男「仔犬? 捨て犬か……」(216)
仔「わふっ!」
男「ったく、飼えないなら産ませんなよ。無責任な……」
仔「きゅう?」
男「兄弟は居ないのか? お前だけ貰われ損なったのか?」
仔「ヘッヘッヘッヘ……」
男「そんな目で見てもダメだ。俺は飼ってやらん。」
仔「わんっ!」
男「先立たれるのはもう沢山なんだ。お前にはわからんと思うが……」
仔「きゅう?」
男「こら、ついて来るな。」
――――――――――
私は杭につながれたまま飢えていた
日の光を遮る物もなく、水さえ口にできず、もう幾日も飢えていた
とうに足はこけ、胸は毛皮の上からでもわかるほどに骨の形が浮き出ていた
ひもじい……頭の中はそれのみだ
なぜこんな仕打ちを受けねばらなぬのか……と、
初めのうちはそのような事を考えたりもしていたように思う
あの頃はまだ余裕があったのだろう
これほどまでにひもじい思いをするくらいなら、いっそ死んでしまいたい……
そのような事を考えていた頃もあった
いつしか私は死ぬこともあきらめ、飢えを満たす事だけを考えるようになっていた
鼻先に置かれたものがキジの肉だと気づくのには少々時間を要した
目ヤニで塞がりかけた目はほとんど頼りにならない
鼻もあまり利かなくなっていたが、好物だったことも手伝ったのか
私はそれがキジの肉だと気がついた
どこにそんな力が残っていたのだろうか
私は必死に地を掻いて、その肉に寄ろうとした
あれに牙をつき立てられるものなら……
それを思うと、涎がとめどなく口からこぼれて落ちた
枯れ果てていたわけではなかったようだ
しかし、綱はそれ以上は伸びず、私がそれに届くことは無かった
それでも私は必死に綱を引く
輪になった綱の先が首に食い込んでむせたが
そんなことは些細なこと、私はあれを食わねばならぬ
命を繋ぐためか? 否、飢えを満たすためだ
もしかしたら、綱を噛み切ればよかったのかもしれない
もしかしたら、杭を掘り起こせばよかったのかもしれない
そんな機転も利かないほどに飢えていた
もう足も身体も尾も要らぬ、口だけでも届けばいい
そんな考えが通じたのか、私の頭は宙を舞った
私の記憶はそこで一旦途切れている
――――――――――
男「結局、家までついてきちまったか。」
仔「わんっ!」
男「しょうがない……俺が里親を見つけてやるから、その間は置いてやる。」
仔「わんわん!」
男「で? お前はどっちなんだ? 付いてるのか付いてないのか……」
仔「んがぁ~……あむっ!」
男「いってえ!!」
仔「むぐむぐ……」
男「こら! 離せ!」
仔「オエッ!」
男「くそっ……指は動く。大丈夫だ、筋まではイッてない。」
仔「ヘッヘッヘッヘ……」
男「兄弟ゲンカで手加減おぼえなかったのかコイツは……」
仔「きゅう?」
男「とりあえず止血と消毒だ。」
仔「わん!」
男「うるせー馬鹿!」
仔「くぅん……」
男「ここでおとなしくしてろ。」
――――――――――
次に気がついたときは箱の中だった
箱の中には一筋の光も差さず、今が昼なのか夜なのかもわからない
それもそのはず、私は箱ごと土の下に埋められていたのだ
おそらくは人の往来があるのだろう
上だと思われる方から揺れを感じることがあった
それの頻度が高い時が昼、そうでない時は夜なのだろう
何とも不愉快なものだ
顔もわからぬ大勢の人間が私を踏みつけては去っていくのだから
だからと言って仕返しができるわけでもないのだが……
噛みつくことはおろか、吠え掛ることさえも私にはできないのだ
そのうちには昼夜の識別にも飽きてしまった
どれくらいそのままでいただろうか
最早、揺れたことにいちいち気がつく自分自信にも辟易していたのだが
箱はいつの間にか掘り起こされ、目の前には豪勢な膳が用意されていた
器に盛られた食物や、盃に注がれた酒を見
なぜそれが膳だとわかったのか、自分でも不思議に思っていたことだろう
その時、私はようやく自分が何なのかを理解し、箱からも出ることができた
私は目の前の者の願いを聞き、また、それを脅かす者がいれば呪いもした
その者が死ねばその子に、その子が死ねばそのまた子に
延々とそれが繰り返されていたと記憶している
――――――――――
男「初日から流血沙汰じゃあ、先が思いやられるな……」
娘「お! 戻ってきたな!」
男「は?」
娘「どうした? 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔だぞ。」
男「どちら様? ていうか小梅号はどこ行った?」
娘「コウメゴウ?」
男「この部屋に仔犬が居たハズだが……そもそもあんたは誰だ?」
娘「仔犬? そうか、外見が変わっているから分からぬのだな。」
男「どこから入ったの? お父さんか、お母さんは?」
娘「教える必要が無い。」
男「は?」
娘「あの犬が私だ。」
男「もういいから、迷子なら交番まで案内するよ。」
娘「信じられぬというわけか。」
男「あと、ここに居た仔犬、どこへ逃げたか見てない?」
娘「目の前に居るというに……見せた方が早そうだな。」
男「……え?」
仔「わん!」
男「えぇ?」
仔「どうだ? これで信じたか?」
男「俺は何を拾っちまったんだ……?」
――――――――――
次に気がついたのは壷の中だった
いつの間にか、私は封印を施されていたらしい
そして、そのままでそれこそ気が遠くなるような歳月を過ごした
いつの日か誰かが解き放ってくれることを願うばかりだった
だが、期待は日に日にしぼんでいき
そのうち頭の中のどこを探しても見つけられぬほどに小さくなっていた
何も考えずに過ごすことにも慣れ
不安までもが期待と同じほどにしぼんでいた頃、私は解き放たれた
封を破ったのは弱った一匹の仔犬だった
私は不意に訪れた僥倖に狼狽するばかりであったが
仔犬からはそれを気にかける様子すら感じられなかった
久々に他者と対峙した私は、きっと間の抜けた顔をしていたに違いない
私はすぐさま我に返ると、威厳に満ちた顔を取り繕って待っていた
しかし、何かおかしい
その仔犬は私と目を合わさないばかりか、声もかけようとしなかった
厳めしく咳払いなどをしてみたが、顔も向けようとはしない
要するに、私を認識することができないのだ
私を封印から解き放ったことさえも理解してはいなかった
おそらくは私を封じた壷はその価値を解さぬ者の手へ渡り
その後で打ち捨てられたのだろう
無造作に、そして不安定に積み上げられていた壷は何かの拍子に落ちて割れた
落としたのがその仔犬だったというわけだ
地を擦るように食べ物の臭いを探すその鼻先は乾ききっており
艶が失せて水も弾けぬ全身の毛は、雨で根元から身体に張り付いていた
今にも死にそうではないか
生きる術を学びきらぬうちに親からはぐれてしまったのだろう
生きられぬ者から死んでいく
それは仕方の無い事だが、私を解放してくれた恩もある
この者にその意図が無かったとしても見捨てるのは心苦しい
私はこの仔犬が生きるための手助けをすることにした
――――――――――
娘「ところでコウメゴウというのは何だ?」
男「名前だよ。雌みたいだから、先代の紅梅号にあやかった。」
娘「コウバイゴウ?」
男「先月まで家で飼っていた犬だよ。」
娘「なぜ先月までなのだ? どうして今は……」
男「遠い所へ行ってしまったからな。ずっと遠くだ。」
娘「そうか……お前から漂う感謝の残り香はそれか。」
男「感謝の臭いがするってのか?」
娘「私達にしか感じる事ができぬものだ。まあ、気にするな。」
男「で? 一体ウチに何の用?」
娘「うむ。単刀直入に言うと、私を飼え。」
男「いや、仔犬だと思ったから、里親が見つかるまで保護しようと思っただけだし。」
娘「間違ってなどおらん。仔犬だぞ。」
男「犬に化けれる人型の妖怪か何かでしょ?」
娘「むしろ逆だ。とはいえ、身の上を説明するのは面倒極まるな……」
男「面倒な話なのか。」
娘「あ、私を飼えと言ったが、正確に言えば私達だ。」
男「めんどくさそう……」
――――――――――
手助けをすると決めはしたが私にできる事はそう多くない
相手を呪い、災いをもたらす事には長けているが
それは仔犬を生かす事に全く関係が無い
何より私には実体がないのだ
食べ物を持ってきてやることも、雨風を遮ってやることもできない
仔犬が眠りに落ちた後、身体を借りて食べ物を確保してやるのが精一杯だ
だが、身体の方はまだ幼く力も弱い
何より、衰弱しているので駆けられる距離にも限りがある
この身体で狩ることができる獲物もまた、そう多くはないのだ
私が身体を使う時間、つまり仔犬が寝ている時間が次第に長くなっていく
今思えばそれは必然だった
本来休息となる時間に私が身体を酷使していたのだ
浅はかだった
母になったことも無い私にはそもそも無茶な試みなのだ
本能というものも、とうの昔に忘れてしまっている
私はこの小さな命と同化し
自身の力を身体の維持に使う事にした
――――――――――
男「……で、さまよい歩いて、犬と関わり深い人間を見つけた。と?」
娘「そうだ。感謝の臭いを纏うお前なら、安心して身を寄せられるというもの。」
男「感謝の臭いとか言われても自分じゃわからんし、俺にも都合があるわけで。」
娘「私の言う事が信じられないと言うのか?」
男「信じろって言う方に無理があるとは思わないか?」
娘「犬は嫌いか?」
男「大好きだよ。」
娘「お、おお……そうか。」
男「なんで目を逸らすかな?」
娘「視線を合わせるのは威嚇行為なんだぞ。き、気分を害する。」
男「見てたのは鼻先だぞ。視線は合ってなかったはずだ。」
娘「それにしても、肝が据わっておるな。」
男「今、取り乱して大騒ぎしてないのは最初の仔犬の印象のおかげだろう。」
男「とりあえずさ、会話ができるんなら最初に言う事あるんじゃない?」
娘「おお! そうだな! 今後ともよろしく頼むぞ!」
男「いや、そうじゃないから。それに、犬じゃないんなら置いてやる理由ないし。」
娘「何が違うというのだ?」
男「俺は指にガーゼ巻いて固定してます。なぜだかわかる?」
娘「私がガブリとやったからだな。」
男「そのことについて、何かしなきゃいけないことがあると思うけど?」
娘「無いぞ。もう済んでいるからな。」
男「会話できてるようでできてないな。」
娘「さっきはあまり余裕がなくてな。だが、お前の血肉を取り込んだ時点で完了している。」
男「叱らないとわからんのか?」
娘「なんだ、謝罪が欲しかったのか?」
男「当たり前だ。他人に危害を加えておいて謝れない奴なんぞロクなモンにならんぞ。」
娘「よくわからんが、すまなかった。この通りだ。」
男「んで? 余裕がないってどういうことだ?」
娘「体が衰弱しきっていてな。私の力でどうにか維持しているが、それも心もとない。」
男「それを補うために手近なものを食ったということか?」
娘「食べたのではなく、魂をほんのひとかけら分けてもらったのだ。」
男「俺はどうなる?」
娘「髪を1本が抜かれたようなものだと思えば良い。すぐに元通りだ。」
娘「多少の余裕ができたと言っても私はまだ子供だ、力も弱い。」
男「だから養ってくれって言いたいわけだな?」
娘「話が早いな。」
男「さっきも言ったけど、置いてやる理由は無い。気が済んだら出ていってくれ。」
娘「それは困る。施しで食い繋ぎながらようやく見つけたマトモな人間なのだ。」
男「俺だってまともかどうかは怪しいと思うけどな。」
娘「自立できてない幼子や、いたわりの心を欠いた者にこの身を預ける事は出来ん。」
男「とにかく俺はごめんこうむる。」
娘「では取り引きだ。お前が他者に抱いている恨み、私が幾らか晴らしてやろう。」
男「どうやって?」
娘「私は犬神だぞ。呪いの一つや二つ朝飯前だ。」
男「お断りします。」
娘「あれ?」
娘「自らの手を汚すことなく復讐ができるのだぞ?」
男「人を呪わば穴二つって言ってな。自身にも相応の裁きが下るもんだ。」
娘「それは復讐を呪いに例えたもので、実際に呪うこととは違うだろう。」
男「大して変わらねえよ。」
娘「私が呪えば証拠は無いし、業を背負うのは私だ。」
男「そんな得体の知れないものは余計にそばに置きたくねえよ。」
娘「お前と話している私は、この仔犬に付いている犬神だ。本体はただの仔犬なんだ。」
男「私達って、そういうことか……」
娘「ちょっと混じって境界が曖昧になっているが、根っこは完全に別だ。」
娘「そんないたいけな仔犬を、無慈悲にも放り出すというのか?」
男「俺と会う前でも、なんとか生き抜いてきたんだろ? 大丈夫だ。」
娘「無期限とは言わない。いや、言いません! しばらくの間でもいいですから。」
男「そんな事言われてもなぁ……」
娘「贅沢は申しません! 置いてくれたら何でもします!」
男「なら、少しだけ様子を見てみるか。」
娘「千里の道も一歩からですね。」
男「扱いは犬ってことで良いんだよな?」
娘「あい! むしろ愛犬として愛でてやってくれ。」
――――――――――
私があの壷の中に封じられていた年月はあまりに長過ぎた
どうやら、風景と同じように人々の考え方も変わってしまっていたようだ
今生きている人間には信心というものがまるで無い
死者や亡者を恐れる心はあっても
神や仏を崇め奉る心が無くなってしまっているのだ
だから私を認識できないのだろう
身体を借り、私が表に出ている時でなければ話もできない
そうでないときは私の声など、きっと虫の羽音ほどにも気にかけてもらえないだろう
あくまで自分が接した範囲でのことなので、思い違いなのかもしれないが
信心とはまた別に、今の人間から無くなっているものがある
闘争だ
たまに見かける子供同士の喧嘩を除けば
争いも諍いもまったくと言っていいほどに起こらない
起こらないと言うよりは、起こさないと言った方が正しいのかもしれない
他者を恨む気持ちも憎む気持ちも幾度となく感じたが
彼らはそれを形にしないのだ
自らの内へ隠すように仕舞い込んでいる
表に出したとしても口論程度で済ませてしまう
常に何かを胸に溜めおり、それに耐えながら暮らしているのだ
私なら気が狂ってしまうだろう
衣食足りて礼節を知るということだろうか
私が知っている人間は、生き抜くために手段を選んでいられなかった
今の人間達には食うに困ったが末の殺し合いなど起きないのだ
解き放たれてから会った人々は皆そのような者達だった
自らの食糧を分け与える者さえいたのだから
中にはこの犬を虐げる者も居たが
それは自身の食料の確保や心配をしていたわけではないだろう
そうでなければとっくの昔に鍋の具にでもされていよう
礼節を知る事で、自分たちの牙が抜け落ちてしまっている事
どれだけの人間が自覚しているのだろう
――――――――――
男「一緒に生活するにあたって、まずは色々と確認をしておこう。」
娘「うむ。相互理解は大切な事だな。」
男「本体っていうの? 身体の持ち主の意見も聞きたいんだが。」
娘「今は深い眠りについている。起きたら代わるが今は無理だ。」
男「本人の同意も無しに飼われに押しかけて来たってワケ?」
娘「違うぞ、お前の後ろについてここまで来た時は意識があった。あのときは私ではなかった。」
男「俺の事は、お前じゃなくてご主人様って言おうか?」
男「とりあえず、その姿で素っ裸なのはいろいろとマズいから、なんとかしたいな。」
娘「では、服をよこせ。」
男「犬は服なぞ着ない。」
娘「でも、この住居で四本足は不都合が多いのではないかと……」
男「双方の中間の姿で居る事はできるか? 犬50%・人50%な感じで。」
娘「むむむ、かなり難しいな……こんな感じか?」
男「ふざけんな。犬耳と尻尾を生やしただけじゃないか。」
娘「ふざけてるわけではないのだが。」
男「せめて素肌が見えないくらいの毛は必須だろ。」
半「これでいいか?」
男「よし、じゃあ、家の中はそれでいい。出かけるときは犬100%な。」
半「む?」
男「なんだ? 」
半「意識が戻るようだ。交代する。」
男「交代って……いきなりだな。」
半「ふあっ?」
男「通訳なしで入れ替わられても困るんだが。」
半「えへへ……」
男「いやいや、笑ってごまかすなよ。」
半「あう?」
男「もしかして、もう代わってんの?」
半「?」
男「こんにちは?」
半「こんにちわ?」
男「入れ替わっても犬に戻るわけじゃないのか。」
半「ここはおねーさんいますか?」
男「喋れるのかよ。」
半「おねーさんに習いました。いませんか?」
男「お姉さんって誰? どんな人?」
半「会った事はないのでわかりません。」
男「なんで会ったことないのに居ると思うの?」
半「臭いがします。」
男「お姉さんの?」
半「おねーさんじゃないかもしれません。」
男「いまいち言ってる事が分からないな。」
半「でも、私が寝ている間に、食べ物や寝床を用意してくれるんです。」
男「犬神のことか?」
半「危ない所で寝ていると、安全な場所に運んだりもしてくれます。」
男「習ったっていうのは?」
半「たぶん、寝ている間におねーさんが教えてくれたと思うので。」
男「実はお姉さんに頼まれてね。君をしばらく預かることになった。」
半「おねーさんが頼んでくれたんですか? どこに行きましたか?」
男「どこに行ったのかは俺にも分からないんだ。」
半「預かるってどういう事ですか?」
男「ここで暮らしてもらうって事。その間は俺が世話をする。」
半「ここに居てもいいんですか?」
男「むしろ、ここに居なきゃいけない。他の場所へは行かせられない。」
半「おねーさんは来ますか?」
男「来るんじゃないかな?」
半「じゃあここに居ます。」
男「それでね、ここに居る間は、決まりを守らないといけないんだ。」
半「どんな決まりですか?」
男「一度に言っても覚えきれないと思うから、少しずつ教えていくよ。」
半「あい!」
男「俺の事は、ご主人様って呼ぶこと。できる?」
半「ゴシュジンサマ? ご主人……ご主人様。覚えました。」
男「それから、今日から君の名前は小梅。そう呼ぶから。」
半「小梅ですね。私は小梅ですね。小梅、私が小梅……」
男「小梅。」
半「はい?」
男「……小梅。」
半「はいっ!」
男「ヨシヨシ。」
男「小梅、お腹空いてない?」
半「小梅はお腹が空いてます。」
男「普段は一日何食なの?」
半「決まってないっ! 食べられるときに食い溜めなのです。」
男「そりゃそうか。」
半「でも、好き嫌いはしませんよ!?」
男「むしろ好き嫌いは許さないけどな。」
半「じゃあ、何をくれますか?」
男「いや、まだ食べさせるとは言ってないよ?」
半「ぷー……」
男「働かざる者食うべからずという言葉があってな。」
半「働く? お仕事ですか?」
男「まあ、労働には期待してないから、別のことで貢献ってトコだな。」
半「あい! ご飯のためなら何だってしますよ!」
男「ほう……」
半「でも、貢献というのが良くわかりません。」
男「ほんの少しだけ、ご奉仕をしてもらいます。」
半「わかりました。何をすればいいですか?」
男「もう少しこっちへ来なさい。」
半「何か、さっきから息が荒くないですか?」
男「それは否定しない。久々にスイッチ入っちまってるからな。」
半「なんか怖いんですけど……」
男「何でもするって言っただろ?」
半「やっぱりちょっとタンマで!」
男「だめだ! 今さら後には引けない。」
半「ひっ!」
男「スンスン……スハースハー……クンカクンカ……フンスコ!フンスコ!」
半「何ですか!? 一体何をしてるんですか!?」
男「あぁぁ! これは効く! 獣臭が! 皮脂が! 乾いたヨダレがぁぁ!!」
半「いやぁああぁぁ!!」
男「犬特有の臭いだ! ああ、鼻がもげ落ちそうだ! 犬臭えぇぇぇ! たまらん!」
半「やめてください! もうやめて!」
男「フスー!フスー!……疥癬気味の耳の臭いも素晴らしい!」
半「おかしいです! よくわからないけどこんなのおかしいです!」
男「内臓が弱ってそうな口臭も……フォォォー!!」
男「……ふぅ。」
半「も、もういいですか……?」
男「ああ、存分に堪能させてもらった。」
半「何か……ものすごく酷い事をされたような気がします。」
男「そう思うなら、どうして抵抗しなかったんだ?」
半「してもよかったのか!?」
男「当たり前だ。お前にはちょっと失望したぞ。」
半「…………」
男「抵抗する四肢をかいくぐっての悪臭吸引、これ以上のスキンシップはない。」
半「小梅はそんなに臭いですか……」
男「ああ、バッチリだ! 誇っていいぞ!」
半「喜んでいい事なのでしょうか?」
男「良い事でもあるし、良くないことでもあるな。」
半「あ、でも臭いも個性ですよね。」
男「その通り、お前の臭いはお前の特徴とも言える。」
半「小梅の臭いを気に入ってくれたと言う事ですね?」
男「そうだ。」
半「小梅は良くできました?」
男「うん。良くできました!」
半「じゃあ、嬉しいです。喜びます。」
男「とはいえ、不潔なまま放置は十分虐待だから後で洗ってやるよ。」
男「それじゃ、ご飯だ。今日のところは水かけシリアルで我慢してくれ。」
半「おー! 待ちかねたのだ。お待ちかねなのだ。」
男「おっと、忘れるところだった。」
半「早く、早く! よーこーせー!」
男「お手!」
半「オテ?」
男「こう言われたら、俺の手の上に自分の手を乗せるの。お手!」
半「こうですか?」
男「ものわかりがいいな。」
半「食べづらいです。下に置いてください。」
男「あんまり急いで食べるんじゃないぞ。あと、不味くても文句いうなよ。」
半「ほれはアレれす。食へらえるほほにほは――ゴブホッ!」
男「うわっ汚ねえ! 飲み込んでから喋れよ!」
半「ああもったいないもったいない……あむあむ……」
男「待て、床に落ちたのは食うな。舐め取るんじゃない。」
半「うがぁ!!」
男「……ッ!?」
半「これはもう私のご飯だ、私のものを横取りするのなら容赦はしない!」
男「別に取ったりしねーよ。」
半「分かればいいのです。」
男「眼の色変わってるし、食い終わってからだな。」
半「ご主人様……無くなってしまいました。」
男「無くなったんじゃなくて、食べ終わった。な?」
半「でもあの箱にはまだ残っていますよ? 出してくれたらまた食べれます。」
男「今回はそれでおしまい。残りはまた今度だ。」
半「そんな! どうしてまだあるのに食べないんですか!」
男「今食べる必要が無いからだ。」
半「次はいつ食べられるか分からないというのに!」
男「明日も明後日も必要な分は食べさせてやる。」
半「そんなこと言って、本当に食べ――」
男「置いてやると言った以上、お前を飢えさせることは無い。俺を見くびるな。」
半「……あい。」
男「それから、さっき床にこぼれた分まで食ったよな?」
半「それはアレです、もったいないじゃないですか。」
男「床にはワックスが塗ってある。毒じゃないが、身体に良いものでもない。」
半「でも、今のところなんともないですし。」
男「今は平気でも、後々悪くなったらどうする?」
半「それは自分のせいなので、別に文句言ったりしないです。」
男「馬鹿タレ。俺の庇護下に居る間、病むことは絶対に許さん。」
半「はう……」
男「次からはシートを敷いてやる。シートからはみ出たのは絶対に食うな。」
半「シートの上にこぼれたのはセーフですか? 食べてもいいですか?」
男「セーフだ。でも、こぼさずに食えばそんな心配はいらんぞ?」
半「なるほど!」
男「健康管理の観点からして、不衛生過ぎるのはまずいからな。」
半「そんなに汚いとは思わないですけど?」
男「まあ、そんだけ獣臭まきちらして平気なんだから、意識した事はないだろうな。」
半「きゅむう……やっぱり臭いのはダメですか。」
男「個人的には好きだが、飼い主としては沽券に関わる。」
半「今までもそうやって生きてきたので、どうしようもないです。」
男「だったら今日から変えろ。」
半「むちゃくちゃです。」
男「じゃあ、俺が変えさせてやる。まずは風呂だ。」
半「フロ?」
男「身体を洗うんだ。洗って身体についた汚れを落とす。」
半「それをしたら臭くなくなるんですか?」
男「そうだな。人間は毎日入るぞ。」
半「毎日ですか?」
男「お前らは皮脂を落としすぎると皮膚が痛んだりするから、毎日はしないけどな。」
半「今からするですか?」
男「どうした? 今からだと都合が悪いのか?」
半「ご飯食べたら眠くなってきました。」
男「じゃあ仕方ないな。」
半「はふぅ……むにゃ……」
――――――――――
男「くそっ……破壊力高ぇな。」
半「どうだ? ふむ……ほころんだ顔を見るに、何かしら琴線に触れたようだな。」
男「おわっ! 元に戻ったのか!?」
半「いや、本体はあちらだ。私は身体を借りているにすぎん。」
男「汚ねえぞ。あんなの冷たくあしらえるわけがない。」
半「ククク、まさに魔性の女だな。末恐ろしい事だ。」
男「いや、今だけだろ。成長すれば凛々しくはなるだろうが、魅惑の瞳は失うね。」
半「それは自分に言い聞かせているのか?」
男「なあ、姉さんってお前の事だよな?」
半「どうもそう思われているようだな。」
男「姿を見せてやることってできないのか?」
半「同化している間は無理だ。」
男「分離はできないのか?」
半「簡単には、な。」
男「難しいけど無理ではないってことか?」
半「魂の一部が混じってしまっているからな。」
男「小梅の時でもその外見を保ってたり、話せたりするのは混じっているから?」
半「そういう事だ。」
男「風呂入るか?」
半「裸の付き合いがしたいと言う事かな?」
男「お前はもともと裸じゃねえか。」
半「やましい考えが無いのなら構わんが……」
男「それは無理な相談だな。」
半「自分より弱い者に劣情を催すか……救い難いな。」
男「人聞きの悪い事を言うんじゃないよ。」
半「まあ、世話になるからには多少の妥協は仕方ないか……」
男「うんうん、聞きわけの良い子は大好きだぞ。」
半「っ……ば、バカもの!」
半「この中に入ればいいのか?」
男「まずは身体を洗ってからだ。紅梅号の遺品だけどな。」
半「おお! アワアワだ! これを全身に馴染ませればいいのだな?」
男「そういうこと。背中は俺がやってやる。」
半「事故を装って色々なところをまさぐるつもりか?」
男「調子に乗るな。」
半「きゃん。」
男「泡が耳に入らないよう気をつけろよ。」
半「もわもわでモコモコでわしゃわしゃだな。」
男「そろそろ流すぞ。」
半「好きにしろ……」
半「どうした? 不満があるのか? 物足りぬという顔だな。」
男「そうだな。」
半「泡を洗い流したから、次は浴槽に浸かればいいのだな?」
男「おい待てよ。」
半「なぜ止める? 温水とはいえ、濡れたままでは冷えてしまうではないか。」
男「それが理解できているのになぜ気付かない?」
半「何に気付けと言うのだ?」
男「犬なら脱水機のごとく全身を震わせて水を飛ばすだろ?」
半「はぁ?」
男「身体や顔に飛沫を受けて、ぷわっ! こいつぅ~ってのは飼い主の本懐だろ!?」
男「じゃ、湯船に浸かるぞ。いいか?」
半「大げさな……足が付かぬほど深いわけでもあるまいに。」
男「一応、頭までは浸からないように支えといてやる。」
半「ふむ。湯に浸かるのは初めてだが、なかなかに心地良いものだな。」
男「……ダメだ。お前はまるでわかってない。」
半「勝手に期待して、勝手に失望されてもな。」
男「湯船に入ったらパニック起こして脱兎の勢いで逃げようとするだろ、普通!」
半「なぜそれが普通のことなんだ!?」
男「そんで、まだ上がるなって掴まれて、俺に掻き傷、生傷、ミミズ腫れを刻み込むだろ!?」
半「知らぬわ!」
――――――――――
今日はご主人様に会いました
ご主人様と言うのはご主人様です
小梅という名前をつけてもらいました
ヨシヨシしてくれます
小梅を家に住まわせてくれます
ご飯をくれます
小梅が寝てる間に、おねーさんが頼んでくれたようです
いっぱい臭いを嗅がれました
すこし恐ろしかったです
小梅の臭いが好きだって言ってくれました
ご主人様は蹴りません
棒で叩いたりもしません
石を投げたりもしません
お手を教えてもらいました
――――――――――
半「わふっ……」
男「ん、起きたか。」
半「なんだか身体が自分の身体じゃないみたいです。」
男「どういうこと?」
半「体中から知らない臭いがします。」
男「あ、それは犬用シャンプーの臭いだな。」
半「シャンプー?」
男「寝ている間にお風呂で身体を洗ったからね。その時の洗剤の臭いだ。」
半「なんだか変な気分です。」
男「じきに慣れるよ。そのうち元の臭いが戻ってくるし。」
男「小梅。」
半「はい!」
男「こっちへおいで。」
半「あい!」
男「ここに手をついて。じっとして動いちゃだめだぞ。」
半「分かりました。小梅はじっとしてます。」
男「暴れたりするなよ?」
半「暴れるような事するですか?」
男「しないしない。最初は痛いかもしれないけど、すぐ気持ち良くなるよ。」
半「ふぐっ……何か……入って、くる……」
男「大丈夫、心配いらないから。ゆっくりやるからね。」
半「ひぎっ! だめです、これはいけない事な気がします。」
男「こら、逃げるな。手はここ!」
半「あうあう……んひぃっ!」
男「ほら、目を開けて。よく見てごらん。」
半「な、なんですかこれは!? 真っ黒です!」
男「耳疥癬と言ってね、お前の耳には小さいダニがいーっぱい住んでるんだ。」
半「ダニ?」
男「そう、そのせいで痒くなるし、黒い耳垢が溜まるんだ。」
男「よし、終わりだ。もういいよ。」
半「ダニは取れましたか? もう居ないですか?」
男「まだまだ沢山いるよ。」
半「だめです! 全部取って下さい!」
男「綿棒じゃ取り切れないし、あんまりすると耳の中が傷付いちゃう。」
半「でも、ダニは嫌です。」
男「今度お医者さんに行こう。ダニをやっつける薬をもらおうね。」
半「今度っていつですか? お医者さんて何ですか?」
男「いつだろうね? 元気に走り回れるようになったらかな。」
男「お医者さんは、怪我や病気を治してくれる人のことだよ。」
半「わふ……」
――――――――――
「シルビアちゃん、中へどうぞ。」
仔「ご主人様、いろんな犬が居ますね。」
男「こら、外で喋っちゃダメって言っただろ。」
仔「あ、ごめんなさい。」
男「じゃなくて?」
仔「わん!」
「タロウちゃん、中へどうぞ。」
男「返事はしなくていいから、そのまま聞くんだ。」
仔「わふ。」
男「お医者さんに耳の中を見てもらう。」
男「嫌かもしれないけど、我慢してじっとしてろよ。」
仔「ぁおん。」
「コウメゴウちゃん、中へどうぞ。」
男「俺も一緒に居てやるから、そしたら怖くないだろ?」
仔「わん!」
男「あの、号っていうのは敬称なので、ちゃん付けの時は言わなくていいです。」
「す、すみません。失礼いたしました。」
医「耳の診断と、6種混合(:予防接種)ですか。」
男「ええ、黒い耳垢と臭いがあって……耳疥癬だと思うんですが。」
医「良く知ってますね。ひょっとして前にも?」
男「いえ、この子は最近拾ったんです。前にも犬を飼ってて……」
医「じゃあ診てみましょう……ん、おとなしくて良い子ですね。」
――――――――――
仔「ご主人……痛かった。」
男「そうだな。ごめんよ。」
仔「痛かったぁぁぁ……」
男「でもな、あの注射をしないと怖い病気になるかもしれないんだ。」
仔「あんなに痛いなら病気のほうがいいです。」
男「馬鹿な事言うな。ジステンパーなんかだと死んじまうぞ。」
仔「じす? 小梅にはわからないですが、死ぬのは嫌ですね。」
男「お前が死んだら俺はとても悲しむ。」
仔「じゃあ、注射のほうがいいです。」
男「ヨシヨシ。」
仔「ねえ、ご主人……」
男「ん、まだ痛いって言い足りないのか?」
仔「おねーさんは注射してもらいましたか?」
男「へ?」
仔「おねーさんが病気で死んだら小梅は悲しいです。」
男「そうだな。」
仔「だから、おねーさんも注射して病気にならないようにして欲しいです。」
男「じゃあ、今度お姉さんが来たら連れて行こう。」
仔「小梅もおねーさんが怖くないように付き添いますよ!」
男「ああ……そうしような。」
――――――――――
男「今日は買い物に行くぞ。」
仔「お買い物ですか!」
男「買い物は好きか?」
仔「あい! お買いものに行くとおやつを買ってもらえます!」
男「ちゃんと待てができたらな。」
仔「できますよ! 騒がないで待ちます。無駄吠えしません。」
男「他には?」
仔「えーと……知らない人から貰った餌は食べません!」
男「よし。じゃあ、一緒に行こうな。」
仔「わふっ!」
男「それじゃ、ここで待てだ。いいね?」
仔「あい!」
男「何か欲しいものある?」
仔「ガジガジするやつが欲しいです。」
男「ガムか? そう言えば前のは噛み千切ってしまったな。」
仔「次はもっと硬いのがいいです。」
男「それは歯が生え換わってからな。」
仔「くぅ。」
男「すぐ戻るからな。」
男「おとなしくしてた……ぬ?」
仔「ご主人……」
男「やられたな。随分と凛々しい眉毛だ。」
仔「小梅は我慢しました。偉いですか?」
男「偉いぞ。こんなことする奴、抵抗したら何してくるかわからんからな。」
仔「あ、あの人達です。あそこに居る人が小梅の顔を……」
男「いいから、知らん顔してろ。」
「……フン、骨折くらいが妥当か……思い知れ。」
男「何だって?」
仔「あれ? 今、おねーさんの臭いがしませんでしたか?」
男「え? いいや?」
――――――――――
今日はお買い物に行きました
待っている間に知らない人に眉毛を描かれてしまいました
その人たちはなぜか大声で叫びながら透明なドアに体当たりして
ピーポーで運ばれていきました
良い子にしてたのでおやつを2こ貰いました
またおねーさんの臭いがしました
どうして姿が見えないのでしょう?
恥ずかしがり屋ですか? 小梅に会いたくないですか?
小梅はおねーさんに会いたいです
――――――――――
半「ふむ、もうしっかりと主従関係が結ばれているようだな。」
男「なんだお前か。久しぶりだな。」
半「里親探しは捗っているのか?」
男「分かってて聞いてるんだろ?」
半「まあ無理だろうな。今さら手放す事などできはしまい。」
男「お前の目論見通りになったってワケだ。」
半「そうでもないぞ。実を言うと、ここまで望んではいなかった。」
男「飼うのは俺じゃなくてもよかったって?」
半「お前が選ぶ里親なら、心配はいらないだろうと思ったからな。」
男「コラ。」
半「ん……お前ではなく、ご主人様だったな。」
男「お前はどうするつもりなんだ?」
半「どうしたものかな……」
男「やっぱり、混じってるのが問題か?」
半「いや、ここ最近こ奴の自我がしっかりと固まって来ている。容易に抜けられよう。」
男「なら何を迷う事がある?」
半「私には実体が無い。抜け出たところで顔を合わす事は出来ん。」
男「そうか、どっちにしろ小梅に会う事にはならないか。」
半「それにな……いや、止しておくか。」
男「何だよ? 気になるじゃねえか。」
半「言いたくない。それに、言ったところでどうにもならん。」
男「お前はどう思ってる?」
半「何に対してだ?」
男「小梅の事だよ。お姉さんって慕われてるけど、迷惑か?」
半「悪い気分ではないな。だが、妬ましくもある。」
男「穏やかじゃないな。」
半「私は人に飼われるという事が無かったからな。」
男「自分も可愛がって欲しいってことだな?」
半「そ、そんなことない!」
男「ヨーシヨシヨシ!ヨーシヨシヨシヨシヨシ!んっばばばばあ!」
半「ひゃめるりらば、しょんられ!おぶぶっぷぁ……」
男「喋るな、舌噛んじまうぞ。ヨーシヨシヨシ……」
――――――――――
犬「ご主人様! 散歩の時間です。散歩! 散歩!」
男「じゃあ行くか。」
犬「また紐つけるですか? 小梅は勝手に逃げたりしませんよ?」
男「世の中には犬を見て怖がる人もいるからね。」
犬「小梅はそういう人を見分けられるので、近付いたりしません。」
男「でも、その人達は繋がれてない犬を見るのが凄く恐ろしいんだ。」
犬「困った人たちですね。」
男「そういう人みんなに怖いのを我慢しろって頼むより、小梅が我慢した方が簡単だろ?」
犬「そうですね。」
男「んー、そろそろ首輪を新しくするか?」
犬「大丈夫です。まだ苦しくなってません。」
男「でももう最後の穴だしな。うん、今度買いに行こう。」
犬「あい。」
男「今日はフリスビーにする?」
犬「びゅいーんしてパックンですか?」
男「そう。」
犬「ボールがいいです。」
男「この前、興奮しすぎた誰かさんがパンクさせたから無理。」
犬「はう……」
――――――――――
面白くない
まったくもって面白くない
妬ましい、羨ましい、忌々しい
私とて優しい人間に出会いさえすれば
こんな薄汚れた存在に身を窶す事は無かったのだろうか
この身体の主を恨むわけではない
恨むべきは実体を持たぬ自分自身だ
それはわかっているつもりだが
連れ添って歩くのも
指示に従って褒美を授かるのも
それらはすべてが魅力的で、私はそれを嫉むのみだ
恩に報いるということ
それはいつまで続ければ報いたことになるのだろう
礼を言われるまでか? 自分の気が済むまでか?
相手が恩を着せた事を自覚していなければ
それはどれだけ続けても報いたことにならないのではないか
勘定できるものではないが、もう十分ではないのか
いや、むしろ返しすぎてはいないか
次は私が返される側に違いない
欲しければ奪えば良いではないか
私は常にそうしてきたではないか……
――――――――――
犬「ご主人様、お腹が空きました。」
男「まだご飯の時間じゃない。それに、運動してすぐ食べると危ない。」
犬「む、そうでした。」
男「自分から飯をねだるなんて珍しいな。」
犬「今日はたまたまそういう気分だったんです。」
男「ふーん……気分、ね。」
犬「明日も散歩に行きましょうね。」
男「今まで欠かしたことがあるか? 俺が病気の時以外で。」
犬「いえ、ないですね。」
男「ほれ、ガムでも噛んでろ。」
犬「ガム?」
男「……これでもガジガジしてなさい。」
犬「本能が呼び覚まされますね。」
男「あのさ、お前……まあいいや。」
犬「私がどうかしましたか?」
男「何でもないよ。もう少ししたらご飯にするからな。」
犬「はい!」
――――――――――
犬「ご主人様! 見てください!」
男「なんだいきなり? 腹なんか見せて。」
犬「私の気持ちです!」
男「わかってるよ。別に今さら確認する事でもないだろ。」
犬「もっとです、もっともっと尽くしたいんです。」
男「俺はそんな事望んじゃいないよ。」
犬「しませんか? いえ、しましょう。」
男「何をだ?」
犬「信じて曝け出した服従ぽんぽんが飼い主の兄さんの嗜虐願望にジャストミートしてドヤ顔キープのリバーブローを見舞ってくるなんてごっこです。」
男「何だそれは?」
犬「豚の様な悲鳴を上げます。」
男「……焦ってるのか?」
犬「さあ、思いっきりどうぞ。」
男「そんなことする必要はないよ。」
犬「悲鳴を上げます。豚の様な。」
男「俺はそんな事したくないの。」
犬「ご主人様のためなら、自分の身をも厭わないことを知って欲しいんです。」
男「今さら確認する必要もない。そこまでしないと不安なのか?」
男「要するに、信頼の証明が欲しいんだな。」
犬「はい! ご主人様の為なら何だって耐えてみせますよ。」
男「その代わり、自分だけを見て欲しい。と?」
犬「高望みですか?」
男「こっちへ来て横になりなさい。」
犬「はい! 頑張ります!」
男「その、ぽんぽんがナントカごっこはしねーよ。」
犬「?」
男「俺が良しって言うまで動くなよ。」
犬「あの……これは?」
男「犬枕。」
犬「いぬまくら?」
男「信頼し合った犬と飼い主だけが成し得る究極の芸だ。」
犬「これが究極なのですか?」
男「お前は急所である腹を俺に預ける。」
男「俺はお前が逃げたら床で頭を打つ。」
犬「あ……」
男「なあ、小梅はどうしたんだ?」
犬「え? いえ、私はここに……」
男「お前は小梅じゃない。俺を見くびるな。」
犬「なっ? 一体いつから気付いていた?」
男「おっと、動くなよ。俺が頭を打ってもいいのか?」
犬「あう、それは……」
男「小梅のフリして、小梅に取って代わろうって思ったんだな?」
犬「お見通しか。」
男「お前は私達を飼えって言ったよな? 俺は小梅だけを飼ってるつもりは無いぞ。」
犬「だが、私は……」
男「お前はもう少し甘え方をおぼえた方がよさそうだな。」
犬「くっ……」
――――――――――
私は犬神だ
犬の神と書けば字面はいいが実際は蠱物(まじもの)に過ぎぬ
むしろ神仏とは正反対の汚れた卑しい存在だ
それは我欲の象徴であり、飢えと恨みの権化なのだ
自然の摂理に背き、身体を棄てて
祭祀者の欲を満たすためのみに疾駆するあやかしだ
この男はそれを知っているのだろうか
知っていてなお私の拠り所になろうとしているのだろうか
ああ、そうか
この男ならきっとこう言うのだろう
知っていようが無かろうがそんな事は関係ないと
簡単な事だった
単純な事だった
私は求めてもよかった
ただそれだけの事だったのだ
――――――――――
犬「ご主人様、これは何ですか? 変な臭いがします。」
男「それは蚊取り線香。熱いから触るなよ。」
犬「熱い? ああ、中にあるグルグルが燃えてるんですね。」
男「これが燃えると蚊をやっつける成分が周りに広がる。」
犬「蚊は嫌ですね。」
男「次はお薬だ。これを飲め。」
犬「まずそうな臭いがしますよ?」
男「そりゃまあ、薬だからな。」
犬「小梅はなにか病気なのですか?」
男「病気じゃないな。これは予防のために飲むお薬だ。」
犬「予防ですか。」
男「蚊に刺されると、フィラリアっていう怖い病気になる事があるんだ。」
男「この病気にかかった犬を蚊が刺すとするだろ?」
男「その蚊が小梅を刺したら、今度は小梅が病気になるんだ。」
犬「じゃあ、ご近所に病気の犬が居るのですか?」
男「それはわからない。」
男「でも、小梅がフィラリアになったら近所の犬にも病気を広げてしまうかもしれない。」
犬「おねーさんもこの薬を飲みますか?」
男「飲んでるはずだよ。」
犬「じゃあ小梅も飲みます。」
犬「そういえば、おねーさんは最近来ていますか?」
男「うん? いやー近頃はあんまり来てない……かな?」
犬「そうですか……」
男「さ、早く薬を飲みな。ちゃんと飲めたらおやつをあげるよ。」
犬「なでなではしてくれないですか?」
男「そっちの方がいいの?」
犬「うにぃ、おやつも欲しいです。」
男「小梅は欲張りだな。」
犬「じゃあ、おやつを食べる前にお手をするので、なでなでしてください。」
男「薬飲んだら。だぞ?」
――――――――――
ご主人様がうそをつきました
おねーさんは最近は前よりたくさん来ているはずです
前よりもおねーさんの臭いがすることが多くなっています
それに、前とはちがうことがあります
おねーさんの臭いはご主人からするのです
どうしてご主人様はうそをついたのでしょう
ご主人はもうずっとおねーさんが来ても小梅を起こしてくれません
小梅に内緒の事があるのですか?
おねーさんはきっと良い人です
ご主人様に小梅のことをお願いしてくれました
小梅よりも賢くて立派なんだと思います
おねーさんに会ったらお礼を言ってぺろぺろしたいです
でも、ご主人様は譲ってあげません
ご主人様は小梅のご主人様です
だから小梅のことをのけ者にしてご主人と遊ぶのはだめです
ご主人様もそうしないといけないんだと思います
もしかして
おねーさんが居れば小梅はいらない子なのですか?
小梅はおねーさんほど賢くないかもしれません
でも、ご主人様のことは小梅が一番知ってます
ご主人様の一番はおねーさんなのですか?
小梅はどうやったら一番になれますか?
もっとご主人様の為にできることはないのでしょうか
小梅にしかできないことをすれば
もっともっと小梅のことを見てくれますかね
――――――――――
半「今日は私と散歩に行ってくれないか?」
男「それは構わんが、小梅はどうしたんだ?」
半「体調がすぐれないようだ。差し出がましいとは思うが休ませている。」
男「無理矢理入れ替わったんじゃないだろうな?」
半「そんな事はしない。誓ってもいい。」
男「まあ、最近元気が無かったのは確かだからな。」
半「うむ……病むような事はしていないはずだが……」
男「季節の変わり目にあてられたのかもな。」
半「やはり綱は付けなければならんか?」
男「リード嫌なのか?」
半「嫌な思い出しかなくてな……」
男「じゃあ散歩には連れていけないな。」
半「うぐぐ……」
男「残念だなーこれから良い思い出ができるかもしれないのになー」
半「わかった。騙されてやる。だから早く付けろ。」
男「それから、その格好じゃ、外に出してやれないぞ。」
犬「わかっている。これでいいのだろう?」
――――――――――
犬「ご主人、ご飯もういらないです。」
男「どうした? 腹減ってないのか?」
犬「なんだかだるいのです。食欲もありません。」
男「無理に食えとは言わんが……食べないと元気も出ないぞ?」
犬「半分くらいは食べました。」
男「じゃあ、皿はそのままにしとけ。残りは食う気になったときに食え、な?」
犬「あい……」
犬「カッ……コハァ! おぷ、おろろろ――」
男「おい!? 大丈夫か?」
犬「ごめんなさい……床を汚してしまいました。」
男「そんな事はいい。どこか痛いとか、苦しいとかないか?」
犬「大丈夫です、もう一回食べます。すぐに綺麗にします。」
男「お前はもう休め。片付けは俺がやるから。」
犬「でも……」
男「ご主人様の言う事を聞きなさい。」
犬「あい。」
――――――――――
男「小梅? 調子はどうだ? 辛いならお医者さん連れてくぞ?」
犬「もう大丈夫です。なんともないです。」
男「ホントに大丈夫か? 我慢なんかするなよ?」
犬「お腹が空きました。昨日の残りを食べてもいいですか?」
男「ん、ああ。足りなかったら言えよ。」
犬「今日のご飯は今日のご飯でまた食べるのでいいです。」
男「そうか。小梅は偉いな。」
犬「小梅は偉い子です。だから、なでなでしてもらえるのです。」
男「ちゃっかりしてんな。」
――――――――――
そうです小梅は偉い子です
そんなに賢くないけど偉い子なんです
だからきっと神様がごほうびをくれたのですね
ご主人様はびっくりするでしょうか?
でも、ご主人はきっとその後に小梅を褒めてくれます
もうおねーさんにご主人様をとられる心配もないのです
内緒にしていた方がいいのでしょうか
やっぱり言いましょう
ご主人様に早く喜んでもらいたいですから
――――――――――
犬「ご主人様、小梅のお腹を見てください。」
男「どうしたんだ急に?」
犬「小梅のお腹はぽっかぽかですよ。」
男「そうだな……ん? お前、少し太ったか?」
犬「えへへ……ご主人様は男の子と女の子、どっちがたくさん欲しいですか?」
男「なに?」
犬「小梅は半々がいいと思っています。」
男「お前……一体どうして?」
犬「きっと、みんなご主人に似て物知りな子供達ですよ。」
男「俺の子だって言うのか?」
犬「小梅が良い子にしてたから、神様が手伝ってくれたのです。」
男「そんなバカな……」
犬「ご主人は嬉しくないのですか?」
男「いや、信じられな――」
犬「信じられないくらい感激ですか!?」
男「まいったなこりゃ……」
犬「小梅は頑張って元気な赤ちゃんを産みます。」
男「産むって、お前……」
犬「だからご主人も小梅を大切にしてくださいね。」
男「ああ……そうだな。」
――――――――――
半「やれやれ、面倒なことになっているな。」
男「俺は何もしてないぞ?」
半「はて、どうだかな?」
男「確かに俺は初恋がモーキー・フラグルってくらい生粋のケモナーだが、分別はある!」
半「冗談だ。それに人間と犬だ、コトに及んだとて結実しまい。」
男「及んでねえし!」
半「なにか、他に考えられるのは……?」
男「他って言っても、発情期間中は特にしっかり他との接触は避けていたしな。」
半「そうだな。接触は無かった。それは私も保証しよう。」
男「おかしなこともあるもんだな。まあ、他人事じゃないんだが……」
半「まさか本当に神からの賜り物だと?」
男「んなワケあるか。そもそも俺は無神論者だ。」
半「それはあまり関係が無いように思うがね。」
男「明日病院に連れていく。」
半「連れていってどうする? 処分すると言うのか?」
男「馬鹿言え! もし本当に身籠ってるなら、まとめて面倒を見てやるよ。」
半「こ奴は本当に果報者だな。こんな素晴らしいご主人様が居るのだから。」
――――――――――
医「偽妊娠ですね。」
男「じゃあ、本当に妊娠しているわけではないんですね?」
医「人間で言えば想像妊娠みたいなものです。」
男「原因って、なんなんですか?」
医「いえ、犬にはよくあることですよ。もちろん個体差もありますが。」
男「どうすればいいんでしょう?」
医「非発情期に入ってしばらく経てば自然と収まります。」
医「繰り返すようであれば、避妊手術で回避はできますが……」
男「……経過を見ようと思います。」
犬「ご主人様? さっき、お医者さんと何を話してたんですか?」
男「ん、赤ちゃんが健康かどうかを話してた。」
犬「小梅の赤ちゃん達はきっと元気ですよ。」
男「うん、そうだな。」
犬「赤ちゃんを産んで、ちゃんと育てて、小梅はもっともっと偉い子になります。」
男「これ以上偉くなったら、どう褒めていいのか分かんないぞ?」
犬「いいんです! ご主人が一緒にいてくれたら小梅は嬉しいです。」
――――――――――
犬「ご主人、おちちが張ってきました……」
男「みたいだな……痛くないか?」
犬「ちょっと痛いです。でも、なんだか嬉しいのです。」
男「辛かったら言うんだぞ?」
犬「はうー……床が冷たくて気持ちいいです。」
男「あのさ、子供のことなんだけどな……」
犬「あい! はやくおっぱい飲ませてあげたいですね!」
男「……あ、うん。」
――――――――――
半「浮かない顔だな。」
男「本当のことを言った方がいいのはわかってるんだけどな。」
半「なまじ疎通ができるが故の苦悩か。」
男「俺はどうしたらいいと思う?」
半「私は主人に意見するほど、不作法ではないつもりだ。」
男「参考にするだけだ。」
半「正直なところ、どうするのが正しいの見当もつかぬよ。」
男「落胆するのは目に見えてる。それが早いか遅いかの差だ。」
半「告げれば今すぐに、黙っていれば自ら気付いて傷付く。か?」
半「先代の飼い犬の時はどう対処したのだ?」
男「紅梅号は蓄膿やってな。子宮取っちまったからこんなことは起きなかった。」
男「それに、お前や小梅みたいに会話できてたわけでもない。」
半「飼い主の子を孕むなど厚かましいにも程がある。と、一蹴してみては?」
男「そんなことできるわけないだろう。」
半「仮にも私の主人なのだから、もっと毅然としていて欲しいものだ。」
男「情けない主人ですまんね。」
半「まあ、そちらの方が親しみが持てるのだがな。」
男「はぁ、決めあぐねてるのは黙ってるのと一緒だよな……」
半「ところでだ、乳が張って苦しいのは私も同じなわけだ。」
男「身体は共用だもんな。何か冷やすもの持って来てやろうか?」
半「もっと良い対処を思い付いたのだが……」
男「何だ?」
半「簡単な事だ。吸ってみてはくれないか?」
男「馬鹿言うんじゃねえよ。」
半「私はいたって真面目だ。」
男「情けない主人かもしれないが、分別も節度もあるぞ。」
半「よこしまな気持ちからではないよ。私も母親というものを体験してみたいのだ。」
半「まあ、それが主人の意に反することなら諦めるとしよう。」
男「…………」
――――――――――
犬「ご主人! 助けてください! 助けて!」
男「どうした? どこか痛いのか?」
犬「赤ちゃんが! 子供たちが消えてしまいます!」
男「落ち付け。」
犬「小梅のお腹、どんどんしぼんできてます!」
男「大丈夫、大丈夫だから。」
犬「ご主人様! 赤ちゃんを助けてください!」
男「おいで、抱っこしてやる。」
犬「……はい。」
男「落ち着いた?」
犬「ご主人……もう大丈夫です。」
男「今日はずっとこうしていようか。」
犬「小梅はダメな犬ですね。きっとバチが当たったんです。」
男「そんなことないよ。」
犬「ご主人を一人占めしようとして、悪い子だから神様が怒ったんです。」
男「違うよ。神様なんていないんだ。」
犬「でも……」
男「小梅はご主人様と神様、どっちを信じる?」
犬「それは……ご主人です。」
男「そのご主人様が居ないって言ってるのに、それが信じられないの?」
犬「はう……」
男「小梅。」
犬「はい?」
男「ヨシヨシ……」
犬「だめです。小梅はなでなでしてもらう資格なんてないんです。」
男「俺がしてあげたいと思ってるの! ご主人様に逆らっちゃダメ。」
犬「ふ、ふわぃ……」
男「ヨシヨシ。」
犬「はうぅ……うっ、うっ……」
――――――――――
私はもともと祭祀者が願望を叶える手助けする者
まあ、この犬はとても祭祀者とは言えないのだが……
とは言え、私がこれに憑いているのも事実
犬でもない、人でもない、生き物ですらない私だが
こんな私にも妹ができた
犬として主人に仕えることもできた
仮初めとはいえ、母の気持ちを味わうこともできた
久方ぶりにとても晴れ晴れとした気分だ
本来は祭祀者の利益のため
対価として他者に不利益をもたらすものであるのだが
困ったことに今回は該当する相手というものが居ない
まあ、不利益なら自分が被れば良いだけの話だ
飢えと恨みの煮こごりのような私の魂では
大した対価にはならないかもしれない
だが、姉として妹にはできる限りのことをしてやりたい
実体があれば涙を舐めて拭うこともしてやれただろうに
なんとも不便なものだ
私のご主人は神など居ないと言った
おそらくは全知全能のそれを指して言ったのだと思う
そういう意味では私も居ないと思っている
しかし、神と名のつくものならここに居るのだ
名が付くだけで全知全能には比ぶるべくもないが
小さな嘘をまことにすり替えるくらいはお手の物
ご主人様の驚く顔を見れぬのは残念だが
それは貸しということにしておくか
――――――――――
犬「ご主人! 生まれました!」
男「よく頑張ったな。偉いぞ。」
犬「はい、小梅は頑張りました! でも、赤ちゃんはもっと頑張ったはずです。」
男「一匹だけ、本当に授かってたんだな。あいつの加護だろうか……」
犬「名前をつけてください。」
男「そうだな……小梅の子供だから、小春にしよう。」
犬「コハル……この子は小春ですね。小春! お母さんですよ~!」
男「なあ、俺にも抱かせてくれない?」
犬「むぅ……もし、いじめたら、ご主人様でも許しませんよ?」
男「しないしない……しかし、この毛色に模様、どこかで見たような……」
「ほほぅ、返してもらう機会を用意してくれるとは……粋な事をする。」
男「え?」
「居ないと言われた事への意趣返しかな?」
犬「ん?」
仔「きゅん!」
――――――――――――――――――――おわり
長時間お疲れ様でした
不明な箇所があれば補足入れたいと思います
私事:ビアンカ・オーバースタディ予約し損ねた
太田が悪い
おつかれ
面白かった
どっちもえらそうな口調だから堅苦しい
神様じゃなくて妖精とか妖怪もののけ精霊
3人いるんだからそういう類の者にして男>姉>仔犬とハッキリ順位を分け
言葉遣いと立場を明確にしたほうがいいかも
細かいとこで悪いが犬がセーフって言葉知ってるのはなーと思った
あと姉(神らしきもの)は初めから「犬」神にだった?
>>209
犬神というのは蠱毒で人為的に作られたバケモノです
名前に「神」という字は入ってますが付喪神が式神と同じで神様じゃない何か
犬の方はまあ、飼われる前も親密ではないにしろ現代人との接触はあったと言う事で
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません