セレス「貴女の手、冷たいですわね」霧切「そう……」 (33)

セレス「もしかして冷え性ですか?」

霧切「さあ」

セレス「なら、ジンジャーティーをおすすめしますわ」

セレス「あれを飲むと体が芯から温まりますわよ」

霧切「そう」

セレス「ツレナイ反応ですわね」

霧切「生まれつきよ」

セレス「さっきから少し震えているようですが?」

霧切「気のせいよ」

セレス「無理なさらずとも、寒いなら寒いとおっしゃればいいのに」

霧切「ご心配どうも」

セレス「強情な方ですこと」

霧切「貴女に言われたくないわね」

セレス「フフ、それもそうですわね」

霧切「……くちゅんっ」

セレス「随分と可愛らしいくしゃみをするのですね」

霧切「……」

セレス「あら? 気に触ったようなら謝りますわ」

霧切「別に……」

セレス「態度の割に、頬が赤くなっていますわよ?」

霧切「!?」

セレス「冗談ですわ」

霧切「……」

セレス「……はぁ」

霧切「なに?」

セレス「なに? はこっちの台詞ですわ」

セレス「そんなに寒いのであれば、もっとこちらに来ればよろしいではないですか」

霧切「だからそれは」

セレス「そんなに震えて、説得力がありませんわよ?」

霧切「……」

セレス「だいたい、超高校級の探偵ともあろう貴女が……」

セレス「自分の部屋の鍵を無くしてしまうなんて」

霧切「なくしたんじゃないわ。盗まれたのよ」

セレス「どちらも同じですわ」

霧切「……」

セレス「ですが、皆さんが年末で帰省している中、わたくしが残っていたのは幸運でしたわね」

セレス「こうしてわたくしの部屋に泊まることが出来たのですから」

霧切「……それには感謝しているわ」

セレス「なら」

霧切「だからこそよ」

霧切「私の不手際にあなたをこれ以上巻き込む訳にはいかない」

霧切「本当なら、床さえ貸してもらえればいいところを……」

霧切「こうしてベッドを貸してもらえるだけでも十分すぎるくらいだわ」

セレス「律儀ですのね」

霧切「探偵の性分よ」

セレス「ですが、それだとわたくしの気が収まりません」

霧切「……?」

セレス「ノブレス・オブリージュという言葉をご存知で?」

霧切「たしか……『持てる者の義務』、だったかしら?」

セレス「流石、霧切さん」

セレス「今この状況、私は霧切さんにないものを持っている、まさに『持てる者』です」

セレス「なら、わたくしは持てる者として、霧切さんに十分な施しをする義務があります」

霧切「……酔狂ね」

セレス「ギャンブラーの性分ですわ」

セレス「……と、言うわけですので」

ズイッ

霧切「!」

セレス「ほら、こうすれば手を掴んでいるよりも暖かいでしょう?」

セレス「それに……」

霧切「……」

セレス「貴女のその鋭く美しい目を間近で見ることが出来ますわ」

霧切「……なにが目的なの?」

セレス「『なにが』とは?」

霧切「惚けないで」

霧切「私の鍵を盗んだ犯人は、貴女でしょう?」

セレス「あら、何を根拠に?」

霧切「考えなくとも分かる答えよ」

霧切「貴女自身が言ったのよ?」

霧切「『今の学園には誰も居ない』」

霧切「当然、その他にも証拠は押さえてあるけれど」

セレス「……フフ、流石超高校級の探偵ですわね」

霧切「どうも」

セレス「確かに、貴女の鍵を盗んだのはわたくしですわ」

霧切「やっぱりね」

セレス「けれど、勘違いしないでくださいね?」

セレス「わたくしは悪意があってこのような茶番を演じたわけではありませんわ」

霧切「じゃあ、どういう訳か……説明してもらいましょうか?」

セレス「説明も何も、たったひとつの、シンプルな答えです」

セレス「わたくし、貴女とお友達になりたいんですの」

霧切「……は?」

セレス「あら? 聞こえませんでした?」

霧切「……理解が追いつかないだけよ」

霧切「何故私の鍵を盗むことが、私と友達になることに繋がるのかしら?」

セレス「貴女の鍵を探せば、当然貴女はその調査に乗り出す」

セレス「貴女程の腕なら、わたくしが犯人だということ位すぐに見抜くでしょう」

セレス「そうすれば、貴女は自ずとわたくしのところへ接触してくる筈……」

セレス「これなら無愛想な貴女とも、お話する機会を得られると思いまして」

霧切「……私をはめたと言う訳ね」

セレス「人聞きが悪いですわね」

セレス「それに……」

スッ

霧切「……っ」

セレス「貴女も、分かっていてわたくしの部屋に来たのでしょう?」

セレス「霧切さん?」

霧切「……勝手に人の頬に触らないでくれるかしら?」

セレス「あら、これは失礼」

霧切「……今回、貴女に嵌められてしまったのは私のミス」

霧切「けど、私の探偵としての性を読みきった上で貴女は私に接触しようとした」

霧切「そういう計算高い人間は嫌いじゃないわ」

セレス「ここは素直に褒め言葉として受け取っておきましょう」

セレス「となると……?」

霧切「お友達とやらにはなれない」

セレス「あら……」

霧切「けれど、良い競争相手にはなれるかもしれないわね」

セレス「……わたくしの理想の関係とは少し違いますが」

セレス「競争相手……それも良いかも知れませんわね」

霧切「ええ」

霧切「もしも、貴女が何か犯罪を犯すとしたら……」

霧切「それはきっと、探偵としての私の好奇心を激しく刺激してくれるような事件なのでしょうね」

セレス「あら、クラスメートを犯罪者に仕立て上げるおつもり?」

霧切「喩え話よ」

セレス「フフ、酷いですわね」

セレス「では、競争相手として……」

セレス「これからも仲良くしてくださいね、霧切さん?」

霧切「……善処するわ」

霧切「それから、鍵はちゃんと返しなさいね?」

セレス「そのまま帰すのは名残惜しいですが、仕方がないですわね」

霧切「……意外ね。貴女のことだから、何かギャンブルでもふっかけてくるかと思ったけど」

セレス「それも面白いですが、貴女は正しく犯人を指摘できましたので」

セレス「その褒美、とういうことにしておいてくださいな」

セレス「それに……」

ギュ

霧切「なっ……」

セレス「こうして貴女と直接触れ合える機会をこれきりにするというのも……」

セレス「なんとも背徳的で、素敵だと思いませんこと?」

霧切「……酔狂ね」

セレス「ええ」



セレス「わたくしは、セレスティア・ルーデンベルクですから」

………

深夜

霧切「……」

セレス(眠ったのかしら? それとも、また狸寝入り……?)

セレス(まぁ、どちらでもいいですわ)

セレス(……霧切さん)

セレス(先ほど貴女はわたくしのことを好敵手だとおっしゃいましたが)

セレス(わたくしも、同じような事を考えていました)

セレス(貴女をひと目見た時から)

セレス(貴女のその全てを見通すような鋭い視線に射抜かれてから)

セレス(わたくしは、直感的に感じ取ってしまったのです)

セレス(きっと、わたくしにトドメを刺せるのは貴女だけだと)

セレス(それが直接的なのか間接的なのか、そこまではわかりませんが)

セレス(わたくしの最期は、貴女が飾ってくれるのでしょう)

セレス(これはわたくしのギャンブラーとしての勘)

セレス(けれど、だからこそ確信できる)

セレス(その日がいつになるのかはわかりませんが……)

セレス(貴女のように美しい人に処刑台へ送られるのなら……)

セレス(それはそれで、とてもロマンチックですわね)

セレス(フフフ……)

セレス(では、死がふたりを分かつその日まで……)



――チュ



セレス(仲良くしてくださいね)

セレス(――わたくしの、愛しの好敵手さん?)



END

くぅ疲

コミケ前夜で眠れなくて書いた
アニメの二人の冷めてるけどどこか百合百合しい雰囲気が好きです


コミケ85、ダンガンロンパブースをよろしく!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年10月17日 (金) 16:01:52   ID: vp0ZC_Or

目覚めた

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