武術家「お前は卑怯だ!」幻術使い「なんでだよ!?」 (89)

< 村 >

武術家「……なるほど」

武術家「時折村を荒らしにくる、ならず者集団をとっちめりゃいいわけだな?」

村長「おっしゃる通りです」

村長「数は20人ですが、いずれもひどい乱暴者でして……」

幻術使い「フフフ……」バサッ

幻術使い「ま、ボクらに任せておきなよ」

幻術使い「コンビを組んでまだ日は浅いけど、腕はたしかだからさ」

村長(体つきがガッシリした武術家さんはともかく……)

村長(こっちの人は、本当に戦えるんだろうか?)

ザッザッザッ……

ならず者A「さぁ~て、今日も金品を巻き上げてやるか」

ならず者B「へっへっへ……」

ならず者C「ん、村の入り口に誰か立ってるぞ」



武術家「ここから先は通さねえぜ」

幻術使い「悪いけど、今日で君たちは牢屋行きだ」



ならず者A「……ん?」

ならず者A「バカそうな格闘家と、女みてえなツラの術士か……」

武術家「バ、バカじゃねえよ!」

幻術使い「お、女じゃないっ!」

ならず者A「てめえら……何者だ!?」

武術家「この村に用心棒として雇われたんだよ!」

幻術使い「弱い者いじめしかできない乱暴者をやっつけてくれってね」

ならず者A「おもしれえ……」

ならず者A「野郎ども! 二手に分かれて、一気にケリつけんぞ!」

ウオオォォォォォ……!

ドドドドド……!

武術家「キレイに半分ずつに分かれたな」

幻術使い「それじゃ、それぞれ10人ずつ倒すことにしようか」

ならず者A「オラァッ!」ブンッ

武術家「うおっと!」サッ

武術家「どりゃっ!」シュッ

ドゴォッ!

ならず者A「うげぇっ……!」ヨロッ…

「この野郎ォ!」 「やりやがったな!」 「許せねえ!」

ガッ! ゴッ! ドガッ! バキッ! ガンッ!

武術家(ぐおっ……こいつら、口だけじゃねえな! 結構……やりやがる!)



村長(おお、さすが武術家さんじゃ!)

村長(苦戦はしておるが、10人を相手に優勢に戦っておる!)

村長(さて、もう一人の方は──)

村長「!?」



ならず者B「財宝の山だァ~!」ジタバタ…

ならず者B「ザックザックだァ~!」ジタバタ…

「ヒャッホ~!」 「もう一生遊んで暮らせるぜ!」 「すげぇ~!」

幻術使い「フフフ……ついでに食べ物とお酒もつけようか?」



村長「これは……いったいどうなっておるんじゃ!?」

ならず者C「ぐええっ……」ドサッ…

武術家「ハァ……ハァ……」

武術家(五人倒したから……えぇと10引く5で……あと五人!)

「こ、こいつ強えぞ!」 「ビビるな、こっちが数は上だ!」 「一気にかかれえっ!」

ワアァァァァァ……! ウオォォォォォ……!

ドゴッ! バキッ! ガッ! ガスッ! ベシッ!

武術家(久々に骨のある連中だ……! だが、負けらんねえ!)

武術家「うおおおおおおおおおっ!!!」

ドゴォッ!

ならず者B「なんて美味い料理なんだ! たまらねえ~!」ジタバタ…

幻術使い「お楽しみ中悪いけど、手足を縛らせてもらうよ」ギュッ…

ならず者B「うおおおお~! うめえ、こんな美味い酒は初めてだ!」ジタバタ…

幻術使い「これでよし」ギュッ…

幻術使い「いっちょあがりっと」



オォ~……!

村長「す、すごい……! ならず者たちをあっという間に……!」

「すげえ!」 「相手を一切傷つけずに倒した!」 「鮮やかだな~!」

武術家「でやあっ!」

バキィッ!

「うぐあぁぁっ……!」ドサッ…

武術家「ハァ、ハァ、ハァ……これで10人……」ボロ…

武術家「ったく、手こずらせやがって……」ハァハァ…

武術家「村長さん、これで10人倒し──」チラッ



ワイワイ…… ガヤガヤ……

「いったいどういう技!?」 「すごいなァ~」 「大したもんだ!」

幻術使い「大したことないよ、こんなのは幻術の初歩さ」



武術家「…………」ボロッ…

村長「ありがとう……!」

村長「おかげでならず者どもを、捕えることができましたわい」

幻術使い「いえいえ」

武術家「…………」

村長「では、お二人に約束の報酬ですじゃ」

村長「お二人それぞれに、1万ゴールドずつ、でしたな」

幻術使い「ありがとう」

武術家「……どうも」

幻術使い「さて、大きな町に寄って一杯やってく?」

武術家「…………」

幻術使い「? ──どうしたんだい?」

武術家「依頼斡旋所でたまたま出会って、お前とコンビを組んで、はや数ヶ月……」

武術家「ずっといいたいことがあったんだが……」

幻術使い「?」

武術家「お前は卑怯だ!」

幻術使い「なんでだよ!?」

武術家「だってよ……」

武術家「俺は正々堂々、敵に立ち向かって」

武術家「こうやって体を張ってボロボロになりながら敵を倒してるってのに……」

武術家「お前ときたら、幻で敵を惑わせてるだけじゃねえか!」

武術家「一滴の汗も流しやしねえ!」

幻術使い「なにいってんだよ!」

幻術使い「そんなもの、ただの戦闘スタイルの違いじゃないか!」

武術家「い~や、おかしい!」

武術家「日頃汗水垂らしてトレーニングして、体張ってる俺と」

武術家「涼しい顔して幻術で敵を倒すお前が、報酬が同じだなんて」

武術家「なんというか……そう、不公平だ!」

幻術使い「ボクだって、幻術を身につけるための訓練はしてきたよ!」

幻術使い「もちろん今だって、訓練は欠かしていない!」

幻術使い「体を張ってるとか、動かす動かさない、だけで」

幻術使い「努力してないみたいにいわれるのは心外だ!」

幻術使い「それに、体を使わない術士なんて、ボク以外にもいっぱいいるじゃないか!」

武術家「いや……お前が卑怯だっていう理由は他にもある」

幻術使い「なんだよ?」

武術家「それは……幻術そのものだ!」

幻術使い「ハァ?」

武術家「いきなりだが、今から軽く手合わせしようや」サッ

幻術使い「な、なんで!? 意味が分からないんだけど!」

武術家「問答無用! いくぜえっ!」ダッ

バチィッ!

幻術使い「ぐあっ……!」ドサッ…

武術家「ったく、あんな軽いパンチで倒れやがって! だらしねえ!」

幻術使い「うぐぅ……ま、参った! 降参だ! 君はボクよりずっと強い!」

武術家「分かりゃいいんだ」

武術家「どうだ、これで思い知っただろ?」

武術家「体を張る、体を鍛えるってのが、どれだけ大事かってことが」

幻術使い「よく分かったよ……」

幻術使い「ごめんなさい……」

幻術使い「どうか許して下さい……ボクが悪かったです……」

武術家「そうしおらしくなるなよ。俺たち、パートナーだろ?」ニッ

幻術使い「いや、それじゃボクの気が済まない!」

武術家「じゃあ、どうするってんだ」

幻術使い「実は……君にプレゼントがあるんだ!」

武術家「プレゼント?」

幻術使い「ほら、あれを見て!」バッ

武術家「こ、これは……!」

武術家「すげえ……高級トレーニング器具がこんなに! どうしたんだ、これ!?」

幻術使い「どうだい? 気に入ってくれたかい?」

武術家「ああ、気に入ったよ!」

幻術使い「あと、これからはボクも君を見習って、トレーニングするよ!」

武術家「フッ……みっちりしごいてやるからな!」

幻術使い「お願いします、先生!」

武術家「トレーニングは楽しいなぁ~~~~~!」ギチッギチッ…

武術家「アッハッハッハッハァ~~~~~!」ギチッギチッ…

……………………

…………

……



武術家「トレーニングは楽しいなぁ……」ジタバタ…

武術家「アッハッハッハッハ……」ジタバタ…

武術家「!」ハッ

幻術使い「どう? トレーニング楽しかった?」

武術家「…………」カァァ…

武術家「……だ、か、ら!」

武術家「こういうのが卑怯だっていうんだよ!」

武術家「人を持ち上げておいて、一気に叩き落とす……」

武術家「そういうのは……えぇと、よくない! ずるいっ! 残酷だ!」

幻術使い「たしか格闘技にだって、相手を持ち上げて叩き落とす技はあるだろう?」

幻術使い「パワーボム、だっけ?」

武術家「それは物理的に叩き落とす、だろうが!」

幻術使い「なんだったら、痛かったりむごい幻覚を見せることもできるけど?」

幻術使い「ボクの趣味じゃないから、めったにやらないけどさ」

武術家「だからそういうことじゃねえんだって!」

武術家「なんていうかな……」

武術家「そういう何でもアリな技で、涼しい顔して敵を倒すのがムカつくんだよ!」

幻術使い「ふん、ひどいいいがかりだ」

幻術使い「ようするにだ」

幻術使い「自分が無傷で勝てないのを、ボクに八つ当たりしてるだけじゃないか!」

武術家「!」ギクッ

幻術使い「お、図星?」

幻術使い「なんだったら少し教えてあげようか? 幻術」

武術家「ぐぬぬ……」イライラ…

武術家「いい加減にしろよォ!」

武術家「女みたいなツラして、ぶ厚いローブ着やがって……!」

武術家「どうせ、体も女みてえに華奢で、アバラ浮いてて胸板とか全然ないんだろ!?」

幻術使い「!」

武術家「それがコンプレックスだから、体型隠すために厚着してんだろ!?」スッ

幻術使い「!!!」

幻術使い「さ、さわんな、バカ!」

バシッ!

武術家「いって……!」ジンジン…

武術家「なんだよ……くそっ。さわんなってことはねえだろ」

幻術使い(あ、危ないところだった……)ドキドキ…

< 依頼斡旋所 >

職員「おや、どうしました、お二人とも?」

職員「なんだか機嫌が悪いですね」

武術家「…………」ムスッ

幻術使い「…………」ムスッ

職員「ところで……さっき入ってきた仕事があるんですが」

職員「東の町にたむろしてるチンピラ集団を倒して欲しいって依頼なんですが……」

幻術使い「東の町っていったら……ボクが住んでる町だし、やるよ」

職員「では、武術家さんも一緒に──」

幻術使い「こんな依頼、ボク一人で十分だ!」

職員「は、はぁ……」

武術家「……勝手にしろ!」

幻術使い(ふん、武術家め)

幻術使い(体張らなきゃダメとか、幻術は卑怯、とか丸きりいいがかりじゃないか!)

幻術使い(私だって、幻術を身につけるために必死に努力してきたんだ!)

幻術使い(卑怯者呼ばわり筋合いなんかまったくない!)

幻術使い(この数ヶ月で結構頼りがいのある奴だな、ずっとパートナーにしたいな)

幻術使い(──って思ってたけど、あんな奴だとは思わなかった!)

幻術使い(もう……知るもんか!)

< 東の町 >

チンピラA「あ? なんだてめえは!?」

チンピラB「やんのか、コラ!?」

幻術使い「お前たちがいると、町の人が迷惑するんだ」

幻術使い「ジャマだから、退治させてもらうよ」

チンピラA「ンだとォ……!?」

チンピラB「てめえみたいなヒョロガキに、俺らをやれると思ってんのか!?」

幻術使い「うるっさいな……」

幻術使い「ボク、イライラしてんだ。さっさとかかってきなよ」

チンピラA「クソガキがァ!」ダッ

チンピラB「ブッ殺してやるゥ!」ダッ

チンピラA「金だ、ゴールドだ……! うへへへへへ……」ジタバタ…

チンピラB「ハーレムだぁ!」ジタバタ…

「おいし~い!」 「お花畑だぁ……」 「俺、空を飛んでる!」

幻術使い「ふう……こんなところかな」

幻術使い(ボクもこの数ヶ月でだいぶ幻術の腕を上げたし)

幻術使い(もう……武術家と組む必要はないよな!)

幻術使い(決めた! これからは私一人で──)



チンピラC(ちょっと町でカツアゲしてたら、どうなってんだこりゃ……?)スッ…

チンピラC(あのヤロウがやったのか……?)

チンピラC(なら……後ろからナイフでブッ刺してやる!)ダッ

幻術使い「!」ハッ

幻術使い「し、しまっ──」

グサッ……!

幻術使い「え……?」

武術家「ぐうっ……!」ブシュッ…

チンピラC「なんだてめえ!?」

武術家「こんなザコ野郎に後ろを取られやがって……」

武術家「しかも全然反応できてなかったじゃねえか……」

武術家「だから体を鍛えとけって……いっただ、ろ……?」シュッ

ドゴォッ!

チンピラC「ぐはァ!」ドザァッ…

武術家「ぐうっ……これで、全員だ、な……」ヨロッ…

幻術使い「おい! 大丈夫か、武術家!?」

武術家「大丈夫……鍛えて、っからな……」ヨタッ…

幻術使い「ごめんなさい……ごめんなさい……」

武術家「き、気にすん、な……俺の、ドジだ……」グラッ…

ドサッ……!

幻術使い「ああっ!」

幻術使い「しっかり! しっかりしてよ、武術家!」

幻術使い(この町に、寝かせられるような病院はない……)

幻術使い(応急処置をして、私の家に運ばないと!)

< 幻術使いの家 >

幻術使い「ふう……」

幻術使い(幻術で脳内に血が止まるイメージを植えこんだら、血を止めることができた)

幻術使い(あとは、呼んでおいた医者が到着すれば……)

バタンッ!

医者「お待たせした!」

幻術使い「あっ、お医者さん! 武術家が腹を刺されたんです!」

幻術使い「ボクが応急処置はして、今眠ってるんだけど……」

医者「ふむ……とにかく診てみよう」

医者「よし……これで大丈夫だろう」

医者「さすが格闘家、鍛え方がちがうよ」

医者「それに大事な臓器や大きな血管は外れてたし……全く問題ないだろう」

幻術使い「ありがとうございます!」

医者「ところで、私は一度戻るが……君も一度風呂に入った方がいいんじゃないか?」

幻術使い「えっ?」

医者「汗びっしょりだよ」

医者「こんなことがあった上に、そんな厚着してちゃねえ。ハッハッハ……」

幻術使い「そ、そうですね、そうします!」

< シャワー室 >

シャァァァ……

幻術使い(よかった……)

幻術使い(命に別状がないようで、なによりだ)

幻術使い(あとは私がポジティブな幻覚を見せれば)

幻術使い(暗示効果でより早く回復するハズ……)

幻術使い(もっとも、あと数時間は目を覚まさないだろうけど──)

幻術使い(あ~……シャワー気持ちいい)

幻術使い(弱みを見せないため男のフリをする私が、女でいられる数少ない時間だ)

幻術使い(幻術使いが自分自身を偽ってるってのも皮肉な話だなぁ……)

幻術使い「フンフ~ン……」

ガラッ!

幻術使い「うわぁ!?」ビクッ

武術家「あ、わり……目ェ覚めちまって……どこかで水漏れでもしてんのかと──」

武術家「!?」ギョッ

武術家(幻術使い……だよな!? でも体は……どう見ても女……だよな!?)

幻術使い「…………!」

武術家「ま、まさか……」

武術家「お前……女だったのか!?」

幻術使い「ち、ちがう!」バッ

幻術使い「これは幻覚だ! わた……ボクは女なんかじゃない!」

武術家「!」

武術家「なんだ……そうか……ビックリしちまったぜ」

幻術使い(どうしよう……どうしよう……! 裸……見られちゃった……!)

武術家「ったく、あのヤロウ、なんでこんな幻覚を見せてるんだか……」

武術家「お前が女だっていう幻覚なんか、な」

幻術使い(あ~もう、なんでもいいから早く出ていって!)

幻術使い(今の私の精神状態じゃ、とても幻術は使えないし……!)

武術家「……ちょっと待てよ」

武術家「今見てるのが幻術なら、俺は何してもいいってことだよな?」

武術家「何をしても、現実には影響がないってことだよな?」ニヤッ

幻術使い「えっ!?」ビクッ

幻術使い(もし、今、武術家に襲いかかられたらひとたまりも……!)

武術家「…………」ガバッ

幻術使い(は……? 土下座!? ──な、なんで?)

武術家「すまなかった」

武術家「お前のことを卑怯者呼ばわりしてすまなかった」

武術家「俺は……お前のスマートな戦い方に嫉妬してたんだ」

武術家「同時に、あんな奴らに手こずる自分の未熟さにもイラついてた」

武術家「だから、悔しいやらムカつくやらで、あんなことをいっちまった……」

武術家「お前がいったことは、全部図星も図星だったんだ」

幻術使い「武術家……」

武術家「本当に……申し訳ないっ!」

武術家「許してくれっ!」

幻術使い「……いや、いいんだよ、もう。気にしないで」

武術家「ま……本当は幻覚の中じゃなく、現実で謝らなきゃいけないんだけどな」

武術家「なかなかなぁ……」

武術家「……にしても、お前、なかなか色っぽい体してんな」

幻術使い「えっ……」ドキッ

武術家「幻覚の中で、しかも本来男であるお前に惚れちまったら」

武術家「あとで嫌悪感が凄まじいことになりそうだから、平静を保ててるけど」

武術家「これがもし現実で、お前が本当に女だったら──」

武術家「頭どうにかなっちゃってたかもな」

武術家「って、我ながら気持ちわりぃわ! んじゃな!」

武術家「もうひと眠りするかァ~、幻覚で寝るってのも妙な話だけど」スタスタ…

幻術使い「…………」

そして──

武術家「……ん」ムクッ

幻術使い「おはよ」

武術家「おう」

幻術使い「さっきは助けてくれて、ありがとう」

武術家「いや、別にいいって」

武術家「…………」

武術家(なんか、幻術使いが妙に色っぽく見えるな……幻覚の影響か? やべえな俺)

武術家「お前……なんであんな変な幻覚を見せたんだ?」

武術家「お前が女になってる幻覚なんて……なにが狙いだったんだよ」

幻術使い「ううん、あれは幻覚じゃないよ」

武術家「え?」

武術家(幻覚じゃない……ってことは夢だったってことか?)

武術家「わりぃ……どうもおかしな夢を見てたみたいだ。お前が女だっていう……」

幻術使い「夢でもないよ」

武術家「へ?」

武術家「幻覚でも夢でもないってことは……?」

幻術使い「現実だよ……」

武術家「ってことは、まさか──お前!?」

幻術使い「うん……私、女」

武術家「~~~~~~~~~~~!」

武術家(つまり、さっきのシャワー室での出来事は、現実!?)

武術家「いやっ、そのっ、さっきは悪かったっ!」

武術家「シャワー室入ったのは、わざとじゃなくって……事故でございまして……」

幻術使い「いいんだよ。土下座までしてもらったんだし」

武術家「あ、あ、あ、アハハ……ハ……」

幻術使い「これからもパートナーとして、よろしくね」

武術家「あ、ども……よろしく……」

幻術使い「あとね……せっかくだからとっておきの秘密、教えてあげる」

武術家「秘密……?」

幻術使い「うん……私の幻術の解除方法」

幻術使い「これは、もし自分に幻術返しをされた時のための保険でもあるんだけど」

幻術使い「私の幻覚の中には、必ずどこかに私が登場するんだ」

幻術使い「そしてその私の胸にさわると……幻術を解くことができるんだ」

武術家「胸に……さわる? ふ、ふぅ~ん……」

幻術使い「だから……今からこの世界が幻術じゃないってたしかめてみて」

武術家「え……」

幻術使い「たしかめてみて」

武術家「……わ、分かった。いいんだな?」

幻術使い「うん……武術家なら、いいよ」

武術家「よ、よし、じゃあ──」スッ…

むにゅっ……

……………………

…………

……



武術家「…………」

武術家「!」ハッ

武術家「……え……」

武術家(ここは……俺の家だ……)

武術家「ま、まさか……今までのは……」

武術家「幻……覚……?」

幻術使い「お帰り~」

幻術使い「フフフ……どうだった? 一年前の初々しい気持ちを取り戻せた?」

武術家「『取り戻せた?』じゃねえよ!」

武術家「お前な、喧嘩するたびにあの頃の幻覚見せるのやめろ!」

武術家(毎度毎度、完全に惑わされる俺も俺だけど……)

武術家「しかも、幻覚内で幻術にかけられるし、俺がいない場面もあったし!」

武術家「挙げ句の果てには、他人の心の声まで再現されてたし!」

武術家「その上、あんだけ長い幻覚だったのに、五分しか経ってねえし!」

武術家「いったいどういう仕組みなんだよ!? おかしいだろ、どう考えても!?」

幻術使い「最新の幻術は、そういうことも可能なんだよ」

幻術使い「あと、脳に悪影響はないから安心して。それ以上バカになっても困るし」

武術家「……ったく、ホント何でもアリだな」

幻術使い「ただし、再現といっても、一ヶ所だけ過去を改ざんさせてもらったけどね」

幻術使い「武術家が私を触ろうとした場面、あそこはホントは──」



武術家『それがコンプレックスだから、体型隠すために厚着してんだろ!?』ムニッ

幻術使い『!!!』

武術家『ん? なんだ今の柔らかいの』

幻術使い『さ、さわんな、バカ!』



幻術使い「──だったんだけど」

幻術使い「あそこで胸をさわられちゃうと、術が解けちゃうからさ。少しいじった」

武術家「そういやそうだったな……。芸が細かいな……お前」

幻術使い「それにさ、武術家も武術家だよ」

幻術使い「私の幻術を何度も喰らってて、解除方法もちゃんと教えてるのに」

幻術使い「毎回毎回、見事に引っかかってくれるんだから」

幻術使い「今回の幻術だって途中で幻覚だって気づけば、簡単に解除できただろうに」

武術家「うぐっ……!」

幻術使い「ま、私は楽しいからいいけどさ」ケラケラ…

武術家「お、お前なァ!」

武術家「…………」

武術家「まぁいいや……怒る気力もなくなっちまった。もう喧嘩はやめよう」

幻術使い「じゃ、仲直りってことで!」ムギュッ…

武術家「うわっ、いきなり抱きついてくんな!」

幻術使い「何回幻術を受けても学習せず」

幻術使い「すぐ惑わされちゃう頭まで筋肉なトンチンカンに」

幻術使い「今この瞬間が幻覚じゃないことを示すためだよ」ムニュ…

武術家「~~~~~~~~~~!」

幻術使い「仲直り記念に……今夜は楽しも? もちろん幻覚なんかじゃなく現実で」

武術家「……や、やっぱり……」

武術家「お前は卑怯だ!」

幻術使い「なんでだよ!?」





                                 ~ おわり ~

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