ブラックジャック「とある男の生き様」 (62)
トゥルルル… トゥルルル… ガチャッ
ブラックジャック「はい、こちらブラックジャック」
手塚医師『もしもし、ブラックジャック。僕だ』
ブラックジャック「その声、手塚くんか。今日はまたなんのようだね?」
手塚医師『エート……実は大至急君に見てもらいたい患者がいてね……』
ブラックジャック「おいおい手塚くん、私はお助け屋じゃないんだぜ?毎回毎回タダ同然の仕事は勘弁してもらいたいね」
手塚医師『いや今回の患者はタダ同然ってことにはならないと思うよ。なにせ今回の患者は……』
ブラックジャック「……」
手塚医師『ーーーーーー』
ブラックジャック「……なるほど」ニヤッ
ブラックジャック「その話、引き受けようじゃないか」
手塚医師『本当かい!?助かるよ!!』
ピノコ「フンフフンフフン♪」
ピノコ「先生どーじょバンゴハンでちゅ」コトッ
ブラックジャック「おいおいまたカレーか?……こう毎日だと流石に……」
ピノコ「モンクいうひとにはなにもあげまちぇんよ!らまってたべる!」
ブラックジャック「わかったわかった。食べるからそう怒るなよピノコ」
ピノコ「わかればよろちい」フンッ
ピノコ「それはそうとさっきのデンワはなんだったよのさ」
ブラックジャック「なぁに、仕事の電話だよ。ある患者を手塚くんからうけおったんだ」モグモグ
ピノコ「フーン」モグモグ
ーーー手塚医院
手塚医師「おお、よく来てくれたブラックジャック!」
ブラックジャック「それで、患者は?」
手塚医師「ああ、彼はこっちの病棟だよ。ついてきてくれ」テクテク
ブラックジャック「……」スタスタ…
ーーー
手塚医師「ついたついた。この病室だ」ガラガラ…
男「……」
手塚医師「ブラックジャック、紹介するよ。今回の患者だ」
ブラックジャック「どうも、私は医師のブラックジャックというものです」
男「……フッ」
ブラックジャック「……どうかなさいましたか?」
男「いえいえただの思い出し笑いです。先生が少し知り合いに似てたもので、その人の事を思い出してしまいましてね」
ブラックジャック「……」
ーーー別室
ブラックジャック「それで、手塚くん。彼のカルテは」
手塚医師「これだよ」パサッ
ブラックジャック「……ふむ」マジマジ
ブラックジャック「成程ね……こいつは立派な胃癌だ。だいぶ進行してるな」
手塚医師「そうなんだ、しかもこの胃癌スキルス性だったんだよ。それで発見が遅れてね……」
ブラックジャック「それで私に泣きついてきたってワケだな」ククク…
手塚医師「おいおい笑うなよぉ、僕たちだって必死なんだぞ?」
ブラックジャック「いや失敬」
ブラックジャック「このことは彼は知ってるのかね?」
手塚医師「いや、彼の家族しか知らないよ。こんなことを伝えるなんて酷(こく)すぎる」
ブラックジャック「酷ねぇ……」フゥー…
ブラックジャック「本当のことを伝えないで知らず知らずに己が弱っていく……そっちの方がよほど酷だと思うがね」
手塚医師「勘弁してくれブラックジャック……こればかりは医師連盟の方針なんだ、僕にはどうしようもないよ」
ブラックジャック「……」
ブラックジャック「まぁとにかくやれるだけのことはやっておくよ」
手塚医師「うん、頼んだよ」
ーーー病室
男「……」カリカリ…
ブラックジャック「失礼」ガラガラ…
ブラックジャック「おや、お邪魔してしまいましたかね」
男「いや、べつに構いません」
ブラックジャック「何かをお書きになってらしたようだが……」
男「なんでもありませんよ」
ブラックジャック「……」
ブラックジャック「まぁ、いいでしょう。ところで……今回の手術料ですがね」
男「……」
ブラックジャック「八千万。八千万で今回の手術をお受けしよう……どうですか?」
男「……いいですよ」
ブラックジャック「……これは驚いた。二つ返事で私の請求を受け入れる人なんてひょっとしたらはじめてだ」
男「八千万で命が助かるなら安いものです。それに、僕はまだ死ねない」
ブラックジャック「ほほう?」
男「先生、僕の病は……癌でしょう?それもかなり進行している」
ブラックジャック「……なぜそうだと」
男「昔少しだけ医学を齧っていましてね……」
ブラックジャック「……どちらにせよ貴方の病のことは言う事はできない。それが医師連盟の方針と言うヤツらしいのでね」
男「……そうですか」
男「先生、僕はね。まだ生きないといけない。まだやり残したことがたくさんあるんだ」
ロロールル「ホーさよか」
男「だから、よろしくおねがいします」
ブラックジャック「できる限りのことはしますよ。なにせ八千万の為ですから」
男「……」
ブラックジャック「手術は明後日の昼からですので、そのつもりで」
ブラックジャック「では……」ガラガラ…
手塚医師「おや、ブラックジャックもう帰るのかい?」
ブラックジャック「ああ、もう患者との話も終わった」
ブラックジャック「手塚くん。彼は自分が癌だとわかっているようだ」
手塚医師「エッ!?どうして」
ブラックジャック「昔医学を齧っていたと言ってたよ」
手塚医師「そうだったのか……」
ブラックジャック「……」
ブラックジャック「手塚くん。この手術。絶対に成功させるぞ」
手塚医師「も、もちろんだけど。どうしたんだいいきなり?」
ブラックジャック「なァに、八千万のためさ」スタスタ…
手塚医師「????」
ーーーブラックジャック邸
ブラックジャック「……」パラ…
ピノコ「それー!そこなのよさー!いけー!」
TV『ーーーー!!ーーー!』ガヤガヤ
ブラックジャック「ピノコうるさいぞー、いま本を読んでるんだから静かにしてくれー」
ピノコ「アッチョンブリケ!ピノコの1日1度のたのちみのアニメのじかんをどうこうちようなんて先生でもゆるさないよのさ」
ブラックジャック「見るのは構わんが音を小さくして騒がずに見てくれ。気が散る」
ピノコ「ハーイ」
ーーー深夜 病室
男「……」ムクッ
男「……」
男「……そうか……これをこうすれば……」カリカリ…
男「……ふむ」
男「……」
男「ちがう!」グシャグシャ!!
男「……」カリカリ…
看護婦「あー!また夜中にそんなことやって!」
男「ゲゲッ!」
看護婦「もう寝る時間ですよ!何回注意すればいいんですか!」
男「アハハ……すいません今片付けますんで!」ガサガサ
看護婦「もう!次見つけたら紙とりあげますからね!」
男「ヒェーメシの食い上げだよ……」ガサガサ
ーーー翌朝 ブラックジャック邸
ブラックジャック「グォー……グォー……」
ピノコ「先生!朝なのよさっ!」カンカンカンカン!!!!
ブラックジャック「ム!?ムオッ!?何だ何だ!?!?」ビクッ!!
ピノコ「おはようございまちゅ先生。ツクエに座ったまま寝るなんてカラダにわるいでちゅよ」
ブラックジャック「ギエー耳元でフライパンカンカン鳴らされて鼓膜がおかしくなりやがるかと思った……」
ピノコ「まったくなにをそんなにムチューになってホンなんてよんでゆのかしら」
ピノコ「あー、これマンガなのよさ!先生がこんな本読むなんてめずらちー!」パラパラ
ブラックジャック「まだキンキンしやがるぜ……」
ピノコ「ねぇねぇこれ後で読んでもいい?」
ブラックジャック「かってにしてくれ……」ゲッソリ…
ピノコ「ワーイ!やったやったー!」
ピノコ「あ、朝ごはんはもうよういできてまちゅからかってにたべていいわのよー」
ーーー手塚医院 中庭
男「……」スタスタ…
男の子「ウエエエンウエエエン!!」ビービー!!
男「……ねぇ君、そんなに泣いてどうしたんだい?」ストン
男の子「うっ……ひぐっ……ボクのマンガ……ボクの買ったマンガが……ひっく……」
男「マンガ……?」チラッ
男「あ、もしかしてあの水たまりに落ちてるアレ?」
男の子「うん……ひっく……おとーさんが持ってきてくれたマンガ……落としちゃって……それで……」
男「そうか……」
男の子「あれ……ひっく……おとーさんが一番大事にしてるっていうお気に入りのマンガなんだ……ぐすっ……」
男「……これは……」ビチャッ
男「……」
男の子「どうしよう……ウエエエン!」ビービー
男「……たしか内ポケットにメモ帳が……」ゴソゴソ
男「あったあった」
男「……」カリカリ…
男「ねぇ、キミ。かわりにこれじゃダメかな」スッ
男の子「ひっく……え……?」
男の子「これって……あのマンガの……」
男「……」
男の子「おじさんこれ今かいたの……?」
男「う、うん……やっぱダメかな?」
男の子「ううん!おじさんすごいうまい……ねぇねぇ!このライオンだけじゃなくてもっと他のキャラもかける!?」
男「うん。あの人のならマンガのキャラならかけると思うよ」
男の子「じゃあさじゃあさ!もっとかいてよ!!」
ブラックジャック「手塚くん、明日の手術で使うものの準備はちゃんとしてあるだろうな?」
手塚医師「あたりまえじゃないか、君は僕を何だと思ってるんだい一体……?」
ブラックジャック「そう怒りなさんな。ただの冗談さ」ククッ
手塚医師「君は昔からそうだけど真顔で冗談言うのは止めてくれよホントに」ハハハ
ブラックジャック「おや……?あれは……?」ピクッ
男「……そしてこの子は男として育てられてしまったってわけさ」
男の子「ヘェー、なんかヘンなのー!ねぇねぇ他には?」
ブラックジャック「ホー、お上手ですな」
男「!」ビクッ
男「いきなり後ろから話しかけないでくださいよビックリするじゃないですか」
ブラックジャック「それは失敬。しかし本当に絵がお上手だ」
ブラックジャック「……おや、このキャラクターは……」ペラッ
男「あ、それは」
男の子「あー僕それ知ってるー!確かねーモグラ!」
手塚医師「モグラ?」
男の子「あれ?ちがったっけ?たしかモグラのなんとかとか言われてたような……」
ブラックジャック「フーム……」
ブラックジャック「……この絵、頂いてもよろしいですかな」
男「え、別に構いませんが……」
ブラックジャック「では遠慮なく」
ーーー夜 ブラックジャック邸
ブラックジャック「……」ペラッ
ピノコ「先生何見てるよのさ?」
ブラックジャック「ん?ああ、今日絵を貰ってな……」
ピノコ「へぇー!みちぇてみちぇて!」
ブラックジャック「ほら、汚すなよ」
ピノコ「……む、むむ?」
ピノコ「なんだかこの絵の人、先生ににてるよのさ?」
ブラックジャック「まぁ、そうだな」ククッ
ーーー深夜
ブラックジャック「……」
ブラックジャック「……」ムクリ
ブラックジャック「……」
ブラックジャック「……」ガサッ
ブラックジャック「……」
ブラックジャック「……この手術だけは、絶対に成功させなれば……」
ブラックジャック「……」
ブラックジャック「まったく……こんなにプレッシャーを感じる患者ははじめてだ」
ーーー手術当日 手塚医院 手術室
ブラックジャック「……フー……」
ブラックジャック「……」
ブラックジャック「諸君らの協力に感謝する」
医者達「「「……」」」
ブラックジャック「患者は60歳。ステルス性胃癌を患っておりかなり進行している」
ブラックジャック「外科手術により腫瘍を摘出し、術後化学療法を取る」
ブラックジャック「……」
ブラックジャック「術式を開始する!!」
ブラックジャック「…メス」
ブラックジャック「……」サッ
ブラックジャック「鉗子を」
ブラックジャック「……!……腫瘍のお出ましだ」
ブラックジャック「コイツはデカイな……」サッサッサッ
医師A「ヒエー、もう病巣の摘出に入ってるぞ……」
医師B「なんて早さだ……」
医師C「しかもどれも正確に……機械かなんかじゃないかとおもうね……」
ブラックジャック「くだらん無駄口を叩く暇があるならオペに集中してもらえないかね」
医師達「「「は、はい!」」」
スキルスじゃね?
>>43
あ
>>40
ステルス ?
スキルス ○
ーーー
ーーーー
ーーーーー
ブラックジャック「……術式終わり……!」
ブラックジャック「あとの縫合は諸君らにまかせる……では」スタスタ…
手塚医師「ブラックジャック、うまくいったな」
ブラックジャック「ああ、少なくとも私はベストを尽くしたつもりだよ」
ブラックジャック「だがまだ油断はできないがな」
手塚医師「ああ、わかってるさ」
ブラックジャック「……すまない、ここのソファーで少し寝る。彼が起きたら起こしてくれ」ドスッ
ブラックジャック「グオー……グオー……」
スパイダー「オネムリでゴンス」
ーーー
男「と、言うことは僕は助かったということですか」
ブラックジャック「ええ、一応はね。ですがまだ再発の危険性は捨てきなれないが」
男「そうですか……」
ブラックジャック「実はウチの子が貴方が今やってるマンガの大ファンでね。続きを楽しみにしてるんですよ」
男「……私が漫画家と知っていたんですね」
ブラックジャック「ええ、まぁ」
男「そうか、ファンか……なら、はやくかかなきゃなぁ……」
ブラックジャック「……手術料は後日振り込んでいただければ結構ですので。では」
男「はい、ありがとうございました」
ーーーーー
ブラックジャック「……」
ブラックジャック「……!」
ブラックジャック「どこだ、ここは……?」
ブラックジャック「暗闇だ!何も見えない……!」
ブラックジャック「これは、どういうことだ!?」
???『……くん………ブラック……く……』
ブラックジャック「!……誰かの声だ……!」
???『ブラックジャックくん……聞こえるか』
ブラックジャック「!!その声は!……本間先生!!本間先生ですか!?」
本間『……いかにもそうじゃ、またあったな、ブラックジャックくん』
ブラックジャック「な、なぜ本間先生が……これは夢か……!?」
本間『……ここが何処か、なぜワシが居るのか。そんなことはさほど重要ではないのだよブラックジャックくん』
ブラックジャック「どういうことですか本間先生!」
本間『ブラックジャックくん。君は、医者は何だと思うかね』
ブラックジャック「……」
本間『医者というのは命を助ける手助けをする物だ』
本間『医者が命を救うんじゃあない、患者が自分自身で命を守る、我々はその手伝いをするだけじゃ』
ブラックジャック「何がいいたいのですか先生!」
本間『自然の摂理という言葉を知っているかね』
本間『全ては自然のなすがまま……自然に生まれ自然に死んでいく……』
本間『我々医者はその自然の摂理に逆らった存在と言えるかもしれん』
本間『でもワシはこう思うんじゃよ』
本間『「医者が手助けをすることすら運命であった」……とな』
本間『人が本当に死ぬ時というのは既に決まっていてそれまでの間は医者が手助けをするのも運命だったと』
ブラックジャック「……」
本間『だがブラックジャックくん。今回の君の行動は……運命じゃない』
ブラックジャック「ッ!」
本間『彼は……この病で死ぬ運命だった。間違いなく』
ブラックジャック「いいえ!彼は現に助かっています!」
本間『そうじゃな。だが、それが間違っているのじゃ』
本間『そもそも彼はこの世界には存在しない人間だ』
ブラックジャック「……」
本間『……』
本間『いまに君は痛感するじゃろう。絶対的運命というものをな……』コツコツ…
ブラックジャック「っ!まってください!!本間先生!!!」
ブラックジャック「先生!!!!!!本間先生っーーーー!!!!」
ーーー
ブラックジャック「本間先生っ!!!」ガバッ!!
ブラックジャック「……はぁ……はぁ……!」
ブラックジャック「……」
ブラックジャック「……ここは……私の部屋のベッドの上……か……」
ブラックジャック「……」
ブラックジャック「なにか夢を見たような気がするが……思い出せん……」
飽きた、寝るわ
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ええ…