魔王「私の世界の半分をくれてやる」(238)
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~魔王城 玉座の間~
魔王「悪い話ではあるまい?」
勇者「答えはいちいち聞かなくったってわかってんだろ?」
僧侶「勇者……、様っ! いやぁ、勇者ぁ!」
不敵に笑う魔王。
弓を構える勇者。
そして、―――
――――――――
~城下~
兵士「失礼致します勇者殿」
勇者「こんにちはー、どうされました?」
兵士「国王陛下がお呼びしております旨、お伝えに参りました」
勇者「陛下が? 分かりました、すぐに伺います」
兵士「急なお呼び立てで申し訳ありません。それでは」
勇者「陛下からって事は遂に俺の番か……。姉さん、行ってくるよ」
――――――――
~謁見の間~
勇者「陛下、お久しぶりでございます。勇者、ただいま参上致しました」
国王「急に呼び出してすまないな」
勇者「いえ、陛下がお呼びとあらば。早速ではございますが本日のご用件を伺いたく存じます」
国王「ふむ、そこまで畏まらずとも良いがそこがそなたらの良いところか。では、神父殿より説明を」
神父「かしこまりました。勇者よ、久しぶりですねぇ」
勇者「お久しぶりです神父。姉の出征以来ですね」
神父「貴方の姉君は申し訳ない事をしましたねぇ」
勇者「いえ、それが我々の勤めですので……」
神父「そう言って貰えると送り出すしかなかった私たちも、旅立った彼女も幾らか救われます」
勇者「陛下の御前ですので積もる話はまた、ご用件をお聞かせ願えますか?」
神父「おぉ、これは失礼。して、最近魔物がまた増え始めました。あなたの一族にばかり押し付けてしまいますが、魔王討伐の勅命が陛下より下ります」
勇者「はっ、準備が整い次第出征致します」
神父「また、教会から協力者として神より加護を頂戴した者を派遣します」
国王「その者は教会でも屈指の神通力の持ち主との事だ、共に任務に当たってはくれぬか?」
勇者「身に余る支援、感謝の極みです」
神父「後ほどあなたの家に向かわせますのでどうぞよろしく頼みますねぇ。まぁ心配はしていませんが」
勇者「?」
勇者は神父の意味ありげな言葉に首をかしげつつお応答する。
「それでは協力者と合流次第任務を開始します。では、失礼致します」
国王「……。やはり血は争えんのか姉君に似ておるなぁ神父よ」
国王は返答を待たずに寝室に引き上げる。
神父は座り込み、話しかけるとも独り言も分からない言葉を吐く。
神父「左様ですねぇ。……、歴代最強と言われたお姉さんですら帰還は叶わなかった。どうか勇者達に神の御加護あらん事を」
――――――――
~城下~
勇者「猫被んの疲れたーっ!! つっても俺が勇者一族最後の一人だしミスったら世界終わるんだよな。姉さんでも帰って来れなかったのに平気かねー」
勇者は一人ごちながらも準備を進める。
勇者「そういや末代の”勇者”の掟とかあったよな」
「勇者いるー?」
勇者「おー? 義妹? 開いてんよー」
義妹「Yahoo!」
勇者「それは挨拶の言葉じゃねえよ!! Yahoo!が何か検索してこい!」
義妹「いいねぇいいねぇ! キレキレだねぇ!」
勇者「よし、埋められるのと沈められるのとどっちがいいか選ぼっか?」
義妹「勇者ぁーそれキレキレじゃなくてキレてるよーやだなーもう」
勇者「こっちは忙しいんだっつーのね。で、何の用?」
義妹「あー……」
少女は名残惜しそうに勇者を見つめた刹那、居住まいを正す。
そして、
義妹「本日付で教会から勇者様のサポートとして派遣されました僧侶と申します。道中、戦闘での補助担当です。よろしくお願い申し上げます」
勇者はそれまでの雰囲気から一転した義妹にしばし絶句した。
勇者「……、は?」
義妹「いかがなさいました?」
勇者「」
義妹「あ、あの……、勇者様?」
勇者「すごい実力者が来るって聞いてたんだけど」
義妹「わたしだ」
勇者「oh……」
義妹「とまあ、こんなデキる女な訳ですよ」
勇者「チェンジ」
義妹「お客様、無償サービスなんでそういうのはちょっと……」
勇者「なんだよさらっと転職しやがって! それよりあんのくそ神父っ!!」
義妹「ちなみにこの街出たら本格的にさっきの僧侶モードになるからっ」
勇者「いいじゃんいつものノリで」
義妹「神の名の下に受けた仕事なんだから無理無理」
勇者「いやでもお前のキャラじゃないってーかさぁ」
義妹「この方が書く時に都合良いから」
勇者「ん?」
義妹「と、神が言っている」
勇者「いや、お前巫女じゃねぇだろ?」
義妹「まあまあ、諦めたまへ。ところでその弓、ってかボウガン何? あんた前衛タイプでしょ?」
勇者「あー、これな。うちの口伝にに残る最後の勇者専用の影縫いの魔弓」
義妹「なんかカッコいいんだけどなんに使うのさ」
勇者「詳しくはめんどいけど勇者の血を引く者にしか使えない決戦兵器らしい」
義妹「らしいって何さ」
勇者「俺が聞きたいわ。姉さんなら知ってると思うんだけど」
義妹「箱入り息子で教えてもらってないと」
勇者「うん」
義妹「わたしが教会入ってからも変わんなかったって事ね……」
勇者「そういや教会で探し物は見つかったか?」
義妹「うーん、ダメねぇ。出生記録とかも調べたけどわたしの親どころかわたし自身転入扱いで新しく記録作られてたから……」
勇者「そうか、今回の征伐でお前の親に会えるといいな」
義妹「いやいや無理でしょー。そのパターンだと最悪魔王の子に……」
勇者「えっ違うの?」
義妹「えっ?」
勇者「えっ?」
義妹「……、ふふふふふ、気付かれてしまっては仕方がない」
勇者「いきなりボス戦!?」
義妹「ノッといてあれだけどコントは尺が間延びするだけだから程々にしようよ」
勇者「ついやっちゃうよね」
義妹「もし魔王の子なら神通力と魔法両方使えて世界征服できちゃうしねっ」
勇者「発想が魔王だなーおい」
義妹「じゃあ準備できた?」
勇者「ああ、魔弓も持ったし後はなんとかなんだろ」
義妹「じゃあしゅっぱーつ!」
――――――――
~城下 近郊~
僧侶「まずはどちらへ向かいますか」
勇者「あー、とりあえず機械の街か鋼の村だろうな(まじで他人行儀だ……)」
僧侶「鋼の村は装備品の調達ですね」
勇者「機械の街は収納カプセルの調達な。道具を剥き身で持ち運ぶのも手間だし」
僧侶「承知しました。それでしたら初めは機械の街がよろしいかと思います」
勇者「妥当なとこだなーっ!?」
__盗賊があらわれた!
勇者「都出て速攻エンカウントとかどんだけ治安悪いんだよ……」
僧侶「人間、ですね」
勇者「やれるか?」
僧侶「神の意に反する者はすべからく悪です。討つ事に迷いはありません」
話終えるや何やら杖を構え詠唱を始める僧侶。
それを見て妨害せんと僧侶に飛びかかる盗賊。
勇者「ははっ、相手間違えたな?」
構えるでもなく傍観する勇者。
盗賊のナイフが法衣に迫る。
口上をやめ顔をあげる僧侶。
進むナイフ、笑う勇者、光る杖、迎え撃つ僧侶。
両者が交錯する刹那、鈴の音が響き僧侶の左手が滑る。
僧侶「あなたにはこれで十分でしょう?」
僧侶の左手にはクリスナイフ。
結果、肉を凸凹にえぐられた盗賊は膝をつかざるを得ない。
僧侶「さて、人を襲うのであれば襲われても文句はありませんね? 命までは盗りません」
勇者「あー、終わったら呼んでくれるか?」
妖しい鈴の音が響き渡る……。
勇者「思ったんだけど別に俺要らないよね」
僧侶「いえいえ、そのようなことはございません」
盗賊から受け取った寄付金を仕舞いながら答える。
勇者「そーか? ときにさっきの初撃、物理なのに何を唱えてたんだ?」
僧侶「神への懺悔です。悪人とはいえ導くべき人の子を傷つけてしまいますので」
勇者「その割には得物が仕込みクリスとかちょっと……」
僧侶「通常の仕込みと違って非常に手間のかかった逸品です」
勇者「褒めちゃないんだがな……」
――――――――
~機械の街~
勇者「とかなんとか言ってたら到着したな」
僧侶「カプセルは発注後、一晩かかるはずなので本日はこの街に滞在です」
勇者「了解、じゃあ店行ってさっさと宿行くか」
僧侶「はい、承知しました」
勇者「じゃあ、発注してくるから宿頼むわ」
僧侶「はい、お気をつけて」
――――――――
『動きはあったか?』
『本格的に動き始めたとの報せがありました』
『そうか……、引き続き監視体制を維持しろ。くれぐれも見つかるなよ。下がって構わん』
『はっ! それではまた定期的に連絡に上がります』
『ふむ、賽は投げられた。あとはあいつ次第か……』
――――――――
~翌朝~
勇者「このカプセル超便利なんだけどぉぉ!」
義妹「ちょっとはしゃぎ過ぎだって」
勇者「いや、そうは言うがな。ここまでの道中剣と弓を背負ってたのが片方消えるし他のアイテムも仕舞えるんだぜ?」
義妹「そういうアイテムだからな」
勇者「これで心置きなく戦闘に参加できる」
義妹「人間相手じゃ初手は専守防衛、攻撃前の詠唱付きのわたしが前衛やってた訳だからね……」
勇者「だって壊す訳には」
義妹「はいはい、これも仕事だから文句ありませんよー」
勇者「いいじゃん別に、嗜好も満たしてんだから」
義妹「別に好きで鈴付けてる訳でもないんだけどね」
勇者「洋梨とか取り出した時めっちゃるんるんだったじゃねーか!」
義妹「うそっ?」
勇者「教会に預けた義妹がダークサイドに堕ちて帰ってきたとか笑えない」
義妹「実行部隊なんてこんなもんですぅ」
勇者「大体、神に仕えてるのになんでそんな事にな「魔女裁判も大事な仕事です。納得して頂けないかもしれませんがこれは私共も譲れません」
勇者「急に変わるの卑怯だろ……」
僧侶「勇者様、本日は鋼の村でよろしいですか?」
勇者「ああ、身軽になったし先の事を考えるとな」
僧侶「では準備が整い次第出発致しましょう」
――――――――
~機械の街 近郊~
__NRX-055 跳ね犬があらわれた!
勇者「機械でできた……、犬? その辺の違法投棄の山に魔力が宿ったってか?」
僧侶「確か正式名称はドックだったと記憶しておりますが」
勇者「知り合いか?」
僧侶「残念ですが機械の友人は持ち合わせておりません」
勇者「そうか、しっかしさすが機械の街だけあって敵も機械化されてんのかよ。正直きついなっ!」
僧侶「来ます!」
勇者「左手の銃を見る限り遠距離型だっ!! 接近するから援護は頼んだ!」
僧侶「お気をつけて!!!」
勇者は小刻みに動きながら接近する。
犬は接近する勇者を脅威と認識したのか僧侶には目もくれず左半身を無防備に晒す。
響く銃声、弾ける閃光、数瞬前勇者のいた地面は醜くめくれている。
僧侶「援護しますご注意をっ!!!」
尚も犬に狙われる勇者の耳に僧侶の声が届く。決して飛び上がるようなことはなく慎重に回避行動をして距離を置き。
轟音。
周囲に点在する瓦礫が相次いで犬の左半身に衝突する。
純粋に質量と速度に依存した力技、僧侶の周りには更に瓦礫が飛び交う。
が、犬に向かうことはなかった。
犬がいる辺りから放たれた光が瓦礫を破壊していく。
土埃が落ち着くと、切れ長の赤い目でこちらを睨む犬。
勇者「無傷っ!?」
僧侶「どうやら左手首から伸びている長い板が盾のようです。 別の方法に切り替えます!」
勇者「待て! 犬が動く!!!」
それまで勇者のみを見ていた目が動く。
唐突に右を向く顔、回る上半身。
左腕が天を突き、体を覆う。
僧侶の攻撃を防いだ盾がぴったりと体を覆った刹那、先端のスリットに光が灯る。
理解が追い付かない勇者を尻目に犬は飛び上がり、加速する。
勇者「ちょ、タンマタンマ! 空中で加速すんなよくそっ!」
腰を落とし転がるように回避する勇者。
足を爪のように使って勇者を狙う犬。
距離を取り犬の観察に専念する僧侶。
繰り返し高速で襲い来る爪。
避ける勇者。攻める犬。
避ける勇者。ひたすらに攻める犬。
幾度も繰り返される回避劇。
叫ぶ僧侶。
僧侶「目です! 目を狙って下さい!」
勇者「無茶言うな! あんなん触っただけでミンチになるわっ」
僧侶「先ほどの神通力の応用で犬を一瞬縛ります!」
勇者「出来るのか?!」
僧侶「勇者様を狙う瞬間に地表スレスレを通ります。その時に少し下に引っ張り地面に引っ掛けます!」
勇者「良くわからんがやる事はわかった! じゃあ頼む!」
犬が飛ぶ。勇者は構え、合図を待つ。
犬が来る。勇者は構える。
犬が迫る。勇者は合図を待つ。
僧侶が動く。勇者は待つ。
僧侶の声、右手を翳す。犬が墜ちる。勇者は跳ぶ。
跳ねる犬。左手が動く、鈴が鳴る。勇者は”落ちる”。
剣が通る。剣が抜かれる。鈴が止んだ。
地に立つ勇者。勢いのまま転がる犬。
勇者はまだ構える。犬は態勢を立て直す。
腕が生える。頭が出る。目が光る。足で立つ。
勇者を見る。僧侶を見る。
手に銃はない。
勇者「目ぇとったと思うんだけどなー」
僧侶「空飛ぶ亀から二足歩行になった以上、効果はあったと思います」
勇者「じゃあ、サクッとやってくる」
勇者は構える。犬は左手に剣を取り出す。
犬が動く、勇者は応える。
右から剣が。
勇者(反撃……、無理回避)
左上段からの袈裟をくぐる。
犬の右手が動く。左腕は光る。
左から横薙ぎ、爪の中段。勇者は躱す、上へ。
犬は右腕を引く。流れで左腕を翳す。光る。
人間は空中で軌道を変えられない。腕の砲門を開く犬。
鈴が聞こえる。
消える勇者。止まる犬。腕に剣。突き破っていた。砲門を。異音を発する。
犬を蹴る勇者。浮かぶ身体。”落ちる”身体。嗤う鈴。飛び退く勇者。
勇者「いやーきつかった」
僧侶「お疲れ様です。お怪我はございませんか?」
勇者「へーきへーき。目の良さだけが取り柄だかんな。にしても打ち合せもなんもしてないのに良く着地点分かったなー」
僧侶「瓦礫を防ぐ以上、剣であの装甲を崩せません。でしたら内側を破壊すべきかと思いまして」
勇者「ふんふん。で?」
僧侶「はい、通常人間であれば上に飛ぶのは隙を晒すこと。それをなさったということはあそこが押し所と判断致しました」
勇者「うん、正解。あの状況で攻撃が通るとしたらあの砲門が割りかし的だしな。気付かなけりゃ犬死にだったけど」
僧侶「はい。ですが、私の神通力をご理解なさった上での行動であればそれに応えるのが私の役目ですので」
勇者「一応他も応え合わせしとこうか。いもう……、僧侶の神通力。特性は”重力”の操作でいいか?」
僧侶「正確には”引力”です。神の御心は人々の”重し”ではなく人々を”引きつける”もの、ですので」
勇者「ん、りょーかい。」
僧侶「私の能力、ご存知なかったのですか?」
勇者「今ちゃんと知ったけど国と教会のトップのお墨付きだ。下手はこかねーだろ? 屈指の実力者って話だったし」
僧侶「都を出た最初の戦闘で手出しなさらなかったのもその為ですか?」
勇者「ぶっちゃけ半分はな! 装備品を壊したくなかったってのもあるし、もちろん信頼だってある」
僧侶「ふふ、そう仰って頂けると恐悦至極を通り越してただただ恐縮のみを覚えてしまいます」
勇者「んなもんいらねーよ。んじゃ、あんな強敵そうそういねーだろうし早いとこ鋼の村行くか!」
僧侶「はい! お供致します!!」
――――――――
~鋼の村 近郊~
勇者「そういやそろそろ魔王についての情報を教えてくれないか?」
僧侶「そうですね、今時点で分かっている事はとても少ないですが」
勇者「そうなのか?」
僧侶「はい。まずひとつ、歴代の魔王と比べても恐らく最強クラスの実力の持ち主です」
勇者「うへぇ、マジかよ。犬でさえきつかったってーのに。ちなみに根拠は?」
僧侶「魔物が下界に現れるようになってからの進行具合が格段に速い事です」
勇者「それだけ広範囲に魔力を送れるってことね……。嫌んなるわぁ」
僧侶「次に、これは推測の域を出ませんが。可能性として」
勇者「引っ張るねー。強いよりも厄介とかやめてくれよ」
僧侶「あくまで可能性ですが、他のものを取り込めるかもしれません」
勇者「もの? また曖昧な」
僧侶「これまでに確認されていない新種の魔物が表れています。その多くは魔物のハイブリッドのようなものなのですが……」
勇者「犬、か?」
僧侶「はい。先の魔物は恐らく瓦礫を取り込んだもの。それらから導き出される仮説は自分以外のものを取り込む、かと」
勇者「瓦礫すら可能な以上、生き物のみに留まらないと」
僧侶「重ね重ね、あくまでも可能性ですが。そのように他を食べている可能性は考えられます」
勇者「うわぁ、頑張ろう」
――――――――
~鋼の村~
勇者「ほい、到着」
義妹「ついたどー!」
勇者(唐突にモード変わるけど頭ん中いじられたりしてないよな……)
義妹「んー、どったん?」
勇者「いえ、なんでもないです」
義妹「? まあいいや。お腹空いたし眠いしお風呂入りたいし早く宿行こう宿」
勇者「俺この村に盾買いに来たんだけどさ」
義妹「明日! もうやーだー今日は動けないー」
勇者「はいはいわかったわかった先に宿取ってぐだぐだしててくれ」
義妹「えー、そもそも盾とかいるの?」
勇者「片手遊ばしとくのもったいないだろ?」
義妹「片手で遊ぶ……///(今までも持ってなかったじゃん)」
勇者「あー。多分というか願望であって欲しいが口に出す言葉と心ん中逆な?」
義妹「いまわたしなんて言ってた?」
勇者「頬を染めつつ『片手で遊ぶ……』って」
義妹「なんだ合ってんじゃん。ま、いっか。じゃあ宿行ってるよん」
勇者「?! って、あ……、はい」
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「――首尾はどうですか?」
「今は鋼の村に入ったところで」
「――何か変ったところはありませんか? 細かい事でも構いません」
「はい、歴代の者と違い弓を持ち歩いています」
「――ほぅ、弓ですか」
「はい、使用用途はまだ判明しておりませんがイレギュラーである事は間違いがないかと」
「――そうですか、御苦労さま。引き続きよろしく頼みます」
「承知しました。では、また」
「――……、これは少し困った、いえ、面白くなるかもわかりませんねぇ」
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~翌朝~
義妹「で、どんな盾にしたのー?」
勇者「これ、なるべく軽い奴。利き手には剣持つわけだし、そんな重いと逆に使いづらいしな。次に向かうのが法外の森だし、取りまわし最優先」
勇者はそう言って小型の円盾を見せる。
バックラー。一般的にそう呼称される、剣と共に使用する防具。
しかし、勇者の持つそれは表面からは短い少数の棘部が生えている。
義妹「ふぇ? 森に行くとか聞いてないし。良く知らないけど、あそこって弓兵がいるんだよね。弓が相手じゃ足元を守れない盾って不利じゃない?」
勇者「言ったろ、目だけは良いんだよ。上半身さえ守れればいい。足元は最悪跳ぶ」
義妹「弓相手に跳ぶって、あ! で、避けたらすぐに"引っ張れ"と」
勇者「そういうこと。俺一人なら大盾、それこそ方形盾とかで少しずつ前進するとかもあるけど」
義妹「そのトゲトゲは?」
勇者「小盾はぶん殴るメタルフィストって使い方があってな。その時に相手をなるべく傷つけずに無力化する為に」
義妹「トゲで刺すってことは傷つけるし血も出るよ」
勇者「まあ、聞け。まずこの針、はっきり言って短い。それだけ致命傷になりにくい。で、刺したまま抜かなければ大量の血が出ることもない。ここで交渉する」
義妹「ふんふん」
勇者「さらに抜いたら外に血が流れ、止血とかの手当てをしてやれば比較的治りは早い。が、血が失われる分消耗も早いし失血の視覚的な恐怖もある。逆に殴打ってのは骨や筋を壊す可能性があるし、血が身体の中で固まるかもしれん」
義妹「もうちょい分かりやすく」
勇者「……、魔女尋問で使う審問椅子と、革鞭や締め壊し器具の関係と考えてくれ」
義妹「おっけぇ一発で理解した」
勇者(姉さん、義妹はもうダメかもしれません……)
義妹「それなら発熱機能付けたり馬糞塗ったりとかさ。あっ、小針が飛び出す仕掛けとかも面白いかなー。でもメンテナンスとかを――」
勇者(魔女じゃなくて人間相手だよ勘弁してくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!)
――――――――
~法外の森 近郊~
僧侶「ところで、森で何をなさるのですか」
勇者「口伝によると森にいるロビンって奴に相談に行けってあってな」
僧侶「唐突に個人名のご登場ですね……」
勇者「それだけ重要な人物なんじゃないかな、うん」
僧侶「ご相談なさるという事は勇者様一族と何か繋がりを持たれたお方なのでしょうか」
勇者「あー、なんかねー。えー、あー、はい」
僧侶「急に歯切れが悪くなりましたがどうされました?」
勇者「えーっと、正義って何?」
僧侶「はい、神の導きです」
勇者「例えば、やってる事は悪いことだけど、その結果たくさんの人が喜ぶとしたら?」
僧侶「そうですねぇ、他の手段で。神の望む方法で多くの民を導けないかを共に考えます」
勇者(これ盗賊の類だって言わない方がいいよね……)
__マ……が……れ……
僧侶「っあの、勇者様」
勇者(でも法外って地名からして気付かれてっかなー。でもなぁ)
僧侶「勇者様、どうやら物盗りか何かの類が……」
勇者「そうそう、有り体に言えば物盗りなんだけどさぁ」
僧侶「まずはここを切り抜けま――」
勇者「へっ?」
__マッチがあらわれていた!
不意を突いた少年は勇者に目もくれず僧侶に躍りかかる。
勇者「ちょまっ」
剣すら抜けず咄嗟に僧侶を庇う勇者。
縺れ合う二人。
マッチ「くっ、ミスったっ。それでもっ、聖職者も密着されたら援護できないっしょー!!」
叫びながら尚も勇者に組み着く少年。
立ち尽くす僧侶。その目は驚愕、蒼白の顔。
そんな渦中、致命傷を防ぎながら相手を確認する勇者。
弾かれたように詠唱を始める僧侶。しかしその身体は窮鼠かというほどに震えている。
互いに優位な位置を探す勇者と少年。
鈴は鳴らない。杖のみが唸る。
組み合う二人は奇しくも同じ結果にたどり着く。
自らの背中を晒したくない少年。
僧侶への奇襲を警戒し自らの背に隠す勇者。
尚も至近距離の応酬は続く。
勇者(革鎧に軽めの剣、見たところ近接ラッシュの戦士タイプ。しかし奇襲を許すとはもしや忍者か)
マッチ「悪いけど2対1で本命はあっちだ。あんたは早めに墜ちてもらう!」
勇者(しかし、いくら近接とはいえまだ身体もできてない少年)
しばしの膠着。少年は勇者の背後に視線を飛ばす。
当の僧侶は震えながらも引き抜いたクリスを握り杖を捨て去る。
背中越しにそれを確認する勇者。
勇者「あー、わりぃがちょっと遊んでらんねーんだわ」
言葉を放つや腰に携えた剣に手を伸ばす。
抜刀させじと身体を柄の正面にずらす少年。
マッチ「剣ってのは刃分の空間がないと抜けなガッ!」
剣の柄を使った当て身。
思わぬ攻撃を貰った少年は距離を取る。
僧侶は動く気配がない。
鈴はまだ鳴らない。
不審に思った勇者はチラリと後ろを見遣る。
心ここに在らず、幽鬼の如くごっそりと表情の落ちた僧侶。
勇者は恐怖に凍る。
勇者(これはなんだ。なんて歪な)
マッチ「目線切るとか舐めすぎっしょ、ざけんなっ!!」
息を整え僧侶に迫るべく動く少年。
それに対し勇者は、
「うるせぇよクソガキ。ちょっと黙ってろ」
無下に言い放つ。足を払う。
無造作に伸びる左手。無慈悲にも進路を塞ぐ盾。
無情に貫かれる革鎧。そのまま組み伏す。
勇者「おいガキ、おいたが過ぎたな。お前の敗因は俺と戦わなかったことだ。本気でくりゃ俺を殺せたかもしれない実力なのにな。おら、有り金全部置いてさっさと去ね」
マッチ「くっ、呑めるか……、よ。刺し違えてもあの女は」
勇者「揺すってやろうか? 捻ってやろうか? くらしあげるぞ、もっと痛ぇぞ? いいか、俺達は魔王を討つ使命がある。こんな所で人間とやりあう必要もガキのわがまま聞く道理もねーんだよ」
マッチ「じゃああんたが……、伝説の”勇者”か、どーりで。お金はやらない。でも……、ここは離脱する」
勇者「できると思うか?」
マッチ「できるできないじゃない……、ロビンに伝えなきゃ……」
勇者「おい、お前もしかしてロビンって奴の知り合いか。だったら丁度良い、これ以上危害は加えないから案内しろ。ほら、もう抑えないから」
マッチ「受ける義理はないっしょ……」
勇者「おい僧侶! お前からもなんとか言ってくれよ!」
バックラーを抜いて振り返る勇者。
吸い込まれるように僧侶と目が合う。その距離わずか半尺。
右手にはクリス。
接近に気付かなかった為か咄嗟に飛び退く勇者。
勇者(違う。意表を突かれて退いたんじゃない。これは……)
勇者がずれた。
その結果、僧侶と少年の間に邪魔はなくなった。
勇者(これは……、殺気かっ! くそっ!!)
僧侶の目に引き込まれるように戦慄する少年。
無言の僧侶。
勇者「おい待っ――」
勇者が口を開いた刹那、少年は二つになった。
続けて何事か呟く僧侶。
直後、二つのそれは押し潰されるように弾け、散った。
それは明らかなオーバーキル。
鈴の音は聴こえなかった……。
――――――――
~法外の森~
入ってすぐ立ち止まって辺りを見回す。
勇者は僧侶を背負っている。
僧侶は先の戦闘後意識を失ったまま。
時折うなされるように何事かを口にするが一向に目を覚ます様子はない。
近くまで来ていたこともあり、そのまま僧侶を運んできた形だ。
少年が現れてからの僧侶の豹変振りは先程までは考えていた。
しかし、今はもう思考を切り上げている。
自分一人では答えが出ないことも理由のひとつだが、それ以上に情景の変化に注意を引かれた。
例えるなら霧か霞か。
所々ばちばちと光が飛び交っていて雷雲も連想させる。それでいて不気味に響く音、非現実的ではあるがビープ音と形容する他ない。
視界は最悪に近い。何やら不穏な雰囲気。
その中で僧侶が起きるのを待つか否か考えあぐねていた。
勇者「義妹ぉー、まだダメかー?」
僧侶「ば……、だ……」
勇者「し、しんでる!」
僧侶「ぐ……、こ……、す……」
勇者「ダメだなぁこりゃ……、突っ込みないのは寂しいなー」
「代わりに突っ込んでやろうか?」
突如降りてくる女の声。
声の位置からして木上からか。
勇者「ネタに対する突っ込みは大歓迎だけど剣や矢を突っ込まれるのは遠慮したいねー」
女?「ほう、この状況で軽口を叩けるとは大物かはたまた馬鹿か。まあ、それも返答次第だな……。では聞こう。何をしにここに来た?」
勇者「あー、ロビンって男を訪ねてきたんだが。知らないか?」
女?「っ、ロビーが狙いか!」
勇者「落ち着け落ち着け、敵意はない。ただ聞きたいことがあるだけなんだ」
女?「一体どんな悪事を働いたっ、貴様のような者に返す物などない!」
勇者「もしもーし、話聞いてますかー」
女?「貴様などロビーの手を煩わせるまでもない、あたしがにゃっ!」
パキンッ、という乾いた音に続いて唐突に伝わる鈍い振動と呻き声。
勇者の目の前にうずくまる女戦士の姿。
勇者「……」
女?「……」
勇者「えーと、ダイジョウブデスカ?」
女?「て、敵に情けをかけられるなどっ!!」
勇者「はぁ、マジで話聞いて下さい。 つーか、あとの二人は心配すらしてやんねーのか?」
女?「なっ!」
勇者の問いかけに二つの影が近づく。
一つは上から、そしてもう一つ。
横から現れた身の丈2メートルは軽く越えていそうな大男が腕を組み右肩を晒すようにして口を開く。
大男?「気付いてたか中々やるようだな、なあロビン。マリアンも落ち着け」
勇者「どもー、お褒めに与り光栄です」
ロビンと呼ばれた隻腕の男も矢筒を触りながら近づいてくる。
その弓兵は、勇者の背に凭れる僧侶をちらっと見遣り、軽く笑う。
ロビン「ああ、合格だ。残念だったなリトル。少なくとも今はまだ戦えない」
マリアン「ちょっとロビー、リトル、いつから見てたのよ」
リトル「マリアン、目先の事に囚われるのはお前の悪い癖だ。決闘においてはそれでいい。お前は優秀な戦士なんだ。ただ、それだけは心に留めておいてくれ」
大男、リトルはやんわりと諭す。
女戦士は頬を膨らませて弓兵の方を見る。
弓兵は笑みを浮かべたまま楽しそうに二人を見ている。
勇者「みなさんみなさん、ちょっといいかなー?」
ロビン「ああ、失敬。自己紹介が遅れたね、僕はロビンだ。この義賊団の頭をやらせてもらっている。こっちの女の子がマリアン、こっちのでっかいのがリトルだ」
勇者「ご丁寧にどうも。俺は勇者、背中で伸びてるのがいも……、僧侶だ」
ロビン「ほう、勇者と。もしや城下の出身か」
勇者「その様子だとそちらにも同じような話があるみたいだな。ご明察、城下の出だ。そして勇者一族最後の一人だ」
ロビン「君が末代というわけか……」
リトル「おい、ロビン。話が見えん。とにかくこいつらを招き入れてもいいのか?」
ロビン「そうだね、リトル。その問いに僕はこう答えよう。半分イエスだ、とね」
マリアン「さっき合格って言ったじゃない。半分ってどういう事?」
ロビン「そうだね、あまりここでは言わない方がいいかな」
意味深な発言に首をかしげる二人、勇者はただ黙して待つ。
呆れた風に笑い、弓兵は仕方なさそうに大男に何やら耳打ちをする。
ロビン「そういう事さ、ただ僕には僕で役目がある。分かってくれるかい?」
リトル「到底承服できん! 何を考えてんだ貴様ぁ!!」
勇者「取り込み中すまないが背中のこいつを何とかしてやりたいんだ」
ロバート「どうやら君は気付いているようだね」
勇者「?」
リトル「おい待てロビン。本当に中に入れるのかっ!?」
ロビン「言ったろう、半分だと。さて、勇者。提案だ。中に入れるのは構わない。もちろん矢も渡そう。ただし、入るのは君一人でリトルと決闘をしてもらう」
勇者「わかった」
ロビン「話が早くて助かる。では、愛しのメアリー?」
マリアン「なぁに?」
ロビン「君には勇者の連れを見ていてもらいたい。できれば森から少し出た場所で介抱してやってくれないか?」
マリアン「あら、それだけかしら」
ロビン「愛してるよ、メアリー。世界が終わるまで君を離さない」
マリアン「うふっ、わかったわ、ご褒美期待してるからね。責任を持って面倒を見てあげる」
ロビン「よろしく頼んだよ。森からは離れすぎないようにね。もし目覚めそうになったら安全な場所に置いて先に帰ってくるんだ」
リトル「おいマリアンも、こいつらは」
ロビン「リトル、君が勝てば良い。ただそれだけだ。それとも僕に勝ったのは偶然かい?」
リトル「くっ、いいだろう。おい、勇者とか言ったな。貴様生きて出られると思うなよ」
ロビン「話もまとまったし、それぞれ始めようか」
勇者(こいつうまいな……。人の動かし方を知ってやがる)
――――――――
~法外の森 内部~
リトル「……」
ロビン「さっきも言ったが勇者が連れていた僧侶、あれは神の遣いさ」
勇者「……」
ロビン「そして勇者、彼は伝説によると世界を解放する為にこの森に現れた」
勇者「あぁ」
ロビン「この森に隠された矢を持って魔王の元へ向かう救世の英雄」
リトル「そんな英雄様を俺が殺しちまっていいのか?」
ロビン「リトル、怒らないで聞いて欲しい。僕ら程度に負けるようでは英雄になんてなれない。いわば通過儀礼のようなものだよ」
リトル「そうか。おい、勇者! 俺は手加減はしない。本気で盗りに行く。お前の物語はここまでだっ!!」
勇者「わかった。決闘直前に改めて本気になってもらうさ……。ところでロバート」
ロビン「何かな?」
勇者「俺の家に残る口伝はそこまで詳しい説明がないんだ」
ロビン「ほう、良ければ聞かせてもらえるかな?」
勇者「ああ、
【末の勇者よ。剣を取れ、弓を持て、森へ向かえ、矢を奪え。英雄の血にのみ傅く矢を。弓を引け、影を縫え。進め魔窟を、討てよ魔を。噛み切れ、血肉を蹂躙せよ。畢竟、汝は世界を識る。重き身のままに凱歌を叫べ】
と、これだけだ。この行軍歌が残るだけであとはお前の名前や魔王には弓を使えだの細々で、何を意味するのかが伝えられていない」
ロビン「ほう、またずいぶん曖昧で回りくどい伝わり方だねぇ」
リトル「【矢を奪え】か……、初めから闘う運命じゃねぇか」
ロビン「本来はね。
【創世の神は眠りに就いた。落ちた腫瘍は木々を食んだ。神目醒めし地の】
が冒頭に付くんだけどね。ま、僕の方から伝えることはないよ、それでも、強いて言うとすれば。僕は弓使い、魔弓の矢はこの地に眠る。そして、この森が”勇者”の伝説を持つ。といったところかな」
リトル「どういうことだ」
ロビン「それは勇者に答えてもらおうかな。さぁ、どうだい?」
勇者「お前は、俺の、スペアか。それとも、もしや――」
ロビン「ご名答。だが、その先を続ける事は許されない。さあ、リトルにも勇者にも伝える事はこれですべてだ。あとは語られる必要もない闇の話。始めよう、醜い輪舞曲を、美しい円舞曲に」
――――――――
~法外の森 広場~
ロビン「さて、準備はいいかな。どちらかの戦意か意識が無くなった時点で決着だ、ここなら見通しも利く、平等な場所だろう」
大男は巨躯の肩まであろうかという長大な丸太を右足を前にして構える。
勇者は左に剣、右に盾を持ち向かい合う。
リトル「恨みっこなしだ。お前があんな女を連れてこなければな」
勇者「僧侶は関係ないだろ」
リトル「そうでもねぇよ。あれは俺達にとっちゃ天敵だ」
勇者「そうか……、あぁ一つ言い忘れてた」
リトル「あ? 命乞いなら聞かねぇぞ」
勇者「お前らの仲間に革鎧着たすばしっこいガキいなかったか?」
リトル「マッチがどうかしたか、それこそ今関係ねぇだろ」
勇者「関係ないか、ありがたい。実はさっきそのガキに襲われてな。つい跡形もなく消し飛ばしちったんだよ。いやー、関係なくて助かっ」
疾風、破砕、遅れて木霊する慟哭。
勇者の立つ位置に正確に降り下ろされた丸太。
少し下がってやり過ごす勇者。
そのまま一歩踏み込み腕を突き出す大男。地を穿った丸太が伸びる。
左に跳ぶ勇者。
間を置いて横薙ぎの丸太が襲う。
またも下がる勇者、大男は刺突を放つ。
今度は右へ。再び丸太の中段。先程よりも格段に早い。
下がる、突く、避ける、薙ぐ。
予定調和のように繰り返される一方的な攻防。
徐々に広場の隅に追いやられる勇者。
後ろは木々。開けていない森へ誘い込めば長物は言葉通り無用の長物と化す可能性が高い。
勇者は森へ下がるに違いないと、攻める大男も眺める弓兵も考えていた。
それでも巨躯を揺らし進む大男、退く勇者。
左へ跳ぶ。変わらず迫る。
不意に前へ踏み出す、勇者。
衝撃。
勇者は丸太の根本に殴られ、流しきれずに吹き飛ぶ。
意外そうに眉を顰める大男。
勇者「いってぇぇ! ちょ、鎧にヒビいってんじゃん、これやばいって」
リトル「おい、お前。いなしたといえなんで当たった」
勇者「あ? あれ以上下がったら広場出ちゃうじゃん」
リトル「ふざけるな、森へ逃げればいいだろう」
勇者「いや、それが狙いだろ?」
リトル「何?」
勇者「普通に考えりゃ森に逃げた方が有利だと思うけどよ。この森は謂わばお前らのホームだ。恐らく、森に入ったら負ける。変な霧も出てるしな」
リトル「ちっ、喰えない奴め」
勇者「そりゃどーも。ついでに教えてやるよ。それでも森に逃げるのはフェアじゃないと思ったし、右利き相手だから左スイングを食らう選択をした。根本なら遠心力も小さいから死にゃしねぇって算段だ」
リトル「はっ、丁寧に種明かしするバカがどこにいる」
勇者「まあ、聞けって。ちょいとした自慢だが俺は"勇者"だ。空飛ぶ犬も叩き落としてやった。どういうことかわかるか?」
リトル「おしゃべりはここまでだ。早く立て」
勇者「待ってくれるなんざお人好しだな。お礼に教えてやる。俺は空中で軌道を変えられる。それで空飛ぶ相手も墜とした、覚えとけ」
主導権の奪い合いは続く。
攻める大男、躱す勇者。
一見、先ほどまでの録画のように同じ趨勢が続く。
しかし、状況は確実に変化している。
小さな変化、それは刺突への対応。
ただ単調に左右に避けるように見せて、殆ど左へ避けるようになった。
結果、大男を中心に時計回りの円を描くような回避軌道になっている。
それでも時折、捌ききれない丸太をその身に浴びて吹き飛んで行く。
鎧には大きな亀裂が走り、勇者を守る金属たちは満身創痍の様相。
そして、徐々に反撃も増えていく。
打撃を受ける瞬間、大男の右手を小手の要領で打突している。
圧倒的な力とリーチで闘う大男。
執拗に右手を狙う勇者。
序盤の大男の単調な攻撃に対し、双方ともにダメージを受けながら闘う。
それは突く、薙ぐ、斬ると小気味よいテンポを持ち、ただ眺める弓兵にこの上ない光景を披露していた。
指揮者のように片腕を振る弓兵の感嘆を知ってか知らずか、数え切れないほど吹き飛ばされた勇者が口を開く。
勇者「残念だけど鎧ももう限界だからな。本気ださせてもらうわ」
リトル「ほざけ、その傷だらけの身体で何ができる!!」
勇者「言ったろ、俺は空中で動けるんだ……、よっ!!!」
刺突に併せて右に跳ぶ勇者。大男は逆を突かれたものの左スイングを強引に右スイングに切り変える。
勇者は予測していたのか上に飛んで躱す。その際、丸太の進路上に置かれる剣。
剣の刺さった丸太を振り切った刹那、甲高い金属音と共に大男の目の前に鎧が落ちてくる。
大男は丸太に乗った剣の重みにわずかに振られて前屈みに体勢を崩す。
リトル「すぐに落ちて来て正面を取ったつもりかっ! だが残念だったなっ!! 俺は左利きなんだよっっ!!」
大男は泳いだ体勢のまま、気配を頼りに利き手で力強く振り直した左スイングを放つ。
勇者の鎧は砕け散った……。
――――――――
~法外の森 近郊~
マリアン「介抱しろって言っといて森に入るななんてロビーったら冷たいわね」
まばらに木の茂る草地に僧侶を寝かせ一人ごちる女戦士。
彼女は大男と違い何も聞かされていない。
ただ、弓兵に言われたので面倒を見ているという風にすら感じる。
マリアン「ずっとうなされてるけど大丈夫かしら」
僧侶「……、ぐ……。うぅ」
大して深刻に捉えることもせず、切り株に腰かけ物想いに耽り始める。
マリアン(そういえば今朝からマッチ見てないけどあの子どこに行ったのかしら)
僧侶「ぁ、ここ、は?」
マリアン(でも外から来たお客さんの前でも愛してるなんてもうロビーったら)
僧侶「たしか、物盗りか何かにおそわれて……」
マリアン(今夜は一体どんなご褒美をくれるのかしら。この一週間エビオスを色んな物に混ぜておいたからきっとすごい事になるわ、ふふっ)
僧侶「クリスを抜いて、神通力を使って……、っ!!」
マリアン(はやく向こうの用事終わらないかしら。ロビーにカッコ悪いところも見せちゃったしすぐに挽回しないと)
僧侶「うぅ、あの森は……、気持ち、悪い。うっ、近くにもまだ気配が……?」
杖が唸る。鈴は鳴らない。
女戦士を視認した僧侶は音もなくクリスを引き抜き右手に携える。
自分の世界に入り込んでいる女戦士が気付く様子はない。
マリアン(お客さんもいることだしまずはお夕飯かしら。あ、でも帰ってくれないと夜が燃え上が)
一太刀で仕留める僧侶。忌わしげに斬り屠った亡骸に神通力をかけ霧散させる。
幸せな思考のまま旅立った女戦士。彼女は有能な戦士であったが、大男が忠告した通り周りが見えなくなることもまた事実だった。
僧侶「あの森は、あってはいけない。消さないと……っ」
――――――――
~法外の森 広場~
リトル「お前、とんだホラ吹きだな」
勇者「嘘は言ってねーよ。過程を説明しなかっただけだ」
鎧を脱ぎ捨てた勇者が大男の背後から襟首に右手を、小盾を突き立てている。
リトル「一つ聞かせろ。どこまで計算ずくだ」
勇者「大体、かな。最初に会った時と闘う直前、お前は右足が前だった。これは左利きの立ち方だ」
リトル「……」
勇者「ガキの事で挑発して我を失ってくれるのが理想だったがそうはならなかった。左右のスイングに差を付けてさも右利きを装ってくれたな」
リトル「ああ、良く見てやがる」
勇者「さらに言うとメアリーって女に助言をしていた、褒めながらな。あれは上に立つ人間のやり方だ。つまり頭も切れる。だからこそ、敢えて乗ったし声にも出した。で、右手への打突だよ」
リトル「とんでもない怪物にケンカ売っちまったみたいだな」
勇者「ツイてただけさ。途中で鎧が砕けてたら打つ手なしだ」
リトル「はんっ、言ってくれる」
勇者「あとはタイミングを見て空飛ぶフリをしただけだ。鎧を身代わりに仕立ててな」
リトル「そうか」
勇者「おい、動かないでくれ。加減なしで打ち込んだから神経を切ってないとも限らん。脊髄はシャレになんねーぞ」
リトル「構わねーよ。勝者の顔くらい拝ませろ」
盾を下げる勇者。
ゆっくりと振り返る大男。
リトル「ロビンにさえ勝った俺を負かしたんだ。お前が"勇者"だ」
ロビン「さて、戦後の挨拶は済んだかな。もう時間もない」
リトル「ああ、十分だ。悪いなロビン、負けたよ」
勇者「時間がない?」
ロビン「リトル、いままで本当にありがとう。ご苦労だった」
労いを受けた大男は応えることなく事切れる。頭に矢を生やして。
ロビン「そう、時間がないんだ。君の連れが起きてしまったようでね。さっきから森が壊されているんだよ」
勇者「おい、なんで仲間を射った」
ロビン「話が噛み合わないねぇ。僕が消えたら彼らも消えてしまうんだ。ならばこの手で、と思うのは当たり前だろう?」
勇者「だからって」
ロビン「すまないが本当に時間がないんだ。僕が彼女に討たれたら意味がなくなってしまう。良い子だから少し眠っていてくれるかい?」
優しく言い聞かせるように矢が放たれる。
勇者は動けず矢が掠める。
勇者は動けなかった。
何故ならば、
勇者(ロバート、顔が抜け落ちて……、なくなって)
急速に薄れる視界が最後に捉えたものは表情を失って、それでも涙を流しているとわかる弓兵の姿だった。
――――――――
~法外の森~
僧侶「気持ち悪い、消さなきゃ」
「早く消さなきゃ」
「これは存在しちゃいけない」
熱に浮かされたように森を一人で壊しながら僧侶は奥へと進んでいく。
「壊さなきゃ」
「影響が広がるま……」
僧侶は止まる。
辺りに立ち込める霧のようなものが晴れる。
そして、木々がまるでドット落ちを起こすかのように虫食いになっていき、ビープ音を残して消滅する。
開けた視界の先、離れた場所にて、傍らの剣と矢に寄り添うように倒れる勇者を見つける。
と、同時に僧侶は憑き物が落ちたように表情を取り戻した。
僧侶「勇者様っ!」
勇者「ぁ……」
僧侶「勇者様っ、お気を確かに!!」
勇者「あれ、も、森は?」
僧侶「勇者様が消して下さったのではないのですか?!」
勇者「消えた、のか」
僧侶「はい、つい今しがた」
勇者「そっか、わかった。心配かけてわりぃな」
僧侶「いえ、そんな滅相もございません」
勇者「お前も結構昏倒してたけど平気か?」
僧侶「はい、ご迷惑をお掛けしました」
勇者「いや、無事ならいいんだよ。無事ならな」
僧侶「はい、ご覧の通りです。ご心配頂きありがとうございます」
勇者「なあ、僧侶。……、いや義妹。約束してくれ。この任務、一緒に生きて帰ろう。絶対にだ」
僧侶「今さら何を仰います」
勇者「わがままだけどな、もうこれ以上は人が引き算みたいに死ぬのがいやなんだよ。一人の死は悲劇じゃなかったのか」
僧侶「……、その誓いを建てることで勇者様が前に進めるのでしたら、慎んでお約束致します」
勇者「はんっ、甲斐性のない答えだな!」
僧侶「勇者様でしたら甲斐性は求めるものではなく求められるものではございませんか?」
勇者「うっせーうっせー、もういいや。矢も調達したし魔王城いくぞおらーっとその前に補給か」
僧侶「はい、お供致しますね」
――――――――
『ご報告致します』
『ふむ、何か動きでもあったか』
『はっ、森が消滅したとの連絡が入っております』
『そうか、森が……。落ちたのか落としたのか。くくっ。ご苦労、下がって良い』
『はっ、失礼致します』
『お前は何を望むかね……。賽に振られないことを切に願うよ』
――――――――
~辺境の町~
勇者「先に宿で休んでろよ、今日は色々あって疲れたろ?」
義妹「えー、前回もそのパターンだったし付いてくー」
勇者「あー、そか、うん。わかった。じゃあ防具屋行くぞ」
義妹「ういうい、らじー。そういや鎧どしたん?」
勇者「えっ、今さら?」
義妹「うん、なんかおかしいかなーとは思ってたんだけど」
勇者「お前の目はビー玉か。あ、これ褒め言葉な」
義妹「いいじゃん別にっ、買う前に気付いたんだから!!」
勇者「防具屋行くって言った時点で回答権ないだろ……」
義妹「わたしが訊いてんのになんで回答権必要なのさ」
勇者「はいはい。で、鎧な。お前の代わりをしてもらった」
義妹「わたしの……、代わり?///」
勇者「おいちょっと待て誤解を招く」
義妹「違うの?」
勇者「だからさも事実みたいな体で言うな、な?」
義妹「だって、あんなに激しく」
勇者「ケンカしたなー」
義妹「わたし昔は口じゃ勝てなかったから」
勇者「お前に良く殴られたなー」
義妹「つまり鎧にケンカ吹っかけてぶつぶつ言いながら殴られてたってこと、うわぁ」
勇者「おいピクミンを特攻させてる馬鹿を見るような目つきやめろ」
義妹「そこまで理解できるなんてやっぱり……」
勇者「あー、数行も真面目に話せないのはよぉーく理解したよ」
義妹「とりあえず黄色い救急車?」
勇者「よくわからんがたぶんお前に必要なんじゃないかな……」
義妹「で、わたしの代わりって?」
勇者「やっと真面目に話を」
義妹「早くしてくんない?」
勇者「(#^ω^)」
義妹「キモい」
勇者「はい」
義妹「で?」
勇者「……、あっすいませーん。鎧欲しいんすけど採寸お願いしますー」
義妹「逃げたか」
――――――――
「――現況報告をお願いします」
「はい、直に城に」
「――そうですか、くれぐれも注意を怠らないように」
「承知しました。今後の動きは?」
「――当初の予定通り、動けますか」
「はい、仰せのままに」
「――イレギュラーが消えた事も気になります」
「……、申し訳ございません」
「――いえ、あなたを責めているわけではありませんよ。では、また。次は再会の場になるでしょう」
「では、失礼致します」
「――隠れていた生き残りの手の内が読めませんが、どう転びますかねぇ」
――――――――
~深夜~
義妹「どこ行くの?」
勇者「!?」
義妹「お散歩には遅い時間じゃないかしら?」
勇者「あー、ちょっと花を買いに」
義妹「下衆が。装備一式持って?」
勇者「えー、ちょっと花摘みに」
義妹「普通そっちが先よね」
勇者「気付かれてしまっては仕方ない。あ、別にお前を置いて一人で討伐行こうとか考えてないよ?」
義妹「説明ご苦労。……、あんたさ、目の前じゃなければいいの?」
勇者「何の話だ?」
義妹「一人の死は悲劇だが、集団の死は統計上の数字に過ぎない」
勇者「っ!?」
義妹「百人の死は天災だが――」
勇者「もういい、わかった。その通りだ」
義妹「あんたは『一人の死は悲劇じゃなかったのか』って言ってた」
勇者「あぁ……」
義妹「町に入って早々わたしから離れようともした」
勇者「いや、それは」
義妹「いまも、わたしを置いて一人でいこうとした」
勇者「だが」
義妹「百人の死は天災だが、一万人の死は統計。あんたにとって、一人は誰。あんたにとって、一万人は誰」
勇者「だから」
義妹「あんただって誰かの一人なんだ。勝手にわたしを、あんたを一万人にすんな!!」
勇者「買い被りだって」
義妹「わたしの罪は従順過ぎたこと。何に従ったかはわからない。何に従いたかったのかもわからない。それでも、神の見えざる手に従って、役割を果たしてるつもり。ねぇ、勇者は。あんたはどうなの」
勇者「俺は」
義妹「わたしはっ、一万人の誰が死んだのかもわからないくらいなら、一つの悲劇を見守りたい。……、いつでも、助けて、あげられる、ように」
(――ならばこの手で――
――マッチが――遅れて木霊する慟哭――
――涙を流しているとわかる弓兵の――)
勇者「俺さ。何が正しいのかわかんないんだ「初めは世界を救う旅だと思ってた。でも、人も魔物も目の前でどんどん消えていく
「殺したくない、死んで欲しくないんだ「だけど、仕方ない。俺は”勇者”だから「頂いた勅命も世界を救えなんて大仰なことじゃない
「魔王の討伐。それしか賜ってない「仕方ない。陛下は国王だ「守るべきは世界じゃない。国と民だ「だけど、誰かが言ってくれた
「救世の英雄「世界を解放「何が正しいのかわからないんだ「でも救世、解放「とても響く「誰か「醜い輪舞曲「言った「美しい円舞曲
「……「今の世界は輪舞曲かもしれない「繰り返される争い、束の間の安息「安息という主題を求めて「魔物と戦い、人々は諍い「安息に帰る」
義妹は静かに勇者の独白を受ける。
荘厳な空気を壊さないように、それでいて優しく。
もしここが教会であったなら、これは懺悔であったろう。
俯いた勇者は独白を続ける。
両の掌を固く結び、義妹は傾聴する。
身じろぎする鈴の音を、決して零さないように、瞳を閉じて。
「少なくとも、俺の世界は、自分の手で「産まれ、生き、逝く、そんな世界を
「出来ないかもしれない、思いあがりかもしれない「支離滅裂でわけわかんないかもしれないけど
「俺はきっと、世界を救いたいんだ」
懺悔とも宣誓とも取れる独白を終え、勇者は面を上げる。
その視線の先で義妹は、瞼を閉じ、規則正しく胸を上下させている。
起こさないようにという配慮か、ゆっくりと優しく義妹を抱き上げて、寝台へと運んでやる。
勇者「引っ張ってくれよ、俺の世界を」
(――んね……)
――宿に程近い木、一連のやり取りを傍観していた鳥が梢を揺らす。
月明かりにうっすら映える影を残して町を発つ。
魔王の根城が待つ方角へ。
――――――――
こんな夢を見た。
傍らの男が弓を引く。
何故か口を開くことができない。
その逞しい右腕を狩り落とす。
腕が落ちる。血が流れる。
流れた血が形を成す。
それは、鳥。
鳥が喋る。傍らの男に。
鳥が喋る。人の言葉を。
鳥が姿を変えてゆく。人の頭。
(なんだろう。どこか懐かしい。まるで、共に過ごした)
鳥が喋る。人の言葉を。
鳥が姿を変えてゆく。丸みを帯びた女の身体。
鳥が謳う。人の言葉で。
人の頭、女の身体。鳥の羽根、鳥の足。
男も謳う。鳥も謳う。
男【創世の神は眠りに就いた。落ちた腫瘍は木々を食んだ。神目醒めし地の末の勇者よ】
鳥【剣を取れ、弓を持て、森へ向かえ、矢を奪え。英雄の血にのみ傅く矢を。弓を引け、影を縫え】
男【進め魔窟を、討てよ魔を。噛み切れ、血肉を蹂躙せよ】
鳥【畢竟、汝は世界を識る。重き身のままに凱歌を叫べ】
不意に男の輪郭が崩れる。
虫食いのようにぼろぼろと。
地に積もった男のそれは見る間に矢へと変貌を遂げる。
鳥は翔ぶ。真鍮の羽根で。
矢が突き立つ。影の上に。
縫いとめられた影。それが謳う。
【英雄の血にのみ傅く矢を。英雄の血にのみ傅く矢を。英雄の血にのみ傅く矢を。英雄の血。英雄の血。血】
これは自分の敵である。
――――――――
~魔王城~
__オマタノヤロチがあらわれた!
__鵺があらわれた!
__ドラコケンタウロスがあらわれた!
__ミーノースー王があらわれた!
現れる魔物を片っ端から斬り伏す勇者。
僧侶は、勇者の背を追うように進む。
僧侶「勇者様っ!」
勇者「くっ」
僧侶「援護を!!」
勇者「いや、必要ないっ。でやあっ!!」
気合い一閃、勇者は腕に攻撃を浴びながらも次々と敵をなぎ倒していく。
その様は圧巻。盾すらも相手を破壊する矛として、城内に一筋の血路を開く。
僧侶は掲げた右手を下ろして後を追う。
勇者「いってぇー。くそが」
僧侶「勇者様、傷が」
勇者「問題ない、こんなんで根を上げてたら何も救えん!!」
僧侶「ですが」
勇者「じきに玉座だ。準備は良いか!?」
僧侶「は、はい!」
――――――――
『報告』
『はっ、”勇者”が城内に侵入したとの報せが来ております』
『そうか、ついに。くくくっ』
『魔王様、どうぞご指示を』
『ふむ、では逃げろ』
『はっ。……、は?』
『なんだ不服か。家族の元へ逃げろと言った』
『恐れ多くも、我々は魔王様の手足にございます。そのような不名誉なことは』
『そうか、まあ良い。では皆に伝えろ。逃げたい者は去れ、残る者は宴だ。ここに集めよ』
『かしこまりました』
『この宴をもって嚆矢とする。そのように伝えろ』
『仰せのままに』
『……、くくっ、勇者。お前が出した答えは本物か?』
――――――――
~魔王城 玉座の間~
勇者「魔王、いるかっ!!」
魔王『なんだ騒がしい』
勇者「何?」
魔王「……、すまないな。人語を繰るのは久しぶりで間違えたようだ。なんだ騒がしい、そう言っただけだ」
勇者「ほぅ、期待しちゃなかったが言葉を話すか。こりゃやりにくいな」
魔王「今さらそのようなたわ言を。愚かな人間どもが幾度となく貴様に刃向かったのではないか?」
勇者「ああ、人間だって襲ってきたさ。でもな、俺が殺したのは魔物だけだ。人を殺しちゃいねぇ。だからやりにくいんだよ」
魔王「そうか」
勇者「同族を殺されたってのに怒らないんだな。魔物には心もないのか」
魔王「貴様は目の前にある光景を把握しているか?」
そう促され、勇者は改めて辺りを見回す。
魔物、魔物、魔物。
玉座を囲むようにおびただしい量の魔物が這いつくばっている。
頭を失った魔物たちが。
勇者「お前が、やったのか?」
魔王「他に可能性があるなら言ってみろ」
勇者「貴様ぁ!!」
魔王「何故激昂する。貴様とて魔物を斬り屠って来たのだろう。変わりはしない、何もか――」
鈴が鳴る。
玉座が潰れるように弾け、魔物の残骸に降りしきる。
左手を掲げた僧侶。
声が降る。
魔王「……、ノックせずに入室した挙句、お手付きとはな。どれだけ躾がなっていないんだこの犬が」
僧侶「私には私の役があります。神に徒成すあなたに払う礼儀などありません!!」
魔王「言ってろ、俗物。所詮貴様に用はない」
チラシの裏にでも書いてろ
勇者「どういうことだ、いや。まずお前はなんなんだ?」
勇者は問いかける。
宙に浮き、見下ろす魔王へ向けて。
目深に被ったフードの奥、その赤く染まった薄く笑う口は応える。
チラシの裏にでも書いてろって
――――どれ程戦っただろうか。
時に飛び、時に走り、時に吠える。
数々の魔物を内に秘めた魔王は、疲れることなくその猛威を振るう。
対する勇者は片腕を力なくぶら下げ、応戦するのがやっと。
目の良さから致命傷を受けることは免れているが、傍目にもそれがいつまで持つともしれない。
強力な神通力で援護をするはずの僧侶も途方に暮れている。
動きが速すぎて、狙いが定まらない。
闇雲に攻撃しては勇者に誤射する可能性もある。
そのため、意味を成すのか分からない牽制にのみ徹している。
フードの先から声が響く。
勇者「んなこたぁわかってるよ」
魔王「そこの豚も役に立たないみたいだしな。少しおしゃべりと洒落込もうか」
僧侶「なっ」
魔王「ん、どうした雌豚。何か気に障るようなことを言ってしまったかな?」
勇者「なんで俺とやる奴はこう、わざわざ回復の時間をくれるのかねぇ。後悔するなよ」
僧侶「勇者様っ、このような者の言葉になど耳を貸す必要はございません!!」
魔王「ふん、言っただろう義妹。貴様に用はない。そして私の負けはありえない」
僧侶「そのような」
魔王「くどい」
弛緩しかけた空気の中、魔王の声が鋭く響く。
緩んだ緊張は咄嗟に反応できない。
僧侶は魔王に吸い寄せられ、抵抗すらできないまま囚われる。
勇者「何言ってんだ、世界なんざいらねーよ。それに、そんなことになんの意味がある?」
魔王「ふん、まあ落ち着いて話を聞け」
勇者「とりあえず話は聞いてやる。まずは義妹を離せよ、それからだ」
僧侶「あ、あ……。ダメ……」
どんな顔して書いてるのかな
気持ち悪いよぉ
魔王「それはノーだ。答えに関わらず義妹は先払いで頂く」
勇者「待てやめろっ!!!!」
魔王は勇者の制止を聞かず、僧侶に手を、爪を伸ばす。
鋭利に長く伸びた爪が両目に差し迫る。
ゆっくりと、視神経が晒される。 ゆっくりと、引きずり出される。
両眼が奪われる映像がスローモーションで流れる。
永遠に続くと思われた時間の流れは、断末魔に似た金切り声の前に砕け散る。
魔王「耳障りな声を上げるなよ雌豚」
僧侶「ひ、ひいいいいっ、め、めがっ、ひ、あああああぁ……」
魔王「もう一度だけ忠告しよう。耳障りな声を上げるなよ?」
勇者「うあああああああああああああっ!!」
目の前で仲間を抉られて、ただ激情に駆られて斬りかかる勇者。
魔王は串刺しにした二つのそれを味見するように舐めた後、僧侶を勇者に向けて突き飛ばす。
避けることはできた。しかし避けてしまえば暗闇に囚われた僧侶が受け身も取れず落下するのもわかった。
何より、絶叫にのまれて聞こえないはずの、眼球が脳から千切れゆく音が聞こえた気がした。
僧侶を抱き留める勇者。
それでも攻撃を止めない勇者。
無事な左腕で抱いたまま、力の篭らない右腕を強引に振り切る。
刃がフードに触れる。
フードを切り裂いた勢いを乗せて転がってゆく。
フードから素顔を現す魔王。
右腕を失った勇者。
魔王「ふん……」
僧侶「う、ああああ」
勇者「え、あ……、な?」
三者三様の声。
魔王は忌々しげに息を吐く。
僧侶は戦況が分からず痛みにあえぐ。
そして、目の前の光景が理解できず口を開ける勇者。
チラシの裏にでも書いてろって
まとめにのりたいんでちゅかぁ~?
魔王「なんだ、気付いてなかったのか」
勇者「姉……、さん?」
魔王「本当に気付いていなかったか。貴様らはこの部屋に入ってから名乗りを上げたか、貴様が義妹の名を口にしたのはいつだ?」
勇者「でも、なぜ」
魔王「私は先代の”勇者”で魔王城に向かった。ここにいて何がおかしい」
僧侶「うぅ、ああああああああ」
魔王「おい雌豚、いい加減黙れ。食事が楽しめん」
そういって手元に残った二つの球体を口に運ぶ。
言葉の割に味わう様子はなく、すぐに嚥下する。
勇者「何を、している」
魔王「食事だよ、知らないか?」
にっこりと笑い答える魔王を前に勇者の思考は凍る。
なぜ姉が。どうして人を食べる。なんで笑う。
魔王は、そんな勇者を余所に何やら思案気に眉を顰める。
「封印「家族「使命「勇者の「孕む「イレギュ「関係「壊れる「壊す「嫌だ「引き継ぐ」
僧侶「うう、勇……、しゃ、さま?」
魔王「おい義妹、貴様なぜ昨晩勇者に迫らなかった、押し倒さなかった。子が欲しかったのだろう?」
勇者「え……」
僧侶「う、なぜ、そのような……」
魔王「眼球ってのは脳がせり出したパーツなんだよ。だから食った。記憶もな」
僧侶「そんな」
魔王「貴様、雌豚の分際で関係を壊すのが怖いだの、異常と判断して壊すのが怖いだのと厚顔無恥にもほどがあるな。少しは恥を知ったらどうだ?」
僧侶「いや、言わないで。いや……」
魔王「森に触れたな、手遅れだ。バグってんだよ」
僧侶「うう、そんなことない、そんなことないもん」
勇者「バグ?」
魔王「ふん、いずれわかる。さて、交渉の続きといこう」
僧侶「う、勇者様、いけませんっ、うう!」
魔王「救世の英雄、世界を解放、大いに結構。世界を回す、世界を救う、おあつらえ向きだ。この世界で従前向後貴様にしかできない偉業だ。当然望まないこともやってもらうがな」
勇者「ああ、こうなったら話を……、聞こうじゃねーか!」
僧侶「勇者様、惑わされてはなりませんっ!!!」
勇者「聞くだけなら害はねーよ。それにお前は目を、俺は腕を取られた。少しでも回復しねーとぶっちゃけきつい」
魔王「相変わらず口は回るな。まあ、賢明な判断だと言っておこう。聞いた上で気に食わなければ私を討てばいい」
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魔王「――――――、こんなところだ。改めて問う前に、義妹は頂くぞ」
僧侶「そんな、いやっ、いやあああああ」
勇者「姉さん。いや、魔王っ!! 俺はお前を討つ!!!」
弓を取り、矢を装填する。魔王に構える。
そして対峙する二人。
勇者「俺は俺の使命を全うする」
魔王「では聞こう。私の世界の半分をくれてやる。悪い話ではあるまい?」
勇者「答えはいちいち聞かなくったってわかってんだろ?」
僧侶「勇者……、様っ! いやぁ、勇者ぁ!」
不敵に笑う魔王。
弓を構える勇者。
そして、弓が放たれる。
――――――――
~謁見の間~
魔王討伐を果たした勇者は重い影を引きずり凱旋した。
国王への報告。これを終えれば当面の安息は約束される。
そんな場で、勇者は国王に跪く。
勇者「もったいなきお言葉」
国王「今は休息が必要であろう。とくと休むが良い」
勇者「身に余るご配慮、恐悦至極にございます」
国王「そなたは初めて魔王討伐と生還を果たした真の英雄である。そこまで恐縮する必要はない。胸を張れ」
勇者「はっ、では陛下。お言葉に甘えましてお伺い致します。魔王とは、戦いとは、悪とはどのようなものにございましょう」
国王「ほう、面白い事を尋ねるな。どうやら真実を手に入れたようだ」
勇者「お戯れを……」
国王「その問い全てに答えよう。人の歴史が物語る。人の歴史は破壊の歴史。その先に進化がある。
その破壊をなすには正義と悪という対立の構図が最もわかりやすい。また、悪の象徴である魔王は簡単に倒れる事は許されない。
ならば魔王を討ち取った”勇者”が新たな魔王となる。これを繰り返すことが理に叶っている。そうは思わないか」
勇者「力ある者、統治する者、高次の者としての考えでしたら陛下のお考えに一切の異論はございません」
国王「ほう、そうか。これは良い理解者を得たようだ」
勇者「ありがとうございます」
その言葉と共に国王の首が刎ねられ、即席の噴水になり果てる。
同時に頭上の照明が砕け、部屋は暗闇に包まれる。
勇者「それでは、改めてお伺い致します。魔王とは、戦いとは、悪とはどのようなものにございましょう。すべてを管理する神、ゲームマスターとしての意見を伺いたく思います、神父よ」
神父「物語に必要な人物を壊されるとは困りましたねぇ。魔王の座も空いてしまいましたしこれは本格的に作り直しが必要ですねぇ。しかしどこでエラーを吐いたのでしょうか……」
勇者「その問いになら答えてやるよ。初めからだ。最初の勇者役がバグデータだったんだよ」
神父「ほぅ、やはりそうでしたか。放置するものではありませんねぇ。残していった子供データも壊れていたとは」
勇者「さらに決定的なのは教会の派遣者がバグってたことか。これも初めからな」
長くなりましたがこのSSはこれで終わりです。
ここまで支援、保守をしてくれた方々本当にありがとうごさいました!
パート化に至らずこのスレで完結できたのは皆さんのおかげです(正直ぎりぎりでした(汗)
今読み返すと、中盤での伏線引きやエロシーンにおける表現等、これまでの自分の作品の中では一番の出来だったと感じています。
皆さんがこのSSを読み何を思い、何を考え、どのような感情に浸れたのか、それは人それぞれだと思います。
少しでもこのSSを読んで「自分もがんばろう!」という気持ちになってくれた方がいれば嬉しいです。
長編となりましたが、ここまでお付き合い頂き本当に本当にありがとうございました。
またいつかスレを立てることがあれば、その時はまたよろしくお願いします!ではこれにて。
皆さんお疲れ様でした!
神父「うまくいかないものですねぇ。あれも破損データだとわかってはいたんですが。それでも若い娘という者は常に需要がありますからつい、ねぇ」
勇者「神の見えざる手なんて大層な名前つけやがって。しかも人間データには左手、使用時に予告の鈴の音。
人外データには無予告で右手使用の封印とか手の込んだ処理。ただでさえエラー吐いてんだ。そりゃ悪さもするさ。
そこまでやっといて”引きつける”引力だ? どう考えたって雁字搦めの”重し”だ、重力じゃねーか。ああ?」
神父「ゲームというのは縛りを付けた方が面白いのですよ。まさか自分以外の破損データを消去するとは思っていませんでしたが」
勇者「……、飼い犬に手を噛まれた程度にしか思ってないみたいだがその犬は狂犬病だぜ?」
神父「では折角なので犬のなぞ解きを拝聴しましょうか」
勇者「ふん、つまり――」
――――――――
~魔王城 玉座の間~
魔王が勇者に語る。
「まずは口伝からの説明が貴様にはわかりやすいか」
「最後に残っていた口伝はこうだ」
【末の勇者よ。剣を取れ、弓を持て、森へ向かえ、矢を奪え。英雄の血にのみ傅く矢を。弓を引け、影を縫え。進め魔窟を、討てよ魔を。噛み切れ、血肉を蹂躙せよ。畢竟、汝は世界を識る。重き身のままに凱歌を叫べ】
「そして伝えられなかったのが」
【創世の神は眠りに就いた。落ちた腫瘍は木々を食んだ。神目醒めし地の】
「という部分だ。【神】という言葉を避けていると思わんか。さらに武器だ。剣、弓、矢だ。なのに【噛み切れ】とはおかしい」
「【神は眠りに就いた】は眠る、目を閉じる、目を欺く。【落ちた腫瘍】は神から逃げ落ちた初代勇者。【木々を食んだ】とはつまり森を取り込むだな」
「【英雄の血にのみ傅く矢】は普通に考えれば、英雄が使う矢だ。しかし、貴様は夢を見なかったか。――そうその夢だ。つまり英雄の血を引く者に『のみ』効果のある矢」
これで今度こそ完結です。
遅筆で皆様をイライラさせ、さらに強引な展開、見るにたえない幼稚な文にここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。
それではまた会えたら会いましょう、最後は出番のなかったあの娘がしめさせていただきます。
杏子「イェイ!」
「あの夢は恐らく魔王であり、血の復讐者だな。そして、魔王が飛んでも影はその場に残った。なぜか、魔王が初代の腕から産まれたからだ」
「しかし皮肉なものだな。『魔』と付く物は魔物サイド、と決まっているのに英雄が『魔』弓を使うんだ」
「まあ良い。【重き身】はこの影だ。これを繋げると」
「【神から逃げた初代は森を作った。森へ行って矢を分捕って魔王を殺せ。ついでに神を斬ってぐちゃぐちゃにしろ。最後に分かる。だから、魔王の影を連れて帰れ】といったところか」
「口伝はこれ位だろう」
「さらに豚を食ったら面白い『データ』が取れた。こいつの力にプロテクトが掛ってる。噛んでみたら『破損データ』が暴走しないように半分に分けたとか書いてある」
「神の遣い。だから魔物から攻撃を受けなかったんだろう」
「だが森で他のバグに触れてちょっと本格的にイカれたらしい。初めから壊れていたようだがな」
終わったーーーーーーーーーーーーーー!!
自分史上最長スレになってしまった。
以下反省。
・謎解き(?)パートの部分は、ア ド リ ブ です。
バクマンでやってた過去の描写をむりやり伏線にするって奴をやってみました。
面白かった?
・決まっていたのは、えるたその結婚と夢オチだけでした。
・夢パートが書いてて胃がいたくなるくらい救いがなさすぎたので
現実ではゲロ甘にしました。砂吐いた人がいたら>>1の勝ちっ!
長々と語ってしまいました。
保守、支援、本当にありがとうございました!!
永遠(なが)くなりましたがかのSSは『セブンス・チルドレン』これペリティシリウム朱雀で終わりです。
聖域(ここ)まで祝福、保守をしてくれ給えた方々真実(トゥルシズム)に感謝する・・・だがもう貴様は用済みだ。
幸薄き奴隷化に至らずこのイグドゥラスィレで完結できたのは全12次元を創造した皆さんのおかげです(己の弱さを知るぎりぎりでした(生命の雫)
悠久の刻(トキ)読み返すと、中盤でのウエスタンポリューションフ=クセン引きやエロ刹那における表現等、これまでの自分の作品の奥底では壱IDの出来であったと運命ています。
皆さんがこのSSを読み無数を思い、何を思考《かんが》え、どのようなパショニエに浸れたのか、それは孤独の獣それぞれだと幻想(おも)います。
少しでもこのSSを詠唱(よ)んで「ジブンもがんばろう!」と囁くオーラになって所望すた方がいれば嬉しいです。
長編となりましたが、ここまでお付き合い頂きファイナリティフォントゥ=ウに真実(トゥルシズム)にありがとうございました。
また“刻”の終わりに――スレを立てる「アギト」があれば、預言書に記された時はまたよろしく神託を宣告します。
この地に満ちる生命総て混沌の中、安息という時の宿命を貪りなさい。
「この豚は多重人格を装ってクーデレを演じていたつもりらしい。狙いすぎたキャラのくせにまったく演じ切れていなかったが。とんだ茶番だ、クーデレが何か調べてこい……」
「失礼、そしてその森が勇者の森だ。破損隠しファイルで管理の手が入らないから『法外』らしい。なんとも情弱の発想だな」
「つまり初代勇者がバグってた。それから産まれた魔王もバグってる。バグ勇者がバグ魔王を吸う連鎖の果てがここだ」
「まさか勇者に身体を求めるメンヘルビッチが寄っているとは考えもしなかったがな」
「それ以上にこの世界も私も貴様も作られたデータだという方がにわかには信じられない」
「何、森でビープ音を聞いたと。ドット崩落までか……。どうやら真実のようだな」
「では、仮説だが結論を出そう。私を射れ。恐らく貴様に取り込まれる」
「私が義妹を食えば共に吸収されるだろう。そして、恐らくその『矢』は初代自身だ」
「どうなるかわかるか? ――そうかわからんか。つまり今までの歴代魔王のバグに加えて私、初代、そして義妹のバグが流れ込む」
「貴様は強大なバギープログラムになる。あとは消去される前に何かを成せ。分からなければ初代にでも訊くといい」
「誰も死んで欲しくないと言っていたのに。初めて殺す相手がよりによって私で、すまないな……」
――――――――
~謁見の間~
神父「ほうほぅ、知らないところで随分と大ごとになっていたようですねぇ」
勇者「なあ神父。初代勇者が何を思って逃げ延びたかわかるか」
神父「残念ながら」
勇者「憎しみだよ。ただ周回プレイの為に自分の子孫が自分の子孫を殺す。ただ、強い魔王を作る為に繰り返されるその設定。それに対する復讐心」
神父「何も革新的な設定ではありませんよ。ごくありふれたものでしょう?」
勇者「お前にとってはな。だが俺たちにとってはこの世界がすべてだ」
神父「あなたも何か言いたいことがあるようですねぇ」
勇者「……、ほんとに俺の敵はどいつもこいつもおしゃべりだ」
神父「仮にも神父の姿を取っているのです。懺悔くらいは聞きましょう」
勇者「はん……、俺は、この旅で人間を殺すことはなかった「だが最後の最後「殺した「姉さんを「よりにもよっ「この手「守るはず「世界「義妹「見殺し「憎い「自分「世界「神「すべて」
神父「……」
勇者「だから、壊してやる。お前を悦ばせる為のこんな世界、ぶっ壊してやる」
神父「終わりましたか?」
勇者「ああ。ほんとにお人好しに過ぎる」
神父「では、この辺りで失礼させていただきましょう。これからデバッグをしないといけませんし、触っていいものと触ってはいけないものを見極めないといけません」
勇者「その必要はねーよ。言ったろ、壊すって。なあ、なんで明かりを壊したと思う?」
そう言って赤い噴水の上を指さす。
首をかしげる神父。
神父「はて、わかりかねますねぇ」
勇者「……、お前は影に包まれているな。それが答えだ」
神父「そうですか。あまり遊んでいる暇は……、っ!!」
勇者「もうお前も壊れてまーす! 残念でしたーっ!!」
ビープ音が響く。
〈〈このプログラムへのアクセスが拒否されました〉〉
〈〈このプログラムから脅威を検出しました〉〉
〈〈このプログラムは応答していません〉〉
勇者「なあ、同じ事を繰り返す輪舞曲はもう飽きただろ?」
勇者「だから一緒に円舞曲を。イカれたダンスを」
勇者「ああ、円舞曲ってさ。こんな言い方もするんだ」
勇者「バルス」
勇者「ってね」
〈〈――――――す〉〉
〈〈このプログラムを削除しています〉〉
―― Game is over... ――
長くなりましたがこのSSはこれで終わりです。
ここまで支援、保守をしてくれた方々本当にありがとうごさいました!
パート化に至らずこのスレで完結できたのは皆さんのおかげです(正直ぎりぎりでした(汗)
今読み返すと、中盤での伏線引きやエロシーンにおける表現等、これまでの自分の作品の中では一番の出来だったと感じています。
皆さんがこのSSを読み何を思い、何を考え、どのような感情に浸れたのか、それは人それぞれだと思います。
少しでもこのSSを読んで「自分もがんばろう!」という気持ちになってくれた方がいれば嬉しいです。
長編となりましたが、ここまでお付き合い頂き本当に本当にありがとうございました。
またいつかスレを立てることがあれば、その時はまたよろしくお願いします!ではこれにて。
皆さんお疲れ様でした!
>>214
くせぇ
冗談は顔だけにして、以上で終わりです。
こんな明け方までありがとうございました。
>>216
二度と糞みたいな文章垂れ流さないでね
チラシの裏に書いてお母さんだけに見せてね
一応明確に引用したのが夏目漱石の夢十夜と、ブラックマトリクスの神の見えざる手であとはノリです
なんかまだ残ってるからログ付けて下さった皆様どん引きさせて二度寝しますね。
勇者「さーて、本編でゆーしゃおにーちゃんを裏切ってくれてたかわいいいもうとちゃんにはお仕置きが必要だよねー」
「なにがいっかなー。今ゲームマスターだからぶっちゃけなんでもできちゃうんだよねー」
義妹「ちょっと勇者冗談言ってないでこれ取って、服着せてよ!」
勇者「うーん、すべすべのおなかっていいものだよねぇ」ナデナデ
「で、これって首枷のこと? それとも今寝てるエクセタ公の娘のこと?」
義妹「どっちもに決まってるでしょ!」
勇者「なんで?」 ドポン
義妹「がぁっ、こ、こんな頭おかしいこと本気でやろうと思ってんの?」
勇者「はい」
義妹「はいじゃないが」
勇者「お前それ……。っつーか、いもうとちゃん勝手に何人か殺しちゃったよね?」
義妹「それはそうだけど……」
勇者「大丈夫、お仕置きするだけだから。仮に死んじゃってもゲーマス特権でどうとでもなるよ」
勇者「じゃあインタビューから行こうか。ズバリ聞きます。処女ですか?」
義妹「は、あんた仮にも妹に「処女ですか? これは大事なんです」
義妹「……答えなきゃダメ?///」
勇者「任意だけど答えないとエクセタちゃんがロープ引っ張るってさ「引き延ばしって拷問知ってるかい?「こう、本来手と足を引っ張るんだけどね「いま首枷着いてるからちょっと首絞まるかもね「折角だから奮発して10cm位いっとこうか!」 カチャカチャ
義妹「しょ……じょ、です」
勇者「えー、聞こえないなー。はい、エクセタ10cmいってみよー」クイッ
義妹「ぐぇっ、ぎ、いぎぃぃぃぃぃぃぃいいいいっ!!」 ミリミリィ
勇者「ほらほら、叫んでないで早く答えないと。追加するよ?」
義妹「いひっ、しょ、処女ですっ、いっひっっっ!」
勇者「そんなに処女アッピルする為に叫ぶなんて卑しいなー。おにーちゃん悲しいなー」ドゴォ
義妹「ぐひぃ、ひっ! 早く、緩め、てっ!」
勇者「なんでよ、一度与えた苦痛は和らげちゃいけないこと位実行部隊なら知ってんでしょ? まだマージンあるし死にゃしねぇって。一気にやったから腱イカれただけだろ」 ドポンッ
義妹「ぐぇ、はっそっ! そんっなっ!」
勇者「さてさて、いもうとちゃんは処女だと分かりました。では、かの聖母以来となる処女懐妊で赤ちゃんに処女膜ぶち抜いてもらいましょうかー」
「時間の都合でゲーマス特権でいきまーす」 テッテレー
義妹「ひぎっ! う、うぼぁろっうげぇぇっ、うぇっ」 ビチャッ
勇者「叫びながら悪阻でゲロするとか器用ですねー、このボテ腹は。あんまり寝ゲロしてると窒息しちゃうよ。さて、そろそろ産まれるねっ///」 ドボンッ
義妹「ぎひゃっ、ひぁっ? ぐぁっ、や、いやぁ」
勇者「男には一生わかんない痛みだから同情すらできないですわーー。んじゃ、お祝いの食事用意してるから頑張ってバージンズハイ迎えてねー」 テクテク
義妹「まっ、て……、たすけ」
「鍋とフードピストルとプロセッサ用意したら終わりとか楽ですねー」
「さて、いもうとちゃんはー?」
義妹「ひっひっ、もうだめ、ゆる……、してっ」
「ひっひっ、の後はふーだよ、もう。まだ産めてないようなんで手伝いましょうか。帝王切開で」 サクッ
「サクッと適当に腹を割きます。悲鳴が聞こえても無視無視。次に産道を握ります」 ニギニギ
義妹「がはっ、ぃあああああああぁあやああああぁめっ!」
「(^q^)な感じだけどシカトして、赤ちゃんを押します。きっと膜やぶって元気に産まれてくるでしょう」
義妹「がぁぁぁぁあああっあっ!!」 メリメキョブチィ
「滅多に出来ない初体験おめでとう。気持ちよかったかな? さて、元気な赤ちゃ……、し、しんでるっ!」
赤ちゃん「」
義妹「ひぎっんひぃいいいやああああ!」
「本編でも突っ込みなかったよねこれ」
赤ちゃん「」
プロセッサ「ガガガガッ! バリバリィ」ウィーン
赤ちゃん「ンギャッ!!!」
「あ、ごっめーん。肺呼吸ができてなかっただけみたい」
「よかったね、いもうとちゃん。赤ちゃん、元気に産まれてたよっ!」
「産声が断末魔だったから元気かどうかわかんないけど。終わったことだし仕方ないね。切り替え切り替え」
義妹「あっ、ああああああああああああ」
「いやあ、活き〆だから鮮度は抜群だね、楽しみだなー」
「この時ゆっくり取り出さないとショック死するらしいので慎重にやりましょう」
「必要な分取れたら適当に残った腸と消化器官を縫合して」
義妹「あぁ、わたしのっ、はっ、からだっ……もって、んっいかな」
「段々いもうとちゃん出すのめんどくなってきました。メンドクサイオンナってやーね」
「フードプロセッサでできた赤ちゃんミンチに繋ぎのコーンスターチと卵、ラードに塩少々を加えて、冷やしながら粘り気が出るまで混ぜるんだけど」
赤ちゃんミンチ「」
「んー、ちょっとミンチ少ないかなー。折角の祝い事だし豪勢に行きたいから肉足しましょうそうしよう」
「ねぇねぇいもうとちゃん。赤ちゃん育てる必要なくなったからその胸いらないよね、片方ちょーだい?」
義妹「い、いや……で、す、おぇ」
「イエス? さっすがいもうとちゃん話わかるぅー」
「ナイフで切ってもいいけど止血が面倒でねぇ」
「という訳で出刃を用意します。次に赤くなるまで火で炙ります」
「鉄は熱いうちに打てとあるのでこの灼熱のバーニングブレードでおっぱいをこそげ落とします」
「するとあら不思議。切れた血管が焼かれて閉じる。止血消毒しながら生肉が切れる。うーん、画期的ですねー」
義妹「ぎひぃああああああ、わた、ひっむね、かえし」
「やべ、油塗るの忘れて肉こびりついた。おっぱい側は脂肪が溶けてくっつかずに済んだからいっか」
義妹「ぎ、いた、ひっゆるめてっかえ、してっ」
「よく考えたらエクセタで引っ張ったまま腹割ったら千切れてテケテケになり兼ねないとか怖い。放置するけど」
「プロセッサにこのおっぱいを入れて合挽ミンチを作ります」
プロセッサ「ヒキニクハマカセロー」バリバリ
義妹「いやぁぁぁぁああ! だっれかっ! ぅげぇっや、あああああああああ」
「もう錯乱しちゃってますねぇ」
「で、腸は綺麗に中を洗浄して、あとはピストルを使ってミンチを腸に詰めます」
「半分の長さで捩って止めます。さらにもう半分。この時輪っかを作ってその中に先端を通すと外れにくくなりますね」
「茹でる際、お湯の温度は70℃が目安。一度沸騰させてから温度を落としましょう」
「これを茹でたものがこちら。沈んでたのが表面まで浮かび上がったらこれでぱーぺきー」プカーッ
「いもうとちゃんお待たせー、ご飯食べよっか?」
義妹「ご……、はっは、んっ!?」
「いもうとちゃんの為にソーセージ手作りしたんだ、はい、あーん」 グリグリ
義妹「ひっいあっ、いたぃのぉとっ、て」
「食べ物を粗末にしちゃいけないよ。ほら、召し上がれ?」 グイグイ
義妹「うぇ、んむっ」ゴクン
「食べられたかな、良く噛めたね。どんなお味だい「いもうとちゃんの腸と胸、赤ちゃんで作った「親子ソーセージ
「どうせなら腸じゃなくて膣道で作れば良かったかな?「処女で良かったね「中古だったら雌豚ソーセージとか言われてたよ
「女の子だもんそんなの耐えらんないよね「張り切っていっぱいつくったからね「たんとお上がれ」
義妹「
テケテッテンテンテンテンッ テケテッテンテンテンテンッ テケテッテッテッテッテッテッテッテン
テンッテンッテッテンッ テケテッテンッテッテン
―勇者のお仕置きクッキング 第n回 親子ソーセージを作ろう! 番組終了―
ロビン・フッドと愉快な仲間達のくだりかな
まあ若く見てくれてありがとうございます
このSSまとめへのコメント
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