紬「さわ子先生の誕生日」 (21)
あの子達を見ていると考えてしまう。
誕生日が嬉しかったのって何歳ぐらいまでだろうって。
両手の指で数えられた頃は、自信をもって嬉しかったって言える。
あの頃は、誕生日プレゼントが楽しみで楽しみで仕方がなかった。
胸を踊らせながら、その日を待ち望んでいた。
10代の間も…楽しみだった。
同じ部活の友達に誕生日を祝ってもらって、少しずつ自分が大人になっていくのを感じて。
でも大学を卒業してからは、そうでもなくなっていった。
もちろん、誕生日が嫌いになったわけじゃない。
今でも誕生日には友だちと一緒に飲みに行くし、それなりに楽しい日を過ごしてる。
それでも、この子たちがお互いに盛大な誕生パーティーを開いていると思ってしまう。
あの頃は楽しかったなって……。
紬「さわ子先生?」
さわ子「……」
紬「先生?」
さわ子「あ……と。なぁに、ムギちゃん?」
紬「いいえ、ぼーっとしてたみたいなので、大丈夫かなって」
さわ子「え、ええ。大丈夫よ」
紬「そうですか?」
さわ子「ええ」
紬「あ、そうだ。そろそろさわ子先生の誕生日ですよね?」
さわ子「ふふ。よく知ってるわね」
紬「去年の誕生日、みんなにプレゼントをねだったじゃないですか」
そんなことあったっけ。
全然覚えていない。
みんなからプレゼントをもらったのはちゃんと覚えてるけど。
紬「今年もみんなで何かプレゼントしますから」
さわ子「…いいのよ、ムギちゃん、別に。この歳になったら誕生日なんてたいして嬉しくないもの」
紬「そうなんですか?」
さわ子「ええ。だからプレゼントなんていいの」
紬「…」
…言ってから後悔。
本当はこの子達のことを羨ましいと思っていたから。
生徒と教師というのは言い訳にはならない。
素の私をこの子たちには知られすぎているから。
紬「じゃあプレゼントは無しにしますね」
そう言ってムギちゃんはにっこり笑って、さっさと離れていってしまった。
……
………
それから数日。誕生日になる。
日付が変わると同時に、友達から沢山メールがくる。
ひとつひとつ返信すると、また返信がくる。
そのやりとりを繰り返して少し夜更かし。
夜にはみんなと飲みに行く約束もした。
…なんだ。意外と楽しいじゃない、誕生日。
すっかり御機嫌になって学校に行くと、クラスの何人かがそわそわしていた。
唯ちゃん、りっちゃん、ムギちゃんに澪ちゃん。
軽音部の4人だ。
これは多分…。
授業も終わり、放課後。
私は軽音部の部室にきていた。
唯「あれ、さわちゃんやけに上機嫌だねー」
さわ子「そう見える?」
紬「はい」
律「そりゃあさわちゃん誕生日だもんな」
澪「誕生日おめでとうございます」
さわ子「…ええ、ありがとう」
…あれ?
サプライズ誕生パーティーでも開いてくれるのかと思ったけど、違った?
紬「先生、どうぞケーキです」
さわ子「ありがとう」
梓「今日のために取り寄せたそうですよ」
ムギちゃんが出してくれたケーキは、私が以前食べたいと言っていたお店のもの。
もちろんとても美味しい。
みんなにこにこ私を見守っている。
…うん。悪くない。
サプライズ誕生パーティーではなかったけど、妥当な線だと思う
唯「ね、さわちゃん、美味しい?」
さわ子「ええ、もちろん」
紬「うふふ」
……
………
それからみんなでクッキーを囲んでお茶をして、その日の部活は終わった。
私は教師としての仕事を終わらせて、友達との待ち合わせ場所にいく。
友達「さわ子ー、こっちこっち」
さわ子「久しぶりね~今日は飲むわよー」
友達「くすっ、さわ子は相変わらずねー。さ、乗って」
さわ子「ええ。ね、今日はどこへ行くの」
友達「それは私達に任せるって言ったでしょ」
さわ子「そうだったっけ」
車に揺られて数十分。
お城みたいな建物の前に着いた。
さわ子「え、ここどこ?」
友達「ムギちゃんって言うんだって、あの子。相当悪知恵が働くみたいだね」
さわ子「え? え?」
友達「本当の意味で『サプライズ』にしたいなら、気づかないフリじゃ駄目だって言うんだよ」
気づくと車の傍に沢山の人。
今日一緒に飲む約束をした友達。それから--
さわ子「残念」
友達「どうして?」
さわ子「今日はお酒を飲めなそうね」
おしまいっ!
さわちゃん誕生日おめでとう
遅れてごめん
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