女子大生「Aホテルに着いた……」(96)


ソニー「ウオオオオオオッ」ビーン「ウオ? ウオ、ウオ!」↓前半からの続き
ソニー「ウオオオオオオッ」ビーン「ウオ? ウオ、ウオ!」 - SSまとめ速報
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全編エロ


「女子大生様でいらっしゃいますね? お待ち申し上げておりました。最上階のスイートルームへご案内するように申しつかっております」

「そちらは…… 〄△※×社でよろしいのですか?」

「はい、役員様のお名前でお取りいたしております」

フロント係は接客研修の講師でもやれそうな模範的スマイルを見せ、デスクを離れて私の前に立った。そのまま「こちらになります」と言ってエレベーターの方へ歩き出す。スイートルーム? 心の準備はできていたとはいえ、そこまでは想定外だった。

一昨日、人事課長面接を難なくパスして役員面接の場所を聞かされた時、胸の内にさざ波が立った。役員面接にまつわる、「都市伝説」とも呼べるような噂。学生たちが酒席で忍び笑いとともに口にする、ある種の禁断の事実…… 私はそのような場への招待状を渡されたのか。

それで? それがどうしたの。


初潮を迎えたばかりの小学校高学年児童ではあるまいし! ことさら怯える方が、幾つになっても注射を怖がるガキにも似てむしろ醜悪。特別な場へ招かれた私は祝福されて当たり前! そうだ。あの時の課長からして、自分を人事1課長だとか言い間違えるくらいに私を見て興奮していた。私の胸や腰を眺めて、よだれを垂らさぬばかりな目付きをしていたではないか。きっとズボンの奥の一物も充血し始めていたに違いない。

それほどまでに、私は完璧な女子大生だ。口に出して言ってみてほしい。

じょ-し-だい-せい(pronounced jo-shi-dai-sei)。

それは、この世界における神聖な存在。女の生涯の中で女子大生とは、一般的には18歳から22歳までの間の、肉体が完成されて最も盛んな時期に当たるからだ。

そう私のからだ。一流私大の3年、21歳の私のからだは、端的に言って完璧だ。
172センチメートルの身長、上から93─59─88のサイズには、誰に文句のつけようがあるだろう?

そして、そのからだの上に載っている顔は。私自身が満足しているとはとても言えないが、綾瀬は×かと新垣△衣を足して2で割った以上のレベルとの評価が定着しているのだ。


だから私が街を歩けば、鼻垂れ小僧を抜け出したばかりの男子中学生から棺桶に片足を突っ込んでいる呆け老人に至るまで、男という男は私に視線を釘付けにされずにいられない。しかもこのからだには一片たりとも作り物は混じっていない。すべては天然だ。築地市場では最高値のクロマグロとして取引されて当然だ…… おっと私はマグロではない。然るべき場所では最高級の娼婦も顔負けにふるまうことができる! 相手が誰であろうとも。

お分かりいただけただろうか。今現在の私が完璧であることを。

その私が、Aホテル最上階のスイートルームで待つ東証一部上場企業の役員と、入社試験の面接に臨もうというのだ。これは最高の舞台と言っていい。私はそう自分に言い聞かせた。

フロント係はエレベーターのドアに白手袋をはめた手を掛けて私を中に入れ、自分も続いて乗り込んできた。何なんだこの無駄な仰々しさは。スイートルームの前まで私を誘導するつもりなのか。まるで私が怖気づいて逃げ出すのを警戒しているかのように。……いけない、ここで気後れしていては第1印象がぶざまなものになってしまう。

課長面接から1時間後に携帯に連絡してきた女主任の言葉によれば、役員面接は3段階に分かれているらしい。この女主任は、面接が長時間にわたると言って、当日に別の予定が入っていないかしつこいくらい念押しをしていた。少しでも遺漏があれば評価に響くのかもしれない。ならば、彼女のためにも私は頑張らなくてはならない。


エレベーターの中で、再び資本金額、創業年、社長名、最近の事業展開など基本データの記憶を総ざらいする。そして今日の朝刊に出ていた、会社に関連しそうな記事についての所感。全部OK…… 最後に、気持ちを落ち着かせる儀式として、この世界で最も愛する男の顔を思い浮かべる。

勤務先の製薬会社から文部科学省の外郭団体に派遣され、遺伝子工学の研究に従事している彼は今も、研究室で頭をかきむしりながら実験に没頭しているに違いない。彼は口癖のように、「人間は乗り越えられなければならない存在だ」と言う。私はいつしか、乗り越えられるべき頂点に位置する女でありたいと願うようになった。彼が生みだし、私を乗り越えていく存在が何かなどは知りたいとも思わない。彼の願いが現実化すれば、さだめし私は乗り越えられた存在として、彼から一顧だにされぬまま地の底深く沈んでいくのではないだろうか。

それも悪くはない。

彼は私を抱いた後、泥のように眠り、目覚めればシャワーもそこそこに研究の続きがあると言って部屋を出ていく。私は波打ち際に捨てられた最高級のクロマグロとなって彼の背中を見送るのだ。私は砂の上でぴちぴちと跳ね、涙を流す。そう、私は骨の髄までドMなのである。そしてこれを知る男は彼しかいない。絶対に。


例えば課長面接の日、私の前で呼び込みを待っていた平凡極まりない男子大学生がおずおずと話しかけてきた時、私が蝿の羽音がしたほどの反応も示さず無視したからといって、私にSの気があるなどと、あなた方は考える? ならばそれは極めて短絡的。その時明らかになったのはただ、身の程知らずな射幸心は当の本人を不幸にするという冷厳な事実でしかない。そして私の立場から言えば、重要なイベントの直前に何の関係もない人間から全くどうでもいい理由で話しかけられること自体が理解に苦しむだけであって、それ以上でもそれ以下でもないのだ。そんな場面で、この私という人間の真実が顔を出すとでも言うの?

だから私は、人前での振る舞いと自分の真実は割り切って当然だと思っている。むしろ、そうでない人間の方が珍しくないだろうか。それでも私の考えが特異なのだと言われるなら、……この世界は随分と面倒くさいと言わざるを得ない。

エレベーターの表示が最上階に着き、ドアが開いた。「開」のボタンを押したまま私を先に出してから、フロント係は「こちらになります」と言って私を誘導する。通路がT字路になったところで左に折れた。通路の一番奥にあるドアの前で「こちらでございます」とにこやかに告げ、ようやく彼は私のそばから離れた。


貢ぎ物の荷運びを終えてすっかり身軽になったフロント係が、飛ぶような足取りでT字路を右に消えていく。そしてここに立っているのは自分1人。私はノックして、ドアを開けた。

ドアの先には、幅2メートルほどの細長いスペースが奥へと続き、その先に窓が見える。

私は部屋の中へ一歩踏み出した。毛足の長いカーペットに足が沈む。その通路にも似た空間は、左にシャワールームとクローゼットが並び、右にトイレがある。窓の外にビル街が見下ろせる位置まで来ると、右方向に奥行きが広がるスイートルームの全体が見渡せた。

部屋のはるか先に、天蓋から吊るしたカーテンで四方を囲んだダブルベッドが鎮座している。私から向かって左側の大部分は窓。そしてベッドの手前に、ガラス張りの頑丈そうなローテーブルを挟んで一対のソファーが向かい合っている。そのソファーの、窓の向かい側すなわち壁を背にした方にヒキガエルが一匹座っていた。


「女子大生さんですね、お待ちしてました。荷物はその、後ろの方の収納に入れてください」

スイートルームには、はげ頭の等身大ヒキガエル以外に人間は見当たらない。面接はこの男と1対1で行われるらしい。

私ははるか彼方のヒキガエル──役員様──に、「失礼いたします」とほとんど聞こえないくらいの声で言ってから、指示に従って左側の頭の高さにある両開きの収納を開けてバッグをしまった。フロントに着いた時から手に持っていたコートも同じ場所に押し込んだ。普段であれば手ぶらでこの人型をした両生類の前に出るような状況は絶対あり得ないのだが、今日はそういう日ではない。今は役員面接。私のすべてはあのヒキガエル次第なのだ。

「こちらへどうぞ」

私は手持ち無沙汰の気後れを見透かされぬよう、胸を反らし気味に部屋の奥へ歩みを進め、窓を背にして役員の正面に立った。私の背後に、片田舎の中学校体育館から盗み出してきたとでも言わんばかりの古びた一脚のパイプ椅子がある。これがこの場では唯一、世間的な通念に合致したつつましい面接用小道具と言えなくもない。そのたたずまいは何やら、貧しい世界から拉致されてきて途方に暮れる不幸な幼児のようでもある。


「寒くはありませんか?」

「いえ、大丈夫です」

「そうですか、では、ジャケットはその椅子にかけてください」

役員に言われた通り、私はジャケットを脱いで二つ折りにしてパイプ椅子の背もたれに掛けた。まかり間違ってもハンガーに掛けるようなぶざまな掛け方はしない。このまま口頭試問を受けるのだと思い、私は立って役員の言葉を待った。

「手は後ろに組んでください。この後もずっとそうしているように」

「あ、はい」

私は手を後ろに回し、背筋を伸ばした。


胸がシャツを押し上げ、誇らしげに前へせり出す。それを無視するかのように、役員は私の履歴書と、この日のために作られたらしい見覚えのない書類を眺めていた。

「まず、わが社で勤務なさりたいとの気概は、間違いないものと思っていいんですね?」

「はい」

「具体的には?」

? ここでたじろいでは命取り! 少し間を置いてから、私は努めて静かに答えた。

「御社のために、私のすべてを捧げたいと」

「うまいことをおっしゃいますね! すべてだなんて。いやいや最近の若い人はお上手だ…… あなたは自分の恋人の前でもそんな風におっしゃれるんですか? 『私のすべてを』とか」

「今は、恋人と呼べるような男性はいません」

「冗談もいい加減になさい!」


ヒキガエルが吠えた。権力を手に入れればヒキガエルでもライオン顔負けに吠えることができる! 目を見開きこめかみに血管が浮き上がっている形相を見て、私はわれ知らず怯えた表情になったと思う。

「ここに書いてある! 得意技は松葉崩しに仏壇返し! 恋人でないなら何ですか? 愛人ですか金づるですか? 仕事に対する意識をそこらへんにいる男どもと同列のように考えてもらっては困るんだ! どうです? それでもなお、わが社のために、ご自身のすべてを捧げたいと、そう言えるのですか?」

「はい!」

「間違いないんですか!?」

「はい、間違いありません!」

「分かりました。……では、私の目の前で、部屋の端から端まで歩いてください」

「端から、端まで……ですか?」

「そうです! 右奥の、ベッド手前まで行ったらUターンしてずーっと左端まで、そこでまたUターンしてここへ戻ってくる。お分かりですか?」


「はい……」

言われた通り、私は役員の目の前を歩いた。背筋を伸ばし、普通の足取りで。

やがてベッドまでたどり着いた。合計12歩。Uターンし、彼方にクローゼットが見える部屋の反対側を目指し出発する。目標の位置に到達した時、要した歩数は29歩だった。そこから再び折り返し、パイプ椅子の前へ戻るまでの歩数は引き算をすれば17歩になるはずだったのに、なぜか15歩で足りてしまった。

「実に優雅な歩き方です。お美しい」

「ありがとうございます」

「身長とスリーサイズをうかがいましょうか」

「172センチ、上から93─59─88です」

「見事だ。何か運動はやってらっしゃった?」

「高校までバスケットボールを。今は時々、ジムで泳ぐ程度です」

「そうですか。では、恐れ入りますがその場で1回転してくださいますか」

「……はい」


言われるままに私は、その位置に立ったまま足を動かして1回転した。

操り人形になった私。役員様のゆびさき一つで、てくてく歩いたり回ったり。とんぼ返りなどもご覧に入れて進ぜましょうか? 結構ですかそうですか。からだの向きを戻した時、ソファにふんぞり返って小馬鹿にしたような顔のヒキガエルの視線とぶつかった。

「どうです。何かお気付きになったことは?」

「そうですね…… バスケの試合をするには十分な広さではないかと」

あきれたような笑いがヒキガエルの顔に広がり、すぐに元に戻る。まずい。奇手で応じたつもりがイエローカードになったか?

「面白い人だ…… それでは拝見させていただきましょう。下着だけになってもらえますか」

思わず息を飲んだ。目も大きく見開かれたことだろう。もっとも、ここに足を踏み入れた時から、私のからだがこういう展開を予想していた。理由は簡単。ここが私のために用意されたスイートルームだからだ。


私は小さく「はい」と言って、シャツのボタンに手を掛けた。下まで全部はずし、スカートから引き抜く。白のブラジャーがあらわになり、脱いだシャツはパイプ椅子の背に掛けた。続いて、私はうつむき加減で腰の後ろに手を回しスカートのホックをはずす。……最後に紺のストッキングから足を引き抜き、私はブラジャーとショーツだけになって役員の目の前に立った。

「立派な胸だ。大きくなり始めたのはいつです」

「小学校6年の時からです」

「いつごろまでにその大きさに?」

「高校1年の時には、はい……」

「体育の授業のときには困ったでしょう」

「体育ももちろんですが、部活の練習や試合の時には、もう…… 男子の視線が集中して、困りました。女子の間でも嫉妬が、それは凄くて」


「なるほど。では、もしあなたが結婚して、子供さんが生まれたら、母乳で育てたいと思いますか?」

「はい。そのつもりです」

「そうですか! 子供さんがうらやましいですな。では一気にいきましょう。着ている物を全部脱いでください」

「は、はい…… あの、これもですか?」

私は愛する男からの唯一のプレゼントである、クロスのネックレスを持ち上げて示した。言ってしまってから愚問と気付いたが、役員は気にも留めていないご様子。

「そうですね、全部ですからそれも」

私は従った。まずネックレスを椅子に置く。ブラジャーのホックをはずすと、束縛を解かれた乳房が弾かれたようにこぼれ出る。ショーツに手を掛け、前かがみになって引き下ろした時、完全にさらしものになった自分の姿に脳内が焼けた。これ以上何も脱ぐ物が無くなっても、やはり両手が自然に前を覆ったりするのだが、間髪を入れずに役員様が声を張り上げる。

「両手は後ろに!」


「は、はい……」

すっぱだかにされた上に、隠す手段も封じられた私は両手を腰の後ろに回し、開き直りに身をまかせて胸を反らした。役員はソファーに背を預け、目玉の動きがはっきり分かるくらい、私のからだを上から下まで舐めるように眺め回す。心臓が高鳴るのを抑えられない。顔も上気しているのが分かる。そんな私の様子も、この男にはたまらない目の保養に違いないのだ。

「随分と大きな乳首ですな。そこは敏感ですか」

「……はい」

自分の声が粘ついてきたのがはっきり分かった。

「見るからにつねりがいがある。つねられるのは?」

「……どちらかというと、つねられるより、上から、指で優しく転がしてもらった方が、その……気持ちがいいのですが」

「優しく、ね。なるほど。では、やって見せてください」

私は指示に従い、右手の指三本を片方の乳首の上に乗せ、ゆっくりとこね回した。胸が大きく上下しているのは役員にもはっきり分かっているだろう。私は生唾を飲み込み、口を小さく開いて、ゆっくりと息を吐く。役員の目が私の目を見ている。


「そのくらいで結構です。あなた先ほど、子供は母乳で育てたいとおっしゃった。最初の子は男と女とどちらがいいですか?」

「男の子が、いいです」

「でしょうな。あなたのその、褐色の見事な乳首から噴き出す母乳を存分に吸収して逞しく育つ若者は、同時にわが社の子でもなくてはならない! 違いますか!」

「もちろん、その通りです!」

「わが社に授かった子宝を、あなたはご自分の母乳で育てる! そうですな?」

「はい!」

「よろしい。ところで下の毛は…… 手入れしておられんようですな」

「はい」


「あまりする方ではない? 毛深いようにお見受けしますが」

「はい。普段から、凝った下着を付けたりする方では、ありませんので……」

「というと? 俗に勝負下着とでも言うんですか、男性と事に及ぶ日にも、特別な下着はお付けにならんのですな?」

「……はい」

「それでどうです? こういう会話をしているうちに、あなたの女性器は濡れてきましたか?」

「はい。多少……」

「結構です。では、靴を履いて。さっきと同じように、部屋の端から端まで歩いていただけますか」


ようやくその時気付いたのだが、窓のカーテンは全部開けられていて、外は昼下がりの冬空がどこまでも青く広がっていた。1回転した時に役員が投げた問いの模範解答はこれだったのだろうか? もっとも、この最上階を覗き見できるような高いビルが近くにあるわけではない。

はるか遠くの高層ビルから高倍率の望遠鏡で覗き見できたからといって、それはそれでご苦労な話だ。見たければ見るがいい。私は靴を履き、黙々と歩いた。一歩踏み出すごとに、支えを失った胸が上下に弾む。世界中の男という男が、すっぱだかでホテルのスイートルームを闊歩する私を窓の外から眺めている気がして、また女性器が濡れる。

私の愛する男は今の私を見て怒るだろうか? いや、怒るどころか微笑するだろう。「しっかりやれ」とさえ言うだろう。

今日を首尾よくやりおおせればまた彼の胸に抱かれて、彼の屈託や憤懣や、その他もろもろを私は彼の愛として受け止めて、また波打ち際に捨て置かれた最高級のクロマグロとして彼の背を見送るだろう。そうなのです。それが私の幸せ。

私は役員様の前に戻った。そして両手を後ろに回した。


「寒くないですか?」

「いいえ」

「では後ろを向いて。そのパイプ椅子に両手を置いてください」

「ここにですか?」

何をしようとしているのか、私にはすぐ分かった。いよいよこれからが本番らしい。

「そう、そのお尻を載せるところに。うん、そうそう。その姿勢で、両足を開いて。あ、膝は曲げないで。せっかくの綺麗な脚が台無しだからね」

私は足を伸ばした状態で広げられる限界まで両足を広げ、役員様の前に尻の穴と女性器をさらけ出した。私は彼の顔を脳裏に念じる。「しっかりやれ」と微笑する彼の顔を。

「実によく見えますよ、女子大生さん。見事な眺めだ」

「ありがとうございます」


「ありがとうございます? そうおっしゃいますがね、あなた。ご自分が何をしているか分かっておられるんですか? これはわが社の役員面接ですよ? 何を考えてあなた、ご自分の尻の穴とお×んこを私に、見せているのです?」

「本当に、……お粗末なものを、お目にかけております」

「そんなもの見せろなんて、私がいつ言いましたか!」

「いえ……」

「言ってませんよね!」

「はい、一度も!」

「しかも何です、あなたのおま×こときたら、まさに湯気を立ててるじゃないですか! 何てまあ、あなた。いやいやいや…… そんなに何か別の物をくわえ込みたがってる様子を、どうして私に見せようとしてるんです? 言ってごらんなさい!」


その瞬間、自分の中からあふれ出たしずくが一滴、糸を引いてカーペットの上に落ちたのが両脚の間から見えた。

「あっ…… 申し訳ありません」

「いいですよ構いません。早く言ってごらんなさい」

「それは…… 御社にすべてを捧げたい私といたしましては、私のすべてを役員様にご覧になっていただくのが当然と考え、このような姿をお見せしているのでございます」

我ながら見事な台詞回しだ。これだけ歯切れよく言葉が出てくる自分を褒めてやりたい。

「はあ。そういうものなんですか? どちらにしてもおっしゃる趣旨は理解しました。でもそれだけですか? あなたのお××こはそれだけじゃ嫌だと言ってるようだが?」

「……」

「正直におっしゃい!」

「私のお××こは」

「そう! どうしてそんなに湯気を立ててるの!」

「入れてほしいのです……」

「何を!」


「御社に!」

「わが社に入りたいのは分かってますよそりゃ、ここへ面接に来てるんですから。あんた日本語の使い方間違ってない? もう一度聞きます、何を?」

「失礼いたしました。……御社をぜひ!」

「わが社の何ですか!」

「太くて硬い! 御社自身を」

「わが社自身を、どうしてほしい!」

「入れ…… いえ、突っ込んでほしいのです! 私の中に!」

私の絶叫に弾かれたみたいに、役員様はヒキガエルにしては随分と敏捷に立ち上がり、テーブルを回って私の背後に近付いた。

「分かりました。恐らくご希望かと思われる物を、あなたのかわいそうな女性器にあてがって差し上げましょう。こんなものでよろしいのですか?」


黒いバイブレーターが私の溝を陰核の方向へと、いかにも無造作になぞった時、私の唇を割いてその日の第1声が低くほとばしり出た。つつしみを忘れた、おんなのうめきごえが!

「いい声を出すじゃないですか。そんなによかったですかこれ」

「いえ……」

真っ黒な器具が、わたしの陰核を、執拗に突っついてくるので、また声が漏れてしまった。

「ひぃぃぃ……」

「わが社自身といってもこれは社有の物ではありませんがね。お気に召しましたか?」

「それを…… どうか、入れていただきたく」

「これが? あんたの中に入るの?」

「はい……」

「いいの? 入っちゃうよ? ほら、ほら、ほら!」

しかし役員は器具の先端で私の裂け目をなぞったり時折陰核をもてあそんだりして、なかなか挿入しようとしない。


「お願いでございます、早く、それを」

「どうしたいの」

「ぶち込んでくださいませ!」

「ぶち込んで、だなんてあなた…… 仕方がないねえ」

役員は器具をゆっくりと押し込んできた。2~3回抜き差ししてからスイッチを入れる。

「! いっ…… 御社様、よろしければ、もっと、奥まで」

「じゃあ根元まで入れますよ」

「!」

私のからだの中の雌の血が、たちまちのうちに煮えたぎる。腰から下で沸騰した血は私の脳髄まで駆け上がり、わずかに残った慎みを粉砕して喉の奥から歓声を噴き出させた。

「はあああぁぁぁっ、い、いいっ、わたしの、奥、おくにきます、おくに!」


私は両足を突っ張ったまま尻を振り回して器具の抜き差しに応えた。

器具の抜き差しは初めは緩やかに、そして少しずつペースが上がっていく。そして私の喉から絞り出される声のトーンも高まり、きれぎれにかすれていく……

「あはぁっ…… いい、いい、いいです! だめ、あ、あ、いってしまいます、い、い、いく!!」

本当にあっけなく、私はいった。さすがに立っていられずパイプ椅子の上に崩れ落ちると、役員は背を向けて自分の座っていたソファーへ戻っていった。

見れば、着ていた背広を脱いでネクタイをほどいている。私が休んでいる暇も与えぬうちに、役員は服を全部脱いで屹立した股間の物をこちらに向けた。

「あんたねえ、何自分一人で楽しんでんの? ここには面接に来たんでしょうが? いいですか、社業とはすなわち奉仕ですよ! お客様とそれから会社に対する! 自分だけ楽しんでちゃ会社なんて成り立たないんですよ。ほら、こいつをくわえなさい!」

私は感じる。脳の中で、はっきりスイッチが入ったのを……


ヒキガエルもとい役員様が私に、聖なる御社様の肉棒を差し出された、ので、私がその先端をお舐めして差し上げると、いとしい幼子のようにビクンと跳ねる。あまりのいとしさにわたしが、その、一般には亀の頭に例えられる部分を口にくわえれば、それは一段と逞しさを加えられて反り返られる。その熱さ硬さがうれしく、座り込んでカーペットに押し付けられているわたしの女の部分が反応し、また抑えようもなくあふれ出てしまう。

そうやって私は、根元までくわえ込み、口でせいいっぱいの奉仕をさせていただきました。心をこめ、きつくなりすぎぬようしゃぶりまわせば、御社様のおよろこびようがわたしの口からじかにつたわってまいりまして、わたくし、たまらぬきもちになるのでございます。

ああ、はやくわたくしの、熱くおまちもうしあげているおんなのぶぶんに、それをさしこんでいただきとうございます!

「それじゃ、あんたの十八番を試してみようじゃないか。仏壇返し」

私のくちから、御社様がはなれていくと、よだれが一筋先端から伝い落ちる。


そうやって御社さまを見送ってから私はよつんばいになり、そして脚を伸ばして大きく尻をかかげた。これでもかとばかりに、役員さまに向かって自分の恥ずかしい部分を全部、さらけ出す。脚の間から、熱くて太くて硬い、御社さまがわたしの熱く煮えたぎる泉にちかづくのが見える。

ずぶり。

余分な手続は一切省略して、熱くて太くて硬い御社さまが根元まで、わたしの中に入ってきた時、目の中で火花が散った。わたしはその姿勢で身をよじり、乳首をこれでもかと勃起させて、よろこびの叫びを上げたのでございます!

「いいいっ…… きもちが、あああぁぁぁぁぁっ!」

「凄い締め付けようだな。え? さすがに得意だって言うだけあるわ」

御社さまがわたしの、はしたない部分を出たり入ったりするたびびびに、わたしは中からしぶきをあげて、よろこびをあらわします! それほどにおんしゃ、さまの、ご神体は硬くて、熱くて、……ありがたいおめぐみでございます! もっともっとおくのほうまで、わたしをつきまくってぐちゃぐちゃに、してくださいませ!

「ひーーーーーっ! *◯□◇▽☆※*”△★♭#~~ーーー!!」


白目をむいて悶絶し気が遠くなって、わたしは姿勢を崩してしまった。もうしわけございません! でもやくいんさまは、わたくしを床にころがして、ありがたいおことばをかけてくだすったのでした。

「具合がいいよあんた」

! やくいんさまが、わたしの上にのしかかり、くちびるを割って舌をねじこんでこられました。わたしがやくいんさまのあたまを掻きいだき、おもいっきり舌をからませて応じますと、やくいんさまのうでがわたくしの脚をもちあげ、そしてまた、あつくうるおっているわたしの、いずみのなかにずぶりと。

やくいんさまがこしをうごかすたびにあたまが、ゆかにこすりつけられ、きょうのために丸くまとめたわたしのかみが、どんどんみだれてしまいます!

「ひいいいいい、もうごかんべんください、死んでしまいます、死ぬううう、死ぬぅ!」

さけびをあげるわたしのくちを、やくいんさまは舌をからませてふさがれました。わたしは舌をからませて応じ、やくいんさまのくちの下でうめきごえをあげるのです。そしてたくましいご神体がわたしをほりかえすたんびに、わたしのはねあげるしぶきで、やくいんさまとわたしのからだが、ところかまわずぬれていくのです!

やくいんさまが、わたしのみみをあまがみされました!

「おい、少しは動けよ。あんた上になれ」

ご神体が私の中から出ていく。はなれていく。


役員様のご指示に私はモーローとした頭で頷き、あおむけになった役員様に跨った。ヒキガエルの目を見据えつつ、自分の手でそれをあてがい、腰を沈める。私は歯を食いしばり、自分から串刺しになった。

串刺しになった私。女陰から串を通され、ぶざまに干からびて炉端で焼かれる罪深い女、それがわたし。

ああ…… ここは役員面接の会場。わたしはなんてことを……

じぶんのはしたなさによいしれて、わたしはこしを、ふった、ふった。わたしは、てんにむかってさけぶ。

「いぃぃぃーーーーーーーーーーっ!!!」

やくいんさまのてが、おおぉ、のびてきて、わたしのちぶさをつかむ。タワワにみのった、わたしのちちを! そそりたつちくびを、やくいんさまのゆびが、ひとさしゆびとおやゆびが、ひねりまわす! ひいいいいい! なんてことをなさいますごしんたいさま! ああこしが、こしがまわってしまうう!

「後ろに手を着きなさい。そろそろ締めだ」

私は頷き、後ろに手を着いてのけぞった。同じ姿勢で突き込んでくる、役員さまの腰の動きが早くなる。


「中に出すぞ! わが社の子を孕むんだ! しっかり孕めよ?」

「はい、ぜひとも御社様の、御社様の、子種を私にお与えください!」

★○・△◎●★~~~~ーーー! あ、役員さまは上体をお起こしになられ、そしてわたしの、りょうあしをこれでもかとばかりにおしひらき、のしかかってこられた!

そしてわたしのくちに、舌をねじこんでこられましたので、わたしも蛇のように舌をからめて応じます! そしてその、たくましい御神木はいっそう、かたさをくわえ、ああもっと、もっと、わたしのおくに、突き込んで、撞き込んで、搗き込んでくださりませ!

も、もうだめ、あたまのなかまっしろ、まっっっしろ! ごしんたいさまがわたしのなかであらぶる、あらぶりになって! ああ、くる、くる、きた、きた、きた!

「ΩωαΘ♯×※△厳ЦШГーーーーーーっ!!!」

ごしんたいのなかから、熱くてありがたい聖水が、聖水が、わたしのなかにぶちまけられ、ひーーーーーー、わたしはほんとうに、しんでしまいました!


────────────────────


もうわたしは、みどりの海中を時速60キロで泳ぐことのない冷凍マグロ。深く深く沈んでいくだけ。どこかで彼の声がする。よくできたよお前。……? いや、これは彼の声ではない。ヒキガエルがゲロゲロ鳴いているだけじゃないの。

「シャワー浴びてきていいよ。あまり時間かけないように」

「……はい」

私はよろよろと立ち上がり、ふらつきながらシャワールームを目指す。もちろん役員から気遣いの言葉一つかけられるわけもない。

スライド式の扉を開いた。シャワールームも、スイートルームだけあって豪奢だった。私は浴槽内に立ち、脚を縁に掛けて、ヒキガエルの汚液を洗い流すべく股ぐらに湯を噴射する。

うまくやりおおせた…… とはいえ、恐らくまだ第1段階にすぎないのだろう。早くすべて終わらせてしまいたい。しかし下手に気をはやらせると失敗する。私はからだについた水滴を拭いながら自分を戒め、この後の展開をあれこれ予想してみる。

あの役員はもう結構な歳だろうに、1人で最後までやり通すのだろうか? だとすれば…… 好ましからざる薬物を使っているのは間違いないだろう。

シャワールームの外に出た。ローテーブルの上でヒキガエルが土下座している。

はげあたまの上に紙切れが載っているのが遠目にも確認できた。タオルで胸を隠しながら近寄って見ると、紙片に何か書いてあった。


               クローゼットの中

? 何のこと。クローゼットの中を確認しろという指示なわけ。ふーん。いい歳した大人が伝言ゲームみたいなことして恥ずかしくないの? いいよ別に。クローゼットの中見てあげるから。

私は回れ右をして窓際にあるクローゼットに歩み寄り、観音開きを開いた。

バーに掛けられていたのは…… 黒いレザーのボディースーツと肘まで覆うエナメルの手袋。俗にボンデージというやつだ。そして鞭が数種類。足元には編み上げ式のブーツが置いてある。その横に紐で束ねたピンクの極太ロウソクが5本。以上、最近はめっきり御無沙汰している衣装とアイテムたち。

ボディースーツの胸元には茶封筒がクリップで挟んであった。この封筒だけ、場違いな事務用品として浮いているのが笑える。私は封筒を取り、中に入っていた四つ折りの紙を開いた。


               第2ステージに向けて

  第1ステージお疲れさまでした。これから第2ステージに移ります。この後はここに
  用意しました衣装とアイテムをお使いになって、ご自身で次のステージを演出なさって
  いただくことになります。

  改めて申し上げるまでもありませんが、弊社におきましては、営業の現場で常に
  創造性の発揮を、それも極めて多様な方向性について求められることになります。
  すなわち、お客様のニーズに対して的確かつ敏速に応えるには創造的な思考が
  不可欠であり、新人採用に当たってもこの点での適性を最重要視しております。

  あなたがこれらの品々を使って演じられるシーンを、自らのイマジネーションに忠実
  に臆することなく展開されるよう期待いたします。

                         人事第2課
                         ソニー

へええ。そういうことなの。

人事2課長個人の判断ではないのかもしれないけれど、面接を受けに来た大学生ふぜいにこの心遣いは嬉しい。私が残念な境遇に置かれた悲劇のヒロインだったら、嬉しさに思わず涙してしまう場面かもしれない。

どちらにしても、ついさっきまで雌豚みたいに鳴いてた私が、今度は女王としてふるまわなくてはならないわけだ。女王様を辞めて随分になるけど、やるしかない。


……女王と奴隷の関係は、筋書きのないドラマだ。ご丁寧にシナリオまで書いて来てこの通りに頼むと言った奴隷もいたけれど、通はそんなことはしない。その場でのひらめきにまかせてドラマをコラボレートするところに、プレイの醍醐味がある。逆に言えば、発想力のない女王、奴隷の間では死ぬほど退屈なプレイしか成り立たないということだ。変態の世界の奥深さは底が知れない。

ところで前に言った通り、私は骨の髄までドMである。しかし自分が真性の、それも筋金入りのドMだと悟るに至るまでの道は決して平坦ではなく、若干の起伏があったことは認めざるを得ない。

私は18歳の時、女王になった。


中学3年の時、刃物を持った男に追い回された経験でどんな男が面倒くさいかという識別ができるようになってからというもの、ゲームのように男を拾っては捨てるスキルが身についていた。女王即位までに私の討伐数は19に達しており、多くの男たちは健気に立ち直ったとはいえ、教員生徒を問わず学校に姿を見せなくなったり、心身を病んでいった者がいたのは事実だ。

ある独身の40代の国語教師は、忘れ去られた鉢植えのように急速にしおれていった3カ月を経て心筋梗塞で死んだ。国家神道の信奉者である柔道部顧問の体育教師がアパートのドアをこじ開けて確認したところでは、死体はパジャマ姿のまま台所で仰向けに倒れていたというから、自然死であったのは多分真実だろう。

自殺した者は…… 告白するが、いたと言えばいた。

校舎の屋上から飛び降りコンクリートのベランダに自分を叩き付けた動機を巡り、さまざまな憶測が飛び交った時には私も肝を冷やした。しかし最終的には、どういうわけかいじめが原因というところに落ち着き、自殺直前まで現場でいじめが行われていたとの報道に伴い事件が半ば殺人に近い性格を帯びるに及んで、いじめを加えたと名指しされた生徒は学校を追われ、県教育長は更迭される騒ぎに発展した。

一方私は、事件前日に本人から手渡された遺書を握り潰した。恨みつらみを書き連ねた挙句、「君の前から消える」と結んだその紙切れを私はシュレッダーにかけ、可燃ゴミの中に入念に忍ばせて指定日に出し、自分の前から消えてもらった。そして国語教師の時と同じように何食わぬ顔で葬儀に参列し、何食わぬ顔で焼香した。実のところ、事情を知った遺族による逆襲の可能性をひそかに案じていたのだが、幸いにも杞憂に終わった。

何も無理に死ぬことはなかったのだ。私の前から消えるだけでよかったのに。


このように私は、自分が生まれながらのファム・ファタールであるとの物悲しい確信を固めつつあり、高校3年の夏、ミュージシャンなのか単なるヒモ稼業なのかよく分からない中年男の紹介で、女王の位に就いた。しばらくは鞭を振るい蝋を垂らし男が悶えるのを傲然と見下ろしながら法外なアルバイト料を稼いでいたが、20歳の時に転機が訪れた。

大学入学後も女王の権勢をほしいままにしていた昨年の夏、現在の彼が私の客となった。私のプレイに飽き足らなかった彼は昂然と叛旗を翻した。革命が起こったのだ。私の政権は打ち倒され女王であった私は奴隷の位置に転落し、その日初めて波打ち際の最高級クロマグロとして彼の背中を涙しつつ見送る至福にうち震えた。

……以来、私はひたすら真性の、悔悛したドMとしての幸せを噛みしめながら生きている。弁証法的に言うのであれば、女王であった私の中に波打ち際で涙するマグロは内包されていたのであり、諸矛盾は最初からマグロの中へ解消される途上であったと考えられるし、あるいは女王であるDmが彼というG7に媒介され最終的に奴隷であるCmajに解決したと…… 自分でも何を言ってるのか分からなくなってきたのでこのへんで、


む!?


今、「字づらだけ見ればドMはDmだからそれは逆だろうが」と、したり顔で呟いたのは誰? 


残念でした。ドMはCmajなの。

でも、ほんとどうでもいい。所詮、あなたのいる世界に私はいないのだし、そこには最高級クロマグロの影すら存在しない。だからあなたはあなたの描く幻をネタにして、いつまでも自分の薄汚い恥部をもてあそんでいればいいの。

さて……

レザーのボディースーツもピンヒールのブーツもぴったりフィットしている。ボディースーツは文字通りのボンデージで、素肌にそのまま着ると乳首がこすれて痛い。それが場違いにせつない気分を呼び起こしてしまいそうになるのをぐっとこらえ、私は鞭を一振りした。

……いい音がする。

鞭はオーソドックスなタイプ1本で十分。弘法は筆を選ばないのだ。


続く!


次回予告!

女子大生「お前何、前期決算のこの数字は? この売り上げは? こんなんで自分だけ冬眠する気かこのヒキガエル!」ビシィッ

役員「お、お許しください女王様! 冬眠しません、働きます! 次期決算では必ず挽回を!」

女子大生「ゲロゲロ鳴くな!」

ソニーの婚約者「やめなさいこの変態女!」ガシッ

女子大生「むっ? 私の邪魔をするお前は誰だ!」

婚約者「私はソニーの婚約者! これ以上の変態プレイは私が許さない!」

女子大生「あの課長の婚約者だと? この私を変態呼ばわりするのか、笑わせるな!」

    「お前、あの間抜けとの婚約を後悔し始めてるんだろう?」

    「お前の予想通りだ。絶対にあのバカはお前を幸せになんかできない」

    「きっと地方支店ドサ回りで一生を終える、その程度の男!」

婚約者(うう、何という強烈な精神攻撃…… 今一番気掛かりなポイントを正確にヒットしてくるとは…… さすがに女王で鍛えただけのことはある!)

危うしソニーの婚約者! このまま変態女子大生の猛攻に為すすべも無いのか?

そしてソニーの運命は?


相変わらずヒキガエルは土下座している。あれからどれだけ経ったと思ってるの、おまえ。そしておまえの脂ぎった後頭部にまだ紙切れが載っているのはなぜ?

私はその、薄汚い物体がのっかっているローテーブルの近くまで歩み寄り、もう一度鞭を振った。風を切る心地よい音に続いて、先端が革張りのソファの背に当たりピシリと鳴る。悪くない。

「ねえ」

土下座したままのヒキガエルの頭がビクンと震えた。はげあたまを離れた紙切れがひらひら舞い、テーブルの下に敷かれたこれまた高級そうな絨毯の上に落ちる。

「……はい」

「なにい?」

私は女王の威厳を込めてヒキガエルの尻を打つ。脂肪の塊を弾く気持ちの悪い音。そしてどんな醜いカエルでも上げそうにないうめき声が続く。


「『はい』ってなにい? いつ私が言葉を発しても良いと許可したの? してないでしょ!」

どうしていいのか分からないヒキガエルは、土下座のまま黙って震えているだけだ。

「どうなの答えなさいよ!」

今度はテーブルの上を思いっきり打つ。我ながら無茶苦茶だが、土下座ガマガエルは激しく身震いし、0コンマ1秒のスピードで首を横に振った。うーむ、ブランクが長いせいか不調は認めざるを得ないけれど仕方ない。もうこうなったら勢いだ。

「それじゃ分からない。どうなのお前は許可されたのされてないの!」

「されておりませえん!」

「許可してないのに口きくなこの亀!」

的確に肛門にヒットするよう鞭を振るい、命中した。めでたくも亀に進化したそれまでのヒキガエルが、これまた許可もしていないのに土下座を崩し、苦悶に歪んだ醜い顔があらわになる。女王たる私への敬意はどこ? これっぽっちも見られないじゃないの!


私は手袋の小指をその汚い鼻の穴に突っ込み、ひねり上げた。

「神がお許しになってるのはお前が亀の鳴き声を立てることだけなんだよ? 亀はどうやって鳴くの?」

亀はひねり上げられた鼻の奥から、駄馬がいななくような音をみっともないヴィブラートをかけて送り出してきたので、あまりの気色悪さに私は小指を鼻の穴から引き抜いてしまった。亀の頭──俗に言う亀頭ってやつ?──がテーブルのガラス面に落ちてゴトリと鳴る。

「何だそれ? 亀がそんな汚い声で鳴くだなんてお前が勝手に決めたのか? もういいよ喋りたければ喋れ。神に代わって女王たる私が許可する。で、なぜお前はここにいるの?」

「女王様に私の、汚い存在をお見せするためにいるのでございます!」

亀が吠えた! 慈悲深い私が与えた神聖なる許可への感謝と喜びを満面に表して! でもいいのお前、亀が吠えることの信憑性は別にして、その汚い存在がここに存在する根拠は何? 小さな脳味噌をせいいっぱい回して出した答えがその程度なら、お前は再び両生類に退行しなければならない!

今度は人差し指と中指を鼻の穴にねじ込んだ。そうやって、これでもかとばかりのけぞらせる。

「お前の汚い存在? それを私に見せるまで思い上がった理由は何なのこのヒキガエル! お前は本来汚い泥の中にうずくまっているだけの存在、冬のさなかに女王のありがたい日差しを浴びるために這い出て来る自由をお前はどこから盗み出してきたの!? 答えないか、この、薄汚いガマガエルが!」


「盗んでなどおりません、私は無実でございます!」

「ならお前がここに存在している矛盾をどう説明するの!」

「……自然に」

「え?」

「自然に湧いて出てしまったのでございます!」

私は汚らしい二つの穴から人差し指と中指を引き抜いた。ヒキガエルの頭が落ちまたもゴツンと音がする。

「あきれた…… おまえ、ここに湧いて出てしまったの?」

「……はい」

「だから自分は無実だと主張するのだね? 愚かなおまえ。それは間違っている」

「……」

「ここに、私の前に湧き出してしまったのはそもそもお前の罪。お前の、ケシ粒みたいな脳味噌が認識する以前のお前の罪!」

私は思いっきり鞭をテーブルのガラス面に振りおろす。ガラスが割れんばかりの音に、ヒキガエルがそのみじめなからだを、はげしく痙攣させる!


「お許しください女王様!」

「え? 今何て言ったの? 『許して』? ……分からない。……なぜおまえは、『許してくれ』なんて、その汚い口からそんな汚いことばを吐き出せるの? 何も罪の償いを始めていないのに!」

「償います、本当にすぐ!」


鞭がうなりを上げてヒキガエルの右前脚を打った。これは痛い。苦痛に顔を歪めたヒキガエルが手の甲を押さえてその醜いからだを横倒しにし、みじめな生殖器をあらわにした。ああ汚い。


「おまえに償いの重さの何が分かるというの! どうしたら償えるか言ってごらんな! え?」

「申し訳ありません自分には分かりません! 女王様のお裁きに従います!」

「私に従うんだねおまえ?」

「はい!」

「ではミミズにおなり!」

「え?」


私は鞭を振りおろした。背中の脂肪を打つ鈍い音がして、真冬だというのにガマガエルがゲロゲロと鳴く。

「お許しください女王様!」

「高いところから『お許しください』じゃないよお前! いつまで偉そうにそこに鎮座してるんだ! ミミズなんだからおまえは地べたを這い回るのが分相応じゃないのか!」

「は、はい」

せっかく亀にまで進化したのも束の間、今やミミズに転落してしまった哀れな生き物が、テーブルから転げ落ちるように絨毯の上に降りてうつ伏せになった。そしてにょろにょろと這い始める。

だけどこの人、ミミズののたくり方をよく知らないみたい。これじゃ蛇。ヒキガエルがミミズになろうとして蛇の真似してても笑えない。

……それでも慈悲深い女王は、そんなみじめなヒキガエルさんの落ち度に目をつぶってあげる。これがご褒美。私はブーツのピンヒールをケツの穴に押し込んであげた。

「ひーーーーーっ!!」


歓喜の叫びを上げてミミズは何を奮起したのか、あっという間にはるか先まで這って行ってしまった…… おや? 今度は仰向けになって、不格好ながらもからだを上下に蠕動させてこっちに進んでくる! 上手上手、よろしい、それでこそミミズ、やればできるじゃないの! でも、下の方についている突起が硬く立ち上がっているのはどうしたの?

「どうしたのこれ? え?」

一生懸命ミミズの真似をしてヒキガエルが私の近くまで這い寄ってきたから、私がブーツの先端で、その不遜な蛇みたいに鎌首を持ち上げている突起を左右になぶってやると、たちまちガマガエルの顔に分不相応な至福の表情が広がる。

「ああ! 気持ちようございます女王様! もっともっとそのように……」

「じゃあこれは?」

竿の下に転がってるかわいい二つのボールの間を、ヒールの先で踏み潰してやった。

「★〄※△αБЖ~~~ーーーー!」

ヒールの先から逃れようとするように、ミミズは私の前で身をよじりだした。これは気持ち悪い! 上半身を左右に振りながらのたくる様は本物の、しかも巨大なミミズが炎天下の路上で悶絶している様子にそっくり。

しかし下腹部の突起はあまりにも不遜な硬さを自己主張しつつも、右に、左にと節操もなく揺れ続けているのだ。これでは女王の権威が保てない。そろそろ切り替え時と判断し、私は鞭を放り出してエナメルの手袋を脱ぎ、右手に持った。


「お前」

声のトーンに幾分かの柔らかさを加えて、私は眼下の下等生物に呼び掛ける。

「はい?」

「今何時だと思ってるの」

「えっ……」

「もうじき8時半でしょ。いつまで寝てるの? 学校はどうしたの!」

ヒキガエルの顔に怖れと、怪しくうごめきだした期待を素早く読み取る。うまい具合にスイッチが入ったらしい。

「ごめんなさいお母さん! でも…… 今日は学校休みたい!」


「どうして? もうみんな教室で席に着いてるのよ? お前1人だけ学校をずる休みして、それでいいと思う?」

「でも、でも、今日はお願いだから! ねえ、今日だけ」

「そう言って何回休んだと思ってるの!」

「ごめんなさい!」

「どうしてこんな子に育ってしまったの…… ええ? どうせ宿題やってないんだろう? お前大人になったらどうやって生きていくつもり?」

「……」

「とにかく、少し遅刻してもいいから学校へ行きなさい!」

「嫌だ!」

「学校へ行くのよ! 行きなさいったら!」


私はエナメルの手袋で出来の悪い倅のからだをところかわまずひっぱたいた。ああ…… これで私はまた、小学校の担任にああでもないこうでもないと文句を並べられるだろう。授業参観に行く日を想像すると顔から火が出る思いだ。でも、ここで私が息子を立ち直らせなければ!


バカな倅は私の折檻から逃れようとカーペットの上を這い回り、ベッド際まで追い詰められた。


私がなおも、「学校へ行きなさい、行かないと、こうだよ! こうだから!」と叫びながら手袋で顔や肩をひっぱたき続けているうちに、息子は「お願い、ぶたないで、ごめんなさいごめんなさい」とべそをかき始める。それでも私が容赦しないでいると、突然息子はからだを震わせ、うめき声を上げて動かなくなった。

見れば、さっきまでいきり立っていた突起物から多量に精子を放っているではないか。



……すごい。



何という変態。この種のプレイをして、勝手に射精してしまう男は初めて見た。私はこの汚いち×××に指一本触れていないのに。いったい、どんな人生の紆余曲折がこんな変態を完成させたというの? それともこれが、この会社に入るすべての若者の運命?


その瞬間、私の脳裏をよぎったのは電車内の吊り広告の見出しだ。「〄△※×社役員は特殊なSMプレイで射精してしまう筋金入りの変態!」──週刊誌に売り込めば多額の報酬がもらえるだろうか? いやまずい。そんなことをすれば私まで一蓮托生、どんな変態プレイにも応じる道徳観念ゼロの女子大生とか一生消えないレッテルを張られてしまう。この場面は交渉材料にならない。もちろん、そんなイレギュラーな思い付きは0コンマ01秒の単位で脳内処理し、絶対に目の前の相手に不審を抱かせるようなヘマはしない。なぜって? それが就活というものだからでしょ。違うの?


だから私は、せいいっぱいの悲しみを表情に出して、哀れな馬鹿息子の前に片膝をつくのである。


「お前…… これは何?」

「……おしっ……こ」

「嘘をお言い。これはおしっこなんかじゃない」

「ごめん……なさい」

「お前…… どうしてこんなもの、出すようになってしまったの! いい? 今はもう、みんな学校で静かに授業を受けてる時間だよ? それなのにお前は学校に行かずに、お母さんの目の前でこんなものを出した。お前、いったい、どんな大人になるつもりだい?」

「どんなってぇ…… あ゛~~~んん!!!」

ああ、バカでかわいそうな息子! とうとう顔をくしゃくしゃにして、大声を上げて泣き出してしまった。これでももう小学校3年生、いずれ中学校に進学する時期がやってくるというのに! 私の育て方が間違っていたんだ。全部私のせいなんだ!


「お母さん、僕、ほんとは、は、反省してる」

「どうして嘘をつくのお前は!」

私は手袋で思いっ切り息子の頬を打った。

「反省なんて言葉いつ覚えたんだこの子は? 分かりもしないくせに。もう、憎ったらしいったらありゃしない!」

「本当だよお母さん! 反省している証拠に」


突然息子は身を翻し、ベッドの下に潜り込んだ。私の折檻から逃れようというのだろうが、そうはさせない! そう思って足首をつかんだのだが、上半身の方は盛んにベッドの下でゴソゴソやっている。また何をする気だ。どうせ、ろくなことを考えちゃいないんだろう。


「僕、中学生になる!」

べそをかきながらベッドの下から引っ張り出したもの、それは中学校の制服。

べっとりと下腹部に付いた精液も乾かないうちに息子は黒いズボンを履き、脂肪で膨れた上体を詰襟の上着に押し込んでボタンを留め、中学生の姿になった。

「見てお母さん、僕、中学生だよ!」

「お前頭は大丈夫かい? お母さん、頭までぶってはいないはずだけど」


「大丈夫だよ、ほら、僕は立派な中学生だよ、もう中学校にだって行けるんだよ!」

私は思わず涙ぐんだ。頭の中空っぽなのにからだだけは立派になって!

「でもお前ね…… 制服を着ただけじゃ、中学生になれないんだよ。……仕方がない。その格好で小学校へ行っておいで」

「嫌だ! みんなに馬鹿にされる!」

「行きなさいったら! そして先生に謝るんだよ。『遅刻してごめんなさい』って。お母さんに怒られて、罰として中学校の制服を着せられましたって、そう言いなさい」

「行きたくないいいい、今日は学校お休みするうううう!」

そう言って地団太を踏み、また泣き出した。

「あ゛~~~ん!!」

「このっ、どうして言うことを聞かないのお前は!」


私は馬鹿息子に飛びかかり、学生服の襟首をつかんで引き倒すと、うつ伏せにしたまま首を太腿で挟んだ体勢で押さえ付け、黒いズボンをずり下ろした。こんなもの、こんなもの絶対に履かせたりなんかしない!

そして目に飛び込んでくるのは、ぶよぶよの初老親父の汚い尻。私はこの子が幼稚園を出るまでよくそうしたように尻を容赦なくひっぱたきながら、泣き叫ぶ倅の両足からズボンを引き抜き、頭に被せた。そして、すっかり忘れ去られていた鞭を拾い、両手を後ろ手に縛り上げる。


怪物が出来上がった!


下半身丸出し、頭にズボンを被り上半身だけ中学生のヒキガエル爺! これならばどんなに治安の乱れた国でもサイレンを鳴らしてパトカーが飛んで来るのは必定!

「お母さんの言うことを聞かない罰だ! その格好で学校へお行き!」

「ごめんなさい、学校行くからあ、許して、許してえ!」

また嘘をついて。泣きわめいて言い逃れをすればそれで済むと思っている。その証拠に、情けない下半身の突起物はもう元気になっているじゃない。お前それでどうしたいの?


ひとつ渾身の厚化粧をしてこのまま学校まで引きずって行き、こいつを教室に放り込んで「よくもうちの子をこんなにしてくれたな」と担任を脅し上げてやろうか…… いや、もういい。

この子はこうやって、ろくでもない人間に育つんだ。

そう思うと、無性にこの不出来な息子が愛おしくなってくるのが不思議。私はブーツを脱ぎ、ボンデージの紐を緩める。



私は革のボディスーツを脱ぎ棄て、この子を産んだ時そのままの姿になった。そして、寝転がったまま泣きやまない息子を、ありったけのやさしさを込めて背中から抱き締めてやった。

「ごめんね、お前。お母さんが悪かったんだよ。後でお母さんのおっぱい飲ませてあげるから、泣くのはおよし。いい子だから」

息子の頭から汚れた学生服のズボンを引き抜いてやった。はげあたまから、後頭部のわずかに残った頭髪にかけて撫でてやれば手にはべっとりと脂が付着するがそんなことには頓着せず、さらに後頭部からうなじにかけて頬ずりさえしてやる。

舌を伸ばし、脂ぎった耳の縁をぺろりと舐めてあげれば、脂肪で膨れたからだがピクリと震えた。

その耳に私は熱い息を吹きかけ、囁いた。

「もう学校には行かなくていいから、お母さんの言うことを聞くのよ」


「うん…… 何でも言うこと聞く」

「いい子ね。ご褒美に、おっぱいをあげる」

「本当!?」

俄然、目を輝かせる息子の何とかわいいこと! 私は仰向けになり、学生服の襟をつかんで胸元に引き寄せ、息子が乳首にむしゃぶりつくのに任せる。赤ん坊の無心さで乳首を吸う息子のはげあたまは、この子が生まれた時そのままじゃないの!

「おいしい? かわいい子…… はい、こんどはこっちのおっぱいね」

「うん!」

ああ…… どうしてこんな時、母乳を出してあげられないのだろう…… 無心に乳房を吸うはげあたまを両手で撫で回しながら、目を閉じて陶然となる。もう大丈夫。学校の先生や友達がどんなにお前をいじめても、私が守ってあげるから!

「お母さん、僕もう、おなか一杯!」

「そう? じゃあ、今度はお母さんのお願いを聞いて」

私は両脚をこれでもかとばかりに広げ、息子の前にさらけ出した。目を逸らそうと息子が顔を上げかけても、私は両手でその頭をしっかり押さえ付ける。逃げようったって逃がすもんか。

「さあご覧! ここから、お前が生まれてきたんだよ!」


「嫌だぁ、見たくない!」

「見るの。たくさんおっぱいをあげたんだから、今度はお母さんを喜ばせなさい!」

「ど……どうすればいいの」

「今、お前が見ているものを舐めるんだよ」

「えええ? 汚いよ!」

「自分が生まれてきたところを、汚いって言うのかお前は!」

「だって……」

「まだ文句を言うの? ……それとも学校へ行く?」

「嫌だ……」

「じゃあ言うことを聞く!」

「はい……」

「いい子。代わりにお母さんは、お前のを舐めてあげるから!」


私は後ろ手に縛られた息子の頭を脚の間に挟み、むき出しになっていきり立っている息子の、それはもう逞しい突起物をくわえ込んだ。お母さんの知らないうちに、こんなに立派になって! 私がうれしさとも無念さともつかぬ思いでそれをしゃぶり回せば、息子の舌が、本当に私の秘所に伸びてきた!

え? どこで覚えたのお前そんな! その舌の動きは! 母親である私の陰核を正確に探り当て、表から裏からしゃぶり回すなんて!

この子ときたら…… みんな今、教室で授業を受けているのよ…… なのにお母さんをこんなに…… 気持ちよくさせるなんて…… ひいい……

私は息子の陰茎を口から吐き出し、もはや母親ではない女の喘ぎを喉から絞り出し始める。

「あああっ…… 気持ちいいっ、いいっ…… 本当に、お前は、何って、悪い子……」

「本当? じゃあ、もっと気持ちよくなるように!」

「!」

お、おまえったら! 3年生にもなって足し算引き算もできないおまえが、どうしてこんなことを! でももっと、もっと! もっとお!


私は意識が遠のきそうになる自分をふるい立たせ、少しも硬さを失わない息子の昂ぶりを再び口内に受け入れた。決して歯を立てぬよう、母の愛を込めて。


ああ…… たった今この瞬間、窓の外で尊大に雪を被って澄ましかえっている富士山が火を噴き、たかぶりあう私たちを火山灰の下深く沈めてしまえばよいのに!


そうすれば、ここで繰り広げられる母と息子の交歓は永遠。ポンペイの遺跡さながらに2000年後のあなた方が私たちの化石を発掘し、博物館に陳列するようになれば、ショーケースの中から今のこの様子をあなた方に見せつけることもできる!

そしてあなた方が、好奇心と嫌悪感の入り混じった冷たい眼差しで私たちを鑑賞した後、心の底に言い知れぬ不安を抱えたまま家路につくのは当然。なぜなら私たちは、あなた方が拠って立つ「始まり」と「終わり」の絶対性を揺るがし混沌へと融解させるウロボロス、すでに母でもなく子でもなく、妻でもなく夫でもなく、女と男ですらない、一つの円環へと還元されつつある一対の蛇なのだから!

あなた方が苦しまぎれに、ご自慢の放射性炭素年代測定法を駆使した解析結果を振りかざし「これは2000年前の遺物であるからして」などと言い逃れをしても無駄! 私たちは人類が曙光の中に立った時すでにあなた方の前にいたのであり、どれだけ忘却を積み重ねようと、これから先何度でも、何っ度でもあなた方の前に現れる! そして永遠を勝ち取った私たちから流れ出す混沌が、荒れ狂う大津波となってあなた方の世界を呑み込む日はすぐそこだ。そこなのだ!

そう、すぐそこ! そこ! ああ、富士山がやってくる、窓のすぐ外に、ああ、火を噴く、火を噴いて、噴いてしまうううう!

「ひぃぃぃーーーーーーーっ!!!!」


息子の舌技によって噴火した富士山が私の上に火山灰を降り注いでゆく。頭の中はもうもうとたちこめる火山灰で何も見えなくなり、思い切り頭をのけぞらせた私は、溺れる金魚となって水面上に開いた口を痙攣させ意識を失う。

……あれ。ついさっきまで口にくわえていた、逞しいおまえの昂ぶりが私の前から離れていくのはどうして。そして私の腰から下を熱くとろけさせた何かも、夢まぼろしだったかのように離れていってしまう……

傍らで、誰かがごそごそと動く気配がする。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


私はけだるさの余韻を引きずったままからだを起こし、後頭部に丸くまとめてネットを掛けた髪を整えながら、カーペットの床に正座した。すでに立ち上がっている役員が上半身に羽織っていた学生服を脱ぎ棄て、ベッドを覆い隠していたカーテンを勢いよく開く。私が正座して指示を待っている背後を、ついさっきまで息子だった男が通り過ぎていった。

「シャワー浴びてきます。ベッドで待っててください」

「はい」

私は立ち上がり、脱ぎ散らかしてある女王の衣装と鞭を拾い上げて元通りにクローゼットに収め、学生服は畳んでベッドの下に戻した。さて、目の前にあるのは、いかにもラブホテル御用達という感じの漆黒のビニールで覆われたウォーターベッド。太い柱で支えられた天蓋は見るからに頑丈そうで、その鉄枠からは絶海の孤島の監獄ででも使われていそうな鎖が4本、それぞれの末端に拘束具を付けて吊るされている。なるほどね……


ベッドの上に、四つ折りにしてクリップで止めたペーパーが置いてある。次のステージに向けた注意書きらしいが、クローゼットの時と違って封筒には入っていない。私はそのペーパーを取り、クリップをはずして開いた。

              第3ステージに向けて

  これから第3ステージに入りますが、ここで一点、注意を喚起しておきます。

  第3ステージは心身両面にかなり大きな負担を強いる可能性があります。そのため
  当方としましては、無理を重ねてまで次に進んでいただくのは本意ではありません。
  ここでご辞退なさったとしても、課長面接までの結果は次回まで有効となります。すなわち、
  仮に次年度採用で再度弊社に採用希望を出された場合、役員面接から再スタート可能
  という意味です。

  以上はあくまで仮定の話として申し上げます。

  何ら問題なく第3ステージへ進まれるのであれば、この寝台の上にうつ伏せになって
  お待ちください。

                        人事第2課
                        ソニー

はい。ご趣旨は理解いたしました。私を責め苛むためにご用意くださったであろう、この物々しい諸設備を見れば一目瞭然でございます。次のプレイでハードさが絶頂に達するから、逃げるなら今というわけですか。

それにしても課長面接通過が次年度採用まで有効だなんてどこの国家試験です? 別に役員様のひそかなお愉しみを週刊誌に暴露しようだなんて考えてはいませんけれど。


あの課長はやはりバカなのだ。何も分かっていない。私が社長になったらあんな男は首だ。社として底の浅いところをこれ見よがしに社外にさらけ出すような人間には居てもらいたくない。そもそもこの程度の会社なの?

口止め策なのかどうか知らないが、要するに私は、こんな間抜けな条件を提示される程度の人間に見られていたということだ。

コンプライアンスとかコーポレートガバナンスとか無闇に過敏になる気持ちは分かる。しかし前戯は挿入のためにある。戒律は破るためにある。ケはハレのためにある。ついでに、平和は戦争をするためにあるとでも付け加えようか。泣いて許しを乞うた過ちを、再び繰り返す瞬間の何と甘美であることよ! ふてぶてしくも新聞雑誌が僭称する社会通念とか正義とか知る権利とかも同じ。行き着くところ、最終判断は個々の人間あるいは人間一般に対する信頼によって下されるしかないのだ。この持論だけは絶対に譲る考えはない。

……実はもう、そんなことどうでもいいのだ。

そう、世界に意味なんてない。世界は単にそこにあるだけ。そして歴史とは、意味を捏造する権限の奪い合いの記録。最後に権限を手にしたファシストの横にご満悦で写真に収まるヒキガエルがいたからといって、泣いたり騒いだりするのは醜い。


たとえそれがプレイの一部なのだとしても。


私はベッドにうつ伏せになった。ビニールの表面が尖った乳首に冷たい。私の素肌の下、ビニールと恐らくはウレタン素材を隔てた先で静まり返る水を温めてあげているうちに、足音が近づいてきた。


ローテーブルの上に、蝋燭を3本差した燭台と香炉が置かれる。さっきクローゼットで見かけた極太のピンク色のやつだ。当然プレイで使われるのだろう。蝋燭の火を見ていると、ひと足早くクリスマスが来たような気分になる。香炉で焚かれているのはどうやら東南アジア産の安物らしく、香りはお世辞にも上品とは言えない。

役員は私の足元に回り込んだ。鎖を引き出す音がする。どうやら、ベッドの四隅にも拘束用の鎖が備えられているらしい。獲物を捕らえる触手が無闇に発達したベッドというこの現実。これも進化論が正しかった証明なのだろうか。世の中には、何かの推論を正当化するために現実が後から付いてくるという不思議な現象もあるそうだが。私の愛する男がそう言っていた。

そんなことを考えているうちに、ベッドに備え付けられた鋼鉄の触手が私の足首に伸びてきた。革製の拘束具は私の足首をしっかりととらえる。両脚の拘束が完了すると、主君たるウォーターベッドに忠実な役員様は頭の方へ回り込み、私の両手を広げさせ、両手首をそれぞれ鎖に繋いだ。こうして私は馬鹿でかいベッドを抱え込むように、大の字に繋がれた。

役員はベッドの脇にしゃがみ込んで何かを操作している…… 音からして、ハンドルのようなものを回しているらしい。と、私の四肢は鎖に引っ張られ、これ以上ないほどにまで広げられる! え? ちょっと! これってそういう意味? それはいくら何でも、待って! お待ちになって!


……鎖の緊張は私の手足を限界まで引っ張ったところで止まった。

止まらないのは私の動悸。自分でもはしたないと思うくらいに荒い鼻息が出たり入ったりし、玉の肌にはうっすらと汗が浮かぶ。

私の処刑は執行直前で猶予されたのか? いや……必ずしもそうとは言えないようだ。鞭が風を切る音が聞こえる。役員様は虐待の道具を手にご満悦の様子。

いずれにせよ政権交代は成就された。女王であった私は打ち倒され民衆の前に屈辱的な姿でさらしものにされている、革命万歳! ヒキガエルよ、お前は解放されこの私を好きなようにできる!

揺るぎない執行者の地位を確保したヒキガエルが、四肢を引っ張られ太陽の下で干物にされんばかりの私の傍らに、傲然と立ち上がる。

「一つうかがいます。なぜあなたは裸なのですか」

「それは…… 前にも申し上げましたが、私の、すべてを御社様にお見せいたしたいがためでございます」

ちっ。「前にも申し上げました」? 執行者様の神経を逆撫でしたいという女王の悪い癖がまだ残ってるんだね。面接のトレーニングなら嫌というほど重ねてきたというのに!


「私にはそうは思えません。それは単なるあなたの性癖でしょう? ところ構わずご自分の裸をさらしたいという」

「はい。申し訳ございません。おっしゃる通りです。確かにそれは私の、たいへんに悪い癖なのでございます」

「つまりあなたは、ご自分のからだに相当の自信がお有りということなんでしょうね」

「いいえそんな! このような、お粗末なものを」

「いえいえ、あなたのからだは見事ではないですか。その立派な肉体を誇示する機会を、いつもあなたは窺っているのでしょう?」

「いえ……」

「嘘をつくのもいい加減になさい! それは明らかに、あなたの増長というものです。高慢です。高慢は罪。あなたはその罪を償わなくてはならない! 違いますか?」


「はいおっしゃる通りです! わたくしは誠心誠意、罪を償いとうございます!」

「また心にもないことを!」

鞭がうなりを上げて私の背中を打った。痛みが唇から悲鳴になってほとばしる。苦痛の聖痕が背中に赤く刻まれたのが目に見えるようだ。

今度は尻! 次は肩のあたり! 権力を手にし有頂天のヒキガエル様は、鞭に神聖なる権威を込めて私をめった打ちにする。仕方がない私は権力の座から引きずり降ろされた女王、そして、あらゆる苦痛をこの身に引き受ける覚悟を決めた殉教者! 解放された民衆よ、心ゆくまで私のからだに石つぶてを投げるがよい!

「どうですかあなた! 痛いですか?」

「……いいえ。これでわが身の、罪が清められるのであれば」

「そうですか? ご無理をなさらんでもいいのですよ」

ヒキガエルもとい役員様が、ベッドの上に上がってこられた。天蓋から下がっている鎖を引き下ろし、手首の拘束具を左右それぞれ付け替える。そうやって今度はベッドの頭側にしゃがみ込んで、再びハンドルを回し始めた。


鎖を巻き上げる耳障りな音とともに、私の上半身が持ち上げられていく。脚が……宙に浮いた。 今や斜め約45度の角度で下界を見下ろす磔刑の殉教者、それが私。眼下より私の乳房を、陰毛を見上げおいたわしやと涙する民衆の声が耳に届く。背後で役員の声がする。

「よろしいですか。現時点であなたは社外の方ですから、その美しい容姿に驕り昂ぶっておられてもわが社の利害には何の関係もありません。しかしわが社への入社を希望し、わが社とともに生きていかれたいとお考えなら、この場であなたの増上慢をあなたの中から洗い流す機会を差し上げることもできます。どうなさいますか」

「……はい。私は、希望いたします」

「よろしいのですね?」

「はい、わたくしは自分のぞーじょーまんを、ことごとく洗い流してもらいとうございます!」

「分かりました。では」

私の四肢を繋ぎ止めた鎖が揺れる。役員がベッドに上がってきた。

ヒキガエルが、斜め45度から地上を睥睨する殉教者、すなわち私の背後に回ったかと思うと、窓の外に冬空を見ていた視界が一気に暗転する。耳に紐が掛けられ、これがアイマスクであるのが分かった。次は無遠慮に鼻をつままれ、口に丸く固いものが押し込まれる。口枷をはめられたのだ。

これは…… いかがわしいビデオで虐げられる典型的な奴隷の姿ではないの?


この後は何だろう。ありがちな展開として縄で緊縛されるのだろうか。どうやって自分が虐げられるのか不安に胸をおののかせていると、片脚が拘束具を外されて持ち上げられる。持ち上げられた脚は、膝に近い太腿のあたりが、天蓋から吊るされている別の鎖に結ばれた。そしてもう片方の脚も同じように。


こうして殉教者であった私は、何かに襲いかかろうとするぶざまな蝙蝠(コウモリ)へと進化を遂げた。あるいは鋏を振りかざした前のめりのタラバガニといったところか。


宴席に深海の静寂を運んでくるタラバガニよ! あの沈黙は、心ならずも人間の手にかかったおまえが放つ、せいいっぱいの呪いなのでは? ところで最後にカニを喰ったのはいつだろう。宙吊りにされたカニ料理屋の看板。あれが動いていると心が温かくなるのはなぜ? 動かないあれは、死んで浮いている金魚を眺めているような気分にさせるから嫌……

……取り止めもない妄想が頭を駆けめぐっているうちに、これ以上ないくらいさらけ出された私の尻の穴に手が添えられ、何かつめたく固いものが、

押し込まれてきた! 見えなくても何であるかはもちろん分かる! そして注入されているのは公的資金でもなければ冷却水でもない、そう、たぶん別の液体、これってひょっとしてあれ? そうだきっとあれ! しかもその量ときたら半端ではない! え? まだ止まらないの? ちょっと、私は蝙蝠でもカニでもございません人間です、限界があります、お願いでございます!



止まった…… 一瞬とはいえ、私は暗闇の中で人間ですと哀訴したことを恥じた。ついさっき八つ裂きにされかかった時と同様、動悸が治まらない。汗が全身ににじんでいるのが分かる。そして注入された薬剤の即効性もなかなかのもの。


「そのまま我慢なさい! 私がよいと言うまで」

全能の役員様のお声が! そして薬剤の効力に耐えている私の括約筋をあざ笑うように、鞭が背中を、尻を襲う!

「myareohinyierayaeeeeee~~ーーーー!」

私は役員様の命令と括約筋で栓をされた尻の穴とは裏腹に、枷をはめられた口の両端から訳の分からない悲鳴とともによだれを噴出させた。ここで耐えなければ! 内定がふいになってしまうのよ!

でも、でも、でも! わたしのなかは、もういっぱい! このまんまだとはれつしてしまう! はれつしたらどうなるの?


……きっと警察がやってきて現場検証し、糞まみれで破裂した私の破片を刑事たちが、鼻と口をハンカチで押さえながら痛ましげに見下ろすのだ。そして半径10メートルに汚物を撒き散らしスイートルームを台無しにした損害賠償はどこに請求されるの? 御社様に?


いいえそれはあってはならない私は糞を瀬戸際で防ぎ止める防波堤、何があろうとも私はここを死守いたします御社様! え、でも駄目、もう無理もう無理もう無理、ほんと、駄目です破裂する死ぬ死ぬ死ぬ!


「そうだわが社をどうするつもりだこの糞女!」


とどめの一撃がわたしの! 下腹を直撃した。ちょうど剛毛と臍の間あたりを。もう手遅れ。わたくしめのにくたいは、これを事実上のGOサインと判断。受難は終わったのよ!!

「huvmehmhehinyarueeeee~~ーーーーーー!」

肛門から噴き出した糞の奔流が、金盥を打つ音が聞こえる! いつの間にか肛門直下に用意されていた神聖にして安っぽい金盥を!

きっと遠い昔の卑賤な女たちが、路地裏で洗濯に使っていたに違いない聖なる金盥! そこに今、私の糞が滔滔と! 私の尻や腿にも飛沫がかかり自分の糞の海に沈む心地で、私は口枷の奥からよろこびの叫びを上げる!

愛する人よ私はとうとうやり遂げた! 一線を踏み越えたのだ! 遂に私は肛門から糞を噴射して飛ぶ蝙蝠となり、にんげんとの境を越えた! 彼の力強く頷く顔が見える。

そうだ。


……私、すなわち尻から糞を噴射して飛ぶ蝙蝠は、あなた方が一人残らず寝静まったころにあなたの街に来襲する。そして私が尻から放つにおい立てる糞は神の裁きのように、絨毯爆撃の要領であなたの屋根と言わず庭と言わず降りかかるのだ。


逃れようとしても無駄。今日あなたの街が災いを免れたとしても、明日はあなたの上空に現れるのだから。あなたが地獄の悪臭に悔い改め、ようやく私の愛する人に救いを求めた時、裁きは下される。


私には彼の先触れとなれるだけの理由がある!

なぜなら私は、至高の女王にも最下層で虐げられる雌奴隷にも瞬時にスイッチできる全方位に死角なしの完璧な女子大生、そして文句のつけようがない英語のネイティブスピーカーでありTOEIC970点、すでに行政書士を取得し公認会計士試験の合格が射程に入っている私には、画面の向こうでたった今「死角なし」と聞いて思い当たった死ぬほどつまらない駄洒落に悦に入っているおまえの、地獄の火で焼かれるさまが目に浮かぶ! その時が来てから「貪りの為すところのことは我等悔いし魂の罪を浄むるさまにあらはる」などと場違いな寝言をほざいても手遅れなのだよ、おまえ!


そしてより流動性の高い第2波が、北米にある観光名所の滝にも似た音を立てて金盥に! このままでは本当に、私自身を源とする緑褐色の洪水があふれ出てこの街の至るところに降り注ぐのではないの?


……いや、終わったようだ。私の肛門は最後の飛沫とともに純粋なガスを噴射して…… 正確にはもう一度、地上の重力に疲れ果て海を恋しがる巨大哺乳類にも似た咆哮を一閃し、今度こそ本当に収束した。


「どうです、今の気持ちは」

「hfahyenmyo、nienyuae……」

「ぜんっぜん分からないっ!」

役員様の鞭が! うなりを上げ糞で汚れた私の尻を打った。おねがいもう一度、このいけない尻をひっぱたいてくださいませ! 浄化された私の下腹部は前よりもずっと、快い響きであなた様のお仕置きに応えるはずでございます!

「まだまだ、もっとだ!」

鞭が今度は、蛇のように私の背中を這い、遠心力をみなぎらせたその先端が正確に乳首の先をヒットした瞬間、私は口枷の脇から泡を噴いて咆哮した。

「gniermyovwaraeiiiii~~~!!!」


私は私のヴィジョンの中で目のあたりにした、鞭の先端が蛇さながらに噛んだその乳首から、純白の乳がほとばしり、この世界に投網のように広がっていくのを! 


私の乳房から噴出する乳、それは愛する男が絞り出す蜜と渾然一体となって砂漠をうるおし不毛の土地を沃野に変え、2000年後のあなた方を歓喜のうちに溺れさせることも可能! あ、遠心力を習得した背中を這う蛇──鞭の先端──が、もうひとつの乳首を打ち、私はたちまち、よろこびに乳房を震わせそちらからも純白の豊饒をほとばしらせる! 暗闇の中の私のヴィジョンははっきりと、自分の起こした奇跡を捉えている! そして大きく広げられた私の女陰からは、慈愛の雨がしずかに地上へと降り注ぎ始める……


私は世界の初めの神話。蛇を背に負い咆哮し、世界を豊饒で覆い尽くす蝙蝠!


……役員さまが、私の尻と、太腿をタオルで拭っておられる。そんな勿体ない…… などと恐れ入るのは見当違いか。私は聖別された生きながらの神話なのだから。あ、…… 手首が後ろの方へ引っ張られる。鎖を天蓋に繋いでいる部分がレール上を移動しているようだ。今度は何? 天地が反転して私は仰向けになってしまったのですが。

私は呼吸するために唯一保全された鼻の穴から空気を大きく吸い込む。……うう、くさい。自分の糞の臭い。金盥はいまだ撤去されておらず私は自分のぶちまけた汚物の上に浮いているらしい。安っぽい香の煙など何の効き目も上げられないほど臭いたてる自分の糞。役員様がベッドから降りた気配がする。またハンドルを回しているようだ。

両脚が持ち上げられて…… 両手は万歳。私は透明な分娩台に仰臥する妊婦。そして何が嬉しくて万歳しているのかよく分からない。

お医者様が私の股間にうずくまり生命の神秘を実演なさるのを私は待つのだろうか? いやそんなことはなかった!


ポピュラーかつプリミティブな責め具でありながら存在を忘れ去られかけていたあのピンクの極太蝋燭、ついにその出番がやってきた! おめでとう! 今私の、浄化されたばかりの腹部に滴り落ちている! 目隠しされた状態の私に、熱い滴は容赦なくランダムに降り注ぐ。苦悶に身をよじっていると、微かなモーター音が…… あ、やはり、電動器具様が私の女陰に押し入ってきた!

「hnyaenhyae!」

しかも先刻のやつと違う、そうか真打ち登場か! 竿の全面をイボ状の突起が覆っていてそいつがクネクネと動くからどんな貞淑な聖女でもこれには征服されずにいない! あ…… 役員様が出し入れを始められた……

「hnyunyunyunnnnnnnnnn~~~!!」

私は宙に浮いた腰を振って器具様に応える。あ、蝋が! わたくしの、乳首に! ああ焼かれてゆく私の乳首! ありったけの白き豊饒を噴出させて世界をうるおした聖なるちくびも、役目を終えた今は焼かれるばかり、それが聖女の宿命、現に私は女陰を赤熱した回転串に貫かれ火焙りにされている!

でもいいのそれで、消し炭となった串刺しの私は聖遺物として長きにわたり遠路よりの礼拝者を集めるはず、ですからもっと私を焼いて! 淫らな性感が凝り固まったこの罪深い乳首と女陰を、御社様の浄火で焼き尽くしてくださいませ!


でも、でも、私を貫いている回転串はその熱さを増すばかり、ほんとに私を内側から焼いてしまうの? ひいい! なんてすごいのこれ! またこしがまわる! ひとりでにま、まわってしまう、ほんとに!

そうなのですこの回転串と御社様と蝋燭は三位一体、私を内と外から焼き上げて…… あ、あ、すごいこれ、ほんとに焼ける、目から火花が飛んでますわたし、死ぬ、ほんとに死んじゃいます!

「nggggiiiiiiiiii~~ーー───!!」

口枷の両脇からまたも泡を吹いて私は死んだ。……のけぞってぶら下がった私の頭からアイマスクが外される。そして口枷も。三日後を待たずに復活を遂げた私は口で荒い呼吸を繰り返してから、ゆっくり目を開いて周囲を眺めた。

私がありったけの糞をぶちまけた金盥はない。だが臭いが残ってることからすると、ベッドの下にでも片づけられたのか。役員様が脚の拘束具をはずす。

「両手で鎖につかまっててください」

役員様がそうおっしゃった時すでに私の右手は鎖をつかんでいた。両手の枷も外され、拘束を解かれた私はその位置でウォーターベッドの上に正座した。


すると? 役員様が私の背後に回り、太腿の下に手をお回しになった。そして私を横倒しにし、首と膝の裏に手を回して? 抱き上げた、幼い少女にするみたいに。顔が熱くなる、きっと女子中学生のように顔を赤くしている……

そう、私はそのままシャワールームへ運ばれたのです。そうして、役員様ご自身の手でわたしの髪を解かれ、頭から湯を掛けられた上に、役員様手ずから、石鹸を付けたスポンジでわたくしのからだをきよめてくださるとは、なんという果報。

しずかな幸せにわたしは全身をひたされる思い……

そして…… からだの隅から隅まで綺麗にしてくだすった後、タオルでしずくを丹念に拭い、髪にはドライヤーまでかけていただいた。夢心地の私は、再び役員さまの御懐に抱き上げられ、ベッドまで運ばれる。こんな大きな女を軽々とお運びになる役員さまのお顔をその腕の中から見上げれば、なんと神々しい……


役員さまが、ベッドの上に雄々しく立ち上がられた。私はその正面に正座し、両手を後ろに回して、役員さまのお言葉おふるまいをお待ち申し上げた。


「いいですか。これで本日の仕上げとなります。座ったまま私と同じようになさい」

仁王立ちの役員さまは合掌した両手を、天高く突き上げられた…… 私も正座の姿勢のまま、同じように両手を天へ突き出し、役員さまに倣って目を閉じる。

「復唱なさい! この身があるは、これすべて〄△※×社のため!」

「この身があるは、これすべて〄△※×社のため!」

「永遠なる〄△※×社に私はこの身と魂を捧げる!」

「永遠なる〄△※×社に私はこの身と魂を捧げる!」

「〄△※×社に仇為す者たちに災いを!」

「〄△※×社に仇為す者たちに災いを!」

「……結構です」


瞼を開く。役員さまの手が静かに下ろされ、胸の前で合掌する姿勢を取った。私が同じような姿勢でいると、役員さまから指示が与えられた。

「両手を後ろに回して」

役員さまが私の前に歩み寄ってこられた。その、雄々しい昂ぶりが私の目の前でそり返っておられる。私はうっとりとそれを眺め、御社さま、役員さまとまさに三位一体であるその、御神木さまに思う存分なぶっていただくことだけを念じ、またも、自分の女自身がうるおっていく。

「これを慈しみなさい。あなたのこころが命じるままに」

「はい」

私は伏し目がちに応え、それに舌を伸ばした。舌先を、小刻みに熱く躍動するその先端の下から上へと這わせてから、首を伸ばして口に含む。きつくなりすぎぬようまた歯が当たらぬよう、その滑らかな部分を慈しんでから、わずかに膝を進め、口いっぱいに頬張った。


先端が喉に当たる。なみだとはなみずをたれながして、むせるのを我慢する、でも構わない。ありったけの唾液で、御神木さまをきよめてさしあげる、それが私の役目。……まだしめり気の残る私のみだれ髪に役員さまの手が触れたのを合図に、私はすっかり硬くなった御神木さまを…… お戻ししてさしあげた。

「これを自分で自分の中に入れるのです」

「……はい」

役員さまが横になられた。私は大きく脚を広げ、しゃがみ込み、御神木さまの上へ自分自身を沈めてゆく。ああ御神木さまが熱くぬれたわたしの入口に触れる…… 私は歯を食いしばって圧迫感に耐える。……全部入った。ぜんぶ。私は大きく息を吐く。そして役員さまの目をひたと見る。

これより、つたないながらせいいっぱいの奉仕をいたしますゆえご笑納を。こころにそう念じてわたしは、腰を動かし始める。


先端が喉に当たる。なみだとはなみずをたれながして、むせるのを我慢する、でも構わない。ありったけの唾液で、御神木さまをきよめてさしあげる、それが私の役目。……まだしめり気の残る私のみだれ髪に役員さまの手が触れたのを合図に、私はすっかり硬くなった御神木さまを…… お戻ししてさしあげた。

「これを自分で自分の中に入れるのです」

「……はい」

役員さまが横になられた。私は大きく脚を広げ、しゃがみ込み、御神木さまの上へ自分自身を沈めてゆく。ああ御神木さまが熱くぬれたわたしの入口に触れる…… 私は歯を食いしばって圧迫感に耐える。……全部入った。ぜんぶ。私は大きく息を吐く。そして役員さまの目をひたと見る。

これより、つたないながらせいいっぱいの奉仕をいたしますゆえご笑納を。こころにそう念じてわたしは、腰を動かし始める。


「いいかよく聞け」

「……はいっ」

「今日からお前はわが社の所有物だ。本日より、この会社を『わが社』と呼ぶことを許す」

「! ありがとうございます!」

「お前用に営業本部ファシリテーターの名刺を作らせておく。だがこれは絶対に口外するな。学校に行った時はアルバイトだとでも言っとけ」

「はい、いっ、い」

「現段階ではまだ内々定だ。来年の5月までに、そのからだ使って契約取りまくれ。よほどのことがなけりゃ来年秋に内定は出すが、もし5月まで成約ゼロだったりしてみろ。お前の将来は暗いものになる。それだけは忘れるな」

「はい、決して! う!」

はい、ち、誓います、必ずや成約を! 私は腰を回し前後に反復させて御神木さまの硬さを、御社さまもといわが社の命令の絶対を、このからだに刻み込むのです、ああ、熱くてしなやかで剛直なる御神木さま。わたくしめが絞り出す養液をご存分に吸収なさって、さらに大きく、逞しくなってくださいませ!


……それにしてもなんという私の、欲望の奥深さ、つみぶかさ。まるで下腹の奥からとめどもなく沸き上がってくるかのよう。髪をふりみだし、男の上で腰をみだらに振る姿は、まさしく是れ法器に非ず。いっそ、このひかり輝く背中いちめんに「非是法器」と刺青を刻み、来世の私が初潮を迎えた時、再び浮かび上がってしまうほどであればよいものを!


あるいはこの際、仏門に入ってしまうというのは? ああ、愛するハムレットから「尼寺へ行け」と告げられたオフィーリア! すっぱりと頭を丸めて、この禍々しいからだを墨染めの衣の下に押し包み一心不乱に念仏なり題目なり何なりを唱え、からだの奥にもえさかる火をひたすらひたすら、鎮め衰えさせる日々を送る! そのように想像しただけで胸の底があやしく立ちさわぐのではあるが、それっていったい何のため? 


そうなのだ、たとえ私の周囲に紙の障子や襖で何重もの壁を築いても無駄! だって夜ごとになきさけぶわたしのからだはいやおうなしに、その壁の外にあるものを招き寄せるんだもの、そして陰茎をふるい立たせた雄牛がそんな壁などいとも簡単に突き破ってみほとけに仕えるわたしの庵室に乱入し、またもやわたしを雌牛のよろこびへと引きずり落とすのは必定! おお、この三千世界にあってみほとけの大慈大悲も、こうしてみだらに腰をふるわたくしの、つみぶかさをすくうことはけっしてできませぬゆえに!


ほんとに、ほんとに、あぁぁぁ…… どうかおゆるしを!


あ、役員さまの手がわたしの脇腹に伸びてきて、わたしをご自身の方へ引き寄せられた。


ヒキガエルいえ、尊いみほとけにも似た役員さまの御顔がわたしの前に! そしてわたしは役員さまの舌を口に受け入れ、存分に自分の舌と絡ませるのでございます。顔にかかる役員さまの鼻息、私が役員さまの顔にお掛けする自分の鼻息。ああ、御神木さまが、ご自分で動き始められた! ので、わたしは思わず顔をのけぞらせてうめき声をあげてしまうのです!

「ひいいいい!」

亀のように上を向いてしまった私の頭を、役員さまがその、逞しい両腕で押さえ付け、ご自身の頭の横へ引き寄せられました。役員さまの胸板の上で押し潰される私の、熱く尖った乳首。そして決して休むことなく、わたくしの中に突き込んでこられる、熱くて硬くていとしい御神木さま…… あああ、押さえ付けられうめき声を上げる私の耳に役員さまの息がかかり、お声が聞こえてまいります。

「いいかお前は家畜だ。雌牛なんだ。人間だなんて思い上がるんじゃねえぞ。いいな」

「はぁ…ぃっ、いいい!」

「それで、こうやって、こうやってだな、契約取るんだ。怠けたらぶっ殺して解体して肉屋に売るぞ。分かったかこら」

「※○Sω▼×★☆☆★!!」


そうですわたしは雌牛です、売られてゆくのです、わたしはガレー船に積まれて異国へと出荷される家畜、甲板の上で太陽神たるわが社さまに感謝の鳴き声を捧げているその、板子1枚隔てた下ではわたしの愛する男が鎖に繋がれオールを漕いでいるのでございます、そうしている間にも絶え間なく御神木さまが、あ、そんなにも早くなって、わたくしの女陰をお打ちになり、雌牛のなきごえをあげさせるのです!


太陽の下で御神木さまに突きまくられるわたくしのなきごえが、鎖に繋がれたいとしい漕ぎ手のおとこの耳にもとどきますように! もうなにがなんだか、きがとおくなって、ひいいい、もうだめ!


「それでだ、お前がこの先どこかの出来損ないの雄牛とつがって子牛を産んだって、それはわが社の物だ、所有物だ、忘れるんじゃねえぞこら!」


「はひひひひぃぃぃぃーーーーー!」


きぜつするまぎわに、やくいんさまがからだをいれかえられた! こっ、これは、なんという…… やくいんさまがわたくしのやわらかいからだを、これでもかとおりまげて、てんにむかってわたくしの××××をさらけだされた! そしてうえから、ごしんぼくを、ずぶりとつきこんでこられまして!


あああ、ほんとうに、きもちがよい、おくのほうに、やくいんさまの、いえわがしゃさまのごしんたいがずんずんと! ひいい、わたしはとめどもなく、しぶきをまきちらしてそこらじゅうを、ぬらしてしまいますもうしわけございません! ごしん、ぼくさま、が、わたしのなかをでたり、はいぃぃったりするたんびに、ずぶっ、ずぶっ、と、わたしの××××は、はしたないおとを、おきかせいたします! ひいいい、おゆるしください、わがしゃさまのりっぱな、こだからを、このからだになかにはらみますゆえ!

「あああ、いい、いい、ぃぃぃぃ……」

「白目ひんむいてるぞ。気持ち悪いくらいの変態だな。いくら何でもここで死ぬんじゃないぞ」


いいえわたしはしぬしぬ、しぬのですここで、ごしんぼくさまがわたくしのなかに、とうといたねをそそぎこんでいただければわたくしは、こだからをわがしゃさまにさしあげ、このばにありったけのおちちをしぼりだし、しかるのち、ぢごくのひでやかれほろびるうんめいなのでございます! それでほんもー、なぜなら、ぢごくはもうすぐそこ、そこなのですから! あ、こんどは、どうなさるのですか?


あ、あ、まつば、くずし、でございますね! てんをつく、みがきあげられたわたくしの、あし! そうやってごしんぼくさまがふたたび、××××にずぶり、ひぃぃ! も、もうほんとにごかんべん、しぬまえに、わたくしくるってしまう、ひいいい、だめ、ほんと、お×××のなか、とけてながれてどこかいっちゃう、ですので、はやく、わたくしに、こだからをおさずけくださる、★@ЦШЖГー~、こだねをわたくしの、しきゅうめがけて、そそぎこんでくださりませ!

「これで終わりだ、くらいやがれ!」

「!!!!!!!!!!!~~~ーーーーー!!」

大量の御精水をそそぎこまれたしゅんかんに、またしてもわたしは、しんでしまいました!


沖の方へ流されていくわたしの死体を拾い上げてくださるのは、やはり光背を負われた役員さま。ありがたきしあわせ。わたくしが余韻にひたって波間を漂っておりますると、どこかから尊い、お声が、

「いつまでマグロみたいに転がってる? シャワー浴びてきなさい!」

はい仰せのとおりに! 恍惚にとろけきったわたくしは、とろけきったまなざしをやくいんさまにひたとそそぎながら、ベッドのうえにひざをそろえ、りょうてをなげだして平伏の姿勢をとりました。そしてもうしあげました。

「ありがたいものをわたくしにお与え下さり、心底よりの御礼を申し上げます。本日よりこのからだは、爪の先、髪の芯にいたるまで、〄△※×社のものでございます」

おそるおそるわたしは、かおをあげたのですが、役員さまは横を向いたまま。

ヒキガエル様は今ようやく賢者様におなりあそばされ、これより下々の者に人の道を説いて回られるのです。汚らわしい雌奴隷はお退がりなさい。はい。けがらわしいめすどれいたるわたくしは、賢者さまが人の道を説いて回られるのを決して妨げぬよう、賢者さまのお目のとどかぬところへさがらせていただきます。

こうしてわたしは「失礼いたします」ともうしあげてベッドをはなれ、シャワー室へとむかったのでございました。



窓の外はもう宵闇。……さすがに疲れた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


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私と役員は銀座へ出て、一目で高級と分かる寿司屋に入った。見るからにお行儀のよさそうな客たちが席を半分ほど占め、お行儀のよい笑顔でお行儀のよい会話を交わしている様は、見るからに忘年会会場からの難民といった風情だった。ヒキガエルと私は彼らの目にどう映っていただろう。恐らくは悪いヒキガエルとさらわれてきた姫君、もしくは愛人とその金づる。親子連れに見えないのだけは確かだったはず。

ヒキガエルは自分名義で入れてあるマムシ酒のボトルを下ろさせ、それがいかに精力増進に効果があるかひとしきり並べ立ててから私に勧めた。私はヒキガエルがマムシ酒を愛飲する現実に世界の不思議を見る思いがしたが、私に注がれた分はカットグラス半分ぐらいで辟易しそれ以上求めなかった。役員はそんな私の様子を知らぬげに上機嫌でマムシ酒をあおり、大トロやウニを次々に頼んで盛大に平らげた。

私は干瓢巻きとネギトロ、エンガワを頼むだけにとどめ、特にエンガワは放置して干からびていくままにした。理由はただ一つ、それが就活といういわば罰ゲームの現場だからである。実際、ヒキガエルは遠慮するなとももっと喰えとも一言も言わなかった。これだけコスト意識が厳格だからこそ役員にまで上り詰めたのかもしれない。


ヒキガエルはさすがに3発抜いたのが体にこたえているのか、酔いの回りは早いようで、表情に締まりがなくなり饒舌になった。私に向かっては「即戦力と言っていい」「近年稀に見る逸材との評価は妥当だ」などと歯の浮くような言葉を並べ立て、一方では盛んに幹部社員をこきおろした。


このヒキガエルに言わせると、幹部社員はほぼ全員バカで人間以下の存在であるらしい。個人的に部下の処分が済んだ後は、自分の来歴を語りだした。ほとんどの話は退屈だった。北欧某支店での仕事の半分は下半身接待だったとか、有名オペラ座のチケットを入手するのにどんな裏技を使ったとか、どこそこのレストランは美味いとか不味いとか。私は私で、まだ面接が終わったとは考えずに真剣な表情で聞き役に徹し、余計な言葉は差し挟まなかった。私は、使用済みの肉便器である立場もわきまえず、賢者モードに入っている男の神経をくだらない言葉で逆撫でするバカではない。酒席のヒキガエルを有頂天にさせるだけのスキルを身に付けるには、まだまだ時間がかかるのだ。


時間が経つにつれ、役員の顔は脂でてらてら光り始めた。その顔でマグロの大トロを口に運ぶ。大トロを喰えるヒキガエル様の名誉に祝福を! もしかしたら、大トロ喰いたさにはるかな海まで足を伸ばし、海中深く潜って逆にマグロの餌になるヒキガエルもいるのだろうか。いたとしても、それは私には何の関係もないこと。私はそんなヒキガエルには会ったこともないし、これからも会うことはない。


目の前のヒキガエルが喰ってるのは既に釣り上げられたマグロなのであって、不幸にも不味いヒキガエルを喰わされたマグロは…… 今も海のどこかを泳いでいるだろう。ヒキガエルなんぞを喰わされたマグロはきっと味が落ちるに違いないとは思うが。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


私たちはスイートルームに戻った。先刻私がたっぷりと放出したかぐわしい糞の臭いは完全に消えていた。誰がいつの間にどうやって処理したか想像もつかないが、やはり金があれば何でもできるというのは本当だ。そしてマムシ酒と大トロで精力を回復したヒキガエルは再び私のからだに挑み懸かり、恐らくは今宵最後の精液を私の子宮目掛けて放った後、シャワーを浴びることも許さず私をその場から叩き出した。


安淫売よろしく豪奢なスイートルームを追われた私は、ヒキガエルの精液が内腿を伝い落ちるのに為す術もないまま、ワゴンを押してきたボーイの視界から逃れるようにその階のトイレに駆け込んだ。そしてあたふたと便器にしゃがみ込み、両生類の汚らわしい精液を洗い流す。

私の糞の臭いが完璧に駆逐されたあの豪奢な部屋で、今頃ヒキガエルは大いびきをかいているだろう。御苦労さま。

どれほどヒキガエルと性交して膣内に射精されたからといって、私の愛しい男が髪の毛一筋ほどにも気に留めないのは当然。だって私は両生類ではなくにんげんなのだから。むしろ私のからだは防波堤であり、ヒキガエルの精液が津波となって押し寄せてきたなら全身で受け止め、彼を汚さないようにしてあげる。そうやって私はこの世界で唯一価値のあるものを守るのである。

トイレを出てからホテルを出るまで、お仕事を終えた安淫売そして営業本部長直属ファシリテーターの発令を受けたばかりの私は、伏し目がちにフロントの視線を避け、他の宿泊客の視線を避けひたすら足を早めた。玄関の回転ドアを通過し寒空の下に頭を突っ込んだその瞬間に、バッグから携帯を引っかき出す。そして何をうろたえてかそれを落としてしまう。壊れたら大変!

でも壊れてなかった。彼への短縮ダイヤルはすぐにつながる。だが…… 相手は電話に出ない。きっと実験中なのだろう。私はため息をつき、そのまま駅を目指した。


そして──。


一週間後に出社した私は名刺と携帯を渡され、IDカード用の顔写真を撮影した後、担当する仕事について取締役営業本部長から説明を受けた。私が担当するのは主に大口案件の最終仕上げだ。ファシリテーターという耳慣れない肩書の意味するところは、要するに接待役、「おもてなし」をする人間である。そう、お・も・て・な・し。それもとびっきり濃厚なやつを。


後日聞いた話では、営業2課にいたやり手の正社員が退職したため、私はその補充要員と目されていたらしい。この女性がある有力代議士の秘書として引き抜かれたことは部内で相当問題になったらしく、業務上の管理を強化する目的で営業本部長直属に改めたのだとも聞いた。


そして年明け早々に社用の携帯が鳴り、私は横浜のホテルに出向いて最初の案件を処理した。ヒキガエル役員よりずっと手のかからない男だったのは幸いだ。そしてこの件は3日後に成約に漕ぎ付け、私はヒキガエルから散々脅されていた最初の関門を難なくクリアした。役員面接の日から数えて…… ようやく3週間といったところだ。


成約の翌日、私は営業本部長に誘われて食事し、窓から東京タワーの見えるホテルでご奉仕をした。ヒキガエルよりは歳の若いこの男が淡白に感じられたのは、さすがに爺どものお相手に食傷気味になっていたせいなのだろうか。見た目はヒキガエルより数段上ではあったのだけれども。


一方で、私の恋人との間柄は特段の変化もなかった。ただ、彼の様子が少しずつ変わり始めた。食が細くなり、見るからにげっそりして、本人も最近は寝つきがよくないと漏らす。反面、以前よりずっと激しく私を求めるようになったのは、それはそれでうれしい。仕事で無理しすぎではないかと一応は言ってはみるが、耳に入れるような彼ではない。外見とは裏腹に彼自身は充実しているのだと思う。その証拠に、年が明けてからその目だけは異様に輝きを増してきた気がする。


そんな彼には、私をもっともっと求めてほしい。のだけれど、どれほど波打ち際で悶えて見せたところで、彼は最初から決めた通りにその場を離れていく。自分を待っているもののところへ。


話を戻そう。最初の案件を処理すると、矢継ぎ早に次の業務命令が下った。これも難なくやり遂げ、成約に至った。そして5日後には3件目の指示が来た。私の給与は完全出来高制で、成約ごとに成功報酬として一般の大学生が聞いたら腰を抜かすような金額が口座に振り込まれる。最初の成約で明細票を見て思わず人事2課長のところへ飛んでいき、これは間違いではないのかと尋ねてしまった時、彼はにこにこ笑いながら頷いて私を安心させた。のみならず、私が課長面接で名前を出した大学の先輩(営業1課長代理)が2月1日付で某県の支店に転出すると耳打ちしてくれたのは、決して要らぬご親切ではなかった。


ところが残念なことに、この人事2課長の様子が2月に入って目に見えて変わった。社内で擦れ違った時、私の挨拶に軽く会釈を返したその顔は目が完全に死んでいた。そして強烈な酒の匂い。さらに私が目にしたのは、まるで西暦1945年8月15日の昼下がりにどこからともなく金槌を打つ音が聞こえてしまったかのような、陰惨な作り笑顔だった。


こういう表情を私はかつて討伐した男たちの多くに見てきたが、今度ばかりは私には身に覚えがない。ということは、誰か別のファム・ファタールの手に掛かったのか。それが誰だったのか興味をそそられるとしても、無闇に詮索したいとも思わなかった。


別に男として興味があるわけではなし。このまましおれるのか、死んだ目をひんむいてゾンビのように立ち上がるのか。そんなこと私にはどうでもいい。


一方私は、いくら結果を出しているからといって、スケジュールを際限もなく詰め込まれるのが悩みの種になっていた。学生の身でもあるし勉強しなければ、目指している資格の取得はおろか卒業まで覚束なくなる。


私は坂道を転げ落ちていっているご様子のソニー課長を避け、女主任に相談した。この女性は気さくないい人だ。業務命令を拒否した場合の内定取り消しもちらつかされたと打ち明けると、自分が何とかしてみると言ってくれた。そのおかげか、2月後半に扱った仕事は1件だけで済んだ。


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……そして今は3月。私は大学の図書館で、在学中の公認会計士試験合格を目指して関係法令の知識を頭に詰め込んでいる。寒気も緩んできて、暖房が少し暑いくらい。最後に出社したのはもう半月前、その時分はまだ大分寒かった。卒業後に関して後顧の憂いは無くなっているはずなのに、内定確実に漕ぎ付けているという実感がどうも湧かない…… そんな思いにとらわれた瞬間、社用の携帯が鳴った。


私は図書館の外に走り出て、春の日差しを浴びながら営業本部の指示を聞く。本日午後9時。Bホテル。了解しました。業務命令はいつもこんな調子。大半は当日言い渡しで、良くてもせいぜい前日。大阪に出張を命じられた時でさえ前日だった。これでは授業などとの調整が容易ではないので、連絡はせめて5日前くらいにもらえないかと思うが、様々な事情でそうはいかないらしい。


でも、この日の業務命令はそんなに悪い気がしなかった。もう冬ではない、暖かな日差しのせいなのだろうか。すでに桜の蕾も膨らみ始め、花粉が盛んに舞っている。傍らを通り過ぎる若い男女の顔色も心なしか華やいでいるように見える。


やがて春本番になり、そして生命の横溢する季節が訪れる。その時には多分……


私の未来はより確かなものになっているだろう。


夜、私はBホテルのエレベーターの中にいた。ここは都内で最高級クラスのホテルであり、私が向かうのはそのスイートルーム。無人の通路を歩き、目指す場所のドアを開ける。間接照明のみの室内。ダブルベッドには白髪頭の赤ん坊がおしゃぶりをくわえ全裸でちぢこまっている。これは面倒な案件だ…… 私はダブルベッドに歩み寄り、自分のコートをその赤子の素肌に直接掛けてあげた。


春はもうすぐそこ。そう、すぐそこなのだ。


終わり


ありがとうございました。

シガンシナ内門前で鎧を迎え撃ち、
一歩も退くことなく玉砕したフーゴ駐屯兵に捧げます。

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