京子「あかりって誰?」(137)

ちなつ「もう、京子先輩! いくらなんでもそれはひどいですよ!」

京子「…? 何が?」

ちなつ「はあ、もういいですよ。あの、結衣先輩、今日あかりちゃんはお休みなんですか?」

結衣「え……? さ、さあ…私は聞いてないけど…?」

ちなつ「うーん、じゃあ先に行っちゃったんですかね? 途中合流しなかったからてっきり結衣先輩たちと一緒にいるのかと」

結衣「多分そうなんじゃない?」

ちなつ「それならそれでメールでもくれたらいいのに…」

結衣「まあ、とにかく学校行こうよ。遅れちゃうし」

ちなつ「はーい」

京子(結衣、あかりって子、知り合い?)コソコソ

結衣(いや、知らないけど…多分、ちなつちゃんの同級生か誰かじゃないの。ちゃん付けで呼んでるし)

京子(忘れるなんて酷い!とか言われても私そんな子知らないんだけどなぁ…)

ちなつ「二人でこそこそ何話してるんですか?」

京子「んー? いやーなんでもないよ。昨日の宿題難しかったなーって話」

ちなつ「京子先輩が宿題を自力で解くわけがないです」

京子「なにー! 私だってたまにはやるぞ!」

結衣「昨日は私の丸写しだったろ」

京子「てへっ」

京子(私の迫真の演技のおかげで誤魔化せたね)

結衣(宿題写してたのは事実だけどな)

京子「んじゃまた放課後ねー」

結衣「じゃあね、ちなつちゃん」

ちなつ「はい!」

ガラガラ

ちなつ「二人ともおはよう」

櫻子「あ、ちなつちゃん。おはよー」

向日葵「おはようございますわ」

ちなつ「……? あれ、あかりちゃん来てないね」

櫻子「へ?」

ちなつ「今日はお休みなのかな」

櫻子「???」

向日葵「ねえ櫻子、あかりちゃんって誰のことですの?」

櫻子「いや、私も知らないし」

キーンコーンカーンコーン

先生「よーしじゃあ出席取るぞー。一番、上田ー」

「はーい」

先生「二番、江藤」

「はい」

ちなつ「…?」

ちなつ「あの、先生! 赤座さんはどうしたんですか?」

先生「んー? あかざ? 誰だ、それ」

ちなつ「誰って、赤座あかりですよ」

先生「他のクラスの友達か? このクラスはあから始まる奴は一人もいないぞ」

先生「よくわからんが、寝ぼけてるのか?なんなら顔でも洗ってくるといい。休み明けだからなー。あんまり夜更かしとかするなよー吉川ー」

ちなつ「……」

先生「じゃあこれにてホームルームは終了。礼」


櫻子「びっくりしたー! どうしたのちなつちゃん? ひょっとして新ギャグ?」

ちなつ「……」

櫻子「?」

ちなつ「ねえ、向日葵ちゃん」

向日葵「…言いにくいのですけど、私も赤座あかりさんのことはわかりませんわ」

ちなつ「……そっか」

櫻子「ちなつちゃん、今日どうしたんだろ?」

向日葵「心配ですわね……朝から一言もしゃべってませんわ」

櫻子「何かあったのかな?」

向日葵「さぁ…。さっぱりわかりませんわ」

櫻子「賞味期限切れのプリンを食べたとか?」

向日葵「あなたじゃあるまいし…」

櫻子「なんだとー!?」


ちなつ「……」


あかりちゃんがいないのに、このクラスは至って普通に回っていってる

給食はいつものように私と向日葵ちゃんと櫻子ちゃん。でも、いつもはあかりちゃんが座る場所には別の子が座ってた

櫻子ちゃんと向日葵ちゃんはその子を交えていつもみたいに雑談をする。私も一言二言会話に参加する。

その子がいることに違和感はない。クラスの子はみんな顔見知りで、友達だ。私だってその子と話したことはある。

いつもみたいにちなつが会話に参加してくれないと盛り上がらないよー、とその子は言う。彼女なりの励ましなんだろう。彼女はいつもちょっと空気が読めない。

体育の授業で二人組みを作るときは私とその子でやった。あかりちゃんがいない今日、クラスの人数は奇数だけど、仲のいい3人組がトリオでやることで収まっていた。いつもみたいに。

先生「じゃあ今日はこれで終わり。きりーつ、れーい」

「ありがとーございましたー」

ちなつ「…」ガタッ

櫻子「じゃあ私たち生徒会行くね!」

向日葵「早く元気になってくださいね、吉川さん」

ちなつ「ばいばい、二人とも…」

ちなつ(櫻子ちゃん、ちょっと私に引いてたな…。当たり前か、こんなに暗かったら)

ちなつ「帰ろうかな…」

ちなつ「……」トボトボ

京子「お! ちなつちゃん!」

ちなつ「…京子先輩」

京子「どうしたー?元気ないよー?」

ちなつ「……京子先輩は、赤座あかりなんて子、知りませんよね?」

京子「う、うん…。ご、ごめん、忘れちゃって……。ほんとごめん! その子と朝一緒に学校行く約束でもしてたかな?」

ちなつ「いえ、いいんです。私の勘違いだったんです」

ちなつ(京子先輩、意外と気をつかうタイプなんだなぁ)

京子「そうだったんだ。いやーびっくりしたよ。ところで、今日は茶道部室来る?」


お姉ちゃんに憧れて茶道部に入りたかった私は、入学してすぐこの部室を訪れた。

ところがその部室は、二年生の二人組が私有化していて…

「部員不足だからどうせ茶道部も再建できないし、ちなつちゃんも無断で使っちゃいなよ」

という提案にうなずいた……というところまでは私の記憶とだいたい同じ

だけど、私はごらく部の部員になるとは言わなかったそうだ。

あくまでごらく部の二人と、茶道同好会(部員不足だから同好会)の一人、ということらしい。

ちなつ「なんかその……私、嫌な子じゃありませんでした?

京子「ううん、全然。むしろ私のほうがちなつちゃんに迷惑かけてたかもっていうか」

京子「なんだかんだでごらく部としての活動にも参加してくれてたしさ。ま、活動って言ってもトランプとか、粘土で遊ぶとか、そんなんだけどね。あと魔女っ娘ミラクるん」

京子「まさに娯楽部!」

京子「まー、ちなつちゃんも実質ごらく部部員みたいなもんだったよ。初めて会ったときはあくまで茶道部、ってスタンスだっただけでさ」

ちなつ「そうなんですか」


茶道部室、という単語にひょっとして私はごらく部じゃないのか、と思ったけど、それは違うと京子先輩が教えてくれた。

だけどなんだか、それはそれでショックだった。

あかりちゃんがいなくても当たり前のように当たり前な世界。

私が部員じゃないと思ったとき、怖かったのと同時に、嬉しかった。あかりちゃんがいなかったらこうなっていたんだって。あかりちゃんがいたからああだったんだって。

なのに。私はクラスではあかりちゃんがいない生活を当たり前に送り、放課後はあかりちゃんなしでいつものように京子先輩たちを遊んでいたなんて……なんだか嫌な気分だった。

ちなつ「京子先輩は信じてくれるんですか? あかりちゃんのこと」

京子「ん? まあ。ちなつちゃんって真面目な子だし、そんな嘘はつかないでしょ」

ちなつ「いや、そうじゃなくて…私がいってることじゃなくて、あかりちゃんがいたことを信じてくれるんですか?」

京子「……まあぶっちゃけそんなSFあるかい!とは思うけどさ」

京子「でも、なんかちなつちゃんが可愛くなったなーって」

ちなつ「は?」

京子「いや、まあさっきは『私ら仲良し!』とは言ってたけど、やっぱなんか壁あったんだよね」

京子「でもこのちなつちゃんはなんかやけに……そう、馴れ馴れしいというか!」

ちなつ「……」

京子「ああ、いや……。おほん! あー、あかりちゃんって子がいて、その子がいたからごらく部に馴染めてた、だから今のちなつちゃんは私に馴れ…その、壁を感じさせないってことなら」

京子「それは十分信じる理由にはなるよ」

ちなつ「……京子先輩」

京子「まずは結衣とも話さないとね。まあ、あいつも朝はあかりちゃんなんて知らないっていってたけどさ」

ちなつ「望み薄ですね…」

京子「望みがないよりはいいっしょ。じゃあ、行こうか!ごらく部に!」

ちなつ「はい!」

結衣「赤座あかり、か。……ごめん、わからない」

ちなつ「そうですか…」

結衣「私にもう一人幼馴染がいたなんて、全然記憶にないや」

京子「私もだよ。ああー、一人でさえ大変なのにこれ以上幼馴染が増えたらどうなることやら」

結衣「それはこっちの台詞だ」

京子「というか、なんで幼馴染である私たちがあかりちゃんのことを忘れてて、ちなつちゃんは覚えてるんだろう?」

結衣「ふつう、こういうのはあれだよな。深い絆を持った者だけ記憶があって…っていう」

ちなつ(先輩たち、幼馴染なのにあかりちゃんのこと忘れがちだったし…。いや、私も人のこといえないけど)

京子「ちなつちゃん、心当たりない? 幼馴染より強く深いあかりちゃんとの絆」

ちなつ「深い、絆…」


ちなつ「ないです」

京子「ないんかい!」ガクッ

ちなつ「まあ、強いて言うなら一番の友達でしたけど…」

京子「じゃあ、ちなつちゃんのなかであかりちゃんが一番だったから記憶に残った?」

結衣「うーん…ちなつちゃんだけじゃ、いまいちなぁ」

ちなつ「?」

結衣「共通点。ほら、記憶を残した人は共通の体験をしてたりとか…共有した思い出があったりとか…。でもちなつちゃんだけじゃ、わからないや」

京子「思い出っていうならそれこそ幼馴染の私らだけ覚えてて、ってパターンでしょ」

結衣「うん…だからちなつちゃんの他にいればいいんだけど…」


ガララッ!

綾乃「としのーきょーこー!!!!!」

京子「綾乃? どったの?」

千歳「こんにちは~」

綾乃「あなたねー! 放課後になったら生徒会室に来てって言っておいたじゃないの!!! どーゆーことなの!?」

京子「げっ、忘れてた。いや、でも綾乃。今はそれどころじゃないの。いや真剣に」

結衣「…」(シリアス)

ちなつ「…」(シリアス)

綾乃「……な、何かあったの?」

京子「うーん…話せば長いというか、ちなつちゃん、綾乃には話していいと思う?」

ちなつ「そうですね、信じてもらえるなら…」

千歳(京子「いま、それどころじゃないんだ」綾乃「ど、どうしたの…)タラー

千歳「」スチャッ

千歳「あれ? 今日はあの子おらんの?」

京子「? 千歳、今なんて…」

千歳「んー? いやほら、一年生の…誰さんやったかな? もう一人おったやん。名前が思い出せへんけど…」

結衣「……ひょっとして……」

ちなつ「赤座あかりって名前じゃないですか!?」

千歳「あ、そうそ。そないな名前やったな」

京子「結衣!」

結衣「共通点、発見か」

ちなつ「あかりちゃん…!」

千歳「んー?」


綾乃「あ、あのー…」

生徒会室

綾乃「赤座あかりさん、ね。そんな生徒の記録はどこにもないけど」

千歳「おっかしいなぁ…」

結衣「ふーむ、今更だけど物理的な痕跡まで消してるんだな」

京子「なんか結衣、探偵みたいだね」


櫻子(ポカーン)

ちなつ「こっちの束は?」

向日葵「あ、それはアンケート用紙ですわ。名簿なんかじゃ」

ちなつ「アンケートならあかりちゃんが出してるかも!」

向日葵「よ、吉川さん! ああっ!整理した書類がっ!」

櫻子(ポカーン)

数時間後

向日葵「よ、吉川さん」

ちなつ「何? 次は1年生の宿題の束でも見つかった?」

向日葵「いえ、そうではなく…。ここまで見てみて、わかったでしょう? 書類には赤座あかりさんの名前は載ってませんわよ」

ちなつ「……」

向日葵「そこで作戦を変えましょう。物ではなく、人に頼るんです」

ちなつ「と、いうと…」

向日葵「赤座あかりという人のことについていろいろな人に聞いて回るんですわよ」

ちなつ「……!」

結衣「それ、いいかも。千歳とちなつちゃんの共通点ってのは正直わからないけど、他にもっと人がいれば、何かわかるはず!」

ちなつ「でも、どうやって」

櫻子「絵に描いて、それをプリントしてくばるとか? 迷子の犬みたいに」

向日葵「櫻子らしくない真っ当な発案ですわね」

櫻子「なんだとー!」

ちなつ「じゃあさっそく紙と鉛筆を」

結衣(――!)ピキーン

京子「ちょちょちょちょちょっと待ったー!」

京子「ちなつちゃん! 絵なら私が得意だから!!! 人相だけ教えてね!!!」

ちなつ「え、でも」

京子「いいから!!!」

ちなつ「はい…」

結衣(京子、グッジョブ)



ちなつ「えっと、頭にふたつお団子をつけてて……そう、はい、髪型はもっと……おっとりした雰囲気で……はい!こんな感じです!」

綾乃「ふぅん、これが赤座さんなのね……。『この人について心当たりのある人は生徒会まで』と。これを印刷すればいいのね?」

京子「うん、頼むよ綾乃」

綾乃「べっ、べべべべべべ別にあなたのためにやるんじゃないんだからね! 吉川さんのためよ!」

京子「お、おう…」


翌日になって、印刷されたビラは学校中、ついでに町中にばら撒かれた。

なんでも西垣先生の爆発テクニックらしい。

「なんだかこの赤座という奴のお団子にひどく爆発感を覚えてな。見つかったあかつきには是非爆友になってもらおうと思う」

とか言ってたけど、大丈夫かな…。


それから数日もあかりちゃんがいない生活が続いたけど、私は平気だった。

櫻子ちゃんと向日葵ちゃんは信じてはいないものの私の悩みは理解してくれているし、

町中に巻かれた謎のビラはクラスでも話題になっていて、なんだかあかりちゃんを感じさせた。

心当たりがあるという人は一人も出てこなかったけど、私の心は少しだけ晴れた。

???「これはどういうことかしらね」

???「…おそらく、記憶の処理が不完全だったのではないかと…」

???「処理は完璧だったはずだけど」

???「おそらく、何者かが記憶を持ったままなのでは…?」

???「……『心当たりのある方は七森中学生徒会室』まで、ね」

???「どうなされるおつもりですか?」

???「決まってるでしょう? 心当たりがあるのだから、行ってあげるのが人として当然のことよ」

???「……」

???「そこは、私たちは人じゃなくて天使です、って突っ込むところよ?」

???「……」

???「いくら立場が違うとはいえ、姉妹なんだから。そんな堅苦しくしゃべらないでいいのよ、あかり」

あかり「……うん、お姉ちゃん」

あかね「いい子ね。さて、どうしたものかしら」

あかり(…みんな)

ちなつ「はあ、いい加減心当たりがある人が見つかってもいいと思うんだけどなぁ…」テクテク

結衣「まあまあ…」テクテク

結衣(正直、望み薄だ。もしこの町に記憶を持ってる人がいないなら、赤座あかりの手がかりをつかむことは無理、ってことになる)

京子「ひょっとすると、今日こそは誰かが生徒会室に着てるってことがあるかもよー?」

ちなつ「だといいんですけど…」

京子「綾乃ー! 今日は誰か来たー?」

ガラッ

京子「――」

結衣「な……」

ちなつ「せ、……先輩!」


そこには、白い両翼で握り締められるようにしばられた池田先輩と杉浦先輩がいた

???「あなたたちのどちらかかしら? まさか両方ってことはないでしょうね?」

その翼を生やしているのは……女性だ。こちらに背を向け、先輩たちを翼で窓に押し付けている。

歳は二十歳になるかならないかくらいで、髪の毛が長い。

そしてその髪の毛は鮮やかに赤く

その後頭部にはひとつのお団子があった。

京子「あ…あやのー!!」

結衣「赤毛…お団子……あれが赤座あかりなの!? ちなつちゃん!」

ちなつ「ち、違う……あの人は、誰…?」

???「いま、赤座あかり、って言ったわね?」

途端に翼で縛られていた二人がゆっくりを床におろされる。

あかね「初めまして、じゃないけど。久しぶりね、結衣ちゃん、京子ちゃん」

京子「……」ガクガク

結衣「ひ、久しぶりだって?」

あかね「まあ覚えてはないわよね。記憶を消したの私だもの」

結衣「……記憶を消す? じゃあちなつちゃんが探してるあかりちゃんって子も」

あかね「そう。その子があかりの記憶を持ってる子なのね」

ちなつ「……!?」

結衣先輩の言葉を聞いた瞬間、女の人の目の色が変わった。直後、煌きながら翼が大きく広がり、私の眼前に迫る。

ちなつ(う…は、速い!)

かわせるはずがなかった

「吉川!」

しかし翼が当たるか当たらないかのその瞬間、開けっ放しだった扉から伸びてきた手に体を引っ張られ、なんとかすんでのところで翼をよけられた。

ちなつ「西垣先生!」

西垣「どうしたんだ一体。何があった?」

ちなつ「わ、わかりません…。ただ、なんか羽の生えた人が杉浦先輩たちを…」

すっと赤毛の人に視線を戻すと、なぜか翼を展開したまま動きを止めていた。どうしたのだろう?

西垣「ふむ。勝ち目ゼロだな」

ちなつ「んなっ!?」

西垣「あの翼見ただろ。あんなのをかわすなんて無理だ」

ちなつ「じゃ、じゃあどうすれば…」

西垣「決まってるだろ。逃げるしかない」

ちなつ「な! 残った人たちはどうするんですか!?」

西垣「まあ、大丈夫だろう。お前が犯人だとわかった瞬間丁寧に二人を下ろしてくれるような奴だ」

ちなつ「いいんですか!?」

西垣「大丈夫だ」

そういったあと先生は私を抱きかかえ、廊下の窓へとダッシュ。え?

西垣「まあ車は外にあるからな」

そしてためらいもなく窓から下に飛び降りた

ちなつ「うわああああああああああ!」

ガシャン!

西垣先生は私をかばうように車の上へと落下した。車の方はへこんだだけど、先生に外傷はないみたいだ

ちなつ「これ、動くんですか? つぶれてますけど」

西垣「わからん。でもまあこれは校長のだからな。私のはこっちだ」

そういってキーを取り出して車に乗り込む先生。

西垣「どっか行きたいところあるか?」

私は先生にある場所へと連れて行って欲しい、と頼んだ。

ちなつ「…」ブロロロロ

西垣「はは、凄いな。あの天使、車のあとを追ってきてる。多分、あいつらも無事だろう」ブロロロ

ちなつ「天使、なんですかね?」ブロロロ

西垣「天使で間違いない。羽が白いし。それにほら、よくいうだろ? 天使は人間界を去るときに関わった人の記憶を消す」

ちなつ「聞いたことないです」

西垣「そうか。おい、吉川。あれがそうか?」

ちなつ「はい、そうです」

目的地は何を隠そう、私の自宅だ。

外はちょっとした騒ぎになっていた。なにせ、翼を生やした人間が空飛んでるんだから。

私のお姉ちゃん、吉川ともこもその騒ぎが気になったのだろう、窓から顔を出して空を眺めていた。

お姉ちゃんは視線を宙に泳がせ、空飛ぶ天使に焦点を結ぶと、何か呟いた。

「赤座さん…」

お姉ちゃんがそういったのが、なんとなくわかった。

>>71は窓じゃなくて縁側から外に出て、で。



お姉ちゃんの隣へと駆け寄る。

ともこ「ちなつ? どういうことなの?」

ちなつ「私にもわからない、けど……でも多分、お姉ちゃんは知ってるんでしょ?」

ともこ「……」

ちなつ「お姉ちゃんはさっき赤座さん、って言ったよね。お姉ちゃんも記憶を持ってるんだ」

ともこ「も、って…」

あかね「まさか、あなたの妹があかりの記憶を持ってたなんて思ってもみなかったわ…」

赤座あかね……あかりちゃんのお姉ちゃんが風を巻き上げながら私たちの目の前に下りてくる。

ともこ「赤座さん…いえ、あかねさん! 何があったの!? 私、寂しかったのよ! あなたが突然明日からいなくなるって言い出して、それどころか存在した痕跡すらなくなると言い出して」

ともこ「何の冗談かと思ったら…本当に誰もあなたのことを覚えてなくって…」

あかね「…ごめんなさい、ともこさん。実は私、天使だったの」

ともこ「…たちの悪い冗談よ…」

あかね「本当よ。天使は人間界で過ごした後、天界に戻るときに自分たちがいた痕跡を消す。古くからのルールなの」

ともこ「……」

あかね「でもね、記憶を消せない人間っていうのもいるわ。私たちとあることをしてしまったらね。そうしてしまったら、部分的に記憶を消すんじゃなくて、その人の記憶全部を消さないといけなくなる」

あかね「でも一人や二人記憶を持ってたってバレやしないわ。今回みたいな騒ぎにならない限りは」チラッ

ちなつ「うっ…」

あかね「あなたとの思い出は私にとっても素敵なものだったし…あなたの記憶を全部消してしまうというのも残酷な気がして…」

あかね「だから私はあなたにある程度のことを打ち明けて、この世界を去ることにしたの」

ともこ「……」

ともこ「これから私をどうするつもり…?」

あかね「…今回、私たちはあなたたちの記憶を完全に消すことを指示されたわ。だから……」

あかね「ごめんなさい」


ちなつ「待ってよ!」

あかね「……なにかしら?ちなつちゃん」

ちなつ「私たち、記憶を消されちゃうんでしょ?お姉ちゃんのことも、誰のことも思い出せなくなるんでしょ」

あかね「…そうね」

ちなつ「だったら、最後にお姉ちゃんと二人きりで話がしたいの。お願い!」

あかね「……」

あかね「いいわよ。待っててあげる」

ちなつ「あと、あかりちゃんとも話しをさせて欲しいです」

あかね「…わかったわ。じゃあ、あかりを呼んでくるから……それまでにお願いね」

ちなつ「わかりました……。ありがとうございます」

ともこ「ちなつ……」

 ……

ともこ「二人きりで話したいことって、何?」

ちなつ「あのね……」

 ……

二人きりの話を済ませて、再び庭に出る。

かすかな光に包まれて、白い翼をまとった赤座姉妹が再びそこに光臨していた。

あかり「ちなつちゃん…」

ちなつ「久しぶり、だね……」

あかり「……」

ちなつ「私の部屋、いこ? 少し話があるの」

あかり「うん…」

ガチャ

あかり「お、お邪魔します」

ちなつ「いらっしゃい」

あかり「……なんか、ちなつちゃん家久しぶりに来た気がする…」

ちなつ「私なんて今朝この部屋にいたのに、一年ぶりに帰ってきたような気分だよ」

あかり「ご、ごめんね…」

ちなつ「なんであかりちゃんが謝るの?

あかり「だ、だって…」

あかりちゃんはなんだか眼が潤んでる。

ちなつ「謝らなきゃいけないのは私のほうだよ。だってあかりちゃんがこんなことになってるのは私のせいだもん」

あかり「ちなつちゃんの、せいなんだ。やっぱり」

ちなつ「うん」

あかり「……あかりは、記憶がないんだけどなぁ…」

ちなつ「あの時はうやむやにしちゃったけど、まさか本当に記憶をなくしてたとは…」

あかり「ほ、本当にあかりはちなつちゃんとしちゃったの? そ、その…キ、キスを」

ちなつ「まあ、わたしのほうから、無理やりだけど…ね」

あかり「う、ううぅ…」

  ……

西垣「池田とお前の共通点だが、おそらくキスだろうな。いや、というか確実にキスだ」

ちなつ「……は?」

西垣「ほら、生徒会とごらく部で合同合宿やっただろう? あの時、チョコで暴走した池田がキスをしてた。記憶にないか?」

ちなつ「…あ」

ちなつ「って、なんで私がキスをしたなんて断言できるんですか?

西垣「深い絆って言ったら接吻だろう。そうに決まってる」

西垣「それに天使ってのは神聖だからなぁ。キスなんかされたらそれはもうあれだ。人の記憶を消す魔法なんてちょっとやそっとじゃ効かなくなる」

ちなつ「……なんでそんなに自信満々に断言できるんですか?」

西垣「ん?まあ私は天使に関してはちょっと詳しいんだよ」

ちなつ「はあ」

西垣「信じていないな?まあいい。じゃあとっておきの秘策をお前に教えてやろう」

ちなつ「秘策?」

西垣「奇襲で使うか、正面から使うかはお前次第だが…な」


ちなつ「…ねえ、あかりちゃん」

あかり「なあに?ちなつちゃん」

ちなつ「私ね、あかりちゃんがいなくなってからわかったんだ。いつも空気ーとか、不憫な子ーとか言ってたけど……」

ちなつ「本当は私にとってあかりちゃんは何よりも一番大切で大事な人だったんだって…」

あかり「…」

ちなつ「あかりちゃんはどうだった?私のことなんて、天使のしきたりの通過点としか思ってない?私たちと過ごしたことはどうでもよかった?」

あかり「……」

あかり「……そんなわけないよ…」

あかり「あかりだってみんなと一緒に人間界で暮らしたかったよ…。ごらく部のみんなと、ちなつちゃんと、ずっと一緒にいたかったよ…」

ちなつ「あかりちゃん…」

あかり「でも、駄目なの……。しきたりで、おきてだから……。ちなつちゃんの記憶だって、あかりの手でこれから消さなきゃいけないの…」

ちなつ「……ねえ、あかりちゃん」

ちなつ「最後に、キスしてよ」

ちなつ「どうせ記憶は全部消されちゃうんだから、いいでしょ? 最後くらい」

あかり「…最後なんて言い方…」

ちなつ「……ねえ、お願い…」

あかり「……わかった」

ちなつ「目、つぶって…」

あかり「……」

ちなつ「……」



 チュッ

あかり「……」

ちなつ「……」

あかり「……」

ちなつ「……」

あかり「……?」

ちなつ「…んっ」レロッ

あかり「!?」ンッ

ちなつ「…んちゅ」チュパ

あかり「…ンー!」ジタバタ

ちなつ「…んっ!」グイグイ

あかり(ち、ちなつちゃーん!?)

あかり「…!?」ピカー!

あかり(んん!?)ピカー!

あかり(な、なんかあかりの体光ってるよぉ!?」ピカー!

ちなつ「…んー」レロレロ

あかり「…!」ピカー!

あかり(きゃあああああああああああああ!!!)


 ドカーン






あかり「…うっ……」

あかり「げほっ、げほっ。ここどこ? 瓦礫がいっぱい…」

あかり「ってここちなつちゃん家!? お、おうち壊れちゃったの!?」

あかり「な、なんで!? あかりが光ってたせい!?」

あかり「あっ! そうだ、ちなつちゃん! ひょっとしてこの瓦礫に埋もれてるんじゃ…!」

あかり「ち、ちなつちゃーん!」

あかり「そ、そうだ。天使パワーで瓦礫を…」スゥ…

あかり「……」

あかり「あれ?」

あかり「天使パワーが出せない…?」

西垣「どうやら成功したみたいだな」

あかり「せ、先生!どうしてここに」

西垣「赤座あかり。うん、名前も思い出せる。記憶の部分削除はあくまで封印だからな、こうなれば当然記憶は戻ってくる」

あかり「へ?へ?」

西垣「赤座。吉川とのキスはどうだった?」

あかり「へ? 柔らかくてあったかくてなんだか甘酸っぱ……って何故先生がそれを知ってるんですか!?」

西垣「いや、そりゃアドバイスしたのは私だからな」

あかり「アドバイス、ってなんのですか?」

西垣「天使を人間に堕とす方法」

あかり「えっ」

  ……

西垣「まあキスをすると記憶の部分削除……というかあれは封印なんだが、それが効かなくなる。魔力が弱まるからだ」

ちなつ「はぁ…」

西垣「で、だな。さらにディープキスをし続けると、天使の力はさらに弱まり続ける。最終的に魔力が炸裂してドカーン!天使は人間に戻るわけだ」

ちなつ「…いや、それは…」

西垣「なんだ、信じてないのか?」

ちなつ「当たり前でしょう……」

西垣「ふむ。これを人に話すのは初めてなんだがな」

ちなつ「はい」

西垣「松本は元天使だ」

ちなつ「」

ちなつ「か、会長が?」

西垣「そうだ」

西垣「いや、言っておくが松本の方が積極的に迫ってきてな。私のほうが乗る気じゃなかったとは言わないが、むしろ乗る気だったが、それでも迫ってきたのは松本だ」

西垣「教師としてはまあセーフだ」

ちなつ「アウトですよ」

西垣「私もびっくりしたんだ。ある日、羽を生やした姿で私の前に舞い降りてな。自分が天使だと、記憶を消さなきゃならないと」

西垣「だから最後に会いに来た、もとい愛しに来た……ということだったらしい」ポッ

ちなつ「……」

西垣「おほん。で、だな」

西垣「キスで魔力が底を尽きて人間になるというのは知られてないことらしい。松本はそもそも天使やめたがってたから結果オーライってわけだが」

西垣「赤座あかりとやらが天使をやめてお前と一緒にいたいと思うかどうか…。無論、いきなりキスしてしまえばそれで成功だが」

ちなつ「そんなことしませんよ」

西垣「ほう、立派な心がけだな」

ちなつ「あかりちゃんがもし私より天使を選ぶんなら……そのときは諦めます」

西垣「ま、それはお前が選ぶことだ」

西垣「……というわけでな。あとあと吉川は自分の姉と相談して、それぞれ一騎打ちで望むことにしたらしい」

西垣「お互い愛し合う相手の意思を確かめた、ってわけだ。結果は……」

あかね「……こういうことね」

ともこ「…」グッタリ

西垣「お姫様だっこか。なかなか様になってるぞ。赤座」

あかね「どうも。それにしても何故ちなつちゃんは私をここまで誘導したのかしらね?ともこさんが私とキスした場面でも見てたのかしら」

西垣「私が生徒会室で『吉川』と叫んでいたときあからさまに動揺していたじゃないか。さすがの天使も愛した人の妹に手をかけるのはためらったか?」

あかね「あかりとキスしたのがともこさんの妹だったって言うことにビックリしただけよ…」

ともこ「血は……争えない……ってことね……フフ」

あかね「起きてたのね」

ともこ「これからは……もう突然いなくなったりしないでね?」

あかね「ええ…。当たり前でしょ」




あかり「あ、あの!ちなつちゃん!ちなつちゃんはどこ!?」

西垣「ああ、吉川妹ならほら、そこだ」

ちなつ「う、うーん」

あかり「ちなつちゃん!」

ちなつ「うう…頭がぐるぐるするよ」

あかり「だ、大丈夫?」

ちなつ「あ……あかりちゃん?」

あかり「良かったぁ……」

ちなつ「あ、あかりちゃん……あのね、私、あかりちゃんがいなくなってからわかったんだ。いつも空気ーとか、不憫な子ーとか言ってたけど……」

あかり「ち、ちなつちゃん?それさっき聞いたよ?」

ちなつ「だからね」ガシッ

あかり「うっ!?」グッ

ちなつ「キスしよ?」

あかり「ちょ、ちなつちゃん!?まだ混乱してるの? や、ちょ、タンマ~~~~~!!!」


あかね「あらあらお盛んね」

ともこ「フフ、そうね…」

あかり「おはよー!」

京子「おーおはよう」

結衣「おはよう」

ちなつ「おはようございます!」

京子「にしても昨日は大変だったな」

結衣「ああ……まあなんにしろあかりが戻ってきてくれてよかったよ」

あかり「ごめんね、迷惑かけちゃって」

結衣「迷惑だなんて思ってないって」

京子「にしても、ちなつちゃん家壊れちゃったんでしょ? あかりの家もなんか痕跡消しのために売ったとか」

結衣「ああ、それなら私が大家さんに頼み込んでしばらく部屋を貸してもらえることになったんだ」

京子「な、なにー!? なんてうらやましいんだ!?私も」

結衣「駄目」

京子「ちくしょー!」

京子「へー、んじゃあかりとちなつちゃんは同棲してんの」

ちなつ「ま、まあ」

あかり「えへへ…///」

京子「結衣……私たちも同棲しないか?」

結衣「……お前ん家が壊れたらな」

京子「お、それはもしかしてOKサインですか!?」

結衣「うるさい、学校いくぞ」

京子「ちぇーっ」


教室
あかり「おはよー!」

「おはよう」「おはよー」「おはよ」

櫻子「おはようあかりちゃん

向日葵「お久しぶりですわ」

あかり「二人にも迷惑かけたらしくてごめんね

向日葵「気にしてませんわよ」

櫻子「おかえりあかりちゃん!」

あかり「ありがとう…ってあかりの席がないよー!?」

ちなつ「ああ……あかりちゃんの物的痕跡なくなってるから…」

あかり「席も消えちゃった……ってこと?」

向日葵「ですわね…」

ちなつ「あかりちゃん、私のひざの上座っていいよ?」

あかり「う、うん、わかった」

ちなつ「えっ、冗談のつもりだったんだけど…」

ちなつ「ちょっとあかりちゃん…」

あかり「いいでしょ~」

ちなつ「も、もう…」

ガラガラ

西垣「あーみんなおはよう」

櫻子「って何故に西垣ちゃんが?」

西垣「あーちょっとなー。じゃあ早速だが出席を取らせてもらうぞ。まずは上田ー」

「はーい」

あかちな「!?」

ちなつ「ちょ、どういう…」

西垣「まあ最後まで聞け」

西垣「…………前田ー」

「はーい」

西垣「次は吉川ー。吉川あかりー」

あかり「えっ!?」

ちなつ「…は!?」

西垣「返事ー」

あかり「は、はい!」

西垣「よーし。吉川ちなつー」

ちなつ「あ、はい」

西垣「よし、全員いるなー。で、疑問に思った奴もいるかもしれないが、赤座あかりはまああれだ、色々あって吉川家の一員となることになった。というわけでみんなよろしく頼む」

あかり「えっ?聞いてないよ!?」

西垣「まあさっき決めたからな。赤座家なんてそもそも存在しないことになってるからこっちも大変なんだぞ。書類偽装」

ちなつ「……あの、先生って理科の先生ですよね?なんの技術ですかそれ」

西垣「まああとあれだ、赤座…いや吉川はあとで吉川の両親にちゃんと挨拶しとけよ」

あかり「どっちの吉川……っていうか挨拶なら昨日結衣ちゃんのアパートに引っ越すときにしましたよ?」

西垣「いや、そういう挨拶じゃない」

あかり「……?」

西垣「わからないなら吉川ちなつに教えてもらうといい。じゃあ私はこれにて失礼する」

あかり「…どういうことだろ?」

ちなつ「もう、わかんないの?」

あかり「え?わからないよ」

ちなつ「挨拶っていうのはね……」

ちなつ「娘さんをくださいっていう挨拶のことだよ」

あかり「……えー!!!」


 おわり

展開がアレなのは自覚してるから>>61あたりからスクロールせずに書いてた
赤座姉妹を吉川姉妹で撃ち落すって展開をスムーズにしたかったです。アニメにあかねさんが出るのが楽しみです

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年05月27日 (水) 04:34:58   ID: P5Hoal_Z

良いかんじっぽい(≧▽≦)

2 :  SS好きの774さん   2015年06月14日 (日) 05:04:16   ID: vW_kilhG

物語の完成度が高くてビックリした。
アニメのシーンやネタも上手い感じで生かされてて、良SSって感じでした!

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