藍「橙におつかいを任せる、ですか?」 (41)
紫「そうよ。まだ貴女の式は未熟だわ」
藍「ですがまだ橙はまだおつかいができるほど……」
紫「それを、過保護っていうのよ。貴女はこれまで橙にひとつのことをひとりでやらせたかしら?」
藍「それは……」
紫「いい?主として式をうまく遣わせるのは当然のことよ。今日はあなたの成長も同時に見せてもらうから」
藍「……わかりました」
紫「ほら、ちょうどいいところに来たみたいよ」
橙「藍様ー!」
藍「橙……」
紫「いらっしゃい」
藍「今日はどうしたんだ、橙?」
橙「なんとなくここに来たくなって……」
紫「ちょうど藍もね、あなたに用事があるみたいなのよ」
橙「なんですか?」
藍「あ、ああ。今日は橙にひとつお使いを頼みたくてな」
橙「おつかい、ですか?」
藍「突然ですまない。そろそろお昼だし、人里に行ってお寿司を買ってきてくれないか?」
橙「あの川魚の握りとお稲荷さんと太巻きが入ってるものですね?」
藍「そう。買ってこれたら紫様と私と橙の3人で食べよう」
紫「私の分はいいわよ。これから博麗神社に行って霊夢にちょっかい出してだらだらする予定だから」
藍「分かりました」
橙「おつかいなんて初めてだけど、頑張ります!」
藍「ほらお財布。無くすんじゃないぞ」
橙「まかせてください!」
藍「よし、じゃあ気を付けて行ってくるんだぞ」
橙「行ってきます!」
藍「本当に大丈夫だろうか……」
紫「じゃあ私も霊夢のところに行ってくるわね」
藍「行ってらっしゃいませ」
紫「……くれぐれも橙の後をつけようなんて考えるんじゃないわよ?」
藍「分かっています」
……
橙「不安だけど、藍様のためにもやり遂げなきゃ」
橙「……とはりきったものの、早くもお腹がすいてきたかも。なんだかおいしそうな香りもしてきたし」
ミスティア「人に振る舞うのもいいけど、自分で食べるのもいいものだよね~」ジュー
橙(おいしそう……)
ミスティア「おや?いい匂いに誘われてきちゃったのかな?」
橙(はっ、いけないいけない。人里に行くんだった)
ミスティア「どう?そろそろお昼時だしうちの焼きヤツメウナギ買っていかない?」
橙「美味しそうだけど……私は人里で買い物を頼まれてるから」
ミスティア「それは残念ね。夜に屋台開いてるから機会があったらまたおいで」
橙「ふぅ、危ない危ない。思わず余計なもの買っちゃいそうになったよ。
早いところ済ませないと今度こそ余計なもの買っちゃうかも……」
???(……なんか面白そうな奴がいるねぇ。ここはひとつ遊んでやろうかな)
……
橙「あれ、そろそろ人里だと思うんだけどどっちの道を行けばいいんだっけ」
???「お困りかな?」
橙「あなたは?」
てゐ「ただの通りすがりの兎だよ。見たところ道に迷ってるみたいだね」
橙「そうなの。どっちが人里への道かわからなくて」
てゐ「それなら右にずっといけば行けるよ(本当は逆だけどね)」
橙「ありがとう、兎さん」
てゐ「いいのいいの。じゃあ気を付けて」
???「こら、てゐ!また薬売りのお仕事サボったわね」
てゐ「げ、鈴仙」
鈴仙「まったく、人里で薬売ってる途中にいなくなるんだから。で、この子は?」
てゐ「いやー、ちょっと道に迷ってたみたいで道を教えてあげようかと思ってね……」
鈴仙「それならそっちは人里じゃないわ。逆へ行きなさい」
橙「もしかして、あんた私のことを騙したの?」
てゐ「引っかかる方が悪いのよ!」
鈴仙「ごめんね。あとで私がしっかり言っておくから」
てゐ「バーカ!」
鈴仙「待ちなさい!」
……
橙「一時はどうなる事かと思った……でもようやく人里についたよ。
それにしても昼の人里って思った以上に人間が多いなぁ」
橙「あったあった、あれが例のお店ね」
店主「いらっしゃい」
橙「このお寿司を買いたいんだけど」
店主「あいよ。ただ、今日は稲荷寿司がもうひとつしかないんだ」
橙「ひとつだけでも大丈夫です」
店主「ごめんな嬢ちゃん」
橙「ありがとー」
橙「お寿司も買えたし、あとは帰るだけだね。おつかいって案外簡単かも」
バシュッ
橙「痛っ……!」
チルノ「へぇ、やっぱり単体だと大したことないんだね、式神ってやつは!」
橙「やってくれたね!……あれ、お寿司が」
チルノ「これは戦利品としてあたいがもらっていくわ!悔しかったらあたいを倒して……」
???「弱い者いじめとは、感心しないねぇ」
チルノ「誰?」
燐「まったく、死体を探しに来たら同族がいじめられてるところに出くわすとは……ケガはないかい?」
橙「あ、ありがとう」
チルノ「また猫ね!何匹かかってきてもあたいには勝てないよ!」
燐「よく喋る妖精だねぇ。あたいは妖精なんぞには興味ないんだよ、さっさとそれをこの子に返して去りな」
チルノ「うるさい!これはあたいのものだ!」
燐「余程痛めつけられたいみたいだね」ギロリ
チルノ「きょ、今日のところは見逃してやるわ!ほら、返すわよ」
燐「大したことないのはお前の方じゃないか」
橙「あなたは?」
燐「自己紹介が遅れたね。あたいは火焔猫燐。お燐って呼んで」
橙「助けてくれてありがとうお燐。私は橙」
燐「よろしく。ところで傷とかできてないかい?」
橙「大丈夫。でも妖精1匹も倒せないなんて情けないよ私……」
燐「卑怯な不意打ちされちゃあ仕方ないよ」
橙「助けてくれたし何か御礼しないと」
燐「そんなのいらないよ。当然のことしたまでだしね」グゥー
橙「お腹、すいてるの?」
燐「ま、まぁ空いてないと言ったらウソになるね」
橙「……お寿司、ひとつだけあげる」
燐「い、いいって」
橙「でも、助けてもらったらお礼をしろって教えられたから」
燐「(この子、見かけによらずしっかりしてるじゃないか)じゃ、じゃあこのお稲荷さんだけもらおうかな……」
橙「うん、いいよ」
橙(事情を話せば藍様も分かってくれるよね)
燐「ありがとう橙。またどこかであったらよろしくね」
橙「うん、またねー」
橙「さて、いろいろあったけど後は藍様にこれを届けるだけだね」
……
藍「遅いな橙。どこかで悪い妖怪にさらわれたりしてないだろうか……」
橙「藍様ー!買ってきましたよー」
藍「橙!心配したんだよ」
橙「色々あったけど無事買えました」
藍「えらいぞ橙!じゃあ早速食べようか」
橙「じゃあ開けますね」
藍「……稲荷が入ってないじゃないか、橙」
橙「あ、それは……」
藍「私は稲荷が食べたくてお寿司を頼んだんだぞ」
橙「ごめんなさい。でも、あのね……」
藍「どうしてくれるんだこれ」
橙「ごめんなさい……」
藍「まさか稲荷を入れ忘れられたのか?」
橙「違うの……」
藍「じゃあなんなんだ!……まさか食べたのか?」
橙「食べたことは食べたんだけど……でも」
藍「食べた!?なんでよりによってこの中で稲荷を食べたんだ?」
橙「それは、その……」
藍「もういい!おつかいがしっかりできなかったから今日はお仕置きだ!」
橙「ひっ、それだけは……」
藍「きついお仕置きをさせてもらうからな」
橙「ごめんなさい……ごめんなさい……」
藍「土下座されても困るのよ。橙、第一稲荷の作り方って知ってるの?」
橙「知らないです……」
藍「知らないのにつまみ食いしたの?」
橙「これは私が食べたんじゃなくて……」
藍「じゃあ誰が食べたの?」
橙「それは……」
藍「どうなんだ!?」
紫「そこまでになさい、藍」
藍「ゆ、紫様!?」
紫「今までのこと、すべて見せてもらったわ」
藍「見てたって……」
紫「このおつかいの一部始終よ」
紫「橙、あなたはいろんな障害に悩まされてもしっかりおつかいを成し遂げたわね」
橙「紫様……」
藍「でも橙は稲荷を食べたんですよ!」
紫「稲荷を食べたのは橙じゃないわ。藍、あなたの早とちりよ」
藍「じゃあ誰が……」
紫「橙はね、助けてもらったお礼にお寿司を差し出したのよ。貴女が普段教えた通り、
助けてもらったお礼は必ずするということを守ったの」
藍「そんな……!ごめんよ橙」
紫「さて、真に未熟だったのは貴女の方だったようね、藍」
藍「紫様、お許しを」
紫「己の欲に負けて大事なことを見失う式に私は育てたつもりはないわよ……?」
藍「ひぃっ!」
紫「さて、今日は寝かせるつもりはないから覚悟してもらおうかしらね?」
橙「……」
橙(欲に囚われちゃダメだってことを体を張って教えてくれたんだよね、藍様……)
おわり
このSSまとめへのコメント
???ー「いなりが入ってないやん」