六花「勇太、今日はお乳の出が悪い (185)

勇太「そうか、じゃあ俺が粉ミルク溶かしてくる」

六花「ありがとう」

勇太「えーと、まずは哺乳瓶を洗って…」

六花「いまパパがミルクつくってくれるからねー。ああ…よしよし、…おなかすいたんだねー……よしよし!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1354974102

勇太「六花、六花」

六花「どうしたの」

勇太「…ミルクがうまく溶けないんだが。ちょっとくらいダマになっててもいいよな?」

六花「…乳首が詰まるから良くない。この子がちゅーちゅーしても出てこなくて、苦しそうにする」

勇太「…どうしたらいいんだ」

六花「漉し器でダマだけ漉しとってほしいな」

勇太「その手があったか!」

六花「パパまだ…?ってこの子が泣いてる」

勇太「すまんすまん!ごめんな」

勇太「…できたぞ」

六花「勇太、かして」

勇太「えっ…俺にもやらせてくれよ」

六花「うまく口に含ませないと、気管に入ってしまうかもしれない。私がやる」

勇太「…わかったよ…」

六花「ほらー、おっぱいだよー」

勇太「おーい、おっぱいだぞ。ママのおっぱいと、どっちがおいしいかー?」

六花「私のおっぱいの方がおいしいと言っている」

勇太「俺にはわからん」

六花「私のおっぱいの時よりも、この子の吸い付きが悪い」

勇太「それは…ゴムの乳首だからだろ。俺もあのゴムの味だけは記憶にあるな…あのまずさは覚えてる」

六花「おなかすいてたんだね…まだ飲んでる」

勇太「朝からずいぶん泣いてたからな。いや、やっぱりママのおっぱいよりもお気に入りなんじゃないのか?」

六花「そんなことない」

勇太「なー、やっぱりパパが作ったミルクの方が甘くておいしいよなー。味覚は俺に似た」

六花「それは違う」

六花「あ、げっぷした」

勇太「うそ!?見たかった」

六花「いっつもしてる…」

勇太「普段は口元なんてこっちから見えないだろ…せっかくのチャンスだったのになあ」

六花「寝ちゃった」

勇太「口にミルク付いてるぞ。ほら…」

六花「うーん…今日はおっぱい少なかった。ホルモンのせいだといいけど」

勇太「もともと六花は少ない方だってお医者さんも言ってたしな…まあ、ミルクがあればいいだろ」

六花「…やっぱり、私のおっぱいで大きくなってほしい。母親の体から出た母乳のほうが絶対いい」

勇太「そりゃそうだけどさ…出ないもんはしょうがないだろ」

勇太「姉さんが帰ってくるのは正月になりそうか?」

六花「正月は忙しいって言ってた。たぶん、3月とか、変な時に帰ってくる」

勇太「あの人のことだからクリスマスあたりにまた何か送ってきそうだな…」

六花「さすがにケーキはもう送ってこない」

勇太「また税関で止められるぞ。十花ねえさん、いろいろと気をつかってくれるなあ…」

勇太「いつかイタリアに行こうな」

六花「…お金を貯めないと」

勇太「滋賀銀の方は崩しても何とかなる。せっかく十花ねえさんがいるんだし、六花を海外に連れて行きたい」

六花「この子を……連れて……?」

勇太「もう少しすれば…」

六花「水が合わないかもしれないし、ベビーカーも持っていけない。海外旅行は大変」

勇太「…うーん……あーあ、ハネムーンでヨーロッパ行きたかったなー。ドイツのロマンチック街道とか、イギリスの…」

六花「…あの時は産むのも大変だったでしょ?検診も、お金なくて、2回しかできなかった。私はお医者さんに怒られた」

勇太「あの時は大変だったな…」

六花「お金があったら、この子にもっとかわいい服を着せてあげたい。こう、こんな感じのフリルが着いた」

勇太「色は黒だろ?」

六花「違う。ピンクと白の細かいチェックに、フリフリのリボンがこう回っていて…」

勇太「でも黒いのもいいんだろ?」

六花「女の子に黒は…」

勇太「かっこいいだろ?」

六花「……かっこいい」

勇太「な!な!」

六花「ふふふ」


とりあえず続きます
あとタイトル、正しくは

六花「…勇太、今日はお乳の出が悪い」

です。

勇太「六花はどこか行きたい所ってあるか?小さい頃からあんまり旅行って行ったことないだろ?」

六花「ん……」

勇太「日本の中だったら…そうだ、沖縄とかどうだ?石垣島でのんびり過ごすのもいいぞ。
最後は本島に行って、国際通りでおみやげを買うとかだな…」

六花「それと、嘉手納に行く」

勇太「ううっ!鋭いな。…さすが六花、俺の魂胆をよくわかっている」

六花「勇太、兵器とか戦車とか好きだったから」

勇太「って…お前もだろ。実家にあれ置いてくるの…割と残念そうにしてたしな」

六花「…もう卒業しなくちゃ、って思った。もう立派なママなんだし」

勇太「あれは立派な大人の趣味だぞ、六花。俺、最近になって雑誌とか読み始めたんだ。
俺だって中学卒業と一緒に、一旦おさらばしたんだ。武器を持ってカッコつけるのなんて、子供くさいって。
「分別のある大人」に憧れてたんだよなー、自己顕示欲を徹底的に封印してさ。
でも今になってまた、こう…兵器の奥深さというかな…魅力に気づいたんだ
武器をもって、正義を気取るとか、そういうヒーロー感覚じゃないんだ。
兵器に込められた、歴史だったり、国の軍事戦略だったり…なんか、男のロマンってやつだな」

六花「勇太……かっこいい」

勇太「そう…?だから俺は、実際の軍の基地に行くと、興奮してくるんだよ」

六花「すごい。…私も、勇太みたいに、熱くなれるものを持ちたかった」

勇太「六花はずっと自分の世界を追求してたじゃないか。俺はあの時の六花の姿が、凛々しくてかっこよくて…好きだったぞ」

六花「あれは………格好つけてるだけで……世間知らずなだけ、だったから……恥ずかしい」

勇太「そんなことないぞ。まあ、その遺伝子はこの子にちゃんと受け継がれてるからな、将来有望だぞ」

六花「…恥ずかしいことは、してほしくない」

勇太「いつか自分で気づくさ。俺と…六花みたいに。誰もが、通る道なんだ」

六花「……うん」

勇太「というわけでだな、例の雑誌、買ってくるから、六花、お前も読んで、一緒に軍事オタクになろうな」

六花「……うん。あ、でも、あの雑誌は1200円もする。高いから買うのはダメ」

勇太「…ええっ…」

六花「図書館で借りればいい」

勇太「…1ヶ月遅れかよ…」



---
つづく

勇太「もしもし」

六花「…またこの子、うつ伏せになってる」

勇太「保険屋だった」

六花「何か書類がいるの…?」

勇太「え…と…扶養手当を支給されている場合、被扶養者の健康保険証のコピーが必要だったらしい」

六花「保険証はテーブルの横の…キャビネットの中にある」

勇太「まいったな…水曜日は営業してないぞ。また受付が伸びてしまう」

六花「勇太」

勇太「ん?なんだ?」

六花「…児童手当がなかなか振り込まれない。勇太、どうしてかわかる」

勇太「ああ…児童手当は4ヶ月に一回まとめて支給だから、次は2月だぞ。10月の分は…入ってただろ?」

六花「うん。入ってた。2月までもらえないのか」

勇太「月に15000円ずつくれればいいんだがな。…公共料金と同じ口座だから、ついつい当てにしてしまうよな」

六花「大丈夫。しっかり確認してるから。あとは勇太がしっかりお給料を入れてくれるだけ」

勇太「すまん…六花がやりくりしてくれるおかげで、家計は助かってるよ」

六花「余裕。この子が元気に育ってくれるなら、どんなことも私には平気」

勇太「さすが…六花!俺は…いい嫁さんを持った…」

六花「勇太の、おとうさん…正月に間に合うのかな」

勇太「今年はさすがに帰ってくるだろ…孫の顔が見たい孫の顔が見たい言ってたからなあ…」

六花「…何か持って行ったほうがいい?」

勇太「別にいいよ…お母さんの方からってことか?」

六花「うん」

勇太「向こうがどう考えているか、次第だけど…別に気を使わなくていいぞ。こっちの家もろくなもん贈ってないだろ」

六花「……叔父さんの」

勇太「そうそう、JKT48の卓上カレンダー。申し訳ない気持ちでいっぱいだったぞ、俺」

六花「叔父さんは喜んでた」

勇太「うーん…どうせならNMBのほうが…って思ったんじゃないのかな…ほら、親子揃って、難波行ったって」

六花「…私のいとこは、きゃりーぱみゅぱむ……みゅ……が好きって…」

勇太「もう一回」

六花「ぱむぴゃむ」

勇太「言えてない」

六花「ぴゃぬぴゃみゅ!」

勇太「え?」

六花「…起きちゃったじゃない…」

勇太「……お腹すいたんじゃないのか」

六花「かもしれない」

勇太「ん?なんだ?どうした?おなか、ペコペコか?んー?ん?いーっ……」

六花「あっ、勇太、オムツ見て」

勇太「何ともなってないぞ」

六花「うそ。たぶんしーしてる。外から見えないだけ。………ほら………」

勇太「相変わらず全然わからん」

六花「私はわかる」

勇太「匂いもしないぞ」

六花「んん……」

勇太「邪王心眼だな」

六花「もうっ……………」

勇太「そうだ六花、明日保健所に行ってくれないか」

六花「何をすれば」

勇太「4ヶ月健診の書類がもうできてると思うから、取ってきてほしいんだ。俺、休み取れそうになくて…」

六花「保健所って、…どこだった」

勇太「西武のもうちょい南にある。体育館のすぐ隣だけど、たぶんわかる。一応地図渡すから…」

六花「…石場……?」

勇太「いや、膳所でいい…降りたらとりあえず、プリンスホテルを目指せばいい」

六花「保健所に着いて、富樫六花です、って言えば、本当にもらえる…?」

勇太「保健所から電話がかかってきたんだし、向こうもわかってる。大丈夫だって」

六花「わかった勇太。明日取ってくる」

勇太「すまんな六花。ありがとう」

勇太「六花、…六花。風邪ひくぞ。寝るなら布団で…六花」

六花「…ご飯作らなきゃ」

勇太「まだ俺は大丈夫だから…六花は寝とけって。朝早かっただろ…?な…」

六花「食べてすぐ寝るとよくない…勇太明日も早いから」

勇太「いいって…またこの子の夜泣きで起こされるんだから。眠れるうちに眠って、疲れを、とるの!」

六花「うう…またあの布団まで行かないと…」

勇太「わかったわかった、……布団…っ、持って、くる……ほら、ほら。ほら!」

六花「ありがとう…」

勇太「ああ…この子また泣くのかな…ああ俺も眠い」

六花「…ちょっとだけ、ちょっとだけ寝る。8時に起きて、ご飯つくる」

勇太「わかったわかった、おやすみ。しっかり休めよ」

六花「ん…」

勇太「んああ…ああ眠い。あー、畜生明日も早いな…育休とりたいな………くそっ、頑張らないとな…くそっ」

六花「勇太…ごめんなさい、ごめんなさい…!そのままずっと寝ちゃって…!ああ…よしよし…ねー、いい子いい子…
おっぱいだよほらっ…ねっ…よーしよし、よーしよし…はーふー…ん…
いい子だね、ねっ、ね…
………ご、ごめんなさい、勇太…もう…こんな時間…」

勇太「気にすんなって。さっきカップ麺食った。おっぱい出てるか?」

六花「大丈夫、大丈夫、大丈夫…いっぱい、出てる…」

勇太「せねておなかいっぱいまで飲んでくれたらなあ…」

六花「ああ…ま、また、寝ちゃった…まだあんまり飲んでないのに…」

勇太「こりゃ……一晩ルートだな…」

六花「うう…ううう……」

勇太「…寝る子は、育つって、いうし、な。将来、大物に…なるぞ…」

六花「勇太ごめんなさい…晩ご飯用意できなくて……ごめんなさい、おなか…すいたよね……っ」

勇太「いいから…六花が体しっかりしてくれないと困るんだ…六花…無理したら体を壊すぞ…頼むから…無理はしないでくれ…」

六花「でもっ、でもっ…勇太が、一生懸命頑張ってくれるから、私達がこうして生きていけるんだもんっ、
勇太をずっと元気にさせてあげるのがっ、家族を守る、私の、務めなのにっ」

勇太「…………すまんな、六花。いつもありがとうな、本当にありがとう…」

六花「………」

勇太「お前がいるから俺は毎日頑張れるんだ、六花が家にいてくれるだけで、俺は、幸せなんだ」

六花「勇太、…ごめんなさい…明日は今日の分、張り切って、朝ごはん作るから…っ」

勇太「ありがとう、六花…」

六花「勇太、起きて」

勇太「ん…」

六花「おはよう」

勇太「おはよう…結局、寝たの何時だ」

六花「あれからすぐ。2回でちゃんと寝てくれた」

勇太「…3時半だった…よな…あああ…くそっ!起きるぞ!」

六花「ご飯作ってあるから着替えて」

勇太「うー…」

六花「…ウイダーにする…?」

勇太「いや…食べる…よいしょっ…」

六花「ふぅ…」

勇太「六花…歯ブラシの歯先ってどこだったっけ…」

六花「横のキャビネットの…上から2つ目」

勇太「ああ…あった」

六花「シャツは…これ。アイロンかけたの、まだこれだけだから…」

勇太「そうか…あっ、…マジかよ…ボタンちぎれた」

六花「…縫う」

勇太「いい、いい。クリップ無いか、クリップ。どうせネクタイで見えない」

六花「いいの、大丈夫…?」

勇太「今はいいよ、六花…ちょっと待って、ひげ剃ったら朝ごはん食べる…ああ、やっぱり午後雨か…」

六花「降水確率50%。保健所には朝行ってくる」

勇太「…ああ、よろしくな。別所からだと、昼休みにはギリギリ間に合わないんだ」

六花「本当に受け取るだけでいいの。何か書いたり、印鑑押したりしなくていいの…?」

勇太「ただ受け取るだけでいい。うわっ…またひどい事故だなこれ」

六花「わからなかったら電話する」

勇太「ああ、電話してくれ。あの、あれ…ラインでいいから」

六花「わかった」

勇太「…ご馳走さまでした」

六花「夜の分にもなったかな」

勇太「うん、大丈夫だ。お腹いっぱい。六花は眠くないか?」

六花「昨日あれだけ寝てしまったから、今は全然平気。余裕」

勇太「ちゃんと疲れ取らないとダメだぞ。無理はするなよ、六花」

六花「うん…勇太も一日頑張って」

勇太「おう。これ…3錠飲めばいいのか?」

六花「うん、勇太、昨日晩ご飯食べてないから…いつもより多めに飲んで」

勇太「あい…………」

六花「行ってらっしゃい」

勇太「たのんだぞ」

六花「うん。傘持った?」

勇太「あ、…これだな」

六花「早く帰ってきてね」

鬱展開は無いつもりです。普通の日常です
ちょっと疲れてテンション下がるのは仕方ない

六花「…じゃあね…

…そうか、にぶたにさん、携帯変えたのか。登録しておこう。
今…10時半だから…1時間寝て…おっぱいあげて、…もう行ってしまおう。雨降りそうだし。
……
…昨日寝すぎた…ばか…
……この子、来年はもう…普通に立って歩いてるのか…信じられない…
私が産んだのに…もうこんなに大きくなって、よく泣いて困らすし…人間って不思議なもんだ…
私は…ママとして、立派にできてるのかな…ママ…ママは私のこと…どうやって育ててきたんだろう…
パパは…
私はこの子に複雑な思いをさせたくないな。この子は大人になるまで、ずっと両親のそばにいさせてやりたい…
勇太、長生きしてほしいな。私もずっと長生きしたい…
勇太、パパみたいに死んじゃだめだよ…勇太が死んじゃったら…この子もずっと、心に、空白を抱えることになる…
……
ん?なあに?どうしたの…?ちょっと待ってね、オムツ…よいしょ…
はい、よーしよし、うん、……はい、よーしよし、よし、
まず!オムツ換えるからね…!ほら…がまん!あれ?あ、これか。よいしょ。はい、……終わった…よ!
よい…しょ…ん、んっ!ぷに、ぷに、ふふ…
…ふふふ…
おいしそうに飲むなあ…
今日はね…いつもと、ちょっと違うところに行くからね…」


「ん…?いっぱいのんだ…?おなかいっぱい?ほんとに……?ほ・ん・と・に…?
いたいいたい、いたい…髪の毛引っ張っちゃだめ。もっ、すごい力…
ああー…大丈夫、大丈夫…よーしよーし…ママはおこってないよ、おこってませんよ……ほーら、ね…
ほら!ね、もう一回………ほら!……ほら!……うふふふ……もう…
さて、行くか…!早く行かないと、雨が降る!
行くよ!がーがーで行くよ…がーがー…よい…しょ…
がーあーがーあー、がーあーがーあー…がーがーがーほれ、がーが……
あっ!もう……
よいしょっ………ベビーカー…これ、ほんと固いな…よい…しょ。
がーがー!がーがーですよ…うん、あ、そこ持っちゃダメ…そこ持っちゃダメ、危ない。
さてと…膳所でいいよね、膳所で…
ああ…まだ降らないかなあ…大丈夫、大丈夫。傘あるから!」

「あ、富樫さんとこの…こんにちは…」

六花「っ、こんにちは…」

「今から買い物?あっ、…可愛い子ね…こんにちは。あらら…ふふふ」

六花「保健所に、行きます…保健所に。えっと、…この子の、四ヶ月健診の、書類をもらいに…行く、んです」

「そうなの。あら?四ヶ月健診……?あ、保健所か……郵便、で、…来ないのかしら?あれ、うちの時は古いのかな?」

六花「……だ、旦那がそう言ってたので…」

「あ、勇太くん?あ、くん言ったらあかんわ。そうなの、じゃあそうなのかな?ごめんなさいね」

六花「…もしかしたら、この子が生まれて引っ越ししたから、来なかったのかも。…しれない、です」

「勇太くん元気?土日私パートなんよ、全然姿見れなくて…」

六花「勇太は、元気に、…毎朝出勤してくれています…」

「大変やろね…!えらいね…!六花ちゃんいい人と結婚したよ。公務員やし、将来、安泰。ほんとに」

六花「…………ありがとうございます」

「六花ちゃんもえらいわよ?六花ちゃん、もう毎日頑張ってやるわって、毎日見てるもん。
六花ちゃん、子育て大変でしょ?もうほんとに。もう、赤ちゃんはよく泣くし…もう昼も夜も無いって。
ね?もう、そりゃ六花ちゃんもまだ、…ねえ?20にもなってないのにママになってね、
まだ遊びたい思ってる年頃やのに…えらいよ…?えらいよ?
うちの保育園、あ、うちの下の子が保育園いた時ね、何?あの…何だっけ、あの、
そう、ヤンママ。もうすごい化粧べーっとしてもう爪もこんなにべったべったして派手で…
もう子供のこともお構いなしでずっと喋ってるの。もう服も派手で…
そんな子達に比べたらもう、六花ちゃんなんてねぇ…
あっ………!ごめんなさいね、長話しちゃって。ごめんなさい、保健所行くんでしょ?引き留めてごめんなさい」

六花「いえいえ…ありがとうございます…いつもお世話に…なります」

「それじゃあね、富樫さん…」

六花「どうも」

六花「あっ…………えっ…?
あっ………13時まで、閉まってるんだ…
うぅ…まだ30分もあるぞ…どうしよう…
これだから公務員は…
あっ…!はい、はい、そうです、保健所にっ…あっ…!行け…ますか。はい…
あ…ちょっと待って…くださいっ!ベビーカー、片付けるのでっ…!え?あ、
…はい、ありがとうございます…そ、そうですね…バリア、フリー…です…ね」

「えっと……富樫さん…富樫、六花さん、でしょうかね?」

六花「あ、……はい、富樫六花です。あの、四ヶ月健診の、書類を…もらいに…」

「はい、少々お待ち下さい。脇坂さん…!脇坂さん、あれ、健診の、あれ、木谷さんやったね?
木谷さん…?あれ、四ヶ月健診の問診票とセットになったやつ。あれ木谷さん持ってはったやんね。
木谷さんどこ?あ、脇坂さんもってはる?どこ?
ある?いや、そこやろ。そこそこ。それや。…富樫さん。あの、草津から引っ越しして来やった、うん。
あった?あった。うん、これ……や。ありがとう。木谷さんどこ行かはった?
…まあええわ。
……あ、お待たせしました、こちらになりまして…」

六花「はいっ」

「まずですね、こちらが健診の問診票になります。で、こちらを事前に記入いただいて、
で、こちらの登録医療機関、ここにリストがあります。こちらの方で健診を受けて頂くという形になります。
あとは、こちらのチェックリスト、こちらも記入してお持ちください。
これは、…母子手帳の内容と大体いっしょですので、後ほどご確認ください。
…以上です。何か、質問など…ございますか?」

六花「いえっ、大丈夫ですっ…」

「でしたら…はい、ご苦労様でした…」

六花「ありがとうございました…!
いくよっ…よいしょ…あう…うう…」

「ああ、ああ…どうぞ」

六花「すみません……っ、ありがとう、ございます、すみません」

「お気を付けて」

六花「はいっ…」

六花「もしもし…勇太」

勇太「あい、あい、もしもし?」

六花「勇太…?」

勇太「はい、もしもし、もしもーし!…くそっ、3Gだと入らねえよ…」

六花「勇太?あの、書類、もらった」

勇太「……あ、…そうか。ご苦労さん!道は、迷わなかったか?」

六花「全然平気。余裕」

勇太「Googleマップ見ただろ?」

六花「えっ………どうしてわかった」

勇太「便利だからな!よかった、それ六花に言うの忘れてたんだ…」

六花「えっ?何て…?」

勇太「Googleマップのこと、朝、言うの忘れてたんだよ」

六花「……結構使ってるもん。買い物とか」

勇太「そうか!じゃあ気をつけて帰るんだぞ!それじゃ」

六花「…ふう…
…ちょっと寄り道していこうか。せっかく来たんだし。

…うえをむういて、あぁるこう……
なみだが、こぼれ…ないように、おもいだす…なあつのひ…

なに?どうしたの?…なあに?もう…
よいしょ……
ちょっと待って…よい…しょ…
ベビーカー、ここ、いっつも固い…
ふぅ……じゃあ、あんたも、…うえをむいて…あぁるこう…なみだが…こぼれ…ないように…
ふふ…こぼれてるこぼれてる…もう……

ああ、パパ…」

六花「ああ…降ってきた…!こ、これは強い…うわ…激しい。こんな傘じゃだめかも…」

「…どうぞ」

六花「あ…でも…だ、大丈夫ですっ」

「…あ、どうぞどうぞ。僕、次で下りるんで」

六花「…ありがとうございます。
うわ…雨だね…ちゃんと帰れるかな…フレスコ行けるかな…一つ前で下りたほうが近いかもしれない…
ああん…よしよし…すっすみません、…すみません…よしよし、よしよし…もうちょっとで下りるからねっ、お願い…
んー?んー!にーっ…!どぉうしたの?うん、よしよし、よしよし…よしよし…
瓦ヶ浜か…

うーん、ちゅっ、いい子いい子…!
あっ…ベビーカー倒れた…
うぅ…よしよし…よしよし…泣かないの。ここは電車の中だからね、泣かないの…
……………うん、よーしよーし……
よいしょ、よいしょ…

うぅ…まだ大雨か…傘でも濡れてしまいそうだ…
今日はカレーにしよう…
人参とじゃがいも買っていけばいいか。キャベツはあったし、卵もあと5、6個あったはず。
あと牛乳と、オムツも必要。傘もさして、ベビーカー押して…買い物袋か…
はぁ…今日は重いものばかり買う…」

--

勇太「ただいま」

六花「おかえりなさい」

勇太「カレーかよ!俺、昼、カレー食べそうになった……」

六花「…これぞ、以心伝心」

勇太「テレパシーとも言う。…結局、昼はな、俺のいう事聴こえたか…?」

六花「…一応、聞こえた。携帯の、グーグルのこと、言ってた」

勇太「お、おう…俺、六花の声、ものすごく途切れ途切れで、ほとんど聴こえなかったぞ…もうそれこそテレパシーだ」

六花「やっぱりラインはダメ」

勇太「でも…電話代かけるのも馬鹿な話だよ…なあ六花…
六花、もう普通に、メッセージでいい。六花はラインでメッセージ打てるよな?」

六花「余裕。凸ちゃんとも、メッセージで話してる」

勇太「そうか。それじゃあ、もう電話はやめて、メッセージにしてくれ」

六花「わかった。あっ……勇太…」

勇太「ああ、ああ…すまん六花、ありがとう…」

六花「今日も、おつかれさま」

勇太「六花も、おつかれさん…!この子はどうだった?お乳出たか?」

六花「お乳は、ちゃんと出た。この子、今日は元気いっぱい。また私のあちこち引っ張ってくる」

勇太「六花はいいおもちゃなんだな…!…そうだ、夢葉のお下がりは?あのあれ、いっぱいあるけど何が好きなんだ」

六花「はにわのぱふぱふが大好きみたい」

勇太「それ…六花のだろ」

六花「違う、夢葉ちゃんの。私も持ってたけど…」

勇太「……そういや夢葉、前から六花の部屋からいろいろ持って帰ってきてたぞ……」

六花「………私のかな」

勇太「ま、好みも見事に遺伝するってことだな…あああ、びっくりした、何時の間にか足掴まれてた」

六花「パパだよ!おかえりなさい…!パパ…今日も大忙しだったんだよ…!パパ、ねー、パパ!」

勇太「うー……!パパ、お前とママのために頑張ったぞ…!うー?んん。ぶぇー…………ああっ、今日は泣かなかった」

六花「…晩ご飯、用意するねっ!」

勇太「あっ…六花…!これ、ありがとうな。これで来週に健診行けそうだ…」

六花「あ、うん…お昼に行ったんだけど、入口が開いてなかった。職員さんが裏口から入れてくれた」

勇太「公務員だな。昼休みは休む気満々だからな。一応休憩時間だし、給料には反映されないから、意地でも休むんだよ」

六花「…昼休みは何してるの」

勇太「俺は卓球してるぞ。下の階の奥に、卓球部屋があるんだ。俺…弱いけどな」

六花「楽しそう」

勇太「ああ、いい気分転換になってる…おお、ご苦労さん。ありがとう、具だくさんでうまそうなカレーだ!」

六花「上手く、にんじんとかじゃがいもが切れない。大きさが、バラバラになる」

勇太「そんなの、お腹に入れば関係ないんだよ。いっただっきまーす」

六花「おいしい?」

勇太「んっ……おいしい!何か、具がすごく柔らかく、煮とけてるな!」

六花「そう…!今日は時間もあったし、いつもより時間かけて…煮込んだ」

勇太「うまいうまい。六花すごいな…あ…やっぱ逮捕か…」

六花「朝もずっとこのニュースやってた」

勇太「俺んとこも緊急で会議したんだ…もう…また面倒な作業が増える」

六花「勇太…勇太はこういうのに巻き込まれたりしない?安全……?」

勇太「俺はこういう所は行かないぞ。現場じゃないし、全然大丈夫」

六花「本当にこういう事故にあったりしない?勇太…気をつけてね…こんなことになったら、本当に私は」

勇太「大丈夫だって…そういう所は、そういう種類の人間として採用されてるんだから、俺は関係ないっての…なっ…」

六花「毎日、勇太が無事に帰ってきてくれて、私は…すごく、ホッとしてる。メールの時間より遅い時…すごく不安で…」

勇太「すまんな…六花。心配かけてすまない。
…俺は、…この子が立派に独り立ちするまで、絶対に…し…うん…絶対に、丈夫な身体でいるからな!」

六花「勇太…お願いだよぉ………」

六花「勇太、…丹生谷さんが、あさって、昼ごはん、一緒に食べようって」

勇太「ふうん、いいじゃないか。土曜日だしな。前に六花が会ったの、いつだった?」

六花「先月の終わり。ちょっと、髪型変わってた。今の彼氏が、変えろって」

勇太「ふうん…彼氏に合わせるのか…あの人…」

六花「ちょっと面白い…よね」

勇太「まだ気を使ってるんだな、きっと。あの人、色々と気を回す性格だからな。ストレス溜めてなければいいけど」

六花「その辺も聞きたい。でも、丹生谷さん、あんまりそういうこと、話してくれないかもしれない」

勇太「あの人は、多分…ずっと俺たちのこと聞いてくるんだろうな」

六花「うん。本当に、丹生谷さん、私たちのこと、応援してくれてる。
電話もくれるし…この子、もう丹生谷さん見ても、泣かなくなった」

勇太「へえ!慣れたもんだよな…!…俺、今でも泣かれるのに…」

六花「勇太は、なんかちょっと違うもん…赤ちゃんのあやしかた」

勇太「まだ俺にはよくわからん!難しいな。泣かないでくれ、泣かないでくれって考えるとダメだな」

六花「そうだね」

六花「ああ…起きた起きた…おっぱい?おっぱいだね?よしよし…」

勇太「今日はどうだ?お乳の出は…?」

六花「うん…今は結構出そう。お乳、張ってるから。はい…ほら、はいおっぱい」

勇太「おいしそうに飲むなあ」

六花「必死だよ…すごい吸い付き」

勇太「おお、ふぅー、だって」

六花「これでまた寝ちゃうんだ…この子…」

勇太「顔は満足してそうなんだけどなあ……だめなのか」

六花「本人は十分飲んだと思って安心しているんだろうけど、またすぐお腹がすく。たぶんそう」

勇太「おっちょこちょいさんだな!あんまり、ママを、困らせちゃ、いけない、ぞ……!なあ…!あ、ああ泣くな…」

六花「……あああ、……お、泣かない、泣か…ないっ!今回は泣かなかった!えらいぞ〜…えらいぞ〜……」

勇太「この形相にも慣れてきたのか。俺のこの変てこな顔にも」

六花「ああ…!ほら今、パパに手をふった…ほら、勇太っ、いつもの」

勇太「ゆーびー…にーぎにぎー…ほらっ!ほら指っ…!パパの、ゆーび!よしよし!パパの指大きいだろー!」

六花「あ、こっち、勇太、じゃあこっち。親指?…ああ、ああ中指だった」

勇太「いっぱい指あるだろ…?ほら!いっぱい…ぜんぶで、いーち、にーい、さーん、しーい、ご……」

六花「くすっ……ふふふ……」

六花「勇太…この子は……勇太と私の、子なんだよ…」

勇太「おう」

六花「すごいよね、だって、この子…勇太と、私のいろんなものが、二つ一緒になって…この子ができたんだから…
すごいなあ…この子、勇太そのものだし、六花、そのものでもあるし…
二人の体が…溶けて…混ざり合って…この子の命は生まれて、どんどん育っていって…
すごいな、すごいよ勇太……!勇太、すごいことだよ……!」

勇太「この子、大きくなったら、どんな子になるんだろうな…!俺の悪いクセは、受け継がんでほしいな」

六花「たぶん勇太みたいな優しい、……けど、…強い…自分の思いを信じて、信じて、突き進める、そんな子に…なるよ」

勇太「六花の、遊び心がほしいな。俺、六花みたいに、……自分の世界を愛せるというか、自分らしさっていうのを…
伸ばしていける性格に憧れるんだよな」

六花「この子の好きっていうもの、全部認めてあげたいな。中二病になってもいい、全部優しく受け入れてあげたい」

勇太「……母さんは……俺が中二病真っ盛りの時でも…おかしな物買って、訳のわからん事言ったりしても…
…ただ笑ってくれたよ……母さんはすごいよ……俺は、母さんみたいに、度量の大きい親になれるのかな………」

六花「大丈夫、勇太ならなれる。勇太は、私が思う、世界で最強の、パパだもん」

勇太「はは……ありがとうな六花…はは…俺……そうだな…最強のパパに、ならなくちゃ………」

六花「ぐー…ぐぐぐっ……すー……す…」

勇太「さて…と…日曜の地元説明の資料、確認しておかないとな……
俺、何もわからんのに…まあ、たぶん、先輩が全部話をしてくれるだろうけど…」

六花「ぐーっ、ぐ、ぐ………」

勇太「こいつ…大丈夫か。熟睡できなくなるぞ。…くっ、こう、とりあえず、こんな、思いっきり、のけぞるのは、やめろ…」

六花「すー、…………すー……………」

勇太「………お疲れさん。
……………………えーっと……
配布資料が、こいつと、こいつで…で、あと、図面と、指し棒は…これ…と。
カメラ………は…これでいいよな……
……………
……っと………あれ………やっぱどっちも入れて……よし……
ふふっ、いい寝顔取れたぞ……
ああ眠い!眠いぞ…!くそっ…!
ああー…明日休みか……!もう寝るぞ!丹生谷さんが来ても知らんぞ、俺は…!」

----

勇太「うわっ!」 六花「あうぅ!!」

勇太「なんだなんだおい!…ああ………電話か……!もう、ちょ、これ、………あい、もしもし……
………うえーい、寝てた………うえ、うえーい……いやいやいや!いい!いいって!
いいから!うん…!どうぞー…
…うん、そうだな…それじゃ…
六花…おはよう……」

六花「おはよう、ございます」

勇太「あれ……晩は……何も無かったみたいだな……」

六花「うん。朝……5時くらいに、オムツ換えて、おっぱいあげた」

勇太「ご苦労さん……ああ、あああ……眠い!!眠いって!!………よし」

六花「ちょっ……つば、いっぱい飛んだ」

勇太「えええ…すまん……とりあえず俺、ホットケーキ作るわ……六花は何枚いる……?」

六花「私は、1枚でいい…」

勇太「あい……六花、牛乳がもうちょっとしかないぞ。どうしようか」

六花「……昨日、買ったんだけどなあ…」

勇太「すまん、六花。奥にあったわ」

六花「わかりにくくて、ごめん…」

勇太「いや、俺まだ、完全に起きてない……ああそうだ!!この子が泣いてないからだ!何だ今日の朝は」

六花「…勇太、私、コーヒー入れる」

勇太「ああっ…ああ、ありがとうな六花」

六花「昼はどうするの」

勇太「ココスでいいだろ」

六花「そうだね」

勇太「丹生谷さんは何で来るんだ?バイクか?」

六花「うん、あの、スズキの400」

勇太「そうか」

勇太「六花、ほら、えっと…ホットケーキできたぞ。あ、それでいい。取って…うん、はいよ」

六花「いただきます」

勇太「コーヒーありがとな。あれ…固いか。貸してくれ…あれ、これ、フタ、めちゃめちゃ固いぞ」

六花「勇太も無理?」

勇太「くっ、ふんぬっ……!あっ、開いた」

六花「すごいな。握力すごい」

勇太「そんなに無いよ。はい」

六花「勇太は、ハチミツ、いらないの?」

勇太「いい。俺あんまり好きじゃない。バターだけで十分」

六花「いつもジャムばかりだから、買ってみた…けど」

勇太「…またでかいの買ったな…」

六花「勇太がハチミツ好きじゃないって知らなかった。…今度ケーキ作るとき、砂糖がわりに使う」

勇太「ああ、それでいいよ。ホットケーキにハチミツは俺……ちょっとな」

六花「富樫家の朝の慣習」

勇太「まあそういうもんだ」

六花「誰がホットケーキ作ってたの」

勇太「母さん。樟葉はちょくちょく朝練があるし、俺、起きるの遅かったから…」

六花「樟葉ちゃん、どこの高校に行ったんだっけ」

勇太「ああ、あいつは、すぐそこの、…あの高校に行ってる」

六花「すごい。やっぱり樟葉ちゃん、頭いいんだね。偏差値がすごく高いところだ」

勇太「塾は私立を勧めてたんだが、あいつが、親友と一緒の高校がいいって言ったみたいだ」

↑酉忘れた

六花「勇太は……やっぱり大学に行きたかった?」

勇太「俺?…行かなくていいよ…大学なんて、就職のはく付けを取って、彼女見つける場所だろ?
…まるで俺には必要ないな。こうして働いているし、六花と結婚できた」

六花「…でも、……もっと、自由な生活したかった、とか…思ってない?」

勇太「別にいい…俺、あんまり勉強好きじゃないしな…」

六花「大学入って、みんなちゃんと勉強してるのかな」

勇太「…してる人はしてるが…遊ぶ奴はとことん遊ぶだろうな…一色もろくに授業受けてないらしいしな」

六花「一色くん、立命館だよね」

勇太「うん。あいつ理系だから、あの、すぐそこだ。大所帯だよ、あの大学は。クラスでも行った人多いだろ?」

六花「丹生谷さんと、すねごしさんと、恵比寿さん…あと、私の隣だった男の子」

勇太「ああ、みんな、大学入ってチャラくなりそうだな…」

六花「すねごしさん、彼氏3人目らしい。丹生谷さんから聞いた」

勇太「どうでもいいや、そういうの…
…でも、サークル活動は、ちょっと憧れたなあ…」

六花「何のサークルに入りたかった?」

勇太「んー、そうだな、やっぱり…ありきたりじゃないやつが良いんだよなあ…ほら、鳥人間とかさ」

六花「おおっ」

六花「鳥人間、かっこいい。子供の頃、テレビで見て、憧れた」

勇太「俺、何回か現地まで見に行ったぞ。イオンに行く道からちょっと入って…ああ!」

六花「あっ…」

勇太「ああ…話してたらテレビで出たな…。そうそうこれ、ここに観客席があるんだよ!」

六花「びっくりした」

勇太「毎年、風がきついんだよ。滑空前に煽られて滑走路から落ちるのが出てくる」

六花「桂ぁ、今何キロ」

勇太「…こいつも、中二病だな」

六花「中二病だね」

勇太「もしもし…あ、もう着いてる?はいはい、とりあえず上がって!うん、まだ時間あるしな!あい…!んじゃ!

…丹生谷さんが来た。ひとまずここで昼まで時間つぶそう」

六花「紅茶入れてくる」

勇太「もうちょっと後でいいぞ。ああ…もうそんな気をつかわんでも!」

六花「しゅん」

勇太「…あ、はいはい…はい!おお…久しぶりだな!とりあえず上がって」

森夏「勇太くん久しぶり!あ…六花ちゃん、ああ!…かわいいね…こん、にち、わ!
ごめんなさいね…お邪魔します」

勇太「立命館だろ。理系なんだよな」

森夏「そうよ。化学系の学科に所属してるの。やっぱり近くていいわね」

勇太「ふうん。…ちょっと部屋狭いけど、ここに座って」

森夏「勇太くん、もう私、ここに3回も越させてもらってるのよ?そんなに気をつかってもらわなくても大丈夫!」

勇太「ああ、そう……あ、お、確かに、髪型変わったな…丹生谷さん」

森夏「あっ、六花ちゃんから聞いた?これ…彼氏がこの髪型が好きだって言うから…」

勇太「丹生谷さんの彼氏か…あっ…?卒業前に付き合ってた彼氏…?」

森夏「その人とは別れた。遠くの大学に行ってしまってね…今の彼氏は、京都市内に住んでいて、大学は別なんだけど…」

勇太「京大生?」

森夏「…どうして、わかったの…?」

勇太「…いや、京都だから、そうかなって…」

六花「あ、お茶、どうぞ」

森夏「あっ…!ごめんなさい、ありがとう、六花ちゃん…あっ、ありがとう…!そんな…お構いなく…!」


六花「首がもう、ちゃんと座ってくれて、楽になった」

森夏「本当だ…!ああ、寝返りうってる!今…4ヶ月だったよね…!早いじゃない…!」

六花「そうかなあ……あ、ほら、こうやって、指をむにゅむにゅって動かすの」

森夏「…かわいい…!六花ちゃん、ねえねえ、はいはいは、いつ始めるのかしら…?赤ちゃんの成長って…とても早いわね…」

勇太「5ヶ月ではいはいお座りができる子もいるし、あっという間に立ってしまったりするよ…この子は、平均的な早さかな」

森夏「なかなかはいはいしてくれないと、ちょっと心配してしまうかもね…私、結構人の目、気になっちゃうの」

勇太「うーん…この子に無理させたり、プレッシャーはかけないようにしてる。少しくらい、はいはいたっちが遅くたって、俺はいいや」

森夏「まだちゃんとおっぱい出てる?」

六花「うぅん…出る日と、出ない日がある。乳の出が悪い時は、粉ミルクにしてる」

森夏「味噌汁を毎日食べると、いいお乳が出るわよ。野菜もちゃんと食べてる?」

六花「うん、食べてる。味噌汁も、飲んでる…毎日じゃ、ないけど」

森夏「そう…あと、あんまりストレス、ため過ぎないようにね。ストレスも、ホルモンバランスに影響するらしいから」

勇太「ずいぶん詳しいな…だから六花、味噌汁よく作ってたのか」

森夏「…心配で、いろいろ本を借りて読んだの。赤ちゃんが、健康で、大きくなってほしいから…」

六花「勇太、丹生谷さんいつも、本当に、私を、気遣ってくれるの…私が疲れた声をしていたら、すぐ気づいてくれて…」

勇太「ありがとう…俺、帰りが遅くなること、たまにあって…
…飲み会とかは、行かない。そういうのは行かない、でも、どうしても残業があって…」

森夏「…一年目から、大変なのね……」

勇太「……人が少ないんだ…だから、たくさんの仕事を数人でこなさないといけなくて…高卒の俺にも…仕事が回されるんだ」

森夏「そうなのね…六花ちゃんも、勇太くんが、目にクマ作って、目線がフラフラしてる日があるって…言ってたから…
……無理しないで、身体壊したらダメよ…?」

勇太「難しい、んですよ……働くって…そういうの……うーん…」

勇太「丹生谷さん、そろそろ昼時だし、ココス行く?」

森夏「…そうよね、また私、長々としゃべっちゃった…ああ、あらら、あ…すごいわね。六花ちゃん、パッと気づくなんて」

勇太「ぐっちょぐちょだなあ……はい!六花、ああ、ああ、うん。
丹生谷さん、そこの店まで、ちょっと歩くことになるけど、いい?」

森夏「大丈夫よ!昼ごはん終わったら、私はおいとまさせて頂くわ…」

勇太「ああ、…そう。もっと六花と話しても、いいけど…?」

森夏「ううん、六花ちゃんに気を遣わせるわ。私は、勇太くんの元気な姿を見れただけで、よかった」

勇太「心配してくれて、ありがとう…ああ、六花。すまん、ゴミ箱、俺がさっきそこに移した。それ、その裏。それそれ」

六花「用意できた」

勇太「六花、ベビーカー無くて大丈夫か」

六花「大丈夫。あの店だと、ベビーカー入れにくいから」

勇太「確かに狭いよな…」

森夏「すごいわね!六花ちゃんの言うとおり、いろんなもの掴んで遊んでる…!」

六花「特に、この子、私の、この髪の毛がお気に入りで…!だーめっ!引っ張ったらママいたいの」

森夏「すごく元気ね!」

六花「丹生谷さん、指出してみて…すぐこの子飛びついてくる、から。あ、ほら」

森夏「はい…ほっ!はい……残念でした!はい、あっ…!掴まれちゃった」

勇太「俺、いつもそれやってるから、この子、動体視力が相当鍛えられているぞ」

森夏「目がすごく真剣になってる…よーし…」

六花「丹生谷さん、車来てる!気をつけて」

森夏「あ、ありがとう六花ちゃん…」

勇太「六花、あの、あ、やっぱいいわ。別に後でいい」

六花「どうしたの」

勇太「検診のことでちょっとな。いや、別に帰ってからでいい」

六花「うん」

森夏「色々気を回さないといけなくて、大変そうよね」

勇太「神経使うぞ…本当に神経使うぞ。子育ては、相当な覚悟がいるからな。覚えておくんだぞ」

森夏「大丈夫よ。私は、まだ子供は、いいって思ってるわ」

勇太「…そりゃ、まあ…まだ学生4年間あるからな…丹生谷は…」

森夏「うん…私は富樫くんや六花ちゃんみたいに、バイタリティも無いし…働いたり、学校に行きながら産んで、子育てなんて…
本当に、すごいなあって思う」

勇太「そんな大袈裟な…まあ、なんだ…ちゃんと避妊はするんだぞ。できてしまったら仕方ないからな」

森夏「やだ、もう…随分ロコツな言い方するのね、富樫くん…
……富樫くん?もしかして、…富樫くんは…本当に…できちゃった、ってやつ…?」

勇太「いや…俺と六花の場合は、二人とも子供が欲しいって、ちゃんと考えた。
その思いは今でも後悔していない」

森夏「偉いわね…それで、こうして、立派にできてるんだもの…」

六花「ここ…水たまり多いから、注意してね」

勇太「雨止んで良かったな」

「いらっしゃいませ」

森夏「あ、4名です」

勇太「3名で…禁煙でお願いします。あと、ソファー席がいいです…
…丹生谷さん、そんなテンション下がらなくても」

森夏「ダメよねえ…私」

勇太「まあまあ、よくあるよくある!みな通る道だって。な、六花」

六花「こういうのは、開き直って、押し通すことが肝要。アイアムレジェンド」

勇太「ん?ん…丹生谷さん、六花はすごいぞ。妊婦なのに、電車で席をゆずったりするんだ」

六花「私は至高の高次元道徳性を有している。この崇高なる自己犠牲の精神が、今の日本社会には必要。ねっ、…ゆうか」

勇太「ねっ、って…六花、そのとき臨月近かっただろ…俺、本当に、あの時どうしたらいいかわからなかった…」

六花「あのおじいさん、褒めてくれたよ」

勇太「めちゃくちゃ気を遣わせたと思うが……最後はもうめんどくさいって顔してたぞ…ああっ」

森夏「あらあら」

六花「お手洗い、行ってくる」

勇太「わかった。適当に頼んでおくぞ」

六花「カルボナーラがいい」

勇太「了解。丹生谷さんは、なに食べる…?」

森夏「うーん…私は、これにするわ」

勇太「はいよ」

森夏「勇太くん…病院以来かしら?六花ちゃんの、出産の時」

勇太「うん…六花とは、結構合ってるんだろ?よく六花が、丹生谷さんの話をする」

森夏「そうね…六花ちゃん、色んなこと、話してくれる。勇太くんのことばっかりだけどね!
六花ちゃん、前よりずっと、よくしゃべるようになった」

勇太「六花は人見知りだから…それほど近所付き合いも多くないし…
ほら、六花、まだ18だから、やっぱりな、ほかのお母さん達からみたら、全然違う世代の人間だしな…
こちらも、何だまだヒヨッコが子育てごっこしてって、そういう風に思われているんだって、そういうのも感じたり…
いや、俺がしっかりしてやらないとダメなんだけど…
うん、…やっぱり、丹生谷さんが一番の話し相手だと思う。丹生谷さんがいないと、六花は本当に、心の内を話せる人がいないんだ…」

森夏「凸守さんは?あの子も仲良かったでしょ?メールはしてるみたいだけど、まだあれから会ったことないの?」

勇太「メールは俺ともしてるよ。でも、会おうとか、彼女が赤ちゃん見たいとか、言ってきたことはまだないな…
…そりゃあ、向こうだって向こうの世界があるよ…卒業したら、部活の関係なんて、あっという間に疎遠になるよ…」

六花「お待たせ…勇太、カルボナーラ頼んでくれた…?」

勇太「おう」

六花「丹生谷さん、今の彼氏のこと…教えて?どんな男の人なの」

森夏「うーん…一言で言うと、優男かな。音楽系のサークルに入ってるの。もう、ほんと優男でね…
結構気を使ってくれるんだけど、気の使いどころが間違ってるのね。もっと他に、気配りするところあるでしょって」

六花「やさ…男?どんな人…?優しい…の?」

森夏「優しい…けれど、うーん、ガシッとしてるわけじゃないし、ちょっと、頼りないのよね。それで、…優しい所が、一番に来るって、…そんな感じ」

勇太「六花、六花。いいか、こういうのが、ノロケっていうんだ」

六花「承知した」

森夏「…そんなわけでね、ちょっと頼りないところもあるけど、彼といると、…何か居心地がいいの」

六花「お似合いだと思う、丹生谷さん。私時々話を聞くけど、いい彼氏だと思う」

勇太「ふうん…何だか、イメージと違うよな…」

六花「丹生谷さん、写真を見せて。また、あの、彼氏の写真。勇太、まだ見てない」

森夏「あら、やっぱり見せないとだめかしら…?ちょっと待ってね…」

勇太「……見せる気、まんまんだな…」

六花「新しい彼氏さん、イケメンだよ。俳優にいそうな感じ。顔もかっこいいし、スタイルいいし」

勇太「……………どれどれ……あ、これか……お?あ、これは確かにイケメンだな」

六花「ね」

勇太「さっき頼りない頼りないって言ってたけど、全然そうも見えないじゃないか。丹生谷、やるな」

森夏「優男よ、こう見えて。もうちょっとね、しっかりしててくれればいいんだけど。私がいないと単位も落とし放題なんだから」

六花「この写真、前にもらった、…これと違う…新しいやつ。どこで、撮ったの?」

勇太「人の彼氏の写真を持ってるのかよ…」

森夏「あ、それの次の週に、嵐山に行ったの。その時に寄った駅の喫茶店で、撮ったのが、この今の写真で…これとか」

六花「ほほう」

勇太「…あ、ラザニア?こちらです。で、サラダはとりあえず、こちらに…カルボナーラはこちらで」

森夏「嵐山行った時の話だけどね、初めに渡月橋に行ったの。それでまず、橋の南側に広場があるじゃない?そこに…」

勇太「あ、丹生谷さん、…俺の、もうちょっとかかるから、六花も、先に食べといて…」

六花「ああう、ああう」

森夏「あ!…ご馳走だってわかるのね…!
匂いがわかるのかしら…?あっ、あらあら元気 …
でも、このご馳走は、もっと大きくなってからね…!それまでは、まだママのおっぱい…」

六花「この子…離乳食は、結構慣れてるよ。これは、まだ早いかなあ…」

勇太「まだミカンを潰したりりんごをすりおろしたりする程度だな。
あの、スーパーにある…キューピーの離乳食は、来月くらいから試してみる」

森夏「そうね。まだ食べ物を噛むことは、大変そうよね…」

六花「私がおっぱい、少ないほうだから…代わりに色んなものあげてるんだ。好き嫌いも、早めになくしたいし」

勇太「もう好き嫌いあるよな。この子」

森夏「そうなの!」

勇太「キウイとにんじんはダメだった」

六花「にんじんは…オエッて吐いてしまう。もう今は、匂いでも、ダメ」

六花「あ、勇太のハンバーグ、やっと来た」

勇太「そうだな。あ、丹生谷さん…すまんな、ラザニア冷めるよ…
あ、はい、こちらです。はい、そうです、どうも」

森夏「じゃあ、いただきます」

六花「いただきます」

勇太「これって、スープバーついてたよな……?スープ取ってこよう」

六花「丹生谷さん、ここ初めてだっけ?」

森夏「ここは初めて。ここのラザニア、トマトがたっぷり入っていて酸味も効いてておいしい」

六花「月に一度だけ、勇太と行く。前は結婚記念日だったけど、今はこの子の誕生記念日」

森夏「へええ」

六花「うちは…なるべく外食しないようにしてるから…」

森夏「外食は、お金かかるわよね!私もなるべく自炊しようと、努力してるわ…!」

森夏「六花ちゃんはフェイスブックとか、ツイッターは会員になってる?」

六花「ううん、やってない」

森夏「中学とか高校の時、ミクシィって流行ってたじゃない?六花ちゃんはやってた?」

六花「周りの人が、みんなやってた。私は、会員にはなったけど、全然何もやってなかった」

森夏「そうなの。意外ね。六花ちゃん、そういうの結構してると思った」

六花「私は中学校の時、おじいちゃんの家に住んでて、…その時は、インターネットが、なかった。
友達のともちゃんの家に、行った時に、こういうのがあるって、教えてもらって、
その時に、招待してもらって、入った。携帯でもできるって言われたけど、でも、結局、しなかった」

森夏「ふうん。私は…中学校のころからやってたわ。ブログも作って、ミクシィでも、マビノギオンのコミュニティを作ったりして…」

勇太「俺もミクシィに入ってたけど、マビノギオンは知らなかったな」

森夏「結構すごいわよ。一番多い時は、メンバーが600人くらいいたんだから!」

勇太「俺と丹生谷はたぶん、中二病の方向性が違ってたんだな。ほら、…中世ヨーロッパ厨と、古代北欧神話厨で、派閥戦争とかあっただろ?」

森夏「あったわねえ!懐かしいわ!私はあの祭り、一歩引いて見てたの。あまりにも
、荒らしとかひどかったんだから…」

勇太「ちなみに、こいつは、当時インターネットをしていなかった希少種だからな。こういうネット情勢はあまり知らんぞ」

森夏「うん。さっき、六花ちゃんに教えてもらった。六花ちゃんの中二病は、本で知識を仕入れたの…?」

六花「本と…テレビと…勇太のモノマネ」

勇太「六花の頭の中は、未だに俺も、うまく掴めないところがある。
俺と話す時もそうだし、この子をあやしている時も、…どこから出てくるんだ、って言葉を発したりするんだ。
中二病の時は、それがRPGによくある世界観と繋がって、六花の壮大な空想を引っ張っていたと思う。
だけど、六花が中二病を抜け出してから、何かこう、六花にしか見えない非現実の世界…違うな…
みな誰しも持っているのに、六花だけしか探り当てられていない、人間の心の風景が…六花から出てくるようになった。
六花は、…たぶん中二病にのめり込んでいったのも、そうだと思うが…
他の人が感じ取れない感覚が、六花には感じ取れて…
その代わり、周りの人間がごく当たり前のように感じ取れていることを、うまく感じ取れなくて…
六花はずっと、人並み…普通の人間のようにやっていけない部分で、悩んできたんだと思う」

六花「勇太、そういうのを、アーティスト気質って、言うん、だよ。ね…?」

勇太「…そうだ、丹生谷さん、六花は最近、絵本作家を目指すようになったんだ」

森夏「あら、そうなの!そういえば六花ちゃん、元々絵が上手だったよね!
すごいな、今でも夢を持っていて頑張ってるのね…」

六花「そんなっ…絵本作家なんて、趣味の範囲だよっ…。でも、まずは一冊、絵本を完成させたいな」

勇太「あ、…六花は、ちゃんとした完成作ではないけど、色々もう、作っていたりする。
六花の絵本は、たいてい歌が付いていて、この子に読み聞かせる時…六花がメロディーを乗せて歌うんだ。
六花の歌を聴く時、この子は本当に幸せそうな表情をするんだよな…」

六花「んん…もう勇太ぁ、恥ずかしいからいいよぉ、絵本の話はっ…」

森夏「絵本、完成したら、私にも見せてね!六花ちゃんの絵とお話、どんなのだろう…!気になるわ」

六花「丹生谷さん、もうちょっと…もうちょっと、自信がついたら、見せる。
…きゃ、きゃっかんてきに、上手いって、わかったら…」

勇太「そうだな。六花は中二病時代、邪王心眼の荘厳なサーガを周囲にだだ流してきた過去があるからな。
こと創作に関しては、一定の期間寝かしておくということは非常に大事だぞ」

六花「うわあ」

森夏「ふふふ…勇太くん、六花ちゃんの中二病について語る時は、いつもすごく生き生きとしてるわね!」

六花「勇太はいじわるだからっ…事あるごとに、こうやって…!」

勇太「俺は中二病の六花もな、大好きだったんだよ。俺も昔中二病だったから、気持ちもわかるし…
本人はあれで、内側から湧き出す創造の泉を、心底楽しんでいるんだよ。
俺はあの頃の六花に、それを見つけて…とても親しみを覚えたんだ」

勇太「他…何か注文しようか、こっちの…」

六花「グラタン。あと、ほうれん草のクリームソースなんとか」

勇太「えっ…?まだ食べるのかよ」

六花「えっ」

森夏「…せっかく体重ここまで落としたのに、また戻ってしまうわよ?」

六花「…お乳がもっと出るように」

勇太「……まあいいや。丹生谷さんは?何か、食べたい?」

森夏「そうね…じゃあ、このワッフルにするわ」

勇太「六花、本当に食べられるのか、これ
、全部」

六花「大丈夫……?」

勇太「自信無いのかよ!あっ…まあいいや残ったら俺が…すみません、グラタンとほうれん草の…
…以上で。お願いします…」

六花「そういえばドリンクバーを注文していなかった」

勇太「ここには無いぞ…サイゼリヤと勘違いしてないか」

六花「丹生谷さん、紅茶とか、いらない…?」

森夏「ううん、結構よ。ありがとう」

六花「勇太、変な雲になってきた。やっぱり降るかもしれない」

森夏「本当ね。…勇太くん、傘は持ってる?」

勇太「俺は…持ってない。しかし…急に曇ってきたな。六花、洗濯物って、あそこにあった、あれだけだよな?」

六花「うん。今日は洗濯物少ないよ?」

勇太「そうか。丹生谷は…?雨降って、帰れるのか?」

森夏「折り畳み傘はいつももってるわよ、ほら。私は、大丈夫。あ、ほらほら、また……」

勇太「あーあー…すまんな、丹生谷…何だ?おしめか?え?…寒い?」

六花「んー……?よぉし、よぉし…はいはい…んーっ、んんー?うん、うん…」

森夏「私、会計済ませてくるね!」

勇太「あ、おい!丹生谷、さん…」

六花「ちゅ、ちゅっ…!いぃこいぃこ、ねぇ?ほら…ぱっぱっ、ぱ…!んー?にーっこり!ほぉらね、ママみたいに……!」

勇太「パパの真似してな、ほらっ…!にぃ……!にっ…!もうっ、こいつ…!」

六花「勇太すごい」

六花「勇太、この子、よだれっ…」

勇太「ああ、…大丈夫、大丈夫…。おっと、…ああ落ち着いたと思ったら、また泣き出したぞ…」

六花「それ、どこか痛いとき。ほら、腕がちょっと、突っ張ってる…ほら、勇太が、ちょっとこう…」

勇太「あ、ああ…本当だ。ごめん、ごめんな。う…ごめんな、いたかったな、よしよし…ほーら……六花、とりあえず外に出よう」

六花「…あれっ?丹生谷さんが払ってくれてるの?勇太、なんで?」

勇太「後で、後で払うから…この子が急に泣き出したから…あ、丹生谷さん、いくらになった?
…あ、そんだけ。えっと……うん、もうこれでいい。会計ありがとな…」

森夏「それじゃあ、気をつけてね。あと、風邪も流行ってきてるらしいから、みんな注意してよね!」

六花「丹生谷さん、また会おうね…!ほらっ、にぶたにさん、バイバイって…」

勇太「…あんまり変わってなかったな」

六花「そう?高校の時とは、印象が結構、変わったと思う…」

勇太「世話焼きなのは、相変わらずだな」

六花「それは、ずっと変わってないね」

「千和、窓開けていいか」

「うん、いいよー。よいしょ」

「いや、そっちは開けなくていい。そんな、いや無理しなくても…ほら、リモコン落とした…」

「えーくん取ってー」

「…ほらよ。何かみたい番組はあるか?」

「うーん、じゃああの、吉本のあいつが出てるあのクイズ番組がいい!えーくん、ほらほら、6チャンネル!」

「これか?これは旅番組だろ…これか?違うな…え…あ、これか?」

「そう!これっ!あたし、これ一回見てハマってるのっ!」

「面白いのか?これ…」

「面白いよ!あたし、テレビ普段見てなかったから、こんなのあるなんて、わかんなかったよっ!」

千和は普段、家に帰ると読書に耽る、割と文学少女だったのだ。
子供の頃からそんな生活だったせいか、千和は、心身に幼稚さが残る裏に、複雑な感情が見え隠れしている。
俺は昔からそうした千和の多感さに気づき、惹かれるものを感じ取っていた。
千和は悩み苦しみを抱えて生きている。
自分の生き方、自分自身の性格について、彼女なりに必死に考えている…そういった…所に…
…俺は、ずっと共感というか、仲間意識を持っている。そんな気がするのだ。

ぎゃあああああ誤爆したあああ
上のは関係ないです。ごめんなさい

六花「ただいま」

勇太「おい雨降ってきたぞ。………っと、これだけだな?開いてる窓は」

六花「うん。あとは、行く前に全部しめた」

勇太「間一髪だったな」

六花「よく降るね」

勇太「ここんとこずっと、不安定な天気だな。ふぅ……」

六花「また、死者増えたね」

勇太「このニュースずっとやってるな。職場にも、この関係で、たくさん電話が来たんだよ…」

六花「大変だね」

勇太「俺は…全部先輩に取り次いでもらってるけど、な。下っ端の俺には、全然わからない…」

六花「そのうち少しずつ、だんだん、わかってくるよ…?」

勇太「そうだな…」

六花「頑張れ、勇太。頑張れ、勇太」

勇太「ありがとう…」

六花「あぅ…」

勇太「これでもう寝る前はいいだろ」

六花「それはまた別…ちゃんと寝る前も、キス…してほしい」

勇太「冗談だって」

勇太「今日のおかずは何だ〜?」

六花「豚肉と茄子を炒めて、春雨に…」

勇太「おっ!美味いなこれ!六花もレパートリーが増えたな…」

六花「あの子、向こうの部屋に行っちゃった…」

勇太「俺がお皿、洗っとくな」

六花「今日も夜はあんまりお乳出ない…」

勇太「風呂、六花が先に入ってこいよ」

六花「勇太、ちゃんと歯を磨いた」

勇太「たらいどこに干してあった…?」

六花「おむつ、新しいの、ここっ…」

勇太「11時だぞ、六花はもう寝とけ…」

六花「お風呂掃除してくる…」

勇太「今日も色々疲れたな」

六花「丹生谷さんに会えてよかった」

………

……

「もう…一年…経つんだなあ…私が……あの子を、授かったって、わかって…
私、この歳で、ママになるって…ずっと前から、心に決めてた…
…しんどいなあ…ママ…パパ…私はちゃんと育てていけるのかなっ……」


……



「ゆうた…今日、産婦人科に行った」

「どうだった?」

「…7週目だった。
…性別は、まだわかんないって」

「ふうん……」

「やったよ、ゆうた。ゆうたと私の赤ちゃん、神様から、さずかった」

「産むのと、育てるのと、…これから、大変になるぞ…」

「大丈夫、母の力は偉大。余裕」

「うおお…!邪王心眼の継承者が、このお腹の中に宿っているのデスね!」

「同時に、ダークフレームマスターの血も受け継いでいる。もはやこの子に敵はいない」

「微妙に恥ずかしそうに言うなよ…」


-----

「小鳥遊さん…おめでとう!元気な赤ちゃん…産んでね!」

「ありがとう、丹生谷。でも、私の名前は、富樫六花。小鳥遊の名は、もう捨てた」

「ふうん………あの、富樫君、あとでちょっと来て」

「お、おう…」


------



「六花、…帰ろうか」

「あ、…富樫くん…六花ちゃん!すごいね、赤ちゃんできたんだってね…!」

「そうです、くみん先輩…大変なことになりそうですが…」

「大丈夫だよ〜。もし六花ちゃんがしんどそうだったら、私が二人目のお母さんになって、助けてあげるよ…っ」

「あ…ありがとうございます…先輩…」

「ゆうた…行こう」

「ああ…それじゃ、先輩、お先に失礼します」

「バイバイ…!」


-------


--------

「……勇太」

「…どうした?」

「勇太…これから…しんどくなるの…?私が赤ちゃん産んだら…勇太、大変になるの…?」

「…とりあえず、俺は、働く。俺は、…六花と子供のためには、何だってする。
俺はそういう覚悟をしている。六花、俺は……俺のことは、…心配しなくても、大丈夫だぞ…?」

「…勇太………勇太、……」


--------

「ただいま」

「あら、おかえり。おめでとう勇太!六花ちゃん、おめでた、だって?」

「ええっ…どうしてそれを…」

「六花ちゃんが、…ねー、六花ちゃん?
一番に、お母さんにメールしてくれたのよ…!病院行ってきたって!」

「…そうなんだ…」

「六花ちゃん、さあさ、上がって!もっと私に、赤ちゃんの話を聞かせて…!あっ、勇太、今日は7時に出るわね」

「お…おかあさん…診断書が、ここに、…あります。えっと…これ…」

---------

------

「どれどれ、……あっ!!すごい…!ほらほら勇太!これよこれ!ほら、立派にこう、赤ちゃん映ってるじゃない!」

「…………ほんとだ」

「男の子か女の子かって…うーん、やっぱりこれじゃわからないわね…虫眼鏡でみれば…うーん…」

「母さん…もう…はしゃぎすぎだろ…」

「当たり前でしょう!待ちに待った初孫よ!?こんなに嬉しいことはないわよ!!
ああっ!樟葉!ほらあなたも来なさい!ほら!これ、勇太と六花ちゃんの赤ちゃんよ…!これ、これ!」

「…ん…?…どれ…?」

「これよ、この白いの!ここにこう映ってる!ほら……これが勇太と六花ちゃんの子供なのよ!」

「へえ………っ…」


-------

---------

「これ……あっ、ほら勇太!これ!これ」

「なんだよ…」

「この、足のあたり…これがね、くいってなってるの…これ、あんたもそうだったのよ!お母さん覚えてるんだから!」

「へえ……」

「六花ちゃん、これこれ、ここ、私もね、勇太産む時、こんなやつもらったんだけどね、ここがね、こうなってるの、勇太も一緒だった」

「そうなん、ですか…」

「私の時はエコーなんてまだ全然いいものじゃなかったから…!今はすごいわね、こんなにくっきり…!」

---

------

「お兄ちゃん…?お兄ちゃん、赤ちゃん、お兄ちゃんが育てることになるんだよ?大丈夫なの?」

「大丈夫……って言いたいけど、父さんや母さん、お前には、…しばらく迷惑かけるかもしれない…」

「…私…おむつかえるくらいは…できるよ?」

「そ…そんなことしなくてもいい…!いや、こう……俺が、働いている間…六花には、ずっと子育てを任せっきりにしてしまうから…」

「勇太、そういうことはお母さんに任せて!安心しなさい!子育てじゃあ、お母さんは経験豊富、それにまだまだ現役ですから!!」

「…だってさ、お兄ちゃん」

「はぁ……よろしく…母さん…」


----

----

「りっかー!!りっか、あ、りっかー!!りっかの、あ、おにいちゃんおかえり!」

「ただいま」

「ただいま…ゆめは」

「夢葉…おねえさんだよ」

「夢葉…おねえさん…ただいま」

「りっか?なにいってんの?」

「勇太…?勇太は年下だから、おねえさんじゃないわよ?」

「………夢葉、さんなのか…?」

「六花ちゃん、もう勇太のことはいいから、夢葉でいいわよ…!勇太、変なことにこだわりすぎなのよ…!
ちょっと、ちょっと夢葉、来なさい…これ…わかる…?」

「なにこれー?おなかすいたー」

「夢葉、これ、これがね、六花ちゃんのお腹の中。で、これ…これがね、赤ちゃん」

「あかちゃん!?これりっかのあかちゃん!?」

「そうよ夢葉!…お兄ちゃんと、六花ちゃんの、あかちゃんよ」

「すごーい!!ミラクルすごい!お兄ちゃんパパだ!あーー!!りっかもママだ!すごいー!」

「ああ、おい夢葉、そこ、…そこに赤ちゃんがいるから、…お腹に乗っかるのはやめろ…」

-------

-------

「どこーー?りっか、ねえりっか、りっかのあかちゃんはどこーー?」

「…よいしょ……夢葉、あかちゃんはね……ここ」

「ほんと!?すごーーい!あ!すごい!しんぞうのおと聞こえるー!」

「ええっ、そんなことないだろ…」

「じゃあこれ、勇太、ちょっと借りるわね」

「えっ…?…借りて…どうするんだ…?」

「お父さんの職場にFAXで送るんだけど」

「や、ちょ、やめてくれよ母さん…!職場って…!何考えてるんだよ…!」

「だってお父さん、家にFAX持ってないのよ!?どうやって送るっていうのよ!?」

「…スキャナーで読み込んで、父さんのパソコンにメールで送ればいいだろ……」

「ママそんなことわかんないわ!もう、それでするなら勇太がしてちょうだい」

「…わかったよ…仕方ないな…」


-----

--------

「六花ちゃん、今日の話は、家族の人にはした…?」

「…お姉ちゃんに、…話し、ました」

「お母さんには…?まだ言ってないの…?」

「………たぶん……お姉ちゃんが…ママに…言ってる…はずです」

「ふうん…お母さん……直接、六花ちゃんから、聞きたかったんじゃないかなあ…」

「…………っ……」


「あ、…ごめんなさい六花ちゃん!私、そろそろ夜勤に行ってくるわね!また、明日、お話聞かせてちょうだい!
今日はありがとうね!六花ちゃん、あんな勇太だけど、頑張って!」

「ありがとうございます…お仕事、頑張って、ください…」

「樟葉、夢葉またお願いね!お風呂入れてあげて!」

「はーい」

「ままいってらっしゃい!」


------



「………」

「り…六花さん?ちょっと…見せてもらって、いいですか…?」

「うん…樟葉ちゃん…ほら、このお腹の中に、小さいけど、赤ちゃんがいる…」

「す、すごいな…なんか、その、今はあれだけど、産まれる前とか、ほら、赤ちゃんって、すごく大きくなりそう…」

「……私の体は、どっちかと言えば、安産型だって、お医者さんが言ってた。たぶん、大丈夫だって…」

「へえ…六花さん、私の3つ上でしょ?すごいなあ…私、3年後、赤ちゃん産める自信ないなあ…」


-------

------

「お兄ちゃん…どう…?お父さんとして、うまくやっていけるかな…?
六花さん、お兄ちゃんのこと、今は、どう思ってる…?」

「勇太は、……私は、勇太のことが、好き。大好き」

「………………」

「勇太の赤ちゃん、産めるのがすごく、嬉しい。とても、今は、…幸せ、で…」

「りっ、六花さん……今更って感じだけど……六花さんは……お兄ちゃんのこと、どこが、好きになったの…?」

「ん…………」

「ほら、あのっ、お兄ちゃんに、こう…惚れた、とか、ん…なんでこう好きになったとか」

「…勇太は、かっこいい」

「…かっこいい?」

「勇太は……かっこよくて…一緒にいると安心する…
勇太の話は面白いし、……勇太は私に、いっぱい、話してくれるから……寂しくないし…
勇太は、だいぶ前から、私の憧れで…………ん………ゆ、ゆうた………
ゆうた、はね、私の……えへへ……世界を護る、勇者…だったの」

「はぇ………それ、もしかして、お兄ちゃん、まだ中二病だった頃のことかな…?」

「そう」

「…うはあ、やっぱり……!あの頃のお兄ちゃん…!うーん………
うふふふ……うーん、やっぱり、そう…!かっこよかったんだねっ……!」

「んふふ……かっこよかった」


--------

------

「じゃあ今のお兄ちゃんは?お兄ちゃんもう中二病なんて卒業した!あんな過去は無かった!ってずっと言ってるけど」

「……そんな勇太も…かっこいい」

「んふふふふ!」

「中二病じゃない、中二病じゃない!って、必死になっている勇太も…なんか、中二病みたい」

「だよね!お兄ちゃん、やっぱりああいうのも、中二病だよ!」

「…でも勇太は、私のために、たまに中二病になってくれた。
……告白の、時も……こうやって、ポーズを組んで…
ダークフレームマスターとして、そなたに命ずる。恋人の契約を結べって……ふふふ…勇太、かっこよかった」

「お兄ちゃん……」


------

六花「あっ………?」

勇太「あっ、…六花…」

六花「また、夜泣き…?」

勇太「うん…六花を起こさないように、キッチンの方に行ってたんだが…」

六花「いいよ勇太、私がやるから…」

勇太「おむつか?それとも、寝心地が悪かったのか…」

六花「わかんない。夜泣きはもう、わかんないよ…何で泣くのかわからないよ…
もう…いつ泣き止んでくれるかも…」

勇太「…よしよし、よしよし……」

六花「んー、んー、んーんんー」

勇太「…………」

六花「しばーらーくー、みつめーあーって、からぁ…」

勇太「水持ってきた。飲めよ」

六花「ありが、とう…」

六花「ゆうた、さっき…妊娠がわかった日のこと、夢でみた。勇太も、お母さんも出てきた」

勇太「そうか…いやに現実的な夢だな。六花、苦しそうだったぞ…」

六花「夢、…いや、夢じゃないかもしれない。…考え事、してたのかも。あの日のこと、思い出して」

勇太「ふうん…俺は、母さんのはしゃぎっぷりがよく覚えてるな…
夢葉が、六花のお腹の上にのっかって騒ぐから、ハラハラしたのを、…うーんそれくらいだな」

六花「この子の名前、夢葉ちゃんが付けたんだよね」

勇太「そうだな。邪王心眼の継承者が、後にまたそれを継承することとなる存在に…名を与えたのだ」

六花「この子は強くなるよ。世界を変えるよ。泣き声が、…すごく力強い」

勇太「エネルギーに満ち溢れているな。世界中に自らの存在を誇示するかのように、雄叫びをあげている」

六花「もうちょっと、近所迷惑にならないように、気を使えると、最強なのに……あああ!よしよし!ほら、しーっ……しーっ…」

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom