アニ「黒髪のサンタクロース?」(29)


アニから見たユミル×クリスタ、アニ視点の地の分あり、52話までネタバレあり
ユミクリだけどアニメイン

ユミル「黒髪のサンタクロース」
ユミル「黒髪のサンタクロース」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1387771691/l50)

の後日談というよりちょい足しのオマケ的なものと思って下さると助かります。
いちゃいちゃギャグなのでキャラ崩壊してるかも。


よろしくお願いします。


「19班のトニーは背丈や体つきはいいんだけど、金髪だし…」

「3班のヘンリーは黒髪だけど体がちょっと丸いのよねえ…」

「7班のハックは条件は合うけど、開拓地の頃から両想いだった女の子と、
3か月前に晴れて恋人同士になったばかりだし…」

「やっぱり、調査対象を広げた方がいいかしら…」

黒髪お下げの少女の言葉に私は思わずため息をついた。

「あんた、こんなことまだ続ける気…?」

「だって、クリスタの初恋の人がいるかもしれないんだよ?友達の恋は応援したいでしょ?」


訓練兵にも休日は与えられる。
疲れを癒そうと昼まで眠る者、座学講義の遅れを取り戻そうと図書室に籠る者、気分転換に街に出る者。

皆思い思いの過ごし方をする中で、私はミーナに呼び出され
「黒髪のサンタクロース」探しに付き合わされている。

「一人で105期の宿舎に行くと怪しまれるから」というのが理由だが、
こうやって嗅ぎ回っている時点で既に言い訳できないほど怪しい。

(座学の課題もこの熱心さでやればアルミンとも渡り合えるんじゃないの…)

ふとそんな考えが浮かぶほど、この少女の積極性と行動力は群を抜いていた。

主にそれは人間関係という方面で発揮されており、
男子からは女神と讃えられる一方で一部の女子からは近寄り難いともされるクリスタや、
その理由の一端を担う番犬ユミルにも物怖じすることなく近寄っていく。


普段人とは距離を置いて過ごしている私に対してもそれは遺憾なく発揮されており、
聞いてもいないのに好みの男のタイプだの、結婚したら子供が何人欲しいだの、
退役したら家業を継ぐだのと色々と喋ってくれる。

自他共に認める「普通の女の子」であるミーナは、語る夢もごく普通のものだった。


ミーナが何のてらいもなく話しかけてくることに、私は罪悪感を感じずにはいられない。
恐らく、彼女の語る未来がやって来ることはないだろう。

疑いの欠片もない目で見られる度に、自分の「戦士」としての任務が肩に重くのしかかる。


実直な性格のライナーは、既に罪の意識に耐えきれず人格を分裂させてしまっていた。

ベルトルトが傍にいることでどうにか使命を忘れずにいるようだが、
ベルトルト自身も決して心が強い方とは言えず、いつ二人とも壊れるか知れない状態だ。


罪悪感も手伝ってか、調査の手伝いを頼まれた時も断ることができなかった。
これがミーナでなければ形だけでも付き合おうとは思わなかったわけで、
知らぬ間に人を懐柔してしまっていると言える。これも彼女の才能なのだろう。

「今日も収獲なしか…」

宿舎に戻ってきたミーナがつぶやく。

「やっぱり、両隣の開拓地出身の男の子も調べた方がいいかしら…ねえアニ、何かいい考えは無いかな?」

私は一つため息をつくと、肩をすくめて答えた。

「…ったく、この貸しは高くつくよ」


やると決めたらとことんやり抜くのがミーナ・カロライナという女だ。
その信念は嫌いではない。

原動力が「友達のため」というよりは「好奇心のため」という方に
重きが置かれているのは少々気になるが、納得するまでもう少しだけ付き合ってやることにする。


ミーナには悪いが、私にはサンタクロースの目星は大体ついていた。

以前、ライナー達の協力も得てクリスタの身辺を探った事がある。

クリスタは壁教にとっての重要人物らしく、教徒達が監視に付いて回っているようだった。
恐らく、「サンタクロース」は開拓地でひとりぼっちの少女を見張っているうちに情を移してしまい、
鋼貨やら何やら差し入れていたのだろう。


訓練兵団に入団してから音沙汰がないのは、
監視対象と不要な接触をしたことを咎められ任務から外されたためと思われる。


夢の無い話だが、クリスタがサンタクロースに再会できる可能性はまずない。


「ねえ、話が少し逸れちゃうんだけど…最近クリスタが綺麗になったと思わない?
生き生きしてるっていうか…」

そばかすの少女、ハンナがつぶやいた言葉に、テーブルを囲んでいた女子達が反応する。

「私もそれは思っていた。立体起動にも今までにない大胆さが見られる。まるで重しがとれたよう」

私も自分の記憶を振り返る。

確かに、対人格闘でも今までのクリスタは遠慮がちというか自信なさげな様子だったのだが、
最近は技術を身につける必死さが今まで以上に感じられる。


「逆にユミルの方は最近調子が悪そうですけどね。今日も寝不足だって言ってました」

「分かった!」

難しい顔をして考え込んでいたミーナが突然声を上げる。こういう時は大抵碌な事を言い出さない。

「クリスタに彼氏ができたのよ!そしてユミルはショックで落胆を隠せない、と」

「でも、ユミルとクリスタは相変わらず仲がいい」

「以前から寒い日はくっついて寝ていましたけど、最近は毎日くっついてますよ」


「それはつまりこういうことよ。

 『同性であるが故にその想いを心に秘めて親友という立場に
  甘んじていたところに、相手に恋人が出来てしまった。
  表向きは親友として相手を祝福しなくてはならず、今はただ苦しみに耐えるだけ。
  たった一つ自分に許されるのはその小さな体を腕に抱いて眠ること。
  でも肌が触れれば触れるほど想いは強まる一方。
  腕の中から安らかな寝息がたつ頃、人知れず涙を流し-』 」


「…あんたの妄想力にはホント感心するよ…」

「ねえ、ユミルの無念を晴らすためにも、ここはやっぱり…」



嫌な予感を感じて、ミーナが最後まで話しきらないうちに遮って口を開く。

「彼氏調査なら手伝わないよ。いくらなんでも立ち入り過ぎだからね」

「あー、やっぱりそうかな。だよね」

どうやら本当にやるつもりだったらしい。
呆れて口を閉ざすと、少女達の興味はまだ逸れないらしく
クリスタの彼氏はどんな人なのかと勝手な予想が始まる。

私は頬杖を突くと、少女達の笑い声が響く中でそっと目を閉じた。

この平穏が続く間は、もう少しだけ「普通の女の子」を演じていたい、そんな思いを胸に秘めて-


数日後。

夕暮れ時、水汲み当番の私とミカサは桶を両手に森の中の道を歩いていた。

本来なら宿舎近くの井戸で水を汲めばいいのだが、釣瓶を引き上げる滑車の調子が悪く、
補修工事が行われており、それが終わるまで当番は近くの小川まで水を汲みに行く事になっていたのだ。

状況を考慮してその間の水汲みは一往復で良いことにされているが、面倒な事に変わりはない。

(さっさと工事を終わらせてほしいもんだね…)

ふと、無言で歩いていたミカサが足を止める。その瞬間、私の耳にも違和感が生じた。

「森の中に、声がする」

「ああ、それも二人いるみたいだね」

「こんな時間にこんな所でこそこそしているなんて、不審 」


訓練兵同士で逢引するにしても、宿舎裏や近くの森の中で行われるのが普通だ。

立体起動装置が内地の地下街の闇市に流れることは珍しくない、
そんな教官の言葉を思い出し、私達は足音を忍ばせ声の方に近寄っていく。

声がだんだんと近づいてくる。

(ん…この声、まさか)

「あ」

隣を見るとミカサが目を見張っている。

声の主はユミルとクリスタの二人だった。それだけではない。
ユミルは樹に背を預け、そのユミルにクリスタが寄りかかっている。
というよりほとんど抱きしめられている。

普段から何かとスキンシップの多い二人だが、今日は何やら只事ではなさそうだ。


「ふふっ…この便箋、懐かしいなあ。手紙を書くために街まで買いに行ったんだよ」

「この手袋はやっぱりお前には大きかったみたいだな」

「うん、今でもちょっと大きいよ」

「そりゃそうだろうなあ、私に合わせたんだから」

「ねえねえ、手の大きさ比べっこしよ!」

二人は向き合って手と手を合わせる。

「ユミルの手、おっきいね…」

クリスタはそのままユミルの手を握ると、顎を反らしそっと目を閉じる。


一瞬、困ったような顔をしたユミルが、額に唇を落とした。

クリスタは目を閉じたまま、さらに唇を突き出す。

「…むーーー!」

「だーっ!それは好きな男にしろって何度も言ってんだろ!」

「やだ!ユミルとする!」

私はミカサと顔を見合わせる。つまり、そういう事らしい。

「ユミルはわたしを守ってくれるんじゃないの?」

「そりゃ守ってやるけど、それとこれとどういう関係があるんだよ!」

「ユミルが…してくれたら、わたしの心が救われるの!」

「う…」


(これはまずい所に鉢合わせた)

(っていうより、自分達で近づいたんだけどね)

「してくれたら、訓練ももっと頑張れる」

「…だーめーだ。もっと大人になってからにしろ」

ユミルは必死に自らを抑えているようだった。まさに鋼の理性、というよりこれは-

(さながら、黒金竹のような理性だね)

(さすが影の実力者と言われるだけの事はある。でも今のユミルは…)


「いやもしこれでクリスタが訓練を頑張るならそれで成績が上がってクリスタも喜ぶし
私も嬉しいし一石二鳥なんじゃねえの?いや待てそんな言い訳を自分にしては駄目だ。
クリスタはいい男と結婚して子供を作って普通の幸せな家庭を築くべきなんだそのためには
私みたいなのに関わってちゃいけないこんな事をするのは許されない-」

(と、いう顔をしている。もはや超硬質スチールの理性といっていい)

(それも陥落寸前だけどね)


「わかった…。もう我儘言わない」

「分かってくれたか、さすが私のクリスタ。結婚したい相手ができるまでちゃんととっておくんだぞ」

「ねえユミル、一つだけお願いがあるの」


「んー?」

「あのね、わたし、座学も実技も頑張るから…訓練兵を卒業したら、ユミルのお嫁さんにして!!」


(あ)


二つの人影が重なる。
超硬質スチールがぽきりと折れる音が聞こえたような気がした。


私はもう一度ミカサと顔を見合わせ、静かにその場を後にする。暫くの間、無言で歩き続けた。

先に静寂を破ったのはミカサだ。


「もしエレンが、自分は実は女だと言い出したとして」

「…」

「私は驚くと思うけど、エレンを大切に思う気持ちは変わらない」

この少女なら、例えエレンが女であろうと怪物であろうとそう言うだろう。

「だから、彼女達をどうこう言うつもりは無いし、むしろ祝福したいと思う。
 でも、訓練兵の間で恋愛が知れ渡ると面倒。
 それに世の中には同性同士と聞くと珍しがったりする人がいる事も知っている」

私は黙ってミカサの言葉に耳を傾ける。

「ので、今日見た事を私の口から誰かに言うつもりは無い。アニ、貴女はどう思う?」

「全く同感だね」


楽しみの少ない訓練兵の間では、他人の色恋沙汰はいい話の種にされてしまう。

特にこの組み合わせは、片割れが男子の崇拝対象であることを考えると、
下世話な好奇心の的になることは間違いない。

私は使命の為に多くの命を奪ったし、これからもそれは続く。でも、別に好んで人を不幸にしたい訳じゃない。
せめてその日が来るまでは、二人の小さな幸せを祝福していたいと思う。その気持ちはミカサと同じだ。

「貴女なら、分かってくれると思った」

この少女は私を何だと思っているのだろう。

(私はただの殺人鬼でしかない-)


水汲みを終えて宿舎に戻ると、食堂は騒然としていた。

「ミーナ!やっぱり104期にはクリスタと付き合っている男子はいなさそうです!」

「うーん、やっぱりそうかあ…て事は彼氏は他の学年にいるってことかな?」

「明日のパンは全部もらっていいですよね?」

「それより、ミーナ達が聞き回ったせいで大変な事になってるよ!
『俺達の女神に手を出したのは誰だ!?』って!」

食堂の片隅では、男子達が大騒ぎをしている。


「嘘だあああ!!クリスタは俺に気があった筈なんだあああ!!!」

「ライナー落ち着いて、まだ決まったわけじゃない」

「誰だ!誰なんだ一体!?まさか下の学年か!ふざっけんなよ!!
あいつら上下関係ってものを思い知らせてやる!」

「待ってよ、皆が正直に答えてるとは限らないよ。ひょっとしたら104期にいて黙っているのかもしれない」

「てことはなんだ、俺達の中に裏切り者がいるってことか?」

「誰だ裏切り者は!?同期の信頼を裏切ったものは万死に値するって入団の時に教官が言ってただろうが!」

「いや、ここで大切なのは誰が、ということよりも寧ろ、どこまで、だよ」

「まさか俺達の女神の唇が奪われてしまったのか!ああ、もしかしたらそれ以上の…うあああ!!」

「なあ、奪うって、女は唇が取り外し可能なのか!?」


さながら阿鼻叫喚の地獄絵図だ。私は思わずミーナを睨みつける。

「なーんか、予想外の大事になっちゃったみたい…」

騒ぎの発信源は申し訳なさそうに笑っていた。

「おいなんだ、今日はやけに騒がしいじゃねーか」

「皆どうしたの?外まで騒いでる声が聞こえるよ?」

まさに最悪のタイミングで当事者たちが入ってくる。

「女神ぃぃぃ!!何故だああ!!俺が結婚する筈だったのに…うっ…うっ…」

「おいユミルお前!お前がいるから俺達は安心していたのに…それでも番犬か!きちんと仕事しろよ!!」

「誰が番犬だ」


「え、ええと、これどういうこと?」

戸惑うクリスタに寄り添うユミルは男達の様子から大体の状況を把握したようだ。
こそこそと食堂を去ろうとするミーナの首根っこを捕まえて口を開く。

「おい…豚小屋女さんよ…知ってる事全部話してもらおうか」

ユミルは怒りのあまり顔を歪めている。

「この騒ぎの始末は責任持ってつけてくれるんだろうなあ!?」

捕まったミーナは、ちらりとこちらを見る。共犯と思われたくないが、逃げられそうもない。

「…ねえアニ、何かいい考えは無いかな?」

私は一つため息をつくと、肩をすくめて答えた。

「…ったく、この貸しは高くつくよ」



おわり


ありがとうございました

毎晩必死で素数を数えるユミルのお話

ユミクリに幸せになってほしくてつい書いてしまった

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