モバP「今までありがとう」(346)

渋谷凛(15)



凛「え?」

P「……」

凛「どうしたの、急に?」

P「いや、なんとなく。よくここまで大きくなってくれたなぁって」

凛「何それ、親戚のおじさんみたい」

P「おじっ……まだまだ小娘には負けないわ!」

凛「川島さんじゃん、それ」

P「……本人の前でいうなよ、怒るから」

凛「わかってるよ」

P「はぁ……イベントも大成功。ライブだって、大きなドームでやらせてもらって……」

凛「まだまだ上はあるけどね。IAだって夢じゃない」

P「なんだか、満足だよ」

凛「満足って……何言ってるの?」

P「いや、別に。よかったなぁって思ってさ」

凛「ふぅん……変なの。悩みでもあるの?」

P「いや、ないよ。だから満足」

凛「私たちはまだまだ上を目指せるんだから、さ。満足してる暇なんてないよ?」

P「……それはもう、きっと。俺がいなくても大丈夫だよな」

凛「え? 何言って――」


   サァァ……


凛「……あれ? プロデューサー?」

凛「ちょっと、どこ言ったの……?」

凛「隠れて驚かそうとか、そういう冗談はやめてよ」

凛「……」

凛「……いない……?」

凛「勝手に帰った……のかな、まったく」

凛「……はぁ。話の途中だったのにな」

凛「明日文句言おう」

凛「とりあえず今日は帰って……宿題、やっとかないとね」

 翌日

凛「おはよう」

卯月「あっ、凛ちゃん! おはよう!」

凛「おはよ、卯月」

卯月「えへへ、今日は私の勝ちだね!」

凛「何の勝負なんだか……」

卯月「頑張って朝早く起きる対決!」

凛「……」

卯月「あぅっ、凛ちゃんの視線が冷たい!」

凛「別に、普段通りのつもりだけど?」

卯月「そうかなぁ……」


島村卯月(17)

卯月「アイドルたるもの、早寝早起きは基本なんだよ! 頑張ったんだからっ」

凛「……まぁ、いいんじゃない? 卯月らしくて」

卯月「わぁい褒められた!」

凛「まぁ、そこはいいから……でもそろってないなんて珍しいね。今日は遅刻かな」

卯月「え? あぁ……未央ちゃんなら――」

  ガチャッ!

未央「せーっふ! 本田未央選手、滑り込みセーフでーす!」

卯月「ちょっと遅れるかも、って言ってたんだけど……間に合ったみたいだね! おはよう!」

凛「……何やってるんだか」


本田未央(15)

未央「いやー、実はね? これにはふかーい事情があって……」

卯月「そうなの? い、いったい何が……」

未央「な、なんと!」

卯月「うんうん!」

未央「自転車にっ……乗り遅れたの……!」

卯月「それは……すっごく大変だったね!」

未央「でしょでしょー?」

凛「……ただの寝坊だよね?」

未央「おーう、しぶりんはあいかわらず手厳しいなぁ……」

卯月「クールだもんね、凛ちゃん」

凛「別に、そういうつもりもないんだけど……でも」

卯月「でも、これでそろったよね!」

凛「え?」

卯月「未央ちゃんが遅刻するかもって思って焦ったけどこれなら大丈夫そうだし」

凛「……待って」

卯月「どうしたの? 凛ちゃん」

凛「仕事行くなら、プロデューサーがいなきゃさ……ほら」

未央「……プロデューサー?」

凛「そうだよ。ほら、いつもは誰よりも早く事務所にいるから遅刻なんて珍しいけど」

卯月「……えっと……凛ちゃん……」

凛「まったく、卯月も未央もちょっと抜けてるんだから。それとも奥の給湯室にでもいるの?」

卯月「プロデューサーさんって……誰……?」

凛「……は?」

卯月「だって私たちはもともとセルフプロデュースだし、お仕事もちひろさんがある程度もってきてくれて……」

未央「……あっ! 私がプロデューサーです。うぉっほん!」

卯月「未央ちゃんどこからその付け髭出したの!?」

未央「なぁに、淑女のたしなみよ。つまりこういうフリだったってわけでしょ?」

凛「……ふざけないでよ」

卯月「凛ちゃん?」

凛「そういう冗談、嫌いだよ。確かに時々ふざけたことしてくるけどさ……」

未央「し、しぶりん……顔、怖い……」

未央「ま、待ってよ。ほんとになんのことだかわかんないよ……?」

凛「……卯月」

卯月「ご、ごめんね? わかんない……」

凛「私と、卯月と、未央と……ニュージェネレーションだって言ってくれた人だよ?」

卯月「……凛、ちゃん?」

未央「ニュージェネレーションは……凛が、考えた名前だよ……?」

凛「……」

卯月「あの、どうしたの? なんだか今日の凛ちゃんおかしいよ……?」

未央「嫌なことがあったんだったら相談してよ。私たち、仲間でしょ……?」

凛「……もういい。ごめん、ちょっとちひろさんのところいってくる」

卯月「えっ? でもお仕事が……」

凛「……仕事?」

未央「ほ、ほら。私が遅刻しかかったせいで遅れそうだしさ……ね?」

凛「……そっか。わかった、とりあえずいかなきゃかな」

卯月「う、うん……」

――――

卯月「というわけで! なんと、ライブが決まったんです!」

司会「へぇー、すごいねぇ」

未央「えっへへ~、どんなもんですか! 見に来てくださいよね!」

司会「暇があったら行きたいけどねぇ……凛ちゃん、どうした?」

凛「え? あっ……念願だったドームライブだから精一杯盛り上げていきたいです」

司会「んー、いい意気込みだね。それじゃあ新曲?」

未央「今回は私が主役! 『ミツボシ☆☆★』聞いてください!」

卯月「島村卯月、頑張ります!」

未央「だから私が主役だってば!」

 \ハハハハ…/

<お疲れ様でしたー

凛「……」

未央「どうしたのさー、しぶりん? やっぱり変だよ……?」

卯月「疲れてるんじゃないのかな? はいっ、甘いものだよ!」

未央「……しまむらさんや」

卯月「何かな、未央ちゃん?」

未央「歌って踊った直後にお汁粉はないんじゃないかなぁ……」

卯月「そっかぁ……ぜんざいは売ってなくて……」

未央「そこじゃないよーっ!」ビシッ

卯月「あうっ」

凛「……」

未央「あ、あの……凛さん……?」

凛「ごめん……ちょっと、いいかな」

卯月「う、うん……それって、プロデューサーさん、のこと……?」

凛「うん。いろいろ確認させてほしい」

凛「……最初に聞かせて。2人はふざけてるわけじゃないよね」

未央「う、うん。それは誓えるよ? ふざけて大切な人をいないものとして扱うー、なんてしないもん」

卯月「本当に、なんのことだかわからなくて……ごめんね……?」

凛「そっか……うん。じゃあ、私たちがセルフプロデュースっていうのは?」

未央「そのまんまだけど、私たちみんなで自分たちのお仕事をとってきたりとかしてって意味で……」

卯月「最初は大変だったけど頑張って、頑張って……やっとここまで来れたんだね、って」

凛「……」

未央「どうしたの……?」

凛「じゃあ……私たちのユニット名のニュージェネレーションは……」

卯月「それは、凛ちゃんが考えてきてくれて……」

凛「その時のこと、詳しく教えて」

卯月「う、うん」

未央「確か、活動も始めたばっかりのころだよね」

卯月「うん。凛ちゃんがちょっと怖い人かもーって思ってたんだよね。未央ちゃん」

未央「そ、それをここでいう!?」

凛「……」

未央「おほん。とにかく……本当に、右も左も分かんなかったときにね」


――

――――

凛「ねぇ」

未央「え、な、なにかな?」

凛「私たちって、ユニットだよね」

未央「そうだ、ですね」

凛「何その話し方?」

未央(うー、2人きりなんて話しづらいよぉ……うづきんは明るくてすぐうちとけれたけど……よくわかんないし……)

凛「ねぇ?」

未央「ご、ごめんなさいっ!」

凛「……は?」

未央「わ、私何かしちゃったかなーって……」

凛「……」

未央「あ、あのー」

凛「……私、そういう風に見えるかな」

未央「へ?」

凛「アイドルとしてやってこうって思ったからには、やれることはやっていきたいんだけどさ」

未央「う、うん?」

凛「私、愛想ないのかな。なんだか怖がられるし」

未央「……」

凛「……営業とかでも、うまくいかないしさ」

未央「ほぉ……]

凛「何?」

未央「ひょっとして……思ったよりもさびしがりな乙女さんなの……?」

凛「意味わかんないんだけど」ギロッ

未央「お、おぉ……ストップストップ! それが怖いの!」

凛「……」

未央「ほら、すまいるすまーいる……」

凛「スマイル……こ、こう?」

未央「もっとにっこり! 野々村そらちゃん直伝、すまいるぱわーだ!」

凛「す、すまーいる……」

未央「よし、かわいい!」

凛「こんなのキャラじゃないよ……」

未央「大丈夫大丈夫、そのままピース!」

凛「ぴ、ぴーす?」

 ガチャッ!

卯月「島村卯月、帰還しました!」

未央「あっ」

凛「あっ」

卯月「……えっと、どういう状況なのかな……?」

ごはんができた
たべよう むしゃむしゃ

卯月「なるほどー!」

凛「……」

未央「いやぁ、かわいいよね」

卯月「「いいと思います! すっごく!」

凛「やめて、忘れて」

未央「あの照れ顔ダブルピースは間違いなく将来のスターの資質を……いたい! いたいです! やめてぇっ!」

凛「……」ペシペシ

卯月「それで、凛ちゃんはどうしたの?」

凛「あぁ……うん。私たち、一応グループだよね」

未央「うん、同時期デビューだしせっかくだからって……」

凛「名前、決めない? いつまでも『うづみおりん(仮)』は流石にないよ」

未央「……でも響はかわいくない? うづみおりんだりん☆」

卯月「がんばりん☆」

凛「やめて」

>>50
誤字った。響は可愛いけど
未央「響きはかわいくない?」
です。響は可愛いけど

未央「いたい……」

卯月「まぁまぁ凛ちゃん落ち着いて……」

凛「まったくもうっ……はぁ。私たちは新人だよね」

未央「ぴっちぴちの15歳っでーす!」

卯月「島村卯月17歳、頑張ります!」

凛「うん、知ってるから」

未央「えへへっ」

凛「……新人だけど。だからこそ、新しい時代を、革命を起こせると思うんだ」

凛「候補として考えてきた……ユニット名。ニュージェネレーションって、どうかな?」

卯月「……にゅー」

未央「じぇねれーしょん……」

凛「せっかくなんだし、3人まとめての仕事は少ないかもしれないけどお互いをもっと売り込むべきだと思うんだ」

凛「ユニットとしての意識を持つためにも、相手に名前を覚えてもらうためにも」

凛「まぁ、あくまで私が勝手に考えてきたことだから。反対ならそういってくれればいいよ」

卯月「……かっこいい!」

凛「そ、そう?」

未央「いいねぇ、ニュージェネレーション! 新しい息吹を感じるよ!」

凛「あくまで候補だからね。2人が何か案があったら言ってほしいんだけど」

未央「はいっ! 案が浮かんだよ!」

凛「う、うん?」

未央「ででんっ、『新革命』!」

凛「日本語に直しただけだよね?」

未央「えへへっ」

卯月「はいっ!」

凛「……どうぞ」

卯月「『頑張りますたろう』!」

凛「うわぁ……」

未央「これはひどぉい……」

卯月「あれれ、私頑張って考えたのに……」

凛「いや、流石にね……」

未央「『新世代』!」

凛「だから漢字3文字はやめようよ……」

未央「私今更気づいたよ、新革命だとニューレボリューションだね!」

凛「……確かにそうだね」

卯月「はいっ!『頑張ります姫』!」

凛「卯月はちょっと黙ってて」

卯月「えぇーっ!?」

――――

――

未央「こんな感じだったかな?」

卯月「うん、そのあといっぱい考えたのに2人とも聞いてくれなくて私結構がっくりしたんだよ?」

凛「……」

未央「しぶりん?」

凛「確か……そう、本当は私も一緒に考えて……」

卯月「凛ちゃん、大丈夫……?」

凛「うん。本当はプロデューサーが考えてみようって言い出した……はず、なんだ」

未央「それで、しぶりんが考えたニュージェネレーションになったの?」

凛「……私が考えたのが『うづみおりん』だったはず」

卯月「……」

未央「……」

凛「……何?」

未央「いや……うん、何でもない……」

凛「……」

未央「……」

卯月「あの、凛ちゃん……?」

凛「……ごめん。今日の仕事ってこれで終わりだよね」

未央「うん、一応あがりだけど」

凛「ちょっといきたいところがあるんだ。先に帰るから」

卯月「えっ? う、うん」

 タッタッタッタッタ…

未央「……」

卯月「……未央ちゃん」

未央「今日はなんか、変だったけど……目は真剣だったよね……」

卯月「うん、どうしたんだろう……凛ちゃん……」

凛「……」ピッピッピッ

凛「もしもし、加蓮?」

加蓮『……ん、凛? どうしたの?』

凛「ごめん、寝てた?」

加蓮『いや、大丈夫だよ。でも珍しいね』

凛「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

加蓮『聞きたいことって?』

凛「加蓮はプロデューサーって、知ってる?」

加蓮『プロ……デューサー?』


北条加蓮(16)

凛「そう、私たちの」

加蓮『……ごめん、わかんない』

凛「……なんで……」

加蓮『凛こそ、なんで急にそんなこと……?』

凛「じゃあ、前に風邪をひいたときはどうしたの?」

加蓮『風邪って……あぁ、季節外れだったやつだよね』

凛「そう、あの時は……」

加蓮『ふふっ、あの時は凛ってばやたら慌ててさ。プリンとかいろいろ買ってきてくれたっけ』

凛「っ……!」

加蓮『本当、助かったよ。ちょっと食べきれなかったけど……』

凛「……」

加蓮『……凛? どうしたの?』

凛「加蓮は……だって、プロデューサーに見てもらってさ……」

加蓮『うちの事務所は基本セルフプロデュースだよ? そりゃあ、年上の人たちが面倒を見てくれたりするけど……』

凛「見つけたんだ、って喜んでたでしょ……?」

加蓮『凛……?』

凛「なんで……なんで、忘れてるの……?」

加蓮『凛……なんか、おかしいよ……? だって、うちの事務所にプロデューサーなんてもともといないじゃん』

凛「加蓮は、プロデューサーのこと名前で呼んでたでしょ? 覚えてないの……?」

加蓮『……名前……?』

凛「そうだよ、さん付けで……本名を……」

加蓮『……本名って……なんて人……?』

凛「……あ、れ……?」

加蓮『……凛?』

凛「プロデューサーの、本名……って……なん、だっけ……」

加蓮『……何それ、ギャグ? 他の2人に当てられたの?』

凛「待って、加蓮……違う、違う……私……」

加蓮『はいはい。きっと疲れてるんだよ』

凛「……」

加蓮『そういう時はあったかくして、ちゃんと寝ること。やっぱりちゃんと休むのが一番大事だからね』

凛「……ごめん」

加蓮『いいよ。それじゃ、おやすみ』

 ピッ

凛「……」

凛「明日は……オフか……」

凛「……」


凛「プロデューサーの本名……思い出さなきゃ……」

凛「加蓮も忘れてるなんて……すごく手間もかけさせて……」

凛「それで、山ほどお見舞い持ってきたんだって笑ってさ。本当に変なところでダメなプロデューサーなんだからって……」

凛「……帰ろう」


凛「………」

――

凛「おはよ、奈緒」

奈緒「うおっ!? り、凛……驚かせんなよ。どうした?」

凛「ちょっと聞きたいことがあってさ」

奈緒「電話でよかったんじゃねぇの……? 流石に朝に出待ちはビビるって……」

凛「ごめん。気になってしょうがなかったから」

奈緒「お、おう……?」

凛「奈緒はさ、プロデューサーって知ってる?」

奈緒「……はぁ?」


神谷奈緒(17)

奈緒「プロデューサー、ねぇ……」

凛「うん。奈緒ならさ……わかるかもって」

奈緒「……」

凛「だって、ほら。プロデューサーって加蓮には甘いけど奈緒には無茶ぶりとか結構してたしさ」

奈緒「凛……ひどい顔してるぞ、お前……」

凛「そんなことないよ。私はいつも通りだから」

奈緒「……ひょっとして寝てねぇんじゃないか? ほら、家あがって」

凛「別に、そんなことないってば。大丈夫だから」

奈緒「いいから入れ! ったく……」

凛「……お邪魔します」

奈緒「まぁ、今日はちょっと買い物でもいこうと思ってただけだし……いいよ。ゆっくりしていきな」

凛「……」

奈緒「……」

凛「……ねぇ、奈緒。やっぱり知らない?」

奈緒「やっぱりってどういう意味だよ? さっき言ってた、プロデューサーか?」

凛「そう。私たちの面倒を見てくれてた、さ」

奈緒「……面倒、か。うちはもともとアイドルの自主性がうんぬんって言ってさ」

凛「奈緒が、アイドルになった理由は?」

奈緒「……はァ? そんなもん……」

凛「……スカウト、されなかったの?」

奈緒「……確かにされたな」

凛「ほら、やっぱり!」」

奈緒「ちひろさんに、な」

凛「え……」

奈緒「それであたしには無理っていくら言っても聞かなくてさ」

凛「……」

奈緒「まぁ、話だけならっていったら半ば詐欺みてーに……いや、詐欺だな、詐欺」

凛「……違うよ、奈緒はプロデューサーにスカウトされてさ」

奈緒「いや、ちひろさんはプロデュースに関してはセルフとか言い出して本当に何いってんだこいつって思ったけどさ」

凛「それで、可愛い衣装を着るお仕事とかばっかりだったのに文句言いながらまんざらでもなくてさ……」

奈緒「……凛? お前……」

凛「なんで……なんで奈緒も覚えてないの……?」

奈緒「……本当にひどい顔してるぞ。ちょっと横になれよ」

凛「私、まだ……次はちひろさんに話聞かなきゃ」

  フラッ…

奈緒「ちょっ……おい!」

凛「あ、ごめん……大丈夫。ちょっと足がもつれただけ」

奈緒「まったく、いいからそのままにしてろっ!」

凛「……でも、私まだ」

奈緒「ちひろさんにいろいろ聞くって、こんなフラフラで外歩いたら危ないだろ。ちょっと休んでからでも大丈夫だって」

凛「……ん……」

奈緒「はぁ……ったく……」

凛「あったかい……」

奈緒「……かけるものもってくるから、帰ろうとすんなよな」

凛「だめ……いま、ねたら……」

奈緒「子供か……ほら、手握っといてやるから」

凛「……ぁ……」

奈緒「かけるもの……タオルか。まぁいいや、無いよりはましだろ」

  ファサッ

凛「……ん……奈緒……」

奈緒「話ならあたしも一緒にいってやるから。今は寝とけ。な?」

凛「……ごめん、じゃあ……すこし、だけ……」

奈緒「……」

凛「…………」

奈緒「……まったく、なんだっていうんだか……」

――

――――

凛「ふーん、アンタが私のプロデューサー?」

P「そうだ、俺がプロデューサーだ。よろしくな」

凛「……まあ、悪くないかな……私は渋谷凛。今日からよろしくね」

P「おう! びしびしいくからなー」

凛「びしびし……仕事あるの?」

P「ない!」

凛「……はぁ?」

P「ないからこそびしびしいくんだよ。全力だ!」

凛「……暑苦しい……」

P「見ろよ凛! 仕事だ!」

凛「……」

P「それから、ソロじゃなくてユニットを組もう。同期の他の2人も合わせてさ」

凛「別に、いいけど」

P「よーし、バリバリいくぞー」

凛「……」

P「どうした?」

凛「別に。仕事楽しいの?」

P「楽しいさ。最高にな! 凛にもすぐにわかるよ」

凛「……どうだか」

P「卯月も未央も楽しいやつらだろ?」

凛「なんだかちょっと距離を感じたかな」

P「そうか? あれはきっと仲良くなりたいって思ってるぞ?」

凛「……私はどっちでもいいけど」

P「はっはっは、強がり言っちゃって。本当は仲良くなりたいんだろ?」

凛「そんなことない」

P「と見せかけて?」

凛「……怒るよ?」

P「おっと、ごめんな? でもきっと、いいユニットに……ん? そうか、ユニットだもんな……」

凛「どうしたの?」

P「いや、ちょっとひらめいてな」

凛「新しい子が事務所に……?」

P「おう、スカウトしてきた」

凛「……何やってるの?」

P「俺が責任をもって面倒を見るさ」

凛「ちなみに、どんな子?」

P「えっと……誰から説明しよう」

凛「はぁ?」

P「やめて、そんな目で見ないで」

凛「……何人スカウトしたかだけ聞かせて」

P「……じゅうにん、ぐらい……」

凛「……ハァ……」

凛「加蓮に、奈緒ね……」

P「同じレッスンだったな? どう思った?」

凛「加蓮って子はもっとまじめにやってほしいかな。すぐに疲れたとかいって休憩してさ」

凛「奈緒のほうは……ああ見えて真面目なんだね。文句言いながらもすごいと思ったよ」

P「んー、そうか。加蓮はそう見えたか……」

凛「何?」

P「あいつな、昔病弱だったみたいだ。それで一度はあきらめて、ひねくれて……」

P「それで、ああやって斜に構えた風でいる。無駄に心配されたくないんだろうな」

凛「どうやって調べたの、それ?」

P「何を言ってるんだ。俺はプロデューサーだぞ?」

凛「意味わかんない……」

凛「……CDデビュー?」

P「やっと実を結んだ感じだな。第1弾だ!」

凛「そっか……1弾?」

P「無理にねじ込んだからな。売れなきゃ次弾はないぞ」

凛「へぇ、そんな大事なところに私を?」

P「凛だからな」

凛「……ふふっ、わかった。任せてよ」

P「おう、任せる……」

P「……」

凛「どうしたの?」

P「いや、卯月、未央も成功したな」

凛「ニュージェネレーション。名前負けしなくなったかな」

P「おう、そうだな」

凛「……その間も所属アイドルは増えていってるけど」

P「は、ははは……」

凛「まったく。プロデューサーも無理しないでね」

P「大丈夫だよ。俺はプロデューサーだから」

P「そうだ、凛」

凛「何?」

P「俺な、実は不死身だって言ったら笑う?」

凛「……何それ?」

P「プロデュースが大好きで、好きで好きで仕方なくてさ」

凛「……」

P「だから自分で自分を呪って、アイドルをプロデュースするためだけに生きてるんだ」

凛「……ふぅん」

P「あれっ? リアクション薄い!?」

凛「いや、今日のプロデューサーは疲れてるのかなって」

P「……やめて、優しさが痛い」

凛「昨日バイオハザードやってたもんね。それとも小梅ちゃんとそういう映画でも見た?」

P「はははは……」

P「……」

凛「どうしたの?」

P「でもな、プロデューサーって職業は意外と大変でさ」

凛「……まだ続けるの、それ……?」

P「いやぁ……ふとした瞬間に、近くにいてくれる人がいるっていいもんだなぁって思ったんだよ」

凛「……私のこと?」

P「うん。本当に楽しかったよ、凛」

凛「別に、私もすごく楽しいよ?」

P「あぁ、本当に――」


P「今までありがとう」

――――

――

凛「んっ……」

奈緒「お、起きたか。おはよう」

凛「おはよ……ふぁ……んー」

奈緒「おらおらー、寝ぼけてるなよ」

凛「……ん……」

奈緒「起きて、ちひろさんのところ行くんだろ?」

凛「そうだっけ……?」

奈緒「おいおい、疲れてるなぁ……」

凛「……なんで私、奈緒の家に……?」

奈緒「凛が家の前で待ってたんだろ? プロデューサーを知ってるかって」

凛「ぷろ……でゅ……?」

奈緒「まったく、あたしらはもともとセルフプロデュースで……」

凛「……ぷろ、でゅーさー」

奈緒「おい、凛? どうした?」

凛「ねぇ、奈緒。変なこと聞いてもいい?」

奈緒「今日の凛はずっと変だっての。いまさら1つ2つ変なことしても気にならないよ」

凛「じゃあ、教えて」


凛「プロデューサーって……誰……?」

お風呂が沸きました
ここでおわりでもいいです、じゃばじゃば

奈緒「……は?」

凛「奈緒……」

奈緒「どういう意味だよ。あたしが聞きたいぐらいなんだけど?」

凛「……わかんないよ」

奈緒「まぁいろいろ苦労したよ? こういう時なんかぐいーっと引っ張ってくれる人とかいりゃいいのにって。でも……」

凛「……」

奈緒「お、おい? 凛……」

凛「何……?」

奈緒「なんでお前、泣いてるんだよ……?」

凛「え? あ……あれ……」

   ぽろ ぽろ  ぽろ ぽろ

凛「なん……で……」

奈緒「……やっぱ疲れてるんじゃねぇの? もう少し寝とくか……?」

凛「……だめ……」

奈緒「え?」

凛「わからない、けど……だめだよ。いかなきゃ……」

奈緒「凛……」

凛「大丈夫だから。ありがと……」

奈緒「いやいや、1人でいかせらんないって」

凛「じゃあ、事務所まで……ついてきてくれる?」

奈緒「わかった。ちょっと支度するから待ってろよ」

凛「……うん」

 ガタンゴトン   ガタンゴトン

凛「……」

奈緒「なぁ、凛?」

凛「何?」

奈緒「卯月と未央にも聞いたよ。昨日から凛がなんかおかしかったって」

凛「……ごめん、よく覚えてない」

奈緒「あー、そう……やっぱ変だな」

凛「そう?」

奈緒「うん。寝る前よりはすっきりしてるのに……すっきりしすぎてる、みたいな?」

凛「何それ?」

奈緒「あたしに聞くなよ。なんかそう思っただけ」

凛「ふーん……」

奈緒「……ほら、ついたぞ」

凛「ん、ありがと……って、知ってるけどね」

奈緒「それで、ちひろさんに聞くんだろ?」

凛「……たぶん、そう」

奈緒「はっきりしねぇな……はぁ。調子くるうよ」

凛「ごめん、えっと……」

奈緒「ん?」

凛「事務室ってどっちだっけ?」

奈緒「……あっちだろ? やっぱり道案内ついてきて正解だったな」

凛「あぁ、そうだった。うん……」

  トントントン

<はーい、どうぞ?

奈緒「……ほら、凛」

凛「あ……お邪魔します」

  ガチャッ

ちひろ「あら、珍しいですね。2人とも何のご用でしょう?」

奈緒「いや、あたしは特にないんだけど……凛が」

ちひろ「……凛ちゃんが?」

凛「あ……その、ちひろさんに聞きたいことがあって」

ちひろ「私にですか? 年齢はトップシークレットで……」

凛「そうじゃなくて」

ちひろ「あら……くすん、そうなんですか……

凛「……」

ちひろ「それじゃあ、いったい何でしょう? ライブについては編曲は私も考えていますけれど候補があるなら言ってくれれば……」

凛「ライブのことでもないんだ」

ちひろ「それじゃあ……あっ、カロリー管理ですか? さては食べすぎちゃったとか!」

凛「ねぇ、ちひろさん」

ちひろ「はい、なんですか?」

凛「私……何か、大切なものを忘れちゃった気がするんだ」

ちひろ「……」

凛「ちひろさんは……知らない、かな……?」

ちひろ「……大切なもの、ですか……」

奈緒「……ちひろさん。実は凛のやつ昨日からちょっと変でさ」

ちひろ「昨日から? どういう風に変なんですか?」

奈緒「なんていうか……あたしたちはもともとセルフプロデュースだよな?」

ちひろ「そうですね。不慣れなうちは私やトレーナーさん方、ベテランの人たちが面倒をある程度みてくれますけれど」

奈緒「なのに、プロデューサーがいたっていうんだ」

ちひろ「へぇ……プロデューサーさん、ですか」

凛「うん……そういってた、みたい」

ちひろ「みたい? 凛ちゃん自身は覚えてないんですか?」

奈緒「うちに来た時にひどい顔しててさ、ちょっと寝させたら……こんな具合で」

凛「寝る前までは、覚えてた……んだと、思う」

ちひろ「……その話って、誰にしました?」

凛「え? えっと……」

奈緒「確か卯月と未央もみたいだけど……どうして?」

ちひろ「……よぉくわかりました。少し気になったので♪」

ちひろ「そういう時はですね、いい解決方法がありますよ?」

奈緒「どうすればいいんだよ?」

ちひろ「決まっているでしょう……歌うんです!」

奈緒「はぁ?」

ちひろ「きっと、疲れが溜まって頼れる人を求めちゃったんでしょうね。最近はとっても忙しいですから」

奈緒「まぁ、確かに凛は最近忙しいけどさ……流石に」

ちひろ「いいからいいから! はい、経費で落としてあげますからぱーっと遊んできてくださいな」

奈緒「え……いや、こんなにもらっても困るっていうか……」

凛「……」

ちひろ「凛ちゃんも、ほら。もし疲れているなら頼ってくださってもいいんですよ?」

凛「うん……ありがと。考えすぎ、かな」

ちひろ「ぬくもりが恋しい時だってありますよ。大丈夫です」

奈緒「じゃあ……ありがとな、ちひろさん」

ちひろ「いえいえ。アイドルの女の子を応援するのがこの事務所ですからね」

凛「……」

ちひろ「凛ちゃん?」

凛「あぁ、ごめん……ちょっと疲れてるのかな」

ちひろ「それはいけませんね。今日は軽く気晴らしをしたあと……おうちで、ちゃんと寝るんですよ?」

凛「……わかった。ありがと」

ちひろ「うふふっ♪ どういたしまして」

  ガチャッ…バタンッ


ちひろ「……ふぅ」

ちひろ「凛ちゃんは……ともかくとして、卯月ちゃんと未央ちゃんも聞いた、か……」

ちひろ「よいしょ。……きれいにしないとね」

凛「どこまでも走ってゆくよ いつか辿り着ける その日まで~♪」

奈緒「おー、流石本家……ってうわ、85点」

凛「……」

奈緒「……おーい、凛?」

凛「もう1回」

奈緒「いや、別に止めないけどさ……その前にあたしか」

~♪

奈緒「OK! 次に進もうぜ!」

凛「あ、聞いたことあるかも……ポケモン?」

奈緒「変わらない あの夢~♪ ……そうそう。結構懐かしいよなぁ」

奈緒「……92点」

凛「……」

奈緒「あの、さ。凛? こういう採点って結構アテにならないから」

凛「すぅぅ……はぁ……よしっ」

奈緒(うわぁ、目がガチだ……)

凛「ずっと強く そう強く あの場所へ はしりだそう~♪」

奈緒「……ははは、次スパート!でもいれとこうかな……」

奈緒「あー、歌ったなぁ……」

凛「のど乾いた……」

奈緒「ドリンクバーいってくるか。何がいい?」

凛「……見に行く。休憩もしたいし」

奈緒「そっか。体調は?」

凛「だいぶ落ち着いたかも」

奈緒「そうか、よかったな……しかしなぁ、加蓮のやつも来れたらよかったのに」

凛「風邪だってね。お見舞いいってあげなきゃかな」

奈緒「今日はくんなって言ってたし、うつしたくないんじゃねぇかな。もう少し落ち着いてからいってやろう」

凛「ん……わかった」

凛「でもあれだよね。割引券ももらっちゃったしこれからもここ、ひいきにしようかな」

奈緒「ちひろさんも、どこにコネがあるか謎な人だからなぁ……ん?」

未央「はーっ、たのしーっ! ……あれ?」

卯月「あっ! 凛ちゃん!」

凛「……卯月、未央」

未央「奇遇だねーっ! えへへ、さては私に会いたくて探しに来たな~?」

凛「別にそういうわけじゃないけど」

未央「あぁん、しぶりんがつめたいよー!」

卯月「未央ちゃん、よしよし……でも本当に偶然だね!」

奈緒「……ニュージェネレーションの3人そろい踏みかぁ。あたし場違いじゃね?」

未央「おっとなおちん! 逃げようったってそうはいかないんだからね!」

奈緒「ちょ、ちょっと……」

卯月「どうせだし、一緒に歌わない? その方が楽しいよ!」

凛「……いい、のかな?」

未央「いいのいいの! だってほら、優待券持ちだしね」

奈緒「え? 未央たちもかよ」

卯月「うん。自主トレしてたらちひろさんがちょっと息抜きでもどうかなってくれたんだ」

奈緒「……まさか、あまりものを渡されたのか……?」

未央「あはは、都合よく今日が期限だしね」

凛「……2人は自主トレ、か」

卯月「あ、えっと……昨日の凛ちゃん、なんだか調子が悪そうだったから……ごめんね?」

凛「ううん、大丈夫。気使ってくれたんだね……ありがと」

未央「……おぉ」

未央「じゃあ、ぱぁーっと歌いますかぁ!」

卯月「おーっ!」

凛「……うん」

未央「ほらほら、そういう時はうんじゃなくてー?」

奈緒「お、おーっ!」

卯月「……」

未央「……」

凛「……」

奈緒「ってなんであたしだけなんだよ! せめて凛は言えよ!」

凛「ふふっ、ごめん。じゃ、楽しもうか」

――――

――

奈緒「ん……んん……」

 ピピピピピ!  ピピピピピ!

奈緒「ハッ!? やべっ、朝じゃん! うーわー。今日はレッスン入ってたっけ……」

奈緒「……あれ……?」

奈緒「……っかしーな。なんか忘れてるような……」

奈緒「まぁいいや、急がねぇと加蓮にどやされるっ」

凛「へぇ、それで?」

奈緒「いやぁ、慌てて来たはいいんだけどさ……今日はオフで……」

凛「ふふっ、奈緒もドジだね」

奈緒「そういう凛だってオフなのに来たんだろ?」

凛「……」

奈緒「おーい、凛?」

凛「別に、散歩してただけだから」

奈緒「ハナコも連れずにか?」

凛「……」

奈緒「ははっ、やーいやーい」

凛「……せいっ」ペシッ

奈緒「いてっ!」

凛「まぁいいよ。ドジ同士仲良くやろう」

奈緒「今の一発はどうすんだよ!」

凛「ノーカウントだよ。口舌の刃で人を切るとはうんたらとかいうでしょ?」

奈緒「慶次かよっ!」

凛「前に奈緒が貸してくれたじゃん」

奈緒「そうだけど……」

凛「というわけで」

奈緒「何する気だ?」

凛「……加蓮のお見舞いでもいこっか」

奈緒「あー、そうだな。あいつが風邪だから今日のレッスン休みだったもんな……」

凛「うん。お土産……お見舞いも買ってさ」

奈緒「オッケー、いこう」

――――

――

奈緒「おーっす」

凛「やっほ、加蓮」

加蓮「あ……2人とも。いいって言ったのに」

奈緒「ははっ、まぁまぁ……ほら、お見舞い」

加蓮「ありがと……嬉しい」

凛「それでこっちが私の分」

加蓮「えっ」

凛「何?」

加蓮「……あ、こっちは缶詰なんだ。流石に食べきれなくて悪くなっちゃうかと思った」

凛「それぐらい考えるよ」

加蓮「……でも、多いんだけどなぁ……あはは……」

加蓮「……とりあえずプリンだけもらうね」

奈緒「おう。それ、結構オススメかな」

加蓮「へぇ、楽しみ……」

凛「……?」

加蓮「どうしたの?」

凛「いや、なんだろう……デジャヴってやつ、かな」

加蓮「ふぅん……たまにあるよね、そういうの」

奈緒「あー、わかるわかる。最新話なのにこれ前に読んだ気がしたりとかなぁ」

加蓮「いや、それは違うと思うけど」

奈緒「それでその時加蓮がさ」

凛「……そんなことしてたの?」

加蓮「ちょっ、違……だいたい奈緒のほうがひどいよね?」

奈緒「うっ」

加蓮「あーあー。千佳ちゃんに教えてもらっちゃったヒミツが漏れちゃいそうだなー」

奈緒「や、やめろ! やめて! 頼むから!」

加蓮「まほーしょーじょまじかるなお……」

奈緒「うわぁぁぁぁぁ! ちがう、違うんだ! あれは」

凛「奈緒……」

奈緒「やめて、そんな目で見ないで……」

加蓮「あはは……でもさ、看病っていえばなんだけど」

凛「どうしたの?」

加蓮「一昨日の凛の電話って結局なんだったの?」

凛「……電話……?」

加蓮「あれ、まさか覚えてない?」

凛「……ごめん、なんだっけ?」

加蓮「ほら、凛がいきなりプロデューサーって知ってるって言ってきてさ」

凛「……プロ、デューサー」

加蓮「うん。変だよね? だってそんな人いないし。アタシがその人のこと名前で呼ぶぐらい親しいとか言って」

凛「……加蓮が、名前で、呼んで……ぷろ……」

加蓮「り、凛?」

凛「……だい、じょうぶ。続けて」

加蓮「う、うん……それで、ちょっと考えてみたんだけど。確かに凛と奈緒にはお見舞いに来てもらったけどそのあとにもう一回、誰か来た気がするんだよね」

凛「……」

奈緒「それって、ホラーか? ……ほら、別のアイドルとかだったりとかさ」

加蓮「ううん、男の人……だったような……」

凛「……おとこのひと。プロデューサー……」

奈緒「男ってなぁ……アイドルなんだから」

加蓮「わかってるよ? でも、嫌な感じがしなくて……」

奈緒「……んー、わかんないなぁ。プロデューサー、プロデューサーねぇ……」

凛「……」

加蓮「なんだったんだろうね? なんかモヤモヤしてさ」

凛「……ありがと、加蓮」

加蓮「え?」

凛「奈緒も……昨日はありがとう」

奈緒「は? 昨日……?」

凛「……私、いってくるから」

加蓮「え? ちょっと凛……どこ……」

奈緒「……いっちまった。なんなんだ?」

凛「……」


凛「……ちひろさんが、みんなの中から、プロデューサーを消したんだ……」


凛「昨日、話したから……未央と卯月も、奈緒も忘れなおした」


凛「でも、一昨日。加蓮に聞いたことは奈緒も知らなかった」


凛「だから加蓮は覚えてた。ぼんやりとだけど、思い出してた」


凛「おかげで、私も。思い出せた……プロデューサーのこと。大切なもの」



凛「返してもらうよ。ちひろさん」

ちひろ「……へぇ。まさか加蓮ちゃんまで巻き込んでただなんて思いませんでしたよ。凛ちゃん?」

凛「……」

ちひろ「もう、若い子ってこれだから困っちゃいます」

凛「プロデューサーをどうしたの?」

ちひろ「……私は、どうもしていませんよ」

凛「嘘だっ! だったらなんで……」

ちひろ「……知る必要もありません。忘れてしまうんですから」

凛「忘れない! 私は絶対、プロデューサーのことをもう忘れたりしない!」

ちひろ「……」

凛「約束したんだ……一緒に、トップ目指そうって。だから……」

ちひろ「……あぁ。本当に……いい子ですね」

凛「私は……私はまだ、何も伝えてない!」

凛「トップアイドルになんてなれてない!」

凛「IAも、IUも! まだ……恩返しが、できてない!」

ちひろ「……」

凛「ちひろさんが何をしたかなんてわかんない。だけど……警察に捜索願は出してきたよ」

ちひろ「プロデューサーさんの、ですか? 本名もわからない人の捜索願、なんてまともに取り合えってもらえるかどうか」

凛「……まだ手はある、私はもう、有名アイドルだよ」

ちひろ「……」

凛「探してもらう。私の何を捨ててもいいって、思ってる」

ちひろ「……いい子です。プロデューサーさんもきっと、喜んでくれますよ」

凛「いいから……」

ちひろ「ねぇ、凛ちゃん? プロデューサーさんから、お話を聞きませんでしたか?」

凛「……話?」

ちひろ「あの人はね、呪われてたんですよ」

凛「呪い……?」

ちひろ「はい。プロデュースってお仕事に……アイドルに魅せられた愚か者です」

凛「なんの、話? ごまかしなら聞きたくない」

ちひろ「今更、ごまかしませんよ。私は……あの人にプロデュースしてもらった最初の1人ですから」

凛「え? でも……じゃあ、なんで今事務員なんて……」

ちひろ「さぁ、なんででしょう? でも、きっとろくでもないことが起きたんでしょうね」

ちひろ「それに、少なくとももうそんな年じゃ……あぁ、年齢はヒミツでした」

凛「……どういう、こと?」

ちひろ「オカルトって、だいたいはただの嘘っぱちです」

ちひろ「でもね、時々。本当に、偶然……奇跡って起こるんですよ。いい意味でも、悪い意味でも」

凛(雰囲気が……変わった……)

ちひろ「あの人はアイドルが好きでした」

ちひろ「誰よりも、アイドルが……大好きでした。でも、あの人は『トップアイドル』を見て、変わってしまったんです」

凛「トップアイドルって、誰のこと?」

ちひろ「時代を変えてしまった人ですよ。あなたたちはいっそ知らないでいて欲しいかな?」

ちひろ「身を投げ打つような営業。休みなんて取らずに、お仕事、お仕事」

ちひろ「……バカですよね。すぐに、体を壊して倒れちゃいましたよ」

凛「でも、プロデューサーは健康そのものだって」

ちひろ「えぇ。倒れた次の日に……あの人は普通に、事務所へやってきました。何事もなかったみたいに」

ちひろ「驚いて病院に連絡を入れたら、今は意識不明の状態だって」

ちひろ「私は、怖くなりました。目の前で笑ってるプロデューサーさんが」

ちひろ「何も変わらずに、きちんと触れる。間違いなく、本物だったんですから」

ちひろ「それからの私は、結局……あの人に応えることはできませんでした」

ちひろ「……だけど、未練がましくあの人のそばにいることを選んだんです」

ちひろ「お金は少々。足りませんでした。集めて、集めて、集めて……」

ちひろ「何年もかけて、この事務所を作りました」

ちひろ「その間もプロデューサーさんはいろんなところでプロデューサーとして働いては、結果を出していましたよ」

ちひろ「でも納得はしませんでした。ある程度の結果を出しては流れる」

ちひろ「その繰り返し……」

凛「……」

ちひろ「私が、事務所を完成させて……アイドルたちをプロデュースできる場を整えて……」

ちひろ「流れる必要がないように。新しいアイドルたちを次々とデビューさせる……消耗品のように使う手段を考えたのはそれで、です」

凛「……でも、実際は違った」

ちひろ「えぇ、そうですね。私の意図と違って消耗品みたいに見捨てたりしませんでした」

ちひろ「わがままですよね。二兎を追う者は一兎をも得ずっていうのに」

凛「プロデューサーなら、両方とるって聞かないだろうね」

ちひろ「……そういうことです。何よりも、あなたたちは……いえ、あなたは……」

凛「……」

ちひろ「……凛ちゃんのおかげで、プロデューサーさんは解放されたんです」

凛「……今、プロデューサーはどうしてるの?」

ちひろ「生きていますよ。でも、プロデューサーさんは、満足しちゃったんです。だから……もう、プロデューサーなんてやめてしまうべきなんですよ」

凛「違うよ。プロデューサーは、どこまでいったってプロデューサーのままだよ」

ちひろ「……」

凛「私は、約束を果たしてないんだ。あの人が……自分を呪ってまで、見たかったっていうトップアイドルになってみせるって」

ちひろ「もう、あの人はアイドルのことを忘れるべきなんです。ただの人になれたんだから!」

凛「だから、忘れさせたの?」

ちひろ「目が覚めた時に、普通の人として暮らせるように。準備は怠っていませんでしたから」

凛「……」

ちひろ「お願いです、凛ちゃん。あの人を解放してあげてください」

ちひろ「あの人は……また、無理をしてしまうはずなんです。そうすればもう二度と奇跡なんて起こらない」

凛「違う……目をそらしちゃだめだよ」

ちひろ「あの人に死ねっていうんですか!? 私は、ただ静かに生きてほしいんです!」

凛「そんなの、プロデューサー自身が望んでない! それはただ、ちひろさんがしたいことだよ!」

ちひろ「……っそうですよ! それが、悪いんですか!」

凛「悪くない! だけど、私だって譲れない! 私だってそばにいたい。もっと先まで行きたい!」

凛「遠くてまだ見えない明日に、だから見守っててほしいんだ。あの人に……!」

ちひろ「……ッ」

凛「絶対に、無理をさせないなんて言えない。でも、このままいけば絶対に後悔する」

凛「私は、後悔したくないし、させたくない」

ちひろ「後悔……プロデューサーさんがですか? あなたが、ですか?」

凛「ちひろさんも、だよ。きっとこのままじゃあ後悔する」

ちひろ「……」

凛「……わかってるよ、子供のワガママだって。だけど……きっと、納得してないはずなんだ」

ちひろ「……」

凛「なによりも、ちろさん自身が。じゃなきゃ、思い出せるはずない」

ちひろ「……私だって……私だって、プロデューサーさんに、トップアイドルを見せてあげたいです。でも……もしも、また……」

凛「……負けないよ」

ちひろ「え?」

凛「プロデューサーのことを変えちゃった、『トップアイドル』が来たって。私は……私たちは負けない」

ちひろ「なんで、そんなことが言えるんですか?」

凛「……アイドルだからね」

ちひろ「……」

ちひろ「ふふっ……」

凛「な、なに?」

ちひろ「いえ。アイドルだから負けない……ですか」

凛「……」

ちひろ「プロデューサーさんも、プロデューサーだからだーっていきなりよくわからないことを言い出したりしますよね。うつっちゃいましたか?」

凛「別に……いいでしょ?」

ちひろ「えぇ……いいでしょう。凛ちゃんみたいな強引さが私には足りなかったのかもしれませんね」

凛「……ちひろさん」

ちひろ「ごめんなさい。みんなの記憶は……プロデューサーのことを話せばゆっくり取り戻せるはずだから」

凛「……」

ちひろ「……な、なんですか?」

凛「ううん。本当は……誰かに止めてほしかったのかなって」

ちひろ「そんなわけないじゃないですか。私は本当に……プロデューサーさんに、ただの人に戻ってもらいたかったですよ」

ちひろ「それじゃあ、凛ちゃん。こっちへ」

凛「……うん」

ちひろ「プロデューサーさんは今、寝てます」

凛「それって……」

ちひろ「ああ、普通の意味でですよ? ……ただ、アイドルのみんなのことは……」

凛「覚えて、ないの?」

ちひろ「……はい。寝てた間のことは夢みたいに思ってるはずです」

凛「……そう」

ちひろ「私も、あえて深くは刺激しませんでした。ただの人になる以上好都合だと思いましたし」

凛「いいよ。ゆっくり……また、作ればいい。思い出も、これからのことも」

凛「……ここ?」

ちひろ「はい。リハビリのための運動はやっぱりつらいみたいで、寝てる時はなかなか起きません」

凛「そっか……うん。ありがと、ちひろさん」

ちひろ「え?」

凛「プロデューサーのこと、やっぱり好きなんだね」

ちひろ「……そうですけど」

凛「ふふっ。それじゃあ……せーのっ」

  ギィィィィ……

凛「……あ……」


P「……」

P「……」

凛「プロデューサーだ……」

P「……」

凛「本当に、そのまんまだね。いつも通りみたい」

P「……」

凛「事務所で昼寝なんてしてたら……静かには寝てられないだろうなぁ」

P「……」

凛「……えい」

P「……」

凛「わー……わぁ……」

凛「……よかった……ほんものだぁ……」

凛「はぁ……」

P「ん……んん……?」

凛「あっ」

P「……んー、あれ……?」

凛「あ、あの……私、実はあなたにプロデューサーになってほしくて……」

P「……」

凛「えっと、プロデューサーっていうのはアイドルの……あっ、私はアイドルなんだけど」

P「何、言ってるんだ?」

凛「……だから、えっと」

P「だから……なんだっていうんだよ、凛?」

凛「え……?」

P「というか、ここは……あれ? 俺ってお別れを……」

凛「……プロデューサー……覚えてる……?」

P「おかしいな……あれ? 俺って幽霊で、成仏して……あれ?」

凛「……よかった……!」

    ぎゅうっ

P「え、あ……あれ……? どういうことだ? だって、俺は……」


ちひろ「……奇跡、ですか。あんまり連呼したくないんですけれど」

ちひろ「……凛ちゃんたちの『プロデューサーさん』が、帰ってきたんですね」

ちひろ「やだなぁ……ちょっとだけでも、独り占めできたのにな……」


P「あ。ちひろさん? ……あ、そうだ。リハビリメニューをしなくちゃ……あれ?」

P「……今日の分はすんで……いや、でも……そうか。俺が……ちょっと待ってくれ、ちひろ!」

ちひろ「……え?」

P「……ちひろ。俺……いろいろと迷惑かけたみたいだな。ありがとう」

ちひろ「……プロデューサーさん……?」

ちひろ「だって……覚えてるはず、ないじゃないですか。プロデューサーさんは、凛ちゃんのプロデューサーで……」

P「あぁ、思い出したよ。そのついでに……何があったのかもだいたいわかった」

ちひろ「……ずるい、ですよ……ばかぁ……」

P「ごめんな。いろいろ、世話になった」

ちひろ「……いいんです。私が好きでやったことだから……」

P「俺がバカだったんだよ。助かった」

ちひろ「プロデューサーさん……私……」

凛「……ちひろさん? プロデューサー?」

P「あっ」

ちひろ「あっ……い、いや、その……」

P「凛、あのな? 落ち着いて聞いてくれ。実は俺、幽霊だったんだけど体はちひろさんが保管しててくれてな? それで……」

凛「……」

P「しかも死なないようにしててくれて、そうかと思ったらちひろさんは実は俺がプロデュースしたことのある子で、だから呼び捨てを……」

凛「……ふふっ」

P「う、嘘みたいなんだけど本当なんだよ! こう、なんだかいろいろと一気に頭になだれ込んでくるみたいに理解できたんだ!」

凛「あー。まったく、本当にありえないね」

P「いや、ありえたんだよ! ほら、俺こう見えても実は……」

ちひろ「プロデューサーさんが眠り始めた当時の状態、保存してありますから年はほぼとってませんよ?」

P「えっ!?」

ちひろ「ふふん、オカルトも医術も、お金さえあればなんとかなるんです」

凛「……すごいね」

ちひろ「好きな人のためにならこれぐらいできますよ、凛ちゃん?」

凛「ちひろさん……急に元気になってるけど……」

ちひろ「だって、それぐらい好きな相手が20年ぶりに帰ってきたんですもの……元気にならない理由がないでしょう?」

凛「……私だって負けないよ。今のプロデューサーが見てるのは私だし」

ちひろ「いいえ。長年の連れ添いがあるんですから私が……」

凛「プロデューサーはどう思う? ちひろさんには感謝してるけど、今は私たちのことをちゃんと見ててくれるよね?」

ちひろ「違いますよ。凛ちゃんたちのことは暖かく見守って、私のことを今度はちゃんと最後まで見届けてくれるんですよね?」

P「……あの、今ちょっと記憶が混乱してて……」

凛「……プロデューサー?」

P「だって、今ちひろのことをプロデュースしてた記憶と凛やみんなと過ごした思い出がごちゃ混ぜになって……」

ちひろ「プロデューサーさん?」

P「……は、はい」

凛「それなら、いっそ……まとめて相手してくれてもいいよ?」

P「は?」

ちひろ「そうですね。男らしくていいんじゃないでしょうか」

P「いや、倫理観とかそういう……」

ちひろ「何言ってるんですか、まったく」

凛「プロデューサー、でしょ?」

P「……今初めて、プロデューサーって職業を後悔してるかもしれない……」

ちひろ「さぁ、いきましょう!」

凛「これからも隣で私のこと、見ててね?」

凛(……でも、よかった)

凛(プロデューサーも戻ってきて、ちひろさんのことも思い出して……)

凛(だけど、今のプロデューサーがプロデュースしてくれてるのは私なんだから、負けないよ)

凛(たとえ20年越し……20年……)


凛「……え? ちひろさんって今何歳なの?」

ちひろ「ふふっ、ヒミツです♪」


おわり

もう少し軽い内容のはずだった
でも、すごく楽しかった。おやすみなさい

保守支援ありがとうございました

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