胡桃「そーゆーのいーから愛の告白!」洋榎「あ……好きです……」(548)

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社会に出て、昔を思い出すことが増えた。

いつもは主に、楽しかった高3の夏を思い出す。

岩手を出て散り散りになった友人達を思い返し、ふとメールをしたりするのだ。



でも最近は、言うほど年数が経っていない、大学時代のことを思い出す。

それはきっと、今日結ばれる貴女と、一緒に過ごした時代だから。

出会ったのは高校生の時だけど、やっぱり大学時代の仲間という印象が拭えない。

だからきっと、貴女との思い出を、一つ一つ思い出すため、あの頃を懐かしむのだろう。



迫り来る結婚式の開始時間。

それまでの時間つぶしのように、貴女との思い出に思いを馳せる――――

胡桃「……」

胡桃(初回だけあって混んでるなあ……)

岩手の家を出て、大阪の大学へ進学した。

それなりに有名で偏差値の高いところだったし、何より結構麻雀部が強いことで有名だったから。

ハズレることはないだろうと思ってのことだ。

胡桃(……出席さえなかったら、来週には半分以下なんだろうけど)

だがしかし、現実は非情である。

授業中はさながらモンキーパークのような騒がしさだし、

麻雀部も飲み会のノリが肌に合わず、新歓コンパに行っただけで入部することをやめた。

結局前期は、学校と自宅を往復するだけの日々だった。

胡桃「……」

胡桃(ああ、もう、何で授業が始まったのにおしゃべりしてるの!)

胡桃(先生の声がよく聞こえないじゃん!)

胡桃(しかも初回で席いっぱいだからか、私が包囲されてるし!)

胡桃(ああ、もう、我慢出来ない!)

胡桃「五月蝿いそこ!!」

胡桃「聞く気がないなら外に出たら!?」

シーーーーーーン

ウワーナニアレウゼーwwwww

ヤメナヨーカワイソウジャーンwwwww

マジメーwwwwww

オコラレテヤンノーwwwww

オレジャネーヨ、アッチニイッテンダロwwwwwwwwwww

胡桃「…………」

ホーラジュギョウトマッチャッタwwwwwwwww

オイダレカDSノオトキレヨwwwwwwwシュールwwwwwwwwww

アーアノコシッテルワーイッツモヒトリデバスノッテルコーwwwwwww

ゴハンモヒトリデタベテルンジャネーwwwwwwwwwwww

ボッチッテヤツ?wwwwwwwwwwwwwwwwww

エーマサカデショーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

胡桃「……はぁ」

胡桃(どっと疲れた……)

胡桃(購買でパン買って、近くの公園で食べよう……)

胡桃(おトイレでご飯なんてする気ないし!)

胡桃(外で食べるの気持ちいいしね!)

ネーミテアレwwwwwwww

サッキキョウシツデサケンデタヤツジャンwwwwwwwwwwwwwwwwww

カシパンダケカヨwwwwwww

チッチャイカラジャネwwwwwwwwww

アレモッテトイレデモイクノカナwwwwwwwwwwwwwwwwww

胡桃「……」

胡桃(早く帰りたいな)

 
「おーい、そこのオチビ」

胡桃「……」 スタスタ

「おーい、そこのちまっこいアンタやアンタ」

胡桃(無視無視!) スタスタ

「え、何、自分じゃ小さいと思ってへんの?」

胡桃(相手にしたら負け!) スタスタスタスタ

「早歩き!? 自覚したうえで無視!?」

胡桃(わかったなら声かけなきゃいいのにっ) スタスタ

「あーもう待てて!」 ガシッ

胡桃「!?」

胡桃(手を掴まれた!? そこまでする!?)

胡桃(な、殴られたりとかはしないよねっ……大阪ってそこまで治安悪くないよね!?) アウアウ

「はっはっはー、捕まえたでー」

洋榎「久しぶりやな!!」

 
胡桃「……」

洋榎「……」

胡桃「……」

洋榎「あ、あれ? 反応薄ない?」

洋榎「ノーリアクションだと、ドヤっとる方も恥ずかしいねんけど」

胡桃「……」

胡桃「ああ!」

胡桃「インターハイでうるさかった人!!」

洋榎「あんだけ活躍してみせたんに記憶に残っとるんそれだけ!?」

胡桃「え、ていうか、この大学だったんだ……」

洋榎「それはこっちのセリフやでー」

洋榎「自分、岩手やったっけ」

胡桃「そうだけど。よく覚えてたね」

洋榎「ま、アンタと打つんの、なんだかんだで楽しかったからな」

洋榎「そら覚えとるわ!」

胡桃「そ、そう」

胡桃(……少し、嬉しいかな)

胡桃(最近、楽しく麻雀打ってなかったし)

しえん

 
洋榎「しっかし、さっきの授業見たでー!」

洋榎「めっちゃ言うやん」

洋榎「あいっかわらず注意とかしとるんやなー」 ケラケラ

胡桃「……」

洋榎「あれ?」

胡桃「……」

洋榎「も、もしかして、あんま言われんでほしかった?」

胡桃「……まあ、いい気分ではないかな」

胡桃「ていうか、茶化されていい気分になる人なんていないよね」

洋榎「す、すまん……そんなつもりじゃ……」 アセアセ

洋榎「ま、真面目で偉いやん思ったし……」 アセアセ

洋榎「ええと、だから……」 アセアセ

胡桃「……」

洋榎「……ごめん」

胡桃「……ん」

洋榎「あ、そ、そや!」

洋榎「折角再開したし、お詫びっちゅーことで、飯奢るで!」

胡桃「えっ」

胡桃「いいよそこまでしなくても」

胡桃「もうパン買っちゃったし」

洋榎「明日の朝にでも食べたらええやん」

洋榎「ほら、こっちこっち」

胡桃「ちょ、ちょっと!」

胡桃(ああ、もう、なんでこう、大阪の人って強引なんだろう)

胡桃(ちょっと苦手かも!)

 
洋榎「おーい」

洋榎「おっまたせー」 ヒラヒラ

セーラ「おーう」

胡桃「あれ、この人って……」

セーラ「あれ? 会ったことあったっけ?」

胡桃「ううん、でも知ってる!」

胡桃「千里山で大活躍だった中堅の!」

胡桃「いつか当たるかも、と思ってチェックしてたんだよ!」

セーラ「お、てことは同期か!」

洋榎「え、待って、なんで直接対決したウチよりセーラの方を覚えとるん」

 
セーラ「成績の差やでー」 ケラケラ

洋榎「なんでや! 学校単位でも個人でもあんま変わらんやろ!!」

胡桃「……単純に記憶から消したいプレイスタイルだったからかも」

洋榎「酷!!」

セーラ「はっはっは、自分おもろいなー」

セーラ「洋榎がおもろい知り合い見つけたっちゅーてたけど、ホンマやな!」

洋榎「せやろーさすがやろー」

胡桃(気持ち悪い!!)

 
セーラ「そーいや自分、学部なんなん?」

胡桃「え?」

セーラ「いや、授業で見かけたことないし、違う学部なんかなって」

胡桃「法学部だけど……」

洋榎「おお、法の番人!」

セーラ「ルールの守護者!」

洋榎「秩序の調律者!」

セーラ「法曹界のファンタジスタ!」

洋榎「愛と平和と勇気の支配者!」

胡桃「意味よくわからずに言ってるでしょ」

洋榎「まあなー。でもかっこいいわー」

セーラ「ようわからんけどかっこいいわー」

 
セーラ「げ、もうこんな時間やん」

洋榎「ああ、次授業?」

セーラ「あのおっさんの授業春も取っとったけど、毎回始業直後に出席取るからなあ」

胡桃「ふうん」 ジュース ズズー

洋榎「はっはっは、ウチはこの時間は空きやー」

洋榎「自分は?」

胡桃「私?」

胡桃「私も空きだけど……」 ズズー・・・ベコッ

洋榎「おお、ナイス!」

洋榎「ちょうど暇やってん。これで時間潰せるわ」

胡桃「まだ付き合うとは言ってないのに!」

洋榎「まあまあ、お菓子奢ったるから」

胡桃「……まあ、そこまで言うなら……」

胡桃(どうせ人の少ないベンチで音楽聞く予定しかなかったし、いっか)

洋榎「んで、振り返ったら恭子がマンホールで犬神家になっとってな」 ゲラゲラ

胡桃「……よくもまあ、そんなに爆笑する話ばっかりで1時間近く潰せるね」

洋榎「大阪人やからな!」

洋榎「それに、まだ爆笑させられとらんし、ウチもまだまだやで」

胡桃「まあ、そこまで気分が乗ってないし……」

洋榎「うーん、あん時みたいに生き生きして喋ってほしいんやけどなあ」

洋榎「やっぱり岩手の仲良しさんがおらんのがあかんのやろうか」

胡桃「……まあ、否定はしないけど」

洋榎「ウチじゃ代わりになろうにも、身長とか足りへんしなー」

胡桃「胸も全然足りてないけどね」

洋榎「アンタには言われたない」

 
洋榎「……そーいや、今晩開いてる?」

胡桃「へ?」

洋榎「いやん、デートのお・さ・そ・い」 はぁと

胡桃「気持ち悪い」

洋榎「躊躇0であっさりバッサリ!」 ガーン

洋榎「まあ冗談やけど」

胡桃「だと思った」

洋榎「あ、でも、今晩開いてたら遊んでほしいのはマジやで」

胡桃「へ?」

洋榎「再会を祝って、さっきのセーラと一緒にサンマでもしようや~」

 
胡桃「悪いけど、今日は先約があるから」

洋榎「ありゃ、そら残念」

洋榎「その約束相手入れて四人打ちとか」

胡桃「無理無理」

胡桃「御飯食べる約束だけだし、お互い明日1限だから長々夜を過ごすわけにもいかないし」

洋榎「あ、そいつもしかして同じ大学なん?」

洋榎「今呼んで紹介してや、友達増やしたいねん」

胡桃「うーん、今呼ぶのは無理かなあ」

胡桃「同じ大学だけど、別のキャンパスだし」

洋榎「あー……あの隔離キャンパス……てことは理系か……」

胡桃「うん。覚えてるか知らないけど、インターハイでウチの副将やってた塞って娘」

洋榎「ああ、あの怪盗キッドみたいなメガネの」

胡桃「他に何か言い方はなかったの……」

洋榎「アレ、なんて言うか知らんねん……」

洋榎「あー授業の時間迫っとるー行きたくないー!」

胡桃「もう、まじめに出ないと!」

胡桃「学費がもったいないでしょ!」

洋榎「ふっふっふ」

洋榎「ウチ、麻雀特待で入ったから、入学金かかっとらんねん!」

胡桃「えっ」

洋榎「オカンもいきなりプロ行って失敗するよか大学行って経験詰めばって言うとったしな!」

洋榎「セーラと二人で殴りこみに来てん」

洋榎「どや、すごいやろ!!」 フフン

胡桃「ああ、それで、(そんなに頭悪そうなのに)この大学にも入れたんだ」

洋榎「あ、あっれー!? 思ってたんと違う感じの目線向けられてる!?」

 
胡桃「あれ、でも麻雀部なら、別に私とこんなところにいなくてもいいんじゃない?」

洋榎「へ?」

胡桃「部室行けばいいじゃん」

胡桃「メンツもすぐ集まるでしょ」

洋榎「……」

胡桃「……」

洋榎「……」

胡桃「……あ、あれ? 何か悪いこと言った?」

 
洋榎「……いや、まあ、ハードルが上がりすぎてたっちゅーかなんちゅーか」

洋榎「姫松の大学版を求めたんが失敗だったっちゅーか」

洋榎「いやな、あんだけ変なのもおるとは思わへんやん」

洋榎「無駄に上下関係厳しい体育会系ノリで、イッキ強要とか定例コンパとかあるし」

洋榎「まあ、だから、その、なんや、ウチの肌には合わんなーって……」

胡桃「……え、もしかして辞めたの?」

洋榎「……夏の合宿にはちょろっと出たで!」

胡桃「ちょろっと?」

洋榎「色々アレな感じになったから抜けだして帰った」

胡桃「うわあ」

 
胡桃「まあ、でもわかるかも」

胡桃「私も新歓で入るの辞めたクチだし」

洋榎「え、マジで?」

洋榎「自分どこおったん?」

洋榎「全ッ然気付かんかったわ」

胡桃「入り口近くのお座敷だったよーな」

洋榎「えー、わっからへんなあ」

洋榎「どんな先輩おったかとか覚えとるー?」

胡桃「覚えてないよさすがに」

洋榎「何でもええから覚えとらんの?」

洋榎「ほら、フランケンみたいな先輩がいたとか、顎の尖った先輩がいたとか……」

胡桃「そんな人いたら忘れたくても忘れられないよっ!」

洋榎「まーじゃあわかるやろ、ウチらもその内フェードアウトやわ」

洋榎「何か色目がどーだの贔屓がどーだので面倒やしなあ」

胡桃「それは鬱陶しいねえ」

洋榎「文化部やったらサークル作り放題らしいけど、麻雀は色々難しいって聞いたから、どーしたもんかと」

胡桃「あ、聞いたんだ」

洋榎「まあな」

洋榎「セーラと新しい麻雀サークル作ろうしたけど、国民的競技のサークルがあんま好き勝手分裂するのはよくないんだと」

胡桃「あー」

洋榎「せやから、今ウチが麻雀打つには、自力で集まるしかないねん」

洋榎「恭子は頭ええから違う大学普通に行ってもうたし、由子は西を捨てて関東行ってもうたしなあ」

胡桃「……麻雀するのも楽じゃない、ねえ」

洋榎「ネット麻雀も楽しいけど、やっぱりウチはダベりながら生の牌を触りたいんや」

胡桃「トラッシュトークはごめんだけどね」

洋榎「まあそう言わんと」

 
胡桃「あ、もう授業始まってる!!」

洋榎「うわ、話し込んでて気付かんかったな」

胡桃「ごめん、もう行くね!」

洋榎「おう、がんばってー」 ヒラヒラ

胡桃「いやそっちも授業でしょ!?」

洋榎「ウチはトイレいってからいくわ~」

胡桃「のんき!」

洋榎「まあまあ」

胡桃「もう、知らないからね!」

胡桃「それじゃ! ごちそうさま!」 ドヒューン!

洋榎「がんばってや~」 ヒラヒラ

 
セーラ「あれ、入れ違い?」

洋榎「おかえりー」

セーラ「5限あるけど4限ないから暇やねんけど、二人共授業かあ」

洋榎「うーん、しゃあない、自主休講したるわ!」

セーラ「さすがに最初の授業は出といた方がええで」

セーラ「ケッコー課題出すかとか言ってくれるみたいやし」

洋榎「分かっちゃいるねんけどなあ」

セーラ「特に洋榎はサークル辞めるかもしれへんのやろー」

セーラ「過去問もらえなキツい言うでー」

洋榎「あーせやな……しゃーない、出るかあ」

洋榎「しっかし世知辛い世の中やなあ、サークル入っとらんと人脈作るんも一苦労とは」

セーラ「有名人すぎて声かけてもらえへんパターンの奴やしなあ。しかも洋榎のノリはドン引かれたらおしまいやし」 ケラケラ

洋榎「めげるわーマジめげまくるわー」

セーラ「大学は人脈作るもんやからしっかりって船Qも言うとったんやけどねぇ」

洋榎「まあ、麻雀野郎以外との人脈広がるかもって思うと、これもありっちゃありかもしれんやん?」

セーラ「そんな人脈出来てへんけどな!」

洋榎「ま、とりあえず久々会ったアイツとはこっから仲良うなりたいところやな」

セーラ「はは、そうやな」

セーラ「……ところでさっきのあの娘、名前何て言うん?」

洋榎「え?」

セーラ「え?」

洋榎「……」

セーラ「……まさか……」

洋榎「な、なんやったっけなあ」

セーラ「おぅふ……」

 
その晩、塞と食事をとりながら、再会したことを話した。

それで、暗かった大学生活に、色が付き始める。

塞「へえ、いいじゃん。あの愛宕さんと打てるなら、私も打ちたい」

胡桃「あ、興味示すんだ」

塞「まあね」

塞「理系キャンパスなのもあって、皆デジタル一辺倒だし」

塞「たまには勢いとか流れとか、そーいう非科学的な麻雀に溺れたいわ」

胡桃「麻雀出来てるだけ幸せじゃないかなあ」

塞「まーね」

塞「ちょっと遠いけど、私もそっち遊びに行こうかなあ」

胡桃「え?」

塞「私木曜日授業1限だけだし、午後からなら行けるかも」

胡桃「うーん……」

胡桃「ただ私メアドとか聞いてないから、また次いつ会うかわからないよ?」

胡桃(見つけても声かけるかわからないし、声かけられるかもわからないし)

そんなことを思って、一週間。

今日もパンを買おうかと思って購買に行くと、貴女は居た。

洋榎「おーい、いいんちょ」

胡桃「……誰?」

洋榎「それはいいんちょって呼称についてであって、ウチに対する言葉じゃないよな!?」

セーラ「いやー、自分の名前思い出されへんかってん」

セーラ「せやから、とりあえず委員長っぽいからそう呼んどくかーってこの前なってな!」

洋榎「五月蝿いクラスメートを一喝するトコなんてまさにいいんちょって感じやったで!」

セーラ「見た目的に小学校の学級委員長やな!」

胡桃「うるさいそこ!!」

洋榎「きゃーいいんちょが怒ったー!」

セーラ「帰りの会で怒られてまうー!」

胡桃「もう! 公衆の面前ではしゃがないの!」

洋榎「はーい」

 
胡桃「……結局このメンツで御飯なんだ」

洋榎「まあええやん、互いに一人は寂しいやろ」

胡桃「セーラさん?がいるじゃん」

セーラ「セーラでええよ」

洋榎「ウチは洋榎でええで!」

洋榎「もしくは気さくに浪速の美少女とでも呼んでや」

胡桃「んじゃあ改めてよろしく、セーラ、埴輪の微症状」

洋榎「なんでや!」

 
胡桃「とにかく……セーラいるなら、ぼっちじゃないじゃん」

洋榎「ああ、いや、セーラはそろそろサークルにも顔出さなアカンやろうし」

胡桃「あ、セーラは普通に麻雀サークル入ってるんだ?」

セーラ「ま、体育会ノリが嫌いってわけじゃないしな!」

洋榎「ちゅーわけで、この時間は、ウチに付き合ってもらうでー!」

胡桃「あー、もうっ」

胡桃「そのかわり、ジュースくらいおごってよねっ」

洋榎「任せとけー」

洋榎「実家ぐらし特待生の裕福さを見せたるわ!」

胡桃(気持ち悪い!!)

 
そんなこんなで、なぁなぁの内に、週に一度は一緒にお昼をするようになった。

別に断る理由はないし、それに――今だから認められるけど、すごく嬉しかったから。

毎週の楽しみになってきて、距離はどんどん縮まっていった。

もっとも、私にとっての貴女ほど、貴女にとっての私は大きな存在ではなかったのだろうと思うけど。

実際、貴女が私やセーラ以外の知らない人と談笑するのを何度か目撃している。

きっと貴女にとって、私は『大勢の仲間』の一人なのだろう。

それでも貴女と一緒にいるのは楽しくて。

明確に約束したわけでもないのに、毎週馬鹿みたいに律儀に会って。

そして、その短い時間だけの関係が終わりを迎える。

洋榎「なあ、来月、時間あわせて皆で麻雀でもせぇへん?」

貴女の言葉で、ただの昼休み一緒に食べる程度の仲から、プライベートで遊ぶ仲にまで発展した。

断る理由も見つからなくて、結局二つ返事でオーケーし、そして貴女のメールアドレスを手に入れた。

洋榎「どーもー」

塞「どうも、臼沢塞です」

セーラ「セーラやでー!」

洋榎「ウチのことは、いいんちょと全国でやっとるとこ見て知ってくれとるよな?」

洋榎「大阪の女神こと愛宕洋榎とはうちのことやで!」

胡桃「ごめんねこの人ちょっと頭おかしくて」

洋榎「ツッコミに1ミリも愛がないッ!」

塞「ていうか、委員長って?」

セーラ「あだ名みたいなもんやなー」

洋榎「ウチとセーラの間じゃそれが定着してもうてなあ」

塞「何でまた……」

胡桃「気にしないで、この人も1日に5分くらいはまともな時間があるんだけど」

洋榎「そこまで頭おかしないからね!?」

 
塞「それで、今日はどこで打つんです?」

洋榎「え?」

セーラ「ん?」

塞「え?」

洋榎「……」

セーラ「……」

塞「え、まさか決まってないんじゃ……」

洋榎「そんなん決まってるわけないやん」

セーラ「テキトーテキトー」

胡桃「うわあ、無計画でダメな大人だ!」

洋榎「あ、じゃあ、いいんちょの家とかええんちゃう」

胡桃「!?」

 
胡桃「掃除してないし!」

セーラ「気にせん気にせん」

洋榎「そうそう。茶だけ出してくれたらそれでええもん」

セーラ「お茶菓子は買ってくでー!」

胡桃「……まあ、メルティキッス買ってくれるなら」

洋榎「よっしゃ、こうたるわ!」

塞「……雀荘じゃダメなの?」

洋榎「……実は入ったことないからようわからんねん」

セーラ「部室でいつでも打てただけになあ」

洋榎「雀荘って未成年入れるん?」

塞「ああ、うん、確かに無知な人間ばかりで入るのはちょっと怖いかもね」

洋榎「自分らも、岩手に雀荘なんてないやろうし、ようわからんのと違う?」

塞「メルティキッスで鼻の穴塞いでやろうかしら」

 
胡桃「……勢いで我が家の前まで来たけど……」

セーラ「おー、なかなかの学生マンションっぷりやな」

洋榎「廊下長いなーミニ四駆走らせたなるわ」

胡桃「ホントに連れてきてよかったのかな……」

塞「ま、まあ、暴れそうなら止めるの手伝うわよ」

胡桃「あ、ちょっと片付けてくるから、ここで待ってて!」

洋榎「そんなん気にせんのに」

胡桃「いいから!!!」

セーラ「はーい」

塞「ちゃんと突撃しないようにこの人見とくから安心して」

胡桃「任せたよっ」

洋榎「えっウチだけピンポイント指名で見張られるん!?」

 
胡桃「どうぞー」

セーラ「ダチガクルデー」 タッタカター

洋榎「ヒャッハー一人暮らしのお部屋拝見や!」 タッタカター

胡桃「全力疾走!?」

塞「おお、相変わらず片付いてる」

胡桃「そんなことないよ」

胡桃「昨日のやりかけの勉強道具が出しっぱなしだったし」

洋榎「うへえ……」

洋榎「何か暴れるのが申し訳なくなるレベルの真面目っぷりやな」

胡桃「いや暴れないでってば」

洋榎「とりあえずやっとくか!」

セーラ「おう!」

胡桃「?」

洋榎「エロ本ないかなー」

胡桃「ないから! 引き出しあけないで!!」

塞「それは男同士でやるイベントなんじゃ……」

洋榎「買ってきたろうか?」

セーラ「せやなあ、いいんちょのナリじゃ売ってもらえへんやろうしなあ」

胡桃「し、失礼な!!」

胡桃「年齢確認書類を出せば売ってもらえるよ!」

洋榎「……」

セーラ「……」

塞「……」

洋榎「何で知って……」

胡桃「…………っ///!」 カオボンッ

 

セーラ「がーっ、2着かー!」

洋榎「敗北を知りたいわー!」 ケラケラ

胡桃「これに負けたってのが屈辱っ!」

塞「結局このメンツでもあんまりオカルトいないんだなあ……」

洋榎「そういえば……自分ら、金は賭けるん?」

セーラ「サークルじゃ、結構賭けとる先輩おるけど」

塞「一応私たちのは競技麻雀だし、賭けは遠慮したいかなあ」

胡桃「私も」

洋榎「おっけ」

洋榎「ほな、賭けるのは衣服の脱衣麻雀やな」

胡桃「!?」

塞「!?」

 
そして、明け方。

塞「何……やってんだろうね、私達……」

気付けば全員素っ裸で、途中から深夜テンションに任せて何もかもが有耶無耶なまま決まった追加ルールで一発芸などもし、

クタクタな身体で眠気と戦っていた。

洋榎「やめよか、セーラ寝とるし」

否。もう一人不戦敗していた。

いびきかいて寝てやがる。

胡桃「全裸で寝ないで服は着てよ……」

洋榎「お布団イエーーーーイ!」

胡桃「だから全裸はやめ……生股間を掛け布団に押し付けないでえええええ!!!」

 
気付けば、隔週くらいで集まって麻雀を打つようになっていて。

基本的に当日いきなり言われる、ということが多かった。

バイトをしておらず、国への借金でカツカツな生活をしている身としては、不定期な食料品の差し入れという名の場所代がありがたくて、

ついつい部屋にあげてしまうのであった。

胡桃「とまあ、こんな感じかなあ」

豊音「ちょー楽しそうだよー!」

1回生の頃の年末。

実家に帰省し、のんびりと過ごした。

主に、豊根と過ごしたように思う。

塞もよく遊んだが、塞は大阪でもちょくちょくと会ってるし。

相変わらずシロはだるそうであまり会えず、エイちゃんにいたっては、年末年始をニュージーランドの実家で過ごすようだった。

帰省が終わると、試験が来る。

さすがの貴女も、試験期間中には強引な自宅麻雀を勧めてこなかった。

洋榎「へえ、そんなに実家帰ってたん?」

それでも、食堂で共に勉強している合間に、雑談くらいはしていた。

例えば、年末年始に何してたかという話題。

そこから岩手の話になり、宮守の話になることもあった。

逆に、姫松や千里山の人の話になることもある。

知らない相手ではないけど、知っていると言うほどではない。

そんな不思議な人達の話を聞くのは、正直嫌いではなかった。

だけど、そういう話をしていると、皆頑張っているんだなと思わされて。

焦りが生まれ、もっと大学生として色々せねばと思わされた。

 
洋榎「ウチな、思ってん。人生麻雀だけやないって」

胡桃「悪いものでも食べた?」

洋榎「正気や!」

貴女が突然そんなことを言い出したのも、そういった焦りが原因だったのかもしれない。

兎にも角にも、麻雀バカであった貴女が、そんなことを言い始めた。

洋榎「そらウチは麻雀が大好きやし、上手い。将来プロ間違いなしや」

塞「躊躇0でそれを自ら言えるってすごいわ…・・尊敬はしないけど」

洋榎「でも、それだけじゃないと思うねん。ほら、プロ野球選手だって、野球が好きなのは当然として、他にも趣味持ってたりするやん」

塞「ああ、ラジコンとか釣りとか?」

洋榎「そうそう、そんなんや」

洋榎「そういう“他の趣味”もある方が、メリハリで来ていい気がするしな!」

洋榎「そんなわけで、折角の大学生活、いろんなことにチャレンジしてくでー!」

貴女は、そんなことを言っていた。

本気で何でもかんでも始めるだなんて、この時はまだ、信じてなかったはずである。

それは、なんだかんだ実現可能性を度外視してやりたいことを適当に挙げた後のことだった。

洋榎「そーいや長々実家帰っとったっちゅーけど、自分、バイトはせーへんの?」

唐突な話題変更。貴女にはよくあることなので、普通に答えた。

胡桃「そうだねー。岩手に帰ってもあんまりやることなかったし、今年はやるよ」

塞「私も。さすがに奨学金だけじゃ厳しくなってきたし」

それから、また、無茶なボケが飛び交うバイトトークになった。

『○○をしてみたい、楽しみたい』

冗談の中においても、その気持だけは冗談でない本気のものだ。

大分遅れて始まった“楽しい大学生活”の一部として、

まだ見ぬ世界を満喫したいと思っていた。

それこそが、大学生活なのだろうと思っていたので。

胡桃「でも、何でもいいかな。経験って大事だし」

塞「だね。それに、楽しそうだしね、どの仕事も」

セーラ「せやなあ。あとはコネがあればなあ。仕事したいけど探すのだるいわー」

洋榎「ああ、それやったら……」

ふと、思い出したように貴女が言った。

洋榎「いいバイト、あるで。時給いいし、色々楽しそうだし、しかも未知の仕事やで!」

胡桃「……詳しく聞いていいかな」

そして、生まれて初めてのバイト先が決まりそうになり、

学内でも学外でも、固定メンバーになりつつあるとはいえ遊ぶことに慣れてきた頃、

私達は、2回生へと進級した。

再開します

胡桃「それで、バイトの話は?」

2回生になって。

集まる頻度は、ちょっとだけ増えていた。

相変わらず学部が違うから授業は一人だったけど、

“空きの時間”を合わせることで、

短い時間ながら、よく一緒にいるようになった。

洋榎「あー、それな」

貴女が挙げた住所。

ちょっとだけ、この学校からも、そして私の下宿先からも遠かった。

洋榎「通えそうか?」

胡桃「うーん、私はなんとかいけそう」

胡桃「でも塞はちょっと遠すぎるかも」

洋榎「まあ、それでもええねん。どうせ一人募集するだけの予定やったし」

 
胡桃「それで、仕事の内容は?」

洋榎「カテキョーや。どや、大学生らしいやろ」

胡桃「あー……まあ、確かにそうだけど……」

洋榎「いいんちょ、頭いいしウチやセーラとちごうてちゃんとやれそうやん」

胡桃「うーん、でも、家庭教師って生徒との相性っていうよ?」

洋榎「それなら大丈夫やろ」

洋榎「恭子にどやされなれた漫はきっとドMやし、いいんちょとも相性良さそうや」

胡桃「ドMって……」

胡桃「ていうか、その名前、確か……」

洋榎「そ、ウチと同じ姫松代表でインハイ出てた奴や」

胡桃「あれ、でも、一個下じゃなかったっけ?」

洋榎「そうそう」

洋榎「いやー、この前見事に浪人決まったらしくてなー」 ケラケラ

洋榎「めっさ凹んでるし、教えたってや」

胡桃「思った以上にハードな生徒押し付けられた!!」

 
洋榎「いやー、漫ちゃんいい点数のときとそれ以外でめっさ差があるし」

洋榎「なんとかしたってや~」

胡桃「そりゃ、なんとかはしたいけど……」

胡桃「そこまで切羽詰まってるなら、プロの家庭教師に頼んだ方がいいんじゃ……」

洋榎「ええねん、どうせどこ頼んでもバイトの大学生が来るんやし」

洋榎「ウチらに直に頼めばマージンない分いいんちょの懐にたくさん入るし漫は安い支払いで済むしWIN-WINやろ」

胡桃「まあ、そうだけど」

洋榎「頼むって、アイツこの大学とかその周辺のレベルのとこ目指しとるし」

洋榎「一般入試でキッチリ志望学部に入ったいいんちょが適任やねん」

胡桃「しょうがないなあ……」

胡桃「でも絶対受からせられるって保証はないからねっ」

洋榎「おお、おおきにー!」

 
胡桃「でも浪人かあ」

胡桃「大変だよね、浪人すると」

洋榎「まーなぁ」

洋榎「1年間実質無職やからなぁ」

洋榎「ウチなら絶対無理やわ」

洋榎「予備校とかガッツリ通うと金めっさかかるらしいし」

洋榎「予備校通わないと集中力持たない奴も多いやろうし」

洋榎「浪人して成績落ちる奴までおる言うしなぁ」

洋榎「イバラの道やと思うで」

洋榎「それに多分就職だって――」

哩「…………」

胡桃「後輩を心配していっぱい言ってるんだろうけどそこまで!」

胡桃「哩ちゃんがすごい気落ちした顔してるから!」

 
セーラがサークルにも頻繁に顔を出すようになって、二人で駄弁ることが増えた。

最初は学校で駄弁ってたけど、だんだんと場所の確保が困難になり、

たまり場を探すようになった。

そこで、塞に聞いたのだ。

私の家に遊びに来るついでに、よくよるいい雰囲気の喫茶店はないか、と。

もしくはご飯の食べられる店。

塞は大学生になって、『大学生らしい趣味』としていい雰囲気の喫茶店で読書するようになったらしい。

確かに、ちょっとだけ絵になる。

あのメガネをかけてる姿を想像すると、限りなく老紳士な気もするけど。

……兎にも角にも、塞からこの店を紹介された。

お洒落で落ち着いた店ではないけど、大きな声で騒いでもいい雰囲気で、

ご飯が美味しくて、何より雀卓が置いてあるということで。

 
洋榎「ああ、そっか、バイトは浪人しながらここで働いとったんやっけ」

哩ちゃんは、そこで働いていた。

新道寺で活躍していたのもあって、すぐに分かった。

どうやら塞は常連としてよく話をしていたらしく、

塞の紹介と言った所、色々サービスをしてくれた。

見習いということもあって、よく深夜に無理を言って開けてもらい、

哩ちゃんの実験作を食べさせてもらったりもしている。

それを許してくれる気のいい店長さんにも感謝しっぱなしだ。

哩「……気にしとらん。別に」

哩ちゃんは、浪人をしている。

西の最高学府でなんとか細胞の研究を後輩と一緒にしたいとかで、

滑り止めで受かった大学(ちなみに私の通う大学より偏差値の高い所だ)を蹴って、

浪人する道を選んだ。

 
洋榎「まあでもこれで、愛しの後輩と4年間一緒やん」

哩ちゃんは、割りとカッコつけしいだった。

試験の手応えがあったために後輩に余裕を見せつけていた結果、

落ちたことを言うタイミングを逃し、結局浪人してるとカミングアウト出来ぬまま関西に来たんだとか。

そしてここで働いた金で食いつなぎながら勉強し、

合格した後輩相手に「実は一緒の学年で入りたくて浪人していたんだ!」とサプライズすることにしたのだ。

馬鹿みたい!

だけど、今は、そーいう馬鹿さは嫌いではなくなっている。

胡桃「その、後輩ちゃんは受かったの?」

哩「ああ。後輩は、しっかり受かっちょった」

洋榎「へえ、よかったやん。おめでとう!」

胡桃「……ちょっと待って」

胡桃「後輩“は”!?」

哩「…………」 ズーン

哩「……やはり……センター試験を8割で縛ったのがアカンかったんか……」

哩「いや、でも、あんなミスさえしなければ……」

よくわからないけど、哩ちゃんはジンクスを持っているらしい。

2次の点数の半分換算にされるし、ちょうどいいとか何とか言って、

『○○点以上センターで取れたら二次もそのくらい取れる』

みたいな想いで挑んでいたのだとか。

洋榎「え? 二浪? マジ? 二浪なん?w」

哩「笑いこらえきれとらんで」

どうやら、哩ちゃんは、またも大学生になれなかったらしい。

すっかり似非関西弁に染まりつつあるけど、

本格的な関西弁使いになる前に、大学生になれるといいね……

 
洋榎「もう料理人でもなったらええんちゃう?w」

哩「料理人はそないに簡単じゃないばい」

胡桃「でも哩ちゃんの作ってくれる料理どれも美味しいよー」

哩「どれもこれもレシピがあれば素人でも簡単に作れるものばかりばい、その程度じゃ……」

哩「アイツの好きなスイーツも、まだ全然作れんし」

哩ちゃんが料理の勉強に熱心なのは、

後輩とルームシェアする予定だったからだとか。

料理くらい出来ないとな、と真面目に勉強していたのを思い出す。

……料理本じゃなくて参考書読むべきだったんじゃないかなあ、とはさすがに言えない。

胡桃「でも、すっごく上手になったよね」

洋榎「最初の頃は、フッツーって感じの味やったしなあ」

哩「まあ、出してないものには、えげつないものもあったが」

胡桃「え、そうなんだ」

洋榎「むしろちょっとそれが気になるわ」

洋榎「そーいや、カミングアウトはすませたん?」

哩「な、なんのだ?」

哩「私はどこにでもいる普通のストレーt」

洋榎「いやそういう性癖のことでなくて」

胡桃「実は浪人でしたってこと!」

胡桃「同棲はもう始めてるんだよね?」

哩「まあな……」

哩「ところで……そのコーヒー、私の奢りでいい豆を使ったんだが……」

胡桃「!?」

洋榎「おま……まさか……」

哩「一緒に、何て言えばいいか、考えてもらおうかなと」

洋榎「マジかお前」

 
結局、一人一案考えさせられることになった。

胡桃「どうしようね」

洋榎「何が?」

胡桃「哩ちゃんの」

洋榎「まあなんとかなるやろ」

洋榎「それより今は、目の前に集中や!」

胡桃「あ、うん……」

セーラ「バスガクルデー!」

2回生になると、サークルから声をかけられる側ではなくなる。

そのほとんどが、声をかける側に回る。

麻雀サークルに属するセーラは勿論、何故か私達も、チラシを手に中庭付近に陣取っていた。

 
洋榎「サークルがないなら作ればええねん」

以前そんなことを抜かしていたが、まさか本気だったとは。

洋榎「麻雀以外で何するのか未定やけど、まあ、何とかなるやろ!」

胡桃「サークル名は?」

洋榎「今度考える!!」

胡桃「それでよく集るなんて思えたね!」

洋榎「しゃあないやろ、予定じゃスズ入れて5人ーはい人数集まりましたイエーイするつもりやってん」

洋榎「なんもかんも浪人が悪い」

胡桃(ひどい)

洋榎「とにかく勧誘や!」

胡桃「ええー……」

 
塞「で、宗教か何かと勘違いされて警告されたと」

胡桃「ばっかじゃないの!」

洋榎「はい、すんません……」

塞「人がわざわざ電車使って様子見に来てあげたってーのに……」

洋榎「猛省しております……」

セーラ「でもこうなったら知り合い入れるしかないなー」 アハハ

洋榎「なあ、セーラのダチで、兼部してくれそうなんおらんの?」

セーラ「おらんなあ。そんな先輩に目え付けられかねへん真似、普通はせんで」

洋榎「ウチも、最近連絡とってない奴ばっかやしなあ」

塞「いきなりサークル入れなんて電話してもそれこそ宗教疑惑ね」

洋榎「うーん、知り合い、知り合い……」

洋榎「ん?」

胡桃「どうかしたの?」

洋榎「今の――――」 ダッ

胡桃「え、ちょ、どこ行くの!」

 
洋榎「おーい!」

「?」

洋榎「つかまえたっ!」

「ひゃっ!?」

洋榎「へへ……その顔、間違いないな」

「あ、ああああんたは……!」

洋榎「久しぶりやな!」

洋榎「えーっと、ちゃちゃ……なんだっけ」

洋榎「本名佐々木? 笹岡?」

ちゃちゃのん「ちゃちゃのんは佐々野じゃ!」

洋榎「そうそうそれそれ」

洋榎「ウチのこと覚えとるか?」

ちゃちゃのん「そりゃあ、まあ……」

ちゃちゃのん(個人戦でもやられたし、忘れられるわけないよぉ……)

 
洋榎「まあとにかくこっち来いや」 グイッ

ちゃちゃのん「え、ちょ、ちょっと!」

洋榎「おーい、見つかったでー」

ちゃちゃのん「え、何が!?」

胡桃「うわ、ホントに誰か連れてきた」

洋榎「ほら自己紹介」

ちゃちゃのん「あ、佐々野です……」

胡桃「鹿倉胡桃だよ」

セーラ「セーラやでー」

塞「臼沢塞です。普段は理系キャンパスに通ってます」

ちゃちゃのん「ど、どうも……」

洋榎「よっしゃ、これで決まりやな! 5人集まった!」

ちゃちゃのん「何が!?」

 
胡桃「ごめんねー、結局ゴリ押ししちゃって……」

洋榎「まあええやん」

洋榎「どーせ麻雀部行く気やったんやろ?」

ちゃちゃのん「まぁ……そうじゃけど」

洋榎「ならこっちのがええて!」

洋榎「何せインハイ選手ばかりやしな!」

洋榎「行きつけの店にもインハイ選手おるし、いい麻雀が出来るでー!」

ちゃちゃのん「何か騙されちょるような気がする……」

塞「あはは……」

 
ちゃちゃのん「そういえば、臼沢さん?は理系なんじゃね」

塞「ああ、うん、そうだよ」

ちゃちゃのん「じゃあ仲間じゃ!」

ちゃちゃのん「ちゃちゃのんも理系で、別キャンパスなんじゃよー」

洋榎「え、そーなん!?」

胡桃「じゃあ塞と同じ××キャンパス?」

ちゃちゃのん「……あ、そっちじゃのうて」

ちゃちゃのん「新設された○○キャンパスの方じゃ……」

洋榎「何や、場所としてはええとこやん」

ちゃちゃのん「でも駅から結構遠いし、何より学部が一個しか無いからサークルが全然のうて……」

胡桃「あ、それでわざわざこっちまで」

ちゃちゃのん「うん……」

セーラ「大変やなー」

 
ちゃちゃのん「1年間あのキャンパスのサークル色々回ったりしたけど、どうものう……」

胡桃「あ、1回生じゃないんだ」

ちゃちゃのん「うん、ちゃちゃのんは2回生じゃよー」

洋榎「何や同期か、てっきり浪人組かと」

ちゃちゃのん「違うけえ!」

塞「あ、じゃあ、サン付けなくてもいいわよ」

胡桃「うん、気軽に呼んでね!」

ちゃちゃのん「わあ、ほんと?」

ちゃちゃのん「じゃあちゃちゃのんのことも、気軽に好きに呼んでよー」

洋榎「おいアイドル崩れ」

ちゃちゃのん「あだ名じゃのうて罵倒じゃそれは!」

 
洋榎「ほんなら何て呼べばええねん」

洋榎「どうせだからあだ名のがええやろー」

胡桃「……そうかなあ」

塞「正直、洋榎のあだ名はセンスが微妙なような……」

洋榎「そのダサさがええんやん!」

洋榎「こう、刑事ドラマ的っちゅーの?」

洋榎「おい、事件だ、行くぞネクタイ!」

洋榎「はい、キラーさん! マドンナさんはボマーさんと待機していてください!」

洋榎「みたいな感じでさー」

胡桃「気持ち悪い!」

セーラ「あはは、センスが古いでー」

ちゃちゃのん「恥ずかしい!」

塞「しかもその例え、刑事に犯罪者が混じってる……」

 
ちゃちゃのん「あ、あだ名なら『ちゃちゃのん』でええじゃろ……」

洋榎「んー……かぶってもおもんないし……」

洋榎「ほんなら、『のんちゃん』でええんちゃう」

ちゃちゃのん「もう、佐々野の原型残っとらんやん!」

洋榎「それか『枕』か」

ちゃちゃのん「してないから!!」

ちゃちゃのん「もう、可愛いし、のんちゃんでええわ」

洋榎「ほんなら、のんちゃんで」

胡桃(岩尾……)

セーラ(岩尾や……)

塞(フットボールアワー……)

胡桃「セーラにはあだ名つけないの?」

洋榎「セーラって名前自体があだ名っぽいやん」

セーラ「ひでえ」

洋榎「それにほら、セーラー服からとったっぽいし」

洋榎「ある意味一番刑事物っぽい名前やん」

胡桃「そ、そうかなあ……」

洋榎「まあとにかく、この5人でサークル活動や!」

ちゃちゃのん「……活動内容やサークル名は?」

洋榎「……」

洋榎「とりあえず、サークル名を決めるのが最初の活動やな」

ちゃちゃのん「ええー……」

 
胡桃「……と、まあ、最近はこんな感じだね」

漫「うわーええですねー」

漫「めっちゃ楽しそうやないですか」

胡桃「うーん、まあ、つまらないわけじゃないけど」

胡桃「ケッコー疲れるよ?」

漫「いや、でも、羨ましいですって」

漫「実際、話してる時のセンセーめっさええ顔してましたし」

胡桃「え」

漫「いいなー、私も現役合格したかったなー……」

胡桃「……」

胡桃「来年は、一緒に通おうよ」

漫「そうですね。二浪だけは絶対避けねばなりませんもんね! さすがに親にも申し訳が立ちませんし!」





哩「何でよりのもよってその決意表明を気分転換とウチの店で勉強してるときにするかな……」 イブクロキリキリ

 
洋榎「と、いうわけで、旅行に行こう」

胡桃「は?」

洋榎「折角のゴールデンウィークやで!」

洋榎「社会に出る前に遊び倒さないと損やん!」

胡桃「いや私カテキョのバイトあるから」

洋榎「漫も連れてったらええ」

塞「私も暇じゃないんだけど」

洋榎「大丈夫大丈夫」

ちゃちゃのん「せーちゃん、サークルで何かある言うてなかった?」

洋榎「うっ……確かにあのサークルでGWのOB交流対戦会は休めん空気やな……」

洋榎「ま、まあ、代わりにバイト連れてくってことで」

哩「そう簡単に連休取れると思わんとってほしか……ほら、コーヒーおかわりお待ち」

洋榎「いややー遠出したいー合宿したいー!」 ジタバタ

胡桃「しつこいそこ!! お店で暴れない!」

洋榎「あ……はい、すんません」

そしてゴールデンウィークがきた。

洋榎「あふれる人ごみ!」

洋榎「立ち込める名物の香り!」

洋榎「写真を撮りまくる観光客!」

洋榎「超有名なものの数々!」

洋榎「道・頓・堀ーーーーー!!」 ヤッホーーーイ

洋榎「って、何ッで地元やねん!」 ガイドマップバシーーーーン

塞「おお、ノリツッコミ」

胡桃「仕方ないでしょ、遠出は皆厳しかったんだから!」

洋榎「そこは勢いと情熱と無鉄砲さでGOやろ!」

ちゃちゃのん「無茶言わんの」

漫「佐々野先輩、確かアイドルの仕事入ったんですもんね」

ちゃちゃのん「まあ、深夜のローカルテレビで水着着るだけじゃけどね」

胡桃「すごいなあ……」 ジブンノムネペタペタ

塞(胡桃……) ドウジョウ

 
洋榎「んで、どこ行くねん」

ちゃちゃのん「ちゃちゃのんはお洋服見てくるわー」

哩「私はこのへんの喫茶店を少し見てみたいな。あと本屋」

セーラ「雀荘行ってみたいわー雀ゴロとかおるんかな」

塞「じゃあ3時間後集合ってことで」

胡桃「オッケー、かいさーん」

洋榎「待て待て待て待て待て」

胡桃「ん? 3時間じゃ足りない」

洋榎「いやそうじゃなくてやな……」

胡桃「じゃあかいさーん」

洋榎「待て待て待て待て待て待てて」

洋榎「何で解散やねん! 腐っても皆で旅行みたいなもんやで!?」

哩「この距離なら旅行でも何でもないだろ」

漫「いいとこ皆で買い物ですよ……」

胡桃「ばかみたい」

塞「まあ、私は観光したことないけど、他の人は行き飽きてそうだし」

セーラ「このへんとかほぼ毎週来るしなー」

胡桃「というわけで、かいさーん」

洋榎「待て待て待て待て待て! 待てて!」

洋榎「折角やから皆で一緒に回ったらええやん!!」

漫「えー……なんかちょっと申し訳ないじゃないですか、自分の見たいものに付き合わせるの」

哩「同意」

洋榎「いややー! 折角やから観光しようやー! 皆でうろつこうやー!」

胡桃「あーもう、わかったから暴れないの!」

洋榎「お、さっすがいいんちょ、話がわかるぅ!」 コロッ

胡桃(気持ち悪い!!)

 
洋榎「いやーしかし、あれやな」

洋榎「お好み焼き食ってぶらぶらするしかすることなかったな」

セーラ「ド地元やしな」

哩「私はグリコの看板を見られて満足だが」

塞「でも、後輩ちゃんと来たかったんじゃないの?」

哩「……コホン」

胡桃「でもこのお好み焼きおいしーね」

哩「ああ、うまか」

哩「この味を、アイツにも食べさせてやりたいばい」

漫「ちょ、私の分ですよそれ!」

洋榎「へっへー、速いもん勝ちや!」

胡桃「もうっ、落ち着いて食べる!」

塞「はは、大変だねえ胡桃」

胡桃「ほんと、困っちゃうよ!」

 
ちゃちゃのん「悪いのう、ちゃちゃのんのお買い物付き合ってもろうて」

洋榎「ま、他にすることなかったしな」

胡桃「普段見ない洋服見られて楽しかったし」

哩「ああ、こがあなのも悪くなか」

ちゃちゃのん「皆は服買わんでよかったの?」

哩「え、あ、ああ……」

塞「私はもう買っちゃってたし」

漫「私はそんなにお金ないので……あんな高いブランドは……」

洋榎「ウチはオカンにこうてきてもらっとるしなあ」

胡桃「いい年して!?」

洋榎「ええやろ別に!」

洋榎「客観的視点を持つ人間が似合うと思うの買ってくるのが一番やろ!」

胡桃「信じられないなあ」

胡桃「私ですら、好みのブランドとかあるのに!」

塞(確か胡桃の贔屓ブランドってミキハウス……)

 
洋榎「お前らはどっか行きたいとことかあったん?」

洋榎「まだ開いとるとこやったら付き合うで」

哩「喫茶店に寄ってもらえたし、真似したくなるようなものも食べられたから満足ばい」

漫「あ、本屋はいいんですか?」

漫「私も参考書見たいし、付きあおうかと思ってたんですけど」

哩「え、あ、ああ、もういいかなって」

哩(信長書店で洋服買いたかったとかクチが裂けても言えんばい……)



※良い子の諸君は信長書店が何かを調べちゃいけないよ!

 
洋榎「とりあえず、バーとか寄ってみる?」

漫「いや、私まだ未成年ですから!」

哩「私もまだだ」

洋榎「……そーいや皆いつ誕生日なん?」

ちゃちゃのん「タレント名鑑見たらのっちょるよ」 フフン

洋榎「どうせなら、誰かが二十歳になる度に集まってパーっと騒ごうや!」

塞「あ、それはちょっと楽しそうかも」

ちゃちゃのん「無視!?」

漫「私は誕生日来てもまだ19なんですけどね……」

哩「いや、私は誕生日は一緒に旅行に行く約束が……」

洋榎「じゃあ出発前に皆で押し寄せてバースディソング歌った後顔面にホールケーキぶつけるだけするわ」

哩「ころすぞ」

 
それからまた、ぐだぐだした代わり映えのない日々が続く。

洋榎「なあ、明日の晩、ウチにこーへん?」

胡桃「ふえ!?」

胡桃「え、ちょ、な、え?」

洋榎「あ、予定あったりする?」

洋榎「セーラがサークルの予定でカッツカツやから、出来ることならそこにあわせてほしいねんけど」

胡桃「ああ……皆で遊ぶってこと?」

洋榎「?」

洋榎「そやで?」

胡桃「……誰が来るの?」

洋榎「今んとこ、決まってるのはセーラとちゃちゃの奴やな」

ちなみに、フットボールアワー岩尾のニックネームがのんちゃんだとしったちゃちゃちゃんが激怒して、

のんちゃんというあだ名はお流れになった。

赤ずきんやらササニシキやら迷走した末、今では無難な所に落ち着いている。

 
洋榎「一応ザワにも声かけといてや」

ちなみに、塞は、最初片メガネやら怪盗キッドやら、いろんな言われ方をしていた。

しかしいずれも定着せず、特に理由もなく呼び名が変わっている。

多分、このままザワとかいう無難なあだ名で決まるんじゃないだろうか。

胡桃「あ、うん、いいよ」

胡桃「明日はどのみちウチに来て泊まってく日だし」

洋榎「え、そんなんあるん?」

胡桃「うん」

胡桃「毎週ウチ来て泊まってってる」

洋榎「なんやそれ、クッソ楽しそうやんけ! 呼べや!」

胡桃「たまには同郷水入らずでのんびり喋ったりお掃除したり洗い物したりしたいじゃん」

洋榎「あ、はい、ソウデスネ、ウチらおったら汚す専ですもんネ」

胡桃「片付けするなら来てもいいんだよ?」

洋榎「考えてはおくわ」

胡桃(絶対来ないなこれ……)

 
胡桃「で、結局哩ちゃんは来られないんだ」

洋榎「バイト外せないんやって」

セーラ「ははは、真面目やなー」

塞「ていうか、いきなりすぎるのよ」

洋榎「まーまー、そう言わんと」

ちゃちゃのん「ていうか、こんな大人数で押しかけて、ほんまに大丈夫かいのう……」

洋榎「ノーウェイノーウェイ」

洋榎「モーマンタイ、イッツオーライ、アイムファインセンキュー」

胡桃「意味よくわからずに喋るのやめようよ」

洋榎「とにかくオカンには話し通してあるしな」

セーラ「いやー、会うの久々で楽しみやわー」

塞「そっか、千里の監督さんなんだっけ」

ちゃちゃのん「……麻雀について、ちょっとお伺いしたくなるのう」

 
洋榎「ただいまー」 ガチャ

絹恵「おかえりー」

胡桃「おじゃましまー……」

ちゃちゃのん「あ」

絹恵「えっ」

塞「……ど、どーも」

絹恵「ひあああああああ!?」

絹恵「し、失礼しましたー!」 ダダダダダ

セーラ「はっはっは、いきなり真っ裸を見るとインパクトあるなー」

塞「お風呂あがりだったみたいだし、悪いことしちゃったかしら……」

洋榎「あ、そーいやサプライズしようと思って人呼ぶこと言うとらんかったわ」

塞「おい」 

胡桃「後で謝りなよ!」

洋榎「へーい」

 
塞「ええと、改めてお久しぶりです」

絹恵「お、お久しぶりです……」

絹恵「お姉ちゃん! 人呼ぶなら言うといてよ!」 ヒソヒソ

洋榎「いやーまさか裸であそこまでうろついてるとは」 ヒソヒソ

絹恵「最近暑いんやからしゃーないやんか!」 ヒソヒソ

胡桃「うーん、大変だねえ」

塞「セーラはセーラで大変そうだけど」

ちゃちゃのん「久々に再会した母校の監督にあっちでめっさしごかれちょる……」

 
洋榎「さーて、とりあえずだべりながら麻雀でもするか?」

塞「好きだねえ。まあ私達も人のことは言えないけど」

洋榎「一応TVゲームもあるねんで。64とか」

洋榎「でも岩手にゲームとかあったかわからへんし」

胡桃「あるから! 岩手にもそういうホビーはあるから!」

塞「でも64するにしても麻雀するにしても、一人あぶれちゃうわね」

ちゃちゃのん「そうじゃのう。せーちゃんは監督さんに牌譜見てもろてるから抜きにしても……」

絹恵「あ、私のことは気にせんでも……」

塞「いやあ、折角だし、一緒に、どう?」

塞「嫌なじゃなかったら、だけど」

絹恵「嫌じゃないですけど……ええんですか?」

塞「もちろん」

ちゃちゃのん「新鮮なメンバーいた方がおもろいけえ」

胡桃「それに、妹さんの方がお姉さんよりまともそうだし仲良く出来そうだし」

洋榎「ひでえ」

 
洋榎「それや! ローン!」

胡桃「うぐぐ、まくられた……」

塞「今日だめだー勝てない……」

絹恵「やっぱりお姉ちゃん強いなあ」

洋榎「せやろーさすがやろー」

セーラ「何や、結局打っとるんか」

塞「まあこのメンツが集まれば、そりゃね」

ちゃちゃのん「特に今日は妹さんもおるしのう」

洋榎「まあ、絹は今は麻雀部よりもサッカー中心なんやけどな」

胡桃「そうなの?」

洋榎「すごいんやでー絹のPK時の動き!」

絹恵「ちょ、おねーちゃん」 テレテレ

洋榎「動きにあわせて身体についた2つのボールが弾むわ揺れるわ」

絹恵「お、おおおお姉ちゃん///!?」

 
漫「おじゃましまーす」

絹恵「あ、漫ちゃん来た」

洋榎「おつかれー」

胡桃「模試どうだった?」

漫「まあ、ぼちぼちです」

胡桃「大変だねえ、受験生」

絹恵「あはは、ごめんねー、スポーツ推薦で一抜けしてもーて」

漫「うう、ホンマ羨ましいわ」

漫「ちゅーことで、ストレス発散!」

漫「ちょーど今終わったとこみたいだし、麻雀混ぜてもらいますよ!」

セーラ「よっしゃ、やるか」

洋榎「上等!」

塞「爆発か……防げるかな」

漫(あ、これ勝てないかもしれない)

 
漫「麻雀おもんないわ……」

洋榎「麻雀おもろいわーカーッ」

塞「……」 ぜぇぜぇ

ちゃちゃのん「もーなんでそんな山越しとかすんのー」

洋榎「ざまぁwwwwwww」

塞「麻雀はクソゲー」 ボソ

漫「あーもうやめ! 一旦抜けますわ!」

胡桃「よく考えると麻雀も大概友情破壊ゲーだよね」

セーラ「深夜のgdgdテンションだから許される遊びに近くなってきとるな」

 
洋榎「と、いうわけで、勝ちまくった記念にパーっと騒ごうや!」

セーラ「ええなー!」

以上、トータル大勝組。

塞「……まあ、いいけど、あんまり騒ぐと怒られるんじゃ……」

漫「先輩のお母さん、ごっつ怖いって聞くし……」

以上、トータルトントン組。

胡桃「なんでもいい」

ちゃちゃのん「こんなん考慮しとらんもん……」

以上、トータル大負け組。

何これ!!!

殴り合い麻雀やめてよね!!

大味な殴り合いはそんなに得意じゃないんだから!

絹恵「ていうか、この人数は、さすがに同時にご飯食べるのも難しいんじゃ……」

洋榎「あ、それやったら……」

 
洋榎「おっくじょーーーーう!」 イヤッホーーイ

セーラ「うっはー、たっけー!wwwww」

胡桃「うわあ、本気で屋根に登ってる!」

ちゃちゃのん「あ、あああ危ないよお」

洋榎「おーい、皆も来いて!」

塞「あー、もう」

塞「あのまま放置してもご近所迷惑で声かけてくるだけだろうし」

塞「いこ、胡桃」

胡桃「……はあ」

胡桃「しょうがないなあ」

 
塞「おお、風が気持ちい」

胡桃「うわー、たかーい……」

洋榎「絹とちゃちゃも来いて」

ちゃちゃのん「あわわ……ほんまに押したら怒るけえね!」

漫「超へっぴり腰……」

洋榎「へーたれー」

ちゃちゃのん「う、ううううるさい!」

ちゃちゃのん「あ、て、手ぇはなさんといてね妹さん!」

絹恵「はいはい」 クスクス

絹恵「あ、これ、お母さんから皆で食べなって」

洋榎「おお、からあげ!」

洋榎「酒がほしくなるな……」

胡桃「私まだ未成年だから」

洋榎「大丈夫、ウチもや」

胡桃「それ大丈夫じゃないから!」

 
洋榎「ホットプレート持ってきたでー」

セーラ「肉は今漫と妹が買いに行っとるで」

漫「マジでやる気ですか」

洋榎「バーベキューとか青春って感じやん?」

塞「屋根に上る大学生って時点で十分青春って感じだけどね」

胡桃「星が見えないのが残念だね」

ちゃちゃのん「大阪の夜はロマンチックではないのう」

洋榎「ちなみにもっと夜になると更にロマンチックじゃなくなるで」

ちゃちゃのん「ふえ?」

洋榎「暴走族の排気音がBGMになるしな~」

セーラ「バイクのライトに照らされた塀の落書きが見られるでー」

ちゃちゃのん「大阪こわい……」

 
胡桃(……青春、かあ)

胡桃(思い描いてたラブロマンスとか、そーいうのはなかったけど……)

胡桃(こういうのも、悪くない、かなあ……)

胡桃(……)

胡桃(ちょっとだけ、感謝、しようかな)

洋榎「ほれジャンプしてみ」

ちゃちゃのん「嫌じゃー! 落ちてまうー!」

セーラ「そんな屋根の真ん中やったら大丈夫やって」

洋榎「ほれ、スリルは大事やで! 万引きとかと違うて、犯罪にならんスリルは貴重やで!」

胡桃(スリル、かあ……)

胡桃「……」

胡桃「ありがとね、洋榎」 ボソ

塞「ん? 何か言った?」

胡桃「……んーん、なにも」

胡桃(うーん、聞かれたくない恥ずかしいことを呟く……確かに、ちょっとしたスリルってドキドキして楽しいかもね) フフ

 
洋榎「絹はまだかな~っと」 キョロキョロ

セーラ「お、あれバイトやん」

塞「あ、ほんとだ」

洋榎「ああ、飯とか作ってもらおう思って呼んだねん」

胡桃「ひどっ」

洋榎「あ、でもちゃんとアイツと連れからは食材費とか取らんし」

塞「そのへんはしっかりしてるんだ……」

ちゃちゃのん「……って、連れ?」

洋榎「ああ、知らんかった?」

洋榎「アイツ同棲しとんねん」

セーラ「ほれ、手ぇ繋いで歩いてきとるやろ」

塞「あれは絶対ルームシェアの友人どころの関係じゃないわね……」

胡桃「誰か双眼鏡持ってないかな」

洋榎「アイツの観察は誰も止めんのかい」

塞「……まあ、ほら、色気のある話題って少ないから……」

洋榎「おーい、バイトー!」 ブンブン

セーラ「ハラヘッタデーだーっしゅ!」

哩「!?」 ビクッ

塞「あ、思わず手ぇ離した」

ちゃちゃのん「初々しいのう」

絹恵「あ、私にも見せてもろてええです?」

胡桃「もちろん」

塞「部屋から双眼鏡持ってきてくれたの、妹さんだしね」

洋榎「はっはっはー、お熱いねー!」

セーラ「らーぶらぶやなー!」

洋榎「らーぶらぶ! あそれ! らーぶらぶっ! ヒュー!」

哩「殺す! そこ動かんとけやぶっ殺しちゃる!」

胡桃「すごいご近所迷惑だよね」

塞「あ、すっかり大阪に染まってきた先輩にちょっと引いてるよ後輩ちゃん」

ちゃちゃのん「可哀想じゃのう」

 
結局バーベキューは煙が立ちすぎて即中止に追い込まれて。

「あーもー」なんて言いながら、片付けをしたのも今ではいい思い出で。

洋榎「あーくそ、じゃあ場所変えるか!」

胡桃「候補地あるの?」

洋榎「近所の焼肉屋の駐車場で、敢えて」

胡桃「馬鹿じゃないの」

なんでもかんでもとりあえずやってみようの精神を発揮していた貴女に振り回されるのも楽しくて。

「すみませんお客様、当店の駐車場でそのような迷惑行為は……」

洋榎「あ、はいすみません」

胡桃(そりゃこーなる!)

セーラ「腹減ったーなーメシー」

結局、ご飯系の無茶企画は、大体店長さんに頭を下げて夜遅くまで開けてもらったいつもの店で、

哩ちゃんに作ってもらうというのが恒例と化した。

洋榎「夏だ! 海だ! 花火だ!」

洋榎「ちゅーわけで旅行会社のパンフめっさ貰ってきたでー!」

胡桃「試験期間にそんなの見てる暇なんてあるわけないでしょ!!」

洋榎「いやいや、試験終わったらもう夏休みやで!?」

洋榎「今見ないでいつ見んねん!」

胡桃「教科書を見て!!」

胡桃「折角セーラが貰ってきてくれた過去問意味なくなっちゃうでしょ!」

洋榎「うぐぐ……」

洋榎「こういうとき先輩にコネがなくて、同じ学部の仲間が少ないって辛いなあ……」

胡桃「同じくこっちに遊びに来すぎて向こうじゃ何にも所属してない塞とちゃちゃちゃんは余裕みたいだけどね」

洋榎「ぐぎぎぎぎ」

 
洋榎「テストも終わったし合宿しようや」

胡桃「何の?」

洋榎「サークルの」

胡桃「結局活動内容どころかサークル名すら決まってない超非公認サークルなのに?」

洋榎「……」

洋榎「旅行行こうや!」

胡桃「合宿の名目あっさり諦めた!」

洋榎「オリルときはオリル、それが鉄則や!」 フフン

胡桃「馬鹿みたい」

 
ピンポーーーン

胡桃「はーい……?」

胡桃(何だろう、宅配便かなあ?)

胡桃「……」 ノゾキアナジー

洋榎「~~♪」

胡桃「……!?」

胡桃「な、ななななな!?」

洋榎「おーい、いいんちょ。おるかー?」

胡桃「ちょ、ちょっと待って!」

胡桃(何で昼まで寝てた時に……!)

胡桃(ていうか家覚えてたの!?)

胡桃(そ、それより着替えて寝ぐせを……)

胡桃(ああ、もう! 何で急に来るの!)

 
胡桃「い、いらっしゃい!」

洋榎「あ、もしかして寝てた?」

胡桃「そ、そんなことないよ!」

胡桃「はやおきして掃除に洗濯とすごいやってたし!」

洋榎「ふうん……」

洋榎「じゃあ、スカートのファスナーが全開なんも、デフォかなにか?」

胡桃「っ///!!」

胡桃「こ、ここここれは窮屈だからこうしてるの!」

洋榎(あーおもろいなーいじり甲斐あるわ)

胡桃(って、このいいわけだと、家にいる間ファスナー上げられない!?)

 
胡桃「それで、何しにきたの?」

洋榎「いやー、定期が今日までやから、ふらーっと」

胡桃「うわあ」

洋榎「結局夏休み予定決まらんかったしなあ」

胡桃「まあ、夏は受験で大事な時期だし、私も漫ちゃんといっぱい勉強しなきゃだから……」

洋榎「セーラはサークル、ちゃちゃは水着イベントで飛び回り、かあ」

洋榎「ザワはどーなん?」

胡桃「塞は塞でちょこちょこあっちのキャンパスの友達と遊ぶみたいだよ」

胡桃「まあ、1週間ぐらい泊まりにきたりもするけど」

洋榎「えー、いいなー」

胡桃「うち、2人までしか寝るスペースないからね!」

洋榎「ちっ、先手打たれたか」

洋榎「同じ布団で一緒に寝るとか、ダメ?」

胡桃「えっ、だ、だめにきまってるでしょっ!」

洋榎「お、動揺しとる。やっぱおもろいなー自分」

 
胡桃「哩ちゃんもバイトと勉強大変みたいだしねえ」

洋榎「よっしゃ、店に冷やかしにいくか!」

胡桃「今の話聞いてた?」

洋榎「いけるいける」

洋榎「腹も減ったし行くだけ行ってみようや」

胡桃「もう……怒られても知らないからね」

洋榎「ま、ちゃんと飯食って金払えば文句は言われへんやろ!」

洋榎「ついでにあの後輩ちゃんが店におったら麻雀できるしな!」

胡桃「もう……やっぱり麻雀馬鹿なんだから」

 
哩「いらっしゃいませー」

洋榎「ようバイト、頑張っとるかー」

哩「見てわからん?」

哩「大学が休みでえらい暇になっとるわ」

胡桃(どんどん関西に染まってきてて面白いなー。塞や私は染まってないのに)

洋榎「後輩ちゃんはおらんのか」

哩「ああ、どうやら大学の友人と海らしい」

洋榎「はっはっは、辛いなー無職は」

哩「……べ、べつにアイツが誰と遊びに行こうと関係のないことだ」

洋榎「声震えとるで」

胡桃「げ、元気出して」

 
哩「旅行? 行けるわけなか」

胡桃「だよねー」

洋榎「でも息抜き大事やで」

哩「それで去年夏はずっと九州に行った結果が今なんだよ……」

哩「……あの頃は……二人一緒に勉強して……」

哩「……私が教える側だったのに……」

胡桃「じ、人生いろいろあるよっ」

洋榎「て、店長! 何か明るい音楽流してや!」

 
哩「そんなわけだ、旅行は諦めてくれ」

洋榎「ぐぬぬ……」

洋榎「じゃあ、遊びにくらいいこうや!」

洋榎「日帰りで!」

哩「あのなあ……」

洋榎「ええやん、若いウチしかできへんことやで!」

胡桃「もう、ワガママ言わないの」

店長「いいんじゃないかな、気分転換も大事だよ」

洋榎「ほら、許可きましたー!」

洋榎「さっすが店長、話がわかるぅ!」

哩「ったく……今日だけやからな」

店長「今日は早上がりで楽しんでらっしゃい」

洋榎「サンキュー店長、またパーっと食べにくるで!」

胡桃「ありがとうございます」 ペッコリン

哩「ほんと、ありがとうございます」 ペコリ

 
哩「それで、どこに行くんだ」

胡桃「それがまだ決めてなくて……」

哩「そんなことだろうとは思ったが……」

洋榎「いや、大体は決めてある」

胡桃「へ?」

哩「ほう」

洋榎「中華食いたいから横浜行こう」

哩「黙れ縛るぞ」

胡桃「中華街なら兵庫にもあるから」

 
洋榎「まあ待て、落ち着け」

洋榎「これには他にも理由がある」

哩「ほう」

胡桃「一応聞いてあげる」

洋榎「まず、バイトは南出身やろ?」

哩「まあ、そうだが……」

洋榎「いいんちょは北の国や」

胡桃「北国……ってわけじゃないけどね」

洋榎「んでウチは西の人間」

洋榎「そうなったら、もう未知なる東に行くしかないやん!」

哩「インハイの時に寄れるエリアだろうが!」

胡桃「しかも意味わからないからその理屈!」

洋榎「いややー遠出したいー!」

胡桃「おっきな子供!」

哩「頼むから店の中で暴れんといてっ」

 
洋榎「よっしゃ、じゃあこうしよう」

洋榎「皆で行きたい場所を2つずつ書いてティッシュ箱に入れる」

洋榎「出てきた所に旅行や!」

胡桃「……」

哩「……」

胡桃(理不尽だから断りたいけど、断っても粘られそう……)

哩(後日また改めて旅行、となると、面倒だな)

胡桃(確率は2/3!)

哩(むしろ納得させて大阪観光で済むなら乗らない理由がない)

胡桃「いいよ、そのかわり文句は絶対なしね!」

洋榎「おう!」

哩「引くのはお前以外の誰かだ」

洋榎「ええで! 店長に引いてもらおうやないか!」

洋榎「へへ、こーいうのも楽しいやないか!」

 
哩(場所としては……大阪、それと……どうするか……)

哩(まあJRですぐだし、京都にしておくばい) カキカキ

胡桃(一個は……そのまま塞の家に泊まりに行けそうだし、滋賀にでもしておこうかな)

胡桃(もう一個は……)

胡桃(……中華食べたがってたし、兵庫っと) カキカキ

洋榎(うーん、一個は横浜として、どうしようかなあ)

洋榎「……」

洋榎(あ、そうだ、ここは――) カキカキ

店長「それじゃ、引くよ?」

洋榎「お願いしまーす」

哩「ほんっとお願いします」

胡桃「信じてますからね、そのツモ運!」

店長「はは……」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
洋榎「と、いうわけで、おーきなわーーー!!」 イエーイ


哩「ふざけんなお前」

胡桃「飛行機降りるまでにも何度も突っ込んだけど、もっかい言うね。ばっかじゃないの!」

哩「完全に泊まりばい……」

洋榎「まあまあ、朝一で帰ればバイトも間に合うやん」

胡桃「ていうか何で関東ですらないの……」

洋榎「いやー、言われてみればインハイで行ったなーって」

洋榎「んで、ふと目に飛び込んできた麻雀誌の表紙に、銘苅のことが乗っ取ってな」

哩「……懐かしい名だな」

洋榎「そうそう、団体戦じゃザワに完封されたあの銘苅な」

洋榎「一度戦ってみたかってん」

洋榎「大学リーグでプロ注目っちゅーやないの」

洋榎「そら打ちたくもなるで!」

哩「麻雀馬鹿」

胡桃「麻雀馬鹿」

洋榎「うぐう、あかん?」

哩「……ま、いいだろう。ぐだぐだ言わない約束ばい」

胡桃「……なんだかんだで、私達二人も麻雀馬鹿だからねえ」

 
 
 
 
 
 
おばさん「え? 銘苅さん家の娘さん? 東京の大学に行ったはずだよ」


洋榎「」

おばさん「まだ帰ってないと思うけどねえ」

洋榎「……」

胡桃「……」

哩「……」

 
洋榎「いやー、沖縄で食べる吉牛はうまいな!」

胡桃「……」 もぐもぐ

哩「……」 もぐもぐ

洋榎「すんませんでした夕飯はゴーヤチャンプルでも奢らせて頂きます」 ドゲザー

哩「泡盛もだ」

胡桃「私はサトウキビ」

洋榎「はい……謹んで奢らせてもらいます……」

 
洋榎「おお、安ホテルの割に、広々やん」

哩「三人で一部屋か……」

洋榎「ええやろ、別に旅行先で相部屋になるはじめての人ってわけでもないんやから」

胡桃「海がきれー!」

哩「汗をかいたし、先に風呂に入っていいか?」

洋榎「あ、ここ大浴場あるで」

哩「え」

胡桃「温泉!」

洋榎「女同士、裸の付き合いでもしようや!」

哩「あ、いや、私は……」

洋榎「なーに照れとんねん!」

胡桃「そうそう、大体裸を見せるの恥ずかしがるなら、体格的にこっち二人だよ!」

哩「いや、そがなことじゃなくて……」

哩(た、多分まだ、縄の後とかついてるよな……?) ドキドキ

 
胡桃「脱衣完了!」 スッポンポーン

洋榎「堂々した脱ぎっぷりやな」

胡桃「そっちはタオルを肩にかけておっさん臭いね!」

洋榎「じゃかーしい」

哩「……」

哩(トイレで確認したが、大分痕は薄れていた……)

哩(タオルを巻けば意識されないだろう……)

哩「それじゃ、行くばい」

胡桃「……」

哩「?」

哩「どうかしたか?」

洋榎「ほっほう、バスタオルを使ってまで、ボディを完全防御か」

洋榎「そこまでされたら、見ないと女がすたるなあ!」 ワキワキ

哩「な、おま、ちょ、ば、押し倒――!」

ラメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ

胡桃「……」

洋榎「……まさかあそこまでトゥルットゥルとは……」

洋榎「剃っとるん?」

哩「聞くな……」 ズーン

胡桃「え、そらなくても産毛くらいしか生えないものじゃないの?」

洋榎「え」

洋榎(やだこの空間怖い)

哩(アイツ以外に剥かれた……)

哩(……背徳感でゾクッときたことが何よりヤバイ……)

哩(私は別にマゾというわけではないのに……) ハァ

 
洋榎「あー風呂も気持ちよかったし飯もうまかったわー」

洋榎「つーわけで雀牌持ってきたしサンマせーへん?」

哩「受験勉強するといってあったやろ」

胡桃「私もちょっと眠いかも」

洋榎「ちぇー」

洋榎「んじゃペイチャンネル見よー」 ピッ

胡桃「ちょ!」

洋榎「はっはっは、冗談冗談」 ザッピング

パンパン

アンアン

ピッ ブツッ

洋榎「……ご、ごめんマジでこれは事故であってやな///!」 アワアワ

胡桃(かわいい……)

哩(こいつ実はウブか……)

 
塞「やっほー」

胡桃「あ、塞」

塞「聞いたよー。この前沖縄行ったんだって?」

塞「呼んでくれたらよかったのに」

胡桃「いや、来なくて正解だったんじゃないかな……」

塞「?」

胡桃(結局名物系のお店混んでてマクドナルドで延々だべって帰ってきちゃったし)

 
胡桃「はい、お土産」

漫「うわあ、ええですねー」

漫「旅行一緒に行きたかったー!」

胡桃「合格したらお祝いに皆で行こうよ」

漫「ほんまですかー!?」

漫「うわあ、がんばろう」

漫「絶対大学生になろう」

 
胡桃「もう秋かあ、1年が速いなあ」

洋榎「せやなあ、受験シーズンも近いし、バイトもえらい大変そうやな」

哩「そう思うなら深夜延長させてないでさっさと帰ったらどうや」

洋榎「終電ないもーん」

胡桃「泊める気はないもーん」

哩「私は帰るからな」

洋榎「ぶーっ」

洋榎「折角迫ってきたゼミ決めトークに混ぜよう思っとったのに」

哩「鹿倉、こいつ灰皿で殴ってよか?」

胡桃「気持ちはわかるけど落ち着いて」

 
洋榎「しっかしマジでゼミどうすっかなー」

洋榎「ザワはもう決まったん?」

胡桃「うん、なんでもずっと興味のあった分野のゼミに志望届出したって」

洋榎「ウチはそこまでやりたいことないからなあ」

胡桃「私はありすぎて困るよ」

胡桃「……そういえば、セーラやちゃちゃちゃんは決めたの?」

洋榎「セーラは先輩の斡旋があるからヌルゲーらしいで」

洋榎「ちゃちゃはこの前遊び行った時に言うとったけど、説明会で面白そうだったとこに行くらしいわ」

胡桃「皆どんどん進路決まってるんだ……」

洋榎「あーどうしよ」

洋榎「卒論楽な所探さない……」

 
そんなこんなでそれぞれが忙しくなり、集まる頻度は減っていった。

それでも定期的に集まりはしている。

例えば、私の誕生日。

貴女が提案した通り、皆の二十歳の誕生日を、毎回きっちり祝っていた。

洋榎「と、いうわけで、いいんちょ誕生日おめでとーー!!」

パンパンパーン

胡桃「うわあ、何か照れる」

ちゃちゃのん「ある意味晒されるポジションだからのう」

漫「おめでとうございます先生!」

胡桃「ありがとう」

胡桃「でも今すっごい大事な時期だから向こうで単語帳読んでて」

漫「ひどっ!」

塞「まっさか、今年はアンタの誕生日を二人のディナー以外で過ごすことになるとはね」 クスクス

胡桃「ま、予定と違って、一緒にいるのが増えただけで、恋人との甘い夜とはいかなかったけどね」

塞「ほんとねえ。予定通りいかないものだわ」

 
漫「あ、これ、プレゼントの万年筆です!」

漫「大学生って、こーいうのでいいんですかね?」

胡桃「ありがとー」

胡桃「でも合格通知くれるのが一番嬉しいかな」

セーラ「ほらこれ、スルメうまいでー」

胡桃「あ、う、うんありがとう」

哩「すまない。私とコイツと店長からは料理ということでいいか?」

胡桃「うん。お店も貸し切らせてもらっちゃってるしね」

絹恵「ええと、じゃあ、SGGK森崎選手のサインを……」

胡桃「ありがとう……何か悪いな……」

胡桃(価値分からないし……)

ちゃちゃのん「はいこれ、鹿倉って苗字にちなんで鹿せんべい」

胡桃「根に持ってる!? あだ名にちなんで実写版ネギまの茶々丸登場シーンDVD押し付けたの根に持ってる!?」

 
塞「私からは、はい」

胡桃「わあ、アクセサリー!!」

塞「一応、似合うの選んだつもりなんだけど……」

塞「趣味じゃなかったらごめんね」

胡桃「ううん、好みドンピシャ!」

胡桃「ありがとー!」

洋榎「これでプレゼントも残すはウチのもののみか!」

胡桃「皆ほんとにありがとねー」

洋榎「おい!」

 
洋榎「はい、スピリタスーー!」

胡桃「飲まない私でもヤバイことくらい知ってるよ!!」

洋榎「ほーらイッキ、イッキ」

胡桃「やらないって!」

洋榎「しゃーないなあ、じゃあちょっと薄めたるわ」

洋榎「泡盛と焼酎割りでええか?」 ドバドバー

胡桃「ちゃんぽんだよそれは!!」

 
洋榎「ほら、さあ、ぐいっと!」

胡桃「絶対いや!」

洋榎「ウチらの同期でラスト二十歳やし、それっぽくお酒パーっと行くほうがええやん」

胡桃「じゃあ自分も飲んだら!?」

洋榎「え、ウチはほら、休肝日やし……」

胡桃「ほら飲みなよ!」

洋榎「いやー、せめて皆で飲むってことに……」 タジタジ

漫「あーもう勉強休憩!」

ちゃちゃのん「おつかれさまー」

漫「あれなにしてるんです?」

塞「お酒についてちょっと、ね」

漫「へえ……」

漫「そういえば今日居るのって、私と姫さん以外皆二十歳なんですよねえ」

ちゃちゃのん「うん、そうじゃよー」

漫「私も飲みたいなあ……」

 
セーラ「ええんちゃう?」

塞「ちょ」

セーラ「あのデビルマンレディーみたいなんも、今日は飲むって話やし」

セーラ「節度守れるなら別にええやろー」

漫「やった!」

洋榎「いや絶対美味いから飲んでみいて」

胡桃「私はお酒飲まないで肝臓大事にして生きてくの!」

漫「あっ、飲まないんですか?」

漫「じゃあもーらい」 グイッ

セーラ「あ」

洋榎「あっ!」

胡桃「!!」

塞「あちゃー……」

漫「あ、もしかして乾杯まだしてなかっ――――」

ドババババババババ

洋榎「ぎゃーーーーっ、漫が爆発しおった!」

胡桃「ネウロの被害者みたいなビジュアルで胃液吐いてるっ!」

漫「」 ビクッビビクンッ

ちゃちゃのん「ちょ、痙攣しとる!」

塞「仰向けにして、ゲロで溺れるわ!」

絹恵「いやあ、微振動で前進してるから捕まえられへん!」

洋榎「酔っ払うと大人しく出来へんタイプかっ!」

胡桃「そういう次元!?」

ちゃちゃのん「あ、ちゅ、厨房に哩ちゃん呼んでくる!」 ダッ

 
哩「うわっ、何やってんだ!」

絹恵「タオル持って来ました!」

塞「そっち持って!」

バタバタバタバタ

胡桃「……」

塞「あ、胡桃は外出てて」

胡桃「え?」

塞「誕生日、台無しにしてごめん」

ちゃちゃのん「あはは……せめて楽しんできてほしいけぇ、ここは任せてくれてええよ」

胡桃「で、でも……」

哩「私からも頼む」

哩「こいつちょっと外に出して見張っておいてくれ」

洋榎「え、ウチも退場!?」

哩「当たり前だ。出禁にでんだけ感謝してほしいばい」

洋榎「うう……」

 
胡桃「追い出された……」

洋榎「まあ、実際あんだけばたついとったら、人おっても邪魔なんやろうけど……」

胡桃「……」

洋榎「まあ、ノリノリで遊び行く空気ではないわなあ」

胡桃「うん……」

洋榎「……しゃーない」

洋榎「せやったら、ワイがクッソはしゃがせたるわ!」

胡桃「へ?」

洋榎「ここでアンタがずっとしょげとったら、ホンマにウチら申し訳が立たんしな」

洋榎「それに自分のせいで恩師が誕生日楽しめへんとか、死んだ漫も浮かばれへんやろ」

胡桃「まだ死んでないし洒落にならないから!!」

 
洋榎「ほんなら、デートといこか」

胡桃「でっ///!?」

洋榎「ええやろ、デートで」

胡桃「いや、そーいうのは恋人とするものじゃ……」

洋榎「ええやんええやん、お固いこと言わんと」

洋榎「今日でメンバー同期組は全員二十歳っちゅーことで、二十歳らしい遊びコース考えとってん」

胡桃「そうなんだ……」

洋榎「無駄にしたないし、二人になってもーたけど、行ってくれへん?」

胡桃「……しょうがないなあ」

胡桃「漫ちゃんは心配だけど……確かに、ずっと心配して暗い顔してたら、そのことを気に病みそうだもんね」

洋榎「よっしゃ、アダルティックデートや!」

胡桃「言い方がいやらしい!!」

 
洋榎「と、いうわけで、パチンコアンドスローット!」

胡桃「ハイパー安易ッ!」

洋榎「でもちゃんとリサーチしたで!」

洋榎「ここの店がうちの大学のやつが多い!」

胡桃「その情報何か意味ある!?」

洋榎「まあ、世の中には時間つぶしで1円パチンコをやる輩もいるようやけど……」

洋榎「我ら学生は刹那に生きるッ!」

洋榎「一番高い奴いくでー! いくらなのか知らんけど!」

胡桃「うわあ不安しか無い」

洋榎「ま、ウチも初心者やし、気楽に行こうや」

胡桃「初心者二人だから不安なんだよ!」

洋榎「大丈夫大丈夫、二人なら怖くない」

胡桃「一人でビビって来なかったと思われる人に言われたくない」

 
洋榎「とりあえず好きな漫画とかの台座ったらええんちゃう」

胡桃「何やるの?」

胡桃「あんま離れると不安なんだけど……」

洋榎「んじゃ一緒にキン肉マン打とうや」

胡桃「オッケー」

胡桃「……あれ?」

胡桃「あっちに一台しかないけど、もっと高い台あるよ?」

洋榎「えっ」

胡桃「高いやつでやるんじゃないの?」

洋榎「……さ、さすがにこのレートは……」

胡桃「話のネタにやってみたら?」

洋榎「……」

洋榎「ええい、やったる!」

洋榎「この沼とかいう台出したるわ!!」

 
洋榎「パチンコはクソゲー」 ブツブツ

洋榎「ホンマおもんないわ……」 ブツブツ

洋榎「運だけじゃない分麻雀の方が健全……」 ブツブツ

胡桃(笑顔が消えた!!)

胡桃「え、えーと、次はどこかなっ!」

胡桃「私はビギナーズラックで勝ったし、ちょっとくらいなら出すよ!」

洋榎「じゃあ、ちょっとだけ貸してくれ」

洋榎「増やしにいくで!」

胡桃「え、まさか」

洋榎「オトナと言えばーーーーーー!!」

洋榎「競馬ーーーッ!」

胡桃「オトナのイメージがただれきってるっ!」

 
胡桃「あれ、馬いないんだ」

洋榎「ホンマや」

洋榎「どうやらここは馬券買うだけの場所みたいやな」

胡桃「モニターで見ればいいのかな」

洋榎「うーん、競馬場まで足運ぶべきやったか?」

胡桃「いいよ、大変だし」

胡桃「……移動時間の分、遊ぶほうが、私は好き」

洋榎「そっか、そらよかった」

洋榎「……っと、ほんじゃま、テキトーに馬買いますか!」

 
洋榎「オラ、いけー!」

胡桃「走れー!」

洋榎「抜け! そこや!」

洋榎「ぶっ殺せー!!」

胡桃「殺しちゃダメだから!!」

洋榎「お……お……」

洋榎「きたああああああああああああ!!」

胡桃「うわああああああ当たり!? 当たり!?」

洋榎「ひゃはっはー! マジかー! 競馬たぁのしィーーーー!!」

 
洋榎「いやー、あの後は外れてもーたけど、トータルでは勝ったなー」

胡桃「リアル万馬券だもんね」

洋榎「ツイッターに書き込んだろー」 カチカチ

胡桃「あ、写メとりたい」

洋榎「お、いいねー」 ゴソゴソ

洋榎「……」

洋榎「……ん?」 ゴソゴソゴソゴソ

胡桃「ん?」

洋榎「……」 ゴソガサパパパパパッ

胡桃「ど、どしたのそんなに全身漁って……」

洋榎「え? え? いや、ちょい待って」 サーーーーーッ

胡桃「え、ま、まさか……」

洋榎「……」

胡桃「……」

 
洋榎「アカン、めげてきた」

胡桃「げ、元気出してよっ」

胡桃「私の誕生日を盛り上げてくれるんでしょっ」

洋榎「そ、そうやな!」

洋榎「二十歳っぽいことはまだまだあるでぇ!」

洋榎「二十歳といえばーーーーー!!」



  選  挙



洋榎「選挙ポスター見ながら政治談義でも……」

胡桃「……楽しい?」

洋榎「いや……」

 
洋榎「ま、まだまだァ!」

洋榎「二十歳といえばーーーーー!!」



  国  民  年  金  納  税



胡桃「……楽しい?」

洋榎「……全然……」

胡桃「……ていうか、これをどう満喫するの……」

洋榎「……」

胡桃「……次、いこっか」

洋榎「……せやな」

 
洋榎「は、二十歳といえばーーーーー!!」 ヤケクソッ



  タ  バ  コ



胡桃「……私健康重視だから……」

洋榎「え、まじ。カートン買ってもーたんやけど」

胡桃「いいよ、あげる」

洋榎「ウチタバコ苦手やねん」

胡桃「……」

洋榎「……」

胡桃「来年の漫ちゃんの誕生日にでもあげよう」

洋榎「せやな」

 
洋榎「あ、あれー?」

洋榎「存外おもんないぞ二十歳……」

胡桃「ていうか、自分も二十歳なんだからわかるでしょ」

洋榎「いや、ウチだけ先にっちゅーのも悪いかと思って、酒も割りと我慢しとったし……」

洋榎「皆でパーッとオトナって感じのことしたかってんけど……」

胡桃「以外となんにも変わらないね」

洋榎「あー、あとアレやな」

洋榎「ローンとかに親の許可がいらんくなった」

胡桃「え、今からローンでも組みにいくの?」

洋榎「……やめとくか」

胡桃「そうしよう」

洋榎「じゃあ、えーっと……おっパブとかいうとこ行ってみる?」

胡桃「女二人で?」

洋榎「……」

胡桃「……」

二人「「二十歳面白くなっ!」」

洋榎「……」

胡桃「……ぷっ」

洋榎「ぷはは、ハモったな!」

胡桃「もー、先に爆笑しないでよ!」

胡桃「こんなくだらないことで笑うなんて、大阪人失格だね!」

洋榎「いやいや、しゃーないやんwwww」

洋榎「こーいうくだらんことでも爆笑できてなんぼやでw」

 
洋榎「ちゅーわけで、二十歳縛りはおしまい!」

胡桃「はやっ!」

胡桃「ギャンブルしかしてないっ!」

洋榎「まあええやん」

洋榎「こっからはホンマモンのアダルトデートや」

洋榎「オトナのデートコースっぽいとこ、見せたるわ!」

胡桃「へえ、楽しみにしとくよ、期待しないで」

洋榎「しろや!」

 
洋榎「ショッピーング!」

胡桃「意外とまともにおしゃれな雑貨屋……!」

洋榎「ちゃちゃの奴がこーいうの好きらしくてな」

洋榎「色々教えられてん」

胡桃「へー」

胡桃「ちゃちゃちゃんセンスいーもんねー」

洋榎「女子力ってやつやな」

胡桃「うーん、私達も女子力身につけないとね」

洋榎「ウチは女子力の塊やで?」

胡桃「あ、このクマかわいい」

洋榎「無視か!」

 
洋榎「海遊館とかは敢えて外して……」

洋榎「おしゃれなバー!」

胡桃「おお、何かアダルティ!」

洋榎「普段あの店ばっかやから、たまにはええやろ」

胡桃「確かに、何か新鮮ー」

洋榎「他にもまだまだ行ける所あるでー」

洋榎「大阪観光地だけで相当あるし、夜はまだまだこれからや」

胡桃「意外と普通に回れるんだ」

胡桃「大阪名物とかいって、ジョーシン回るくらいするかと思った」

洋榎「ウチを何だと思とんねん」



※ジョーシン=家電量販店

 
洋榎「そんでもって……ここや!」

胡桃「梅田のこっち側はあんま来ないから分からないや」

洋榎「まあ、ビルばっかりやしな」

洋榎「その中で、敢えてのこのホテル!」

胡桃「うわあ、オシャレ」

洋榎「なんでも、関西じゃケッコー人気の結婚式場でもあるらしいで」

胡桃「へえ」

胡桃「意外だなあ。そういう情報仕入れてるんだ」

洋榎「バイトが最近よくこーいう雑誌見とるから、チラ見しただけや」

胡桃「ああ、そう……」

 
胡桃「何か、でも、高そうだね」

洋榎「まぁなー」

洋榎「結婚式自体どんなもんかかるんか、未知やけどな」

胡桃「あー、そういえば、そろそろ結婚する人が出てくる頃かぁ……」

胡桃「成人式が怖いなぁ」

洋榎「ウチ、この前ばったり遭遇した小学校の頃のダチが子持ちになっとったわ」

胡桃「うわー」

洋榎「……同じ年にも、もうあんな立派なオトナがおんねんもんなぁ」

洋榎「ウチラも、いつまでもコドモのままじゃおられへんのかもな」

胡桃「……そうだね」

胡桃「いつかはきっと、結婚もするんだろうしね」

洋榎「まずは相手探しからやけどな」

胡桃「うるさいそこっ」

 
胡桃「でも、ちょっと憧れるかも」

胡桃「こんないい雰囲気の所で結婚式したいなぁ……」

洋榎「乙女やなー」

胡桃「うるさい」

洋榎「ウチにはちょっと上品すぎるかなー」

洋榎「やるなら、もっとこう、パーっと馬鹿騒ぎできるような雰囲気の所がいいわ」

胡桃「えー」

洋榎「まあ、場所は梅田やから超いいけどな」

胡桃「確かに、いい場所だよね」

胡桃「すごく来やすいし、わかりやすい」

 
胡桃「まあ、場所を考えなきゃ、神戸のおしゃれな海の見える教会なんかでもいいけど」

洋榎「ベッタベタやなあ」

洋榎「ウチはもうちょっと、こう、笑いのとれる式がええなあ」

洋榎「アホみたいな仕掛けとかで登場したい」

胡桃「スモークもくもくーと焚いてワイヤーで吊られて登場とか?」

洋榎「お、わかっとるやん!」

洋榎「そんな感じそんな感じ」

胡桃「趣味悪い」

洋榎「やかまし!」

洋榎「とにかくウチは、楽しさ最優先やねん」

洋榎「いくらオシャレでも、ここはウチの趣味に合わんわ」

胡桃「そ、そういうことは小声で言って!」

 
ふと、思い出した、二十歳の時の思い出。

色気もへったくれもない、貴女との初デート。

塞以外の人と、久々に二人っきりで長時間出歩いた日でもある。

胡桃「……面白い式場がいいー」

洋榎「!」

胡桃「そんなこと言ってたよね、そういえば」

洋榎「え、そうやったっけ?」

胡桃「言ってたよ」

胡桃「岸和田セントジョーンズチャーチでライスシャワー浴びるより、甲子園球場でジェット風船の残骸浴びたいんじゃなかったっけ?」 ニー

洋榎「わ、忘れたわそんなボケ!」

洋榎「ほんまの式場探しの時に、阪神甲子園球場借りてみたいなんて言い出せるわけないやん!」

胡桃「ま、そうだけどね」

胡桃「……でも本当によかったの? このホテルで」

胡桃「あの時ここ来たけど、あんまり気に入ってなかったような」

 
洋榎「ま、まあ、そら、ウチの趣味ではないけど、別に嫌だったわけじゃ……」

胡桃「……」

洋榎「……」

洋榎「まあ、それに、なんや……」

洋榎「う、ウチにとって一番の式場は、大事な人が喜んでくれるとこやから……///」 カァァァァ

胡桃「……」

洋榎「……」

胡桃「……」

洋榎「何か言えや///!!」

胡桃「いや、なんか、真顔だったから聞いてて恥ずかしくなってきて///」

洋榎「だからって黙るのやめ///!」

 
洋榎「……でもちょっとだけ、不安にもなったんやで」

胡桃「え?」

洋榎「所詮それはウチの自己満足やからな」

洋榎「……もしかして、そーいうの、うざいかなー……なんて」

胡桃「……ばかみたい」

洋榎「うっ」

胡桃「普段通り、自信満々にドヤればいいんだよ」

胡桃「……そこまで愛されて、嫌な気するわけないじゃん」

洋榎「……」

胡桃「……」

洋榎「……」

胡桃「な、なんか言ってよ///!」

洋榎「はっはっは、さっきの仕返しや」

洋榎「いやー、まあ、あれやな」

洋榎「さっきのはマリッジブルーとかいうやつかも」

洋榎「すまんな、色々心配かけて」

胡桃「意外とナイーブだよね」

洋榎「そうやでー」

洋榎「常に何したら幸せにできるのかー、とか考えとるしな」

洋榎「まあ、結婚は人生の墓場っちゅーしなー」

洋榎「不安にもなるで、そら」

洋榎「……ウチこんなんやから、愛想つかされたりしないかとか、結構、気にしてんねんで」

胡桃「いや、それは杞憂だって何度も……」

洋榎「それでも」

洋榎「……どうしても、不安になってまうねん」

洋榎「ウチみたいなののプロポーズ受けれ入れてくれただけでも幸せなんや」

洋榎「それがいつまでも続くなんてこと、あるもんかいな、ってな具合でな」

 
胡桃「まあ、でも、そうだね。わからなくもないかな」

胡桃「初デートで、『有名やから乗ってみたかってんw』とか言って、乗ったら別れるで有名な観覧車に乗せてくるし」

洋榎「うぐ、面目ない……」

胡桃「でも、いいから」

洋榎「へ?」

胡桃「そーゆーの、いーから」

胡桃「そこまで色々考えなくていいから」

胡桃「だから――」






胡桃「しあわせに、してください」

 
そう言うと、貴女は笑った。

そして、言った。






洋榎「言われなくとも」






言われなくても、幸せにする――

それこそ、私が言いたいくらいだ。

だって私は知ってるから。

貴女には、幸せにする力が十二分にあることを。

だって、貴女は、たくさんの幸せを、すでに私にくれているから。

貴女の持ってる力を、誰よりも信じられる。

 
特に、二十歳の誕生日。

あの時、自覚させられたから。

洋榎「あ、もうこんな時間や!」

胡桃「うわっ、終電……!」

洋榎「長居しすぎてもーたな」 アハハ

胡桃「漫ちゃん無事だってメール貰って、完全に気が抜けてたね……」

笑う貴女に呆れたように相槌を打って。

それでもどこか、笑みがこぼれてしまうくらい楽しくて。

そういえば彼女に会ってから、毎日が楽しかったな、と気付かされて。

多分、あそこで、私の中に植え付けられてた恋心の芽が、出始めたんだと思う。

 
洋榎「日付もかわってもーたし、これで二人共完全にオトナやな!」

胡桃「なにそれ、ばかみたい」

二十歳になったらオトナになる。

コドモの頃は漠然とそう思ってたけど、いざなってみると特に何かが変わった感じなどしなくて。

あの頃も、オトナぶってても、コドモである感覚が抜けなくて。

胡桃「何か、二十歳になってもオトナになったって実感わかないね」

洋榎「まあ、せやろなあ」

性的な意味でもコドモだったけど、多分、そういうことじゃなくて。

精神的にも、まだまだコドモで。

でも、ちょっとずつ、ゆっくりとだけどオトナにはなってきていて。

あの時から、ずっとずっと、オトナになろうと思ってきたけど、まだ完全にはなりきれてなくて。

 
でも、きっと、私は今日、また一歩オトナになる。

もう社会に出て結構経つけど、思い描いていたオトナにはなれてなくて。

それでも、今日、貴女の手により、私は少し、オトナになる。

胡桃「約束だよ。絶対、幸せにしてよね」

洋榎「あったりまえや。ウチが約束破ったこと、あったか?」

胡桃「パッと思い浮かぶだけで20くらいは」

あの日、初めて二人でデートした場所で。

また貴女に、私はオトナにしてもらうのだ。

洋榎「いや、まあ、ほら」

洋榎「過去のミスとか、そーゆーのいーから」

洋榎「信じてくれや、絶対、幸せにしたるからな」

言われなくても。

今度は私が、そう応える番だった。



カン!

なんとか区切りを無理矢理つけました。長々お付き合いありがとうございました。
忍法帳のせいで詰め込みすぎ感が出たのと、遅筆なのは申し訳ない。

明日の夜くらいから明後日の夜くらいにかけてで、後編落とそうと思います。
スレタイは胡桃「そーゆーのいーから幸せにする!」洋榎「ああ……絶対……!」を予定してます。
よろしければお付き合い下さい。

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