大分昔のですが、この話は
サシャ「コニー! 勝負しましょう!」コニー「勝負?」
の続きです
要約するとコニサシャがバカ夫婦その2になっています
同一トリのシリーズでいうと最終作です
850年
トロスト区
補給所奪還作戦準備中
カツ カツ カツ
コニー「けどよぉ、立体機動装置もなしで、巨人を仕止めきれるか?」
ライナー「いけるさ。相手は3、4メートル級だ。的になる急所は狙いやすい」
ジャン「あぁ。大きさにかかわらず、頭から下、うなじにかけての」
サシャ「縦1メートル、横10センチ!」
コニー「そういやサシャ、座学の時間の時、縦1メートル横20センチって答えたことあったよな」
サシャ「なっ、なんでそんなこと覚えてるんですかコニー!」
コニー「え、いや、それは」
ライナー「サシャのことならなんでも覚えてる、ってか?」ニヤ
コニ・サシャ「「ライナー!!」」
ジャン「お前らここに来てまで夫婦漫才かよ……」ハア
サシャ「ジャンまで何言ってるんですか! こんな時にふざけないで下さい!」カアッ
ミカサ「気を引き締めていこう。アルミンの言う通り、私たちに全員の命がかかってる」
ベルトルト「うん。皆の命も……僕らの命もね」
サシャ「!」ドクン
サシャ(私たちの命……ここにいる、皆の)
サシャ(……コニーの、命も)
アニ「ここから分かれる形になりそうだね」
ジャン「あぁ。失敗は出来ねぇぞ。気合いを入れろ」
サシャ(失敗は、出来ん――)
補給室
ドクン…ドクン…
サシャ(私が狙うんは、あの巨人やね)
サシャ(皆の命がかかっとる)
サシャ(失敗は……)
もし、失敗したら。
マルコ「用意……打てぇー!」
ダダダダダダダダ!!!
サシャ(今やっ!)バッ
ズルッ
サシャ(!!)
ザシュッ!
サシャ(しまった、浅く入って――)バッ
おめめ巨人「……」
サシャ「あ……あの……」
おめめ巨人「」ズシン ズシン
コニー「お、おい――」
ベルトルト「サシャとコニーだ!」
ジャン「急げ援護ォ!」
頭に入ってこない仲間の叫び声。
耳に響く足音。
目の前にいる巨人。
近づいてくる。
怖い。
サシャ「すみませんでしたぁあああ!!」ズザァアア!!
ザンッ!
ザンッ!
サシャ(……え?)
アニ「……」スタッ
コニー「す、すまねぇな、アニ」
ミカサ「……」スタッ
サシャ「みーかーさぁあー!!」ガバッ!
ミカサ「怪我はない?」
サシャ「おかげさまで……」ガクガク
ミカサ「ならすぐに立つ!」
サシャ「……」
サシャ(私……私は)
サシャ「……っ」
コニー「サシャ、早くガス補給しろ! 脱出するぞ!」
サシャ「巨人に……屈伏してしまった」
コニー「は?」
サシャ「みんなに会わせる顔がぁ~!」
コニー「あーもう! 後でたっぷり軽蔑してやる! とにかく脱出だ!」
サシャ「!」
「一斉に行くぞ!」
「壁の上に上れ!」
サシャ「うっ……ううっ」バシュウウウ
サシャ(私は――皆の命を背負っておいて)
サシャ(こんなにも簡単に、巨人に屈伏するなんて)
『大丈夫ですよ! 土地を奪還すればまた、牛も羊も飼えますから』
自分で言ったはずなのに。
サシャ「……」グスッ
コニー「……」バシュウウウ
とりあえずここまで。初めましての方もお久しぶりですの方も、読んでくださってありがとうございます。
<読んでも読まなくても構わない、今までのシリーズ一行まとめ>
コニサシャ(成就)→ベルユミ(成就?)→アルクリ(失恋)→マルクリ(死別)→ベルユミ(離別)→コニサシャ
ウォールローゼ壁内
サシャ「……」
塀の上に腰を下ろすと、荷馬車が目の前を通りすぎる。
おそらく負傷兵が乗っているのだけれど、視界に映るのは荷馬車の車輪だけ。視線を持ち上げることがどうしても出来なかった。
彼らの顔を、見ることが出来ない。
「サシャ」
上から声が降ってきた。いつもなら一番嬉しいはずの声。
「サシャ、さっきは軽蔑するなんて言って悪かった」
顔を上げられない。
「あん時はその、焦ってて。本気で言った訳じゃないんだ」
「そんなに落ち込むなよ。俺だって失敗した。巨人に屈服したのは、お前だけじゃないんだ」
耳に届いているのに、頭に入らない。
「サシャ」
呼ばれているのに返事が出来ない。どんな顔をして答えたらいいのかわからない。
頭の中がぐちゃぐちゃで、何を言えばいいのかわからない。
「サシャ!」
不意に肩を掴まれ、揺さぶられた。きびきびとした声が脳内に響く。
「ちゃんと、こっち向け」
耐え切れなくなって、勢いよく顔を上げる。
コニー「サシャ」
顔を見た途端、一気に視界が曇ってきた。涙が溢れるのを止められない。
サシャ「うっ……うぇえっ」ポロポロ
振るえる声で、すがりつくような目で、感情のすべてを訴えた。
サシャ「私、私っ、あの時、怖くなって」
コニー「うん」
サシャ「皆の命がかかってるって、分かっとるのに――分かってるから」グスッ
コニー「うん」
サシャ「失敗したら、皆がっ……コニーが死んでしまうから」ヒッグ
コニー「……」
サシャ「怖くなってしまった自分が情けなくて……皆に顔向け出来なくて、私」
コニー「サシャ」グイッ
サシャ「え?」グラ
トンッ
唐突にコニーが私の肩を抱いて、私の頭を抱え込んだ。座っていた体制が横に崩れて、そのまま立っている彼にもたれかかる形になる。
サシャ「な、に」
コニー「じっとしてろ」
右耳に、コニーの胸が押し当てられる。コニーの温もりを感じる。
あったかい。
あったかい。
心臓の鼓動が聞こえる。
コニー「俺達、生きてるよな」
サシャ「……!」
コニー「巨人、すっげぇ怖かったし……もう駄目かと思ったけど」
コニー「……生きてるよな、俺達」
サシャ「――はい」
サシャ「はい……!」ポロポロ
どのくらいの時間そうしていただろう。
気づけば私の方からも、すがりつくように彼に抱きついていた。コニーは私が泣き止むまで、ずっと頭を撫でてくれた。
コニー「落ち着いたか?」
サシャ「ん……はい。ありがとうございます」
コニー「よし」
サシャ「あ、でも」
コニー「ん?」
サシャ「食べ物があったら、もっと元気になります」
コニー「ぶっ!」
お腹を抱えて笑うコニー。眉を下げて無邪気に笑う、この表情が何よりも私のお気に入り。
コニー「お前、こんな時でも食いもんのことかよ!」
サシャ「いけませんか?」
コニー「いいや。お前らしいと思うぜ」
コニー「しょうがねぇな。何か食えるもんがねぇか見てくる。ここで待ってろよ」
背中を向けられると、無性に寂しさがこみ上げた。
今はまだ、離れたくない。
サシャ「待って下さい」
コニー「あん?」
サシャ「私も、一緒に行きます」
塀から降りて、コニーのすぐ隣に立つ。こうすると彼は私より小さいのだけれど、私よりもずっと逞しいのだ。
サシャ「手、繋いでくれませんか?」
彼は少し驚いたような表情をした後、戸惑うように視線を泳がせた。
その行動の真の意味を察することは出来なかった。ただ何となく周りに気を使って、気まずそうにしているようだった。
それでも彼はいつものように、私の手をとってくれた。
サシャ(やっぱりあったかい……)
ずっと、ずっとこうして
あなたの隣にいられたら
この上なく幸せだから
コニー「じゃあ行くか、サシャ」
サシャ「はいっ!」
これからもずっと、傍にいさせて。
サシャ編終わり
次からコニー編です。このシリーズはコニーから始まったので最後もコニーで締めます。
また上がってたら読んでもらえると嬉しいです。支援ありがとうございます。
トロスト区奪還作戦開始
「無理な戦闘は避けろ!」
「今だ! 離脱!」
「きゃぁあああ!!」
コニー「……」
コニー(戦闘を避けたところで、巨人は俺達を避けちゃくれねぇんだよな)
壁上には次々と負傷兵が運ばれる。すでに殉職した者の数と合わせると、ここで待機している兵士の数よりも多い。
あちらからも、こちらからも叫び声が聞こえる。この当てのない作戦のために、確実に兵士は失われている。
ジャン「エレンの奴、何があったんだ」
マルコ「アルミンが一人で向かってる。多分、大丈夫だろう」
壁を上ってきたジャンがマルコと会話する。俺はそれを聞きながら、ぼんやりと思考を巡らせた。
コニー「巨人を街の隅に集めるなんて、無駄としか思えねぇよ」
独り言のような俺の言葉に反応を示したのはジャンだった。
ジャン「巨人との戦闘は、必ず消耗戦になる。今の段階で、兵の損失は避けたいんだろう」
コニー「……今の段階で亡くなる兵士は、無駄死にってことか?」
ジャン「いずれ総力戦になる! その時まで、兵を温存しておくのは当然だ! 俺は正しい」
コニー「……」
正しい、か。
マルコ「コニー?」
コニー「ま、損失にならねぇようにしようぜ」
コニー「お互いに――」
なぁ、ジャン。
俺はバカだから、お前の言う正しい考え方がわからねぇ。
ここに横たわる兵士達は、お前から見れば、この戦いの損失って言える奴らなんだろうけど、
でも、そいつらだって人間なんだろ?
一人一人違う――人間なんだろ?
お前は多分、考えたことないんだろうな。
もし次に聞こえてくる悲鳴が、ミカサだったらって。
ミカサは強い。お前もミカサの強さを信用してる。きっとミカサはこんなところで死なない。
けど俺は、俺は怖くて仕方ないんた。
次に聞こえてくる悲鳴がもしかしたら、
補給所で隣で聞いた、あの場違いに敬語の悲鳴じゃないかって。
――サシャ。
「キルシュタイン班、前進!」
ジャンに対する見解が大きく変わったのは、作戦終了から二日後、あいつの口からマルコの死を告げられた時だった。
本編再開前に、>>32のアニメからのセリフ引用にミスがあったので修正
ジャン「いずれ総力戦になる! その時まで、兵を温存しておくのは当然だ! 俺は正しい」
×俺は正しい
○上は正しい
リスニング力の欠如。
引き続き投下します。
その報告を俺は、サシャと一緒に聞いた。近くにはクリスタ、ユミル、アルミンもいた。
みんなの無事を知ってようやく落ち着いてきた気持ちが、一気に叩き落された。
俺はどうしても信じられなくて、ジャンに詰め寄った。クリスタは俺がわめき散らしている間、茫然としていた。
6位、8位、9位、10位。
7位が死んだ。
もう、誰が死んでもおかしくない。
俺達は何のために兵士になったんだ?
巨人を倒すため?
訓練兵団でも特に優秀と認められた兵士でも、勝てなかった相手だというのに。
壁を守るため?
簡単に壊されてしまうことが、今回のことで分かったというのに。
中途半端な技術と知識を植え付けられて、
過度な任務と期待を背負わされて、
死んでもそれは、ただの「損失」。
なぁ、
俺達は、
何のために――――
作戦終了より四日後
夜
戦死者火葬
大きな炎が、天にも届くような勢いで燃え盛る。俺はしゃがみこんで、その火元をじっと見据えていた。
サシャ「コニー」
サシャがおそるおそる、といった感じで近づいてくる。あの日以来、まともに会話を交わしていないせいだ。
隣に腰を下ろしたのが分かっていたのに、俺はサシャの顔を見ることが出来なかった。今までこんなこと、一度もなかった。
サシャ「コニー、最近元気ないですよね」
サシャ「そりゃあこんな状況ですし、元気でいる方がおかしいかもしれませんけど」
サシャ「でも何だか、ご飯もちゃんと食べてないみたいですし」
サシャ「その……心配で」
何か俺に喋って欲しくて、彼女は今日も俺に語りかける。分かっているのに、俺はどうしても返事が出来ない。
その時、不意にジャンの声が耳に入った。
ジャン「俺は、調査兵団になる」
そこでようやく、俺は声を発した。
コニー「は……?」
立ち上がる。ふらふらとジャンに近づく。
コニー「ジャン、お前……今何て?」
ジャン「調査兵団になる、って言ったんだ」
コニー「何言ってんだお前。お前はずっと、憲兵団にって――マルコと一緒に」
ジャン「あぁ」
コニー「じゃあ何で……何でそんなことが言えるんだよ? お前死にたいのか?」
思わずジャンの肩に掴みかかる。ただならぬ気配を察して、サシャが立ち上がるのが目の端に映った。
ジャン「そうじゃねぇ」
コニー「じゃあ何で」
ジャン「俺がやるべきことをやるためだ」
コニー「それは、自らお前の言う損失って奴になることかよ」
ジャン「そうじゃねぇって言ってんだろ!」
コニー「何が違うんだよ!」
サシャ「コニー、やめてください!」
ジャンの肩を強く揺さぶる俺を見兼ねて、サシャが止めに入った。それも俺には、苛立ちを増す材料にしかならなかった。
遠くでクリスタの泣き叫ぶ声が聞こえる。ベルトルトがバカ夫婦の遺品を見つめている。
ジャンの目に迷いはない。
何でだよ?
誰だって死にたくないだろうし、死んだら悲しむ奴がいるはずだ。
なのに何でお前は、そんな選択が出来る?
どうしてお前はいつもいつも、俺より先にいるんだよ。
サシャ「コニー……」
サシャの手が、俺の手まで伸びてくる。ゆっくりと、何かを探るように。
俺は。
その手を、振り払った。
作戦終了より六日後
今日、所属兵団が決まる。もうどんなに迷ってても決めなくてはいけない。
俺は誰もいなくなった男子寮で自分のベッドに腰掛け、頭を抱え込んでいた。
あと一時間。
それがタイムリミットだ。
コンコン、コン。
ためらいがちなノック音。俺は返事が出来なかった。誰が来るかは分かっていた。
本当は、俺から会いに行くべきだった。けど自分の答えが見つかっていないのに、訪ねに行く勇気は出なかった。
ドアノブの小さな金属音を鳴らして、サシャがこちらに顔を覗かせる。扉の向こう側から、手引きした男子の声がする。
ジャンの声だ。
俺は頬を引きつらせた。
結局俺はこのつまらない嫉妬心に、最後までつきまとわれるのか。
――最後。
サシャ「コニー」
二段ベッドの下に腰かける俺に近づいて、サシャの声が上から降ってくる。俺は俯いたまま黙り込んだ。
サシャ「何も答えたくないのなら、このまま聞いて下さい。私が話します」
サシャ「もう……これが最後かもしれませんから」
そうだ。
最後なんだ。
希望する兵団が違えば、もう今までのように会うことはない。
サシャにはもう、終わりが見えているのか――俺達の。
予告:次の投下で完結させる。ことが出来たらいいな。
スーパースローペースなのに辛抱強く読んでくださってるあなたにメリークリスマス
サシャ「ずっと考えていたんです。最近、コニーの様子がおかしい原因は何なのか」
サシャ「最初は、仲間が一度にたくさん亡くなってしまって、虚しさを感じているのかと思ってましたけど……だんだん、それだけじゃないように思えてきて」
サシャ「火葬の時、ジャンと口喧嘩したでしょう? あの時コニーが言ってた言葉が気になって、ジャンに聞いてみたんです」
サシャ「……コニーは、損失になるのが怖いんですか?」
一息つく。少しの間の沈黙。
サシャ「私も、まだ怖いです。補給所の時も、奪還作戦の時も、私は運よく生き残っただけです」
それは、と、声になるかならないかの声が出た。サシャは俺が言い終わるまで待つ気でいるようだった。
コニー「……それは、俺も同じだ」
サシャ「そうですよね。でも、私達は生きてるんです。生きてるだけでも、よかったじゃないですか」
コニー「……」
サシャ「コニー?」
コニー「死んだ奴らにも、同じこと言えるのかよ」
サシャ「え?」
言葉に出してみてようやく、俺が未だサシャの顔を見られない理由が分かった。
コニー「お前の言う通り、俺達が生きてるのは運がいいだけだ」
コニー「ほんの少し何かが変わってたら、俺らだって損失の一員になっていた」
コニー「でも、それでも生き残ってるってことは、俺らの代わりに誰かが死んで、俺らの代わりに損失になったってことだ」
コニー「それなのに自分がまだ生き残ってることを、ただ喜んでるだけでいいのか?」
コニー「死んだ奴らの前で、それを言葉にして言ってもいいのか?」
自分の代わりに誰かが死んでいるのに、生きてよかったと思っていいのか。
『手、繋いでくれませんか?』
思えばあの時サシャの手をすぐに取れなかったのも、似たような感情のせいだった。
そう、俺は――後ろめたいんだ。
今生きている自分が、死者の前で恋人の傍にといようとすることが。
生きて恋人にすがりながら、もう物も言えぬ死者と向き合おうとすることが。
自分の中の葛藤が認識できたその時、サシャがさっきの問いかけの答えを出した。
サシャ「……私は、言ってもいいって、思ってます」
サシャ「皆が無念に思ったこと、私は皆の代わりに全部やってあげます」
サシャ「皆の夢、皆の希望、全部全部背負います」
サシャ「だって、私達は生きてるんですから。私達にしか出来ないんですから」
サシャ「皆のおかげで私達の命が繋がっているのなら、皆のためにも精一杯生きたい」
サシャ「コニーがあの時言ってたことは、そういうことだって、私は思っていたんですけれど」
『生きてるよな、俺達』
サシャ「あれは……自分がまだ死んでないことを、確認したかっただけなんですか?」
俺は言葉が続かなかった。代わりにサシャは、今までで一番語気を強めて言った。
サシャ「私、調査兵団に行きます」
サシャ「ついてきてほしいとは言いません。兵団を決めるのは、自分の意志ですから」
サシャ「でも……コニーが憲兵団か駐屯兵団を選ぶなら、ここでお別れになってしまうから……だから」
声が少しずつ、震えを帯びてきている。一呼吸おいて、彼女は一気に吐き出した。
サシャ「絶対、死なないで下さいね」
サシャ「私が見てないところで、死んだりしないでください」
サシャ「兵団が違うんじゃ私、コニーに何も出来ないのに、勝手に死なれるなんて嫌ですからね」
サシャ「あと、ご飯はちゃんと食べて下さいよ? 私が近くにいないからって、嫌いなもの残さないで下さいね」
サシャ「新しい配属先で上官に頭掴まれるようなこと、ないようにして下さいね」
サシャ「それから――」
サシャ「それから……」
サシャ「どうか、いつまでも元気で」
その言葉に、俺はようやく顔を上げた。
彼女はもう踵を返していた。ドアノブをひねり、扉の向こうへと消えていく。
かつて彼女に買ってあげた、白い花の髪飾りが遠ざかる。
一番欲しいと心から望んだ、彼女の笑顔が脳裏に浮かぶ。
俺は
どこまで馬鹿なんだ
コニー「――サシャ!!」
◇
エルヴィン「――ではここにいる者を、新たに調査兵団に迎え入れる!」
エルヴィン「これが本物の敬礼だ。心臓を捧げよ!」
一同「はっ!!」バッ
コニー「……」
サシャ「……」
結局俺は、調査兵団に入ってしまった。
もう後戻りは出来ない。震える心臓を右手の拳で上から抑える。
すると、喉を引きつらせて出しているような声が聞こえた。右隣に視線を向ける。
サシャ「っく……うぇ、えっ」
彼女が、泣いていた。
コニー「サ、シャ……?」
サシャ「怖いよぉ……村に帰りたい……っ」
我慢していたものが、一気に溢れているというような涙だった。顔をくしゃくしゃにして、頬を濡らしている。
今度こそ俺は、サシャの手をとって握りしめた。
心臓を捧げた右手を伸ばし、背中に回されたサシャの左手を掴んで引き寄せた。
サシャはびっくりした顔でこちらを見た。俺はふさがった右手の代わりに、左手の拳で心臓を捧げた。
懐かしい姿勢だ。
エルヴィン団長が俺達の様子に気づいて近づいてくる。サシャももちろんだが、他の奴らの空気も一気に変わった。
丁度、隣のこいつが教官の前で芋を食ってた時みたいだ。
団長は小さく含み笑いをしながら言った。
エルヴィン「君の心臓は右にあるのか?」
たまらず吹き出す声が、あちこちから聞こえてきた。
それから俺達は
何度も傷つけたし
何度も傷つけられたし
何度も死線をくぐり抜けた。
巨人に加えかつての104期の仲間と戦うのは精神的にも堪えた。
死んだ奴もいたけれど、生き残った奴もいた。
誰かが死ぬたびに誰かが泣いた。
俺も泣いた。サシャも泣いた。
そして
戦いを終えて
俺達はまた幾月も共にいて
幾年も傍にいるのがあたり前になって
そして
そして――……
「怖くなかったか」
「怖くはないですよ」
「痛くないか」
「すごく痛いです」
「うっ、悪りい……止まんなくて」
「大丈夫ですよ。私もそう望んでたんですから」
「今、どんなこと考えてる?」
「コニーも大きくなったんやな~、と」
「ぶっ、何だよそれ」
「そのまんまですよ。身長は結局私を抜かせられませんでしたけど、心が大きくなりました」
「俺は抜かしたかったんだけどな」
「残念ながら無理のようですね」
「サシャ、もう俺に遠慮しなくなったよな」
「遠慮してましたか?」
「あぁ」
「そうですか……でももう私、例え自分がどんなことをしても、コニーにはきっと軽蔑されないっていう自信がつきましたから」
「当たり前だろ」
「ふふっ……ありがとう」
「俺の方こそ……お前のおかげで」
今、すごく幸せだ。
「父ちゃん! 勝負だ!」
「おっ、いいぜ。何の勝負がしたいんだ?」
「かけっこ!」
「よし、じゃああの木まで競争だ」
「うん!」
「行くぞマーティン。よーい、どん!」
「ママー、なに作ってるの?」
「お洋服ですよ。生まれてくる赤ちゃんのために」
「サニーも! サニーも作る!」
「じゃあ、そこにある布をハサミで切ってくれますか。線に沿って」
「はーい!」
「サニーは優しい子ですね」
「だってうれしいんだもん!」
「そうですね。私も嬉しいです。また家族が増えることが」
これから先、どんな未来が待っているのか
それは誰にもわからないけれど
みんなに守られた、この魂が尽きるまで
十年後も、二十年後も、二千年後も
「コニー」
「サシャ」
一緒に生きよう。
終わり
読んでくださった方、支援してくださった方ありがとうございました。
これにて終了とさせていただきます。
シリーズ全作一覧
サシャ「コニー!勝負しましょう!」コニー「勝負?」
ユミル「劇場のチケット?」ベルトルト「あっ!」
ベルトルト「このチケット、どうしよう……あれ!?」
アルミン「えっ、僕の好きな人?」
クリスタ「私、マルコが好きなの」
ユミル「別れよっか、ベルトルさん」
ベルトルト「お別れだね、ユミル」
コニー「後でたっぷり軽蔑してやる!」サシャ「!」ガーン
(以下転載禁止)
処女作から半年以上かかりましたが、ようやく終着点となりました。
このシリーズの合間にトリなしでいろいろ短編も書きましたがそれも楽しかったです。
今作でSSの投下は最後に決めましたが、他の進撃SS作者の方も応援しています。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
乙ありがとうございます。
大事なこと書き忘れていたので追記。
このシリーズとトリなしの短編を、修正等加えてどこかネット上にまとめて保管しておこうと思います。
まだ保管する場所は作っていませんが、どこかでお見かけすることがあっても、一応無断転載ではないということだけお伝えしておきます。
(転載禁止)
まだ落ちてなかったようなのでご報告
保管所ができました**http://rsh9flrpim.blog.fc2.com/
シリーズものは修正に時間がかかるので、修正完了次第ここに入れていきます
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません