クソ娘「うんち食べたい」男「便秘なんだ……」(118)

<トイレ>

男「水に落とさないよう、トイレットペーパーを敷いて、と……」

男「ふんっ!」ブリュッ ブリュリュッ

ホカホカ……

男「さて、どんなもんかな」チラッ

男「バナナ型……長さは13cmってとこか。まあまあだな」

男「お~い、ご飯だぞ~!」

クソ娘「わぁ~い!」

クソ娘「どれどれ……」クンクン

クソ娘「わぁ~いい匂い! 美味しそ~!」

男「よく噛んで食べるんだぞ」

男「うんこが消化できないとか、ギャグにもならないからな」

クソ娘「うんっ!」

クソ娘「いっただっきまぁ~す」

クソ娘「うん」モシャモシャ

クソ娘「美味し~!」モシャモシャ

男「ハハハ、そうかそうか」ナデナデ

クソ娘「お兄さんも少し食べる?」

男「いや、俺はいいや」

クソ娘「こんなに美味しいのに、もったいな~い」モシャモシャ

男「…………」

男「なぁ、一つ聞いていいか?」

クソ娘「なに?」モシャモシャ

男「うんこって、どんな味がするんだ?」

クソ娘「と~ってもクリーミィで、と~ってもゴージャスで」

クソ娘「と~ってもワイルドで、と~ってもクールで」

クソ娘「と~ってもデリシャスなの!」

男「…………」

男(全然分からん、が)

男「君にとってはとても美味いってことが分かった」

クソ娘「この味を味わえないなんて、ホントもったいないなぁ」

───
──

男(この少女はクソ娘という)

男(その名の通り、うんこを食し、うんこをこよなく愛する)

男(外見は一見、人間と全く変わらない)

男(しかし、彼女には人間と大きく異なる点があるのだ)

男(そう、もうお分かりだろう)

男(彼女には──)

男(肛門がないのだ!!!)

男(肛門がなければうんこができないじゃないか、と思うかもしれない)

男(しかし、そんな心配は無用である)

男(なぜなら、彼女にはうんこをする必要がないのだ)

男(彼女はうんこを食べ、体内の中で全てエネルギーに変えてしまう)

男(すなわち)

男(食物連鎖の最終地点)

男(食物連鎖を終わらせる少女なのである!)

男(彼女が何者なのか、俺は知らない)

男(また知るすべもない)

男(俺が彼女について知ってることといえば)

男(うんこしか食べない、肛門がない。本当にこれぐらいである)

男(さて、ここらで俺と彼女の出会いについて話すとしよう)

~ 回想 ~

<公園>

男(やべぇ……出る!)ピーゴロゴロ

男(この公園には便所があったはずだが、もうそこまで持たない!)ゴロゴロ…

男(しかたない……その辺の茂みで出すか)ガサゴソ…

男(せめて、いい肥料になってくれよ……)ズルッ

ブリュルルルルッ!



クソ娘「!」ピクッ

クソ娘「今、美味しそうな音がした!」

男「はぁ~……出たぁ~!」

男(ケツがいてぇ~! 下痢すると、いつもこうなるんだよなぁ……)

男「ん?」

男「うおわぁっ!?」

ピチャピチャ……

クソ娘「う~ん、今までで一番かも」ピチャピチャ

男「オイお前、何やってんだ!?」

クソ娘「見て分かんないの? あなたのうんちを食べてるの」ジュルジュル

男(分かるわけねえだろ)

クソ娘「美味しい~!」ペロペロ

男(あっという間に平らげていく……)

クソ娘「ねぇ、今なめたあなたの下痢便、今までで一番美味しかった!」

クソ娘「光栄に思っていいよ!」

男「はぁ……」

クソ娘「私、クソ娘っていうの! ねぇ、あなたにお願いがあるの!」

クソ娘「私をあなたの家に置いてくれない?」

クソ娘「私、あなたのうんちを毎日食べたいの!」

男「!?」ギョッ

男(こんな変な娘を家に置くなんて、絶対イヤだ)

男(だけどこれを断ったら断ったで、ひどい目にあわされそうで怖い……)

男(っていうか、興奮して今飛びかかってこられでもしたら、大惨事だ)

男「わ、分かった……いいよ」

クソ娘「ホント!? ありがとう!」ギュッ

男「うわぁっ!?」

男(こうして俺たちは出会い)

男(それから半年余り──今のような生活が続いている)

男(食費は全くかからないので)

男(独身会社員である俺にとって、彼女の存在はさほど負担にはならない)

男(むしろうんこを食べるところを除けば、可愛いし、健気なところもあるし)

男(いい癒やしになるくらいだ)

男(それも影響してか、彼女が来てから会社での俺の成績はグーンと上がった)

男(俺はこんな生活がずっと続けばいいなぁ、と思っていた)

男(そんなある日のことだった)

<会社>

課長「キミ」

男「なんでしょう、課長」

課長「話があるので、ちょっと来てくれたまえ」

男「は、はい」

男(な、なんだ!?)

男(このところ大きなミスはしてないはずだが……)

男(まさかクソ娘の存在がバレた!? いや、ありえない……)

課長「今、会社で進めてる例のプロジェクト……知っているね」

男「はい」

男「各課から選りすぐりの人員を集めているとか」

課長「実はウチの課からは、君を推薦したいと思っている」

男「えぇ!?」

男「でも、先輩を差し置いて俺が選ばれるってのはちょっと……」

課長「いや実はこの間、彼とも少し話してね」

課長「彼も、君を推薦することに異論はないそうだ」

男「先輩が……」

男(や、やった……)

男(あのプロジェクトに携われれば、自分のキャリアになるし)

男(成功させれば、もちろん給料だってよくなるだろう)

男(これもクソ娘のおかげだ……ありがとう)

課長「どうだ、やってくれるかね?」

男「ぜひ!」

課長「よくいってくれた! それでこそ私の部下だ」

<自宅>

男「ふんっ!」ブリュウッ

男「ふぅ……」ゴシゴシ

男「よぉ~し、トイレットペーパーに汚れがほとんどつかない! 今日は快便だ!」

男「お~い、ご飯だぞ~!」

クソ娘「わぁ~い」パタパタ

クソ娘「おぉ、今日は形も匂いもパーフェクトだね」クンクン

男「まぁな」

男「仕事が順調だと、うんこも順調になるみたいだ」

クソ娘「?」

クソ娘「プロジェクトの一員?」モシャモシャ

クソ娘「ふ~ん、よく分かんないけどよかったね!」モシャモシャ

男「ああ、これもお前のおかげだ」

男「この仕事がうまくいけば、きっとお前にももっといいうんこを食わせてやれる」

クソ娘「これ以上いいうんちなんて食べたら」モシャモシャ

クソ娘「私、嬉しさで死んじゃうよぉ」モシャモシャ

男「こいつめ、ハハハ」

<会社>

リーダー「ようこそ」

リーダー「私がこのプロジェクトのリーダーだ」

リーダー「君たちは各課から選ばれた精鋭揃い」

リーダー「なんとしてもこのプロジェクト、やり遂げるぞ」

インテリ「はい」

モーレツ「おう!」

マイペース「…………」

男(さすが各課の精鋭だけあって、アクの強そうなのが揃ってるなぁ)

男「あの、これなんですけど」

男「ちょっと教えていただけないですかね?」

インテリ「君、こんなことも分からないの?」

男「!」

インテリ「なんで君みたいのが選ばれたんだか……」フゥ…

男「す、すみません」

インテリ「そうやって謝れば、教えてもらえるって思ってるところもイヤだよねぇ」

インテリ「プライドってもんはないのかい? あ~やだやだ」

男「…………」

モーレツ「もっと声を張り上げろよ!」

男「は、はい」

モーレツ「声がちいせぇっ!」

男「はいっ!」

モーレツ「いいか、声をでかくしねぇといい仕事なんかできねぇぞ!」

モーレツ「徹底的に根性叩き直してやっからな!」

男(一理あるんだか、ないんだか……)

男(仮にあるとしても、耳元でギャーギャー怒鳴るなよ……十分聞こえてるっての)

男(ホントに鼓膜が破れそうだ……)

男「あの、さっきこれ優先的にやってくれって頼みましたよね?」

男「こっちを先にやってくれませんか?」

マイペース「でも俺、今これやってるから」カチャカチャ

男「それは後回しでもいいやつじゃないですか」

マイペース「でも俺、今これやってるから」カチャカチャ

男「いや、だから──」

マイペース「でも俺、今これやってるから!!!」カチャカチャ

男「わ、分かりました。順番はお任せします」

男「……リーダー」

リーダー「ん?」

男「みんなやりたい放題なんですが、もう少し仕切っていただけないでしょうか……?」

リーダー「今まで違う課にいた連中を一堂に集めたんだ」

リーダー「しかもみんな能力が一流な分、プライドも一流だろうし」

リーダー「多少身勝手なのはしょうがないさ」

男「でも──」

リーダー「そんなことより、早いところプロジェクトの進捗具合を報告してくれ」

リーダー「今度会議で報告しなきゃいけないから」

男「…………」

男(ったく、ムチャクチャだよ)

男(たしかにみんな仕事に関しては優秀だ。それは間違いない)

男(でも、チームワークがなさすぎる……)

男(あの三人が、揃って俺をサンドバッグにしてるから)

男(なんとかプロジェクトチームは衝突せず成り立ってるが……)

男(緩衝材にされる方はたまったもんじゃない……)

男(リーダーも仕事はともかく、指揮官としては全く頼りにならないし……)

男(あ~……胃がキリキリする……)

<自宅>

クソ娘「……ねぇ」

男「ん?」

クソ娘「最近、うんちが硬かったり、下痢だったりが多いけど……どうしたの?」

クソ娘「どこか体の具合でも悪いの?」

男「いや、なんでもないよ」

男「なんでもないんだ……」

クソ娘「そう……ならいいんだけど」

男(こんな可愛い子に、ひどい便を食わせてしまっている自分が情けない……)

<会社>

男「あ、これ計算間違ってますよ」

インテリ「!」ピクッ

インテリ「そんな重箱の隅をつつくようなマネして嬉しいかい?」

インテリ「ぼくの間違いを指摘できて、満足かい?」

インテリ「満足だろうねぇ、日頃ぼくに指摘されてばかりいる身なんだからさ」

インテリ「えぇ?」

男「いや、そんなことは──」

インテリ「早くよこせ、すぐ直すっ!」バッ

インテリ「ったく……」ブツブツ…

インテリ「無能は人のあら探ししかできないのか……」ブツブツ…

男「…………」

モーレツ「オイ!」

男「は、はい!?」

モーレツ「一緒に社訓を唱えるぞ!」

男「いや今、急ぎの書類を作ってて──」

モーレツ「うるせぇ、今すぐやるんだ!」グイッ

モーレツ「でかい声で社訓を読み上げることこそ、いい仕事につながるんだ!」

モーレツ「我々従業員は! 世のため人のため! 誠心誠意を尽くし!」

男「我々従業員は、世のため人のため、誠心誠意を尽くし……」

モーレツ「声がちいせぇっ!」

男「はいっ!」

男(今日何度目だよ、これ……)

マイペース「もうこんな時間か」

マイペース「今日見たいドラマあるから帰るわ」スッ

男「え、ちょっと待って下さい!」

男「さっきリーダーが俺たちに今日中にこれやれって……」

男「二人で協力すれば、すぐ終わりますって」

マイペース「うん、でも見たいドラマあるから」バタンッ

男「ちょっ──」

男「ふざけんなよ……」

男(また終電か……いや下手すりゃ泊まりかもな)

リーダー「君、最近やたら帰りが遅いみたいだね」

リーダー「だいぶ無理させてんじゃないか、ってちょっといわれてさ」

リーダー「仕事は時間内にきっちり終わらせてくれよ」

リーダー「ちゃんと計画を立てて効率よく仕事すれば、残業なんて必要ないんだ」

リーダー「残業する自分に酔うようになったら、サラリーマンはオシマイだよ」

男「すみません……」

リーダー「あ、あとプロジェクトの進捗レポート、作っておいてくれ」

リーダー「こないだみたいに字だけじゃダメだ。俺が会議で説明しにくい」

リーダー「分かりやすい図とか写真や……あ、あとグラフも欲しいな」

リーダー「色とかもセンスあるようにしてくれよ」

リーダー「明日の朝、緊急の会議があるから、今日中に」

男「はい……」

男(自分の仕事もあるのに……)

<自宅>

ジャァ~……

男(粘ったけど出なかった……これで一週間か……)

クソ娘「ねぇ……」

クソ娘「うんち食べたい」

男「便秘なんだ……」

男「ごめんな……」

クソ娘「ううん、いいよ。また犬のうんちとか食べるから」

クソ娘「だけど、早く便秘解消してね」

男「ああ、ありがとう……」

男(このままじゃマズイよなぁ)

男(時間が経てば経つほど、チームがバラバラになっていく……)

男(かといって俺がいくらいっても、全く聞く耳持たないし……)

男(本来プロジェクトに加わるはずだった先輩に、相談してみるか……)

<会社>

男(この課に来るのも久しぶりだな……)

男(プロジェクトチームに入ってから、一回も戻ってないもんな)

男(──ん、話し声?)



課長「彼、うまくやっとると思うか?」

先輩「いやぁ~手ひどくやられてるみたいっすよ」

課長「だろうな」

先輩「ホントよかったっすよ、プロジェクトの一員なんかにされずにすんで」

課長「まぁな」

課長「各課精鋭を出すといっておきながら」

課長「実際は、能力はあるが課で扱いきれない人間を放出したみたいだからな」

課長「優秀な厄介者というのは、ホント扱いに困るからねえ」

課長「性格は破綻してるのに仕事ができるってのは、始末に負えんよ」

先輩「えぇ、ウチの課にはそういうのはいなかったっすけど」

先輩「あんなとこに送り出されたらたまったもんじゃないっすよ」

先輩「あいつに押しつけることができて、ホントよかったっす」

課長「例のプロジェクト、うまくいくと思うか?」

先輩「あのプロジェクトチーム、各自好き勝手に動いてメチャクチャらしいっすよ」

先輩「グダグダでプロジェクト自体立ち消えになるかもってウワサもあるっす」

先輩「そしたらあのチームのメンバー、精鋭どころか一気にリストラ候補っすよ」

男「…………」

男(ちくしょう……)

男(俺がメンバーに選ばれたのは、てっきり能力を見込まれたからだと思ってたけど)

男(厄介な奴らの世話役を押しつけられただけの話か……)

男(ハハ……なにが仕事が順調ならうんこも順調、だ)

男(もっといいうんこを食わせてやれる、だ)

男(バカバカしい)

男(おかげで俺はもう一週間以上、便秘だっつうの……!)

男(相談なんかできるわけねえ……)

───
──

インテリ「ったく、こんなことも分からないのか。よほど脳みそが小さいんだね」フゥ…

モーレツ「声がちいせぇんだよぉぉぉ!」

マイペース「俺、今その仕事する気分じゃないから。自分でやれよ」

リーダー「相談したいことがある? そんなことより早く報告書を作ってくれ」



男(あああああ……)

男(こんなの……もうどうしようもない)

男(そういや……うんこももう一ヶ月くらい出てないな……)

男(仕事は行き詰ってるし、便も詰まってる……)

男(ハハ、ハハハ……)

男(今日は久しぶりに家に帰れた……)

男(そういや最近クソ娘とも全然しゃべってないな……)

男(俺が便秘だから犬のうんこ食ってるらしいが、なんか痩せてきてたよな)

男(まぁ、今の俺は人の心配してる場合じゃないんだけど……)

男「ただいま……」

ガチャッ

男「!」

クソ娘「うぅ……」グッタリ

男「オイ!?」

男「どうしたんだ、しっかりしろ!」グイッ

クソ娘「あ、お兄さん……久しぶり、だね……。今日は帰って……これたんだね……」

男「なんでこんなに痩せこけてるんだ!?」

男「たしかに俺はずっと便秘だったけど──」

男「犬のうんことかを食べてたんじゃなかったのか!?」

クソ娘「実はね……」

クソ娘「指紋や声紋みたいに、うんちにも“便紋”ってものがあるの……」

男「べんもん……」

クソ娘「同じように見えて、人のうんちはひとりひとり違うの」

クソ娘「そして私は、同じ“便紋”のうんちを連続して何度も摂取すると」

クソ娘「それ以外、体が受けつけなくなってしまうの……」

クソ娘「あなたのうんちがあまりに美味しくて、うっかりしてたよ……へへ」

男「ってことはつまり……お前はとっくの昔に」

男「俺のうんこ以外食えない体になってたってことか!?」

クソ娘「うん……」

男「バカヤロウ!」

男「なんでいわなかった!」

男「いってくれれば、下剤でもなんでも飲んで、うんこをひねり出したってのに……!」

男「なんで……!」

クソ娘「ごめんなさい……」

クソ娘「でも最近のお兄さん、とっても忙しそうだったし……」

クソ娘「いえなかったの……」グスッ

男「!」

クソ娘「安心して、私は死んだら跡形もなく分解されるから……」

クソ娘「後始末には困らないよ……」

男「なにいってんだ! 死ぬなんていうんじゃない!」

男「待ってろっ! 今すぐうんこを出してきてやるからなっ!」

男「絶対死ぬんじゃないぞ!」

クソ娘「う……ん」

男(まだしゃべるぐらいの体力は残ってる!)

男(一ヶ月溜まった便をまとめて放出すれば、かなりの食糧になるはず!)

男(絶対出してやる!)ダッ

<トイレ>

男(トイレの水たまりのところに蓋をして、と……)

男「ふんっ!」

男「ふんっ……!」

男「ふうんっ……!」

男(出ない……!)

男(脳の血管ブチ切れるんじゃないかって勢いで力んでるのに、出ない……!)

男(家に浣腸や下剤はないし、こんな時間じゃ病院もやってない……)

男(どうすれば……!)

男(こうなったら、指でほじり出してやる!)

男「出ろ!」ボリボリ

男(ダメだ! 肛門がセメントで固められたみたいになってる!)

男(だがセメントだろうとなんだろうと、ほじり出してやるっ!)

男「出ろ!」ボリボリ

男「出ろっ!」ボリボリ

男「出ろよぉっ!」ボリボリ

男「出てくれよぉっ!」ボリボリ

男「なんで出ないんだよぉぉぉぉぉっ!」ボリボリ

男「今出さなきゃ、クソ娘が餓死しちまうんだよぉぉぉぉぉ!!!」ボリボリ

男(指じゃダメだ!)

男(なにか浣腸の代わりになるものを探さないと!)

ガサゴソ……

男(なにかないか、なにかないか……)

ガサゴソ……

男「ん!?」

男(これはずっと昔に買った日曜大工のセット……)

男(棚を一つ作っただけで、すぐ飽きたけど……)

男(しかも、あの棚すぐ壊れたし……)

ガサゴソ……

男「これは、錐(きり)……!」ギラッ

男「これしかない!」

男「押し入れにしまいこんでた道具に、こんなこというのは身勝手かもしれない!」

男「だけど──」

男「だけど、今一度力を貸してくれ!」

男「その鋭い先端で、俺の固く閉ざされた肛門を開いてくれ!」

男「俺の肛門(うんめい)を刺し開いてくれぇぇぇぇぇっ!!!」

男(錐を俺の肛門に──刺すっ!)

ドスッ……!

男「あっ」

男「あぉうぉぉぉぉぉっ!!!!!」

男(錐を自分の肛門に突き刺した瞬間──)

男(俺はすぐに分かった……)

男(例えるなら、巨大ダムに生じた小さな亀裂……)

男(例えるなら、ネット上でささやかれた完成度の高い作り話……)

男(例えるなら、恋人同士に生じたささいな不協和音……)

男(ほんのわずかなきっかけが、大洪水、デマの流布、破局に繋がる)

男(ほんのわずかなきっかけが──)

男(たとえ神でも食い止められぬほどの、勢いを生み出す!)

男(土石流が……出る!)

ブリュ……

男「あっ」

ブリュリュリュリュリュ……!

男「あああっ!」

ブリュウウウウウウウウウウ……!

男「あああああっ!」

ブリュワァッシャァァァァァ……!

男「あがああああああああっ!!!」

ブリョアアアアアァァァブッシャアアアァァァァ……!

───
──

男「──どうだ、美味いか?」

クソ娘「もう最高っ!」モグモグ

クソ娘「さっきまで死にかけてたのが嘘みたい!」モグモグ

クソ娘「一ヶ月溜め込んでただけあって、いっぱい種類があるしね」モシャモシャ

クソ娘「肛門付近に詰まってたダイヤみたいに硬い便」ムシャムシャ

クソ娘「消化不良の柔らかい水っぽい下痢便」ジュルル…

クソ娘「そんな中に、奇跡的に混ざった健康な便」モグモグ

クソ娘「どれも美味しい……!」ペチャペチャ

クソ娘「口の中に消化液の酸がじゅわぁ~って広がるわぁ……」ジュワァ…

クソ娘「まさにうんちの満漢全席ね!」

男「あまり褒めるなよ」

男「便秘が治っただけなのに、一流シェフにでもなった気になってくるから」

ガツガツ…… ムシャムシャ……

男(久々にこの子の食事風景を見たけど……)

男(本当に美味そうに食べるよな……)

男(ブツを出したばかりってのもあるけど、なんか腹減ってきたな)グゥゥ…

男(どれ、ちょっと味わってみるか)

男(指につけて、と)ペロ…

男「おええええっ! まずっ! おえええっ!」ベッベッ



クソ娘「あ~美味しかった!」

クソ娘「ごちそうさま~!」ペコリ

クソ娘「でも……ごめんなさい」

クソ娘「私がいなければ、あんなムチャな出し方せずに済んだのに……」

男「なぁ~にいってんだ!」

男「あのままだったら、俺は便秘を治そうともしなかっただろうし」

男「そうなったら多分俺、便の溜めすぎで死んでたよ」

男「おかげで今、俺……心も体もスッキリしてるんだ!」

男「ありがとう……!」

クソ娘「お兄さん……」

男「そしてようやく、見つけることができた」

クソ娘「なにを?」

男「今の仕事……プロジェクトチームに風穴を開ける方法を!」

男「封印されし肛門を開いてみせたように……」

男「俺は自分の運命をこの手で刺し開いてみせる!」

クソ娘「よく分かんないけど……」

クソ娘「頑張ってね!」

<会社>

インテリ「この程度の仕事がまだ終わらないのかい?」

インテリ「まったく君ってやつは──」

男「見下すな」

インテリ「え?」

男「アンタの実力は認めてる。だから俺の能力にケチをつけるところまでは許す」

男「だが同じプロジェクトの一員である以上、見下すのだけは絶対許さん!」

インテリ「な、なにぃ!?」

男「もし今後俺を見下すようなマネをしたら──」

男「この錐をアンタのケツ穴にぶち込む!」ギラッ

男「分かったな!」

インテリ「うぅ……」

モーレツ「よっしゃあ! 社訓の読み上げやるぞ、付き合えっ!」

男「付き合わん」

モーレツ「あ? なに根性無しのくせにナマイキなこと──」

男「口では大阪の城も建つ、という」

男「口でいうだけなら容易いという意味だ」

男「いくら社訓を読み上げたところで、心が伴ってなきゃなんの意味もない」

男「アンタのその豪快なやる気は買うが──」

男「それを周りに押し付けるな」

モーレツ「こ、この……っ!」

男「もし、今後俺に社訓の読み上げに付き合うよう強要してきたら──」

男「この錐をアンタのケツ穴に突くっ!」ギラッ

モーレツ「な……!?」

男「声が小さいっ!!!」

モーレツ「は、はいっ!」

マイペース「今日はドラマあるから──」

男「帰らせん」

男「今から俺と二人で全力を出せば、ドラマには十分間に合うはずだ」

男「仮に見逃しても、後から内容を知る方法などいくらでもあるはずだ」

マイペース「いや、俺は帰るよ。命令されるの嫌いだし」

男「これは命令ではない……運命だ」

マイペース「!?」

男「もしこの運命を受け入れられないようなら──」

男「運命に逆らうというのであれば──」

男「この錐でアンタのケツ穴を、ドラマ以上にドラマチックにしてやる!」ギラッ

マイペース「わ、分かった……帰るのやめるよ……」

リーダー「他の三人から聞いたよ」

リーダー「なんでも錐で刺すなんて脅し文句で、彼らをムリヤリ従わせたんだって?」

リーダー「君のやってることは、れっきとした脅迫であり犯罪だ」

リーダー「やめないようなら、警察に──」

男「どうぞ、110番して下さい」

リーダー「なにぃ……!?」

男「ただし」

男「110番よりも119番にすることをオススメします」

男「なぜなら、あなたがボタンを三つ押す時には」

男「この錐があなたのケツ穴に押し込まれているでしょうから」ギラッ

リーダー「う、ぐ……っ!」

男(この日の俺の強さは、まさに印籠を持った黄門様の如し)

男(まさに水戸肛門であった)

男(大便秘を克服し、クソ娘を救った感動と興奮が)

男(俺をまるで夢の中で超人になったような気分にさせてくれたのだろう)

男(だが、会社から家に帰る頃にはとっくに夢から覚めていた)

男(泥酔から一気にシラフに戻ったようなものだ)

男(俺は自分のやったことを猛烈に後悔した)

男(大工道具で職場の仲間を脅すなど、はっきりいって正気の沙汰ではない)

男(俺はクビになることも覚悟した)

男(しかし──)

男「すみません、ここ教えていただけますか?」

インテリ「!」ビクッ

インテリ「ああいいとも……お安い御用さ」



男「たまには社訓の読み上げでも、やりますか?」

モーレツ「!」ドキッ

モーレツ「いや……ああいうのはもうやめたんだ、ハハ……」



男「今日はドラマの日ですから、急ぎましょうか」

マイペース「!」ギクッ

マイペース「録画してるから……いいよ」



男「今度会議ですが、報告書を──」

リーダー「!」ゾクッ

リーダー「報告書くらい自分で作るさ、うん」

男(彼ら四人は性格はともかく、能力は優秀だといっていい人たちだ)

男(だから、俺は怒らせるとヤバイということを即座に学習したのだろう)

男(また、緩衝材としてとはいえ俺はリーダー以上にプロジェクトの中心にいたので)

男(事件を表ざたにして、俺を退場させるのは得策ではないと判断したのだろう)

男(心の底では俺を虐げていたことに対するやましさもあったのかもしれない)

男(とにもかくにも、こうしてプロジェクトチームは奇跡的にまとまり──)

男(俺たち五人はプロジェクトを成功させることができた)

男(そして──)

<家>

男「ふんっ!」ブリュリュリュッ

ホカホカ……

男「どれどれ……」チラッ

男「お、バナナ型の24.5cm……超快便だな!」

男「お~い、朝飯だぞ~!」

クソ娘「待ってましたぁ~!」

クソ娘「美味しい~!」モッシャモッシャ

クソ娘「こんないいうんちが出たってことは、なにかいいことあったの?」モッチャモッチャ

男「まぁな」

男「俺の所属するチームが、今日社長表彰を受けるんだ」

クソ娘「社長表彰?」

男「みんなの前で、一番偉い人から褒めてもらえるってことだ」

クソ娘「へぇ~すごいじゃない! だからいつもよりおめかししてるんだね!」モシャモシャ

男「これから俺はもっと忙しくなるだろうが」

男「今後はもう二度と便秘なんてしないようにするからな!」

クソ娘「うん!」モグモグ

クソ娘(あのうんちの満漢全席……もう一度食べてみたい気もするけどね)

男「じゃ、行ってくる!」

クソ娘「行ってらっしゃ~い!」

<表彰式>

パチパチパチパチ……

社長「おっほん」

社長「君はプロジェクトの影のリーダーとして」

社長「他の四人を支えてくれたと聞いておる」

社長「しかし、元々プロジェクトのメンバーはみな個性が強烈だったと聞く」

社長「そんな彼らをうまくまとめたのには、なにか秘訣があるのかね?」

男「あります」

社長「ほう、よければ是非その秘訣を教えてもらいたいのだが」

男「……の力です」

社長「ウコンの力? ……なるほど、酒の席で親睦をはかったということかな?」

男「いいえ」

男「うんこの力です」



                                     おわり

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