春香「プロデューサーさん? えーっと、今日は朝から営業で、その後はレッスンを一回り見てから戻るって言ってた気が……」
千早「違うの、そういうことではなくて」
春香「うん?」
千早「以前のように、私のことを心配してくれて何かと声をかけてくれたり」
千早「私生活のことも気にかけてくれて、色々話を聞いてくれたり」
千早「私だけを気にしてくれて、私だけに構ってくれて、私だけを見てくれる」
千早「そんな昔のプロデューサーは、どこに行ってしまったのかしら」
春香(どうしようこれ、めんどくさそうなパターンだなぁ)
春香「えっとね、千早ちゃん?」
千早「なに?」
春香「うーんと……プロデューサーさんは、みんなのことを平等に見てくれてるよね?」
千早「そうね、寂しいわ」
春香「でもプロデューサーさんは、誰か一人を優遇して、他の子を疎かにするような人じゃないと思うんだ」
千早「……」
春香「みんなのことを平等に見てくれて、誰か一人だけを特別扱いするような人じゃないから」
春香「そういう人だから、千早ちゃんが心を開いたんじゃないかなぁ」
千早「…………」
春香「ご、ごめんね? 私なんかが知ったような口を聞いちゃって」
千早「ううん、いいのよ春香。なんだか、心がすっきりした気分」
春香「そ……そうかな、それならいいんだけど」
千早「ええ、ありがとう春香」
春香「ううん、気にしなくていいよ!」
千早「それで、話は変わるのだけど」
春香「うん」
千早「プロデューサーが私だけを特別扱いしてくれるには、どうすればいいと思う?」
春香「千早ちゃん、私の話聞いてた?」
千早「?」 キョトン
春香「そこまで不思議そうな顔をされると、私の話し方に問題があったような気がしてくるよ」
千早「どうしたの? 春香」
春香「ううん、なんでもない……それより、千早ちゃんの話だけど」
千早「やっぱり前のように、また歌えなくなったりすればいいのかしら」
春香「やめよう! 感動のエピソードを仕込だったように言うのやめよう! ね!?」
千早「でもそうすれば、プロデューサーの視線は独り占めよね?」
春香「どうしよう、千早ちゃんの目からハイライトさんがいなくなってる」
千早「難しいわね」
春香(めんどくさいなぁ)
千早「後は事故に遭うか、961プロの妨害を受けるかくらいしか無いわ」
春香「体張るところがおかしいよ! もっと穏便にいこうよ!」
千早「……どうしたら……」 ブツブツ
春香(本格的に目が危なくなってるなぁ……)
春香「ね、ねえ、千早ちゃん?」
千早「なに?」
春香「えーっと……特別扱いって、具体的にはどうなりたいのかな?」
千早「良い質問ね」
春香(褒められても嬉しくないなぁ)
千早「特別扱いといっても、別に私は他のアイドルより上位に立ちたいわけではないわ」
春香「そ、そうなんだ」
千早「もちろんよ、私のために誰かに冷たくするプロデューサーなんて、見たくないもの」
春香「プロデューサーさんも、そのアイドルも傷つくから?」
千早「そうね」
春香(良かった、まだ良心は残ってるんだね)
千早「それで、具体的には」
春香「うんうん」
千早「まずは朝、事務所に来たら『おはよう』の挨拶と一緒に頭を撫でられたいわ」
千早「そして収録が終わったら、『今日も上出来だったぞ』と褒められながら頭を撫でてもらって」
千早「レッスンが終われば、『千早はいつも熱心だなぁ』と言われて頭を撫でてもらって」
千早「帰るときには、『今日も一日ご苦労さん』と労われながら頭を撫でてもらうの」
千早「まとめると、とにかく事あるごとに頭を撫でてもらいたいわ」
春香「砂糖吐きそう」
千早「さあ春香、何か良い案はあるかしら」 ニコニコ
春香「すごく良い笑顔だね、ハイライトが戻ってくれば完璧なのに」
千早「完璧で思い出したのだけれど、最近プロデューサーと我那覇さん、仲がいいのよね」
春香「ああ、そういえばプロデューサーさんが『響は猪突猛進のわりにナイーブなところもあるから心配だ』って言ってたよ」
千早「そうなの、自分わかったぞ!」
春香「千早ちゃん」
千早「はいさーい、なんくるないさー」
春香「千早ちゃん」
千早「はい」
春香「千早ちゃんは、どうして私の話を聞いてくれないのかな」
千早「聞いてるわよ?……あ、聞いてるぞ」
春香「だからね、口調だけ真似ても駄目だと思うんだ」
千早「そう……あ、春香、リボン貸してもらってもいいかしら?」
春香「どうせポニーテールにするんでしょ?」
千早「どうしてわかったの?」
春香「わかるよ! だからそういうことじゃないんだってば!」
千早「……そうね、ヘアゴムじゃないと」
春香「そっちじゃないよ!」
千早「それなら、私も動物と話せる設定を……」
春香「設定とか言わないであげて!」
千早「じゃあもう無いわね、どうすればいいのかしら」
春香「ねえ千早ちゃん、響と普通に話してたよね? 別に仲が悪いわけじゃないよね?」
千早「もちろんよ、仲良くやっているわ」
春香「遠まわしにけなしてるように聞こえたのは私の気のせいだったんだね、良かった」
千早「はぁ、プロデューサー……」
春香「物憂げに溜め息をつく千早ちゃんもすごく素敵なんだけど、なんで方向性がぶっ飛んじゃったのかなぁ」
千早「後は、そうね……プロデューサーは最近、高槻さんの家に招待されたらしいわ」
春香「ああ、もやし祭りだね」
千早「うっうー、そうなんですよぉ!」
春香「千早ちゃん」
千早「プロデューサーも一緒なので、今日はもやしカーニバルですー!」 ウッウー
春香「千早ちゃん、ぴょんぴょん飛び跳ねるのやめて」
千早「これはちょっと恥ずかしいわね」
春香「なんでもう少し早く気づいてくれなかったのかな」
千早「でも、すっごく可愛らしい高槻さんを見習えば」
春香「見習うのとは少し違うような気がするけど」
千早「プロデューサーも、私の新しい一面に釘付けになるんじゃないかしら?」
春香「違う意味で目が離せないかもしれないね」
千早「うっうー、なんだか楽しみかも!」
ガチャ
やよい「おはようございまーっす!」 ガルーン
千早「うっうー!」
やよい「えっ」
千早「えっ」
春香「あー」
やよい「…………」
千早「……高槻さん、これはね」
春香「千早ちゃん、私もフォローしたいけど言葉が見つからないよ」
やよい「うっうー! 今日の千早さん、元気いっぱいですね!」
千早「えっ」
春香「あれっ」
やよい「なんだか不思議だけど、千早さんもうっうー! って言ってくれて、なんだか嬉しいかもー!」
千早「なるほど」
春香「天使だね」
やよい「それじゃあ千早さん、いきますよー!」
千早「え、ええ」
やよい・千早「はいたーっち!」 ペチン
やよい「いぇい!」 ニコニコ
千早「なんだか心が洗われる気分だわ」
春香「あっ、千早ちゃんの目にハイライトが戻りつつある!」
やよい「それじゃあ私、小鳥さんの買出しのお手伝いに行ってきますね!」
千早「ええ、気をつけてね。ありがとう」
春香「本当にありがとう」
やよい「えへへ、それじゃあ行ってきまーす!」 ガルーン
バタン
千早「素晴らしいひと時だったわ」
春香「たぶん、なんでお礼を言われたのかもわかってないだろうね」
千早「そんな高槻さんも可愛いからいいのよ」
春香「そ、そう……」
千早「高槻さんのように、周りに元気を与えられるアイドルは素晴らしいわね」
春香(この調子で、さっきまでの話を忘れてくれないかなぁ)
千早「そうすればプロデューサーも、『お、今日の千早は元気いっぱいだな!』って……ふふふっ」
春香「あー駄目かぁ」
千早「でもそうね、他のアイドルを参考にするのは良いアイデアだと思わない?」
春香「うん、私の胃にダメージを蓄積させるにはもってこいだね」
千早「それじゃあまずは……穴を掘るわね」
春香「うん」
千早「そしてそこに埋まって、とにかく良く寝るの」
春香「うんうん」
千早「起きたら穴から出て、『キャッピピピーン! べっ、別にあんたのために迷子になったわけじゃないんだからね!らぁめんを食べに行きましょう!』」
春香「千早ちゃん、もしかして765プロのみんなと仲が悪いの?」
千早「何を言ってるの春香、みんなとは仲良くやってるわ」
春香「仲が良い人達を参考にしたわりには、結構な勢いで謝罪しなきゃいけない出来だったよ?」
千早「やっぱり眼鏡もかけた方が良かったかしら?」
春香「千早ちゃんの中のみんなのイメージってどうなってるの?」
千早「眼鏡をかけつつ……右に短めの、左に長めのサイドテール」
春香「それは、すっごくアンバランスなツインテールだよ」
千早「そして後ろには」
春香「ああ、響の。うん、もう何テールかわかんないね」
千早「うーん、難しいわね……」
春香「ところで、千早ちゃん?」
千早「何かしら」
春香「さっきから、みんなの特徴を参考にしてるみたいだけどさ」
千早「ええ」
春香「私は?」
千早「…………」
春香「…………」
千早「あっ……転ぶわ。リボンもつけて」
春香「親友だと思ってたのは私だけだったのかなぁ」
千早「私たち、親友でしょ?」
春香「そうだよね! 仮に千早ちゃんが私の特徴をリボンと転ぶことだけだと思ってても、私たち親友だよね!」
千早「それで、他の案なんだけれど」
春香「あー話進んじゃうんだ! フォローとか弁解とか無いんだ! びっくりした! ちょっとびっくりしたよ!」
千早「ふふっ、なんだか元気いっぱいね。高槻さんを参考にしたの?」
春香「だめだめ落ち着こう私、なんだかこめかみのあたりがピクピクしてるけど落ち着こう」
千早「そうね……そういえば、ちょっと思いついたのだけど」
春香「な、何かな?」
千早「プロデューサーに、『褒めてください』と頼めば撫でてくれるんじゃないかしら」
春香「それが出来るなら最初からしてよ!」
・
・
・
P「ただいま戻りましたー……って、もうこんな時間かぁ」
千早「おかえりなさい、プロデューサー」
P「おわっ!? あ、ああ、千早か……お疲れさん」
千早「ずいぶん遅かったんですね、もう外は真っ暗ですよ?」
P「ああ、ついでに事務所の中も真っ暗だったから俺はびっくりしたわけだけどな?」
千早「それで、あの……プロデューサー?」
P「ああ、なんだ?……っと、その前に荷物だけ置かせてもらえるかな」
千早「は、はいっ」
P「悪いな……ふぅ、よいしょっと」 ドサッ
千早「……プロデューサー、お疲れですか?」
P「ん? ああ、アイドルのみんなに比べりゃ軽いもんだよ」
千早「そんな、プロデューサーだって……」
P「俺はただ年なだけだな。それで、話ってなんだ?」
千早「…………」
P「なんだ、言いにくいことか?」
千早(こんな、疲れてるプロデューサーに……褒めてなんて、言っていいのかしら)
P「まあ、ゆっくりでもいいぞ。お茶でも淹れてこようか」
千早「! い、いえ、私が淹れてきます!」
P「いやいや、気にしなくていいんだぞ?」
千早「いいですから、プロデューサーは座っていてください!」
P「は、はい」
千早「えっと……お湯を沸かす、カップを温める、お茶の葉を入れる……」 ブツブツ
バタン
P「な、なんだか今日の千早は目が輝いてるなぁ……ギラギラと」
・
・
・
千早「…………」
P「なあ、千早」
千早「はい」
P「どうして俺は、千早の淹れてくれたお茶を飲みながら」
千早「美味しいですか?」
P「あ、ああ、美味しいよ。うん」
千早「……よかった」
P「それで、その千早のお茶を飲みながら」
千早「はい」
P「どうして千早に肩を揉んでもらってるんだろう?」
千早「プロデューサー、お疲れのようでしたから」
P「いや、疲れてるけど……でも、さすがにまずいだろ」
千早「まずい?」
P「いや、お茶はさ? よく雪歩も淹れてくれるし、春香からはお菓子を貰ったりするし」
千早「……ああ、そういう特徴もあったわね」 ボソッ
P「何か言ったか?」
千早「いえ何も。それで、何ですか?」
P「ああ、だからお茶はありがたいくらいなんだけど……これは、ちょっとなぁ」
千早「これ?」
P「アイドルに肩を揉ませるプロデューサーって、さすがに問題じゃないか?」
千早「問題ありません。揉ませてるわけではありませんから」
P「……いや、第三者から見た話で」
千早「私が肩を揉ませてくださいとお願いしたんです。何の問題もありませんよ」
P「ははっ、最近はなんだか大人しくなったなーと思ったけど……変なところで強情なのは変わってないなぁ」
千早「……ふふっ」
P「なんだ、何かおかしかったか?」
千早「いえ……プロデューサー、よく見ているなぁ、って」
P「それはまあ、プロデューサーだからな」
千早「ずっと、見ていてくださったんですよね?」
P「ははっ、それじゃあ俺が千早を見てなかったみたいじゃないか」
千早「本当に……ええ、私って、強情で、バカだなぁって」
P「ん? 何か言ったか?」
千早「いえ、何も」
P「そっか……うん、だいぶ肩も楽になったよ。ありがとな」
千早「もうよろしいんですか?」
P「ああ。それより、千早の話って」
千早「それは……もういいんです。本当に」
P「そうか? まあ、千早がそう言うならいいけど……何かあったら、すぐに言えよ?」
千早「大丈夫です、自然に解決できそうですから」
P「よくわからんけど、そうなのか」
千早「はい」
P「それにしても、千早はすごいなぁ」
千早「え?」
P「レッスンは人一倍熱心で向上心もあるし、その上で収録もきっちりこなすし」
P「それで、こうして俺のことまで気遣ってくれるんだもんなぁ……本当、すごいよ」
P「うん、千早は頑張ってるなぁ……偉いな」 ナデナデ
千早「…………」
P「…………」 ナデナデ
千早「……夢、じゃないですよね?」
P「夢?」
千早「……私、お茶を淹れながら眠ってしまったりとか」
P「そんな器用なことできるのか」
千早「じゃ、じゃあ、春香から何か……」
P「春香? 今日は朝から会ってないけど、何かあったのか?」
千早「…………」
P「?」
千早「も、もういいです」
P「お、そうか?」 パッ
千早「!! あ、あの、もういいというのは、そっちではなくて」
P「おっと、悪い悪い」 ナデナデ
千早「……ふふふっ」
P「ん、どうした?」
千早「プロデューサーは、私のことをすごいと言いますけど」
千早「……本当にすごいのは、プロデューサーの方です」 ギュッ
終われ
どうしてこうなったかって?知らんな!
千早「あらあらー、らぁめんを食べに行こうと思ったら迷子になってしまったわー、面妖な」
春香「謝って!! 色んな人に謝って!!」
本当に終わり
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