<大阪 荒川家 憩の部屋>
憩「はぁ……」グッタリ
怜「ふふ、憩は可愛いなぁ」ナデナデ
憩「はぁ、はぁ……そんなん、こんなタイミングで言わんといてぇ///」
怜「なんで?また燃えてまうから?」
憩「う、うん///」カァァ..
怜「相変わらず憩はヤラシイなぁ。私がストップかけへんかったら一日中ずっと求められそうやわ」クスッ
憩「そ、そこまでちゃうもん!うちはただ、怜が好きやから……その……さ、触りたいし触られたい思うだけで……」
怜「そんなん言われたら名残惜しぃて帰りたなくなるなぁ……けどそろそろ……」
憩「あ、もうこんな時間になっとったんか」
怜「憩とおるとあっという間に感じるわ」
憩「うちも同じ♪なぁなぁ、今度はいつ会えるん?受験勉強で忙しいやろうけど……」
怜「うーん……そやなぁ……憩はどの日が空いてる?」
憩「基本的にうちはいつでも大丈夫やねんけど……」
怜「ふむ……ちょっと先やけど、○○日とかどうや?土曜やし、久しぶりにデートでもせえへん?」
憩「ほんま!?やった!約束やで!?」
怜「ん」
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憩「ふふ……今から待ち遠しいなぁ」ニコニコ
怜「…………」
憩「ん?どないしたん?じっと見て」
怜「え?いや、めっちゃええ笑顔やったから……」
憩「そらそうやて。怜と一緒に過ごせる日が決まったんやから、テンションも上がるわ。うち、怜が大好きやし」
怜「……よう真顔で恥ずかしいこと言えるなぁ」
憩「しゃあないやん。めっちゃ好きやねんもん。怜はどうなん?うちのこと好き?」
怜「もちろん好きやで」フフッ
憩「ほなら照れることないやん」ニコリ
怜「んー……それとこれとは別っちゅうか……性格の差やな。どうも照れてまう」
憩「もっと好き好き言い合ってイチャイチャしたいねんけど……照れ屋なんも怜らしくてええか」
怜「そう思ってくれると有難いわ」スクッ..ゴソゴソ(服を着る)
憩「…………」
怜「…………」ゴソゴソ..
憩「…………ふふふ」
怜「?どないしたん?」
憩「え?いやな、怜とこういう関係になってるのが不思議やなぁって」
怜「確かにそやけど……今、急に思ったん?」
憩「うん。だってめっちゃすごい偶然やったやんか」
怜「それはそうやけど」
憩「うちが知り合いのお見舞いに行った病院にたまたま怜がおって……いきなり『荒川憩や!』って言われて」
怜「や、去年のインハイをテレビで見てたからなんか芸能人的に見えてもうて……恥ずいなぁ」
憩「ふふ。けどそれがきっかけで怜と仲良なれたし」
怜「まぁ……そやな」
憩「……それからはあっという間やったなぁ。性格的には全然違うねんけど、妙にしっくりくる言うか」
怜「ん」
憩「気が付いたら『女同士なのを忘れてるんちゃうかー』って言うくらいめっちゃ好きになってもうてんな」
怜「…………」
憩「そんであの日、ありったけの勇気を振り絞って告白して……怜が受け入れてくれて恋人に…………ほんま、縁っちゅうのはわからんなぁ」ニコリ
怜「……確かに。私も想像つかへんかったわ」
憩「ふふふ……こんなことがあるから人生はおもろいんやろなぁ」ニコニコ
怜「そやな…………あ」
憩「ん?どないしたん?」
怜「……いや、なんでもない。ほな、私はそろそろ帰るわ」
憩「もう遅いし、一人で帰るの危ないで。駅まで送るわ」
怜「ええって。私を送った後は憩が一人で帰ることになるやん。めっちゃ心配や。私は防犯グッズ持ってるから平気やで」
憩「けど……」
怜「心配いらん。痴漢に襲われそうになったら血ぃ吐いてビビらせたる」
憩「悪い冗談やめてぇや。ていうか防犯グッズ先使うべきやん」クス
怜「ふふ、そやな……ほな、また」
憩「うん……ほんまは毎日会いたいねんけど……」
怜「…………うん。けど……」
憩「な、なんてな?受験勉強は大切やからしゃあない!ただ気分転換って大事やん?だからその……」
怜「ん、わかってる。会える時間を増やせるように頑張ってみるわ。私かて憩と一緒におりたいし」ナデナデ
憩「あ……」
怜「ほな、帰るわ。今度のデート、楽しみにしとくな?」スタスタ
憩「うん!あ、玄関までは送るで」
<荒川家前>
憩「気ぃ付けてな?」バイバイ
怜「ん」バイバイ
ガチャ..バタン..
怜「…………」
怜「………………」
怜「……………………ふぅ」テクテク..
怜(私とこういう関係になってるのが不思議、か……ほんまそう思うわ)
怜(竜華と付き合いだした時は、他の人間なんてまったく眼中になかったのに……)
怜(今じゃこうして竜華の目を盗んで会い、体を重ねてる)
怜「…………っと」
怜「……あかんあかん。はよせな……」ピッピッ..トゥルルル...ガチャ
怜「あ、もしもし?竜華?」
竜華『もしもし怜?今何してるん?』
怜「ん?今部屋でゲームしてた」
竜華『ゲームって前言うてた携帯アプリのやつ?めっちゃハマってるんやなぁ』
怜「うん。ここのところ体調崩しがちやから運動もあんまでけへんし、部屋にある本もあらかた読んでもうたから」
竜華『そっか……最近あんま遊べんで寂しいわ』
怜「ごめんな。私も竜華と一緒におりたいんやけど……」
竜華『あ、謝らんといて。うちこそごめん。怜のせいちゃうのに愚痴みたいなこと言うてもうて』
怜「そんなん気にせんでええよ。遊べる日あったら私から連絡するわ。その時はめいっぱい遊ぼな?」
竜華『うん』
怜「私も竜華と色んな……ゲホッ!ゴホッ!」
竜華『だ、大丈夫?』
怜「ん……大丈夫、やけど……ちょっと薬飲むわ」
竜華『あ……ほなら長電話は辛いやんな?今日はもう切るな?』
怜「ごめんなぁ。もっとお喋りしたいねんけど……」
竜華『そんなんいつでもできるし。それよりも怜の体の方が大事やから』
怜「ありがとう……竜華」
竜華『何?』
怜「好きやで」
竜華『あ、うん。うちも好きやで』
怜「ふふ……ありがとう。ほな、また明日」
竜華『うん、また明日。おやすみ』
怜「おやすみ」ピッ..
怜「………………」
<清水谷家 竜華の部屋>
竜華「…………」ツーッ..ツーッ..
竜華(やっぱりや……最近、怜と話してると違和感っちゅうか嫌な予感がする)
竜華(告白して付き合うようになってからずっと、毎日が幸せやった……ううん、今でも幸せや。だからこそ、この違和感が怖い)
竜華(直感やけど、うちにとって何か良くないことが起こってるんやないやろうか?怜絡みでうちにとって良くないこととして考えられるのは…………怜の体調が悪化する、とか?)
竜華(…………でも)
竜華(怜は病弱やけど、重い病気とかやない。怜のおかんも、病院の先生もそう言っとった)
竜華(となると……他には……)
竜華(良くないこと……良くないこと…………)
竜華「…………あ」
竜華(浮気……とか)
ドクン....
竜華(………………)
竜華(……いや、怜に限ってそんなん……)
竜華(確かに、会う回数とかは恋人になる前となった後でそない変わってへんけど……みんながみんな付き合うたからってベタベタするわけちゃうし)
竜華(メールはほぼ毎日するし、電話で話したりもする。エッチかてちょこちょこしてるし)
竜華(なんの問題もないはずや。本来ならただの心配性で片付けるべきことやけど)
竜華(……うちの直感、結構当たんねんな……)
竜華「……………」
翌日
<千里山女子高校 3年教室(怜と竜華のクラス)>
怜「…………」
竜華「…………」ジィー..
怜「……ん?何?」
竜華「あっ、ううん……なんでもない」
怜「?」
竜華「あはは……」
竜華(あかん……怜が浮気をしてるかどうかが気になってしゃあない)
竜華(何か証拠もなしに直感だけで疑われるなんて怜も嫌やろうけど……うぅ……どないしよう)
竜華(直接怜に聞いてみる?いや、そんなん聞いたら、うちが怜を信用してないみたいやし……)
竜華(怜に限ってありえへんと思うけど、それがきっかけで別れようなんて言われたら……考えただけでも怖い)ゾクッ..
竜華(……せやけど、ただの直感やからって無視するのも……)
竜華(うぅ……どないしたらええんや……誰かに相談しようにも、怜にこれといって怪しいところがあるわけでもないから相談しづらい)
竜華(セーラなら………いや、気利かして直接怜に問いただしそうや。疑ってるて知られたないしなぁ……となると、部員以外の方がええかなぁ)
竜華(…………)ウーン
休み時間
<職員室前廊下>
竜華「はい。わかりました。部活の時にみんなに伝えますね」
竜華「それでは、失礼します」ガチャ バタン
竜華(監督は部長使いが荒いわ)フゥ
竜華(…………結局、誰に相談するか思いつかへんかったな。どないしよう?)テクテク
女子A「それでな?その人の言う通りにしたら、二股かけられてるのがわかってん!」
竜華「む?」
女子B「うわ、最低やな!」
女子A「ほんまやで!頭きたから即別れたった!スッキリしたで」
女子B「けどアレやな。もし相談せえへんかったら今でも……」
女子A「そうそう!絶対気付かんと付き合ってた!助かったわぁ」
竜華(あの子らは1年生かな?興味深い話をしてるなぁ)
女子B「で、相談した人って誰なん?」
女子A「言うてなかったっけ?恋愛相談とか浮気対策とかのアドバイスをくれる人がおんねん。問題が解決するまで5000円で」
女子B「探偵みたいな感じ?」
女子A「そんなんかな。うちらがどんな状況なのかとか悩みを話して、どうすればいいかアドバイスをくれんねん」
女子B「けど5000円て妙に安ない?浮気調査とか1日1万とか聞いたことあるけど」
女子A「うーん、直接出向くわけちゃうからちゃう?電話とメールでのアドバイスのみやし。それでも何度かけてもええから安いか。結果、浮気を見破れたし」
女子B「なるほど……」
竜華(これは……今のうちの悩みにピッタリや!5000円くらいならなんとかなるし!)タタッ..
竜華「なぁ、ちょっとええ?」
女子A「?」
女子B「え?し、清水谷先輩!?」
竜華「あれ?うちのこと知ってるん?」
女子A「し、知ってます。先輩、有名ですから」
竜華「そう?ありがとう。でな、ちょっとお願いがあるんやけど……ええかな?」
女子A「お願いですか?」
竜華「うん。実はな、二人が話してるのを立ち聞きしてもうてな。その内容がめっちゃ興味深くて……それで、君が相談した人の電話番号を教えてほしいんやけど……どうかな?」
女子A「え?あ、はい。構いませんけど」
竜華「ほんま!?ありがとう!」
女子A「えと……この電話番号にかけたらその人に繋がります」
竜華「ふむふむ、090-…………登録完了。あ、ちなみにこの人の名前は?」
女子A「山中さんという女性です」
竜華「山中さん、っと……よし、登録完了。ありがとう」ピピッ..
竜華(うん。あとで電話して相談してみよ……あ、そや。この子たちに口止めしておかんと)
竜華「あの……お願いやねんけど、うちが電話番号聞いたことは誰にも言わんといてくれへんかな?」
女子A「え?」
女子B「なんでです?別に清水谷先輩が恋愛で悩んでても全然おかしないと思いますけど……」
竜華「……実はうちの悩みやなくて、後輩に恋愛で悩んでる子がおってなぁ。その子にアドバイスしてあげたいねんけど、うちは経験豊富ちゃうし、どう言うてあげればええか困ってたんや」
女子A「そうやったんですか」
竜華「そう。で、ええアドバイスでけへんかったらその子が可哀想やから、頼れる人に相談して、その人から聞いた内容を伝えればええんちゃうかって思って……」
女子B「なるほど」
竜華「けど、もしうちが他の人に相談してたってその子にバレたらめっちゃ気まずいやろ?なんかダサい先輩みたいで……」
女子A「いえ、そんなことない思いますけど」
竜華「と、とにかく先輩らしく頼れるところ見せたいねん。せやから黙っといて!お願い!」
女子A「そういうことなら……わかりました。誰にも言いません」ニコリ
竜華「ありがとう!」
女子B「完璧に見えた清水谷先輩にもそんな部分があったんですね。なんかいい意味でイメージ変わりました」フフ..
竜華「そ、そう?そらよかった。ほなうちはもう行くわ。話途中で割り込んでごめんな?助かったわ、ありがとう」ニコリ
女子B「い、いえ」
女子A「清水谷先輩とお話できて嬉しかったです」
竜華「今度見かけたら気軽に話しかけてな?」
女子A・B「はい!」ニコッ!
竜華(やった……相談できる相手の番号をゲットしたで!これならうちが浮気を疑ってることが部内のみんなにバレんですむ)
放課後
<麻雀部部室>
全員「お疲れ様でした!」
ワイワイガヤガヤ..
竜華「…………」
竜華(よし……この後、電話してみよう。怜が浮気をしてるかどうか……相談や)
セーラ「お?ボーッとしてどないしたん?」
竜華「へ?あ、ううん……別になんでもないで」
セーラ「けど元気ないやん……って、怜がおらんからか」アハハ
竜華「…………そやな」
竜華(今日、怜は病院で検査がある言うて授業終わってすぐに帰った。今まで何度もこういうことはあったから別に不思議やないけど……)
竜華(検査って言うのは嘘で、今ごろ浮気相手と一緒やったら……)ゾクッ..
セーラ「竜華?早よ帰ろうや」
竜華「あ……うちはちょっと残るねん。先に帰っといて」
セーラ「マジかい。ほなしゃあないな。お先~!」ガチャ バタン
竜華「うん、また明日」バイバイ..
竜華「…………」
竜華(誰かに聞かれたら困るし、どこかの空き教室にでも入って電話しよ)テクテク
<奈良 新子家 憧の部屋>
憧「…………」カタカタカタ
憧「…………」カチッ!
PC『っくしゅ!』
憧(うん。相変わらずしずのくしゃみは可愛いね。これをくしゃみフォルダに入れて……っと。結構たまってきた)カチカチ
憧(あくびフォルダがイマイチ少ないなぁ……寝言も意外とないし……)カタカタ..
憧(もう一個盗聴器があったらもっと色々なしずの声を録れるんだけど……)
憧(こないだの報酬は使っちゃったし……素直にバイトする方がいいのかな?)
憧「くぁ~……」アクビ
憧「……ぁあ……眠い……」
憧(昨日は徹夜で編集したからなぁ)
♪~
憧「お」
憧(仕事用の携帯に着信!久々の依頼だ!)
憧(よし、声色を変えて……と)コホンッ!
憧「もしもし」
竜華『あ、も、もしもし!』
憧「どのようなご用件でしょうか?」
竜華『あ、えと……山中さんの携帯でよろしいでしょうか?』
憧「はい。山中と申します」
竜華『あれ?なんか……』
憧「はい?どうされました?」
竜華『……いえ、ちょっと気になっただけで……なんでもないです』
憧「?」
憧(なんなの一体?というか、この声どこかで聞いたことがあるような……)
竜華『えと、それで……山中さんは恋愛の相談をしてくれるって聞いて……』
憧「はい。恋愛に関するアドバイスなどをさせてもらってます」
竜華『あの……うちの相談に乗ってもらいたいなと思って電話しました』
憧(うち?……あとこのイントネーションは関西の人………………あ!)
憧(わかった!清水谷竜華だ!この良く通る声は間違いない!)
竜華『?あの……山中さん?』
憧「え?あ、失礼しました。私でよければ是非協力させてください」
憧(危ない危ない。まさか知ってる人からかかってくると思ってなかったから、一瞬止まっちゃった。相手が誰であれちゃんとしないと)
竜華『あ、ありがとうございます!』
憧「相談内容の方を教えていただけますか?」
竜華『あ…………その…………うち、付き合ってる人がおるんですけど………』
憧「……はい」
憧(そりゃそうか。清水谷さんのルックスならモテて当然だし、男が放っておかないよね)
憧(でも……清水谷さんは園城寺さんとすっごく仲良かったし、もしかしたらあたしと同じで女の子が好きなのかもって、勝手に親近感を覚えてたんだけど……違ったか)
憧(やっぱり、女の子同士で付き合うのって相当難しいよね……)
憧(しず……)
竜華『その……なんか浮気されてるような気がして……』
憧「…………浮気、ですか」
憧(また浮気相談……ホント多いなぁ。男ってどうしてこう浮気するのよ……好きだから付き合ってるんじゃないの?)
憧(あたしがもししずと付き合えたら絶対浮気なんてしないのに……)
竜華『はい……でも、別に証拠とかなんもないんです。ただなんとなく浮気されてるんちゃうかって思うだけで……』
憧「直感は大事です。気になるなら調べるべきでしょう。彼氏の性格とか色々教えていただけますか?」
竜華『あ……えと……』
憧「?どうしました?」
竜華『その………………彼氏ちゃうんです』
憧「え?」
憧(彼氏じゃない?それって……)
竜華『あの、実はうち…………女の子と付き合ってて………それでも相談に乗ってもらえますか?』
憧「………………」
竜華『………………』
憧「えっ!?」
憧(女の子と付き合って……………………ってまさか!!)
憧「園城寺さんですか!?」
憧(本当に園城寺さんと付き合ってた!?)
竜華『え!な、なんで怜のこと、っていうか今の声は……』
憧「あ……」
憧(しまった……つい興奮して……でも、清水谷さんはあたしの声を聞いても気付かな…)
竜華『確か前に………………わかった!!阿知賀の新子憧ちゃんや!』
憧「!?」
憧(なんで!?)
竜華『絶対そうや!間違いない!』
憧「……あたらし……?えと、どなたと勘違いされてるのですか?」
竜華『もう遅いで!前にインハイの決勝戦特集のドキュメンタリーで阿知賀のを観たんや!そん時のインタビューでめっちゃ喋ってたから声覚えてんねん!特徴あるしな!』フフン
憧「…………」
憧(なんてミス……知り合いだとわかっていながら反応しちゃうなんて……いくら徹夜明けでボーっとしてたとはいえ……不覚)
憧「…………」
憧(でも…………しょうがないじゃん……女の子同士で付き合ってる子に初めて出会ったんだから……しかもそれが知り合いなんだもん)
竜華『そやろ?憧ちゃんやろ?』
憧「………………」
憧(ここは正直に認めて、実際に女の子同士で付き合ってる人と仲良くなるチャンスと捉えるべきか)
憧(あたしとしずが結ばれるためには、百合的視点や経験を積んでる人から得られる情報が重要だもんね)
憧「……はい。そうです」
竜華『やっぱり~。なんなんこの偶然?めっちゃビックリしたわ~』
憧「わた……あたしもです」
竜華『あれ?ほな山中さんって何の名前?』
憧「恋愛絡みなんで、相談相手の恋人の逆恨みとかを避けるための仮名です」
竜華『なるほど~』
憧(しずが支配する山の中に身を任せたいから、なんて……我ながら乙女だわ)
竜華『……しっかし、後輩の恋愛相談の相手が知り合いやったなんてなぁ……なんちゅう確率や』
憧「ええ。すごい偶然ですね」
竜華『なんでこんなんしてるん?』
憧「あたし、色々考えるのが得意なのでそれを活かしたことをしたいなと思いまして。個人で対処できる範囲で活動してるんです」
竜華『なるほど』
憧「恋愛で悩んでる子にアドバイスするなどしてサポートする。その子は喜ぶし、あたしは対価を得る。Win-Winのいい関係ですね」
憧(ま、実際はしずの色んなデータを集めるためにはお金が必要だから、得意分野を活かしてお金を稼いでるってだけなんだけどね)
竜華『はぁ~……立派やな~……偉いわぁ』
憧「……ありがとうございます」
憧(嘘はついてないとはいえ、こうも素直な反応されると心苦しいね……けど、本音を言って悪い印象をもたれるよりはいい)
憧(なにしろ、あたしにとっては同性愛について相談できる唯一の人間だもん。だからあたしも清水谷さんの相談に………………って)
憧「…………」
憧(そうだ……清水谷さんの相談内容は……)
竜華『うちが高1の時なんて全然…』
憧「清水谷さん」
竜華『ん?なに?』
憧「あたしはこうして清水谷さんとお話するのは楽しいですけど、清水谷さんには重要な要件がありましたよね?」
竜華『あ…………怜……』
憧「浮気……相談でしたよね」
竜華『…………うん』
憧「…………」
憧(もしも園城寺さんが本当に浮気をしているなら、あたしは絶対に許せない……)
憧(女の子同士で付き合うのは、男女より遥かに困難……その困難を乗り越えて恋人になったのに浮気するなんて……)グッ..
竜華『ほんま、うちの気のせいかもしれへんねんけど……どうも嫌な予感がしてな……』
憧(相手は男?それとも女?どちらにしても、清水谷さんの想いを踏みにじってるのは間違いない)
憧(清水谷さんの立場になって考えたら、辛さが痛い程わかる……もしあたしがしずと付き合ってて、しずに浮気なんてされたら……浮気相手が誰であろうと納得できないし、耐えられない)
憧「……さっきの質問に答えます」
竜華『え?』
憧「女の子と付き合ってても相談に乗ってもらえますか、という質問です」
竜華『あ……うん』
憧「答えはイエスです。是非、清水谷さんの力になりたいです」
竜華『!あ……ありがとう!めっちゃ嬉しい!ほな早速……あ、そや!お金はどうしたらええん?できるだけ早くアドバイス…』
憧「……いりません」
竜華『え?』
憧「今回の相談、お金はいりません」
竜華『いやいや、それは……』
憧「勝手ながら、清水谷さんたちには特別な思い入れがありまして」
憧(ここでお金をもらわない方が、今後の付き合いがやりやすいっていうのもあるけど……それ以上に怒りと使命感が勝つ。これはきっと清水谷さんに対する仲間意識だ)
竜華『け、けど……知り合いやからってタダっちゅうのはさすがに……』
憧「いえ、お金はいりませんけど、その代わりにお願いがあるんです」
竜華『お願い?』
憧「はい…………今回の件が解決したら、今度はあたしの相談に乗ってほしいんです」
竜華『?憧ちゃんの相談って?』
憧「その……女の子と付き合うには……とか」
竜華『え?…………あ、もしかして憧ちゃんも……』
憧「……はい」
竜華『そっか……』
憧「……ダメ、ですか?」
竜華『え?ううん、ちゃうちゃう、もちろんええで。けどそんなん、タダにしてもらわんでも全然オッケーやのに』
憧「いえ、プライドの問題ですから気になさらず。前もこういったケースでタダにした人もいますし」
竜華『……そうなん?』
憧「はい」
憧(……とでも言わないと受け入れてくれないだろうからね)
竜華『ほなら……ありがとう。遠慮なくお言葉に甘えさせてもらうわ』
憧「はい。では早速、始めましょうか。まずは近況から話してもらえますか?」
竜華『あ、うん。えっとな……――――』
憧「―――……なるほど……」
憧(メール、電話でのやりとりはほぼ毎日あるものの、会う回数は付き合う前とさほど変わらない。プロチームや大学から誘いがある清水谷さんと違って、園城寺さんは受験勉強で忙しい。部活後はもう夜だから遊ばずに帰る。休日も必ずデートというわけじゃない、と……)
憧(みんながみんな、付き合ったらベタベタするわけじゃない。会う回数が増えないのは気になるけど、体調を崩して遊べなくなるというケースがたまにあるから、となると別に問題らしい問題はない。もちろん、仮病の可能性はあるけど)
憧(それに……毎日のように電話してるなら、浮気相手といる時にかかってくるかもしれないというリスクを背負う。でも留守番電話になったことも、無視されたこともないらしい)
憧(……これだけだと、浮気していると疑う材料は見当たらないけど……清水谷さんの直感を信じて、浮気しているという前提で疑ってかかろう。浮気してないのがわかったら万々歳だし)
竜華『どうしたらええかな?』
憧「……一番手っ取り早いのは、園城寺さんの携帯を見ることですね。メールのやり取りや履歴など、たくさんの情報が詰まってますから」
竜華『あ、確かに……』
憧「清水谷さんの希望は『浮気を疑ってることを園城寺さんに気付かれないように、それとなく探る』でしたよね?」
竜華『うん。怜が浮気してへんかったらめっちゃ失礼やし、浮気してたとしても……どうしたらええかが今はまだ決まってへんから……』
憧「わかりました」
憧(浮気してたとしても、園城寺さんの行動と態度次第では別れない……か。となれば、強気に攻めることはできない)
憧(もし園城寺さんが浮気相手の方に熱を入れている場合、別れ話を切り出すきっかけに利用されるかもしれないし)
憧(まぁ、そんなことになる時点で、園城寺さんとは別れた方がいいのかもしれないけど……そう簡単に気持ちを整理できないよね)
竜華『怜にバレへんように携帯を見るかぁ……難しそうやなぁ』
憧「ですね。とりあえず、見るチャンスがあったら試す、くらいの気持ちでいいでしょう」
竜華『うん、隙があったら狙ってみるで』
憧「はい。それでですね、携帯を見る以外に、一度試してほしいことがあるんです」
竜華『試してほしいこと?』
憧「ええ。もしかしたら一発で解決するかもしれません」
竜華『ほ、ほんま!?お、教えて!』
1週間後
<千里山女子高校 3年教室>
竜華「…………」
竜華(放課後や……よし、憧ちゃんが言うてた作戦を決行するで)ドキドキ
竜華「…………」
竜華(うぅ……いざとなると緊張してきた……)
竜華(落ち着けぇ……落ち着けぇ……こんな時は、冷静になるんや。憧ちゃんの言う通りにする、これを守らんと)
竜華(ええと……確か……)
~~~~~~~~~~~~~~~
憧『まず、浮気の有無を確かめるにはどうすればいいか。一番簡単なのは本人に自白してもらうことです』
竜華「自白?」
憧『私は浮気をしています、と言わせればいい』
竜華「でも……そんなん無理ちゃう?」
憧『いえ、そうでもありませんよ。シンプルなやり方で自白させることができます』
竜華「えっ!?そ、それってどんなん?」
憧『カマをかけることですよ』
竜華「カマをかける……?」
憧『例えば……清水谷さんが園城寺さんに、浮気してるでしょ?と詰め寄るとします。この時、自信たっぷりな堂々とした態度でいきます』
竜華「うん」
憧『しかし清水谷さんは浮気の証拠を掴んでいない。園城寺さんはとぼければ問題ありません』
竜華「そやな」
憧『でも、清水谷さんがこうして詰め寄ってくるのは確たる証拠があるからだろう、自分から言った方が罪が軽くなるかもしれない、と園城寺さんが考えたら……』
竜華「あ……自白する可能性がある」
憧『そうです。単純ですが、後ろめたいことがある人間には効果があります。浮気に対して罪悪感をもっていればもっているほど効果的です』
竜華「……でもうち、浮気を疑ってるてバレたないねんで?カマをかけて失敗してもうたらもう……」
憧『わかってます。ですので、浮気してるでしょ?とストレートには聞きません』
竜華「え?ほなどういう……」
憧『これもさっき聞きましたが、もうすぐ付き合って1年2ヶ月と言ってましたよね』
竜華「あ、うん」
憧『ですので、その付き合って1年2ヶ月目の日に…………ねぇ、うちに言うことない?……と詰め寄りましょう』
竜華「!なるほど……」
憧『怜さんが浮気のことだと勘違いすれば自白をさせられるかもしれませんし、何も引き出せなくても失敗にはなりません。付き合って1年2ヶ月目の記念日を忘れるなんて……とちょっと拗ねればいいだけです』
竜華「おぉ……リスクがない」
憧『はい。ただ、あまり深刻な態度で質問すると勘ぐられるかもしれませんので、さらっと聞いて下さい』
竜華「わかった!ありがとう!」
~~~~~~~~~~~~~~~
竜華(放課後、部室に行くまでの間に怜を呼びとめて二人で空き教室に入って話す…)
竜華(その時、あまり深刻にならないようにする、と……よし)
竜華「と、怜」
怜「ん?何?」
竜華「ちょっとええ?」
怜「ええけど……」
竜華「こっちこっち」テクテク
怜「?」
<空き教室>
竜華「…………」
怜「…………」
怜(どうも竜華の態度が変や……わざわざ部活前にこんなところに連れて来るのも……これは何かある)
竜華「なぁ、怜……」
怜「……何?」
怜(完璧に立ち回っとるから浮気に気付いたとは思えへんけど……)
竜華「…………うちに言うことない?」
怜「え?」
竜華「…………」
怜「言うこと……?」
怜(この言い方……何か掴んどるんか?いや、そんな……)
竜華「怜?」
怜「…………」
怜(しゃあない。あんまり消耗したないんやけど、背に腹はかえられん)
怜(【会話の一巡先】を使って、確かめてみよか)
怜(会話の一巡先っ…―――)カッ!
ピキィィ...
怜(竜華の『うちに言うことない?』に対し、どう返そうか?……まずは、正直に言うてみるか)
怜『言うことなんてないけど……ごめん、なんかあった?』
怜(この場合、どうなる?)
竜華『もう、今日は付き合うて1年2ヶ月目の記念日やんかぁ!』
怜(そうか……今日で1年2ヶ月やったか……1年目が記念日なんはわかるけど、1年2ヶ月目もなんか?それやと1年3ヶ月目も記念日になってまうけど……)
怜(ま、とにかく……私が記念日をちゃんと覚えてるかを確かめたかったっちゅうわけか)
ィィン..
怜「―――……っ」
怜(よし……ほな、私が言うべき言葉は……)
怜「言いたいこと?それって、うちらが付き合うて今日で1年2ヶ月目っていうのに関係ある?」
竜華「あ……怜……覚えててくれたんか」
怜「当然やん」
竜華「怜……ありがとう」ニコリ
怜「え?うん」
怜(変やな?竜華なら喜んで抱きついてきたりしそうやけど……)
竜華「あ、そうや!部活帰りに喫茶店寄っていかへん?時間遅いからちょっとだけしかおられへんけどお祝いしたいねん」
怜「私もそうしよう思っててん。行こ行こ」
竜華「ん、決まりや」
怜「…………」
怜(妙に冷静やな……もしかして、ほんまは浮気に気付いとるんか?それで私が喋るかどうかを探っとった?いや、まさか……)
怜(…………一応、試してみよ)
怜(会話の一巡先っ……―――!)
ピキィィ...
怜(ここはストレートに……)
怜『なぁ、竜華。もしかして……私が浮気してるんちゃうかとか思てる?』
竜華『へ?な、なんで気付い……やなくて!そんな……そんなわけないやん!!何言うてんねんもう!あははは……は』
怜「!!」
ィィン...
怜「―――……っ!」
怜(あの反応……間違いないわ。竜華は私を疑っとる)
怜(……証拠は掴まれてへんはずやけど、憩と会うために時間を割いてる以上、全く疑われへんってのは虫が良すぎるか。なんらかの手を打たなあかんな)
竜華「部活部活~。怜、行こ」テクテク
怜「うん」
怜(…………それにしても……【会話の一巡先】……やっぱこの能力は便利やな)
怜(疑ってるかを直接聞く場合、自分自身に思い当たる節があるのかと勘ぐられたりしてややこしなる)
怜(でもこの能力を使えば、体力を消耗するリスクはあるけど、こっちの腹を見せんでも相手の真意を探れる。インハイで倒れた時は大変やったけど、結果的にこの力に目覚めたわけやし、ほんまに倒れてよかったわ)クス
怜「…………」
怜(しかし……カマをかけるなんて竜華っぽないなぁ)
怜(友達に相談してアドバイスをもらった?女同士の恋愛やから相談しにくいやろうけど……って、それは伏せればええだけか。どっかの掲示板とか知恵袋かもしれんし)
怜(……会話の一巡先で誰に相談したか聞くのもアリやけど多分一巡先じゃ答えへんやろし、消耗が気になるからええか)
怜(どちらにせよ、疑うならそれでええ。これからその疑念を晴らせばええだけや)
怜(私は会話の一巡先を見て、竜華が浮気を疑ってるのを知った。けど竜華は、私が竜華に疑われてることに気付いてへんと思ってる)
怜(この状況を利用し、私が浮気をしてへんと信じるに足る材料を竜華に提供すれば、疑いは晴れるやろう)
怜(一度疑惑が晴れれば、前以上に憩と会う時間を作れる……ふむ、こう考えると、この状況は都合がええな)
怜(よし、方針は決まった。となれば、いくつか作戦を考えておくか……)
数日後 放課後
<資料室>
怜「…………んー、この段ボールもちゃう」ガサゴソ
竜華「うちが頼まれたことやのに、付き合うてもうてごめんな?」
怜「ええって。部長っちゅうことで普段から色んな仕事をやってんねんから。これぐらいお安い御用や」
竜華「ありがとう」
怜「ん」
竜華「…………」
怜「…………」ゴソゴソ..
竜華「…………」チラ..
怜「…………」
怜(また見とる……竜華本人は誤魔化せとる思ってるやろうけど、全然隠せてへん。目が合うたら気まずそうにするし、チラチラこっちを見つつも何も言うてこない。不自然や)
怜(態度に出えへんようならしばらく様子見しよう思ったけど、あの調子やと竜華の変化に周りが気付いてまう可能性がある……そうなると色々と探られるかもしれん)
怜(ややこしなる前に、こっちから仕掛けて竜華を安心させとくか)
怜(幸い、この資料室には時計がないから、携帯を机の上に出してもおかしない)
竜華「…………」
怜「ふぅ……今何時や?まだ時間あるよなぁ?」チャッ(携帯を取り出す)
竜華「へ?そやな……部活始まってるけど、監督からの頼まれごとやし大丈夫やで」
怜「せやけど、そない時間かけてられへんよなぁ……ちゃっちゃとせな」コトッ(机に携帯を置く)
竜華「…………」チラチラ
怜(ふふ……見とる見とる。私の携帯が気になるやろ。もしかしたら浮気の証拠があるかもしれへんしな)クク..
怜「よし、あと10分くらいで終わらそ」
竜華「あ、うん……」
10分後
怜「よし、終わった。あとはこの資料を監督に渡すだけやな」
竜華「手伝ってくれてありがとうな、怜」
怜「ええって。別にそない疲れる作業ちゃうかったし。病弱や言うてもこんぐらいはこなせるで」ニコリ
竜華「怜……」
怜「……とか言うといてなんやねんって話なんやけど、資料は竜華が運んでくれへん?私、さっきからトイレ我慢しててん。今すぐいかんとあかん」
竜華「わ!そら大変や!早よ行っといで」
怜「ありがとう!あ、待っとかんでええからな?トイレ行った後、直接部室に行くから!」
竜華「うん、わかった」
怜「ほな、またあとで」タタッ..ガチャ!バタン
竜華「…………」
竜華「うち一人で作業せんですむようにトイレ我慢しててくれたんやな……」
竜華(思えば昔からそうやったっけ。結構ドライなようでいて、根っこはめっちゃ優しいねんな)
竜華(……そんな怜が浮気なんてするやろか?うちの勘が間違ってるんじゃ……)
竜華「…………そや、資料運ばな……あ」
竜華(怜の携帯が置いてある…………急いでトイレに行ったから忘れたんや)
竜華「…………」ゴクリ
竜華(これってチャンスちゃう?トイレから直接部室に行く言うてたから戻ってけえへんやろし)
竜華(…………)
竜華(ごめんな?怜を信用してへんわけやないねん。けど……どうしても気になんねん)
竜華(ちょっとだけ…………ちょっとだけ見せてな?)
竜華(……怜の携帯はスマホ。しかも表向きに置いてある。よし、このまま動かさずにチェックできるわ)
竜華(憧ちゃん、『携帯をチェックする時は、戻した時の位置でバレへんように、携帯の縦と横のラインに沿うように本とかを置いて元通りの位置に戻せるようにすること』とか言うてたもんなぁ……大変や)
竜華「…………」ポチッ..
竜華(あ……ロックがかかってる)ドキッ..
竜華(この場合は……)
~~~~~~~~~~~~~~~
憧『携帯には大切なデータがたくさん入っているでしょうし、プライバシーの塊です。ロックがかかっていても別に不思議じゃないです』
憧『が、浮気を隠すことを目的にロックしている可能性が0ではないこともまた事実』
憧『……とりあえず、ロックがかかってた場合、園城寺さんがパスコードに設定してそうな番号を5回ほど打ち込んでみてください』
竜華「なんで5回なん?」
憧『一定回数以上入力を間違えると、データが全て消えるように設定してる可能性もありますので』
竜華「なるほど」
~~~~~~~~~~~~~~~
竜華(うん、怜が帰ってくる前にやらんと)
竜華(怜が設定しそうな番号…………まずは怜の誕生日…………あかん、違う)
竜華(あとは……――――)
竜華(―――……これもダメや。5つとも外れ)
竜華(残るは……)
~~~~~~~~~~~~~~~
憧『…………』
竜華「憧ちゃん?」
憧『……もし、5回パスコードを間違えたら、試してほしい番号があるんですが』
竜華「うん」
憧『…………清水谷さんの誕生日』
竜華「え?」
憧『西暦を抜いた清水谷さんの誕生日4桁を入力してみてください』
竜華「……うちの誕生日をパスコードに?そんなん……」ドキッ..
憧『念のためです。あ、一応誕生日を反対にしたものも入力してみてください』
竜華「わかった」
憧『ちなみに、解除されたらすぐチェックに入ってくださいね。携帯を見てるところを見つかるとまずいですから』
竜華「う、うん」
~~~~~~~~~~~~~~~
竜華(……うちの誕生日……)
竜華「………………」
『ロック解除』
竜華「!!」
竜華(ほんまに解除になった……怜……うちの誕生日をパスコードにしてくれてたんや!)
竜華(それって、うちの誕生日は絶対忘れへんからやんな!?ぅわ……どうしよう……めっちゃ嬉しい……)グス..
竜華「………………はっ」
竜華(解除されたらすぐに見な!……ごめん、怜!)
竜華「…………」ピッピッ..
竜華(連絡帳に怪しい名前はない……浮気相手を誤魔化すために、病院関係の『○○先生』とか『親戚の○○』で登録してるかもしれへんって言うてたけど、それもない)ピッ..
竜華(メールは…………そないしてへん。うちとするのが一番多い。あとはセーラくらいか……登録されてへんアドレスからのは一個もない)
竜華(画像…………も特に怪しいのはない。怜、あんまり写メ撮らへんしな。ほとんどうちと撮ったやつか麻雀部関係のや)
竜華(メモも、履歴もカレンダーも…………ブックマークも…………普通や)
竜華(…………何も怪しいとこなんてない……)
竜華(もしも誰かと浮気してるんなら、メールの一つや二つはするはずや。それがないっちゅうことは……)
竜華(……怜は浮気してへん……全部うちの思い過ごし……?)
竜華「よかった……」グス..
<資料室前廊下>
怜「…………」(後方のドアから竜華の様子を覗き見ている)
怜(よしよし。見とる見とる。パスコードに気付いたようやな)
怜(パスコードでつまずかれたら厄介やったけど、乙女な竜華なら自分の誕生日で試すと読んで間違いなかったわ)
怜(履歴なりメールなり、じっくり調べてくれてええよ。そっちは竜華に見られてもええ方の携帯や)
怜(浮気用の携帯は別にあるからなぁ)ニヤリ
怜(恋人が自分の誕生日をパスコードにしていた喜びと、怪しいデータが何もなかったことの安心。これで大体の疑いは晴れる)
怜(ふふ……浮気用に携帯をもう一台持ってるとは、なかなか思わんやろしな)
怜(いちいち履歴を消したりする手間も省ける上、こうやって中身を見せることで無実だと思わせることができる。我ながら冴えた手段や)
怜(これで憩のことを探られる心配もなくなった。少しは気が楽になるなぁ)フフ...
夜
<竜華の部屋>
竜華「――――って感じやったんよ!」
憧『そうですか……』
竜華「いやー!うちの直感もたまには外れるんやな!よかったわぁ~」
憧『…………』
竜華「あれ?どないしたん?せっかくええニュースやのに……」
憧『……言いづらいですけど、まだ潔白だと証明できたわけじゃないです』
竜華「ええっ!?なんで!?色々調べたけどなんもおかしなかったで!」
憧『……実は、清水谷さんには黙っていたことがあるんです』
竜華「えっ?な、何?」
憧『カマかけのアドバイスをした時、深刻になりすぎると怪しまれるから、なるべく自然な態度を心掛けるようにお願いしましたよね?』
竜華「あ、うん。そやったな」
憧『その言葉は正しいんですけど、実は他の狙いも含まれてたんです』
竜華「他の狙い?それってなんなん?」
憧『園城寺さんの反応を見る、ということです』
竜華「怜の反応……」
憧『はい。清水谷さんの性格とかを色々と考えた結果、実際にカマかけする時はもちろん、それ以外の時も園城寺さんに対してぎこちない態度をとっていたと思うんですよね』
竜華「そ、それは……けど、不自然にならんよう頑張ってたで?」
憧『その頑張りが不自然に映る感じですね』
竜華「う……け、けどしゃあないやん。今まで通りにしよう思っても、変な感じになってまうんやから……」
憧『そうですね。でもそれを折り込んだ作戦なんです。演技の上手下手は資質もあるだろうし。あたしは、純粋で素直な清水谷さんは演技下手と読みました』
竜華「うぅ……」
憧『で、本題です。カマかけと携帯チェック、この二つは大事ですし有効な作戦ですが、どちらも突破された時のために用意したもう一つの作戦……それが…』
憧『清水谷さんのぎこちない態度に対して園城寺さんがどう動くか……です』
竜華「??」
憧『園城寺さんなら、清水谷さんの様子が少しおかしいことに気付くはず。普通の恋人なら、何かあったの?とか聞いてくるでしょう』
竜華「あ!それって……『どうかした?とか聞かれたら、なんでもないと答えて』とか言うてたやつ?」
憧『はい。園城寺さんの反応を見たかったので』
竜華「なるほどー。で、それがなんなん?」
憧『園城寺さんは、清水谷さんに声をかけなかった。これがまず一つ引っかかります』
竜華「あ……」
憧『そしてもう一つ。清水谷さん、前に言ってましたよね?過去、園城寺さんが携帯を置き忘れたりした場面はなかったって。それが、このタイミングで……』
竜華「ちょ、ちょっと待って。ほなら、怜はわざと置いてったって言うん?」
憧『……可能性はあるかと』
竜華「そんな……け、けど、うちの誕生日をパスコードにしてたで?それだけうちのことを好きってことなんじゃ……」
憧『…………そう思わせるために設定したのかもしれないです』
竜華「なっ!」
憧『…………』
竜華「………………で、でも!怪しいデータはゼロやった!う、浮気しとったらそんなん……」
憧『浮気相手からの電話とかメールなら、逐一削除すれば証拠はなくなります。連絡先は暗記でも可能ですし』
竜華「せやけど……もし、携帯をチェックさせる為に置いてったとしても、その時にたまたま浮気相手から電話とかあるかもしれへんやん!そしたら一発で終わりやで?そんなんする!?」
憧『…………』
竜華「ほ、ほら……な?憧ちゃんは考えすぎやで?怜はきっと無実で…」
憧『……園城寺さんのスマホケースって、限定品ですか?』
竜華「へ?急に何を……」
憧『限定品ですか?』
竜華「いや、普通に売ってるやつや言うてたけど」
憧『なるほど……』
竜華「ど、どういうことなん?」
憧『……携帯チェック時に電話がかかってくるかもしれない……確かにありえます。この時間帯にはかけないように言っておけばすむ問題でもあるけど』
竜華「う……けど、相手が約束を破るかもしれへんし、緊急の連絡とか……」
憧『はい。でもそれらのリスクを全て回避する方法として簡単な方法があります』
竜華『そ、それって……どんな方法なん?』
憧『もう一台携帯を持つことです』
竜華「………………あ」
憧『同じ色、同じ機種、同じケースの携帯を二台持っておいて、浮気相手用と普段用で使い分ければいいんです』
竜華「…………」
憧『浮気相手とのやり取りやデータは全てもう一台の携帯で管理すればいい。そうすれば普段用の携帯はチェックされても構わない』
竜華「でも怜はバイトしてへんし、携帯代はおとんおかんが払てるはずやで?二台も買うてもらえへんのちゃうやろか?」
憧『いえ、契約内容次第では二台でも割と安くできますし、園城寺さんは病弱で色々不自由が多かったんですよね?それを利用して両親に頼み込めば不可能ではないと思います』
竜華「う……」
憧『このやり方を使えば、あえて中を調べさせて安心させることもできますし。わざと置いたと気付かれなければ何度でも使える手段……これは有効です』
竜華「そんなぁ……」グス..
憧『あ……えと……もちろん、園城寺さんが清水谷さんの態度に対して何も言わなかったのは、清水谷さんからの相談を待っていたからかもしれないし、携帯を置き忘れたのもたまたまという可能性もあります』
竜華「…………」
憧『……嫌な気持ちにさせたらごめんなさい。考えすぎかもしれませんけど、あたしのやり方はまず疑ってかかることなので……』
竜華「あ……ううん、こっちこそごめんな?憧ちゃんはうちのために考えてくれてんのに……」
憧『いえ……とりあえず、無実だという確証を得られるまで色々試してみましょう』
竜華「うん……お願いします」
憧『はい。では、今日はこのへんで……』
竜華「ありがとう。ほなまた」
ピッ..
竜華「………………」
竜華「…………はぁ~」
竜華(携帯を見た時は、怜は浮気してへんと思ってめっちゃ嬉しかってんけどなぁ……)
竜華(……憧ちゃんの言うように二台持ってたらそれで誤魔化せる話やんな……そこまでするやろかってのもあるけど)
竜華「………………」
竜華(とにかく憧ちゃんの言う通りやってみよ。うちではいい方法は考え付かんし)
数日後
<千里山高校 麻雀部部室>
怜「…………」
竜華「…………」
怜(妙やな……竜華の態度が変わらん。いや、変わらんというか、少しは自然な感じに近付いてんねんけど、どこか探ってるような気配が消えへん。携帯をチェックした当日の部活では元通りの竜華やったのに……)
怜(私の潔白が証明されたんなら、こんな態度はとらんはず……ということは、まだ浮気疑惑が晴れてへんのか……)
怜「…………」
怜(それってなんか……竜華らしない。基本的に竜華は素直やし人が良い。携帯をわざと置いたと疑うまでいかへんやろし、ましてやそれがダミーとは露にも思わんはず)
怜(…………やっぱり、誰かの入れ知恵か)
怜(竜華が一番相談しそうなのはセーラやけど……セーラならこっちの動きを窺うような回りくどい方法はとらせへんやろ。もっと直接的な手段をとるはずや)
怜(ほなら一体誰や?うーん…………あかん、わからん。相談相手が誰なのかは、ひとまず置いとくか)
怜「……………ふぅ」
怜(……とにかく、このままずっと疑われ続けると厄介や。今度の土曜には憩と約束がある)
怜(その日、竜華は用事がある言うてたし、今日までの様子を見る限り、家の前で見張るとか直接的な行動はせえへんやろうけど、動きづらいのは確かやな)
怜(……だったら……――――)
土曜日
<デパート 休憩所>
竜華「……うち、ちょっと疲れたからここで待ってるわ」
竜華母「そう?ほなうちはおばあちゃんと買い物行ってくるから、ちょお待っといてな」テクテク..
竜華「うん、いってらっしゃい」
竜華「………………ふぅ」
竜華(相変わらずパワフルやなぁ……歩きっぱなしで疲れてもうた)
♪~
竜華「ん?メール……泉からや」ピッ
泉『園城寺先輩、レベル50突破。ハマりすぎです。清水谷先輩から注意してください』
竜華「レベル50?それってもしかして……あ、画像付き」ピッ
竜華(お。やっぱりそうや。怜が携帯アプリしてる写メや……レベル50。ハマってるのは知ってたけど、めっちゃやりこんでるやん)
竜華「…………ふふ」
竜華(けどよかった。今日は休みやのにうちは用事がある。もしかしたらその隙に浮気されるかも、って怖かってんけど……)
竜華(怜シフト通り、泉が怜に付いて一緒に病院行ってるし、心配なさそうやな)ホッ
竜華(……それにしても、病院の中庭でまでゲームせんでもええのに。怜、集中すると黙ってまうから、泉が手持無沙汰になってまうよ)クスッ..
<南大阪 繁華街>
憩「わ、あの服可愛い~♪」
怜「ほんまやな。憩にめっちゃ似合いそうや」
憩「ほんま?どうしよう、怜にそう言われたらものすご欲しなってきた~」
怜「…………」
憩「怜?どうしたん?」
怜「え?いや、憩があの服着たところを想像しててん。イメージピッタリやった」
憩「そ、そう?その……怜はああゆうん好き?」
怜「憩がめっちゃ魅力的になる服は大好きやで」
憩「ぁ……」
怜「ふふ」
憩「……ほなら……あの服買う///」
怜「ありがとう。私のために」ニコ
憩「う、うん……でも怜に喜んでもらえたらうちも嬉しいし///」
怜「憩は可愛いなぁ」
憩「えへへ///」
<二条家 泉の部屋>
泉「………………」ピッピッ..(メール送信)
泉「………………」
泉「…………はぁ」
泉(清水谷先輩、すんません……)
泉「………………」
泉「……………………はぁぁ……」
泉(私があんなことしなければ……――――)
~~~~~~~~~~~~~~~
数ヶ月前 部活終了後
<千里山女子高校 廊下>
泉「………………」タタタッ...
泉(カバンを忘れるとか……うっかりしすぎやろ私)
泉(しかもちょうど部室の鍵を返した後に気付くとか……タイミング悪いわぁ)
ガチャ
泉「…………あったあった」
泉(さ、目的は果たしたし、とっとと帰ろう)クルッ
泉「……ん?」
泉(あの椅子にかかってるんは…………江口先輩の学ラン?)
泉(そういえば……暑いとか言うて脱いだままやったっけ)
泉(そのまま着んと帰ってまうて……私以上にうっかりやな。先輩らしいわ)クス
泉(今から走れば先輩に追いつくやろし、持ってったげよ)ファサ..
フワッ..
泉「あ……」
泉(先輩の匂いや……)ドキッ..
泉(男っぽい性格とは真逆な、めっちゃ甘い先輩の匂い……)
泉「…………」
泉「………っ」キョロキョロ
泉(今は……私一人しかおらん)
泉(こんなチャンス、めったにない)ゴクリ..
泉「し、失礼します///」
クンクン..
泉「あぁ……先輩……///」
クンクン..
泉「すぅー……はぁあぁあ……」ギュッ..
泉(こうやって学ランに顔をうずめてると……まるで先輩に抱きしめられてるみたいや……)スンスン
泉「……先輩…………好き」
泉「好きです……先輩…………くんくん……はぁぁ……」
泉(あかん……スイッチ入ってもうた……そろそろやめんとあかんのに……)
?「ふふっ……」
泉「っ!?」ガバッ!
泉(だ、誰や!?)
怜「…………」
泉「お、園城寺先輩……これは……って……え?」
怜「ふふふ……」
泉(園城寺先輩の手に携帯が…………まさか!)
怜「ごめんな?衝撃的な光景やったから、動画撮ってもうた」クスッ
泉「!!?」
怜「いやぁ……まさか泉がセーラをなぁ……女同士やのに」
泉「ぁ……う……ぁあ……」
泉(バレてもうた…………内緒にしてた私の秘密が……)
泉「あ、あのっ!このことは…」
怜「安心してええよ?誰にも言うつもりはないから」
泉「え?」
怜「泉は女同士ってところに引っかかっとるんやろうけど、私もそっちやし」
泉「!園城寺先輩も?」
怜「そや。実は竜華と付き合うてんねん」
泉「ほ、ほんまですか!!?」
怜「うん」
泉(めっちゃ仲良いから、もしかしたら思ってたけど……付き合うてたんや!)
怜「せやから、泉の力になれるかもしれんで?」
泉「っ!?園城寺先輩……協力してくれるんですか?」
怜「うん。セーラと付き合えるように手伝ったる」コクリ
泉「あ……ありがとうございます!!ほんま助かります!!」
怜「ふふ……その代わり、泉も私に協力してや?」
泉「もちろんです!私にできることなら!」
怜「ありがとう。ほな、早速なんやけど」
泉「はい!」
怜「私な、竜華と付き合うてんねんけど、荒川憩とも付き合うてんねん」
泉「はい!………………え?」
怜「せやから、竜華に浮気がバレへんように泉の力を貸してもらうで?」
泉「あ、あの……ちょ…………え?」
泉(清水谷先輩と付き合うてて…………けど荒川憩とも付き合うて…………浮気…………え?そんなん……)
泉「お、園城寺先輩!」
怜「何?」
泉「ひ、ひどいやないですか!清水谷先輩が…」
怜「泉」
泉「ひっ」ゾクッ..
怜「私らはたった今、秘密を共有したんや。お互いの弱みを握った」
泉「そ、それは……」
怜「私は、泉がセーラを想う気持ちを応援したいし…………セーラがおらんところで学ランの匂いを嗅ぐ行為も、否定せえへん」
泉「っ!」カァァ..
怜「二人が付き合えるよう協力するつもりや。けど泉は…………そんな私を否定するん?」
泉「ぁ…………」
泉(滅茶苦茶や…………結局これって脅迫やないか……動画を撮られてる以上、私は園城寺先輩に逆らえないんやから……)
怜「…………」
泉「…………」
怜「……ふぅ、はっきり言った方がええか?」
泉「っ……」
怜「私と泉。どっちが悪か……簡単な話や」
泉「え?」
怜「私は泉を脅迫してるんや。わかるやろ?」
泉「……はい」
怜「せやったら答えは一つや。泉は私に脅迫されて、仕方なく手を貸すんや……嫌嫌ながら仕方なく、な」
泉「あ……」
怜「竜華に対して罪悪感を覚える必要はないねん」
泉(けど……清水谷先輩を裏切ることに……)
怜「安心してええで。協力してくれるなら、泉の秘密を守ることを約束する。もしも竜華に浮気がバレたとしても、決してバラしたりせえへん」
泉「…………」
怜「…………当然、やるべきことをちゃんとやってくれたらの話やけど」
泉「っ」
怜「…………」
泉「…………」
怜「泉はセーラと付き合える可能性が上がり、私は浮気がバレる可能性が下がる……どっちにもメリットがある」
泉「っ……」
怜「……泉も同性を愛する者やからこそ、あえて私から秘密を明かした。誠意を見せたんや。その気持ちを酌んでくれへんかな?」
泉(そんなん……私に浮気の手伝いをさせたいから自分から明かしたんやないか。全然誠意でもなんでもない)
怜「……どうする?」
泉(…………けど……私は…………さっきの動画を先輩に見せられて……嫌われるくらいなら……)
怜「………………」
泉「………………わかりました」
怜「………………」
泉「園城寺先輩に協力します……」
怜「……ふふ、ありがとう」
泉「…………いえ」
泉(清水谷先輩……すんません……ほんますんません……――――)
~~~~~~~~~~~~~~~
泉「…………はぁ」
泉(あの時、先輩の学ランに気付かなければ……なんて、今さらそんなこと考えてもしゃあないやんな……)
泉「……あ、もうこんな時間や。次のメール送らな」
泉「…………」ピピッ..
『園城寺先輩、体調もゲームの調子もいいみたいです。レベル53になりました。黙々とやってます。帰りたいです……』
泉(送信)ピッ..
泉「……これで終わり、と」
泉(メール打っただけやのに、すごく疲れた……)ハァ
夜
<新子家 憧の部屋>
竜華『――――ってな感じで、今日は泉と病院行ってたんや』
憧「なるほど」
竜華『泉がちょくちょくメールくれたから間違いないで。今日のところは安心やわ』
憧「それはどうでしょうか?」
竜華『え?な、なんでや?写メっていう証拠があるし……嘘つきようないやん』
憧「証拠……ですか?」
竜華『う、うん。だって、写メ見たら怜が携帯アプリやってるところが映ってた。プレイ画面を見てみたけどプレイヤー名は怜の名前やし、レベルもちゃんと上がってた。最後のメールやと53やで?これってずっとゲームしてた証拠ちゃう?』
憧「……そうですね」
憧(いや、それは違う)
憧(プログラムをいじって画面表示を変えるようなことは園城寺さんにはできないだろうから、自力でレベルを上げたのは確か。ただ……それが今日だという証拠はない)
竜華『50から53ってことは結構長い時間やらなあかんやろうし、少なくとも今日は何もなかったみたいやな』
憧「…………」
憧(確かに、普通にプレイするなら長い時間がかかる。でも携帯のディスプレイに映ってたからって、そのゲームをプレイ中とは限らない)
憧(簡単なこと。レベルが表示されてる画面で、スクリーンショットを撮っておけばいいだけの話。50、51、52、53という具合に、レベルとプレイヤー名が映ってる画像を複数用意しておくだけで、アリバイ作りに利用できる)
憧(あとは病院の中庭に行き、アプリ画面の画像を表示した状態で二条さんに写メを撮影してもらう。それを何度か繰り返せば、まるでその場でずっとプレイし続けたかのように思わせることができるし)
憧「…………ちなみに、今日送られてきたような、園城寺さんがアプリをプレイしているところの写メって、今まで送られてきたことありますか?」
竜華『え?うん、あるで。セーラからも送られてきたし、浩子からもあるなぁ……あ、そうそう。うちも撮ってセーラに送った』
憧「なるほど……ちなみに、アプリ関連の写メを一番最初に送ったのは誰ですか?」
竜華『うちが最初やと思うけど』
憧「そうですか……」
竜華「?」
憧(………ふむ)
憧(レギュラー陣全員から送らせてる……か。園城寺さんの性格的に、そんな頻繁に送るかな?)
憧(今回の件にしても、『私は病院にいました。だから安心してほしい』とでも言うかのような写メ……これは引っかかるね)
憧(あまりにもアプリにハマってるからつい撮って送った……そう思わせようということかもしれないけど、ちょっと無理があるよ)
憧(これは……アリバイ作りに写メを利用した、と考えるべきか)
憧(レギュラー全員からというのも少し引っかかるけど……それより、清水谷さんにも撮らせたことが決定的)
憧(何故なら、清水谷さんに撮ってもらう必要は特にないから。頻繁にメールをするのは清水谷さんだけだという園城寺さんならなおさらね。だから、それでもあえてやったのには理由がある)
憧(園城寺さんの狙いは、一番初めに清水谷さんにアプリをやってる画面を撮らせることで、他の人から送られてくる写メも自分の時と同じように、プレイしているところを撮影して送ったんだと思い込ませること)
憧(そう仕向けることができれば、画像さえあればいつでもアリバイ証明ができる。そしてその間、浮気相手と密会も可能、と……)
憧「…………」
憧(だんだん、清水谷さんの直感が信憑性を帯びてきたかもしれない)
憧(……園城寺さんの浮気を疑う清水谷さんのぎこちない態度に対し、まったく声をかけてこなかったこと……)
憧(その後の、あまりにもタイミングの良すぎる携帯の置き忘れ。ロック解除のパスコードを清水谷さんの誕生日に設定していたことや、中を見たら潔白だと納得するようにできているといっても過言ではない完璧さ……)
憧(そして少し前から送られてくるようになった、アリバイ証明をしているかのような写メ……)
憧(もはや園城寺さんには怪しさしか感じない。浮気かどうかはまだわからないけど、何かを隠してるのは間違いない……いや、ここは浮気してるものとして考えを進めよう)
憧(となると……現時点で浮気相手である可能性が高いのは、写メを送ってきたレギュラー陣の中の誰かだ)
憧(写メでアリバイを作っておいて、実際はどこかでデートしてる、って感じかな?)
憧(わざわざ全員からメールを送らせたのは、特定の人物からのみのメールだと怪しまれるから……疑惑の目を散らすと共に、写メの真実味を増す狙い……)
憧(……でも、よくよく考えると、あえてメールを送る必要はないよね。怜シフト…だっけ?その担当の日ならそれだけで二人でいる理由になる。わざわざメールしなくてもいい)
憧「…………」
憧(だとすると、他に考えられるのはなんだろう?レギュラー陣の中に、恋人がいるのに浮気してるという園城寺さんと同じ境遇の人がいて、お互い協力してる、とか?まさかね)
憧(……でも、協力ということはありえるかもしれない。園城寺さんのことが好きな子がいて、その子の気持ちを利用して浮気を手伝わせている。うん、なくはない)
憧(あと考えたくないけど、全部あたしの見当違いの可能性も考慮しないと。レギュラー陣の中には浮気相手も協力者もいなくて、たまたまメールを送っていた、というケースもありえる。でも、今までのことから考えれば確率はそれほど……)
竜華『―――憧ちゃん!』
憧「ひっ!?」ビクッ!
竜華『あ、気付いた?』
憧「へ?気付いたって何ですか?」
竜華『何ですかって……ず~っと黙ったまんまやし、話しかけても返事してくれへんかってんで?』
憧「あ……すいません。ちょっと考え込んでて……」
竜華『メールでなんか気になることあった?』
憧「あ……えと……」
憧(深く考えるのは後にしよう。清水谷さんとの話が先だ)
憧(とりあえず、写メを送ってきたのは江口セーラ、船久保さん、二条さん。この三人を探っていけば何かしらのボロが出る可能性がある……んだけど)
憧(……それをバカ正直に清水谷さんに伝えるのはナンセンスかな。恋人の浮気相手、あるいは協力者の可能性があると知ったら、普段通りに接するのは難しい)
憧(元々素直な人ならなおさらだよね。不自然な態度になるだろうし、そこを園城寺さんに怪しまれる危険性もある。今回はカマかけの時とは逆に、ぎこちなさを消しておかないと。ここは核心を避けて……)
憧「今のところ、園城寺さんに不自然な点はないと言ってましたよね?」
竜華『あ、うん、そうやな。表情も普通やし、おかしなところはない』
憧(……だったら園城寺さんじゃなくてレギュラーの面々から攻めてみようかな?)
憧「なるほど、わかりました。では今回は園城寺さんを探るとかそういうのじゃなくて、ちょっとした調整をしましょう」
竜華『調整??』
憧「はい。最近の清水谷さんは園城寺さんにばかり目がいってる状態のはず。それは少し不自然です」
竜華『あー……確かに』
憧「なので、他の人たちにも目を向けましょう」
竜華『他の人って誰なん?』
憧「んー、最初は……そうですね、レギュラーの人たちにしましょう。江口セーラ、船久保さん、二条さん……この三人の様子をそれとなくチェックしてみてください。で、悩んでそうな感じだったら、話しかけてみたりして悩み相談に乗りましょう」
竜華『え?うちが?』
憧「はい。ずっと浮気について考えたり動いてたりしたら気が滅入りますから。他の人の悩みを聞いたりするのも気分転換になっていいです。気を張り詰めてるとふとした時にミスが出ますから」
竜華『……言われてみればそうやな』
憧「遠回りだと思うかもしれませんが、こういったやり方も重要なんですよ。疑い続けるんじゃなくて、たまには何もせず時間を置く。それによって、園城寺さんの警戒心を解くことになります」
竜華『おぉ~……さすが憧ちゃん』
憧「いえいえ」
憧(こう言っておけば、自然な態度でレギュラーの人たちに接してくれるはず。何かいい情報を得られるかもしれない)
憧(レギュラー陣の中に浮気相手か協力者がいる場合、ボロを出すかもしれないしね。園城寺さんだけを探り続けるより効率がいい)
憧「あ、そうそう。話した内容は、どれだけ他愛ないことだったとしても、あたしに報告してくださいね」
竜華『うん!了解や!』
憧「ありがとうございます」
憧(……うん、三人に関してはこれでよし。あとは……園城寺さんをもう少し追い込みたいかな)
憧(方法としては……浮気相手と過ごす時間を削る……これかな?)
憧(でも、疑ってると確信を持たれたらまずい。ある程度言い訳ができるようにしないと……)
憧(うーん……あ、そうだ。この前買ったファッション誌に……)
憧「清水谷さん」
竜華「ん?」
憧「もう一つ提案があるんですけど……――――」
翌日
<千里山女子高校 3年教室>
先生「はい、今日はここまで。気を付けて帰るように」
ワイワイ ガヤガヤ..
竜華「…………」
竜華(今日は部活が休み。そして憧ちゃんから聞いた提案を実行するチャンス!)
怜「…………」
竜華(行くで!)テクテク
竜華「怜~♪」
怜「ん?」
竜華「一緒に帰ろ?」スルッ(腕組み)
怜「え?あ、うん。そやな」
竜華「うちなー?この前めっちゃ美味しいケーキ屋さん見つけてん!食べてこ!?」
怜「……そらええな。行こか」
竜華「やったー!!」
怜「…………」
怜(テンション高いなぁ……浮気の疑いが晴れたんか?写メ作戦が効いたんかな……それとも……)
竜華(よし!うち、ちゃんとできてる!ちゃんとできてるで!憧ちゃん!!)
~~~~~~~~~~~~~~~
竜華「甘え上手がモテる?」
憧『はい。そういう記事が載ってたんです。それを実行してるという形でいきましょう。そうすれば…』
竜華「急に甘えだしたら怪しまれへんかな?」
憧『その時は、あくまで雑誌を読んで影響されたということと、園城寺さんともっと仲良くなりたいという想いしかないと言いきってください』
竜華「わかった。それで、具体的にはどうすればええの?」
憧『毎日部活終わりに園城寺さんの家まで送るとか、さりげなく腕組んで甘えるとかですね。もちろん、二人が付き合ってると周囲に思われない程度を心掛けつつですが』
竜華「なるほど」
憧『ポイントは、清水谷さんが園城寺さんにベッタリくっつくことであって、園城寺さんを疑ったり探ったりすることではありませんので、そこのところを注意してください』
竜華「うん、わかってる。憧ちゃんがさっき言うてたみたいに、セーラたちの方に目を向けることを優先して、怜にくっつくのはあくまでおまけって感じなんやろ?」
憧『はい。あくまでレギュラー陣の方がメインです』
竜華「ん、了解」
憧『………………』
竜華「…………どしたん?」
憧『あ、いえ……ちょっとキツイお願いしたかなって思いまして……』
竜華「え?なんで?」
憧『いや、浮気されてるかもしれない相手に甘えるとなると……複雑な心境かなって……』
竜華「……ううん、うちは怜が好きやし。それに浮気してるかもっちゅうのは、うちの直感と憧ちゃんの予想ってだけやろ?あ、こんな言い方したら憧ちゃんに悪いわ。ごめんな?」
憧『いえ』
竜華「とにかく、うちは大丈夫やから。力になってくれてる憧ちゃんの言う通りやるで」
憧『ありがとうございます。では、園城寺さんにベッタリくっつくことと、レギュラー陣に目を向けること。その二つを実行してもらっていいですか?』
竜華「うん」
憧『同時進行は大変かもしれないですけど、お願いします』
竜華「全然!せっかく憧ちゃんが考えてくれたんや。確実にこなすで!」
~~~~~~~~~~~~~~~
竜華「行こ!怜!」テクテク
怜「わわ、急に動かんといてって」トットッ..
竜華(…………そういえば、こうやって怜と二人で下校するの、久しぶりやな)
竜華(部活終わりはみんな一緒やから、セーラたちもおったし)
竜華(甘え上手がモテる、かぁ……)
竜華(もっと前から甘えてたら、浮気なんて心配する必要ないくらいラブラブやったんかな……?)
怜「……竜華?」
竜華「え?」
怜「どないしたん?」
竜華「あ、あはは……考え事。えと……ら、来年の阪神はどうなんのかなーって」
怜「今考えんでもええ気がするけど」
竜華「そ、そやな。今はケーキ屋優先やった。行こ」
怜「うん」
竜華「…………」テクテク
怜「…………」テクテク
怜(おそらく……おそらくやけど、竜華のこの甘えっぷりは、写メの件で疑いが晴れたゆえの積極的行動やと思う……でも念のため確認しとくか)
怜(会話の一巡先っ……―――!)
ピキィィ...
怜(まずは普通に……)
怜『今日はえらい積極的やけど、なんかええことあったん?』
竜華『え?別にそういうわけやないけど?』
ィィン...
怜「―――……っ!」
怜(表情は変わらず。なら、ぐっと踏み込んで……)
怜(会話の一巡先っ……―――!)
ピキィィ...
怜『なぁ竜華。今日機嫌がええのって、もしかして私が浮気してへんってわかったからちゃうか?』
竜華『っ!?な、なに言うてんの!?そんなんちゃう!ただ、雑誌で甘えるのがええって記事を読んだからでその……浮気とか全然関係あらへん!!』
怜(ふふ……最初から言い訳を用意してたかのような返し……隠し事が下手なんは相変わらずやな。おかげで助かったわ)クス
ィィン...
怜「…………」
怜(どうやら、まだ疑いは晴れてへんみたいや)
怜(しかし……携帯を見せた上、写メでアリバイ証明までしたのに信用せえへんなんて…・竜華の裏に誰かがおるのは間違いなさそうやな)
怜(友達か知り合いか赤の他人か知らんけど、余計なことをしてくれるもんやで)
怜(この急なスキンシップも、そいつの指示の可能性が高い。写メを見て疑いが晴れたんやと私に思わせることで油断を誘えるしな。急な変化に対して突っ込まれた場合を想定して、雑誌の記事を読んだからっちゅう言い訳を与えておくのも狡いわ。竜華のブレーンとしてあれこれと偉そうに指示したんやろうな)
怜(会話の一巡先を見れる私なら、危険な質問をすることができるし、浮気を疑われてることに気付いてないと思わせたまま、竜華側の情報を一方的に得られるけど……この状況は少しまずいなぁ)
怜(……竜華たちの狙いは、このままベッタリ甘えるっちゅう形で、私を見張るつもりやろう)
怜(部活のない日は一緒に寄り道して夕飯時まで過ごせば、憩と会えるのは夜しかなくなる。夜遅くから出掛けるのはおとんおかんの目もあってなかなか難しい)
怜(結果、憩と会える時間が減ることで私が焦って動くのを待つ……そんなところか。尾行するより自然やし、シンプルな浮気防止や)
怜「…………」
怜(……シンプルなだけに防ぐのは難しい。付き合ってるのがバレるからベッタリされるのは嫌や言うたところで、『それならくっつくのはやめる。ただ一緒におるだけにする』とでも言われたら終わりや。受験勉強を言い訳にしたら竜華が勉強を教えに来る隙を与えてまうし……)
竜華「あー、お腹空いた。早よ食べたいなぁ?」
怜「え?うん、そやな」
怜「………………」
怜(…………部活終わりだけやなく、休みの日もくっついてくるように指示してるとしたら、面倒なことになる)
怜(アリバイ証明の写メですら納得せえへんかったってことは、泉っちゅう協力者の存在にも気付いたのかもしれんし……あの写メは軽率やったか?)
怜(……泉のことに気付いてるか、一応試しとこ)
怜(会話の一巡先っ……―――!)
ピキィィ...
怜『竜華。私と泉の関係に気付いてる?』
竜華『え?泉との関係って……先輩後輩やん』??
怜『……あ、あぁ、そやで』
ィィン...
怜「―――……っ!」
怜(……ふぅ、どうやら泉のことはバレてへんみたいやな)
怜(それもそうか。写メの日に憩と会ってたのがバレてるわけちゃうから、よほど疑り深いやつやないと気付かへんよな)
フラッ..
怜「っ!?」
竜華「と、怜?」ガシッ
怜「ぁ……っと、大丈夫や。ちょっとつまずいただけやで」
怜(ちっ……体力を使い過ぎた……たった三回やのにこの疲労感……今日は体調あまり良うないからしゃあないか……)
竜華「ほんま?体調悪いならケーキ屋は今度にしよ?無理して行っても…」
怜「平気平気。むしろケーキ食べた方が元気になるわ。行こ」テクテク
竜華「え?う、うん」
怜(泉に気付かれてへんならまだ動ける。そっちの狙いが私の見張りなら……見張られた状態でやり過ごしてみせる!)
怜(私には、会話の一巡先以外にもう一つ……強力な武器があるしなぁ)ニヤリ
<新子家 憧の部屋>
憧「…………」
憧(今の状況から、園城寺さんはどう動くだろう?)
憧(浮気相手がレギュラー陣の誰かなら、部活中に目の前でくっつかれるのを嫌がるか、何かしらの手を打ってくるはず。上手くいけば浮気相手がアクションを起こすかもしれない)
憧(浮気相手が別にいる場合は、清水谷さんに時間をとられる分、どこかで動かなければならない。その動いたところを突く。うん、悪くない)
憧(…………ただ厄介なのは、清水谷さんと園城寺さんが付き合っていると知った上で園城寺さんと関係をもっている場合……浮気相手も園城寺さんもしばらく動かない可能性が高い)
憧(当然だよね。誤解も弁解も必要ないんだから、ほとぼりが冷めるまで待てばいい…………今までの園城寺さんの動きからして、このケースは無さそうだけど)
憧(どちらにせよ、大きく動くとしたら…………清水谷さんだけ帰りが遅くなる部長会議の日か……)
憧「………………」
憧「ふぅ」
憧(なんか疲れた……ここ最近は清水谷さん関連のことに神経使ってるからなー)
憧(今日はもうやめにして、しずリストの編集しよっと)
カチカチッ..
『ふぁあ……』『ん?』『ふぇくしゅっ!』
憧「えへへ……しず可愛い♪」
憧(よーし!今日は徹底的にやろう!しずに囲まれて過ごすぞ~!)カチカチッ!
1週間後
<千里山女子高校 3年生教室>
怜「………………」
怜(竜華が甘えだしてからもう1週間……部活でもやたらスキンシップが増えて、下校登校はいつも一緒、私を家まで送るようになった。休みの日は必ず遊びに誘ってくるし、事前連絡なしで家に直接来る時もある)
怜(これをされると動きに制限がありまくりや。付き合うてるんやからあまり強く拒否もでけへんし……)
怜(もう1週間、憩と会えてへん。ずいぶん寂しがっとるみたいやし、これが続くと直接千里山まで来られてまう危険性がある。それは避けたい)
怜(なら、やっぱり私がやるべきことは1つ。竜華が部長会議で遅くなる今日……憩に会いに行く)
怜(竜華は間違いなく家まで来るやろうからそれを凌ぐためには……)ギラリ
竜華「怜~」
怜「!…………」
竜華「怜?どうしたん?」
怜「……いや、ちょっと頭痛いねん」
竜華「え?ほんま?保健室行こか?」
怜「……大丈夫。そこまでやないから……」
竜華「……我慢でけへんかったらすぐ言うてな?」
怜「うん、そうする。ありがとう」
竜華「ん」
怜(……まずは、体調があんま良くないことをアピールしておく、と……あと必要なんは……――――)
授業終了後
先生「えー、文化祭のアンケートの提出は明日までです。明日までに必ず提出してくださいね。それでは皆さん、気を付けて帰りましょう。各部の部長はこのあと部長会議がありますので、会議室に集合してください」
ワイワイガヤガヤ..
竜華「ふぅ」
怜「…………」
竜華「…………」
竜華(怜……まだちょっと体調悪そうやな……憧ちゃんが言うには、部長会議でうちがおらん間に動くかもしれんって言うてたけど……体調崩してるなら、さすがにないやろな)
怜「竜華はこれから会議やろ?大変やな」
竜華「あ、うん。けど慣れっこやし」
怜「さすがやなぁ……ほな、私は先に帰るな?頑張って」
竜華「うん、ありがとう……一人で帰れる?うちも一緒に帰ろうか?」
怜「いやいや、帰れるて。心配しすぎや」
竜華「そう?」
怜「そやで……気持ちだけありがたく受け取っとく」
竜華「うん……」
怜「ほな、また明日」テクテク
竜華「また明日」
竜華「…………」
<会議室>
竜華「…………」チラ
竜華(会議が始まってから10分。そろそろか……)
雅枝「清水谷。もう大丈夫や。帰ってええで」ヒソヒソ
竜華「あ、はい。わかりました」
雅枝「外せへん用事があるなら副部長に任せてもかまへんのに、少しでも参加したいなんて……相変わらず真面目やな」
竜華「いえ……」
雅枝「他の部長には話してあるから、行き」
竜華「ありがとうございます。失礼します」スクッ テクテク
ガチャ バタン!
竜華「…………」
竜華(……よし)タタッ!
竜華(部長会議に参加することで怜に自由時間を作り、行動を促す……)
竜華(ここ最近、うちがベッタリついてて動けへんかったやろうから、もし浮気しとるんならこのチャンスを逃しはせえへん。浮気相手に会いに行くか、浮気相手を呼ぶはず)
竜華(会議に参加するイコール、会議が終わる時間まで会議室におる……そう考えがちや。けどその裏をかいて会議途中で抜け出して、怜の家に行く)
竜華(家におらへんかったからって浮気の証拠にならんけど……さっき体調悪い言うてたのに出かけるのもちょっと怪しい……と)
竜華(相変わらず憧ちゃんは色々考えてくれるなぁ……すごいわ)
竜華(……とにかく、今は急ごう!)ダッ!
<園城寺家前>
竜華「はぁ……はぁ……はぁ……」
竜華(……疲れたぁ……)
竜華(けど、この時間なら怜が家に着いてから5分と経ってへんやろ。よし、あとは憧ちゃんの指示通りしばらく見張りや。家の中から見えへんとこに移動して……と)
竜華「……………………」
竜華「……………………」
竜華「……………………」
竜華「……………………」
竜華「……………………」
1時間後
竜華「…………」
竜華(動きはない……)
竜華(なんの動きもないのをずっと見てるのってめっちゃ疲れるなぁ……けど、そろそろええ時間かな?)チラ
竜華(……うん、部長会議が終わってから来たとしたら今くらいの時間や。ほなら直接訪ねに行こか)テクテク
竜華(すでに出かけてるか、家におるか……さてどっちや?)ゴクリ..
ピンポーン
竜華「…………」
?『はい、園城寺です』
竜華「あ、お母さん、こんにちは。清水谷です」
怜母『あら、竜華ちゃん?こんにちは~』
竜華「あの……怜、帰ってきてますか?」
怜母『ええ、帰ってきてるわよ。遊びに来てくれたん?』
竜華「あ、えと……」
怜母『せやったらごめんなさいね?怜、体調悪いらしくて、帰ってきてすぐ部屋で寝るって言うて……』
竜華「そうですか……」
竜華(学校でも体調悪い言うてたもんな……)
怜母『ちょっと待ってね。竜華ちゃんが来てくれたって怜に言うてくるから』
竜華「え?あの……」
ブツッ..
竜華「切られてもうた」
竜華「…………」
竜華(怜は部屋におる……お母さんに体調悪い言うてるってことは、少なくとも誰も呼んでへん。体調悪いのに友達と一緒っちゅうのも不自然やし。つまり……今日は動かんかった?)
竜華(……うーん……憧ちゃんやったら『まだそうとは言えません』とか言うやろな……)
ガチャッ..
怜母「竜華ちゃんお待たせ。あ、玄関入って」
竜華「あ、はい。失礼します」
怜母「怜に声かけたんやけど、『顔色悪いのを竜華に見せたくない』とか言うてんのよ。確かに帰ってきた時ちょっと顔色悪かったけど、せっかく竜華ちゃんが来てくれたのに」
竜華「いえ、気持ちはわかりますから」
竜華(そう……付き合い始めてから、怜は疲れた顔とかやつれた姿をうちに見せるのを嫌がるようになった……というより、前から嫌やったけどそれをオープンにしたみたい)
竜華(『好きな人に顔色悪いところとかを見られたない』なんて……あまのじゃくな怜が素直に心情を言うてくれたことに感動したっけなぁ……)
怜母「わざわざ来てくれたのに、ほんまごめんなさいね」
竜華「そんな、全然大丈夫です。むしろ体調悪いのに押しかけてもうてすいません」
怜母「何言うてんの。謝ることあらへんって。ほんま竜華ちゃんはほんまええ子やねぇ」
竜華「いえ、そんな……」
怜母「また謙遜して」クス
竜華「…………あの」
怜母「ん?」
竜華「……怜、一人ですよね?誰か来てるとかそんなん……」
怜母「ううん、誰もおらへんよ。来てたら階段上がる音でわかるもの」
竜華「そう、ですよね」
怜母「?」
竜華「あ、それと……お母さんにお願いがあるんですけど……」
怜母「私に?」
竜華「はい……怜に聞いてきてほしいことがありまして……いいでしょうか?」
怜母「うん、ええよ。何?」
竜華「…………提出期限が明日までのプリントがあるんですけど、怜がちゃんと覚えてるかを確認したくて……なんのプリントかを聞いて来てもらっていいですか?」
怜母「まぁ、わざわざありがとう。そんなんはちゃんとせなあかんもんね。今聞いてくるから待っとって」
竜華「すいません、お手数おかけします」
怜母「ううん、あの子が竜華ちゃんに疲れた顔見せたないとかワガママ言うてんから、竜華ちゃんは気にせんでええよ」ニコリ
竜華「ありがとうございます」
怜母「ちょっと待っとってね……」テクテク
竜華「はい」
怜母「――――…………お待たせ」
竜華「怜、覚えてました?」
怜母「うん、覚えてた。文化祭のアンケートのプリントでええのよね?」
竜華「あ、はい」
怜母「ちゃんと明日には提出する言うてたわ」
竜華「そうですか。ありがとうございました…………では、うちはそろそろ失礼します」
怜母「あ、竜華ちゃん。これお菓子。よかったら持ってって」
竜華「え?あ、ありがとうございます。いただきます」
怜母「今日は来てくれてありがとう。せやのに怜ったら顔も見せんで……今度ちゃんと謝るよう言うとくから」
竜華「い、いえ、そんなん大丈夫ですから」
怜母「そう?竜華ちゃんはほんまええ子やなぁ」
竜華「いえ……では失礼します」
怜母「はい、またね」
ガチャ バタン
竜華「………………」
竜華「…………ふぅ」
竜華(よかった……憧ちゃんが『動くなら部長会議の日』とか言うから、なんかあったらどうしよう思ったけど……なんもなかった)ホッ
竜華(いや、怜が体調悪い言うてんのになんもないことないか。心配やな)
♪~
竜華「ん?電話…………って怜から?」
ピッ
竜華「も、もしもし?」
怜『……竜華?』
竜華「怜!体調は大丈夫なん?」
怜『んー……まぁまぁ悪い、かな?けど、竜華がわざわざ来てくれたって聞いて……そのまま帰すのは悪いなぁ思って』
竜華「そんなん気にせんでもええのに」
怜『ありがとう……そんでな?電話やったら寝ながらでも話せるし顔色も関係あらへんから……って、ワガママすぎやな、私』
竜華「ううん、全然ええよ。怜の気持ちもわかるし。うちかて怜に疲れた顔とか見せたないし……」
怜『竜華……』
竜華「体調に響かない程度におしゃべりしよか?」
怜『うん………――――』
2時間後
<憩の部屋>
怜「ん……」
憩「……ちゅ……」
怜「…………」
憩「怜……///」
怜「ほな、そろそろ帰るわ」
憩「あ……うん、もうそんな時間か……」
怜「ん。夕飯までに帰らんとあかんから。ちょっとしかおれへんかった……ごめんな?」
憩「ううん、少しでも怜と一緒におれただけで嬉しいわ」スリスリ
怜「ふふ……ありがとう」ナデナデ
憩「///」
怜「ほな、またな」
憩「あ、玄関まで一緒に行く」
怜「ありがとう」
怜「………………」
怜(…………………………ふふ)
怜(これでほぼミッションコンプリートやな)クス
<竜華の部屋>
竜華「あはは。そんなん言うたらあかんで?」
怜『いや、けど実際その通りやからなぁ』
竜華「正直やからええ問題ちゃうて。あはは」
怜『ふふ……なんか、竜華と喋っとったら元気出てきたわ』
竜華「え?」
怜『体調の悪さも吹き飛んだわ。恋人パワーはすごいわぁ』
竜華「へ?そ、そんなん……///」カァア..
竜華母「竜華~!夕飯やで~!」
竜華「あ……」
怜『うわ、結構喋っとったんやな。続きは今度にしよか』
竜華「あ、うん、ごめんなぁ?2時間も長電話に付き合うてもろて……」
怜『何言うてるの。私からかけたんやんか』
竜華「あ、そやった」
怜『はは、竜華らしいわ』
竜華「うぅ…」
怜『ほな、切るな?また明日、学校で』
竜華「あ、うん、ほなまた明日」
ピッ..
竜華「………………」
『体調の悪さも吹き飛んだわ。恋人パワーはすごいわぁ』
竜華「~~~~~っ!」
竜華(うぅ~!めっちゃ恥ずかしい!けど、めっちゃ嬉しい~!!)ゴロゴロゴロ!
夜
<憧の部屋>
竜華『―――……なんて言うてな?あぁー、楽しかった!』
憧「なるほど」
竜華『憧ちゃんはどう思う?』
憧「そうですね……ちょっと整理させてください」
憧「…………」
憧(今日、もし浮気相手と会ってるとしたら、考えられる方法は……)
憧(家に呼ぶのが一番簡単。お母さんは園城寺さんしかいない、と言ってたみたいだけど、やりようはある)
憧(単純というか力技だけど、例えば浮気相手が園城寺さんを背負って部屋まで上がるとか、二人で階段を上るタイミングをピッタリ合わせるとかすれば足音は一人分だから、母親には園城寺さんだけ部屋にいると思わせられる)
憧(体調不良を装い、それを母親を使って言うことで、清水谷さんは帰らざるを得なくなる。あとは自分の部屋でゆっくりと浮気する、と)
憧(というか、静かに登ればお母さんが階段の音を聞き逃す可能性だってあるし……絶対一人だったとは言えないかな)
憧(でも……その場合、清水谷さんと長電話してるのをどう説明する?)
憧(まず、浮気相手が清水谷さんと園城寺さんが付き合ってるのを知らないという可能性は消える。目の前で恋人パワーだなんだと言っててバレないわけないし。つまり、二人が付き合ってるのを認めた上で園城寺さんと関係をもっている……)
憧(だけど……いくら認めているとしても、わざわざ隠れて会っているのに、ほったらかしで長電話をする?それなら会う必要がない。アリバイ証明とはいえ、2時間近くも喋ってるんだから……)
憧(となると……家に連れて来てるってのはないかな?あとは、清水谷さんとお母さんの目を盗んで外に出てた可能性だけど……)
憧(…………これに関してはほぼ不可能だね。アリバイに関してはお母さんの証言だけだから、お母さんが嘘をついてたら全部ひっくり返るけど……清水谷さんは『嘘をついてるようには見えなかった』って言ってたし……うん、お母さんの証言は真実かな)
憧「………………」
憧(……一旦整理しよう)
憧(園城寺さんの行動を振り返ると……帰宅してお母さんに顔を見せて、部屋に戻る。それからしばらくして清水谷さんが家に来て、お母さんが部屋に様子を見に来る。清水谷さんから聞くように頼まれたという質問をされ、答える。清水谷さんが帰る途中で電話をかけ、2時間ほど長電話……)
憧(…………お母さんさえなんとか凌げれば、電話は外からかけても……いや、やっぱり電話したまま浮気なんてできない)
憧(お母さんの目を誤魔化す方法はある。協力者が一人いればいい……園城寺さんがお母さんに顔を見せ、そのまま外へ出る。代わりに協力者が部屋へ行く。階段を上がる音は協力者の足音……)
憧(お母さんの話を聞くと、帰ってきた時は顔を見たと言ってたけど、部屋に行った時は会ったとは言ってないから、ドア越しの会話の可能性がある)
憧(あらかじめテープレコーダーか何かに園城寺さんの声を録音しておいて使う手もある……でも……)
憧(あたしはそれを見越して、答えを事前に準備できないような質問を清水谷さんにしてもらった。結果、その質問に対し答えが返ってきた)
憧(つまり、部屋の中にいるのは園城寺さんで間違いない……清水谷さんが帰ったあとに出かけた可能性もあるけど、それでも電話したままじゃ……)
竜華『憧ちゃん……どうなん?』
憧「…………清水谷さんの話を聞く限り、今日は動かなかった……ということで間違いないと思います」
憧(うん……間違いない、よね。そもそも動かない方が安全なんだから、動きがなくても不思議はない……)
竜華『……やっぱり!?あー、よかったぁ』
憧「…………」
1週間後
<憧の部屋>
竜華『――――……やな』
憧「……そうですか」
憧(あれから1週間、怪しいところが全くない。清水谷さんは今まで通りベッタリついてるから、動きに制約がつくはずなのに……)
憧(それに……協力者、あるいは浮気相手の可能性が高いレギュラー陣にも動きがない……こっちの目が届かない夜に連絡するのを徹底してる?にしても完璧すぎる……)
憧(………………全部あたしの推理ミスで、園城寺さんは浮気なんてしてなかった?そんなはずは……ない)
憧(でも……だったらどうやって……)
<怜の部屋>
怜「…………」
怜(ふふ……部長会議から今日まで、相変わらず竜華のマークは外れてへんけど、他には何も仕掛けてけえへん。向こうが手詰まりになってきてるのは確かや。部長会議の時のトリックが効いてるようやな)
怜(あとは、このままひっそりと憩との関係を続けていけば、私の潔白は証明される。そうなれば、今よりも余裕をもって動ける)
怜(……どこの誰が竜華のブレーンになって入れ知恵しとるのか知らんけど、やっと振りきれそうやわ)
?≪……先輩≫
怜(む……この声は……泉か。憩からメールが来たんかな?)
怜(よし……意識を泉に憑いてる【怜ちゃん】に向けて…………と)スゥウゥ...
<泉の部屋>
泉≪先輩、荒川さんからメール来ました≫
ボウンッ!
怜ちゃん≪了解や♪≫
泉≪内容はこんな感じです≫(携帯を怜ちゃんに見せる)
怜ちゃん≪ふむふむ……ほなら……――――って送って≫
泉≪はい≫カチカチカチ..
怜ちゃん≪多分もう返事はいらんと思うけど、もし必要そうやったらまた呼んでな≫
泉≪わかりました≫
怜ちゃん≪ほななー≫ヒューン..(泉の体の中に入る)
<怜の部屋>
怜「…………よし」
怜(これで完璧)
怜「………………ふふ」
怜「…………ふふふふ」
怜(【枕神怜ちゃん】……これさえあれば、直接会わんでもテレパシーで泉とコンタクトがとれる。誰かに会話を聞かれる恐れもない)
怜(怜ちゃん視点にして私が憩からのメールを確認、その後で送りたい内容をテレパシーで泉に伝え、その通りにメールを打ってもらえば、竜華とおる時でも憩とメールができる)
怜(メールを送るのは泉やけど、内容は私が全てチェックしとるから不自然さは全くなし……まさに浮気のためにあるような力や)クス
怜(使うには膝枕パワーが必要やから、たまに膝枕してもらわなあかん制約はあるし、怜ちゃんを使えるようになってから膝枕してもろた竜華にも怜ちゃんの姿が見えてまうから、竜華がおるところでは使えへんのが欠点やけど……今は泉に憑かせてるから怜ちゃんは泉の中から現れる。泉の近くに竜華がおる時以外は問題ない)
怜(最近は使い慣れてきたから、怜ちゃん側と自分側で同時に会話することもできるようになったし……もはや死角なしやな)
怜(欲を言えば、もう少し動かせる範囲を広げたいところやけど……贅沢な悩みか)クク
♪~
怜(竜華からメール……今度の土曜にデートの誘いか)
怜(『もちろんオッケーやで』と)カチカチ
怜(ふふ……ほなら今度の土曜は竜華とデート。憩とは一日中メールに決まりやな。泉には悪いけど、もう少し手伝ってもらうで)
怜(竜華のブレーンが私を追うのを諦めたら、セーラとの仲を取り持ったるからな……それまでは我慢してや……ふふふ)
<憧の部屋>
憧「………………」
憧(このままじゃダメだ……何かしら手を打たないと)
憧(……でもいい策が浮かばない。あたしとしたことが……)
憧(証拠も全然だし……園城寺さんを調べ始めてから結構経つよね?清水谷さんから電話もらったのが確か○○日だから……)チラ
憧「あ」
憧(今週の日曜って………千里山の文化祭だ!)
憧(これはチャンス!次の手は決まった!)ウン!
憧「……よし!」
憧(すっきりしたところで……)
憧(しずリストを編集だ!)カチカチ..
『んぅ~~……』『くしゅん!』
憧「えへへへ」
日曜
<千里山女子高校>
ワイワイガヤガヤ!
穏乃「おおお……すっげー!阿知賀の文化祭より派手だ~!」
灼「生徒数が多いからね」
玄「みんな楽しそう」ニコニコ
晴絵「屋台が結構あるね。いい匂い」
宥「あったかいの食べたい……」フルフル
憧「…………」
憧(みんなの都合がついてよかった。千里山とは面識があるからあたしたちがいても不自然じゃない。直接園城寺さんを探る絶好の機会だ)
<3年教室>
女子A「お疲れ~。私フロア入るから園城寺さん休憩入ってええで」
怜「了解。隣で休むわ」
ガチャ バタン
怜「…………ふぅ」
怜(たかが喫茶店やから余裕や思ってたけど、実際やってみるとしんどいもんやな)
怜(けど、精神的には楽か。憩が家の用事で来ぇへんっちゅうのは有難い。竜華だけやったらなんとでも誤魔化せるけど、竜華のブレーンがややこしそうやしな)
怜「……にしても、ほんましんどい」
怜(少し外の空気でも吸ってこよ)テクテク
<中庭>
怜「ん~……」ノビー
怜「…………はぁ」
怜(お腹減ったなぁ……屋台でなんか食べよかな?いや、次の休憩は竜華と一緒やから誘われるやろし、そん時まで我慢した方がええか?)
?「怜~♪」
怜(ここで機嫌とっておけば、後々動きやすくなるやろしな)
?「怜!」
怜「ん?何?そんな大声…………え?」
憩「えへへ……来てもうた♪」
怜「け、憩っ!?」
怜(そんなアホな!家の用事で来れへんって言うてたやないか!!憩の性格的に『サプライズや』とか嘘ついて会いに来る可能性も考慮して、会話の一巡先でも確認した!せやのになんで!?)
憩「ビックリした?」
怜「あ、当たり前やんか!来れへん言うてたのに!家の用事は?」
憩「それがな?さっきまで来れへんはずやったんやけど、なんか事情が変わったらしいて、うちは途中で帰ってええことになったんや」ニコリ
怜(なんやと!?余計なことを……)ギリ..
憩「来れるってなった時点で怜にメールしよう思ったんやけど、どうせならサプライズにした方がおもろいかなーってことで、いきなり登場してみた」エヘヘ
怜「そう……やったんか。ほんまビックリや」
憩「せやろ?あはは。怜の顔すごかったもんなぁ。『なんでや!』って顔に書いてあったで」クス
怜「そらそやで…………あ」
憩「?」
怜「ちょ、ちょおこっち来て」グイッ テクテク
憩「へ?うん……ぁん、ひっぱらんといて」テクテク
怜(こんなところで呑気に話してる場合ちゃう!憩と私が仲良くしてるところを誰かに見られたら怪しまれる!)
憧「………………」
憧(憩さんと園城寺さん……?地区予選で面識があっても不思議じゃないけど、清水谷さんからは仲が良いなんて話聞いてない。これはひょっとして……大当たり?)
穏乃「憧?どしたの?なんか行きたいところあるの?」
憧「うん、そんな感じ。みんなは先行ってて」
玄「え?それならみんなも一緒に……」
憧「大丈夫。すぐそっち行くから。じゃね」タタッ..
憧(このチャンス……逃さない!)ギラリ
<校舎裏>
怜「…………」テクテク
憩「と、怜……手ぇ痛なってきてんけど」
怜「……あ。ごめん」
怜(どうするか考えながら引っ張ってたから離すん忘れてた)パッ
怜(っちゅうか、手を引っ張って校舎裏に連れて来るなんて、普通に会ってるところを見られるより怪しいやん。リスク高いことしてもうた……焦りすぎや、私)
憩「こんな人気のないところに連れて来て……何考えてんの?へ、変なことちゃうやろなぁ///」モジモジ
怜「…………」
怜(とにかく、これからどうしよう?一番理想なんは憩をこのまま帰らせることやけど、納得させるのは難しそうやし……かといって一緒に観て回るのは論外)
怜(憩には『同性同士やから付き合ってることを誰にも気付かれんようにしよう』って言うてあるから、付き合うてることは黙っててくれるやろうけど、竜華と鉢合わせは危険すぎる……)ウーン
憩「じっと黙り込んで……図星なん?そらな、怜となら外でもええとか……思ったことない言うたら嘘やけど……///」イヤン
怜(っちゅうか、こうして二人で話してんのを見られるのもあかん。特に竜華に見つかったら最悪や。怜ちゃんを使って、泉に竜華を見張るよう頼まんと!)
怜(怜ちゃんで泉に話しかけ……………………え?)
怜(そんなアホな!?怜ちゃんが泉に憑いてへん!私に憑いてる!……泉の膝枕パワーが尽きて、私のとこに戻ってきてもうたんや!くっ、なんてタイミングや!)
怜(……けど、悔やんでも何も始まらへん。怜ちゃんが戻って来たのを利用して、誰かに見られてへんか周囲を確認しよう)
怜ちゃん≪っ!≫ボフン!
怜ちゃん≪見回ってくるで~≫ヒューン..
怜(自分の視界と怜ちゃんの視界を半分ずつにして、と)
怜ちゃん≪…………≫ヒュー..
怜ちゃん≪今のところ、こっちを見てるやつはおらんみたいやな……ん?≫
憧「…………」(化粧中)
怜ちゃん≪あれは……阿知賀の中堅の子やったっけ?わざわざ奈良から来たんか。縁がないわけやないけども…………ん?……あっ!≫
怜ちゃん≪この子……角度的に私らが見えん位置におる……けど、化粧を直してるふりをしながら手鏡越しに見とる!?≫
憧「…………」ピッ トゥルルル..
怜ちゃん≪電話……?≫
憩「怜?どうしたん?」
怜「っ……どうもせえへんよ?それより、前に私が貸した映画観た?」
憩「あ!うん!観たで!」
怜「ほなら感想聞かせてや」
憩「うん!えっとな……」
怜(ふぅ。怜ちゃん出してる時は神経使うわ……映画のDVD貸しといて正解やったな。憩一人に喋らせておいて、私は怜ちゃんに集中できる)
憧「あ、もしもし?あたしですけど」ヒソヒソ
怜ちゃん≪………小声で電話……まさか≫
憧「今すぐ園城寺さんに電話してもらっていいですか?その際、必ず『今どこにいるか?』を聞いて下さい。そして園城寺さんが場所を行ったら『すぐに行く』と言ってください。他には…」
怜ちゃん≪!!≫
怜ちゃん(これは………間違いない!電話の相手は竜華や!竜華のブレーンはこいつや!)
怜ちゃん(憩と一緒におるところに竜華から電話をかけさせ、今いる場所を言わせる……)
怜ちゃん(こうして怜ちゃんを使ったからこいつが私らを見てると気付けたけど、それがなければまず嘘をついてまう。そらそうや。浮気現場に恋人が来る可能性があることをするわけいけへんねんから……)
怜ちゃん(ここで嘘をつくイコールやましいことがあると疑われ、浮気相手は憩だと気付かれる)
怜ちゃん(……正直に場所を言うた場合も、その後の言い訳とか行動によっては疑惑は深まる……くそっ……腹立つ)
怜ちゃん(…………けど……このタイミングで竜華から電話がかかってきたら、こいつと竜華が繋がってる証明になる。そうすれば今後の……って、それは後や!竜華に嘘はつけん。かといって正直に言うたら竜華が来る)
怜ちゃん(となれば……竜華が動く前に怜ちゃんを飛ばして泉と話を…………ちっ、ここやと範囲外か。もう少し近付かな……こんな時に……)
怜「っ」テクテク
憩「そんで、敵がズバーンって……怜?どこ行くん?」
怜「ん?ちょっとな……」
怜(ここから10メートルくらい行けば泉がおる教室……怜ちゃんが届く範囲内に入る)テクテク
憧「はい。それでですが…………あれ?」
憧(移動したか……追いかけよう)テクテク
怜「………………」テクテク...ピタッ
怜(よし、ここなら……行くで!)
怜ちゃん≪っ!≫ビューン!!
<1年教室>
泉「…………」
怜ちゃん≪泉!≫ヒュン
泉「っ!?」
怜ちゃん≪緊急事態や!ちょっと頼みたいことがあんねん!≫
泉≪怜ちゃんが急にいなくなったと思ったら……一体何があったんですか?……というか、壁の中からいきなり出てくるのやめてくださいって前に言うたやないですか≫
怜ちゃん≪それは後!頼みがあんねん!セーラに『中庭付近の校舎裏に阿知賀の中堅の子がおる』言うてそこに向かうよう仕向けてや!≫
泉≪はぁ……休憩中なんで構いませんけど≫
怜ちゃん≪ほな急いでや!早く!≫
泉≪は、はい≫タタッ!
怜ちゃん(……セーラの性格ならクラスの喫茶店に引っ張ってくはず。あいつの監視さえなければ……なんとか凌げる)
♪~
怜ちゃん(電話や!竜華からやろな……はよ本体に戻らな)ビューン..
<校舎裏>
怜「憩、ごめん。ちょっと電話」
憩「へ?あ、うん」
怜「静かにしとってな?」ピッ
怜「……もしもし」
竜華『怜?うちやけど、今どこにおるん?』
怜「中庭の外れや」
怜(電話越しやと会話の一巡先は使えへんのが痛い)
竜華『?なんでそんなとこにおるん?』
怜「いや……ちょっと体がダルなってな」
竜華『そうなん?大丈夫?』
怜「ん……まぁ、一応はな」
竜華『ならよかった……あ、今すぐそっち行くから待っててな』
怜「わかった」
怜(やっぱり、阿知賀のあいつが竜華のブレーンで間違いなかったか……それがわかったのは大きいけど、今はまずこの場を凌ぐことが先決)
怜(電話を引き延ばして、セーラがあいつを連れてくまで竜華を足止めしよう。歩きながらこっちに向かってる時のために、しばらくしてから『忘れ物した』言うて取りに行かせて…)
竜華『あ……っとその前に』
怜「?」
竜華『急にこんなん言うのも変かもしれんけど、一つお願いがあるねん』
怜「?なんなん?」
竜華『怜……うちのこと好きやんな?』
怜「!」
怜(ここでわざわざこの質問……まさか……)
怜「……いきなり何言うてんねん」
竜華「うん……でもちょっと心配になってもうて」
怜「わかるけど、そういう話は後に…」
竜華『答えて。怜』
怜「…………っ、それはもちろんやんか。わかるやろ?」
怜(くっ……あいつっ……!)
竜華『ほなら……好き、って言うて?』
怜「…………」
怜(憩の前で『好き』と言わせて、その反応を見ようっちゅうわけか。姑息な手を使うやつや!)
怜(恥ずかしい言うて誤魔化したら怪しいってか?いや、二人きり以外でそんなん言いたないってのも普通の反応や。けど……)
竜華『前は言うてくれたやんな?』
怜(あかん……断るにしても早よせな怪しまれる。どうすれば……)
怜「!」ハッ!
怜(そや!)
怜「……ったく、しゃあないなぁ」
怜(こうすれば解決や!)
怜ちゃん≪≫ヒューン!
怜(よし。戻って来た。そしたら怜ちゃんで……)
怜ちゃん≪竜華……大好きやで≫
竜華『ぁ……と、怜……///』
怜「ふふ……」
怜(竜華なら怜ちゃんの姿が見えるし声も聞こえるけど、憩には膝枕してもうてへんから怜ちゃんが見えへんし声も聞こえへん。当然あいつにもな。せやから堂々と怜ちゃんを使える!こんな基本的なことを忘れるなんて、慌て過ぎや私)
竜華『あ、ありがとう……』
怜「別にかまへんって」
怜ちゃん≪口に出すのは恥ずかしいけど、竜華が私に『好き』って言うて欲しがってるなら、言うたるのが恋人の役目やし≫
竜華『怜……///』
怜(このまま……本体である私は、憩に聞かれても問題ない当たり障りのない言葉だけ言うて、竜華には怜ちゃんを使って恋人らしい会話をすれば、時間を稼げる上に浮気相手の前でこんな会話はできるはずない、とあいつに思わせることもできる)クス
憧「…………」
憧「…………」
憧(そろそろ『好き』と言わせようと話を切り出した頃かな?)
憧(……ふむ、憩さんの反応は薄い……ということは、はっきり『好き』とは言わずに誤魔化し続けてる、ってところかな?)
憧(あまりにも唐突な質問だし、電話越しなんだから、軽くでも好きと言っておいて、あとで憩さんに適当に説明すればいいんだけどそれをしてないっぽい。何故か?)
憧(それをしないのは、浮気相手を前にしている状態では、例えわずかでも怪しまれる単語は口にしたがらないから……そう考えられないこともない)フム
憧(清水谷さんの話によれば、園城寺さんは照れ屋だけどある程度は自分の想いを口に出してくれてたみたいだし……)
憧(あとは、園城寺さんがこれからどう動くかだけど……)
?「あ、おった!おーい!」
憧「?」クルッ
セーラ「久しぶりやなー!」ブンブン(手を振る)
憧「あ……江口セーラ」
セーラ「遊び来てるんなら俺らんとこに顔出しぃな、水くさいわぁ!知らん仲ちゃうやろ?」
憧「え?あ、うん……」
セーラ「俺のクラス、喫茶店やってんねん。一杯サービスしたるからおいでぇや!」ガシ
憧「ちょ、手……」
憧(まだ二人を見張りたいのに……このタイミングで邪魔が入るとは……これは偶然?それとも……)
セーラ「めっちゃ美味いのん飲ましたるで」
憧「あ、ちょっと待って!」
セーラ「んあ?」ピタ
憧「あたしの知り合いも遊びに来ててさ、その子も一緒にいい?」
セーラ「ああ、かまへんで」
憧「ありがと。今呼んでくる」
憧(園城寺さんの浮気相手かもしれない人を見つけたんだ。この機を逃すわけにはいかない!)テクテクテク!
怜「うん、それで……」
怜(セーラ……まだなんか?もうそろそろええ時間やろ)
憩「…………」ナガデンワヤナー
憧「あのー、憩さん」
怜「?………………っ!?」
怜(な、なんでこっちに来るん!?探り入れるにしても……って、まずい!電話口を抑えな!竜華に憩の声を聞かれてまう!)サッ
憩「え?……あ!憧ちゃんやん」
憧「どもー、お久しぶりです」
怜(知り合い!?マジか!)
憧「園城寺さんも……って電話中か」
怜「…………ん、ごめんな」
怜(あかん……憩には私と付き合ってることを喋らんよう言うてあるけど……こいつの今までのやり方を考えれば、情報を引き出すためにどんな手を使ってくることか……すでに疑いを持ってるならなおさらや)
怜(自分も同性愛者やとでも言って適当に悩みを話したりすれば、憩は信用して私とのことを話すかもしれん……さすがに名前を伏せるくらいはするやろうけど、こいつにはすでに私と憩が一緒におるのを見とる……すぐに気付かれる)
怜(……かなり危険な状態や……けど、まだ間に合う。憩がこいつと話し込む前なら憩を言いくるめて情報が漏れるんを防げる)
怜(そのためには、憩とこいつを二人きりにしたらあかん。もちろん竜華とも……つまり、憩をすぐに家に帰して、こいつと竜華を学校にとどまらせることが重要)
怜「…………ごめん竜華。ちょっと一旦切るな?」
竜華『え?』
ブツッ..ツーッ..ツーッ..
怜「…………」
セーラ「お?怜もおるやん?こんなところで何してんねん」テクテク
怜「ん?いや、ナース服で中庭を歩いとったからな。近くで1年がコスプレの出し物してんのに、それより目立ったらあかんやろ思ってな」
セーラ「はは、なるほどな」
怜(憩を帰らせる前に、憩を喫茶店へ連れて行かせへんのが先か……その両方を満たすには…………)
怜「………………ぁ」
怜(これや!よぉし……)
怜(会話の一巡先っ…―――)カッ!
ピキィィ...
憧『あたし、これから江口さんのクラスの喫茶店に行くんです。お二人も一緒に行きましょうよ』
憩『ええなぁ。行きたい行きたい。と…園城寺さんも行こうや』
怜(これはあかん)
ィィン..
怜(ここは私が先に話しかけて潰すしかない。もう一度、会話の一巡先っ…―――)カッ!
ピキィィ...
怜『セーラはなんでこんなとこにおるん?私と入れ替わりでフロアに入ったんやろ?サボりなん?』
セーラ『へ?あ、あはは……』
憩『図星みたいやなぁ』
怜(お?これなら……)
憧『あはは、サボりじゃないですよ。ちゃんと営業活動してるっていうか、喫茶店に来ないかって誘われましたから。これからみんなで行きましょうよ。園城寺さんも』
怜(くっ……こいつは……)
ィィン..
怜(…っ、もう一度……会話の一巡先っ…―――)カッ!
ピキィィ...
怜(今度は話をそらす……)
怜『ええと……新子さん、やったっけ?阿知賀やんな?奈良からわざわざ来てくれたん?』
憧『あ、はい。部のみんなと一緒に来ました』
憩『ほんま?他の子たちとも会いたいわぁ』
セーラ『せやな』
ィィン..
怜(………これならええか、阿知賀の子たちも一緒なら、憩とこいつが込み入った話をすることもでけんやろうし)
怜「ええと……新子さん、やったっけ?阿知賀やんな?奈良からわざわざ来てくれたん?」
憧「あ、はい。部のみんなと一緒に来ました」
憩「ほんま?他の子たちとも会いたいわぁ」
セーラ「せやな」
怜(ここでまた、会話の一巡先っ…―――)カッ!
ピキィィ...
憩『そんで、他の子たちはどこにおるん?』
憧『みんなは屋台を回ってます。あたしはダイエット中なんで、お茶だけ飲みたいから喫茶店に行こうかなーって気分だったんですよね。だから少しお茶飲んでからみんなを電話で呼ぼうと思ってて。憩さん、良かったらあたしに少し付き合ってもらえませんか?一人でお茶もなんだし』
セーラ『あ、それならええな。美味そうな屋台いっぱいあるけど、ダイエット中の憧ちゃんの前やと食べにくいやろうし。他の子たちには腹いっぱい食べてから来てもうたらええわな』
怜(……ほんまにこいつはやらしいやつやな……喫茶店についたら、あれこれ理由付けてセーラを遠ざけて憩と話し込むつもりやろ?こんなうっとうしいやつは初めてや)ギリ..
ィィン..
怜(く……しんどなってきた…けど、ここからが正念場や)
怜(…っ、もう、一度……会話の……一巡先っ…―――)カッ!
ピキィィ...――――
―――イィィン..
怜「…………」ハァ..ハァ..
怜(あれから会話の一巡先を見続けること十数回……こんなに連続で使ったのは初めてや……意外と耐えられるもんやな……)
怜(そのおかげで……なんとかこいつの先手をとり続けて、話を引き延ばせとる。そろそろええはずや……)
怜(っ!会話の一巡先っ…―――)
ピキ...
怜「あ……」グラ
怜(来た……ッ……)フラーッ..
憩「!?」
憧「え?」
セーラ「!?………っ!」ガシッ!
怜「はぁ……はぁ……はぁ……セーラ、ごめんな……」
憩「え?え?」
憧「園城寺さん?」
セーラ「と、怜……どないしたん?」
怜「なんか……いきなりクラッときてもうて……」ハァ..ハァ..
怜(成功や……力の使い過ぎによる体調不良……これなら……演技の必要、ない……新子の目も……誤魔化せる)
セーラ「フロアで立ちっぱやったのがあかんかったんかもしれへんな……大丈夫か?」
怜「うん……大丈夫やと……思う」
憩「………いや、顔色悪いし、保健室に行った方がええと思う」
セーラ「あぁ、そやろな。俺が連れてく。怜、行こか」
怜「大丈夫やって……セーラはクラスに戻らんと。フロアが一人おらんて……結構しんどいやろし」
セーラ「いや、それより怜が…」
怜「ええって。せっかくお客さんつかまえたんやし……」チラ
憧「…………」
怜「……セーラは戻り?」
セーラ「けど……」
憩「園城寺さんはうちが連れてきますから安心していいですよ?医学の勉強してるから、保健の先生にもちゃんと説明できますし」
セーラ「けど……ほんまに大丈夫なんか?」
怜「大げさ大げさ。一人付いて来てもらえば十分や。荒川さんには申し訳ないけど……」
憩「ううん、体調悪いのはしゃあないです」
セーラ「そっか……ほなら頼むわ」
憩「はい」ニッコリ
憧「…………」
セーラ「なんかあったら電話してな?」
怜「了解や」
憩「ほな肩貸します。よいしょ……っと」
怜「ありがとう」
怜・憩「」テク..テク..
セーラ「…………」
憧「…………」
セーラ「…………ほな俺らも行こか」
憧「………………」
セーラ「……やっぱ心配か?」
憧「え?あ、そうだね……うん」
憧(あの顔色を見る限り、仮病とは思えない……浮気がバレそうな焦りから体調を崩したとも考えられるけど……)
憧(それ以上に気になるのが、倒れるまでの会話……園城寺さんは、まるであたしの思惑を全てわかっているかのようだった)
憧(荒川さんを喫茶店に誘うだけなのに、それすらできないような会話の流れを作られた感じ?あたしが望む展開に至る道を全部塞がれたというか……心を読まれてるみたいな)
憧(って、考えすぎだよね。そんなことができるなんて超能力者だよ)
憧「……………」
憧(………………超能力者、か)
セーラ「怜が大丈夫言うてるんや、大丈夫やて。なんかあったらすぐに行ける準備だけしといたらええねん。行こ」
憧「うん……」
<保健室>
先生「残念やけど、今日は家に帰った方がいいわね」
怜「そうですか……」
先生「担任の先生には私から伝えておくから、気を付けて帰りなさい」
怜「ありがとうございます、失礼します」ガチャ バタン
怜「………………ふぅ」
怜(よし。あとは憩と一緒に帰ればええ。竜華がこっちに来えへんようにメールして……)ピッ..ピッ..
『ごめん、先生に帰るよう言われたから帰るわ。せっかくの文化祭やし、竜華と一緒に回りたかってんけどな』
怜(これだけやと、心配やからって追いかけてくるかもしれんな……なら……)
『クラスのみんなにも謝らんとあかんわ。私がおらんくなったらみんなに負担がかかってまうし。はぁ、病弱ってほんま辛いなぁ……』
怜(……ふむ。こう書いとけば、フロアを抜けてまで追いかけてくるのは気が咎めるやろ。私に続いて竜華まで抜けるとなったら他の子が大変やしな)クス
憩「園城寺さ……って、二人ならもうええか。怜、大丈夫?家まで送るで」
怜「……ありがとう。せっかく来てくれたのに、ごめんな?」
憩「ええよ、そんなん。怜の力になれるの嬉しいし」ニコリ
怜「……憩はほんまに優しいなぁ」
怜(その優しさが、ありがたいわ)ニヤリ
夜
<怜の部屋>
怜「………………さて」
怜(憩とは、恋人がいること・同性愛者であること・園城寺 怜と仲が良いこと……ここらへんを絶対誰にも言わん約束を取り付けた)
怜(前々から言うてはいたけど、念を押すに越したことないからなぁ。同性愛者に対する偏見やら世間の風当たりのキツさを詳しく説明したし、これでそう易々と憩から情報が漏れることはないはずや)
怜(………せやけど、今回の件で憩と私の繋がりを露呈してもうた……そない仲良い風には見せへんかってんけど、周りはどう見るか)
怜(今まで慎重にやってきた分だけ、今回のは痛い……)
怜(口止めかて100パーセント安心とは言えへんし……憩の行動を探られたら…………そう考えると下手に動けへん)
怜(でも………悲観することばかりやない。こっちにも収穫はあった)
怜(竜華のブレーンが新子憧やとわかったこと。これはめっちゃプラスや)
怜(今まではこっちが一方的に探られる側やったけど、相手の正体がわかった以上、こちらから探ることもできる)
怜(もし、上手いこと新子憧の弱みを握ることができればこっちに引き込める。そうすれば今よりもっとイージーに二人と付き合える。いや、もしかしたらもう一人くらいいけるかもしれん)
怜(……ま、それはあくまで理想。今日以降、注意すべきは軽率な行動や。しばらくは耐えつつ、新子憧の隙を探る)
怜(怜ちゃんが使える私なら……普通の人間が探れない弱みを探ることもできるんやからな)ギラリ
<新子家 憧の部屋>
憧「これからの話ですが……」
竜華『うん』
憧「清水谷さんは今まで通り園城寺さんと接するようにお願いします。登下校時も、休日もなるべく一緒という形で」
竜華『わかったで』
憧(……浮気相手が憩さんかもしれないってことは言わない方がいいかな。感情的になって憩さんに会いに行ったりされると困るし、浮気の信憑性が高まることで園城寺さんへの態度が変わるかもしれない)
憧「それと…………これからの土曜と日曜は、あたしも本格的にお手伝いします」
竜華『え?本格的って?』
憧「そちらに向かい、園城寺さんの浮気問題を探ります」
竜華『ほ、ほんま!?』
憧「はい」
憧(清水谷さんに憩さんを探らせるより、あたしが行った方が確実だ。それに、単純に人手が多い方がやれることが増えるしね)
竜華『けど、お金かかるんちゃう?運賃とか……』
憧「まぁ……でもこのままだとジリ貧なんで」
憧(しず用に使う機材とか欲しいのはあるけど……先にこっちを解決させないとね)
竜華『……でも……あ、そや』
憧「?」
竜華『土日ってことは、ホテルとかに泊まるつもりなん?』
憧「いえ、それだとお金がかかりすぎるので、土曜日曜ともに日帰りです」
竜華『お!せやったら、うちの家に泊まらへん?』
憧「え?」
竜華『うちの家、空いてる部屋があんねん。せやから泊まってって!』
憧「それは有難いですけど…………いいんですか?」
竜華『もちろんや!憧ちゃんがうちのために動いてくれてるんやからな!それぐらいせんと!』
憧「…………ありがとうございます。お世話になります」
竜華『うん!』
憧(本当にありがたい……これで、ギリギリの時間まで探れるし、お金も浮く)ホッ
憧「あ、それともう一つ、提案があるんですけど……」
竜華『む、何?』
憧「違う角度からも攻めたいと思いまして。まずは……――――」
数日後
<千里山女子高校 校庭>
体育教師「ゆっくりでもいいからね。最後まで走りきりましょう!」
怜「っ、はっ、はぁ、はっ……」タタタッ..
怜(ほんま、なんでマラソンなんてせなあかんねん。マジでしんどいわぁ……1時間目からずっと座りっぱなしで勉強して最後の授業が体育とか……これやから木曜は嫌やねん)ハァ..ハァ..
怜(適当な理由付けて見学すればよかった……運動不足がどうとか考えてもうた自分が憎い……)
体育教師「あと10分!頑張って!」
怜(まだ10分あんのかい!)
10分後
体育教師「よし、終了!あとは時間までストレッチ!」
怜「はぁ……はぁ……っ……」テク..テク..
怜(やっと終わった……)ハァ..
竜華「怜、お疲れ」
怜「おつかれ……」
竜華「はい、スポーツドリンク」
怜「お、ありがとう。もらうわ……ごく……ごく……ごく……」
竜華「あぁっ、一気飲みはあかんよ~」
怜「んっ……っ……ふぅ…………はぁぁ……生き返るわぁ」
竜華「ふふ……ほな、ストレッチやろか?一緒にしよ?」
怜「ん」
<3年教室>
先生「では、今日はここまで。気を付けて帰りましょう」
ガヤガヤ..
セーラ「おし、帰ろか…………って、怜?」
怜「…………」ウトウト..
竜華「しーっ、さっきからめっちゃ眠そうやねん。マラソンの疲れやと思う」
怜「…………」ユラ..
竜華「危なっ!……っと、セーフ」ガシッ!
怜「…………」スー..スー..
竜華「寝てもうたみたいや………よいしょ、っと………」(怜を膝枕する)
セーラ「ここで寝かしてもしゃあないんちゃう?帰ってからの方がゆっくりできひんか?」
竜華「んー……けどちょっとくらいはええんちゃう?テスト前で部活ないし」
セーラ「ま、確かにな」
竜華「……うちはもうちょっとこうしてるわ」
セーラ「そか。ほな俺は先に帰るな」
竜華「うん、また明日」
セーラ「おう!」
竜華「勉強せなあかんで?」
セーラ「…………ベン……キョ?なんなんそれ?」
竜華「痛い目みるのは自分やで~」
セーラ「……ぅう……わかってるわ……ほなな」テクテク
竜華「…………」バイバイ..
怜「………………」スースー..
竜華「…………」
竜華「………怜……」ナデナデ
怜「んぅ………」モジ..
1時間後
怜「…………ん?」パチリ
竜華「……あ、起きた?」
怜「え?あ……えと…………私、眠ってしもたんか」
竜華「ん、疲れてたんやな」ナデ
怜「……あ…………」
怜(竜華に頭を撫でられるこの感じ……めっちゃ懐かしい気がする……最近はとんと膝枕してもうてなかったもんな……)
竜華「…………なぁ、怜」
怜「ん?何?」
竜華「こうしてるの、懐かしいなぁ」
怜「…………そやな」
竜華「覚えてる?最初に膝枕した時のこと」
怜「もちろん覚えてるで。私が保健室の枕が固いとか文句言うてて、そこから理想の枕の話になってんな」
竜華「そうそう」
怜「で、竜華の膝が柔らかそうやってなって、膝枕してもうてんな?あの時の衝撃は忘れられへんわ。めっちゃ弾力があってなんかモチモチでなぁ……」
竜華「最初はうちの足が太いんちゃうかってショック受けたん覚えてるわ」クス
怜「そやったそやった。はは、ほんま懐かしい……」
怜(…………なんか……えらい昔の話に感じるわ……)
竜華「…………」ナデナデ
怜「…………」
怜(こうして竜華に膝枕されながら雑談して…………私にとってめっちゃ落ち着ける時間……ほんま久しぶりや)
怜「…………」
怜(……けど、なんか引っかかる)
怜(なんで今、このタイミングなんやろ?今までこんな風に思い出話をしたことがなかったわけちゃうけど…………あ)ハッ!
怜(文化祭で、憩と私が二人でおるのを新子憧に見られてから数日後っちゅうタイミングでの思い出話……これはもしかして…………新子憧の作戦か!?)
怜(ノスタルジックな思い出に浸らせることで気持ちを緩ませる。そこで核心をつく質問をしてボロを出させるとか?)
怜(ありえへんことやないな……人間、リラックスしてる時にポロッと本音を言うてまったりするし……)
怜(ふっ……気付いてまえばなんてことないなぁ。話に乗りつつ、油断せんとおればええだけや。作戦とかそんなんやなくて、たまたまこんな展開になったんやとしたらなんも問題ないしな)
竜華「怜?」
怜「ん?何?」
竜華「そういえば他にもこんなんあったなぁ思って。2年生の終わりに……」
怜(まだ続けるか?私はかまへんで。ボロは出さんから)クス
30分後
竜華「……あ、もうこんな時間」
怜「ほんまや。そろそろ帰らんと怒られるな」
竜華「そやな。ほな帰ろうか」
怜「ん。膝枕ありがとうな。気持ちよかったわ」スクッ
竜華「そ、そう?よかった」
怜(最後まで思い出話が続くとは……っちゅうことはボロを出させるんやなくて、竜華の良さを再確認させて浮気相手から心を離す作戦か?ありえへんことやないな。新子憧はヤラシイ手を使いよるからな……いつかギャフンと言わせたる)
怜(……とはいえ、そう軽々と動くわけにもいかんよな……憩と会うのもリスクが高い。しばらくはメールと電話で誤魔化すしかないなぁ)
竜華「怜ー?帰ろ?」
怜「あ、うん」
怜(機会を待つ他ないか……新子憧に何か弱みでもあればこっちから仕掛けられるねんけどな……)テクテク
土曜 昼
<清水谷家 空き部屋>
竜華「どうぞ~」
憧「うわ!広っ」
竜華「そう?ちょっと狭いかな思ったんやけど」
憧「荷物は着替えとノーパソぐらいなんで十分すぎるくらいです。ありがとうございます」
竜華「パソコン持ってきたんや?何に使うん?」
憧「あ、いえその……趣味というか……」
竜華「?」
憧「とにかく、今は園城寺さんです」
竜華「あ、うん」
憧「これからあたしはちょっと出かけてきます。清水谷さんは……」
竜華「わかってる。怜と約束してあるから怜の家に行くわ」
憧「ではまた後で」
竜華「うん」
1時間後
<怜の部屋>
テレビ『ヘイ、ジュディ!僕は君を愛してる!』
テレビ『私もよジェームズ!だから一緒に…』
怜「…………」
怜(あかん。この映画全然おもんない)チラ
竜華「」グス
怜(わ、竜華泣いとる……相変わらず涙もろいなぁ)
怜(まだ残り1時間以上か……こんなのずっと見とくん正直苦痛や。いっそのこと、泉に憑かしてる怜ちゃん使て暇つぶししよかな。こないだの怜シフトで泉の膝枕パワーは十分補充したし)
怜(よし……――――)
<泉の部屋>
泉「…………」
怜ちゃん≪よっと≫ボフン!
泉「わ!ビックリした!」
怜ちゃん≪なんや、家におったんか≫
泉≪ちょっと先輩……怜ちゃん使う時は一声かけてからにしてくださいよぉ≫
怜ちゃん≪ごめんな?今竜華とおるからバレる心配ないし、ええかなって≫クス
泉≪もう……それで、なんの用ですか?≫
怜ちゃん≪いや、用っちゅうか、暇やったから≫
泉≪暇って……清水谷先輩とおるんでしょう?≫
怜ちゃん≪おるけど、映画観てんねん。全然おもんないやつ。せやからこっちで暇つぶし。泉は家で何してたん?≫
泉≪何してたって言うか、私これから買い物行こう思って着替え終わったところです≫
怜ちゃん≪おお、ナイスタイミングや。行こ行こ。色々見て回ろ≫
泉≪なんで先輩が主導権握ってるんですか……もう≫
<泉家付近>
泉「…………」テクテク
怜ちゃん≪♪~≫フワフワ..
泉≪えらい機嫌いいですね≫
怜ちゃん≪ん?まぁなー。映画観てる時は黙ったままでおれるから、怜ちゃんに100パーセント集中できるからなぁ。リラックスしてんねん≫
泉≪なるほど。確かに神経使いそうですもんね≫
怜ちゃん≪そうやねん。今はめっちゃ楽で気分いいわぁ。せやからこうやって……≫
ビューン!
泉「わ」
怜ちゃん≪飛び回ったりもするで~♪≫アハハ
泉(……なんか楽しそう)
怜ちゃん≪上昇~っと!≫ヒューン!
怜ちゃん(いい景色や……こうして上から街を眺めるのって気持ちええなぁ♪)
怜ちゃん≪…………ん?≫
?「…………」
怜ちゃん(なんや?あの子……じっとしたまま動かへん。一体どうし…………ああっ!?)
憧「…………」
怜ちゃん(あ、あ…………新子憧!!)
怜ちゃん(どうしてあいつが大阪に!?しかも……なんで泉の家の近くにおんねん!)
怜ちゃん(まさか……泉を見張ってた?泉が協力者やと気付いたんか?)
怜ちゃん(…………そうか。文化祭の時……新子を喫茶店に引っ張らせるために、泉に頼んでセーラを新子のところへ向かわせたけど……今思えば、誰か一人でも間に挟むべきやったか)
怜ちゃん(新子は、自分が校舎裏にいることを誰に聞いたかセーラに尋ねたんや……そんで名前が挙がった泉を協力者かもしれへんと思った)
怜ちゃん(……焦ってたとはいえ軽率やったか……にしても、わざわざ大阪まで来るとは……なんでそこまでする?竜華に惚れとんのか?)
泉≪先輩?どうしました?≫
怜ちゃん≪あ……いや……なんでもない≫
怜ちゃん(…………けど、これって新子を探るチャンスでもあるねんな)
怜ちゃん(怜ちゃんを使って、新子が携帯をいじってるところを覗いたり、新子をつけ回せば何かしらの情報を掴めるかもしれん。上手くいけば、私の浮気を暴くためにどんな手を使ってくるかを先に知ることができる。そうなれば誤魔化す方法をじっくり考えられる)
怜ちゃん(弱みや隠し事を見つけられれば、それをネタに脅せる。新子を味方につければ、私を邪魔する者はおらんくなる)
怜ちゃん(新子の策に素直に従ってたところをみると、竜華は新子を信頼してるようやし、新子の口から竜華に『浮気の事実はない』と言わせれば竜華を納得させられる上、私を疑ったことに罪悪感を感じれば見張りの目が緩くなるやろから、これからの浮気がやりやすくなるで)クス
怜ちゃん(そういえば、憩とも知り合いらしいし、色々使い道がありそうやな)
泉≪?≫
怜ちゃん≪……泉≫
泉≪はい?≫
怜ちゃん≪早よ買い物行こか≫
泉≪あ、はい≫
怜ちゃん(まず間違いないやろうけど、買い物に行く泉についてくるかでほんまの尾行かを確認。尾行やったら帰宅後に怜ちゃんで新子を見張る……うん、これならバッチリやな)
怜ちゃん(私には竜華、泉には新子。私と泉の両方を見張られることで、憩に直接会うのは夜以外やと難しなってもうたけど、メールや電話なら泉か怜ちゃんでなんとかなるしな)
怜ちゃん(新子憧……私を追い詰めてるつもりかもしれへんけど、そう甘ないで?覚悟しぃや)クス
買い物後、帰宅
泉「ふぅ~、しんど」ガチャ バタン
怜ちゃん≪…………≫
怜ちゃん(案の定、尾行してきおった。私の読みは正しかったみたいやな)
怜ちゃん(それにしても…………やたら上手い尾行やったな。何者なんやあいつは?怜ちゃんが使われへんかったら絶対気付けへんレベルやわ。ストーカーか何かしとったんか?)
怜ちゃん(……ま、ええわ。引き続き、新子の動向をチェックや――――)
夕方
怜ちゃん≪………………≫(泉の家の屋根から憧を見ている)
憧「………………」
怜ちゃん(あいつ……っ!まだ見張っとる!何時間粘るんや!)
怜ちゃん(映画も観終わってもうて、竜華と会話とかせなあかん分、こっちに集中でけへんし……ちっ)
泉≪先輩……今日はそろそろ本体の先輩に戻った方が……≫
怜ちゃん≪何言うてんねん。これからが大事なんやないか。さすがにそろそろ帰る頃に決ま……あ!≫
怜ちゃん(動いた!尾行や!)
怜ちゃん≪泉!行くで!≫
泉≪はぁ……わかりました≫
<清水谷家前>
憧「…………」ピンポーン
怜ちゃん(む?新子は竜華の家に寄ってくつもりなんか?もしそうなら厄介やな……竜華には怜ちゃんの姿が見えるから、死角に隠れて声だけ聞くしかあらへん)サッ!
怜ちゃん≪泉。自販機の影に隠れて。そこなら竜華が家から急に飛び出してきても逃げられる≫
泉≪わかりました≫ササッ
ガチャ
竜華母「こんばんは~」
憧「こんばんは。これからしばらくお世話になります。新子憧です」
竜華母「あら。礼儀正しいのね」
憧「いえ、そんな……あの……本当にすいません、あたしのわがままを聞いていただいて……」
竜華母「そんなん気にしないでええのよ。部屋はずっと空いたままやったし」
憧「ありがとうございます」
竜華母「新子憧ちゃん、やんね?竜華から聞いてるで、色々と相談に乗ってくれてすごく助かってるて」
憧「そうですか。役に立ってるなら嬉しいです」ニコリ
竜華母「あら、ええ子やねぇ。毎週土曜だけなんて言わんと、ずっと泊まっていかへんか?こんなええ子なら養子にしたいわぁ」ウフフ
憧「あはは、そう言って頂けるのは有難いですけど」
竜華「あ!憧ちゃん。もう来てたんや」
憧「こんばんは」
竜華母「あら、今から呼びに行こ思ててんけど……ちょうどええわ。ほなお母ちゃんはご飯作るから、竜華は憧ちゃんを案内したってな。部屋掃除してある?まだやったら憧ちゃんを竜華の部屋に通したり。竜華は掃除終わるまで空き部屋で…」
竜華「してあるから大丈夫や!昨日も言うたやん、もう!」
竜華母「それならええねんけど。ほなら、憧ちゃん。また後でね」テクテク
憧「あ、はい」
竜華「ごめんな?おかん、外面はええねんけど、家では結構口うるさいねん」
憧「あはは。うちのお母さんもそんな感じなんでわかります」
竜華「気ぃ付けてな?一度喋ると長いねん。『うちの若い頃は~』とかそんな話が多……」
竜華母「竜華~!話すんなら憧ちゃんの荷物を部屋に置いてからにしぃや~」
竜華「わわっ!そやな。先に部屋行こ。うちについて来て」
憧「あ、はい」
ガチャ バタン
怜ちゃん(………………)
怜ちゃん(どうやら毎週土曜、新子は竜華の家に泊まるみたいやな。目的は私と泉と憩を見張ることで間違いない。しかしそこまでするとは……よほど浮気問題に執着しとるようやな)
怜ちゃん(竜華の家に泊まる、か…………奈良から日帰りで通うより楽やろし、新子としても動きやすなるやろうな…………けど、これはむしろ私にとって好都合や)
怜ちゃん(女の子一人で深夜まで見張るようなことはせえへんやろうから、夜は竜華の家におる。そこを怜ちゃんで見張れば……何かしら掴めるかもしれへん)
怜ちゃん(問題は、怜ちゃんを操れる有効範囲の都合上、泉か私が竜華の家付近まで来なあかんことか……そこは上手くやりくりすればええかな)
怜ちゃん(他には……竜華に怜ちゃんの姿を見られへんよう注意が必要やけど……部屋が空いてるとか言うてたから、多分あの空き部屋で過ごすやろ。竜華の部屋の明かりや人影と見比べて侵入すれば大丈夫やな)
怜ちゃん(よし……おもろなってきた……こっちから攻撃できるチャンスが巡ってくるかもしれん)ククク..
夜
<怜の部屋>
怜「…………」
怜(そろそろ大丈夫やな。夕飯も終わったし、おそらく新子は部屋におるはずや)
怜(私は今まで、夜に憩や竜華と会うことはほとんどせえへんかった。その辺りの話は竜華から聞いてるやろし、この時間に私らを見張ることはないはず。念には念をいれてっちゅうことで夜も見張るんなら、動かんかったらええ)
怜「…………よし」
怜(泉に憑いてた怜ちゃんを解除して私に憑かせた。あとは竜華の家の近くに潜んで、怜ちゃんで新子の様子を探るだけや)
怜(新子が竜華と一緒におるようなら、私から竜華に電話をかけて長電話に持ち込む。竜華の性格上、電話の時は席を外すやろう。その隙に怜ちゃんを使って新子を探る。もしも新子が目の前で話すように指示したなら、世間話だけして終わりにすればええ。今日は切り上げて次回に持ち越しや)
怜(ふふ……新子にも見張られる側の気持ちをわからせたるわ……って、新子に怜ちゃんは見えへんからそれはでけへんねんけどな)クス
<清水谷家付近>
怜「…………」
怜(もしも見つかった時のための、買い物途中だとアピールする用の携帯のメモを更新して……準備完了。怜ちゃん発動や)
怜ちゃん≪っ!≫ボフン!
怜ちゃん(さっきちらっと見た限りでは、リビング以外明かりが点いてへんかった。先に空き部屋に侵入して、クローゼットの中に潜り込んで待機しよう)
怜ちゃん(新子が一人で入ってきたら、堂々と見張る。竜華と一緒ならそのまま隠れつつ見張る、と)
怜ちゃん≪よっしゃ!行くでー!≫ビューン!
<清水谷家 空き部屋>
怜ちゃん(よし、侵入成功……壁をすり抜けて直接クローゼットの中に入る、と……このコース取りなら見つかることはありえへんな。次も同じように侵入しよ)
怜ちゃん(……………ふむ)キョロキョロ
怜ちゃん(新子の荷物が置いてある。お、ノートパソコンや。わざわざ持ってきたんか。何か重要なデータでもあるんかな?)
怜ちゃん(チームメイトとか友達の悪口をひたすら書いた日記とかあらへんかな?そんなデータなら、脅迫材料になりえるんやけど……)
怜ちゃん(そのためにはデータを入手せなあかんから、パスワードが必要かもしれへんな。その辺りもチェックしとかな)
怜ちゃん(……言うても、怜ちゃんでは物理的に何かを動かしたりはできへんから、新子がパソコンを動かすのを待つしかないねんけどな)
怜ちゃん(とりあえず、新子が来るまで待つとしよか)
15分後
憧「あたしは竜華さんの後に入ります。はい、ありがとうございまーす」
怜ちゃん(来た!しかも竜華の後に入る……ってことは竜華は風呂や。おし、これでクローゼットから出て見張れる!)
ガチャ
憧「あー美味しかった。竜華さんのお母さん、料理上手いなー」バタン
怜ちゃん(……竜華さん、か……今日一日で大分打ち解けたようやないか)ヒューン(クローゼットから出る)
憧「んー……どうしよ……」
怜ちゃん(?)
憧「いや、今しかないか」カチャ
怜ちゃん(お、ノートパソコンを起動した)
憧「…………」カタカタカタ...
怜ちゃん(ログオンのパスワードは…………『AKOAKO~……』)
怜ちゃん(よし、覚えた。単純なパスワードで助かったわ。本体の私で携帯にメモって、と)
憧「ふんふふ~ん♪」カチカチ..カチカチ..カチカチ..
怜ちゃん(ん?ずいぶん下の階層に行くんやな……)
憧「…………」カチカチ
怜ちゃん(あ……隠しファイルを表示させた!)
憧「…………」
怜ちゃん(『授業用新聞記事切り抜き』?……なんやそのフォルダ)
憧「…………」カチカチ!
怜ちゃん(フォルダにパスワード……これはひょっとするで!)
憧「…………」カタカタカタカタ..
怜ちゃん(パスは………………よし!これも覚えた!)
憧「ふふふ……」カチカチ
怜ちゃん(さて……そのフォルダには何がある!)
憧「よし、やるぞ~♪」
怜ちゃん(は?あくび、くしゃみ、咳……?な、なんやこのフォルダは)
憧「あー、こっちチェックしてないや。先こっちか」カチカチ
怜ちゃん(動画……一体何のやろ?)
憧「…………」
『ザー……ブツブツ……ザッザァー』
憧「…………ふふ♪」
怜ちゃん(これは…………学校の廊下を歩いてる女の子?この子って確か阿知賀の……)
憧「♪~」
怜ちゃん(後ろ姿をひたすら映しとる。カメラ目線が一個もない。それとこの低いアングル…………間違いない!盗撮や!)
憧「いいね……よく撮れてる」カチカチ
怜ちゃん(つ、次はなんや……)
『っくしゅ!』
憧「これもいいね。保存」
怜ちゃん(く、くしゃみの音を保存!?……何がしたいねんこいつ!)
憧「…………もっかい聴こ」カチッ
『っくしゅ!』
憧「…………えへへ。可愛い。もっかい」カチッ..
『くしゅっ!』
憧「ぁあぁ……大好きぃ……」
怜ちゃん(っ!)ゾゾッ..
怜ちゃん(盗撮だけやなくて盗聴まで……なんなんやこいつ……変態やないか!)
怜ちゃん(こんなおぞましいやつやったとは……人は見かけによらんていうけど、ほんまその通りや……ドン引きしてもうた)
怜ちゃん(悪口の日記でも見つかればなんて思ってたけど、そんな可愛いもんちゃうかった…………盗撮に盗聴、完全な犯罪や)
怜ちゃん(…………ふ、ふふふ……)
怜ちゃん(残念やったな新子憧……お前がそんな性癖ちゃうかったら、弱みを握られることなく、私の浮気を暴くところまでたどり着いたかもしれへんのに……)
怜ちゃん(しかし……なるほどな。なんで新子が大した接点もない竜華の浮気調査にこれほどまでに力を貸すのか、やっとわかった)
怜ちゃん(自分と同じ同性愛者ということで、竜華に親近感を覚えた上に、浮気を許せない正義感もプラスされた……みたいなことか。謎が解けてスッキリしたわ)
憧「ん~、こっちからも音声抜き出そうかな……」カチカチ
怜ちゃん(……新子の気持ちなんか、私には関係あらへんけどな)
憧「そうしよっと」カチカチ
怜ちゃん≪お疲れさん。次に会う時に引導を渡したるから、それまでせいぜい頑張りや≫スゥー..
『くしゅん!』
憧「よし、保存!」
怜ちゃん(…………一応私の部屋とかにカメラが仕掛けられてへんか、確認しとこ)
翌日
<怜の部屋>
竜華『ごめん、ちょっとミスってもうて、あと30分とかそれぐらいかかるわ』
怜「わかった。そんぐらいの時間に着くようにするわ」
竜華『はーい、また後で』
怜「ん」ピッ..ツーッ..ツーッ..
怜「………………」
怜(竜華との約束は取り付けた。あとは、昨日の帰りに泉に憑かせておいた怜ちゃんを使って……――――)
<泉の家付近>
怜ちゃん≪…………≫ヒューン
怜ちゃん(…………おるか?)キョロキョロ
憧「…………」
怜ちゃん≪おった!≫
怜ちゃん(新子は泉の見張り。これで竜華の家には竜華と両親しかおらんのが確定。作戦開始や!)ヒューン!
<清水谷家前>
怜「…………」ピンポーン
怜「……………」
竜華『はい、清水谷です』
怜「あ、竜華?私」
竜華『へ?怜?なんでもう来てるん?さっき時間かかるて言ったばかりやのに』
怜「サプライズや」
竜華『サプライズていうかただの気まぐれっぽない?……確かにビックリしたけど』
怜「っていうかな、電話もうた時にはもう外におってな?一旦家に戻るのもめんどいなぁ思って来てもうた」
竜華『そうなんか……あ、今開けるわ』
怜「ありがとう」
ガチャ
竜華「お待たせ。まだ焼き上がるまで時間かかるから、うちの部屋で待っとって」
怜「うん、お邪魔します」
<竜華の部屋>
怜「…………」
怜(竜華の部屋に来るん久しぶりやな)
竜華「ほな下行ってくる」
怜「楽しみにしてるで。竜華のクッキーめっちゃ好きやから」
竜華「うん!美味しいの作るで!」
ガチャ バタン
怜「………………」
怜「…………さて」スクッ
<空き部屋>
ガチャ バタン
怜「………………」
怜(あった。新子のパソコン……)
怜(竜華が来るまでに終わらせな)カチ..
怜(…………起動パスワードを入力して……)カタカタカタ..
怜「………………」
怜(よし、合ってた!って当たり前か。覗かれてるて気付かへんかったら昨日の今日でパスワード変えるわけないしな)
怜「次は……隠しファイルを表示して…………このフォルダのパスワードを…………よし!」
怜(出たで出たで……変態フォルダ群が。これを……持ってきたUSBにコピーして……――――)
怜(――……完了!)
怜「…………ふぅうぅ~…………」
怜(やった……成功や……このデータがあれば、新子をこちら側に引き込める……)
怜「く……くくく……くくくくく……」
怜(さて、どうしたものか……すぐ呼び出してもええし、様子見をしてもええ)
怜(……いきなりはあかんか。新子が竜華のブレーンやと私が知ってるのもおかしい。しばらく動かんと待って、向こうから接触してくるのを待つ方が得策か)
怜(泊まり込みで張り込んで収穫ゼロやったら新子は動くやろ。私は憩が痺れをきらさんよう気を付ければええだけ。新子を味方にできることを考えたら、憩としばらく会えへんかっても問題ないしな…………ふふふふ)
2週間後
<清水谷家 空き部屋>
憧「………………」
竜華「憧ちゃん?話って?」
憧「……ここ2週間の土日、あたしは園城寺さんの協力者と思われる人を見張り続けました」
竜華「あ……うん」
憧「ですが、怪しい動きはありませんでした」
竜華「……そっか」
憧(…………そう、全く動きがなかった。それは憩さんの方も同じ)
憧(2週間前……初めて竜華さんの家に泊まることになった前日の金曜。学校を早退して大阪に来て、三箇牧の校門で憩さんを待ち伏せ、尾行して家を調べた。それから毎週末、二条さんと憩さんの動向を見張ってきたけど……何もなし)
竜華「そんで、どうするん?」
憧「そうですね……………………ここは、直接園城寺さんに会おうと思います」
竜華「え?怜と?」
憧「はい。会話の中で糸口を探します。このままだとジリ貧になりそうなので」
竜華「…………」
憧「……竜華さん、園城寺さんに連絡をお願いします」
竜華「……わかった」
<怜の部屋>
怜「…………」
♪~
怜「ん?竜華からメールや」
怜「…………!これは……」
『明日の15時から予定ある?』
怜「…………」カチカチ..
『別にないで』
♪~
『あ、ほんま?せやったら学校に来てもらってええかな?。怜に相談したいっていう人がおるんや。その子の相談に乗ってほしいねん』
怜「………………」クス
怜(私に相談…………ふふ、持って回った言い方しおって。新子、ついに動く気になったか)カチカチ..
怜『ええで』
♪~
『ありがとう。詳しい場所はまた明日メールするわ♪』
怜「…………」
怜「…………いよいよや」
怜(ここ最近の窮屈な思いから解き放たれる…………明日が待ち遠しいわ。さて、準備にとりかかるか。まずは泉に……――――)
翌日
怜「…………」
♪~
怜「!」カチカチ
『ごめん怜。連絡遅れた。今日の集合場所は麻雀部の部室ってことで。部活は休みやけど、部長権限で鍵借りられるから』
怜「………………」
怜(部室……か。普通ならなんも問題ないけど、新子のことを考えると、盗聴器やらを仕掛けられてる可能性がある。弱みを握ってるとはいえ、新子を引き込む時の会話を盗聴されたら敵わん……ここはちゃう場所にせなあかんな)
怜(…………確か北校舎の2階に空き教室があったなぁ。っちゅうか、他に適した空き教室はないか。うん、鍵もかかってへんかったし、あそこを指定しよ)カチカチ
『鍵借りんでも、北校舎の2階に空き教室があるからそこにしよ。校門から近いしな』
怜(さて……どや?)
♪~
『わかった。ほなそこで。待ってるで~♪』
怜「…………」
怜(……二つ返事か……ということは、部室に盗聴器なんてない?あるいは、私が部室以外を指定することを考えて、あらかじめ空き教室に仕掛けてある?……って、さすがにそれはないやろ……うん)
怜(…………ま、仮に盗聴器が仕掛けられてるとしても、事前にチェックすればええか。新子の盗聴趣味を知ってから色々調べたし、怜ちゃんを使えば怪しまれずに見つけられる。最初に指定してきた部室よりは安全やろ)
怜(そう……準備は万端やし対策もできとる。あとはミスせえへんように確実にいけば私の勝ちや……ふ、ふふふふ……)
<千里山女子高校 校門>
怜「…………」テクテク
怜「ん?」
竜華「あ、怜」
怜「竜華」
竜華「相談したい言うてる子はもう教室にいてるから」
怜「うん」
竜華「その子、二人っきりで話したいって」
怜「そか」
竜華「途中まで一緒に行こ」
怜「ん」
怜(わざわざ竜華に案内させる……これは、私を逃がさないためか?それか、竜華に時間を稼がせておいて、その隙に空き教室に盗聴器を仕掛けるとか?)
怜(……なんにせよ想定済みや)
怜(すでに泉を空き教室のそばに向かわせてある。私と竜華が空き教室前廊下に着くまでに怜ちゃんでカメラや盗聴器とか諸々をチェックすれば問題ない)
怜(…………よし……――――)
<北校舎 2階 空き教室前廊下>
泉「………………」
怜ちゃん≪泉≫ボフン!
泉≪あ……先輩≫
怜ちゃん≪早速行くで≫
泉≪だ、大丈夫でしょうか?教室前の廊下、遮蔽物も何もない長い直線ですから、突き当たりまで見通せますよ?有効範囲的に、私が廊下におらんと空き教室の中を覗けませんし……これ、清水谷先輩に見られる危険があるんじゃ……≫
怜ちゃん≪確かに、廊下を曲がった階段の踊り場から怜ちゃんを使って教室の中を覗くのが理想的や。反対側の階段からも教室からも死角やからバレにくいしな。けどしゃあないやん。怜ちゃんの有効範囲外なんやから≫
泉≪私が1階におるのはダメなんですか?空き教室の真下からでも先輩は壁を通れますし……≫
怜ちゃん≪あかんな。空き教室の真下は職員室やから教師の目もあるし、竜華が空き教室を使うことの許可をもらいに行く可能性もある。その時に竜華と泉が鉢合わせになったら、怜ちゃんを泉に戻すこともできひんままや……≫
泉≪それって……そんなに大きい問題なんですか?≫
怜ちゃん≪単純に戻せへんだけやったら大した問題ちゃう。けど、竜華と泉が一緒に移動することにでもなったら……≫
泉≪あ……≫
怜ちゃん≪怜ちゃんは有効範囲外には出られへん。もし泉が範囲外に出ようとしたら、泉の方に引っ張られてまう。校舎内なら壁の中におればバレへんから特に問題ないけど、校庭の方まで連れていかれたら最悪や。隠れられへんで竜華に見つかる≫
泉≪ぅ……≫
怜ちゃん≪……かといって校舎の外からなら安全かっちゅうと、運動部が練習しとるから、なんもせんとおる泉の姿は目立つ。竜華は部長会議で他の部長と顔見知りやから、そこから話が伝わるとややこしなる≫
泉≪……確かに≫
怜ちゃん≪……ま、そない深刻にならんでもええで。竜華がこの廊下に出る直前までにチェックを終わらせればええだけの話や。本体の私が竜華と一緒なんや。泉が逃げるタイミングは合図できるしな≫
泉≪それなら……まぁ≫
怜ちゃん≪安心したところで行くで。廊下の中間あたりまで行ってくれれば、怜ちゃんで教室を調べられる≫
泉≪は、はい≫ソローリ...
<空き教室>
怜ちゃん≪よっと≫ヒュン
憧「…………」
怜ちゃん(!もう来とったか。新子……準備万端ってわけか?まぁええ。チェックしよ)ヒュン!
怜ちゃん(まずは新子以外の人間が潜んでいるかやけど…………うん、さすがにないか。けどこれは確認しとかんとな。よし、次)
怜ちゃん(新子の持ち物…………ふむ、スカートのポケットには携帯電話のみ。カバンの中にも怪しい物はなし。ボイスレコーダーぐらい忍ばせてるかと思ったけど……)
怜ちゃん(いや、見つかった時のリスクが高すぎるか。携帯でも録音はできるしな……)
怜ちゃん(……よし、新子のチェックは終了。後はカメラと盗聴器がないか確認せんと……――――)ヒュン
怜ちゃん(―――……カメラ、盗聴器、ともになし。窓の外側や外壁に張り付けてもないし、近くに怪しい人物もおらん。それどころかバレー部が練習しとるから部外者がいたら目立つ。バレー部員全員携帯も持ってへんかったし、新子の協力者がおる線は消えた)
怜ちゃん(盗撮、盗聴、協力者の心配なし、と……完璧や)
怜ちゃん(これなら、新子との対決には必ず…………あ!そろそろ私らが2階に着く!戻らな!)
怜ちゃん≪泉!行くで!≫ヒューン!
泉≪っ!は、はい!≫タタッ!
<空き教室前廊下>
竜華「…………」テクテク
怜「…………」テクテク
怜(ふぅ……間に合った。泉と怜ちゃんの姿を見られずにすんだ……チェックに集中しすぎてもうた、危ない危ない)
竜華「怜」
怜「ん?」
竜華「怜は、うちに隠してることとかある?」
怜「…………ないで」
竜華「ほんまに?」
怜「もちろん。そら、人間やから言いたないことの一つや二つはあるけど、竜華を悲しませるような隠し事はないで」
竜華「そっか。よかった」
怜「…………」
怜(そう……知らんかったら幸せでおれるんや。悲しむことはない。私が新子を味方につければ、疑念は完全になくせるんや)
竜華「着いた」
怜「うん」
竜華「ほな、後でな」
怜「ん?どこ行くん?」
竜華「職員室で監督と部活の話をして……後は校内を散歩でもしてる。怜たちの話が終わったら戻ってくるから」
怜「わかった。また後で」
怜(……泉を2階に待機させといて正解やったな)
竜華「…………」テクテク
怜「………………」
怜「…………………ふぅ……」
怜(このドアを開ければ……新子がおる)
怜(いよいよ……決着の時や!)
怜「っ!」
ガチャッ!
<空き教室>
憧「…………」
怜「…………」
怜(新子……憧!)
憧「こんにちはー♪」
怜「……こんにちは」
怜(今までさんざん付き纏ってくれおって……ほんまに邪魔でしゃあなかったわ)
怜(……けど、それも今日で最後や。決着をつけたる)
憧「休みの日に呼び出しちゃってごめんなさい。園城寺さんにどうしても相談したいことがあって……」
怜「全然かまへんよ」
怜(相談といいつつこちらを探る……今の行き詰ってる状態なら妥当な作戦やわな)
怜(私かて、怜ちゃんを使わんかったら新子が竜華のブレーンやと知ることはでけへんかったわけやし、新子本人も私に気付かれてるとは思ってへん。接触してもそれほど問題なしとみたんやろな)
怜「ちなみに、相談内容って重要な話なん?」
憧「はい。とても」
怜「……ほなら、相談途中に電話とかメールで話を止められたないな」(携帯を取り出して電源を落とし、机の上に置く)
怜「新子さんも携帯の電源切ってもうてええ?」
憧「わかりました」(同じく携帯の電源を落とし、机の上に置く)
怜「ありがとう」
怜(うん、画面が落ちる瞬間も確認したし、間違いなく電源を切った。これで盗聴の心配は完全になくなった、と)
憧「……えと、いきなり訪ねてきて相談に乗ってもらおうなんて図々しいかも、とか思ったんですけど……」
怜「そんなん気にせんでええよ。インハイで戦ったもん同士の縁やし」
憧「ありがとうございます。阿知賀のみんなとか他の学校の友達には相談しにくい内容だったので、そう言ってもらえると有難いです」
怜「ん」
怜(さて、どう切り出してくる?)
憧「……実は、あたしの姉の話なんですけど」
怜「姉?」
憧「はい。それで、姉には付き合って1年と2ヶ月ちょっとの恋人がいまして………でも最近、浮気されてるかもしれないらしいんです」
怜「…………そうか」
怜(なるほど。竜華を自分の姉に置き換えて話すか。身内のことは近しい友達には話しづらいから私に相談しようと思った、っちゅう設定やな。少し無理があるけど)
怜「男って、なんで浮気するんやろな?信じられへんわ」
憧「………………はい」
怜(ふふ……なんやその間は。狙いが外れて戸惑ったか?)
怜(新子は、竜華と私の話を姉と恋人に置き換えて話せば、私がすぐ気付くと踏んだ。そうなれば私は、話に出てくる恋人は自分……つまり女だと思い込んで話を聞く)
怜(もし私が、話途中で姉の恋人が女であるような言い方をしたら、私の浮気疑惑は強まるというわけやな)
怜(私が浮気してへんかったら『最近浮気されてるかも……』のところで自分のこととは思わず、似た境遇の別人の話で、一般的な男女の話なんやと切り替えるやろうからな)
怜(そういうことやろ?新子。けど、そんな手には引っかからんで)
憧「……………………」
怜「どうしたん?なんか気になることでもあるん?」
憧「あ、その……あたしと全く同じ意見だったので」
怜「そう?でもみんなそう思うんちゃう?」
憧「そう、ですよね……」
怜「……なんなん?何かあるん?」
憧「えと……その……今の質問とは関係ないんですけど、気になったことがあるんです」
怜「ほう、何?」
憧「……園城寺さん、相談者があたしだってことに全然驚いてなかったですよね?もしかしたら最初からあたしが相談してくるって知ってたのかなー、と」
怜「……!」
憧「って、そんなわけないか。わざわざ奈良から直接会いにくるなんて普通思わないですもんね。ポーカーフェイスなだけですよね」アハハ
怜(しもた……怜ちゃんで見慣れてもうてるからリアクションし忘れてもうた……くっ)
怜(にしても新子の言い回し……私を疑ってると気付かせるのが狙いか?)
憧「と、それはそれとして。相談の続きなんですけど、園城寺さんって携帯にロックかけてますか?」
怜「かけてるで」
憧「それはどうしてですか?」
怜(この質問は……どう答えるべきか。単純に見られたない、でええか?いや、一応確認しとこ)
怜(会話の一巡先っ…―――)カッ!
ピキィィ...
怜『単純に携帯の中を見られたないもん。なんで?』
憧『姉は恋人がロックかけてるのがすごく気になったらしいんです。浮気相手とのやり取りしてるのを隠してるんじゃないかって』
怜(うん、普通の会話やな。特に問題なし)
怜(……けど、ほんまこいつヤラシイやつやな。姉の恋人は男ということにしたんやから『彼氏』でええはずやのに、まだ『恋人』ちゅう言い方をしよる)
怜(私がその設定を忘れて、恋人を女と言うかもしれへんと思ってんねやろな。うっとうしい)
ィィン..
怜「単純に携帯の中を見られたないもん。なんで?」
憧「姉は恋人がロックかけてるのがすごく気になったらしいんです。浮気相手とのやり取りしてるのを隠してるんじゃないかって」
怜「それは気にしすぎやと思うわ。彼氏のことはようわからんけど、ロックかけてただけで疑うのは早合点や」
憧「なるほど……ちなみに、後日その恋人の携帯をこそっと覗こうとしたらしいです」
怜「……勝手に見るのは感心せんなぁ」
憧「でも携帯って肌身離さず持ってるから、なかなかチャンスはないはずですよね?」
怜「そやな」
憧「ところが、意外とその機会が早く訪れたんですって。疑い始めてすぐですよ?」
怜「お姉ちゃんツイてるなぁ」
怜(……言い方が腹立つわぁ……私の反応を見るためか?にしても、これやと私のことを言うてるのがバレバレすぎやろ)
怜(けど……それに私が気付いて反応してまうのはあかん。あくまでほんまに携帯を忘れたってことになってるからな)
憧「はい。でもパスコードがわからないから調べようがないんです」
怜「そらそうや。そのためのパスコードやし」
憧「そうですよね。ですけど、せっかくのチャンスなんでいくつか入力してみたらしくて……そしたら、姉の誕生日でロックが解除されたんです」
怜「へぇ……パスコードを彼女の誕生日にするなんて、よっぽどお姉ちゃんのこと好きなんやなその彼氏」
憧「……園城寺さんはそう思いますか」
怜「…………なんで?普通そうちゃう?」
憧「確かにそう考えられないこともないんですけど……あまりにもタイミングが良すぎるというか……バレバレっていうか」クスッ
怜「……っ」
怜(……お前が今日まで私と竜華に付き纏ってきた以上、浮気を誤魔化すために仕掛けたもんは全部かわされてることぐらいわかっとる!けど……)イラ..
怜(ここで反応したらあかん!反応してもうたら怪しまれる。腹立つけど……我慢や)
憧「で、中身を調べたらしいんですけど、怪しいものは全くなかったそうです」
怜「ええことや。彼氏の潔白が証明されたやんか」
憧「それはどうでしょうか?メールとかは履歴を消せばいいですし、学校がある時間帯は電話もメールもしないように言っておけば突然の着信で怪しまれることもない」
怜「!」
怜(こいつほんまに……)
憧「どう思います?」
怜「……学校がある時間帯ってことは、お姉ちゃんも彼氏も学生?高校?それとも大学?」
憧「あ、『学校がある時間帯』じゃなくて『お姉ちゃんと一緒にいる時間帯』の間違いでした」
怜「またえらい間違いやな」
憧「すいません。お姉ちゃんはとっくに大学卒業してました。つい勘違いしちゃいまして」エヘヘ
怜(白々しい……私が設定を忘れてスルーする瞬間を狙とるんやろが!……っと、落ち着け……感情を顔に出したらあかん)
怜「……けど、もし浮気相手がおったとしても、お姉ちゃんと彼氏がどれだけ一緒におるかわからんのにメールも電話もでけへんて辛いと思うで」
怜「浮気相手がどんなつもりで付き合うてるのかわからんけど、連絡取れる時間を制限されるなんて誰かって不満に感じるやろうから、関係を続けていく上で問題になると思うねんけどな」
憧「あたしもそう思います。でも全員が全員ではないっていうか……恋人間の力関係によってはありえない話ではないですよね?亭主関白的な感じとか」
怜「それは……そうかもしれんけど……」
憧「ということは……浮気相手は、お姉ちゃんの恋人に対して強く言えない性格かもしれない、と言えますよね」
怜「……まぁ」
怜(当たり前のように浮気相手がおるっちゅう話し方になってきおった。けどそれを否定してたらキリないし……一巡先を使って反応を窺うのも……消耗を考えるとなぁ)イライラ
憧「あるいは……普段使う携帯と、浮気相手と連絡をとる用の携帯の二台持つ、とか」
怜「……はは、そんなんする?考えすぎちゃうか?」
憧「かもしれませんけど、そうすればメリットは大きいんですよ」
憧「一台で浮気相手とやりとりする場合、当然ロックは必要。でも、ロックを解除した後に携帯を使ってるところをお姉ちゃんに見られたり……最悪、操作中に携帯をとられたら終わりです」
憧「ただ二台あれば……履歴の消し忘れ等の単純ミスも防止できますし、極端な話、携帯を調べさせて潔白を証明する材料にも使えます」
憧「メールのやりとりだって休み時間にトイレで送ればいい。しまう場所なら教室のロッカーでもいいし、携帯の機種もケースも全く同じにすれば、たまに入れ替えても気付かれない。そう思いません?」
怜「……そう言われれば確かにできるかもしれへんけど……あとお姉ちゃんは学生ちゃうんやろ?ほなら教室のロッカーとか休み時間とかなんなん?」
憧「あらら……また間違えちゃいました。さっきのを最後の間違いにしようと心の中で誓ってたんですけど……その誓いを忘れてました。すいません」ペコリ
怜(あかん……マジで腹立つ)ムカ
憧「ええと、携帯チェックの話はこんな感じで、次なんですけど…」
怜「まだあるん?」
憧「はい。だって疑いは晴れてないですから。二台持ってないという証明もできてませんし」
怜「…………そらそうか」
怜(そんなん言い出したら、二台持ってるところを見せて両方とも潔白やったとしても、浮気用と携帯チェック用以外にもダミー携帯があるかもしれへん……てキリないやろが)
憧「次はですね、アリバイの話です」
怜「アリバイ?推理小説とかサスペンスでよく言うアレか?」
憧「はい。そうです」
怜(携帯チェックの次……泉に撮らせた携帯アプリのやつか……)
憧「……っとその前に園城寺さんに質問です。浮気浮気と言いますけど、実際はどこからが浮気なんでしょうね?」
怜「そんなん、気持ちが離れたらちゃう?」
憧「おおー……すごい。乙女な意見ですね」
怜「そんなんちゃうて」
憧「いやいや、素敵ですよ。ただお姉ちゃんはさらに乙女でして、たとえ好かれていたとしても、自分以外の人とデート……つまり、自分に内緒で二人きりで会ったりする時点で浮気らしいんです」
怜「……ふーん」
憧「そんな彼女に対し、携帯チェックをさせても浮気の疑いを晴らせなかった恋人……さて、次はどうすると思います?」
怜「さあ?私にわかるわけないやんか」
憧「予想でいいです」
怜「…………」
怜(なんや、何を言わそうとしてる?ただの質問ちゃうんか?……念のため使っとくか)
怜(会話の一巡先っ…―――)カッ!
ピキィィ...
怜『その彼氏が浮気をしてるっちゅう前提なら…………疑われたままでは浮気を続けられへんということで、浮気相手の整理に取り掛かるんちゃうか?本命一本に絞るというか……』
憧『あれ?おかしいな。園城寺さんみたいな優しい人なら、とにかく潔白だと言うことを信じてもらうためにひたすら会話する……とか言うかと思ったんですけど……そういう考え方ですか……なるほど』
怜(っ!)イラッ!
怜(何言うてんねん!浮気が確定してるかのような口ぶりやったくせに。それでも一応『浮気をしてる前提なら』ってつけたっちゅうのに……)
怜(……そんな言い訳したところで、こいつのことや。『今までの話はあくまでお姉ちゃん側の視点から見た話ですから……』とか言うんやろな。忌々しい)
ィィン..
怜(――――……ほなら次はお前の希望通りに答えたろうやないか。会話の一巡先っ……――――)カッ!
ピキィィ...
怜『どうしたら浮気してへんことを信じてくれるかを考えるわ。誠意を持って説明するしかないかもしれへんけど』
憧『ふーむ。園城寺さんは、浮気してないアピールをして相手を納得させてから動くタイプですか……なるほど。考えなしに動いてから言い訳、というよりやっかいな考え方ですね。つまり、策を練るタイプと』
ィィン..
怜(ほんまこいつ……っ!どう答えても腹立つこと言うなぁ!)イライラ..
怜(……こんなんで何回も一巡先を見てたらキリがないわ。ここはもうこっちで……)
怜「その彼氏が浮気をしてるっちゅう前提なら…………疑われたままでは浮気を続けられへんということで、浮気相手の整理に取り掛かるんちゃうか?本命一本に絞るというか……」
憧「あれ?おかしいな。園城寺さんみたいな優しい人なら、とにかく潔白だと言うことを信じてもらうためにひたすら会話する……とか言うかと思ったんですけど……そういう考え方ですか……なるほど」
怜「いやいや、会話の流れが浮気してる前提やったから。してへんならちゃんと言うわ」
憧「ふーん、そうですか……ちなみにその恋人が次にしたことは、お姉ちゃんとデートできない休日に、今現在どこにいるのかを写メで送ってくることでした」
怜「それがさっき言うてたアリバイっちゅうやつやな。写メがあるなら潔白を証明できるし、ええんちゃうか?」
憧「いえ、これも100パーセントじゃないですよ。本当にその日に撮ったかわからないですから」
怜「それは……言われてみたらそうやな。自分撮りなんていつでもできるわけやもんな」
怜(…………普通そこまで疑うか?竜華やったら間違いなく信じるのに……)
怜(しっかし……どうしよう?こいつのことや、私が泉と使った偽のアリバイ作りも見破ってるかもしれん。なら下手に姉ちゃんの彼氏の肩を持つとまずいか?女として、浮気してる方の味方につくのは怪しい)
怜(けど……こっちから協力者がおることをほのめかすようなことを言うのも……ここは様子見や)
憧「自分撮り……ですか」
怜「……なんか変?用事かなんかで一人なんやろ?誰かと遊びに行くくらいなら彼女誘ってデートするやろうし」
憧「そうですね……」
怜「…………」
憧「…………」
怜(なんや?何を考えてる?ここで誰かに撮ってもらった可能性があると気付かないのは不自然とか思っとんのか?それとも、次の手を考え…)
憧「あ」
怜「?どないしたん?」
憧「ごめんなさい。勘違いしてました」
怜「勘違いて……何を?」
憧「今までの話、お姉ちゃんじゃなかったです」
怜「は?」
憧「本当は、園城寺さんと竜華さんの話でした」
怜「………………は?」
憧「園城寺さんと清水谷さんが付き合っていて、園城寺さんが浮気してるかもしれない……という話で、携帯を置いて行ったのとか写メを送ってきたとかのは全部園城寺さんです」
怜「???」
怜(な、なんやそれ!急に何を言うてんねん!頭おかしいんか?言うてることメチャクチャやぞ?支離滅裂や!)
憧「すいません、ビックリさせちゃいました?あたしとしたことがまさか園城寺さんとお姉ちゃんを間違えるとは……いやぁー、恥ずいです」
怜「………………」
怜(……落ち着け私……これはこいつの作戦や。あえて訳わからんことを言うて私の反応を見てるんや。普通に対応すればええ)
怜(驚きすぎやとか突っつかれたら『竜華と付き合ってるのを知られてたことに驚いて言葉を失ってもうた』で誤魔化せる)
怜「……竜華に聞いたん?」
憧「え?何がです?」
怜「その……付き合うてること」
憧「はい。竜華さんから聞きました」
怜「へー……バレたら大変やから秘密にする約束やってんけどな」
憧「でしょうね。でもあたしも同性愛者なんで、その点は安心したんじゃないですかね」
怜「新子さんもそうなんや」
憧「はい。内緒にしておいてくださいね。園城寺さんたちのことも内緒にしますから」
怜「わかった」
怜(知っとるわ。それに加えて盗撮、盗聴する超ド級の変態やっちゅうこともな)
憧「ありがとうございます」ニコリ
怜(さて、ここからどうする気や?私を疑ってると完全に口に出した以上、こっちから仕掛けてもええねんけど……)
怜(…………まだやめとこ。もう少し様子見や)
怜「それで、今のはどういう意味や?私が浮気してるって」
憧「ああ、言葉通りです。竜華さんの話を聞いてピンときまして。あたしから『携帯チェックした方がいい』と提案しました」
怜(携帯チェックを仕掛ける以前から竜華に怪しまれへんよう色々してたし、上手くいってたと思ってたけど……竜華はスルーしてもこいつなら引っかかるポイントがあったかもしれん)
怜(けど、それを抜きにしてもこのタイミングでバラす意味がわからへん。新子からすれば、自分が竜華のブレーンをしてることに私が気付いてへんと思ってるはずやのに……)
怜(それとも、私が尻尾を出さへんすぎるのは自分の存在に気付いてるからやと思った?いや、でも普通は浮気の証拠が出えへんのは潔白やと思うやろうし……)
憧「……どうされました?」
怜「……いや、なんでそんな根も葉もないこと言うんかな思って」
憧「ふむ。では一通りあたしの方から説明させてもらいますね」
怜「…………」
憧「まず携帯チェックの話はさっきした通り。おそらく浮気用と二台持っていると思います」
憧「次に写メですが、これはアリバイを証明するためのトリックですね。竜華さんの目を盗んで浮気相手と会うためのトリック」
怜「は?何を適当なこと…」
憧「ストップ。最後まで説明させてください」
怜「…………」
憧「えー、このトリックは、麻雀部のレギュラー部員が園城寺さんをサポートする『怜シフト』を利用したものです」
憧「園城寺さんが病院に行く時に一緒について行ったり、健康面を支えるために食事を作ったり、とかですね」
憧「で、病院への付き添いですが、基本はレギュラーから一人です。恋人であることを隠してるため、毎回竜華さんと一緒、とはなりません。付き合う前と同じく持ち回り制です。間違いないですよね?」
怜「ん、そうやな」
憧「園城寺さんはそのシステムを利用してアリバイ作りをした。付き添いの人に写真を撮ってもらい、その写メを竜華さんに送る……これでアリバイを証明できます」
憧「が、それだけでは意味ありません。大事なのは『浮気をしている間』のアリバイ証明です。本当は浮気相手と一緒にいるのに、さも怜シフトの担当者と一緒にいるかのような写メを送る。それが出来ればアリバイが証明できます」
怜「……そんなん、無理やん」
憧「いえ、何かしらの細工をすれば可能です。例えば……写メを偽装する、とかですね。実際、園城寺さんのとった方法もこれだと思います」
怜「…………アホ言いな」
憧「園城寺さんがとった作戦は、自分が携帯アプリをしているところを写メに撮ってもらい、送ること」
憧「携帯画面には、園城寺さんが使っているプレイヤー名とレベルが表示されてます。この画面を使ってアリバイを証明しようとしたんです」
憧「プレイヤー名によって園城寺さんの携帯で間違いないことをアピール。そして、レベルでプレイ時間をアピールした」
憧「例えば、朝にレベル10の写メを送り、昼にレベル20の写メを送る。そうすることで『ずっと遊んでなければここまでレベルが上がらないだろうから、朝から昼までアプリで遊んでいたんだな』という風に思わせられます。これが園城寺さんの狙い」
憧「実際はプレイ画面をスクリーンショットで撮って保存し、その画像を画面に映した状態で写真を撮り、アリバイを証明。悠々と浮気相手に会いに行った」
怜「…………」
憧「……ですが、このトリックを成立させるには条件があります。それは協力者が必要だということ」
怜(ふん……)
憧「トリックの内容を知らない付き添いの人に、アプリ画面の写真を表示したところを撮ってもらうなんて不自然です」
憧「大体の人は疑問を抱くはず。写真を見せたいなら直接メールで送ればいいんですからね」
憧「では、疑われようがかまわない人……つまり、通りがかった人や竜華さんとあまり関わり合いのない看護師さんなどに撮ってもらうのはどうか?」
怜「そんなん、論外やろ」
憧「その通りです。怜シフトの担当者から送られるからこそ意味があります。それに通りすがりの人からメールなんて送られたら不気味です」クスッ
憧「当然、自画撮りも不可能。自分の携帯画面を使ってアリバイ証明するわけですからね」
憧「以上のことから、園城寺さんには協力者がいるのではないか、と推理しました」
怜「…………」
憧「それと、協力者がいるのならアリバイ証明のトリック以外にも色々使い道があります。二台あると思われる携帯のうち一台預けることで、竜華さんの目を盗んでメールのやりとりもできますし」
怜「……電話がかかってきたらどうすんねん」
憧「そうですね……着信があったことを園城寺さんに伝え、あとでかけ直してもらうのが一番簡単」
憧「あるいは、園城寺さんから自分の携帯に電話をかけてもらい、電話に出る。そして、園城寺さんから預かった携帯で浮気相手からの電話に出る。その状態で携帯同士をくっつければ、園城寺さんと浮気相手が会話できます。園城寺さんが持っている携帯に怪しい履歴も残らない」
怜(……試したことないからわからんけど、そう上手くいくんか……?)
憧「えーと……写メによるアリバイトリックを整理しますと…」
憧「まず、竜華さんと一緒の時に、携帯アプリをプレイしているところを撮影してもらい、メールで誰かに送る。その後、怜シフトの担当者にも同じように写メを撮ってもらい、竜華さんへ送る」
憧「最初に竜華さんに撮らせたのは、携帯アプリの画面が映ってることイコール、アプリをプレイ中なんだと認識させるため。そうすることで、実際は静止画なのに、さもプレイ中の動画であるかのように思わせられる」
憧「あとは、怜シフトのスケジュールと、浮気相手と会う日を確認して撮影……」
怜(いちいち整理せんでもええ。さっき聞いたわ)
憧「そして浮気相手に会う当日、怜シフトの担当者……つまり協力者から竜華さんに写メを送らせれば完成です。竜華さんには園城寺さんが携帯アプリに夢中になっている、と思わせると同時に『だったら携帯に電話するのも悪いかな』と、電話やメールの回数を減らす効果も期待できます」
憧「この段階で携帯アプリのやりすぎをアピールすることで、今後使える手が増えます。例えば、都合の悪い時にかかってきた電話にすぐに出なかった言い訳として『アプリのやりすぎで電池切れて、充電したまま出かけちゃったから気付かなかった』という風にも使える、非常にいやらしい手ですね」
怜(いやらしい手って……お前が言うか?)イラ
憧「……で、協力者が誰なのかということですが」
怜「…………」
憧「少なくとも、怜シフトのメンバーの中にいることは確実……でないと写メのトリックが使えませんから」
怜「写メはトリックやなくて普通に送ったとは考えられへんのか?」
憧「はい。考えられません」
怜「……なんで考えられへんねん。大体、私に協力する理由がないやろ?レギュラーメンバーにとっては竜華かて仲間なんやし」
憧「そうですね……確かに理由はわかりません。ですが、理由はあまり関係ないです。大切なのは協力者が誰で、何をしたのか、ですから」
怜「そうか?大事やと思うけどな」
憧「それよりも次の話です。写メのあと、あたしは竜華さんに頼んで園城寺さんをマークするようお願いしました。休日や登下校など、できる限り一緒にいてほしい、と」
怜「……あぁ、やけにベッタリやと思ったけど、そういうことやったんか。納得したわ」
憧「あれ?今気付きました?鈍いんですね」クス
怜「…………」イラ
怜(……知ってたとは言えんのやからしゃあないやろうが。にしても頭にくる言い方しよる)
憧「えーと、それでですね。竜華さんがベッタリつくことで、園城寺さんは動きづらくなった。浮気相手とどの程度の頻度で会っていたかはわかりませんが、直接会うのが難しい状態になりました」
憧「となれば、竜華さんのマークが外れる日……つまり竜華さんの帰りが遅くなる部長会議の日に動くはず……あたしはそう読みました」
怜(……ま、当然やろな)
憧「そこで、竜華さんに部長会議の途中で抜け出してもらい、急いで園城寺さんの家へ向かわせました。もしも園城寺さんが動いていたなら、留守にしているか、出かけるところを見れるはずですから」
怜「…………」
憧「……が、あたしの予想に反して園城寺さんは家にいました。体調を崩していたようですね。大丈夫でしたか?」
怜「うん、そないひどなかったから」
憧「それはよかったです。で、園城寺さんの動きを探った結果ですが……」
怜(……問題はここや。今までのは見破られてたかもしれへんけど、これはおそらく……)
憧「何もありませんでした」
怜(っ!やっぱり!さすがにこれは気付かれへんかった!よし……)
憧「園城寺さんのお母さんが園城寺さんを見ていますし、竜華さんからの質問にはお母さんを通して返事も貰いました。部屋にいたのは間違いありません。その後、竜華さんとずっと電話してたみたいですしね」
怜「うん……なんか体調悪い時って心細いからなぁ。長電話に付き合ってもうてん」
憧「……それから数日間、引き続き竜華さんに園城寺さんの様子を窺ってもらいましたが、特に問題はありませんでした…………が!」
怜「…………」ピク
憧「あたしは、園城寺さんを直接探ろうと千里山の文化祭に参加し、中庭付近で園城寺さんを見つけました。そして、しばらく園城寺さんを遠くから眺めてました。すると、園城寺さんがある人物と接触しているところを目撃したんです……その人物とは、三箇牧の荒川憩さん」
怜(憩……そうや。文化祭さえなかったら、憩が突然やってくることもなかったし、新子のマークを外せてたはずやのに……)
憧「憩さんの姿を見た園城寺さんは、明らかにうろたえていました。そして、慌てて憩さんの手を引き校舎裏へ連れていった」
怜(……くっ……あの時は焦ってもうてたから周りが見えてへんかったけど、私の態度、めっちゃ不審やな。それをよりにもよってこいつに見られるて……ツイてへんな)
憧「何か掴めるかもしれないと思ったあたしは、二人に気付かれないように後をつけ、こっそりと様子を窺いました。でも二人は、普通の友達同士のような雰囲気で会話をしてるだけでした」
怜(そらそうや。憩に映画の感想を言わせてただけやからな)
憧「そこにちょっと引っかかりました。校舎裏にまで引っ張ってくるほど慌てていたのに、二人の様子はまるで普通……ちょっとおかしいですよね?」
怜(普通に振る舞ってたところでも引っかかるんかい……っちゅうても、仲良さ気にするわけにもいかんかったし……全ては憩が来たせいや……)
怜「おかしいやろか?」
憧「はい。憩さんはサプライズゲストか何かで、みんなに内緒で来てもらっていたのに堂々と現れたから慌てた、というような可能性も考えましたが、竜華さんに聞いたところそのような話はないようですし、竜華さんに内緒にして園城寺さんが単独で計画するとも思えない」
怜(それにしても……竜華を使って私に好きかどうかを言わせようとしたのを、怜ちゃんで上手く対処したことには全く触れへん……自分に都合の悪いところは言わへんってか?)
怜(新子からすれば、尾行に気付いてない状態で、憩の目の前におりながら竜華に『好き』と言ったことで浮気疑惑が少しは晴れるはずやのに……)
憧「その後、竜華さんたちと合流してから体調を崩した園城寺さんを送っていったのも憩さんでした」
怜「それは消去法で……」
憧「はい。奈良からわざわざ来たあたしたちや、クラスの手伝いがある竜華さんや江口セーラよりは適任と思ったんですよね?でも……普通は身内に頼ると思います」
怜「?」
憧「……ちょっと失礼な言い方かもしれませんが、園城寺さんは体調を崩しがちですよね?そのせいか、人に助けられたり支えられたりするのを当たり前のように感じてる気がします」
怜(っ!?なんやと!?)
憧「道端でうずくまってたら誰かが声をかけてくれたりしたんでしょう。そういう風に、周りの厚意を受ける機会が多かったんじゃないですか?」
怜(こいつ……私がどんな思いで……好きで病弱になったわけちゃうのに……っ!)ギリ..
憧「だから身内じゃなくても弱ってる人を助けるのは当たり前に思ってしまう。だからクラスの手伝いがある身内より、遊びに来た憩さんに頼る。発作とかならともかく貧血程度の症状なら、医療の心得がある憩さんではなく竜華さんでも十分なはず。体調不良の園城寺さんを保健室に連れていくと説明すれば、多少遅れてもクラスメイトは納得するでしょうし」
怜(思うようにできない自分の体を何度恨んだことか……みんなと同じことがでけへん悔しさを何度味わったか!)
憧「園城寺さんは、竜華さんと憩さんの二人を同じ空間に居合わせたくなかった。普段はどう呼ばせてるか知りませんけど、憩さんに下の名前で呼ばれたりしたら説明も面倒ですし、そこから竜華さんに探られるのもまずいですから」
怜(そんな私の気持ちも知らんと…………なんやねんこいつ!関係ないところから割り込んできてペラペラと……)
憧「結果として、100パーセント浮気相手だと確信できるような出来事はありませんでしたが、あたしは直感的に憩さんが怪しいと思いました」
怜(お前が人のことを偉そうに言える立場か?盗撮だの盗聴だのしてるくせに……正義面するんやない!)
憧「だからあたしは…」
怜「…………もうええ」
憧「?」
怜(新子が私の浮気に気付いていようがいまいが関係ない。弱みを握ってる時点で私がすることは一つやった。馬鹿正直に最後まで話を聞く必要なんてなかったんや)
怜「新子さんが言うてんのは全部想像や。想像力が豊かなのは認めるけど、私の行動を浮気やと決めつけてアレコレ関連付けて遊んでるだけの話は聞きたない」
憧「それは……証拠を見せろってことですか?」
怜(証拠やと?そんなん残してへん。カマをかける気ぃか?)
憧「それなら簡単です」
怜「!?」
憧「…………園城寺さん、携帯持ってますよね」
怜「え?」
憧「明細、届きますよね?」
怜「それは当然…………っ!?」ハッ!
憧「ふふ……そう。あたしの推理が正しければ、園城寺さんは携帯を二台持ってる。つまり、二台契約してる」
怜(しもた……っ!こんな単純な……)
憧「もしその内の一台を協力者に預けてるなら……その携帯をこそっと借りて明細に記載されてる番号と照らし合わせればいい。それが園城寺さんの契約した番号と一致したら……協力者確定です。友達、あるいは後輩の携帯料金を肩代わりする理由はありませんから」
怜(まずい……契約はおとん名義とはいえ、それを泉が持ってるのはおかしい………けどまだ間に合う!泉から携帯を返してもらえばそれで解決や。こっちに戻ってくればその携帯はおとんの仕事用の携帯やと言える。憩へのメールと電話が減ることに対しては適当な理由をつけて納得させればええ。とにかく、今すぐ怜ちゃんを使って泉に携帯を持って…)
憧「……なんて……まぁ、これだけだとすぐ対処できるでしょうから、園城寺さんにとっては大した痛手にはならないですよね?証拠としては弱いです。というよりも……」
怜「?」
憧「最悪、協力者に預けた携帯は水没させるなりして証拠隠滅すればいいですし、憩さんには『付き合ってることが親にバレそうになったからデータを全部消さないと別れなければならない』とか言えば、消してくれるでしょう。そうなれば証拠はなくなります」
怜「…………」
憧「証拠がなくなる……これは大変なことですよね。でも、やりようによってはどうとでもなります」
怜「…………」
憧「例えば………憩さんと協力者の携帯が生きている状態の時に、協力者に対して『園城寺さんと一緒に竜華さんを騙す手伝いをしていたことを、江口セーラにバラします』と言ったとしたら……?」
怜「っ!?」
怜(なんで泉がセーラを好きなことを…………竜華か!?)
憧「協力者がどんな理由で園城寺さんに従っていたかは知りませんけど……その理由は、好きな人の親友を欺いていたことをバラされる以上の秘密なんでしょうか?」
怜(あ……)
憧「もし今回の件の方が重い秘密なら……今まで園城寺さんに頼まれてやったことを全部白状するでしょう」
怜(……確かに、それをされたらおそらく泉は新子側につくやろう……)
憧「他にも手はありますよ?聞きますか?」
怜「………………」
憧「強行手段をとるなら、心理面から攻めて…」
怜「………………ふ」クス
憧「?」
怜「ふふふ……」
怜(大したもんや……こっちは色々手を尽くしたっちゅうのに、ここまでたどり着くとはなぁ……)
怜(けど……)
怜(残念やったな新子……少し動くのが遅かったようやで)
憧「…………園城寺さん?」
怜「…………すぅ…………はぁぁ…………」
怜(新子……お前の推理は合うてるわ。褒めたる。でも………勝つのは私や)
怜「…………新子さん」
憧「はい」
怜「私からも話があるねんけど、ええかな?」
憧「どうぞ」
怜「…………」スッ..コト..(USBと写真を机に置く)
憧「?あの、これは……?」
怜「これは……」
怜(会話の一巡先っ……――――)カッ!
ピキィィ...
怜『新子さんがやっとった盗撮、盗聴のデータが入ってるUSBと、その中からいくつかプリントアウトした写真や』
憧『!!??』
ィィン..
怜(よし!)
怜「新子さんがやっとった盗撮、盗聴のデータが入ってるUSBと、その中からいくつかプリントアウトした写真や」
憧「!!??」
怜「…………」
憧「そ、そんな……え?あ……ぇ?」
怜「…………」
憧「……ど、どうして……?」
怜(会話の一巡先っ……――――)カッ!
ピキィィ...
怜『どうしてとかそんなんはええねん。それよりも、これを見て新子さんはどうすんねん?ちなみに、これ一つやなくて他にもあるから』
憧『…………ぉ願いします……返してください……』
ィィン..
怜(ふふふ……ええ表情や。さっきまであれほど勝ち誇った顔しとったくせに)
怜「どうしてとかそんなんはええねん。それよりも、これを見て新子さんはどうすんねん?ちなみに、これ一つやなくて他にもあるから」
憧「…………ぉ願いします……返してください……」
怜(……言葉を変える必要がないくらい、私の想定通りや。勝利へのカウントダウンは着実に進んどる。このまま会話の一巡先を連続で使って、畳みかけるで!――――)
怜「返してもええねんけど、どうしようかな?」
憧「……返してくれるなら……誰にも言わないでくれるなら、あたし何でもします……だから……お願いします」
怜「なんや?それどういう意味や?」
憧「許してください……それをバラされたら、あたしもう生きていけないんです……」
怜「イマイチ言うてる意味がわからんなぁ」
憧「…………あたしの負けです。あたしが悪かったです……もう園城寺さんの交友関係には一切関わりません。ですからどうか……」
怜「私に関わらんって?へー、それが新子さんの出したベストなん?私にとって一番ええのは自分が関わらないことで、その上はないんや?」
憧「っ!す、すみません!園城寺さんに協力します!園城寺さんの言う通りに動きます!だから……お願いします!それを返してください!」ザッ!(土下座)
怜「ふふ、最初からそうやって……っ?」クラッ..
怜「っとと……」
怜(ふう……慎重を期すためとはいえ、連続はさすがにしんどかった……結局、一巡先を見ずに話したんと同じ結果やったし。ま、ここでミスは禁物やから正しい判断やったけども)
憧「……お願いします……お願いします……お願いします……」(床に頭を擦り付ける)
怜(ふっ……やっと溜飲が下がる。後は新子をどう使うかやな)
怜「……新子さん」
憧「はっ、はい!」
怜「……あんたの秘密……黙っといたる。そのUSBと写真も返すわ」
憧「あ、ありがとうございます!!…………で、ですけどその……コピーとか……」
怜「……ん?何か不満なん?」
憧「っ!?いえっ!すみません!!」
怜「…………私の言う通り動いてくれたら、少しずつ返したるよ」
憧「っ!ありがとうございます!」ペコッ!
怜「よし。もう立ってええで」
憧「あ、はい」スクッ..
怜「とりあえず今後の方針は……私が上手く立ち回れるように協力をしてもらう」
憧「はい!」
怜「……今現在、竜華は私をどれくらい疑ってる?」
憧「あ……その……割と疑ってます。あ、あたしが……えと……今日みたいな感じで浮気の可能性を色々言ったせいで…………すみません……」
怜「ふーん……ほなら急に疑いが晴れるのも怪しいか」
憧「は、はい」
怜「……よし。とりあえず新子さんは、私に竜華をベッタリ付けさせるのをやめさせて。それされると憩と全然会えへん」
憧「わかりました。それとなく誘導します」
怜「ん、でな?今後ゆっくりしたペースで竜華の疑いを晴らしてもらう。それなりに竜華から信頼を得てるやろ?嘘の報告を混ぜれば信じるはずや」
憧「はい。園城寺さんと証言を合わせれば簡単です。詳しい内容は竜華さんに伝えてませんので、時間をかければ全部あたしの考えすぎで通すことも可能です」
怜「よしよし……やっぱあんた使えるわ」
憧「あ、ありがとうございます!」ペコッ!
怜「……顔立ちも整っとるし」
憧「ぇ?」
怜「……あんたともええことしてみるっちゅうのもアリやなぁ」
憧「っ!?そ、それは……」
怜「竜華や憩とするのも気持ちええねんけど、あんたはまた違う感じで燃えられそうやし」
憧「……それだけは……許してください!あたしは……」
怜「……ふっ、冗談や」
憧「ぇ……?」
怜「盗撮したデータを編集するほど好きなんやろ?」
憧「……はい」
怜「その執念は認めるわ。私に協力する以外は何も求めへん」
憧「っ……ありがとうございます!」
怜「ただ……手を抜いたり裏切ったりしたら……わかるやろ?」
憧「も、もちろんです」
怜「そこを理解してもらえればええ。ちなみに私に協力っちゅうのは、竜華と憩のことだけちゃうで?」
憧「はい」
怜「今後、他の子とも関係を持つかもしれへん。そうなった時のフォローも含まれるで?」
憧「わかってます。竜華さんと憩さん両方のフォローを務めます!」
怜「そうそう、それでええ。物わかりがよくて助かるわ。竜華も憩も、なんも知らんとおってくれたらええんや。その方が幸せや」
憧「………………」
怜(そう……それがみんな幸せになる方法なんや)
憧「…………あの」
怜「ん?どないしたん?」
憧「ちょっといいですか?」
怜「何や」
憧「あたし、やっぱりやめます」
怜「やめるって何を?」
憧「園城寺さんに協力するのやめます」
怜「………………は?なんて?」
憧「園城寺さんに協力するのやめます」
怜「……………………………急に何言うてん?頭おかしなったんか?」
憧「いえ、正常です」
怜「……私に協力せえへんってのがどういう意味かわかっとるやろ?あんたの秘密は私が握ってるんやで?」
憧「そうですか?」
怜「そうですか、やと?何を言うてんねん。バラされてもええんか?」
憧「はい」
怜「!?」
怜(なんなんやこいつ!?私が本気やないとでも思ってんのか?)
憧「じゃあ盗撮された本人に電話でバラしてみてください。ちょっと待って下さいね」(机に置いた携帯の電源をオンにし、電話帳を開く)
憧「はい。どうぞ」
怜「…………」(携帯を受け取る)
怜(これは新子の作戦か?協力するくらいなら、自分の破滅と共に私も道連れにする、とか?まさか……)
憧「ほら、早くかけてください」
怜「…………」ピッピッ..トゥルルル..
ガチャ
?『はい、もしもし』
怜「…………」チラ
憧「どうぞ」
怜(この自信はなんや?電話帳に細工してあって、本人にはかからんようになってるんか?)
憧「バラさないでいいんですか?」
怜「……あの、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
?『はい』
怜「新子憧って知ってるやんな?」
?『はい、もちろん』
怜「ほな、その子が…………あんたのこと盗撮してるっていうんは知ってる?」
?『盗撮……はい』
怜「…………………………え?」
?『?』
怜「……ちょ、ちょお待てや!」
?『ゎ!』
怜(知ってる?盗撮されてるのを知ってるやと!?そんなアホな!)
怜「し、知ってるって何や!あんた盗撮の意味わかってるんか!?」
?『わかってますけど……』
怜「ならなんでそんな冷静でおれるんや!?」
憧「……………」
怜「答えてや!なぁ!…………松実さん!松実宥さん!!本人なんやろ!?」
憧「…………」クス
?『はい……私は松実宥ですけど……』
怜「ほならなんで……!」
怜(ありえへん……知り合いに盗撮されて嫌悪感を抱かへんなんて……なんなんやこれは……)
宥『だって最初から言われてましたから』
怜「は?最初から言われてた?どういうことや?」
宥『憧ちゃんに、隠し撮りみたいに撮影させてもらっていい?って言われて』
怜「!?」
宥『あと、くしゃみとかあくびしてるところを録音させてって言われました。すっごく恥ずかしかったけど、必死にお願いされちゃったから……』
怜(なんやと……?最初から隠し撮りの許可をもらってた?意味がわからへん……ほなら弱みちゃうやろ……え?え?)
怜「そんなアホな……」
宥『え?』
怜(新子……一体何を……)チラ
憧「……ふふ。電話、返してもらっていいですか?」
怜「…………っ!」スッ!
憧「ありがとうございます…………あ、宥姉?ありがとう。今度ジュースおごるね。うん、じゃあまた」ピッ..コト(携帯を机の上に置く)
怜(……どういうことや……何がどうなってん……)
憧「混乱してるみたいですね。ま、無理もないか。ついさっきまでの状況と丸っきり変わりましたからね」フフ
怜(そうや……新子の弱みを握った私が完全に上位で……せやのになんで……)
憧「……園城寺さん」
怜「…………」
憧「残念です」
怜「……あ?」
憧「あたしは最初、竜華さんと園城寺さんが付き合ってると知った時、すごく嬉しかった。同性同士でありながら違和感のない二人が羨ましかった。理想のカップルだと思いました」
怜「…………」
憧「でも…………園城寺さんは浮気をした」
怜「…………」
憧「そして……これからも浮気を続けようとしていた」
怜(……そうや。新子を手駒にできたら、憩以外にも手を伸ばせるかもしれへんかった。せやのになんでこんな展開になったんや?)
憧「それがあたしは悲しい。でもここで園城寺さんを止めることができたのは不幸中の幸いです」
怜(………………私を止めることができた?何言うてんねん)
憧「もうこれ以上竜華さんを…」
怜「…………まだや」
憧「?」
怜「まだ終わってへんっちゅうねん」
憧「園城寺さん……」
怜「確かに、私が掴んだと思ってたお前の弱みはニセモノやった。けど、だからなんや?私の負けみたいな言い方して……勝負はまだ決まってへん」
憧「…………」
怜「お前が何を言おうと、私が精一杯説得すれば、竜華は私を信じる。付き合いの長さがちゃうんや!」
憧「…………」
怜「お前はこれから先、私が言い逃れでけへんような証拠を掴むまで、ずっと付きっきりで私を見張れるか?不可能やろ!そやったらしばらく大人しいしとけば…」
憧「もうやめてください」
怜「ぁ?何を言うてんねん。話はまだ…」
憧「…………」(ポケットに手を入れる)
怜「?」
憧「…………」スッ(ポケットから携帯を取り出す)
怜「!!!??」
憧「………………」
怜「な、な、な…………」
怜(なんでや!?新子の携帯は机の上に置いてあったはず!いつの間にポケットに………え?)
怜(机の上に……新子の携帯が置いてある………?)
怜(ほなら………今……新子が手に持ってる携帯は………なんや?どこから出した!?)
怜(新子が携帯を一台しか持ってへんかったのは間違いない……怜ちゃんで服の中を全て見たんやから!いや、服の中どころかこの部屋のどこにも携帯はなかったはず…っ!)
憧「…………」
怜(一体……)
怜(何をしたんや…………新子憧!!)ギロリ!
憧「…………園城寺さんに代わります…………どうぞ」スッ(携帯を差し出す)
怜「…………っ!?」
憧「どうぞ」
怜(ま、ま……さか……)
怜「…………も、もしもし」
竜華『怜……』
怜「!!!!!!」
怜(竜…………華……)
竜華『…………全部………………聞かせてもらった…………全部……』
怜「ぁ……う……な、なんで……」
怜(なんでや……?なんで竜華が……?)
憧「……あたしから説明します。電話は一旦返してもらいますね」(怜から携帯をとる)
怜「………………」
憧「竜華さん、もう少し待っててもらっていいですか?…………はい、すみません」ピッ..
怜「………………」
憧「実は、この教室で園城寺さんと話し始めてからずっと……いえ、厳密に言えば竜華さんが園城寺さんと一緒にここに向かってる時から、この携帯は竜華さんと通話状態にあったんです。もちろん、会話内容が聞こえるようにスピーカーフォンにしてありました」
怜「!?」
怜(そんなアホな!ずっと通話状態って……それは不可能や!新子が携帯を持ってないのは怜ちゃんで確認済みなんやから!)
憧「……どうしてあたしのポケットに携帯が入っているかわからないみたいですね」
怜「っ……」
憧「理由は簡単ですよ。携帯を二台持ってたというだけです。園城寺さんと同じです」
怜「!?ま、待ちぃや!それは……」
憧「それは?」
怜(ありえへん!けど怜ちゃんを使って調べたとは言えへん以上、持ってへんのを私が知ってることを説明できひん)
怜(ちゅうか、それを抜きにしてもポケットに携帯があるのはありえへん!怜ちゃんで調べてから私がこの部屋に入るまでほんの1、2分。新子が自由に動けるのはこの時間だけ。その間に外部から携帯を持ちこむなんて絶対不可能や……)
怜(誰かに協力を頼んだ?いや、新子には怜ちゃんの姿が見えないどころか存在すら知らんから警戒する発想がないはず。新子が動いたタイミングと怜ちゃんを部屋から出したタイミングが偶然一致したとでも言うんか!?そんな奇跡ありえへん!ギリギリで動く理由もない!)
怜(他に考えられるとすれば何が………………はっ!?)
怜「まさか……」
憧「はい。あたしには見えますよ……………………怜ちゃんが」
怜「!!!!」
怜(や、やっぱりそうか!けどどうやって……)
憧「順を追って説明します。まずは、あたしが怜ちゃんという存在を知ったところから」
怜「…………」
憧「千里山の文化祭で園城寺さんと話した時、違和感を覚えました」
怜(違和感……?)
憧「園城寺さんは、あたしの思惑の一歩も二歩も先を読んでるかの如く、会話の方向をコントロールされているようでした」
怜(そらそうや。こっちの思い通りにするために何度も一巡先を読んでんから)
憧「性格的にコミュニケーション能力が高いようには見えないのに、とすごく不思議でした」
怜「…………」
憧「では、どうしてそんな芸当ができるのか?園城寺さんは超能力者なのか?とすら思いました」
怜「っ……」
憧「突拍子もない考えです…………が、そこであたしは、ふと思い出したんです。園城寺さんがインハイで見せた闘牌、そしてそのスタイルを」
怜「…………」
憧「相手の当たり牌の一点読みや一発ツモの多さなど、まるで未来を予知してるかのようなそのスタイルは、データ上にハッキリと表れてます。三尋木プロも言ってましたよね?『一巡先を見る者』って」
怜「…………」
憧「そこであたしは竜華さんに聞いてみました。園城寺さんが一巡先を見れるのは本当か?本当なら日常でも麻雀の時みたいに未来を読めるのか?未来予知以外に麻雀で発揮している力はないか?など、園城寺さんに関することを徹底的にね」
怜「!」
憧「すると、膝枕した時に力を膝に移して召喚する『枕神怜ちゃん』という能力があるという非常に興味深い話を聞けました」
怜(インハイの後もセーラたちには怜ちゃんのことを話さんかったから、怜ちゃんの存在を知るのは竜華と泉のみ。怜ちゃんの情報が漏れるとしたら竜華からとは思っとった。けど、竜華にはインハイの時以外怜ちゃんの姿は見せてへんから、麻雀以外で使えるなんて知らへん。第一、怜ちゃんの話をしたところで信じるか?いや、信じたとしても怜ちゃんが見えるようになるわけちゃう!)
怜(ほなら、どうやって……?)
憧「内容や仕組み等々……色々わかりました。もし、この力を日常で使えるのなら、すごい武器になるであろうことも」
怜「…………」ギリ..
憧「普通に考えたらありえない。でも、あたしは文化祭で感じた違和感……自分の直感を信じました。そして、その直感が本当に正しいのかを確かめるべく、ある作戦を練りました」
怜(作戦……?)
憧「文化祭の数日後、体育でマラソンがありましたよね?」
怜「え?………………あ!」
憧「授業に参加した園城寺さんは、疲れて竜華さんの膝で眠ってしまった」
怜(まさか…………そんな!!)
憧「体力を使い果たしたのか、ぐっすり眠った園城寺さんは、ちょっとやそっとでは起きません」
怜「……っ!?」
憧「たまたま千里山の制服を着て忍び込んでいたあたしは、竜華さんと代わり、園城寺さんを膝枕しました」
怜「……お前……っ!」
怜(たまたまやと?平日に学校を休んでまで来ておいて何をふざけたこと……こいつはそんな偶然に頼るタイプちゃう。けど私が体育を見学する可能性もあるし、参加したとしても、疲れて眠るかどうかは………)
怜(……はっ!?竜華が持ってきたスポーツドリンク……あの中に睡眠薬でも入れて私に飲ませれば、体育に参加せえへんかっても眠らせられる……!?)
怜(…………くっ……仮にそうやったとしても……証拠は……ない……)
憧「そしてしばらく経ってから竜華さんと代わり、あたしはそのまま帰りました」
怜(……もし私の想像通りやったとしたら、起きた後にずっとノスタルジックな話をしたことも説明できる)
怜(懐かしい話を続けることで、その行為に意味があると私に思わせる……すでに新子の狙いが終わっていたことに気付かせへんように……)
怜(私の意識を『これから何を仕掛けてくるか』……つまり未来に向けさせることで、『眠ってる間に何をしたのか』という過去に意識が向かないよう遠ざける狙い……くっ)
憧「……そしてあたしはその日から、怜ちゃんが目の前に現れるのを待った。もし突然現れても驚かないように、と心がけながらね」
怜「……私が怜ちゃんを使うと確信しとったんか」
憧「もちろんです。もしも怜ちゃんを日常でも使えるのなら、文化祭であたしが覗いていることに気付いたかもしれない。となれば、あたしを怪しむだろうし、探りにくるに違いないですからね」
怜「っちゅうことは……あの盗撮は…………罠」
憧「はい。あらかじめ宥姉に許可を得て撮影し、そのデータをあたしの決定的な弱みとして怜ちゃんに見せつけ、園城寺さんをおびき出す材料に使いました」
怜「……ほなら、くしゃみの音声を編集してた時の気持ち悪い笑いも、全部演技やったんか?」
憧「え?ま、まぁそうですね」
怜「そう、か……操作もスムーズやったし、あまりにも自然な態度やから演技かもしれへんなんて疑う気にもならんかったのに……罠、か……」
憧「そ、そうです。罠ですよ。もちろん。罠以外であんなことしません。ええ」
怜「………………」
憧「………………」
憧「…………こほん。話を続けます」
憧「怜ちゃんの存在を確認し、その後園城寺さんが竜華さんの家に来たことから、弱みを握らせたと確信したあたしは、園城寺さんと決着をつけるべく、相談を持ち掛けるという名目で呼び出しました」
怜「…………」
憧「園城寺さんとしても、このまま疑われたまま過ごすより、あたしを脅してしまった方が楽ですから、予想通りあたしの提案に乗ってくれた」
怜「……当然や。あの状態で断る理由なんてあらへん」
憧「ですよね。なので、あたしの思惑通りに事が運びました。会う場所はどこでもよかった。ただ最初にこちらから提案した場所……つまり部室以外ならね」
怜「……なるほどな。あえて自分から部室を指定することで、盗撮・盗聴の可能性を私に再度植え付けたわけか」
憧「お察しの通りです。怜ちゃんによって弱みを掴んだ時に、『新子憧は盗撮用のカメラや盗聴器を所持しているかもしれない』と園城寺さんに思わせることができた。つまり、あたしと会う前にカメラや盗聴器の確認をさせるように仕向けた」
怜「……はは、最初にカメラも盗聴器もないことを確認させておけば、私は自分の優位を確信して新子さんを脅す……つまり自白させられると」
憧「はい。なので…」
怜「最初に私が携帯の電源を切ることを提案した時も素直に従った」
憧「そうです」
怜「……なるほどな……」
憧「…………」
怜「……部室以外で使える教室はここくらいしかない。他は人目があったり誰かが使ってたりしてややこしい。となればあらかじめこの教室に盗聴器が仕掛けられてることも考えられる…………けど私は『それも怜ちゃんで調べればええ』としか思わんやろな」
憧「はい。怜ちゃんを使えば確実に見つけられますから、頼るのも無理ありません」
怜「……そう、やな」
憧「あと、あたしにとって好都合だったのは、園城寺さんが『人目に付かないこと』『誰にも知られないこと』を考慮したことです」
憧「誰にも聞かれたくないなら、竜華さんにドアの前で見張ってもらった上で、入口から離れた窓際で話せばいいだけの話。でも、あたしを脅すつもりだった園城寺さんは、万が一にも誰かに聞かれるわけにはいかなかった」
怜「…………」
憧「結果、あたしにとって都合のいい、この教室を指定してくれた」
怜「……都合ってなんや?なんでここが都合ええねん」
憧「文化祭の日……園城寺さんが憩さんと一緒に保健室に行った後、あたしは『寄りたいところがある』と言って、喫茶店に行く前に江口セーラと校舎裏に向かったんです」
怜「?」
憧「園城寺さんは、憩さんと少し話した後、何故か10メートルくらい移動して、そこでまた話し始めましたよね?」
怜(?……あ、それは……私に憑いてた怜ちゃんを泉のところまで飛ばすために動いた時……)
憧「その場所を調べても、何があるわけでもない。二人が最初にいた場所と何も変わらない……なんの意味があるのか、と不思議に思いました」
怜(そらそうや。普通は訳わからんやろうな。怜ちゃんの動かせる範囲を調整するため、とは気付かへん)
憧「でも……園城寺さんがなんの意味もないことをするとは思えません。であれば、必ず何かある」
怜「…………」
憧「園城寺さんの行動を振り返りながら考えると、あることに気付きました。あたしが園城寺さんを発見し、様子を窺っていると園城寺さんが移動した。それから少し経って、江口セーラがあたしのところへ来た…」
憧「このタイミングの良さ、偶然でしょうか?江口セーラは、二条さんにあたしが来ていることを教えてもらったと言ってました。ちなみに後で調べた結果、その時間帯の二条さんは休憩に入ったばかりで、自分のクラスにいたそうです」
怜「…………」
憧「さて、二条さんは、いつあたしの姿を見たのでしょうか?二条さんのクラスからは校舎裏は見えません。なのに何故、校舎裏に向かったことを知っているのか?……考えられるのは……」
怜「…………」フゥ
憧「怜ちゃんを使って二条さんに、あたしの居場所を伝えた」
怜「…………」
憧「そして、そのためには二条さんにある程度近付かなくてはいけない理由があった。怜ちゃんには移動できる距離に限りがある、といったところかな?だから、園城寺さんは移動したんじゃないでしょうか?」
憧「……ただ、移動距離が理由だとすると不可解なことがあります。インハイの準決勝では、園城寺さんから遠く離れたところにいる竜華さんのそばに怜ちゃんは現れた」
憧「ということは、いくつかの条件を満たせば距離の問題はなくなるのかもしれない。竜華さんが言うには『膝枕の力が切れたら消えた』とのことですので、一度パワーが尽きたら溜まるまでは距離制限がある、とかでしょうか?」
怜「はは……」
怜(厳密に言えば膝枕パワーに関係なく有効範囲は決まってんねんけど……そんなんどうでもええ。見事という他ないわ)
憧「ま、そういうわけで、怜ちゃんの目を誤魔化すには『空き教室内部から階段までの距離』が『文化祭で園城寺さんが移動した場所から二条さんのクラスまでの距離』以上離れていれば、怜ちゃんを待機させることはできないのではないか、と考えました」
憧「園城寺さんとしては、竜華さんに二条さんの姿を見せるわけにもいかないでしょうから、この教室前の廊下で待機させることもできない。つまり竜華さんに園城寺さんの案内をさせれば、怜ちゃんで教室内部を探れるのは、竜華さんが二階に上がって廊下に出る直前までです」
憧「反対側の階段そばで待機しつつ怜ちゃんで教室内をチェックしていた二条さんは、竜華さんが廊下に来る前に怜ちゃんと共に退避するだろう、と読みました」
怜「……そんで、怜ちゃんが教室を出てから動いたってわけか」
憧「はい。怜ちゃんが教室を出てから園城寺さんが来るまでほんの1、2分。時間との戦いなので、慎重に作戦を練りましたよ」
怜(新子と竜華に接触はなかった。一体どうやって携帯を持ち込んだんや?)
憧「……竜華さんとあたしが今回手を組んだきっかけ……恋愛相談なんですよね」
怜「?」
憧「あたし、電話とメールで恋愛相談やってまして」
怜「……なんの話や?」
憧「以前、相談に乗った子が千里山にいるんですよ。その子に協力してもらったんです」
怜「?」
怜(けど……怜ちゃんで教室と周りを調べた時、教室内には新子のみ。外にいたバレー部の子の中に怪しいやつはおらんかったし、バレー部全員の持ち物も調べた結果、誰も携帯は持ってへんかった!一体どこに……?)
憧「教室の外から携帯を受け取る場合、一番手っ取り早いのは、携帯を投げてもらうことです。ここは2階……十分届きますからね」
怜(その理屈はわかるけど、問題はその方法や)
憧「ただ、普通に携帯を忍ばせてたら、怜ちゃんで調べられる危険性がある…………ということで、少し細工をしました」
怜「細工……」
憧「はい。バレーボールに両面テープを貼り、その上から携帯をくっつけます。そして携帯が貼りついてる面を下にしてボールを入れるカゴの一番上に乗せる。もちろん、携帯が見えないように他のボールで隠します」
怜(カゴやと……?全然意識してへんかった……そんな単純なことに気付かんとは……)
憧「そして、あたしが窓を開けるのを合図に、そのボールを投げるようお願いしてありました。で、ボールを受けたあたしは携帯を剥がしてボールを返し、窓を閉める」
怜(なるほどな……だとすると竜華と通話状態にしたのはボールに貼り付ける前やろな。で、ボールを受け取ってポケットにしまう直前にスピーカーフォンに設定して私の声を拾う、と)
憧「これで準備は完了です。あとは園城寺さんに脅されるのを待つだけなんですが………警戒しなければならないことがもう一つ」
怜(……会話の一巡先、か。新子は超能力や思ってるみたいやけど)
憧「もし園城寺さんが未来を予知できるとしたら、あたしの作戦は何もかもがバレてしまいます」
怜(未来予知言うても一手先のみ……しかも、場合によってはリアクションのみで終わってなんの情報も返ってけぇへん時もある能力やけど、それを知らんやつからすれば驚異的やろな。実際この力で何度か窮地を逃れてきたしな)
憧「でもあたしは、未来予知は完璧ではないと考えました。もし完全に未来が見えているとしたら、文化祭に憩さんが来ることはありえない。竜華さんに見つかる危険もあるりますし」
憧「実際、文化祭をきっかけに、あたしは浮気相手が憩さんではないか?と疑い始めましたから」
怜(……そらそうやろな。あれは想定外やった)
憧「では、完璧ではない未来予知とはなんなのかを考えてみました。麻雀の時と同様に『近くに人が3人いないと使えない』…」
怜「…………」
憧「『会話限定でのみ有効』…」
怜「っ……」
憧「園城寺さんから超能力者のような印象を覚えたのが会話した時なので、これはそこそこ有力ですよね」
怜「…………」
憧「とはいえ、確信はありません。なので『近くに人が3人いないと使えない』という推理が正解だった場合のための対策も練りました」
怜「…………」
憧「ちなみに『近く』というのは、実際の麻雀の場面をベースにした推理なので、かなりアバウトです。インハイの対局室の広さなのか、あるいは雀卓程度か。はたまた、これも怜ちゃんと同じで『文化祭で園城寺さんが移動した場所から二条さんのクラスまでの距離』なのか……」
怜「…………」
憧「その辺りは確信を得る方法がないので、竜華さんには園城寺さんを案内し、職員室へ向かったあと、できるだけ遠くへ行ってもらうことにしました。それによって『近くに3人』というルールから逃れられます」
憧「あ、一応、二条さんの家の方へ向かってもらったので、あたしの作戦が失敗した場合、二条さんの家に先回りして、携帯を探す手はずになってます」
怜(……そこまで徹底するとはなぁ……)
憧「それで次は……未来予知が『会話限定でのみ有効』だった場合です」
怜「…………」
憧「あたしは文化祭で会話を先読みされてるように感じました。先読み……これはインハイで園城寺さんと戦った人全員が共通する認識だと思います。『まるで一巡先が見えてるようだ』とね」
怜「…………」
憧「それをヒントに、園城寺さんは相手の一巡先……つまり『相手が次に言うことがわかる』のではないかと連想しました」
憧「……が」
怜「?」
憧「これだけでは不十分。竜華さんが言うには、園城寺さんがインハイで倒れた時は三巡先まで見たとのこと。そして園城寺さんは文化祭でも倒れた。ということは、麻雀の時と同様、会話でも三手先まで読めるのかもしれない」
怜(ふふ……それはちゃう。そんなに先は見れへんよ……)
憧「なので、今日は園城寺さんが決定的な言葉……つまり浮気を認める発言をしてから最低三回は敗者を演じた会話をしようと決めてました。そうすることで、園城寺さんの予知から逃れられると思ったからです」
怜「……そう、か」
憧「あと一応の保険として、インハイで力を使い過ぎて消耗したことから、長丁場になれば未来予知できなくなるかもしれないと思い、最初の内はあえて話を伸ばしてました。それに加え、園城寺さんを苛立たせて冷静さを失わせるために、わざとおかしな言い回しをしました。すみません」
怜(……せやからダラダラと長いこと喋ったり、腹立つ態度をとったり、急に突拍子もない言い方をしたんか……)
怜「!は、ははは…」
怜(そうか……そういうことやったんか。土下座までして脅えてたくせに豹変したのは、そういうカラクリか)
憧「あたしの考えがどこまで正解かは園城寺さん以外わかりませんが……」
怜「………………」
憧「こういう結果になった以上……」
怜「……そうやな」
怜(私がやったことはほとんど全部見破られた…………けど、ただ一つだけ)
憧「…………」
怜「…………ちなみに」
憧「はい」
怜「部長会議の日……私はほんまに家におったと思う?」
憧「……最初はそう思ってました。でも、今は違います。憩さんのところに行っていたと思ってます」
怜「ほう。どういうことか説明してや。おかんは私の顔を見てるし、部屋にも来とる。竜華からの質問にも答えたし、その後ずっと竜華と電話で話しとった。アリバイは完璧やろ?」
憧「確かに、表向きはそうです……ですが、怜ちゃんを使えば可能です」
怜「…………」
憧「まず二条さんと一緒に下校、あるいは園城寺さんの家の前で集合します。そして園城寺さん一人で家に入り、園城寺さんのお母さんに顔を見せ、一言二言会話して体調が悪い旨を伝えます」
憧「その後、すぐに外へ出て行き、憩さんの家へ向かいます。二条さんは園城寺さんの代わりに園城寺さんの部屋へ行きます。この時、忍び足ではなく、足音が聞こえるようにして階段を上がります」
怜「…………」
憧「それからしばらくして、竜華さんがチャイムを鳴らします。そこでお母さんが応対、園城寺さんを呼ぶために二条さんがいる部屋へ向かう」
憧「その時、二条さんはドアを開けられた時のためにベッドで布団をかぶって顔を隠してたと思います。でもお母さんはドアを開けず、ドア越しに声をかけました」
憧「ここで無視しても、お母さんは園城寺さんが寝ようとしているんだと気遣って去り、その場を凌げます。でもあたしと竜華さんは欺けない」
怜「…………」
憧「かといって返事をしたら声でお母さんにバレてしまう。それならどうすればいいか……答えは一つ、怜ちゃんの出番です」
怜「…………」
憧「いつかはわかりませんが、部長会議の日までの間に一度でもお母さんに膝枕をしてもらっていれば、お母さんには怜ちゃんの姿は見えるし、声も聞こえる」
憧「つまりドア越しに怜ちゃんでお母さんに返事をし、園城寺さんが部屋にいると思わせた。竜華さんの質問も同様で、怜ちゃんで返事をした」
怜「…………」
憧「後は、アリバイを作るために二条さんから竜華さんに電話をかけ、怜ちゃんでずっと話せばいい。園城寺さんはそのまま憩さんと過ごす。これが部長会議の日の園城寺さんと二条さんの行動です…………合ってますか?」
怜「…………ふぅ……」
憧「………………」
怜「…………全部合ってるわ。新子さん、すごいなぁ」
憧「…………」
怜「ま、仮に間違ってたとしても、新子さんを脅迫するところを竜華に聞かれとった時点でもう負けは確定やから関係あらへんけどな」
憧「園城寺さん……あなたは……」
怜「…………なんや」
憧「…………いえ」ピッ..トゥルルル...ガチャ
憧「……もしもし。長いこと待たせちゃってすみません……はい、園城寺さんに代わります」
怜「…………」
憧「あたしの話はこれでおしまいです。あとは当人同士で話してください」スッ
怜「…………」(携帯を受け取る)
憧「……この携帯は竜華さんに渡すか、竜華さんのロッカーに入れておいてください。それじゃ」テクテク
ガチャ バタン..
怜「………………」
怜「………………」
怜「…………もしもし」
竜華『……もしもし』
怜「………………」
怜(一体…………何を話せばええっちゅうねん……)
竜華『怜』
怜「な、なに?」
竜華『うち……ほんまアホや』
怜「え?」
竜華『最初はな、もしかしたら怜が浮気してるんちゃうかって、ただの直感やってん』
怜「……うん」
竜華『それで……ほんまに浮気しとったらと思うと、めっちゃ怖かった。怜がうちに内緒で他の子とデートしてるとか想像したら、許せへんって思った」
怜「…………」
竜華『でも……浮気が発覚したら……めっちゃ怒って…………怒って怒って……怜がごめんって謝って、もう二度とせえへんって約束して、最後は元通りになる…………心の底ではそう思ってた』
怜「…………」
竜華『せやけど……さっき……怜が…………浮気してるって……』グス
怜「っ」
竜華『これからも荒川憩と関係を続けるって……はっきり怜の口から聞いた瞬間…………うち、なんも考えられなくなった……』
怜「竜……華……」
竜華『うち……浮気されるってこと……全然わかってへんかった。ドラマとか漫画で見た、客観的な出来事としてしかとらえてへんかった…………浮気されるのが……こんなに……つらぃ……って……』グス
怜「…………」
竜華『ぅちが……っく……怜とメール…て、幸せを感…てた時……も!怜は…………荒川憩と……っ緒で……っぐ……』
怜「りゅ……りゅうか……」
ズキン!!
竜華『……初めて……結ばれた…時………ぇぐっ……夢みたい、やって…………想った気……持…ちっも……』
怜「っ!!」
ズキン!!!
竜華『怜がッ……いま……まで……言うてくれ……言葉も……んぶ……嘘……に思……てきて……うぅうぅ……』
怜「……っ!!!」
ズキン!!!!
竜華『う……ぅあ…………あぁあああぁ…………あああああ……』
怜「~~~~っ!!!!」
怜(何か…………何か言わなあかん………)
怜(………………けど……何を言えばええか…………)
怜(前にケンカした時は、一巡先を読んで丸くおさめられた……)
怜(でも会話の一巡先は電話越しじゃ使えへん)
竜華『あああああ…………ぐす…………ぅああ…………ぅうう…………』
怜(……いや、先が読めなくても、普通に話せば…………普通に…………あれ?)
怜「…………ぁ……ぅ」
怜(…………私、こんな時、なんて言うてた……?)
怜(ちゅうか……竜華と……真正面からぶつかったこと……って……)
怜(………………)
竜華『…んも…いうてくれへ…ねんな……っ…ぅ…』
怜「あ…」
怜(………………私は…………)
竜華『っく……ぐしゅ…………えぐ…………っ………と…き……っ………ごめんな……』
怜「え?」
竜華『……ゃくそく……守れへん…………もう……怜と……一緒に…………いられへん』
怜「……っ!!」
竜華『さよなら…………とき……っ……』
ブツッ!
怜「りゅ……」
ツーッ..ツーッ..
怜「……竜華……」
怜(約束……?約束ってなんや?一体いつの……)
怜(いや、そんなことより、竜華に会って話を……)
怜「…………」
怜(話?………………話ってなんや)
怜(今から竜華に会いに行って…………何を話すねん……)
怜(ついさっき、新子を使って竜華をどう欺くかを嬉々として語ってた私が……竜華にどんな言葉をかけられるちゅうんや……)
怜「…………」
ズキンッ!!
怜「ッ!!」
怜(この喪失感…………前にどこかで……)
怜「……………………ぁ」
怜(思い出した…………あれは……―――――)
~~~~~~~~~~~~~~~~
怜(小学生)「…………」
クラスメイトA「ねえ、このあとどっか寄ってかへん?」
クラスメイトB「ええなぁ、いこいこ!」
怜「なぁ……私も一緒に行ってええ?」
クラスメイトA「えー?嫌やわー」
怜「えっ」
クラスメイトB「な?前に遊び行った時、園城寺さん貧血で倒れたやろ?あの後おかんにめっちゃ怒られたし」
クラスメイトA「そうそう!うちらが無理矢理連れ回したみたいにされてもうてんなー?」
怜「あ……ご、ごめん。でも今日は体調ええから……」
クラスメイトA「こないだもそう言うてて倒れたやん。走るのも遅いし、すぐ疲れた言うしな。園城寺さんとおっても楽しないねん」
怜「!!」
クラスメイトB「そら言いすぎや!けどうちらと外で遊ぶよりも家で本とか読んでた方が楽しいんちゃう?」
クラスメイトA「そやな。賢いみたいやし、うちらみたいなアホとは合わんのちゃうか?」
クラスメイトB「私はアホちゃうわ!一緒にすんなっちゅうねん!」
クラスメイトA「あはは!」
クラスメイトB「ったく……行くで」
クラスメイトA「うん。ほな園城寺さん、さよなら」
怜「うぅ……さよなら……――――」
なんで……私はこんなに病弱なんやろう
みんなと一緒に楽しく遊びたいのに
みんなにとっての当たり前が、私には当たり前やなかった
怜「おはよう……」
クラスメイトC「あれ?園城寺さん久しぶりやんか。もう体調ええの?」
怜「うん。別に病気とかちゃうから。何日か休めば……」
クラスメイトD「ええなぁ園城寺さんは。うちも学校休んでゆっくりしたいわぁ」
怜「…………」
怜「……ねぇ、お母さん」
怜母「なぁに?」
怜「…………どうして私、体弱いん?」
怜母「……それは」
怜「私が悪いん?」
怜母「そんなわけないやろ?怜は悪ない」
怜「ほななんで……友達ができへんの?私が悪いんやないなら、なんでみんな私を好きになってくれへんの?」
怜母「怜……」
怜「私はみんなと仲良なりたいのに……好きで学校休んでるわけちゃうのに……」
私は普通でいたかった。
走るのが早くなくてもいい、勉強が出来くなくてもいい
ただ……普通の生活をするのに不自由ない体であればそれでよかった
でも現実の私は病弱で度々学校を休み、
みんなとの距離は広がるばかりで……
キーンコーンカーンコーン
怜「…………」スクッ スタスタ..
クラスメイトE「……園城寺さん、また図書室かな?」ヒソヒソ
クラスメイトF「そうちゃう?誰とも仲良くしようとせえへんし」
怜「…………」スタスタ
怜(仲良くしようとしたって無駄やってわかってる)
怜(ほなら最初から一人でおった方がええ。何も得ない代わりに、失う物もない)
怜(……私が病弱なんは、きっと運命なんや。誰とも関わらず、孤独に生きる運命……)
怜「…………」
ズキン..
怜「っ」フルフル!
怜(別に悲しない……一人は慣れてるんやから……)
思えば、この時の私は逃げてばかりやった
傷付くのを怖れ、友達を作る努力を放棄して、
私は悪くない、病弱な体が悪い、と自分の殻に閉じこもった
そんな日々に変化が訪れたのは……――――
怜(中1)「…………」(読書中)
?「なぁなぁ、何読んでるん?」
怜「?」
竜華「」ニコー
怜「…………本や」
竜華「それはわかってるて。なんの本なん?」
怜「…………」
人懐っこい子やな
それが第一印象やった
怜「……哲学書や」
竜華「てつがくしょ!?すごーい!哲学書読んでる子、初めて会うた~!なぁ、それって面白いん!?」
怜「……別に。ただ色々考えさせてくれるちゅうだけや」
面白いなんて思ったことない
小難しい本を読んでるとアピールすることで、話しかけづらい雰囲気を作ろうとしただけやから
これを続けていくことで、最初はちょくちょく話しかけてくる子も、空気を読んで私から離れていくようになる
それでええ
どうせ最後には離れていくのなら、最初から近付いてこなければええ
でも……この子は…………竜華は……―――――
怜「――――………ぁ」ボーッ
竜華「怜……大丈夫?」
怜「っ!」
初めて……家族以外に名前を呼ばれた
怜「なにを……気安く呼んで……っ……」クラッ
竜華「わわ!まだ寝てなあかんよ。倒れたんやから」
怜「え……倒れ……?ここは……保健室?」
竜華「そやで」
怜「…………」
いつもなら、相変わらずの病弱っぷりにため息の一つでもつきながら嘆くところやろうけど……
この時は不思議と……自分の体のことよりも、私を下の名前で呼ぶこの子のことが気になって仕方なかった
怜「なぁ」
竜華「何?」
怜「……なんで…………怜って呼ぶん?」
竜華「『おんじょうじ』って呼ぶより『とき』の方が呼びやすいやん」
怜「……呼びやすいやろうけど」
竜華「変?」
怜「…………変」
でも
嫌やなかった
なんか……ようわからんけどホッとした
竜華「うち、怜って呼びたいねんけど……怜って呼ばれるの嫌なん?」
怜「………………」
ここで嫌だと言えば、この子は私から離れていくやろう
そして今まで通り、私は一人になれる
私は……
怜「………………つに」
竜華「え?」
怜「……別に、嫌ちゃうけど」
思わず、清水谷さんの提案を受け入れとった
竜華「ほんま?ほなら今日から怜って呼ぶな?」
怜「…………ん」
竜華「あ、うちのことは竜華って呼んでな?」
怜「……………いや、清水谷さんで」
竜華「ええ~!?なんでぇ!?」
怜「……いきなり下の名前とか……フランクすぎ。アメリカ人みたいやし」
竜華「何言うてんの怜~!竜華って呼んで~!」
怜「いやや」
竜華「照れてるん?うわ、なんか可愛いなぁ♪」
怜「て、照れてへんし!」
竜華「きゃー!なんなん!?可愛いすぎや~!」
……清水谷さんも、いずれ私から離れていくやろう
小難しい本を読んでるクラスメイトに興味が湧いたから話してみたものの、
いざ関わってみると、そいつは病弱でひねくれ者のめんどくさい人間
次第に付き合いきれなくなって、フェードアウトしていくに決まってる
この時はそう思ってた
でも清水谷さんは……竜華は違った
竜華「怜~!一緒にお昼食べよー!」
竜華「なぁ怜~!昨日のドラマ観た!?」
竜華「怜、疲れてへん?膝枕したげるからおいで♪」
私が体調を崩して迷惑をかけても、あまのじゃくなことを言うても、離れることはなかった
毎日が楽しくなって、感情を表に出すことが増えた
明るくて活発な竜華と一緒におることで、新しい友達もできた
セーラ「お~、怜!今日は顔色ええなぁ!」
怜「……セーラも、アホみたいに元気やな」
セーラ「こいつぅ~!相変わらず口が悪いなぁ」(怜のほっぺを掴んで揉む)
怜「ふぁにふんねぇん」
江口セーラ…
竜華以上に元気でボーイッシュな子
竜華がおらんかったら、まず友達になんてなられへんかったやろうな
友達になったばかりの頃は、あえて嫌味なことを言うて反応を見てた気がする
嫌われるようなことをあえて言うて、それでも離れないでいてくれることを喜ぶ
そんな子供みたいな行為をしていた
セーラ「麻雀、怜もやってみいひんか?」
竜華「うちらと一緒に!」
二人ともっと一緒にいたくなった私は麻雀の世界に飛び込んだ
それから数年……色んなことがあった
入院して生死の境を彷徨うことで、一巡先が見えるようになり、前以上に病弱になってもうた
けど、自分でも驚くほど、不安を感じなかった
怜「ときシフト?」
竜華「怜をサポートできるようなスケジュールをみんなで組むっちゅうことや」
セーラ「それを条件に合宿の許可も取り付けたんや。お医者さんにも」
泉「最初は校内やけど」
怜「んー……嬉しいけど申しわけないな」
浩子「私たちがやりたいことなんで」
セーラ「麻雀、怜もやってみいひんか?」
竜華「うちらと一緒に!」
二人ともっと一緒にいたくなった私は……私は麻雀の世界に飛び込んだ
そして―――
竜華「怜……うちは…………怜が好き。怜と恋人になりたい」
怜「竜華……」
竜華「……女同士やし……気持ち悪かったらはっきり言うてええから」
怜「ううん、気持ち悪ないよ。私かって……竜華が好きやから」
今までのひねくれた自分が嘘のように
その言葉はスムーズに私の口から発せられた
竜華「怜……」グス
怜「竜華が私を好きやって言ってくれて……めっちゃ嬉しい。なんか…………私も泣きそうや」
こんな温かい気持ち
初めてやった
孤独な運命なんて嘘やと気付けた
竜華「怜っ!!」ダキッ!
怜「竜華……」ギュ
竜華「うち……怜のこと……一生大切にする。約束する!」
怜「私もや」
竜華「怜と一緒なら……なんでもできる気がするわ」キュッ..
この日から
私は竜華と恋人同士になった
それからの毎日は本当に楽しかった
学校が、部活が、みんなと過ごすのが、竜華と一緒におるのが……楽しくてしょうがなかった
今まで苦しかったのは、この喜びを最大限に味わうための試練だったのかもしれへん、なんて考えてしまうくらいに
…………でも皮肉なことに、本当の試練はこの後に訪れた
憩「うち……園城寺さんが好きです!付き合ってください!」
怜「ぇ……」
病院で偶然会った荒川憩……
ふとしたきっかけから仲良くなり
また一人友達が増えたと思っていた矢先、告白された
怜「……ありがとう。でもごめん。私、荒川さんとは付き合えへん」
自分に好意を向けてくれたことに嬉しさを感じつつも、私は断った
私には竜華がいるし、荒川さんには友達以上の感情は持ってへんかったから
なのに……
憩「……そ、それは……女同士やから……ですか?」
怜「ちゃうよ。ただ……ごめん。付き合えへん」
憩「っ……」グス
怜「あ……」
ドクン・・・
やけに鼓動が大きく聞こえた
憩「…………わかり、ました……ほな、もう園城寺さんの前には姿を現しません……ぐす……失礼します……」
憩の頬から伝った涙が口角を滑って言葉と共に弾け、地面に落ちる
そして憩は私に背を向けた
その瞬間
怜「――――っ!!!」
目の前が真っ暗になって
真っ逆さまに落ちるような感覚を覚えた
そして同時に
ズキン!!!
激しい胸の痛みが私を襲った
怜「!ちょ、ちょっと待って!!」ガシッ!
憩「…………っ!は、離してっ!!」
このあとのことはよく覚えてない
怜「なんで……なんでそうなるん!?別に友達のままでも……」
憩「無理や!!女同士で……恋愛感情持ってるって知られたまま友達になんて……戻れるわけない!」
怜「っ!!!」
ズキンッ!!
怜(嫌や……私から離れんといて!)
夢やと言われたら納得できるくらい現実感がなかった
憩「うちがおらん方が、園城寺さんかって幸せなんです!!」グス
怜「ち、違う!!」
憩「っ!」ビクッ!
怜「荒川さんがおらんようなったら……私は……嫌や!」
ただ
私の裏側が熱かったのだけは覚えてる
どこかはわからへん
ただ、決して触れられへん、
触りたくない私の内側が焼けるように熱かった
憩「…………なんで」
怜「え」
憩「うちのこと……好きやないんでしょ……なら……おらんかったって」
怜「そ、そんなことない!」
憩「なら……うちと付き合ってくれます?」
怜「…………ぁ」
憩「そばにおれって言うなら……うちと付き合ってください」
怜「…………」
憩「……今はうちのこと好きやなくてもいいです。絶対振り向かせて見せますから」
怜(私……は……)
憩「園城寺さん……」
怜「…………………………」
憩「……園城寺さん」
怜「……………………わ、わかった。付き合う」
この言葉が全ての始まりやった
…………この時の感情の正体…………今の私ならわかる
私はもう、小学生時代のように一人に戻りたくなかったんや
仲良くなった荒川さんが自分の元を去ると言った時、私の中には恐怖が渦巻いた
自分のそばから誰かがいなくなるのが、とてつもなく怖かった
ここで荒川さんがいなくなったら、他の人も同じようにいなくなってしまうのではないか……そんな強迫観念にかられた
冷静に考えればとんだ思い違いやけど、頭より先に心が反応し、恐怖心に襲われた私は、荒川さんを受け入れてしまったんや
その後、我に返ったものの、私の言葉を聞いた荒川さんの笑顔を前に「やっぱり付き合うのはやめよう」なんて言えるはずもなく――――
憩「怜……」ギュッ
怜「………憩」
私は、竜華の目を盗んで憩と会うようになった
絶対振り向かせてみせるという言葉通り、積極的に迫ってくる憩
私は断ることができず、受け入れ続けた
最初の内は罪悪感に襲われ、度々体調を崩した
竜華を裏切り続けている自分が許せないくせに、憩を拒絶しようとすると体が強張ってしまう
竜華に好きやと囁いた口で、憩の上を滑る私
自分の行為を恥じ、心の中で私を罵倒する私
私とは一体なんなのか?
竜華を好きやと言う気持ちは、本当に私の気持ちなのか?
憩を拒めない気持ちは、本当に私の気持ちなのか?
私の気持ちを考える私の気持ちは、本当に私の気持ちなのか?
私とはなんなのか?
そう考える私は……誰なのか?
―――――もう何も考えたくなかった
清水谷竜華という最愛の人を裏切る罪悪感も
荒川憩を拒んだ先にちらつく喪失感も
内側を蝕む全ての痛みを消し去りたかった
……次第に私の意識は
痛みから離れていく
「今さら憩を見捨てる方が最低や」
「竜華は私と一緒にいるだけで幸せや言うてる」
身体が軽くなった
「恋人が二人もおるのは、病弱で不運だった分の幸せが舞い込んできたからや」
両手いっぱいに抱えてきたものを手放した
「二人とも私が好きなんやから、同時に付き合えばええ」
「気持ちええことして何が悪い」
何かが落ちていく
「私は悪ない」
私を痛めつけていた何かが落ちていく
「私は正しい」
私は痛みから解放された
「浮気なんてバレへんかったらええ」
「男なんて浮気してるやつばっかりや。それなら女かって浮気してもええはずや」
「愛してるからこそ、その人を裏切る背徳感が気持ちええんや」
私は
やっと
昔から私の中を蝕んできた痛みから解放されたんや
最後に残ったのは
弱い自分を守るための
逃避という武器だけ
私が選んだのは
竜華でもなく
憩でもなく
私自身やった――――
~~~~~~~~~~~~~~~~
怜「―――……思い出した」
怜(そうや……この喪失感は、憩が自分から離れていく時に感じたもの……小学生の時のあの孤独感と同じや……)
怜「…………っ」ガクッ!(膝を付く)
怜「私は……っ…………!」
怜(……孤独になりたないからって憩の告白を断りきれずに受け入れて……しかも竜華への罪悪感から、そのことを考えないように……忘れようと頭の片隅に放り込んで……)
竜華『うち……怜のこと……一生大切にする。約束する!』
怜(孤独から私を救ってくれたのは竜華やないか!それを私は……!)
怜『とりあえず新子は、私に竜華をベッタリ付けさせるのをやめさせて。それされると憩と全然会えへん』
怜「っぁ…」
怜『今後ゆっくりしたペースで竜華の疑いを晴らしてもらう。それなりに竜華から信頼を得てるやろ?嘘の報告を混ぜれば信じるはずや』
怜「ぁあぁ…」
怜『竜華や憩とするのも気持ちええねんけど、あんたはまた違う感じで燃えられそうやし』
怜「ぁ……っぁ」
怜『竜華も憩も、なんも知らんとおってくれたらええんや。その方が幸せや』
怜「ぅ……あぁ……」
怜(私は……救いようのない……)
竜華『っく……ぐしゅ…………えぐ…………っ………と…き……っ………ごめんな……』
竜華『……ゃくそく……守れへん…………もう……怜と……一緒に…………いられへん』
怜「ぁ……ぅああ……」
竜華『さよなら…………怜……』
怜「うああああ…………ああああああ…………」
怜「あぁああぁぁぁあああああああ!!!!……―――――」
2年後
<千里山女子高校 麻雀部部室>
セーラ「おー、ここに来るのも久しぶりやけど……あんま変わってへんな」
泉「そうですね。特に模様替えとかしませんし」
セーラ「んー……お!ランキング表を発見…………おお!泉、1位やんけ!」
泉「まぁ……はい」
セーラ「なんやなんや!教えてくれればええやんか!なんで黙ってんねん!このこの!」ツンツン!
泉「い、痛いですって」
セーラ「あ、わかった。今日わざわざ呼び出したんは、これを見せてご褒美貰おうと思ってたからやな?」
泉「う……///」
セーラ「しゃあないなぁ……ほれ、こっち向きぃ」
泉「……はい」
セーラ「…………ん」
チュ..
泉「///」
セーラ「そ、そんな顔しなや。俺まで照れるやんか」
泉「で、ですけど……///」
セーラ「ふ、ふん……///」
泉「…………」
セーラ「………………」
セーラ「そういえば」
泉「?」
セーラ「怜……同窓会の返事、くれへんかったな」
泉「あ……」
セーラ「怜のことやから『たった2年で同窓会なんてする意味ある?』とか言ってもおかしないけど……」
泉「…………」
セーラ「……俺と泉がこうして付き合えたのも、怜のおかげやし、お礼を言いたかってんけどな」
泉「…………」
セーラ「……やっぱ竜華と会うのが気まずいんかな……」
泉「…………」
泉(園城寺先輩は、あの日以来、麻雀部に顔を出さなくなった)
泉(清水谷先輩は部長として参加してたけど、前みたいに笑顔を見せることはなくて、淡々と後輩を指導し続けた)
泉(周りは、そんな先輩方の変化を感じ取ったけど、誰もそのことを口にせえへんかった。清水谷先輩の迫力がそれを許さへんかった)
泉(江口先輩は二人の間を取り持とうと色々動いてたみたいやけど、結局は解決せず)
泉(……あの日の後、私は園城寺先輩と一度だけ話した)
怜『泉……ひどいことさせてごめん。許してもらえるとは思ってへんけど、謝らせて』
泉『先輩……』
怜『……今回の件で泉がやったことは、全部私が命令したことやから泉には罪はない。それはハッキリしとるから気に病まんでええ』
泉『そんな……』
怜『……新子にもそう伝えた。新子から竜華にその話が伝われば、すぐには無理でも、きっと前みたいな関係に戻れる。竜華は優しいから』
泉『…………』
怜『それと……約束は守る』
泉『え?約束……ですか?』
怜『そや。前に言うたやろ?セーラと付き合えるように手伝ったるって』
泉『あ……』
怜『せめてもの罪滅ぼしや。私なんかの手は借りたないかもしれへんけど』
泉『そ、そんなこと思ってません!』
怜『……そか。ありがとう』
泉『園城寺先輩……あの』
怜『ほなな』ブツッ..
泉「あ……」
泉(それからしばらくして……江口先輩から告白されて付き合うことになった)
セーラ「……いつか」
泉「?」
セーラ「一昨年みたいに、みんなでワイワイ騒ぐことができるやろうか?」
泉「…………」
セーラ「打倒白糸台に燃えて、怜シフト組んで合宿して……怜を膝枕する竜華を茶化して、浩子が俺をからかって、泉が仕切ろうとしたところをみんなでつっこんで、って」
泉「………もし、またそんな風に騒ぐことができるなら……嬉しいです」
セーラ「せやな」
泉「はい」
セーラ「…………」
泉「…………」
泉(園城寺先輩……清水谷先輩……)
<繁華街>
ワイワイガヤガヤ...
女子大生A「はぁ……なんかカップル多いね」テクテク
怜「…………」テクテク
女子大生A「園城寺?」
怜「何?」
女子大生A「……いや、カップル多いなーって」
怜「……そやな」
女子大生A「…………」
怜「…………」
女子大生A「……相変わらず反応薄いね。浮いた話もないし。彼氏とかおらんの?」
怜「うん。おらん」
女子大生A「いつからおらんの?」
怜「…………高3の時に別れて以来、おらんな」
女子大生A「へぇ……それからずっとフリー?」
怜「そや」
女子大生A「そうなんや」
怜「…………」
女子大生A「………………」
怜「…………」
女子大生A「ん?…………あっ」
怜「?」
女子大生A「ね、ねえ……あれってもしかして、女子同士のカップルかな?めっちゃ綺麗どころ二人」
怜「…………」チラ
竜華「」ニコニコ
女性「」フフフ
怜「!!」
怜(竜華……!!)
竜華「」アハハ
女性「」クスッ
怜「………………」
怜(そうか……幸せを見つけてくれたんやな……よかった……)
女子大生A「別に腕組んでるとかそういうんやないねんけど、雰囲気がなんか怪しい……って……園城寺!?」
怜「……ぇ?」
女子大生A「あんた……なんで泣いてるん!?」
怜「ぁ…………ちゃうねん、これは」ゴシゴシ
女子大生A「違うって何が!ハンカチ……」
怜「ええから。もう拭いた」
女子大生A「…………ねえ、今の人たち、園城寺の知り合いとか……」
怜「…………そんなんちゃうよ。ほら、行こ」テクテク
女子大生A「…………」
怜「…………どないしたん?早よこっちに……」
女子大生A「ね、ねぇ……園城寺はさ、もしかしてその…………お、女の子が好きで……その……今の人を見て……何か思い出したとか……えと」
怜「…………」
女子大生A「…………わ、私さ!」
怜「…………」
女子大生A「実は園城寺のこと…………好きで……だから……っ!もしよかったら……私と……」
怜「ごめんな」
女子大生A「ぅ……えと……なんならさ!最初は……軽い感じというか」
怜「……ごめんな」
女子大生A「あー…………」
怜「………………」
女子大生A「そ……っか…………」
怜「………………」
女子大生A「はは、そうだよね。ごめん。ま、まぁ……その……園城寺なら可愛いから……きっといい人ができるやろうし……はは」
怜「ううん、ちゃうねん」
女子大生A「え?」
怜「私は幸せになる資格ないねん」
女子大生A「園城寺……?」
怜「私は…………大切な人を裏切った」
怜(竜華……)
怜「私に最高の笑顔を向けてくれる人を傷付けた」
怜(憩……)
怜「……たくさんの人たちを悲しませた」
怜(泉、セーラ、浩子……)
怜「せやから……私はもう…………ええねん」
女子大生A「園城寺……」
怜「………………」
怜(……竜華の隣におった名前も知らない人……)
怜(私が傷付けてしまった竜華の心を……どうか、どうか癒してください)
怜(そしてお願いします……竜華の中から私の存在を消し去ってください)
怜(それが…………竜華にとって最高の幸せで……)
怜(……あれだけのことをしておいてなお、竜華に縋る気持ちを捨てきれない私への最大の罰になるから……――――)
終わり
以上です
読んでくれた人、ありがとうございました
このSSまとめへのコメント
中盤若干ダレてたけど最後まとめられてて良かった!乙です!!