咲「陽に照らされて花は咲く」(798)
淡「陽に照らされて星は輝く」
の後編になります。
原作設定を無視してオリジナル展開、オリジナル設定、独自解釈があります。
あくまでパラレルワールド的に捉えてください。
あと、前編以上にノリノリで麻雀パート書いてしまいました。すみません。
麻雀そのものは弱いです。積み棒計算は省きます。
決勝戦前日
菫「みんなお疲れ様。今年も決勝戦までこれたな。残すところあと一試合だ。油断せず、全力でいこう」
部員一同「はい!」
菫「では解散」
部員一同「ありがとうございました!」
菫「ふう……」
菫「誠子、照と大星がどこにいるか知ってるか? 見えないんだが」
誠子「え、ああ、なんか部屋にいるらしいです。宮永先輩はちょっと疲れたからって」
菫(で、大星はその付き添いか)
菫「わかった。ありがとう」
菫(照……準決勝からずっと様子がおかしかった。普段は真面目なのに、急に大星と
勝敗を賭けたりして……あいつらしくない)
菫(……少し様子を見てくるか)
福路美穂子ちゃんの美乳揉みたい
廊下
菫「あいつの部屋は私の隣だったな」
菫(本当は私と相部屋する予定だったんだが、大星が「テルと同じ部屋じゃないと
泊まらない」ってうるさかったからな)
菫「照、入るぞ」コンコン ガチャ
菫「照、大丈夫か?」
照「大丈夫」
淡「くぅー」スピー
菫「こいつは……集合かけても来ないと思えば、まさか寝てるとは……
本当に集団行動のできんやつだな。部活動だっていう意識がないのか?」
菫(ないんだろうなぁ……)ハァ
菫「それで、体調が悪いって聞いたが?」
照「それは嘘」
菫「……お前も大星に毒されてきたんじゃないだろうな?」
照「少し考え事がしたくて」
菫「そうか。――まあ、その、なんだ」
照「?」
菫「準決勝……お疲れ様。いつも通り大活躍だったな」
照「……どうしたの急に」
菫「労ってるんだ、素直に受け取れ。というか、他の部員にはさっき集合かけて
伝えたんだ。お前がこないから個人的に伝えにきたんだよ」
照「そう」
菫「……それで、どうしたんだ? お前準決勝からおかしいぞ」
照「……別におかしくなんてない」
菫「見くびるなよ。何年一緒に麻雀打ってきたと思ってる」
照「……」
菫「急に大星をけしかけるようなこと言ったり、終いには大将戦を代わってくれだなんて」
照「変更はできそうなの?」
菫「帰りに申請してきたよ。ちゃんと受理された。明日の大将はお前だ、照」
照「……そう」
菫「やっぱりなにかあるのか? あの清澄の大将と。……お前の……妹さんじゃないのか?」
照「くどい。違うと言っている」
菫「ならなんで大将を代われなんて言ったんだ。そもそもお前が大星を大将に据えたようなものだろう」
照「……」
照「別に。少し淡を買いかぶりすぎてただけ。この子になら大将が務まると思ったけど、
準決勝を見て、淡だと清澄に勝てないかもしれないと改めたの」
菫「そうか? 身内贔屓を差し引いても、十分清澄と互角以上に戦えてたと思うけどな。
まあ、大星の納得できる勝ち方ではなかっただろうがな」
照「でも、嬉しそうだったね、淡」
菫「確かにな。まあ、こいつは全国にも期待してなかったみたいだし、思わぬところで
自分と……それも同学年で互角に戦えるやつに出会えて嬉しいだろうな。連れてきてよかったよ、本当に」
照「……」
菫「? どうした」
照「菫は、どうしてそこまで淡を気遣うの?」
菫「どうしてって……後輩だからな。当然だ」
照「それだけ?」
菫「……どうなんだろうな。こいつはどこか放っておけないんだ」
照「菫はおせっかい焼き過ぎだと思う」
菫「おいおい、誰のせいだと思ってる」
照「……私のせいなの?」
菫「当たり前だ、まったく。一年の頃のお前は全く部に馴染めずにいつも一人で、
そのくせいつも寂しそうで、しょっちゅう迷子になるし、本当に世話のかかる奴だったよ」
照「……そんなことない」
菫「どの口が言う。お前は一年の頃から他の部員を圧倒してて、なんか一軍の人らも
どう接していいのか困ってたから、とにかく部で浮いてたぞ。私もそんなお前が
気になって仕方なくて、何度も話しかけたりして気を遣ってたらいつの間にか
お前の世話役を押しつけられたようなもんだ」
照「……ごめん」
菫「別に責めてるわけじゃないさ。ただ……そんなお前と大星は、驚くほど重なるんだ」
照「私と淡が?」
菫「ああ。言っただろ? 大星にはお前と同じ雰囲気を感じたって。だからだろうな、
こいつのことが気がかりで仕方ないんだよ私は」ツンツン
淡「ん……」スピー
照「……菫はさ」
菫「ん?」
照「淡が怖いって感じるときないの?」
菫「怖い? どうして」
照「実力が違いすぎる。この子と打って、次元の違いを感じたりしない?」
菫「この、ハッキリ言ってくれるじゃないか」
菫「……正直言って、次元の違いは感じる。こいつは実力までお前にそっくりだ。その差に愕然と
することはある。もしかしたらそれが怖いってことなのかもな」
菫「だが、大星から逃げ出したいなんて思ったことはない。大星と打つのはちゃんと
楽しいし、もっとこいつと打ちたいって思う。先輩が言う台詞じゃないかもしれんが、
いつかこいつに追いつきたいって思う」
照「そう……」
菫「お前もだぞ、照」
照「え?」
菫「前にお前と打つのは楽しいと言ったが、あれは嘘なんかじゃない。
……まあ、一年の頃は確かに、お前と私じゃあまりにも差がありすぎて腰が引けてたのは
事実だ。だが私はその頃から、お前から逃げ出したいなんて思ったことはない」
菫「でも……他の部員はそうもいかないだろう。なあ照、大星から聞いたか?
お前が部を引退して白糸台を卒業したら、大星も麻雀部を辞めるんだとさ」
照「……聞いてない。けど、そんな気はしてた」
菫「他の部員が引きとめるとも思えん。その様子だとお前も引きとめないみたいだし、
もう大星はいなくなるってことだぞ、照。いいのか?」
照「それはこの子の自由」
菫「……」フゥ
照「――私は」
菫「ん?」
照「私は……この子が怖い」
菫「は? 大星のことか?」
照「うん」
菫「怖い……? 怖いもなにも、お前大星に一度も負けてないじゃないか」
照「実力は関係ない。私は……この子の才能が怖い」
菫「? ますますわからんな。私もかれこれ永いこと麻雀を打ってきたが、お前以上の
才能の持ち主には出会ったことがないぞ。『高校生最強』『一万人の頂点』『牌に愛された子』。
どれもお前に相応しい呼び名じゃないか」
照「牌に、愛された……」
照「……」
照「淡は本当に牌に愛されてる。こんなに牌に愛されてる子を見たのは、この子で二人目」
照「何もしなくても牌たちが自然と淡のところへ集まってくる。この子の星の引力は、
その力を淡がコントロールしているってことだから」
菫「だったらお前だってそうだろう。あれだけ有効牌をツモりまくれるんだ。まさに
牌に愛された子の証だろう」
照「……」
照「私は……」
菫「……どうしたんだ照。お前、やっぱりおかしいぞ」
照「……」
淡「ん」
淡「んんー……!」フワーァ
菫「ああ、大星。起きたか」
淡「あれ、菫? なんでここにいるの?」
菫「こっちの台詞だ。集合かけたのに居眠りとはどういうことだ」
淡「だってテルが体調よくないって言ってたんだもん。誰かが傍にいてあげないと」
菫「じゃあ寝るなよ」
淡「いいじゃん別に。私昔から校長の話とか聞くの嫌で朝礼とかサボってたし」
菫「まったく……。ああそれと、オーダーの変更してきたから。大星は明日先鋒だ」
淡「はーい。ちぇ、ほんとは咲ちゃんと決勝で決着つけたかったのにな。まあ
テルの頼みなら仕方ないけどさ」
照「ごめん」
淡「謝ることないよ。咲ちゃんとは個人戦で白黒はっきりつけるから」
淡「それに……」
照「ん?」
淡(咲ちゃんが言ってたテルに伝えたいこと……それはきっと、一緒に卓を囲まないと見えてこないものだ)
淡(なら、テルが大将になりたいって言ってくれて、逆によかったのかもしれない)
照「それに、なに?」
淡「ううん。やっぱ白糸台三連覇はテルが自分の手で決めないとね」
菫「そうだな……三連覇、もう目の前なんだもんな」
照「……頑張るよ」
夜
照「そろそろ寝る?」
淡「そだね。……ねえ、一緒のベッドで寝よっか」キラキラ
照「寝ない。おやすみ」カチカチ
淡「えー」
照「えーじゃない」
淡「私のベッドの位置って風水的にあんまりよくないから、そっちのベッドで一緒に寝てもいい?」
照「いいよ。私がそっちのベッド使うから」
淡「……よーし、ちょっと飲み物でも飲もっかなー」
淡「おっと手が滑った」バシャ
照「……」
淡「あちゃー、こりゃいかん。私のベッドがべちょべちょだわー」
照「……」
淡「もうこのベッドじゃ寝れないね。仕方ないからテルのベッドに入ってあげる」
照「……明日きちんとホテルの人に謝ってね」
淡「最高級のベッド弁償しとくよ。じゃ、おじゃましまーす」モゾモゾ
照「……」
淡「狭いからもっと近く寄ってよテル」
照「床で寝るといいよ」
淡「テル最初、和式部屋取ってたでしょ。信じられない」
照「淡が大反対しなかったら私はあそこでもよかった」
淡「布団とか有り得ないから。床で寝るなんて、文明人としてどうなのよ」
照「淡は布団で寝たことないの?」
淡「ないよ。うちではダブルベッドを一人で使ってるし」
照「尭深は逆にベッド嫌だって言ってたね」
淡「尭深は純日本人って感じだしね。私日本茶よりも紅茶派だから、尭深とはとことん
合わないや。テルは日本茶と紅茶どっちが好き?」
照「水」
淡「……水かー。うーん……」
淡「テルは家では布団で寝てるの?」
照「うん。うち狭いからベッド置けなくて」
淡「あ、母子家庭なんだっけ?」
照「まあ、ね。まだ離婚はしてないけど」
淡「別居中なんだ」
照「そう」
淡「前の家でも布団で寝てたの?」
照「いや、前の家ではベッドで寝てたよ。今は安いアパートに住んでるからベッド置けないだけ」
淡「へー。なんかイメージと違うなー」
淡「ベッドは二段ベッドだったの?」
照「? 違うけど」
淡「そっか。じゃあ咲ちゃんとは違う部屋だったんだね」
照「うん」
淡「ふーん?」
照「……っ」
淡「……」
照「……」
淡「……」
照「……誘導尋問とかする子だったんだね、淡って」
淡「油断したね、テル。やっぱり咲ちゃんと一緒に住んでたんじゃん」
照「……見損なった。ベッドから出てって」
淡「どうして妹はいないなんて嘘吐いたの? そんなに咲ちゃんのこと嫌い?
いい子じゃん、あの子」
照「咲は私の妹じゃない」
淡「でも一緒に住んでたんでしょ?」
照「一緒に住んでただけ。妹じゃない」
淡「苦しすぎるって。昔何があったか知らないけどさ、姉妹から嫌われるのって結構つらいよ?」
照「淡には分からない」
淡「分かるよ。私も妹いるし。麻雀がからきしだからちょっと避けられてるけどね」
照「……」
淡「……やっぱり麻雀に関することなの?」
照「人の家庭事情を詮索しないで」
淡「ふー……これは重症だね」
照「……」
淡「ねえテル。私さ、今までずっとテルは私と同じ打ち手なんだって思ってたんだ」
照「……」
淡「でも、いつも微妙に違和感があって、何かが違うってずっと引っかかってたの。
それが何なのか分からなかったんだけど」
淡「準決勝で咲ちゃんと打って、やっと分かったんだ。テルの麻雀の正体に」
照「……」
淡「まあ、ちょっと逆説的な理解なんだけどね。私の麻雀と本当に似てるのは
咲ちゃんだった。……でも、咲ちゃんとテルの麻雀は、まるで真逆。対極の麻雀だった。
だから、私とテルも違うんだって気づいたの」
照「……」
淡「……テルはさ」
照「淡。もう寝たいから喋らないで。嫌なら床で寝て」
淡「……」
淡「じゃあ、最後に一つだけ教えてよ」
照「……一つだけね」
淡「私はさ、昔すごく麻雀が好きだったんだ。毎日麻雀が打ちたくて仕方なかった。
でもどんどん孤独感を感じるようになって、麻雀が嫌いになっていったの」
淡「何度もやめようと思った。テルに出会えてなかったら実際にやめてたと思う。
それはもちろん、対等に戦える子がいなくてつまんないっていうのもあるけど、なにより、
今まで大好きだった麻雀を嫌いになっていくことに耐えられなかったの」
照「……」
淡「今まで大好きだったものをどんどん嫌いになっていくのって、すごく辛い。
そんなことに耐えられる人なんて想像もできない」
淡「だから……分からないんだ。テルのことが」
照「……」
淡「ねえ、テル。……あなたは、どうして麻雀を続けてるの?」
照「……」
淡「テル」
照「……」
淡「ねえ、テルってば」
照「……すー」
淡「うわ、ウソ寝ヘタだなー」
照「うるさい。もう寝たから」
淡「起きてるじゃん」
照「もうあと一秒で寝るから。はい寝た」
淡「もー」
淡「ねーテルー」ユサユサ
照「……」すー
淡「……寝テル」ボソ
照「……」
淡「ホントは今のちょっと面白いと思ったくせに!」ユサユサ
照「うるさいなぁ」
淡「おきテル」
照「……もう黙って。本当に寝るから」
淡「宮永……大星……あわい……あわ……うーん」
淡「あわ……あわテル。お。慌てる」
淡「……あわテル」ボソ
照「……」
淡「ちょっと面白いと思ったくせにぃ!」ユサユサ
照「うるさい」
淡「おきテル」
タバコがあと3本しか残ってないんだが
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/03(土) 02:38:49.60 ID:9y8tollo0
1年半経っても吸いたい気持ちはなくならない
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/03(土) 02:47:40.51 ID:9y8tollo0
冬は缶コーヒー片手に外で吸いたくなるんだよなぁ・・
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/03(土) 02:50:50.13 ID:9y8tollo0
美味いとも思って無い国認定の不健康な嗜好品に毒されて金を注ぎ続ける方が苦行じゃね?
斎藤佑樹「山小屋たてるってヤバイっすか」
676 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/03(土) 02:52:55.49 ID:9y8tollo0
護身で薄まってたけどキッチリ2回2失点してたのな・・
二時間後
淡「……」すぴー
照「……」
照「淡、起きてる?」
淡「……ん……テル……」
淡「……あぁ……やっぱテル……強いなぁ……」ムニャムニャ
照「……」
淡「んん……あぁ、テル……今、手加減……でしょ」ムニャムニャ
照「どんな夢見てるんだ。――ん?」
照「淡……泣いて、る……?」
淡「テル……ゃだよ……負けないで……私より、弱……ならないで……独り……しない、で……」グスッ
照「…………」
照「ごめんね、淡」ナデナデ
淡「……ん……」ムニャ
アニメタイトルの一部を「乞食」に変えると意外とかっこいい
444 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/03(土) 05:36:51.48 ID:9y8tollo0
乞食100%
柔道の内柴が予想以上にクズだった件
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/03(土) 05:42:59.60 ID:9y8tollo0
ひどいな
デーブ死ねよマジで
おい、落語って人さえ選べばよく出来てるし面白いんだぞ・・
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/03(土) 06:10:01.05 ID:9y8tollo0
テロップに馴れ過ぎてたから新鮮に感じる
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/03(土) 06:12:20.69 ID:9y8tollo0
>>3
初心者なら立川志の輔おススメだよ
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/03(土) 06:25:49.45 ID:9y8tollo0
初っ端に訳も分からず古典落語聞いちまったり
滑舌の悪いジジイに当たったら敬遠するだろ
自分もその一人だったんだけど
お前らのセッ〇スにありがちな事
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/03(土) 06:11:36.62 ID:9y8tollo0
0から10までAVの受け売り
女装しようぜ!!!
710 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/03(土) 08:57:07.82 ID:9y8tollo0
こん中で自分見て抜いた奴
俺以外に居たら手挙げろ
※>>35これ俺じゃないな。ID被りがいるのか。酉つけたほうがいいかな?
照「答えなかったんじゃないんだ。……答えられなかったんだ」
照「何故麻雀を打つのか……菫にも同じことを訊かれた。……でも、やっぱり答えられなかった」
照「分からないんだ、私にも。私もお前と同じだ、淡。もうとっくに麻雀に絶望してて、
何の喜びも感じられなくなっていた」
でも、私は麻雀を打ち続けた。一日も休むことなく、三年間打ち続けてきた。
何度も投げ出したくなったけど、それでも私は麻雀を続けた。その理由すら定まらないままに。
照「……明日だ」
明日……私は咲と戦う。そのときにきっと、全ての答えが得られる。そしてきっと
そのときに……何かが終わる。そんな予感がする。
照「――絶対勝つ」ゴッ
洋榎「絹に寝ている間にキスされた」
85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/03(土) 06:50:42.16 ID:L62Y/GwNO
今から読むほ
86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/03(土) 07:11:43.50 ID:L62Y/GwNO
すばらっ
乙乙
(´,,・ω・,,`)すき家で朝ごはん食べてくる
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/03(土) 07:25:11.97 ID:L62Y/GwNO
なんでこんな糞スレをマルチしてんだ・・・
一番ダサい格ゲー技名を挙げた奴が優勝
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/03(土) 07:26:33.88 ID:L62Y/GwNO
エレガントに斬る
えり「今度結婚することになりました」咏「えっ」
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/03(土) 07:37:26.68 ID:L62Y/GwNO
>>49
SOA
決勝戦当日
白糸台控室
恒子『――さあ今年のインターハイの決勝戦も、もう副将戦に突入しています。
白糸台は準決勝のあと突然オーダーを変更し、先鋒と大将を入れ替えてきました』
恒子『先鋒で他家を相手に大暴れした一年生、大星淡選手の活躍により大きくリード
する白糸台。この副将戦で他校はどこまで追いつけるのか――!?』
菫「……いい感じだな。このままいけば2万点くらい残して照に繋げられそうだ」
淡「そうだね。私の55000点差が2万点差になっちゃったのは残念だけど、仕方ないよね」
菫「お前はまたそういうこと言って……」
淡「別にいいよ。私も思ったより稼げなかったし。それより、そのテルはどこにいるの?」
菫「さっき外の空気を吸ってくるって行ったきり戻ってきてないな」
淡「また迷子になったんじゃない?」
菫「いや、まさか……」
菫(……有り得ないと言えないのがなんともなぁ)ハァ
菫「携帯で呼び戻すか」ピッポッパ
プルルルル、プルルルル
菫「……」
淡「……」
照の携帯「プルルルル、プルルルル」
菫・淡・尭深「……」ハァ
菫「何度言えばわかるんだろうな照は。常に携帯を持っておけとあれほど言ったのに」
淡「テルってほんと携帯持ち歩かないよね」
菫「仕方ない、探してくる」
淡「私も行くよ」
尭深「じゃあ私は残ってます」
菫「ああ、頼んだぞ」
会場の屋上
照「……」
決戦の時が迫っているのを感じる。その割にひどく心は静かだった。
咲を恐れる気持ちは全くない。もう何もかもがあの日から変わってしまったんだと痛感させられる。
あとはただ戦うだけだ。私と咲が……自身の麻雀を全てを賭けて。
照「……今日……」
何かが終わる予感がする。それがなんなのかは分からないけど、ここが一つの分岐点に
なる気がしてならない。
照「……」
あの子と打つときはいつもそうだった。あの子が麻雀を打つと、いつも何かが変わっていった。
両親の関係も、家族の仲も。……私と咲の関係も、私の麻雀も。
全てを咲の責任にするつもりはない。でも、多分あの子はそういう天命を帯びて
産まれてきたんだと思う。良くも悪くも、周囲に影響を及ぼさずにはいられない。
そう思わせるほど、あの子の力は凄まじい。淡にも退けを取らないほどの天運の持ち主だ。
照「……」
淡と咲の戦いを見届け、私は確信していた。
私の麻雀は、間違いなく咲を上回っている。
全てを計らったわけじゃない。多くの偶然の累積が、準決勝での淡と咲の激突を生んだ。
その全てを見届けた私には、もう何も恐れるものなどない。
淡は咲のプラマイゼロを止めてみせた。ならきっと……私にもできるはずだ。それは咲の麻雀の
否定。
その超絶な支配への抵抗だ。今の私にはそれができる。――もう、昔の私ではない。
私はもう、きっと咲の麻雀を超えたはずなんだ――
咲「――お姉、ちゃん」
照「!」バッ
照「……咲」
咲「あ、あの……」
照「……」
咲「私、ちょっと決勝前に気分転換しようと思って、そしたら道に迷っちゃって、ここに……」
照「……」
ツカツカツカ
咲「あ、ま、待ってお姉ちゃん!」
照「……邪魔」
咲「あの、あのね。私ね」
照「邪魔」
咲「お姉ちゃんに伝えたいことがあるの! お姉ちゃんともう一度、ちゃんと話がしたくて!」
照「――邪魔!」
咲「……!」ビクッ
照「……」
照「お前と話すことなんか何もない。未だにプラマイゼロなんて続けてるお前となんか」
咲「……」
咲「私のプラマイゼロを見てくれたら、お姉ちゃんに伝わるんじゃないかなって……思って……」
照「何が? どこまでも相手を舐めてるなとしか思えない。最低の麻雀だ」
咲「……」
照「……邪魔」
ツカツカツカ
咲「……」
咲「あの日のこと」
照「……っ」ピタ
咲「あの日のこと……まだ怒ってる……よね?」
照「……」
咲「私、怖くて……。勝つのも、負けるのも怖くて……だから……」
咲「でも、今は違うんだ。麻雀が楽しくて、勝ちたいって思えるようになったの」
照「……」
咲「お姉ちゃんの麻雀が変わったように、私の麻雀も変わったの。それを……知ってほしくて」
照「変わってないよ」
咲「え?」
照「お前の麻雀は変わってない。昔のまま、ただ相手に絶望を与えるだけの麻雀だ」
咲「……」
照「私は絶対にお前の麻雀を認めない。お前のことも、未だに赦そうと思えない」
咲「……うん」
照「……まさかとは思うけど、決勝でもプラマイゼロなんてやるつもりじゃないよね」
咲「……」
照「……本気?」
咲「私は……」
照「白糸台は間違いなく一位で大将に回ってくる。そこでプラマイゼロなんてしたら、
どう足掻いても一位にはなれない。――戦う前から勝つ気がないの?」
咲「……」
照「……呆れて言葉も出ない。何が私の麻雀は変わった、だ。何も変わってないじゃないか。
やっぱりお前の麻雀は最低だよ、咲」
咲「……」
ツカツカツカ
咲「……お姉、ちゃん……」
ガチャ バタン
階段
照「……」カツカツカツ
照「……盗み聞きはいい趣味じゃないよ」
淡「たまたま聞こえちゃっただけだよ」
照「ここで何してるの」
淡「こっちのセリフだよ。もうすぐ大将戦始まるのに控室にいないから菫と探しに来たんだよ」
淡「携帯電話は携帯する電話なので携帯電話っていう名前だと思います」
照「……」ガサゴソ
照「……忘れてた。気付かなかった」
淡「だろうね」
照「じゃあ戻ろうか。まだ時間に余裕はあるよね?」
淡「うん。早くに見つけられてよかったよ。三日前みたいに、二階下の売店にいくつもりが
野外プールに迷い込んでた、なんてことになってたら探すの骨だし」
照「その話いつまでするの? もう五回くらい茶化された」
淡「『――まったく、どう間違えれば屋内にある売店にいくつもりが野外プールに迷いこむなんて
話になるんだ? なぜホテルのドアをくぐる段階で気付けないんだ照。……おい照、聞いてるのか?』」(声真似)
照「……ちょっと似てる」クス
淡「でしょ?」アハハ
淡「――それで? 咲ちゃん、大将戦でもプラマイゼロやるって?」
照「……らしいね。理解できないけど」
淡「優勝しません、って言ってるようなものだもんね。大物なのか馬鹿なのか」
照「――舐めてるんだよ」
淡「照を?」
照「違う。麻雀と、それに携わる全ての人を」
淡「……」
照「あの子はいつもそう。自分のことしか考えてないんだ」
淡「……」
菫『――白糸台を……いや。全国の雀士を舐めるのも大概にしろ!!――』
淡「……咲ちゃんには、何か考えがあるんじゃないかな」
照「ないよ。あの子はプラマイゼロに取り憑かれてるだけ」
淡「勝たない麻雀、か。やってることはすごいけど、結果が伴わないんじゃね」
照「そのうえ負けもしないくせに、実力では自分の方が上なんだと誇示してくる。……反吐が出る」
淡「テルは、咲ちゃんに勝ちたい?」
照「関係ない。誰にも負けるつもりはない」
淡「そうこなくちゃね。それでこそ私の目標だよ。……でもね、テル」
淡「咲ちゃん言ってなかった? テルに伝えたいことがあるんだって。プラマイゼロを通じて、
テルに思い出してほしいことがあるんじゃないかな」
照「……何? 淡、随分あの子の肩をもつね。準決勝で慣れ合うことを覚えたの?」
淡「そう聞こえる?」
照「淡の強さは孤高の強さだと思ってた。下に合わせず、いつも上だけを見つめて、常に高く
ありつづけるから淡は強いんだと思ってた。……見込み違いだったみたいだね」
淡「……私はあなたと出会って、麻雀の楽しさを思い出したの」
淡「あなたの陽の光に照らされて、私はまた輝くことができた。……生きてるって感じられた」
淡「ねえ、テル。私はあなたの麻雀、好きだよ。歪だけど……強くて、かっこいい。大好き」
淡「でもね……麻雀を打ってるときのあなたは、辛そうで……見ていて苦しくなる」
照「……」
淡「私に麻雀の楽しさを教えてくれたあなたが、辛そうに麻雀を打っている姿は……やっぱり
あんまり見ていて気持ちよくないな」
照「……私にどうしてほしいの?」
淡「別に何も。多分私は、この決勝戦がどんな結果に終わっても構わないんだと思う」
淡「私はテルのこと……好きだよ。あなたの麻雀も、あなた自身も。何があってもそれはずっと変わらない」
淡「咲ちゃんは今のテルが好きじゃないみたいだけど、私は今のテルも好きだから」
照「……結局、何が言いたいの?」
淡「私と咲ちゃんの言いたいことは、きっと一つだけだよ」
淡「――麻雀、楽しみなよ、テル」
照「……」
照「淡」
淡「ん?」
照「咲も。プラマイゼロも。全部関係ない。眼中にない」
照「――私は勝つ。それだけだよ」
ちょっとご飯食べてきます。すぐ戻ります
恒子『――さあ、ついに、ついにこのときがやってきました! インターハイ決勝大将戦!
いま卓に全ての選手が揃いました!』バッ
恒子『Aブロック一位通過を果たした千里山からは、清水谷竜華選手! 冷静沈着な打ち筋で
堅実に勝利を手にした彼女は、この大将戦でもその力を発揮できるのか!』
恒子『同じくAブロックから二位通過を果たした阿知賀女子からは、高鴨穏乃選手! オーラスで
二位の臨海女子からの熾烈な猛攻を紙一重でかわし、逆転満貫を和了ったその力はマグレではなく
本物なのか!? ダークホースとして期待が集まっています!』
恒子『続いてBブロックからは、二位進出を果たした清澄高校、宮永咲選手! 予測できない変則的な打ち筋は
変幻自在! 準決勝での大星淡選手との激闘では惜しくも敗れましたが、その雪辱戦となるか!』
恒子『――そして、その三校の前に立ちはだかるのは、やはり彼女――宮永照!!』クワッ
恒子『決勝戦前に急遽オーダーを変更してきた白糸台のエースにして、高校生最強の名を欲しい
ままにする彼女。その宮永選手が、二万点リードの状態で大将戦に臨みます! これは他校にとっては
かつてない絶望として襲いかかっていることでしょう!』
恒子『前人未踏のインターハイ三連覇……彼女はその偉大な歴史を創造することができるのか。
それとも他校がそれを阻むのか! 一瞬たりとも目が離せない大将戦、まもなく開始です――!!』
恒子『……』ドウダッター?
健夜『……』オツカレサマ
白糸台:122500
千里山:102300
清澄:97900
阿知賀:77300
穏乃「よろしくお願いします!」
穏乃(この決勝が、和と遊べる最後のチャンス……赤土先生がこれなかった舞台!)
竜華「よろしくお願いします」
竜華(怜や皆がここまでがんばってくれたんや。私が最後に決めてみせる)
咲「……よろしくお願いします」
咲(お姉ちゃん……)
照「……」
照「よろしくお願いします」
東:照
南:竜華
西:咲
北:穏乃
東一局
恒子『さあ始まりました大将戦前半戦! まずはどの高校が先制するのか――!?』ビシッ
健夜『宮永選手が起家ですね。彼女が東一局を和了らないことを考えると、すこしもったいないですね』
恒子『ああ、そういえばそんなのもありましたね。なんでしたっけ、照魔鏡的な何かがあって、
最初は和了らないんでしたよね?』
健夜『そう。この一局を先制できるかどうか……他の三校にとってとても大きいと思います』
恒子『――おっと、そうこう言ってるうちに清水谷選手が動き始めたか――!?』
竜華「……」カチャ
竜華(この東一局。チャンピオンが見に徹する今だけは、大きな手を時間をかけて作れる絶好のチャンスや)
竜華(ここでまずは先制して、流れを掴む!)
竜華「……」カチャ
竜華(五巡目で聴牌……リーチかけるか? ……いや、もう二巡待とう。この手ならまだ高めが
狙える。チャンピオンの親番でそんなことホンマはできへんけど、この東一局だけは別や)
恒子『清水谷選手、ダマを選択。放銃を期待してはいないということでしょうか』
健夜『高めを狙ったんでしょうね。冷静だと思います』
恒子『おっと、しかしここで宮永照も聴牌――! 呑み手ですが、これは和了らないんでしょうか?』
健夜『おそらく』
竜華「……」カチャ
竜華(きた! 高め三面待ち。これで勝負や!)
竜華「リーチ!」チャラ
恒子『おーっとここで高めを引いての即リー! まずは千里山先制かー!?』
照「――ツモ」
竜華・穏乃・恒子・健夜『え……?』
咲「……」
照「――発のみ。1500」
竜華「……なんやて?」
恒子『――こ』
恒子『これはどういうことでしょう――! 宮永選手、東一局で1飜ツモ和了り――!?』
恒子『こ、小鍛冶プロ! 照魔鏡なんたらで東一局は和了らないんじゃなかったんですか!?』
健夜『そのはずだったんですけど……どうしたんでしょう』
白糸台控室
ざわ・・・!
菫「な……照が東一局で和了った!?」ガタッ
淡「……照魔鏡を使わなかったね」
菫「どうして……」
淡「……」
咲「……」
咲(お姉ちゃん……)
照「……」
――照魔鏡なんて、今更使うまでもない。
この子の麻雀は、私が誰よりも知っている。改めて見抜く必要なんてない。
照(――咲。様子見はなしだ。……最初から全力でいく)ゴォォッ!
淡「……あくまで咲ちゃん以外は眼中になし、か。ふふ、何が『咲は関係ない』なのよ。
めちゃくちゃ意識してるじゃん」
恒子『――さあ、これでチャンピオンの連荘です! まさかいきなり始まってしまうのか、
チャンピオンの連続和了!!』ズビシッ
東一局
竜華「……」カチャ
竜華(三巡目で聴牌……でも)チラッ
照「……」カチャ
照「ツモ。700オール」パララ
竜華(くそ……速すぎる!)
健夜『宮永選手は連続和了にばかり注目されがちですが、彼女を最強たらしめている要因は、
スピード……聴牌速度ですね。彼女の速さに追いつかない限りは、もう実力云々以前の問題です』
恒子『準決勝まででチャンピオンの聴牌速度に渡りあえていたのは、準決勝の片岡選手だけでしたね。東場限定ですけど』
健夜『ある意味では彼女が一番宮永選手と相性のいい選手だったのかもしれません』
恒子『さあ、この決勝卓ではチャンピオンのスピードについていける選手はいるのか――!?』
東一局
竜華(四巡目一向聴……遅くはない。遅くはないはずやけど……)
照「……」カチャ
竜華(張ったか。なんとか追いつかんことには、何もできへん)
竜華(私にも一巡先が見えれば、追いつけるんやろか……)
咲「――ポン」③筒
竜華・穏乃「!?」
咲「チー!」
恒子『清澄高校、連続鳴きで強引に手を進めていく――! チャンピオンのスピードに追いつくためでしょうか!』
咲「――カン!」③筒
竜華(加カン? まさか……!)
咲「りんしゃ――」
照「――ロン」
咲・竜華・穏乃「!?」ビクッ
パララララ……
一二三⑨⑨⑨789北北北①②
照「槍槓チャンタ、7700」
咲「……!」ゾクッ
恒子『ちゃ、槍槓だ――! チャンピオン、まさか狙っていたというのか――!?』クワッ
健夜『……見抜いてる』
恒子『え、なんですか小鍛冶プロ』
健夜『宮永選手は、宮永選手――ええっと……清澄の宮永咲選手の麻雀を完全に見抜いています』
恒子『? でも、照魔鏡は使わなかったんですよね?』
健夜『そのはずです……が、そうとしか思えません』
恒子『いったいどういうことなのか。チャンピオン、照魔鏡を使わずに相手の麻雀を見抜いてきた!!
ここにきて更に進化を遂げたというのでしょうか!?』
咲(……お姉ちゃん、本気だ。あの頃とはもう比べ物にならない……!)
照「……」
恒子『宮永照選手、開幕早々に三連続和了! 決勝戦だというのに圧倒的です!』
恒子『まさに最強! 無敵! かつてこれほど牌に愛された高校生がいたでしょうか! どうでしょう小鍛冶プロ!』
健夜『……』
恒子『おや、どうしました小鍛冶プロ?』
健夜『いえ……確かに、宮永選手は驚くほど的確に有効牌を引いてきますが、それは本当に
牌に愛されているからなんでしょうか……』
恒子『なるほど。私以上に牌に愛された人間などいるはずがない、と小鍛冶プロは言いたいようです!』ガッ
健夜『そ、そんなこと言ってないよ!?』
恒子『なんであれ、あまりにも強すぎる! 紛れもなく牌に愛された少女。天上の才能!
その力は今なお進化中です!』
照「……」
――牌に愛された子。
皆が私をそう呼ぶ。菫ですらもそれを疑っていない。
私がインターハイを制したその年から、それは誰もが納得する呼び名だったのだろう。
――多くの人間が誤解しているが。
私は、牌に愛されてなどいない。むしろ逆。私はこの世で誰よりも牌に憎まれた人間だ。
それを知っているのは私と……咲だけだ。
そして私は知っている。本当に牌に愛された子は誰なのかを。
……皮肉なものだ。私は牌に愛されたくて麻雀を続けてきたはずなのに。皆が私をそう呼ぶ頃に
なって、私は……今、こんな場所にいる。
私の両親は夫婦揃っての麻雀バカだった。
特に母はプロ一歩手前のところまで行ったらしく、今でもその力は衰えていない。
三度の飯より麻雀を打つのが好き、なんていう両親のいる家庭で育った私と咲は、
自然と幼少期から牌に触れる生活を送っていた。
ただ、その頃の私は今で言われるような『牌に愛された子』などという片鱗は少しも
ない、ただの少女だった。
ツモる牌はムダヅモばかり。相手がリーチをかければすぐさまその当たり牌を引き当てる
という、むしろ『牌に嫌われた子』という呼び名こそ相応しいような、そんな打ち手だった。
家族の中では私が一番下手で、お年玉やお小遣いも結構な額むしり取られたものだ。
でも妹の咲は、私とはまるで真逆の才能を持って産まれてきた。
母「ツモ。6000オール!」
父「あちゃー、また負けたよ」
照「あーあ。つまんないの」
母「ふふ、私に勝とうなんて百年早いわよあなたたち」
咲「……」ジャラジャラ
母「……」
母「咲は……またプラマイゼロ、か」
照・父「……」
咲の強さはヘボの私から見てもはっきりと分かるくらいに異常だった。最初の頃こそ
両親は自分の才能を色濃く受け継いだ子が産まれたと喜んでいたが、その考えが甘かった
ことをすぐ思い知らされた。
今でこそ現役を退いたとはいえ、母は下手なプロとなら互角に戦えるほどの雀士だ。
その母をして、咲を倒すことは至難の技だった。
これはもう強いとか弱いとかそういう次元の話ではなかった。
――咲は牌に愛された子だった。私などとは違い、正真正銘、牌たちから惜しみない
寵愛を受けて産まれ落ちた子だった。
あまりにも強すぎて、私は昔いちど咲に八つ当たりしたことがあった。若気の至り
だったのだと思いたい。
理不尽な叱責に咲は目頭を滲ませ、一言「ごめんなさい」と謝った。
そして咲のプラマイゼロ麻雀が誕生した。
勝ちもせず、負けもせず、ただその試合を消化するためだけの麻雀。咲にとっては
それだけのことだったのだろう。
だがそれをやられた方はたまったものではない。咲の支配に気づいてから、きっと
家族の誰もが、麻雀を打っているという実感など抱けなかっただろう。
一度だけ、深夜に目が覚めたときに両親が話している声を聞いたことがある。
父「ふざけるな! その歳になって麻雀教室に通うだと? なに考えてんだお前は」
母「今からでもプロを目指すのよ! 別に子持ちのプロ雀士だっていないわけじゃ
ないんだから、構わないでしょう?」
父「いいわけないだろ! 家庭はどうするつもりだ。お前、もうプロになる夢は諦めたんだろ?
なんで今更そんなこと」
母「今からでもプロにならないと、あの子には……咲には到底勝てないの!」
父「咲……? 咲がどうしたって言うんだ」
母「あの子はまだ小学生なのよ? なのにもう私よりもずっと強い……悔しくないの!?」
父「あいつが強いのは認めるさ。だからって小学生に、それも自分の子供に嫉妬するなんて
どうかしてるぞお前」
母「あなたなんかには分からないわよ! インハイの個人戦で全国にすら行けなかったあなた
なんかにはね!」
父「なんだと!?」ガタッ
母「私は悔しい……あんな子供に圧倒される自分が情けない。もっと強くなりたいの!」
照「……」
両親が麻雀に関する話題で家族の話をするときは、決まって咲の話題になった。
私のことが話題に上がったことなど一度もない。それくらい私は凡俗な打ち手だったし、
それくらい……咲はあまりにも圧倒的すぎた。
母は咲の成長を喜ぶ以上に、咲に対して敵対心を剥き出しにしていった。父はそんな母に
徐々に嫌気が指してきたようで、家庭内は次第に険悪になっていった。
それでも習慣的に一日一回は家族で麻雀を打った。でも、それはもう家族麻雀とは言い難い
ものになっていた。まるで怨敵をねじ伏せるために打っているかのように、両親は子供を
相手にするには大人気なさすぎるほどに本気で勝負を挑んできた。
私は勝ったり負けたりしていたが、咲はそんな両親の猛攻にはびくともしなかった。
飄々といつものようにプラマイゼロを繰り返し、誰かが「今日はこのくらいにしよう」と
言い出すのを待っていた。
もうプラマイゼロはやめろ、と母は何度も咲に向かって怒鳴った。
でも咲はプラマイゼロをやめなかった。いや、やめられなかったのだろう。
勝っても怒られ、負けても怒られ、プラマイゼロでも怒られる。そんな状況で正解などない。
咲は半ば意地になってプラマイゼロを続けているように見えた。
そんな咲が麻雀を嫌うのは、無理からぬ話だと思った。
照「え、麻雀を打ちたくない?」
咲「うん……」
照「どうして。あんなに強いのに」
咲「……だって、怒られるし」グス
照「あれは……お母さんもムキになってるだけだよ。いつか分かってくれるよ」
咲「……」
咲「お姉ちゃんは、私と麻雀打って、楽しい?」
照「もちろん。いつか咲に追いつくんだから、それまで麻雀やめたりするんじゃないよ咲」
咲「……」
咲どころか、私は家族で一番麻雀が下手だった。
家族以外の人と打つことも何度かあったけど、それも大していい成績を残せた試しはない。
ほとほと自分の才能のなさに呆れるばかりだった。
でも、麻雀を打つのは本当に楽しかった。牌のひんやりとした感触。牌同士がカチャリと
鳴る音は心地いいし、聴牌時のワクワク感は病みつきになる。
私は麻雀が大好きだった。どれだけ牌に嫌われていたって、私は牌が大好きだった。
負けたって楽しかった。毎回プラマイゼロにされたって、それでも何度でも咲と麻雀を
打ちたいって思った。
照「あーあ。私も咲みたいに牌に愛されたいなー。そうすればもっといいツモがきたり、
いい手が入ったりするんでしょ? いいなぁ」
咲「……なれるよ」
照「ん?」
咲「いつかきっと、お姉ちゃんはすごい雀士になれると思う」
照「ほんと? でも、私まだまだヘボだし」
咲「ううん、お姉ちゃんは強いよ。家族麻雀をするとき、私はお父さんやお母さんじゃなくて、
お姉ちゃんをずっと警戒してるもん」
照「え、どうして? 私の麻雀なんて全然パッとしないじゃない。何か特別な力があるわけでも
ないし、牌にも嫌われてるし」
咲「お姉ちゃんの強さはそういうことじゃないんだと思う。もっと別の……うーん、上手く
言えないけど、凄い強い力みたいなのを感じるの」
照「へー」
照「まあ咲が言うんなら、話半分でも効力あるかもね。うん、私ももっと強くなれるようにがんばるよ」
照「ねえ咲。私はね、信じてるんだ。たとえどれだけ牌に嫌われてたって、私が牌のことを
好きでいつづけてれば、いつかきっと牌も私のことを好きになってくれるって。
そうすればいい牌がどんどん入ってきたり、相手のツモとかを支配したりできるように
なるんだって。
実際、プロにはそういうことできる人がいるらしいんだ。憧れるよね」
咲「……うん……」
照「……あ……もしかして、咲はもう、できるの……?」
咲「……」
照「……あ、あはは」
照「ま、まあとにかくさ。私はこれからもずっと麻雀を好きでいつづける。そうすれば
きっと麻雀も私を好きになってくれるはずだから」
咲「……そっか」
書き溜めしてる割には遅くね?
まさかレス数稼ごうとしてるとか無いよな?
※>>90前編で間隔詰め過ぎて何度もさるったので、ちょっと時間あけてます。
長時間耐久になっても大丈夫なように早めに立てました。3~5分に一回くらいのペースにしようかと思ってます
照「だから咲も、麻雀やめるなんて言わないで、もっと麻雀を楽しもうよ」
咲「……うん。そうだね」
でも、私がどれだけ咲に負けても麻雀を楽しめるように、両親も楽しめるとは限らない。
むしろ母は、咲と麻雀を打つたびにプライドをズタズタに引き裂かれていた。
そして、それは起こった。
照「うーん……」カチャ
咲「……」カチャ
父「……」カチャ
母「……」カチャ
母「……!」ピタ
母「……はぁー」
父「どうした、お前の番だぞ」
母「……いい加減にして、咲」
咲「……」ビクッ
母「あなた……いつまでこんなこと続ける気なの? そんなに私のこと馬鹿にして楽しい?」
咲「……」
父「なんだ、どうした急に」
母「……ツモ。3000,6000」パララ
父「3000,6000……ああ……プラマイゼロか」フゥ
照(……しかも赤ドラでツモ。これ以外の牌をツモってたら咲はプラマイゼロにならない。咲……
本当にすごい)
母「咲、私言ったわよね? もうプラマイゼロはやめなさいって。何度言わせる気なの?」
照「ちょ、ちょっとお母さん……」
父「だが勝っても怒るんだろ?」
母「こんな屈辱を受けるくらいなら負けたほうが何倍もマシよ! いい加減にして!」
咲「……っ!」ビクッ
父「咲は悪くないだろ。それがお前の実力ってことだ」
母「――ッ!」カチン
母「……なんですって?」
父「負けたからって怒鳴るなんて大人気ないと思わないのか?」
母「あなたみたいに負けて当然って姿勢でいるのが大人だって言いたいの?」
父「そうさ。強い奴には勝てない。当然だ。力及ばない自分に怒るならまだしも、我が子に
怒鳴るなんて、みっともない」
母「そんな考え方だから、あなたはインハイでもあんな見え見えの倍満に振り込んで
チームを敗退させたのよ」
父「――ッ! んだとぉ!?」ガタ
照「ちょ、ちょっとやめてよ二人とも! 落ち着いてよ!」
母「黙りなさい照! あなたもあなたよ。お姉ちゃんなのに妹にこんなにいいようにされて、
悔しくないの?」
照「悔しいよ。でもそれ以上に楽しいよ。皆で楽しく麻雀打とうよ」
母「毎試合プラマイゼロなんてされて楽しめるわけないでしょう? もううんざりなの。
私はね、麻雀に青春の全てを捧げたの……本気でプロを目指して、でもなれなくて……
なのにどうして、こんな、なんの努力もしてない子供に、こんな才能が……不公平じゃない!」
父「はん! 今度は嫉妬か。見苦しい女だなお前は」
母「なんですって!?」
照「やめてってば!!」
それから一時間以上も両親は怒鳴り合っていた。私はそれを止めようと必死で、そのとき
何があったのかよく覚えてない。気づいたときには咲はどこにもいなくて、疲れ果てる
ような形で両親の喧嘩は沈静化した。
その日から、目に見えて両親の仲は険悪になっていった。顔を合わせれば嫌味ばかり言い合い、
食事すら一緒に採ろうとはしなくなった。
私は何度も二人の仲を元に戻そうと頑張ったが、結局駄目だった。
なによりその日以降、家族麻雀を打つことはなくなった。とてもそんな空気にはならなかった。
照「――咲、入ってもいい?」コンコン
咲「お姉ちゃん? どうぞー」
照「……」ガチャ
咲「どうしたの?」
照「うん。お母さんたちのことなんだけど」
咲「……うん」
照「最近、二人ともずっと仲悪いし、麻雀も打たないし……このままじゃ駄目だと思うの」
咲「……そう、だね」
照「ねえ、一緒にさ、もう一回麻雀打とうよって誘ってみない? 咲も今度はプラマイゼロ
なんかせずに、本気で打てばいいし」
咲「……でも、勝つと怒られるもん」
照「……咲は麻雀、嫌い?」
咲「うん」
照「……そっか」
照「私は、麻雀が大好き。麻雀より面白いことなんてない。今は弱いけど、強くなれば
もっと楽しくなれると思う」
照「なのにあんなに強い咲が麻雀を嫌いなんて、もったいないよ。私は咲に、もっと麻雀を
楽しんでほしい。一緒に麻雀を楽しみたいの」
咲「でも……」
照「咲だって昔は麻雀が好きだったでしょ?」
咲「……うん」
照「なら、それを思い出せるように頑張ろうよ。自分の子供が楽しそうに麻雀を打ってたら、
いくらお母さんだって負けても悔しくないと思うからさ」
咲「……そうかなぁ」
照「うん。きっとそうだよ。だから、ね?」
咲「……うん」
照「よし、じゃあ決まりね。さっそく今日二人に言ってみよう」
咲「……」
もう一度皆で麻雀を打てば、きっと家族は元通りになれる。私はそう信じていた。
咲がプラマイゼロなんてプレイをしなければ、母だってあそこまで露骨に咲を敵視することは
ないはずだ。――『そうに違いない』と、私は盲信した。
今にして思えば、なんて希望的な観測だったのだろう。私は、咲が意図的にプラマイゼロを
行っていると勘違いしていた。だから意図的にそれをやめることもできると思っていた。
でも咲のプラマイゼロはそういう次元の話ではなかった。いわば……呪い。自身の麻雀を否定された
咲が辿りついた、一つの到達点だった。
それに、家族の仲は私が思っているよりもずっと深刻で、もうどうにかなるものではなかった。
……いや、いずれにしても結末は一つだったのだろう。
でも同時に、そこが大きな分岐点だった。
咲と同様に尋常ならざる才能を持って産まれた私の麻雀……。
それがまっすぐに伸びて枯れるか……それとも歪に開花するか。その分岐点だった。
照「お父さん、お母さん、話があるの!」
父「……ああ、照か」
母「……」
照「ねえ二人とも、お願いがあるの。あのね、もう一度家族で麻雀を――」
父「あー、それよりもな、照。俺達もお前と咲に話があるんだ」
照「?」
父「……父さんと母さん、どっちについていきたい?」
照「……え?」
照「ど、どういう、意味?」
父「……まあ、なんだ……つまり……」
母「離婚することになったの、私たち。親権を争うつもりはないから、あなたたちの意見で
どちらが子供を引き取るか決めることにしたの」
照「な、何言ってるの? 離婚って……なんで!?」
父「……」
母「子供には分からないわ」
照「ふざけないで! そんな大事なこと勝手に決めて、説明すらしないつもり!?」
母「……」
照「嫌だよ、絶対認めない! 離婚なんてしないで!」
母「もうこの家にいるのは耐えられないの! もう私を解放してよ!」
照「解放? ふざけないでよ! 子供に麻雀で負けたから離婚するとかどうかしてる!」
母「黙りなさい! 親に向かって!」
照「お父さんはどうなの? 本当にこれでいいの?」
父「……好きにすればいいさ」
照「っ! ……最低」
父「……」
母「もういいでしょ。あなたと咲は、私とこの人のどっちについていくのか決めなさい」
照「……」
照「……だったら、私からも一つだけお願いがある」
父「? なんだ」
照「……もう一度、家族みんなで麻雀を打って」
母「は? 麻雀? どうして今更麻雀なんて……」
照「打ってよ! それで、私か咲が勝ったら離婚の話はなしにして!」
母「なっ……咲に、勝つ……?」
父「……」
照「私たちの意見も聞かずに勝手に決めたんだから、それくらいの条件は呑んでよ」
母「そ、そんなこと……」
父「いいじゃないか、それで」
母「! あ、あなた正気? 咲に勝つだなんて」
父「照の言ってることの方が正論だ。俺達の我がままを押し付けるんだ、それくらいの
条件は親として呑むべきだ」
母「……」
父「それとも最後まで咲から逃げるのか? それでよくプロだなんだと騒げるな」
母「っ! ……いいわ。私かこの人が勝てば離婚に同意するのね?」
照「……」コクン
母「……いいわ。咲を呼んできなさい」
照「咲、咲!」バタン
咲「……」
照「咲、あのね、今お父さんとお母さんがね!」
咲「知ってる。聞こえてたから」
照「そ、そっか。なら話は早いんだけど、二人を離婚させないためには私か咲が二人に勝たないといけないの」
咲「……うん」
照「咲なら二人に勝てるよね? もちろん私も頑張るけど、私の力じゃ勝てるとは
限らないし……ねえ咲、二人に勝って。お願い!」
咲「……うん」
照「そっか、よかった」パァ
照「じゃあ、今すぐ行こう! さっさと二人をやっつけて、離婚なんてやめさせないと」
咲「……」
父「――じゃあ、ルールはいつものでいいな。半荘一回でトップが俺かこいつだったら離婚。
咲か照がトップなら離婚はなし、いいな?」
照「うん」コクン
父「じゃあ始めるぞ」
照「……」カチャ
照(くそ、引けない……いつにも増して牌が私のことを嫌ってる)
照「……」カチャ
母「ロン、7700」
照「うっ……」
照(やっぱり私じゃだめだ……いつもラスだし、お母さんも強い)
照(咲……やっぱりお前が勝つしか……)
咲「……」カチャ
父「! ロン。3900」
照「え、さ、咲……?」
咲「ご、ごめんなさいお姉ちゃん」
照「う、ううん……いいん、だけど……」
照(どうして? もう東場が終わるのに、咲が一度しか和了ってない……どういうこと?)
照(調子が悪いだけ? でも、この感じ……いや、そんなわけない)
照(咲は約束してくれたんだ。咲ならきっと勝てる。家族が離れ離れにならずにすむ。
……そうだよね、咲……)
母「ツモ。1300,2600」
照「……」ジャラ
照(咲……どうしたの。なんとかしてよ……)
でも、それからも咲からは勝とうという意識は感じられなかった。
両親が高い手を和了っても悔しそうにもせず、ただ淡々と場を進めていった。
照「……」ギリ
そして場はもう南三局。私はダントツのラスで、咲は三位。しかも母が大きく差をつけて一位に
なっており、このままでは母が勝つ可能性が濃厚という段になった。
私も何度も和了ろうとした。でも、何度ツモってもまるで牌たちは私をあざ笑うかのように
避け、私は不要牌ばかりをツモった。たまに他家がリーチをかければ、狙い澄ましたかのように
当たり牌が私の許へと滑りこんできて、私はたちまち振り込むことになった。
照「……どうして……」ポロ
以前からこんなことばかりだった。私は牌に嫌われていて、高い手なんて滅多に和了れない。
今まではそれでもよかった。それでも楽しかった。どれだけ牌に嫌われていても、私は牌のこと
が好きでありつづける。そうすればいつかきっと牌も私のことを好きになってくれると信じていた。
でも、今日だけはそういうわけにはいかない。今日負けたら、家族がバラバラになってしまう。
照(だからどうか今日だけは……私のことを好きになって……有効牌をツモらせて)ポロポロ
そう希う想いも空しく、私は今日一日、聴牌すらままならない局が続いた。
そうして両親が次々と和了っていく中、ついに咲がツモ宣言を放った。
咲「ツモ。2000,4000」
照「さ、咲!」パァ
照(咲が和了った。これでまだ可能性はある――!)
咲「……」パララララ
照「――――え?」
八⑧⑧⑧⑨⑨⑨北北北 八 333
照(……ちょっと待って。3索……)
一見するとおかしなところはない手。でも私はそれが有り得ない手であることに気づいた。
咲は父が捨てた3索をポンし、その二巡後に自ら3索を切っていた。だがその3索は
ツモ牌ではなく、手出しの3索だった。つまり……咲はわざわざ鳴かずとも3索の暗刻を
持っていた。
無駄な鳴きさえしなければ、咲の手は四暗刻単騎待ち。役満が確定していた。この勝負は
勝ったも同然だったのだ。
照「咲……お前、どうして四暗刻を……」
咲「……」
照「な、何か見えてたの? あそこで3索を鳴かないと誰かが和了ってたとか? そ、そういうこと?」
咲「……」
母「そんなの決まってるじゃない照。点数を見なさい」
照「え?」
母「今の和了りで咲は28700点で二位。次のオーラスで1000点和了ればプラマイゼロ。
……いつものことじゃない」
照「そ、そんな……!」
照「咲、違うよね? そんなことしないよね? だって……だって……」カタカタ
咲「……」
照「だってこの勝負に負けたら、お母さんたち離婚しちゃうんだよ? 家族がバラバラに
なっちゃうんだよ? そんな勝負でプラマイゼロなんてしないよね? ね?」ポロポロ
咲「……」
照「咲……なんとか言ってよ、咲ぃ!」
咲「……ごめんなさい」グス
照「!?」
咲「私が打つと……いつもこうなっちゃうの」
照「…………」ボーゼン
母「……分かったでしょ? この子はそういう子なのよ! 常識の通用しない打ち手なの!」
父「……」
照「咲……」
咲「……」グス
照「そんなに勝ちたくないの? そんなに負けたくないの?
勝ったり負けたりするくらいなら……家族がバラバラになったっていいって……本気で
そう思ってるの? 家族って……咲にとってはその程度のものだったの?」
咲「……」
どうして。
どうしてなんですか、神様。私はこんなに麻雀が大好きで……こんなに牌を愛しているのに。
どうして麻雀は私を愛してくれないんですか? 私はこんなにも勝ちたいのに。勝たなきゃいけないのに。
どうして麻雀が嫌いな咲があんなに麻雀に愛されて……勝とうともしない人間のところに牌が集まってくるんですか?
――つまるところ。
この勝負は勝負でもなんでもなかった。私は誰と勝敗を競っていたわけでもなかった。
家族が離れ離れになるかどうか……それは全て咲の胸三寸だった。全ての決定権は咲が握っていた。
咲が離婚を望めば両親が勝ち。離婚を望まなければ私たちが勝つ。そういう儀式だった。
照「……お母さんの……言う通りだ」
こんなの、もう麻雀でもなんでもない。
両親を離婚させたのは、ある意味では両親ではない。咲――咲の麻雀が、両親を離婚に追いやったんだ。
――いや、咲のせいだけじゃない。
私の弱さ。それが両親の離婚を……家族の乖離をもたらした。
私がもっと強ければ。咲にも負けないくらい強ければ。
私に靡かない牌にこびへつらい、無様に希ったから。だから全てが崩壊してしまったんだ。
照「――――――――そうか」
そのとき、私は全てを理解した。
牌に愛してもらおうなんて考えるのがそもそもの間違いだった。咲のように産まれながらに牌に
愛された特別な存在でもない限り、そんな奇跡は起こらない。
私が有効牌を引く方法はただ一つしかなかったんだ。
――すなわち、力づくで、問答無用で、牌を無理矢理にねじ伏せる。抗う牌を蹴散らし、
組み伏せ、有無を言わさず、竜巻のように、太陽の引力のように……私の許へ引きずり込む。
それが私に残された、唯一の道だ。
でもそのためには、麻雀を愛する気持ちなんてあってはいけない。そんなものがあっては、牌を
かしずかせることなんてできない。
牌を憎み、麻雀を憎む。その憎しみだけが……私に力を与えてくれる。
照「……そういう、ことなんだね、咲」
咲「お姉ちゃん……」
照「続けよう。まだオーラス……私の親番が残ってる」
父「……」カチャ
母「……」カチャ
咲「……」カチャ
咲(この感じ……)ゾクッ
照「……」ゴォォォォ
照(もういい。もうお前たちに愛してもらおうなんて思わない。有効牌を神に祈ったりもしない。
その代わり、もう私もお前たちを愛さない。有効牌は――自分で引いてみせる)
タン
照「――ツモ。1500」
咲「……」ピク
咲(すごい……私よりもずっと早い……)
照(まだだ……もっと……もっとかしずけ。跪け……!)ゴッ!
照「ツモ。1300オール」
照(もっとだ……もっと強く。深く麻雀を憎むんだ)
照「ロン。7700」
和了る度に。牌をツモる度に、私の脳裏に楽しかった麻雀の日々が蘇ってくる。
家族みんなで笑い合った。成績に一喜一憂し、時間を忘れて没頭した。
照(憎むんだ……牌を……麻雀を憎むんだ!)
ひんやりとした牌の感触。牌がぶつかりあう音。聴牌時の高揚感。
どれも大切な――大切な宝物だった。私の生き甲斐だった。
照(忘れるんだ、全部。楽しい思い出も……何もかも、全部!)
照「……ツモ……4000オール」
牌をツモる度に心が軋む。思い出が霞んでいく。その代わりに、打点がどんどんと高くなっていく。
何かが焼け焦げる匂いが鼻をついた。それは灰の匂い……思い出が憎しみという熱に焦がされ
焼けただれていく匂いだった。
全ての幸福を、喜びを、それに類する思い出を。私の中の黒い太陽が焼き払っていく。その熱
が荒れ狂う気流を生み、その暴風が、私の腕に密集していく。
照「――あぁ……ぁ」
――その全てを解き放ち、私は……その牌をツモった。
視界が滲んで牌が見えなくなった。それでも、何をツモったのかは分かった。
私が無理矢理にその牌をツモったからだ。捻じ伏せ、力任せにもぎ取った有効牌。それが勝敗を
決する最後の一枚だった。
照「……ツモ。8000オール」
父「……トびだ。俺達の負けだ」
気がつけば私は勝っていた。圧倒的な点差で二位を突き離し、ついには父をトばして。
嵐のように過ぎ去った数分間。そのあとには、ただ静寂だけが卓を支配していた。
私は茫然としながら、知らない内に泣いていた。心の中にあった大切なものを全て
失った喪失感を抱きながら、ただ涙の温度を感じていた。
母「……ふう」
母「プロ、か。……戯言だったわね。そう……照……そっかぁ……」
咲「お姉ちゃん……」
照「……」
照「家族なら、ずっと一緒にいたいって思うのが普通でしょ、咲」
照「たとえどんなに大切なものを失ったって……それで家族が離れずにいられるなら、
それでもいいって……そう思えるのが家族でしょ?」
咲「……」
たとえ大好きな麻雀を失うことになったとしても。
大切な思い出を全て汚すことになったとしても。……それでもいいと思った。
それで家族が繋がり続けられるのなら、それが何よりも一番だと。
そのためならどんな破滅だって怖くないと。なにを擲っても構わないと、そう思った。
照「咲は……そうは思わないんだね」
咲「……」
照「なら――お前なんか私の家族じゃない」
咲「!? お、お姉ちゃん――!」
照「うるさい! お姉ちゃんなんて呼ぶな!」
咲「!」ビクッ
照「いつでも勝てるお前が勝とうとしないから、代わりに私が勝ってやったんだ!
私の大切なものを……全部投げ出して!」
今日この勝利を掴むために、私は今まで愛した麻雀を憎み抜き、思い出を引き裂いた。
その憎しみは私の中に強く根を張り、決して拭えない泥となってこびりついた。
もう二度と、私が純粋に麻雀を楽しめる日は訪れないだろう。もう私の麻雀は、黒い太陽の
光に照らされて咲いてしまったのだから。
憎しみが卓を回す歪な麻雀。それが私の強さの正体だった。……牌が私を愛さないのも、
今考えれば当然だ。牌を憎むことでしか強くなれない私を、どうして牌が愛してくれるのか。
照「……私も家を出る」
三人「!?」
父「ど、どういうことだ照」
照「もう二度とこの子の顔なんて見たくない。お母さんが家を出るなら、私もそれについていくから」
母「……照……」
咲「お、お姉ちゃん……」
照「勝負は私の勝ちなんだから、私の命令に従って」
三人「……」
――そうして、私はあの家を出て母と共に東京に渡った。
照「――ツモ。3200オール」
実況『――またしても宮永照! 連続和了が止まらない――! このまま一気に三連覇を決めてしまうのか――!』
照「……」
淡『あなたは……どうして麻雀を続けてるの?』
菫『ならどうして、お前は麻雀を続けてるんだ』
照「……」
彼女たちの問いに、私は答えられなかった。
私自身、答えを知らなかったからだ。麻雀を憎み、牌を触る度に心が砕け散るような想いを
味わうことになると分かっているのに、それでもなぜ麻雀を続けたのか。
麻雀を止めようと思えばいつでも止められたはずだ。なのにどうして。
私はその答えが知りたかった。もう一度咲と卓を囲めば、その答が見えるんじゃないかと
思った。だから無理を言ってまでオーダーを変えてもらって、私は今再び、咲と対峙している。
――そして、私はついに答を手に入れた。
照(……咲)
照(覚えているか、咲。あの頃……私はお前を追う立場だった。お前を目標にしていた)
家族で麻雀を楽しんでいた頃、私は毎日思っていた。いつか咲に追いつきたい。いつか咲に勝ちたいと。
そして私は強くなった。大好きだった麻雀を憎み、心を閉ざし、大切だった全てを擲ち、
破壊し、踏みにじって……私はようやく咲に追いついた。
咲の麻雀と私の麻雀。それが今はじめて激突する。正真正銘、互いの全力の麻雀が。
今までの苦しみも。支払った代償も。全ては今日このとき、咲をこの手で超えるために
あったんだと、私は今なら疑いなく断言できる。
そのために費やした全ては無駄ではなかったんだと。あの日の私の想いは間違いではなかったんだと。
――それを今、証明してみせる。
照(――行くぞ、咲)
私は今こそ……私の麻雀の全てを以て、お前を超える――!
咲さん哀れ
東一局
照「……」カチャ
二三三四五六七八9東東44 東
恒子『――キター! チャンピオン、三巡目にして親ッパネの手を聴牌! 速い! 速すぎる!』
咲「……」カチャ
33九九九八七①②③③⑦西 ⑧
咲「……」カチャ 西
恒子『しかし清澄高校も一向聴! チャンピオンの速度にくらいついていく!』
咲(嶺上牌は六萬。⑥⑨筒をツモったあと、九萬でカン……嶺上開花!)
咲(次で聴牌になる。あと二巡……それまで持ちこたえれば私の勝ちだ)
照「……」カチャ
照(――確かに、流れはお前にある。牌の流れ……お前はそれを常に味方につけている。その流れ
を支配し、自分のものにする程の相手が現れない限り、お前は有効牌を引き続けられるんだろう。
……淡のように)
照(何もしなくても、牌の方からお前に引き寄せられていく。まるで牌が自分をツモってくれと
言っているみたいに。牌たちから寄せられる、惜しみない愛情……)
照(――いらない。そんなもの私には必要ない。たとえどれだけ牌がお前を愛していても、決して
お前のところになんか行かせない。今この場を支配しているのは私の力なんだと、牌自身に
思い知らせてやる)
照(――さあかしずけ。跪け――ッ!)ゴォォォッ!!!
咲「――うっ!?」ゾクッ
竜華「な――!?」ゾクッ
穏乃「え――!?」ゾクッ
ワカメ「ん?」
カタカタカタ……パリンッ!
咲(い、今のは……)
咲「……」カチャ
咲「――ッ!?」ビクッ
33九九九八七①②③③⑦⑧ 四
咲(え、四萬――!? そ、そんな……なんで!)ゾッ
恒子『あー! 清澄高校、チャンピオンの当たり牌である四萬をツモってしまった――!
これはオりるしかないでしょうね。もったいない!』
健夜『……⑨筒……ツモれそうな感じだったんですけどね。ついさっきまで』
恒子『え、そうですか?』
健夜『……牌が、変わった……?』
恒子『え、い、いやいや、さすがにそれはないでしょ小鍛冶プロ。⑨筒が勝手に四萬に化けた
っていうんですか?』
健夜『……というよりは、四萬が宮永照選手に屈服したような感じでした』
恒子『……? 小鍛冶プロの言っていることはたまによくわかんないですね』
咲「……」
咲(オりれない。これは事故なんかじゃない、お姉ちゃんの力でこうなったんだ。ここで逃げたら、
ここから先ずっとお姉ちゃんに力負けすることになる……!)
咲「……」カチャ ⑧筒
穏乃「……」カチャ 3索
咲「ポン!」
恒子『清澄高校、鳴きで仕掛けてきましたね』
健夜『時間をかけて手代わりしている余裕なんてありませんからね。速攻で手を変える必要があります』
照「……」カチャ
二三三四五六七八東東東44 二
照「……」カチャ 三萬
恒子『おっとぉ? チャンピオン、ここで待ちを変えた?』
健夜『いえ……』
照「……」カチャ
二二三四五六七八東東東44 赤5
照「……」カチャ 4索
恒子『あ』
咲「……」カチャ
四五七八九九九①②③ 3 333
恒子『あ! ま、まさか――!?』
咲「カン」3索
咲(よし、間に合った。嶺上開花――!)
照「ロン」
咲「え?」ビクッ
二二三四五六七八東東東4赤5 3
照「ダブ東槍槓ドラ2、12000」ゴッ
咲「――っ!」ゾクッ
恒子『ちゃ、槍槓だ――! チャンピオン、まさかの二連続槍槓――! こ、これはもう
宮永咲選手の打ち筋を見抜いているとしか考えられません!』
竜華(……なんでや。なんで照魔鏡も使わずにここまで正確に狙い撃ちできるんや)ギリ
穏乃(す、すごい……)ブルッ
咲「……」
恒子『こ、小鍛冶プロ。この槍槓は狙ってやったということでいいんでしょうか!?』
健夜『まず間違いありませんね。宮永咲選手が四萬を含めた手を作ろうとしていると読んだ段階で、
3索でのカンでブーストをかけると予想していたはずです』
恒子『な、なんということでしょう! 宮永照、全く隙がありません!! これは他の
三校、大ピンチです!』ズビシッ
健夜『……ですが』
竜華(――せやけど、気づいとるか、清澄?)
竜華(それこそが、〝チャンピオンの隙〟になるんや)ゴッ!
咲「……」
東一局
咲「……」カチャ
竜華「……」カチャ 二萬
咲「ポン」
③④⑤⑥⑦⑧2345 二二二
恒子『清澄高校、ここで二萬をポンして聴牌――! チャンピオンよりも早く誰かが聴牌になるのは
この試合で初めてです!』
照「……」カチャ
一三七八九⑦⑧⑨78999
恒子『こ、これは――! チャンピオンもここで聴牌。しかも二萬のカンチャン待ち――!?
ま、まさか三連続槍槓を狙っているというのでしょうか――!!』
咲「……」カチャ
③④⑤⑥⑦⑧2345 二 二二二
恒子『き、清澄高校、ここで二萬ツモ!! これは加カンできません! あと一歩のところだった
んですが、チャンピオンが一歩早かったか――!』
恒子『清澄高校、なぜカンに拘るんでしょう。それもポンからのカンに。チャンピオンが槍槓を
狙っているとわからないんですかね?』
健夜『二回の槍槓は、おそらく宮永咲選手もチャンピオンを抑えて和了れる自信があったんでしょう。
しかし今回は……』
咲「……」カチャ 2索
恒子『清澄高校、オりましたね。まあ仕方ないですが』
健夜『……オり、とは少し違いますねこれは』
恒子『え? というと?』
照「……」カチャ
咲「……」カチャ
健夜『宮永照選手は前の巡で、二五萬待ちをわざわざ二萬のカンチャン待ちに変えています』
恒子『純チャンを含めるためじゃないんですか?』
健夜『そう。彼女が次に和了るのは跳満以上。そのためには純チャンが必要だったんです。
結果的に宮永照選手の待ちは二萬のみ。そしてそれは全て宮永咲選手が握っている。つまり……』
恒子『――あ』
照「……」カチャ
咲「……」カチャ
健夜『――そう。清澄が二萬を持ち続ける限り、宮永照選手は和了れないんです』
健夜『同時に宮永咲選手も、二萬を切ることもカンすることもできないわけですから、和了れません』
健夜『四校の内二校が互いに睨みあって和了れない状態にある』
健夜『なら……』
竜華(――なら、もう何も怖いもんはない。どんだけ時間をかけて手作りしたって構わんっちゅうことや!)
竜華「――ツモ! 3000,6000!」タンッ
照・穏乃「――!」
恒子『せ、千里山女子、ここで跳満ツモ――!! チャンピオンの連続和了を止めたああ!!』
照「……」
竜華(確かにチャンピオンは強い。私だけやったら太刀打ちできるかわからん)
竜華(けど、清澄がチャンピオンの速度に追いついて、互いに睨みあって動けん状態になれば、
私にもチャンスはある!)
穏乃(そっか、そこが勝負を仕掛けるときなんだ)
恒子『なるほど。清澄がポンすればチャンピオンはそこに合わせて槍槓を狙ってくる……そして
清澄がカンしなければ、チャンピオンは和了れない!』
健夜『槍槓を狙わなければ清澄がカンして嶺上開花ですね』
恒子『千里山以外の高校もチャンピオンの隙に気付いたようです! これはまさに宮永照包囲網!』
恒子『小鍛冶プロ、この展開どう見ますか?』
健夜『そうですね、悪くないと思いますが……』
竜華(――さすがに決勝戦の面子が敷いた包囲網ともなれば厳しいんとちゃうか、チャンピオン? 仕留めたるで!)
健夜『――この包囲網にはいくつか穴がありますね』
恒子『穴?』
健夜『はい。――きっともう、彼女は気付いています』
照「……」ゴォォォ
東二局
照「……」カチャ
照「――ツモ。500,800」
恒子『三巡目でチャンピオン再びツモ! 清澄高校は一向聴、わずかに追いつけなかったか!』
健夜『これが一つ目の穴ですね。高めを狙わなくていい序盤は、槍槓を狙いつつもツモ和了りを
狙える待ちが多い。つまり、序盤の連続和了は止められない』
竜華(……かまへん。安い手の内は揃えるのも簡単やし、早いのは仕方ない。その辺は仕方ない)
竜華(せやけど、三連続和了程度やと10000点程度にしかならへん。そっから先を潰せれば
十分チャンピオン攻略は可能や)
健夜『――逆に、四連続和了以上をされるとかなり厳しいですね。先鋒ならまだしも、大将では
合計収支で宮永選手を超えなくてはならないので』
恒子『なるほど。では勝負どころは三連続和了の後、つまりチャンピオンの親が再び
回ってきたときですね!?』
健夜『おそらく』
南一局
白糸台:157900
千里山:107400
清澄:68000
阿知賀:66700
恒子『さあ、やはりチャンピオンの連続和了が始まってしまった――! 三連続和了が終わり、
再び宮永照の親番です!!』
竜華(ここや……ここで親の連荘をさせへんかったら、まだ私にも勝ち目はある)
竜華(清澄がチャンピオンの速度に追いついてくれるかどうかが鍵や……まだ後半戦を残してる
とはいえ、さすがに5万点差はまずい)
穏乃(清澄が白糸台を止めてくれれば、そこで私も勝負に出れる!)
咲「……」
咲「ポン」
三四五678⑦⑧⑨西北 七七七
恒子『清澄七萬ポンで一向聴を強引に聴牌にまで押し進めていく! し、しかし――!』
照「……」カチャ
一二三八九678②②⑥⑦⑧ 六
照「……」カチャ 九萬
恒子『チャンピオン、七萬待ち! 今度こそ清澄の七萬カンを槍槓で打ちとるつもりか――!?』
竜華(いや、そのまま清澄がチャンピオンを食い止めててくれれば、私らが連続和了を止めれる)
穏乃(手作りするなら今だ!)
恒子『またしても両宮永選手の睨みあいとなりました。これはまた他校が和了ってしまうんでしょうか?』
健夜『……いえ』
照「……」カチャ
一二三六八678②②⑥⑦⑧ 五
照「……」カチャ 八萬
恒子『あ!』
健夜『彼女は二度も同じ轍を踏む選手ではありません。手代わりで多面待ちしつつ、カンも牽制。
一方宮永咲選手はカンを前提とした待ちですので和了りづらい』
照「……」ゴッ!
健夜『――だから、チャンピオンが一歩先を行く』
ドゴォ!
一二三五六678②②⑥⑦⑧ 四
照『――ツモ。2600オール』ゴォッ!
咲・竜華・穏乃「!?」
恒子『チャ、チャンピオン、怒涛の四連続和了――! 親での連荘が始まってしまった!!
他校は一刻も早く止めなくては、取り返しのつかないことになってしまいます!!』
健夜『こういう手代わりを許さないためには、チャンピオンにドラを乗せてはいけませんね。
今の手もドラが乗っていなければ打点は上昇しませんでした。ドラを集めてくれる松実玄選手の
ような人がいてくれれば、千里山の包囲網も一段階強くなれるんですけどね』
竜華「くっ……!」
竜華(清澄の嶺上開花を封じつつ誰よりも早く和了るやて……? 信じられんほど正確に有効牌
を引いてくる……)
竜華(支配……いや、まるで牌そのものを屈服させてるようや。ほんまに人間なんかこの人……)
健夜『しかもこれは大将戦ですから、清澄もただチャンピオンを食い止めているわけにはいきません。
自身も和了りを目指さないと』
恒子『あ、そっか。そこを狙われちゃうとまずいですね』
健夜『先鋒戦なら足止めだけという作戦もありなんですが、今はできません』
恒子『そうなると、千里山の敷いた包囲網も確かに穴だらけですね。私も一瞬いけるんじゃないかと
思ったんですが、やはりチャンピオンには通用しないということでしょうか』
健夜『そうですね。純粋な力の差です』
南一局
恒子『さあまだチャンピオンの連荘は続く! 他校はこれを凌ぐことができるのか!?』
竜華(次は12000点以上……あかん、なんとしてもここで止めな)
竜華(清澄に差し込むか……安手を作ってくれれば……)
咲「……」カチャ
334455678南南南西 北
咲(だめだ……追いつけない!)
竜華(染め手? ……くそ、高そうや。さすがにこれに差し込むのは……)
さっきから凄い頻度でさるくらってしまってるので、少し休憩します。ごめんなさい
もう折り返し近くまで来てるので、>>1000までには間違いなくおわれると思いますので、
よろしければ保守お願いします
ではぼちぼち再開します。少しゆっくりめでいきますね
※保守ありがとうございました
照「……」
12一二三①①①②③789
恒子『チャンピオン、またしても早い段階で高い手を聴牌――! しかもいざとなれば清澄
から索子を槍槓できそうな待ちですね。対する他校はまだ一向聴以下! この局も決まってしまうのか!』
竜華(あかん、和了られてまう……!)
竜華「ポン!」カチャ 発
竜華(発ドラ1。これなら差し込んでも大丈夫やろ。清澄か阿知賀が察してくれれば……)
咲「……」カチャ
穏乃「……」カチャ
竜華(くっ……だめか)ギリ
健夜『阿知賀、清澄ともに対宮永照意識で頭の中がいっぱいで、差し込みにまで気を回す
余裕はなさそうですね。唯一冷静なのは清水谷選手だけですが……止められませんね、彼女では』
照(3索は出ないか……でも、同じこと)
照「……」カッ
照「……」ガッ ギュルルルルルルル
竜華(…………だめか…………)
ドゴォッ!
照「――ツモ」
1一二三①①①①②③789 1
照「4000オール」ゴォッ!
咲「……っ」ビクッ
恒子『ご、五連続和了――! もう誰もチャンピオンを止められないのか――!』
竜華「く……」ギリ
竜華(止められへんのか……まるで竜巻や。大きさも速度も分かってるのに、止められへん……!)
咲「……」
南一局
咲「……」
咲(淡ちゃんの言った通りだ。私はお姉ちゃんに及んでない……)
咲(でも……負けるわけにはいかないんだ!)ゴッ
咲「ポン!」⑧筒
恒子『清澄高校、一巡目にさっそく⑧筒をポン! しかしまたチャンピオンに狙い撃ちされてしまうぞ!?』
健夜『面前で手を揃えてたらスピードで負けます。チャンピオンにツモらせず、かつ自分のツモを
増やすために鳴きが必要になってきます』
照(……無駄だ)ゴッ
照「……」カチャ
.①①①②②②③③③④④⑥⑦
恒子『しかしチャンピオンも三巡目で凄まじい手を張っています! しかもまたしても槍槓狙いか――!?』
照(でも……なに、この違和感は)
竜華「……」カチャ
二三四五⑤⑤⑤⑨⑨346白 ⑤
竜華(――よし、全部取ったで!)
恒子『これは――! 千里山の清水谷選手、チャンピオンの当たり牌である⑤筒を全て手中に収めた!
これでチャンピオンはもう⑧筒でしか和了れません!』
咲「……」カチャ
咲(⑧筒……四枚目だ)
恒子『清澄高校、ここで四枚目の⑧筒をツモ! 聴牌です!』
竜華(これでもうチャンピオンも清澄もこの局で和了られへん)
照(……かといってここで待ちを変えれば、咲が⑧筒カンで嶺上開花、か……)
健夜『包囲網の完成ですね』
竜華(さあ、あとは和了るだけや。少しでも高い手を)
穏乃「――リーチ!」
咲・照・竜華「――!」
竜華(な、阿知賀……!? しまった、先を越された!)
健夜『阿知賀の高鴨選手、あらかじめ手作りしていましたね。清澄のフォローに回っていた
清水谷選手はまだ手が遅い。油断しましたね』
穏乃「ツモ! 4000,8000!」
恒子『阿知賀女子、ここでチャンピオンの連荘を阻止――! これで阿知賀も浮上、清澄の
一人沈み状態です!』
咲「……っ」
南二局
照(……咲との点差は約10万点。残りはこの南場と半荘一回……)
照(たった二回の親で、8万点以上の点差が開いたんだ。私に勝つ? プラマイゼロ?
この結果を見ろ咲……お前の負けだ)
照(勝てる……私はもう、咲に勝てる!)
咲「……」カチャ
竜華「ポン」
咲「……」カチャ
竜華「ポン!」
恒子『千里山、連続ポン! チャンピオンにツモらせない作戦か!』
竜華(チャンピオンの下家になってしもたからな。私が鳴けば、それだけチャンピオンのツモが
飛ばされることになる。それがチャンピオンのスピードに対抗する唯一の手段や)
穏乃(……私もツモれないんだけどなぁ……)
穏乃(……でも、諦めるわけがない! チャンピオンに勝つためには、私も……!)
穏乃「……」カチャ
咲「ポン」
咲「……」カチャ
竜華「それもポンや!」
恒子『こ、これは――! チャンピオンを差し置いて他家がどんどんと鳴いて手を進めていく――!
たった一巡で、めまぐるしく手牌が変化していきます――! これはチャンピオンつらい!』
照「……」
恒子『これも新たな宮永照包囲網でしょうか。どう見ます小鍛冶プロ? なんかもう平然とコンビ打ち……というか
三対一で打っているように見えますが』
健夜『実際にサインを飛ばしているわけではありませんし、相手の手牌を予想できる高度な読みが
あってこそですから、まあ……』
健夜『それより、この作戦の問題点は……〝誰が和了るのか〟ということですね』
穏乃(鳴かせるのはいい。でも……)
咲(最後に和了れないんじゃ同じだ。協調するフリをしつつも、皆いつ動くべきか見計らってる)
竜華(大将戦じゃなかったら完全に結託してもよかったんやけど……悪いな、清澄、阿知賀)
竜華(――この局はうちがもらうで!)
竜華「ツモ! 1300オールや!」
恒子『おーっと、先制したのは千里山! 親の連荘です!』
竜華(鳴きまくると手が伸びへんのがつらいけど……ゆっくり詰めていくしかあらへんな)
南二局
照「……」カチャ
恒子『チャンピオン、二巡目で一向聴! さすがに早い!』
咲「……」カチャ
竜華「ポン!」
咲「……」カチャ
竜華「それもポン!」
恒子『しかし千里山も連続ポンで、二向聴を一巡で聴牌にまで押し上げた――!』
竜華「――ツモ! 2000オール!」
竜華(清澄……一番点取られてラスやっていうのに、私をフォローしてくれてる……。
……おおきにな。次はあんたの親番や。今度はうちがフォローするで)
健夜『一つの作戦として、チャンピオン以外の三校がそれぞれの親でツモ和了りを繰り返せば、
結果的にチャンピオンだけがどんどんと点を失っていく、という展開が考えられます』
恒子『あ、なるほど。あの三校はそれを狙っていると?』
健夜『ゲームメイクを行ったのは千里山ですが、どうやら他校もそれに同調するようですね』
恒子『でも、そう上手くいきますかね?』
健夜『チャンピオンに追いすがれるほどの聴牌速度。他家の欲しい牌を察知し、それを手中に収める力。
――つまり、場の支配力を競う戦いになります。そして宮永照選手は、支配力という一点において
紛れもなく最強……三対一でも、どこまでやれるかは分かりません』
照「……」
南二局
竜華「……」カチャ
竜華(……手が重い……。四巡目で二向聴か……)
竜華「……」チラ
照「……」
竜華(チャンピオンはもう聴牌……最低でも一向聴のはずや。六巡目までに絶対和了ってくる)
竜華(ホンマはもう少し取りたいところやけど……ここは譲るべきかな。
――そうなると、誰に和了ってもらうのが一番ええか、って話になるんやけど……)
竜華(チャンピオンの連続和了は途切れてる。ならこの局は一番安い手から始まるはずや)
竜華(……ごめんな清澄。親被りもらうよりかは、チャンピオンの安手に差し込んだ方がええんや。
多少の打算は堪忍やで)
照「ポン」カチャ 南
恒子『宮永照、ポン! これで三面待ち聴牌です!』
竜華(さて、チャンピオンの当たり牌は、多分これ……)
咲「カン」
竜華・照「――!?」
恒子『清澄高校、チャンピオンの捨て牌をカン! しかし聴牌ではありませんので、嶺上開花では
ないようです』
竜華(ここでカン……?)
クルッ 東
竜華「なっ――!」
竜華(槓ドラが……チャンピオンの鳴いた南!?)
竜華(これに差し込んだら、最低でも満貫もってかれる……!)
咲「……」ジー
竜華(清澄、あんた……私が差し込もうとしてるのを読んで……)ゾッ
咲「……」ジー
竜華「…………」
竜華(……わかった。ちょっとケチに考えすぎとったようや。……ええよ、あんたが和了り)
穏乃「……」カチャ
竜華「ポン」
照「……っ」
恒子『清水谷選手、チャンピオンのツモを飛ばした!?』
竜華(……なるべく優しく頼むで、清澄)
咲「カン」
恒子『清澄高校、カン。これで聴牌!』
咲(……ごめんね。千里山さん)
咲(この試合――私、手加減なんてできないんだ)ゴォッ!
咲「もいっこ、カン!」
照「……」
竜華(……)フッ
咲「――ツモ! 3000,6000!」
恒子『嶺上開花炸裂――! 清澄高校、なんとか息を吹き返したか!』
恒子『それにしても、ここまで連続でチャンピオンが和了れないなんて初めてではないでしょうか!?
ついに三校がチャンピオンの連続和了を攻略したか――!!』
照「……」ギリ
南三局
照(一回和了ったくらいで……いい気になってるんじゃないだろうな、咲)
照「……」ゴォォッ!
竜華「……」カチャ
竜華(このツモ……あかん、チャンピオンの支配が強まった)
穏乃(鳴けない。鳴かせることもできない……!)
咲「……」カチャ
照(悪あがきもここまでだ、咲。もう牌はお前たちに従わない。鳴いて手を進めさせたりしない)
咲「……」
照「……」カチャ
恒子『チャンピオン聴牌――! 安手ですが二巡目の聴牌。清澄の親は流れてしまうか――!?』
咲「――カン」
照「な――」
竜華(カン!? このチャンピオンの支配の中でもできるんか清澄!?)
照(王牌……私の支配もそこまでは届かない……!?)
――森林限界を超えた高い山の上――
――そこに花が咲くこともある――
照(――咲……)
――お前もその花のように――強く――
咲「――ツモ! 6000オール!」
恒子『だ、打点が高い――!!』
健夜『……いえ、それより』
穏乃(早い――!)
照「く……」ギリ
恒子『清澄高校、ここで親ッパネ――! チャンピオンの速度を上回った――!!』
竜華(誰と協力することもなく、個人の力だけでチャンピオンの支配を超えた……)ゾクッ
照(……咲……お前は)
照(お前はそれだけの力がありながら……どうして)ギリ
咲「……」
南三局
竜華(清澄の連荘か……ほんま信じられへんわ。スピードを重視すればどうしたって打点は下がる
もんや。やのに清澄は立て続けにあんな高い手を……)
咲「――カン!」
竜華・照「――!」
咲「ツモ。嶺上開花! 3200オール!」
恒子『清澄高校、三連続和了――! ちゃ、チャンピオンがここまで連荘を許すなど何年ぶり
か――!? 完全に流れをものにしたか清澄!』
竜華(清澄……! こ、ここまで……)
穏乃(す、すごい……)ゾクッ
照「……」
咲(いける……お姉ちゃんに追いつける!)
――ギ
照「…………」
――ギギ
――――調子に乗るなよ、咲
――ゴォォォォォォオッ!!!
健夜『――っ!?』ゾクッ!
ガタッ
恒子『え、ど、どうしました小鍛冶プロ』
健夜『こ、これは……』
淡「――きた!」ガタッ
菫「これは……!」
菫(以前一度だけ……大星が照に勝ちそうになったときの、〝あれ〟か……!?)
カタ
カタカタ……カタ
竜華「……ん?」
カタカタカタカタ……
穏乃「え、なに、地震……?」
竜華「……いや、建物とか照明は全然揺れてへん。でも、卓が……」
咲「…………卓じゃない」
竜華・穏乃「え?」
咲「……牌が。牌だけが震えてる……」
カタカタカタカタ……
竜華「……ほんまや」
竜華(なんやこれ。まるで……)
竜華(――まるで、牌が何かに怯えてるみたいやないか)
南三局
竜華「……」カチャ
竜華(な、なんや?)
咲「……」カチャ
咲(カン材が……全然こない)
穏乃「……」カチャ
穏乃(手が進まない……)
照「……」カチャ
恒子『おっと――! チャンピオン、ここで聴牌! 30符1飜の安手ですが、清澄の親を
流せそうです!』
照「……」カチャ
恒子『あら? チャンピオン、待ちを変えました。少し高めを狙うようです』
健夜『……』
照「……」カチャ
恒子『チャンピオン、再び聴牌――! 今度は30符2飜です!』
照「……」カチャ
恒子『あ、あれ? ち、チャンピオン、また待ちを変えました。小鍛冶プロ、トップなんですし、
今の待ちでもいいように思うんですけど……』
健夜『……打点を上げるつもりでしょう』
恒子『まあ……そうなんでしょうけど。チャンピオンは連続和了でちょっとずつ打点を上げていく
んじゃなかったんですか?』
健夜『同じことですよ』
健夜『彼女は――連続和了での打点上昇を、〝一局のうちに〟行うつもりです』
恒子『え……そ、それはどういう……』
照「……」カチャ
恒子『――!? ちゃ、チャンピオン、再び待ちを変えた――! 今度はえーっと……
20符3飜です! た、確かに連続和了の時のように打点が少しずつ上昇しています――!』
ご飯食べてきます。すぐ戻ります
恒子『し、しかしこれではチャンピオンの強さの秘訣であるスピードが失われてしまうんじゃ!?』
健夜『今、あの卓にスピードが存在しているように見えますか?』
恒子『え?』
竜華(……つ、ツモられへん……さっきから、何も身動きがとられへん!)ギギ
咲(これは衣ちゃんの一向聴地獄……ううん、それ以上だ!)ギギギ
穏乃(うぅ……)ギギ
恒子『ほ、本当だ……さっきまであんなに鳴いたりツモったりしてたのに、今じゃ誰も……〝一つ
も手が進んでない〟。三校が配牌時の向聴数から一つも進んでいません!』
健夜『全てが静止した世界……その中を、ただ彼女だけが歩いている』
照「……」カチャ
恒子『ま、また待ちを変えました! 今度は40符3飜――!』
竜華(ぐっ……)ギギ、ギ
咲(動けない……何も、できない……!)ギギギ
照「――ツモ。1300,2600」ゴォッ!
恒子『つ……』
恒子『ツモです! チャンピオン、12巡たっぷり使って打点を上げ、しょっぱなから5200点を
ツモ和了り――! こんな打点から始まるチャンピオンの連続和了を見るのは初めてです――!』
竜華(こ、この人……)
竜華(ほんまもんの化け物や……)ゾクッ
咲「……お、お姉ちゃん……」
照「……」
南四局
恒子『さあ前半戦オーラスです! 最後に和了るのは誰なのか――!』
照「……」カチャ
恒子『チャンピオン、前局で和了った40符3飜の手を聴牌! しかしこれは――?』
照「……」カチャ
恒子『やはり待ちを変えました! またしても一局で打点を上昇させるつもりか――!』
竜華(そんなことがほんまにできるんやったら……今のうちはまだええ。でも、満貫以上になったらどないするの)
竜華(満貫以上は符の概念がなくなって、8000,12000,16000と急激に打点が上がる。
〝それも一局のうちに〟! そんなことされたら勝てるわけないやん!)
竜華(あかん、止めるんや! もういくら差しこんだってかまへん。チャンピオンの和了りを
防がな、ここで息の根止められてまう……!)
竜華「……」カチャ
竜華(くっ……あかん、全然手が進まん。配牌時から一つも)
咲「……っ」カチャ
穏乃「くぅ……」カチャ
竜華(清澄も阿知賀も聴牌には遠い……せやのに)
照「……」カチャ
恒子『再び聴牌! 30符4飜――!』
竜華(チャンピオンだけが、この止まった卓の中を動いてる……!)
照「……」カチャ
恒子『5飜に突入――! ここからは加速度的に打点が上昇していきます――! 前半戦オーラス
でこの和了りは大きすぎる!!』
竜華(くっ……!)
照「笑えよ咲ータ」
咲「――カン!」
竜華・穏乃「!?」バッ
恒子『き、清澄高校、カン! チャンピオンの支配をなんとか振り払ったか――!?』
咲「……」ギギ、ギ……
恒子『清澄高校、一向聴――! まだ諦めていない。執念のツモです!』
咲(カンさえできれば……王牌はまだ私の支配の方が上だ――!)
咲「か、カン!」ギギ……
恒子『清澄高校、二回の無駄ヅモの後にようやくカン! 再び手を進め、これで聴牌!』
咲(ぜ、全力を出しても……三巡に一回カンするのがやっとだ……)ハァ……ハァ……
照「……」カチャ
恒子『しかし清澄間に合わないか。チャンピオンの手は7飜を突破! 打点は12000点に到達
しています!』
咲「カンッ!」
恒子『きた! 嶺上開花なるか――! これを和了れば12000点、清澄高校はプラス5200点で
前半戦を終わります!』
プラスにしないって宣言してるからあがれんのでは…
照「――」
照(5200……プラマイゼロ……か)
照(……言ったはずだよ咲。私はお前の麻雀を認めないって)
照(――――跪け)ゴォォッ
咲「……」カチャ
咲「――ッ!」
恒子『あーっと、嶺上開花ならず――!』
咲(そ、そんな、もう……嶺上牌すら……)ギ、ギギ
照「……」カッ
照「……」ガシ ギュルルルルルルルルルッ
咲・竜華・穏乃「――!」ゾクッ
照「――終わりだ、咲」
ドゴォッ!!
照「――ツモ。3000,6000」
ゴォォォォォォ!
竜華「……ぁ……」
竜華(た、たった二局で……跳満にまで伸びるなんて……ほんなら、あと一局打ったら……)ゾッ
咲「……」
穏乃「」
恒子『き、決まった――! 前半戦終了! やはりチャンピオンが圧倒的な点差で他校を突き放した――!』
白糸台:171400
千里山:88200
清澄:88100
阿知賀:52300
竜華「……」
穏乃「……」
咲「……」
照「……」ガタッ
カツカツカツ
咲「合格だよ照。ようやく私も本気をだせるよ」
咲「……お姉、ちゃん」
照「……」カツカツカツ
咲「……」
咲(プラマイゼロを止められた……こんなにあっさり……)
竜華(……残りが二局で助かった……もし前半戦がもうあと一局でも残ってたら……多分、やられとった)
咲「……」
白糸台控室
菫「……勝ったな」
淡「……ふ、ふふ……」
淡(最高だ……テル、やっぱりあなたが最高だよ)ゾクッ
菫「それにしてもテルの奴、遅いな。まだ帰ってこないのか?」
淡「……」
淡(あれだけの力を使ったんだ。テル本人にも相当な消耗があるはず)
淡「私、ちょっと様子みてくるね」
菫「ああ、頼む」
女子トイレ
ジャーー
照「はぁ……はぁ……」
照「――うっ、うぇぇ……がっ……はぁ……はぁ」
照(頭痛が酷い……吐き気も。眩暈でろくに前も見えない)
照「……でも、超えた……」
照(私は――咲を超えた)
ガチャ
淡「――テル、ここにいたの」
照「淡……」
淡「……どうしたの。酷い顔」
照「……少し、無茶をしちゃった」
淡「最後のあれだよね。私も前にされたときは何事かと思ったけど、あれなんなの?」
照「……」
照「……私の強さの正体は、もう見抜いたんだっけ?」
淡「……麻雀を憎む力、でしょ?」
照「……すごいね、本当にお見通しだったんだ」
照「そう。私の雀力は憎しみの強さ。私にはもともと、牌をかしずかせて支配する能力が
あったみたい。でも麻雀が好きなままだと、その力を使えない。――心が、私の邪魔をする」
照「だから、麻雀を憎めば憎むほど、私は枷から解き放たれて強くなる。それが私の麻雀」
淡「それを突き詰めたのが、さっきのあれってわけ?」
照「普段の私は、自分のツモる牌を支配するのがやっと。力を使えばほぼ100%有効牌をツモれるけど、
場の支配、相手の支配までは覆せない。だから照魔鏡で相手を見抜いて、隙を突いてきた」
照「でもこの力を使えば……極限まで麻雀を憎めば、卓上の全ての牌を支配できる。相手に無駄ヅモをツモらせ、
自分だけが有効牌をツモっていける」
淡「すごいね。そんな力があるならいつも使えばいいのに。――ってわけにもいかないみたいだね、その様子だと」
照「……」
照「……痛むんだ」
淡「? どこが?」
照「胸のあたり。心臓の、その奥の部分が、締め付けられるみたいに痛む」
照「長く使いすぎると頭痛がして、吐き気がして、何か……お腹の奥の、よくわからない部分から
ざわざわした気持ちが沸いてきて……涙が出てくる」
淡「……」
照「……きっと、私みたいに牌に憎まれた子が、お前や咲のような領域に踏み入ろうとした代償
なんだろうね。理由はわからないけど、きっとそうなんだと思う」
淡「……本気で言ってるの?」
照「?」
淡「その力を使うと体調が悪くなる理由が……本当にそんなことだと思ってるの?」
照「違うの? 淡には分かるの?」
淡「とぼけてるの? 分からないふりをしてるの? わからないよ、テル……」
照「……何が言いたいの?」
淡「……」
淡「〝麻雀を憎むと心が痛む〟……その理由が、本当に分からないの?」
照「? わからない。教えて、淡」
淡「テル……あなた……」
アナウンス『――間もなく決勝戦大将戦の後半戦を開始します。選手の方はお集まりください』
照「もういかないと」
淡「……」
照「それじゃあ行ってくる」
淡「……」
淡「……行ってらっしゃい、テル」
恒子『さあついに、ついにインターハイ決勝戦、最後の半荘が開始されようとしています!』
恒子『白糸台は二位と8万点もの差を開けての半荘開始。実況がこんなこと言うのは良くないん
でしょうけど、もうチャンピオンの勝利は目前ではないでしょうか!?』
恒子『白糸台高校、前人未到のインハイ三連覇!! その歴史的瞬間が間近に迫っているような
そんな予感があります! どうでしょう小鍛冶プロ!』
健夜『普通に考えて、8万点ですもんね。かなり厳しいと思います』
恒子『しかも最後のあれ! あんなの使われたらもう終わりじゃないですか!』
健夜『あれは乱発できるような力じゃありませんよ。二局使っただけで相当な消耗を見せましたし』
咲「……」
咲(ううん、やってくる。またあれを、どこかでやってくるはずだ)
咲(……〝どこか〟? 違う、お姉ちゃんがあの力を使うタイミングなんて一つしかない)
咲(――私の、親番だ……!)
照「……」
東:千里山
南:白糸台
西:阿知賀
北:清澄
東一局
竜華(起家か……前半戦のチャンピオンのアレがまだ残ってないことを祈るしかないけど……)
竜華「……」カチャ
竜華(手が進んだ。一向聴。よし、あれは使われてない。また初めからや)
竜華(さすがにこの親で大きく取らんことには、逆転は無理や。なんとかものにしたいけど……)
竜華「……」カチャ
竜華(少し手が遅い……あかん、チャンピオンにスピード負けしてまう……!)
照「……」カチャ
竜華(ん? 手代わり? なんや、五巡目やっていうのに、まだ聴牌しとらんかったんか)
照「……」カチャ
竜華(――っ、また手代わり。なんや、チャンピオンから前半戦ほどの気迫が感じられん)
竜華(……まさか)
恒子『どうしたチャンピオン、六巡目を過ぎてまだ一向聴。チャンピオンにしては遅いですね』
健夜『さっきの能力を使用した反動なのかもしれません』
照「……」
照(さすがにあそこまで強烈に牌を憎むと、牌からの反発も強くなる。あの能力の使用後は
私の支配が弱まってしまう。この局は……まだだめだ)
竜華(チャンピオンの支配が弱い……? これは、いけるか……?)
竜華「……」カチャ
竜華「…………よし。リーチや!」チャラ
恒子『千里山先制――!』
※ちょっと時間的にやばそうなんで、投下スピード上げようと思います。さるよけ支援してもらえると助かります
竜華「――ツモ。3200オール!」
恒子『ツモ和了りです! これは例の『チャンピオン以外が親で連荘する』という作戦でしょうか』
健夜『ここまで点差が開いてしまうともうその作戦でもかなり厳しいですが、彼女たちは
前半戦でチャンピオンの連続和了をある程度攻略していますし、支配力の落ちた今のチャンピオン
になら通用するかもしれません』
恒子『となるとやはり問題は……』
健夜『はい。〝アレ〟をどう攻略するか、ということになりますね』
東一局
竜華「……」カチャ
竜華(いける……! まだチャンピオンの支配が弱い!)
竜華「ツモ! 2700オール!」
恒子『千里山の連続和了! チャンピオンの支配力はいつ復活するのか!?』
健夜『……いえ。もうかなり回復していますね、おそらく』
照「……」
東一局
照「……」カチャ
恒子『チャンピオン、三巡目で一向聴!』
竜華(速い……もうチャンスタイムは終わりかいな。――せやったら)
竜華「……」カチャ
穏乃「ポン!」
穏乃「……」カチャ
咲「チー」
咲「……」カチャ
竜華「ポン!」
恒子『出たー! 三校の連続副露! チャンピオンのスピードが復活してもお構いなし!
連続和了は完全に攻略したか――!?』
照「……」
照(和了ればいい。でも、千里山はそういつまでも容易く和了れる?)
穏乃「……」カチャ
竜華(……それはポンできへん。まずい。チャンピオンがツモる……)
照「……」カチャ
恒子『チャンピオン聴牌――! 巡ってきた一巡を逃すことなく、しっかりと有効牌をツモってきました!
ほんと恐ろしいほどムダヅモがないですね』
健夜『ということは、あと一巡……彼女がツモれば即和了り、と考えて間違いないでしょう』
竜華「……」カチャ
竜華(……結局、一向聴どまりか……。ポンもでけへんノベタン待ち……ここまでか。もう
この局で私の和了りはない……)
竜華「……………………」
竜華「……」カチャ
穏乃「!?」
穏乃(私の和了り牌!)バッ
竜華「……」コクン
竜華(和了り)
穏乃「……」
穏乃「ロン。6400」
恒子『千里山が阿知賀に振り込んだ――! 貴重な残り局数が一つ減ると同時に、千里山の
親番も残り一回! 千里山と白糸台はまだ7万点ほどの点差があります! これはつらい!』
竜華「……」
東二局
咲「――ツモ。1600,3200」
恒子『今度は清澄高校! またしても連続副露でチャンピオンの親を流した――!
もうチャンピオンは連続和了では勝てないんでしょうか、小鍛冶プロ!』
健夜『というよりは、力を温存している様子ですね』
恒子『アレを使うためにですか?』
健夜『はい。結局、あの支配を超えない限りはチャンピオンには勝てません』
東四局
恒子『――さあ、東三局で親の阿知賀が二連続和了! しかし三連続はならず、最後に清澄が
和了って局が進みました! そしてその清澄の親番! 後半戦最後の東場です!』
白糸台:156500
千里山:90600
清澄:87900
阿知賀:65000
咲「……」
咲(私の親番……)
竜華(……信じられへん。後半戦になってからチャンピオンが一度も和了ってない……)
竜華(嵐の前の静けさ…………洒落にならへん喩えやわ)
穏乃(……ってことは……)
健夜『――来る』
照「――ッ」カッ!
――ギ
カタカタ……
竜華「――ッ! 牌が……!」
穏乃「!」
カタ、カタカタ……
――ギギ、ギ
ゴォォォォォォオッ!!
照(――もう支配も完全に回復した。お前の親は終わりだ)
照(止められるなら止めてみるといい)ゴォォッ!
咲「っ……」ゾクッ
照「……」カチャ
恒子『チャンピオン、二巡目で40符1飜を聴牌――! しかし、これは――!?』
照「……」カチャ
恒子『やはり待ちを変えてきました! あの凄まじい支配がついに始まってしまった――!』
竜華(清澄を狙い撃ち……私らなんて眼中にないってことか)
竜華(私はここでどう動くべきなんや? 清澄に和了らせてチャンピオンの点棒を減らす?
……いや、結局はこのチャンピオンの支配を超えられるかどうかなんや。それがでけへん限りは、
結局次の私の親番が潰されて、もうそこで私は終わる)
竜華(なんとかして探すしかない。チャンピオンの支配を超える方法を)
照「……」カチャ
照(――どう動くとか、そういう話じゃない。――この支配の中では、〝一歩も動けない〟んだよ)
照「……」カチャ
恒子『チャンピオン、40符2飜聴牌――!』
竜華「くっ……」
竜華(あかん……なんも進めへん!)
照「……」バチィ!
恒子『40符3飜――!』
咲「……」タン
竜華「――!」
竜華(清澄の打牌……!)
竜華「ぽ、ポン!」
照「な――」ピク
恒子『こ、これは――! 千里山がポンで手を進めました! 清澄、まさか狙ったのか――!』
照(そんな……できるはずない! 私の支配が効いているのに!)
健夜『……宮永咲選手、向聴数を下げましたね』
恒子『確かに。順子の③④⑤筒から④筒を切っていきましたね。なぜでしょう、小鍛冶プロ』
健夜『まあ……それが千里山の鳴ける牌だと読んだからでしょう』
恒子『え、でも……自分の親番ですよね? 向聴数を下げてまで千里山を鳴かせるっていうのは
どういう……?』
健夜『……もしかすると、チャンピオンが支配できるのは『ツモ牌』だけで、『配牌』は支配できないのかも知れません』
恒子『あ、確かに。それができるんならチャンピオンは天和なり決めちゃえばいいわけですもんね』
健夜『チャンピオン以外の三校の配牌を全て合わせれば、鳴ける牌の一つや二つは出てくるでしょう。
――そこを読めるのなら』
恒子『――チャンピオンの支配の中でも手が進む……!?』
健夜『……しかし、それだけでは攻略法とはとても呼べませんね』
照(……手が進むからなに? 結局お前は向聴数を下げてこの局を逃す。貴重な親番を)
照「……」バチィ!
恒子『チャンピオン更に打点を上げた――! 僅か一局で満貫手にまで伸びています!』
照(咲。お前は私の支配に抗うこともできず負ける。今の打牌がいい証拠だ)
竜華「……」
竜華(――違う。清澄は証明したんや。チャンピオンの支配が完全ではないこと。
硬いコンクリートにも花が咲くように、このがんじがらめみたいなチャンピオンの支配の中でも、
自らの意思で前に進めることを――!)
照「……」カッ ギュルルルルルル!
ドゴォ!!
照「――ツモ。2000,4000」
恒子『決まった――! チャンピオンの満貫ツモ! これは勝負あったか――!』
咲「……」
南一局
竜華(私の最後の親番……)
竜華(配牌から三向聴……でも、ここを逃せばもう親がない。チャンピオンとの差は7万点。到底
逆転でけへん)
竜華(なんとしてもこの親で稼ぐしかない!)
穏乃「……」カチャ
穏乃「……!」
1122356678北西⑨
穏乃(きた! 大きい手!)
恒子『おっと! 阿知賀女子、配牌から大物手の予感! これは是が非でも和了りたいですね』
照「……」カチャ
恒子『しかしチャンピオン、2巡で既に満貫聴牌!! 早すぎる!!』
照「……」カチャ
恒子『やはり手代わりを選択! 次は跳満、12000点だ――!』
竜華(阿知賀……三巡連続で⑤筒、四萬、③筒をツモ切り……索子の染め手か。高そうや。
でも手は進んでないみたいやな)
咲「……」カチャ
穏乃「! チー!」
竜華・照「――!」
竜華(また清澄が鳴かせた。阿知賀、もう聴牌間近みたいや)
穏乃(和了りたい……これさえ和了れば……!)
竜華「……」
竜華(……私の手牌にも索子はいくつかある。清一手なら大概鳴けるやろうし、手も進むはずや)
竜華(もしそれをチャンピオンから直撃とれるなら、私にとっても大きい和了りや)
竜華(でも索子を切ればうちの手はボロボロ……もうどう足掻いても和了られへん。
うちの最後の親が終わる……)
照「――リーチ」
竜華・穏乃・咲「!?」
恒子『チャンピオン、とどめとばかりにリーチ――! これで跳満確定! この局面での
12000点は痛すぎる――!』
竜華「……」カタカタ
竜華(チャンピオンの下家は阿知賀。私が阿知賀に索子を送れば、チャンピオンのツモを飛ばせる。
阿知賀も大物手が進んで、リーチで手代わりでけへんチャンピオンから直撃取れるかもしれへん)
竜華(でも、それをしたらうちの親が終わる……。まだチャンピオンの親が残ってるのに、
7万点差ある状態で終わってまう……!)
竜華(でもうちの手牌は三向聴……無理や……とても和了られへん……でも……!)
咲「……」
咲さん何かいって下さい
竜華「……」カチャ
竜華「……」タン ②筒
穏乃(っ……筒子……)
竜華(――ごめん、阿知賀。この索子は切れん。あんたがチャンピオンから直撃とれるとも限ら――)
照「ロン」
竜華「―-――-―――ぇ」
照「12000点」パララララ……
竜華「…………あ……ぁ……」
竜華「そ、そんな……」ヨロ
恒子『せ……』
恒子『千里山、ここでチャンピオンに痛恨の放銃――!!! これはやってしまった――!』
恒子『これでもう千里山には親番がありません。そしてチャンピオンとの点差は9万点にも
なってしまった――!!』
>>363
咲「サメの話しようぜ!」
竜華「」ガックリ
健夜『……千里山は終わりましたね。もう心が折れています』
恒子『清水谷選手、うなだれた顔を上げられない! これはつらいですね小鍛冶プロ』
健夜『彼女だけじゃなく、高鴨選手にとっても厳しい和了りです。大物手を張っていただけに』
穏乃「…………」ギュッ
竜華「……くっ……うぅ……」プルプル
竜華(わかっとったことやないか……チャンピオンの支配は超えられへん。それを超えるためには、
他家に鳴かせて、チャンピオンから点棒を取るしかないって……清澄が自分の親番を潰してまで
皆に証明したはずやったやんか……!!)
竜華(自分が和了る以外にも、他家がチャンピオンからの直撃を狙うことで相対的に点差を縮める
作戦かってあったはずや)
竜華(怜なら――きっと怜ならそうしたはずや。一巡先を読んで、誰か大きな手を張った人に
チャンピオンが振り込むように場を誘導する……あの子ならきっとそういう麻雀を選んだはずや)
竜華(せやのに私は……私は、自分だけが和了りたいって……自分の親番を潰したくないって……
そんなことばっかり考えて、チャンピオンのリーチに、勝てるはずのない三向聴で挑んで……このザマや!!)
竜華(くそ……くそぉ……!)ギリギリ
照「……」
照(――あと、二人)ゴッ!
照(千里山はもう終わった。阿知賀も相手じゃない。……あとは咲、お前を潰せば……)
照「―-――!」ズキン!
照「ぐっ――!?」ガタッ
恒子『おっとチャンピオン、なにやら額を押さえています。怪我でもしたんでしょうか』
健夜『……能力の反動でしょう。強くなればなるほどに心を引き裂く……悲しい麻雀ですね』
恒子『? 小鍛冶プロがまたわけのわからないことを言っています』
照「ぅ……ぐ……!」ギリ
照(支配は止めない……止められない。ここで止めれば、またしばらく私の支配が弱まってしまう。
咲の親番を残しているのに、そんなことできるわけない)
照(これくらいなんともない。どれだけ心を引き裂かれようと、想いが砕け散ろうと、それで
強くなれるなら……私は喜んで引き受ける)
照(さあ、もっと焦がせ……心を炙れ。――全て燃やして、嵐を生め)ギュルルルルル
照(勝つのは――私だ!)
南二局
照「……」バチィ!
恒子『チャンピオン、なんと三巡目で跳満手聴牌――! やはり支配は続行中のようです!』
恒子『しかも今はチャンピオンの親番! これで倍満なんか和了ってしまったら、24000点!
もう決まりです! そんなことになったら、もう決まりです! 決まり!! 白糸台の勝利です!』
竜華「……」カチャ
穏乃「……」カチャ
恒子『千里山も阿知賀も手が重い! 清澄も二向聴のまま動けません!』
照「……」カチャ
恒子『きた――!! 7飜聴牌! 打点が上昇していないのでこれは和了れないんでしょうが、
もう勝利は目前だ――!』
竜華「……」
竜華「……」タン
咲「――!」
咲「ぽ、ポン!」
照「――!」
恒子『おっと! ここで清澄がポン! 一向聴だ! それにしても千里山は順子を崩しましたね。
これは諦めたんでしょうか』
健夜『違います。―――託したんです。清澄に』
咲(千里山さん……)
竜華「……」
竜華(清澄。前半戦、あんたは自分の力だけでチャンピオンの支配を超えた。この支配の中でも、
3巡に一回くらいカンをして強引に手を進めることができてた)
竜華(多分、私にも阿知賀にもできん。チャンピオンに対抗できるのはあんただけや)
竜華(せやから、あんたがチャンピオンを倒し、清澄! うちらの想いを……皆の想いを、あんたに託す!)
咲「……」ギュッ!
照「……」ドッ!
恒子『チャンピオン、ついに10飜聴牌――!! おそらく次でチャンピオンは和了り牌を
ツモります! これが止めの一撃となるか――!』
照「――リーチ」
竜華・穏乃「!?」
恒子『チャンピオンリーチ!! これで11飜――三倍満確定だ――! 親の三倍満は36000点です!
チャンピオン大暴れだ――! 一切の容赦なし!!』
咲「――カン!」
照「――!」ピクッ
恒子『清澄カン――! これで聴牌だ――!』
咲「もいっこ、カン!」
恒子『連続カン――!』
照(無駄だ……!)
照(――跪け!)ゴォォッ!
咲「くっ……!」ギギギ
咲「……」ギギ、ギ……
――ピシッ
照「――!」
咲「……」カチャ
恒子『あー! 嶺上開花ならず! 清澄の最後の抵抗も虚しく、やはりチャンピオンの支配は超えられないのか――!』
健夜『……今……』
照(――私の支配に罅が……?)
咲「……」トン
竜華「――! ち、チー!」
照「な……」ピク
恒子『おっと、千里山チー! しかし千里山はまだ三向聴。一度鳴いた程度では聴牌には程遠いぞ――!?』
健夜『……違う。今、千里山は〝清澄のツモ切りを鳴いた〟。つまり……』
竜華(清澄……引いたんか!? チャンピオンの支配が効いてるこの支配の中で、私の鳴ける牌を……!)
照「……」
照(ツモ巡が変わったくらいで、私の支配は超えられない)
照「……」バチィ
恒子『さあチャンピオンのツモです! 出るか、親の三倍満――!』
照「……」カチャ
照「―-――な」
恒子『――あ』
健夜『……』
竜華「……」
咲「……」
恒子『こ、これは……チャンピオンの和了り牌じゃない。いえ、むしろ……』
恒子『――清澄への当たり牌です!! チャンピオン、清澄の当たり牌を引いてしまった――!』
照「……そ、そんなはず」
照「ぐっ――!」ズキン!
照「ぁ――ぐぅ……!」ズキンズキン
照(力を使いすぎた……? 知らない内に……私の支配が弱まっていた?)
照「くっ……」タン
咲「――ロン! 16000!」
恒子『清澄、ここでチャンピオンから直取り――! まだ希望は残されているか――!?』
恒子『チャンピオンの連荘を阻止。二位の清澄とチャンピオンの点差はおよそ63000点!
清澄、親番に全てを託します!』
南三局
穏乃「……」カチャ
恒子『親の阿知賀。チャンピオンとの点差は三校の中で最も開いています。この親番をものに
できなければ、チャンピオンから役満を直撃しても逆転できません』
穏乃「……っ」カチャ
恒子『しかし、やはりチャンピオンの支配は健在なのか。配牌時から一つも手が進まず三向聴。
対するチャンピオンは既に聴牌です!』
穏乃(動けない……身動き一つできない……)ギギギ
穏乃(このまま何もできずに負けるの……? さっきの千里山の人みたいに……)グッ
咲「――カン!」
穏乃「――!」
恒子『清澄高校、またしてもカン! 手を一つ進めます!』
穏乃(暗槓……清澄、やっぱりこのチャンピオンの支配の中でも動けるんだ)
穏乃(なら……やっぱり、チャンピオンに勝てるのは清澄しかいない)
穏乃(ここで私が自分の和了りを目指しても、さっきの千里山の二の舞だ)
穏乃(……………………なら)
穏乃「……」タン
咲「ッ! チー!」
恒子『清澄チー! 阿知賀女子、向聴数を下げました。これはまさか、阿知賀も勝利を放棄
したということか――!?』
竜華(阿知賀……)
穏乃「……」
竜華(わかってる。ここで自分の勝ちを諦めて清澄を援護するっていうのは、同じチームの
皆にしてみれば申し訳ないことなんかもしらん。でも……)
穏乃(それでも――私はこの道を選ぶ。皆の想いを、清澄に託す!)
竜華・穏乃(――行け、清澄!)
照(調子に――乗るな!)ゴォォォォッ!
健夜『っ……このプレッシャー……すごい……』
咲「く……」ギギギ……
竜華(まだや……まだいけるやろ清澄!)
竜華「……」タン
咲「ポン!」
照「くっ……!」
恒子『清澄聴牌! チャンピオンに追いついた――!』
照「ぐっ――! うっ……」ズキン
照(あ、頭が……割れる……!)ギリィ
照(胸が締め付けられるみたいに痛い……苦しい……)ハァ……ハァ……
照(でも……止める! 咲を止めてやる……!)
――ギギ、ギィ……
咲「……」ギギギ……ギ、
――パキンッ
照「な――!」
咲「悪いなお姉ちゃん、調子こかせてもらうね」
咲「――ツモ! 6000,3000」
恒子『清澄高校、連続和了だ――!』
健夜『チャンピオンの支配を打ち破った……!』
竜華(清澄……!)
穏乃(すごい……!)
淡「咲ちゃん……!」
菫「馬鹿なッ!」
照「……そんな……」
照(止められないの……? ここまで支配を強めても)ズキンズキン
照(咲の力が、私の支配を上回った……?)
恒子『勝負はとうとうオーラス! インターハイの優勝校を決する、最後の一局に突入です!』
白糸台:156500
千里山:76500
清澄:109200
阿知賀:57800
南四局
照(最後の一局……咲の親番……!)ゴッ
照(加減はなしだ。全力で牌をかしずかせる!)ゴォォォォオ!
竜華(――ぐっ!)ギギ
穏乃(こ、これ……!)ギギギィ
恒子『す、すごい――! 千里山と阿知賀、もはや字牌しかツモれてません! チャンピオン、
ここでついに全力全開か――!!』
健夜『これほどの力を何局も連続して使い続けるなんて……』
健夜(こんなことしたら、彼女の心は……)
照「ぐっ――!」ズキィ!
照(い、痛い……! 視界が滲んで前が見えない……)ガクッ
咲「……」カチャ
恒子『だめだ――! 清澄も配牌時の手から動けません!』
竜華(だめなんか、清澄……)
穏乃(清澄……!)
このぎぎぎにもコークスクリューみたいな技名がいると思うんだ。
ギギ・ギネ・ブラとかどうな
咲「……っ」ギリ
咲(だめだ……もう私の力だけじゃ、お姉ちゃんを超えられない――!)
照(これが私の全力だ。和了れるものなら和了ってみろ、咲)
照「……」バチィ!
123①②④⑨⑨六七南南北 南
恒子『チャンピオン一向聴――! ドラの⑨筒を頭にして、南ドラ2です! ですがもはや点数は
問題ではありません。この手を和了った時点で、白糸台の優勝が決定します――!』
照(これで終わりだ咲。あと二巡……それで決める!)
咲「……」カチャ
咲(私だけじゃ、お姉ちゃんには勝てない……)
咲(だから皆、今だけ……私に力を貸して!)
咲「――カン!」
恒子『清澄カン――! ツモった四枚目の白で暗槓です! 新ドラは五萬。さあ嶺上牌は――!?』
346③西西東発発中 中 白白白白
恒子『――――お? ……え、これ……?』
健夜『……!』
竜華(白のカン……? ――!? まさか!)
竜華(清澄……これか!?)タン 発
清澄「ポン!」
竜華・穏乃・照「――!!」バッ
照(白と発……まさか)ゾクッ
穏乃(大三元……!?)
照「……」カチャ
123①②④⑨⑨六七南南南 ③
恒子『チャンピオン聴牌――! おそらく次でチャンピオンはツモります! この一巡で
清澄が和了らなければ、その時点でチャンピオンの勝利と考えていいでしょう!』
穏乃「……」カチャ
穏乃(清澄……)
穏乃「……」タン 中
照・竜華「――!」
竜華(まさか――)
咲「――ポン!」
穏乃・竜華・照「――!!!」ゾクッ
恒子『こ、これは――!!!』
34西西 中中中 発発発 白白白白
恒子『だ、大三元確定だ――!! え、ちょ、ちょっと待ってください、今清澄と白糸台の
点差は――』
白糸台:156500
清澄:109200
恒子『あ――――!』
健夜『――47300点差。清澄が親で役満を和了れば、48000点』
恒子『え、と、ということは……』
健夜『……逆転です。ツモ和了りなら最後に中を鳴かせた阿知賀の責任払いになりますが、もう
関係ありません。清澄があの手を和了った時点で……』
恒子『――清澄高校、逆転優勝――!!??』
菫「照――!」
淡「テルが……負ける?」
淡(咲ちゃん……あなた……!)ゾクッ
照「…………」
照(咲……やっぱり、お前なのか)
照(最後に私に立ちはだかるのは、お前なのか……!)ギリ
咲「……」
恒子『こ、これはとんでもないことになりました――! 三校が互いに役牌を一つずつ持ち寄り
築き上げた、これはまさに友情大三元――!
今、全ての想いを乗せた清澄の大三元が、この三年間誰も超えられなかった最強の頂、宮永照に
挑みます! 宮永咲選手と宮永照選手の最後の一騎打ちだ――!!』
竜華「……」カチャ
竜華(あかん、誰も鳴かせられそうにない。チャンピオンにツモらせてまう……!)
竜華「……」タン
恒子『しかしここでチャンピオンのツモ番です! ここで勝負を決めることができるかチャンピオン!』
照(これで終わりだ)
咲「っ……」ギュッ
照(――跪k――ッ!)ズキン
照「ぐっ……!」ガタッ
照「……」カチャ
照「――――!!」ビクッ
恒子『――あーーっと!!! チャンピオン、和了り牌をツモれなかった!!』
照(くっ……!)ギリ
健夜『場を支配するほどに、彼女は自分の身を削っていく』
健夜『やはりもう彼女の支配はとっくに限界を超えていたんですね……無理もありません』
健夜『あの一瞬、チャンピオンの支配が弱まってしまった』
咲(よし……!)
照(まずい……!)
恒子『今度は一転して清澄のツモ番――! ツモれるか、逆転大三元――!!』
穏乃「……」カチャ
照(こんな……この程度で、私の支配が……)
照(――負けるわけない!)
ドゴォォォォ!!
咲「――!」ビクッ
健夜『な――支配が蘇った……! し、信じられない……なんて精神力なの』ゾクッ
照「がっ……あ、ぁぁあ……!」ズギンズギン!
照(勝つんだ……咲に勝つんだ……!)ズギンズギン
咲「……」カチャ
咲「!」
恒子『ああーー! 清澄も不要牌――!! 今度はチャンピオンのツモ番だ――!』
咲(お姉ちゃん……!)
竜華(チャンピオン……あんた……)
菫「ツモれ、照!」
淡「いっけええテルうう!!」
照「さ……きぃ……!」ズギンズギン
――ガッ
――ギュルルルルルルル!!!
咲・竜華・穏乃「!!」ビクッ
照(これで――)
照(――終わりだ!!)ゴッ
ドゴォォオ!!
咲「」
竜華「」
穏乃「」
菫「」
淡「」
健夜『』
恒子『……』
恒子『……ちゃ、チャンピオン……』
123①②③⑨⑨六七南南南 赤五
恒子『――――つ』
恒子『ツモ――!! チャンピオン、和了り牌をツモりました――!!!!』
恒子『清澄との一騎打ちを制したのはチャンピオンです!! 今この瞬間、白糸台高校の優勝、
そして史上初の三連覇が達成されました――!!』
竜華「……」フゥ
穏乃「……」パタン
淡「……勝った。テルが勝った!」
尭深・誠子「や、やった!!」
菫「照……」
菫「お前……やっぱり凄いよ、照……」
照「……………………」
恒子『チャンピオン、勝利の余韻に震えているのか、微動だにしません! 無理もないでしょう。
この歴史的な勝利に酔いしれているのかもしれません!』
健夜『……』
恒子『? どうかしましたか、小鍛冶プロ』
健夜『チャンピオン……しませんね』
恒子『え? 何を?』
健夜『……和了り宣言。手牌も見せません』
恒子『え? いや、でも……』
123①②③⑨⑨六七南南南 赤五
恒子『え、和了ってますよね、これ?』
健夜『はい。問題なく和了れます。南ドラ4ツモですね』
恒子『じゃあ……和了りでしょう。和了れば勝ちなんですから』
健夜『……でも、してない』
恒子『それはあれじゃないですか? やっぱり、喜びに胸を打ち震わせて……』
健夜『それにしても長すぎませんか?』
恒子『まあ……』
菫「照……?」
誠子「どうしたんでしょうね、和了り宣言しませんけど」
菫「なんだ、どうしたんだ照……」
淡「…………プラマイゼロだ」
菫「なに?」
淡「あの手、和了れば3000,6000。この試合、清澄の開始時の点数は97900点。
今は109200点。ここで咲ちゃんがマイナス6000点になったら……」
淡「103200点。試合開始時から考えたら、プラス5300点」
淡「――プラマイゼロ」
菫「いや……しかし……」
菫「も、もういいだろそれは。関係ないだろ! 清澄だって狙ってやったわけじゃない! 偶然だ!
あの照を相手に、あれだけ追い詰められて点数調整なんてできるわけがない!」
淡「……偶然だと思う?」
淡「じゃあ……なんで咲ちゃんは白を暗槓したの? もう白の暗刻はもってたのに」
菫「それは……手を進めたり、千里山と阿知賀に大三元の気配を知らせるために」
淡「あのカンがなければ、新ドラの五萬が開かれることはなかった。それがなければ
テルの手はツモ南ドラ2で満貫。プラマイゼロにはならない」
淡「でも五萬がドラになって、かつ照に赤五萬が入ったからこそ、プラマイゼロになったんだよ。
……偶然?」
菫「偶然だ! だいたい、それが故意だったからなんだっていうんだ! 照の勝ちに変わりはない。
誰だって和了るに決まってるだろ! 清澄は逆転手の大三元を聴牌なんだぞ!」
淡「…………私なら、和了らないかも」
菫「おい!」
淡「テルは……テルは今何を考えてるんだろう」
友情大三元とはなんだったのか
まるで悪魔……
人の心……そのスキをつく天才……!
照「…………」プルプル
照(プラマイゼロ……だと?)ギリ
照(……偶然じゃない。偶然のはずがない。これは……このプラマイゼロの感覚は……昔、
家族麻雀で感じた、あの気配だ)
照(咲……なんなんだ。なんなんだ、お前は)プルプル
照(お前は、私に勝とうとしてたんじゃなかったの? 私に勝ちたかったんじゃないの?)
照(だからこそ千里山も、阿知賀も、お前の勝利に全てを託したんじゃないのか。お前だけが私に
勝てるから、彼女たちは自分や、チームの想いを……お前に託したんじゃないのか)
照(お前のチームには今年卒業の三年生はいないのか? この大会に全てを賭け、優勝を目指して
お前を大将に据えたんじゃないのか。お前と一緒に麻雀を打ってきた仲間は……お前を応援
してくれた人たちは、お前が勝つことを夢見て……信じて、お前の対局を見守ってくれてたんじゃないのか)
照(なのに……なのにお前はプラマイゼロを目指すのか? 彼女たちの想いを、願いを、全て
踏みにじって……侮辱して! それでもお前はプラマイゼロを続けるっていうのか……!)
照(最低だ……お前は最低だ、咲。私は絶対にお前を認めない……お前にだけは、絶対負けない!!)
照「……」カチャ
恒子・健夜『え……?』
竜華「は?」
穏乃「え?」
咲「……」
恒子『ちゃ、チャンピオン、ツモった赤五萬を手に取り……え、ま、まさか……』
照「……」カッ
恒子『あー! チャンピオン、ま、まさかツモ切――え、な、なんで!!』
尭深「……!」
誠子「うそ――!?」
菫「おい、よせ照!!」
淡「テル――!」
照(――切ってやる。こんなツモ、捨ててやる)
照(ドラさえ乗らなければ跳満にはならない。手を変えて、もう一度ツモり直してやる――!)
照(咲をプラマイゼロになんてさせない……そんなことになるくらいなら、負けたほうがマシだ――!)
照(私は、私は咲に勝つためだけに今まで麻雀を打ってきたんだ――!!)
賭け麻を子供に打たせた時点で間違っとるんや...咲さんは悪くないで...
――頑張ってください、宮永先輩!
照「――――え」
そのとき、五萬を卓に叩きつけるまでの刹那の間に、聞いたことのある声が私の脳裏に蘇った。
それは白糸台の三軍の子の声だった。二年生であまり強くなくて、いつも負けてばかりで悔しそうにしていた。
でもその子は麻雀が大好きで、私のことを尊敬してくれていた。きっと今も会場のモニターで、
私のことを応援してくれているはずだ。
――宮永さん、絶対勝って下さい!
――先輩ならきっと勝てます!
――宮永さん、頑張ってね!
彼女だけじゃない。今まで白糸台で一緒に麻雀を打ってきた多くの子たちの声が、次々に蘇ってきた。
みんなこの大会に出たくて、白糸台の一軍になりたくて、でもなれなかった子たちだった。
みんなが私のことを元気づけて送り出してくれた。私が勝つことを信じてくれた。今も声を枯らして
私を応援してくれている。
照(――止めるんだ、咲の……プラマイゼロを……)
このSS内での俺らは「ツモ切りwwwww不正ンゴwwwwwwwwwwwwwww」とか言ってるんだろうな
――宮永さん、インターハイ頑張ってね!
――史上初の三連覇なんだって? 私応援するからね!
――絶対勝ってね宮永さん、私も頑張るから!
麻雀部ではないただのクラスメイトの子や、教師や、今まで話したこともないような子たちまで
私を応援してくれた。皆、私が勝って白糸台に帰ることを待ってくれている人たちだ。
私は彼女たちの想いを、願いを背負ってここにきた。必ず勝って帰ると、みんなに約束した。
……その想いを裏切るのか。
……私に寄せられた期待を無為にして、せっかく掴み取った勝利を捨てるのか。
――そんなことをすれば……それは咲とまったく同じなんじゃないのか……。
照(私は……咲に、勝つため、に……)
――勝ったのは白糸台じゃなく、宮永照。……そんな声をな、たまに聞くんだ。
照(――――ぁ)
――お前がいたから勝っただけだ、ってな。悔しかった。私は、皆で優勝したんだって言い返してやりたかった。
照(――すみ、れ……)
――でも……私は何も反論できなかった。それくらい去年や一昨年は、お前の力が大きかった。
――なあ照。私、もっと強くなりたい。お前にただ優勝杯を取ってきてもらうだけなんて、
そんなのは嫌だ。
照(――――)
――それで、三連覇を成し遂げたときにはさ、お前の横に堂々と並んで、「私たち皆で優勝しました」
って、胸を張って言いたいんだ。
照(菫――)
――やろうな、照。
――三連覇、絶対やろうな、照!
タン
照「…………………………………………ツモ」
咲「お姉ちゃん和了っていいんだよ」ニッコリ
おおお
竜華・穏乃「――」
菫・淡「――」
咲「……」
照「……ツモ南ドラ4。……6000,3000」
恒子『――き』
恒子『――決まった――!!! チャンピオン、和了りを宣言!! この瞬間、全ての試合が
終了! 今年のインターハイ優勝校は、白糸台高校――!!』
白糸台:168500
千里山:73500
清澄:103200
阿知賀:54800
照「……」
恒子『圧倒的点差で他校を突き放し、白糸台高校が史上初の三連覇を成し遂げました――!』
恒子『中でもやはり、白糸台のエース宮永照の活躍が凄まじかったと言えるでしょう!
まさに最強! この勝利により、高校生最強が誰なのかは誰の目からも明らかでしょう!』
恒子『勝者は――宮永照――!!!』
――私は……負けた。
――咲に勝てなかった。
照「……」
……淡なら。
準決勝で咲からの差し込みを二度も連続で見逃した淡なら、きっとこの手は和了らなかった。
プラマイゼロの屈辱を受けることを良しとせず、手を崩し、点数を変えて和了りなおしたはずだ。
たとえ咲が逆転手を聴牌していたとしても、それでも自分は勝てると信じ、咲の大三元を
相手に一歩も退くことなく、果敢に立ち向かうことを選んだはずだ。
……私にはそれができなかった。私はあの瞬間、思ってしまった。
ここで手を崩せば、私は負けると。先に和了り牌をツモるのは咲の方だと。そしてきっと、私を
応援してくれた全ての人を裏切ってしまうと。
たったそれだけで、私は咲に立ち向かうことができなくなった。
最後の最後、私は自分の麻雀を信じることも、咲を超えたいと思うこともできず、ただ眼前の
勝利に飛びついた。……咲から逃げることしかできなかった。
だというのに、私はこの勝利に納得することも、咲のプラマイゼロを止めることも、咲との決着
をつけることもできず……ただ項垂れることしかできずにいる。
点数で勝ったからといって、それが必ずしも勝利を意味するわけじゃない。
……私は、負けた。
――咲に……勝てなかった……
しえん
恒子『前人未到の三連覇を成し遂げた宮永照! 彼女は今何を思うのか――!』
照「…………そ」プルプル
恒子『宮永照、震えています。喜びを噛みしめているのでしょうか!』
照「く…………そ」ポロ
照「く、そぉ……!」ポロポロ
竜華「……チャンピオン?」
穏乃「……?」
照「くそぉ……くそぉッ……!」ポロ
咲「お姉ちゃん……」
菫「……」
淡「……テル……」
歓声が鳴り響く会場の中に、私の悲鳴にも似た嗚咽が長く混じり続けていた――。
白糸台控室
菫「……照の勝ちだ」
誠子「え?」
菫「誰がなんと言おうと、照の勝ちだ。白糸台の優勝だ。たとえ照本人がそれを
受け入れられなくても、私たちだけはそれを認めてやろう。よくやったって褒めてやろう」
誠子「と、当然ですよ! 文句なしで宮永先輩の勝ちですよこんなの!」
淡「……」
淡(私なら、きっとあの手は和了らなかった。でも、テルは和了った。もし結果だけで見れば、
私は試合に負けて、テルは勝ったってことになる。……この差はなに?)
淡(私はテルを目指してここまできたのに……やっぱり、私たちの麻雀は違うの?)
淡「……私、テルを迎えに行ってくる」
菫「ん、ああ、そうだな。頼む」
淡(もし……私がテルだったら、あの試合……)
淡(――勝っていたのは、咲ちゃんだった……?)
廊下
照「……」ツカツカツカ
咲「待って、お姉ちゃん待って!」タッタッタ!
ガシッ!
咲「お姉ちゃん!」
照「……」
咲「私……私ね」
照「……満足した?」
咲「え?」
照「お望み通りプラマイゼロにできて、満足できた?」
咲「私は……」
照「咲が言ってた、私に伝えたいこと……よくわかったよ。私なんかがどれだけ強くなったって
意味ないって言いたいんでしょ? 私の方が強いんだって言いたいんでしょ?」
咲「そ、そんなこと!」
照「……もう二度と私の前に現れないで」バッ
咲「……お姉ちゃん……」
照「……」ツカツカツカ
咲「お姉ちゃん……私と……」
咲「――私と、もう一度麻雀を打って!」
照「……」ピタ
照「……何言ってるの?」
咲「下の階に、来場者なら誰でも麻雀が打てる雀荘があるの。そこで、私と麻雀を打って。
今度は二人きりで」
照「……ふざけないで。誰がそんなこと」
淡「打ってあげて、テル」
咲・照「!」バッ
照「淡……」
淡「もう一度、咲ちゃんと打ってあげて」
照「……どうして私が淡の言うことを聞かないと――」
淡「準決勝の、相手に一回だけ命令できる権利、あれまだ残ってたよね」
照「……っ」
淡「あれ使うよ。だから咲ちゃんともう一度だけ麻雀を打ってあげて。テルはその権利を使って
大将になったんだから、まさか嫌とは言わないよね?」
照「……どうして、そこまで」
淡「……咲ちゃんの伝えたいことが、まだテルに伝わってないからだよ」
咲「淡ちゃん……」
照「…………」
照「……四局だけだ」ツカツカツカ
咲「あ、待ってお姉ちゃ――!」
淡「――咲ちゃん」
咲「え?」ピタ
淡「…………」
淡「テルを……テルを解放してあげて」
咲「……」
咲「――うん」コクン
タッタッタ……
淡「……」
雀荘
照「……ここでいいの?」
咲「うん」スチャ
二人麻雀。私も咲も初めての麻雀だったので、事前にルールを決めることになった。
東家、南家の二つのみの半荘戦。つまり全四局の短期戦ということになった。チーなし。
性質上、ツモもロンも支払う点数に変わりはない。あとは大会ルール準拠。
ジャラジャラジャラ ガシャン
咲「私が起家だね」
照「……」カチャ
照(私は何をやってるんだろう。白糸台の控室に戻ることもせずに、こんなところで咲と
二人麻雀なんか打って)
照(菫、私のこと探してるかな。……ああ、淡が事情を説明してくれてるかな)
咲「……」カチャ
咲「……お姉ちゃん」
照「なに」
咲「――私、この勝負、勝ちにいくから」ゴッ
照「……さっきは勝ちにいってなかったって言いたいんでしょ?」
咲「……」タン
照「……」カチャ
照「……」タン
咲「ロン。3900」
照「……」チャラ
咲「……お姉ちゃん」
咲(……まるで本気を出してない。何の力も使ってない……)
咲「……」
照「何? 本気で打ってとでも言いたそうな顔だけど」
咲「……」
照「勘違いしないでね。咲が本気で打たなかったからって、その当てつけをしてるわけじゃない」
照「……もう、疲れたんだ。さっきの試合で力を使いすぎた。……麻雀を憎み過ぎた。
もう牌を触っているだけで、心が軋むように痛む」
照「あれだけ長く力を使ったんだ。その反動も大きい。私の支配もさっきよりずっと弱まってる。
――好きなだけ和了りなよ、咲。終わったら帰るから」
咲「……お姉ちゃん」
照「……当てつけてるわけじゃないって言ったけど、咲がやってる麻雀はこういうことだよ。
真面目に勝敗を競おうとしてる人を侮辱する行為なんだ」
咲「私は……」
照「私はお前の麻雀を認めない。お前のことも嫌いだ。二度と会いたくない」
咲「……」ギュッ
照「だから私はお前に勝ちたかった。お前にだけは負けたくなかった。そのために私は麻雀を打ってきたんだって
思えるほどに、私はお前に勝ちたかった……なのに、結局負けた。今度こそ……もう麻雀を打つ理由すらなくなっちゃった」
咲「……麻雀をやめるの?」
照「さあね。言ったでしょ。もう、疲れたんだ」
咲「……」
咲「……」カチャ
照「……」カチャ
咲「……」カチャ
咲「――ツモ。4800」
照「……」チャラ
咲「……私ね。お姉ちゃんが家を出てってから、清澄に入るまでずっと麻雀を打たなかったんだ」
照「いいから、早く続きを打とう。私はお前と話すためにここにいるわけじゃない」
咲「……」ポチ ジャラジャラジャラ
咲「……あれから私、ずっと自分の麻雀が嫌いで、麻雀そのものが嫌いで……」カチャ
咲「でも、清澄の皆と出会って、麻雀の楽しさを思い出したの」
照「お前はそんなチームメイトの夢を台無しにしたんだ。あのプラマイゼロのせいでね」カチャ
咲「……あの試合、私は勝つつもりだった」
照「……なに言ってるの? プラマイゼロに調整したくせに」タン
咲「ロン。8000」
照「っ……」
咲「お姉ちゃん、私言ったよね? この勝負、勝ちにいくって」
咲「私は本気だよ。いくらお姉ちゃんでも、本気を出さなかったらすぐトばしちゃうんだから」ゴォッ
照「……」
咲「屋上でお姉ちゃんと話した直後は、私もプラマイゼロにしようって思ってた。そうすれば、
私の伝えたいことがもしかしたらお姉ちゃんに伝わるかもしれないって思ったから」ジャラジャラジャラ
咲「……でも対局中に、清澄の皆のことを思い出したんだ。皆が私を応援してくれたこと……長野
で闘った皆も全国に行きたくて、私はその人たちを倒してここにいるんだってことを思い出したの」カチャ
咲「だから、プラマイゼロなんかしちゃいけないって……なんとしても勝たなきゃいけないって思ったの」タン
照「だったら――」ギリ
照「――だったら、どうしてプラマイゼロなんかやったんだ!!」ゴォッ!
しえん
咲「……!」
照「私はお前に勝ちたかった! 本気のお前にだ! 本気のお前と戦えたら……たとえ
負けたとしても、それで納得できたかもしれないんだ」タン
照「なのにお前は……」バチィ
照「――ツモ! 1300!」
咲「……」
照「だいたい、プラマイゼロで何を伝えたかったの? 全然理解できない」ジャラジャラジャラ
咲「……お姉ちゃんに思い出してほしかったの」
照「何を?」カチャ
咲「お姉ちゃんが、本当は麻雀が大好きなんだってことを」
照「……私は、麻雀なんか好きじゃない」
咲「じゃあ、どうして今まで麻雀を続けてきたの?」カチャ
照「……皆して、同じことばかり訊いてくる。もううんざりだ」カチャ
照「お前に勝つためだよ。私も今日まで分からなかったけど、きっとそうなんだってお前と打って気付いた」タン
咲「……違うよ」カチャ
照「……?」
咲「お姉ちゃんが麻雀を打つ理由は、そんなことじゃない」
照「お前に私のなにが分かるって言うの?」カチャ
照「――ツモ。3900」
咲「……たまにお姉ちゃんの記事を雑誌とかで見るたびに、私はいつも悲しかった。
ああ、お姉ちゃんは今もずっと麻雀を憎みながら闘い続けてるんだなって思うと……」
咲「でも、仕方ないのかなって。私がプラマイゼロでしか自分の麻雀を表現できないように……
私自身、プラマイゼロのせいで麻雀を楽しめないように、お姉ちゃんもそうなのかなって」カチャ
咲「でも……原村さんと出会って、初めてプラマイゼロ以外で対局を終わらせて、私すごく
うれしかった。すごく楽しかったの。私でも麻雀を楽しめるんだって。好きになれるんだって気づけて、嬉しかった」タン
照「……それで?」カチャ
咲「だからきっと、お姉ちゃんも麻雀を楽しめるって思ったの。私の麻雀が変われたように、
お姉ちゃんの麻雀もきっと変われるって思ったの」タ
照「……ロン。5800」パラララ
咲「だから私、お姉ちゃんに伝えたかったの。私は、私自身の麻雀を好きになることが
できたよって。お姉ちゃんもきっと自分の麻雀を好きになれるよって」
照「余計なお世話」ジャラジャラジャラ
照「私はお前みたいに牌に愛されてない。牌を憎むことでしか強くなれないんだ。お前みたいに
簡単に自分の麻雀を曲げられない」カチャ
照「それに、私はもう麻雀そのものが嫌いなの。お前とは違う」タン
咲「そんなことないよ。お姉ちゃんは今でも麻雀が好きなはずだよ」カチャ
照「うるさい! 勝手に決めるな!」カチャ
咲「……ツモ。7700」パララ
照「……」チャラ
照「……見ろ。少しでも支配が弱いと、お前は簡単に和了ってしまう。私は……お前や淡とは違う」
照「お前の言う通り、私も昔は麻雀が好きだった。負けたって楽しかった。お前にプラマイゼロに
されても、それでも楽しかった。……お前がプラマイゼロで私に思い出してほしかったのは
そのことでしょ? 私が一番麻雀を好きだった時期のことを……思い出してほしかったんでしょ?」
咲「……」コクン
照「でも、違うんだ。もうなにもかも変わってしまったんだ」カチャ
咲「……」カチャ
照「私は強くなりたかった。大好きだった麻雀をどれだけ憎んでも、強くならなきゃいけないって
思ってた。……なのに結局咲に負けちゃって、ほんと、どうしようもないよ」カチャ
咲「……お姉ちゃんの勝ちだよ」
照「え?」
咲「私はさっきの試合、ちゃんと勝とうとしてたんだよ。嘘じゃない。だから、お姉ちゃんの勝ち
なんだよ」
照「……ならどうして白をカンしたの? あれは私にドラを乗せてプラマイゼロにするためでしょ?」
咲「……うん」
照「……ほらやっぱり」カチャ
咲「でもそれは、勝つためにだよ」
照「意味がわからない」
咲「あそこでプラマイゼロにすれば、きっとお姉ちゃんはあの手を和了らないと思ったんだ」
照「……ッ」
咲「それがあのときお姉ちゃんに勝つただ一つの方法だった。お姉ちゃんは私のプラマイゼロを
防ぐためにきっと手を変えてくる。そのときに私が和了るチャンスが生まれるって思ったの」
咲「でもお姉ちゃんはあの手を和了った。……私の誤算だった。もしお姉ちゃんが昔のままなら。
もし家族で麻雀を打ってたときのままのお姉ちゃんだったら、きっとあの手は和了らなかった。
〝和了れなかった〟。もしそうなっていたら、きっと私が勝ってたはず」
咲「でもお姉ちゃんは白糸台で、私との決着なんかよりもずっと大切なものを手に入れてたんだね。
それがあったからこそ、お姉ちゃんはあの手を和了れたんだよ。私に和了らされたんじゃない。
お姉ちゃんは自分の力で、あの和了りを勝ちとったんだよ」
照「……プラマイゼロは目的じゃなくて、手段だったって言うの?」
咲「……」コクン
照「そんな話……」
咲「お姉ちゃん、私の力を感じて。今、私が手加減してるように見える?」ゴォォ!
照「……」
照(この気配は……確かに大将戦で咲が見せていた力と同じ)
照(でも、いま咲はプラマイゼロなんか目指してない。そもそも、二人麻雀にプラマイゼロなんかない。
つまりいま咲は確かに私に勝とうとしてる)
照(ならあの大将戦も……咲は本気だった……? プラマイゼロは目的だったんじゃなく、
勝利のための手段だった……?)
照(私は……咲に勝っていたの?)
照「……」
――ギ
――ギギィ……
咲「……!」
咲(このプレッシャーは……!)ゾクッ
照「……」バチィ
照(――30符1飜、聴牌)
照「なら……私はここでお前を倒す。開始時の点差も、他家の援護も、プラマイゼロもないこの二人麻雀で、今度こそ」
咲「……うん。打とう、お姉ちゃん。あの頃みたいに」
照「……」カチャ
照(これで30符2飜)タン
>咲「お姉ちゃん、私の力を感じて。今、私が手加減してるように見える?」ゴォォ!
録音してあとで聞かせたい
咲「……」ギギ、ギ
咲「――カン!」ゴッ
照「……」カチャ
照(――40符4飜)タン
咲「……」カチャ
照(――5飜)
咲「くっ……」ギギギ
照「――ツモ。12000」
咲「……」チャラ
咲:26400
照:23600
照「これでオーラスだ、咲。私の最後の親。和了った方の勝ちだ」
咲「うん」
照「……」カチャ
咲「……」カチャ
照(私の全力の麻雀だ。支配力ももう戻った。この状態なら咲は私に勝てない。それは大将戦で証明済みだ)
咲「……」カチャ
照「……ねえ咲。一つだけ教えて」
咲「なに?」
照「咲は……清澄に入って初めて、麻雀を好きになったの?」
咲「……ううん、違う」
咲「私は家族麻雀の頃から麻雀が好きだった。でもあの頃は何をしても怒られたから、私は
麻雀が嫌いなんだって思いこもうとしてたの」
照「……」カチャ
咲「でも、清澄に入って、私はやっぱり麻雀が好きなんだなって思い出したの。勝つことが楽しいって……
ううん、負けたって、ただ牌を触っているだけで楽しいって、思い出したの」
照「……うん、そうなのかもしれないね」
照(私もきっとそうだ。昔は麻雀が好きで好きで仕方なかった。でも私は麻雀を憎むことでしか
強くなれないから……だから、私は麻雀が嫌いなんだって思いこもうとしたんだ)
咲「……」ゴッ
111234四五六七九北北
照(咲……張ったか。でも、私も聴牌)
778899⑦⑦⑧⑧⑨⑨西
照(これであとはただのめくり合い。先に引いた方の勝ちだ)
咲「あの頃みたいだね、お姉ちゃん。こうしてお姉ちゃんと打つの」
照「……そうだね。本当に、あの頃みたいだ」
あの頃、私は麻雀が大好きだった。
咲と麻雀を打つのが大好きだった。楽しくて仕方なかった。
ひんやりとした牌の感触。牌がカチャリとなる音。聴牌時の高揚感……全部大切な……大切な宝物だった。
咲と打つと、そのときの感覚を思い出してしまう。私が麻雀を大好きだった頃の感覚を。
でもそれを思い出してしまうと、私の麻雀は崩壊してしまう。麻雀を憎めなくなってしまう。
だから私は、無理矢理に麻雀を憎もうとしたんだ。
――〝麻雀を憎むと心が痛む〟……その理由が、本当に分からないの?――
照(……ああ。今なら分かるよ、淡)
プラマイゼロって手段もくそもないようなきがするが...
いや、きっと私はもうとっくに分かっていた。気付かないふりをしていたんだ。
だからこそ、あんなにも心が痛んだ。胸が張り裂けそうになった。涙が零れそうになったんだ。
照「……」カチャ
――私のツモ牌。その牌を手にとったとき、私は全てを理解した。
――私は、負けたんだと。
照「…………」
778899⑦⑦⑧⑧⑨⑨西 1索
照「……」
1索。それは誰の和了り牌でもない。……でも、事実上の当たり牌だった。
この1索は咲のカン材。これを切れば、咲はカンして嶺上開花で和了るだろう。
だがこの牌を手牌に入れたまま和了るなんて不可能だ。間違いなく、咲の方が早く和了る。
照「……」
私の支配が完全に行き渡っている状態なら、こんな牌を引くはずがない。私が完全に牌を
跪かせていたら、間違いなくこの巡で、私は私の和了り牌をツモれたはずだ。
つまり今……私の支配は消えてしまったということ。その理由は一つしかない。
――私はあの瞬間、麻雀を憎むことができなかった。
咲と麻雀を打って、気付いてしまった。思い出してしまった。
私はやっぱり、心の底から麻雀を憎むことなんてできないんだと。
……『なぜ麻雀を打つのか』
私がずっと分からなかった答え。ずっと知りたかった答え。それは実はとても簡単で……とても
当たり前のことで。
――私はやっぱり、麻雀が大好きだったんだ。
どれだけ心が痛んでも、それでも私は麻雀が好きだから。やめたくなかったから。
……突き詰めれば、ただそれだけのことだった。
でもそれに気付いてしまったから、私は麻雀を憎むことができなくなった。だから私の支配は
消えてしまった。だから……この牌が来た。この1索が、何よりの証明だった。
照「……お前の勝ちだ、咲」
タン、と1索を河に捨て、私は自らの敗北を受け入れた。
咲「……お姉ちゃん、覚えてる?」
照「……なにを?」
咲「嶺上開花は、お姉ちゃんが教えてくれた役なんだよ」
照「……そう、だったね」
咲「森林限界を超えた山の上にも花が咲く。――でも、どんなに強い種も、一人きりじゃ咲けない。
みんながいたから、私はもう一度麻雀を楽しむことができた」
咲「それに、お姉ちゃんがいたから。お姉ちゃんに会いたいから、私はここまで来ることができた。
その中でたくさんのものをもらった。いろんなことに気づけた。――もっと麻雀が好きになれた。
お姉ちゃんの光が、私をここまで導いてくれたんだ」
照「私の……光」
照「…………」フッ
照「陽に照らされて花は咲く……か」
咲「――カン」
私の1索を鳴き、咲は嶺上牌に手を伸ばす。
全ての支配から解き放たれた、限りなく自由な場所で、咲は大きく花開いた。
咲「……ツモ。嶺上開花」
照「……」
照「ああ……」
照「――やっぱり、咲は強いなぁ」
知らない内に、私の頬を一筋の涙が流れていった。
――その涙はいつか感じたものとは違う、温かな温度だった
イイハナシダ...ヨナー?(;∀; )
咲「……お姉ちゃん」
照「……行って、咲」
照「お前の言いたいことは……もう、全部伝わったから」
咲「……うん」
咲「……お姉ちゃん」
咲「いつかまた、一緒に麻雀を打とう。皆と一緒に」
照「……」
照「――うん」
咲「……」パァ
スタスタスタ……
照「……あーあ……」
照「負けちゃった」
廊下
咲「……」スタスタスタ
咲「……あ」ピタ
淡「……」
咲「淡ちゃん。待ってたの?」
淡「うん……」
淡「……」
淡「……テルに、勝ったの?」
咲「……うん」
淡「そう……そっかぁ……」
淡「テルを最初に倒すのは私だと思ってたんだけどなー」
淡「テルに勝った責任、重いんだからね?」
咲「うん。私はもうプラマイゼロをしない。勝つことから逃げたりしない。それが、お姉ちゃんに勝った
私の責任だと思うから」
咲と淡ちゃんはいいライバルになりそうだ
>>683
淡「ライバルは宮永咲」に続くと
淡「分かってればいいんだ。……じゃあ、またね」
咲「うん。――ありがとう、淡ちゃん」
淡「……」ヒラヒラ
照「……」
淡「テル」
照「……淡」
淡「負けたんだって?」
照「……ああ、負けたよ。私は麻雀を憎み切れなかった」
淡「……そう」
照「でも、思い出した。私が麻雀を好きなんだってこと」
淡「そっか」
照「うん」
照「――だから、私の麻雀は……もう終わりだ」
バカだからよく分からないんだけど、
咲さんは咲さんで、意図的でなく強制的になってしまうプラマイゼロの呪いからは
もう解き放たれてて、手段として自由にプラマイゼロも出来るし普通に勝つ事も出来るようになってるってこと?
>>688
のどっちが既に解放してくれたみたいね
>>688
元からそうだったろ
今回プラマイゼロ縛りで挑んだのは照に昔を思い出してほしかったから
淡「……」
照「憎しみの強さが私の強さ。でも、私はもう麻雀を憎めない。きっと、憎もうとしても憎みきれない。
だから、もう私は強くなれない。以前の私と同じ、平凡で、なんの力もない、牌に嫌われた
ヘボ雀士に戻っちゃった」
淡「テル……」
照「……ごめんね、淡。私はもう、お前の隣を歩けない」
そう……それだけが心残りだった。この子は私が自分よりも弱くなってしまうことを……
宇宙の闇の中で孤独になることを何よりも恐れていた。それこそ、悪夢として夢にみるほどに。
淡「……私はテルにずっと強くいてほしかった。ずっと私の目標でいてほしかった」
淡「咲ちゃんがテルに麻雀の楽しさを思い出させようとしてるのは分かってた。でもそれは
テルが弱くなっちゃうことだって分かってたから、私は……咲ちゃんが失敗しても構わないって思ってたの」
淡「でも大将戦で……テルのあんな顔見ちゃったら、もうだめだった。テルが弱くなることよりも、
テルがあんなに悲しそうに麻雀を打つことのほうがずっと耐えられなかった」
淡「だから……これでよかったんだよ」
照「……ごめん、淡。お前のことをまた独りにしてしまう」
淡「――独りじゃないよ」
照「え?」
淡「言ったでしょ、テル。私はずっとあなたの傍にいるって。何があってもそれは変わらないって。
私は忘れない。テルの強さを。テルが私の憧れだったことを。いつかテルがまた私に追いついて
きてくれるまで、ずっと待ってる」
淡「今までずっとテルに引っ張ってきてもらってたんだもん。今度は私の星の引力が、テルを導く番だよ」
淡「それに、私にはもうライバルがいる。テルと同じくらい強くて、私の隣にいてくれる、私のライバルが」
照「淡……」
淡「だからテル、頑張りなよ。私たちに追いつけるように」
照「……無理だよ。私は牌から嫌われてる。淡たちみたいには、もう強くなれない」
淡「――本当に?」
照「え?」
淡「本当に、牌はテルのことを嫌ってるの?」
照「……そうだよ。ずっと昔からそうだったんだ。どんなに私が麻雀を好きでも、麻雀は
私のことを好きになってくれない」
淡「でも、それでもテルは麻雀を打ち続けたんでしょ? どんなに麻雀を嫌っても、また
好きになったんでしょ? その想いが、いつか牌たちにも届くかもしれない」
照「そんなこと……」
淡「どんなに暗い闇の中でも、自分を導いてくれる人はいる。自分を大切に思ってくれる人はいる。
それを教えてくれたのはテルなんだよ」
淡はそう言って、指を山に這わせた。
そうして、もし咲との試合が続いていれば私が次にツモるはずだった牌を、クルリと回した。
照「―-――ぁ」
――それは西だった。私の和了り牌。もしあと一巡長く試合が続いていれば……勝っていたのは私だった。
もし私の支配が消えていたのなら、全ての牌は咲の味方をする。
こんな牌が私のツモる場所にあるなんて有り得ないことだった。
照「……あ……ぁ」ポロ
なのに、そこにあった。全ての牌が咲に味方する中で、一人ポツンと、私を待ってくれていた。
私を勝たせようとしてくれた牌が。私を愛してくれた牌が……そこにあった。
照「……淡……私は……」ポロポロ
照「わたしも……愛してもらえるのかな……いつか、お前や咲みたいに……牌に……」
淡「うん。きっとそうだよ」ギュッ
淡「もうテルは麻雀を憎まなくていい。心から麻雀を楽しんでいいんだよ。もうテルは……一人じゃない」
照「あ……あぁぁ……」ポロポロ
部員「宮永先輩!」
いつの間にか、大勢の白糸台の麻雀部員たちが雀荘に駆けつけていた。
照「みんな……」
部員A「宮永先輩、優勝おめでとうございます!」
部員B「こんなとこにいたんですか。皆探してましたよ」
部員C「宮永さん、私、私ぃ……!」グスッ
菫「照。ここにいたのか」
照「菫……」
菫「まったく、いつまでたっても戻ってこないから探したんだぞ。こんなところで何やってるんだ」
部員Cは一子だな
菫「大星。照を見つけたんなら早く……ん? なんだこれ。おい、まさかここで大星と麻雀を
打ってたんじゃないだろうな。まったくお前たちは……」
照「――菫」
菫「なんだ?」
照「優勝、できたね」
菫「…………ああ、そうだな。だが、やはり私たちはお前の強さの後についていってただけ
なのかもしれない。大星の言う通り」
照「そんなことない」
照「皆がいたから、あの手を和了れたんだ。さっき、それに気づけた。皆がいなかったら私は
咲に負けていた」
菫「照……」
照「だから胸を張って菫。堂々と言おう。私たち皆で優勝しました、って」
菫「……ああ、そうだな」
そうして、皆が私を抱きしめてくれた。菫はうっすらと涙を浮かべて。私は、心から笑って。
――ああ。私は一人じゃない。
こんなにも大切な仲間がいるんだ――
照と部員たち「……」ワイワイガヤガヤ
淡「……」
菫「どうした大星。優勝したっていうのに浮かない顔して。やっぱり、お前には優勝なんて
どうでもいいことか?」
淡「……大将戦を見てから、ずっと分からないことがあったの」
淡「もし私が大将戦に出てたら……きっとあの手は和了れなかった。咲ちゃんが勝ってた。
もしかしたらそれが私とテルの一番大きな力の差なんじゃないかって」
淡「前からずっと疑問だった。どうしてテルは独りじゃないんだろうって。私よりもずっと
強くて、誰も近寄れないくらい高い人なのに、どうしてテルの周りにはいつも人が集まってくるんだろうって」
菫「日頃の態度が違うからだ」
淡「でも、それが私たちの強さなんだと思ってた。テルもそう言ってた。私の強さは孤高の強さなんだって。
だから私は……テルさえいればいいやって。テルもきっと私だけを必要としてくれてるって」
淡「でも……孤高のままだと咲ちゃんには勝てなかった。テルは孤独じゃなかったから咲ちゃんに勝てた。
……この違いは、いったいなんなの?」
菫「……」
菫「誰も太陽には近づけない。お前の星にも手は届かない。……でも、皆が太陽の光を求めてる。
太陽の光が星を輝かせ、花を咲かせ、皆を導いてくれる。だから照は孤独じゃないんだ。自分を
必要としてくれる人がいる限り、あいつの光は消えない」
淡「……」
菫「お前はそこに気付けなかった。……お前は、照に近すぎたんだ。お前は確かに照の強さを……
太陽の熱や大きさを間近に感じ、それに憧れたのかもしれない。でもお前の間違いは、それだけが
照の全てだと思い込んだことだ。近すぎて、照の本当の姿が見えてなかったんだ」
淡「……うん」
淡(そうだ……私はテルの強さにだけ憧れたんじゃない。その光の眩しさや、温かな温もりに
引き寄せられたはずだったのに……私は舞い上がって……私を必要としてくれる人たちを
遠ざけてきた……それが、私とテルの違い……)
淡「……今からでも」
菫「ん?」
淡「今からでも……まだ間に合うかな。私もテルみたいに……皆に必要としてもらえるかな」
淡「今までのこと全部謝って……尭深や誠子にごめんなさいってして……そしたら、皆は許して
くれるかな……私を必要としてくれるかな」
菫「知るか」
淡「っ……」ビクッ
今更だけど淡の咲へのちゃんづけが中々いいな
菫「なんだ? 『大丈夫、皆きっと許してくれるさ』とでも言ってもらえると思ってたか?
甘えるな。尭深や誠子がお前を許すかどうかなんてのはあの二人に訊け。私は知らん」
淡「……」
菫「お前は許してもらえなければ謝らないのか? 今までのことを申し訳ないと思うから謝るんじゃないのか?
そんなことも定まってないような中途半端な気持ちで謝るくらいなら止めておけ。迷惑だ」
淡「……私は、皆に謝りたい。今までのこと、全部謝りたい……!」
淡「でも……謝り方、わかんない。今まで誰かに謝ったこと、ないから……」
菫「……にわかには想像できん人生だな。謝り方が分からないなら、誰か適当な人間で練習してみろ」
淡「練習って、どうやって?」
菫「とりあえずお前の目の前に一人、今まで散々失礼なことを言ってきた先輩がいるとは思わないか?
まずはその人に謝ってみるってのはどうだ?」
淡「……」
菫「嫌なら帰るが?」
淡「嫌じゃない! ま、まって! 心の準備が……!」
淡「……」スー
菫「……」
淡「……」ペコリ
淡「今まで……あの、色々……生意気でした。……ごめんなさい」
菫「……」
淡「……」
菫「謝罪の言葉としてはまだまだだな」
淡「うぅ……」
菫「……」フッ
菫「だが、一番必要なものがちゃんとあった。……だから合格だ。許すよ、淡」
淡「ほ、ほんと!」バッ
菫「ああ」
淡「……」パァァ
淡「私、控室に行ってくる! 尭深や誠子に会ってくる!」
菫「ああ、行ってこい」
タッタッタッタ……
菫「やれやれ」
菫「――今度はお前が皆を引っ張る番だ。がんばれよ、淡」
エピローグ
恒子『――さあ、ついにこの時がやってきました!! インターハイ個人戦決勝戦! 真の高校生
最強はいったい誰なのか――!?』
白糸台控室
淡「――よっし。準備万端!」
尭深「頑張ってね淡ちゃん」
誠子「きっと勝てるよ」
淡「うん。タカミやセイコの分まで頑張るからね!」
憩ちゃんと末原先輩かな
廊下
淡「よーし、今日は勝つぞー!」ゴッ
菫「はあ……はあ……」
淡「あれ、スミレ、どうしたの?」
菫「ん、ああ、淡か。いや、照を探してるんだが……」
淡「また迷子? 治らないねほんと」
菫「困ったやつだよ」
淡「あ、じゃあ私対局室に行かないといけないから」
菫「ああ。行ってこい」
淡「……」スタスタスタ
菫「……淡」
淡「ん?」ピタ
菫「――相手が誰でも、負けるなよ」
淡「……ふふ。もっちろん!」グッ
淡「――お」
咲「あ、久しぶり、淡ちゃん」
淡「ふふ。準決勝以来だね。今日は負けないよ?」
咲「私だって」
恒子『さあ、決勝戦の選手が揃い始めています! 団体戦を制した白糸台の大型新人、大星淡!
そして清澄高校の同じく一年生、宮永咲! この二人は団体戦準決勝でも一度矛を交えています。
今日はその決着をつけることができるのか――!』
咲「あとは……」
――ツカツカツカ
淡「――来たね」
照「……」ツカツカツカ
恒子『そして個人戦最後の一人はやはりこの人、宮永照――! 高校生最強の打ち手が、やはり
決勝戦に駒を進めてきました――!』
恒子『しかし個人戦が始まってからはかなり苦戦続きというか、ギリギリというか……
以前ほどの迫力は感じられなくなったような気がするんですが、どうでしょう小鍛冶プロ』
健夜『そうですね。確かに団体戦のときよりも力はかなり弱まっていると思います』
恒子『ですよね。結構ムダヅモとかも多くなりましたし、あのギギギーってやつも全然使わなく
なりましたもんね』
健夜『でも、私は今の彼女の麻雀の方が好きですね。とても温かく、優しい麻雀になりました』
恒子『そうですか? 私にはよくわかりませんが』
健夜『彼女の中で、麻雀という概念そのものが変わったのかもしれません。とても……幸せそうに
麻雀を打つようになりました』
恒子『さあついに全ての選手が卓に揃いました! これより個人戦決勝戦を開始いたします!』
淡「ちゃんと決勝まで来れたね、テル」
照「なんとかね。前みたいな力が使えなくなったから、随分苦労したけど」
咲「でも、ちゃんと有効牌をツモれてる。牌がお姉ちゃんのことを好きになってくれてる証拠だよ」
照「……うん、そうだね」
あと1人生け贄誰だ...
あれ卒業じゃないっけ
一個上か?
>>749
個人戦(ボソッ)
あんたが言うんですか…
照「……咲。淡」
咲「ん?」
淡「なあに?」
照「……麻雀って、楽しいね」
咲「―-」
咲「――うん!」ニコ
淡「……ふふ」
照「今日は私が挑戦者だ。お手柔らかに頼むよ」ゴォォォオッ!
淡「よく言うよ」ゴォォォオ!
咲「手加減して勝てるなら苦労しないよ」ゴォォォ!!
末原「……」
末原(な、なんか思いもがけず決勝まで来てしまったけど……と、とんでもない所に迷い込んで
しまったんやないやろか)カタカタ
凡人代表ですやんww
末原先輩かと思ったら末原先輩だった
淡「よーーっし! 今日は負けないよ! 皆で一緒に宇宙の闇へGO!」ゴォォォオ!!
咲「させないよ! 嶺上開花でみんなまとめてトばしてあげる!」グオォォォ!!
照「今日ばかりは全力でいく。手加減できないから覚悟してね」ドゴゴォォォオ!!
末原「」
末原(か、勝つんや……優勝するんや……)カタカタ
四人「よろしくお願いします!」
恒子『さあ、個人戦決勝戦、ついに開幕です――!!』
カン!
乙
しかも交友関係的にもアウェー感漂うww
以上で陽に照らされてシリーズは完結です。ここまで長い間支援してくださった皆さん、ありがとうございました。
淡編よりは短くなると持ったんですが、同じくらいの長さになってしまいました。
麻雀パートを短くすると言っておきながら前編以上にがっつりやってしまって申し訳なかったです。
本当は淡編の翌週くらいに投下しようと思ってたんですが、読み返してみると照があんまり
強そうに書けてなかったり、なんかライアーゲームみたいな騙し合いしてたりしてなんか咲っぽく
ないなということで、まるっと書きなおしてしまったら遅くなりました。すみません。
「待ってた」という声がいくつも聞けて本当にうれしかったです。
たくさんのレス、とても嬉しかったです。皆さんの支援がなければ最後までいけなかったと思います。
本当にありがとうございました。
あと、前編でもちょくちょく挙がってましたが、
淡「ライバルは宮永咲」
というssの影響はかなり受けてます。このssを呼んで淡と咲の関係っていいなーと思って書き始めたssでした。
そうえば先鋒戦は怜、タコス、クロチャー、淡というなかなかになかなかな面子だったんだね
あわあわを5万5000点差に抑える背景には怜の涙無しには語れない努力があったと考えると燃える
原作の照も感動路線で話をまとめてほしい
>>791
おもちがない…(泣)
このSSまとめへのコメント
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