れんげ「学校に一番乗りなのん」 (36)

学校が終わった後、天気が良かったので私は散歩に出かけた。

いつもと変わらない、平和な日。階段を上った私は、一匹の猫と出会った。


蛍「あ、猫さん。おいで~おいで~」

猫「ニャー」

蛍「ふふ……可愛い」


思えば、この黒猫はこれから始まる悲劇の予兆だったのかもしれない。

小鞠「夏海ぃー、直売所に買い物行ってきてくんない?」

夏海「えー……母ちゃんに頼まれたのは姉ちゃんでしょ。姉ちゃんが行ってよ」

小鞠「ちょっと今ゲームがいいところでさ、手が離せないんだよね」

夏海「めんどくさいからやだ」

小鞠「今度夏海が頼まれた時に私が行くからさ、頼むよ」

夏海「はぁ……しょうがないなぁ」

一穂「あれ、ほたるんどうしたの?」

蛍「あ、先生。ちょっと散歩に……先生は今お帰りですか?」

一穂「そそ、いや~今日も疲れたなぁ……おや、その抱きかかえてるのは……猫?」

蛍「はい、ちょうど今出くわして……凄く懐っこいんですよ」

猫「ニャー」



夏海「ぜーぜー……ん?」

一穂「へー可愛いねぇ、でもここ階段近くて危ないからもう少し向こう行こうか」

蛍「そうですね……あ、夏海先輩、こんにちは」

夏海「おー、かず姉も一緒じゃん。どしたの?」

一穂「たまたま会ってね。夏海は?」

夏海「姉ちゃんに買い物押し付けられちゃってさ……ん、それ猫?」

猫「ニャ?」

夏海「へー可愛いじゃん。私にも抱かせてよ」

猫「フシャアアア」

一穂「何か威嚇してね?」

蛍「はい、どうぞ」

猫「ニャッ!」ピョン

蛍「あっ、待ってー!」

一穂「こらこら、こんな所で危な……」



ドンッ

蛍・夏海「あっ」




それが、最後に聞いた夏海先輩の声だった。

少しして、何かが階段を落ちていく音が聞こえ、すぐ止んだ。


蛍「……な、夏海先輩!」


少し茫然とした後、はっとして覗き込む。
夏海先輩は、頭から血を流して階段の下に横たわっていた。


蛍「夏海、先輩……」


ぺたり、と。
先生が膝をつく音が聞こえた。

蛍「…………」

一穂「……ほたるん」


あの後すぐ先生が救急車を呼び、今は一緒に街の方の病院にいる。


一穂「夏海は……駄目だったみたいだ」

蛍「……っ!」

一穂「…………」

蛍「……わ、私が……」

一穂「ほたるん?」

蛍「私が、夏海先輩を……」


そう。
私が、階段に突き落として。
夏海先輩を、殺してしまった。

蛍「私の、せいで……」

一穂「……違う。あれは、ほたるんのせいじゃない。不幸な……事故、だったんだ」

蛍「だって……私が、夏海先輩を……!」

一穂「…………」


あの時、散歩に出なければ。
猫なんかに気を取られなければ。階段から少しでも離れていれば。
今更悔いても、もう二度と夏海先輩は帰ってこない。

蛍「ごめんなさい……夏海先輩、ごめんなさい……!」ポロポロ

一穂「……いいかい、ほたるん?」


一穂「これから多分、警察の人とかが色々聞いてくると思う。そしたら、こう答えるんだ」

一穂「『散歩に出たら、偶然出くわした先生と一緒に、階段から落ちた夏海先輩を発見しました』って」


……え?
この人は、何を言ってるの?

一穂「これは事故だったんだ。なっつんがたまたま階段から足を踏み外したっていう」

蛍「ど、どういう……」

一穂「もし、自分がぶつかって落ちたなんて正直に言ったらどうなると思う?」

一穂「故意じゃないから罪には問われないかもだけど……周りの人は、そうは見てくれない」

一穂「少なくとも、この村で……今まで通りには、とても生活していけないよ」

一穂「後の人生だって、決して良い方には向かわない」

蛍「…………!」

私は迷った。
先生の言うことはわかる。実際、先生の言うとおりにした方が丸く収まるのは間違いない。
でも。


蛍「そ、そんなこと……夏海先輩は、許して……」

一穂「許してくれるさ、きっと。だって、ほたるんはまだ小学生なんだよ」

一穂「それなのに、そんな重いことを背負わせるなんて、なっつんだって嫌なはずだ」

蛍「で、でも……」

一穂「何より、たとえ事故であってもほたるんが突き落としたとあっては……」

一穂「小鞠やれんげ、卓……学校のみんなと、今までみたいに遊べなくなるんじゃない?」

蛍「…………」

一穂「だから、今までみたいに平和に過ごすためにも……ね?」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年12月28日 (土) 21:38:27   ID: Dl-XQKco

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