塞「豊音、もうすぐ死んじゃうんでしょ・・・。それなのにどうして・・・」
豊音「えへへ、だって幸せだから」
塞「幸せ・・・?」
豊音「うん。こうして私の為に泣いてくれる友達ができて、チョー幸せだから」
塞「・・・あとどのくらい保つの?」
豊音「わかんないよー。・・・でも、あと数ヶ月で日常生活も厳しくなると思う」
塞「そっか・・・。みんなには話したほうがいい?」
豊音「気遣われるのもアレだしねー。言わないで欲しいかなー」
塞「わかった・・・」
豊音「塞、ありがとう。でも、どうして私の体のこと・・・」
塞「トシさんが電話で話してて・・・。多分豊音の家の人とだと思う・・・」
豊音「そうだったのかー・・・。参ったなー・・・。誰にも知られたくなかったんだけど」
塞「ねえ、麻雀部はどうするの?」
豊音「限界ギリギリまでは顔出すよー。せっかくできたお友達だもん。できるだけ長く一緒に過ごしたいんだー」
塞「豊音・・・。うん、そうだよね・・・」
豊音「わわ、泣かないでよ塞。塞が悲しむと私まで悲しいよー」
塞「ごめん・・・ごめんね豊音・・・」
ガラッ
胡桃「ふんふーん♪お待たせー・・・って、そこー!?」
塞「・・・ッ、胡桃」
胡桃「何で塞泣いてんの?豊音!?」
豊音「あはは、これはね・・・」
塞「ちょっと目にゴミが入っちゃって・・・。なんでもないから気にしないで」
胡桃「何でもない・・・?まあ、塞がそう言うんならいいけど・・・」
エイ「オマタセ、ワッショイ!・・・サエ、ナイテルノ?」
シロ「ダル・・・」
塞「何でもない何でもない。それより、みんな麻雀打とう。ほらほら」
豊音「うんうん」
胡桃「いつになくやる気だ・・・。怪しい・・・」
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シロ「今日の部活もこれで終わり・・・」
エイ「ナガカッタ」
胡桃「さて、帰ろ帰ろ」
豊音「そーだねー」
塞「みんな待って!」
エイ胡シロ豊「?」
塞「その、みんなで帰りに寄り道とか・・・どうかな・・・」
豊音「もちろんおっけーだよー」
シロ「わかった」
胡桃「真面目な塞にしては珍しいね」
エイ「ドコヨルノ?」
豊音「わぁ~、駄菓子屋さんだ~。何買って食べようかな~?」
シロ「私はもう買って食べてる」
エイ「シロハヤイ」
胡桃「やっぱり駄菓子屋といったらこのヨーグルトみたいなのだよ。美味しい!」
塞「豊音、これ美味しいんだ。一口どうぞ」
豊音「いいの?あーん・・・」
塞「はい」
豊音「んむんむ・・・。何コレ!チョー美味しいよー!」
シロ「いいな・・・」
胡桃「塞は豊音に甘いから」
エイ「ワタシモタベタイ」
豊音「塞、私のも一口食べるー?って、塞・・・?」
塞「・・・ぅぐぅ・・・っく・・・」ポロポロ
豊音「塞・・・」
シロ「塞、また泣いてる・・・」
胡桃「豊音、塞と何かあったの?」
塞「違う・・・!そういうんじゃ・・・ないの・・・。ごめんね・・・」ポロポロ
シロ「サエ・・・」
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シロ「落ち着いた?」
塞「・・・うん」
豊音「あ、あの・・・大丈夫・・・?」
塞「うん・・・。ごめんね、みんな。心配かけて・・・」
胡桃「ほんとだよ」
シロ「クルミ?」
胡桃「何があったのか知らないけど、言いたくなったらいつでも言うこと!友達でしょ!」
塞「うぅ・・・ありがど・・・」ブワッ…
胡桃「言ったそばから何で泣くの!?」
豊音「うわぁーん、胡桃もいい子だよー」
胡桃「豊音まで!?」
エイ「ユウジョウ!」
シロ「うん」
豊音「それじゃみんなまたねー」
シロ「うん。また明日」
エイ「マタネ」
胡桃「また明日」
塞「じゃあみんなまた」
豊音「あれ?塞、帰り道こっちじゃなかったんじゃないの?」
塞「一緒に帰りたい気分だったから、ね」
豊音「ふふ、そっかー。じゃあ一緒に帰ろー」
豊音「~~♪」
塞(豊音はこんなに無邪気に歩いてるのに私は・・・。豊音がもうすぐ死ぬなんて、考えたくないのに・・・)
塞「あの、豊音」
豊音「なあに?」クルッ
塞「その・・・、手術とかで助かったりとかは・・・ないの・・・?」
豊音「あー、手術かー・・・」
塞「うん。そうだよ!手術とかすればきっと・・・」
豊音「・・・手術すれば助かる可能性はもちろんあるよ」
塞「本当!?よかった・・・」
豊音「でも、手術するには外国に渡らないといけないし、お金だってすごくかかるんだー。残念だけどうちにはそんなお金ないし、第一手術が成功するかどうかだってわかんない」
塞「そんな・・・」
豊音「あはは、そんな顔しないでよ。どの道手術なんて不可能なんだから」
塞「お金さえあれば・・・」
豊音「ううん。そうじゃないんだよー。今の段階じゃドナーだって見つからないと思うし。ほら、塞も知ってるでしょ?私の血液型」
塞「アールエイチマイナス・・・」
豊音「うん。だから、私は運命だって受け入れてるよー」
塞「・・・・・・・・・」
豊音「・・・アパート着いちゃった。お別れだね」
塞「やだ・・・」
豊音「へ?」
塞「やだ!私は怖い・・・。何だか豊音がこのままいなくなっちゃいそうで・・・」
豊音「心配しすぎだよ。そんなすぐ死ぬってわけじゃないんだから」
塞「でも・・・」
豊音「うーん・・・。じゃあ、今日は泊まっていく?」
塞「アッハイ」
豊音「クスクス、何で片言になってるのー?エイスリンみたい」
塞「・・・///」
塞「ここが豊音の部屋・・・」
豊音「何にもないとこだけどゆっくりしてねー。私はちょっとお茶淹れてくるねー」
塞「うん・・・」
塞(想像通りというか、普通の女の子の部屋だ・・・。ん・・・これは・・・?)
塞(この読みかけの本、死の恐怖を和らげるとかそういうのだ・・・。豊音だって本当は・・・)
塞(見なかったことにして元に戻しておこう・・・)
塞(それにしても遅いな・・・。もう5分は経ってるんだけど・・・)
塞(どれどれ、様子は・・・)
豊音「・・・・・・・・・」グッタリ
塞「!?」
塞「豊音、大丈夫!?何で倒れて・・・。きゅ、救急車を・・・」
豊音「だ、大丈夫・・・。それよりそこの薬を取って・・・」
塞「う、うん!はい!」
豊音「ありがと・・・」
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豊音「びっくりさせてごめんねー。もう良くなったから心配しなくて大丈夫だよー」
塞「本当・・・?」
豊音「ほんとほんとー」
塞「うん・・・」
豊音「今日は駄菓子屋さんとか寄ってちょっと興奮しちゃったからかも。・・・あ、そんな顔しないで塞。塞のせいじゃないんだから。ね?」
塞「・・・よくあるの?」
豊音「え?」
塞「今みたいに倒れたりすること・・・」
豊音「・・・ううん、無理しない限り大丈夫だよ。体育とかだってここ数年はしてないし、軽い運動とかしない限りはー」
塞「軽い運動って・・・。ねえ、ここから学校までそんな距離ないけど、もしかして豊音・・・」
豊音「・・・あと一ヶ月は学校にも通えると思う」
塞「あと一ヶ月・・・!?嘘、そんなに・・・」
豊音「や、やだなあ、そんな顔しないでよ。何も一ヵ月後に死ぬってわけじゃないんだから」
塞「・・・おうちの人はなんて?」
豊音「・・・昔から長生きはできないって覚悟してるからね、親も・・・。本当はすごく心配してるけど、私の好きにしていいよって。だから、学校に通える間は通っていいよって」
塞「そっか・・・。ねえ、もし今みたいなことがまたあったら・・・。その時傍に誰もいなかったら・・・!」
豊音「心配性だよ塞は。もー」
塞「でも・・・」
豊音「じゃあ、塞もここで一緒に暮らす?なーんて・・・」
塞「そうだね・・・。うん、わかった。今家に電話するから少し待ってて」
豊音「えぇー!?塞、本気なのー?」
塞「もしもし・・・」
塞「許可が出たよ」
豊音「わわっ、まさかトシさんの口添えもとりつけるなんて」
塞「ふふ、豊音は考えが甘いのよ」
豊音「でも、塞と一緒にこれから暮らせるのかー。何だか楽しみかも♪」
塞(あと一ヶ月・・・か・・・。多分、それが豊音と一緒に過ごせる最後の時間・・・)
塞(それが過ぎたらきっと豊音は病院で最期の日まで・・・)
塞(一秒だって無駄にはしたくない!)
塞「そういえば豊音は好き嫌いある?何でも作ってあげちゃうんだから」
豊音「えっ、いいの~?やった~♪じゃあね~、何をリクエストしよっかな~?」
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豊音「ご馳走様ー」
塞「はい。御粗末様でした」
豊音「美味しかったー。まさか塞があんなにお料理上手だったとは思わなかったよー」
塞「こう見えてもある程度はできるわよ?」
豊音「さすが塞だね♪おっと、もうこんな時間」
塞「何かあるの?」
豊音「楽しみにしてたテレビ番組だよー。一緒に見よー」
塞「うん、そうしよっか」
テレビ『~~』
塞(普通のバラエティか。豊音はこういうのが好きなのかな?)
豊音「あのね、塞」
塞「どうしたの?」
豊音「塞も知ってるかもしれないけど、私は心臓が弱くて、それに親が過保護だったから外で遊んだりさせてもらえなくてずっと部屋にいたんだー」
塞「うん」
豊音「外で遊べる子が羨ましくて仕方なかったけど、でも、私にはテレビがあったから」
塞「・・・・・・・・・」
豊音「テレビの向こうにも広い世界があって、私は外に出られなくても我慢できたんだよ」
塞「豊音・・・」
豊音「その・・・私は口下手だから思ったことを上手く伝えられないけど、トシさんに連れ出されて塞たちと過ごした今までの時間は今までの人生で一番楽しかった」
豊音「毎日みんなと麻雀して、休みの日はみんなで遊びに行って、こんな夢みたいな幸せが私にあっていいのかなって・・・」
豊音「ずっとこんな毎日が過ごせたらいいなって・・・。あ・・・、ダメだな私・・・何で涙が・・・」
豊音「塞、ごめんね・・・こっち見ないで・・・。うぐっ・・・ふぅぅ・・・」
塞「いいんだよ、豊音」ギュッ
豊音「えっ・・・?」
塞「誰だって死ぬのは怖い・・・。強がらなくたっていいんだ・・・。私がずっと傍にいるから・・・」
塞「だから甘えてもいいんだよ豊音。無理しないで泣いたっていいんだよ」
豊音「うぅぅ、塞・・・。うわぁぁぁん、みんなと別れるのはやだ・・・私、まだ死にたくなんかないよぉぉぉ・・・」ポロポロ
塞「うん・・・うん・・・。私だって豊音とずっと・・・」
豊音「スゥ・・・スゥ・・・」
塞(泣き疲れて眠っちゃったか・・・。豊音、きっと今までずっと不安だったんだろうな・・・)
塞(家から出て、たった一人でこの部屋で暮らして・・・。怖いときも一人で耐えて・・・)
豊音「うーん・・・」
塞(このまま寝かせるのもあれだし、お布団に移してあげようかな)ズリリッ ズリリッ
豊音「ううーん・・・」
塞「重い・・・」
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豊音「ふぁぁ・・・おはよー、塞ー・・・」
塞「はい、おはようー」
豊音「・・・!?塞、時間・・・!学校・・・!」
塞「いいのいいの。学校には連絡しといたから。豊音があんまりにも気持ち良さそうに眠ってるもんだから起こせなくってね」
豊音「もー、起こしてよー」
塞「ふふ、可愛い寝顔だったよ」
豊音「うぅ~、塞の意地悪・・・///」
塞「今日はこのまま学校サボっちゃう?時間だってもう午後だし」
豊音「ううん、胡桃やシロ、エイスリンにも会いたいから学校に行くよー」
塞「おっけー。じゃあ支度して行こうか」
胡桃「二人とも遅い!授業に一切出ないで部活の時間に学校に出るってどういうこと!?」
シロ「重役出勤」
エイ「ケジメ、ヒツヨウ」
豊音「みんなごめんねー」
塞「私もさすがに昼までには豊音も起きるかと思ってたんだけど、なかなか起きなくって」
胡桃「ん?」
シロ「んん?」
エイ「ンンン?」
豊音「あはは、それより麻雀しようよ麻雀」
胡桃「いや、その理屈はおかしい」
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塞「良かったの?みんなに言わなくて」
豊音「うん・・・。みんな優しいからきっと辛くなっちゃう・・・」
塞「そうだね・・・」
塞(でも、何も知らないまま豊音とさようならすることになったらみんなは・・・)
豊音「じゃあ帰ろー、塞」
塞「ん、わかった」
塞「あれ、シロ達だ・・・」
豊音「何してるんだろ?」
塞「こっちはみんなの帰り道からは外れてるんだけど・・・」
豊音「みんなー!何してるのー!」
シロ「・・・・・・・・・」ブンブン
胡桃「・・・・・・・・・」バッ バッ
エイ「・・・・・・・・・」ピョンピョン
塞「何だろう・・・?」
豊音「うーん、まるでこっちに来るなって言ってるように見えるけど・・・」
豊音「・・・あっ」
塞「どうかした?」
豊音「ううん、何でもない。塞、部室に忘れ物したから取りに行ってくれない?帽子なんだけど」
塞「そういえば帽子してないね。わかった、ちょっと待っててね」
豊音「うん、待ってるよー」
シロ「・・・エ・・・サ・・・塞」
胡桃「目を・・・けて・・・おね・・・い」
エイ「・・・トニデナ・・・ヨ・・・サエー・・・」
塞「うぅ・・・みんな・・・?」
シロ「意識が戻った」
胡桃「塞のバカ!何で・・・!」
塞(ああ、そうか・・・。私は豊音が死んだから薬物の過剰摂取で死のうと思ったんだった・・・。そっか・・・)
塞(豊音はもういないんだ・・・)
塞「私は失敗したのか・・・」
胡桃「バカ!」パンッ
塞「痛い・・・」
胡桃「塞が豊音と仲が良かったのは知ってる!でも、豊音が死んだからって塞まで死のうとしてどうするの!?それで豊音が喜ぶの!?」
塞「・・・・・・・・・」
シロ「胡桃・・・もうその辺で・・・」
胡桃「うるさい!」
塞「みんなごめん・・・」
塞(豊音はあの後しばらくして入院して、そして半年ともたないで死んだんだ・・・)
塞(私はその事実を受け入れられなくて・・・)
エイ「モウスグオイシャサンクル」
シロ「そうだね。胡桃・・・」
胡桃「・・・わかった。塞、また明日来るから!」
塞「うん・・・」
塞(豊音が私達と過ごした日々は短かったけど、それは豊音の人生におけるほとんど全てといっていいものだった)
塞(そしてそれは私も同じ・・・。そして・・・私はやっぱり豊音が好きだったんだ・・・)
塞(豊音・・・。どうして豊音が生きているうちに好きだって言えなかったんだろう・・・)
塞「あれ、この帽子は・・・豊音の・・・。そっか、形見としてもらったんだった・・・」
塞「こんなの持ってても余計辛くなるだけなのに・・・」
塞(・・・夢の中で豊音は寂しがってた気がする。豊音には私がついててあげないと)
塞(豊音の帽子だって持った。今度はもう失敗しない)
塞(待ってて豊音、一人ぼっちにはさせないから)
シロ「塞、何で・・・」
胡桃「バカ・・・」
エイ「サエ、ブッダ・・・」
病院を抜け出した塞は、その日のうちに冷たくなって発見された
そして、二度と目を覚ますことはなかった
完
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