御坂「……?(誰よアイツ……見ない顔ね……)」 (21)

(ジャッジメント177支部)

詠矢「…(ポチポチ)」

白井「…(カリカリ)」

初春「…(カタカタ)」

詠矢「…(ポチポチ)」

白井「…(カリカリ)」

初春「…(カタカタ)」

白井「…初春、出来ました。入力をお願いしますわ」

初春「あ、はい…わかりました…」

白井は書きあがった書類を初春に手渡す。

詠矢「…忙しそうだ…ねえ…」

スマートフォンの上に指を走らせながら、詠矢はポツリと言った。

白井「そう、ではなくて実際に忙しいのです!」

白井「…詠矢さんも…お忙しそうで…」

当然ながら、その口調には皮肉が込められていた。

詠矢「んー、まあ、調べ物とかね…忙しくはねえけど…」

詠矢「…あ、なんか手伝おうか?」

白井「結構です!!ここには部外者に頼める仕事などありません!!」

詠矢「そっか、そりゃ失礼しました…」

軽く答える詠矢を白井はじとっと睨む。今更ながら、この人物に支部への出入りを許したことを少し後悔していた。

初春「…えっと…、今の書類で今日の分は終わりですから…」

初春「白井さんも少し休憩したらどうですか?」

白井「…そうですわね…では、お言葉に甘えてひと息入れさせていただきますわ…」

初春の助け舟に促され、白井は手を休め、ふうと小さく息を吐いた。

詠矢「…ん、と…食うかい?(ポチポチ)」

指を休めないまま、詠矢は紙袋を差し出す。

白井「…なんですの?」

詠矢「差し入れだよ…シュークリーム…美味しいと思うよ…」

白井「あら…ありがとうございます…。頂きますわ…」

詠矢「初春サンも手が空いたら食べなー」

初春「あ、はい!いつもありがとうございます…」

白井「では早速…(ガサ)…(パク)…」

白井「…(モグ)…美味しいですわね…」

詠矢「そらよかった…(ポチポチ)」

白井「…」

詠矢「…」

白井「…(モグ)」

詠矢「…(ポチポチ)」

白井「…」

白井「…はあ…」

思わず大きなため息を付く白井。

詠矢「どした…幸せが逃げるぜー」

白井「…逃げるほどの幸せもござませんわ」

詠矢「そりゃまたお疲れだねえ…」

詠矢「その雰囲気は…仕事疲れ…ってだけでもなさそうだね…」

白井「…その無遠慮な洞察力…相変わらずですわね…」

詠矢「ん、まあ、いろいろと想像は付くからね…」

詠矢「確か…御坂サンと同室なんだっけか…まあ、そりゃ疲れるわな…」

白井「お姉さまが毎日幸せそうなのはよろしいのですが…」

白井「毎度毎度…お二人の話を聞かされるのは…少々…」

詠矢「うわあ…結構すごそうだなあ…それ」

白井「さすがに最近はお姉さまも気を使っていただいて…」

白井「あまりお話はされないのですが…」

白井「全身から発せられるオーラというか…雰囲気がどうも…食傷気味でして…」

詠矢「そりゃ大変だねえ…。俺だと聞かされるのはバイト中ぐらいだからなあ」

詠矢「同じ部屋だと逃げる場所もねえもんな…」

白井「かといって部屋を変わるつもりは毛頭ございませんし…。慣れるしかないのでしょうが…」

詠矢「ま、そのうち二人とも安定してくるだろ。しばらくのガマンさ…」

白井「だとよろしいのですが…」

詠矢「…(ポチポチ)」

白井「…(モグ)」

初春「…(カタカタ)」

初春「…!!」

初春「白井さん!!事件みたいです!!」

白井「…!!どこですの!初春、詳細を!!」

白井は椅子から勢い良く立ち上がると、初春の後ろに回りパソコンのモニターを覗き込む。

初春「えっと…別支部で起こった強盗事件みたいです…犯人は取り逃がしたみたいで…」

初春「逃走中みたいです。応援要請が来てますね…」

白井「こっちに向かって逃げてくる犯人を、先回りして抑えればいいのですわね?」

初春「それがですね…(カタカタ)。相手は監視カメラの死角を選んで移動しています」

初春「かなり地の利があるようですね…」

白井「やっかいですわね…。ですが…逆に…」

白井「移動経路を予測できるかもしれませんわ…初春、お願いできますの?」

初春「はい!やってみます…。えと…犯人は風貌からしてスキルアウトらしいので…」

初春「予想できる目標の場所と…監視カメラの抜け道の情報を組み合わせて…(カタカタ)」

初春「…んでもって…ちょっと加工を…(カタカタカタ)」

初春「出ました!!」

白井「流石ですわね初春…。あら…これは…道が2本…ですの?」

初春「はい…条件を設定して絞り込んでみたんですけど…どうしてもこの2系統が残ります…」

白井「まずいですわね…固法先輩は今別の事件の対応中ですし…」

白井「初春にはここに残ってもらわないといけませんし…」

初春「先回りするにしても…二分の一になっちゃいます…ね…」

詠矢「…」

スマートフォンから目線を外し、詠矢は二人の方に向き直る。

詠矢「手伝おう…か?」

白井「へっ?」

白井「いえ…お気持ちはありがたいですが…お断りします…」

白井「一般人を事件に巻き込むわけにはまいりません!」

詠矢「巻き込まれるのは今に始まったことじゃねえけどな…」

白井「これは既にジャッジメントで対応している事件です。あくまでこちらで対応します!」

詠矢「まあ…正論…だけどね…大丈夫かい?」

白井「お気になさらず…なんとかしてみますわ」

初春「…」

初春『白井さん白井さん…』

白井『なんですの!』

初春『せっかくだからお願いしちゃいましょうよ!』

白井『何をバカな事を!この程度の事件、部外者の力を借りなくても…』

初春『でも今の状況じゃ完全に賭けになっちゃいますよ?』

白井『う…それは…』

詠矢「…(なんか揉めてるねえ)」

白井『ですが、状況的にはかなり危険です。もし何かあったら…』

初春『その辺は、ほら、大丈夫じゃないですか?』

初春『なんだかんだいって、詠矢さん、お強いですし…』

白井『それとこれとは…話が別です!』

初春『うーん…じゃあ、ですね…』

初春『危なくない範囲で、協力してもらえれば…いいんじゃないでしょうか…』

白井『…』

白井「そうですわね…」

白井「詠矢さん…では、ご協力いただけますか?」

詠矢「ういよ…喜んで!」

詠矢は立ち上がると、やる気をアピールするかのように首を回し腕を回す。

詠矢「んで、何やればいい?」

白井「見張り、ですわ」

白井「逃走経路の一方に待機していただき、犯人が通過するかどうかを確認してください」

白井「わたくしは別の経路を確認します」

詠矢「…んで、見つけたらどうすりゃいい?」

白井「こちらに連絡頂ければ結構です」

白井「更に先回りして、犯人を確保します」

詠矢「なるほど…白井サンなら、追いつくのは簡単だもんな」

白井「間違っても、ご自分で犯人と対峙しないように…」

詠矢「わかってる…その辺はわきまえてるさ…」

白井「約束ですわよ?」

白井「では、参ります!」

白井が詠矢の腕を掴むと同時に、二人の姿は掻き消えた。

(とある路地 廃屋)

二人は、朽ちた室内に現れる。

白井「…ここですわ」

詠矢「っと…なるほど…張り込みのポイントか…」

白井「この前の路地が、予想される逃走経路の一つです」

白井「詠矢さんは、ここを対象が通過するか確認してください」

詠矢「わかった…んで、見かけたら白井サンに連絡すればいいわけだね?」

白井「ええ、その通りです」

白井「対象の風体に関しては、初春から詠矢さんの携帯にデータが送られて来ます」

白井「そちらで確認してくださいまし」

詠矢「うい。で、いつまで張ってりゃいいのかな?」


白井「撤収するタイミングはこちらで指示します。それまではよろしくお願いします」

詠矢「了解。逆にこっちが発見されるとマズイだろうから…」

詠矢「隠れながら監視できるポイントでも探しとくか…」

白井「あと、しつこいようですが…」

詠矢「わかってるっての…出過ぎたマネはしねえよ…」

白井「なら結構ですわ…」

白井「わたくしも移動します」

詠矢「おう、んじゃ頑張って…」

白井「…では(シュン)」

詠矢「ってと…」

詠矢は辺りを見回しつつ張り込むポイントを探す。

詠矢「(おあつらえ向きに壁のトタンは穴だらけだな)」

詠矢「(覗き込むには苦労しねえが、相手から発見される可能性も高いな)」

詠矢「(ま…進行方向は向こうみたいだから…この辺…かね)」

適当な場所を見つけると、詠矢は静かに腰を下ろした。

詠矢「(ブブブ)…(お、メール来た…添付写真をっと…)」

詠矢「(…下品なツラしてやがんなあ…なんでこの手の奴って)」

詠矢「(判で押したような悪人面なのかね…)」

詠矢「(ま、確認しやすくていいがね…)」

詠矢「(…さて…)」

詠矢「(…暇なもんだな…)」

詠矢「(当たり前か…)」

詠矢「…」

詠矢「…お?」

五分とかからず変化が起こった。

足音と思われる、地面を蹴り上げるような音が近づいてくる。

強盗犯「ハアッ…ハアッ…」

息を切らせ、男が走ってくる。先ほどの悪人面の主である。

詠矢「…(来たか…こっちが当たりとはね…)」

詠矢「…(さて…集中しますか…)」

足音はあっという間に大きくなる。そして、それが最大音量となったとき。

詠矢のいる廃屋の前を通過した…。

強盗犯「ハアッ…ハア…」

詠矢「…!」

詠矢は息を潜め、走り抜ける男の顔を確認する。

詠矢「…(間違いねえ…コイツだ…!)」

送られてきた写真と対象を再度確認すると、すばやく詠矢はスマートフォンを操作する。

詠矢「(対象が目の前を通過。容貌から犯人であることを確認)…(約一分前に通過…っと)」

必要最小限の情報を入力すると、詠矢はすぐさまメールを送信した。
詠矢「…」

詠矢「…(こんで、仕事終わりかな?)」

詠矢「…(ブブブ)…(お、返信か…)」

詠矢「…『ご苦労様です。後はこちらで対処します。撤収願います』…か…」

詠矢「本格的に終わりだね…さて…」

詠矢「もう行っちまった…よな?」

路地に人の気配が無いことを確認すると、詠矢は人の通れる場所を探して外に出た。

詠矢「もう、白井サンが先回りしてるんだよな…」

詠矢「んじゃ、大人しく帰りますかね…」

詠矢「…」

詠矢は、犯人が走り抜けていった路地の先をなんとなく見る。

詠矢「なんか…やな予感するなあ…」

詠矢「…どうするか…ねえ」

(とある路地 空き地)

強盗犯「ハアッ…ハアッ…ここまで…逃げれば…」

かなりの距離を走り続けた男は、周囲の静かさに安心したのか、その足を緩めた。

強盗犯「ハアッ…さすがに…ハア…追ってこねえ…だろ…」

膝の上に手を置き、息を整えようとした直後。

(キイン タスタスタス)

強盗犯「…!!何だ!!」

突然、男の足元に金属の矢が突き立った。

白井「そこまでですわ!!」

強盗犯「…テメエ…」

白井「ジャッジメントですの!」

白井は腕章を見せ、自分の立場を誇示した。

白井「ずいぶんとお疲れのようですわね?そろそろ終わりにしてはいかがでしょう?」

白井「鉄格子の向こうで、ゆっくり休んで頂けますわ」

強盗犯「野郎…ナメやがって…」

白井「あなたのような小物に、時間をかけるわけに参りません」

白井「とっとと終わらせていただきます(シュン)」

白井は消えた、得意の転移ドロップキックだ。

強盗犯「ぐわっ!!」

突如、後頭部を襲う攻撃など避けられるわけもなく、男は簡単に地に伏した。

白井「終わりです!」

拘束するための鉄矢を手に取った瞬間、白井は勝利を確信していた。

だが、男は突然身を翻す。

強盗犯「けっ!!これでも食らえ!!」

男は台詞の直後に目を閉じる、そして。

白井「…!!!」

白井の目の前に突然強い閃光が発生する。

その視界が真っ白に塗りつぶされた。

白井「し…まっ…!!」

強盗犯「うるあぁ!!」

上体を起こしながら、男は白井の胴体に拳を放った。

白井「ぐはっ!!!」

たまらず膝が落ちる白井。

強盗犯「まだまだあぁ!!」

男は完全に立ち上がると、前のめりになった白井の腹部を力任せに蹴り上げた。

浮き上がった白井の体は宙を舞い、落下し地面に叩きつけられた。

白井「ゲフッ…ん…ぐ…」

白井「…あなた…能力…者…」

強盗犯「ヘっ…爆裂閃光(フラッシュボム)ってな…空間に光を発生させるだけの」

強盗犯「チンケな能力だがなあ…」

強盗犯「使い方によっちゃあ…刺さるだろ!?」

言葉と同時に男は白井の背中を踏みつける。

白井「…ぐ…ぎっ!!」

強盗犯「さあて…どうしてやろうかねえ…」

強盗犯「アジトに連れ込んで…イジメ倒してやろうか…?ええ!!」

白井「…こ…の…!!」

強盗犯「まあ、どっちにしろ、もう少し弱らせてから…だなあ!」

(ザッ)

再び男が背中を踏みつけようとした瞬間。誰かが走りこんできた。

詠矢「ハアッ…ハア…」

強盗犯「なんだ…テメエは…!?」

詠矢「なんか、ヤバそうだったんで…急いで追っかけてきてみたんだが…」

詠矢「間に合った…いや、合わなかったのかな?」

強盗犯「仲間…か?」

詠矢「仲間ってのは間違いないが…通りすがりの一般人だよ…」

白井「…!(この声は…詠矢さん!)」

白井「詠矢さん、逃げてください!!。あたなたが関わることではありません!!」

詠矢「お小言なら後で聞くよ」

詠矢「そんな状態の白井サンを置いて、逃げれるわけねえっしょ…」

白井「…っ!!」

強盗犯「テメエもナメた野郎だなあ…。コイツは、使いたくなかったが…」

男は腰のベルトからバタフライナイフを取り出した。

詠矢「おーおー…定番だねえ…」

詠矢「そういうもの出せばビビると思ってんのならお生憎様」

詠矢「こちとら結構見慣れててね…」

強盗犯「なんだ…やるってのか…?」

詠矢「逃がすつもりなら追って来ねえいっての…」

白井「詠矢さん!コイツは光を使います!!気つけてください!」

詠矢「ああ…こっちに向かってるときに…なんか光が見えたんだが…能力者だったのか…」

強盗犯「…このアマ…」

強盗犯「余計なこと口走ってんじゃねえ!!」

男は力の限り白井の背中を踏みつける。

白井「が…っ…は…!!」

詠矢「…!」

いつもゆるいの詠矢の表情が、一気に鋭くなる。

ぎりっと奥歯を噛み締めると、静かに相手の距離を詰める。

詠矢「来い…相手してやるよ…」

強盗犯「…ナニ余裕かましてんだテメエェェ!!死んどけやあぁあ!!」

男は躊躇無く顔面を突いてくる。

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