P「from two」 春香「to Dear Supporters」(123)

P「春香、オーディションの話が来てるぞ」

春香「ふぇっ!?」

プロデューサーさんが唐突に呟いたその言葉を、そして思わず素っ頓狂な声を上げてしまった私のことを、私は今でも覚えています。
その頃の私たちは、律子さんの作り上げた竜宮小町のヒットをきっかけに765プロ全体として人気が高まって、みんな仕事でてんてこ舞いで、みんなで集まることも少なくなっていて。

仕事のオファーが来ることの方がすごく多くって、ずっと続けてきたラジオ番組や地方の番組との兼ね合いも考えなくちゃいけないくらいで。
オーディションという響きがすごく、久しぶりだったからだと、思います。

春香「オーディション、ですか?」

P「ああそうだ。お得意様のたっての希望でな」

美希「えー、春香だけ? ミキにはー?」

P「すまん美希、今回は春香にお願いしたいということらしいんだ」

春香「へぇぇ……。それにしても、オファーをもらったんじゃなくてオーディションが必要ってことは、すっごく大きいお仕事なんですね!」

P「え? ……ああ、違う違う」

小鳥「ふふ。そうじゃないのよ、春香ちゃん」

春香「へ?」

P「そうだな、これは俺の言い方が悪かったか」

春香「ど、どういうことですか?」

P「あのな。お前に、オーディションの審査員をやってほしいそうなんだ」

春香「え」

美希「え」

春香&美希「ええええええええええええ!?」

P「何でも、今をときめく765プロのアイドル『天海春香』に特別審査員をしてほしい、ってことでな」

春香「わ、私が審査員……?」

美希「うわあ、すっごく面白そうなの! ねえねえハニー、その仕事、ミキじゃダメかな?」

P「今回は向こうの名指しだからなあ…… 残念だが諦めてくれ、美希」

美希「ぶー」

P「で、春香。受ける方向で話を進めていいか?」

春香「で、でも…… 私、そんなのできません」

P「へ?」

春香「だって、審査員なんて私、どうしていいか」

P「大丈夫だよ。春香がびびっときた人を応援してあげるだけでいいんだ」

春香「そ、そうじゃなくて…… 私なんかが他の人に点数をつけるなんて、そんな失礼なこと」

P「失礼だなんて、そんなことあるもんか。春香はいまや立派なアイドルなんだから」

春香「でも……」

美希「じゃあ、ミキが代わってあげようか?」

P「こら美希。そういうわけにはいかないんだってば」

美希「だって、春香はやる気ないんでしょ? だったらミキがやってあげた方が、向こうも助かるんじゃないかって思うな! ね、春香?」チラ

春香「……」

P「まあ、いざとなったらそうするのもありかもしれないが……」

美希「ね、いいでしょ? そうしよ、春香?」

春香「わ、私」

P「……春香。期限までには2週間あるから、少しだけ考えてみてくれないか?」

春香「2週間、ですか。……分かりました」

P「美希も、それでいいか?」

美希「……はーい、なの」

~春香・自室~

春香『……っていうことがあったんだぁ、今日』

千早『なるほど。それで、私に電話してきたのね』

春香『うん、ごめんねこんなに夜遅くに。どうしても誰かに相談したくって』

千早『いえ、それは構わないわ。私もちょうど、暇にしていたから』

春香『……ねえ、千早ちゃんだったらどうする? もしもオーディションの審査員をやってほしい、なんて言われたら』

千早『そうね、私だったら……』

千早『やっぱり、受けると思うわ』

春香『え!?』

千早『ふふ。え、って。私、そんなに驚くようなことを言ったかしら』

春香『ううん。ただ、千早ちゃんはてっきり、こういうのあんまり好きじゃないと思ってたから』

千早『……確かに、自分自身の歌の仕事にはあんまり関係ないものね。でも』

春香『でも?』

千早『審査員の話が来る、ということは、私の実力が評価されたということだと思うから。それにプロデューサーが言ってくれた仕事ならば、尚更ね』

春香『実力、かぁ……』

千早『ええ。きっとその話は、私の未来につながるものだと思うの』

春香『……』

千早『迷わせるようなことを言ってしまってごめんなさい』

春香『う、ううん! 相談、聞いてくれてありがとう千早ちゃん!』

千早『考えが纏まらないようなら、他の人にも意見を聞いてみたらどうかしら。きっと、みんな親身になって考えてくれるはずよ』

春香『うん、そうしてみるね。それじゃあそろそろ、おやすみ!』

千早『あ、それと最後にひとつ』

春香『? なあに?』

千早『春香が背中を押してくれたおかげで前に進むことができた人間が、少なくともここに1人居るわ。……そのことだけは、覚えておいてほしいの』

春香『千早ちゃん……。うん、分かった』

千早『ありがとう。おやすみなさい、春香』

~ゲームセンター~

真「うりゃぁっ!!」バシン!

パンパカパーン!【91点】

真「お、やーりぃ! ハイスコアだ!」

雪歩「格好いいよ、真ちゃん!」

春香「あはは……。パンチングマシーン、似合ってるね……」

真「それで、オーディションの話だったっけ。あ、雪歩もこれ、やってみなよ」

雪歩「ひぇっ!? む、無理だよ真ちゃん……」

真「いいからいいから。思いっきり叩いたら気持ちいいよ?」

雪歩「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ……」

真「……で、春香は審査員、やりたくないの?」

春香「うーん、やりたくない、っていうのとはちょっと違うんだけど……。気が進まない、っていうか。私なんかがやってもいいのかなぁって」

真「春香がやるんなら、誰も文句なんて言わないと思うんだけどなぁ」

春香「真だったら、やっぱり、受ける?」

\え、えーい!/ポス

ピローン【48点】

真「そうだなあ……。ボクならやっぱり、受けると思うよ。だって、面白そうだし。こんな機会もう二度とないかもよ?」

春香「滅多にない機会……。そう、だよね」

雪歩「うう……。やっぱり全然ダメダメだったよぉ……」ショボン

真「まあまあ、初めてならそんなものだよ雪歩。スッキリしたでしょ?」

雪歩「う、うん。ちょっとだけ……。えへへ」

春香「え、ほんとに? うーん、私もやってみようかな?」

雪歩「うん、春香ちゃんもやってみなよ! はいこれ」スッ

春香「ありがと。……ねえ、雪歩はどう思う? 審査員の話」

雪歩「え? うーん……。私だったら、すっごく迷っちゃう、かなぁ。だから春香ちゃんの気持ちもすごく分かるんだぁ」

真「雪歩も? どうして?」

雪歩「だって、もし私のひとことで合格不合格が決まっちゃったら、その人の人生まで大きく変わっちゃうってことだもん。こんなダメダメな私なんかが、そんな大それたことなんて……。はぅぅ」

春香「……それでも、はっきり断るわけじゃあないんだね」

雪歩「……うん。私なんかがやってもいいのかな、っていうのは思うけど、すっごく勿体ないって思っちゃう気持ちもあるんだ。そこはさっき真ちゃんが言ってたことと、一緒かも」

真「あはは、雪歩らしいね」

雪歩「だから、春香ちゃんが迷っちゃうのもしょうがないと思う。でも、私は春香ちゃんには思い切ってやってみてほしい、かな」

春香「え。どうして?」

雪歩「だって、いつもこの事務所を引っ張ってきたのは春香ちゃんだもん。春香ちゃんが新しいことにチャレンジしてくれる度に、私も頑張ろうっていう気になれるんだ」

春香「……そっか。ありがと、雪歩、真も」

真「時間はあるんでしょ? ま、ゆっくり決めるといいんじゃないかな」

春香「うん、そうするね。みんなの話も聞いてみたいし。……えーいっ!」パシン

ピロリロリーン 【73点】

~テレビ局、控え室~

春香「…………」ボー

伊織「何よ、辛気臭い顔して」

春香「あ、伊織……。ううん、ちょっと考え事をね」

亜美「むむむ→? せっかく亜美たちの竜宮小町とのコラボなのに、元気がないのは困るよはるるん君?」

あずさ「……もしかして、例のオーディションの話かしら? 小鳥さんから聞いたわ」

亜美&伊織「オーディション?」

春香「……はい、そうなんです」

伊織「ちょっと、何の話? 詳しく聞かせなさいよ」

亜美「亜美にも亜美にも→!」

春香「うん、ちょうど3人に相談しようと思ってたんだ」

伊織「……なるほどねえ。いい機会じゃない」

亜美「そ→だよ! 審査員できるなんて偉くなったみたいでめっちゃ楽しそ→じゃん?」

あずさ「その偉くなったみたい、というのがこの場合は問題なんだと思うけれど……。まだ、春香ちゃんの中で答えは出ていないのかしら?」

春香「はい……。だから、とりあえずみんなの意見を聞いてみようと思って」

伊織「私は断然、出るべきだと思うわ。というより、出ないのなら変わってほしいくらいね。美希の気持ちも多少は分かるってもんだわ」

亜美「亜美も亜美も→! ってゆ→か、迷う気持ちが分かんないよ! だって、向こうからはるるんにお願いしてきてるんでしょ?」

春香「それは、そうなんだけど……。私なんかでほんとにいいのかなあって。それこそ、伊織や美希の方が向いてるような気がするし」オズ

あずさ「そんなことないと思うわ、春香ちゃん。春香ちゃんがやりたくないからお断りするのならともかく、『自分よりいい人がいる』なんて理由で断っちゃうのは、少し違うと思うの」

伊織「そうね、あずさの言う通りだわ。アンタは自分に実力が足りないなんて思ってるのかもしれないけど、今日だってこの伊織ちゃんの竜宮小町と一緒にテレビ収録なのよ? そんな言い訳は通らないわよ」

春香「言い訳……」

亜美「そ→だよ! だってはるるんの実力はみんな認めてるもん! 亜美たちだって、はるるんのおかげでここまで頑張れたんだかんね! はるるんなら、ゼッタイ大丈夫っしょー!」

春香「あずささんは、どう思いますか? もしもあずささんが、私だったら」

あずさ「そうねえ……。やっぱり迷っちゃうと思うわ」

亜美「え→、あずさお姉ちゃんも迷っちゃう派なの? 何で何で?」

あずさ「だって、やってみたい理由も、遠慮しちゃう理由も、どっちもたくさんあるもの。すっごく強い理由が無いから、迷っちゃう。何か理由をつけちゃえば、どっちの答えだって出せちゃう」

春香「すごく強い理由……」

あずさ「だからね、春香ちゃん。私は、春香ちゃんが後悔しない方を選ぶのが一番いいと思うの。一生懸命考えて出した答えなら、どっちでもきっと後悔はしないと思うわ」

伊織「そうね、時間はまだまだあるんでしょ? 今は、アンタにはこの伊織ちゃんが認めた実力があるんだってことだけ、覚えておきなさい?」フン

あずさ「春香ちゃん。私はいつでも、あなたの味方だから」ギュ

\765プロさん、スタジオ入りお願いしまーす!/


春香「わ、いけない。もうこんな時間! 早く着替えないと!」

伊織「あ、アンタ! そんなに急いだらこけ……」

春香「わ、と、と……」ピタ

伊織「……なかったわね」

春香「えへへ、これでもちゃんと成長してるもん」

伊織「というか、普通の高校生はそんなにコケそうにもならないけどね……」

~事務所~

ガチャ

春香「ふぅ……疲れたー」

やよい「あ、お帰りなさい春香さん!」

真美「お帰りはるるん!」ピコピコ

春香「2人とも、ただいま。……あれ、小鳥さんは?」

真美「お出かけちゅ→」ピコピコ

やよい「買い物に行ってくるので、お留守番しててくださいって言われましたー!」

春香「そっかぁ……」

真美「ねぇねぇはるるん、今日はるるん亜美と一緒の仕事だったんだよね?」

春香「あ、うん。亜美から、何か預かってるよ? はい」ヒョイ

真美「おー、これこれ! あんがとはるるん!」

やよい「ねえねえ真美、そのポーチって何が入ってるの?」

真美「ゲームだよ!」

春香「ゲーム……? 真美が今やってるのとは違うの?」

真美「うん! これは、亜美が途中までやったやつが入ってるんだ→」

やよい「途中まで?」

真美「最近真美も亜美も忙しいから、全然一緒にゲームする機会無いっしょ? だから、ひとつのゲームを交互にやろ→、ってことになってるんだ」

やよい「へー! 確かに、それなら一緒にやってる気分になれるね!」

真美「うんうん! 亜美とは装備の好みが違ったりするから、これはこれですっごく面白いんだよ!」

やよい「へー! 確かに、それなら一緒にやってる気分になれるね!」

真美「うんうん! 亜美とは装備の好みが違ったりするから、これはこれですっごく面白いんだよ!」

春香「……」

真美「ありり、どったのはるるん? なんか元気無いね?」

やよい「何かあったんですか?」

春香「う、ううん! 真美はしっかりしてるなー、って思って」

真美「へ? と、突然なに? 褒めても何も出ないYO?」

春香「そんなこと考えてないよ! ……ただ、2人とも、ちょっと話を聞いてもらってもいいかな?」

やよい&真美「?」

やよい「おーでぃしょん、ですかー」

真美「へ→、すっごく面白そうじゃん!」

春香「うん……。でもちょっと、迷ってるんだ。受けるかどうか」

やよい「へ? どーしてですか?」

春香「どうして、って言われると難しいんだけどね。私なんかがやってもいいのかな、って」

やよい「そんな、春香さんなら大丈夫に決まってますよ!」

真美「でも真美は、ちょっとその気持ち分かるかな→」

春香「ほ、ほんと?」

やよい「そうなの、真美?」

真美「だって真美は、まだちゅ→がくせ→だかんね。オーディションってことは、はるるんとかゆきぴょんとか、もしかしたらあずさお姉ちゃんくらいの歳の人も来るかもしれないんでしょ?」

春香「あ、うん。そうかも」

真美「そんな人たちに、『はっはっは→、君は何点だ、ふご→かく!』なんて言えるほど、真美はまだ偉くないかんね→」

やよい「それは真美の言い方が悪いんじゃないかな……」

春香「そっかぁ……。 そういう考え方もあるよね」

やよい「うーん……。でも、言われてみれば私も、他の人の歌とか踊りとかを上手く評価したりはできないかもー……」

真美「でもでも、悪いことばっかりじゃないと思うよ?」

春香「? どういうこと?」

真美「だって逆に考えたら、この人とは仲良くなれそう! とか、この人とは上手くやっていけそう! って人を選ぶこともできるわけでしょ?」

やよい「うんうん。でもそれって、そんな基準でいいのかなぁ?」

真美「いいに決まってんじゃん! その人がアイドル仲間になったら、めっちゃ楽しくなりそ→だし!」

やよい「確かにー! 私、春香さんが選んだ人とだったら、ぜーったい、お友達になれるって思います!」

春香「うーん、私に、できるかなぁ……?」

真美「はるるんなら、ゼッタイ大丈夫っしょー!」

~大通り~

響「ごっはん、ごっはんー!」

春香「なんだかすごく上機嫌だね、響ちゃん」

貴音「何かあったのですか?」

響「だって、貴音とはよく一緒に食べに行ってるけど、春香とご飯食べるのは久しぶりだからな!」

春香「言われてみれば、そうかも……。じゃあ今日は、いっぱいお喋りしようね! ちょっと相談もあるし」

響「相談……?」

春香「まあ、それは着いてからでいいよ! それより、今日はどこへ食べに行くの?」

響「それが、自分もまだ聞いてないんだ。貴音がどうしても春香を連れて行きたいお店がある、って言うんだけど」

貴音「ふふ、楽しみにしてくださって構いませんよ。それに……響、あなたも良く知るお店のはずです」

響「へ?」

貴音「さあ、着きましたよ。こちらです」

春香「え、こ、ここですか?」

響「確かに、自分もよく知ってる店だけど……。ここって」



春香&響(くっぱ寿司……)



貴音「以前、響と双海亜美、双海真美に連れて来ていただいたのです。安価で食べられる上に、握り寿司だけでなく種々の軽食も取り揃えられており」

貴音「さらには客を楽しませようとする趣向を凝らした演出。まこと、良きお店でした」

春香(一緒に来たの? 響ちゃん)ヒソヒソ

響(あー、映画見た帰りにちょっとな)ヒソヒソ

貴音「ゆえに、春香にもぜひ足を運んでいただきたいと思ったのです」

春香「あ、あの、貴音さん」

貴音「どうしました?」

春香「すっごく言い辛いんですけど……。私ここ、来たことあるんです」

貴音「なんと。あなたも響に連れて来ていただいたのですか?」

春香「いえ、私の地元にもあるので……。家族とたまに、食べに行ったりします」

貴音「そうでしたか……。それは申し訳ありません。わたくし、すこし浮かれてしまっていたようです」

春香「い、いえ」

貴音「さほど、隠れた名店と言うわけではないのですね……」

貴音「春香がそう言うのなら仕方ありません。どこか、別のお店を探すとしましょう」シュン

響(ど、どうするんだ春香! 貴音、すっごく落ち込んじゃってるぞ!)

春香(どうするって言われてもー! そ、そうだ!)


春香「でもそういえば私、最近お寿司って全然食べてないんですよねー」

貴音「」ピク

響「!」

響「そ、そうだな! 自分も最近は肉料理ばっかりだったぞ!」

貴音「」ピクピク

春香「それに、この後番組だからに匂いの強いものは食べられないし! お寿司ならそんな心配もないよね、響ちゃん?」

響「そうだな、何の心配もなく食べられると思うぞ、春香!」

春香「というわけで、良ければ入りたいと思うんですけど……。貴音さん、どうですか?」

貴音「2人がそういうのであれば仕方ありませんね。さあ、人が多くならないうちに入るとしましょう」ワクワク


春香&響「」グッ

響「そういえば春香、さっき言ってた相談ってなんなんだ?」

貴音「私達2人に、相談があるということでしょうか」

春香「うん。実は、オーディションの審査員の仕事が来てるってプロデューサーさんに言われちゃって」

響「審査員!? 春香、すごいじゃん!」

春香「でも、受けるかどうか迷ってるんだ。私、そんな自信ないし……」

響「えー、なんでだ? 勿体無いじゃないか」

貴音「そんな風に言ってはいけませんよ、響」

響「貴音?」

貴音「春香。他人を評価する、というのは大きな責任を伴うもの。躊躇してしまう気持ちも分かります」

春香「……」

貴音「ですがプロデューサーは、あなたならできると思ってその仕事を勧めたのではないですか?」

春香「!」

貴音「どんな事柄であれ、一番初めに行うときは一抹の不安を抱くもの。あなたはそれを、これまでずっと乗り越えてきたではありませんか」

響「そうだぞ! 春香がこれまでいろんな新しいことに一生懸命チャレンジしてきたこと、自分たちは知ってるんだから!」

貴音「もしもあなたが、心から気が進まないと思うのなら、止められはしません。……しかし」

貴音「できないかもしれないという恐れに負けてしまうのは、春香。あなたらしくないと思いますよ」

響「転んでも転んでも壁にぶつかり続けるのが、春香だったんじゃないの?」

春香「2人とも……。ごめんね、ちょっと暗い話になっちゃって」

響「このくらい、なんくるないさー!」

貴音「ええ。むしろ、私たちを頼っていただいたことの方が嬉しいですよ」

響「さ、食べよ食べよ! 美味しいものをいっぱい食べれば、元気も出るはずだよ!」

~事務所~

春香「ただいま戻りましたー」ガチャ

律子「あら、お帰り春香。一旦戻ってきたのね」

春香「あ、律子さんこんばんは。次はプロデューサーさんと美希と一緒の仕事なんですけど、ちょっと時間ができちゃって」

律子「春香は今日は……。後は、美希と歌番組の収録だったかしら。確かに少し時間があるわね」

春香「はい、だからそれまでは事務所で雑誌でも読んでいようかな、って」

律子「なるほどね。まあ、のんびりできるときにのんびりしておきなさい」

春香「はい!」

律子「……そういえば、聞いたわよ春香。オーディションの件、迷ってるんですって?」

春香「! あずささんに聞いたんですか?」

律子「いいえ、伊織が教えてくれたわ。『アンタからも何か言ってやってほしい』、ってね」

春香「そうですか、伊織が……。でも、律子さんにも話を聞きたかったのでちょうどよかったです」

律子「話を?」

春香「はい……。どうしても意見がまとまらないから、まずは事務所のみんなに考えを聞いてみよう、って」

律子「へえ。参考になる意見はあったの?」

春香「みんな、親身になって考えてくれました。そして、みんな私なら大丈夫、って言ってくれました。いろんな意見があって、その全部が納得できそうで……。でも、自分の心は決まってくれなくて」

律子「あはは、まあ他人の意見なんてそんなものかしらね」

春香「……律子さんなら」

律子「?」

春香「律子さんなら、どうしますか? もしも私と同じ立場だったら」

律子「そりゃあ勿論、受けるでしょうね」

春香「即答……。どうしてですか?」

律子「理由は、いくつかあるけれど。単純に先方の事務所とのコネクションを強めておきたいとか、他所の事務所はどんな審査基準を設けているのか知りたい、とか。……でも」

春香「でも?」

律子「私はそもそも、アイドルをやっていたときも事務とかマネージャー志望だったからね。やっぱり、『こう伸ばしてあげたい』とか、『この欠点を補ってあげたい』とか、そういう目線に立つのが好きなのよ」

春香「好き、ですか……」

律子「だから悪いけど、この意見はあまり春香には参考にならないかもね」

春香「いえ、そんなことないです。ありがとうございます!」ペコリ

律子「まあ、あと私からアドバイスできることがあるとすれば、一つだけかしら」

春香「何でしょう?」

律子「それはね。春香は今、とても恵まれた環境にいるということ」

律子「そもそも仕事を選り好みできるという状況が、ある程度恵まれた環境にあるとも言えるけれど……。それに加えてあなたには、相談できる仲間が居る。いつでも力になってくれるプロデューサーが居る」

律子「ずっと応援してくれるファンだっている。そして、決断までにはある程度の時間が与えられている」

春香「…………」

律子「そして、それはあなたのこれまでの努力の賜物なの。その点は、誇っていいと思うわよ」

律子「おっと、いけないもうこんな時間じゃない。私はそろそろ現場に向かうわね」

春香「あ、はい! ほんとにありがとうございました!」

律子「少しでも参考になれば幸いだわ。それじゃあね!」バタバタ、ガチャン

春香(私の、努力……)

バタバタ

バタバタバタ

春香(あれ……。足音が戻ってきた?)

ガチャ

春香「律子さん、忘れ物でも」

小鳥「あ、は、春香ちゃん……?」ゼェゼェ

春香「こ、小鳥さん?」

小鳥「春香ちゃん! り、律子さんってもう出かけちゃった!?」ゼェ

春香「は、はい。ちょうどついさっき。すれ違いませんでしたか?」

小鳥「ああ、間に合わなかったのね……。頼まれてた新しい手帳とペン、買って来たのに」ガクリ

春香「それでそんなに急いで……。大丈夫ですか?」

小鳥「こんなに走ったのは久しぶりだから、息が上がっちゃって……。私ももっと、運動しないとかしらねぇ」シュン

春香「あはは、無理しないでくださいね? 私、飲み物持ってきます!」

小鳥「ありがとう、春香ちゃん」

小鳥「そういえば春香ちゃん、オーディションの件はもう決まったのかしら?」

春香「……それが、まだ、なんです。いろんな人に話を聞いてみてはいるんですけど。引き受けてしまった方がいいんじゃないか、って分かってはいるんですけど」

春香「……どうしても、決断することができなくって」

小鳥「そうなの……」

春香「おかしな感じなんです。少し前の私だったら、多分迷わず受けてしまっていたはずなのに。何でこんなに迷っているのかすら、分からなくって」

小鳥「……!」

春香「あの、小鳥さんは、どちらが良いと思いますか? 受けてしまった方が、いいと思いますか?」

小鳥「……どちらが良いのかは、私には決められないわ。だって、春香ちゃんの人生のことだもの」

春香「そう、ですか。ですよね」

小鳥「でもね。きっと春香ちゃんがそんな気持ちになっている理由は、なんとなく分かるわ」

春香「え、本当ですか!?」

小鳥「ええ。それはね、春香ちゃんが成長したからだと思うの」

春香「……成長、ですか?」

小鳥「そう、成長。春香ちゃんも、もう立派なトップアイドルの一員でしょう?」

春香「そんな! 私なんてまだまだで」

小鳥「春香ちゃんがどう思っているかはともかく、世間はそうは見てくれないと思うわ。……それでね。改めて聞きたいんだけど、春香ちゃんの夢、ってなんだったかしら」

春香「そ、それは……。みんなで楽しく歌を歌って、トップアイドルを目指すこと、です」

小鳥「そう。そして、その夢は今まさに、叶おうとしているの。……そんなとき、得てしてそういう気分になってしまうことがあるのよ。自分がどうしていいか分からないような、そんな感覚」

春香「……!」

小鳥「これまで、いろんなことがあったわよね。嬉しいことも楽しいことも、悲しいことも辛いことも、たくさん」

小鳥「その全てが、もうすぐ結晶になろうとしているの。春香ちゃんがみんなと一緒に頑張ってきた、全部が」

小鳥「だからね。私から春香ちゃんのために送ることができるアドバイスはひとつだけ」

小鳥「春香ちゃんの、みんなの想いが実ったとき、春香ちゃんが空っぽになってしまわないように。……見つけておいてほしいの」



小鳥「春香ちゃんの、『夢の先』を」

春香「夢の、先……?」

小鳥「そう。春香ちゃんにとってのそれが何かは私にも分からないけれど……。だからこそ、いろんなことにチャレンジしてみるのは絶対に損ではないと思うわよ?」ニコッ

春香「……! 分かりました」

春香(夢の先。千早ちゃんも同じようなことを言ってたような)

小鳥「あら、気が付いたらこんな時間。春香ちゃん、そろそろ出かけないとまずいんじゃない?」

春香「あ、本当だ! それじゃあ私、行ってきますね!」ダダッ

小鳥「はーい、気をつけて行ってらっしゃい」

春香「行ってきまーす!」ガチャン



小鳥「…………」

社長「……随分と、感情がこもっていたようだね?」

小鳥「あらやだ社長、聞いてらしたんですか?」

小鳥「立ち聞きは、あまり趣味がよろしくありませんよ?」クスクス

社長「あまりそのつもりはなかったのだが……。すまないね。ただ」

小鳥「?」

社長「私は音無君が765プロの事務員になってくれて、本当に良かったと思っているよ」

小鳥「……ふふ。じゃあ、その一言で許しちゃうことにします!」ニコ

社長「ふむ。……では、お詫びに私がお茶でも入れるとしようか」

小鳥「よろしいんですか?」

社長「うむ、私も最近は萩原くんに習って少しずつ上達してきたのだよ」

小鳥「あら、そうなんですか。それじゃあお言葉に甘えて、お願いしますね。吉澤さんにいただいたお茶菓子、まだあったかしら……」

~音楽番組・楽屋~

P「それじゃあ、俺はちょっとディレクターさんと話をしてくるな。2人とも、着替えと準備は済ませておいてくれ」

美希「はーい!」

春香「分かりました!」

P「よし。それじゃ、行ってくる」

バタン

春香「ふぅ。今日はよろしくね、美希」

美希「うん、ハニーも見てるし、一緒にがんばろーなの!」

ごはんたべてきます

落ちたら速報あたりで立て直すかも

美希「そういえば春香、例のオーディションのハナシってどうなったの?」

春香「えっと……実は、まだ悩んでるんだ。ごめんね、美希」

美希「えー! もう、早く決めちゃった方がいいと思うな。ミキはいつでも変わってあげるよ?」

春香「う、うん。そのときはお願いしようと思うけど……」

美希「むー、なんか煮え切らないカンジだね」

春香「一応、みんなにも話を聞いてみたりしてるんだけどね」

美希「そうなんだ! みんな、何て言ってた?」

春香「迷うのは仕方ない、って言ってくれたり、私ならできるって言ってくれたり……。いろいろだったよ」

美希「もう、事務所のみんなに聞いたの? 律子も、小鳥にも?」

春香「うん。律子さんなんか、すっごく真剣に話を聞いてくれて」

美希「あはは、律子らしいの」

律子「……私なんか、まだまだ全然頑張ってないのに。みんな、とっても優しかったんだあ」

美希「!」

美希「春香がそんなこと言っちゃ、ダメなの!」ガタ

春香「み、美希?」

美希「じゃあ、じゃあ春香は、ミキも真クンも千早さんも、ううん、765プロのみんなが全然頑張ってないって言うの!?」

春香「そんなことは言ってないよ! ただ、私はみんなみたいに自信を持ってできないから、って」

美希「春香が言ってるのはそういうことなの! ミキたちは、春香が誰よりも頑張ってるのをずっと近くで見てきたんだよ!?」

コンコンコン!

P「お、おい。どうしたんだ!? 廊下に聞こえそうな大声だったぞ」


春香「ぷ、プロデューサーさん! なんでもないんです」

美希「……ハニー。入って欲しいの」

春香「ちょ、ちょっと美希……?」

美希「いいから!」

P「じゃあ、入るぞ……。それで、いったいどうしたんだ?」

美希「ねえハニー。ハニーは、春香が頑張ってるのを知ってるはずだよね?」

P「あ、ああ。当たり前だよ」

美希「だったら、美希と春香ってどっちが頑張ってた?」

P「え? うーん……。初めの頃はともかく、最近じゃあ2人とも同じくらい頑張ってると思うぞ?」

春香「……!」

美希「そっか、ありがと。ねえねえ、次の765プロ定例ライブって来週だったよね?」

P「ああ、そうだけど」

美希「だったら、春香」ニヤ

春香「な、何?」



美希「次のライブ、審査員のお仕事をかけて美希と勝負するの!!」

春香「え、えええ!?」

美希「ね、ハニー。ダメかな?」

春香「そ、そんなの無理ですよね、プロデューサーさん?」

P「……面白いかもしれないな」

春香「!?」

美希「ホント!?」

P「ああ。すると、曲構成をちょっといじってもいいかもしれないな。律子にも相談してみないと……」

春香「え? ええ? ホントに!? だったら私、美希に譲」

美希「それ以上はダメなの」

春香「?」



美希「ミキは、春香とショーブがしたいんだよ? 本気で来なかったら、怒っちゃうから!」

~765プロ定例ライブ・ライブ会場~

春香「ほ、ほんとに勝負するの……?」

美希「あったりまえなの! ここまで来たら引けないよ!」

春香「う、うう…… プロデューサーさんは、それでいいんですか?」

P「ああ。俺は2人のことを信じてるからな。きっといいライブになるって」

春香「八方塞がりだよぉ……」

千早「ふふ。覚悟を決めなさい、春香?」

伊織「そうよ! 今日は思いっきり2人が中心のライブになってるんだから、無様なところ見せたら承知しないわよ?」

やよい「ふ、ふたりとも頑張ってくださーい!」

美希「負けないよ、春香?」

春香「う、うん……」

ワアアアアアアアア!

P(ライブ、始まったか)

P(勝負は、お互いソロで1曲ずつ)

P(7曲目の『ready』の後に美希が続けて歌い、11曲目の『the world is all one』の後に春香が歌う)

P(一応765プロ定例ライブの一部だから、特別な呼びかけや投票などはなし)

P(あくまで普段どおりのライブを行って、勝負する)

P(……って、あれ? これって勝敗どうやって決めるんだ?)

~7曲目終了時~

響「へへっ! 『ready』盛り上がって貰えたかー?」

亜美「今日はまだまだ盛り上がっていくかんね→!」

真美「会場の兄ちゃん姉ちゃんたち、着いてこないと置いてくよ→?」

伊織「それじゃあ、私たちの出番はここで一旦終わり!」

やよい「次は、765プロが誇るあの人が登場ですよー?」

ワアアアアアアアア!


美希「……春香」

春香「?」

美希「ハニーと一緒に、見ていてほしいの。美希のステージ」

春香「……!」コク



美希「みんなー! ここからはミキの時間なの! いーっぱいキラキラするから、ちゃんと応援してくんなきゃ、やだよ?」パチッ

ワアアアアアアアア!



伊織「アイツ、ウィンクひとつで会場をものにしたわね……」

律子「あれは765プロじゃあ美希かあんたにしかできない芸当でしょうね」

春香「美希……」



美希「それじゃあ行くよ? 今日ミキが歌うのは……『change!!!!』」


ウォォォォォォォォ!

客A「『change!!!!』? 美希ちゃん1人で歌うの?」

客B「個別verだ! 俺得!」

客C「うおおおおおお! ミキミキぃぃぃぃ!!」

――――――CHANGIN' MY WORLD!!

――――――変わる世界 輝け

――――――CHANGIN' MY WORLD!!

――――――私の世界 私のモノ

♪♪...CHANGE...♪♪

美希のステップひとつで会場が跳ねる。美希の歌声一つで会場が吼える。
この、765プロオールスターライブという舞台を、いとも簡単に「美希の世界」へと変えていく。
先ほどまで765プロの全員に向けられていたファンの人たちの色とりどりのサイリウムの全てが、今は美希へと向けられていた。


春香「美希、やっぱりすごい……」

P「ああ、今日は調子もいいみたいだな。絶好調のあいつに勝てるやつなんて、今じゃそうそういないだろう」

春香「……」

P「勝負、したくなくなったか?」

春香「……」フルフル

春香「私も、あんな風に、なりたい、です」

P「あはは。それが間違いなんだよ」

春香「えっ?」

P「春香はな。勝負のことなんか考えずに楽しく歌ってくればいいんだ」

春香「えっと、それはどういう……」

P「ごちゃごちゃ考えない方がいいんだ。自分が、どうしてここにいるのか。何のためにステージに立っているのか。それだけ考えてれば、上手くいくさ。今の美希とだって、互角の勝負ができる」

P「俺は、春香の力を信じてるよ。ずっと一緒に頑張ってきた俺を、信じてみろ」

春香「プロデューサーさん……」



ワアアアアアアアア!

美希「みんな、ありがとーなのー!」ダッ

真美「あ、ミキミキお疲れ様! お水あるよ!」

美希「あ、うん。ありが……」フラ

春香「!」

響「お、おい美希! 大丈夫か!?」

美希「ありがと響、ちょっと頑張りすぎちゃっただけだよ。……それより、春香。見ててくれた?」

春香「うん。ちゃんと見たよ」

美希「あれが、今の美希の全力なの。勝てるものなら、勝ってみるといいの!」

P「美希……」



――――――The world is all one!!

――――――Unity mind!



ワアアアアアアアア!

あずさ「765プロ全員で、『The world is all one』でした~」

雪歩「つ、次は、みなさんお待ちかねの、あの人がソロで登場しますぅ!」

真「みんな、まだまだ盛り上がって行ってよね!」

伊織「テンション下げたら、お仕置きよ? にひひっ♪」

~一時退場後、舞台袖~

春香「つ、次だ……」

千早「春香。緊張、しているの?」

春香「千早ちゃん。だって、美希のあんなすごいところ見せられたら」

千早「美希のことは気にしないで。みんなの言葉を思い出して、あなたが今できることをやればいいのよ」

春香「みんなの、言葉……」

千早「そう。さあ、行ってきなさい」ポン

春香「……うんっ!」


美希「…………」

春香(自分が、どうしてここにいるのか。何のためにステージに立つのか)

『春香が背中を押してくれたおかげで前に進むことができた人間が、少なくともここに1人居るわ』

『春香がやるんなら、誰も文句なんて言わないと思うんだけどなぁ』

『だって、いつもこの事務所を引っ張ってきたのは春香ちゃんだもん』

『アンタにはこの伊織ちゃんが認めた実力があるんだってことだけ、覚えておきなさい?』

『春香ちゃん。私はいつでも、あなたの味方だから』

『はるるんなら、ゼッタイ』

『大丈夫っしょー!』

『春香さんが選んだ人とだったら、ぜーったい、お友達になれるって思います!』

『転んでも転んでも壁にぶつかり続けるのが、春香だったんじゃないの?』

『できないかもしれないという恐れに負けてしまうのは、春香。あなたらしくないと思いますよ』

『それはあなたのこれまでの努力の賜物なの。その点は、誇っていいと思うわよ』

『見つけておいてほしいの。……春香ちゃんの、『夢の先』を』

『ミキたちは、春香が誰よりも頑張ってるのをずっと近くで見てきたんだよ!?』

『俺は、春香の力を信じてるよ。ずっと一緒に頑張ってきた俺を、信じてみろ』

春香『……』

春香「よぉし、天海春香、行きます!」



春香「みなさーん、こんにちはー! 天海春香です!」

ワアアアアアアアア!

春香「今日は、私達のライブに来てくださって本当にありがとうございます! 最後までしっかり、楽しんでいってくださいね!」

春香「私も今日は、いつもとちょっとだけ違う曲を歌っちゃいます! みなさん、しっかりコール、お願いしますね!」

春香「それじゃあ、行きますよー?」ニコッ


~~♪♪♪

客D「こ、このイントロは……」

客E「え、春香ちゃんひとりで?」

客F「コール! コールの準備を!!!」


春香「」スゥ

――――――昨日までの生き方を否定するだけじゃなくて...♪

――――――これから進む道が見えてきた...♪



♪♪...自分REST@RT...♪♪


ワアアアアアアアア!

体が、熱い。

血が、滾る。

口の中はカラカラで、喉はひりつくみたい。
流れる汗はじっとりと衣装を塗らして、踊りっぱなしの足は悲鳴をあげそう。

だけど。だけど、こんなにも楽しい。
見渡す限りの視界は、私のイメージカラーの赤で染まっていて。
私の歌声が、その中へと高く遠く響いていく。

会場の人たちのひとりひとりが、私のために応援をしてくれている。

この輝いたステージだからこそ味わえる、最高の気分。

春香(そっか……これが。これが!)

春香(私が、ステージに立つ理由。プロデューサーさん、そういうことだったんですね)

春香(だったら、私はできる限りのことをしないといけない)

春香(私が立ち止まってしまったら、私を応援してくれた人や、私のために頑張ってくれた人。そして、私にいつも暖かい言葉をくれる人を裏切ることになってしまうから)

春香(このステージだけじゃなくて。あらゆるところで、私ができることをやっていくこと)



春香(それが、私とプロデューサーさん2人からの。一生懸命支えてくれた人たちにできる、唯一の恩返しなんだ)

春香(こんな、素敵な歌詞を歌ってるんだから。私、みんなに夢を与える存在になりたい!)


ワアアアアアアアア!

――――――可能性信じて挑まなきゃ
――――――そう 何も始まらない
――――――一度や二度の失敗
――――――軽く流してリスタート...♪


ワアアアアアアアア!

美希「……全く、春香は世話が焼けるの」

P「おお、美希。……春香、すごいな」

美希「春香は自己評価が低すぎるってカンジ。あんなにカワイイし、あんなに頑張ってるのに」

P「ああ。確かにそういうところはあるかもな」

美希「だからこうでもしないと、思いっきり力を出せないんじゃない?」

P「……美希。お前、もしかしてわざと……」

美希「それは秘密、なの♪」

P「はは……。まあ、どちらにせよ、いい結果になって何よりだ」

美希「でもね、ハニー」

P「何だ?」

美希「ミキだって、負けてあげたつもりは全くないからね?」ニッ

すまぬ、30分ほど離脱
もうちょいでおわる

支援保守ほんと感謝です

ついでに>>87訂正、

×春香(こんな、素敵な歌詞を歌ってるんだから。私、みんなに夢を与える存在になりたい!)

○春香(こんな、素敵な歌詞を歌ってるんだから。私、みんなに夢を与える存在にならなきゃ!)

でお願い

~ライブ後~

P「2人とも、お疲れ様。最高のライブだったよ」

美希「ミキにかかればトーゼンなの! ハニーも春香も、ちゃんと見ててくれたんだよね?」

春香「うん、本当にすごかったよ。私も美希に引っ張られたおかげで、いつも以上の力が出せた気がする」

美希「それじゃあハニー、結果発表をお願いするの!」

P「へ、結果発表って……。どこにあるんだ?」

美希「そんなの決まってるでしょ? ハニーが、どっちのライブが良かったかを決めるんだよ?」

P「え、俺1人が決めるのか!?」

美希「他に誰が居るの? さあさあ、どっちがすごかったか、発表してほしいの」

P「えっと……。両方すごかったから引き分けってわけには……」

美希「いくわけないの」

P「だよな」

春香「お願いします。教えてください、プロデューサーさん」

P「……」

P「俺は。俺は…………」

P「俺が好きなのは、春香だ」

春香「!?」

美希「……」

春香「へ!? え!? す、すすす、好きって?」

P「俺が好きなステージは、春香の方だった。どうしてもどちらか片方を選べと言われたら、の話だけどな」

春香(あ、ああ、好きってそういう……。びっくりしたぁ……)


美希「……理由を、聞かせてほしいな?」

春香「……わ、私も。教えて欲しいです」

P「そうだな……。曲の構成をちょっと変えてみたのには、気付いてくれたか?」

春香「はい、薄々は」

美希「もちろん! ……条件を、一緒にしてくれたんだよね?」

P「ああ、その通りだ。美希には、全員で歌った後に少しトークを挟み、765プロ全体の曲である『change!!!!』を。春香も同じようにして、『自分REST@RT』を歌ってもらった」

P「なるべく、場の盛り上がりとか、曲についたそれぞれのイメージとかで差をつけないようにしたかったんだ。だから2人とも、ライブの中盤に持ってきた」

春香「なるほど……」

P「その上で、なんだけど。2人とも、歌ってる途中、観客のサイリウムって見てたか?」

春香「サイリウム?」

美希「! なるほど、そういうことかぁ……なんとなく分かったの」

春香「わ、分かるの美希?」

美希「うん。春香が歌ってるとき、観客席は、すっごく綺麗な赤色だったんだよ?」

春香「それは、なんとなく覚えてるけど……。それがどうして?」

P「765プロ全員で歌い終わった後に、ソロで歌うとはいえ続けて全体曲。サイリウムを持ち替えなかった人も居たんだろうな」

美希「ミキのときは、あんなに綺麗にフレッシュグリーンには染まらなかったの。盛り上がりなら負けてなかったけどね」

春香「そ、そんな……。そんなの、たまたまじゃあ」

P「確かに、偶然かもしれない。春香の方が後だったから、ファンも二度目は対応しただけかもしれない。でも」

美希「それ以上の何かがあったような気がするの。ミキにも」

P「あのときの春香には、それだけの魅力があった。会場全体を春香の色に染めてしまうような、そんな魅力が。……だから今回は、春香の勝ちってことにするよ」

美希「あーあ、負けちゃったの。それじゃあ、オーディションの審査員は春香がやるってことでいいんだよね?」

P「……だ、そうだけど。どうする? もう少し考えるか?」

春香「いえ、やらせてください」

P「気持ちは、決まったのか?」

春香「……はい。私、ファンの皆さんのためにも、やれることは全部やろうと思います!」

P「春香ならそう言ってくれるって信じてたよ」

美希「それでこそ春香なの! まだうじうじ言ってたら、引っぱたいちゃうところだったの!」

春香「え、ええ!? ひどいよ美希!」

美希「ま、それでこそミキのライバルなの。もうひとつの勝負は、ゼッタイ負けないからね?」

P「もうひとつの?」

春香「勝負?」

P「なんだ春香、また勝負するのか? さすがにこれ以上定例ライブの内容を偏らせるわけには……」

春香「ち、違います違います! 私知りません! ……ねえ美希、もう1つってなんのことなの?」

美希「ふーんだ。教えてあげないの。ミキだけが分かってればそれでいいもん♪」

P「お、おいおい……。まさか殴り合いとかはやめてくれよ……?」

春香「そんなことしませんよっ!」

美希「ハニーがそう言うなら、そんな勝負もありかも?」

春香「ありじゃないよーっ!」アワアワ

P「ぷっ」

美希「あはっ」

「「「あははははは……!!」」」

~後日・オーディション会場~

春香(ど、どうしよう。やっぱりすごく緊張する……。『特別審査員』なんて書いてあって、目立ちすぎだよー……)

春香(でも、向こうはそれ以上に緊張してるのが分かっちゃうな)

春香(ちっちゃい子もいるし、同年代くらいの子もいるけど。……私も最初は、あんな感じだったのかな?)クス


審査員「では、つぎ。エントリーナンバー9番。自己紹介してください」

??「はい! 9番、―――ですっ!」

??「一生懸命、歌いますっ! だから聞いてくださいっ」

??「よろしくお願いしまーーーすっ!」


春香(あれ、この子……?)

~~~


審査員「あははは……。はい、9番、おつかれさま。また挑戦してね」

??「え、おつかれさま? ってことは……。う、ううううう……」


審査員「じゃあ、次の人」


春香(…………)

??「また落っこちちゃった。また……」

春香「えーと、そこの女の子。……ねえ」

??「は、はい、何ですか?」

春香「どうしたの? さっき新人アイドルのテスト受けてた子だよね?」

??「そうですけど……。って、ええっ? あなた、もしかしてっ! あの有名なアイドルの、天海春香さんじゃないですかっ!」

春香「い、今頃気づいた? さっきのテスト中、ずっと審査員席にいたんだけど。あはは……」

??「わ、私に何かごようですかっ!?」

春香「うん。あなたのこと、ちょっと気になって、探してたの。ねえ、あなたの名前、教えて欲しいな」

??「名前、ですか?」

以上です、たとえばこんな妄想もあり、ということで
アニマスやら2やらDSやら、どうやっても時系列には矛盾が生じてしまうので、各自で脳内補完しておいてもらえれば

お付き合いいただいた方、支援保守くださった方がまだいれば本当にありがとうございました。IDあらぶってすまんかった
ちゃんと書ききれたのは間違いなくみなさんのおかげです
それではおやすみなさい

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