~~とある王国
王「我が息子よ…本当に行くんだな?」
王子「はい」
王「…今やお前は剣術・魔法、共にこの大陸一番の使い手だ」
王「それにお前は真実を知っている……だからこうなる事は分かっていた」
王子「………」
王「息子よ…いや、勇者よ。魔王を倒してくるんだ」
王子(以下勇者)「かしこまりました王様」
―――
――
―
騎士隊長「王子…本当に魔王城へ行くんですか?」
勇者「ああ」
騎士隊長「でしたら私達も――」
勇者「いや、俺一人で行く」
騎士「お、お一人なんて無茶です!我が王国以外の国は全て魔王の支配化にあるんですよ!?」
騎士隊長「騎士の言うとおりです。私達も微力ながら協力させてください」
勇者「もちろん協力はしてもらう。さすがに一人では出来ない事もあるからな」
騎士隊長「では私達は何をすればよろしいのですか?」
勇者「まず一つは今まで通りこの王国の防衛。そしてもう一つは――」
―――
――
―
勇者(よし、これで下準備は終わった)
騎士隊長「王子、馬の準備が出来ました」
騎士隊長「この馬なら古ぼけた村まで一日で着くと思います」
勇者「色々してくれてありがとな」
騎士隊長「いえ。それと外に出ればすぐに王子のことが魔王にバレます…どうかお気をつけてください」
勇者「ああ、分かってる…そうでないと意味が無いからな」
騎士隊長「えっ?」
~~魔王城
側近「魔王様、東を統べる王国を見張っていた者から連絡がありました」
魔王「何だ?」
側近「勇者が現れたそうです。しかもその勇者は王国の王族との情報も…」
魔王「っ……そうか」
魔王「全ての魔物に伝えよ。『全力で勇者を殺せ』と…」
側近「かしこまりました」
魔王「勇者……私は貴様を…必ず殺す」
~~古ぼけた村
オーク「おら!さっさと働け!」ビシッ
村人「ぐっ!」
オーク「ったく…魔王様も魔王様だよなぁ。こんな奴ら奴隷にしないで殺しちまえばいいのに…」
オーク「つーか魔王様こうやって危害を加えるのさえ許してくれねぇからなぁ。こんなとこをボスに見つかったら…」
ガーゴイル「減給+一週間牢獄生活だな…」バサッ
オーク「ボ、ボスぅぅぅ!?」
オーク「お、おかえりっす!さささささ、さっきのはただのスキンシップっすよ!?」アセアセ
ガーゴイル「まぁいい、見逃してやる。今は急を要するからな」
オーク「へ?王国にでも攻め入るんすか?」
ガーゴイル「いや…勇者が現れたそうだ」
オーク「勇者?」
ガーゴイル「お前はまだ若いから分からないのか。勇者は定期的に現れる魔王様を狙う敵だ」
ガーゴイル「そいつがこの村に近づいてるらしい」
オーク「強いんすか?」
ガーゴイル「さあな。いつもなら魔王様直々に殺してるそうだが…今回は魔王様から勇者を殺せと指示が出ている」
ガーゴイル「しかも『全力で』だ……そいつがかなりの実力者か、もしくは魔王様にとって特別な存在なのかもしれない…」
ガーゴイル「…兎に角、他の奴らを呼んで来い。作戦を立てる」
オーク「了解っす!」
勇者「呼ぶ必要は無い」
ガーゴイル・オーク「!?」バッ
勇者「俺がその勇者だ。お前達を…殺しに来た」
オーク「へっ、たった一人でか?笑わせるな!!」ダッ
ガーゴイル「ま、待て!」
ザシュッ
勇者「……次」キンッ
オーク「」
ガーゴイル(くっ…やはりかなりの実力者!ここは…空から攻めるしかない!)バサッ
勇者「…雷魔法」チリッ…
バリバリバリバリ!
ガーゴイル「ぐあああああああああああああああああああ!!」
ドサッ
ガーゴイル「」プスプス…
村人「あ…」ガクガク
勇者「……大丈夫です。すぐにこの村に居る魔物を全滅させますので安心してください」
___
__
_
村長「あ、ありがとうございます!まさか王国の王子様自ら私達を助けてくださるとは…何とお礼を言ったらよいか…」
勇者「いえ。当たり前のことをしたまでです。お気になさらずに」
村人「…だ、だがどうせすぐに他の魔物達が来て、俺達はまた奴隷になる。こんなことしても無駄だ!」
村長「お、おい!無礼者!」
勇者「心配いりません。我が王国の騎士達をここの護衛として呼んでいますので」
村人「えっ?」
勇者「明日にはここに到着するよう命令しておきました。ご安心を」
勇者「それに……きっと魔物達は全力で俺の命を狙うのでそんな暇無いと思います」
村人「あ、あなたは一体…何者なんだ?」
勇者「…俺は勇者。魔王を倒す者です」
~~魔王城
側近「魔王様、今度は西国を奪われました」
魔王「…今回の勇者はかなりの実力者のようだな」
側近「それに頭もキレます。魔王城から人間の国々への経路を王国の騎士団を使って塞いでいます」
側近「そしてその間に我々の支配下にあった西国と南国を奪い、さらにその国の兵士達を使って周辺の村・町を護衛しているそうです」
側近「しかし一つだけ勇者もミスをしています」
側近「基本的に村・町の中で戦闘を行うので、助けられたにも関わらず村人達は圧倒的な強さを見せる勇者に畏怖しております」
側近「付け入るのであればそこから…」
魔王「…いや、恐らくそれも奴の狙いだ」
側近「えっ?」
魔王「…側近よ、ドラゴンを北国に向かわせろ。そして町中ではなく山で勇者を討て」
魔王「あと他の者は皆この魔王城に退却させろ」
側近「か、かしこまりました…」
~~北国
勇者「ドラゴンが雪山に?」
北国の騎士「はい。元々この町に駐在していた魔物達は退却したらしいのですが…」
勇者「…そうきたか」
騎士隊長「王子!」
勇者「騎士隊長、どうしてここに?」
騎士隊長「王様の命令で北国と平和条約を結びに来ました」
勇者「…ちょうどいい。北国の兵士達よ、俺はこれからドラゴンを討ちに雪山へ向かいます」
勇者「しかしさすがの俺も土地勘が無くてはドラゴンの下まで辿り着けません」
勇者「なるべく早く討伐したいので兵士の他に山に詳しい者も連れて行きたいと思ってます。出来ますか?」
北国の騎士「わかりました。すぐに準備致します」
騎士隊長「王子、今度こそ私もお供します」
勇者「最初からそのつもりさ。騎士隊長は北国の兵士達と一緒に護衛に回ってくれ」
騎士隊長「はい!」
騎士隊長「……はい!?ド、ドラゴンはどうするんですか!?」
勇者「ドラゴンは…俺一人で倒す」
――雪山
ドラゴン「よく来たな、人間よ」
北国の騎士「こ、これがドラゴン……デ、デカイ!」
町人「ひぃぃ!」ガクガク
勇者「…騎士隊長、皆を少し下がらせてくれ」
騎士隊長「は、はい!」
ドラゴン「貴様が勇者か?」
勇者「ああ」
ドラゴン「ふむ…その顔、王国の王族だな」
勇者「っ……一つ訊いていいか?」
ドラゴン「何だ?」
勇者「竜族は長命と聞く…お前はどれくらい生きたんだ?」
ドラゴン「…答えにはなっていないがお前にはこれで十分だろう」
ドラゴン「我と魔王は親しき友。そして貴様の先祖をよく知っている」
勇者「……そうか」
ドラゴン「その質問、反応を見る限り…貴様は真実を知っているのだな?」
勇者「ああ…」
ドラゴン「全てを知りし者よ……貴様に魔王が倒せるのか?」
勇者「もちろんだ…その為に死に物狂いで得た力だ」
ドラゴン「そうか…ならば我を倒していくがよい!」
勇者「……うおおおおおお!!」
___
__
_
騎士隊長「お、王子!大丈夫ですか!?」
勇者「……ああ」
北国の騎士「し、信じられない。あのドラゴンを一人で倒すなんて…しかも圧倒的強さだ…」
町人「そ、その手に持っている物は…?」
勇者「…ドラゴンの牙です。戦利品として貰ってきました」
北国の騎士(紅に染まりながらドラゴンの牙を持つ勇者様はまさに…悪魔のようだ)ゾクッ
町人(こ、怖い…あのドラゴンよりもずっと…)ガクガク
騎士隊長「………」
――北国の酒場
騎士隊長「王子、少しいいですか?」
勇者「何だ?」
騎士隊長「何故今回は戦利品を取ったりしたんですか?殺した魔物の死体はいつも供養するみたいに丁寧に燃やすのに…」
勇者「……あいつの生きた証を残しておきたくてな」
騎士隊長「は、はぁ…生きた証ですか」
勇者「…この話はこれでお終いだ」
騎士隊長「でしたらもう一つ…町の中での戦闘なら兎も角、今回はこの国の民にあんな残虐なところを見せ付ける必要がありませんでした」
騎士隊長「我々は小さい頃から王子の寛大な優しさに触れてきた故、どんなことがあっても王子を怖がったりしません」
騎士隊長「ですが我々以外は別です。何故王子はワザと他の国の民を怖がらせたりするのですか?教えてください」
勇者「………魔王が現れる以前、我々人間は国と国とで争っていた」
勇者「苦肉にもそれを終わらせたのは魔王だ。これは騎士隊長も知ってる事だろ?」
騎士隊長「はい。魔王が武力を用いて次々と国を支配し、人間同士の争いをしている場合では無くなった…ですよね?」
勇者「ああ。魔王は人間を奴隷とすることで世界を平和にしたと言えるな」
騎士隊長「お、王子!あいつのせいで今まで多くの人間が苦しめられてきたんですよ!?」
勇者「…もちろん魔王がやっていることは正しいとは言えない。でも間違いではないと俺は思うんだ」
勇者「あいつはただやり方を間違えただけ…いや本当に間違っていたのは……」
騎士隊長「王子…?」
勇者「…何でも無い。兎に角、俺『も』意味も無くただ人々を怯えさせてるわけじゃない」
騎士隊長「も?」
勇者「っ…今はこれ以上言えないがそれだけは分かってくれ」
騎士隊長「……分かりました」
~~魔王城
側近「魔王様…ドラゴン様がやられました」
魔王「そうか…先に逝ったか我が友ドラゴンよ」
側近「北も東も南も奪われてしまいました…ハッキリ言って劣勢です」
側近「これからどういたしますか?」
魔王「……側近、貴様は他の者達を連れて『西の大陸』へ向かえ」
側近「ま、魔王様!?」
魔王「あそこは人間が未だ到達していない、我ら魔物の大陸だ」
魔王「既に争いを好まぬ種族は向こうで暮らしている。そいつらと合流し幸せに生きろ」
魔王「そして二度とこの大陸に戻ってくるな。分かったか?」
側近「…嫌です。おめおめと逃げるぐらいならここで魔王様と一緒に散った方が――」
魔王「側近よ!!」ドンッ!
側近「っ!」ビクッ
魔王「皆を…頼む」ペコ
側近「ま…魔王様……」
魔王「貴様は私が一番信頼している部下だ。皆を導いてやってくれ…」
側近「………かしこまりました。魔王様…どうかお元気で」ス…
魔王(これで残る問題は一つだけ…)
魔王「さあ勇者よ……私の下へ来るがよい」
~~西国
勇者(父への報告も終わった。いよいよだ……待っていろ魔王よ)スタスタ
勇者(俺が必ずお前を……ん?)スタスタ
「おい知ってるか?王子(勇者)様の噂」ヒソヒソ
「ああ、魔物に同情するぐらい強いんだってな」ヒソヒソ
「行く先々で『悪魔』と言われてるらしいぞ。最早人間じゃないってさ」ヒソヒソ
勇者「………」
少年「あっ、王子…さま?どうしてそんなに辛そうな顔してるの?」
勇者「っ…そんなに辛そうな顔に見えたいかい?」
少女「うん。とっても辛そうな顔をしてたよ」
勇者「…俺よりあいつの方がずっと辛いのにな」
少年「あいつって誰?」
勇者「それは言えないけど………君達に少し昔話をしてもいいかな?」
少年・少女「うん!」
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むかーしむかしある所に、一匹の優しいネコさんと四匹のネズミさんが暮らす町がありました。
ネコさんはネズミさんを食べること無く、ネズミさん達もネコさんを怖がること無く仲良く暮らしていました。
時が過ぎるにつれ、その町はネコさんの子供やネズミさん達の子供で溢れかえっていました。
そしてネズミさん達の子供が大きくなると、よくケンカをするようになりました。
ケンカの理由はとっても些細なこと。でも次第にその子ネズミ達のケンカは激しくなっていきました。
それを見兼ねた四匹の親ネズミさん達は話し合って、『仲良し大作戦』をすることに決めました。
その作戦は悪者を力合わせて退治させるというものです。
親ネズミさん達はその悪者の役をネコさんにお願いしました。
優しいネコさんは快く引き受けてくれました。
そして仲良し大作戦決行当日。
――ケンカする子は食べちゃうぞ~
子ネズミ達は怖がりました。でもこの町からは出られません。
親ネズミさん達は言いました。
――皆で力を合わせてネコさんをやっつけるんだ!
すると子ネズミ達は力を合わせてネコさんを退治しました。
ネコさんのおかげで子ネズミ達はケンカをしなくなりました。
親ネズミさん達はネコさんに深く感謝をしました。
そしてその町は元通り平和になりました―
―そう言えたら良かったのですが…残念ながら平和にはなりませんでした。
仲良くなった子ネズミ達がネコさんの子供達をイジメるようになりました。
イジメの原因はあの仲良し大作戦。子ネズミ達はネコさん達が怖くなってしまったのです。
困ったネコさんは親ネズミさん達に相談しました。
しかし、今回は四匹の親ネズミさん達もケンカをしてました。
――そっちの子がウチの子をケガさせた!
――子供達が多くなって家が狭いからお前の土地をくれ!
日に日にケンカは激しくなって、そしてついには家族総出の殴り合いの争いにまで発展しました。
「このままではいけない!」と思ったネコさんは子ネコ達と協力して、ネズミさん達のケンカをやめさせました。
ネコさんに叱られて冷静になった親ネズミさん達はネコさんにお礼を言いました。
そして「もうケンカはしない」と約束しました。
しかしその約束は…ネコさんを騙す為の嘘でした。
その日の夜、ネズミさん達は寄って集ってネコさん達をイジメたのです。
子ネコ達が怪我をしてしまい、ネコさんは深く傷つきました。
ですがネコさんはネズミさん達をどうしても嫌いにはなれませんでした。
そしてネコさんは考えました。
―このままでは子供達が危ない。
―そうだ。あの仲良し大作戦と同じように自分達が悪役となって、ネズミさん達に退治されればいいんだ。
―そうすればまたネズミさん達は仲良くなれるはず…
ネコさんは子ネコ達を連れて、ネズミさん達の家から遠く離れた町外れに逃げました。
ネズミさん達は無事に悪役を退治することが出来たのです。
しかし……ネズミさん達は仲良くなりませんでした。
その後もネズミさん達のケンカは日に日に激しくなりました。
醜い…とても意味の無い争いです。
一方、ネコさんは家族と町外れで平和に暮らしていました。
しかし心優しいネコさんはネズミさん達が心配で毎日様子を見に行ってました。
――皆同じネズミなのにどうしてネズミさん達は仲良く出来ないんだ!
ネコさんは不思議で仕方がありませんでした。
そしてついに一匹の親ネズミさんがその争いによって命を落としてしまいました。
他の親ネズミさん達は敵が減って喜びました。
ネコさんは掛け替えの無いお友達を失って深く悲しみました。
そしてネコさんは同じ悲劇を繰り返させない為にある決断をしました。
それはネコさんが本当の悪者になることでした。
――俺の言う事を聞かない奴は食う。
ネズミがネコに敵うはずは無い。
本気になったネコさんにネズミさん達は怯え、従いました。
ネコさんは最初、「昔みたいに皆仲良く暮らそう」と命令しようとしました。
しかしそれは夢物語…ネコさんとネズミさん達も、ネズミさん達同士も昔みたいに本当の意味で仲良くなる事はもう不可能でした。
そこでネコさんが下した命令は―
――俺に歯向かったり、ケンカをしたりする奴は食う。
――大人しく俺の命令に従うならば食わずに生かしてやる。
各家をネコさんの子供達が見張り、その中でネズミさん達は怯えながら暮らす事になりました。
ただネズミ達も大人しく従うだけではありませんでした。
ネズミ達の中から『勇気を持った者』が現れ、一人でネコさんを倒しに向かったのです。
ネコさんはとても困りました。
命令ではあんなことを言っても、ネコさんはネズミさん達を傷つけたくない。
でもネズミさん達はネコさんをやっつけようとしている。
どうすればいいか悩むネコさん。
それを見兼ねた子ネコ達はネコさんに「勇気ある者をここで逃がしたりしたら、またネズミ達は俺達を追い出し争いを始める」と言いました。
子供達が傷つくのは嫌。ネズミさん達が争うのも嫌。
そしてネコさんは……心を鬼にしてその勇気ある者を食べました。
実際に命令に従わなかった者を食べてみせたので、ネズミさん達は大人しく命令に従うようになりました。
その後時が過ぎるに連れ、勇気ある者や耐えられなくなって命令違反をする者が定期的に現れるようになりました。
しかしネコさんはその度、その者達を食べました。
こうやってネコさんは今も凶悪な悪者となってネズミさん達を支配し、町を守っています。
====================
勇者「…これでお終い。どうだったかな?今のお話は…」
少年「う~ん…ちょっと難しかったけどネズミさん達がいけないって事は分かった!」
少女「私もそう思う…ネズミさん達が勝手に悪者にしたのに、ネコさんをイジメたりして…ネコさんがかわいそうだよ」
勇者「そうだね…俺もそう思うよ」
勇者「それにネコさんは今も大好きなネズミさん達を苦しめている…心優しいネコさんにとってそれはとても辛いことなんだ」
勇者「だから俺はこれから……ネコさんを助けに行く」
~~魔王城
魔王「待っていたぞ勇者よ」
勇者「魔王…」
魔王「わかっているがあえて訊こう…何しにここに来た?」
勇者「魔王よ…俺はお前を救いに来た」
勇者「王である父から真実を聞かされた…その時から俺はお前を救うと心に誓った」
魔王「信じ難い話だ…五百年前のあいつ(王国の王)が真実を子に伝えていたなんて…」
勇者「簡単なことさ。他の王がどうだったかは知らないが、俺の先祖様はお前を『悪者』に仕立て上げた事を悔やんでいたんだ」
魔王「………」
勇者「だから何年世代にも渡ってお前を止める為に強力な魔法や剣術を編み出した…」
勇者「身体への負担が大きく、今まで誰も扱えなかった…だが俺はそれらを全て習得し、先祖様の想いと共に受け継いだ」
勇者「魔王、俺はお前を救う為に…お前を殺す」チャキッ
魔王「そうか…ならば私も貴様を救う為に貴様を殺そう」
魔王「私を殺せば貴様は英雄になると同時に第二の魔王となる…それは貴様も分かっているのだろ?」
勇者「…ああ、分かっている。人間は誰しも自分より遥かに超える力を持った者に畏怖するからな…お前が良い例だ」
勇者「だが俺はお前とは違う。人間を奴隷になんてしないし、土地を奪ったりせず各国と平和条約を結ぶ」
魔王「しかし貴様の人外的強さを目の当たりにした民達は貴様を恐れている…まぁ貴様が自らそう仕向けたのだがな」
魔王「そのせいで民も国も貴様に従うしかない…それはつまり、貴様がこの大陸を恐怖によって支配している事と同意義だ」
勇者「確かにそうだ……だが悪者は俺だけ。皆を怯えさせ支配するのは俺一人だけだ」
勇者「だから俺は皆に真実を、俺達の過ちを伝えた後…皆の前で自ら命を絶つ」
勇者「そうすれば恐怖で支配する悪者はこの世から完全に居なくなり、皆はもう二度と同じ過ちを繰り返さないだろう」
魔王「やはりそうだったか…貴様の考えなど分かっていたさ」
魔王「…だからこそ私は貴様をここで殺す」
魔王「貴様に『悪者』の苦しみを味わわせない為にも…」
勇者「……ありがとう魔王」
魔王「私は礼を言わないぞ……貴様に救われるつもりは無いからな」
勇者「フッ…そうか。なら俺もさっきの発言を訂正しないとな」
勇者「俺はお前の部下も殺したんだ…苦しんで死ななければならない」
魔王「だからさせんと言っているだろ…」
勇者「………行くぞ魔王」チャキッ…
魔王「………来い勇者よ」スッ…
魔王「私は……貴様を殺す!!」
勇者「いや……俺がお前を殺すんだ!!」
魔王「ハアアァァァァ!!」
勇者「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
___
__
_
勇者「はぁ…はぁ…」
魔王「ぐっ……き、貴様の勝ちだ」
勇者「この剣で心臓を貫けばお終いだ……」チャキ
魔王「……勇者よ。最後に私の頼みを聞いてくれ」
勇者「…何だ?」
魔王「に…西の大陸には近づくな。あそこには私の大切な部下が居る」
勇者「……お前もこのまま西の大陸に行くという選択は――」
魔王「何を今更……私はこの地で生まれ、五百年の時をこの地で過ごした。だからこの大陸から離れるつもりは無い」
勇者「そうか……」
魔王「それに貴様が私を見逃せば、私は貴様を殺すぞ…」
勇者「……分かった、約束しよう。絶対に西の大陸には近づかない…」
魔王「礼は言わない……だが一つだけ貴様に言わねばならない…」
魔王「すまない…貴様を救えなくて…」
勇者「…気にするな。お前を救うと決めた時から覚悟していた…」
勇者「じゃあ…そろそろ殺すぞ」
魔王「ああ…」
勇者「心優しき魔王よ…もうお前は人々を苦しめなくていいんだ……安らかに眠れ」
グサッ
___
__
_
数十年後…
勇者(魔王よ…民が自分達の過ちとお前の真意を理解するのに時間が掛かってしまったが、今現在お前達は悪者ではなく英雄としてここで祀られているぞ)
勇者(そして真実を公にした事と平和条約のおかげで戦争も無くなり、世界は平和になった)
勇者(…いやまだだ。今はまだ見せ掛けの平和だ…)
勇者(本当の平和にする為に残された問題はあと一つ……)
勇者「…恐怖による支配を完全に終わらすこと」
騎士隊長「王様、そろそろ演説のお時間です」
勇者「ああ、分かった……なぁ騎士隊長、後で俺の剣をここに祀ってくれないか?」
騎士隊長「わかりました。ドラゴンの牙と魔王の角の間でいいですか?」
勇者「ああ、頼んだぞ」
勇者「それと……ありがとな。俺を怖がらずずっと傍に居てくれて」
騎士隊長「何を仰るのですか、そんなの当たり前ですよ」
勇者(当たり前じゃない…俺を怖がらずに傍に居てくれたのは亡くなった父と騎士隊長ぐらいだ)
勇者(王国の民も、慕ってくれていた騎士達でさえ俺が手を上げるだけで怯える…他の国の人々なんて俺を一目見ただけで体を震わす)
勇者(魔王よ…お前は本当に凄い奴だ。愛する者達から嫌われ、愛する者達を怯えさせる事がここまで辛いとは思わなかった)
勇者(それに今までこの手で殺してきた魔物達の顔も未だ忘れられない。毎日夢に出てくる……なぁ、お前も同じだったのか?)
勇者(お前はこんな環境で五百年も過ごしてきたんだな…俺は数十年でギブアップさ)
騎士隊長「では王様、扉を開けます。準備はいいですか?」
勇者「いや…最後ぐらい自分で開けるよ」
騎士隊長「最後?」
勇者「……さて、そろそろ行ってくるよ魔王」スタスタ
勇者「最後の悪者を退治しに…」ガチャ…
Fin
ssなので大分端折って短めに終わらせた
では
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