春香「春香さんが転んだ!」(149)

(ドンガラガッシャン!)

春香「あいたたたた……えへへ」


(シーン)


春香「えっ、な、なんで誰も振り向いてくれないんですか?!」

春香「可愛い可愛い春香さんが転んだんですよ?!」


(シーン)


春香「そんな……一体何が起きているというの……?!」

P「……」カタカタ

春香「プロデューサーさんっ!」

P「ん?」カタカタ

春香「春香さんが転んだ!」ドンガラガッシャン!

P「そうか」カタカタ

春香「そ、そうかじゃないですよ! 春香さんが転んだんですよ!?」

P「あー、頑張れ」カタカタ

春香「そ、そんな……」

春香「ちーはーやーちゃんっ!」

千早「どうしたの?」

春香「春香さんが転んだ!」ドンガラガッシャン!

千早「……何してるの?」

春香「え、何って……」

千早「もう、馬鹿な事やらないで。ほら、片付けましょう?」

春香「あ、うん……」

春香「みんなー、おはよう!」

亜美「あ、はるるんやっほ→」

律子「調子は良さそうね」

やよい「うっうー! 今日もお仕事頑張りましょう!」

春香「あ、やよい!」

やよい「? なんですかー?」


春香「春香さんが……」

春香「転んだ!」ドンガラガッシャン!

やよい「……?」

春香「え、えっとね! 今のは、だるまさんが転んだとかけて、私が転んじゃった、って言う……」

やよい「お仕事前に、怪我するようなことはしない方がいいですよ……?」

春香「あ……うん……」

春香「…………」

春香「私、何か間違ってたのかな……」

春香「転ぶことこそが、私のアイデンティティであり、愛されてるポイントだと思ってたのに……」

春香「馬鹿にされるとかならまだしも、完全なスルー……とうとうやよいにまで……」

春香「私は……私とは……」

春香「私って一体……何だったの……?」


春香「そっかぁ……アイデンティティなんて……なかったんだね……」




春香「あは、あはは……あははははは…………!!!」


(ピシャァンッ!!)


(カカァッ!!!!!!)

(タタタタタッ)



千早「大変です、プロデューサー!!」ガチャァッ!

P「ど、どうしたんだ千早!?」

千早「……お、落ち着いて聞いて欲しいの」ハァッハァッ

P「あ、あぁ……」ゴクリ

千早「春香が……」

P「春香が?」


千早「春香さんが、転ばないんです……!」


P「なん……だと……?」

P「馬鹿な、有り得ない」

千早「けれど、現に!」

P「いいか、春香が転ぶというのは確定事項だ。それは手を放せばリンゴが地に落ちる如く」

P「春香が転ばない。それはつまり、永久不変の摂理の否定、世界の崩壊に他ならない」

P「そんなことになったら……」

千早「……なったら?」ゴクリ

P「世界は……滅亡するぞ」

千早「そ、そうですね。きっと、私の勘違いだと思います」

P「ああ、全く、心臓が止まるかと思ったよ……」

(ガチャッ)

春香「おはようございます」

千早「あ、春香……」

P「お、おはよう……」

春香「どうしたんですか」

P「あ、足元にバナナの皮が……」

春香「え」

(フミッ)

春香「ああもう、汚いなぁ。誰だろう……」ヒョイッ

春香「ちゃんと、汚らしいゴミは、処分しないと……」ポイッ


P千早「「?!?!」」

春香「あ、お茶切れてる。お仕事は午後からですし、買い出し行ってきますね」ガチャッ

(バタン)

千早「…………」

P「な、なんてこったァ……!」ガクガク

千早「おしまいよ……世界に、もう救いはないんだわ……」ブルブル


「いえ、まだ手はあります!」


千早「あ、あなたは!」

P「律子!!」

律子「話は聞かせてもらいました!」

律子「春香さんが転ばない……この摂理に反した現象は、確かに世界を狂わせてしまうわ」

律子「そして、春香の影響は、もう世界各地に出ている……」ピッ

千早「テレビ……」


『ダウ平均株価が半額まで急下落』ピッ

『エッフェル塔が離陸』ピッ

『世界各地の活火山が活発化』ピッ

『エジプトのスフィンクス、ニャーと鳴く』ピッ


P「なんてこった…………」

律子「このままでは、地球そのものに影響を及ぼしかねないわ」

千早「くっ……一体、どうすれば!?」

P「くそ……何か打つ手があるのか!」

律子「それは……」


「わたくしからお話しさせていただきましょう」


千早「あ、あなたは!」

P「貴音!」

貴音「申し訳ありません。四条の家で儀式の準備をしており、遅れてしまいました」

律子「春香を元に戻すためには、この儀式を成功させなければならないわ」

P「儀式……?」

律子「さぁ、765プロを全員集めなさい!」

伊織「で、なんで私達が集められてるわけ?」

真「別に、春香を助ける為って言うなら文句はないけど……」

響「どうしてなのかくらい知りたいぞ」

律子「理由は、春香がこうなってしまった原因にあるわ」

高木「ど、どういうことなのかね?」

P「俺達は、あまりにも"春香が転ぶ"ということを当然視しすぎて、最早見向きもしなくなっていた……」

律子「最近はみんな、春香が転んでも気にも留めていなかったでしょう?」

亜美「そういや、こないだいきなりずっこけた時も……」

やよい「う、うぅ……そんなつもりじゃ……」

P「やよいだけが悪いわけじゃないさ」

千早「ただ、アイデンティティを否定され、春香が自分自身について悩んでいたのは事実……」

美希「でも、どうしてこんなに大事なの?」

P「それは……」ピッ

『クレムリン周辺に大量のUFOが出現』ピッ

『アマゾン川が北アメリカ大陸まで浸食』

『正体不明の感染症が蔓延』

『スフィンクス、お手を覚える』


雪歩「こ、これって……!?」

千早「……これは、春香が転ばなくなったことにより、宇宙の法則が乱れた結果よ」

あずさ「あ、あらあら~……大変そうねぇ……」

小鳥「春香が転ばなくて宇宙がヤバイ、ということね……」

P「天文台によると、太陽の異常活動も観測されているようだ」

真美「あわわわ……やばいじゃん! どうするのさ!」

貴音「そこで、皆様に四条の儀式を執り行っていただきます」

亜美「お姫ちん!」

貴音「実は、四条に伝わる古文書では、この出来事が数千年前から予見されておりました」

貴音「『東の國に住まう民の姫、彼の者が行ひを静と為す時、世に混沌が訪れん』……」

響「民の姫って、まさか……!」

貴音「そう……アイドルのこと、で間違いありません」



貴音「そして、続く一節にはこう書かれています」

貴音「『儀式に依りて、彼の者の行ひを是とせよ。さすれば、再び平穏が訪れん』、と……」

P「その儀式こそが」

律子「四条の家に代々伝わる……」


貴音P律子「「「彼の者、転びたまふ」」」

分かりづらくてゴメンネ、一部さんづけはタイトルに合わせてるだけや
宇宙がヤバイはただの語呂

律子「それじゃあみんな、儀式の用意をするわよ」

P「事務所の中の家具を全て、横に寄せるんだ!」

千早「スペースを作って……」

貴音「その上で、床に陣を!」


(コレハアッチニ)

(コモノモドカシテ)

(イソガナイトハルカガ…)

(ヤイノヤイノヤイノ……)


―――――

――――

―――

(ガチャッ)

春香「ただいま。色々買い足してきましたよ」


(ズラァッ!)


春香「え、みんな一列に並んでどうしたの」

千早「……春香、遊びましょう?」ニッコリ

春香「え、遊ぶって、みんな、仕事は」

P「今日は全部キャンセルだ。急遽、やることが出来てな」

春香「やること」

春香「それって、この」

(チラッ)


春香「春香さんが転んだ、のことですか」クスッ

貴音「!?」ゾクゥッ

春香「みんな、都合がいいですよね」

春香「この前は、私が転んでも何も言わなかったのに」

春香「大変になった途端これですか。あーあ」

千早「は、春香……?」オソルオソル


貴音「如月千早っ!!!!」


千早「ッ!?」ビクッ

貴音「ち、近付いてはなりません……その者は最早、春香であって、春香でない者」

貴音「数千年前から予見されていた最悪……悪しき因縁に、憑りつかれています!!」

春香「酷いなぁ、四条さん」


春香「……ふふっ、ふふふっ…………!」

貴音「しかし、この事務所の陣に足を踏み入れたからには、最早逃げられぬはず!」

春香「そうみたいですねー。仕方ないなぁ。可愛い可愛い春香さんは優しいから、付き合ってあげるよ」

(テク…テク…テク…)

P「みんな……巻き込んで済まない」

高木「いや、君が謝ることではない。社長である、私の責任だ」

伊織「し、仕方ないわね……春香のためなら、手伝ってやるわよ……」

雪歩「元の、優しい春香ちゃんに戻ってほしいですから……」

千早「誰も、春香を見捨てたりなんてしません。だってみんな……」

全員「「「仲間だもんげ!」」」

P「みんな……!」


春香「ふふっ……いつまで強がってられるかなぁ……」

P「……じゃあ、始めるぞ」

春香「準備は、いい?」



全員「「「応ッッッッ!!!!」」」



THE TIME OF RETRIBUTION...

BATTLE...

DECIDE OF DESTINY...



春香「行くよ」

春香「『春香さんが』……」

(((ヒタッヒタッヒタッ…)))

春香「『転んだ』っ!!」カカッ

(((ピタッ)))

春香「……ふふっ、流石にそんなすぐには終わらないよね」

春香「じゃあ……」スッ

亜美(……! 戻った、チャンス!!)


(ダッ)


貴音「っ!?」

貴音(亜美、いけません!)

P(嫌な予感が……する!)

(スススッ)

亜美(足音も立てずに)

(スススッ)

亜美(さっさと……)

春香「……」

亜美(捕まえて……)

(スススッ)


亜美(はるるんを助けるッ!!!)


(ダンッ!)


春香「……ふふっ」ギラッ

貴音「亜美、逃げなさい!!!」

亜美「ここまで来れば亜美の射程っしょおおおおお!!!!」

亜美「この達磨殺しの亜美を嘗めるなぁぁぁぁっぁああああっっっっ!!!」グワァッ!


春香「……ふふっ、だめだよ、亜美」

(スゥッ)

亜美「っ?! 一度壁を向いたのにこっちを――」


春香「私、まだ『春香さんが転んだ』、言い始めてないよ?」

亜美「しまっ――」

春香「焦ったね、亜美。『動いた』ね?」ニコッ

亜美「こ、この悪寒……足元から這いずりあがってくるような恐怖!」

貴音「亜美!!」


亜美「ごめん、みんな……亜美、負けちったよ……」




春香「亜美、『アウト』」

亜美「あ……」

(ドサッ)

真美「っ!」

真美(動いちゃ、ダメ……!)

P(耐えろ、真美……!)

春香「それに、四条さんも、『動いた』ね?」

貴音「……わたくしと、したことが……」

春香「四条さんも……『アウト』」

貴音「この儀式を完遂すれば、春香も含め、皆、助かるはず……」

貴音「あなた様……御武運を……」

(ドサッ)

春香「ふふふ、助けようとして自分も動いちゃうんじゃ仕方ないよねぇ……」

春香「二次災害、ってやつだね」

P「っ……!」

春香「プロデューサーさん、悔しそうですね」

春香「ところで、このゲームの名前、覚えていますか?」

P(……だるまさんが転んだ、じゃ……?)

春香「『春香さんが転んだ』、ですよ?」


亜美「…………」ピクッ

貴音「…………」ピクッ


P「…………ッ!?」

P(まさか……まさか!!)

亜美「……いたたた……派手に転んじゃったぁ……」

貴音「も、もうっ! プロデューサーさん、見ないでくださいよ!」


全員「「「っ!?」」」


春香「そう、転んだのは、亜美でも貴音でもない……『春香さん』なんですよ」

春香「そして……春香さんは、二人も三人も居ません」

春香「『いるべきところ』へ……」


亜美「えへへ、わざとですよ、わざと!」フラフラ

貴音「そうだ、今度クッキー焼いてきますね!」フラフラ


(ズブブブブ)


P(は、春香の中に、二人が……!)


真美「…………っ」ワナワナ

P(耐えろ真美、耐えてくれっ……!)

春香「あれ、真美、震えてるの?」

真美「……」

春香「気のせいかなぁ……動いてるように見えたんだけどなぁ……」

春香「……『まこと、面妖なこともあるのですね』♪」

P(まさか春香っ……二人の個性を……!)ゾクゥッ

春香「ふふ、『真美、もうそんな悪あがきしてないで、さっさと負けちゃおうぜい☆』」


真美「」ブチッ


P(やめろ、真美!!!)

真美「うあああああああああっ!!!!!」ダダダッ

真美「亜美を、返せえええええええ!!!!!!」ダンッ


春香「……真美ちゃん、『動いちゃった』んだね」


(ビクンッ)


真美「ぁっ……か……」


春香「真美ちゃん、『アウト』」


(ドサッ)


真美「……」

真美「もー、また転んじゃいましたぁ……私ったらドジだなぁ……」スクッ

真美「こんなじゃ、オーディションも上手くいかないよぉ……」フラフラ

(ズブブブブ)

春香「……『うあうあ→、まだ二回目を言ってすらないのにぃ』」

春香「じゃあ後ろ向くよー」クルッ


千早「プロデューサー、気付いていますか」ボソッ

P「ああ、春香の髪の毛……」ボソッ

P「銀髪になった上、サイドアップとサイドテールが生えている……」

律子「取り込まれて、いるのね……」


春香「行きまーす。『はーるーかーさー』……」


真響「「チャンスっ!」」ダダダッ

P「っおい、よせ!」

真(へっへーん、あの速さなら余裕で届くもんね!)

響(自分達ならなんくるないさー!)

真「春香を……みんなを……」

響「返せえええええっ!!!」ダッ


春香「『んが転んだ』ッ!」グルッ


真「うそっ?! 早っ――」

春香「真、響ちゃん、『動いた』ね」

響「あ……」ビクンッ

春香「真、響ちゃん、『アウト』」

(ドサッドサッ)

春香「ふふ、先走っちゃダメだよ」

真「のワの」ズブブブブ

響「ジュッ!」ズブブブブ

春香「……『さぁて、みんな気合入れて、とっととやっちゃうさー!』」

千早(……ポニーテールが生えて……少しカッコ良くなってる気がする……)


春香「行きますよー、『春香さんが』」

春香「『転んだ』っ!」グルッ!

(ピタァッ)

春香「……うん、流石に残った人たちは慎重だね」

やよい「……あわっ!?」

(ドテッ)

伊織「やよいっ!?」

春香「あーあ、『動いちゃった』……今のはちょっと可哀想だったね、頑張ったのにね」

春香「伊織ちゃんも、心配だからって『動いちゃ』ダメだよー?」

やよい「あ、ぁ……」

伊織「う、うぐぅ……!」


春香「やよい、伊織、『アウト』」

(ドサッドサッ)

やよい「かっかー!」ズブブブブ

伊織「ねぇ見てくださいよ! この子、私にそっくりで可愛いと思いませんか?」ズブブブブ


春香「……『にひひっ、結構人も減ってきたかなーって!』」


千早(ツインテールが生えて……)

P(髪が後退してる……)

律子(輝かしいわね……)


春香「ここら辺でちょっと、世界の情勢を見てみましょうか」ピッ


『イギリスとヨーロッパ沿岸が接触』

『ISSが錐もみ回転しつつ地球圏を離脱』

『南極で今、セカンドインパクトがアツい!』

『スフィンクス、警察スフィンクス試験を目指す』


春香「うわぁ、大変ですね! 早く止めないとまずいっしょ→!」

春香「ふふふ、それでは……参ります」

P(……これまでと雰囲気が?)

春香「『春香さんが』……」

美希「これって……もしかすると……」

(ダッ)

千早「美希!?」

P(あんなところから届くはずが……!)

春香「『転んだ』!」グルッ

美希「うぅっ!」

春香「美希、『動いた』」

P(美希……!!)

美希「ハニー……任せた、の……」ドサッ

雪歩(……美希ちゃん、まさか……!)


春香「美希、はいたーっち♪」

美希「わっほい!」ズブブブブ

P(美希は分かってて突っ込んだんだ! 最後、俺に何かを託した……!)

P(美希は……何か、気付いたのか……?!)

春香「あふぅ……なんだか眠くなってきちゃった。次行くよー」

P(春香は、敗者の個性を取り込んでいる)

春香「『春香さんが』……」

P(そして、さっきからは、それが露骨に……)


P(……そうか!)ティンッ


P「って、うわっ?!」ズルッ

千早(プロデューサー!?)

律子(あ、あのタイミングじゃ……!)

春香「『転ん』」

P(くそっ……考え込んでて、足元が……!)グラッ

P(……終わった――)

春香「『だ』!」グルッ

高木「そうはさせん!」バッ

小鳥「見えなければ、いいんですよね!」ババッ

P(社長、小鳥さん?!)ドタッ

春香「……なんと? ハニーが転んだと思ったのに→」

高木「代わりに……うっ」

小鳥「私達が……あぅっ」

春香「『動いちゃった』、けどNE……!」

P(すみません……すみません……!)

高木「我々より、君の方が重要な戦力だ……」

小鳥「頼みましたよ……」

春香「社長、小鳥さん、『アウト』」


春香「代わりに二人を貰うから、なんくるないさー!」

社長「ワン、ツー、スリー!」ズブブブブ

小鳥「ヴぁい!」ズブブブブ

P(うぅっ……な、何故か春香の顔が良く見えない……インカムが増えている!)

律子(これで残るは、プロデューサー殿、私、千早、あずささん、雪歩……)

千早(……二人は)チラッ

雪歩「……」キッ

あずさ「……」ウルウル

P(あずささんは完全に呑まれてるな……雪歩は……?)


春香「おっほん! それじゃあ次にいくピヨ!」

P(ピヨなんて言ってたっけ……)

春香「『春香さんが』……」

雪歩「ぷ、プロデューサー」ボソッ

P「どうした?」ボソッ

雪歩「……美希ちゃんの読みは、多分当たってます。あとは、お願いしますぅ!!」

P「雪歩?!」

雪歩「と、とりゃぁぁぁ~!」ダダッ

春香「『転んだ』」

雪歩「ひぅっ!?」ビクッ

春香「どうしたのかね、急にそんなに動いちってさ→、無謀だって思うな」

雪歩「わ、分かってて、ですもん!」

春香「『へぇ、雪歩……そんな子だったんだ』」

雪歩「ま、真ちゃんの真似、しないで……!」

春香「真じゃないよ、ボクは春香だ。これも、ボクの個性の一つだよ」

雪歩「は、春香ちゃん……戻って……」


春香「雪歩、『アウト』」


雪歩「これはどなたでしょうかね~……あ痛ッ?!」ズブブブブ

春香「……『あ、穴掘って埋まってますぅ』……」

春香「う、うぅ……お、思わぬ思い出を引き出しちゃったの……」

P(そうか、雪歩……個性を取り込むことで、逆に弱点を増やすことが出来れば……!)

春香「うぅ……じゃ、じゃあ次、行くYO……」クルッ


律子(成程、そういうことね……!)

律子(……保険は、かけておきましょうか)スッ

千早(律子……何を……?)


春香「『春香さんが』……」

春香「『転んだ』っ!」グルッ


(ピタッ)


律子(よし、全員止まっ――)

P(いや、一人だけ!)

あずさ「あ、あらあら~?」ドテッ

P(こ、ここまで残ってたのが奇跡的なくらいなんだ……!)

春香「あずささん、『動いちゃった』な」

あずさ「あ……ぁ……!」

P(あずささん!)

あずさ「ぷ、プロデューサーさん……」

あずさ「必ず、助けてくださいね……?」ニコッ

春香「あずささん、『アウト』」

(ドサッ)

律子(あずささん……!)

あずさ「ふふふ……あははは! 崇め奉りなさぁい!!」ズブブブブ

P(あれは春香の素だったのか……)


春香「……『あらあら~、あと、三人だけ、ね?』」

春香「『はーるーかーさーんーがー』……」

律子(でも、チャンスよ! あずささんを吸収したせいか、おっとりしている!)

P(魔人ブウかよ……)

千早(一歩ずつ、確実に詰めていく……!)

春香「『転んだ』~」クルッ

(ピタァッ)

春香「……流石はこの三人、というわけですね……『春香さんが』……」

律子(この距離なら、確実!)

(スッ)

千早(行ける?!)

P(行け、律子!)

律子(届け……!)


(コロコロッ)


P「?! 罠だ!」

千早「律子、足元よ!」

律子「えっ?! 眼鏡無いと良く見えな――」

(コロコロッ)

律子「ビー玉!?」ズルッ

春香「『転んだ』~」

律子「きゃっ!?」ドテッ

春香「ありゃりゃ→、りっちゃん……転んじゃいましたぁ……」

律子「……!」キッ

春香「あれ? 律子……さん、眼鏡……」

律子「頼みましたよ、プロデューサー殿!」

春香「律子さん、『アウト』」

律子「ぐっ……」ドサッ

P(律子……!)


律子「え~っ!? まだいいじゃないですか! これからホームビd」ズブブブブ

P(マーメイの罠……!)

春香「あ、あれ? ボク、急に目が良く見えなくなったぞ?」

千早(! そのためにわざわざ眼鏡を!)

P(でかした、律子!)

春香「おかしいなぁ……『春香さんが』」

千早(私が……!)ジリッ

P(慎重に、慎重に……)ジリッ

春香「『転んだ』!」グルッ

((ピタァッ))

春香「……『春香さんが』」

((ジリ…ジリ…))

春香「『転んだ』ぁ!」グルッ

((ピタァッ))

春香「……」

千早(あと、少し……!)

P(……まずい、千早が空気に呑まれかけてる……!)

春香「……『春香さんが』……」

千早(絶対に……!)カタカタ

P(力が入りすぎてる!)

春香「『転んだ』!」グルッ

千早「っ!」プルッ

P「!」

春香「……千早ちゃん、動いた?」

千早「……」

春香「ねぇ、千早ちゃんってば」

千早「……っ」カタ…

P(ダメだ、千早!!)

千早「う、うぅ……!」カタカタカタカタ

春香「緊張しすぎて、震えちゃったんだね……」

千早「……っ」カタカタブルブル

春香「残念だけど、『動いてる』よ?」

千早「……春香……お願い、戻って……!」

春香「千早ちゃん、『アウト』」

千早「――」ガクンッ

P(千早ぁっ!!!)


千早「プロデューサーさんは、今も、そして、これからも……」ズブブブブ


春香「……『プロデューサー、いい加減、無駄なことは終わりにしましょう』」


P(残ったのは、俺一人、か……)

P(何の因果か……一番無個性な俺が残るとは)

春香「『春香さんが』……」

P(しかしすごい見た目だな……)ススッ

春香「『転んだ』~」クルッ

P(ええと、銀髪ショートにサイドテールサイドアップポニーテールツインテールが生え)ピタァッ

春香「……『春香さんが』」

P(額は後退し顔はなんか見えにくくなりインカムを装着し)ススッ

春香「……『転んだ』~」クルッ

P(ややおっとりした感じで眠そうになり近眼でやや胸が小さくなり)ススッ

春香「……『春香さんが』」

P「わっ!!」

春香「ひぅっ!? こ、『転んだ』?」クルッ

P(そして若干オドオドしている)ピタァッ


P(見た目どう見てもクリーチャー……)

春香「いい加減、辞めましょうよ」

P「……」

春香「今の私なら、誰にも無個性なんて言わせませんよ!」

P(そりゃ言われないだろうなどう見ても)

春香「……プロデューサーさんも強情ですね」

春香「分かりましたよ最後までやりますよーだ。『春香さんが』」

P(そうだなぁ、終わらせるか)

(ススッ)

P「ふあぁ」

春香「あふぅ……じゃないの」

(ススッ)

春香「ころ」

P「わっ!」

春香「ひぅっ!?」ビクゥッ

P(罪悪感が半端ないなコレ)ススッ

P(でも随分近づいたぞ)

春香「『転んだ』~」クルッ

P(おっと……)ピクッ

春香「……」

P(い、一瞬動いちまったか?)

春香「……うぐぐ、良く見えない……」ゴシゴシ

P(ほっ……サンキュー律子)

春香「『春香さんが』」

P「よっ、今日の服も可愛いな」スッ

春香「へへっ、そうですか? このフリフリも……って違う!」

P「そういやこないだ借りたゲーム、詰まっちゃったんだけど」スッ

春香「仕方ないな→、どこだい兄(c)……じゃなくて!」

P「この前探してた既刊、近くの書店で売ってましたよ」スッ

春香「ほ、本当ですか?! 急いで買いに行k……ってそれも違う!」

春香「『転んだっ!』」クルッ

P「……」ピタァッ

春香「ぐぬぬ……!」

春香「『春香さんが』……」

P(あとちょっとだな)スッ

春香「『転』」

P(お、手を伸ばせば届くか?)

P「春香さん、はいターッチ!」

春香「!」クルッ

P春香「「いぇいっ♪」」パンッ



P「言う前に振り向いたな?」

春香「あ」

P「『後ろを向いた』な?」

春香「あ……ぁ!」

P「ルールに反して……!」


(ズズズズズ)


春香「ど、どうしてええええええ?!」


P「四条の陣に裁いてもらうがいいッ! 悪しき因縁よ!」


(ズオォォォオオオ!!)


春香「あ……うぐ……陣から、腕が伸びてきてぇ……!」


春香「こ、これも全て……」


黒春香「吸収してやるぅ!!!」ズズッ

P「いやダメだろう、それは春香さん転んだで遊んでないしな」

黒春香「えええっ! ずるいですよそんなの!」

P「恨むならハイタッチしちゃった自分を恨めよ……」

黒春香「いやあああああああ!!!!」


(シュルルン)


P「うぉっ、春香から変な黒井の出て来た! 社長か?!」

黒春香「あ、うぅ……どこに、連れてかれるの……」

P「貴音に聞け」

(キュポン)

P「ふー、持ってて良かった47巻」




P「さて、なんか変な黒井のは陣の中に消えたけど」

春香「……」

P「どうしよう……春香がクリーチャーのままや……」

P「さっきまでの緊迫感が嘘みたいだな……」

春香「……」

P「しかし、春香からの反応がない。これはゆゆしき事態だ」

春香「……」

P「春香さーん、朝ですよ、朝っ!」グイグイ

春香「……」

P「チクショウ、全く反応が返ってこないぞ」

春香「……」

P「なんで貴音さんは開幕速攻食われましたかねぇ……」

P「んー、そういや、願い自体は春香自身のものなんだよなぁ」

P「個性個性って」

春香「…………」

P「……春香さーん」

春香「……」

P「世界各地の状況は……」ピッ


『富士山、本日中にも爆発か』

『太平洋に謎の大陸が浮上』

『火星の生物と交信成功』

『スフィンクス、大きすぎる為試験断念』


P「なんくるねぇな」

P「春香の個性ってなんだっけ……」

春香「……」

P「転ぶこと……?」

春香「……」

P「……足払いっ!」

(ドンガラガッシャン!)

P「なんて奴だ……意識を失いつつもあざとい転び方を……!」

P「やっぱり春香、お前は天性の転びニストだよ!」

春香「……」

P「見ろ、『春香さんが転んだ』を終え、転んだのは春香さん一人だぞ!」


P「つまり、転ぶということは、春香さんの個性だったんだよ!」


P「な、なんだってーーーー?!」


P「……虚しい」

春香「……」ピカァ

P「ん……? 春香の身体が光り始めた……?!」


(カカッ!!)


P「うわぁっ!?」


(ポポポポポポポポポポポポポポンッ!)


P「な、なんだ?!」


春香's「……」



P「……春香が15人に分裂している……」

P「良く見ると、春香の外見がそれぞれ違う……」

P「……! 個性が分配されている!」

春香「……」

P「こっちは凸!」

春香「……」

P「こっちは顔が黒い!」

春香's

P「まとまっていた個性が、それぞれに分かれたのか……」

春香's「……」ムクムクムクッ

P「! 春香たちが膨張し始めたぞ!」

P「そ、それぞれが、それぞれの個性元と同じサイズに……!」


春香's「……」


(パパパァンッパパパパァンパパパパァンパパァンパァンッッ!!!!)


P「は、破裂したぁぁぁあああ!!!?」

P「な、なんだ!? 全部、全部空気嫁だったのか? 空気春香だったのか!?」


千早「……う、うぅ……私は……?」

P「千早!?」

千早「プロデューサー……私、いままで、何を……?」

P「良かった……無事だったのか……!」

律子「うー、頭がキーンとする……」

P「律子も!」


(イタタタ…)

(オワッタノ…?)

(ジムショ…ヨネ…)


P「みんな……みんな!」


P「そうか、春香の繭の中で成長し、それが弾けて、みんなが羽化したんだな……!」

千早「ちょっと何言ってるのかよく分からないです」

春香「……う、うぅ……」クラッ

P「春香!」ダッ

春香「プロデューサー……?」

P「春香……俺達が悪かった……お前の、お前のアイデンティティを、否定したりしたから……!」

春香「そ、そんなことないです……悪いのは、私だったんです……」

P「春香……お前、さっきまでのことを覚えて……!」

春香「私、みんなに酷いことしちゃったんです! みんなを怖がらせて、煽って、跪かせて……!」

P「最後の話は初耳だ」

春香「こんな私を、みんなが許してくれるはずが……」

春香「私なんて、さっきの黒い私と一緒に消えてしまえば良かった……!」


千早「何を言ってるの、春香!」

春香「千早ちゃん……」

千早「みんな、春香を助けるために必死だったのよ! 消えればよかったなんて、言わないで……!」グスッ

春香「ぢばや゙ぢゃ゙あ゙ん゙……!」

貴音「急遽いい話風にまとめ、これにて、一件落着、ということですね」

P「ああ、これがプロデューサーの手腕だ。ところで、あの陣に吸い込まれると、どこに行くんだ?」

貴音「ふふふ、知りたいですか? "贖罪の行く末"を……」ニヤァッ

P「?! け、結構です!」ゾクゥッ

P(今の貴音の気配はなんだったんだ……あと一歩踏み込んでいたら、殺られていた……!)


春香「……プロデューサーさん、ごめんなさい!」

P「過ちを気に病む事は無い。ただ認めて、次の糧にすれば良い」

春香「プロデューサーさん……でも、ごめんなさい」

P「はは、だから謝らなくていいと」

春香「プロデューサーさんの方が私より個性がないのに、こんなこと気にして……!」

P「」

春香「でも、あの黒い私はどこに行ってしまったんでしょう……」

千早「薄らと覚えているわ……あの、陣に吸い込まれた春香の姿……」

P「春香本人ではないとはいえ、少し心が痛むな」

春香「……あながち、他人だとも思えないんです」

千早「え?」

春香「きっと、あの黒い影は、私の奥底に居た……」

P「……よそう、そんな話は」

春香「でも!」

P「せっかく解決したんだ。今日は、いい気分で帰ろう」ニカッ

春香千早「「プロデューサー」さん……!」

千早「ではお腹が空いたので夕食に行きましょう」

春香「勿論奢ってくださいね」

P「ははは、仕方のないやつらだ。今日は俺が食わせてやろう」

春香「はいっ! プロデューサーさん、夕食ですよ、夕食っ!」


春香「ひゃわわっ?!」ズルッ


(ドンガラガッシャン!)


春香「いたたた……は、春香さんが転んじゃいました……」


P「全く、春香はまた転んだのか。慌てすぎだぞ!」

千早「もう、ドジなんだからっ!」


全員「「「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!!!」」」


春香(ああ、そうだ……!)

春香「ここが、私の居場所なんだ……!」

黒春香「……うぅ……」

(グツグツ)

黒春香「熱いよぉ……」

(グラグラ)

黒春香「こんなの、聞いてないよ……」

(ゴォォォオオッ)

黒春香「熱いよ……辛いよ……」

(ザンッザンッザンッザンッ)

黒春香「プロデューサーさぁん……!」

(ペラッ)

P「味噌ラーメンお願いします」

春香「私はチャーシューメン!」

千早「じゃあ……煮卵ラーメンで……」

黒春香「はい、ただいま……ってプロデューサーさん!?」

P「お、お前!?」

春香「黒い私!?」

千早「ど、どうしてこんな場所で……」

黒春香「……ぐすっ、陣に吸い込まれたらぁ……」


貴音『あなたは、わたくしが満足する一杯ができるまで、無料でラーメンを作り続けるのです』


黒春香「って……!」

(グツグツ)

黒春香「私はお菓子専門なのに……」

P「満足する一杯が完成したらどうするんだ」

黒春香「え、私のとこに戻りますけど」

春香「えっ」

千早「えっ」

P「えっ、お前悪しき因縁なんじゃないの?」

黒春香「えっ、言ってることがよく分かりませんけど、私は私の素ですよ?」

春香「……」

P「え、悪しき因縁のせいで黒くなったんじゃ」

黒春香「ダークサイドにそそのかされましたけど、事務所での言動のベースは素ですよ」

春香「……」

P「春香……」

春香「のワの」

P「随分と個性豊かじゃないかお前」

黒春香「あ、ラジオ付けますね」プチッ


『えー、世界の異変は急速に収束しつつある模様です』プツッ

『ISSが存在した衛星軌道上に、エッフェル塔が確認されたとのことです』プツッ

『クレムリンはUFOとの関与を否定』プツッ

『本日未明より、スフィンクスの婚約会見が……』プツッ


P「……なんとかなりそうだな」

千早「ええ、なんとか」

春香黒春香「「……」」

P「……ラーメン、食おうか」

千早「ええ……」

黒春香「……どうぞ」トンッ

(ズルッ)

P「……美味しくない」

黒春香「はい……」

(prrrrr)

P「あ、電話か」

(ピッ)

P「もしもし」

高木『わ、私だ』

P「社長、震え声でどうしたんです?」

高木『君たちに伝えねばならんことがあってな……』

P「はぁ」

高木『……昼間、株価が暴落しただろう?』

P「ええ」

高木『我が765プロもそのあおりを受けてな……』

P「何か不味いことでも……?」

高木『倒産だ』

P「えっ」

高木『倒産だ』

P「……」ピッ

千早「何か……?」

P「春香さんが転んで765プロが倒産した」

千早「えっ」

P「俺は明日から職無しだ……」

千早「そ、そんな……!」

春香「だ、大丈夫ですよプロデューサーさん!」

P「春香……?」

春香黒春香「「わ、私が、養いますから!」」ドッギャ~ン!

P「お前……!」

黒春香「このラーメン屋台でも!」

春香「どこかの事務所に移籍して、頑張ってでも!」

春香黒春香「「絶対に、幸せにしてみせますから!」」

P「春香ぁ……! 俺は、お前の担当になれて、本当に幸せだ……!」

千早「良かったですね、ヒモプロデューサー……!」グスッ

P「俺だって、きっと手に職見つけて……春香の、生涯のプロデューサーになってやるからな!」

千早「ぐすっ……いい話ね……!」

春香黒春香((えへへ、プロデューサーさん……大好きです!))

春香黒春香「「ククク、計算通り……あっ」」

P千早「「えっ」」

春香黒春香「「…………」」


春香黒春香「「きゃっ! 転んじゃったぁ!」」ドンガラガッシャン!


(バシャァン!)

P千早「「あっつ!!?」」ビッシャァ!

春香黒春香「「えへへ、可愛い可愛い春香さんが転んじゃいましたよ!」」

P千早「「…………」」ビチャビチャ

春香黒春香「「のワの」」

P「ちょっと表出ろ」


おしまい

タイトルだけで見切り発車するとこういうことになります、オチ未定投下はしてはいけない(戒め)
あと貴音のらぁめんをラーメンにしてしまった
こんなのに遅くまで付き合わせてすまんかった、乙

本当にどうでもいいけど>>101の最後がダジャレになってることに気付いてちょっとテンション上がった
寝る

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