シンジ「ねぇ、綾波は765プロの中では誰が好きなの?」(107)

レイ「……なむこ、ぷろ?」

シンジ「うん」

レイ「……何、それ」

シンジ「えっ」

シンジ「知らないの? 765プロ」

レイ「ええ」

シンジ「そっか……綾波はあんまりテレビとか観ないもんね」

レイ「ええ」

シンジ「あ! じゃあこれ貸してあげるよ! 今年の6月にやった765プロオールスターライブのBD!」

レイ「…………」

シンジ「観たら是非感想聞かせてよ! 綾波も絶対ハマると思うから!」

レイ「……分かったわ」

~NERV~

リツコ「これは……ブルーレイディスクね。これを観たいというの?」

レイ「はい」

リツコ「……正直、あなたがこうした類のものに関心を持つのは非常に興味深いことだわ。……分かりました、すぐにあなたの部屋にブルーレイ内蔵型のテレビを手配させましょう」

レイ「……ありがとうございます。赤木博士」

~レイの部屋~

レイ「……ディスクを挿入すると……自動的に再生される……これでいいはず」

レイ「…………」

レイ「……始まった」

レイ「…………」

レイ「…………」

レイ「……すごい、人」

レイ「…………」

レイ「……歓声、野太い」

レイ「…………」

レイ「…………」

~翌日、第壱中学校~

シンジ「綾波、765ライブのBD観たかなあ」

アスカ「あんた……あれ二枚組で八時間近くあるじゃないの。どうやって一晩で観るのよ」

シンジ「まあそうなんだけどさ。でも一枚だけでも観てくれてないかな」

アスカ「どーだか……あのエコヒイキがアイドルに関心持つとも思えないけどね」

シンジ「やっぱりそうかなあ……あ、きた! って……」

アスカ「ちょっ……目の下のクマ、すごっ……」

レイ「……おはよう」

シンジ「お、おはよう……綾波」

アスカ「……何? 昨日、徹夜で起動実験でもしてたの?」

レイ「……碇君に借りたBD、観てた」

アスカ「……全部?」

レイ「……全部」

アスカ「……マジで?」

レイ「……マジで」

シンジ「……あ」

レイ「?」

シンジ「綾波ィイイイイッッッッ!!」

(ガシッ)

レイ「!」

シンジ「まさか……まさか一晩で全部観てくれるなんて!! 嬉しい……本当に嬉しいよ!! 綾波!!」ユッサユッサ

レイ「…………」ガックガック

アスカ「ちょ、ちょっとシンジ、興奮し過ぎよ。そんなに激しく揺さぶったら、今にもこいつぶっ倒れかねないわよ」

シンジ「あ、ご、ごめん綾波」パッ

レイ「……いい。大丈夫」

シンジ「そ……それで、綾波」

レイ「? なに?」

シンジ「あ、綾波は……誰のファンになったの?」

レイ「…………」

アスカ「……いや、一回観ただけじゃまだそういうの難しいんじゃないの。結構人数いるし」

シンジ「あー、それもそうか。まあでも、ちょっと良いなーって思った程度でもいいからさ」

レイ「…………」

シンジ「あ、ちなみに僕はね、高槻やよいちゃ……」

レイ「……如月千早」

シンジ「えっ」

アスカ「ほう」

シンジ「ちーちゃんか……なるほど、なんか綾波らしいかも」

アスカ「そうね……なんかこう、妙に納得するというか」

レイ「……彼女の」

シンジ「ん?」

レイ「……彼女の歌声を聴いて、今まで感じたことのない気持ちになった」

シンジ「綾波」

レイ「……どう表現していいのか分からないけど……胸に奥に沁み込んでくるような、聴き終わってからしばらく、何も手につかなくなるような……そんな衝動を覚えた」

アスカ「…………」

レイ「……私は、この衝動をどう呼んでいいのか分からない。今まで、知らなかったから」

シンジ「……綾波……」

アスカ「はぁ……あんた、バカァ?」

レイ「?」

アスカ「……それはね、“感動”っていうのよ」

レイ「感……動……」

シンジ「そうだよ綾波。綾波はちーちゃんの歌を聴いて感動したんだ」

レイ「…………」

シンジ「まあちーちゃんの歌唱力は765の中でも折り紙付きだからねぇ。『アイドル』より『歌手』って呼んだ方がしっくりくるんじゃないかってくらい上手いし」

レイ「…………私」

シンジ「ん?」

レイ「……如月千早の歌を聴きたい。テレビ画面を通してではなく、直接」

シンジ「それは……ライブに行きたいってこと?」

綾波「…………」コクリ

シンジ「あー……まあ確かに冬にまたあるけど……もう完売しちゃってるんだよな……」

綾波「……そうなの?」

シンジ「うん。僕もアスカも頑張って何回か応募したんだけど、結局抽籤で外れ―――ムグッ!?」

アスカ(ちょっと馬鹿シンジ! 何勝手にあたしの名前まで出してんのよ!)

シンジ(勝手にって……今まで普通に会話してたんだしいいじゃないか)

アスカ(はぁ!? あたしはあくまで一般的知見にもとづいての意見しか発してないでしょうが!)

シンジ(なんだよもう……細かいこと気にして)

アスカ(細かくない!)

レイ「どうしたの?」

アスカ「ああいやいや、なんでもないのよなんでも……あははは」

シンジ「ったく……これだから隠れは……」

アスカ「あ? 何か言った?」

シンジ「……いいえ、何も」

レイ「?」

シンジ「……まあそういうわけで、次のライブはもう全部チケット完売しちゃってるから行けないんだよ」

レイ「……そう」

シンジ「そ、そんな悲しそうな顔しないでよ綾波! またその次のライブに応募すればいいから!」

レイ「……応募したら行けるの?」

シンジ「……そ、それはまあ、抽選に通ったら、かな……」

レイ「……抽籤」

シンジ「765のファンは多いからね……絶対行けるってわけじゃないんだよ」

レイ「……そう」

アスカ「こらこら。そんな暗い顔しないの。本当のファンなら、何度落とされても諦めずに応募し続けるもの―――って、このバカが言ってたわよ」

シンジ「……本当のファンなら、もっと堂々としてればいいのに……」

アスカ「あ? 何か言った?」

シンジ「……いいえ、何も」

~翌日、第壱中学校~

レイ「おはよう」

シンジ「おはよう……って、あ、綾波?」

アスカ「な、なんか目に見えて機嫌良さそうね……なんかあったの?」

レイ「……これ」

シンジ「! な……765プロライブのチケット? 今度やるやつの……どうして!?」

アスカ「しかも三枚もあるじゃない……」

シンジ「ま、まさか綾波、ネットオークションとかで法外な値段で買ったりしたんじゃ……」

レイ「違う」

シンジ「?」

アスカ「じゃああんた、これ、一体……」

レイ「……碇司令に言ったら、もらえた」

シンジ「……もらった? 父さんから?」

アスカ「……どういうことなのかしら……」

シンジ「さあ……」

シンジ「ま、まあ……何にせよ良かったね。綾波」

アスカ「……そんなことなら、あたしも碇司令に言えばよかった」

シンジ「アスカ、出てる出てる」

アスカ「おっふ……!」

レイ「……これ」

シンジ「?」

アスカ「え?」

レイ「二人も、一緒に」

シンジ「……え?」

アスカ「……ま、マジで?」

レイ「マジで」

シンジ「……あ」

レイ「?」

シンジ「綾波ィイイイイッッッッ!!」

(ガシッ)

レイ「!」

シンジ「まさか……まさかこれ僕達の分だったなんて!! 嬉しい……本当に嬉しいよ!! 綾波!!」ユッサユッサ

レイ「…………」ガックガック

アスカ「ちょ、ちょっとシンジ、興奮し過ぎよ! ……ま、まあ気持ちは分かるけど……」

シンジ「あ、ご、ごめん綾波」パッ

レイ「……いい。大丈夫。それより……」

シンジ「?」

レイ「……二人とも、一緒に来てくれる?」

シンジ「もっちろん!」

アスカ「ま、まあ……仕方ないわね。どうしてもっていうなら、行ってあげないこともないわ」

シンジ「いい加減素直になりなよアスカ」

アスカ「うっさいわねこの馬鹿シンジ!」ポカッ

シンジ「ったあ! 殴ることないだろー!?」

レイ「…………」

アスカ「大体いつもあんたは―――」

シンジ「そういうアスカこそ―――」

レイ(……なんだか、ぽかぽかする)

シンジ「よし! そうと決まればライブの日まで特訓だ!」

レイ「特訓?」

シンジ「うん。コールのね!」

レイ「コール?」

シンジ「そっか、綾波はまだ知らないか。まあ大丈夫、僕とアスカでみっちり鍛えてあげるから!」

レイ「………よくわからないけど、ありがとう」

アスカ「……ったく、もう……勝手にあたしまで入れてんじゃないわよ」

シンジ「ふーん? じゃあアスカは僕と綾波がコール入れまくる様を指を咥えて観ててくれてもいいけど……」

アスカ「ぐっ……鬼かあんたは……」

シンジ「ふふっ。冗談だよ」

アスカ「ったく……性格悪いわよ、あんた」

シンジ「あはは、ごめんごめん。……じゃあいくよ! 765プローッ! ファイトーッ!」

レイ「…………」

アスカ「…………」

シンジ「ちょっ……せめてアスカは言ってよ!」

 ―― 一ヶ月後 ――


やよい『鏡を見れば超ラブリー♪』

シンジ「うっふん!」

やよい『トキメキラリ☆ ぐっとギュッと』

アスカ「ギュゥッと!」

やよい『私は私がダイスキ♪』

レイ「いぇい」

やよい『フレーフレー頑張れ! さあ行こう♪ フレーフレー頑張れ! 最高♪』

シンジ・アスカ・レイ「フレーフレー頑張れ! さあ行こう!! フレーフレー頑張れ! 最高!!」

シンジ「よし……これでもうコールは完璧だ」

アスカ「まあこれくらい、このあたしに掛かればお茶の子さいさいよ」

シンジ「……いや、アスカは元からできてt」

アスカ「あ?」

シンジ「……何でもないです」

レイ「…………」ゼェゼェ

シンジ「あ、大丈夫? 綾波。ちょっと飛ばし過ぎたかな……」

レイ「……いい。大丈夫」

シンジ「そう? まあ無理だけは禁物だからね。コールの練習し過ぎで本番筋肉痛、とかになったら目も当てられないし」

レイ「……ありがとう。大丈夫」

アスカ「……ま、本番まであと一週間だし、後はもう静養と体調管理に努めて……ん? 電話? ……もしもし。あーミサト? どうしたの?」

アスカ「……え? ……うん。……うん。……そう。わかった。うん。二人も今一緒にいるから、私の方から伝えとくわ。うん……じゃあね」

シンジ「ミサトさんから? 何だって?」

レイ「…………」

アスカ「……米国の四号機が消滅したって話……聞いてるわよね」

シンジ「へ? そうなの?」

アスカ「……あんた、知らなかったの?」

シンジ「うん」

アスカ「はー……ったく、お気楽な事だわね」

シンジ「な、なんだよ。しょうがないじゃないか。誰も教えてくれなかったんだから」

レイ「……その件で、エヴァ保有を嫌がるようになった米国が、3号機を本部に輸送してくると聞いているわ」

シンジ「え? そうなの?」

アスカ「……そう。それで、その3号機がもうすぐこっちに届くんだけど……その起動実験の日が……」

シンジ「……日が?」

レイ「…………」

アスカ「……今日から一週間後、だってさ」

シンジ「…………え?」

レイ「…………」

アスカ「…………」

シンジ「……それって……」

アスカ「そ。ライブの日。起動実験は昼からでライブは夜からだけど……まあ、ちょっと厳しいでしょうね。未知の機体だし」

シンジ「……パイロットは決まってるの?」

アスカ「まだ未定。一応、前日まで志願者を待ち、いないようならミサトの判断で決定するそうよ」

シンジ「……良かった」

アスカ「え?」

シンジ「綾波って……決まってるわけじゃないんだね」

レイ「碇君」

シンジ「僕が乗るよ。だからライブにはアスカとあやなm―――ぶっ!」ボカッ

アスカ「…………」

シンジ「アスカ! なんで殴るんだよ!」

アスカ「あんたバカァ? エコヒイキをこの世界に引き入れたのはどこのどいつよ?」

シンジ「そ、それは……」

アスカ「引き入れた以上、最後までしっかり面倒見なさい! わかった? バカシンジ!」

シンジ「アスカ……」

レイ「…………」

アスカ「それにあたしは、その……今のコールの練習で、ちょっと腕を痛めちゃったのよ。だからどのみち本番では、満足のいくコールを入れられそうにないわ」

シンジ「……アスカ、さっきお茶の子さいさいっておうふ!」ガスッ

アスカ「あ、ごめん。足が滑ったわ」

シンジ「す……脛は反則だよ……いっつぅ……」

レイ「…………」

アスカ「ま、そーいうことだから、3号機にはあたしが乗るわ。……それにどのみち、あたしの弐号機、凍結されちゃうらしいし」

シンジ「……え? そうなの?」

アスカ「そ。だから3号機に乗らなきゃあたしがお払い箱になっちゃうの。だからあたしが乗るしかないの。はい、分かったら、これでこの話はおしまい!」

シンジ「アスカ……」

レイ「……弐号機の人」

アスカ「え?」

レイ「……ありがとう」

アスカ「…………」

レイ「…………」

アスカ「……アスカ、でいいわよ。……あたしもあんたのこと、レイ、って呼ぶから」

レイ「……ありがとう。……アスカ」

~一週間後、ライブ会場~

レイ「……碇君」

シンジ「ん? 何? 綾波」

レイ「ライブは夜からなのに、こんなに早く来るものなの?」

シンジ「ああ、物販があるからね」

レイ「物販……グッズの販売」

シンジ「そう。早くから並んどかないと、人気商品はすぐに売り切れちゃうんだ。特に会場限定グッズなんかはね」

レイ「そう」

シンジ「…………」

レイ「…………」

シンジ「…………」

レイ「…………」

シンジ「……アスカはそろそろ起動実験だな……」

レイ「…………」

シンジ「……アスカの分まで楽しもう、綾波」

レイ「……そうね」

シンジ「それに、実験が早く終わったら駆けつける、って行ってたし」

レイ「……そうね」

シンジ(……やっぱりちょっと元気ないな、綾波……)

シンジ「…………」

レイ「…………」

シンジ「……綾波」

レイ「何?」

シンジ「……ちーちゃんの歌で、特に歌ってほしいのって……なんかある?」

レイ「……『眠り姫』」

シンジ「あー、いいよねあれ。なんかこう、一歩を踏み出す勇気がもらえるというか」

レイ「……そうね」

シンジ「…………」

レイ「……私も」

シンジ「ん?」

レイ「今までずっと……自分の中に閉じこもっていた、ような気がする」

シンジ「綾波」

レイ「それは、特にそこから出る必要性を感じなかったからだけど、でも―――」

シンジ「……でも……?」

レイ「この一ヶ月間、碇君と、……アスカ、と……一緒にコールの練習をして……今までの自分とは、違う自分に出会えたような気がする」

シンジ「…………」

レイ「初めて、自分の中から、外に……一歩を踏み出すのも、良いな、って……そう、思えた」

シンジ「……綾波……」

シンジ「僕も、すごく楽しかっ――……? 電話だ。……本部から?」

レイ「…………」

シンジ「はい、もしもし。……えっ……」

レイ「…………」

シンジ「はい……はい。ええ、綾波も一緒にいます……はい、はい……」

レイ「…………」

シンジ「……わかりました。今すぐ向かいます」ピッ

レイ「……碇君?」

シンジ「……松代で……3号機の起動実験で……事故……だって……」

レイ「…………!」

~数時間後・初号機エントリープラグ内~

シンジ「状況は全然分からないままだ……」

シンジ「アスカも、ミサトさんもリツコさんも安否は不明……」

シンジ「綾波の零号機は未修理でとても出られない……」

シンジ「僕が……僕がなんとかするしか……」

青葉『峠付近で、映像を捉えました。主モニターに回します』

シンジ「……!? これって……」

シンジ「エヴァ……だよな……?」

シンジ「ってことは……アスカ、が……?」

ゲンドウ『活動停止信号を発信。エントリープラグを強制射出』

マヤ『ダメです! 停止信号、及びプラグ排出コード、認識しません!』

シンジ「プラグが排出されない……アスカはまだ乗ってるんだ……」

(跳躍する3号機)

シンジ「!?」ドゴォ

シンジ「って……ぐっ!」

(初号機の頸部を圧迫する3号機)

シンジ「ぐっ……うぅっ……アスカぁっ……!」

シンジ「……ぐっ……アスカを助けるには……どうにかして、プラグを……」

シンジ「でもこの状態じゃ……どうすれば……」

(更に強く初号機の頸部を圧迫する3号機)

シンジ「ぐああっ……くっ……くそぉっ……」

???『――ンj―――』

シンジ「……え?」

???『――ンジ―――』

シンジ「……? なんだこれ……混線してるのか?」

アスカ『――バカシンジ!』

シンジ「アスカ!?」

アスカ『……な、何モタモタ……してんの……よっ……』

シンジ「無事なの? アスカ!?」

アスカ『ぶ、無事なわけ……ないでしょうが……こ、こちとら必死で、あ、頭の中に入ってくるやつ、追い出そうとしてんだからっ……!』

シンジ「アスカ……!」


~NERV本部~


リツコ「信じられない……アスカの精神汚染度が減少している!?」

マヤ「あ、ありえません……一体どういう……」

冬月「……神の力か?」

ゲンドウ「……愛の力、だろうな」

冬月「碇……お前……」

ゲンドウ「…………」

アスカ『あ、あたしだって、ライブ……楽しみにしてたん、だからッ……』

シンジ「アスカ……」

アスカ『は、早くこんなやつ片付けて……行くわよ……ライブ!!』

シンジ「う……うん!」

アスカ『じゃあ……いい? シンジ……二人で呼吸を合わせるの』

シンジ「呼吸?」

アスカ『そう。あたしが一瞬だけ集中して……3号機の挙動を抑える』

シンジ「そんなことできるの?」

アスカ『やるしかない、でしょ……一応まだシンクロ状態ではあるはずだし』

シンジ「う、うん」

アスカ『そしてそのときに、あんた、あたしのエントリープラグを引っこ抜きなさい』

シンジ「わ……わかった!」

アスカ『い、いくわよ……せぇーのっ……』

シンジ「あ、ま、待ったアスカ」

アスカ『何よ? こっちはもう、精神汚染ギリギリのとこで踏ん張ってんだからッ……!』

シンジ「……どうせなら、あれでやろうよ」

アスカ『あれ? ああ……あれね』

シンジ「じゃあお願い……アスカからで」

アスカ『わかったわよ……ったく、しょーがないわねえ……じゃあいくわよ!』

アスカ『キラメキラリ☆ ずっとチュッと♪』

シンジ「チュチュッ!」

アスカ『地球で輝く光♪』

シンジ「ピラリン!」

アスカ『トキメキラリ☆ きっとキュンッと♪』

シンジ「キュンキュン!」

アスカ『鏡を見れば超ラブリー♪』

シンジ「うっふん!」

アスカ『トキメキラリ☆ ぐっとギュッと』

シンジ「ギュゥッと!」

アスカ『私は私がダイスキ♪』

シンジ「いぇい!」

アスカ『フレーフレー頑張れ! さあ行こう♪ フレーフレー頑張れ! 最高♪』

シンジ「フレーフレー頑張れ! さあ行こう!! フレーフレー頑張れ! 最高!!」


ズボォ!!!

~NERV本部~

マヤ「初号機、弐号機のエントリープラグを引っこ抜きました!」

ゲンドウ「弐号機のエントリープラグを回収後、初号機のプラグも強制射出」

冬月「初号機もだと? 碇、どういう……」

ゲンドウ「プラグさえ抜ければ後はただの物体に過ぎん。パイロットに操縦させるまでもない。現時刻をもってエヴァンゲリオン3号機は破棄。これより以降、監視対象物を第9使徒と識別する。初号機はプラグ排出後、ダミーシステムで再起動」

マヤ「は、はいっ!」

冬月「そうか……ダミーシステムにはまだ不安定な部分も多い。万が一の事故に備えてパイロットを先に出すということか」

ゲンドウ「…………ああ」

~数時間後、NERV本部・更衣室~

シンジ「なんで僕まで強制射出させられたんだろう……まあ、後はダミーとかいうので処理したらしいからいいけど……」

シンジ「って、もうこんな時間か……流石にもうライブは……」

アスカ「ちょっとシンジ!」

シンジ「うわあアスカ! まだ着替えてるんだから入ってこないでよ!」

アスカ「馬鹿! そんなこと言ってる場合じゃないわよ!」

シンジ「え?」

アスカ「ライブ! 今から行くわよ!」

シンジ「えっ……だってもうこんな時間……」

アスカ「非常事態宣言が出てたから、開始時刻を遅らせてたのよ! それが解けたから、当初の予定から三時間遅れでやるんだって!」

シンジ「! ほ……本当に!?」

レイ「……本当。碇司令が言ってた」

シンジ「綾波!」

レイ「碇君……ありがとう」

シンジ「えっ……?」

レイ「碇君のおかげで、ライブ……行けることになったから」

シンジ「そんな、僕なんて何も……お礼ならアスカに言ってよ」

レイ「……アスカに言ったら、『お礼ならバカシンジに言え』って」

シンジ「アスカ」

アスカ「ふ、ふんっ。ま、まあ……あんたがいなきゃ、あたし、まずどうなってたかわかんないしね」

シンジ「……アスカ……」

アスカ「ほ、ほら、何しんみりしてんのよ! 早く行かないと、今度こそ本当に遅刻よ、遅刻!」

シンジ「そ、そうだね。ほら綾波、行こう?」

レイ「……ええ」

レイ(今までずっと、自分の中に閉じこもっていた)

レイ(自分は自分の中にいて、碇司令さえ自分を見ていてくれたらそれでよかった)

レイ(でも)

レイ(外に一歩踏み出すことで、自分の中の何かが、確実に変わった)

レイ(……如月千早の歌を聴いたときに覚えた衝動が『感動』だったことは、アスカに教えてもらって知った)

レイ(でも)

レイ(今、自分の中にあるこの気持ちは、はっきりとわかる)

レイ(とてもぽかぽかとしている、この気持ち)

レイ(それは)

シンジ「あー、もう物販売り切れちゃってるよなー」

アスカ「あんたバカァ? ライブが観れるだけでもありがたいと思いなさいよ!」

シンジ「まあそれはそうなんだけどさ」

アスカ「ほらほらちゃっちゃと走る走る! レイも急がないと置いていくわよ!」

レイ「……ええ。分かっているわ」




レイ(―――楽しい。という、気持ち)





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