穏乃「憧さあ……先輩にタメ口で話すのやめなよ……」(64)

憧「え? いいじゃん別に。玄も灼も宥姉も、別に何も言ってこないし」

穏乃「呼び捨てするのもダメでしょ……先輩なんだからさあ……」

憧「そうかなあ、フレンドリーでよくない?」

穏乃「いや、先輩たちは優しいから、はっきりとは口に出さないけど……
   内心では不快に感じてると思うよ」

憧「内心で思ってても実際に言われないと分かんないしー」

穏乃「憧には分かんないかもしれないけどさ……
   やっぱり後輩にそういう態度取られると……部室の空気ってゆーかさ」

憧「そんな空気になったことなんてないじゃん。
  みんな普通に接してくれてるよ?」

穏乃「だからそれは先輩たちが優しいから、そういうのを表に出さないだけで……」

憧「もう、いちいちうるさいなー。
  だいたいそんなの全部シズの想像でしかないんでしょ?

穏乃「それはそうだけどさ……」

憧「てゆーかうちの部活の先輩ってみんな陰キャラっぽいよね」ケタケタ

穏乃「憧ォ……」

部室

穏乃「こんにちはーっ」

憧「こんちはー……あれ、まだ誰も来てないじゃん」

灼「…………」

憧「あっ、灼いたんだ」

穏乃「灼さん、こんにちは……」

灼「……こんにちは、穏乃」

憧「灼ってば、ちっちゃいから居るのか居ないのか分かんなかったよー」ケタケタ

灼「…………」チッ

穏乃(憧のこの態度に一番イライラを顕わにしてるのは灼さんだ……)

穏乃(でも無口な性格で、言い返したり注意したりしないせいで、
   憧もどんどん調子に乗ってきちゃってる……)

穏乃(このままじゃ悪循環だなあ……)

憧「灼~、最初に来たんなら卓の準備しといてよー、もー」

灼「……今からやるところ」ガタッ

穏乃「あっ、いいですよ、私がやりますから、灼さんは座ってて下さい」

ガチャ
玄「こんにちは~!」

宥「こんにちは……」

穏乃「あっ、玄さん、有さん、こんにちは」

灼「こんにちはー」

玄「ごめんねー遅れちゃって……今日掃除当番で」

宥「私は日直だったの……」

穏乃「いやいや、私もさっき来たとこなんで大丈夫ですよー」

玄「そっか、ならよかった」

灼「じゃあ部活始めようか」

宥「あれ、でもまだ憧ちゃんが来てないんじゃない……」

玄「え、5人揃ってるよ?」

憧「もー、私ならここにいるよ~宥姉~」

宥「あ、ごめんなさい、さっき挨拶されなかったから居ないのかと思っちゃったあ」

穏乃(松実姉妹……玄さんはみんなと仲良くやれればそれでいいみたいだから
    憧の態度も別に気にしてないみたいだけど……
    さすがの宥さんも少しずつイラついてきてるみたいだ……)

憧「挨拶なかったから分かんないって何それー。
  ちょっと見回せば分かるじゃーん、私灼みたいにちっちゃくないしさ~」

灼「…………」

宥「ごめんねえ、私ちょっと注意力がないみたいでえ」

憧「まー確かに宥姉はちょっと抜けてるとこあるけどさー」

宥「ごめんねえ~」

穏乃(憧は先輩たちに怒られないって自覚してるからどんどん調子に乗る……
   いや、それどころか先輩たちを見下し始めている)

穏乃(憧は先輩たちのことを陰キャラだと言っていた……
   たしかに憧みたいなクラスの中心的存在と比べたら先輩たちは大人しいほうかもしれないけど
   先輩に対してタメ口を聞いたり呼び捨てしたりするのはおかしい)

玄「あはは、み、みんな揃ったんだし、麻雀やろっ、ね?」

宥「そうだね、今日は皆揃ってるし……」

穏乃(玄さんはみんなが憧に対してイラついてる空気に気付いてる……
   ならもういっそ玄さんから憧に注意してくれればいいんだけど……
   嫌われ役を買って出ることはないんだろうなあ)

憧「今日5人いるから誰か1人抜けなきゃいけないじゃん」

灼「……お前が抜けろ」ボソッ

憧「何? 何か言った?」

灼「なんでもない」

憧「なにそれ、なんか変だよね灼って」

灼「…………」チッ

玄「あっ、じゃ、じゃあ私が最初は抜けるから……
  憧ちゃん、お姉ちゃん、灼ちゃん、穏乃ちゃんでやりなよ」

憧「あ、そう? わるいね~」

玄「いいよいいよ……」

穏乃(この麻雀部の空気……玄さんが取り繕ってくれてるからまだ大丈夫だけど……
   玄さんがいなかったら今ごろは灼さんか宥さんが爆発してたんだろうなあ)

憧「あ、そーいえばさー、シズが言ってたんだけどー」

穏乃「ン、何」

憧「私がみんなにタメ口だったり呼び捨てにしたりするの良くないっていうんだけど、
  別にいいよね? 今までもずっとそうだったしさ」

穏乃(お、お前の口からその話をするのか……!?
   地雷原のまっただなかを進んでるようなもんじゃないか……)

穏乃(宥さんや灼さんは……これにどう出る……?)

灼「…………」

宥「うーん……そうだねえ……」

玄「あっ、私は別に全然気にしないよ?
  なんていうか、そういうの憧ちゃんらしくて良いと思うよ」

穏乃(玄さんが先手を取った!
   灼さんや宥さんが本音を口に出す前にフォローを入れてるけど逆に空気読めてない!)

玄「その、上下関係っていうのかな? 私はそういうのあんまりうるさく言いたくないし、
  憧ちゃんとは小学校の時からの仲なんだから、先輩後輩っていうより友達って感じだしね、うん」

穏乃(玄さんまくしたてる!
   ほか2人に喋るすきを与えないまま有耶無耶で終わらせる作戦か!)

玄「だから、憧ちゃんはいつもどおりでいいよ、うん」

憧「だよねー、やっぱりいまさら敬語っていうのも堅苦しいよね~。
  もうシズってば、あんたは考え過ぎなんだよ~」

玄「そ、そうだよお~穏乃ちゃん」

灼「…………」
宥「…………」

穏乃(玄さんの思惑通り有耶無耶に終わってしまった……
   そうだ、ここは私が動かないと何も変わらない……玄さんには悪いけどっ)

穏乃「……宥さんや灼さんはどう思います?」

玄「ちょっ、穏乃ちゃんっ……」

穏乃(すみません玄さん……これはハッキリさせておかなきゃいけないことなんです……
   宥さんと灼さん、そして憧自身のためにも……!)

憧「宥姉も灼も、今まで通りでいいよねえ?」

灼「…………」
宥「…………」

憧「……何? なんか言いたいことあるならいいなよ」ジロリ

灼「まあ、この際だからちょっと気になってたこと言わせてもらうけど」

穏乃(おっ、ついにきたっ)

灼「玄とは友達かもしれないし、玄がそういうの気にしないなら別にいいんだけど。
  でも私とは高校で初めて会ったわけだしさ……言いたいこと分かるよね」

憧「ああ、うん」

灼「だいたい、最初は私のこと『さん』付けで呼んでなかった?」

憧「あれ? そうだっけ」

灼「そうだよ、いつのまにか呼び捨てになってた」

憧「そんな小さいこといちいち気にするって……キモッ」

灼「は?」

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