料理人「食べられない料理を作れだと……?」(136)

<スタジオ>

ワアァァァァァ……!

司会『さぁ、両者いよいよ調理が終わったもようです!』

司会『ではまず、コック選手の料理から審査員に試食していただきましょう!』

コック「はい!」

コック「私の料理は、最高級牛肉を使用したサーロインステーキです!」

コック「熱いですので、気をつけてお召し上がり下さい!」

ジュウウウウ……

司会『これでもかといわんばかりにあふれ出す肉汁が、食欲をそそります!』

司会『それでは五人の審査員の皆さん、試食をどうぞ!』

ベジタリアン「アタシ、菜食主義者だから肉は食べないの」

動物好き「牛さんが可哀想……」シクシク

デブ「収録前にカップ麺五杯も食べちゃって、腹一杯なんだよな~」

老人「わしゃ入れ歯じゃから、ステーキはキツイのう」

評論家「熱いッ! 舌をヤケドしてしまったわ! バッカモーンッ!」

司会『う~ん、これは厳しい意見が相次いでおりますが……?』

司会『では採点をどうぞっ!』

ベジタリアン:0点

動物好き:0点

デブ:3点

老人:1点

評論家:2点

合計:6点

司会『あ~~~っと、これは得点が伸びませんでした!』

司会『コック選手もがっくり肩を落としています!』

司会『では続いて、料理人選手の試食に移りましょう!』

司会『料理人選手、どうぞ!』

料理人「はい」

料理人「大豆のしぼり汁を固めた食品に、ネギとショウガとカツオ節をトッピングし」

料理人「醤油を少々垂らしたものです」

料理人「どうぞ、お召し上がり下さい」

司会『美しい白い直方体が、涼しげな印象を与えます!』

司会『五人の審査員の皆さん、試食をお願いします!』

ベジタリアン「サッパリしてて美味しいわ~!」モグモグ

動物好き「各食材が絶妙なハーモニーをかもし出していますね」パクパク

デブ「カップ麺とステーキで脂っこくなった、ボクのお腹には最適だね!」ムシャムシャ

老人「これなら入れ歯でも食べられるわい!」モソモソ

評論家「ふむ……見事だ!」モグッ

司会『なんと、審査員全員が絶賛しております!』

司会『これは高得点が期待できそうです! では採点をどうぞ!』

ベジタリアン:10点

動物好き:10点

デブ:10点

老人:10点

評論家:10点

合計:50点

司会『なんとぉ~これは驚きです! 当番組でもめったに出ない満点が出ました!』

司会『これは素晴らしい! まさにパーフェクトです!』

司会『料理人選手、圧勝~!』

司会『ではさっそく、勝利者インタビューです!』

司会『50対6という大差での勝利でしたが、勝因はいったいなんでしょうか?』

料理人「そうですね」

料理人「美味しいものを作る……というのはもちろんですが」

料理人「やはり食べる人がどんな料理を欲しているかを読み取る、ということですかね」

司会『なるほど~!』

司会『さて、今夜の料理バトルはこれにて終了です!』

司会『また来週も、ぜひご覧下さい!』

司会『テレビの前の皆さま、さようなら~!』

<控え室>

コック「──くそっ!」ガンッ

コック「俺のステーキが、冷ややっこなんかに負けるだなんて……!」

料理人「なにひがんでやがんだよ、三流」ザッ

コック「俺が……三流だとぉ!?」

料理人「三流どころじゃねえな……プロ失格だ」

料理人「どんなに高級な食材を使ったところで、高度な技術を使ったところで」

料理人「食べる人間のことを考えてねえ時点で、お前はただの料理好き……」

料理人「アマチュアなんだよ」

料理人「モノに八つ当たりするヒマがあったら、皿洗いから出直してこい」

コック「ぐうぅ……っ!」ガクッ

料理人(俺の名は料理人……)

料理人(両親ともにプロの料理人で、まさに料理のために生まれてきたサラブレッドだ)

料理人(幼い頃から和洋中、古今東西の料理の技術を叩き込まれ……)

料理人(いや、むしろ自ら進んで学び、その全てを吸収していった)

料理人(高校卒業後、ある店に就職し、数年で腕を認められてすぐさま独立)

料理人(俺のレストランは毎日大繁盛だ)

料理人(さらには数々のライバルとの料理バトルやコンテストを制し──)

料理人(今では若手ナンバーワンと呼ばれている)

料理人(俺としてはベテランにも劣ってない自信があるけどな)

料理人(……だけど)

料理人(これから話す一件……これはさすがの俺も骨が折れたよ)

<レストラン>

ジュワァ~ッ! タンタンタン……! ドタバタ……!

「これ出来上がりましたぁ~!」

「バカ、なにやってんだ!」

「オッケーでーっす!」

「まだ肉焼けてねえのか!?」

「うん、いい味だ」

料理人(ふう……今日も大忙しだ)

料理人(こないだの料理バトルで勝利したことで、また客が増えたようだ)

料理人(おかげで休む暇もないが、贅沢な悩みってやつなんだろうな)

料理人「今日一日ご苦労だった!」

料理人「明日も今日と同じぐらいの客入りが予想されるが」

料理人「美味しい料理を提供できるよう、頑張ってくれ!」

料理人「どんな時も最高を提供する、これがプロの条件だからな!」

「はいっ!」 「はいっ!」 「はいっ!」 「はいっ!」 「はいっ!」

料理人「──よし、解散!」

料理人(あ~……疲れた)

料理人(俺も明日のスケジュールまとめたら、帰るとするか……)

<レストラン出口>

料理人「……ん?」

黒服「こんばんは」

料理人「なんだ、アンタ?」

黒服「私はある美食家の使いとして、やって参りました」

料理人「美食家? 俺にいったい何の用だ?」

黒服「むろん、あなたに美食家様のための料理を作っていただくためです」

料理人「ふうん……」

料理人「ずいぶん非常識な来客だが、料理を作って欲しいといわれたら」

料理人「プロとして門前払いにするわけにはいかねえな」

料理人「ま、ここじゃなんだし、中に入ってくれよ」

<レストラン>

黒服「ところで先日の料理バトル、おみごとでした」

黒服「まさか冷ややっこでステーキに勝利してしまうとは……」

料理人「あんなもん、どうってことねえよ」

料理人「水10リットルとロマネコンティ一杯、日本じゃ水のが断然安いが」

料理人「砂漠で遭難した奴がどっちを欲しがるかなんて聞くまでもねえだろ?」

料理人「食いたいもん飲みたいもんなんて、時と場所と状況でいくらでも変わる」

料理人「メニューに貴賎なし、これが俺の信条だ!」

黒服「なるほど……やはりあなたはすばらしい料理人のようだ」

料理人「んで? 美食家さんとやらは、どんな料理を作って欲しいんだ?」

黒服「実は……」

黒服「食べられない料理を作って欲しいのです」

料理人「食べられない料理を作れだと……?」

黒服「はい、事情を説明しますと──」

料理人「断る」

黒服「!」

料理人「料理ってのは食うもんだ。食べられない料理なんか作るつもりはねえよ」

料理人「悪いが……帰ってくれ」

黒服「あなたのおっしゃることは分かりますが、まずは話を聞いて下さい」

黒服「それに、あなたが料理を作って下さるというのなら」

黒服「前金として、このトランクを中身ごと差し上げます」ゴトッ

カパッ……

料理人(トランクの中に……万札がぎっしり詰まってやがる!)

料理人(一千万……? いや二千万……いやもっとか!?)

黒服「いかがです?」

料理人「……気に入らねえな」

料理人「俺は金より大切なものがある、なんてうすら寒いこというつもりはねえが」

料理人「金を出せば、俺がなんでも作るって思ってるのが気に入らねえ」

料理人「帰ってくれ」

料理人「美食家とやらには、俺のメシが食いたいならこのレストランに来いと伝えな」

黒服「……逃げるのですか?」

料理人「なに?」ピクッ

黒服「実は、美食家様が依頼を出した料理人はあなただけではありません」

黒服「すでに日本国内でも有数の料理人──」

黒服「インド人、シェフ、板前の三名からは、すでに了承をもらっています」

料理人「な……あの三人が!?」

料理人(ナンバーワンカレー屋の店主に、超一流フレンチレストランのカリスマ)

料理人(超高級料亭の板長じゃねえか!)

黒服「美食家様は、今回の“食べられない料理”について」

黒服「あのテレビ番組のようなコンテスト形式で料理を作っていただくつもりです」

黒服「今の三人に加えて、あなた」

黒服「これほどの料理人が、一堂に会する機会などめったにあるものではない」

黒服「どうしますか……? 逃げるのですか……?」

料理人(たしかに……)

料理人(あの三人と戦えるチャンスなんて、めったにない……)

料理人(みんな、俺よりも料理人としての格は上だしな……)

料理人「…………」

料理人「分かった……俺も参加させてもらう」

料理人「“食べられない料理”を作る料理バトルにな!」

料理人「──で、最後にひとつ聞いておきたい」

料理人「なんだって、美食家は食べられない料理なんかを望むんだ?」

黒服「美食家様は、大食いなことに加え、好き嫌いが全くありません」

黒服「差し出されたものはなんでも食べ、なんでも飲み」

黒服「生まれてから今日まで、一度も料理を残したことがないというのです」

料理人「そりゃまた、料理を作る側にとっちゃありがたい人だな」

黒服「だからこそ、美食家様は望むのです」

黒服「この世に自分が食べられない料理はありはしないだろうか、と」

料理人「なるほどねぇ……分かったような分からんような」

料理人「それで、料理勝負はいつやるんだ?」

黒服「コンテストは、今日からちょうど一ヶ月後を予定しています」

黒服「詳しい場所やルールは、決まり次第連絡いたします」

黒服「器材はこちらで用意しますが、材料の調達はあなたにお任せしますので」

黒服「なにを作るか、一ヶ月間で考えておいて下さい」

料理人「分かった」

料理人「美食家には、初めての体験をさせてやるって伝えておいてくれ」

黒服「はい、伝えておきましょう」ニヤッ

<料理人の家>

料理人(……食べられない料理かぁ)

料理人(う~ん……)

料理人(いつもいつも、人に食べてもらうことばかり考えてたから)

料理人(考えたこともなかった……)

料理人(いや考える必要なんかないんだけどさ)

料理人(こうして一人で悩んでいても答えなんか出るわけないな)

料理人(明日、レストランの同僚たちにでも聞いてみるか……)

翌日──

<レストラン>

料理人「よう」

従業員A「おはようございます!」

料理人「お前ってさ、食べられない料理ってあるか?」

従業員A「食べられない料理、ですか?」

従業員A「そうですねぇ……実はニンジンが大の苦手なんですよ」

料理人「へえ、そうなのか。初耳だな」

従業員A「あ、でも──」

従業員A「料理人さんの料理に入っているニンジンはなぜか食べられるんですよね」

従業員A「これも腕前ってやつなんですかね」

料理人「ありがとよ」

料理人「ま、嫌いなものなんて味付け次第でどうにでもなるからな」

従業員B「高級料理ですね! あ、いや別に給料安いっていってるわけじゃ……!」



従業員C「ウチでも扱ってますが、貝類が苦手です。昔ひどい食あたりにあって……」



従業員D「イナゴですね。あれは無理でした」



従業員E「辛いものがダメなんで、激辛系は全く食べられませんねぇ」



従業員F「食べ物に好き嫌いはありませんが、下戸です」

料理人(みんな、案外食べられないものってあるんだな。知らなかったよ)

料理人(でもあんまり参考にはならなかったな……)

料理人(結局は食べられない料理っていったら、イコール嫌いな食べ物ってことだし)

料理人(美食家には好き嫌いがないみたいだしな)

料理人(高級料理は高くて手が出ない、ってのは面白い着眼点だったが)

料理人(一千万、二千万ポンポン出すヤツには無縁の話だろう)

料理人(食べられない料理か……難しいな)

料理人「う~ん……」

料理バトルまで残り半月──

<レストラン>

従業員A「料理人さん」

料理人「ん?」

従業員A「料理人さん宛に手紙が来てますよ」

料理人「手紙? おお、サンキュー」スッ

料理人「どれどれ」ガサッ…

料理人(これは……美食家の使いからの手紙だ)

この間お話しした件について、内容が正式決定したのでご報告いたします。

コンテストは、『料理バトル』番組内で行うことになりました。

すなわち、今回のバトルは全国ネットで放映され、しかも生放送です。

参加選手はインド人、シェフ、板前、料理人の四名。

テーマはもちろん『食べられない料理』

得点はなく、食べられない料理を作った人には賞金として一億円を差し上げます。



料理人「マジかよ……」

料理人「まさかテレビ番組でやることになるとは……」

料理人「いったい何者なんだよ、この美食家ってやつは」

<料理人の家>

料理人(金なんざどうでもいいが……)

料理人(バトルをする以上、他の連中には勝ちたい)

料理人(なにより美食家に、食べられない料理ってのを味わわせてやりたい)

料理人(食べさせちゃダメなのに、味わわせるってのも妙な話だけどさ)

料理人(なにかいいアイディアは……)

ガサガサ……

料理人「──ん?」

料理人(ゴキブリだ……そういやもう出てくる季節だな)

料理人「このっ! このっ!」バシッ バシッ

料理人「ちっ……」

料理人「!?」

料理人「──そうか、これだ!」

それから──

<レストラン>

従業員A「最近、やけに疲れてませんか? どこか体の具合が悪いんじゃ……」

料理人「あ~……大丈夫大丈夫、むしろ健康にはいいことやってるから」

従業員A「そうですか、ならいいんですけど……」



料理人「お前たしか有段者だったよな? ちょっと教えてもらえないか?」

友人「いいけど、なんでまた突然……」

料理人「料理に必要なんだ」

友人「へ?」



料理人「『サルでも分かるスポーツ栄養学』か……」

料理人「ちょっと読んでみるか」ペラ…



そして料理バトル当日──!

<スタジオ>

司会『皆さま、お待たせいたしました!』

司会『本日の料理バトルは……なんと放送時間を拡大しての生放送!』

司会『しかも、バトルを行う料理人は二人ではなく四人!』

司会『インド人、シェフ、板前、料理人!』

司会『いずれもジャンルはちがえど料理界を背負って立つ逸材です!』

司会『どんなバトルが展開されるか、私個人も非常に楽しみであります!』

ワアァァァァァ……!

司会『そして本日の審査員はたった一名!』

司会『私を満足させたら一億円!』

司会『日本に眠っていた油田を発見した男! ジャパニーズ石油王!』

司会『美食家だぁっ!』

美食家「どうも」

料理人(そんなにスゴイ人だったのか……知らなかった)

料理人(あんなテーマなのに、俺以外の三人がオファーを受けたのもうなずける)

料理人(しかも石油王とは、どうりで金持ちなわけだ)

料理人(俺、新聞は料理関係の記事しか読まないし)

料理人(ニュースも料理に関係ないのだとほとんど耳に入らないからな……)

司会『そして気になる本日のテーマはぁ~~~~~……』

司会『“食べられない料理”!!!』

司会『食べさせることが生業の四人が、生まれて初めて食べられない料理に挑む!』

司会『どんな結末が待つのか、予想がつきませんっ!』

司会『では各自持ち寄った食材を使って、調理を始めていただきましょう!』

司会『料理バトル、スタート!』

インド人「インドカレーの極意、見せてアゲマショー!」

シェフ「一流シェフの実力、思い知るがいい」

板前「てやんでえ! べらぼうめえ!」

料理人「よし……やるか!」

司会『さぁ、四人が一斉に調理に入った!』

司会『まずはインド人サイド!』

インド人「フンフ~ン」

司会『これは香辛料の強い香りがプンプンします!』

司会『米とカレーを作っているようですが……?』

司会『インド人選手はカレーライスで勝負するようです!』

インド人(なんたってワタシはカレー屋だからネ)

インド人(ただし、もちろんただのカレーじゃないヨ……)ニヤッ

司会『続いてシェフサイド!』

シェフ「…………」

司会『インド人選手とは対照的に、無言で淡々と調理しております!』

司会『鍋に次々に見慣れぬ食材を放り込み、煮ております!』

司会『これは……スープでしょうか!?』

司会『しかしながら白衣にマスクと手袋をつけたシェフの姿は』

司会『なんとなく調理というより、化学の実験を思い起こさせます!』

シェフ「ふっ……これは絶対に食べられん」

司会『さぁ~て、こちらは板前サイド!』

司会『これは……漬物のいい匂いがしますねえ』

板前「てやんでえ!」

板前「ウチの料亭は漬物も自前だからなあ!」

板前「シャキシャキとした歯応えと、サッパリとした後味がウリだぜい!」

司会『板前選手はやはり日本料理、今回は漬物で勝負するようです!』

司会『いやはや、匂いを嗅いでいたらヨダレが出てまいりました!』

司会『さぁ~て、お次は──』

司会『料理人サイド!』

司会『たくさんの果物をミキサーにかけ……ジュースを作っているのでしょうか?』

司会『非常に甘酸っぱいいい匂いがします!』

司会『しかし……これが本当に食べられない料理なのか!?』

料理人(さてと、これだけじゃ司会者のいうとおりただのジュースだからな)

料理人(味付けを始めるか)

───
──


料理人『タイムアァ~ップ! そこまで!』

料理人『各自、調理を終了して下さい!』

司会『さて、まずはインド人選手から料理を出していただきましょう!』

インド人「ハイ」ニヤッ

司会『これはオーソドックスなカレーライス……』

司会『──ではない!』

司会『米に見えるのはウジムシ! カレーに見えるのは……なんと大便だぁっ!』

ワアァァァァァ……!

インド人「そうデ~ス」ニヤッ

インド人「この日のために色んなところからかき集めてきまシタ~」

インド人「大量の香辛料は、あくまでこのカレーの匂いを封じ込めるタメ……」

インド人「味付けには一切使用していまセ~ン」

インド人「さぁ、このカレー、食べられるもんなら食ってみなサーイ!」

美食家「では……」ムシャムシャ

インド人「エ」

美食家「うん、うまい!」ムシャムシャ

美食家「これはイケる!」ムシャムシャ

インド人「~~~~~~~~~~!」

司会『なんと美食家、このカレーライス(?)をあっという間に平らげてしまったぁ!』

ワアァァァァァ……!

美食家「美味しかったですが……これでは賞金は差し上げられません」

美食家「ウジに大便……幼稚園の頃にはすでに食べていましたからねえ」

インド人「ウゥッ……」ガクッ

司会『残念っ! インド人は美食家に食べられてしまったぁっ!』

司会『続いて、シェフの料理!』

司会『やはり作っていたのは、スープのようです!』

司会『シェフ、このどす黒いスープはいったい……!?』

シェフ「テドロドトキシン、シアン化カリウム(青酸カリ)、クラーレ、ニコチン」

シェフ「硫酸、塩酸、硝酸、水銀、ヒ素、アコニチン、硫化水素、サリン、トルエン」

シェフ「ワライタケ、チョウセンアサガオ、トリカブト、カエンタケ、ドクツルタケ」

シェフ「──の混合スープだ」

司会『毒物、劇薬まみれのスープだぁ~~~~~っ!』

司会『これは食べられないというか、食べたらまちがいなく死ぬでしょう!』

美食家「う~ん、たまらん」ジュルル…

司会『!?』

シェフ「!?」

美食家「この世の毒物という毒物はみんないただきましたよ」

美食家「廃水を工場から買い取って、飲むこともあるぐらいです」

美食家「もちろん、健康診断では異常ありませんし」

美食家「食べた毒は体内で完全浄化してしまうので、体外に出ることはありません」

美食家「ちなみに油田探しを始めたのも、きっかけは原油を飲みたかったからです」

美食家「しかしさすがはシェフ、混合の仕方がやはりプロですなあ……」ジュルル…

美食家「──ごちそうさまでした!」

司会『猛毒スープがあっという間に鍋ごと空になったぁ!』

シェフ「人間じゃない……」

司会『シェフもまた、美食家に食べられてしまったぁっ!』

ワアァァァァァ……!

司会『三番手は板前選手だ!』

板前「てやんでえ!」

板前「ウチの料亭の伝統、食えるもんなら、食ってみろい!」

ドンッ!

司会『これは……漬物石!?』

司会『板前選手、てっきり漬物を出すかと思いきや、なんと漬物石を出してきたぁっ!』

板前「ウチは江戸時代から、ずっとこれで漬物を漬けてきたんでえ!」

板前「さあ食えるもんなら食ってみろい!」

司会『なるほど、どんなに汚いものや毒を食べられる人でも』

司会『こんなに大きい石は硬くて食べようがありませんからねえ』

司会『これが料理といえるかはともかく、板前選手、みごとな発想です!』

美食家「では……」ポリッ

司会『え』

美食家「ふむ……漬物の匂いが染みついてて美味しいですな」ボリボリ

美食家「やめられない、止まらない、というやつです」ボリボリ

司会『なんと美食家、漬物石をスナック菓子のようにボリボリ食っている!』

司会『いったいアンタの歯は何でできているんだ!?』

美食家「ふう……久々にいい石を食べました」

司会『わずか1分で完食だぁっ!』

板前「へっ……オイラの負けだぜい!」

ワアァァァァァ……!

司会『カレーライス、スープ、石……』

司会『これまでの料理は全て……食べられてしまいました!』

司会『果たして美食家は、“食べられない料理”に巡り合えるのでしょうか!?』

司会『さあ、最後の一人は料理人選手!』

司会『調理中はなにやら果物をミキサーにかけていましたが──』

料理人「みんな甘すぎます」

料理人「汚物は我慢すれば一般人でも食えるし、毒も死ぬ覚悟があれば食える」

料理人「石だって、歯が丈夫でなくとも砕いて砂にすれば俺でも飲み込めますしね」

料理人「真の食べられない料理とは──」

料理人「こういうものだっ!!!」

ダンッ!

司会『えぇっ!?』

司会『なんと料理人選手、いきなり美食家のいる机に乗ったぁっ!』

料理人「さぁ、食べて下さい」

料理人「食べられない料理とは、俺自身が料理になることだ!」

司会『なんと、我が身を差し出そうというのか!』

司会『これはまさしく禁断のカニバリズム! 果たして放送していいのかぁ!?』

美食家「…………」

美食家「悪いが、私は人肉食になんの抵抗もない」

美食家「遠慮なくいただくとしよう!」シュッ

料理人「おっと」サッ

美食家「む!」シュッ

料理人「よっと」ヒョイッ

司会『こ、これは……料理人選手、美食家のナイフやフォークをよけまくっている!』

美食家「ぬぅ~~~~~っ!」

美食家「待たんか!」ダッ

料理人「やだねっ!」ダッ

司会『スタジオ内で追いかけっこが始まったぁ~~~~~!』

ダダダッ!

美食家「ま、待て~~~~~っ!」ダダダッ

料理人「イヤだね!」ダダダッ

料理人(俺からすばやく逃げたゴキブリがヒントになった……)

料理人(このために、俺は今日まで早朝ジョギングを欠かさなかったんだ!)

料理人(おかげで仕事中に疲れが残ったりしたが、スタミナはだいぶついた!)

司会『なるほど~~~~~!』

司会『食べようとすると逃げる料理、たしかにこれは食べられません!』

ワアァァァァァ……!

美食家「ぬぅっ!」ガシィッ

司会『美食家、巧みなフェイントでついに料理人選手を捕まえました!』

料理人「どりゃっ!」ブオンッ

美食家「うわぁっ!?」ドサッ

司会『料理人選手の背負い投げが決まったぁっ!』

ワアァァァァァ……!

料理人「この日のために、友人から柔道を習っていたからな!」

料理人「追いかけっこでも接近戦でも、負けねえよ!」

司会『これはすごい!』

インド人「ぐむむ……こんな手があったとはネ」

シェフ「悔しいが、完敗だ……!」

板前「こりゃあ、オイラも一本取られたぜい!」

美食家(追いかけても、追いかけても、捕まらない……)

美食家(これが……なんでも食べられる私が長年追い求めていた料理──)

美食家(食べられない料理なのか!)

美食家(ああ、なんて楽しいんだろう!)

美食家「待っておくれよ~」タッタッタ…

料理人「やだよ~」タッタッタ…

司会『楽しそうです! 二人とも、見ている人間がうらやましくなるほど楽しそうだ!』

司会『まるで、砂浜を走り回る恋人同士のようです!』

司会『できることなら、私もあの二人に混ざってみたい!』

一時間後──

美食家「ぐっ……」ガクッ

美食家「もう走れない……。私の……負けだ……」ハァハァ

美食家「私に君を……君の料理を食べることはできなかった……」ハァハァ

美食家「しかし悔しさはない……本当に嬉しい……」ハァハァ

美食家「君は、私の夢を叶えてくれた……」ハァハァ

美食家「約束通り、賞金は君のものだ!」ハァハァ

料理人「ありがとうございます」

料理人「しかしその前に、俺からあなたにプレゼントがあります」

美食家「え……これ以上なにをプレゼントしてくれるというのだね?」ハァハァ

料理人「これです」ス…

美食家「これは……ドリンクかね!?」ハァハァ

料理人「はい」

料理人「栄養学を勉強して、美味しく栄養補給ができるスポーツドリンクを作りました」

料理人「調理時間中はずっとこれを作っていたのです。ぜひ飲んでみて下さい」

美食家「うむ」ゴクゴク…

美食家「うんまぁ~~~~~~~~~~いっ!!!」

美食家「何種ものフルーツの味が絶妙にミックスされ」

美食家「体の中に染み込むように入ってくる!」

美食家「一時間走り回ったのがウソのように、疲れが取れた!」シャキーン

美食家「これぞまさに次世代のスポーツドリンク!」

司会『おっとそろそろ放送時間終了です!』

司会『視聴者の皆さまも、運動をする時は栄養補給と水分補給を忘れずに!』



<おわり>

某漫画を読み、トンデモ料理バトルを書きたくなりました

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