ほむら「地獄通信?」 (83)

~ほむら~



転校してきたばかりという事になっている学校で、ふとそんな言葉を耳にした。

ほむら「…こっちでは、そんな物が流行っているのね」


幾度となく巡ってきた時間…何も代わり映えしない筈の教室で、それを聞いたのはこれが初めてだった。

「んー、流行ってるっていうか…ね。前の学校では聞いた事ない?」
「あ、でも気を付けて!使ったら自分も地獄逝きらしいからね~」

さっきまで明るい雰囲気だった彼女達の声が、一気にトーンが低くなる。

ほむら「…貴女達も使った事あるの?」


'地獄通信を使った者は自らも地獄へ…"
普段なら聞き流している筈のクラスメイトのたかが噂話に興味を示したのは、その台詞のせいだった。

本編を文章に起こしただけな感じが続くかもだが、だらだら書きます

「あはは!まっさか~!ただの噂だってば」
「まぁ、実際あってもそこまでして晴らしたい怨みなんて無いって!」


魔法少女…奇跡を願った代償に魔女と戦う運命を背負った者。そんな少女達が行き着く先は……
やはり、どんな奇跡にも代償は付き物という事には変わりないらしい。

ほむら「ごめんなさい。…ちょっと、保健室に」


そんな噂に惑わされてる場合ではない…。
私にはもっと大切な事があるのだから。

ほむら「鹿目まどかさん…貴女が、このクラスの保健係よね?」


鹿目まどか…貴女を救う
たった一つの、道標


ほむら「連れてって貰える?保健室」




ーーーその時の私は、その噂があんな結末を迎える事になるなんて、気付いていなかった…。

ーーーー
ーー

ほむら「目に焼き付けておきなさい。魔法少女になるって…そういう事よ」


ーー巴マミが死んだ。

この時間軸では良好な関係さえ築けなかったが、かつては憧れた事だってあった人…。
しかし、悲しんでいる暇等、私にはない…。

ーーーー
ーー
「…ねぇ、部活の先輩から聞いたんだけど…」「あー、女の先輩が一人行方不明だって話し?」「そうそう!それってさ、やっぱり…」

巴マミの失踪は意外にも、早くも学校中に知れ渡る事となった。

"3年生の巴マミさんは、地獄少女に連れていかれた"

真実なんて誰も知らない癖に、皆随分勝手な事を言う。


ほむら「そういうの、辞めた方が良いんじゃない?」

ほむら「その人が本当に怨まれるような人だったかなんて分からないのだから…」

苛立ちから、つい口を挟んでしまった。
ざわついていた教室内が、一気に静まり返ったのが分かる。

まどか「……ぅっ…っ」ダッ

さやか「まどか!」

泣きながら飛び出して行った少女を、その友人が追い掛けて行くのが視界の隅に写った。
ーー誰も気に留めない。教室内の意識は、全て私に集中されていた…。

屋上~さやか~



さやか「…まどか」

まどか「…ヒック…っさやかちゃん…ごめんね」

さやか「まどかが謝る事じゃないよ。…皆、勝手だよね」

クラスメイトの批判をしたい訳ではない。他に言葉が見つからなかったのだ。
泣いていた親友は、何処か違う国に来てしまったみたいだと、知らない人の中にいるようだと言った。

…事実、皆知らないのだ。マミさんの事も、本当の事なんて…私達以外誰も。

病院~さやか~


いつものように、私は彼の病室へ足を運んだ。
もう病院の空気や雰囲気、最近ではそれらもすっかり自分の生活の一部になってしまっている。

さやか「何聞いてるの?」

音楽に聴きいる彼にいつものように語りかける。

…しかし

上条「…もう聴きたくなんてないんだよ!自分で弾けもしない曲なんか…!」

彼はそう言って、自分の手を傷つけ始めた。

さやか「ちょっ…恭介だめ!…やめて…っ!」


…何を間違えてしまったんだろう。自分のしてきた事の何に間違えがあったのだろう。
必死に止める私の声も、今の彼には届かない…。


上条「僕の手はもう二度と動かない。奇跡か、魔法でもない限り治らない」

さやか「あるよ!」


無我夢中で放ったその一言に彼は目を見開いた。



さやか「…奇跡も、魔法も…あるんだよ!」



…もう、迷ってる場合ではないのかもしれない。

街中~まどか~


"貴女を非難できる者なんて、誰もいない。いたら、私が許さない"
ふと、彼女の放った言葉を思い出す。


まどか(……でも)


誰が何を言ってくれたって、やっぱり自分を責めてしまう。

もしも、自分がもっと早く魔法少女になっていれば、マミさんはあんな最期を迎えずに済んだのではないか…今更どうしようもない"もしも"を、心の中で繰り返した。

まどか「マミさん…」


魔法少女の華やかな部分しか見てこなかった自分が、辛い現実を目の当たりにした瞬間逃げ出した自分が…本当に嫌になる。

けれど、私は忘れないだろう。
一人ぼっちで皆の為に戦ってきた彼女の事も、そんなずるい自分を助けてくれた、あの子の事も…。


まどか「ほむらちゃん、ちゃんと話せばお友達になれそうなのに…。どうしてマミさんとは喧嘩になっちゃったのかな」



まどか「…あ!」

ーーそこには、見知った親友の姿があった。

病院~さやか~


上条「屋上なんかに何の用?」
さやか「いいからいいから」


ーーあの時は正直冷やりとした。
魔女の気配を感じ向かった先に、まさか親友が二人もいるなんて…。



~♪~~~♪~~♪

さやか(…やっぱり、私の選択は間違っていなかったんだ)

危機一髪だが二人を救えた事に、今こうして、大切な人が奏でるあの音色をまた聴けた事に、私の心は自信や希望に満ち溢れていた。


さやか(後悔なんて、あるわけない)



ーーその時の自分は、確かにそう思っていた。

別の日
病院~さやか~


「あら?上条さんなら昨日退院したわよ」 「リハビリの経過も順調だったから予定が前倒しになって・・・」

さやか「そ、そうなんですか…」


ーーー
ーー
上条家~さやか~

~♪~~~♪♪


聴き覚えのあるヴァイオリンの音色が聴こえてくる…。
邪魔になってしまうかも…そう考え始めると、呼鈴を押すのを躊躇ってしまう。

「会いもしないで帰るのかい?今日一日追いかけ回したくせに」


気が付けば、赤い髪の少女がすぐ側に立っていた…。
ーー先日、自分と殺し合いをしたばかりの彼女、佐倉杏子は、
意地悪い笑みを浮かべながらこんな事を言ってきた。

杏子「今すぐ乗り込んでいって、坊やの手も足も二度と使えないぐらいに潰してやりな」

そうすれば身も心も全て自分のものになると、その口からは信じられない言葉が次々と飛び出してくる。

さやか「…っ!」

こいつだけは絶対に許さない…。


ガチャッ

さやか「!」サッ

突然開いた扉に思わず身を隠してしまった。



杏子「おい。何なんだ?」

さやか「…」

さやか「…え?」


ーーそこには見知った顔が二つ、仲良さげに並んでいた。

学校~さやか~



まどか「上条君、凄い人気だね。さやかちゃんも話してきなよ」

さやか「…んー、あたしは、良いや」

仁美「…」ポー

さやか「仁美…?どうかした?」

仁美「はっ、いえ…なんでも///」

さやか(やっぱり…あれって)

仁美「…」ポー



さやか「…」ギュッ

ーーーー
ーー

昨夜 00:00~さやか~


カチカチ

さやか「…本当にあった」


まさか、あの噂が本当にあるなんて思わなかった。
そしてまさか、自分がそんなものに頼ろうとするなんて…。

「来たよ」

さやか「!」ガタ


気付けば、私は夕焼けに染まる知らない場所にいた。
そこにはもう一人、セーラー服姿の黒髪の少女が…。

さやか「は…はは。あんたが…地獄少女…?」


あい「受け取りなさい」

あい「あなたが本当に怨みを晴らしたいのならその赤い糸を解けばいい…」

あい「糸を解けば私と正式に契約を交わした事になる。相手はすみやかに地獄へ流されるわ…」


さやか「…これを」ゴクッ

あい「ただし」


糸に掛けた手を、その声が制止する。

あい「貴方にも代償を支払ってもらう」

さやか「…代償?」

あい「人を呪わば穴二つ…。貴方の魂も、地獄で痛みと苦しみを味わいながら永遠に彷徨う事になる…」

さやか「そんな…」


あい「死んだ後の話しだけどね」

あい「…後は、貴女が決める事よ」スーッ

―― そこはもう、見知った自分の部屋。

"人を呪わば穴二つ…"

その言葉が、いつまでも私の中で反芻していた。
…後は、



さやか「…あたしが、決める事……」

――――
――
~さやか~


杏子『いつまでもショボくれてんじゃねえぞ、ボンクラ』
杏子『ちょいと面貸しな。話がある』

さやか「!」


赤い髪の少女、佐倉杏子に連れられて私はある場所へ向かっていた。

落ち込んでいるとでも思ったのだろうか。
事実、つい先日知ったばかりの魔法少女の真実に、私はまだ動揺していた。

さやか(こんな身体になっちゃって…私……)


――あの後、恭介の家を去った後に行われた"喧嘩"の続き…その時に私達は知ってしまった。

それでも、これは奇跡を願った代償でしかないのだと…あの生き物は、キュゥべえはそう言うのだ。

そして目の前の少女もまた、これは自業自得だと、だからこれから先は自分の為に生きろと…そう語る。

――――
――

教会~さやか~


ポイッ

彼女から差し出された林檎を拒むと、彼女は勢い良く私に掴み掛かる。

杏子「食いものを粗末にするんじゃねぇ…っ殺すぞ!」

さやか「…ぅっ…ぐっ」パサッ

杏子「!」

あの時貰った藁人形が、制服のポケットから落ちた。

杏子「おいっ!あんた、これ…!」

さやか「…!返して!」バッ

杏子「…っその藁人形…どうしたんだよ」


さやか「っあんたには関係ないでしょ」

杏子「…地獄少女」

さやか「!」

私の反応を確かめると、佐倉杏子はそのまま言葉を続けた。


杏子「逢ったんだな…地獄少女に」

俯きがちに、力強い声色で彼女は続ける。

杏子「良いか…悪い事言わねえ。…それだけは、やめておけ……」

さやか「…はぁ?」

さやか「……っんで。……なんであんたなんかにそんな事言われなきゃなんないのよ…っ!!」ガシッ

杏子「…っ」ギリッ

先程のお返しとでも言うように、私は目の前の彼女に掴み掛かった。

さやか「…あんたに…あんたなんかに私の気持ちなんて…っ」ハッ


――その瞬間はだけた服の隙間にチラリと、噂で聞いた事のある痣が見えた…。

さやか「あんた…胸元のそれ……!」パッ


聞いた事がある…。地獄少女と契約を結んだ者は、印として胸元に痣が浮かび上がると…。


杏子「…ケホッ…あぁ」

杏子「だから、あんたの気持ち…人を恨んじまう気持ちは…痛い程分かる…」

さやか「…」


杏子「…あたしの親父はさ、この協会の神父でさ……」

ぽつりぽつりと、彼女は過去について…家族の事や、魔法少女になった経緯を、時折自分の気持ちも交えながら話し始めた。


――そして、地獄少女と出会った時の話しも…。

――――


杏子「…だけどある日、親父にカラクリがばれた…」

杏子「あたしの事を魔女だと罵り、酒に溺れるようになった…。そんな親父を見てられなくて…。…毎日親父に暴力を振るわれるお袋も、妹も可哀想で…」

杏子「…だから、地獄通信を使ったんだよ」

杏子「最初はもちろん迷ったさ…。そんな事しなくても、親父を更正出来れば…って。でも、無理だった。…挙句無理心中さ」

杏子「あたしも道連れにされそうだったけど…その時に糸を引いたんだ。そりゃあもう無我夢中でさ…」

杏子「笑っちゃうよね。親父を助けるつもりで魔法少女になったってのに…。結局助かったのはあたしだけ…一気に一人ぼっちになっちまった…」

杏子「正直死ぬ事だって考えた…でも出来なかった。地獄に逝くのが怖かったんじゃない…。あたしには、まだ向こうで親父に顔向けする勇気が無かったんだよ」

杏子「…残ったのは、結局後悔だけ。あたしの祈りが家族を壊しちまった」

その時に誓った…この力は全て自分のためだけに使い切ると、彼女は続ける。

杏子「奇跡ってのはタダじゃないんだ…。希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる」

杏子「そうやって差し引きをゼロにして、世の中のバランスは成り立ってるんだよ」


さやか「あんた…何でそんな話し、あたしに…」

杏子「だからさ!地獄流しなんて、馬鹿な事は辞めなよ。…あんたならまだ取り返しがつく!あたしみたいに、なって欲しくないんだ」

さやか「…」


さやか「うん。…ごめん。あんたの事、ちょっと誤解してた」

さやか「地獄流しの事は、冷静になって考える。…でもね、私は人の為に祈った事を後悔してない。そのキモチを嘘にしない為に、後悔だけはしないって決めたの。これからも」

さやか「それからさ、あんたその林檎はどうやって手に入れたの?」

杏子「…っぁ」

さやか「言えないんだね。なら、やっぱりその林檎は受け取れない」

さやか「私は私のやり方で戦い続けるよ。それがあんたの邪魔になるなら、前みたいに殺しに来ればいい。私は負けないし、もう、恨んだりもしないよ」

彼女の事は誤解していた。
しかし、それとこれとは話しが別なのだ。



杏子「馬鹿野郎!あたし達は魔法少女なんだぞ!他に同類なんていねーんだぞ!」

――後ろから彼女の声が聞こえるが、私は振り返る事もないまま、教会を後にした。

次の日・放課後~さやか~



仁美「私、上条君の事ずっとお慕いしてましたの」


――予想はしていたとはいえ、やはりはっきりと聞いてしまうとショックであった。


教室で彼を見つめていた事も、私は知っていたのだ。
…目の前にいる親友が、あの日彼の家から出てきた事も。

―回想~さやか~―


ガチャッ

さやか「!」サッ

あの時、突然開いた扉に身を隠した時、私は見てしまったのだ。


恭介「わざわざ退院祝いに来てくれるなんて…」
仁美「いえ//…素敵な演奏でしたわ」
恭介「ありがとう。これくれいしかお礼が出来なくてごめんね」

――

仁美「…さやかさん?」

さやか「…ハッ」

さやか「…あ……あはは…まさか仁美がねえ…。あ、なーんだ、恭介の奴、隅に置けないなあ」

仁美「…あなたはどうですか?ご自分の本当の気持ちに向き合えますか?」

仁美「一日だけ時間を差し上げます。どうか後悔のなさらないよう、お決めになって下さい」

さやか「…っ」


さやか(…やっぱり。仁美…恭介の事…)ギリッ


――そっと、ポケットにある感触を確かめた…。

――――
――

電車内~さやか~


ガタンゴトン


――夕方、仲良さそうに帰って行く二人を見つけた。

さやか(…やっぱり、あの二人)


"美樹さん、あなたは彼に夢を叶えてほしいの?それとも、彼の夢を叶えた恩人になりたいの?"
"同じようでも全然違うことよ。これ"

今になって、マミさんの言った言葉が重くのし掛かる。
後悔なんてない…そう思っていたはずなのに。

大事な友人を傷付けて、救ってくれようとした手さえ振り払ってしまった…。

さやか(…救いようないよ。ほんと)

様々な思いが、私の心をゆっくりゆっくりと、蝕んでいくようだった…。

――――

「言い訳とかさせちゃダメっしょ。稼いできた分はきっちり全額貢がせないと」
「女って馬鹿だからさ、ちょっと金持たせとくとすぐくっだらねぇ事に使っちまうからねぇ」
「いや~ほんと、女は人間扱いしちゃダメっすね」

――ホストだろうか…。二人の男性の言葉が耳に入る。
…聞きたくないような言葉が、今の自分に確実に突き刺さっていく。

「捨てる時がさぁ~ほんとウザいっすよね。その辺ショウさん上手いから羨ましいっすよ。俺も見習わないと…お?」

「ねえ、その人のこと、聞かせてよ」


その二人に話しかけたのは、殆ど無意識だった…。

さやか「今あんた達が話してた女の人のこと、もっとよく聞かせてよ。…その人、あんたの事が大事で、喜ばせたくて頑張ってたんでしょ?あんたにもそれが分かってたんでしょ?なのに犬と同じなの?ありがとうって言わないの?役に立たなきゃ捨てちゃうの?」


こんな男の為に…。
その男達が話題にしていた、見ず知らずのその女の人が、自分と重なって見えた気がした。


さやか「ねえ、この世界って守る価値あるの?あたし何の為に戦ってたの?教えてよ。今すぐあんたが教えてよ。でないとあたし…」

さやか「…あたし……」



さやか「…っ!」グッ

シュルッ



『怨み、聞き届けたり』

駅ホーム~杏子~



さやか「悪いね、手間かけさせちゃって」

――やっと見つけた。
ずっと探し回っていた少女がそう呟く。

杏子「.何だよ、らしくないじゃんかよ」

さやか「うん。別にもう、どうでも良くなっちゃったからね」

生気の無くなったような声色で、彼女は続ける。

さやか「結局私は、一体何が大切で何を守ろうとしてたのか、もう何もかも、わけ分かんなくなっちゃった」

さやか「希望と絶望のバランスは差し引きゼロだって、いつだったかあんた言ってたよね。今ならそれ、よく分かるよ」

さやか「確かに私は何人か救いもしたけどさ、だけどその分、心には恨みや妬みが溜まって。一番大切な友達さえ傷付けて」

さやか「誰かの幸せを祈った分、他の誰かを呪わずにはいられない。私達魔法少女って、そう言う仕組みだったんだね」


さやか「…ごめん。あんたの忠告無駄にしちゃった……」

杏子「おい…!あんたまさか!」ハッ



さやか「あたしって、ほんとバカ」

――そう言って涙を流す彼女の手には、見覚えのある、赤い糸が握られていた…



パリンッ

杏子「さやかあああっ!!!」

~上条~


~~♪~♪♪~~~♪

「凄ーい!上手上手!」パチパチ


――リハビリの為、自室でヴァイオリンの練習をしていると、いつの間にか見知らぬ女の子がいた。

上条「君は…?どこの子かな?勝手に人の家に入るのは良くないよ」

3~4歳くらいだろうか?
怖がらせないよう、なるべく優しく話しかける。

きくり「ねぇ、遊んでよ!」

僕の問いかけを無視して、その子ははしゃぐ声で言う。
退院してからというもの、親戚や色々な方面からの来客が多い。その子供だろうか…。

上条「遊ぶって…何をすれば……」

きくり「これ!これ読んで!」

そう言って差し出された、一冊の絵本。

上条「…これは」

"人魚姫"

バシャッ


上条「!」

上条「…ゴボッ!?一体…どうなって!?」

絵本を手渡された瞬間、どこからか現れた波に、僕の身体は飲み込まれた。
そこは既に、知っている自室ではなくなっていた。

上条「…ゴボッ…ガハッたっ!助けて!!」

――何が起こっているのか分からないまま、僕は水中でもがいた。

骨女「おやおや。だらしないねぇ…」
一目連「あの子の苦しみは、そんなもんじゃなかったみたいだぜ?」

上条「!?」

目の前に現れた小さな舟の上から、さっきの女の子と、見知らぬ男女が三人…。

上条「…っ君達は!?…ガハッお願いだから…助けて!」

誰でも良い…この状況から抜け出せるのなら。
無我夢中でその三人に助けを求めた。

一目連「んー?どうする?」
輪入道「そろそろ本当に溺れちまいそうだな。仕方ねぇ」

上条「…ゲホッ……はぁーはぁ…ゲホッ」

そう言って和服の老人が引き上げてくれたそこは、既に舟の上では無くなっていた。

上条「…ここは?」

頭が付いていけない…一体何が起こっているのだろう。

煩い程の音楽が鳴り響く、異様な雰囲気のそこは、コンサートホールのような場所だった…。

上条「!」
上条「ぅ…うわぁあああっ!!」


ステージ上に目をやると、そこには下半身が魚の姿をした、おぞましいモノがいた。

上条「ばっ…化物!ひぃぃ」

一目連「おいおい。それは酷いんじゃないか?」
骨女「この子は、ずーっとあんたの為を思ってくれてたってのに…。それこそ、こんな姿になるまで……」

上条「!?…しっ知らない!そんな化物……何で僕がこんな…」

輪入道「知らない…か。まぁ、それでもあの子の怨みを買っちまったんだ」


怨み…?一体何を言ってるんだ。

――気付いた時には、和服姿の少女が近付いてきていた…。



あい「闇に惑いし哀れな影よ…
 人を傷つけ貶めて……
 罪に溺るる業の魂……」



 あい「…イッペン…死ンデミル……?」

キィッ…キィッ…



上条「…何で僕が…何で……嫌だ…」ブツブツ

上条「助けて!!…父さん!母さん!……さやか!さやか助けて!!」



あい「…この怨み、地獄へ流します」


チリー…ン

――
街中~杏子~


まどか「…本当に、さやかちゃんかな?…他の魔女だったりしないかな」

杏子「魔力のパターンが昨日と一緒だ。間違いなくアイツだよ」

――不安気に聞いてくる少女、鹿目まどかにそう返す。

"美樹さやか、助けたいと思わない?"

その問いかけに迷わず着いて来てくれ
た彼女は、美樹さやかの親友であった。

杏子「本当に、覚悟は良いんだね?」

美樹さやかは、あの会話の後に魔女へと姿を変えた…。
それを見届けるしか出来なかった自分を悔しく思う。

しかし、魔女にはなったがまだ死んでしまった訳ではないのだ。
だからまだ、自分と同じような間違いを犯してしまったあの子の事を、諦める訳にはいかなかった。

――――
――
結界内~杏子~

まどか「さやかちゃん!」

まどか「やめて!もうやめて!さやかちゃん!私たちに気づいて!」


――やはり、無理だったのだろうか…。


まどか「さやかちゃん!!」


何度も呼んだその名前も、今のあの子には届く事はなかった…。


杏子「…よう」

杏子「その子を頼む…。あたしの馬鹿に付き合わせちまった」


――いつの間にか現れた黒髪の魔法少女、暁美ほむらに、鹿目まどかを託す。

正直、ここで来てくれた事にほっとした。…これ以上、この子を巻き込む訳にはいかない。

杏子「ただ一つだけ、守りたいものを最後まで守り通せばいい」

杏子「ハハハ、何だかなぁ。アタシだって今までずっとそうしてきたはずだったのに」

杏子「行きな。コイツはアタシが引き受ける」


二人が去ったのを確認すると、私は祈りのポーズを取った。

…そういえば親父が生きていた頃は、毎日のように神様に祈りを捧げていたっけ。
でもこれは、神様へでも何でもない…目の前の少女の為だけの祈りであった。


杏子「心配すんなよさやか」


そう…逝き着く先は同じなんだ…。
だったら…



杏子「一人ぼっちは…寂しいもんな」


杏子「…いいよ、一緒にいてやるよ。さやか」

キイッ…キイッ…


さやか「ごめんね…杏子。手間掛けさせちゃって…」

杏子「良いって。…遅かれ早かれ、こうなってたんだ」





骨女「難儀なもんだねぇ。あの子達も…」
一目連「でも…何だか幸せそうだな」
輪入道「ああ…」

キイッ…キイッ…


さやか「ごめんね…杏子。手間掛けさせちゃって…」

杏子「良いって。…遅かれ早かれ、こうなってたんだ」





骨女「難儀なもんだねぇ。あの子達も…」
一目連「でも…何だか幸せそうだな」
輪入道「ああ…」


輪入道「行き着く先に…永遠の苦痛が待ってるってのにな…」

ホムホーム~ほむら~


"約束するわ!必ず貴女を救ってみせる…!何度繰り返す事になっても!!"


――今となっては、随分懐かしいと感じる夢を見ていた気がする。


"お手柄だよ、ほむら"
"君がまどかを最強の魔女に育ててくれたんだ"


ほむら「…っ!」

同時にその言葉も思い出してしまった。
嫌な目覚めだ…。


"12日より行方が分からなくなっていた、市立見滝原中学校2年生の美樹さやかさんが、本日未明、市内のホテルで遺体となって発見されました"
"発見現場にも争った痕跡が無いことから、警察では、事件と事故の両面で捜査を進めています"
"続いて、天気予報です。今夜は北西の風がやや強く、雨――"

――点けたTVからは、よく知る人物の名前が読み上げられていた。


「行方不明だった美樹さん…死体が見つかったんだって?」「らしいね…てっきり地獄少女に連れてかれたのかと」「そういえば、上条君も…」「やっぱり地獄…」


あれからクラス中はその話題で持ちきりだ。

ほむら「地獄少女…って一体」

馬鹿馬鹿しい…。ただの噂に過ぎないのだ。
地獄少女など、地獄など…

ほむら「…あるわけないのよ」


「あるよ」


ほむら「!」

ほむら「誰!?」バッ

自分以外誰もいないはずの部屋の中で、幼い声が響いた。
声の正体を探すと、そこには3~4歳くらいの少女がいた。


きくり「地獄って…あるよ」


スッ

ほむら「!」

ほむら「…消え……た?」

ほむら「もしかして…あの子が…?」

――地獄通信…まさか本当に…。

~まどか~


まどか「マミさんもいなくなって…さやかちゃんも杏子ちゃんも死んじゃった……」

――まただ。
マミさんの時と同じで、また自分は何も出来なかった…。

まどか「…ほむらちゃん」

もう、これで最悪の魔女"ワルプルギスの夜"に立ち向かえるのは、ほむらちゃんしかいない…。


まどか「…私は……」

"いつか君は、最高の魔法少女になり、そして最悪の魔女になるだろう"


まどか「…」

キュゥべえの言っていた言葉が頭の中でぐるぐると巡る。


"彼女たちを裏切ったのは僕たちではなく、寧ろ自分自身の祈りだよ"
"どんな希望も、それが条理にそぐわないものである限り、必ず何らかの歪みを生み出すことになる"
"そんな当たり前の結末を裏切りだと言うなら、そもそも、願い事なんてすること自体が間違いなのさ"


まどか「……っ」ギュッ


"この宇宙のために死んでくれる気になったら、いつでも声をかけて。待ってるからね"

――――
――

避難所~まどか~


"雷雲がとんでもない勢いで分裂と回転を起こしています。明らかにスーパーセルの前兆です。直ちに避難指示の発令を"
"本日午前7時、突発的異常気象に伴い避難指示が発令されました。付近にお住いの皆さんは、速やかに最寄りの避難場所への移動をお願いします。こちらは見滝原市役所広報車です"


まどか「…ほむらちゃん」ギュッ

――今、未来から来たと言った友人、暁美ほむらはきっとワルプルギスの夜と対峙しているのだろう…。


――
ほむら「…私ね、未来から来たんだよ。何度も何度もまどかと出会って、それと同じ回数だけ、あなたが死ぬところを見てきたの」

ほむら「どうすればあなたが助かるのか、どうすれば運命を変えられるのか、その答えだけを探して、何度も始めからやり直して」

ほむら「あなたを救う。それが私の最初の気持ち。今となっては…たった一つだけ最後に残った、道しるべ」

ほむら「わからなくてもいい。何も伝わらなくてもいい。それでもどうか、お願いだから、あなたを私に守らせて」
――

まどか「…」



――彼女を信じていない訳ではない…。
それでも、最悪の事ばかり頭に浮かぶ。

もし駄目だったとしても、きっと彼女はまた一からやり直すのだろう。
たった一つの出口を探って、一人ぼっちで何度でも…。


まどか「…そんなの、寂し過ぎるよ……」



――だったら…
もう答えは決まっていた。

~ほむら~

ほむら「……くっ…」

――やっぱり駄目なの?
何度やってもあいつに……。

もう、諦めるしかないのだろうか…。
繰り返せば…またそれだけまどかの因果が増えてしまうのなら。


ほむら「……っ…私のやってきたこと、結局……」



パシッ

――誰かが、その手を握った。
暖かい…とても……。


ほむら「…まど…か?」

まどか「ほむらちゃん…」


ほむら「…まど…か……?ハッまさか…っ」


まどか「ほむらちゃん、ごめんね」



――その手には、黒い藁人形が握られていた…。

まどか「ごめんね…私の為に、こんな傷だらけにらなって…」

まどか「…でもね、ほむらちゃん…もう良いの。…全部私が、終わらせるから……」


――そう言って彼女は、藁人形に巻かれた赤い糸に手を掛ける。


ほむら「…まどか!……待って!!」

まどか「…大丈夫。あれを倒したら、私も行くから……っ!!」

シュルッ


『怨み…聞き届けたり』




まどか「…」

まどか「キュゥべえ…お願い」

――――
――

QB「やれやれ…。あのワルプルギスの夜を一撃で倒したのには驚いたよ」

QB「でもまさか、その後にすぐに自分のソウルジェムを砕くなんて…。僕からしたら大損じゃないか」キュップィ

QB「それにしても…」

QB「…君は一体何者なんだい?閻魔あい」

あい「…」

QB「教える気なんてさらさらないみたいだね」

あい「…」

QB「まぁいいや。僕はまたエネルギー回収に勤しむとするよ。…また会った時には、君も僕と契約してみないかい?君には素質がありそうだ」





あい「…考えとく」

キィ…キィ…


ほむら「…どうして。私は……まどかの為に…」ボソボソ

まどか「うん。…ごめんね。終わらせるには、こうするしか無かったの……ごめんね…ほむらちゃん」

ほむら「…どうして……」

まどか「………ごめんね」




輪入道「助ける為に、地獄に流す…か。人間の考えってのは、難しいもんだねぇ…」

あい「…」

あい「この怨み、地獄へ流します…」

チリー…ン

終わりだけど、今からもう一個考えてた別バージョンのラスト書く

>>71から

~ほむら~


ほむら「……くっ…」


やっぱり駄目なの?
何度やってもあいつに……。

もう、諦めるしかないのだろうか…。
繰り返せば…またそれだけまどかの因果が増えてしまうのなら。

ほむら「……っ…私のやってきたこと、結局……」


パシッ

――誰かが、その手を握った。
暖かい…とても……。


ほむら「…まど…か?」

まどか「ほむらちゃん…ごめんね」

ほむら「…まどか…?まさか…っ」

――まどかの足元には、インキュベーターが表情のない顔で佇んでもいた…。

まどか「ほむらちゃん、ごめんね。私、魔法少女になる」

ほむら「まどか…そんな…」

まどか「私、やっとわかったの。叶えたい願いごと見つけたの。だからそのために、この命を使うね」

ほむら「それじゃ…それじゃ私は、何のために…」

まどか「ほんとにごめん…。でも、やっと見つけ出した答えなの。」

ほむら「まどか…」

QB「数多の世界の運命を束ね、因果の特異点となった君なら、どんな途方もない望みだろうと、叶えられるだろう」

まどか「本当だね?」

QB「さあ、鹿目まどか――その魂を代価にして、君は何を願う?」

まどか「…私」――ハッ

――――
――

QB「まどかが消えた…?暁美ほむら、君は一体……」

ほむら「…」

QB「鹿目まどかの消失は、僕だけじゃない、君にとっても不都合なんじゃないのかい?」

ほむら「…良いの。これで…」

ほむら「…私の戦場は、ここじゃない」

パリ…ン

QB「…やれやれ」

QB「所で、君は一体何をしたんだい?」

あい「…」

QB「答える気は無さそうだね。僕はもうお暇するよ。ーーこの街にもう用はないからね」キュップイ

キィ…キィ…


まどか「…嘘でしょ……何で?…何で私がこんな……」ボソボソ

ほむら「…大丈夫よ。…ふふっ…私が一緒だもの…ね?……まどか」

まどか「…やだ……やだよ…っ!帰して!帰してぇ…っ!!」




一目連「…助けたかったのか、ただ一緒にいたかっただけなのか……人間の考えは、本当分からねぇな…」
骨女「また迷路に戻るか、地獄に落ちてでも終わりにするか…か」
輪入道「どっちも地獄なんだろう。あの子にとっては…」

輪入道「…もうとっくに壊れちまってたんだろうな…。何回も繰り返す内に」


キィ…


あい「…この怨み、地獄へ流します……」


チリー…ン

終わり

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年12月12日 (木) 19:06:51   ID: iyvC8IZb

最近地獄少女に興味持ったからちょうど良い

2 :  SS好きの774さん   2013年12月12日 (木) 19:10:10   ID: iyvC8IZb

面白いな

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