女「貴方は人間ですか?それとも人狼ですか?」(109)

このSSはウェブ漫画「汝は人狼なりや?」の世界観を流用した二次創作です。
これを機に少しでも人狼ゲームに興味を持っていただけたら幸いです。

極力、用語の解説を入れていきますが、もし不明な点があれば遠慮なく質問をどうぞ。
その日の投稿終了後にまとめてお答えいたします。

プロローグ
~?の部屋~

貴方は『汝は人狼なりや?』というゲームを御存じですか?

それは複数の陣営に分かれたプレイヤー同士が会話と議論を駆使し、相手の陣営を倒すチーム型の推理ゲーム。
実際に顔を合わせて、チャットや音声通話で、あるいはBBS利用して数か月もの長期に渡って1ゲームをプレイすることもありますが、
行う媒体がどれであれ一筋縄では勝てないようによく練られたルールと、人間同士で行うからこその複雑さが人気の秘訣といえるでしょう。

これは、そんなゲームに没頭する人たちのお話。

さぁ、貴方は人間ですか?人狼ですか?
あるいはそれ以外のナニかかしら?

―ペラッ…

第一章 村人
~自宅~

男「暇だなぁ…アニメもだいたい消化しちゃったし」ノビー

男「ゲームも飽きたし、なにすっかねぇ…」

男「そうだ、面白いスレは立ってねぇのか?」カタカタ

男「某巨大掲示板群、なんでもっと……」カタカタ

男「お?なんだこれ?“みんなで人狼”?」カチッ

男「ネトゲの募集みたいなもんかな?」カチッ

男「定期的にリンクが貼られてるけど、他は保守ばっかだな…」

男「専用のwikiまであるのか。どれどれ」カチッ

男「………」

男「つまりみんなで議論して、参加者の中から人狼役を見つけ出すゲームだな?」

男「暇つぶしにはよさそうだな。じゃあ俺の超頭脳を披露してやるか」フフッ

男「でもその前に予習予習っと…あってよかった解説漫画ー♪」

……………

………

男「……眠い…今何時だ?」タシッ

時計「ピピッ、15:25です」

男「ふぁぁあ…昨日は結局ぶっ通しで解説漫画を読んでて参加できなかったなぁ」ノビー

男「読み終わってから寝ちゃったし」

男「例のスレはっと…」カタカタ

男「立ってねぇな。まぁ平日の昼間に立ってるわけないか」

男「飯食ってこよっと」ガタッ

男「ちなみに俺は冬期休暇中の大学生であってニートじゃないからな」キリッ

男「虚しい…とにかくお湯沸してこよう」トボトボ

※汝は人狼なりや?の基本解説
汝は人狼なりや?(通称:人狼ゲーム)は基本的には参加者が複数の陣営に別れて議論するゲームです。
村人陣営は昼間に村人のフリをしている人狼を昼間の話し合いで推理し、多数決の投票で1人を処刑します。
人狼陣営は村人に交じって議論し、投票するところまでは村人陣営と同じですが、夜中になると村人を1人襲撃する事が出来ます。

この“昼間”と“夜中”を繰り返し、最後に生き残った陣営が勝利となります。
(※処刑・襲撃:通称でそれぞれ「吊り」「噛み」と呼ばれている)

男「気が付いたら22時…ボーっとしてると時間たつのが早いなぁ」ボー

男「でも1日損した気分になる」

男「さて…と、そろそろスレ立ってるかな?」カタカタ

男「スレ一覧から“人狼”で検索っと」カタカタ

男「あったあった、昨日とは名前がちょっと違うけどこれだな」カチッ

男「ログを見る限りだとリンクは張られたばかりっぽいな」カチッ

男「お?いい感じだ。点呼は22:15。あと10分くらいか」

男「えぇと?wikiによると参加するにはIDを作成して……」カタカタ

男「アイコンはなんでもいいけど…じゃあこの帽子の男でいいか」カタッ

男「最後に役職だけど…wikiによると初心者の役職は村人がいいんだよな」カタッ

男「OKこれで参加!」ターンッ!

~ネット人狼~

男『こんばんは』

漁師『エントリィィイイイイ!!!!』

衛兵『うるさいぞ海兵!だいたい漁師なのに海兵というのがおかしいのだ!』

司書『今日は人が集まるな』

花屋『おじさんたち毎日が日曜日でしょ』

神父『ににに、ニートちゃうわ!』

大工『嘘乙』

執事『騙りだ、吊れ』

男「へぇ、いろんなアイコンがあるんだな」

男「あ、この子可愛い」ブヒブヒ

男「でもこの子も良いよね」ゲヘヘ

男「っとこんなことをしてる場合じゃない。編成は妖魔?狐って言われてる奴な」

村 人・・・村人陣営:このゲームの基本となる役職。特殊な能力は持たないが比率が一番高い。
占い師・・・村人陣営:夜中ごとに1人だけ参加者を占い、どの陣営に属すかを知ることができる。
霊能者・・・村人陣営:処刑された人がどの陣営に属すかを知ることができる。
共有者・・・村人陣営:2人一組の役職。夜中に2人だけで会話することができる。
狩 人・・・村人陣営:夜中に1人だけ護衛することができる。護衛先を人狼が襲撃した場合は犠牲者が出ない。
人 狼・・・人狼陣営:夜中に人狼だけの会話を行うことができ、夜中ごとに1人だけ襲撃することができる。
狂 人・・・人狼陣営:占い師や霊能者の結果は村人と判別されるが、人狼陣営に味方する特殊な村人。
妖 魔・・・妖魔陣営:通称「狐」と呼ばれる第三陣営。人狼に噛まれても死亡しないが、占い師に占われか、処刑されると死亡する。
村人・人狼のいずれかが全滅した時に生き残っていると単独勝利となる。

男「俺は村人だから、とにかく発言して推理すればいいはず」

男「参加者16人。初陣を勝利で飾るぜ!」

―人狼が勝利しました!あなたの負けです。

男「………」プルプル

男「だー!!最初の投票で吊られちゃ推理もくそもねぇよ!」ダンッ

男「なんだ?初心者狩りか?」

男「いや、あの段階で判断できるわけないよな」

男「なんでだ?僅差どころかかなりの票が集まってたはず…」

男「聞けばわかるか?」カタカタ

男「………」

~ネット人狼~

男『初日で吊られてしまった。なぜ?』

魔女『あー新規ちゃんかー』

衛兵『ログを読めばわかるけど、おはステ吊りじゃない?』
(※おはステ:おはようステルスの略。朝の挨拶以降発言しない=ステルス状態になること)
(議論するゲームである人狼において、ステルスは禁止行為とされるため吊られやすい)

漁師『俺もステ吊りで投票した』

医者『同じく』

大工『とにかく喋れ』

花屋『他の人の発言読むのに必死になりすぎた?ログ読んでみな』

男「おはステ吊り?ログは…これか」カチッ

男「………」

男「みんないろいろ喋ってるように見えるけど、ほとんど把握としか言ってない」

男「たまに推理や役職の内訳を書いてる人もいるけど、9割はその場に任せてるだけだ」

男「俺は確か他の人の発言の穴探しに躍起になってたな」

男「っくそ…いらない情報に踊らされ過ぎたってことか」

男「改めてみると確かに朝の挨拶くらいしか喋ってねぇな俺」

男「……よーしもう一戦だ!」

……………

………

~1週間後:自宅~

―村人が勝利しました。あなたの勝ちです。

男「ふー…やっぱ殴り合いは緊張するわ」
(※殴り合い:参加者同士で議論を行い、相手の考え方や陣営を推理すること)

男「初陣からもう1週間か」

男「参戦回数も20は越えたし、新規脱却くらいはできたかな」

男「まぁ通算勝率は良くないんだけどね」

男「でもプレイが夜から深夜ばっかりなだけに昼夜逆転しそうだわ」タシッ

時計「ピピッ、2:30です」

男「っと終わりのあいさつも書き込んでおかないとな」カタカタ

~ネット人狼~

男『お疲れ様。今回はかなり推理が当たったぜ』

魔女『お疲れ様。かなり喋れてたし、もう新規脱却だね』

漁師『くっそ、あそこで殴られなければいけると思ったのに』

神父『ふぇぇ、男の天狗鼻をへし折りたいよぉ』

執事『人外だ、吊れ』

神父『執事がいじめるよぉ。ふぇぇ…』

大工『次村はよ』

司書『お疲れ様。いい勝負だった』

花屋『成長早いなー。もうステ吊りはされないんじゃない』

男『ありがと。勝ち逃げだけど今日は寝ます。お休み』

ゲームに集中していて気がつかなかったが携帯にメールが入っていた。
高校時代の友人から遊びのお誘いのようだ。

男「たまには会うのも良いかな」カチカチ

メールを返し、パソコンの電源を落としてベッドにもぐりこむ。
あの時あぁすればよかった。この切り返しは抜群だった。
今日行った4戦の内容をざっと反芻して一喜一憂するのもこのゲームの楽しみの一つだ。

明日はどんな勝負が出来るだろうか。そんな期待を抱きながら眠りへと落ちてゆく。
勝利の昂揚感で気分が良いだけによく眠れそうだ……

……………

………

~??~

男「ここは…どこだ?」

目を覚ますと真っ白な天井が目に入った。
しかし病室のようには見えない。ここはまるで…

男「まるで漫画の中じゃねぇか」

そう、人狼ゲームに興味を持った最初の日、専用のwikiページで紹介されていた漫画の部屋にそっくりなのだ。
真っ白な部屋、壁に掛けられたモニターとテーブルの上に置かれた封筒やノート
そして自分…主人公がいきなり部屋に運ばれている状況。何から何まで見覚えがある。

男「おいおい…だとしたらこりゃ…」

眠気は吹き飛び寒気がする。自分の思っている通りだとすれば、この状況は即ち命懸けだ
ベッドから転げるように降りて机の上の封筒とノートを手に取った。

男「と、とにかく役職を確認しないと!」

チリンチリーン

震える手で封筒を開こうとした瞬間、頭上から鈴の音が聞こえる。
続いて聞こえてきたのは澄んだ女性の声だ。好みの声だが今はそれどころではない。

声『それではこれより汝は人狼なりや?を開催いたします』

声『皆様方の役職につきましてはテーブルの上の封筒の中をご確認ください』

声『役職の編成につきましては各部屋のテーブルに置かれたノート1ページ目を…』

声『参加者の顔と名前はノート2ページ目以降をご覧ください』

声『なお、今回のゲームにおいて最初の犠牲者は初日犠牲者さんとさせていただきます』
(※初日犠牲者 以下「初日」)

声『初日さんの役職は必ず村人。役職が欠けることはありませんのであしからず』

声『また、室内の物は自由に飲食・使用してくださって結構ですので、どうぞおくつろぎください』

チリンチリーン

再び鈴の音が鳴って声が途切れた。
突き付けられる現実。やはり人狼ゲームに巻き込まれたのだと思い知らされる。
震える手で封筒を開き、中に入っていたカードを取り出した。

カードに書かれている役職は『村人』このゲームの基本であり、始めてからずっとプレイしてきた役職だ。

慣れ親しんだ役割に安堵の息をつき、次にノートを開いた。
編成は初日を含めて16人。妖魔ありの典型的な狐村…と呼ばれるものだ。
(※役職内訳:村人6 人狼3 占い師1 霊能者1 狩人1 狂人1 共有者2 妖魔1)
時間編成は全員が顔を合わせて議論する“昼間”が2時間
部屋に戻って作戦を練る“夜中”が1時間

壁に掛けられた時計に目を移すと11時を指し示していた。
共有者や人狼であればこの1時間で仲間と相談するだろう。
占い師や狂人、あるいは妖魔であればどう進行するべきか想定するかもしれない。
だが、村人はやる事がない。
時計の針が真上で重なった時が村人のゲームスタート……というのは普段の話だ。

今まで通りインターネット上のゲームであれば、その初日夜中分の差は気にすることはないのだが、
この状況に措いてはその1時間は村人にも利用価値がある。
つまり状況の整理が出来るのだ。ゲームの事を考えず、冷静さを取り戻すための1時間。
イスに座り、ゆっくりと目を閉じた。

……………

………

チリンチリーン

声『間もなく夜が明けます。参加者の皆様は役職カードをモニターの横にあるカードホールに差し込み、中央広場へお集まりください』

時計の針は11時59分……
澄んだ声が聞こえる。淡々とした事務的な声に感情は読み取れない。

―ガチャン!!

放送から1分後。錠の外れた音がわざとらしいくらい大きく響く。
1時間の間に身だしなみを整えた。服装はワイシャツにジャケット、それに中折れ帽
奇しくもインターネット上の人狼ゲームで最初に選んだアイコンと同じような服装だ。
もっとも一番奇妙なのは小柄な自分にサイズがピッタリだった事だが、今はそれを考えても仕方ないだろう。

胸ポケットに入れてあった『村人』のカードを壁掛けモニターの横にあるホールへ入れると、再びドアから解錠される音が聞こえた。

男「なるほど…これならカードが持ち出せないわけだ」

役職カードは絶対に一人一枚しか持っていない。
外の世界ならまだしもこの部屋に閉じ込められている状態で偽造は不可能と言っていい。
ならば、それを持ち出して村人全員が提示すれば勝負がつくと思ったのだが、現実は甘くないらしい

男「とにかく、勝てば生き残れるなら勝つしかないわけで」

男「ここは俺の超頭脳を披露してやるか」フフッ

不安を隠して笑って見せる。震える膝は叩いて黙らせる。
例え虚勢でも張り続ければ本物になりえると信じて、白い扉を押し開いた。

とりあえずここまで。
内容でも文の作り方でも、気になる事は遠慮なくどうぞ。

人狼詳しくない奴でも理解できるような構成になるのかな
とりあえず期待しとく

第二章 霊能者
~2日目 昼間:中央広場~

部屋を出て中央広場に着いたころにはすでに何人かの参加者がいた。
漫画のようなビン底眼鏡をしている男。白い着物に赤い袴を穿いた巫女服の女。
真っ黒なフードで顔を隠している男もいるし、ゴスロリのドレスを着ている女もいる。
服装はゲームマスターの趣味なのだろうか?やはり全員が全員、サイズが合っているようだ。

どうやら各部屋は、円形の中央広場から16方向に伸びた通路の先に一つずつあるらしい。
広場の中央に置かれた円卓にはまだ誰も座っていない。
ほとんどの人物が困惑したようにきょろきょろとあたりを見回しているだけで、会話すらなかった。

チリンチリーン

声『2日目の朝を迎えました。昨夜の犠牲者は初日さんです』

声『やはり人狼はいたのです。話し合いの結果、村人達は人狼を処刑するために投票を行うことにしました。』

システムメッセージのような放送を聞いてざわめく参加者を横目に、
自分の隣の部屋から出てきたらしい白衣の男はタバコに火をつけたのが見えた。

(白衣の男 以下「白衣」)
白衣「ったく…しょうがねぇな…」

ため息をつくように紫煙を吐き出し、白衣は円卓を叩く

白衣「騒いでないで全員座れ。もう昼間は“始まってる”」

白衣の一言を聞き、全員が自分の部屋の前のイスに座る。
1、2、3……12、13、14……14?
死亡した初日を含めて参加者は16人。先ほどの放送の通りなら15人いなければおかしいはずだ

男「14人?1人いないのは誰だ?」

空席を探すと並んだ2つの席が目に入る。
その先にある通路の上には白板に黒で『デブ』その隣の部屋は赤板に黒で『初日』と書かれたプレートがかかっている。
なるほど死亡判定になるとプレートが赤くなるのだろう。

??「リアルで完ステなんて、笑えない冗談だヨ」

誰かが呟く。確かに、この状況で寝坊でもしたとなれば大間抜けも良いところだ。

白衣はあからさまに舌打ちして立ち上がり声を上げる

白衣「話がすすまねぇから“今”だけは俺が仕切らせてもらう」

白衣「この状況に覚えのある奴が大概だと思うが、理解できてない奴がいたら挙手しろ」

お互いがお互いを見回す。
誰も手を上げないところをみると、どうやら全員がこの状況を理解しているらしい。
それも施設などに大きな動揺を見せないあたり、全員が解説漫画の既読者と見ていい。

白衣「ならいい。飲み込めてねぇ奴に説明してやるほど時間はねぇからな」

白衣「じゃあ朝の挨拶代わりに簡単な自己紹介をしていこう。顔と声を一致させたい」

??「賛成だ。俺も全員の声を聞いておきたい」

??「賛成…ぜひお願いしたい…」

??「………わかりました。では私から始めさせてください」

空席となっている初日の隣の席の女性が立ち上がる。長い黒髪がサラリと揺れるのが見えた。遠目に見てだがかなり美人のようだ。

(黒髪の女 以下「黒髪」)
黒髪「参加者リスト1番目の黒髪と申します。私がリスト先頭ですので以降は時計回りに挨拶しましょう」

この円卓での時計回り。つまりリストの掲載順に挨拶する運びのようだ。
わかりやすくて良い。

(仮面の男 以下「仮面」)
仮面「番号2。仮面だヨ。よろしくネ」ユラッ

(軍服の男 以下「軍服」)
軍服「3!軍服と申す!よろしくお願いいたす!」ガタッ

(おさげ髪の女 以下「おさげ」)
おさげ「4番。おさげだよ。よろしくね」ペコッ

(ビン底メガネの男 以下「眼鏡」)
眼鏡「5番眼鏡だ。よろしく頼む」フンッ

(赤目の少年 以下「赤目」
赤目「赤目です…番号は6番……」オズオズ

(白い帽子の女 以下「帽子」
帽子「7番。帽子と申します」ペコリ

白衣「8番目、白衣だ。さっきは仕切って悪かったな」フー

携帯灰皿にタバコを押しつけて白衣が挨拶した。
ぶっきらぼうな喋り方だが意外と常識人なのかもしれない。
続けて立ちあがって声を上げる

男「9番、男だ。よりょしゅ……」

緊張して噛んでしまった。顔が熱い。
そこかしこでクスクスと笑いが聞こえて顔が赤くなっているのがわかったが、言い訳しても仕方がない。

(ゴスロリドレスの女 以下「ドレス」)
ドレス「ふふ、落ちついていきましょう?10番、ドレスと申します」スッ

(スーツの男 以下「スーツ」)
スーツ「緊張していては仕方ない事ですよ。番号11。スーツと申します」ペコリ

(小柄な女性 以下「オカマ」)
オカマ「12番。オカマ」ペコッ

小柄な女性だと思っていたところから聞こえてきた声は随分と低く、座っていた全員が驚いてオカマへと視線を投げる。
当の本人はどこ吹く風、澄ました顔でいるあたり、こういう反応に慣れているのだろう。

(巫女服の女 以下「巫女」)
巫女「えぇ…とすまん、13番の巫女だ。なぜこんな服が用意されていたのか皆目見当もつかん」ペコッ

(フードをかぶった男 以下「フード」)
フード「14番フードだ。顔は隠させてもらうが、仮面をつけてる奴がいる以上は問題あるまい」ユラッ

席についていない1人と死亡した初日を除くなら、全員の自己紹介が終わっていざ話し合いを始めようというその瞬間、中央広場に声が飛び込んだ。

??「すみません!遅れました!」

入ってきたのはやや小太りの男。服装こそ寝巻でないものの、撥ねた髪の毛が寝起きで有る事を物語っている。

白衣「席に座って自己紹介しろ。まだそれくらいしかやってねぇ」

(小太りの男 以下「デブ」)
デブ「遅れてすいませんデブと言います。え?………あ、リスト番号は15番です」

白衣とフードに促される形でデブが自己紹介を終えて着席すると沈黙が流れた。
いよいよゲーム開始だ。

巫女「では私から、占いCO。占い先は黒髪で結果は○だ」
(※CO:カミングアウトの略。自分の役職を宣言するときに使用する)
(※○●:占い師・霊能者の結果表明。○の場合は村人陣営または狂人を指し、●は狼を示す)

帽子「あら、巫女さんが対抗ですか?占いCO。仮面さん○です」
(※対抗:役職者から見て偽物を指す。区別する為に本物は「真」と呼ばれる)

巫女のCOにすかさず帽子が追従する。
2日目は基本的に役職がCOして村人はそれを見届ける場合が多く、ある意味テンプレートのような流れだ。

おさげ「占いが2人だね。もう対抗はいないかな?」

仮面「ボクを占ったんダ?とりあえず了解したヨ」

スーツ「把握しました。霊能者も出て良いのではないですか?」

白衣「同意だ。占いが○のみなら霊能も出てほしいな」

占い師の候補が2人と決まるや、今度は霊能者へのCOを促す声が上がる。
一概にこの動きが正しいとはいえないが、占い師の結果が全て○だった場合は大体がこうだ。

赤目「霊能CO…です…」

フード「霊能COだ。ここは出ておくべきだろう」

赤目とフードがほぼ同時に声を上げる。
自信なさげな赤目と自信に満ちてそうなフードの言い方が対照的で少し面白い。

男「霊能も2人か?なら霊ロラで良いんじゃないか?」
(※ロラ:ローラーの略。この場合は2日連続で霊能者候補を処刑すること)

オカマ「男の意見に賛成。ここは霊ロラすべき」

ドレス「異議はありません。投票先は怪しいと思う方にさせて頂きます」

フード「妥当な判断だ。おそらく対抗は狂だろうが、少しでも情報を残せるようにしよう」

赤目「た、確かに筋だけど…考えなしに霊ロラはどうかな。占いを判別するのに役立てると思う…」

軍服「占いの判別など霊能の真偽がついてない以上は参考にならん!」

黒髪「決めつけるのは早計ですけど、赤目さんは真には見えませんね。霊ロラに賛成します」

デブ「霊ロラは良いけど共有は出ないの?」

眼鏡「ここで共有が出ても護衛先がぶれるだけだ。出る必要はない」

白衣「おいデブ。露骨な共有のあぶり出しは噛みたいからか?」

デブ「ち、ちがうよ!でも共有が出れば占い候補が減るし…」

巫女「無駄な占いが減るのは魅力的だが、それは今じゃなくても良いのではないか?」

各々の発言に、それぞれが難癖のように探りを入れていく。
この地点で分かっている事は、占いと霊能に1人ずつ偽物がいるくらいだ。
内訳はおそらく占いが真狼、霊能が真狂だろう。

霊能はCOが複数人いる場合ロラになる可能性が高い。
そこに吊られてはいけない人狼、狐が出るのはリスクが大きすぎると言えるだろう。
一方、狂人は霊能を騙る事で最低2回分の吊りを消費させることが出来る為に騙りやすい。
そう考えるなら霊能を放置したいところだが、人狼陣営である狂人を…
あるいは可能性が低くとも最悪の場合、人狼や狐を放置する事になりかねないのでロラをしないのは危険だ。

巫女「明日の占い先の参考にするからしっかり話し合ってくれ」

その発言が怪しい。この態度が怪しい。
難癖のような主張を繰り返し、時計の針が1:55を指す頃に鈴の音が広場に響く。

チリンチリーン

声『終了5分前です。皆さま投票をお願いします。記入後はテーブルの穴にお入れください』

その声と同時に、自分座っている円卓の一部が開いて投票用紙とペン…そして記入後の投票用紙を入れるらしい穴が現れた。
一応の方針は霊ロラだが、別段それに従う義務はない。誰が誰に投票したかは夜中の時間までわからないのだ。

男(投票先:赤目)カリカリ

声『………投票の結果、本日の処刑対象は赤目さんとなります。他の皆様は自室へ戻りお休みください』

チリンチリーン

ドレス「疲れましたわ…少し眠りたい気分ですね」

白衣「ったく、どうしたもんかな」

それぞれ思い思いの言葉を残して自分の部屋へと去って行く。処刑が決定した赤目はしばらく茫然と座っていたが、いつの間にか現れた黒服たちに連れられるように初日の部屋へと消えていく。
どうやらあそこが死亡判定を受けた者が待機する部屋になっているらしい。
緊張感からか、それとも別の昂揚感なのか、早鐘のように響く心臓を落ちつけるために深呼吸をひとつして、自室へと戻ることにした。

~2日目 夜中:男の部屋~

―ガチャン!!

わざとらしいほどの施錠音がする。まだ役職カードはモニター横のホルダーに入っているのだが、
扉があかないところを見ると2重ロックなのだろう。

イスを座り、テーブルにノートを広げる。
参加者の写真の横にはCOのあった役職が書き込んである。
本当は印象や気になったことも書き込みたいところだが、2日目の昼間ではそんなことも思いつかない。

―トントン…

男「っ!……」バッ

ドアをノック音に心臓が撥ねる。
漫画通りであれば、襲撃を受けるとゲームマスターが部屋を訪ねてくるからだ。
声を出すことも忘れてドアへ視線を向け、次の動きを待っているとドアの下部から何かが差し込まれてきた。

男「封筒?」

封を開くと名前の一覧と投票先が記載されてカードが入っていた。
どうやら今日の投票結果らしい。

黒髪さん は 赤目さん に投票しました
仮面さん は 赤目さん に投票しました
軍服さん は 白衣さん に投票しました
おさげさん は フードさん に投票しました
眼鏡さん は デブさん に投票しました
赤目さん は フードさん に投票しました
帽子さん は フードさん に投票しました
白衣さん は デブさん に投票しました
男さん は 赤目さん に投票しました
ドレスさん は 赤目さん に投票しました
スーツさん は 男さん に投票しました
オカマさん は 赤目さん に投票しました
巫女さん は 赤目さん に投票しました
フードさん は デブさん に投票しました
デブさん は 赤目さん に投票しました

投票の結果 赤目さん が処刑されました

男「概ねは赤目に投票か…」

従う義務がないとはいえ、霊能者を処刑する流れになった以上は赤目かフードに投票するのが基本だ。
逆に言うと、それ以外に投票した人間には何らかの思惑があるのだろう。

自分に投票したのはスーツ。丁寧な物腰の男性だったと覚えているが、投票されるいわれはあまり思いつかない。
もしかしたら探りを入れているのかも知れないが、明日の昼間に質問をぶつけてこちらからも探ってみることにしよう。

他に気になる投票と言えば、霊能者のフードと同じだけの投票を受けているデブだ。
もっとも、こちらは遅刻や共有者のCO促しなど不穏な点がいくつか見てとれるだけにわかりやすい。
村人だとしても的外れな行動をしすぎる奴は最後まで残してはおけない。
最後の最後で迷走して人狼側に有利な投票をしかねないからだ。

男「あれ?」

カードを眺めていて気がついた。
ゲームを開始する流れを作った白衣に対して、軍服が投票しているようだ。
軍服については比喩ではなく声が大きい人物だという印象しかないが、白衣が怪しかったという印象は受けなかった。
これも探りを入れているだけなのだろうか?

インターネットでは過去のログを見直すことが出来るが、実際に議論するとそうはいかない。
思い出せる限りで今日の発言を思い出して誰が怪しいのか思考を巡らせてみるが、
この段階で推理するなど初陣から1週間の男には到底無理な話だ。

考える事を止め、ノートの余白ページに投票カードを貼りつけてベッドに横たわる。

男「共有なり人狼なら仲間と話せるだけに安心できるんだけどな…」

ぼやいてみても響く声は結局一人分だ。
不安で声を上げそうになるのをこらえて、ゆっくりと目を閉じた。

今回はここまで。
引き続きご意見等はお待ちしております

>>23
その予定ですが、推理や理論などは独自の考えが強いのでルールと大凡の流れを説明できればと考えてます。

第三章 共有者
~3日目 昼間~

声『3日目の朝を迎えました。昨夜の犠牲者は白衣さんです』

全員が席に座ると同時に放送が流れる。昨日は中心となっていた白衣が噛まれたようだ。
2人分少なくなった顔ぶれを見渡してみる。流石のデブも今日は遅刻せずにしっかりと席に座っていた。

帽子「占いCO。ドレスさん○です」

帽子「昨日は全員がお互いを把握するくらいの議論でしたが、ドレスさんは様子見をしてるように見えましたので」

ドレス「お互いを把握するだけだからこそ少しでも他の人の動きや表情を見ておきたかったので、そこがそのように見えたのでしょうね」

帽子の上げる占い理由を思案するようなそぶりも見せず、ドレスが即座に釈明する。

巫女「占いCO。スーツ○だ」

巫女「昨日の投票結果を見て気になった。特に怪しいところの見れなかった男に投票してるあたり、偽霊能への投票を避けたのか?」

自分が疑問に思った点を巫女も気にしていたらしい。
ちらりと巫女がこちらを見たのに合わせて思わず頷いてしまう。

スーツ「霊能ロラの方針は当然ありなのですが、即座に提案されていたのが気になりました」

男「人狼側が余計な事を言う前に俺が止めたって思ってるのか?」

スーツ「あくまで可能性の話ですよ。それより先ほど巫女さんとアイコンタクトを取っているようにも見えれましたが?」

男「それは…俺も同じ質問をしたかったから思わず頷いちまっただけだ」

スーツ「そうですか。ならそういうことにしておきましょう」

完全な失策だ。
自分の不用意な行動で自分はおろか、巫女にも疑いの目を向けられかねない状況にしてしまったようだ。
モニターを通せば完璧なポーカーフェイスになれても、顔を合わせると僅かな動作に感情が出てしまうときがある。
実際に面と向かってプレイをする難しさを改めて思い知らされることとなった。

フード「霊能CO。赤目○だ」

フードの男が告げる。もちろんこの男が本物の霊能者であるとは限らないのだが、昨日の態度から恐らく本物だろう。
つまり○が出たということは狐か狂人だということになる。
昨日の理論から考えて狐が潜伏しているとすれば赤目は狂人だ。

デブ「じゃあ赤目は狂人ってことだね」

おさげ「本物の霊能ってことも考えられると思うけど、なんで決めつけられるの?」

デブ「き、昨日の態度からそうは見えないけど…」

おさげ「ふーん…まぁそれには私も同意するよ」

デブ「おさげさんは昨日の投票、フードさんだったじゃないか!」ガタッ

おさげ「落ち着きなよ。昨日の雰囲気から赤目君が吊られる流れだったよね」

おさげ「なら別のところに投票して、突っかかってくる人の意見を聞いてみたかったからさ」

デブ「ぐっ……」

恐らくこのテーブルに座ってる全員が可能性を考慮はしても赤目が本物だったとは信じていない。
そう考えた上でおさげは突っかかってくる人を待ちかまえていたのだろう。
自分もインターネットでよくその手に引っ掛かって疑われた事が多いだけに、デブには心の中で手を合わせた。

眼鏡「ところで、今日は白衣を噛んだのか」

巫女「おそらく共有を狙ったのだろう」

黒髪「最初の仕切りなど、まとめようとする雰囲気がありましたからね…」

オカマ「何にせよ、共有じゃないってこと」

デブ「何で言い切れるの?」

オカマ「………相方が死亡したらふつうは共有COする」

仮面「そういえば…軍服君は白衣君に投票してたよネ?」

軍服「うむ、仕切りがスムーズだっただけに打ち合わせをした人狼かと睨み揺さぶったのだが…」

仮面「へぇ…そっカ…」

男「話が変わるけどオカマは追従が多いように見えるな。どっちの占いを真で見てるんだ?」

オカマ「まだ何とも言えない。けど、ほぼ同じくらいと前提したうえで帽子のが真みえる」

男「理由は?」

オカマ「昼間の間、相手の表情や発言を良く見ようとしてるから。それだけ熱意を感じる」

巫女「じゃあ私には熱意がないというのか?」

オカマ「そうじゃない。巫女は議論に参加して探し出そうとしてる。だから同じくらい」

眼鏡「黒髪はどう見てるんだ?様子見してるように見えるが」

黒髪「わたしは…まだ占いの真偽をつけられていません」

黒髪「どちらも同程度に怪しく、同程度に信じられる要素がありますので」

眼鏡「そうだな。ちょっと今日の段階で見分けるのは無理だ。何にせよ早く銃殺してほしいもんだ」
(※銃殺:妖魔を占って殺すこと)
(妖魔は襲撃で死亡しない代わりに占われると死亡する。処刑回数を消費せずに敵を減らせるため、極力この方法で殺すのが望ましい)

昨日の難癖じみた議論とは打って変わり、昨日の議論の様子や投票先、さらに質問やその回答。
様々な要素から議論が白熱する。これが人狼の醍醐味ともいえるだろう。
昼間の2時間はあっという間に過ぎ去り投票の時間となる。

フード「俺は怪しいと思うところに投票させてもらうが、既に狼は囲いを行っていると見てる」
(※囲い:占いを騙っている狼が仲間に○を出すことで、本物の占い師に占われるのを避けること)

フード「まだどちらがと言い切れるほど判断はできていないが、考慮だけはしておいてくれ」

男(投票先:フード)カリカリ

霊能ロラは両方を吊ることが前提だ。仮に本物に見える者が残されている場合でも完遂しなければならない。
ここで別の人物に投票するのはいたずらに注目を集めるばかりで村人にとっても、人外にとっても良い事ではない。

声『………投票の結果、本日の処刑対象はフードさんとなります。他の皆様は自室へ戻りお休みください』

予定調和の中でフードの処刑が決まり、参加者が自室へと引き上げていく。
まだ勝負は始まったばかり、焦る様な時間じゃない。

~3日目 夜中~

黒髪さん は フードさん に投票しました
仮面さん は フードさん に投票しました
軍服さん は フードさん に投票しました
おさげさん は フードさん に投票しました
眼鏡さん は フードさん に投票しました
帽子さん は フードさん に投票しました
男さん は フードさん に投票しました
ドレスさん は フードさん に投票しました
スーツさん は フードさん に投票しました
オカマさん は フードさん に投票しました
巫女さん は フードさん に投票しました
フードさん は 仮面さん に投票しました
デブさん は フードさん に投票しました

投票の結果 フードさん が処刑されました

満場一致のフードへの投票の中で、怪しいところに投票すると宣言したフードは仮面に投票していた。
占い師の候補である帽子に1日目に占われた人物である。
しょっぱなからの囲いは占いを騙る中でも常套手段と言えるが、昨日までの発言の雰囲気はどうだったろうか?

昼間の会話で気になったのは、せいぜい白衣に投票していた軍服に質問を投げかけていたところだが、怪しいほどではない。
フードが何を感じ取って仮面を告発したのだろうか?自分は何を見落としているのだろうか……

カチッカチッ

時計の針が進むと音だけが室内に響く。
時刻は5:42…来客がないあたり、今日も噛まれていないということだろう。
仮面への疑惑は一旦預けることにして、今の参加者の様子を整理する事にする。

まずは黒髪
発言は全体的に様子見が多く見え、占いの真贋をつけることに注視してる様子が見て取れる。
狼ならすでに真贋がついているので狐だろうか?

仮面…は保留したので軍服
昨日の投票でやや目立った感はあるが、目立つ投票を行った上でわざわざその人物を噛むとは思えない。
そうなると村で見る事が出来るだろう。

おさげ
積極的に誰かに疑問をぶつけ、情報を引き出そうとしてるのが伺える。
村人なら心強いが、狼なら疑惑の種をばらまいてるようにも見えるのが怖いところだ。

眼鏡
黒髪と同じく様子見をして占い師を注視しているようだ。
先ほどは思いつかなかったが、もしかしたら狩人ということもあるのだろうか?

そこまで考えたところで開始1分前の鈴の音が聞こえる。
思い出しながらの思考で思いのほか時間がかかったらしい。開いていたノートを閉じてイスから立ち上がる。

~4日目 昼間~

声『4日目の朝を迎えました。昨夜の犠牲者はスーツさんです』

帽子「では私から占いCO……」
軍服「いや、まずは俺から言わせてもらう。共有CO相方は死亡した」

太く力強い声が、涼やかな帽子の声をかき消す。
確認する術はないが、スーツ・軍服が共有者だったということだ。
当然、共有を乗っ取る場合もありうるのだが、狼から見て共有が確実に死んでるという確証が得られない以上、可能性は低いだろう。

帽子「っ……」フー

タイミングをずらされたのか、帽子が深呼吸しているのが視界に映る

帽子「では改めて占いCO。おさげさん●です」

帽子「いろんな方に突っかかっていたので気になりましたが、身代り作りだったようですね」

おさげ「へぇ、帽子が偽だったんだ。巫女だと思ってたからちょっと意外」

おさげが憎まれ口を返す。さらに続けようとしないのは、とりあえずCOを終わらせてからと考えているのだろう。
その空気を察してか、巫女が口を開く。

巫女「占いCO、おさげ○。理由は帽子と同様だ」

ここで占いの意見が真逆に別れた。
確かにおさげはいろいろな人に突っかかっていただけに怪しい部分は多いし、感情に任せたら吊りやすい位置だ。
しかし、同時に突っかかりが的確であったのも事実だ。

おさげ「霊能ロラ完遂直後の●出しなんて信用できないと思うけど?確認出来ないんだから何とでも言えるし」

眼鏡「確かに、ためしに吊ってみる…と言うわけにはいかないな」

ドレス「残りが5吊り、狼と狐を合わせて最高で4吊り。吊る余裕がないわけではありませんが…」

オカマ「正直、ここでの●出しは信用しにくい。でも可能性がないわけじゃない」

男「ならここはいったん保留で良いんじゃないか?村なら吊る必要はないし、狼なら飼えばいい」
(※飼い:狼と分かっていても敢えて処刑しないこと)

おさげ「私から言うべきじゃないかもしれないけど、男くんの意見に賛成。今日は残りのグレーを吊るべきだと思う」

仮面「そうだネ。えぇと…眼鏡君、男君、オカマ君、デブ君…がグレーかナ?」

巫女「それで有ってるはずだ」

全員がノートを開きながら唸る。
自分で飼いを進めたのは良いが、それは同時に自分が吊られる範囲に入るということだ。
人狼はチーム戦なので、吊られること自体は負けではない。
しかし、命をかけた局面なら自分の結末を他人に任せたくないと思うのは当然のこと。
その意思がどこまで伝わるだろうか……

軍服「とりあえず話し合ってみてから方針を決める。まだ始まったばかりだ」

男「当然だな…ところで昨日の投票、フードは仮面に入れてみたいだな」

デブ「た、確かフードさんは怪しいところに入れるって言ってたよね」

仮面「つまり彼はボクと…囲いについて言及してた以上は帽子君を疑ってるみたいだネ」

帽子「彼が何を根拠に疑っていたのか知る由はありませんね。あくまで推論では?」

黒髪「そうですね。彼は真の霊能と見たいところですが根拠もありません。参考にしすぎるのも考え物です」

ドレス「えぇ、私もそう思います。ところで軍服さん」

軍服「なんだ?」

ドレス「COのタイミング…間違えてますわよ」

眼鏡「確かに。占いCOの後にするべきだったな。もしかしたら偽占いがスーツに●を出してたかもしれん」

軍服「確かに…それは申し訳ない事をした」

おさげ「過ぎた事を言っても仕方ないけどね」

巫女「インターネットではほぼ同時に書き込まれるからな。タイミングがずれてしまうのは仕方あるまいよ」

軍服「以後があれば気をつける。とにかく話を戻そう」

話題をそらされたようにも思えるが、今は時間に制限がある。
無駄な話で時間を消費するわけにはいかない

男「それで、俺を含めた4人でランダムだったな。俺的には眼鏡が怪しいと思ってる」

男「眼鏡は傍観してるようにしか見えない。特に眼鏡は真占いを探ることに集中してるように見える。狐だと思うな」

眼鏡「俺が狐だったらもっと偽に占われるようにアピールするけどな。男はなんだかんだで方針を最初に言うことが多い。流れを仕切る狼だじゃないか?」

眼鏡「俺は男が怪しいと睨んでる」

オカマ「私はデブ」

オカマ「デブは最初から印象が悪いけど、3日目におさげに突っ込まれた時の動揺が普通じゃなかった。目立ちたくない狼か狐」

デブ「僕はオカマさん」

デブ「オカマさんは自分の発言を濁して中立でいるように見える。隠れようとしてる人外じゃないかな」

全員がばらばらの名前を挙げる。当然根拠を述べることも忘れない。
結局のところ、推理を落とさない事を理由に難癖をつけているだけと言えばそれだけだが、ようは他の参加者を説得できればいい。

黒髪「私はオカマさんの意見に賛成しますね。確かに、すこし異常に見えました」

仮面「男君の意見には半分反対だネ。眼鏡君は狐ではなく狩人かもしれないヨ?吊るより占った方がいい」

4人がそれぞれに述べた主張に対して様々な意見が交わされる。
黒髪のように明確な同意を示す奴もいれば、ドレスのように黙ったまま思案を巡らせる奴もいる。
考え方はや行動は人それぞれだ。

チリンチリーン

声『終了5分前です。皆さま投票をお願いします』

もうすっかり慣れたいつもの声が聞こえてくる。
最初は無機質な電子チャイムより鈴なだけマシかと思っていたが、だんだんイライラしてるのは余裕がないからか
もっとも、電子チャイムだったらそれはそれで嫌がったのだろうが…

軍服「今日は4人の中からこれと思う奴に投票だ!」

男(投票先:オカマ)カリカリ

本当は眼鏡に投票したいところだが、仮面の言う通り占いで始末できるならそれが一番だ。
次点で怪しんでいたオカマに投票する。

「………」

空間の無言が重圧となって体にのしかかってくる。
自分の主張を何人が信じただろうか?他の参加者は誰に投票したのだろうか?

声『………投票の結果、本日の処刑対象はオカマさんとなります。他の皆様は自室へ戻りお休みください』

思わず大きなため息が出るがここで休んでるわけにはいかない。
重たい体を引きずるようにして自室へと戻っていく。振り返ると、座ったままうつむくオカマが見えた。

~4日目 夜中~

何とか生き延びる事が出来た。
緊張からか、部屋に入った途端に力が抜けて座り込んでしまった。

男「はぁ……」

安堵のため息が出る。別に今日を生き延びたからといっても勝ったわけではない。
わかってはいるのだが、体に力が入らないのは精神的に極限の状態だからだろう


―トントン…

ノックの音で目が覚める。
座り込んだまま眠ってしまったらしい。もっとも、時計の針をみると数分の話だが…

男「腹減ったな…」

差し込まれた封筒を手に取り、壁に手をついて立ち上って室内の棚を開く。
そこには菓子パンとおにぎりが数個ずつ。さらに据え付けられた一人用冷蔵庫にはペットボトル飲料が入っている。
前に放送されたの通り飲食は自由なのだろう。適当に手にとってイスに座ってお茶でおにぎりを流し込む。
腹は減っているがのんびり食べている時間はない。

黒髪さん は オカマさん に投票しました
仮面さん は 男さん に投票しました
軍服さん は 眼鏡さん に投票しました
おさげさん は オカマさん に投票しました
眼鏡さん は 男さん に投票しました
帽子さん は 眼鏡さん に投票しました
男さん は オカマさん に投票しました
ドレスさん は 男さん に投票しました
オカマさん は デブさん に投票しました
巫女さん は デブさん に投票しました
デブさん は オカマさん に投票しました

投票の結果 オカマさん が処刑されました

投票の結果は僅差だったらしい。
自分がオカマに投票した事が決め手となったと言っても良いのだろう。

この投票結果で気になるところは別に見当たらない。
だがここで人外を吊れていないとしたら村人の敗北がいよいよ濃厚となってしまう。
そろそろ占いの真贋をつけなければならないが、まずは印象を整理しよう。

ドレス
おさげに●が出た時、そのまま吊りたいようなそぶりを見せていたのが気になる。
全体的にあまり印象に残っていないのが逆に不気味だ。

デブ
2日目の遅刻や、おさげに突っ込まれた時の反応から怪しくは見えるが、どちらかというと村だろうか?
鋭い推理をしてるとは思えないが、人外を見つけようとする必死さは伝わってくる。

男「昨日の書き出しと合わせてこんなところか。まだ推理には足りないな」

鋭い人ならこの地点で人外が推理できるのだろうか?
そんなことを思っても仕方ない。自分は自分なりに考えて主張するしかないのだ。
今夜の噛まれを合わせて残り4吊り…人外が1度も吊れてないとすれば、もう失敗は許されない。

今日はここまで。
自分で言うのも何ですが、文面で読むとやっぱりわかりづらいですね。
やっぱり実際にプレイするのが一番のようです

第四章 妖魔
~5日目 昼間~

席に着く。集まってきた中で足りない顔は眼鏡のようだ。

巫女「今日は私が先にCOしよう。眼鏡○だ」

巫女「理由は男の意見に仮面の意見を反映させた結果だ」

狐は処刑の他に占う事でも殺す事が出来る。ならば処刑は出来るだけ狼を狙い、狐は占いで殺すほうがメリットは大きい。
自分が投票先をオカマに変更したように、同じ事を考えた人も多かったということだろう。

帽子「占った先がちょうど噛まれたのですか?占いCO。男さん○」

帽子「確かに様子見が目立っていた眼鏡さんですが、私は逆に狐だと押している男さんが狐ではないかと思いました。」

デブ「狐にしろ狼にしろ、自分が吊られるような主張するかな?」

帽子「私は怪しいと思ったのですが、○なら仕方ありませんね」

おさげ「男くん、昨日の投票で眼鏡くんからオカマくんに変えた理由は?」

男「あ、あぁ…仮面の話を聞いて、狐なら吊るより占うべきだって思ったからだよ」

おさげ「まぁそうだよね。答えてくれてありがと」

デブ「……でも犠牲が一つってことは眼鏡さんは狐じゃなかったってことだよね。」

仮面「あるいは巫女君が偽で、実は占ってないとカ?眼鏡君は狐っぽかったからネ」

軍服「俺が狼なら、ここで眼鏡を噛めば銃殺に見せかけて信頼取れると考えるが…」

黒髪「対抗が同じ先を占う可能性があるなら信頼を取りきれないと思いますけど?」

軍服「帽子は投票で眼鏡に入れていた。真占いなら眼鏡を狐より狼で見ていることになる。昨日なら占う可能性は低い」

ドレス「護衛成功と銃殺が重なったとも考えられますけど?あり得ませんか?」

男「デブ、仮面、軍服は帽子を真と見って、ドレスは巫女を真とみてるのか」

デブ「僕は巫女さんが偽とは言い切れないけど、最低でも狐が生きてる可能性が高いのかなって思ってる」

おさげ「私は当然だけど巫女が真だよ。だいたい仮面くんは昨日、眼鏡くんが狐だって主張してたのに死んで占いに疑問を持つのはおかしいでしょ」

仮面「死体が一つな事に疑問なんだヨ。帽子君が偽なら共有は無理でも巫女君の○を噛んでもいいはずだからネ」

おさげ「そうかな?それだと黒髪だけになるよね。ちょっとあからさま過ぎるんじゃない?」

仮面「あるいは狩人狙いでグレーを噛むこともあり得るはずだヨ。おさげ君は決め打ち過ぎる癖があるネ」

眼鏡の死亡が狼によるものなのか、それとも占いの結果なのか。
それによって大きく予測が変わってくる。誰もがヒートアップせざるを得ない。

軍服「たしかに、おさげの主張は筋は通ってるが強引過ぎる気がしなくもないな」

おさげ「強引も何も、私の視点からだとそう見るのが妥当って話をしてるんだけど」

男「まぁまぁあまり噛みつくなよ」

軍人「俺はやはり死体が1つであることに疑問があるな。護衛するとするなら共有がベストだろうが、それを狼が気づかないはずがない」

ドレス「そうですか?もしかしたらこれ以上色を見られたくなくて占いを噛みに行き、結果的に成功したのだと考えています」

デブ「なら狩人に確認してみるとか?」

男「この局面でCOするわけないだろ」

仮面「確定○は共有の他に1人だから不明点は減るけどサ」

おさげ「こんなところで出ても噛まれるだけじゃん。意味ないよ」

巫女「私の不明点は残り、仮面、男、ドレス、デブの4人か…無駄占いが多すぎたな」

帽子「私は黒髪さんとデブさんですね」

デブ「二人は残りの内訳はどれくらいだと思ってるの?」

巫女「狼はまだ3匹残ってるのではないかと思っている。怪しいところは仮面と男だな。狐は眼鏡だろう」

帽子「私も3匹ではないかと思っています。おさげさんと消去法でデブさん。狐なら黒髪さんでしょうか」

軍服「……とりあえず今日は●を出されているおさげを吊りたい。異論はあるか?」

ドレス「指定ですか?狼が3匹なら3票が集まりかねないですし、私はかまいませんよ」

仮面「ボクは帽子を真で見てるからネ。当然賛成だよ」

デブ「共有が言うなら従うよ…」

おさげ「巫女真で眼鏡が狐ならかろうじて余裕があるけど、もう失敗は許されないからね。私は仮面を吊りたい」

男「おさげは正直、村人に見えてるんだけどな。自信がない…」

黒髪「………」

軍服「黒髪、何かあるのか?」

黒髪「え?いえ、すみません考え事を…」

軍服「そうか、おさげの吊りになにか意見は?」

黒髪「ありません」

黒髪は何を考えていたのだろうか。「ありません」と言ったものの、何かを言いたげにしているような様子に見えた。
いかんせん16人用の円卓は大きく距離も遠いので気のせいなのかもしれないが…

投票用紙と投入口が開く。
ここで共有の指定に合わせなければ、狼側と見られる可能性が高いのだろう。
確定○の村人がいない以上は、共有の意見はとても比重が高いものとなる。それを逆手に取られた場合は負けるしかない。

男(投票先:おさげ)カリカリ

声『………投票の結果、本日の処刑対象はおさげさんとなります。他の皆様は自室へ戻りお休みください』

これで正しかったのだろうか。強い不安に見舞われる。
人数が減れば減るほど、自分の選択に重みが増してくる。なんだかんだでまだ20戦かそこらの新米なのだ。
立ち上がった直後にめまいに襲われ、地面が揺れる。

ドレス「大丈夫ですか?」

倒れるかと思ったが、すんでのところでドレスが支えてくれたようだ。
綺麗な顔立ちだがあまりに顔が近い

男「え、あぁ…すみません」バッ

長期休暇に部屋に引きこもってるようなコミュ障には辛い状況だ。
飛び退くように離れて頭を下げた。顔が赤くなってあるであろう事が自分でもわかる。

ドレス「判断を気にしすぎるな…とは言えませんけど、気を強く持ってくださいね」

ニコリとほほ笑んで軽く会釈すると、ドレスは部屋へと戻って行った。
強い人だなぁ…背中を見送りながら少しだけ尊敬の念が浮かぶ。“声”に怒られる数分前の事である

~5日目 夜中~

さっさと戻れと放送で怒られて慌てて部屋に戻ってきた。
時計の針は11時。この部屋で目を覚ましてから既に12時間が経過しているようだ。
考え事を繰り返しているだけに時間が短く感じる。

男「誰が狼かな…」

占いの真偽を見極める事がそのまま勝利へとつながりかねない状況。
だと言うのに自分の頭の中で整理しきれないでいる。
おさげの物言いは確かに村のように見えたが、巫女の様子があまり真とは見れないのだ。

逆に帽子を真だと見てはいるものの、○を得ている仮面の物言いは信用し難い。
片方を立てると片方が立たず、堂々巡りの中に陥ってしまっている。

黒髪さん は おさげさん に投票しました
仮面さん は おさげさん に投票しました
軍服さん は おさげさん に投票しました
おさげさん は 仮面さん に投票しました
帽子さん は おさげさん に投票しました
男さん は おさげさん に投票しました
ドレスさん は おさげさん に投票しました
巫女さん は 仮面さん に投票しました
デブさん は おさげさん に投票しました

投票の結果 おさげさん が処刑されました

今日の投票結果のカード。指定があった以上は大した情報にはならないだろう。
ノートに挟んで机に放り投げ、ベッドへ横になる。

現状から見える事はない。視点を変えてみよう。
目を閉じてここ数時間の記憶を呼び起こす。あまり勉強は得意ではないが、ある程度明確に思い出せるのは集中力のなせる業か。

参加者の視点に立って物事を考えてみる。もちろん完璧ではないが、矛盾などが見つかるかもしれない。

今のところ破綻しているような占いや主張はないように見える。
ただ、仮面の態度は気になるところだ。なぜ彼は主張を突然変えたのだろう?
本当に死体が一つだけだから?
帽子を真の占いだと強く推したのは狼だからではないか?

明日突っ込むには十分すぎる材料だろう。
そうなると、そこに対立したドレスは村で見る事ができるかもしれない。
あそこで押し切れば帽子が真で通すこともできたはずだからだ。

となると、狼は………

いつの間にか眠ってしまったらしい。
時計が指し示しているのは11時50分、ベッドから起き上がり体を伸ばす。
あと少し、あと少しでゲームが終わる。
テーブルからノートを取り、白い扉を押し開いた。

~6日目 昼間~

声『6日目の朝を迎えました。昨夜の犠牲者は黒髪さんです』

もう円卓に座る人も半分を切ってしまった。
各部屋の入口のボードも赤が目立つようになってきている。いよいよ折り返し地点だ。

帽子「占いCO。黒髪さん○です」

帽子「犠牲と一致してるのは狼と被ってしまったのか、それとも狐だったのかはわかりませんけどね」

巫女「ふんっ…占いCO。仮面●だ」

巫女「私を偽で押し通そうとする昨日の態度は異様だと思ったが、案の定だ」

軍服「どちらの占いから見ても、狐は死んだと見てよさそうだな」

帽子「そうですね…不安要素としてはデブさんですが、明日占えばわかりますからね」

デブ「な、なんでそこで僕なんだよ」ガタッ

帽子「落ち着いてください。私の視点で狼と見れるのは、巫女さんとおさげさん…他にオカマさんかデブさんです」

帽子「次に狐の可能性があるのはオカマさん、デブさんです」

帽子「なので、狐を警戒するのであれば可能性の一つとしてデブさんを占う必要がある…という話です」

軍服「残りは3回吊れるからな。明日は帽子の占い結果を見てからデブの処遇を決めてもよさそうだ」

巫女「私視点で言うならまだ1匹潜伏が残っていることになる」

男「怪しいのは俺と、ドレス…あとデブか」

巫女「そうだ。今日は仮面を吊ったとして、翌日は帽子。最終日に3人から決めなければならん」

仮面「巫女の範囲は広すぎるネ。正直、昨日問い詰められたから逆に●を出して消したいとしか見えないヨ」

巫女「とにかく、昨日は帽子の●であるおさげを吊ったなら、今日は仮面を吊っておくべきだ」

帽子「ここで仮面さんを吊るのは構いませんよ。先ほどの通り、私視点では多くても2匹ですから、明日でも間に合います」

ドレス「私も巫女さんの真目を捨てるべきではないと考えていますから、ここは仮面さんでもよろしいのでは?」

デブ「ドレスさんはどちらが真だと見てるの?」

ドレス「正直に申しますが、わかりません。」

ドレス「ただ仮面さんが怪しいのは事実なので、間接的に巫女さんを真で見て良いのではないかと」

男「ドレスは最初から帽子への決め打ちに反対してたからな」

軍服「なら今日は仮面を吊りで決まりだな」

仮面「まぁいいけどサ。ボクが吊られたところで2回分の吊りがあれば間に合うはずだからネ」

男「昨日は熱弁してたのに、ずいぶんあきらめが早いんだな」

仮面「人狼はチーム戦だからネ。村人は吊られる事で役に立つこともあるヨ」ケラケラ

男「あ…あぁ…」

間抜けた声をあげてしまった。
叩いてみようと思った矢先に●をもらって、吊られる事を良しとされたのだ。
ゲーム的には理解できるが、昨日の様子からもっと弁解すると思ってただけに、調子が狂う気分だ。

しかし話の流れが決まった。
これでどちら占いからみても狼が1匹は吊れた事となる。狐もおそらく銃殺出来ていると考えるべきだろう。
占いは内訳が真狼の可能性が高い以上、どちらもあと1匹ずつ潜伏している狼を見つければそれで完結だ。

しかし、それは同時に明日には占い師の真偽を決めることになる。
あと2日あるとはいえ、実質的に明日が最終日となるのだろうか…

男「そう言えば帽子は軍服がCOしたとき、慌てたように見えたけど?」

帽子「喋ろうとしたタイミングで重ねられたので驚いてしまいましたから。軍人さんは声が大きいですし」

男「確かに、まさか占いCOに被るとは思わないもんな」

軍服「むぅ……」

男「いや、別に軍服を責めてるわけじゃないだ。少し気になってたから」

巫女「どうだろうな。軍服●と言おうとした矢先に共有と言われて焦ったのではないのか?」

帽子「対抗で狼と見てるのは理解しますけど、ひどい言われようですね。少し悲しいです」

仮面「子供か君たちハ」

ドレス「そう言えば…大した話題になりませんでしたが、フードさんは何を根拠に仮面さんを疑ったのでしょう?」

男「確かに、それがわかれば少しくらい参考になりそうだな」

軍服「フードはあの日、ほとんど何も言わずに全員を観察していたようだったな」

仮面「さすがにあの段階じゃ勘だとおもうけド?」

デブ「そんな無責任な人には見えなかったけどなぁ…」

仮面「いきなり遅刻した人に言われたくないヨ」

デブ「うぅ……それは…」

他に何か気になるところはあっただろうか。
考えてみて思い浮かぶ。

男「そうだ。黒髪が昨日の投票の直前、何かが言いただけだった気がするな」

軍服「そうだな。それで聞いてみたのだが…」

ドレス「狩人COの話かもしれませんね。直前の話題ですし…」

帽子「狐に見えてましたから、狩人COしても狐の言い逃れに見えなくもないですが…」

デブ「うぅ、余計なこと言って迷わせたかな」

男「気にするなよ。自分で考えるしかない」

全員が判断は明日と考えているのだろう。
振り返っての疑問はいくつかぶつけあえたとは言え、大した議論が出来ぬまま時間が過ぎていく。
フードの答えもわからないままだが、気にしすぎなのだろうか?

男(投票先:仮面)カリカリ

声『………投票の結果、本日の処刑対象は仮面さんとなります。他の皆様は自室へ戻りお休みください』

鈴の音と共に事務的な声が昼の終わりを告げられた。

~6日目 夜中~

仮面さん は 巫女さん に投票しました
軍服さん は 仮面さん に投票しました
帽子さん は 巫女さん に投票しました
男さん は 仮面さん に投票しました
ドレスさん は 仮面さん に投票しました
巫女さん は 仮面さん に投票しました
デブさん は 仮面さん に投票しました

投票の結果 仮面さん が処刑されました

イスに座って菓子パンをかじってみたがあまり食欲がわかなかった。
ペットボトルのお茶で無理やり飲み込み、届けられた封筒を開く。

指定された投票の結果から見える事は何もない。
明日の犠牲者はおそらく軍服だろう。確定○の共有が残されるとは思えない。
もっとも、狩人が生きていれば話は変わるのだが…そこに期待するのはあまりに軽薄だ。

帽子はデブにどちらの色を出すだろう。
狼ならここで●を出すことで判断させる間もなく2回の吊り先を指定する気がする。
あるいは巫女は誰を占うのだろうか。
狼なら○を出して帽子吊りを主張する気がする。

男「裏の裏…か…」

思わずため息が出る。
推理ならいくらでもできるが、その推理を読んで真逆の行動をすることなど常だ。
もちろん相手の性格を読めればある程度は予測が可能だが、結局は自分の推理を信じるしかない。

行き詰った頭を切り替え、デブとドレスの怪しい方を考えてみることにしよう。

ドレスは帽子の2日目占い○だ。囲いが考えられる。
だが、一貫して帽子を真で見る姿勢に慎重だった部分がある。
少なからず演技があるとしても、そのブレ無さは信用していいのではないだろうか。

デブは最初にこそ遅刻したし、殴り合いをすれば終始負けぎみではあったが、賢明さは人一倍だったように見える。
推理には頼りない部分はあるが、やはりこちらも村人に見えるのが現状だ。
まだ占われていないが、明日には結果が出るだろう。

結局、ノートに考えを書き出してはみたものの進んだのは時計の針だけだ。
針は3時。あら、おやつの時間だわ

今日はここまで
もうすぐお終いですね。SSも今年も

第五章 占い師
~7日目 昼間~

欠けているのはやはり軍服。
同時に狩人がいないことも確定したと言えるだろう。

帽子「では占いCO。デブさん○です。」
巫女「占いCO。デブ○だ」

二人の占いがほぼ同時に宣言する。

巫女「帽子はデブに●を出すはずだからな。って…○…だと……?」

帽子「えぇ○です。どうやら狼はオカマさん、おさげさん、巫女さんだったようですね」

男「帽子の視点だとそうなるな。とにかく、デブは村人で確定か」

デブ「だから僕は村だってアピールしてるのに…」

ドレス「そうなると、巫女さんの視点では私か男さんが狼と言うことになりますね」

ドレス「男さんは村人ではないかと思っていたのですが…」

デブ「今日は僕に●を出されると思ってたんだけど…」

帽子「では今日は私を吊りますか?私から見れば巫女さん吊れば終了ですから余裕はありますし…」

巫女「私視点から言えば帽子が狼だから…というわけだな?」

帽子「はい。もちろん、明日は巫女さんを吊ってもらう事が前提になりますけどね」

ドレス「確かに巫女さん視点から見てもそれなら最後の1匹になるので良さそうですね」

男「なら決まりだな。今日のところは帽子を吊るのが良いだろう」

開始して10分足らずで今日の処刑対象が決定した。
ついでに言うと、今夜噛まれるのは確定○のデブと言うことも決まっている。

6日目の夜に考えた4つの推理。
1つ、帽子が狼なら●を出す。
2つ、巫女が狼なら○を出す。
3つ、ドレスは村に見える。
4つ、デブは村に見える。

全ての条件を満たすなら巫女が狼と言うことになる。
つまり、帽子が真の占い。明日の処刑で巫女を吊れば無事に終了と言うことになるだろう。
もちろん、巫女の占いは3分の1なので○が出てくる可能性が高いのは事実だ。
しかし、今日の帽子の余裕を持った態度は何だろうか…

巫女「ドレスと男は殴り合ってより推理を見せてほしいな」

男「あぁ、といってもな。俺の視点から言えばドレスは村に見えてる」

ドレス「私も同じくですね。男さんは論点をうまくまとめていますし、参加中も夜もしっかりと推理して要点をつかんでいるように思えます」

巫女「むぅ…と言うことは二人とも私が偽だと?」

ドレス「いえ、私は初期の方から巫女さんを真目で見ていましたよ」

ドレス「なので男さんが狼なのでしょう」

男「俺は正直、巫女が怪しく見えてるな」

男「あまりにも焦っているように見えるし、何より今日のデブへの占いだ」

巫女「焦っていたのは事実だ。●が全く見つからんし銃殺も出来ていなかったのでな」

男「確かに俺も帽子は●を出すと思ってたが、わざわざこのタイミングで占い先を合わせる必要があったのか疑問だよ」

デブ「そうだね。巫女さんから見て帽子さんは狼で確定してるし、その狼が●を出したなら、占わなくても○って事になる」

巫女「ぐっ…確かにそうだ。迂闊過ぎたな」

ドレス「でもそれは結果論ですよ。○を出されていたら判断はできなかったわけですから」

帽子「ここまで来て無理に巫女さんを庇うあたり怪しいですよ」

ドレス「私は思うところを言っているだけですよ」

男「二人の間にちょっと火花が見えるな」

確かに、ここまで無理に庇おうとするドレスの姿勢には無理があるように見える。
だが巫女とドレスが共に狼陣営ということはほぼあり得ないはずなのだ。

デブ「とにかく、今日は帽子さんに投票で良いんだよね?」

帽子「えぇ、構いませんよ。私視点では4人が村なので安泰です」

巫女「私も問題ない。私視点では最悪2匹の狼がいる以上、村人が1人でもぶれたら問題だから厳守してもらいたい」

男「俺も良いと思う。巫女を真とみても、不明瞭な俺かドレスに入れるよりは帽子を吊っておくべきだ」

ドレス「そうですね。私も異存ありません」

まだ時間は1時間以上ある。16…いや15人の時は短いとすら思った2時間も、さすがに5人では長いようだ。
占いの判別がつかなかった以上、巫女とドレスのどちらが狼か明確につかむことはできなかったが…

巫女は「やや直情的で思ったところを口にする」性質ということがわかった。
ちょくちょく喧嘩腰になってしまうのはそのためだろう。

ドレスはその逆で「考えをまとめてから発言する」タイプのようだ。
発言のレスポンスが遅く、明言を極力避けて見えるのはそのためか。

帽子はドレスに似ているが、意思がはっきりとしているのだろう。
余裕を持った態度と淡々とした言い方が冷たさ感じさせる。

デブは短絡的に口にしてしまう分、巫女に近い性質のようだ。
ただ、彼女のようにきつい言い方をしないだけにおどおどして見えて頼りない。

男(投票先:帽子)カリカリ

声『………投票の結果、本日の処刑対象は帽子さんとなります。他の皆様は自室へ戻りお休みください』

チリンチリーン

~7日目 夜中~

ここに来て17時間。
やや眠気が出てきているが、ここで休むわけにはいかない。
顔を叩いて目を覚まし、冷蔵庫からブラックの缶コーヒーを取り出して呷った。

昼間の会話を反芻する。
帽子が狼だったとして、自分をケアとして吊る事を提案するだろうか?
仮面が吊られた時も投票こそはしなかったものの、強く反対はしていなかった。
その余裕は占い師の視点からなのだろうか、それとも狼の演技?

同じ事がドレスにも言える。
狼ならばあそこで巫女を擁護するような事を言うだろうか?
同調して押し切れば吊ることだってできたのではないだろうか?

では巫女は?
殴り方が直情的でありいかにも感情任せな雰囲気が見て取れる。
インターネット上でそうした演技をするのは良くあることだが、逆に面と向った時にそうできるものなのか?

夜中ごとに人物評をつけてみたところでそれは推理の範囲内でしかない。
ノック音とともに差し込まれる封筒を手にとってはみたものの、得られる情報がないのが虚しいところだ。

帽子さん は 巫女さん に投票しました
男さん は 帽子さん に投票しました
ドレスさん は 帽子さん に投票しました
巫女さん は 帽子さん に投票しました
デブさん は 帽子さん に投票しました

投票の結果 帽子さん が処刑されました

自分が人狼だったらどうしただろう?
帽子の状況ならば村人の信用をとれていると判断して巫女への投票を呼び掛ける。
巫女の状況ならばとにかく帽子の吊りを主張するほかにないだろう。
不明瞭である俺かドレスへの投票を呼び掛けることはできない。

状況を考えれば考えるほど、巫女が狼と言う結論にしか至らなかった。
いつもなら即決するところだ。

しかし、ゲームと違って間違えることはできない。
慎重になりすぎてしかるべきだろう。いや、それが狙いなのか。

堂々巡りの中で時間だけが進んでいく。

男「だぁー、わからん!」

苛立って席を立ち、部屋の一角にあるシャワールームへ足を運ぶ。
考えが行き詰った時は考える事を止めるのが一番、というのが経験則だ。
体を洗い、ひげを剃り、真新しい服に着替えて身だしなみを整えたころで集合を告げる鈴の音が鳴る。

チリンチリーン

声『間もなく夜が明けます。参加者の皆様は役職カードをモニターの横にあるカードホールに差し込み、中央広場へお集まりください』

真新しいシャツに着替えて広場へと足を運ぶ。
準備が万端とは言えないが最終決戦だ。

~8日目 昼間~

声『8日目の朝を迎えました。昨夜の犠牲者はデブさんです』

3人が席へ座る。
投票装置などがついているだけに、漫画のように机を小さくして組直すことはできないのだろう。
偏り気味の席配置が気に入らなくて席を移動する。
ここは誰の席だったか…初日の部屋を真北とするなら、東北東の位置になる。

巫女「どうした、席替えか?」

男「偏ってて話しづらいからな」

ドレス「では私も移動しましょう……えぇと、ここですね」

ドレスが数えて席を移る真南…白衣が座っていた位置だ。

巫女「なるほど。確かにこれなら等位置だな。広すぎるのも考え物だ」

男「仕方ないさ。じゃあ始めよう」

巫女「うむ、占いCO。男○だ」

ドレス「これで男さんは確定○。巫女さんからみて私が狼…ですか」

巫女「そうなるな。男。これで終了だ」

男「巫女視点ならそうだな。だが俺視点だと巫女と帽子の真偽がまだついてない」

ドレス「私が最後まで残された理由は、どうやら巫女さんを真と見ているから…のようですね」

ドレス「ここまで来て考えを覆すのは悔しいですが、帽子さんが真でした」

巫女「逆だ。むしろ私に追従してるのに今まで残されていたこと自体が不自然だった」

男「占われないようにするには確かに占いに追従は手だけな」

ドレス「そう言われればそうですが…ですが私が狼だとして、占いの決め打ちに近い状態から反対しますか?」

巫女「それは作戦だったというだけだろう」

巫女「仮面を吊った時の話ならたしかに7人中3人が狼だったことになる」

巫女「押し切れば十分に勝ち目はあったかもしれないが、あと1人が味方に着く自信がなかったのではないか?」

男「確かにそこで外せば投票先でばれかねないからな」

ドレス「それこそ言いがかりでしょう。仮面さんと帽子さんで2回も連続して敵をかばったとすれば利敵行為も良いところでしょう」

巫女「確かにいつも人狼なら考えられないな。だが、これはただの人狼じゃない」

巫女「全員が間違いなく本気で臨んでいる以上はセオリーなど盲信などできるか」

二人で言い合っているように見えるが、実際にはそれぞれが相手の理論に納得する必要はない。
巫女の視点から見て狼はドレスだし、ドレスから見たら巫女となる。
二人が殴り合う事で、最後の1票である自分への説得を試みているのだ。

だが、それは同時に自分の判断で村人か人狼か、どちらの陣営が勝利する事になるのか決めることになる。
もちろん、狐が生きていればどちらを選んでも敗北となるが、この際そこを考えても仕方ない。

今までよりもより重い決断を強いられ手が震える。
その間も巫女とドレスの声が応酬を続けていたが、内容は耳に入ってこない。

巫女「とにかく、私は言える事は全部言った。これで信じてもらうしかない」

ドレス「まだ時間があるのに言及されるのが怖いのですか?」

巫女「何とでも言え。質問があれば答えるが、私から言えることはもうない」

いわゆる噛み筋と言われる、噛んだ順番から狼が推理出来るプレイヤーがいる。
あるいは、何気ない発言から見て推理へつなげるプレイヤーもいる。
どちらにしろそんな事をしていたのは3ケタの場数を踏んだ手練れだ。いまの自分にその判断は難しい。

しかし、目に見える情報では決定的に判断できる材料が見当たらないままだ。
どちらもそれなりに怪しく見えるし、それなりに信用して見える。
これ以上考えても無駄なことだ。

男「昼間はもういい、投票にしてくれ」

巫女の強い意志を感じさせる視線が刺さる

巫女「男、私を信じろ」

ドレスの穏やかな眼差しを感じる

ドレス「男さん、私を信じて下さい」

声『それでは投票をお願いします』

男(投票先:――――)

……………

………

第六章 人狼
~??~

男「ここは…どこだ?」

目を覚ますと薄汚れた天井が目に入った。
見慣れた景色だ。首を動かすとやや散らかった部屋と電源の落とされたパソコンが見える。

あれは夢だったのだろうか?
そうとは思えないほどリアルな感覚だった気がする。

ひどく疲れているような気がして眠りたいところだったが、
重たい体を無理やり起こしてイスに座り、パソコンの電源を入れる

服装も着ていたはずのシャツにジャケットなどではなく、至って普通のスウェットだ。
確か量販店の特売で安く買い込んだ中の1着だったはず。

恐らく徹夜でプレイし続けたせいで、そのまま眠ってしまったのだろう。

男「はまりすぎかな。夢まで見ることはないっての…」

我ながら苦笑してしまう。まるで中二病もいいところだ。

納得してしまうとなんだか疲れも取れた気がして、イスを回転させながら散らかった部屋を見回す。
積まれた洗濯物。参考書。小説。漫画。モデルガン。アタッシュケース。雑貨類。掃除機。

―ガシャン!

驚いた拍子にイスからずり落ちる。

男「なんだありゃ…」

漫画やドラマに出てくるような銀色のアタッシュケースが部屋の隅に置いてあったのだ。
もちろんそんなものを買った覚えはない。買おうとした事はあるが、思ったよりもずっと高価で諦めたくらいだ。

ドクンッと心臓が撥ね、背中に汗が噴き出す。

―パチッ、パチッ

アタッシュケースの留め具を外す。
ゆっくり開いたケースには紙の帯で束ねられた万札が整列していた。

大学生の一人暮らしの部屋にはどうやっても似つかわしくない代物だ。

ケースのフタを閉めて留め具を留め直してベッドに横になって記憶をたどる。
やっぱり夢ではなかったらしい。
自分は間違いなく人狼ゲームに参加し、勝利し、同時に5人の命と引き換えに大金を手に入れたのだ。

~8日目 昼間:中央広場~

巫女「男、私を信じろ」

ドレス「男さん、私を信じてください」

声『それでは投票をお願いします』

男(投票先:――――)カリカリ

声『集計が完了しました。ではお願いします』

処刑の結果が発表されるより先に黒服の男たちが現れ、初日の部屋へと案内された。
部屋の広さは自分が使っていた部屋と同じくらいだろうか?家具のないだけ広く感じる。
部屋の中ではそれぞれ座り込んだり、話をしていたり、参加者がめいめいに過ごしていたようだ。
先頭で入室した為に全員の視線が向けられた。

フード「時間より早いが、勝負がついたようだな」

赤目「今日の投票…誰が吊られたの……」

霊能者の二人に迎えられる。やはり自信がありそうなフードと赤目の対比が面白い。

白衣「それで?どうなったんだよ?」

部屋の隅でタバコをふかしていた白衣が声を上げる。
それに応えるべく口を開いた矢先、鈴の音が室内に響いた。

チリンチリーン

声『皆さま大変お疲れ様でした。投票の結果、本日の処刑対象はドレスさんとなりました』
声『もう村に…』

終了の宣言に村人陣営が沸き立ち、歓声が上がる。

巫女「男、勝ったぞ!」

自分の後ろにいた巫女が嬉しそうに声を弾ませて抱きついてきた。
嬉しい半面、やっぱりコミュ障にとっては対応に困るわけで、しどろもどろに離れてなだめる。

不満げな巫女の視線から逃れるように視線を泳がせると、先ほど声をかけてきたフードと視線が合った。
おさげに手を握られ、ぶんぶんと上下に振られて同じように困っているようだ。
残念だが自分ではフードを助けられないし、フードにも助けを求められない。

「がんばれ」と念を送っておくことにしよう。

ドレス「っ……どうして…私に投票を……?」ワナワナ

喜びに沸きたつのはあくまで村人陣営だけだ。狼陣営はそうもいかない。
うつむき加減で声をかけてきたドレスの声は、今までのしっかりした雰囲気とは打って変わり、弱弱しくて折れそうな声だった。

男「ほとんど勘に近いよ。負けててもおかしくなかった」

男「でも、どうしても一つ上げるなら3日目かな」

ドレス「3日目?帽子さんが私を占った時のことですか?」

男「最終日まで残ってたから気が付いたんだけど、ドレスはレスポンスに時間をかけてるじゃん?」

ドレス「あまり思いつきで意見を口にするのは好きではありませんから」

男「でも帽子が占った理由に対してだけは、少し驚くくらい即答だったからさ。予定調和なのかなと」

ドレス「っ……そんなところで…ですか」

男「それがなかったら巫女に投票してたと思うよ」

ドレス「最初に失敗していたとは…油断しましたね……」

男「状況が状況だったから、小さなことでも気になってさ」

ドレス「慰めは結構です…」

話が途切れたところで黒服達が人外陣営を連れて行く。
妖魔のメガネ、狂人の赤目、そして人狼の帽子、仮面、ドレス…
何日目だったか彼女の背中を見て「強い人だ」と感じたものだけど、今見えるその背中はとても小さくて、なんだか悲しくなる。

白衣「あんまり気にしすぎるなよ」

見かねたのか白衣に肩をたたかれた。
そう、やらなければ死んでいたのだから気に病んでも仕方ないのだ。
わかってはいるけど納得できない自分がもどかしい。

声『村人の皆様は奥の扉へお進みください。お疲れ様でした』

声に導かれるままに扉を開いて先へ進む。
そこからの記憶はどうやっても思い出せなかった。

~自宅~

男「だよなぁ…夢なんて都合よくいくわけねぇな」

携帯を開いてみると、友人からメールが届いていた。
OKの返事を返してからまだ2日も経っていないらしい。
一晩で大金を手に入れる…夢のような話ではあるが、これは夢ではない。
自分の力だと開き直れるほどの度胸があればよかったが、それも持ち合わせていないから始末が悪い。

床に置かれたケースをどうすればいいのか。

決断できないままベッドから起き上がり、起動させていたパソコンの前に改めて座る。

男「人いるのかね…」カタカタ

インターネット人狼のページを開く。現在進行中の表示があるところを見ると今日も開催されているようだ。
時刻は23:20…7人という数字はこの時間にしてはかなり少ないといえるだろう。
さすがにプレイする気にはなれなくてパソコンの電源を落とした。
とにかく今日は寝よう。考え込んでも仕方がないことなのだ。

……………

………

~翌日:駅前~

男「時間は…ちょうどだな」

男「………」

友「おぅ、待たせたな」パシッ

男「いや、今来たところだよ」パシッ

友「安いドラマみたいな会話だなおい」

男「お互い様だろ?で、どこ行くんだ?」

友「そうだなぁ…カラオケでも行こうぜ」

男「りょーかい。喉がつぶれるまで歌うぞー」

友「そりゃいい。歌え歌えー」

―ドンッ

歩きながら騒いでいると肩に衝撃があった。
視線を向けるとスーツを着た女性が目に入る。

男「っと…すみません。大丈夫ですか?」

女「こちらこそすみません。お怪我はありませんか?」

男「え?」

相手の声に泥いて顔をまじまじと見つめた。
美人というよりは可愛い顔立ちで、好みではあるが今はそれどころではない。

女「何か?」

男「あの…どこかで会ったことありますか?」

とっさに一昔前のナンパのような声のかけたをしてしまった。
それが面白かったのか、彼女はクスクスと笑う。

女「ふふっ…ないと思いますよ。それでお怪我は?」

男「そうですか…怪我とかはしてないですよ」

女「それは何よりです。では失礼します」

何か声をかけようと思ったが言葉が出てこない。かわりに地面に落ちた小さな巾着袋を見つけて拾い上げる。
つけられた鈴が小さく鳴った。

男「あの!これ落としましたよ」チリン

女「え?あ……たびたびすみません」ペコッ

女「ありがとうございます。ではあらためて失礼しますね。男さん」

男「………」

男「……あの…」

人狼ゲームの進行を行っていた放送にそっくりな澄んだ声と鈴の音。
意を決して声をかけようとしたが、それより先に友につつかれた。

友「なんだ?ナンパ失敗か?」

男「ぶつかっただけだよ」

友「そうか?名前を呼ばれてたような気がしたけどな」

そういえばそうだ。聞き覚えのある声にばかり気を取られていたが、彼女は俺の名前を呼んでいた。
自己紹介した覚えなどあるわけないし、相手がこちらを認知していたとは思えない。
だが真意を問いただそうにも、すでに彼女は人ごみに紛れてしまって姿が見つけられなかった。

あれからインターネットでの人狼をプレイすることはなくなったのだが、あの日のことだけは自分なりに調べてみた。
図書館でいろいろな新聞を見たし、ゴシップ週刊誌を立ち読みして回ったりもした。
だが、それらしい死体が上がったという事件は見かけなかったし、都市伝説的な失踪事件の噂すらなかった。
そして駅で出会ったあの女性と再開することも、もちろんなかった。

なぜ自分がまきこまれたのか。誰が主催していたのか。あの女性は誰なのか。
謎は深まるばかりだが答えは見つからなかった…

エピローグ
~女の部屋~

―パタンッ…

『汝は人狼なりや?』の世界を少しは理解いただけたかしら?

これはほんの少しの油断や慢心、あるいは疑心暗鬼で勝敗がわかれる推理ゲーム。
どんなに素晴らしい推理ができても、参加者を納得させるだけの言葉を扱えなければ勝つことはできません。

頭上を飛び交うたくさんの言葉の中から、どれを掴み、どれを捨てるべきなのか…
誰を説得し、誰を疑うべきなのか…
その複雑さゆえの面白さは、参加していただければきっとご理解いただけるでしょう。

次は貴方のご参戦をお待ちしております。

以上で完結となります。
プレイの内容については一応オリジナルですが、実際のプレイやウェブ漫画から影響を受けてる部分があるかもしれません。

また、ゲーム中のキャラクターの特徴は概ねが、インターネット人狼のとあるサイト様のアイコンを元にしております。
興味がある方はそれらをイメージしていただくのがわかりやすいかもしれないですね。

途中で中断したため完結まで時間がかかってしまいましたが、呼んでいただいた方が少しでも人狼に興味を持っていただけたら幸いです。

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