするー?」

箒「私は何でも良いぞ。まぁ三人だし、大富豪かババ抜きくらいだろう」

鈴「そうね。じゃあ大富豪でいっか。はーいセシリラさん手ぇ動かしてぇ」

セシリア「……全く、何で私がこんな……」チャッチャッ

箒(文句は言うがやるんだな……)

鈴「それにしても、箒ちゃんもあれねぇ」

箒「な、何だ」

鈴「そのネックレス早速身につけちゃって……よほど気に入ったみたいね」

箒「ま、まぁな……それに、キリコがいつ帰って来ても良いように、つけておかないとな」

鈴「日々は短し、恋せよ乙女、ねぇ……」

箒「だ、誰が乙女だ!」

鈴「アンタ以外だれがいんのよここに!」

セシリア「鈴さーん、私もいますのよー」

鈴「口動かす前にさっさと配んなさいよ、殴って痛くするわよ」

セシリア「……このっ……」

箒(諦めろセシリア、端から見ても鈴の方が上だ……)

セシリア(というか自分も数に含んでいないのは自覚があるからでしょうか……)サッサッ

鈴「今何か変な事考えたでしょ」

セシリア「な、何でもありません。さ、お好きな束を選んで下さい」

鈴「んじゃあたしこれー」

箒「まぁ、目の前ので良いよな」

セシリア「では私はこれで……げっ」

鈴「セシリアは革命でも狙う事ねぇー……よし、ジャンケンやるわよ」

セシリア「ま、まだ負けた訳じゃありません……」

箒(そうやって自分の強さを吐露した時点で、敗戦は濃厚だと思うが……)

鈴「はいジャーンケーン、ぽんっ……はいあたしの勝ちー。じゃあはい、10のスリーカードー」

箒「おいっ」

セシリア「ぐぬっ」

鈴「誰も出せないわねー? よーし、Kのスリーカードー。4の四枚で革命ー」

箒「はぁ?」

鈴「そんで8のスリーカードでで八切りでしょー。3の二枚出しー、で6の二枚出しで勝ちー」

セシリア「……ろ、ローカルルールは無しですわ!」

箒「……いや、もういい」

鈴「テレビでも見よー」ポチッ

セシリア「……やめますか」

箒「そうだな……」

鈴「え、やめんの。決着つくまでやればいいのに」

箒「バ、ババ抜きにしよう! なっ? それならアッサリ終わらないだろ?」

鈴「んー、まぁあたしはどっちでもいいわよ」

セシリア「……どうせまた私が切るのでしょう……」チャッチャッ

鈴「わかってるじゃない」

セシリア「……はぁ……」

鈴「……」ポチッ ポチッ

セシリア「……」チャッチャッ



ガラガラッ


山田「どなかか呼びましたか?」

鈴「呼んでないです」

山田「あ、あれー? 確かに呼ばれたような……」

鈴「織斑先生じゃないですかね」

山田「う、うーん……そ、そうですか……」


ガラガラッ


鈴「……」

箒「……雨だなぁ……」

セシリア「ですわねぇ……」サッサッ

箒「……キリコ、遅いな」

鈴「あっちでシャルロット達とキャッキャウフフでもしてんじゃないのー……」

箒「そ、そんなはずあるか! アイツには私がっ……」

鈴「シャルロットを舐めない方が良いわよー……フランス人なんだから」

箒「だ、だが……シャルロットは、ちゃんと応援してくれると……」

鈴「ふっ、それ男って偽ってた時じゃない。それに、ラウラもいるのよ」

箒「あ、あいつが? あいつは、キリコを憎んでたろ?」

鈴「それがどういう風の吹き廻しか、ベッタリよ。私の嫁だとかいう飛び道具的な言い回し使ってね」

箒「よ、嫁……」

鈴「噂じゃ通い妻みたいな真似してるとか……」

箒「かっ……通い……」

セシリア「はい、配り終わりましたわよ」

鈴「はい、あんがと」

箒「通い、妻……だと……?」

鈴「そうよー……えっと……あれ、これのペアあったような……」

箒「……」

セシリア「えっと……これを捨てて……」

鈴「うげぇ……ババじゃん……」

セシリア「ふふっ、今度は負けませんわよ?」

鈴「よーし……見てなさいよ……因果律捻じ曲げてあんたの所にババ行くようにしてやるから」

箒「お、お前達は……」

鈴「何? ババ欲しいの?」

箒「わ、私の事を、お、応援とかは……」

鈴「あ゛ぁ?」

箒「ひっ」

セシリア「鈴さん、今のは女性がやってはは良い声と顔じゃありませんよ」

鈴「いや、ちょっとあまりにもふざけた事抜かされたから……え、今箒なんて言ったの?」

箒「え、お、お前らも、まだキリコを狙うと言うのか?」

鈴「当たり前じゃんなに言ってんの? 引きこもってIQ下がった?」

セシリア「当たり前ですわ」

箒「んなっ……」

鈴「あの時アンタを説教したのは、ただ明らかに落ち込んでるキリコを見てて、居た堪れないからやっただけよ。
  なんで、敵の応援するのよ」

セシリア「そんな都合の良い話が何処にあるのか聞きたいくらいですわ」

箒「……」

鈴「わかったら、前みたいにもっとがっついてきなさいよ。私と付き合ってもらう! みたいにさ」

箒「い、言うなっ!」

セシリア「な、何ですの!? それは!」

鈴「え、アンタ知らなかったっけ、箒さ、タッグトーナメン……むぐっ」

箒「い、言うんじゃない! わ、私が悪かったから!」

鈴「わ、わかったわよ……」バッ

箒「はぁ、はぁ……」

鈴「ったく、この暴走乙女が……ほら、引きなさいよ」

箒「……そ、外の空気を吸ってくる!」ガラガラッ

鈴「あっ、え、ちょっと! えぇ……」

セシリア「……たくましいんだか、ウブなんだか、よくわかりませんわね……」

鈴「……ちょっとだけ札を……」

セシリア「鈴さん」

鈴「はい」

セシリア「いけません」

鈴「はい」

セシリア「まぁ、箒さんが帰ってくるまで、明日の予定でも再構築していましょうか。
     あの様子だと、時間がかかるようですし」

鈴「そうねー……タケノコ掘りは?」

セシリア「どれだけ早起きがしたいんですの……」



……



箒「はぁはぁ……」

箒(に、逃げるように出て来てしまった……)

箒(ど、どいつもこいつも、お、乙女などと……)


ザァーッ


箒(雨、かぁ……)

箒(……どうせ、もうやる事と言ったら風呂に入るくらいだし、この雨にうたれるのも……良いかもしれんな)


パチャッパチャッ


箒(ふぅ……頭が冴えるな、この冷たさは……)

箒(全く、鈴のヤツ……いつまであれを引っ張るつもりなんだ……)

箒(はぁ……)

箒(結局、ライバルは減らず、か……)

箒(まぁ、当然だよなぁ……)

箒(キリコのヤツ、人当たりが少し柔らかくなったらしいし、ISの操縦技術は、まぁ最低でもこの学年では最強だろうし)

箒(顔も、まぁ、悪くは無い……いや、どうだ? 世間一般でいう女受けする顔ではないだろうが……)

箒(まぁ、なんだかんだで、今つるんでるヤツらは、キリコに心底惹かれてしまっているからな……)

箒(……ウカウカしてられんな……)

箒(……)

箒(ん、あの岬に行ってみるか……)



ザザァーンッ……


箒(雲で覆われてはいるが……やはり、広いという印象は変わらないな……自然というのは)

箒(……この海の向こうに、キリコがいるのか……)

箒(海外の研究機関にお呼ばれ、か……)

箒(……私は、もう置いていかれているな)

箒(キリコは、こちらを見て、待っていてくれてるのかもしれない)

箒(だが、早く追いつかなければ、いつ先に行ってしまうやら……)

箒(……)

箒(私にも……専用機があれば……)

箒(他の皆は、全員専用機持ちだ……無論、腕が立つのは言うまでもない)

箒(そして、まぁなんだ……)

箒(セシリアは自信家だし、育ちも良い。スタイルだって、そうだ……)

箒(鈴は、相手をグイグイと引っ張っていける力を持っているし、退屈はしないだろう。ある意味、猫のようだから、男性はほっとかないと、思う)

箒(シャルロットは、気配りもできるし、とても物腰が柔らかい……実に、女性らしい)

箒(ラウラは……話した事もあまり無いし、キリコを好きになったという事実がよくわからんが……。
  まぁ、男性からすれば、とてもかわいいという部類だろう)

箒(……全員、顔も良いしなぁ……)

箒(何なんだ一体……顔が良くないと専用機持ちにはなれんのか……)

箒(わ、私は……無理か、十把一絡げの部類だろう……他人から、あまり評価とか聞かないしな……基準が無い)

箒(はぁ……)

箒(……いや、いや。いかんぞ箒。またネガティブになったらダメだ。陰気な女に見られてしまう)

箒(別に、今からでも遅くは無いのだ。努力して、成績を上げて、勝ち取れば良い。専用機を)

箒(そうすれば、キリコも喜んで迎えてくれるはずだ)

箒(……ようし、やってやるぞ)

箒(この大海のように、デカイ存在になるのだ。キリコの目に、ずっと留まれるような!)

箒(こうと決まればこうしちゃおれん! 早速——)クルッ


箒「……」


ザァーッ



束「……」


箒「……えっ」

束「やぁやぁ、箒ちゃん……久しぶりだねぇ」

箒「姉、さん……」

束「こんな所にいたら、風邪ひいちゃうんだぞー。あーでもでもー、それを看病するのは、束さん的にはおいしいかもー」

箒「な……なんで、ここに……」

束「うーん? 知りたいー?」

箒「……」

束「それはねー、箒ちゃんを迎えに来たのさー!」

箒「……迎え?」

束「うん! そうだよー。これからキリコちゃんに会いに行くから、箒ちゃん達もいないといけないでしょ?」

箒「キ、キリコ? な、何だ……キリコが行った研究機関って言うのは、姉さんが噛んでる所だったのか……。
  も、もしかして、ちゃんとした研究機関に勤め始めたのか?」

束「そんな訳ないじゃーん」

箒「……え?」

束「これから、箒ちゃんとちーちゃん、それとキリコちゃんが、ずーっと一緒にいられる場所に行くのさ」

箒「……いや……言ってる意味が……」

束「もっちろん、この束博士も一緒だよ!」

箒「姉さん? どういう意味だ?」

束「……来れば、わかるよ」


ガシンッ ガシンッ



『……』


箒「……おい……それ、まさか……」

束「職人束さん入魂のハンドメイド作、無人ISベルゼルガ・レヴレンスちゃんだよー!」

箒「……キリコ達を、襲った機体じゃないか……」

束「うーん、酷い使い方するよねー。しかもなんかゴーレムとか言う変な名前つけてくるしー。
  あぁ、でもあの時はパイルバンカー積んだらキリコちゃん死んじゃうかなーって思って積まなかったから、
  それが原因で変な名前付けられちゃったのかなー」

箒「や、やはり……」

束「あの時は酷い事しちゃったからねー……早くキリコちゃんに会って謝らないと」

箒「……ね、姉さんが……」

束「……さて、と……」

箒「……」

束「じゃあ、一緒に行こっか……箒ちゃん——」

箒「……」

——



   第十二話
   「別離」



——



メルキア
国家最高戦略ビル




ウォッカム「我々が体験した事の無い世紀が、今、着実に訪れようとしています。
      長過ぎた戦争、この百年戦争がついに終結するのです」

ウォッカム「我がギルガメス、そしてバララント、両陣営の外交方の粘り強い秘密交渉によって、期日も決定しました。
      この情報は、今、この場にご出席なされている方々にだけ知られている事実であります」


ザワザワ……



ウォッカム「このまま待てば、我々は平穏裏に終戦を迎える事になります。
      バララントとの終戦を予想し、作成された戦略構想ZO−5。
      兵員の消耗を限りなく減らし、来るべき平和を迎える為に作られた最良のシナリオです」

ウォッカム「しかし、これで良いものでしょうか? 情報省は、政府及び国防総省、そして本会議に御列席の全ての省庁各位に、
      新たな戦略構想を動議致します!」



ザワザワ



ウォッカム「歴史は教えています。意味の薄い、一戦の勝利よりも、一つの意味ある地政学的勝利を選べと。
      ……問題は、ZO−5のシナリオには、戦後が織り込まれていない事です」

ウォッカム「来るべき平和の為にすべき事は何か!」



ウォッカム「——地球です」


「何だと?」
「不可侵宙域である、あの惑星を?」


ウォッカム「ギルガメス盟主たる我々メルキアの未来。豊かな発展を、終戦は保障してくれません。
      どのように戦いを終えるかで戦後が決まります」

ウォッカム「太陽系第三惑星地球の掌握は、我々に課せられた、歴史的使命なのです!」


ウォッカム「地球の戦略的重要性、それはこの惑星のみが所有している兵器、インフィニット・ストラトス。
      通称、ISと呼ばれる兵器にあります。
      この兵器の異常性を、この私如きが説明するのは僭越というものです」

ウォッカム「バララント、ギルガメス両陣営は、この技術の戦争導入を恐れ、戦争使用禁止という条約を締結しました。
      しかし、兵器という名のついた、戦争で禁じられた物体を所有する星。これを、ただ見過ごす訳にはいきません」



「ウォッカム次官、質問があります」


ウォッカム「どうぞ」

「ZO−5の策定には、情報省も多大な関与があるはずです。何故、この終戦直前になって今更軍事行動を起こすのか。
 真意が、わかりかねます」

ウォッカム「情勢の変化です」

「動議書によれば、我が軍は1億2千万の兵員導入をするとありますが、この数字は、常軌を逸してはいませんか」

ウォッカム「地球を確実に制圧するには、ささやか、と申しあげましょう」

「これまで記録に見られる最高の兵員導入は、2200万。これのおよそ五倍以上の兵員、ギルガメスの持てる力全てを、
 終戦直前に浪費する? 情報省は、これによる損失がいか程になるのか、予想が無い訳ではないでしょう」

ウォッカム「その点については、企画書をご覧下さい」

「更に、その企画書とやらには、地球にあるISを確保するとあります。だが、あのような兵器をどうやって拿捕する気なのですか!」

ウォッカム「確かに、我々の所有する兵器では、惑星そのものは破壊できても、あの小さな兵器を拿捕する事は、難儀でしょう。
      その前に、あの兵器一体だけで、AT隊二個師団が成す術も無く壊滅してしまいます」

「では!」

ウォッカム「目には目を、歯には歯を……そして、ISには、ISを……」


ブゥーンッ……


ウォッカム「この映像をご覧下さい。これは、我々情報省が所有するIS部隊、通称ISSです。
      IS開発者篠ノ野束博士の協力の下、我々情報社は秘密裏にISを作成していました」

「なっ……」
「何だと!?」

ウォッカム「この殆どが、無人機です。確実に任務をこなし、常人では反応しきれない攻撃にも反応し、迎撃する。
      この大隊の隊長となるのは人間ですが、その者はこの無人機の反応を遥かに上回る能力を持っています。
      その者が駆るISは、まさに一騎当千の鬼神と呼ぶに相応しい。並の操縦者では一たまりも無く敗れ去ります」

「……」


ウォッカム「我らがISSは、必ず地球を陥落させ、そして生きて帰ってくる。
      そう、運命付けられた部隊なのです」

ウォッカム「まず、我がISSが地球に降着。量産型のISを破壊し、戦力を削減。
      そして、専用機と呼ばれるカスタマイズされた機体をAT隊と共同で消耗させ、拿捕するのです」

「し、しかし! いくら対抗できる戦力があると言っても、何故この状況なのですか!
 期日の96時間前までの軍事行動の許容はあります、しかし地球は不可侵宙域です!
 このような場所を攻撃しては……」

ウォッカム「不可侵宙域、確かにそうです。ですが、逆にこうは考えられませんか?
      地球は、戦火に晒される事なく、ISという技術を蓄え、将来我々にも牙を剥く可能性があると……」

「……」

ウォッカム「地球は小さな惑星です。しかし、軍事力は我々メルキアに勝るとも劣らない。
      そう、このISという小さな兵器の為に」

ウォッカム「例えるなら、小さな獣です。小さい頃は、まだかわいらしく、人間からも守られる立場にあるでしょう。
      ですが、成長し、自らが戦えると自覚した瞬間、獣はどうなります?
      獣と我々は相容れないのです。故に、被害を小さく抑えられる内に、叩かねばならないのです」

「……」

ウォッカム「終戦が決定している現在、確かに常軌を逸した作戦かも知れません。
      未曾有の兵力投入は、バララントとの合意の全面的破棄に繋がりかねず、戦争を後百年続ける事もあり得ます。
      しかし、私はこれだけは申し上げたい……」

ウォッカム「目の前にある不安、そして、それを除けば、強大な力を我々の物とする事ができるかも知れないという状況で、
      動かないとするならば、以降、我がギルガメスの歴史における最大の損失、そして、恥となる事でしょう」

ウォッカム「安穏と平和を受け入れ、失った物を忘れ去るような屈辱的な終戦よりも、茨の道を選ぶべきだと!」


ウォッカム「情報省は、この会議の厳粛なる意思に従うものであります。そして、皆様の、賢明なる判断を、私は心より期待しております。
      御清聴、感謝致します」



……

ルスケ「閣下、素晴らしい戦略動議でした」

ウォッカム「ふっ、軍部も反対はできまい……我々のISSの映像を見た時の、奴らの顔と言ったら……」


「ウォッカム君」


ウォッカム「……これはこれは、ペールゼン閣下」

ペールゼン「見事な動議だった。君が、あそこまで強かな人間だとは、私も思っていなかった」

ウォッカム「そのような会話をしに来た訳では、無いはずですが」

ペールゼン「……キリコは、君の部隊から除外しろ」

ウォッカム「いえ、彼は我がISSの隊長となって貰わねばなりません。
      彼の異能という赫奕たる能力が、あの部隊を纏めるのにふさわしい」

ペールゼン「それならば、ボーデヴィッヒでも良いだろう。彼女の方が、軍での経験、階級、そのどちらもがキリコより上だ」

ウォッカム「彼女でも良いのなら、キリコでも構わないはずですが?」

ペールゼン「……彼女らは、近似値に過ぎん」

ルスケ「近似値?」

ペールゼン「所詮、人間の手によって作られた模造品だ。彼女らは、異能生存体などでは無い。
      限りなくそれに近いが、死なない個体などでは無い」

ウォッカム「何故否定するのです。御自身の画期的な発見を」

ペールゼン「間違いだからだ。そして、それを知る者によっては、有害になるからだ」

ウォッカム「サンサにあった異能生存体の研究施設、そこにあった製法を貴方は見つけた。
      そして、キリコ以外の異能生存体を二人作り出す事に成功した。
      それが、今私が持っている貴方のファイルに記してあった事実です」

ペールゼン「……」

ウォッカム「謹んで、このファイルをお返ししましょう」

ペールゼン「私とした事が、こうも簡単に隠匿した事実を知られるとは、情けない」

ウォッカム「貴方のファイルに記された二人、その二人は確かに常人ならざる能力を持ち、
      そして、過酷な環境を生き延びた。
      彼女達も、異能生存体なのです」

ペールゼン「……まだ、わからんようだな」

ウォッカム「……」

ペールゼン「繰り返すが、彼女達は異能生存体では無い。異能生存体は、キリコだけだ。
      そして、キリコをそのような作戦に参加させる事は、非常に危険だ」

ウォッカム「……ふふっ」

ペールゼン「何だね」

ウォッカム「近似値でも、構わないのですよ。それで、十分なのです。
      彼女らの機能と、結果としての効用があれば、十分なのですよ」

ペールゼン「……」

ウォッカム「そして、キリコは、私に従うしかない」

ペールゼン「……どういう意味だ」

ウォッカム「人質をとらせて頂きました。キリコが、貴方の部隊に焼かれた地で、キリコと共にいた少女を」

ペールゼン「そんな者が、生きていたとはな。てっきり、焼き殺したものだとばかり思っていた」

ウォッカム「支配を拒否するならば、そうできないようにするまでです」

ペールゼン「……中々に、君も私と同類のようだな」

ウォッカム「私は、貴方のような完璧主義者では、ありませんがね……」

ペールゼン「……身を、滅ぼすぞ」

ウォッカム「御忠告、感謝致します。作戦には、閣下の部隊にもお力添えを願うと思いますが、その折に、また……」

ペールゼン「……」


カツカツッ


ペールゼン(……キリコ……)

ペールゼン(私はやはり……触れてはならぬ者を、呼び起こしてしまった……)


——




「……」

「嫁よ」

「……」

「起きるんだ、キリコ」

「……ん……」

「早く起きろ、緊急事態だ」

「ラウ、ラ……」

ラウラ「……起きたか」

キリコ「……」

ラウラ「どうやら、我々は拉致されたらしい」

キリコ「……拉致?」

ラウラ「あぁ……それに、シャルロットの姿も見当たらん」

キリコ「シャルロットが?」

ラウラ「……」

キリコ「……まず、ここがどこだかわかるか」

ラウラ「わからん。しかし、地球では無い事はまず間違いないだろう。若干重力が違う」

キリコ「……そうか」

ラウラ「あれから、何日が経ったか……とりあえず、ベッドから出ろ。代えの耐圧服もそこにある。
    今の内に着替えておけ。私はもう着替えた。中にはISスーツも着こんだしな」

キリコ「……あぁ(アーマーマグナムが無い、か)」



サッ シュッ


キリコ「……」

ラウラ「どうやら、ここは監視者の本拠地らしいな」

キリコ「あぁ」

ラウラ「私の推測だが……ここはギルガメス領だろう」

キリコ「あの研究機関とやらは、ダミーか何かだったらしいな」

ラウラ「あぁ……しかし、わからんな……何故よりによって私とシャルロットまでお前と一緒に拉致されたか。
    お前以外は、用済みだと思うのだが……」

キリコ「……」

ラウラ「……すまん。まだシャルロットの安否がわからない状態だったな」

キリコ「アイツも、ただじゃ死なない。きっと無事だろう」

ラウラ「……あぁ」


プシューッ


キリコ「っ!」

ラウラ「誰だ!」ジリッ

「キリコ・キュービィー、ラウラ・ボーデヴィッヒ。こちらに来い」

ラウラ「貴様……何者だ、名を名乗れ」

ルスケ「私は、コッタ・ルスケだ。いきなりお前達を拉致した事は詫びよう。しかし、今は時間が無い。
    モタモタせずに、ついてくるのだ。ついた先で、詳細を話す」

キリコ「……」

ラウラ「……どうする、キリコ」

キリコ「……行くしか、無いだろう」

ルスケ「呑み込みが早くて助かる。では、こちらに来たまえ」

キリコ「……」

ラウラ「……」


プシューッ
カツカツッ


ルスケ「……失礼します、閣下」


プシューッ


ルスケ「キリコ・キュービィー、ラウラ・ボーデヴィッヒをお連れしました」

「……来たか」

キリコ「……」

ラウラ「……誰だ」

ルスケ「口を慎め」

「構わん、ルスケ。私は、この二人に会えて感動しているのだ」

ルスケ「……はっ」

「名乗るのが遅れたな。私は、メルキア情報省次官、フェドク・ウォッカムだ」

ラウラ(メルキア情報省……しかも高官か)

キリコ「……」

ウォッカム「ルスケ、彼らに説明を」

ルスケ「はっ……お前達は、IS学園より除籍及び地球の所属からも除隊、新たに情報省直轄IS部隊ISSに所属する事になった」

ラウラ「何だと?」

キリコ「……」

ルスケ「仕事は、まぁお前達も元軍人だ。そことやる事はさして変わらん。
    だが、報酬等は雲泥の差だ。何か質問は」

ラウラ「ま、待ってくれ。除隊だと? シュヴァルツェ・ハーゼから?」

ルスケ「そうだ。貴様は、これよりメルキア情報省の精鋭となった」

ラウラ「ば、馬鹿な……不可侵宙域に何故それ程の影響力が!」

ウォッカム「君は、まだ子どもだからわからんかも知れんが、不可侵宙域と言っても、両陣営に保護されているに過ぎん。
      影響力など、裏から回せばいくらでも作れる」

ラウラ「っ……」

ルスケ「他に質問は」

キリコ「……あります」

ウォッカム「デュノアの事なら、安心しろ。彼女は別室にいる。が、今は会える状態では無い。
      彼女は今、少々調整をしている最中でな」

ラウラ「調整……そうか……シャルロットの脳に細工を施したのは!」

ウォッカム「そうだ、我々だ。が、この技術を見つけたのは別の者だ。恨むなら、その者を恨め」

ラウラ「……」

キリコ「……俺の質問は」

ルスケ「うん?」

キリコ「もし、命令に従わなかった場合どうなるのかと、聞きたかったのですが」

ルスケ「……」

ウォッカム「ふっ、さすがはペールゼンが泣き事を漏らすだけの事はある。
      安心しろ、その場合の対処もしてある」

キリコ(ペールゼン……こいつの後ろに、ヤツがいるのか?)

ウォッカム「さて、この映像を見ろ」


ブゥーンッ……



キリコ「……っ!?」

ラウラ「こ、コイツは……」

ウォッカム「そうだ。まぁ、単純な話、彼女は人質だ。御理解頂けたかな?」


キリコ「……箒……」



ラウラ「っ……アンタは、人間の屑だなっ!」

ルスケ「貴様っ!」

ウォッカム「私としても、お前達を扱うにあたって保険が必要でな……こういう事はしたくなかったのだが、
      仕方が無い事だったのだ」

ラウラ「……」

キリコ「……」

ウォッカム「お前達を、あのIS学園に集めたのは私だ。お前達に共通するある能力を試す為にな」

キリコ「あの、襲撃事件の二件や、ラウラのISに仕掛けられたシステム、そしてあの飛行機も、それですか」

ウォッカム「そうだ。まぁバララントの襲撃は、私の直接的な指揮では無いがな」

ラウラ(共通する……能力? 何だ……ISの操縦技量か? いや、そんなはずは……)

ウォッカム「その辺りは、作戦終了後に詳しく説明してやる……ルスケ、続けろ」

キリコ(作戦?)

ルスケ「は、はっ……お前達は三日間、これより休暇をとって貰う。そしてその後、我々ギルガメスは全力を挙げた作戦を決行する。
    お前達は、最も重要な任を負うISSの隊長、副官について貰う」

キリコ「……俺が?」

ウォッカム「そうだ。キリコ、お前が隊長だ。他の二名は、副官として回す」

ラウラ「……」

キリコ「……攻め込む、場所は」

ルスケ「地球だ」

キリコ「!」

ラウラ「そ、そんなっ……」

ルスケ「今回のお前達の任務、それは地球に存在するIS全ての回収及び破壊だ」

キリコ「っ……」

ルスケ「地球は中立、不可侵宙域にありながら、壊滅的なまでの兵器ISを所持している。
    軍は、これ以上、この自体を容認する事ができなくなった。故に、ISを吸収し、更に軍備を強化する事となった」

ラウラ「馬鹿な……」

ウォッカム「嫌とは、言わせん……」

キリコ「……」

ウォッカム「どうする。承諾してくれるかね? 私としても、双方の同意があった方が、後腐れなくできるというものなのだが」

キリコ「……」

ラウラ「……キリコ」

キリコ「何だ」

ラウラ「……私は……」

キリコ「……」

ラウラ「私は、お前の決定に従う」

キリコ「……ラウラ」

ラウラ「お前は、私の嫁だ。命を懸けて良い存在だ……」

キリコ「……」

ラウラ「だから、お前の、意思に従う」

キリコ「……」

ラウラ「あそこに映っていた彼女が、大切だと言うならば……お前がどうしても助けたいと言うのなら……。
    私は、喜んでこの作戦に参加する。地球を、敵にとる……」

ウォッカム「……うむ、素晴らしい自己犠牲の精神だ……それで、キリコ……決まったか。
      仲間に背中を後押しされているのだぞ?」

キリコ「……俺は……」




地球のISを破壊し、回収すると言う事。



キリコ「……」





それはとどのつまりは。



キリコ「俺は……」




——友殺し。



キリコ「……やり、ます」

ウォッカム「……そう言ってくれると思っていた。ルスケ」

ルスケ「はっ。話は以上だ。お前達は、この館の一階部を自由に使え。プール、食堂、そう言った設備もある。
    この三日間にそれらを利用し、十分に体を休める事。わかったな」

キリコ「……了解」

ラウラ「……了解」

ウォッカム「デュノアもすぐに向かわせる。安心したまえ」

キリコ「……」

ラウラ「……」

ルスケ「では、こちらに来い」

キリコ「……はっ」

ラウラ「……」


プシューッ

ウォッカム「……」

ウォッカム(……同じだ)

ウォッカム(キリコも、あの娘も、何ら変わりない。三人全てが、異能生存体なのだ)


プルルルルッ


『閣下、メルキアから連絡が入りました。最高戦略会議は、全員一致で可決です。軍は、我々の作戦を全面的に支持すると』


ウォッカム「……そうか、御苦労。我々の部隊を見ては、何もできまい」


『では、失礼いたします』


ガチャッ


ウォッカム「何もかもが、順調だ……」



——

ちょっと一旦区切りますね
起きてたら、この話の後半部まで投稿します



ルスケ「ここが、お前達の部屋だ。この先に食堂がある。わかったな」

キリコ「はい」

ラウラ「……はい」

ルスケ「よし、では私はこれで失礼する。しっかりと体を休めるように、良いな?」

キリコ「はっ」

ラウラ「……はっ」


プシューッ


キリコ「……」

ラウラ「……」



ボフッ


キリコ「……俺は……」

ラウラ「……」

キリコ「俺は……」

ラウラ「……あれが、正しい選択だったんだ。あの時、拒んでいたら、我々は全員死んでいた」

キリコ「……そんなはずはない」

ラウラ「……何?」

キリコ「絶対に、俺は——」


プシューッ

シャル「あっ、キリコ! ラウラ!」タタタッ

ラウラ「シャルロット……うわっ!」ギュウッ

キリコ「……シャルロット」

シャル「良かった……二人共、無事でっ……」

ラウラ「お、おい……あんまりそう強くされては、痛いぞ。キリコと私を病院送りにする気か?」

シャル「も、もうっ……そんなんじゃないよ……」

ラウラ「あぁ、気にするな。冗談だ」

シャル「ら、ラウラも冗談言うんだ」

ラウラ「ふっ、友人にくらい、それくらい言うさ。なぁ、キリコよ」

キリコ「……あぁ」

シャル「そ、そっか……でも、本当に、良かった……」

ラウラ「……で、だ。シャルロット」

シャル「な、何?」

ラウラ「何か、奴らにされたか」

シャル「え、えぇ? 何かって?」

ラウラ「奴らに頭を弄られたり、催眠術の類なんかをかけられたりはしていないか」

シャル「な、何の事……あ、あれか……」

ラウラ「ど、どうなんだ! やはり、何か……」

シャル「ううん……わからない。起きたら、手術室みたいな場所にいたから……」

ラウラ「……そうか(まず、何かされたと見て、間違いないな)」

キリコ「……ラウラ」

ラウラ「……あぁ。お前は、私達のこれからの話を、聞いたか?」

シャル「……これから、地球を攻撃するんだよね」

ラウラ「そうか……知っていたか」

シャル(……あれ、そんな話聞いた事……あれ? 何で知ってるんだろ?)

キリコ「……すまない……俺が、請け負ったせいで……」

ラウラ「仕方が無かったんだ、キリコ。彼女を、人質にとられたんだからな」

シャル「えっ……だ、誰?」

キリコ「……箒だ」

シャル「ほ、箒……が、人質? え、な、何で?」

ラウラ「我々に言う事を聞かせる為だ。下劣な……連中だ……」

キリコ「……」

シャル「っ……」


プシューッ


「キー、リーコ、ちゃーんっ!」ズダダッ



キリコ「!?」ガッ


「おー! この不意打ちにもちゃんと対応できるなんて、さすがキリコちゃんだー。
 でもでも、この手をどけて、束さんのあつぅーい抱擁を受け取ってくれると嬉しいかなー!」


キリコ「アンタは……束さんか」


束「おぉー! やっぱり記憶戻ってくれてたんだねー! 良かったー!
  記憶が無くなってるとかいう報告受けてたから心配したよー」

キリコ「……相変わらず、落ちつきが無いな」

束「ぶぅーっ、落ちつきが無いんじゃなくて、あり余り過ぎるキリコちゃんへの愛が私を突き動かしてるだけだよー!」バタバタ

キリコ「……その、テンションもな……」



ラウラ「お、おい……嫁よ」

シャル「その人……誰?」


キリコ「おい……自己紹介くらい、しろ」

束「えぇー、めんどくさいぃーん」

キリコ「……この人は、篠ノ之束だ。箒の姉だ」

ラウラ「篠ノ之、束……」

シャル「あっ……も、もしかして……ISの、開発者……」

束「さぁ、キリコちゃん、ちゅーでもなんでもしようじゃないかー」バタバタ

シャル「……」

ラウラ「……」

シャル・ラウラ((何だか、思っていたのと、違う……))

キリコ「ラウラ、こいつを剥がすのを手伝ってくれ」

ラウラ「了解した」グイッ

束「むむっ、束さんとキリコちゃんの久しぶりの感動たる再会を邪魔する気だなー?
  負けるかー!」バタバタ

ラウラ「ぐっ……何という力だ……シャ、シャルロット!」

シャル「えぇ? 僕? しょ、しょうがないな……」

束「ぐぬぬっ、束さんのラブパワーは、必ず……」

シャル「よいしょっ」グイッ

束「あぁーんっ、剥がされたーっ!」

シャル「げ、元気な人だね……」

キリコ「……そうだな」

束「放してーっ! 出ないと、この束さんは武力行為によってこの非人道的な行為をー!」

キリコ「束さん」

束「ん、なぁに?」

シャル(キリコがさん付けするの聞くと、なんかゾッとする……)

ラウラ(あぁ……)

キリコ「箒は、どこにいる」

束「ん、箒ちゃん? 箒ちゃんはキリコちゃん達が三日後に乗る予定の艦に運ばれちゃったんだー……。
  せっかく箒ちゃん連れて来てあげたのに、酷いよねー、もっと触れ合いさせてくれても良いよねー」

キリコ「……そうか(この人を、ダシに使ったか)」

束「ちーちゃんも一緒に連れてくる予定だったんだけどさー。さすがに抵抗されちゃったよ。
  ちーちゃん奪還作戦しっぱーい……」

キリコ「……姉さんを?」

束「うんうん。そもそも、この計画に協力する条件に提示したのは、キリコちゃんと箒ちゃん、そしてちーちゃんの身柄なんだよねー」

キリコ「……どういう、事だ」

束「元々地球と戦争おっ始めるのは計画の内だったらしいけど、ISに敵う兵器なんて持ってる訳ないしー。
  ってことでそこに束さん登場。それで、戦争始めても良いけど、この三人はこっちにちょうだーいって言ったの」

キリコ「……」

束「まぁ、ちーちゃんは今度の作戦で、無力化して回収って事で! それはキリコちゃんの任務だから、よろしく!」

キリコ「……最初から……」

束「ん?」

キリコ「最初から……戦争をする気だったのか」

束「うん、そうだよー? それが?」

キリコ「サンサの……あの日を、体験したのにか」

束「え? まぁうん、確かにふざけるなーって感じだったけど、別に三人ともこうして生きてたわけだし、今はどうでも良いかなって」

キリコ「っ……」

束「まぁ、それに。ISはその内完全な兵器利用されるってのは、わかってた事だし、良い機会かなってね。
  三人が出来るだけ被害被らないようにしたかったんだけど、キリコちゃんがIS動かせるってなって計画変わっちゃってさぁ。
  もう束さんビックリしたよー、まぁでも、キリコちゃんならそんな不可能も可能にしちゃうか」

キリコ「……」

束「あっ! そうそう、キリコちゃんとその他オマケの機体も私が弄って凄い性能にしておいたからね!
  三日後に見えるはずだから、期待しておいてね!」

キリコ「……あぁ」

束「いやぁ、でも今思うとちーちゃんに機体渡してから来て貰おうだなんて言わなきゃよかったなぁ……」

キリコ「機体を、渡したのか」

束「うん。ついでに戦争始める事も教えちゃったから、今頃地球はてんやわんやしてるだろうね」

キリコ「……そうか」

束「ちーちゃんの機体は完全にちーちゃん仕様だからねぇ、きっと連れてくるには手こずると思うよー」

キリコ「……」

束「あ、ゴメン。キリコちゃんの機体最終チェックもっかいやらないと。念には念を入れてね!
  じゃあ、そういう事で、バイバーイ!」


プシューッ

ラウラ「……」

シャル「……風のような人だった……けど、あの人が、戦争の発端を……」

ラウラ「何て事だ……IS開発者が、ギルガメス側に回っただと? そんな、馬鹿な……」

キリコ「……」

ラウラ「……」

シャル「……少し、疲れちゃったね……もう、寝よっか……」

ラウラ「……あぁ」

キリコ「……」



そして、俺達は休暇として与えられた三日を過ごした。
食事も味がわからない、寝ることもままならないような状況で、むしろ疲労が嵩んだのは言うまでも無い。

箒を人質に取られ、何もできない自分が憎かった。
自分の預かり知らない、異能と呼ばれる能力でさえ、その状況をどうにかできるものでは無かった。
寝ても覚めても、考える事は箒の事、そして地球に残した仲間の事だけだ。
これから、奴らを相手にしなければならない。試合ではなく、本当の命のやり取りを。

ラウラも、シャルロットも、それは同じ気持ちなのだろう。
彼女達からも、沈んだ空気が感じられた。

そして……。


——


箒が誘拐され、織斑先生の誘拐未遂が起きた翌日。
臨海学校は中断され、あたし達は本国へ返された。
メルキアからの、宣戦布告を得て。


『緊急ニュース速報です。ただいま、ギルガメスから、この地球全土に宣戦布告が通達されました!』


ニュースがけたたましく、このどうしようもない事実を、繰り返し、繰り返し発表していた。
キリコも、シャルロットも、ラウラも、行方知れずのまま。
セシリアとも、学校の皆とも別れ、私は本国に帰り、専用機持ちとして前線に送られる事となった。

自分の家庭を壊した戦争に、自分が出る。滑稽だった。
あたしは、兵士じゃない。だけど、抗える力を持っていた。
拒否権は無い。これは義務だった。

不安だった。

これは試合なんかじゃない。ルールに守られたものなんかじゃない。
本当の、命のやり取りなんだ。

足が、震えた。

こんな時に、キリコが、皆が傍にいてくれたら。
これが夢だったら。
突然この夢が覚めて、気付いたらまた皆と笑ってる状況に戻ってくれたら。
そう、思考が固まった。

あたしは、兵士なんかじゃ、ない。
まだ、死ねない。


あたしは……。



……

本国に戻り、私は軍に導入されました。
IS専用機持ち。当然の義務でした。

家の者に、どこか戦火の及ばないような場所に逃げなさいと暇を与え、それだけを済まして、私は軍と合流しました。

震える魂が、小さく囁いていました。

何故自分が? 何故こんな時に?
何故、好きな人ができたのに、こんな……と。
答えなど、出るはずも無いのに。

そして、一番心配なのは、離れ離れになった友人達でした。
帰ってこないキリコさん、シャルロットさん、ラウラさん。
自分の国へ戻った鈴さん。
忽然と姿を消した箒さん。

一番、傍にいて欲しい人達が、次々と離れていき、私は一人で銃を握っていました。

いえ、握っていたのではない。
すがっていたのでしょう。

気付けば、キリコさんのあの目を見た時と、似たような感覚を覚え始めていました。
死ぬ。もしかしたら自分が。もしかしたら友人が。最愛の人が。
まだ、自分の気持ちも伝える事が、できていないのに。

まだ……。



……

突如姿を現した束を渡された機体で振り切り、私は軍司令部にいた。
メルキアという超大国から、この不可侵宙域であるはずのちっぽけな惑星への、当然の宣戦布告。
準備は急を要した。平和ボケした人々、足りない物資、どれも予想できたはずなのに、我々は慢心していた。

あの時、私は束から聞いた。
戦争の目的、彼女が来た理由、そして……キリコ達の今後。

意味がわからなかった。
戦争を起こす。異能。IS拿捕。
裏切り。人質。
炎。家族。
瓦礫。血。
肉が焼ける。骨が飛び出る。
叫び。悲痛な。

……フラッシュバックした。あの地獄が。
何とか、一人で逃げだせた。あの時は。

だが、今は違う。
抗える力を持っている。
あの恨みを、晴らす時が来る。
誰かを守る。この手で。
絶対に。


それが、我が宿命なら。
もう、逃げられない。

逃げられない、のだ。


私は……。


——



『この戦いが、我々の未来を決定するのだ! 諸君! 地球の制圧は、我がギルガメスの歴史的な日なのである!
 失敗は許されない! 作戦の成否は、アストラギウス銀河の未来をも決定する!』


「ん、おい」

「何だ」

「あそこに映ってるの、キリコじゃねぇか?」

「うん? ……本当だ、キリコだな!」

「アイツ……やっぱり生きてやがったか!」

「曹長、なんでアイツはあそこにいるんだ」

「さぁな。まっ、殺しても死なない男だ。お偉いさんの目にでも止まったんだろうぜ」

「けっ、レッドショルダーを抜けたと思ったら、出世しやがって。俺達も連れてけってんだ」

「また最前線送りだもんな」

「まっ、これも運ってヤツさ」

「ま、そういう事だな」

「アッチであいつにあったら挨拶代わりに一発撃ち込んでやるか」

「死なないからって、そりゃマズイだろさすがに」

「へっ、冗談だよ」

「ようし、気合い入ってきたな! ふんっ」パンッ

「おら先行くぜ」

「勝手に行ってろ」

「けっ、つまんねぇヤツ」



……



千冬「おい! そっちの小隊は配置についたのか!」

「はい! 完了しました!」

千冬「よし! お前達はそこを死守しろ! いいな!」

「了解!」

千冬(ギルガメスからの攻撃は、もう始まってしまう……)

千冬(そうすれば……)

千冬(もしかしたら、ヤツらとも……)

千冬(……)



……

キリコ「……」

束「やぁやぁキリコちゃん! 機体の調子はどうだい!?」

キリコ「……さぁな」

束「このセイバードッグ・ターボカスタムISS仕様は、移動能力に重点を置きまくったんだよ!
  イグニッション・ブーストで使うエネルギーを、別のとこからもってこれるようにして、
  回避機構の利きも、キリコちゃんだから使えるレベルにしちゃったから!
  他にも、シールドの増強、ミッションディスクの追加なんてのも——」

キリコ「……束さん」

束「ん、なぁに?」

キリコ「……箒は、どこですか」

束「あぁ、ここの上の階層にいるよ」

キリコ「……」

束「会いたい?」

キリコ「……会わせて、貰えますか?」

束「うーん、どうだろう。まぁ束さんの権限使えば、部屋に入る事くらいはできると思うよ」

キリコ「……お願い、します」

束「んー、わかった。じゃあ、IS戻しちゃってー」

キリコ「……」


キュウウンッ

キリコ「……」

束「よし、じゃあこっちについて来て」

キリコ「……はい」



戦いの直前。俺はやっと、彼女に会える事になった。



キリコ「……早く、して下さい」

束「もう、そんなに焦んなくても大丈夫だよ」

キリコ「……」



彼女に会って、最初に何を言うか。
懺悔、歓喜、泣言……思考が回り、鼓動が早鐘を打っていた。



プシューッ



束「さぁさぁ、ここが箒ちゃんの部屋だよ」

キリコ「……箒っ!」



そこには、棺のような物に閉じ込められ、眠らされている箒がいた。



キリコ「箒……」



動かず、息をしているのすら感じ取れない、深い眠りに入った彼女を見て。
俺は、胸が沸き立った。彼女が生きているという事実が、俺を、歓喜させた。



キリコ「……」




そして、彼女の首元には。



キリコ「……あれは……」



あの、ネックレスが、光っていた。



キリコ「……」

束「どう? 寝かされちゃってるから、感動の再会とはいかなかったけど、安心した?」

キリコ「……あぁ」

束「……そっか」



「ここにいたか」


キリコ「……」


ウォッカム「早く支度をしろ、キリコ。隊長のお前が遅れては、洒落にならん」

キリコ「……はい」

ウォッカム「安心したまえ。このように、篠ノ之箒は生きている。まぁ、眠らせてはいるがな。
      この艦は指令を主にする艦だ。前線にはいかんから、撃墜の心配も無い」

キリコ「……」

ウォッカム「では、行くぞ」

キリコ「……はっ」

束「それじゃあ、キリコちゃん! 頑張ってきてね! ちーちゃんを絶対連れてくるんだよ!」

キリコ「……あぁ」





学園という白昼夢は、このISという不発弾により、崩れたのだ。
そして、俺達は策謀という抗えぬ流れに流され、ここまで来た。

俺は、やらねばならない。
かつての友を敵にしても、家族を敵にしても、全世界を敵にしても。
俺は、やらなければならない。

卑怯者と罵られ、吸血鬼と揶揄された。
全てが真実では無いが、全てが嘘でも無い。
今の俺が、そうであるように。


だが、俺は躊躇わない。

俺の、命よりも大事な人を、守る為に。
俺の宿命を、守る為に。
全てを犠牲にしても、構わない。
友も、過去も、俺でさえ。


箒の、為に。





ラウラ「……」

シャル「……」

キリコ「……」


ウォッカム『我が精鋭部隊ISSよ。お前達はこの作戦、ひいてはメルキアの未来をも左右するのだ。
      それを、十二分に刻んでおけ』


キリコ「……」

シャル「……」

ラウラ「……」





武器をしっかり持って、戦いなさい。勝って、貴方はやはり違うのだと、私達に思い知らせて下さい。



ウォッカム『我々は、歴史に名を刻むこの作戦で!』





……あたしと、あんたの……仲じゃない……あんたを、守るのなんて、当然よ……。



ウォッカム『我々は、偉業を成し遂げるのだ!』





……ありがとう、キリコ。君は、僕の生き方を変えてくれた、大切な人だよ。



ウォッカム『敵と同じ兵器を駆り!』





お前は、私の嫁だ。命を懸けて良い存在だ……。



ウォッカム『そして! 全てを手に入れる!』





お前は……義理なんて抜きにして、私の大切な弟だった……だが同時に……許したくない、相手でもあるんだ。



ウォッカム『全てを!』





よ、良かった……本当に……無事に、戻ってくれて……。



ウォッカム『全てだ!』





だったら……私は、お前に近づかない方が良いのかもしれない……。
私は、お前が……キリコが過去を思い出さなくても、生きていてくれるなら、それで良いから……。



ウォッカム『行け! 全ては、お前達の手にかかっている!』





……放さないで、キリコ……。


わかってる。

俺は、お前を……。





ウォッカム『出撃っ!』



ガシンッ
キュィイイッ




俺は、ただ進む。地獄に向かって。
友を道連れに、爛れた宙を、進む。
吹き飛ばせ、この地獄を。




キリコ「……箒……」



キュィイイイッ……



——




鉄の臓が猛り、鉛の肺が跋扈する。眼はレンズの奥に消え、飢えたる如く肩を振る。
流れる血は誰のもの。見つめるその目は誰のもの。お前のものは何処にある!
抉れ、奪え、啜れ、喰らえ! 己の異能を示す為、過去と故郷を喰らってきた。貪れるものは何処にある。俺の糧はどこにある!
俺は、死なない! 死なない! 全てを、喰らい尽くすまで——。

次回、「喰」

お前達は、ヤツの食い物に過ぎない。



——

ちょい駆け足かね、まぁ今回はここまで
後二話くらいで完結したいが……次スレ、行かなければ良いな……

あ、あの三人出したけど、もう出てこないよ




キュィイイッ



キリコ「……」

ラウラ「……」

シャル「……」


束『やっほー! キリコちゃん聞こえるー? 束さん特別チャンネルで御呼び出し中だよー!』


キリコ「……あまり、耳元で甲高い声を出すな」

束『むぅーっ、キリコちゃんいけずー。まぁそれは置いといてー、作戦の確認するねー。キリコちゃんの最重要任務は、
  専用機の奪取と、量産機の破壊。そしてなによりちーちゃんの確保! 最後がいっちばん重要だかんね!
  これやってくれないと、束さんがこの作戦に参加した意味無くなっちゃうから』

キリコ「……」

束『ちーちゃんには束さんが手塩にかけて作った最新機を渡してあって、かなり手ごわいと思うけど、なんとか説得するか無力化してね?
  あ、あとあと、専用機持ちは生け捕りにするんだよ? そっちの金髪の子みたいにちょちょいと脳に細工しちゃうから』

キリコ「……」

束『それとー、反逆なんて考えないでね? さすがのキリコちゃん達でも、前回より性能段チのゴーレム200機と戦艦を相手にするのは、
  やめてほしいかなーって思うから』

キリコ「……」

束『キリコちゃんの能力は、知ってる。とても凄い事だとは思うけど、怪我はする。精神だって、普通なんだ。
  だから、無理はしないでね?』

キリコ「……」

束『キリコちゃん、箒ちゃん、ちーちゃん……その、誰一人でも、欠けて欲しくないからさ……。
  絶対、今言った事は守ってね?』

キリコ「……」

束『オッケー?』

キリコ「……あぁ」

束『オッケー。じゃあ敵ISの反応が近づいて来てるから、ベルゼルガ・レヴレンスちゃん辺りでかるーく蹴散らしちゃって』

キリコ「……了解」



シュンシュンシュンッ
ズガガガッ



ラウラ「来たぞっ!」


シュンッシュンッ


ラウラ(量産機か……)

キリコ「ゴーレム二機、ヤツらを倒せ。残りは俺に続け」

シャル「了解!」

ラウラ「……了解!」

——


  第十三話
  「喰」


——




ウォッカム「キリコ達はどうだ」

ルスケ「敵IS隊と、交戦が始まったようです」

ウォッカム「そうか……まずは、EU侵攻だったな」

ルスケ「はい……しかし……」

ウォッカム「何だ」

ルスケ「彼らと級友だったオルコットが、イギリスにいるようですが……大丈夫なのでしょうか」

ウォッカム「奴らに、決定権は無いさ……その為の人質だ」

ルスケ「はい……我々の部隊が、量産機の防衛線を突破してから、AT隊が突入します。
    専用機の捕獲は、あの三人がかりで……」

ウォッカム「……そうか」

ルスケ「我らが保有するISは、200機……しかし、有人機はたったの3機……」

ウォッカム「……」



……




『……』ズガガガッ

「くっ……なんて火力っ……」

『……』ジャキンッ ズドンッ

「きゃあっ!」

『……』ヒュンッ




キリコ(ゴーレムは前回戦った時よりも、動きが上がっているな……)

シャル「あっ、ラウラ!」


ヒュンッ


キリコ「っ! ラウラッ! 待て! 突っ込むな!」


ラウラ「退けぇーっ!」キュウウンッ


「くっ、アイツは!」
「この……裏切り者がぁーっ!」ズガガガッ


ラウラ「退けぇっ! 退かなければ死ぬぞぉっ!」キュウウンッ

キリコ「ラウラッ! あまり前に出るなっ! 戻れ!」



「こいつっ!」バシュウウッ


ラウラ「っ!」ヒュンッ


「死ねっ! 裏切り者っ!」ジャキンッ


ラウラ(くっ、前からの銃撃でAICが……)


シャル「はああああっ!」ズガガガガッ


「ぐっ……こっちにもいたか……し、シールドがっ」


ラウラ「シャ、シャルロット!」

シャル「止まったなっ!」ジャキンッ


ズドンッ


「がふっ……」


グチャッ
シャキンッ……


シャル「……」

ラウラ「シャ、シャルロットっ! お前!」

シャル「らしくないよ、ラウラ……敵を殺そうともしないなんて」

ラウラ「っ……しかし……アイツらは……」

シャル「もう敵なんだよ! 地球は! 地球の人は!」

ラウラ「……」

シャル「向こうも、そう思ってるんだ……」

ラウラ「だがっ……」

シャル「軍人なんでしょ! ラウラは! それくらいわかりなよ! 敵は敵! 味方は味方!
    それ以上もそれ以下も無い、その二つしかないんだよ!」

ラウラ「……」

シャル「僕達は、もう戦うしかないんだ……僕は、悪いけど敵を殺すのに何の躊躇いもない。頭を弄られたせいか、ね」

ラウラ「お前……」

シャル「それ以前に、躊躇ってたら僕らが死ぬ。そしたら、人質に取られた箒はどうなるの?」

ラウラ「……」

シャル「それにね、箒は……キリコだけが大切に思ってる人じゃない。箒は、僕の大切な友達なんだ。
    その為にも……戦うしかないんだ、僕らは」

ラウラ「……」

シャル「ラウラは、キリコの為に戦ってるのはわかってる……キリコを助けたい一心なのは、わかってるよ。
    だったら、躊躇わないで撃ちなよ。無意味な情けなんてかけてたら、作戦の邪魔になるだけだ!」

ラウラ「……」

シャル「それに、まだ希望が無い訳じゃない……専用機の子は、殺さないで無力化すれば良い……せめて、それだけは絶対に遂行しよう。
    そうすれば、鈴やセシリアは助けられる」

ラウラ「……」

シャル「せめて……そうすれば、良い……」

ラウラ「……」

シャル「……わかった?」

ラウラ「……あぁっ……」

シャル「……ゴメンね、ラウラ……」

ラウラ「お前が、謝る事じゃない……私が、甘いせいだ……」




キュィイイッ


キリコ「……」ズガガガガッ


「な、なんだあのISは……」
「は、速い……目で追えないわ!」


キリコ(バルカンセレクター……)カチッ

キリコ「その隙が、命取りだ……」


ズガガンッ


「くはっ……」
「つっ……」


キリコ「……防衛線突破。AT隊揚陸準備をする。それまで俺らは防御に回る」

シャル「了解!」

ラウラ「りょ、了解!」


キリコ『こちら、キリコ・キュービィー。AT隊揚陸受け入れ態勢が整いました』

ルスケ「了解した。お前達はそこで待機。揚陸が完了するまで援護だ。それが終了したら、今度はEU北側に向かって貰う。
    それからはお前達三人は別行動だ。各自、専用機を奪取しろ。良いな?」

キリコ『了解』


ピッ

ルスケ「作戦は、順調のようです。予定よりもかなり早い」

ウォッカム「さすがだな。篠ノ之博士が作成したゴーレムも、予想以上の働きをしている。あれだけの数を作成したのにも関わらずな」

ルスケ「はい。このままいけば、数日以内に地球及びISを手中に……」

ウォッカム「……あぁ」




シュウウウッ……
ガシンッ


『ISS隊長、聞こえるか』

キリコ「……あぁ」

『AT隊の揚陸が完了した。後はこちらでやれる。そちらの任務に戻りたまえ』

キリコ「了解した……行くぞ」

ラウラ「北、か……」

シャル「……」

キリコ「……」

シャル「大丈夫? ラウラ……」

ラウラ「……あぁ……私の部隊と、例え戦う事になったとしても……覚悟はできている」

キリコ「……」

ラウラ「私は……構わない」

シャル「……」

ラウラ「だが、お前はいいのか……シャルロット……自分の国と、戦う事になっても」

シャル「……言ったよ。敵は、敵だって……」

ラウラ「……そうか」

キリコ「……行くぞ。時間に余裕はあるが、あまりもたついていると支障が出る」

シャル「了解」

ラウラ「……了解」

キリコ「……」



——




セシリア「くっ……」ヒュンッ


『……』ズガガガガッ


セシリア(このIS……キリコさんを襲撃した型と同じでしょうが……動きが明らかに鋭敏ですわね)

セシリア(火力も、量産機等とは比べ物にならない……専用機にも劣らない性能ですわ……)

セシリア(まさか、地球以外の惑星が、これ程までのISを所持しているだなんて……)


『……』ジャキンッ


セシリア(近づいてくるっ……ですが、この間合いなら!)

セシリア「甘いですわ!」ドシュッ


ドガァアンッ


『……』ジジジッ……


セシリア「はぁ、はぁ……」

セシリア(もう弾薬が無い……シールドエネルギーも……)



『こちら司令部。セシリア・オルコット、生きているか』


セシリア「……はい。只今、敵ISを一機撃破したところです」

『そうか、よくやった。では一旦、補給をする為に前線基地へ戻れ。つい先ほど、防衛線が突破され、敵の本隊が侵入した。早々に補給を済ませてくれ。いいな?』

セシリア「……わかりました」


ピッ


セシリア(防衛線が突破された……AT隊がやってくる訳ですか……)

セシリア(ATで都市部への大規模な攻撃が行われる……敵のISにばかり気を取られていると……)

セシリア(……急ぎましょう)ヒュンッ


ギュンッ

セシリア「……」

セシリア(前線基地に戻ってきましたが……)


「早くしろ! そいつはエネルギーを溜めればなんとかまた使える! 代えのパイロットは!」
「あ、足が! 足がぁっ……」
「……もうコイツはダメだ。切断するしかない」
「急げ! 怪我人は腐る程いる! 早く運んでこい!」

「……うぅ……」
「誰か……誰かぁっ……」
「補給部隊はE−10へ急行せよ! 繰り返す!」
「走れ!」


セシリア「……」

セシリア(舞い上がる砂埃、そこに響く怒号と呻き……)

セシリア(火薬と血肉の臭いが鼻を突く……)

セシリア(私と、さして歳の変わらない方も、私同様ISに乗せられ、駆り出される……)

セシリア(そして……まるで石ころのように、どこかが欠けた人間が打ち捨てられている……)

セシリア(丘の向こうで立ち上る爆煙と火花が、ここでの安寧を許さぬと、怪我人達に叫ぶ)

セシリア(無事な人でさえ、何かに駆られ、逃げるように、足を止めずに駆ける)

セシリア(これが……戦場……)

セシリア(本当に……ただの、地獄ではありませんかっ……)



「オルコット、帰還したか」


セシリア「は、はい」

「補給所はそこだ。早くしろ。」

セシリア「はい!」

「都市防衛の部隊が、この有様だ……もっとISを回せれば……ATなぞに……」

セシリア「……」

「補給が終わったら、お前はロンドン防衛に向かって貰う。幸い、あちらではまだ優勢だ」

セシリア「はい」

「……頼むぞ」

セシリア「……失礼します」

セシリア(地球への宣戦布告がされた時、正直私達は甘く見ていました)

セシリア(もしかしたら戦争が起こるかもしれないとは、一応予測できていたのもあります)

セシリア(しかし、我々にはISがあり、敵にはそれが無い、というのが最大の理由でした)

セシリア(この戦力の差は、圧倒的である、と……)

セシリア(しかし、そんな甘い考えは脆くも崩れ落ちたのです)

セシリア(確認されただけでも、少なくとも100機を超すISを、敵は所有していた)

セシリア(性能も、かなりの高性能……第三世代機に匹敵する……)

セシリア(その大半は、恐らくは無人機。しかし、中には……有人機も混ざっている、と)

セシリア(それが誰なのかは、まだ判明していない。敵が養成したパイロットなのか、はたまた裏切り者なのか)

セシリア(……)

セシリア(こんな時に、キリコさんがいてくれたら、と痛い程に思う)

セシリア(腕、精神力の強さ、皆を引寄せるあの空気……あのカリスマが、今ここに無い事がどれだけの損失か)

セシリア(……私の、傍にいてくれたら……)

セシリア(戦う事すら、怖くないのに……)

セシリア(……なぜ、消えてしまったのですか……)

セシリア(なぜ、ここにいてくれないのですか……)


「補給が完了しました。お気をつけて」


セシリア「……はい」

セシリア(……行かなければならない)

セシリア(人々を守る為)

セシリア(遠くで戦っているはずの、友の為)

セシリア(そして、自分の為……)

セシリア(……生き残り、そして行かなければならない)

セシリア(私の想い人を……キリコさんを探す為に……)

セシリア(……キリコさん……)



ギュンッ


セシリア「……」ゴォオオッ


セシリア(……あれは……AT隊……)


ガインッガインッ
キュィイイイッ


セシリア(集落が……襲撃を受けている……)

セシリア(酷い……基地でも、武装した人でも無いのに……)

セシリア「っ! ま、まさか……」

セシリア(……あの、肩は……)

眼下に広がる光景。
小さな村落が、鉄の騎兵の攻撃を受けていた。
血濡れた肩が、火を垂らし、惑う人が、爆ぜてゆく。
火のせいで明るいはずなのに、私にはそこだけ落ち窪んだかのように、暗く、深く、沈んで見えた。

あの目がフラッシュバックする。想い人のあの目が。
私は乗り越えたはずなのに、まだあの目が脳裏にちらつく。
あの赤い肩が、私に強烈に語りかける。お前は、まだ恐れているのだと。
お前の想いは、その程度なのだと。



セシリア「……くっ……」

セシリア(私は……私は、立ち向かったはず……)

セシリア(あんなものは……何も、感じないはず……)

セシリア(っ……)



ギュンッ

『おらおら!』ポヒューッ
『へっ、IS以外はてんで歯ごたえの無い星だな』
『あぁ。こっちのIS隊がヤツらを引きとめてるからな。数だけでも押し切れるさ』
『はっ、違えねぇ——』


セシリア「はぁああっ!」ズギュウンッ


『うわああ!』ドガァアンッ
『な、何だ!』
『チックショウ! ISだ!』
『撃ちまくれ!』ズガガガガッ


セシリア「そんなもの! 当たりませんわ! このブルー・ティアーズで——」


『セシリア・オルコット! 聞こえるか!』

セシリア「っ……は、はい! こちらオルコット!」

『何をしている! 動きが止まったぞ! 早くロンドンへ向かえ!』

セシリア「で、ですがっ……襲撃を受けている集落を……」

『そんなものはどうでもいい! 無駄に弾を消費していないで、早く向かわんか!』

セシリア「っ……くぅっ……」

『応答しろ! オルコット!』

セシリア「……了解、ですわ……」


ギュンッ


『お、おい。あのIS逃げてくぜ』
『けっ、ざまぁ見ろってんだ!』



セシリア「……」

セシリア(許して下さい……私が、無力なばかりに……)


ゴォオオッ



今見たばかりの光景が、鮮烈に刻まれる。
それを必死で振り払い、機体を駆る。

今は、急ぐしかない。
逃げる人々を、見過ごすしかない。
今は。




……




シュンッ


セシリア「……着きましたわね」

セシリア(どうやら、専用機持ちで一番乗りのようですね……)

セシリア(……しかし……)


ポヒューッ
ガインッ ガインッ


セシリア(……酷い……)

セシリア(あの美しかった街が……こんなにも……)

セシリア「……なんて、惨い……」

セシリア(川には死体が流れ、どの建物からも煙が立ち上って……)

セシリア(……)



キュィイイッ
ズガガガッ


セシリア「……敵のAT隊が、こんなに蔓延って……」

セシリア「……許せませんわ……」ギリッ

セシリア「……駆逐します!」



ズガガガガッ


セシリア「っ! くっ……」ヒュンッ

セシリア(今の攻撃は……)


『……』ズガガガッ


セシリア「また、あなた達ですか……良いでしょう。
     複数で挑んでも、このブルー・ティアーズに利を作る事ができないと言う事を、お見せいたします!」


『……』ギュンッ


セシリア(敵は二機……一対二は、キリコさんとシャルロットさんとの訓練で、嫌という程鍛錬を積みましたわ!)

セシリア「ブルー・ティアーズ!」


シュンシュンッ



セシリア「さぁ、踊りなさいっ!」バシュバシュッ

『……』ヒュンヒュン

セシリア(よし、何とか動きを抑制できますわね……)

セシリア(これだけ集中力がついたのも、キリコさんのおかげ……)

セシリア(私が強くなれたのも、あの目のおかげ……)

セシリア(だから……)

セシリア(キリコさんの為にも、私は負けられないのです!)

セシリア「さぁ……来なさい……」

セシリア「性能だけではどうやっても覆せないものがあることを……思い知らせてあげますわ……」

セシリア「……はぁっ!」ズギュウンッ


『……』ドガンッ


セシリア(見た目通りの装甲の厚さ。やはりこの程度ではビクともしませんか……)

セシリア(私以外の部隊が来るまで、なんとか時間稼ぎをしなければ……)



『……』ギュンッ


セシリア「……」

セシリア(……基本ルーチンは、一体が囮になり、もう一体が攻撃を仕掛けてくる……という感じですか)

セシリア(崩れた建物の陰から攻撃してくるのは、厄介ですわね……)

セシリア(しかし……それもあの時と同じ!)

セシリア「……」


『……』ヒュンッ


セシリア(あのISの主武装は近接戦闘傾倒……絶対に、近寄ってくるはず……)

セシリア(そこを……)


『……』


セシリア「……」


『……』ギュンッ



セシリア「そこっ!」


ドシュウウッ


『……』

セシリア(このミサイルをこの距離で避けるなんて不可能ですわ!)


ドガァアンッ


『……』ジジジッ


ヒュンッ


セシリア「ふっ……」

セシリア(爆風に紛れ、一気に距離を詰める……この体勢なら反撃は不可能!)

セシリア「てやっ!」



ザシュッ


セシリア「はぁあっ!」ザスザスッ


『……』ジジジジッ……


ドカァアンッ


セシリア「一機撃破!」

セシリア(キリコさんは射撃だけでなく、近接戦闘にも抜け目と抜け目がありませんでした)

セシリア(私も、それに遅れは取りませんわよ!)



『……』ズガガガッ


セシリア(攻撃役が出てきましたか……)

セシリア「しかし、このブルー・ティアーズを、その図体で避け切れると思って?」


シュンシュンッ
バシュバシュッ


『……』バキンガコンッ


セシリア「フィナーレですわ」ジャキンッ


ズギュウウンッ
ドガァアンッ


セシリア「ふぅ……お粗末な花火ですこと」



ヒュンッ


セシリア(……新手ですか……)


『……』ズガガガガッ


セシリア「良いでしょう……スクラップになりたい方から、かかってらっしゃい!」


セシリア「はぁああっ!」




「……」

「……専用機を発見、これより捕獲します……」






——



ウォッカム『……篠ノ之博士』

束「なんですかー」

ウォッカム『いつまでそこにいるつもりだ。お前には、キリコ達のサポートという重要な任務があるはずだが』

束「いいじゃないですかー。もうちょっとここで、箒ちゃんを眺めてたいんですー」

ウォッカム『……重要な作戦中だ。余計な事は考えない事だ』

束「えぇー」

ウォッカム『私は、紳士では無い。作戦に参加しないと言うのなら、お前との約定も破棄させて貰う』

束「……」

ウォッカム『安心しろ。キリコ達が作戦を完了させれば、お前達の安全は保障する。それまでの辛抱だ。
      対価としては……安い、ものだろう?』

束「……」

ウォッカム『では、すぐに戻れ。私も、お前だけを気にかける訳にもいかないのでな』


プツンッ


束「……」

束「なーにが紳士だ。そんなの最初からわかってますよーだ」

束「……」

束「箒ちゃん、ゴメンね……あんな事しちゃって……」

束「……でもね、こうするしか無かったんだ……」

束「私がISを普及させて……最初は軍事利用には使えないなんて決められちゃったけど、こんな性能の物が、利用されない訳ないんだ」

束「だから、先手を打った。この技術を、どこかの軍に渡してしまおうと」

束「それが、皆をバラバラにした、あの戦争を無くすのに一番手っ取り早い方法だったんだ」

束「百年戦争の陣営、そのどちらかにこの技術を独占させ、箒ちゃん達の安全を確約させながら、圧倒的な戦力で終結させる」

束「そして、訪れるのは……争いの無い世界。争いすら、しようとも思わない世界」

束「私と、箒ちゃんと、キリコちゃんとちーちゃん……この全員で静かに暮らせる所に行こうって……」

束「……キリコちゃんの能力的に、こうでもしないと静かに暮らせないと思ったからさ……」

束「……」

束「もうすぐの辛抱だからね……今キリコちゃんが、ちーちゃんを向かえに行ってる。そして、戦争を終わらせる足がかりを作ってる」

束「起きたら、ちゃんと謝るから……」

束「……だから、待っててね……箒ちゃん」



——



セシリア「はぁ……はぁ……」


『……』ピピピッ


セシリア(おかしいですわ……敵は先程と同じ戦法で来ているはずなのに……)


『……』ヒュンッ


セシリア「くっ」ズギュウンッ


『……』スカッ


セシリア(私の攻撃が、見切られている……)

セシリア(情報では、敵は大半が無人機と聞いていましたが……)

セシリア(もしや、私の戦い方がデータ化され、他の機体にも共有されているのでは……)

セシリア(……もしそうだとしたら、厄介ですわね……)



『……』ズガガガッ


セシリア「はぁっ!」シュンシュンッ


バシュバシュッ


『……』ヒュンッ


セシリア(マズイですわ……どうやら、私の予感が的中していますわね……)

セシリア(私が気付かない癖まで見切っているのでしょう……)

セシリア(でなければ、ここまで避けられる事などありえませんわ……)


『……』ズガガガッ


セシリア「ふっ!」ヒュッ

セシリア(マシンガンからの牽制……そして、距離を詰めての近接攻撃……)

セシリア(それさえ怠らなければっ……)

セシリア「……」ヒュンッ

セシリア「……」ヒュンッ


『……』ジャキッ


バシュッ


セシリア(グレネードランチャー? ふん、そんな弾速の遅い弾に……)


ビカッ


セシリア「!?」

セシリア(し、しまった……閃光音響弾……)

セシリア「くぅっ……」


『……』ズガガガッ


セシリア(う、迂闊でしたわ……何とか直視は避けられましたが、視界が……)カキンカキンッ

セシリア(こうなったらセンサーで反応しつつ、回避するしか……)

セシリア(……)

セシリア(……もう一機は何処に!)

セシリア(今の閃光で見失ってしまいましたか……が、瓦礫の影に? )

セシリア(い、いない……では、一体……)



ザパァッ


セシリア「っ!?」

セシリア(しまった! 川の中にっ……)


『……』ジャキンッ


セシリア(も、もう懐にっ!)


『……』グワッ


セシリア「くっ……」

セシリア(この体勢では……畳み掛けられてしまう……)

セシリア(こ、ここまでですか……)



「はぁああっ!」


ズガガガッ


『……』カキンカキンッ


「そこをどけーっ!」

セシリア(よ、良かった! 援軍ですか!)

「はぁあっ!」ズガガンッ

セシリア「……あ、貴女は!?」


『……』ピピピッ


シュンシュンッ


「そうだ! さっさと逃げろ!」ズガガガッ

セシリア「……まさか……」

「……ふぅ、良かった……間にあって……」

セシリア「……こんな所で……」

「……セシリア」

セシリア「シャ、シャルロット、さん……」

シャル「セシリア……君も無事だったんだね」

セシリア「え、えぇ……貴女も、ご無事で何よりですわ……」グスッ

シャル「あ、あぁほら、泣かないで。まだ油断しちゃダメだ。退かせられたけど、まだ来るかもしれないし」

セシリア「そ、そうですわね……失礼しました」

シャル「いやー、それにしても、ここで合流できて良かったよ」

セシリア「えぇ、本当に……ところで、今まで一体何処にいらっしゃったのですか?」

シャル「あぁ……学校でセシリア達と別れた後、敵の罠にあってね……飛行機が墜落しちゃって、ATにも襲われて……」

セシリア「まぁ……大変だったのですね」

シャル「ようやく他の二人とISを奪還して、戻ってきたと思ったら……」

セシリア「で、では……」

シャル「うん、キリコ達も無事だよ」

セシリア「ほ、本当ですかっ!?」

シャル「うん」

セシリア「ほ、本当の本当にですか!」ズイッ

シャル「そ、そうだよ。キリコもラウラも、無事」

セシリア「……」

シャル「……セ、セシリア?」

セシリア「……」

シャル「あ、あんまり近寄られると……」


ドクンッ ドクンッ


シャル(……発作が……)

セシリア「……」

シャル「……」カタカタ

シャル(マズイな……指が……引き金に……)

セシリア「……よかっ、た……」グスッ

シャル「……」

セシリア「ほんとうにっ……ほんとうにっ、よかった……」

シャル「……泣く、には……早いよ……」ドクンッ

セシリア「ごめんなさい……でも、ほんとうに……うれしくて……」

シャル「っ……」

セシリア「ほんとうに……ごぶじでっ……」

シャル(くっ……おさまれ……)ハァハァ

セシリア「……キリコさんっ……」

シャル「はぁ、はぁ……」

セシリア「……ほんとうにっ……」

シャル(ぐっ……だ、ダメだ……)カタカタ

セシリア「……みなさん……ごぶじでっ……」

シャル「っ……」


ズギウウュンッ
バキンッ

セシリア「!?」

シャル「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」



『……』ジジジジッ


ドガァアンッ


セシリア「う、後ろにっ……まだいましたの!」ジャキッ


ズギュウンッ


『……』バキンッ


ドカアアンッ


セシリア「ふぅ……何とかあの二機を倒せましたわね」

シャル「う、うん……そう、だね……」

シャル(い、今撃ったので……何とか発作は軽くなったか……)

セシリア「シャ、シャルロットさん? 息が荒いですが、大丈夫ですか?」

シャル「だ、大丈夫……ちょっと、まだ疲れが抜けてないみたいでさ……」

セシリア「まぁ……では、私と共に前線基地に行きましょう。そうすれば……」

シャル「いや!」

セシリア「……」

シャル「……いや、いい。僕達は途中から来たから、味方として登録されてないはずだ。
    だから、先にキリコ達と合流して、一緒についていくよ」

セシリア「そ、それもそうですわね……」

シャル「じゃあ、今からキリコ達と合流するけど……ついてくる?」

セシリア「よ、よろしいのですか?」

シャル「うん。きっとキリコ達も、セシリアの顔を見たいと思うから」

セシリア「……」

シャル「ね?」

セシリア「……わかりましたわ」

シャル「よし、じゃあ……あっ、でも、セシリアには任務があるか……」

セシリア「いえ。キリコさん程の戦力を連れ戻せば、きっと戦いにも貢献できますわ」

シャル「そ、そっか……じゃあ、ついて来て。あっ、セシリア。シールドエネルギーは大丈夫?」

セシリア「ん……あまり、思わしくありません……」

シャル「そっか……でも、そこまで遠くないから少し我慢してね(これは、好都合かな……)」

セシリア「は、はい」

シャル「よし、じゃあ行くよ」

セシリア「了解」


ギュンッ


シャル「……」キィイインッ

セシリア「……」ヒュンッ


ピーピーッ


シャル(……こんな時に通信か……)

シャル「そうだ、セシリア」

セシリア「はい?」

シャル「基地に今のうちに連絡してみてよ。こういう理由で離れます、って感じで」

セシリア「わ、わかりました」

シャル「ゴーレムも二機倒したし、多分通るんじゃないかな」

セシリア「そうですわね」

シャル「じゃあお願いね。僕も通信来ちゃったから」

セシリア「わかりました」

シャル「……」

シャル「……こちら、シャルロット」ボソ

ルスケ『デュノア。何故ゴーレムを攻撃した』

シャル「……専用機持ち……セシリア・オルコットを、無傷で確保したいからです」

ルスケ『ふむ、専用機か……だが、ゴーレムと共に攻撃する方が早くはないのか』

シャル「油断させ、このまま回収ポイントまで同行します。無傷の方が、何かと後で良いでしょう。
    ゴーレムを、これ以上付近に近寄らせないで下さい。」

ルスケ『うむ……それなら良い。しかし、これ以上味方を攻撃するなら、それなりの処置をとる事になる』

シャル「……わかってます」

ルスケ『それと、友人だからと言って余計な情はかけるな。人質の事を忘れるな、良いな?』

シャル「……そういう感情が、行動中は塗りつぶされてるの、わかってるでしょう」

ルスケ『ふっ、そうか。では、上手くやれよ』

シャル「……ちゃんと連れていったら、専用機持ちの子は、命だけは助けてくれるんですよね」

ルスケ『当然だ。専用機に乗せるのは、それに即した人間だからな』

シャル「……」

ルスケ『お前は余計な事は考えなくて良い。任務を遂行しろ』

シャル「……了解」


ピピッ シュンッ

シャル「……」

セシリア「シャルロットさん」

シャル「……」

セシリア「シャルロットさん!」

シャル「……ん、な、何?」

セシリア「何とか許可を得られました。あの無人機の反応も消え、私以外のIS隊が到着したようなので」

シャル「う、うん。そっか(ゴーレムごと退却させたのか? まぁ、いいか……)」

セシリア「……ところで……」

シャル「うん? 何?」

セシリア「あれは、やはり情報通り無人機なのでしょうか。私も、そう思って戦っていますが……」

シャル「うん。その情報通りだよ」

セシリア「……して、あの機体の名前は、ゴーレムと言うのですか?」

シャル「……」

シャル「……」

セシリア「シャルロットさん」

シャル「……」

セシリア「シャルロットさん!」

シャル「……ん、な、何?」

セシリア「何とか許可を得られました。あの無人機の反応も消え、私以外のIS隊が到着したようなので」

シャル「う、うん。そっか(ゴーレムごと退却させたのか? まぁ、いいか……)」

セシリア「……ところで……」

シャル「うん? 何?」

セシリア「あれは、やはり情報通り無人機なのでしょうか。私も、そう思って戦っていますが……」

シャル「うん。その情報通りだよ」

セシリア「……して、あの機体の名前は、ゴーレムと言うのですか?」

シャル「……」

セシリア「……何故、あれの名前を知っているのですか?」

シャル「……え?」

セシリア「いえ、そんな情報は何処からも聞かなかったので……」

シャル「あ……あぁ、そういう事か。てっきり知ってるものだと……」

セシリア「……」

シャル「え、AT隊を退けた後、あの機体に出くわしてね……それで、操作してる相手が、こっちにペラペラと情報を言ってくれたから……」

セシリア「……」

シャル「きっと、こっちがもう戦えないと思ってたから油断したんだと思う。作戦の事も喋ってくれたから、こうしてISも奪還してここに来れたんだ」

セシリア「なる、ほど……」

シャル「……」

シャル(マズイ……バレたか?)

セシリア「……」

シャル「……あぁー、セシリア?」

セシリア「……大変、でしたのね……」

シャル「へ?」

セシリア「危険を冒してまで……本当に、よくぞ生きて帰って下さいました……」

シャル「は、ははっ……ま、まぁ、キリコとラウラも一緒だったし、当然だよ。あの二人の活躍を、見せたかったくらい(よ、良かったバレてない……)」

セシリア「私も一緒に行けていれば……あの時の戦いでもっと善戦出来ていれば、同行出来たかもしれませんのに……」

シャル「セシリア……」

セシリア「……」

シャル「セ、セシリアが気にする事じゃないよ。結果的に僕らは生きてるし、こうしてまた会えたんだから」

セシリア「……」

シャル「ね?」

セシリア「……そう、ですか」

シャル「そうだよ」

セシリア「なら、良いのですが……」

シャル「ほ、ほら。今は暗い話は後にしてさ。キリコもすぐ先にいるから」

セシリア「……そうですわね」

シャル「うん。じゃあ、もっと速度上げるよ」

セシリア「はいっ」


ギュンッ



シャル「……」

セシリア「……」

シャル(……ゴメンね……セシリア)




——




バキンッ
ドゴンッ


「ぐはっ……」

キリコ「……」

「ば、馬鹿な……」

キリコ「……」

「……」


ドサッ


キリコ「……すまない」

キリコ「……こちら、キリコ・キュービィー」

ルスケ『どうした』

キリコ「専用機持ちを一人、確保しました」

ルスケ『うむ。では揚陸艇に運べ。後はこちらでやる』

キリコ「……了解」

キリコ「……」



ポツ


キリコ「……」


ポツポツ


キリコ「ん……」


ザァーッ


キリコ(雨、か……)

キリコ「……」

キリコ(……コイツを、運ぶか)



穢れを落とす驟雨が、戦場に注ぐ。
立ち上る煙を叩き、打ちひしがれた者達を、汚泥の中に埋没させてゆく。
雨音以外には、ただ一つの足音のみ。
戦場と言うよりは、ここは墓場だった。




キリコ「……」


シャルロット、ラウラ達と離れ、俺は専用機狩りを行っていた。
確かに、専用機持ちは強い。しかし、本当の戦場を知らない少女ばかりだ。
訓練は受けていても、俺のような、地獄の淵を何度も見せられた者にとって、残酷にも、獲物と捉えるにさして変わりは無い。
俺は、ゴーレム達と同じように、機械的に彼女達を捕縛していた。


キリコ「……」


俺は、また何も感じなくなっていた。
あの学園で思い出したはずのものを。

それなのに俺は、愛した人の為に戦っていた。
得たはずの全てを、犠牲にして。
俺には過ぎた夢を、犠牲にして。



キリコ「……」


ピーピーッ


キリコ(シャルロットから通信……)

キリコ「……どうした、シャルロット」

シャル『キリコ。そっちはどう』

キリコ「……順調だ」

シャル『……気を落とさないで……こっちは、セシリアと合流したから』

キリコ「……本当か」

シャル『うん。ゴーレムを退かせたから、何とか怪我も無いみたい』

キリコ「……そうか」

シャル『……』

キリコ「……そのまま、こっちに向かえ」

シャル『……もう、着くよ』

キリコ「……そうか」

シャル『……それじゃあ、また』

キリコ「……あぁ」

キリコ「……」

思えば、俺がこのISという兵器を動かした時から、こうなる事はわかりきっていたのかも知れない。
あの作戦も、仕組まれたものだったのか。
あそこで、箒と出会ったのも、仕組まれたものだったのか。
俺には、わからない。

初めてあの学園に行った時を思い出す。
姉さんと、そして箒と再会した。運命の再会だった。
それなのに俺は……箒をつけ放してしまった。自分の痛みを、和らげる為に。
あの時、しっかりと彼女と向き合っていれば……彼女を、守れたのかも知れない。
そうすれば、俺は……あの五人と、まだ笑えていたのかも知れない。
あの学園の生徒達と変わらず、普通の生活を遅れていたのかも、知れない。


キリコ「……」


この兵器と、俺……。
どちらも、忌避されるべきだったのだ。
この兵器を軸にして、戦争は始まった。
この俺を軸にして、戦争を終わらせようとする物もいる。



キリコ「……コイツだ」

「よくぞ捕縛してくれた。後はこちらでやる。貴官は戦線に戻りたまえ」

キリコ「……了解」


俺は、呪われているのか。
俺と関わる者は、安寧すら与えられないのか。
俺自身には、孤独も、安らぎも与えられないのか。



キリコ「……」



雨を裂き、俺はまた狩りに出ていた。
己の目的を、噛み締めながら。



キリコ「……」



己の首にぶら下げたものの重みを、握り締めながら。



——


「クソッ……なんて強さだ……」
「きゃあっ!」
「大丈夫か!」
「……うぅ……」

「……」
(我等がシュヴァルツェ・ハーゼが……無人機如きにここまで押されるとは……)
(隊長が行方不明の時に……戦争が勃発するなど……)
(……隊長……一体、何処へ行ってしまわれたのですかっ!)


『……』ガシンッ


「!?」
(くっ……この角度はマズイ!)



『……』ズガガガッ

「ぐはっ!」

『……』シュンッ


(くっ、もう一機来る……)

(防御も、間に合わんか……)

(……ここまでかっ……)



ヒュンッ


「……」


キュウウンッ


『……』


「……」

(な、何だ……衝撃が来ない……)

「……!?」

「こ、これは……」

「AIC……まさかっ!」



ラウラ「……」キュウウンッ


「……隊長……」
「……隊長だ……」


ラウラ「……」カランカランッ


「た、隊長!」
「御無事だったんですね!」


ラウラ「……」


「隊長……よくぞ……よくぞ、ご無事で……」
「あぁ……私達はまだ見捨てられていなかった……」


ラウラ「……」


「我等が隊長の御戻りだ! 反撃に移るぞ!」
「了解!」


ラウラ「……お前達」


「隊長! 我々はまだまだ戦えます!」
「さぁ! ご指示を!」



ラウラ「……すまないっ」


「謝る事なんてありませんよ!」
「こうして戻って来てくれただけでも!」


ラウラ「……違う」


「隊列を組め! あの機体の数自体は少ない!」
「押し切りましょう!」


ラウラ「……違うんだ……」


「隊長!」
「隊長!」


ラウラ「……お前達……」


「はい!」
「御命令を!」



ジャキンッ


「……」
「た、たい、ちょう? 何故……こちらに……」


ラウラ「……すまない……」




ラウラ「私の、為に……死ね……」





——




シャル(……ラウラも、交戦を始めたみたいだ)


ザァーッ


シャル「……雨、降って来たね」

セシリア「そうですわね……」

シャル「……」

シャル(にわか雨……か……)

セシリア「……どこを飛んでいても、AT隊が見えますわね……」

シャル「……うん……噂じゃ、うん千万以上の兵員が導入されてるって……」

セシリア「……酷い……」

シャル「……地球のISを奪って……そして、地球の歴史を、終わらせる気なんだ……きっと」

セシリア「……」

シャル「……」

セシリア「シャルロットさん……やはり、AT隊を駆除しながら……」

シャル「……今のシールドエネルギーじゃ……下手したらAT相手にでも負けるよ」

セシリア「……」

シャル「今は急ごう……そうしないと、救える命も……救えなくなる」

セシリア「……」

シャル「……本当に……手遅れになるよ」

セシリア「……わかりました」

シャル「……ゴメンね」

セシリア「シャルロットさんが謝る事ではありません。私が、まだ感情に流されているのが、悪いだけですから……」

シャル「……ゴメン」

セシリア「……さぁ、もう少しスピードを上げましょうか」

シャル「……」

セシリア「……シャルロットさん」

シャル「何?」

セシリア「箒さんの行方は……知らないですわよね……」

シャル「……箒も、行方不明になったんだ……」

セシリア「はい……私達が臨海学校に行った時に……突然、姿が見えなくなって……」

シャル「……」

セシリア「それから、織斑先生がISの襲撃を受けたと……それから、戦争が起こると織斑先生が……」

シャル「そう……なんだ……」

セシリア「……それから、皆……バラバラになってしまいました……」

シャル「……」

セシリア「こんな……戦争のせいで……」

シャル「……」

セシリア「……」

シャル「ねぇ、セシリア」

セシリア「……何でしょうか」

シャル「鈴は……無事かな」

セシリア「鈴さん……ですか……」

シャル「うん……鈴も、きっと自分の国で戦ってるよね……」

セシリア「……そうですわね」

シャル「……」

セシリア「まぁでも、鈴さんがそう簡単に死ぬはずはありませんわよ。あんな図太い方が、アッサリ死ぬなんてあり得ませんわ」

シャル「……ふふっ……そうだね……」

セシリア「……鈴さんとも、すっかり悪友のようになってしまいましたわね……」

シャル「うん……仲良いもんね、二人」

セシリア「……えぇ。一緒にいると、暇を感じませんもの。まぁ、品の無い会話が主となって、私としては付き合ってあげている、
     という状況ですけどね」

シャル「ふっ、そうだね……」

セシリア「ですが……それも、大変楽しい、ですけどね……」

シャル「……」

セシリア「……」

シャル「……絶対に」

セシリア「はい?」

シャル「絶対に、皆に……あの頃の皆に戻ろう」

セシリア「……シャルロットさん……」

シャル「ラウラだって、もっと皆と仲良くなりたいはずだ。鈴だってもっと冗談を言って、僕達を笑わせたいはずだ。
    僕だって……」

セシリア「……」

シャル「……箒を取り戻して、キリコも……」

セシリア「……」

シャル「……」

セシリア「……私も」

シャル「……」

セシリア「私も、その意見に、賛成ですわ」

シャル「……セシリア」

セシリア「……」

シャル「……そう、だよね」

セシリア「……えぇ」

シャル「……」

セシリア「……」

シャル(その為にも……)


ギュウンッ


シャル「……! いたよっ!」

セシリア「キリコさん!?」

シャル「キリコーッ!」

セシリア「ほ、本当に……」

シャル「おーいっ!」



キリコ「……シャルロット……」


シャル「キリコッ!」シュンッ

セシリア「キリコさんっ!」


ガシッ


キリコ「うおっ」

セシリア「キリコさん! キリコさんっ!」

キリコ「……」

セシリア「キリコさんっ……」

キリコ「……セシリア、無事だったか」

セシリア「はいっ……キリコさんも、よくぞ、ご無事でっ……」グスッ

キリコ「……泣くな、セシリア」

セシリア「ですがっ……うれしくて……うれしくてっ……」

キリコ「……」

シャル「っ……」

セシリア「ん……失礼。通信が……」

キリコ「……出て良いぞ」

セシリア「申し訳ございません……では……はい、こちらオルコット」

『オルコットか! よく聞け! 裏切り者の名前が判明した!』

セシリア「っ! ほ、本当ですか!?」

『今すぐ、動向している奴から離れるんだ!』

セシリア「えっ……どういう……」



『裏切り者は……キリコ・キュービィー、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒだ!』


……。


……。


……はい?


『今すぐにそいつ等から離れろ!』


……意味が、わかりませんわ……。


……裏切り者が……。


キリコ「……」

シャル「……」


『そいつ等は敵だ! 早く逃げるんだ!』


キリコ……さん……。


キリコ「……どうした、セシリア」

シャル「あ、やっぱりあそこから離れちゃダメって言われた?」


……。


『早くせんか! 既にそこのエリアにいた専用機持ちの反応が無い! 貴様も狙われているんだ!』



……嘘……。


『オルコット! 聞いているか!』


嘘……。


嘘、嘘、嘘っ……。


『おい!』


ピッ


「はぁっ、はぁっ……」



聞きたくない……。
これは、何かの間違い……。
戦争の混乱で、情報が乱れているだけ……。

そんなはずは無い……。
キリコさんが、そんな事する訳ない……。


キリコ「……どうした、セシリア」


こんな、優しい方が……そんな事……。


シャル「……」

シャル(……バレた、か……)


ジャキッ


キリコ「!?」

「シャルロット……さん?」



シャル「……セシリア。何も言わず、僕達について来て貰うよ」

キリコ「……」

「何を……仰っていますの……」

シャル「今の通信……僕達が裏切り者だって、内容だよね」

「っ……」

キリコ「……セシリア」

「……」

シャル「……そうでしょ?」

「——ですわよね」

シャル「……何?」

「嘘、ですわよね?」

シャル「……」

キリコ「……」

「だって……私達は、友人で……シャルロットさんも、また元の皆に戻ろうと仰って……」

シャル「……」

「それなのに……裏切っただなんて……嘘、ですわよね?」

キリコ「……」

「……キリコさん……」

キリコ「……」

「何か……仰って下さい……」

キリコ「……」

「これは……何かの間違いだと……言って下さいっ……」

キリコ「……」

「……」

キリコ「……話を、聞いてくれないか」

「っ……」


今、理解した。
この話は——。

シャル「……」

キリコ「……セシリア——」

「聞きたくありませんっ!」

キリコ「……」

「聞きたく……」

シャル「……セシリア、お願い」

「聞きたく、ありません……」ジャキッ

キリコ「……」

シャル「……」

「ききたく……ない……」

キリコ「セシリア……」

「……なんで……」

キリコ「……」

「なんでですのっ……なんでっ……」


キリコ「……セシリア、話を、聞いてくれ……」

「なんでっ……ちゃんと、否定してくれないんですかっ……」

キリコ「……」

「せっかく……また会えたのに……」

シャル「……」

「こんなのっ……こんなの、酷過ぎますわっ!」

キリコ「……」

「仲間だと……友人だと、思っていたのにっ……」

キリコ「……」

「お慕いして……いましたのに……」

キリコ「……」

「キリコ……さんっ……」

シャル「……セシリア、銃を下ろすんだ」

「……嫌です」

シャル「頼むよ……でなきゃ……僕が君を撃たなきゃいけなくなる……」

「っ……」

キリコ「……」

「……くぅっ……」

シャル「降ろしてよ……」

「嫌、です……」

シャル「降ろして」

「嫌です」

シャル「降ろすんだ!」

「嫌ぁっ!」

シャル「セシリアの為なんだ! セシリアを傷つけたくないから!」

「何がっ……私の為ですか……」

シャル「……これしか……」

「……」

シャル「これしか……また、皆と一緒にいられる方法なんて無いんだ!」

「……私にも……地球を裏切れと?」

シャル「違う……違うよ……そういう意味じゃない!」

「……私は……」

シャル「セシリア……僕らは、ただ……」

「私は……信じていましたのに……」

シャル「……」

キリコ「……」

「……」

キリコ「……」

「その、目ですわ……」

キリコ「……」

「その目が……やはり全てだった……」

キリコ「……」

「……人殺し……裏切り、者っ……」

キリコ「……」

「……そんなの……初めてその目を見た時から、わかるはずの事だったのに……」

キリコ「……」

「……それなのに……なんでっ、こんな……」

キリコ「……」

「……」

シャル「……セシリア、まずは落ちつこう。僕らの話を聞いてくれれば、きっと……」

「黙りなさい!」ジャキッ

シャル「……」

「裏切り者の話など……聞きたく、ありません……」

シャル「……」

「……」

シャル「……わかった。ISも解く。キリコも、ほら」

キリコ「……」

「それが、なんだと言うんですか」

シャル「……これで、話を聞いて貰えるかな」

「……」

シャル「……セシリア、僕らはただ……」

「黙りなさいっ!」

シャル「……」

「こちらに……来てはなりません……」

シャル「……」

「地球を、こんな地獄に変えて……今更何だと言うのですか……」

シャル「僕らだって、好きでそうした訳じゃっ」

「意思など関係ありません! 結果が全てです!」

シャル「……」

「私は、信じていたのに……」

シャル「……」

「キリコさん達が生きていると聞いて……どれ程嬉しかったか……」

シャル「セシリア……」

「なのに……なのに! どうしてっ、こんな……」

シャル「……」

「裏切り者っ! 人殺しっ! 最低のっ、卑怯物っ……」

シャル「……」

「……ISを解いたのが、災いしましたわね……この場で、殺して差し上げます……」

シャル「セシリア! 話を聞いてよ!」

「何度も何度も話、話! 私を惑わせようとしているだけじゃありませんの!? 今更、情にでも訴える気ですか!」

シャル「違う……」

「私だって、こんなの嫌です……友人や……好きな人が……自分達を殺そうとしているだなんて……。
 自分が、今こうして銃を突き付けている状況だって……」

シャル「……」

「私は、兵士なんかじゃありません! こんな……こんな風に、人を殺す為に……銃を握ってきた訳じゃありません!
 味方も、敵も……そんなの……知りませんわよ……私の、大事な人達が生きていてくれれば良いのに……」

シャル「……」

「私は……」

シャル「それは、僕らだって!」

「それ以上近づけば撃ちます!」

シャル「くっ……セシリア……」

「……絶対に……撃ちます……」

シャル「……」

「ぜったい、に……ひぐっ……うち、ます……」

シャル「……」

「うっ……ぐっ……ぜったい……」

キリコ「……」

「……」

キリコ「……例え……」ザッ

シャル「キリコっ」

「っ……」



また……。



キリコ「例え、お前が俺達の話を聞かないとしても……関係無い……」

「……こ、こないで……」


この……獲物を見定めた目が……。



キリコ「……俺達に、選択肢は、無い……」ザッザッ

「う、うちますわよ!」ジャキッ


私を……。


キリコ「……俺に、選択肢は無い……」

「……やめて……」


掴んで……。


キリコ「俺は……」

「やめてぇっ……」


来ないで……。


キリコ「お前を……」

「やめてっ!」




キリコ「捕えなければ、ならない」



う、あっ……。



「……あぁああああああっ!」


ヒュンッ


シャル「っ! セシリア! 何処へ!」

キリコ「待て! セシリアッ!」


逃げる。何処に。
あの目の届かない所に。そんな場所は無い。
何処に逃げても、ここは地獄なのに。


「はぁはぁはぁはぁっ」


捕まったら、駄目。
駄目? 何故? 相手はキリコさんですのに。
……いや、違う。あれは違う。キリコさんじゃ、無い。
あれは……私が初めて見た……死神……。



キリコ「追うんだ!」

シャル「う、うん!」


ギュンッ

シャル「くっ……待って! セシリア!」

キリコ(こいつのイグニッション・ブーストなら……どうにか……)


「っ……ブルー・ティアーズッ!」


シュンシュンッ


キリコ「ちっ……」ヒュッ

シャル「うわっ、と……き、軌道が無茶苦茶、だ……ビット自体で攻撃してくるなんて……」

キリコ「……」


「はぁっ、はぁっ」


キリコ「セシリア! 待つんだ!」


「このっ……人殺しぃいいいっ!」ジャキッ


キリコ「セシリアッ!」


そう叫んだ時、俺は、視界の端に何かを捉えていた。
黒く残像を残す巨躯。それが、彼女を覆うように、現れた。
一瞬の出来事。
伸ばしたが、視界の中の彼女を捉える暇も無い。

一瞬の……。



ヒュンッ
ドスッ



「がっ……」



キリコ「なっ……」


何か鋭い物が、彼女の腹部を、貫こうとしていた。
何度も、何度も、叩いていた。
何度も……何度も……。



ドスンッ ドスンッ


「ぐっ……」



そして。



グチャッ




『……』


「……や……やぁっ……あ……」



紅い華は、咲いた。



シャル「あ……あぁっ……!」

キリコ「……」



キリコ「……セシリア……」


「……キ、リ——」





キリコ「セシリアァーッ!」





キュィイイッ


キリコ「くっ!」


バキンッ


『……』ジジジッ


キリコ「どけっ!」ズドンッ


『……』ガガーピー


キリコ「どかないかっ!」ズドンッ


『……』シュンッ


キリコ「はぁ、はぁっ……」

キリコ「……セシリアッ!」

「……あ……」

キリコ「しっかりしろ!」

シャル「う……嘘だっ……」

キリコ「おいっ!」

「……キリ……コ……さん」

キリコ「……セシリア……」

シャル「あ、あぁ……な、なんで……なんでっ……」

「はぁ……はぁ……」

キリコ「おい……目を閉じるな……」

「……わたくし、は……」

キリコ「喋るんじゃない! 今衛生兵を呼ぶ! シャルロット!」

シャル「……なんでぇっ? なんで……いや、いみが……ちがう……これは……」

キリコ「シャルロットッ!」

シャル「ぼくは、ぼくはセシリアに、訳を言おうとしたんだ……言おうと……」

キリコ「シャルロットッ! 早くしろ!」

シャル「……あっ……うっ……ちがう……僕のせいじゃない……」

キリコ「聞こえないのか!」

シャル「僕のせいじゃないっ!」

キリコ「……クソッ!」

シャル「あぁああああああっ! 違うっ! 違う違う! ちがぁああうっ! 僕じゃない! 僕じゃないんだぁああああっ!」

キリコ「っ……」

「……キリ、コ……さん……」

キリコ「……セシリア……」

「……あな、たを……」

キリコ「……やめろ……」

「おし……たい……」

キリコ「もういい……」

「して……」

キリコ「……もう……いいっ……」

「……ぐっ……はぁ、はぁ……」

キリコ「……」

「……て、を……」

キリコ「……何だ」

「……て……」

キリコ「……握れば、いいのか」

「……い……」

キリコ「これで、いいのか……」

「……」

キリコ「……」

「……」

キリコ「……」

「……」

キリコ「……おい」

「……」

キリコ「おい……セシリア……」

「……」

キリコ「おい、起きろ……起きるんだ」

シャル「……セシリア……?」

キリコ「セシリア……起きろ……」

キリコ「……」

シャル「……あぁっ……」

キリコ「……そうか」

キリコ「……」

キリコ「……すまないっ……」




雨が降っていた。
その中で出来た小さな水の流れに、赤い色が混ざっていた。
小さな、赤だった。


キリコ「……」


誰も気付かない程、小さい、全てだった。
俺が抱きしめていた少女の、全てだった。


キリコ「……」


シャル「……死んだ……セシリアが……」


キリコ「……」

シャル「……僕の……僕のせいでっ……死んだっ……」

キリコ「……」

シャル「……僕が、こんな所に連れて来たせいでっ……」

キリコ「……」

シャル「……ゴメンッ……」

キリコ「……謝るな」

シャル「……ごめんっ……セシリア……」

キリコ「……」

シャル「……ごめんなさいっ……」



『おい! またゴーレムを攻撃したのか!』


シャル「……」


『聞こえているのか! 応答しろ!』


シャル「……黙っててよ」


『何?』


シャル「セシリアを確保しようとしたら……ゴーレムが横から入ってきた……勝手に、殺したよ……セシリアを……」


『……』


シャル「攻撃するなとか言うんだったら! 専用機かそうじゃないか認識できるくらいの性能にしてよっ!」


『……そうか』


シャル「……もう、二度と僕達のやり方に口出ししないで」


『……それは、こちらが決める事だ』


シャル「……もう、何でも良い……通信終了」


『お、おい待て——』


ブツッ

シャル「……」

キリコ「……シャルロット」

シャル「……何」

キリコ「……遺体を、焼くぞ」

シャル「……何で……」

キリコ「……万一……ヤツらの手に渡る事が、無いようにだ」

シャル「……」

キリコ「……」

シャル「……了解」

キリコ「……」

シャル「……」



ガガーッ




『……こちら、ラウラ・ボーデヴィッヒ。応答、せよ……』


キリコ「……ラウラか」

ラウラ『……こちらは、作戦を……無事、終了した』

キリコ「……そうか」

ラウラ『……そちらは、どうだ』

キリコ「……セシリアが、死んだ」

ラウラ『……』

キリコ「……それだけだ」

ラウラ『……そうか』

キリコ「……」

ラウラ『……キリコ……』

キリコ「……切るぞ」

ラウラ『っ……あぁ。私は……まだ戻るのに、時間がかかりそうだ』

キリコ「……そうか」



ピッ


キリコ「……」

シャル「……キリコ」

キリコ「……やる……」

シャル「……うん……」




雨が、降っていた。
空と雲との境界がうつろになる程の分厚い雲が、空を覆っていた。
俺は、友の亡骸を抱えながら、そんな曖昧な空を見上げていた。

雨が、俺の頬を伝う。
腕に感じる温度が、その雨粒よりも冷たくなった頃、俺はようやく、彼女を放した。

土気色に塗りつぶされた顔を手で拭い、そっと、地面に寝かした。
泥一つ残さないように、何度も、拭った。
手を組ませ、目を閉ざし、安らかに眠らせるように、彼女を施す。

そして、彼女を焼いた。
雨が降っているにも関わらず、炎は激しく燃えた。
まるで、その身に残されていたはずの時間を、見せつけるかのように。



それから、数時間もしない事だった。
地球側が、国に依らない全軍導入で、反撃を仕掛けようとしていると連絡があったのは。
俺達は、流されるように迎撃の部隊に組み込まれた。
未練など感じる暇すら、俺達には与えられない。未練など、感じては、ならない。
俺達は、兵士だ。

俺達は……兵士だ。



——



地獄の序章が幕を開けた。
神からも見放された男が積み上げた、バベルの塔が崩壊する。
骨を折り、肉を削ぎ、己の血潮で固めたあの塔が。
その瓦礫を必死で掻き出そうとも、失った者を取り戻す事など出来るはずもない。
心臓に刺さった四本の矢を脈動させ、男は、仁王立つ剣士を捉えながら、ただ前を向くしか無いのだ。

次回、「決闘」

血が違えた、愛ならば。



——

うん、完結は「まだ」なんだ。済まない。
予想よりまた二話増えそうだよ……。
でも、これからは割と書いててのめり込むから、早めになるかもね。



ピーピーッ
ピーピーッ


キリコ「……こちら、キリコ・キュービィー」

束『やっほー、キリコちゃん元気ー?』

キリコ「……」

束『……あっ、ゴメン……友達、死んじゃったんだっけ』

キリコ「……何の、用だ」

束『えっと……うん、機体の調子どう? セイバードッグ君はちゃんと動けてるかな?
  束さんが丹精籠めて作った機体だから、そう不具合なんて起きないと思うけど』

キリコ「……さぁな」


束『えぅ……その……あ、あんまり気を落とさないで、ね? ま、まだ友達はいるんでしょ?』

キリコ「……」

束『……キリコちゃん』

キリコ「……切るぞ」

束『あっ、ちょっとま——』


プツッ


キリコ「……」


ついに本格化した、地球とメルキアの全面戦争。
地球全軍による、徹底抗争が始まった。
地球の保有するIS数、残りおよそ150機……。

俺は、輸送艇に揺られながら、その地に運ばれていた。
そして、眼下に広がる、かつて青かったはずの景色をただ、眺めていた。

いつの間にか、俺は銃を抱えていた。
俺の装備ではない。
長物の、レーザーライフル。
拾った覚えは、無かった。
しかし俺は、この銃を抱きしめ、そして縋っていた。
使える訳でも、ないのに。
救ってくれる訳でも……ないのに……。

——


   第十四話
   「決闘」


——


ルスケ「……うむ、了解した。護送班はそのまま向かえ」

ウォッカム「残りの戦力を一点に集め、反撃を試みる……か……」

ルスケ「はい……我がISSの残存数はおよそ120機……軍のAT隊は、三、四割程度しか被害を被っていないとの事ですが……」

ウォッカム「当然の数値だな。まぁ、ゴーレムを80機程失ったのは想定よりも上だが……問題は無い。
      まだ、彼らがいる……」

ルスケ「……少々、彼らの精神に異常が見られますが……」

ウォッカム「心配いらん。キリコは、今や強靭な精神を持つに至った。だから隊長にしたのだ。
      そして残りの二人は、キリコの為に戦っているようなものだ。キリコが崩れなければ、その二人も崩れはしない」

ルスケ「はぁ……」

ウォッカム「愛の力、というヤツか……きな臭い言葉で、あまり信用はしていなかったが、こういう時に役立つとはな……」

ルスケ「……」

ウォッカム「彼らは、何処に行く事もできん。逃げれば、篠ノ之箒は死ぬ……そして……」

ウォッカム「戦死、自殺……そのどちらでも、戦場から逃れる事はできない……。
      自らの能力によって、な……」

ルスケ「彼らに……逃げ場は無い……」

ウォッカム「……最も残酷な境遇にある、最も有能な兵士……しかし、彼らの能力は、そのような臨界に挑むような状況でなければ活かされない。
      そして……彼らはそのような状況においても……」

ルスケ「……彼らは……」

ウォッカム「必ず……生きて帰って来る……」



——


キリコ「……」

シャル「……キリコ」

キリコ「……何だ」

シャル「もう、着くよ」

キリコ「……そうか」

シャル「……」

キリコ「……」

シャル「……それ」

キリコ「……」

シャル「置いて、行こうよ」

キリコ「……」

シャル「……」

キリコ「……わかって、いる」

シャル「……」

キリコ「……少し、一人にさせてくれないか」

シャル「……わかった」

キリコ「……すまない」

シャル「……じゃあ、僕は補給のし忘れないかチェックしてるから……」

キリコ「あぁ……」

シャル「……ゴメン……」

キリコ「……あぁ」

シャル「……ぐっ……じゃあっ……僕はっ、行くね」

キリコ「……あぁ」

シャル「……」

キリコ「シャルロット」

シャル「……何」

キリコ「……泣きたいなら、今のうちに済ませておけ」

シャル「……泣かないよ……泣く資格なんて、無いんだ」

キリコ「……そうか」

シャル「……じゃあ、行くね」


プシューッ


キリコ「……」



鉄の温もりが、頬を通して入って来る。
あのサンサより、俺が包まれていた感触が甦る。
懐かしい、この臭い……この痛み……。


……俺は……次に、何を失えば良いのか。
俺は……。



ピーピーッ


キリコ「……俺だ」

ラウラ『キリコ……すまない、そちらに合流するまでかなり時間がかかりそうだ……。
    まだ、残存兵力があったらしい。ゲリラのような者達から攻撃を受けている』

キリコ「……そうか」

ラウラ『……シャルロットの様子はどうだ』

キリコ「あぁ……アイツは……」

ラウラ『……』

キリコ「……大丈夫だ」

ラウラ『……』

キリコ「……」

ラウラ『……わかった。お前も、無理はしてくれるなよ』

キリコ「……あぁ」

ラウラ『では、通信を終了する。すぐに片付けて、そちらに向かいたいが……』

キリコ「……帰って、来るんだぞ」

ラウラ『あぁ、わかっている。じゃあな』


プツッ


キリコ「……」



ビービーッ
ビービーッ


『これより、降下ポイントに到着。隊長、準備をお願いします』


キリコ「……」



咲いては消え、咲いては、消える。
地表を覆う炎の花。
それを見下ろしながら俺は腰を上げる。
最期まで、他人を想い続けた少女に、背を向けて。



キリコ「……さよならだ」



キリコ「……セシリア」


ゴトッ


キリコ「……」


プシューッ





——



「……諸君っ!」

「この場、この日をもって、ついに我々は結集した」

「国家、人種、思想、信念。そんな枠組みを超え、我々は終結したのだ」

「戦い、抗い、己の尊厳を突き立てる為に!」

「鉄の巨人共の心臓に、心火の一撃を放たんが為に!」

「我ら戦士は! 集まったのだ!」



鈴「……」



「修羅となれ……炎を浴び、鉄に打たれ、己を鋭とす刀の如く!」

「血を啜り、肉を浴びる、厖大なる餓鬼畜生が、吸血鬼共が、我らの前に立ち塞がっていたとしても!」

「我らを止める事はできぬ! 我らは、正に真剣なり! 我らは! 正に力の権化なり!」

「死んでいった者達の為に……愛した者達の為に!」

「……立ち上れっ!」



千冬「我らは……誉れ高き戦士なりっ!」



鈴「……」


あたしは……兵士なんかじゃない……。
戦うのは、ただの義務……。

その、はずだった。

地球全ISが集められたこの大隊。
それまでの戦いを何とか切り抜けたあたしも、当然召集された。
地球の命運を賭けた最後の戦い。その先兵となった。

あたしはそんな事よりもまず先に、友人を想った。
当然、セシリアや……もしかしたら行方不明のキリコ達が、この基地にいるかもしれないという、淡い想いを抱いて。


そして、あたしはここに来た。
そして、セシリアの戦死と、キリコ達の裏切りという情報を、知った。

視界が、周囲からゆっくりと、暗くなっていくのを感じた。
膝に、力が入らなかった。
朦朧とした意識の中、セシリアを殺したのは恐らくキリコ達だという事を、聞いた。

その後の事は、覚えていない。
気付いたら、ここに整列していた。


千冬「我々は! 地球の最後の希望なりっ!」


あたしは、兵士じゃない。
ここにいるのは、真実を知る為。

本当に、キリコ達が裏切ったのか。
セシリアを……その手で殺したのか。
それを知る為に、あたしはここにいる。



鈴「……」



そして……もし、本当にセシリアを殺したというのなら……。



千冬「……覚悟せよっ!」



……あたしは……。



千冬「我らが行くは、地獄なりっ!」



……皆、殺してっ……。


千冬「全軍っ!」



……あたしもっ……。



千冬「出陣っ!」



また戦争が、あたしから何かを奪おうとしている。
戦争なんか、嫌いだ。

戦争なんて……。



——




『目的地到達まで、約5分。降下準備完了されたし。繰り返す——』




シャル「……」

キリコ「……」

シャル「……あの、ライフル」

キリコ「……」

シャル「……ちゃんと、置いて来たんだね」

キリコ「……あぁ」

シャル「……そっか」

キリコ「……」

シャル「……辛かった、よね……」

キリコ「……」

シャル「……」

シャル「……」

キリコ「……」

シャル「ねぇ、キリコ」

キリコ「……」

シャル「……がんば、ろうね」

キリコ「……」

シャル「今度こそ……絶対に……」

キリコ「……」

シャル「きっと、鈴と織斑先生は、まだ生きてるはずだから、さ……今度こそは……」

キリコ「……」

シャル「鈴は……絶対に、死なせは、しないっ……」

キリコ「……」

シャル「織斑先生も……難しいけど、確保、できれば……」

キリコ「……」

シャル「それだけは、絶対に——」

キリコ「シャルロット」

シャル「な、何?」

キリコ「……痩せ我慢は、よせ……度が過ぎると、見ていて、辛い……」

シャル「っ……」

キリコ「……」

シャル「……」

キリコ「……どうしても、泣けないと言うのなら……あまり、無理に喋らなくて良い」

シャル「……」

キリコ「……例え、能力を増長されていたとしても……お前は、兵士じゃないんだ。
    ただの、子どもなんだ」

シャル「……うん……」

キリコ「……」

シャル「……」



『目的地到着。キリコ隊長、降下を』


キリコ「……行くぞ、シャルロット」

シャル「……了解」


『ゲート、オープン』


ウィーンッ


キリコ「……」

シャル「……」



『降下、開始』


キリコ「……出る」



キュィイイイッ
ギュンッ



キリコ「……」

シャル「……」



馴染みだした地球の風を、肩で切る。
しかし、俺が愛した風は、もう吹いていない。

体を突き抜ける衝撃が体を強張らせる。
噎せ返るような爆煙が息を上がらせ、閃光と熱が視界を奪う。
硝煙の臭いは嗅覚を鈍らせ、病を運ぶ死神が、紅い血に群がって行く。

これが、戦場だ。
俺が、慣れ親しんだ光景だ。

血と鉄の沼の中を、後ろを振り返りもせずに進む。
これが、俺の慣れ親しんだ場所なのだ。

ここが……俺がかつて愛した、場所なのだ。



キリコ「……シャルロット、お前は東から回り、ゴーレム隊と合流。敵の横を突け」

シャル「……了解」

キリコ「俺は、残りの小数と連携して、敵をこちら側に陽動する。ISは俺達が一手に引き受け、敵基地にはAT隊が突入する」

シャル「……わかった」

キリコ「……やるぞ」

シャル「……気をつけて」

キリコ「……あぁ」



キュィイイイッ



戦火は、全てを平等に巻き込む。
眼下に群がる鉄の騎兵。空を横切る黒の鬼。
そして、俺の前に立ち塞がる……ただの、人間も。



キリコ「こちら、ISS。これより陽動作戦を決行する」

『了解。道が開け次第、我々も基地へ攻撃を仕掛ける』

キリコ「……通信、終了」


キュィイイッ


キリコ「……」

キリコ(……いたか)



「来たぞっ! 迎え撃てっ!」
「第一射撃隊! 斉射用意!」


キリコ「……」キュィイイッ


「撃てぇーっ!」


ズギュウンズギュウンッ


キリコ「……」


……ヒュンヒュンッ


キリコ「……」


『……』


バギンッドゴンッ


キリコ(戦力の薄さ故か……一斉射撃にも、穴が目立つ)シュッ

キリコ(ゴーレム隊、被害軽微……)

キリコ「……突っ込む」



「第二射撃隊!」


キリコ(イグニッション・ブースト……)


ヒュッ


「撃て——」


バキンッ


「っ……がっ……」


ズドンッ


「つっ……」


「なっ……」
「い、いつの間に……」


キリコ「……」ズガガガッ


「か、各自防御——」


キリコ「無駄だ」チャキンッ


(じゅ、十二連装ミサイルに……ヘビィマシンガン二丁……)


ズババババッ
ズガガガッ


「きゃあっ!」
「うわぁっ!」



キリコ「ゴーレム隊、一斉攻撃……」


『……』ゴォオオッ


「ふ、懐に……」
「あっ……あぁっ……」


ズドンッ ズドンッ ズドンッ



キリコ(ゴーレムの数の方が上か……これだけ乱せば、後は総崩れだな)

キリコ(……)

キリコ「……お前達は量産機の相手をしろ……専用機が来たら、知らせるんだ」

キリコ「……」

キリコ「……こちら、ISS。敵IS防衛線を看破した」


『了解した。こちらも出動する』


キリコ「……通信、終了」

キリコ「……」



黒い傀儡が、人間達を蹂躙する。
鎧が千切れ、四肢が飛び、呻きが惑い、飛沫が舞う。
絶対防御と呼ばれたこの兵器は、もうただの一兵器に過ぎないのだ。

戦場で己の命を守る物は、機体では無い。
自らの腕と、運を、信じる他は無い。

彼女達を守るものは……何も、無い。



キリコ「……俺も、基地へ向かう。ゴーレム隊、続け」


キュィイイイッ
ギュンッ


キリコ「……」



だからこそ……俺は……。


……



ピーピーッ


キリコ『……位置についたか』

シャル「うん……そっちの防衛線が崩れたせいか、少し相手に動揺が見えるよ」

キリコ『そうか。AT隊が今基地に向かったところだ。俺は、その援護をする』

シャル「了解。こっちもかなり押してるから何とかなりそうだよ」

キリコ『……わかった』

シャル「……鈴を見つけたら、すぐに連絡する」

キリコ『……頼む』

シャル「うん……今度こそ、保護しよう……」

キリコ『……あぁ』


ヒュンヒュンッ


シャル「ん……敵が来たみたいだ。切るよ」

キリコ『……無茶はしないでくれ』

シャル「……わかってる。じゃあ、また後で」



ピッ


シャル「……はぁ……」

シャル「……」

シャル(ゴーレム隊を抑えつつ、鈴を救出する……か……)

シャル(……こいつらは、破壊プログラムしか、搭載されてないんだ)


「はぁああっ!」
「てやぁああっ!」


シャル(早速……来たんだ……)



ズガガガガッ


シャル(……見えるよ、これくらい)ヒュッ


ズキュンズキュンッ


「くっ……」バキンッ
「うおっ……」ドカッ


シャル「……」ヒュンッ


ジャキンッ
ズドンッ ズドンッ


「がふっ……」
「あっ……よくも……よくもっ!」


シャル「……」ジャキッ


ズガガガッ


「くっ、あっ、がっ……」


シャル「……」


ズキュウウンッ


「っ……」


ヒュウウウッ……


シャル「……」

シャル(この、僕みたいに……)

シャル(キリコに向けられていたあの殺意が、今度は地球の皆に対して、設定されてる……)

シャル(……意思とは関係なく、体が勝手に反応してどういう風に動けば良いのか、咄嗟にわかる)

シャル(どう動けば、相手を殺せるのか……)

シャル(……僕は、敵を殺す機械と、差は無い)

シャル(このゴーレムと同じ……)

シャル(セシリアを殺した……コイツらと……同じなんだ……)

シャル「……」

シャル「……ゴーレム隊、敵ISを各個撃破。それが終わったら地上の戦力も削れ」

シャル「……僕は、専用機確保に専念する」

シャル「専用機と僕が戦っている間は、絶対に手出しはするな」


『……』ピピピッ


シャル「……」

シャル(……これで、何とか割り込んでくる心配はなさそうだ)

シャル(後は……僕自身の破壊衝動をどれだけ抑えられるか……)

シャル(……本当に、抑えられないのなら……)

シャル(……)



ビービーッ
ビービーッ


シャル(本艦から通信?)

シャル「……はい、こちらシャルロット」

ルスケ『デュノア、緊急の案件だ』

シャル「なんでしょうか」

ルスケ『お前の北方、約2000の距離でゴーレム4機が破壊された』

シャル「……」

ルスケ『相手は、どうやら1機のようだ』

シャル「成程……尋常じゃない」

ルスケ『あぁ、よほど性能の良い機体なのだろう。今すぐに向かい、そして必ず持ち帰れ。いいな?』

シャル「……了解」


ピッ


シャル(……ゴーレム4機を1機で……)

シャル(……まさか……)

シャル「……」



ギュンッ


シャル「……」

シャル「……ん?」


「いやぁああっ!」ヒュンッ
「ま、待て! 逃げたら的にされるぞ!」


シャル(……まだ、防衛隊が残ってたか……)

シャル(的、ね……その通りだよ)


ヒュンッ


シャル「……」ジャキッ


「ひっ……」
「なっ、は、早く構えろ!」


シャル(……)


「あ、あぁ……」
「な、何を止まってるんだ!」


シャル「……」


ドクンドクンッ


シャル(体は、勝手に動く……)

シャル(この動悸のままに……引き金を引くしかない……)

シャル(……勝手に、動くんだよ……)

シャル(止められないんだよ……自分じゃ……)

シャル(どうしようも、無いじゃないかっ……)

シャル(……)


「……こ、殺さないでっ……」


シャル「……」


「殺さ……ないでっ……」


シャル「……悪いけど……」


「……」



シャル「死んで、もら——」


このっ……人殺しぃいいいっ!



シャル「……セシ——」



バキュンッ
ドガンッ


シャル「ぐっ……」


「アンタ達! 早く逃げなさい!」


「……」
「ほ、ほら! 私に掴まれ!」
「う、うん」


シャル「……」

「……久しぶりじゃない……アンタ」

シャル「……」

「元気してたぁー? 元気にさぁー……」

シャル「……」

「だんまり決めてないでさぁ……あたしに、まずなんか言う事あんじゃないの?」

シャル「……鈴」


鈴「……シャルロット……」

シャル「……」

鈴「人に対して、殺すつもりで銃口を向けて……しかもそれについて何も感じないような顔してたけど……。
  アンタ……本当にシャルロット?」

シャル「……そうだよ……僕は、シャルロットだ」

鈴「……ふーん……じゃあ本当に裏切ったんだ、アンタ達」

シャル「……」

鈴「……別人で、あって欲しかったけどねぇ……」

シャル「鈴、話したい事があるんだ」

鈴「あたしもあるわよー……」

シャル「な、何……」

鈴「……セシリア殺したのって……アンタ?」

シャル「っ……」

鈴「……図星、か」

シャル「……」

鈴「当たってんでしょ?」

シャル「……違うっ……」

鈴「違う? 何が違うの? こっちの情報網じゃ、そういう事になってるけど」

シャル「ぼ、僕達は……セシリアを保護しようとしたんだ」

鈴「保護?」

シャル「うん……専用機持ちは、生け捕りにする。それが、僕達の任務だ」

鈴「……いや、死んでんじゃんセシリア」

シャル「っ……そう、だね……けど、僕達は本当に、セシリアを保護しようとしていたんだ……でも……」

鈴「……」

シャル「あと一歩ってところで……僕達の、その……素性を知られて……」

鈴「成程……」

シャル「……あぁするしかなかった……僕達の素性を話せば、必ず、パニックになる。話すつもりはなかった。
    でも……セシリアは、僕達の素性を知って、パニックを起こした」

鈴「……」

シャル「……それでセシリアは、逃げて……そして、ゴーレムに……殺されたっ」

鈴「……」

シャル「止められなかった……止められなかったんだよっ……目の前で死んでいくのを……」

鈴「……そっ……それが、事の顛末ね……」

シャル「……そうだよ……」

鈴「……」

シャル「……だから……鈴だけでも……」


鈴「……アンタ、殺すわ」


シャル「っ!?」

鈴「……まぁ、その前にさ。裏切った理由教えてくんない? そうじゃないと後味悪いから」

シャル「ちょ、ちょっと待ってよ鈴」

鈴「早く教えろって言ってんのよ」

シャル「鈴!」

鈴「気安く名前呼ぶな。いいからさっさと教えなさいよ、この下種」

シャル「……箒が、人質に取られてる」

鈴「……」

シャル「箒が行方不明なのは、そっちだって知ってるでしょ……それに……僕達だって誘拐された。
    そして、アイツらの本拠地で、箒が人質になってるところを見せられて……従えって……」

鈴「……」

シャル「……こうするしか、なかったんだよ……だって、どうしようも無いじゃないか……。
    僕達だって、いつ殺されるかわからなかった。箒だって、そうだ……」

鈴「……」

シャル「……キリコが、箒の事、本当に好きなの……わかってるでしょ……」

鈴「……まぁね」

シャル「……僕達に、選択肢は無かった。だから、せめてセシリアと鈴だけは……生きて、捕まえればって……」

鈴「……」

シャル「……」

鈴「……何よ、それ……」

シャル「……」

鈴「……箒が、人質?」

シャル「う、うん……だから……」

鈴「だったら……真っ先に取り返そうと思わないのっ!?」

シャル「……」

鈴「おかしいでしょ……こんな……人が、数えきれない程死ぬ戦争……止めようと思わないの?
  箒を助けに行けば、戦争だって止められたかもしれないし、アンタ達だって裏切る事無かったかもしれないんだよ?」

シャル「ほ、箒は別の場所に隔離されてたんだ。助けるなんて、無理に決まってるじゃないか……」

鈴「何よ……死ぬのが怖いって訳? 友達の為に?」

シャル「……仕方が、無いじゃないか……もしヘマをしたら、箒が殺されるかもしれない……。
    キリコも、ラウラも……僕だって……」

鈴「……はぁ……情けない」

シャル「じゃあ……鈴はどうなのさ……」

鈴「……何がよ」

シャル「……友達が、人質に取られて……そんな、行動がとれると思ってるの?」

鈴「……いや、とるわよ」

シャル「自分が、死ぬかも知れないのに?」

鈴「アタシは、もう一回命張ってるわよ。あの黒い機体から、キリコの盾になったりね。死ぬかと思った」

シャル「……」

鈴「……もう、アンタ何言っても無駄よ。アンタは、セシリアを殺した……理由はどうあれ、それが事実……」

シャル「……」

鈴「アンタが、どれだけ努力したって……もう、あの頃には戻れない……」

シャル「……」

鈴「戦争ってのはね……直接関わんなくたって、十分に人の人生狂わせるものなのよ……。
  まして、直接関われば、尋常じゃいられなくなる」

シャル「……」

鈴「……家庭まで壊して、今度はアタシの友人まで奪って……」

シャル「……」

鈴「キリコの笑顔を奪って、アンタとラウラまで、裏切り者にした……」

シャル「……」

鈴「良い事なんかっ……ひとっつも無い……」

シャル「……」

鈴「戦争なんかっ……」

シャル「……」

鈴「……戦争なんかっ……大っ嫌いよっ!」

シャル「……」

鈴「返しなさいよ……」

シャル「……」

鈴「キリコを返しなさいよ! セシリアを、返しなさいよっ! ついこの間までの……皆を、返してよっ……」

シャル「……鈴」

鈴「……アンタ達を……殺して……セシリアの仇を討ってっ……アタシが、箒を救いに行く……。
  こんな戦争……ブッ飛ばしてやるっ! こんな腐った世界、ブッ飛ばしてやるっ!」

シャル「……無茶だ。たった一人でなんて……」

鈴「無茶でも、やるわよ……このまま何も成さずにいるよりは……前のめりに倒れた方がマシ……。
  アンタみたいになるより、数百倍マシよ」

シャル「……」

鈴「……」

シャル「……もう……戻れないん、だね……」

鈴「……えぇ……」

シャル「はぁ……そっか……」

鈴「……」

シャル「……そっか……」

鈴「……」

シャル「なんで、こんな事になっちゃったんだろ……」

鈴「……知らない……」

シャル「……だよね」

鈴「……」

シャル「……」ピッ



ツーツー
ピピーッ


キリコ『……どうした』

シャル「……これから、鈴と交戦する」

キリコ『何?』

シャル「……生け捕りは、ほぼ不可能。僕か鈴。どっちかが、確実に死ぬ」

キリコ『っ……』

シャル「……ゴメン、キリコ……結局、こうなっちゃった」

キリコ『……そうか』

シャル「……今まで、ありがとうね。キリコ」

キリコ『……よせ』

シャル「今のうちに言っとかないと、後悔するから……本当に、ありがとう……。
    今まで、楽しかった」

キリコ『……冗談は、やめろ』

シャル「冗談じゃ、ないよ……」

キリコ「シャルロット、お前……」

シャル「……通信、終了」

キリコ『お、おい——』


プツッ


シャル「……」

鈴「……遺言、終わった?」

シャル「うん終わったよ。そっちは」

鈴「……さぁ……アタシもう、身内いないし」

シャル「……そっか」

鈴「……来なさい」

シャル「……うん」


ジャキッ
シャキンッ


シャル「……」

鈴「……」

シャル「僕にも……箒を見殺しにしないっていう、目的がある。だから、簡単には、死なないよ」

鈴「……でしょうね……そうじゃなきゃ、困るし」

シャル「……本当にっ……何でっ……」

鈴「……その辺に、しときなさい」

シャル「……」

鈴「よしみで、殺す時は一瞬でやってあげるから」

シャル「……優しい、鈴は……」

鈴「……まぁね」

シャル「……」

鈴「……」

シャル「……」

鈴「……」


シャル・鈴「っ!」


ギュンッ



——

今日はここまで

ちょいちょい、ボトムズもしくは両方元ネタ知らないって人が読んでくれてるってレス貰って凄く嬉しいけど、
よくついてこれるね……メロウリンクとか完全においてけぼりなネタ使ってるのに……




キリコ「おい! シャルロット、応答しろ! ……クソッ」


ピーピーッ


キリコ「……」

キリコ(マズイ……俺も、行かなければ……)


ギュンッ


キリコ「っ!」

キリコ(ざ、斬撃……か、かわせ……)


バキンッ


キリコ「ふおっ!」


「……」


キリコ「くっ……」


キュィイイッ


キリコ「はぁ、はぁ……」

「油断していたな、小僧……」

キリコ「……アンタは……」



千冬「よう……この、裏切り者……」


キリコ「……」

千冬「……感動の再会だな。レッドショルダー」

キリコ「……姉さん」


ヒュンッ


キリコ「っ!」ヒュッ

千冬「……ほう、避けるか。今のを」

キリコ(……凄まじい軌道力だ……イグニッションブーストか……)

千冬「……」

キリコ「……アンタは、司令官をやっていると聞いたが」

千冬「司令官でも、前線には出る。力が、あればな」

キリコ「……その機体……」

千冬「これか……コイツは、束から貰った物だ。忌々しいが、性能は良いんでな……この、白式は」

キリコ「……」

千冬「ここに来るまで、少々試し斬りをして来てな……あっという間に、斬れたよ。あの黒い機体が紙きれのようだった」

キリコ「……」

千冬「……貴様の、その脆弱な装甲は……どれくらい気持ちよく斬れるんだろうな」

キリコ「……」

千冬「……」

キリコ「……訳は、聞いて貰えなさそうだな」

千冬「訳も何も、私は全て知っているさ。束から聞いている」

キリコ「……そうか」

千冬「……牙を向かんのか、奴等に」

キリコ「……」

千冬「自分の命が、惜しいか」

キリコ「違う」

千冬「……所詮、元レッドショルダーだ。口では何とでも言える。なぁ、昔は、共食いだなんて訓練をやってたそうじゃないか。
   どうだ? どれだけ仲間を殺した。死神にでもなった気分だったろうなぁ、その時は」

キリコ「……」

千冬「……この戦場にも、相当数のレッドショルダーが来ているそうじゃないか……」

キリコ「……らしいな」

千冬「では、まず手始めにお前から殺そう。そして、後のATに乗ってる雑魚共も一緒に地獄へ送ってやる。
   地獄で一緒に共食い出来るようにな」

キリコ「……」

千冬「私は……もう、あの時の私では無い。逃げ惑うばかりの、子どもでは無い」

キリコ「……」

千冬「……抗う力を手に入れたのだ。お前も、私も」

キリコ「……」

千冬「……」

キリコ「……」ジャキッ

千冬「ふっ……そうだな……そうやって、銃を構えてるのが、お似合いだよお前は」

キリコ「……」

千冬「……学園に来た時に、戻ったな。お前は」

キリコ「……」

千冬「……少し、年相応のかわいさを取り戻したと思ったら……また、戦争屋に戻ったよ。
   あの忌まわしい部隊に……私の……仇に……」

キリコ「……」

千冬「……前者の方が、好きだったんだがな……私は……」

キリコ「……そんな事を言いに、わざわざ前線まで来たのか」

千冬「……」

キリコ「俺は、アンタを保護しなきゃならない」

千冬「……保護、か」

キリコ「……あぁ」

千冬「それで、どうする。私を箒と同じようにしようと言うのか?」

キリコ「……」

千冬「それとも……オルコットのように、殺すか……」

キリコ「……さぁな」

千冬「……」


ピーピーッ
ピーピーッ


束『キリコちゃんキリコちゃん!』

キリコ「……今、忙しんだ」

束『目の前に白式の反応キャッチ! ちーちゃんと遭遇したね!』

キリコ「……」

束『ほら! 説得してよ、キリコちゃん!』

キリコ「……説得なんて、無意味だ。やるなら、自分でやるんだな」

束『ちょ、ちょっと!』

キリコ「……」

束『……もう! キリコちゃん! スピーカーモードにするね!』

キリコ「……好きにしろ」

束『ちーちゃん!』

千冬「……」

束『もう、白式にも直通回線付けてるのに、出ないなんて酷いよ!』

千冬「……」

束『さぁ! キリコちゃんと一緒に、こっちに来てよ!』

千冬「……キリコ、それを切れ」

束『ちーちゃん! 聞いてよ!』

千冬「切るんだ」

束『ちーちゃんってば! 訳を聞いてってば!』

千冬「……貴様が、この戦争を起こしたのは聞いた……それ以外に、何を聞く事がある!」

束『戦争を起こした理由は、聞いてくれなかったでしょ!』

千冬「黙れっ! 一個人が、戦争を起こす理由を持つなど、あってはならん事だ!」

束『……あるんだよ』

千冬「……」

束『この戦争は、ちーちゃん達の為に起こしたものなんだ!』

千冬「……」

束『私達は、あの戦争で離れ離れになった。ちーちゃん達はきっと戦争を恨んでる。
  だから、もうそんな事が起きなくて良いように、私はこの戦争を起こしたんだよ』

千冬「……戦争が、私達の為になる、とでも言いたげだな」

束『これは必要な事なんだよ!』

千冬「何が……必要だ……」

束『戦争は、もう無くなるんだ』

千冬「……」

束『また、四人で楽しくお喋りしたり、遊んだりできるんだよ! この戦争が終われば、戦争は無くなる!
  ISという絶対的な強さが、戦争を無くすんだ!』

千冬「……」

束『最初は、ちーちゃんと箒ちゃんのいる地球でISを作ってた。そうすれば地球は戦火に晒される事は無いと思ったから。
  現に、そうなった。地球は不可侵宙域になって、戦争から庇護された』

千冬「……」

束『この事が示すみたいに、ISは、戦争を止める抑止力になるんだ。力による絶対支配。圧倒的な力。
  その力を、片方だけに集約させる。そうすれば、戦争なんて起きる事も無い……これこそが、戦争を無くす道なんだよ』

千冬「……」

束『……もう、戦争は無くなる。これが最後なんだ。だから、ちーちゃんも、こっちに来て? ね?』

千冬「……」

束『……だから……』

千冬「……話は終わったらしいぞ。もう無線は切っておけ、キリコ」

束『ちょっ、ちょっと!』

キリコ「……悪いが、俺も、いくら話を続けても無駄だと思うぞ」

束『キリコちゃん……』

キリコ「……もう、切るぞ。俺は、戦わなきゃならない」

束『……』

キリコ「……正直、俺もアンタの考えには賛成しかねるがな」

束『……』

キリコ「……じゃあな」

束『……待って』

キリコ「……何だ」

束『……ミッションディスク、最後のファイル……それを、開いて』

キリコ「……ミッション、ディスクだと?」

束『……ちーちゃんの戦闘データが、それに入ってる』

キリコ「……何?」

束『何の為に、この天才束さんが万人量産機向けのミッションディスクを、ISであるセイバードッグに搭載したと思ってるの?』

キリコ「……端から、こうなる事がわかっていたからか」

束『うん……えへへ……一応、ちーちゃんのこれまでの戦闘は全てチェックしてるからね……。
  それを元にして、作ったんだ』

キリコ「……」

束『……正直言うと、キリコちゃんの腕じゃ、ちーちゃんと戦って勝つのは……厳しい。
  ちーちゃんの方が、圧倒的に歴も長いし、センスだってある』

キリコ「……らしいな」

束『そう思ったから、この機能を付けたんだ。セイバードッグは、万が一の為に、ちーちゃんに対処できるように……作った機体だから』

キリコ「……」

束『……データ、読み込んで』

キリコ「……あぁ」



ピピッ


束『……よし、完了』

キリコ「……そうか」

束『……でも、これだけは忘れないで。データは所詮データ。
  ちーちゃんへの反応速度は上がるけど、ちーちゃんには、それを凌駕する腕があるって事を』

キリコ「……あぁ」

束『……絶対に、ちーちゃんを生きて連れて来て……』

キリコ「……」

束『……絶対にっ……』

キリコ「……保証は、できない」

束『ダメッ……絶対に、生きて……』

キリコ「……」

束『……でないと……私が、あの時から生きてきた、意味が……無くなる……』

キリコ「……」

束『……お願い……』

キリコ「……善処は、する」

束『……うん』

キリコ「……」

束『……』


ピッ


キリコ「……」

千冬「……話は、済んだようだな」

キリコ「……あぁ」

千冬「……私の、家族の仇……とらせて貰うぞ」

キリコ「……」

千冬「父と、母と……弟のっ、仇だ……」

キリコ「……」

千冬「……」


ギュンッ


千冬「はぁっ!」

キリコ(速い……)

キリコ「……」ズガガガッ

千冬「そんなものは効かん!」チャキッ


ヒュンヒュンッ
カキンカキンッ


キリコ(!? 剣で弾いた!?)

千冬「遅いぞっ!」

キリコ「ちっ……」ヒュッ

千冬「……中々、良い反応だ」

キリコ「……そっちもな」

千冬「……こいつの性能と、私の腕を舐めない方が良い。まぁ、貴様と同じく、若干ピーキーな性能だがな」

キリコ「どうやら、そのようだな」

千冬「まぁ、敵から送られた機体というのが癪だがな……」

キリコ「……」

千冬「……さて……」

キリコ「……」ジャキッ

千冬「……私も、貴様相手では余裕は無い……全力で、いかせて貰う!」

キリコ(……来るか)

千冬「……はぁあああっ!」


ゴォオオオオッ


キリコ「っ!?(な、何だ……全身が、光り出した?)」

キリコ(……あれが、あの機体の単一能力……)

千冬「……行くぞ」

キリコ(速い……やはり、俺と速度は劣らないらしいな……)

千冬「ぜやっ!」ビュッ

キリコ「ふっ」ヒュッ

千冬「避けきれるものか!」


ビュビュッ


キリコ(ミッションディスクで何とか反応できる、鋭い太刀筋だな……)キュイイイッ

キリコ(一旦、体勢を……立て直す)

千冬(……隙は、逃さん!)

千冬「はぁっ!」

キリコ「……」ヒュッ

千冬「貰った!」

キリコ「ちっ……(この体勢では回避は……こ、ここは銃でガードするしか……)」

千冬「だぁっ!」ビュッ


バキンッ


キリコ「なっ……(斬り上げで、ガードが押し負けたっ……)」

千冬「……」ビュッ

キリコ「つっ……」キュィイイッ


ザンッ

キリコ「……」ヒュッ

千冬(ちっ、入らなかったか……)

キリコ「ぐっ……はぁ、はぁ……」

キリコ(凄まじい、剣圧だ……喰らってもいないのに、斬られたと錯覚した……)

千冬「……ふん……相変わらずの回避性能だ。転身だけで避けるとはな……」

キリコ「……」

千冬「コイツの武器は、これ一本……だが、これこそ、私にとって最強の武器……」

キリコ「……」

千冬「コイツを、一太刀でも浴びてみろ。その時、貴様は終わりだ」

キリコ「……」

千冬「……」

キリコ(あのオーラ……やはり尋常ではない。データによれば、エネルギーを攻撃用に転換しているらしいからな……)

キリコ(……あれを喰らえば、終わりというのは誇張ではない……シールドエネルギーが全て消える……)

千冬(雪片弐型……これを当てれば終わりなのは、言うまでもない。ヤツのシールドは改良したとは言え薄いはず……)

千冬(が、大人しくこれに当たる程、ヤツはトロくはない。私の腕でも、捉えられるか……)

千冬(……エネルギー消費も、バカにならんしな……連発はできん)

千冬(……もう一つの手の方にも、エネルギーは残しておきたいしな……)

千冬「ほうらどうした……今ので怖気づいたか」

キリコ(デタラメな攻撃では通るまい……俺のライフルでも、そう当たらないだろう)

キリコ(……ここは、防御しきれない武器を選ぶべきだ)

キリコ「……」ジャキッ

千冬(ほう……あれは、ショットガンか……やっとISらしい武器を使うようになったな……)

千冬「……そうだ、来い」

キリコ「……」キュィイイイッ

千冬(散弾……確かに、先程私がライフルの銃弾を捌いたのを見てからの判断なら一見正しい)

千冬(要は、捌ききれない程の弾を撃てば良い)

千冬(遠くから私を狙い撃つという手もあるが、コイツの速度と私の腕で判断するなら、それは無意味だからな)

キリコ「……」ズバンッ

千冬「ふっ」カキンッ

千冬(だがな……ショットガンの威力を確実に活かすには、インファイトを強いられる)

千冬(……コイツの性能を持ってすれば、ショットガンの有効射程距離と、雪片の間合いは、同じ……)

千冬(……それがわからんヤツでは、無いのは確かだ……)

千冬(だが……例えわかっていたとしても、対処できん攻撃をすれば、問題は無いっ……)

キリコ(やはり、牽制にも使えないか……)

キリコ(あまり近づけば、ヤツの間合いになる……)

キリコ(が、引きつければ、この脇につけた二連ミサイルを当てられる……)

キリコ(……一か八かだ)


キュィイイイッ


キリコ「……」

千冬(仕掛けてくるか……)

キリコ「……」ジャキッ


ズバンッ


千冬「ふっ」ヒュッ

キリコ「……」ズバンッ

千冬「甘いっ!」

キリコ(来るかっ!)

千冬(あぁ、同じ間合いに入ってやるとも!)

キリコ「……」ジャキッ

千冬「……」ヒュッ

キリコ「……」ズバンッ

千冬(懐に、入るっ!)ヒュンッ

キリコ(イグニッションブースト……来たなっ!)



ガチッ


キリコ(捉えた!)


ドシュドシュッ


千冬「……」

キリコ(よし、これで——)

千冬(……甘い)


ヒュンッ


キリコ(……消え——)


千冬「何処を見ている……」

キリコ「っ!?」


ザシュッ


キリコ「……」

千冬「……」


キリコ「……ば、馬鹿、なっ……」

千冬「……」ブンッ


キィイイインッ……
ズサァアッ


千冬「……」

キリコ「ぐっ……はぁ、はぁ……」


千冬「……シールドエネルギー、貰ったぞ。キリコ」



——


鈴「てやぁっ!」ブンッ

シャル「当たんないよっ! そんなデカイ剣!」ヒュッ

鈴「ふん……じゃあ、これでどうかしら……はぁっ!」ジャキンッ

シャル(二刀か……)

鈴「死ねぇっ!」ブンブンッ

シャル「ふっ!」ヒュッ

シャル(デカイ割りに、振りは速い……)

シャル(なら、わざわざ相手の間合いで戦うのは愚かだ……)

シャル「……」ヒュンッ

鈴「ちっ……(後退した……)」

シャル「はぁっ!」ズガガガガッ

鈴「この剣は、盾にもなんのよっ!」カキンカキンッ

シャル「……ちっ」

鈴「……」

シャル(鈴の活動出来る間合い、それは近・中距離だ。迂闊に近づいたら勿論やられる)

シャル(しかし、遠距離からの攻撃は……)

シャル(あのデカさだ。あの剣を盾にして、弾かれるはず……)

シャル(そして、未だに使おうとしない、あの龍砲……)

シャル(……怒りに任せて来ると思ったけど……むしろ、驚く程に落ちついている……)

シャル(……どうする、か……)

鈴(さすがに、こっちの間合いじゃ戦ってくれないか……)

鈴(まぁでも、遠距離からじゃある程度できる攻撃は限られてくるし、避けれなくはない……)

鈴(いくらアイツが間合いの管理が上手いからと言っても、安易に下がられたところで勝機は渡らないはず…)

鈴(痺れを切らして、コッチの間合いに入るのを、待つ……)

シャル「……」

鈴「……」

鈴(……なぁんて……あたしの性分じゃないわね……)

鈴「……コッチから、行かせてもらうわっ!」ギュンッ

シャル(来るっ!)ジャキッ

鈴「撃つなら撃って来なさいよ!」

シャル「……」ズガガガガッ

鈴「はぁああああっ!」カキンカキンッ

シャル(ちっ……やっぱりあの剣を盾にして、強引に突っ込んでくるか……)

鈴「だぁああっ!」ブンッ

シャル「はっ!」ヒュッ

鈴(切り上げっ!)

シャル「ふっ」ヒュッ

鈴(袈裟!)

シャル「おっと……」ヒュンッ

鈴(突きっ!)

シャル「ぐっ……」ガキンッ

鈴「はぁあああっ!」ジリジリ

シャル(な、何とか止めたけど……お、重い……)

鈴「ま、だっ!」チャキッ

シャル(くっ……もう一本が来るか!)

鈴「ぜやっ!(もういっちょ、切り上げ!)」ブンッ

シャル「ちっ……」


バキンッ


鈴「なっ……(ま、また足の裏で止められた……)」

シャル「はぁあああっ!」ズガガガガッ

鈴「ちっ……」カキンカキンッ


ヒュンッ


鈴(……後退されたか……)

シャル「はぁ、はぁ……」

シャル(あの巨剣をあそこまで速く振るか……やっぱり、迂闊に接近戦を挑むのは、自殺行為だね……)

鈴(ちょこまかと……けど、やっぱり強いわね……あれに反応できるなんて……)

鈴(……同じ手で、二度も止められるとは思ってなかったけど)

鈴(……手段、選んじゃいられないわね)

鈴「……」

シャル(……そろそろ、か)

シャル(相手がどんな武器を使うかわからない時、常にこちらに大砲が向けられていると思うように……)

鈴「……」

シャル(そろそろ来るか……龍砲……)

シャル(データによれば、発射動作が見づらいのけど、その反面少し発射に時間がかかるらしいけど……)

シャル(……避ける自信は、ある)

シャル(この戦場に来てから……反応速度は、確実に上がってる……)

シャル(それを、活かせれば……)


ギュンッ


シャル「……」キィイイインッ

鈴(突っ込んでくる……上等っ!)

鈴「お見舞いしてやるわよっ!」キュウンッ

シャル(龍砲の射程範囲、ギリギリをっ!)

鈴「……」

シャル「……」

鈴(入った!)

鈴「はぁああっ!」バギュンッ

シャル(今だっ!)


キィイイインッ


シャル「くっ……」バウンッ

シャル(キリコの真似だけど、イグニッションブーストを利用した転身で……)



ドガンッ


シャル「ぐあっ!」

シャル(な、何!? 何で当たったの!?)

鈴「まだまだぁっ!」

シャル(つっ……ガードを——)


バギュンッ


シャル(あ、あれはっ……)


バキンバキンッ


シャル「うわぁっ!」

シャル(た、弾が……拡散した?)

鈴「叩き斬るっ!」ギュンッ

シャル「うっ……」

鈴「はあぁああっ!」ブンッ

シャル「くっ」


ガキンッ


シャル「……つうっ……」

鈴「そんな、ガード……振り切れる、わよっ!」ギリギリ


バキンッ


シャル「ぐはっ……」



ヒュウウウッ……
ドゴンッ


シャル「……ぐっ……はぁ、はぁ……」

鈴「はぁ……単発だと、思ってたでしょ……そりゃ、ちょっとはカスタマイズくらいするわよ」

シャル「か、拡散式……」

鈴「そっ。射程距離に入って来て、紙一重でかわせるようなもんじゃないわよ。
  まぁ、威力上げたせいで、弾見えるようになっちゃったけどね」

シャル「……」

鈴「……立ちなさいよ。まだやれんでしょ」

シャル「……」

鈴「もっと、痛い目見て貰わないと……困るのよ」

シャル「……ぐっ……」ググッ

鈴「……そうよ……武器でもなんでも使って、這いあがって立ちなさい……」

シャル「……」

鈴「立ちあがって……もっと、殴らせなさいっ……」

シャル「……」

鈴「ぜやぁあああっ!」ギュンッ

シャル「くっ」


ヒュンッ
ドガァアアンッ


鈴「……」



パラパラッ……


鈴(……いない……ちっ、どこに行った?)

シャル「はあぁああっ!」ズガガガガッ

鈴「そこかぁっ!」バギュンッ

シャル「つっ……」カキンカキンッ

シャル(あれは厄介だ……この距離じゃ避け切れる気がしない……)

鈴「はぁああっ!」

シャル(ここは、一旦スモークを張って、体勢を立て直す……)


バシュウ……


鈴「ん?(これは……)」

鈴(ちっ……赤燐か……センサー類でも見えないわね……)

鈴「……こんなもん使って……出てきなさいよ! この臆病者!」

鈴(……どこから来る……上から? 背後から?)

鈴「……」



ギュンッ


鈴(空を切る音……来る!)

シャル「はぁあああっ!」

鈴(後ろっ!)


ガキンッ


鈴「ぐっ……」ギリギリ

シャル「ぐ、ぬ……」

鈴(片方だけで、なんとか突進を止められたけど……)

シャル(……この武器なら、あれを、弾ける!)

シャル「はあっ!」ジャキンッ

鈴(シ、シールドピアース!)

シャル「貫けっ!」


ズドンッ
ガキンッ


鈴「なっ!(し、しまった! 青龍刀が弾き飛ばされた!)」

シャル(今だっ!)シャキンッ

鈴「ちっ、そんなブレードぐらい……」

シャル「せやっ!」



ヒュッ
パシッ


シャル(ぐっ、空いた手で掴まれたか)

鈴「はぁっ!」ブンッ

シャル「ちっ(もう一本の青龍刀……か、片手でガードする!)」


ガキンッ


シャル「ぐっ……」

鈴「アンタの、そんなブレードみたいに……片手で捌けるようなもんじゃないわよ……」

シャル「ぐ、あっ……(お、重い……)」

鈴「まだ、まだっ!」ブンブンッ

シャル「ぐっ」ガキンガキンッ

シャル(ま、マズイ……シールドエネルギーが削られていく……)

シャル(ブ、ブレードは捨てて、スモークに紛れて一旦……)パッ

鈴「逃げようったって、まだコレがあるわよ!」キュウウンッ

シャル「くっ……(逃げ切れっ……)」ヒュンッ



バギュンッ
ズバババッ


シャル「ぐあぁっ!」


ズサァアアッ


鈴「……スモーク焚いて見えなくしたって、適当に撃っても当たっちゃうのよこれが……」

シャル「……い、いたっ……」

鈴「あたしに、そもそも接近戦で勝てる訳ないじゃない……」ジャキンッ

シャル「ぐっ……」

シャル(い、今の一発で、エネルギーが危険領域近くまで……)

鈴「……」

シャル「はぁ、はぁ……」

鈴「……所詮、そんなもんなのよ。アンタの、覚悟なんて」

シャル「……」

鈴「そんなんじゃ、箒も救えない。ラウラも、キリコも……」

シャル「……」

鈴「結局、アンタは自分がかわいいから、そっちについたんじゃないの」

シャル「……な、何を……」

鈴「箒の為、ねぇ……ホントはキリコに媚びでも売りたいんじゃないの……」

シャル「な、何を……」

鈴「……それとも、箒を助けるだのキリコの為だのも口上だけで、本当は強い方につきたかっただけじゃないの」

シャル「ち、違うっ!」

鈴「……だったら、スモークだなんて姑息な手使わないで真正面から来なさいよ。自信が無いんでしょ。
  迷ってる自分が勝てるのか。自分が、本当は何の為に戦ってるのか」

シャル「……」

鈴「自信が無いから、そんな手を使う」

シャル「……」

鈴「……アンタは、そうなのよ」

シャル「……」

鈴「……殺る気、無いんじゃないの。本当は」

シャル「……」

鈴「まださ、あたしが大人しく捕まるとでも思ってんでしょ」

シャル「……」

鈴「……それだったら、大間違いよ。もし万が一、アンタに負けるような事があったら、その時は、あたしは自殺してやるから」

シャル「なっ……」

鈴「……あたしは、もう帰る所が無いんだ。アンタと違って、もう、本当に頼れる人なんて、いないんだ……」

シャル「……」

鈴「まぁ、行く所って言ったら……向こうかもね。セシリア、待ってるかも知れないし」

シャル「そ、そんな事……」

鈴「……命捨てられる人間ってのはね……もう、何も失うものが無いから、捨身で挑めるのよ。
  アンタは、そういうのを知らず、まだ自分にはそういう人がいるからと思って、余裕こいてられんの」

シャル「……」

鈴「……まだ、あるんだったら……それを守る為に死ぬ気で来なさいよ……。
  死ぬ気で来ないんだったら、アンタは、絶対にあたしに勝てない」

シャル「……」

鈴「……命、捨てる気で……それで、相手を殺す気で、来なさい」

シャル「……」

鈴「そんな覚悟くらい……できんでしょ……本当に、友達の為に戦ってんだったら……」

シャル「……」

鈴「……そんな、覚悟もできないの」

シャル「……」

鈴「ラウラを止める為に戦ってたアンタは何処よ。キリコ達を守ろうとして戦ってたアンタは別人?」

シャル「……いや」

鈴「……だったら、もう一度立って、かかって来なさい」

シャル「……」

シャル(……覚悟……)

シャル(……僕は、二度死んだようなもんじゃないか……)

シャル(アリーナ、砂漠……あの事件で、死んだようなもんだったんだ)

シャル(砂漠では、もう命を捨てたようなものだった……それを、忘れてたんじゃないか……)

シャル(今更……死ぬ覚悟くらい……)

シャル(……敵を、殺す覚悟くらい……)

シャル「……ぐっ……」ザッ

鈴「……そうよ」

シャル「はぁ……はぁ……」


ジャキッ


シャル「……」

鈴(重機関銃、ね……)

鈴「殺る気に、なったか」

シャル「……」

鈴「……なら、来なさいよ!」

シャル「……はぁああああっ!」


ギュウウンッ


鈴(……真正面から、来るか!)

シャル(相手を倒す為なら、多少の痛みくらい!)

鈴「上等っ!」

シャル(仕掛けられるのは、この一回だけ……)

シャル(あの龍砲の射程距離は、さっき掴んだ!)

シャル「はぁあああっ!」ギュンッ

鈴「……」

鈴(間合いに、入った!)

鈴「喰らえっ!」ギュウンッ

シャル「……」

シャル(通用するのは、一度だけ……)

シャル(これが、最後の勝機!)


バギュウンッ


シャル「……」


ヒュンッ


シャル(今だっ!)

シャル「イグニッションブースト!」



ギギイッ


鈴「なっ……(し、進行方向と逆のイグニッションブーストで、ブレーキをかけた!)」

シャル(ぐっ……すごい、Gだ……耐圧服を着てなかったら、車に轢かれるくらいの衝撃はあるかも……)

シャル(けど……)

シャル「はぁっ!」ギュンッ

鈴(マ、マズイ……あの速度じゃ二発目が間に合わない!)

シャル(龍砲での攻撃は現時点ではできない!)

シャル「でやぁああっ!」ガガガガガッ

鈴「つっ……」カキンカキンッ

シャル(重機関銃をガードしても……)パッ

シャル「まだこれがある!」ズバンッ

鈴「ぐっ!(ショ、ショットガン……双天牙月が……)」カキンッ

シャル「この距離なら!」ズバンッ

鈴(ガ、ガードが浮いちゃう……このままじゃ……)

シャル「はぁああっ!」ジャキッ

鈴「こんのっ!(やられる前に、また袈裟で、叩き斬る!)」ブンッ

シャル「はぁっ!」


バキンッ


鈴「は、はじっ……(け、蹴りで、手を叩かれた……)」

シャル「はぁっ!」

鈴「ぐっ……」ドゴォッ

シャル(ショットガンをっ!)ジャキッ

鈴「ま、まだっ!」キュウウンッ


ズバンッズバンッ


鈴「きゃああっ!(りゅ、龍砲が破壊された!)」バゴンッ

シャル「もう龍砲はこれで使えない!」ジャキッ



ズバンッズバンッ


鈴「ぐはっ!」

シャル「だぁあああああっ!」ズバンズバンッ

鈴「ぎっ……」


ヒュウウッ……
ドサァアアッ


シャル「トドメだっ!」

鈴「ぐぅっ……」

シャル(シールド……ピアース!)ジャキッ


ズドンッ
バゴンッ


鈴「があっ!」



ヒュゥウウウッ……
ドザァアアアッ


鈴「うっ……」


シュウウンッ……


シャル「……IS展開不可能……もう、君の負けだ。鈴……」

鈴「はぁ、はぁ……」

シャル「……」

鈴「ま、だ……」チャキッ

シャル「……そんなハンドガンで、どうしようってのさ……」

鈴「……つっ……」



パンッ


シャル「……」カキンッ

鈴「……」パンパンッ

シャル「……無駄だよ」カキンッ

鈴「……はぁ、はぁ……」


ドサッ


鈴「……ちっ……足、動かない、か……さっきので、かな……」

シャル「……」

鈴「くっ……」

シャル「……もう、良いんだよ鈴……」

鈴「良く、ないわよ……」

シャル「……」

鈴「あたしは……ここで戦ってた味方の……友達の、セシリアの無念を背負ってんのよ……ここで、負ける訳、ないじゃない……」

シャル「……」

鈴「あたしが、負けたら……皆が、セシリアが、浮かばれないじゃないっ……」

シャル「……」

鈴「あたしがっ……」

シャル「……僕の、勝ちなんだよ……」

鈴「っ……」

シャル「ISはもう展開できない……あるのは、そのハンドガンだけ……それで、どうやって戦うのさ……」

鈴「……」

シャル「……絶対に、勝てない」

鈴「……」

シャル「もう、僕は、鈴と戦いたくないよ……」

鈴「……」

シャル「……」

鈴「……それでっ……あたしと戦わないで、どうする、気よ……」

シャル「……」

鈴「あたしを、連れてく気?」

シャル「……」

鈴「……っ……どう、なのよ……」

シャル「……わからない」

鈴「……わからない?」

シャル「……結局……連れて行っても……僕みたいに、頭を弄られて、いいようにされるだけだ」

鈴「……」

シャル「今もさ、君にこうして銃口を向けてるけど……引き金を引かないように抑えるのが、精一杯なんだよ。
    体が、敵を殺せ、殺せって、うるさいんだ……」

鈴「……洗脳、か」

シャル「……そんな、とこだね」

鈴「……」

シャル「それを、今までした事に対する、言い訳にするつもりは、無い……セシリアを、救う事が出来なかったのは、確かだから」

鈴「……そっ」

シャル「……でも……どうすれば、良いのさ……」

鈴「……」

シャル「結局、連れて行ったって、僕みたいにされる……尊厳を踏みにじらせて、言う事を聞かされる。
    躊躇なく人に銃口を向けられるように、されるんだ……」

鈴「……」

シャル「でも、それしか、生き残らせる方法は無い……」

鈴「……」

シャル「……そんな、手しか……」

鈴「……」

シャル「……」

鈴「あたしは、嫌よ……」

シャル「……」

鈴「アンタと、同じになるなんて……」

シャル「……」

鈴「……絶対に、お断り……」

シャル「……でも……」

鈴「……さっさと、殺しなさいよ」

シャル「っ……」

鈴「友達の仇もとれず……捕まるくらいだったら、死んだ方がマシよ」

シャル「……」

鈴「……ほら、さっさと、しなさいよ……」

シャル「……」

鈴「……何を、躊躇ってんのよ……早く……」

シャル「……」

鈴「早く撃ちなさいよぉっ!」

シャル「声が……震えてるよ、鈴……」

鈴「っ……」

シャル「……」

鈴「……」

シャル「……鈴、逃げるんだ」

鈴「……え?」

シャル「死に急ぐ必要なんて無い。どこでも良い。誰にも見つからない場所に……」

鈴「……」

シャル「鈴が死ぬ意味なんて、無いんだよ!」

鈴「……馬鹿ね」

シャル「え?」

鈴「……アンタが、あたしをここで逃がしたなんて知られたら、それこそ、箒の身に何が起こるかわかったもんじゃない……」

シャル「……そ、そう、だけど……」

鈴「それに、逃げるってどこに? 周りには黒いIS、AT、その他諸々うじゃうじゃいる……どうせ、逃げ切れっこ無い」

シャル「そ、そんなの、わからないじゃないか……鈴なら、そう簡単に、死なないよ……」

鈴「……人ってのはね、簡単に死ぬのよ。自分が、親しい人すら、ね」

シャル「っ……」

鈴「……」

シャル「……ダメだ」

鈴「……」

シャル「……僕が、勝ったんだ……勝った人の、言う事を聞くのが、戦争なんでしょ……だから、僕の言う事、聞いてよっ……」

鈴「……」

シャル「僕の言う事を、聞く義務があるんだ……そうだ、だから……」

鈴「……言ったじゃん……身内も、もういない。あたしは、もう命捨てる覚悟なんて、できてるって。だから、一思いにさ……」

シャル「そんな覚悟、糞喰らえだっ!」

鈴「……」

シャル「なんで……なんでまた、友達を殺さなきゃいけないんだ! 意味がわかんないんだよっ!
    僕は、逃げてって言ってるでしょ!? 逃げなよ! さぁっ!」

鈴「……」

シャル「逃げてよっ! 早くっ! 逃げて、万機を期して、またセシリアの仇でもとりに来れば良いじゃないかっ!」

鈴「……」

シャル「そんな簡単に……死ぬなんて、言わないでよ……」

鈴「……どっちかが死ぬって、アンタ、最初に言ったじゃない」

シャル「言ったよ……でも、そうしないで良いかも知れないのに、どうして、殺さないといけないのさ!」

鈴「……」

シャル「やだよ……こんなの……」

鈴「……」

シャル「……鈴……」

鈴「……もう、どうしようもないじゃない。あたしは、もうどの道何も出来ないんだ……。
  あたしは、負けた。もう、起き上がれない……戦えないのよ……」

シャル「そ、そんなことない! いつもの、いつもの自信過剰なくらいの鈴なら、それでも逃げるくらい……」

鈴「……惨めに生きたり、他の奴等に殺されるくらいなら……アンタに、今ここで殺られた方が、良い」

シャル「……」

鈴「……あたしを、真正面から倒した、アンタが、良い」

シャル「……やめてよ」

鈴「……友達だった、アンタが、良い」

シャル「……やめてっ」

鈴「……早く」

シャル「……」

鈴「箒を救うって覚悟が、本物なら……あたしを、友達だったって言ってくれるなら……これが、一番の道なの……」

シャル「……」

鈴「わかってよ……」

シャル「……わかんないよっ……」

鈴「……」

シャル「こんなのっ……なんで、目の前で、二度も友達が死ぬところを、見なきゃいけないのさっ……」

鈴「……」

シャル「……」

鈴「……アンタが、やらないなら……自分で、やるわよ」チャキッ

シャル「……ちょっと……何してるのさ」

鈴「こめかみ、撃てば、良いんだっけ……」

シャル「……待ってよ」

鈴「……待たないわよ」

シャル「……」

鈴「……こうしないと……アンタ達が、危なくなるのよ」

シャル「……」

鈴「……こうしないとっ……アンタ達までっ……」

シャル「……」

鈴「……アタシはっ……それだったら……」

シャル「……待って!」

鈴「……」

シャル「……やる……」

鈴「……」

シャル「……僕が、やる」

鈴「……」

シャル「僕がやるっ!」

鈴「……そう」

シャル「それが……鈴の願いなら、やる……」

鈴「……」

シャル「それで……少しでも、鈴の気が済むなら……やるよ……」

鈴「……うん……お願い」

シャル「……」

鈴「この銃、使って……」

シャル「……わかった」

鈴「……」

シャル「……」

鈴「……絶対に、アンタらは、生き残りなさいよ」

シャル「……うん」

鈴「箒は、どんな方法を使っても良い……だから、絶対に、助け出しなさい」

シャル「……うん」

鈴「……キリコを、一人にしちゃ、ダメよ……アイツは、あぁ見えて、案外さびしがり屋なんだから……」

シャル「……うんっ……」

鈴「……」

シャル「……くぅっ……」

鈴「ゴメンね……アンタに、こんな事させて……」

シャル「……」

鈴「……もう、いいよ。撃っても」

鈴(キリコ……)

シャル「……」

鈴(嫌だよ……何で、傍にいないの……)

シャル「……ごめん……鈴……」

鈴「……早く、やっちゃってよ……セシリアが、クソマズイ料理抱えて、待ってんだから……」

鈴(死にたくないよ……)

シャル「うっ……うぅっ……」

鈴「泣かないでよ……こう、しないと……箒、助けられないのよ……」

鈴(何で、アタシが……)

シャル「ごめん……ごめんっ……」

鈴(……嫌……)



カチャッ


シャル「……はぁっ、はぁっ……」

鈴「そう……それで、良い」

シャル「……」

鈴「……さよなら、シャルロット」

鈴(死にたくない……)

シャル「……」

鈴(まだ……死にたくない……)

シャル「……」

鈴(キリコに、ちゃんと言ってないのに……)

シャル「……あぁっ……」

鈴(まだ……)

シャル「……あぁああああああっ!」



鈴「……死にたく——」


パァンッ……




——



キリコ「……ぐっ……」

千冬「……」

キリコ(……今の、はっ……一体……)

千冬「ふっ……貴様でも、捉える事は難しいだろう」

キリコ「……はぁ、はぁ……」

千冬「……さすがの貴様でも、今のには動揺を隠せんか」

キリコ「……イグニッションブーストでは、無いな」

千冬「まぁな……それの一つ上、ダブルイグニッションとでも言うところか」

キリコ「……ダブル……イグニッション……」

キリコ(そんな能力は……ミッションディスク内で想定されていない……)

キリコ(……未知の能力、とでも言うのか……)

千冬「貴様が回避特化なら、私は攻撃特化だ。移動機構は、全てそれ自体が威力として発揮できるようになっている」

千冬(……まぁ、エネルギー消費は、著しいがな……)

キリコ「……」

千冬「……貴様のシールドエネルギー……もはや無に等しいだろう」

キリコ「……」

キリコ(さっきの、あの攻撃……雪片弐型、零落白夜……いくらコイツのシールドが弱いと言っても、ここまでの性能とは……)

千冬「コイツはな、シールドを切り裂き、エネルギー自体に直接ダメージを与えられるのさ」

キリコ「……知っている」

千冬「これで、お前は丸裸ってとこだな……」

キリコ「……らしいな」

千冬(ヤツにも、反応し難い程の、この能力……)

千冬(私が、コイツから引き出した、お前に勝つ為の能力だ……)

千冬「……次で、終わりにしてくれる」チャキッ

キリコ「……」

キリコ(……まずい……次に、あの太刀を喰らったら終わりだ……)

キリコ(しかし、あの速度にはこのミッションディスクをもってしても、反応できるかどうか……)

キリコ(……どうするか)

千冬「はぁっ!」ギュンッ

キリコ(来るか!)

千冬「はっ!」ビュッ

キリコ「……」ヒュッ

千冬「ぜやっ!」ビュッ

キリコ「ちっ……」


キュィイイイッ


キリコ(ここは、ガードするしか……)


キンッ


キリコ「ぐっ……」

キリコ(ん? 押し切られずガードできた、だと?)

千冬「はぁっ!」ビュッ

キリコ「……」キュィイイイッ

千冬「待てっ!」

キリコ(……あの能力を使っていたなら、ガードは不可能なはずでは……)

キリコ(……いや、あの能力はヤツのシールドエネルギーも消費する諸刃の剣……そこまでヤツも持続はできん)

キリコ(それ以外の斬撃は、ガードしても多少は大丈夫という訳か……)

キリコ(……となると……)

千冬「ちっ、ちょこまかと……」

キリコ「……」

千冬(あと一撃……あと一撃当てさえすれば、ヤツを……)

千冬(……畳み掛ける!)

キリコ(ヤツは、必ず畳み掛けてくる)

キリコ(……傾向は、掴めるはずだ)

千冬「だぁっ!」ギュンッ

キリコ「……」

千冬(ダブルイグニッション、零落白夜……この二つが、ヤツを倒す切り札……)

千冬(しかし、こればかり使ってはいられない……下手に使えば、私が先にエネルギーを切らしてしまう)

千冬(それに、先程の様にダブルイグニッションを真正面から使っても、通じるかどうか)

千冬(……この二つは、確実に当たる場面でしか使えん)

千冬(ヤツの隙を引きだし、絶対に避けられない様にせねばなるまい)

千冬(……使用限度は、後数回……)

千冬「はっ!」ビュッ

キリコ「……」ヒュッ

千冬「避け切れるか!」ビュッ

キリコ「ちっ……」ガキンッ

キリコ(凄まじい応酬だ……が、まだ見える)

千冬(撹乱程度、見切られて当然……)

千冬(仕掛けるのは……)



ビュッ
ヒュッ


千冬(ヤツが、この攻撃を受け止めた時……)

千冬(そこが……)


ビュッ
ガキンッ


千冬(勝機!)

千冬(ダブル、イグニッション!)

キリコ「……」


ギュンッ


千冬(ヤツが剣を止めた反動、その力の向きに……加速する)

千冬(身を翻し、反転し……叩き斬れば良い……)

千冬(コイツの……背中をっ……)

千冬(斬るっ!)



ビュンッ


キリコ(やはり、ここか……)


バキンッ


キリコ「つっ……」

千冬「ちっ……捉えきれなかったか……」

千冬(装甲の一部を斬っただけ……あの速度に反応し、避けた?)

千冬(……いや、読まれていた、と見るべきか)

キリコ(装甲の一部を持っていかれたが……やはりあのタイミングで仕掛けてきたか)

キリコ「……」


ピピピピッ


キリコ(ヤツの戦闘パターンを読む……このミッションディスクがあれば、ある程度予測にも確実性が出てくる)

キリコ(……見切るんだ……ヤツの動きを)

千冬「……」

千冬(既に……私の動きを読み始めている……だと……)

千冬(……束の入れ知恵か、何かか……)

千冬(……もしくは……)

千冬「……」

千冬(……なら……)

千冬「完全に慣れてしまう前に、トドメを刺す!」ゴォオオッ

キリコ(また、来るっ……)

千冬「だぁっ!」

キリコ「……」



ヒュンッヒュンッ


千冬「ちっ……」

キリコ「……」

千冬(……何故だ。何故避けれる……)

千冬(不意打ちでなければ、キリコに私の攻撃は通じないとでも?)

千冬(コイツの何倍もの時間、ISに己を投じた、私の攻撃が?)

千冬「……」

千冬(ふざけるなよっ……)

千冬「……キリコォッ!」ギュンッ

キリコ「来るかっ!」

千冬「ぜやぁああっ!」

キリコ「……」

千冬「ふんっ!」

キリコ(ちっ、連撃……先程より荒いが、剣速が凄まじく速い……)



バキンバキンッ


キリコ「ぐっ」

キリコ(しかし、装甲はやられているが……致命傷は避けていける。良いぞ、これなら……)

千冬(この剣撃を、自身の身から紙一重でかわす……)

千冬(……何故だ)

千冬「何故、貴様は、そこまで強い!」ビュッ

キリコ「ちっ……」バゴンッ

千冬「意思も無く、大局に流されるだけの貴様が!」ブンッ

キリコ「……」ヒュッ

千冬「私が望んだ力を、どうしてそうも早く手に入れられる!」

キリコ「……」キュィイイイッ

千冬「逃がすかっ!」

キリコ「……」

千冬(ダブル、イグニッション!)



キィイイインッ


千冬「ぜやぁああっ!」ビュッ

キリコ「くっ」ヒュッ

千冬(この速度でかわせると思うなっ!)


バキンッ


キリコ「ふおっ!」

千冬「まだまだっ!」


ビービーッ


千冬「ん……(ちっ、使い過ぎたか……エネルギーが……)」



ズガガガガッ


キリコ「……」ズガガガガッ

千冬「つっ……やはり浅かったか……」

キリコ「バルカンセレクター」カチッ

千冬「まだまだ!」

キリコ「……」バンッ

千冬「ちっ」カキンッ

キリコ「……」ジャキッ


ドムンッ


千冬(オプションのグレネードランチャー……そんなトロい弾など余裕で避けれる!)


ヒュンッ


千冬「はぁああっ!」

キリコ「……」


バンッ


千冬「(大きく外した……)どこを狙っている! 私は——」



ドガァアアンッ


千冬「ぐっ!」

千冬(グ、グレネードを銃で起動させたかっ!)

キリコ「……」キュィイイイイッ

千冬(ちっ……も、もう間合いに……)

千冬「……この間合いで、貴様に負けるはずがあるかっ!」

キリコ「……」ブンッ

千冬「はぁっ!」ビュッ


バキンッ


キリコ「くっ……」

千冬(ふっ……拳で剣を止めたか……そこまではさすがだ……)

千冬(だが、剣と拳の鍔迫り合い……押し切れるぞ!)

千冬「はっ!」

キリコ(まだだっ!)



ズドンッ


千冬「なっ!(弾いた……ちっ、アームパンチか!)」

キリコ「……」ブンッ

千冬「くっ、舐めるな!」ビュッ



ガキンッ


キリコ「……」ギリギリ

キリコ(体勢復帰が早い……)

千冬「……」ギリギリ


ズドンッ


キリコ「ふっ」ブンッ

千冬「何度やっても同じだ!」


ガキンッ
ズドンッ

ガキンッ
ズドンッ


キリコ「……」ギリギリ

千冬「ふっ、手の装甲がどんどん消耗していくぞ……」ギリギリ

キリコ「……」

千冬「貴様のような……貴様のようなヤツが、私には勝てん……」

キリコ「……」

千冬「レッドショルダーに入っていたような、人間の屑には!」

キリコ(つっ……押されている……)

千冬「今度はお前が、全てを失うんだ……あの時の私のように……」

キリコ「……」

千冬「お前らが……レッドショルダーが私から、全てを奪ったように……」

キリコ「……」

千冬「お前は、何も救えない……友も、愛した女も、家族も、何もかもだ! あの虚無感を、また味わうんだ……。
   そしてお前は、また失うんだ……レッドショルダーなんかに入ったばかりになぁ!」

キリコ「……そうか」

千冬「そうだ……お前達にも、味あわせてやる……人間の、地獄というヤツを!」

キリコ「……」

千冬「レッドショルダー……戦争の、吸血鬼にっ! 貴様にっ!」


キリコ「……それが……」

千冬「ん?」

キリコ「……それが、どうした」

千冬「……何?」

キリコ「それがどうした!」


ガキンッ


千冬「ちっ」

キリコ「……」ブンッ

千冬「はぁっ!」ビュッ

キリコ「……」バキンッ

千冬「お前は……」


キリコ「……そうだ……確かに俺はレッドショルダーだった……だからどうだと言うのだ!」

千冬「っ……貴様ぁああっ!」

キリコ「確かにそうだった。だが、今は違う!」


千冬「今の貴様は! ただの裏切り者だっ! 女を人質に取られたと言い訳し、仲間を殺した!
   とどのつまり、貴様は結局最低の下種野郎だっ!」

キリコ「何とでも言え……例え、また何かを失おうとも……俺の命を、失うとしても……。
    俺は……箒の為に、戦う!」

千冬「黙れぇっ!」ビュッ

キリコ「はっ!」


ガキンッ


千冬「なっ!(手元で弾かれた!? これでは、第二撃が……)」

キリコ「……」ジャキッ



バキンッ


千冬「つっ……」


キュィイイッ
ガキン バキンッ


千冬「ぐはっ!」

キリコ「はぁ、はぁ……」

千冬「……何故だっ」

キリコ「……」

千冬「お前は……抗える力があるはずだ……目も眩む様な、赫奕たる力が!」

キリコ「……」

千冬「……私など、到底及ばない、力がっ……」

キリコ「……」

千冬「ISに触れて間も無い貴様が、私とこうして同等以上に戦っている……不思議とは思わんのか……」

キリコ「……俺の、能力だけじゃない」

千冬「……いや、お前の能力だ」

キリコ「……何?」


千冬「気付いているはずだ、知っているはずだ、自覚しているはずだ!」

キリコ「……」

千冬「お前が認めず、こんな卑しい道を選んだのは恐怖からだ! あまりの異常さに、また孤独になる事を恐れているからだ!」

キリコ「……俺は、そんな大層な者じゃない。俺は、普通の人間だ」

千冬「……何故だっ、キリコ……何故だ……何故抗わない! お前はっ……」

キリコ「……」

千冬「……何故……」

キリコ「……俺は、こうするより、他に無い……箒を、救う為には……」

千冬「っ……私は……」

キリコ「……」

千冬「お前の、生き方をっ……」

キリコ「……」

千冬「認めんっ!」



ガキンッ


キリコ「っ……」

千冬「ちぃっ……」


キリコ「……」

千冬「……」

キリコ「……アンタは、知っているんだな……俺が、妙な能力を持っているらしいと、いう事を……」

千冬「……あぁ、知っているさ……」

キリコ「……」

千冬「……最初は、信じていなかった……」

キリコ「……」

千冬「だが、お前と学園で再会した時……私は確信した。お前は、父さん達が研究していた通りの、人間なのだと……」

キリコ「……」

千冬「……私は、お前が羨ましかった……」

キリコ「……俺が?」

千冬「あぁ……何者にも、抗えうる力……私が望んだ力を、お前が持っているのだと」

キリコ「……」

千冬「……サンサだ……私は、サンサで、それを見た」


……



「ヤツらが来る!」
「ダメだ! この研究成果を……こんな所でヤツらに!」
「燃やせ! ヤツらの手に渡らないように!」
「うわぁっ!」
「せめて……せめてキリコだけは逃がすんだ! あの子だけは!」
「あの子をヤツらにとられては、絶対にいかん!」
「父さん! 母さん!」
「千冬は! 千冬はどこへ!」
「早くっ! こっちに来なさい!」

千冬「父さん! 母さん! 私は……」

「お前は、キリコ達と一緒に逃げるんだ」

千冬「で、でも……」

「父さん達は、まだここでやらなきゃいけない事があるんだ……」
「……大丈夫。キリコと一緒に逃げれば、きっと助かる」

千冬「……それって……」


「……姉さん?」

千冬「……」

「さっ、早くするんだ。束博士も時間を稼いでくれている。今しか無いんだ」

千冬「で、でも……」

「……行こう、姉さん」

千冬「……キリコ……」

「……俺は、箒を助けるように、言われてる。早く、行こう」
「キリコ……」

千冬「……」

「……早く、逃げよう」

千冬「……」

「俺は……コイツを、助けなきゃいけない」

千冬「……お前……」

「……」

千冬「……」

「……」

千冬「……箒」

「は、はい」

千冬「……キリコの手を、絶対に放すなよ。良いな」

「……はいっ」

千冬「……よし」

「……」

千冬「……行って、きます……」

「あぁ」
「気をつけてね……絶対に……生きてっ……」

千冬「……母さんっ」

「……母さん達も、終わったらすぐに追いかけるから……ほら、早く行ってっ」

千冬「……はいっ」



それから、私達は逃げた。
炎を掻い潜り、呻きを浴び、あの叫喚たる地獄を必死で逃げた。

しかし、炎は私達を、そう易々と通してはくれなかった。
途中、建物の崩落に巻き込まれ、私とお前達は分断されたしまった。
そして、奴等は来た。瓦礫で分断されてしまった、お前達の方に。
とにかく、今は逃げろと私は叫んだ。
私は、お前達に合流しようと、瓦礫の間を縫い、何とかお前達がいた側に抜けた。
逃げたお前達を追い、そして、お前達を遠巻きにだが、ようやく見つけた。

だが、私がそこで見たものは……。



千冬「はぁ、はぁ、はぁ……」

千冬「……いた! あそこにっ……」



「うわぁああああっ!」



千冬「っ……あぁっ……」


レッドショルダーに体を焼かれる、お前の姿だった。



……



千冬「それから私は、逃げた……まだはぐれたままの箒を探すという考えも、捨ててな」

キリコ「……」

千冬「悔しかったよ……何も出来ず、人を救えず、自分の命一つを守るので精一杯だった自分が……」

キリコ「……」

千冬「私は、どうにか離脱船に乗り込み。そして地球についた」

キリコ「……」

千冬「……それから、私はISに固執したよ。あの時の……奴等を遥かに凌ぐ強さが欲しかったが為に……」

キリコ「……」

千冬「そして、私は頂点に立った。私は……ようやく力を手に入れたんだ」

キリコ「……」

千冬「それからは、どうしようかと悩んだがな……」

キリコ「……」

千冬「私は、この力を……弱者に教える事にした。最低限、生きて行ける力を、教えられるように、と……」

キリコ「……だから、アンタはあそこにいたのか」

千冬「あぁ……まぁ、少々緩い校風と言えばそうだが……腐っても兵器を扱う場所だ。それくらいの事を、教える事はできる」

キリコ「……」

千冬「……少しでも、私のような者が減らせるようにと、教えて来たはずだったんだがな……」

キリコ「……」

千冬「……ふっ、皆……死んだ……残ったのは、恐らく、もう私くらいだろうな」

キリコ「……そうか」

千冬「……」

キリコ「……」

千冬「互いに、絶対防御すら満足に機能していないようだな……」

キリコ「……らしいな」

千冬「……」

キリコ「……」

千冬「……」チャキッ

キリコ「……」ジャキンッ

千冬「……最後の一撃、か……」

キリコ「……あぁ」

千冬「……」

キリコ「……」

キリコ(……剣を腰に……しまう動作か?)

キリコ(……しかし、構えたままか……)

キリコ(力を溜めて、斬り抜くつもり、か……)

キリコ(……もはや、銃の類は効かない……)

キリコ(……が……)

千冬(……銃をしまわず、か……あれは、ショットガンか)

千冬(……確かに、この局面で、ショットガンは有効だろう。インファイトにも使える……)

千冬(……が、今の私なら、銃撃など予測で避けれる……)

千冬(その上、コイツの攻撃じゃ……残りのシールドなど貫通して、お前自体に当たるというのに……わざわざ近づくなど……)

千冬(……ふっ、マヌケが……)

千冬(本当に、お前は……)

キリコ「……」

千冬「……」

キリコ「……」

千冬「……」


キリコ「!」


ギュンッ


キリコ「……」

千冬(銃を下ろしてイグニッション・ブーストで、一気に詰める?)

千冬(やはり、何か仕掛けてくるか……だが……)

千冬(……刀の間合いを見誤ったな……最後の、ダブルイグニッションだ!)



ギュンッ


キリコ「……」

千冬(……もう、お前は間合いの中……)

千冬(……これで終わりだ)

千冬(……これで、私は……)


チャキッ……


キリコ「……」

千冬「……」



チャキッ……


キリコ「……」

千冬「……」


ガキンッ
キュイイイイイッ


千冬(今更ターンピックで止まれるものかっ!)

キリコ(タイミングを、見誤るな……)

千冬「……」


ヒュッ……


キリコ(見える……)

キリコ(ヤツの動きが、完璧に見える……)

キリコ(あの、剣の軌跡が、見える……)

千冬「……」

キリコ「……」




キリコ(今だっ!)


ジャキッ


千冬(その銃ごと、叩き……)

千冬(……)

千冬(何故、コイツは銃を構えず突っ込んできた……)

千冬(下に構えた……反動の大きなショットガン……)

千冬(……っ! コイツッ!)



ズバンッ


キリコ「っ……」

千冬(反動で、ヤツの身体が反れる……)

千冬(しかし、浮く事は、ない……)

千冬(あのターンピックがっ……)


ヒュンッ……


キリコ「……」


千冬(間一髪で、剣がヤツの上を……)


キリコ「……終わりだ」



バキンッ


千冬「ぐっ」


ズドンッ


キリコ「……」

千冬「……」


キリコ「……」

千冬「……がはっ」



ドバッ


キリコ「……」

千冬「はぁっ……はぁっ……」

キリコ「……」



シュウウンッ……


千冬「はぁ、はぁ……」

キリコ「……アンタのISは、もう動かないみたいだな」

千冬「あぁ……私も、もう動けないさ……もう、な……」

キリコ「……」

千冬「だが、私は……敵の手にかかってなど……死なん!」グッ


ブゥンッ


キリコ「雪片……」

千冬「ふっ……」

キリコ「っ! よ、よせっ!」

千冬「……はぁ……ふっ!」



ドスッ


キリコ「……」


ブシャーッ


千冬「がぁ……っ……」

キリコ「姉さん! い、一体何を!」

千冬「その名で、呼ぶな……阿呆……」

キリコ「……アンタは……」

千冬「ふっ……せ、っぷく……という、ヤツさ……自分の、落とし、前を……つける為の……」

キリコ「よせ、喋るな」

千冬「うっ……」

キリコ「し、しっかりしろ!」ガシッ

千冬「……はぁ、はぁ……」

キリコ「……どうして……」

千冬「……話は、聞いている……ヤツらが、どんな、手を……使おうと、しているのかも……」

キリコ「……そうか」

千冬「……そう、なるくらい、なら……こう、するさ……」

キリコ「……」

千冬「……なぁ……キリコ」

キリコ「……何だ」

千冬「……あの子を、たす、けに……行かない、のか……」

キリコ「……」

千冬「任務を、全うした、ところで……ヤツらが素直、に……解放するとでも、思って、いるのか……」

キリコ「……」

千冬「……今、すぐに……救いに、行くんだ……」

キリコ「……無理だ」

千冬「無理では、無い……」

キリコ「……俺が死んでは、元も子も、無いんだ……アイツを、これ以上悲しませたく、無い」

千冬「ふっ……既に、相当の、事を……していると、思うがな……」

キリコ「……」

千冬「それに……お前は……」

キリコ「……」

千冬「お前は……死なない……」

キリコ「……何を、馬鹿な……」

千冬「お前の、能力が……お前を、生か、せる……」

キリコ「……だが……」

千冬「お前はっ! 死なないんだっ!」

キリコ「……」

千冬「お前、は……絶対に、死なない……」

キリコ「……」

千冬「……お前も、わかってる、はずだ……普通の人間ではないと……」

キリコ「……普通の、人間では……無い……」

千冬「……父さん、と……母、さんが……お前を、引き取ったのも……お前が、異能と呼ばれた生命だったからだ……」

キリコ「……」

千冬「……ミッションディスクを、見てみろ」

キリコ「……!? これは……」

千冬「完璧に、回路が焼き切れているでは無いか……」

キリコ「……では、俺は……」

千冬「あぁ……お前は、実力だけで私を、倒したんだ。ISに遥かに熟練していたはずの、私に勝てたのは……。
   お前の、その能力が、あったから、だ……」

キリコ「……ミッションディスクが焼き切れるまで耐えた……この俺に……」

千冬「ふっ……私が、お前を殺す脅威と、みなされたのか……私を、超える、能力を……遺伝子、が……」

キリコ「……」

千冬「……お前は……自分の能力を、わかって、いて……何故、アイツを、助けに行かん……」

キリコ「……」

千冬「お前の……命より、大事な、ヤツじゃ……ないのかっ……」

キリコ「……」

千冬「命を、賭しても良い、存在じゃないのかっ……」

キリコ「……姉、さん」

千冬「貴様は……死なんっ……」

キリコ「……」

千冬「死なない命など、価値は無い……価値の無い、物まで……賭ける事が、できん貴様は……一体、何だ……」

キリコ「……」

千冬「私を……姉と、呼ぶのなら……それ、くらいの、度胸を……見せて、みろ……」

キリコ「……」

千冬「おまえ、は……わ……たしの……おとうとじゃ、ないのかっ……」

キリコ「……」

千冬「おまえは……さいごまで……うらぎり、もので……いたいのかっ……」

キリコ「……」

千冬「おまえはっ……あいつのために、死ぬ覚悟も、できんのかっ!」

キリコ「……」

千冬「ぐっ……がはっ」ドバッ

キリコ「ね、姉さん!」

千冬「はぁ、はぁ……あら、がえ……」

キリコ「……」

千冬「抗、うんだっ……何を、恐れる事が、ある……」

キリコ「……」

千冬「あの、地獄を生き延びたお前だ……お前なら……できるはずだ……」

キリコ「……」

千冬「あの時見せた……あの目は、一体何処に行った……アイツを、助けようと、必死だった……あの時の目はっ……」

キリコ「……」

千冬「お前は……私の、弟だろう……」

キリコ「……」

千冬「私の……命一つで、お前を、正気に戻せる、なら……」

キリコ「……」

千冬「……私、は……」

キリコ「っ……姉さん! しっかりしろ!」

千冬「……行、け……この、裏切り者……」

キリコ「……」

千冬「敵に、看取られて……死ぬなど……恥だ……」

キリコ「……」

千冬「お前の……成すべき事を、成せ……キリコ……」

キリコ「……」

千冬「お前、は……万能では、無い……」

キリコ「……」

千冬「だがな……無能でも、無いんだ……その、力は……」

キリコ「……」

千冬「あの子にあったら、伝えてくれ……何も、できないで、済まなかったと……」

キリコ「……あぁ」

千冬「……最後に、聞く……」

キリコ「……」

千冬「お前が、レッドショルダーに入った……入れられた、理由は、何だ……」

キリコ「……俺が……」

千冬「……」

キリコ「異能……生存体だったから、だ……」

千冬「……ふっ……そうだ……それで、いい」

キリコ「……」

千冬「お前は……私の、目指した……」

キリコ「……」

千冬「さぁ……い、け……」

キリコ「……」

千冬「……」

キリコ「……」

千冬「……」

キリコ「……姉さん?」

「……」

キリコ「……」

「……」

キリコ「……そうか……」

「……」

キリコ「っ……わかった……」



……俺は、普通の人間では、無いらしい。
俺は……異能生存体。
死なない、生命。

俺は、死なない。
何が、あろうとも。

……俺は……。
この力で……。



キリコ「……」



涙は、出ない。
この人の為に泣く事など、俺には許されない。
俺ができるのは、一つだけだ。

箒を、この手で救う事。
それ、ただ一つだけなのだ。


「……キリコ」



キリコ「……シャルロット……無事、だったか」

シャル「……」

キリコ「……鈴は、どうした」

シャル「……」ガサゴソ


カランカランッ


キリコ「……その、腕輪は……」

シャル「鈴の、形見……」

キリコ「……そうか」

シャル「……そっちも、か」

キリコ「……あぁ」

シャル「……おり、むら……せんせいもっ……」

キリコ「……」

シャル「……皆っ……死んだんだっ……」

キリコ「……あぁ」

シャル「結局、皆っ……」

キリコ「……」

シャル「……」

キリコ「……シャルロット、俺は……」


チャキッ


キリコ「っ……何をしている、シャルロット」

シャル「……これ、さ……鈴を殺した、銃なんだ……」

キリコ「……」

シャル「……もう、疲れたよ」

キリコ「何を、言っている……」

シャル「無理だ……もう……戦えないよ……」

キリコ「……何を、頭に銃なんか、突き付けている……」

シャル「ねぇ、キリコ……」

キリコ「おい……その銃を、降ろせ……」

シャル「僕さ……もう、限界だよ……ははっ……何て言うのかな……」

キリコ「……」

シャル「なんか、今もさ、突然、二人の声が聞こえるんだよね……鈴が、またセシリアを煽って……セシリアがツッコミを入れて……。
    楽しい、会話が……頭で、グルングルン、グルングルン、回るんだ……」

キリコ「……」

シャル「でもさ……そんなのを無視して体がさ、勝手に動くんだよ。どうすれば殺せるか、どうすれば倒せるか……」

キリコ「……」

シャル「こうやって……後悔する癖に……殺すのに最善の方法を、スッと選んでるんだ……」

キリコ「……」

シャル「頑張れば、友達を助けられるとか言って……結局、真っ先に殺して……」

キリコ「……やめろ」

シャル「セシリアも鈴も死んだ! 織斑先生もだ!」

キリコ「やめろ」

シャル「誰が殺したの!? 僕達だよ! 友達だった、家族だった僕達が殺したんだ!」

キリコ「やめろっ!」

シャル「その癖、まだ僕達は友達の為とか言って戦ってるんだ! おかしいと思わないの!?
    おかしいと……思うでしょっ……」

キリコ「……」

シャル「キリコは、箒が命と同じか、それ以上に大切なのはわかってる……僕はその話も聞いた。
    だから、キリコは強い精神力を持ってられる……」

キリコ「……」

シャル「でも、僕は……そんなんじゃない……元々、兵士でもなければ何でもない……ただの子どもなんだよ……」

キリコ「……」

シャル「確かに、箒は大切な友達だよ。でも、その為に……その為に、こんなに、人を殺した……。
    箒と同じくらい大切な友達を……二人も殺してるんだ」

キリコ「……」

シャル「命を、捨てる気で行ったって……こんな、こんなの……虚しい、だけじゃないかっ……」

キリコ「……」

シャル「……耐えられないよ……耐えられるはずが無いよ! こんなっ……こんな事……」

キリコ「……シャルロット」

シャル「……ねぇ、キリコ」

キリコ「……何だ」

シャル「僕に……何か特別な名前、つけてよ」

キリコ「……どういう意味だ」

シャル「こんな僕でもさ……スパイなんてして、友達を裏切って、挙句の果てには、殺した……。
    こんな僕でもっ……誰かに、必要とされてたんだって……実感したいからさ」

キリコ「……」

シャル「……ねぇ」

キリコ「……やめろ」

シャル「ねぇったら」

キリコ「やめるんだシャルロット!」

シャル「早くしてよ! 僕はっ……僕は、もう死ぬんだ! これ以上、誰かを傷つけて、誰かを犠牲にして、生きていたくなんかないっ!」

キリコ「よせっ!」

シャル「限界なんだ……限界なんだよっ! 僕はっ!」

キリコ「やめろっ! それを降ろせ!」

シャル「はぁ、はぁ……」

キリコ「……やめろ……」

シャル「……ふふっ……ゴメン、もう無理だ……」

キリコ「……シャルロット……」

シャル「……ゴメンね……キリコ……」

キリコ「やめろっ……」

シャル「一足先に、自由になって……ゴメン、ね……」カチッ

キリコ「やめ——」



ズキュウウンッ


キリコ「っ……」



バキンッ


シャル「痛っ……」

キリコ「!?」


「ふざけるなよっ……シャルロット……」


キリコ「ラ、ラウラ……」

シャル「ラウラ……な、何で止めたのっ!?」



ガシッ


シャル「ぐっ」

ラウラ「やっと戻ってこれたと思ったら……今貴様は! 何をしようとしていた!」

シャル「ラ、ラウラっ……く、苦しい……」

ラウラ「死のうとしていた人間が苦しいとは、片腹痛い……そうは思わんか! あぁっ!?」

シャル「は、放して……僕は……僕は、死ななきゃいけないんだ……死んで、償わないといけないんだ……」

ラウラ「償いだと? いいや、違うな。貴様は、逃げようとしていたんだ。そうだろう」

シャル「っ……」

ラウラ「自らが犯した罪の責苦に耐えきれないなら、いっそ死んでしまおう、とな……」

シャル「……」

ラウラ「……辛いのはな、キリコも同じだ……私だって同じだ! それでも……戦うしかないんだ……」

シャル「そんなの……わかってるよ……」

ラウラ「だったら、何故自殺なんて考えた。そうすれば、あの二人が許してくれると思ったか!? えぇ!? どうなんだ!」

シャル「……あぁ、そうだよ! そうだよ……裏切り者が一人減れば、地獄に落ちるのが一人増えれば!
    きっと……恨みは晴れるだろうって!」

ラウラ「黙れっ! この、臆病者がっ……そんなもの、貴様が逃げたいが為に捻りだした言い訳に過ぎん!」

シャル「僕はラウラ達みたく強くないんだ! ただの……ただの世間知らずなガキなんだよ!
    それに、ラウラはまだ直接、友達を殺してないじゃないか! それなのに、わかったみたいに言わないでよ!」

ラウラ「……これを見ろ」ジャラッ

シャル「……何、それ……」

ラウラ「……私の、部下達だ」

シャル「……」

ラウラ「回収できたのは、これだけだ……この、認識票だけ……たったの、この一束だけだ」

シャル「……」

ラウラ「私がやった……私がやったんだ!」

シャル「……ラウラも、僕らと同じか」

ラウラ「あぁ、そうだ! 私の姿を見た時の、彼女達の表情がわかるかっ!?
    生きていてくれたと安堵し、そして、裏切ったと知った時の……あの、絶望の顔がっ……」

シャル「……わかるよ」

ラウラ「それで……彼女達はどうしたと思う? 無抵抗だった……無抵抗だったんだ!
    私の、為と抜かして……私は敵なのに……軍人として、失格だ……アイツらは……」

シャル「……」

ラウラ「だから……せめて、奴らの手に渡らないようにと、全員、この手で跡形も無く消した……そして、残ったのが、これだけだ……」

シャル「……」

ラウラ「私も、お前と同じように、信じてくれた人間を……殺したんだ。最悪の形でな」

シャル「……」

ラウラ「だがな……」

シャル「……」

ラウラ「……それでも、私はまだ戦う……」

シャル「……何で」

ラウラ「それが……私の意志だからだ。キリコの、為だからだ」

シャル「……ふっ、何がキリコの為だから、さ……」

ラウラ「……」

シャル「キリコの事最初は殺そうとして、それで手の平返したみたいに好きになって……正直、虫がよすぎるよ」

ラウラ「……あぁ、そう言われてもしょうがないだろうな……だが、それが私の意志だ」

シャル「……何で……何でそんなに強いのさ……」

ラウラ「……」

シャル「……キリコだって、もう箒の事しか見てないんだよ? 他の人が入る隙間なんて、無いくらいにさ」

ラウラ「……そうか」

シャル「なのに、キリコの為、キリコの為……おかしいと思わないの? 自分の方を振りむいてくれる訳でもないのに……」

ラウラ「……」

シャル「そんなの……無駄な努力なんだよ!」

ラウラ「……」

シャル「その無駄な努力の為に、部下を殺したんだ! ラウラは!」

ラウラ「あぁ、そうだ」

シャル「なのに……何で? 何で、まだ戦うなんて言えるのさ……」

ラウラ「……」

シャル「何でまだ戦えるのさっ!」

ラウラ「……それは……」

シャル「……」

ラウラ「キリコが、好きだからだ」

シャル「……」

ラウラ「それだけじゃ、駄目なのか」

シャル「……答えに……なって、ないよ……」

ラウラ「……キリコが、あの彼女の事しか見えていないとしても、私は構わない」

シャル「……」

ラウラ「だが私は、キリコの為に戦う。理由なんて無い。理屈でも、何でもない。問いに見合う答えなど、元より求めていない。
    見返りなど……いらない……キリコの、為になるなら……」

シャル「……」

ラウラ「私は、自分の全てを賭しても良い人の為に、戦う」

シャル「……」

ラウラ「……お前は、違うのか」

シャル「……」

ラウラ「友の為もあるだろう。だが、お前だって……キリコが好きなはずだ」

シャル「……」

ラウラ「脳を弄られても、それは変わらないはずだ」

シャル「……」

ラウラ「だから、キリコの為にも……」

シャル「……」

ラウラ「お前は、生きてくれ……」

シャル「……」

ラウラ「頼む……もう、友が死ぬのは見たくない……それは、お前が一番わかってるはずだ……。
    お前は、キリコの……友じゃないのか? お前は、私の……友じゃないのか?」

シャル「っ……」

ラウラ「……だから……」

シャル「……」

ラウラ「私から……友を、奪わないでくれよ……シャルロット……」

シャル「……ラウラ……」

ラウラ「……」

キリコ「……」

シャル「……ゴメン、ラウラ」

ラウラ「……あぁ」

シャル「……ごめんね……僕が、間違ってたんだ……」

ラウラ「そうだ……この馬鹿者がっ……」

シャル「ごめんっ……」

ラウラ「……馬鹿……」

シャル「……ごめんなさいっ……」

ラウラ「……泣きたいなら、泣け……胸ぐらい、貸してやる」

シャル「……うんっ……うん……」

ラウラ「我慢、するな……」

シャル「うんっ……」

ラウラ「……」

シャル「……ごめんなさいっ……ごめんなさいっごめんなさい!」

ラウラ「……」

シャル「鈴……セシリア……皆……ごめんなさいっ……」

ラウラ「……」

シャル「……みんなを……しなせて、ごめんなさいっ!」

ラウラ「……」

シャル「わぁあああっ……あぁあああっ……」

ラウラ「……シャルロット……」

キリコ「……」



まるで、自分の魂を放つようなその叫びが、戦場に響いた。
体を引き裂くような悲痛な叫び。これは、罪を乞う懺悔では無い。これは、祈りだ。
聴く者全ての魂を揺さぶる、祈りなのだ。
俺達裏切り者の、せめてものララバイなのだ。


シャル「うっ……ぐすっ……」

ラウラ「落ちついたか?」

シャル「……うん……」

キリコ「……」

ラウラ「……キリコ……今お前が抱えている、のは……」

キリコ「あぁ……死んでいる」

ラウラ「……お前が、トドメを刺したのか」

キリコ「いや……姉さんは……この人は、自分の信念に死んだ。裏切り者の手によってじゃ、無い」

ラウラ「……そうか……教官らしい、気高い最期だったんだな」

キリコ「……あぁ」

ラウラ「……それを聞いて、安心した」

キリコ「……」

ラウラ「きっと……いや、何でもない。裏切り者の我々がとやかく語るのは、教官に対する侮辱だ」

キリコ「……いいのか」

ラウラ「……」

キリコ「……お前は、この人を慕っていたはずだ」

ラウラ「……その頃の私は、ラウラ・ボーデヴィッヒはもういない。今は、ただの駒だ。そんな人間が、こんな気高い人に、
    言う言葉なんてあっても、言うべきではない」

キリコ「……そうか」

ラウラ「……さて……もう、お前はどうするか、決心はついているようだが……」

キリコ「……あぁ」

ラウラ「……」

シャル「……キリコ……どうするの?」

キリコ「……箒を、取り戻す」

シャル「……」

ラウラ「……敵のISの数は多少は減っただろう。しかし、我々三人だけでどうする。
    敵の戦艦、兵力、全てが規格外だ」

キリコ「……」

シャル「……」

ラウラ「……お前の決心を、こう言うのも何かも知れないが……やるとしても、今度こそ死ぬぞ。
    我々が死んだら、彼女はどうなる?」

キリコ「……」

ラウラ「……このまま、作戦通りに進めた方が、良いんじゃないのか。そうすれば……彼女はきっと……」

シャル「……キリコ」

キリコ「……俺達は……」

ラウラ「?」

キリコ「俺達は、死なない……」

シャル「……?」

ラウラ「……どういう意味だ」

キリコ「……俺が、レッドショルダーに入った理由は……俺の、異様な能力のせいだった」

ラウラ「……能力? ATの操縦技術ではなく?」

キリコ「……レッドショルダーの総司令、ヨラン・ペールゼンは、死なない兵士を探していた」

シャル「死なない……」

ラウラ「兵士?」

キリコ「250億分の1の確率で発生する特異遺伝子。それを持つ、絶対に殺す事のできない個体。ヤツはそれを……異能生存体と呼んでいた」

ラウラ「ペールゼン……レッドショルダーの創始者が、そんなものを……」

キリコ「あぁ。ペールゼンは、異能生存体のような兵士を作り、また探す為にあの部隊を作ったらしい」

ラウラ「……」

シャル「……もしかして、キリコが……」

キリコ「……ヤツ曰く、俺は、その異能生存体という生命体らしい」

ラウラ「……ありえない。殺す事のできない生命体だと? 夢物語も良い所だ」

キリコ「……俺は、ヤツに心臓を撃たれた」

ラウラ「!?」

シャル「なっ……え、じゃあなんで今ここに……」

キリコ「……その、遺伝子とやらのせいで、俺はこうして生きている」

ラウラ「……」

シャル「……」

キリコ「こっちに来てからもそうだ。俺を殺そうとしたヤツの銃が、突如弾切れになったり、弾道が物理法則を無視して曲がったり……。
    この前の砂漠での雨も、恐らく……」

ラウラ「……成程……それは、腕と運とやらで片付けられるものじゃないな……」

シャル「じゃあ、キリコは……本当に、死なないって事?」

キリコ「……らしいな。姉さんも、そう言っていた」

ラウラ「……」

シャル「……」

ラウラ「だ、だが……」

キリコ「二人共、覚えは無いか」

シャル「え?」

キリコ「シャルロット、アリーナで襲撃を受けた時、お前はどうやって逃げた」

シャル「えっ……そ、それは……偶々なんだけど……」

キリコ「話してくれないか」

シャル「え、えっと……キリコと別れた後捕まって……投げられて、それで運良くダストシュートに落ちて、それで……」

キリコ「奴らはプロだ。そんなヘマを、普通すると思うか?」

シャル「……ううん。暗視ゴーグルもしてたし……運が良かったとしか……」

キリコ「……ラウラ。お前は、あの砂漠での襲撃時、瓦礫で俺と分断された時があったな」

ラウラ「あ、あぁ……それが、どうした」

キリコ「あの時、お前はどうやって攻撃を避けた」

ラウラ「どうやってって……走って、避けたくらいだが……」

キリコ「あの装備と距離でか。分断された時、お前とあのATの距離は、ほとんど無いようなものだった」

ラウラ「……」

キリコ「弾が、物理法則を無視して、曲がったんじゃないのか。だから、お前は無事だったんじゃないのか」

ラウラ「……」

シャル「……そ、それって、つまり……」

キリコ「あぁ……シャルロット、ラウラ……お前達も、異能生存体なんだ」

シャル「……」

ラウラ「……」

キリコ「ウォッカムが意図的に、俺達をあの学園に集めたと言っていた。そして、経緯はどうあれ、俺達は奴に試されていたんだ。
    どうやって、生き残るかを」

ラウラ「……そんな、馬鹿な……」

キリコ「普通なら、あの砂漠で死んでいたはずだ。俺よりも早く、砂漠で倒れたりという形で。
    だが、俺達は一緒に生き残った。異能生存体の定義に……生きてさえいれば良いというものに、当てはまる」

シャル「つまり……僕達も……」

ラウラ「異能……生存体……」

キリコ「……そうだ」

シャル「……」

ラウラ「……」

キリコ「……ウォッカム……ヤツの実験は成功した。だから、俺達はこうしてここにいる。
    俺達が異能生存体だから、こうして、俺達はこの作戦に参加している」

シャル「……」

ラウラ「……」

キリコ「250億分の1、或いはそれ以下の確立でしか異能生存体は発生しない……しかし……」

ラウラ「……」

キリコ「……この広い宇宙に、俺だけでは無いと……信じている」

シャル「……」

ラウラ「……その、遺伝子は……」

キリコ「……」

ラウラ「その遺伝子は、自然発生するものに……限るんじゃないのか」

キリコ「……どういう意味だ」

ラウラ「……私は……遺伝子改良の為に生み出された……試験管ベビーだ……。
    作られた、人間なんだ」

キリコ「……」

シャル「ラウラ……」

ラウラ「私が持つ特異な遺伝子とは、それは……多分、お前達と違うものだ。ただ単に、身体能力等が上がるだけのものだ。
    そんな、死なない遺伝子など、意図的に増やせる訳が無い」

キリコ「……ペールゼンが言っていた。異能生存体すらも、今の科学力でなら複製可能だと」

ラウラ「……」

キリコ「お前は……もしかしたら、その実験体なのかも知れない」

ラウラ「私が……」

キリコ「ヤツは、俺の出生の秘密すら知っていたようだ。そんな昔から異能生存体の存在を知っていた。
    その頃から考えれば、お前のような存在がいても、不思議ではない」

ラウラ「……」

キリコ「お前も、異能生存体なんだ」

ラウラ「……」

キリコ「……だから……」

シャル「僕達は……」

ラウラ「死なない……」

キリコ「……」

シャル「……」

ラウラ「……」

シャル「……ふふっ……」

キリコ「どうした」

シャル「そういう事、早く言ってよ。僕がさっき自殺しようとしてたの、意味が無いって事じゃない。
    キリコも必死で止めてたけど、結局こうなるようになってたんだ」

キリコ「……」

ラウラ「シャルロットの遺伝子が、あの時私に自殺を止めさせた、というところか……成程、そうか……」

シャル「……でもさ……死なないんだったら、どんなのを敵に回しても、戦えるって事だよね」

ラウラ「まぁ……そうだな。単純には、そういう事になるな」

キリコ「……」

シャル「……だったら、箒を取り戻しに行こう」

ラウラ「……」

シャル「死なないんだったら……償いの方法なんて、それしかないじゃないか。
    箒を取り戻して、ウォッカムを倒す。それが、僕達のとるべき道なんだよ。きっと」

キリコ「……」

シャル「二人共、そう思わない?」

ラウラ「……あぁ……そうだな、その通りだ」

シャル「そうだよ! 僕達は、死なない……絶対に、負けない兵士なんだ!」

ラウラ「あぁ……私達は、死なない……」

キリコ「……」

ラウラ「死なない……部隊……」

シャル「……行こう、キリコ。箒を、取り戻しに」

ラウラ「……嫁よ。どうやら、決断の時だ」

キリコ「……すまない、二人共」

シャル「遠慮なんていらないよ。僕達は、同類じゃないか。この、広い宇宙で、たった三人だけの」

ラウラ「あぁ。遠い親戚みたいなものだ、気にするな」

シャル「……それ逆に気遣わない?」

キリコ「……ラウラ、シャル……」

ラウラ「……」

シャル「あれ……今のって……」

キリコ「……お前の名前は前々から、こう短縮して呼ぼうかと思っていた。ダメか?」

シャル「う、ううん! いいよ、全然良い! これからはそう呼んでよ!」

キリコ「……そうか」

シャル「えへへ……」

ラウラ「……お前も、人の事を言えないではないか」

シャル「うぐっ……そ、それとこれとは……また別というか……と、友達として……」

キリコ「……ふっ」

シャル「ふふっ……なんか、面白いね……生きてるって、感じがする」

ラウラ「ふっ、そうだな……さぁ、キリコ」

キリコ「あぁ……」

ラウラ「……」

シャル「……」

キリコ「……箒を、取り返しに行くぞ」

ラウラ「お前の為に」

シャル「僕の、大切な友達を……今度こそ、救う為に……」

キリコ「……奴の手から、必ず……」

ラウラ「あぁ……私達は、抗える体なんだ!」

シャル「へへっ、遺伝子のお墨付きだ!」

ラウラ「ここに来るまで、あまりダメージを喰らっていない……私の機体からシールドエネルギーを補給しろ」

シャル「わかった」

キリコ「……あぁ」

ラウラ「補給が終わったら、行くぞ……」

キリコ「……あの、艦に」

シャル「僕らの、大切な友達がいる……場所に……」

ラウラ「……そうだ」


ピーッピーッ


ラウラ「……完了した」

シャル「よし……これで、動ける」

キリコ「……なら……」



キュィイイイッ


キリコ「行くぞっ!」

シャル「了解!」

ラウラ「了解した!」



ヒュンッ ギュンッ
キュィイイッ



『……』

キリコ「ゴーレムがいるぞ」

ラウラ「どうする」

シャル「僕が沈めちゃうよ! 宣戦布告だ!」ジャキンッ


『……』


シャル「はぁああっ!」


ズドンッ
バキンッ


『……』ジジジジッ


ドカァアンッ


シャル「へへっ、反逆の始まりだ!」



……



ウォッカム「……もう、地球での抵抗勢力は無いに等しい、か……」

ルスケ「はい。地球での合同攻撃も、完璧に鎮圧したようです」

ウォッカム「後は、キリコ達の帰りを待つばかり、か……」

ルスケ「えぇ。ISの回収作業も、只今から行わせま——」


ピピーッ ピピーッ


ルスケ「ん、失礼します……どうした……何っ!?」

ウォッカム「……どうした、ルスケ」

ルスケ「……キリコ達が……ゴーレム機を攻撃していると……」

ウォッカム「なぁにぃっ!?」

ルスケ「……既に、五機破壊されました……」

ウォッカム「……馬鹿な……」

ルスケ「こちらに向かって、進行中との、事です……」

ウォッカム「ぬぅ……何故だ……何故今更になって……」



……




『……』ズガガガッ


シャル「おっと! 反撃してきたよ!」ヒュンッ

ラウラ「無駄だ! このAICの前には、火力など無意味!」キュウウンッ


『……』ズガガガッ


ラウラ「やれ! シャルロット!」

シャル「はぁあっ!」ズガガガッ


『……』カキンカキンッ



シャル「貰った!」ズドンッ


ドガァアンッ


シャル「ナイス援護! ラウラ!」

ラウラ「お前もな!」

キリコ「道が開いた。このまま突っ切るぞ」

ラウラ「了解!」

シャル「了解っ!」



キュィイイッ



シャル「そらそら! 不死身の部隊のお通りだよ!」ズガガガッ

ラウラ「無人機などでは相手にならんぞ!」ズキュウンッ

キリコ「……」キュィイイッ







……




ペールゼン「……」


プシューッ


「閣下、こんな所におられたのですか」

ペールゼン「……」

「閣下、もう少しで、地球の侵攻は終わる見込みですが……早々に、部隊を撤収させますか?」

ペールゼン「……この艦を、少し下がらせろ」

「は、はい。了解しました」

ペールゼン「……真実は……」

「な、なんでしょうか……」

ペールゼン「真実は、常に残酷だ……そうは、思わんかね……」

「……」

ペールゼン「……」



……




「うぉおおおおっ!」

「はぁああああっ!」



ズガガガガッ



シャル「つっ……凄い数だ……」

ラウラ「構うな! 突っ切るんだ!」

シャル「うん! わかってるよ!」



ヒュンヒュンッ


シャル「はあああっ!」ズガガガッ

ラウラ「うぉおおっ!」ズキュウンッ

シャル「殺せるものなら、殺してみろっ! 僕達は、絶対に死なないんだっ!」

ラウラ「貴様らに、我らの行軍を止める事などできんっ!」

シャル「僕達は……」

ラウラ「死なないっ……」



シャル「僕達は死ななぁーいっ!」ズガガガッ


ラウラ「私達は死なないんだぁーっ!」ズキュウウンッ


キリコ「……」



裏切りの戦士達が、座標を定めて走り出した。
償いの為、己の信念の為、そして、放してはいけない存在の為に。
生命にあるまじき力と共に、俺達は突き進む。
俺達は死なない。
そんな、冷笑的な叫びと共に。





——



裏切り者のララバイが、機銃のドラムと共に宙を駆ける。
これまで築いたあの日々が、飢えにも似た感情を喉の根に張り付かせる。
あの日々が、輝かしく、失いがたくあればある程、この飢えは切なさを増す。
例えその飢えが、真実によって満たされるとしても、
真実は、真実で有り続けるという事しか、彼らは知り得ないのだ。

次回、「瞑目」

彼はまた、生きてあり。

今回はここまでです
一話分だけで90KBいくとは思わんかった

次話以降は、次スレでやります
スレタイは……多分、変えるはず

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom