京子「ゴメン…」結衣「…」(118)
中学三年、冬――――
京子「あーコミケ終わったー」
「原稿ぎりぎりだったなぁ~…」
結衣「…ちゃんと勉強やってるのか?」
京子「大丈夫大丈夫、ちゃんとやってるってー」
結衣(これはやってないな…)
「一応私たち受験生なんだからさ」
「ちゃんと勉強しなきゃダメだぞ」
京子「分かってるって!」
結衣「…」
「本当に大丈夫かな…」
京子「ラムレ買いに行こー!」
結衣「しょうがないな、あと1問だけやったら付き合ってやるよ」
京子「さっすが結衣~!」
「話が分かるねぇ」
結衣「ったく、調子のいい奴」
―――――――――――
京子「おっす、結衣ー」
結衣「お…結果どうだった?」
京子「そりゃ勿論受かったよ~」
「私が落ちるわけないじゃん?」
結衣「っていっても、これは私立だろ?」
「本番はあと2か月後だぞ」
京子「まぁ、本番も大丈夫だって!」
「だって私立ヨユーで受かっちゃったんだよ!」
結衣「私立は大目に人をとるからな…」
「ここで調子に乗って勉強しないなんてことになるなよ」
京子「ふっふん、最後まで抜かりないのが私だよ」
結衣「…ま、とりあえずおめでとう」
「ラムレーズン買っておいたぞ」
京子「おー!さすが、私の言いたいことが分かってるねー」
結衣「何年一緒だったと思ってるんだよ」
京子「へへへ~」
――――――――
京子「んー…やる気起きないな」
京子「あっ、そういえば…」
「昨日漫画買っておいたんだった♪」
京子「~♪」
京子「ぷっ、あはははっ、バッカでー」
京子「ん~」
京子「はぁ、面白かった」
京子「おっと、勉強は…」
京子「…」
京子「まぁ、いいか」
(明日ちゃんとやるから大丈夫)
京子(…何なら、一夜漬けでも行けたりして…)
京子(…)
京子「それはさすがにまずいよなー」
京子「とりあえず今日は寝よう…」
―――――――――
京子「おはよう結衣ー」
結衣「おはよう…」
「昨日は夜更かししてないだろうな」
京子「ふっふ、珍しいことに、10時半にはちゃんと寝ました」
結衣「そっか、ならいいんだけどさ」
京子「今回は(まぁまぁ)勉強したから~」
「私立よりもヨユーで受かっちゃいますよ!」
結衣「お前、フラグじゃないのか、それ」
京子「そ、そんなことないしー!」
結衣「あははっ、冗談だって」
「ほら、行こう」
京子「あっ!」
結衣「どした?」
京子「受験票忘れた!」
結衣「えぇっ!?」
京子「なんてのは冗談でー」
結衣「…」
「…お前」
京子「す、スンマセン…」
結衣「ほんと、タチの悪い冗談はやめろよな」
「縁起でもない」
京子「へへへ…」
「すこしでも緊張がほぐれるかな~なんて」
結衣「逆にドキドキしたって」
京子「申し訳ねぇ…」
結衣「まぁ、いいや」
「ほら、行くぞ」
京子「おう!」
結衣「…」
―――――――――――
「では、チャイムが鳴ったらはじめてください」
キーンコーンカーンコーン
「はじめっ!」
バサ、カランッ
バサバサッ
結衣「…」
「ん…」
京子「…」
「っと…ここは」
京子「…えっと…」
京子(アレ…何だっけ)
京子(えっ…と…)
京子(やばい、思い出せない)
チッ…チッ…チッ…
京子(えっと、えっと…っ)
京子(何だっけ…どうやって…解くんだっけ)
カリカリカリ…ガサッ
ガサガサッ
京子(みんな…どんどん解いてる)
京子(マズイ…まずいって)
バサッ、カリカリッ
チッ…チッ…チッ…
京子(あぁ、もう、うるさい…!)
京子(うぅ…!!!)
キーンコーンカーンコーン
「解答やめっ!」
「筆記用具を机の上においてください」
―――――――――
結衣「あ…京子」
「お疲れ、どうだった?」
京子「…えっ?あ、うん…」
「まぁまぁ…できた、かなー!」
結衣「そっか、それならよかった…」
京子「結衣は?」
結衣「私もまぁまぁ。ちょっとだけ間違っちゃったところあったけど、大丈夫だったかな」
京子「そっかー!」
「よーっし!試験も終わったし」
京子「ちょっと、ファミレス行かない!?」
「なんかたべよーぜ!」
結衣「そうだな、行こっか」
京子(…うん)
(大丈夫、だよね)
(きっと)
だって、今までずっと一緒だったんだもん。
離れるわけないよ。
――――――――――発表、当日
京子「おー人やべー」
結衣「…ど、どう?」
京子「んー、まだ貼られてないっぽい」
結衣「そっか…」
京子「なに、緊張してんのー?」
結衣「そりゃそうだろ…」
「一応私立も受けたけど、行きたいのはこっちなんだから」
京子「まぁ、そうだね」
「…て、おー?きたっぽい?」
結衣「うっ…そ、そうか」
京子「大丈夫だってー」
「一緒に見よう!」
結衣「あぁ、うん…」
キャー ワー
オメデトー
オメデトーゴザイマース
京子「よーっし、じゃあ見るぞー」
結衣「あ、あぁ…」
京子「いっせー…」
「のっ!!」
結衣「…」
京子「…」
(…私の番号…私の番号…)
結衣「あっ…」
京子(301…304…307…)
京子(31・・……)
結衣「あった…」
結衣「あったぞ、京子!!」
結衣「…京子?」
京子(318…318…!)
『311 312 315 318』
京子「あった!」
結衣「やったな!二人共合格だ!」
京子「わーい!」
GOOD END
京子「…」
京子「ゴメン…」
結衣「…」
「京子…お前…」
京子「…へ、へへっ」
「私、落ちちゃったみたい」
結衣「…うそ…だよな」
京子「あれー、おっかしいなあ。受かってると思ってたんだけどな~」
「見間違えちゃったかな?」
結衣「そ、そうだろ」
「冗談なんだよな」
結衣「ちょ、ちょっとお前の番号見せてみろ…!」
結衣「…312…312…」
結衣「…」
京子「あーそっか…はは」
落ちちゃったのか、私。
結衣「…う、嘘だ」
「こんなの絶対…」
結衣「そ、そうだ、印刷ミスとか…!」
結衣「それか…去年のを張り出しているとか…」
結衣「だって、お前…勉強、頑張ってたよな」
結衣「受かってるって…」
結衣「受かってないはずないって…」
京子「…」
京子「おめでとう」
京子「結衣」
結衣「…そんなの…」
結衣「私だけが受かったって…」
結衣「意味ない…」
京子「そんなことないよ」
京子「結衣はさ、行きたい高校に行けるんだよ」
京子「よかったじゃん!」
結衣「よくない…」
結衣「私は、お前と…いっしょの高校に…」
「行きたかったのに…」
京子「お、寂しがり屋さんか~?」
京子「別に一生離れるわけじゃないんだからさー」
京子「ほら、メールとかでもできるじゃん?」
京子「だから…」
京子「ね」
結衣「…」
結衣「…っ…ぅっ…」
京子「…なっ、何で泣いてんだよ!」
「結衣にとってめでたい日なんだよ!」
京子「何で…」
―――――――そのあとの帰り道は、二人とも何も話さなかった。
いつもの通学路を、いつも通りに。
歩いて帰っていくのに
何だか、いつもよりもその道は冷たくて、静かだった。
二人が分かれる道に着いたとき
結衣は口を開いた。
結衣「京子」
京子「…なに?」
結衣「…学校…始まっても」
「メールとか…電話とか…」
結衣「しても平気だよな」
京子「も、勿論!」
「毎日、しても良いんだぞ!」
京子「当然だろ!」
結衣「…そっか」
結衣「休日…とか」
結衣「遊べるときには…遊ぼうな」
京子「…おう!」
「私もさ…」
京子「たまに、遊びに行っても良いよな」
結衣「当然だろ…」
結衣「また、泊りに…来いよな」
京子「おう!」
結衣「…」
京子「…」
京子「…じゃあ」
結衣「…あぁ」
京子「…バイバイ」
結衣「…」
「またな」
―――――――――――――――高校1年、春
私は、二塚高等学校に入学した。
新しい制服に身を包んだ私は
自転車に乗って学校に向かう。
見慣れた通学路を通るのだけれど
その隣に、結衣の姿はなかった。
一人って…
結衣がいないって…
京子「こんなに…寂しかったんだな」
とっくに涙は枯れていたと思ったのに
また、私の目からは涙がこぼれてきた。
学校が始まると、元から人見知りをしなかった私には
新しい友達がどんどんとできた。
自分の性格に感謝した。
というより、自分の性格を変えてくれた結衣に感謝した。
友達はたくさんできる。
お弁当も、授業も
私の周りには、誰かがいる。
でも、大事な何かがすっぽりと抜け落ちている。
それは紛れもなく、結衣の存在だった。
その1つの存在は、私にとって大きな存在だった。
失ってから気付くって、こういうものなんだなー
なんて、思いながら、毎日を過ごした。
って、依存症かよ。
結衣とは、毎晩電話したり、メールしたりしていた。
メールの内容は、学校でのこと、友達のこと、昨日見たテレビのこと
雑誌のこと…話せることは、なんでも話した。
結衣は、小さいころは活発だったけど、中学生になってからは
だいぶクールと言うか…落ち着いた感じになっていたから
友達ができるかどうか心配になっていたけれど
ちゃんと、友達ができたらしい。
聞くところによると、お弁当も、授業も
いっしょに食べたり、受けたりする親しい友人ができたらしい。
ちくしょう。
その席は、私のだからな!!
って思ったけれど、口には出さなかった。
京子「私も大人になったんだよー」
結衣『あー…はいはい』
京子「そういえばさー」
「来週の日曜、あいてる?」
結衣『ん?あぁ…』
『空いてる…な』
京子「よし、ならどっか行こうぜー!」
結衣『そう、だな』
結衣『どこ行く?』
京子「結衣んち」
結衣『おいっ』
『平日でも来れるだろ…』
京子「そうでした…」
「じゃあ、買い物行こうぜ!」
京子「夏物、買いに行こう!」
結衣『んー…そうだな』
『じゃあ、集まる場所はあそこでいいか?』
京子「おっけー」
「じゃあ、せいぜい楽しみにしておくんだよ、結衣君」
結衣『はいはい、まったく…』
――――――――――――――――――日曜日
私は、15分前に待ち合わせ場所に来ていた。
今までの自分じゃ考えられないことだ。
自分のしたいこと全部放り投げてでも
私は結衣との時間を作りたくなっていた。
結衣「おっ、早いな、京子」
京子「へっへーん、まぁねー」
結衣「それじゃあ、行くか、買い物」
京子「おう、行こう行こう!」
結衣の姿は、中学生の時より、大人びて見えた…たぶん。
髪を伸ばしてるな?
京子「色気づいたか!?」
結衣「いきなり何言ってんだ」
私は、色気づいた結衣とともに、色々な場所を歩いて回った。
ブティックも行ったし、友達が言っていたパフェの店にも行った。
勿論、電話で話していた通りに、夏物もちゃんと見に行った。
結衣の選ぶセンスが、だんだんと大人っぽくなってきた…と思う。
京子「やっぱり色気づいてんじゃん!!」
結衣「ついてねーよ」
京子「それにしては大胆なような…」
結衣「…」
「やっぱやめるか…」
京子「じょ、冗談!冗談!」
「めっちゃ似合ってるって!」
結衣「…っ」
「あー、ナシなし!これは無しだ!」
顔を赤くして、服をもとの場所に戻す姿は
反則的に可愛かった。
京子「…んっ?」
まてよ、私。
可愛い?
色気づいてる?
私って、そんな感じで結衣のことを見ていたっけ…?
…中学生のころは、ちなっちゃん可愛いナーとか思っていたけれど
結衣は…どうだったかな?
京子「んー…」
結衣「どうした?」
「また何食べようか迷ってるのか?」
京子「…はっ!ち、違うって!」
京子「わ、私はー…えーと…えっと…」
京子「ラムレ
結衣「メニューに無いだろ…」
最後は、いつものファミレスでしめた私たちは
いくつかの紙袋を持ちながら、帰路に着いた。
帰ってから、私は結衣にまた電話した。
結衣は「さっき会ったばっかりだろ」とか言っていたけれど
なんだか、嬉しそうだったから、よかったかなーって思った。
ベッドに寝転がった私は
ふと、さっきの感情を思い出す。
京子(…そういえばー)
京子(結衣…可愛かったな)
京子(あの服…似合ってたな。でも結局買わなかった…勿体な…)
京子(いやいやいや、あんな服誰かに見せるなんて!)
京子(誰かが気を持ったらどうする…)
京子(…)
京子(…あー…)
これってもしかして…アレ、ですか…
まさかよりによって、大親友である結衣に
こんな感情を抱くことになるとは…。
昔は、マスコット的な可愛さに惹かれて…ちなっちゃんによく絡んだものだけれど
これは…
京子(……)
京子「うー…」ドックンドックン
マジな…方っぽい。
そういえば今日、手つながなかった?
結構密着したよね…。
食べさせ合った…ような気もする…。
京子「う、うわぁ…!!」
意識し始めてしまった私は
取りあえず枕を抱いて、ベッドを転げまわった。
お母さんがうるさい!っていう頃には、もうすでに私は眠っていた。
――――――――――――高校2年、夏
2年生に上がった私は、だいぶ大人になった…成長した、と思う。
そして、私の結衣に対する気持ちも、大いに成長した。
毎日のメールが楽しみで、すぐ返信してしまって
結衣に「はやすぎる、勉強しろ」と返されてしまったり
電話では、無料通話にどれほど助けられたかわからない。
案の定、今晩も、長電話になっていた。
京子「あー、来週の日曜楽しみだなー」
結衣『そうだな…晴れると良いな」
京子「うん、せっかくの海だしねー」
結衣『って、来週の話かよ』
『今日はまだ月曜日だぞ?』
京子「いいじゃんいいじゃん、楽しい話はいつしたって良いんだって!」
結衣『まったく…』
―――――――――――日曜日
天気は快晴。絶好の海日和。
前日、眠れなくなるほどに、わくわくしていた私。
小学生かよ。
案の定、目の下にちょっとクマができていた。
結衣「お前、今日眠れなかったろ」
京子「…っ、み、見ないでくだせえ!」
結衣が私の目を見つめて…じゃなくて、目の下のクマを見ながら言ってきたので
とても恥ずかしくなって、ちょっとごまかすように答えた。
海に着いてすぐ、水着に着替えたのだけれど
結衣の水着姿は、とてもセクシーだった。
京子「…さらにおっきくなったな」
結衣「うるさい」
海に来たと言っても、海に入っている時間は少なかった。
どちらかと言えば、ビーチパラソルの下で
飲み物を飲みながら、食べ物を食べながら
いつも通りに、いつも通りのことを話していた。
それが遊びに行ってすることなの?なんて聞かれたら
うん、なんて即答はできないかもしれないけれど
間違いなくその時間は、幸せだった。
結衣「なんか、飲み物持ってこようか?」
京子「あー…うん」
「でも、私も行くよ」
結衣「ん?私が行ってくるぞ?」
京子「良いんだって!ほら、行こうぜー」
結衣「あ、おい、ひっぱるなよ!」
ここなら、結衣の腕を引いて、顔が赤くなっても
日焼け!とか、暑かったから!でごまかせるもんね。
帰り道…
私たちは時間ぎりぎりの電車に乗った。
終電ってわけじゃなかったけど
次の電車が結構遅くになってしまうから。
私はそれでもいいんだけど…。
電車に揺られていくうちに、右肩に何かがのる感覚があった。
隣を見てみると、結衣が私の肩に頭を乗せて寝ている。
京子「うっ…」
私は一気に緊張してしまって、背筋を不自然なほどに伸ばしてしまった。
きっと顔も真っ赤だろう。
この車両に、人があまりいなくてよかったと思った。
京子「…うぅ」
早くつけ!
いやでも、まだ着くな!!
――――――――――――――――――高校2年、冬
この時期になると、私は
毎年、あの冬のことを思い出す。
結衣が涙を流した、あの日のことを。
京子「…はぁ」
絢「どうしたの?ため息、ついちゃって」
京子「あ、絢」
彼女は、遠野絢。
私のクラスの、クラス委員長をしている。
とても面倒見のいい子。
絢「ため息ついていると、幸せが逃げちゃうよ」
京子「知ってる」
何となく、あかりを思い出させる、優しさだ。
京子「いやね、冬が来るとさ…」
「中三の冬のことを思い出しちゃってさ」
絢「中三の、冬?」
京子「うん…」
京子「私、本当に行きたかった高校があるんだ」
京子「それなのに、勉強に集中できなくて」
京子「案の定、本番もど忘れしちゃってさ」
京子「それで落ちちゃって…」
絢「そうなんだ…」
京子「うん…」
「で、その時に…」
京子「友達、泣かせちゃって」
絢「…」
京子「その子、私と一緒の高校に行きたかったって、言っててさ」
京子「それを聞いて、私、なんてことをしちゃったんだろうって」
京子「すっごく後悔して…」
京子「…って、ゴメン、いきなりこんな話」
絢「ううん、ありがとう。話してくれて」
絢「仲、いいんだね」
京子「えっ!?ま、まぁー…まぁねー」
絢「あっ、照れてる」
京子「うッ…て、照れてないです」
絢「顔赤いよ?」
京子「…うぅぅ!絢ー!!」
絢「ごめんごめん…」
絢「…」
絢「牧村さんて、いたでしょ?」
京子「あー、転校しちゃった子?」
絢「うん」
絢「私ね、牧村さんと付き合ってるんだ」
京子「へぇー」
京子「…」
京子「え゛っ?」
絢「びっくりした?」
京子「えっ…び、びっくりしました…ハイ」
絢「ふふ、でしょ」
絢「その人とね、私、一緒の大学に行こうって約束したの」
京子「一緒の大学に?」
絢「うん、そう」
絢「そうすれば、遠くに転校しちゃってても」
絢「近くに住めるかなー…なんて思って」
京子「…」
京子「同じ大学…」
絢「歳納さんも、その子のこと好きなんだよね?」
京子「うん…」
京子「ジャナカッタ…ど、どうかなー!!」
絢「ふふふ…」
京子「…は、ハイ…」
絢「だったら、一緒の大学に行くとか…いいと思う」
京子「…そっかー…」
絢「一緒の高校に行けなくっても」
絢「大学なら、一緒のところ、いくらでも狙えるもんね」
京子「…」
京子「そうだよな」
京子「大学受験…頑張ってみようかな」
京子「ありがと、絢!」
京子「こうなりゃまずは、勉強だー!」
絢「おーっ!」
「歳納!お前職員室までプリントを取りに来いと、あれほど!」
京子「ひっ!す、すいません!」
京子「じゃ、じゃあね!絢!」
「いろいろ、ありがとね!」
絢「ううん、良いよ!じゃあ、頑張ってね!」
―――――――――――――――高校3年、秋。
結衣と一緒の大学に行くと決めた私は、
決めたその時から勉強を始めていた。
中学の反省もあって、地道にコツコツと勉強していた私は
正規のテストでも、実力テストでも、良い点数をとれるようになっていった。
京子「でさー、今回のテストも、バッチリだったんだ!」
結衣『ちゃんと勉強、やってるんだな』
京子「勿論だろ!へへっ」
結衣『…あのさ』
『京子は、どこ大受けるんだっけ』
京子「ん?あー…」
「結衣と同じとこ、受けよっかなって思ってるんだけど」
結衣『えっ!そ、そうなのか?』
京子「へへ、そのつもり~」
結衣『あ…そうだったのか』
京子「結衣は決まってるよな?」
結衣『あー…』
京子「ん?」
結衣『じつはその…』
京子「なんだよ、もったいぶるなよ!」
「どんな難関大でも行って
結衣『私も、京子の行く大学にって…思ってたんだけど』
京子「やる…って…へ?」
結衣『だから、あんまりはっきりとは決まってない』
京子「…あー」
京子「やばいでしょ!もう、秋だよ!!」
結衣『お、落ち着け、京子!!』
『とりあえず、オープンキャンパスどこに行ったんだ!?』
京子「えっと…!大学はあそことあそこと…」
結衣『私はココとソコ…』
その日は、一晩中、大学の情報を共有し合って
どの大学へ行くかという方向性を決めることができました…なんとか。
――――――――――――――――――センター試験、当日。
あの、ハチャメチャな夜があってから、私は
二人で決めた大学に行くために、勉強をひたすら頑張った。
空いた時間があれば、できるだけ勉強をすることに費やした。
それでも、夜は結衣との電話の時間をとるようにしていた。
まぁ、前よりはだいぶ短くなっちゃったけど…仕方ない。
センター試験は、結衣と同じ会場だった。
違う高校、とは言っても、同じ地域だったから。
京子「おはよう、結衣」
結衣「おはよう…さむいな」
京子「寒いっすねー…」
「ほら、道もこんなに凍ってるよ~」
結衣「…すb…気を付けないとな」
京子「そ、そだな」
京子「って、うわあぁ!!」ツルン
結衣「っと!」
京子「わ…」
結衣「だ、大丈夫か?」
京子「な、ナイス結衣…」
「危うく滑
結衣「あーごほん!うん?」
京子「…危ないところだった」
結衣「…一応な」
何よりも危ないのは、
今の状態が結衣の腕の中ってことなんですけど…。
あったかい…。
京子「っていやいやいや!!」
「なにセンター試験前にこんなこと思ってんだよ!!」
結衣「いきなり何を言い出すんだ…」
京子「と、とにかく」
「今日は、精一杯がんばりましょう、結衣さんや」
結衣「そうだな」
京子「…」
京子「今度はさ」
結衣「ん?」
京子「絶対に、ぜーったいに」
京子「結衣と同じ大学に行くから」
結衣「…」
結衣「あぁ、当然だろ」
結衣「受からないはずがないんだよ、お前は」
京子「…へへっ」
「結衣もな!」
結衣「あぁ、それも、当然だろ!」
センター試験が始まった。
結衣とは、違う教室だった。
それは、ちょっとありがたかった…。
結衣がいたらきっと、気になってしまうからなぁ…。
私は、今までの私とは全然違っていた。
何度も繰り返して解いた問題に似たものが
しわしわになるまで何度も読み返した教科書に載っていたことが
何度も確認したマーカーのひかれた単語がある。
約束したんだ、一緒の大学に行くって。
もう、絶対に結衣を泣かせないって。
全ての試験が終わったころには、私の手は真っ黒になっていた。
今日はよくできた。
明日も、しっかりやる。
私がすることは、それだけだ。
――――――――――――――――大学入試試験、当日
ついに、試験の本番がやってきた。
センター試験の判定は、Bだった。まずまずだと思う。
結衣もB。
合格圏ではあるけれど、まだまだ油断はできない、そんな判定。
この大学は、国語か英語、そして小論文が試験の内容だ。
何度も繰り返して、練習してきた。
担当の先生に、何度も見てもらって
時には、担当外の先生にも見てもらった。
やれるだけのことをしてきた。
そして今日、それを存分に発揮してくる。
さすがの私たちも、今日は口数が少なかった。
結衣の手は、少しだけ震えていた。
…しょうがないから、思い切り手を握ってやった。
京子「…大丈夫だって」
結衣「…あぁ」
京子「受かるって」
結衣「あぁ」
京子「…受かってさ、一緒の大学、行こう」
結衣「…そうだな」
京子「…」
その先に続けたい言葉があったけれど
それは、受かった後に、とっておこう。
京子「よし、行こう、結衣」
結衣「そうだな、行くか、京子」
試験は、センターよりももっと難しかった。
何度も、手が止まった。
変な汗をかいた。
ドキドキした。
それでも、あの頃とは違う。
手が止まっても、あの時みたいに
戸惑うことなんて無い。
この気持ちは絶対に揺るがないものだから。
キーンコーンカーンコーン
「やめっ!」
「筆記用具を、机の上に置きなさい」
―――――――――――――――合格発表、当日
京子「うぅー…寒ぅ…」
結衣「雪降ってるな…」
合格発表の日は、あいにくの雪だった。
風が吹いているから、とても寒い。
周りにいる受験生たちも、鼻を赤くしながら、結果が張り出されるのを待っていた。
京子「…緊張する?」
結衣「あぁ…まぁな」
京子「私も」
結衣「…だろうな」
スーツ姿の男の人や、女の人が
丸めた紙をわきに抱えて、掲示板の前にやってきた。
京子「来た…!」
結衣「…っ」
掲示板に、紙が広げられる。
数字がいくつも並んでいた。
前の方にいた子たちは、抱きしめあって喜んだり
ぴょんぴょんと跳ねていたり
…涙を流したりする子もいた。
京子「行こう、結衣」
結衣「お、おい、引っ張るな」
京子「大丈夫だって」
京子「せーので見ようよ」
結衣「…」
「わかった…」
掲示板の前に立つ。
私たちの隣にも、何人も、掲示板に目をやっている人がいた。
京子「よし、じゃあいくぞ…」
結衣「…あぁ」
「せーのっ!!」
京子「…」
結衣「…」
京子「あっ…」
結衣「っ…!」
京子「あった、あったよ!結衣!」
結衣「わ、私も…あった…!!」
京子「やった、受かったんだ!」
結衣「そ、そうだ!うかったんだよ、京子!!」
京子「やったー!!」
嬉しさのあまり、思いっきり結衣に抱き着いてしまった。
そうしたら、結衣も思いっきり抱きしめ返してくる。
…目から涙がこぼれてきた。
結衣も泣いているけれど
今回ばっかりは、ノーカウントかな?
私たちは、掲示板の前から、人の少ない場所へと移動していった。
さすがに、あの場所でいつまでも騒いでいるのも他の人に迷惑が掛かってしまうと思ったから。
京子「はぁ…よかった…」
結衣「うん…」
京子「へへ」
「これで一緒の大学に行けますね、結衣さん」
結衣「…そ、うだな」
結衣「まったく、誰かさんがまた落ちやしないかと心配だったんだぞ、こっちは」
京子「し、失礼な!」
京子「今回は私の方が心配する立場だったんじゃないかなぁ?」
結衣「あとでセンターの点数を見比べてみるか?」
京子「よっし、受けて立つぞ!」
「あと、今回の試験の点数開示もな!」
私には、今日すべきことがもう一つあった。
試験当日に、言い損ねた…というか、今日言おうと決めたことを
結衣に、言うんだ。
京子「あ、あのさー結衣」
結衣「…どうした、京子」
「…あらたまって」
京子「いや、そのー」
「なんていうかね…へへっ」
結衣「…」
京子「あーその…」
ヤバイ…緊張する。
ヘタしたら、試験の時より、緊張しているかも。
なかなか、あー、とか、その、とかの先が出てこない。
高校受験と同じ状態じゃん…。
まずい、このままだと、失敗しちゃう。
早く、早く、言わなくちゃ…。
京子「…あn
結衣「あのさ、京子」
京子「…な、何?」
結衣「私も、言いたいことがあったんだ」
結衣「京子が言えないなら、さきに言っても…良い?」
京子「…しょ、しょーがねーなー」
「…うん」
結衣「私…さ」
結衣「京子が、高校落ちて」
結衣「別の高校行くってなって…すっごく寂しかったんだ」
結衣「友達はできてもさ、弁当の時も、授業の時も」
結衣「いっつも、何かが足りないなって、そう思えてきたんだ」
結衣「学校へ行く道も、騒がしい誰かさんがいないと、こんなにも静かなんだって」
結衣「振り回されてばっかりだったけど…その日々がすっごく恋しく思えてきたんだ」
京子「…結衣…?」
結衣「誘われて、出かける休日も」
結衣「泊りに来る平日も」
結衣「すっごく待ち遠しかった」
結衣「それってきっとさ」
結衣「私の中で、京子っていう存在が」
結衣「とっても大切なものだったからなんじゃないかなって…思って」
京子「…」
結衣「つまりその…」
結衣「私は…お前のこと…」
京子「ねぇ、結衣」
結衣「…っ…な、何だよ」
「これから…言おうと思って」
京子「よければ、なんだけどさ」
結衣「…ん?」
京子「私と一緒に―――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
こ…ぅこ…
京子!
京子「ふぁいっ!?」
結衣「やっと起きたか…」
京子「…」
「おはよう」
結衣「おはよう」
京子「あれ…私…」
「そっか…レポートやってて…」
結衣「まったく、お前…」
結衣「資料に涎が…」
京子「げっ!?ま、まじぃ!?」
結衣「やれやれ…」
結衣「結構余裕あったはずだろ、そのレポート」
京子「ま、まぁね!」
「すぐ終わらせるって…」
結衣「手伝って~なんてことにならないと良いけどな…」
京子「う、うるせぃ!」
「…ってか、結衣、いま帰ってきたの?」
結衣「そ、授業長引いちゃってさ」
「ってか、玄関の鍵あいてたぞ」
京子「おー…スマンスマン」
結衣「一応、女の子なんだからさ、鍵には気をつけろよな」
京子「一応は一言余計だろー!」
結衣「はいはい」
結衣「あ、そういえばさ」
結衣「ほい、コレ」
京子「ん?おぉ!!ラムレじゃないっすかぁあああ!」
結衣「レポート頑張ってるかなって思ってさ」
京子「さすが結衣!わかってるね~!」
「では、いただきま」
京子「っと…その前に」
結衣「…ん?」
京子「んー…」
結衣「…まだてうがしてないんだけどな」
京子「良いからいいから♪」
結衣「まったく、しょうがない奴」
チュッ
京子「お帰り、結衣」
結衣「ただいま、京子」
(終わり)
くぅ~ 疲れ
支援してくださったかたありがとうございました。
次は支援なんかしてないではよ寝てください。
今日はセンター試験ですね。
今回のは別に合わせてきたわけじゃなく、たまたまです。
はい、こんな時間まで起きてディスプレイを眺めていると
あっという間に脳が腐りやがりますので、さっさと寝ろ。
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