橙子「君は動物に例えるとうさぎらしいな、式」式「…え?」(158)



 ― 朝・伽藍の堂 ―



橙子「……」ボケーッ…

式「……」


橙子「式……頼みがある。すまんが、コーヒーを一杯淹れてくれないか……」

式「……それくらい、自分でやれよ」


橙子「まあ、そう言うな。見ての通り今忙しくてな……そっちまで手が回らん」ボケーッ…

式(これの、どこが……?)


橙子「淹れてくれたら面白い話聞かせてやるから……」

式「……」



橙子「黒桐の事だぞ」

式「……」ピクッ


橙子「……」

式「……」


式「ブラックで良いんだな?」

橙子「分かり易いなぁ、おまえ……」クスクス…


……………………



式「……」

橙子「……」ゴクゴク…


橙子「うん……やっぱり朝はこれを飲まんとしゃっきりせんな」

式「トウコ。話って」


橙子「ああうん、分かってる。まあ本当の事言うと、どうでも良い話なんだがな」

式(さっきと言ってる事が違うじゃないか)

橙子「あれは一週間程前の事だったかな……」


――――――――



橙子「式って動物に例えたら何になるんだろうな」

幹也「――どうしたんですか、唐突に」


鮮花「……」カリカリ


橙子「最近さ、動物占いとか言うのが流行ってるだろう」

幹也「はぁ。人の性格を動物の枠に当てはめると……って奴ですね」


橙子「そう、それそれ。それを聞いてふと思ったんだが……式の性格を動物に当てはめたら何になるのかなって」

幹也「……何で急にそんな事を?」


橙子「何って……そりゃ暇潰し」

幹也「――暇だっていうんなら仕事、手伝ってくださいよ。書類仕事全部僕に押し付けて……」



橙子「今は無理だ。見ての通り、君の妹に魔術の修行を付けている最中だからな」

鮮花(修行って言っても魔術書の写本ですけどね……)カリカリ


橙子「ちなみに鮮花は式を動物に例えたら何になると思う?」

鮮花「……」



――――――――



橙子「『シュミの悪い泥棒猫』、だってさ」

式「鮮花の奴……そりゃあお互い様だろう」

橙子「シュミが悪い事自体は否定しないんだな。……まあ、確かに良いとも言えんが」

式「……それで?」

――――――――



幹也「泥棒猫って……そりゃあ式にはなんだかんだいって人の物を獲るクセがあるけど……それでも、最近は大分マシなんだぞ」

鮮花「――そうじゃなくって……」

幹也「?」


橙子「まあ、式がネコ科というのは私も同意見だ。泥棒猫なんて可愛いものじゃなくて、獅子や虎の類だと思うがね」


――――――――


式「……オレがライオンって、どういう事だよ」

橙子「だってホラ。おまえって、腹が減ったら人でも喰いかねんし」ハハ



橙子「分かった。分かったから無言で首元にナイフを突きつけるのは止めてくれ。怖い」

式「……」


橙子「全く……相変わらず気が短いな」

式「……おまえの話は長いんだよ」


橙子「分かった、黒桐が何て言ったかパパッと教えるから」



――――――――


橙子「で……黒桐は何になると思う?式を動物に例えると」

黒桐「うさぎです」


――――――――


式「……え?」

橙子「即答だったぞ」


――――――――


橙子「ほぉ……どうして?」

幹也「どうしてって……だって、式といえばうさぎでしょう。僕は昔からずっとそう思ってますけど」


――――――――


橙子「人に懐かない所やら、遠くからこっちをじーっと見てる姿やらがうさぎに似てるんだと」

式「……」


――――――――


橙子「……」

幹也「サンドイッチをちびちびかじる仕草が小動物みたいで……」


橙子「黒桐、黒桐……」

幹也「前にいきなり冷たい物を食べた時なんか……はい、何ですか橙子さん」


橙子「不用意に質問した私も悪かったが……もうその辺にしておいてくれ。鮮花が……」


鮮花「」

幹也「あれ……鮮花?」


――――――――



式「……」

橙子「あんな物を延々と聞かされるこっちの身にもなれ……鮮花なんかぶっ倒れてしまったぞ」



式「――知るか。元はそんな質問をしたおまえが悪いんじゃないか」

橙子「まあ、そうなんだが……」

橙子「……」


橙子「――でもまあ。君がうさぎというのもあながち間違いじゃないな」

式「はぁ……?」



橙子「うさぎは寂しいと死ぬって良く言うだろ。だから」

式「――オレは別に寂しがってなんかいない」


橙子「ほぉ? では黒桐が出張して一週間、毎日ここに通いつめて帰りを待ってるのは誰だ」

式「……」


橙子「そう言えばおまえ……前にあいつが免許を取りに一月ほどこの町を離れた時も、目に見えて不機嫌になっていたな」

式「……」


橙子「……やれやれ。あいつがどこに行ったか知りたいのならば、素直に聞けば良いのに」

式「……」


橙子(意地が邪魔をして聞けない、か。最も、私もここまで出張が長くなるとは思わなかったが。……行き先で何かあったか?)


橙子「全く……いつになったら帰ってくるんだろうね、うちの坊やは」



(プルルルル……プルルルル……)



式「……」

橙子「……」カチャ


橙子「はい、蒼崎ですが………………あら、幹也くん」


式「……!」ピクッ


橙子「どうしたの? 連絡もないし、心配してたのよ。…………え?」

式「……」


橙子「……へぇー。うん……うん……そんな事があったんだ。なるほどねー……」


橙子「うん、じゃあさ。ビールと……後お土産買ってきて。うん、ハイ、ヨロシクゥ!ハイ」


(ガチャッ)



式「……」

橙子「……」カチャ


橙子「朗報だ。黒桐が帰ってくるぞ、式」

式「――そう」スタスタ


橙子「何だ、もう帰るのか? 出迎えは? その為に毎日ここで待ってたんじゃないのか、君は」

式「……」

橙子「一言『お帰り』と位は言ってやっても良いんじゃないか」


式「……」ボソ

橙子「?」


式「あいつ……この一週間どこに行ってたんだ」

橙子「ちょっと他県まで。仕事でな。本当なら一日で帰って来れるはずだったんだが……何やら長引いたようだ」



式「……」

橙子「連絡が無かった事に怒ってるのか?」


式「どの県に行ってたかは知らないけど。電話が出来ないって事はないだろう」

橙子「何でも凄く忙しかったらしい。それに、もしかしたら電話さえ通じてない場所に行く破目にあっていたのかもしれない」

式(そんな場所、今時あるか?)


橙子「黒桐の奴、声を聞く限り凄く疲れてそうな印象を受けた」

式「……」


橙子「こういう時、君に一言声を掛けてもらうのが一番元気が出るんじゃないのか、あいつ」

式「……」


橙子「…………あ。……ちょっと待ってろ、すぐ戻ってくる」 

式「……?」


………………………………


橙子「という訳で……ホラ、式」

式「トウコ」


橙子「黒桐が君をうさぎに例えた事はさっき言ったな。だから……」

式「ちょっと待て」



橙子「君が、このバニーコスであいつを出迎えてやれば、黒桐は凄く喜ぶと思うんだ」






式「……」

橙子「……」



式(前から思ってた。トウコって、実はすっごく頭悪いんじゃないのかって……)



橙子「さあ、着てみろ式」ズイッ

式「何でオレがそんな事しなくちゃならないんだ」


橙子「黒桐が喜ぶ」

式「……知るもんか、あんな奴」プイッ


橙子「……黒桐が、おまえに無断で居なくなった事が、そんなに許せないか?」

式「……」



橙子「君が前に姿をくらませた時、黒桐も散々心配してたんだがな」

式「……っ」ピクッ


橙子「その時の事あいつにもう謝ったか? まだだろう? ならこれは、その時の侘びも兼ねてだ……」

式(……私の避けている事ばかり突いてくる、この女は……)



………………………………


橙子「……」オォー…


式「……」


橙子「…………素晴しい」


式「……ッ! やっぱり止めだ、こんなのっ!」



橙子「おっと待て待て。悪かった。でも本当に似合ってるぞ」

式「……こんなの、似合ってるなんて言われても嬉しくない」


橙子「それもそうか。しかしなぁ……」ジロジロ

式「……」


橙子「何か足りないよなぁ……あっ、そうだ。物は試し、これも付けてみろ」


(すぽっ)


式「……」


橙子「おー、やっぱり。黒桐はうさぎだと言ったが、君にはやっぱりネコも合うな」

式「トウコ、おまえいいかげんに」


橙子「黒桐のためだぞ」

式「~~~っ……」



式「……おい、トウコ。おまえ、さっき忙しくて他に手が回らないって言ったよな?」

橙子「あれは本当。どうやって暇を潰すか考えるのが忙しくて、他の事に手が付かなかった」

式(こいつ……!)



橙子(……ん?)ピクッ



橙子「思っていたより大分早いな……もう帰って来た」

式「―――!」


式(幹也が……帰って来た……?)



(…………こつこつこつ)



橙子(階段を昇って……真っ直ぐこの部屋に向かって来てる)



橙子「一週間ぶりのご対面だ。心の準備は出来てるか、式」

式「……」ドクン…ドクン……


(……こつこつこつ)



橙子「……このまま普通に対面しても良いんだが。それだとちょっと面白みが足りないな……よし、式」

式「……何」


橙子「一旦台所に隠れててくれ。私が合図を送るから、その時出てくればいい。後……」ゴニョゴニョ……

式「――えっ……!?」




橙子「ちょっとしたサプライズだ。さ、早く隠れろ」

式(……お詫びにビックリさせるってどういう事だろう)タタタ…



(ぎいいい……)



橙子「―――遅いよ。お帰り、黒桐」

幹也「……遅れてすみません。黒桐幹也、ただいま帰ってきました」

式「……!」



橙子「本当に、偉く長い出張だったな。どうしたんだ、連絡も入れないで?」

幹也「ええ、最初はすぐに戻る予定だったんですが……ちょっと用事が出来ちゃいまして」


式(幹也の声だ……)



橙子「まあ募る話もあるだろうが、とりあえず今はゆっくり……」

幹也「『でも良いから、早く土産を見せろ』でしょ」


橙子「いや、そんな事は無いぞ?」

幹也「……だと良いんですが。はい、これ」トサッ



橙子「……」


橙子「これが、そうか?」

幹也「はい、そうです」



橙子「ハーゲンダッツのストロベリー……か」

幹也「あんまり文句は言わないで下さいよ。僕交通費以外すっかりおけらで……大体さっき電話した場所も近場だったじゃないですか」



橙子「少し安上がりだが……まあ君が無事戻ってきただけ良しとしよう。お疲れさん、黒桐」

幹也「そう言っていただけると助かります。……ところで橙子さん」スッ…


橙子「……」

幹也「……」


橙子「ん? 何だこの手は?」

幹也「こんな時に言うのも不躾だとは思うんですが……今日、給料日です」


橙子「……」

幹也「お給料払ってください、今日、ここで」



橙子「……」

幹也「……」



橙子「え?」

幹也「え?」

式(……?)



橙子「……」

幹也「え……だって……先週にちゃんと……聞いたじゃないですか」



――――――――



幹也「橙子さん。今月はちゃんとお給料出ますよね?」

橙子「何だ黒桐。藪から棒に」



橙子「それ、飛んでないぞ。……あれは突然の出物だったから、つい」

幹也「『つい』で一度に何十万も使われたら堪りませんよ。……今月は大丈夫、ですよね?」


橙子「大丈夫だ。……私が信じられないか、黒桐?」

幹也「いえ……じゃあ、信じますよ……」



――――――――



幹也「って、話したじゃないですか。ちゃんとありますよね?」

橙子「……」



橙子「あっ! あんな所に空飛ぶ吸血生物(きゅうけつなまもの)が!」

幹也「え……?」チラッ…



橙子「……ッ!」ダッ


トウコは逃げ出した。

……しかし、回り込まれてしまった!


幹也「逃がしませんよ」


橙子「……」

幹也「……」


幹也「……橙子さん。……まさか、まさか」



橙子「黒桐……人は何故、出逢うんだろうね」

幹也「難しい事言って誤魔化そうとしても駄目です」


橙子「……」

幹也「……」


幹也「……もしかして」


橙子「あっ! あそこ、蛇女が自転車で曲乗りを!」

幹也「え……?」チラッ……


橙子「……ッ!」ダッ


しかし、回り込まれてしまった!


幹也「逃がさないって言ったでしょう!」



橙子「……」

幹也「……」


橙子「……」スッ…カチッ…

橙子「……」シュボッ…


橙子「……」フゥー…

幹也「……」



橙子「……無い」

幹也「あなたって人はあぁぁぁーーー!!!」




橙子「落ち着け、黒桐」

幹也「これが落ち着いていられますか! 何をしたんですか橙子さん!?」


橙子「いやな……どうしても……どうしても今しか買えない掘り出し物が、ダークアマゾンにあったんだ……」


橙子「で、気が付いた時にはそれをポチッと……」

幹也「ポチッとじゃないでしょう!!」


橙子「それがこの何でも願いを叶えてくれるとか言う聖杯のレプリカなんだが……」

幹也「……」



橙子「いやあ、こりゃ完全にバッタ物だ。何の効果も無い」ハハ


幹也「……また無駄な買い物をしたぁ……! 止めようとしたのにぃ……!!」




橙子「すまなかった。今回ばかりは、本当に反省している」

幹也「嘘ばっかりっ……」


橙子「……」 ←『良く分かったな』という表情


橙子「今回は『金貸してくれ』何て言わないからさ」

幹也「……当たり前ですよ。大体、どこの世界に社員に金をせびる社長が居るんですか」


橙子「ここ」

幹也「あぁぁ……」



橙子「まあ、金の方は近日中に何とか工面するから……それより黒桐」

幹也「……何ですか?」


橙子「お詫びといっては何だが……君に、見せたい物がある。それを見れば、きっと君も喜んでくれると思う」

幹也「……はぁ……?}



橙子「だからさ……ちょっとだけ、あっち向いててくれないか?」

幹也「……良いですけど」クルッ


橙子(よし……待たせたな。出番だぞ、式)

式(―――)



橙子「――もう、こっちを向いても良いぞ」

幹也「……」クルッ



式「……」



幹也「…………え…………?」



式「……っ」


幹也「し…………き…………? え…………」




幹也(バニーコスチューム?   え?   何でこんな   猫耳
                     何て白い肌     久しぶり    顔が赤い    )



式(……恥ずかしくて、死にそう―――)


橙子(良し、今だ式。さっき教えた通りに)


式(……もう、ここまできたらどうにでもなれ―――)




式「に、にゃー。幹也、お帰りにゃさい…………」





幹也「…………」

式「…………」

橙子「…………」


幹也「…………」

式「……?」

橙子「……、あ……」スタスタ


幹也「…………」

橙子「…………」ブンブン

式「み、幹也……?」



橙子「衝撃の給料未払いの後に、式のバニー姿は威力がありすぎた……意識が真っ白になっているようだ」

式「……なんて、こと」




幹也「…………」


橙子「うむ……提案した私が言うのもなんだが……」

橙子「さっきのアレは、流石に無いな」ハハ

式「ふざけるなっ!!」


橙子「しかし……まさか本当にやってくれるとは思わなかったぞ、式」

式「―――っ……!」


橙子「いくら黒桐の為とはいえ、良くあそこまで……」

式「ビークアイエットッ! 出て行けッ!!」


橙子「え? いや、しかし」

式「出て行けと言っているッ!」



橙子「……分かった」

式「くどいッ!!」


橙子(ちゃんと出て行ってるんだが……英語下手だなぁ、こいつ……)タタタッ……



…………………………
……………………
………………


幹也「……ぅうーん……」

幹也「はっ……ここは……?」


式「……気が付いたか?」

幹也「あ、式……」

式「…………」

幹也「…………」


幹也「式、どうしたのその格好……?」

式「聞くな……」



……………………



 ― 伽藍の堂・人形部屋 ―



橙子「…………」



(バタンッ)



鮮花「―――橙子さんっ……!」

橙子「おお、来たか鮮花」



鮮花「来たか、じゃなくて……、幹也はどこですか!?」

橙子「……ん?」


鮮花「出張から帰って来た途端に倒れたんでしょう? 大丈夫なんですか……」

橙子「……まあ、大事には至ってないと思う。今、付きっ切りで看てくれている奴が居るから」


鮮花「付きっ切りで、看病? …………まさか」


『幹也。何か飲むか?』


鮮花「……!」ビクッ


『え……良いよ。式に悪いから、自分で淹れます』


鮮花「……これって」




『……いいから。さっさと言え』


『……じゃあ、コーヒー。ミルクと砂糖もちょっとずつ……』


『―――分かった』



橙子「うむ……暇だったんで前に事務所に仕掛けてみたんだが」

鮮花「……」


橙子「いわゆる、盗聴器という奴だな」

鮮花「犯罪じゃないですか!!」


橙子「む……失敬な。そりゃあ赤の他人の家に盗聴器を仕掛けるのは犯罪だろうがね、ここは私の住まいだ。自分の家を盗聴して何が悪い」

鮮花「屁理屈だって事は分かってます……」



『サーッ!』


橙子「……」


『……ほら。淹れて来たぞ』


『ああ、ありがとう』


鮮花「……」ピクッ

橙子「……何だかんだいって興味が無い訳じゃないんだな」


…………………………


幹也「……」ズズ…

式「……」




幹也「うん……美味しい……」

式「……そんな甘いの、良く飲めるな」


黒桐「うん、この甘さが良いんだよ。それに……やっぱりブラックは、胃に悪いしね」

式「コクトーなのにな……」ボソッ…


幹也「え?」

式「……何でもない」


幹也「……?」ズズ

式「……」


式「やっぱりオレも飲む……貸せ」


…………………………



橙子「…………」

鮮花「…………」


『……あったかい』


『うん……』


橙子「堂々とした間接キスだな……」


鮮花「あの女ぁぁぁ!!」

橙子「待て、鮮花。落ち着け」



…………………………



式「…………」

幹也「…………」



式「……おまえさ」

幹也「うん」

式「どこ、行ってたんだ」

幹也「ちょっと違う県に、仕事で。本当は一日で帰って来れるはずだったんだけど……」


式「実際は、一週間掛かったと」

幹也「うん。……僕、さっきから『うん』しか言ってないな……」ハハ


幹也「ちょっと出かけた先で用事が出来ちゃって……」

式「……どうせ、人捜しかなにかだろ」

>>42>>44の間で飛んでる行が…



>幹也「いえ……今月ちゃんとお給料出るのかなーってちょっと不安になりまして」

>幹也「何せ、橙子さんには百飛んで十二万の振込金を一日で使い果たした前科がありますから……」


補完しといて下さい、オナシャス…



幹也「……分かる?」

式「分かる。おまえの事だから」ギロッ


幹也「……」

式「……どうして」

幹也「……?」

式「どうしてこの一種間、何も連絡を寄こさなかった。電話位出来るだろう」


幹也「それが……その捜し人、電話線も通ってない山奥にいて……」

式(……そんな所に居る奴をどうやって見つけたんだろう)


……………………


鮮花「…………」

橙子(……あいつの情報収集力は留まる所を知らないな……)

……………………


幹也「それより式の方こそどうしたの、その格好……?」

式「……っ!」



『だって、式といえばうさぎでしょう。僕は昔からずっとそう思ってますけど』


式「……」


『人に懐かない所やら、遠くからこっちをじーっと見てる姿やらがうさぎに似てるんだと』



式「……おまえが」

式「おまえがオレの事『うさぎみたい』だなんて言うからっ。だからっ……」

幹也「それって、この前の……」


……………………




鮮花「え……今の、一体どういう……?」

橙子「ああ、鮮花は式の姿を見ていなかったな。つまり―――」


……………………


橙子「―――という訳だ」

鮮花「式の奴……バニーガールになって幹也を―――」


……………………


幹也「なるほど……そういう事だったんだ」

式「…………」


幹也「…………」

幹也(……なら、何で猫耳なんだろう……?)


式「…………」スタスタ


幹也「…………」

式「…………」ポスッ…


(ぴたっ……)


幹也「…………」

式「…………」



式「知ってる、コクトー? うさぎはさ、淋しいと死ぬんだって」

幹也「……うん」


式「うさぎはさ、……独りだと、生きていけないんだって」

幹也「……うん、知ってる」



式「…………」

幹也「…………」



幹也「ごめん。今度からは、ちゃんと連絡するから」

式「……そうしろ。莫迦」


……………………


橙子「…………」

鮮花「…………」


橙子「いい雰囲気だな……」

鮮花「……っく……ぅ……」


……………………


式「…………」

幹也「…………」




式「熱い……やっぱり離れるか」


(ばっ……)


幹也「うんっ……、……?」チラッ



幹也(――――!?)



式「……? どうした幹也」

幹也「えっ? あ、いや……えっと……」

式(急に挙動不審になったな……)


幹也「…………」


幹也(忘れてた……式は今、所謂バニーコスチュームだったんだ……)



式「暑いな……」ダラダラ…

幹也(大して胸も無いクセに……そんな派手で、露出の多い服を着るから……だから―――!!)


式「おい幹也……どうした?」


幹也「……」プイッ

式「……?」


幹也(隣に座ると……横から、見えちゃいそうなんだよ……)




書き溜め尽きた…(小声)




式「……本当にどうしたんだ?」

幹也「……何でもないよ。それより、カップ片付けなきゃ……」ムクリ…


(ふらっ……)


幹也(……あれ?)


(がしっ……)


式「おい……」

幹也「…………」


式「大丈夫か……? 大丈夫か……?」

幹也「……、大丈夫……」



式「……疲れが溜まってるんだ。オレがやるから、おまえは座ってろ」

幹也「うん……」


式(にしても……本当に暑い。もう日も沈んだっていうのに……)

幹也「…………」グッタリ


式(―――汗が、止まらない……)



…………………………



鮮花「幹也っ……大丈夫でしょうか橙子さん……?」

橙子「…………」


鮮花「橙子さんってば!」

橙子「ん? ああ、大丈夫だ。実を言うと、アレはな……」



式「…………」ハァ…

式(暑苦しい……熱帯夜って訳でもないのに、どうして――――)スタスタ


幹也「…………」ハァ…ハァ…

式「…………」


式(さっきからぐったりして……息も荒い。幹也の奴、山の中で変な病気にかかったんじゃないだろうな……)


式「幹也。立てるか?」

幹也「…………ごめん、ちょっと今は無理かも……」

式(……この目で病原菌だけ殺せば……)

幹也「…………」ハァ…ハァ…

式「…………」


式(……駄目だ。こいつの死を……意識して視る、なんて……そんな事、私には耐えられない……)



式「……仕方ない」


(がしっ……)


幹也「……ん……」

式「トウコの所に行こう。……憎たらしいけど、あいつならきっと何とかしてくれるだろう」


幹也「……ごめん。ありがとう」

式(……足に全然力が入っていない。早く誰かに看てもらわないと……)


(ふらふら……)



式「――――っ」

幹也「…………」グッタリ…


式(幹也だけじゃ、ない……。私も……体が、重い……)


(ふらふら……)


式「くそ……熱い……」ハァ…

式(元々、式は暑さにも寒さにも強いはずなのに……どうして……)


(ふらりっ……)


式「―――あっ……」

幹也「…………」


……………………





『サーッ!』



鮮花「え? 睡眠薬……ですか?」

橙子「うん……」パキュッ…


(ぷしゅーっ…)


橙子「さっき黒桐から電話が掛かってきた時、偉く疲れてそうだったからな……それで、だ」


(コポコポコポ……)


鮮花「それで……?」

橙子「…………」ゴキュ…ゴキュ…


橙子「っはぁー……ビール、ビール!! 冷えてるなぁ、これ……」ッフゥー…!



鮮花「そ れ で ?」

橙子「ああ、帰ってきてすぐにここで快眠できるよう、台所にある砂糖に細工をしておいたんだ」


橙子「あいつ、帰ってきたらまず真っ先にコーヒーを飲むだろうと思ってね。結果、目論みは当たった訳だが……」

鮮花「…………」


橙子「まさか、式まで一緒に飲むとはな……あいつはコーヒーに砂糖を入れないから、安心してたんだが……」

橙子「黒桐の飲んでる最中コーヒーを横から掻っ攫うとは思わなかった。これは私の落ち度だ」


鮮花「……やっぱり泥棒猫ね、あいつ……」


橙子「式には眠る黒桐に膝枕でもしてもらおうかと思ってたんだが……」


(コポコポコポ……)



『ハァ……ハァ……』


鮮花「でも、こんなに息が荒くなるって……それって本当に、睡眠薬なんですか?」

橙子「…………」ゴキュ…ゴキュ…


橙子「ああ、キンキンに冷えてる……」…フゥー!


鮮花「湯気の立つビールってそれはそれで乙な物だと思いません? 橙子さん」

橙子「分かった分かった。真剣に答えるからそれだけは止めてくれ鮮花」


鮮花「…………」

橙子「…………」



橙子「まあ、結果的には眠くなって……最終的に快眠できるんだから、睡眠薬と読んでも差し支えは無いだろう」

鮮花「それ、全くの別物じゃないですかあぁぁぁーーー!!!」





橙子「…………」


橙子「やっぱり兄妹だけあって叫び方が黒桐に似てるなぁ、鮮花」

鮮花「ああ、何て緊張感の無いコメントっ!」


『ハァ……ハァ……ハァッ……』


鮮花「どんどん息が荒くなっていってる……!――橙子さんっ!!」

橙子「うむ……元々式が睡眠薬(大嘘)を飲むのは想定外だった訳だしな……よし鮮花、行って見てきてくれるか」


鮮花「はいっ!バッチリです」

橙子「うん、良い返事だ。……ああ、そうそう。どうせ看病するのなら……」


橙子「これに着替えて行ってやれば黒桐も喜ぶぞ」

鮮花「こ、これは……!!」



橙子「…………」オォー…


鮮花「……」


橙子「…………素晴しい。病人の介護する者にとって、それ以上似合うコスチュームなど有りはしないだろう」

橙子「観布子市立病院……式と黒桐が何度も世話になった所だ」

橙子「君は今、そこのナース服を着用して看護を行なう……つまり、あの病院の看護婦になったも同然だ」


鮮花「理屈は良く分かりませんけど、褒められてると思っていいんですね!?」

橙子「勿論。……意外と看護婦向いてるかもな、おまえ」


鮮花「そ、そうですか……///?」



『バタンッ!!』



鮮花「ッ!!」



橙子「行け、鮮花。行って二人を速やかに救って来い」

鮮花「はいっ!」タタタッ ← 『でも元はと言えば橙子さんのせいでこうなったんですよね』と思っているが口には出さない


(バタンッ)


橙子「…………さて」



……………………



(ふらりっ……)


式「―――――っ……!」

幹也「…………」



『バタンッ!!』



……………………



幹也「…………」


式「……っ………」



式(咄嗟に……自分を下にした……けど……)


式「……っ……ぅ……」ズキッ…



式(……二人分の体重が掛かっちゃ……流石に、痛いな……。満足に受身も取れなかった……)



幹也「……、式……? 君、大丈夫……?」

式「……大丈夫だよ。式の体は幹也の何倍も頑丈に出来てる」




幹也「……でも。君は女の子なのに……」

式「…………」



式(……今、気付いた。この体勢……3年前の、あの時と一緒だ)


幹也「……大丈夫? 重く、ない?」

式(今は……あの時とは逆で幹也が上になってるけど……あの時より、密着してる……)



式「…………」

式「…………」

式「…………///」


幹也「式? 本当に、大丈夫?」

式「だから、大丈夫だって。でも重いのは確かだから……どいてくれると、助かる……」


幹也「ああ、うん……分かった。じゃあ、腕を使って起き上がってみるから……式は、下から押し上げてくれる?」

式「……分かった」


幹也「―――よし、じゃあ……」



(がしっ……)



幹也「あっ……」



式「………ッ! 幹也、どこ触ってっ……!!」

幹也「あ、いやっ、今のは不可抗力で……。ごめん、離れるから……」


(ぱっ……)


式「ばかっ、この体勢で手を離したら……」


幹也「……え? あっ……」


(がくん……)


式「うわっ……」


…………………………


(タタタタタ……バタンッ!)


鮮花「兄さーんっ!! と式。助けに来ました! 後はもう私におま……」

鮮花「か……せ……」

鮮花「…………」


幹也と式の看病に事務所兼橙子さんの私室に馳せ参じたナース、鮮花。
彼女がそこで目にした物とは……?



式「ちょっと……幹也、苦しいっ……」

幹也「ごめん、すぐ退くから……もうちょっとだけ、我慢して……」


(もぞもぞ……)


鮮花「」



……事務所の床で式に覆い被さる兄と、その兄を必死で押し退けようと涙目で奮闘する式の姿だった。



式(顔が……幹也の顔が、近すぎる……)

幹也(……どうしよう。腕立ての要領で起き様にも……肝心の、腕が痺れて動かない……まいった……)


(もぞもぞ……もぞもぞ……)


鮮花「…………」


鮮花(そうですか、橙子師……これが、あの睡眠薬の正体ですか……)




鮮花「もう……兄さん、起きて下さい」



(ぐいっ)



幹也「―――おっ……」



式「あ……」

幹也「起き上がれ……た……?」



鮮花「兄さん」

幹也「あ……鮮花。どうして、ここに……?」


鮮花「どうしても何も……橙子さんに呼ばれて来たんですよ」


幹也「そ、そうなんだ。……今の、ありがとう鮮花……」


鮮花「兄さん。あなたは今、床で、式と何をしていたんですか?」


幹也「え……何、って……」

式「…………」


幹也「……式と一緒に倒れちゃったから、頑張って起き上がろうとしてたんだけど」



鮮花「へぇ……じゃあ、今のはあくまで倒れたから起き上がろうとしていただけで……他意は一切無い、と……」

幹也「そうだよ」(便乗)

式「…………」


鮮花「……パンチッ!!」


(ドグォッ)


幹也「あいたっ!」


鮮花「ただコケて起き上がろうとするだけであんなにモゾモゾするはずが無いでしょうがっ!!」

幹也「あ、いや、それは……」


鮮花「絶対何か下心があったはずですっ!!」

幹也「…………」


幹也「…………」

幹也「…………」


幹也(完全に潔白だと言い切れない所が悲しい。不可抗力とはいえ、式の胸触っちゃったしな……)



鮮花「それに……だったら何で式が必死に兄さんを押し退けようとしてたんですかっ!!」

幹也「それは、僕が重くて式が息苦しかったから……」


鮮花「その位の事で式が涙目になる訳ないでしょうがぁっ!!」

式「……」

幹也「…………」

幹也「まあ、そうだけど……」



鮮花「……もっかいパンチッ!」


(ドグォッ)


幹也「ぐわっ!」


……………………


橙子「…………」


(こつこつこつ……)



鮮花「AzoLto……喰らいやがれぇぇぇ!!」



(眠気が)ヤベェよヤベェよ……

(ドッグォン)



幹也「ぐおぁぁっ!!」



鮮花「へっ、燃えたろ……?」

式「…………」


幹也「…………」


鮮花「……手加減はしておいたわ……別に、式を乱暴に押し倒したのは幹也本人の意思って訳でも無さそうだし……」

式「…………」


式(別に、あのままでも良かったんだけどな……)


式「…………」

鮮花「……何でちょっと不満げなのよ、あんたは……」


結構理不尽な理由でボコられる黒桐君なのであった
なお、この後鮮花は一転睡眠薬(大嘘)の効力が抜けた式と一緒に自ら幹也の看病を行なった
そして、約束通り黒桐君の給料は近日中に支払われた。




幹也「給料が出た事は嬉しいんですけど……橙子さん。このお金、どうやって作ったんですか?」

橙子「ん? いや、何かビールが飲みたかったから、古い人形を売り払って……」


幹也「……橙子さんの中だとビール代の方が僕の給料の支払いより優先順位高いんですか?」

橙子「そうだよ」(便乗)



橙子さんマジ非道



投げやりEND

SSはちゃんとオチを考えないと駄目だと思った(小並感)
こんなオチでごめんなさい、お疲れ様でした

式って公式でうさぎ設定なんだからバニー姿披露してくれても良いじゃん…(震え声)

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