結衣「ただいま、京子」京子「……おかえり、結衣」(164)


 何の変哲もない日常のはずだった。
 それが一変する事件が起きた。


 船見結衣が何者かに襲われ、病院へ運ばれた。


 結衣の幼馴染の歳納京子がその知らせを聞いたのは、夕飯の準備を手伝っているときだった。
 夕飯の準備を取りやめ、母親の運転する車に乗り、急いで病院へと駆けつけた。
 

 
京子(襲われたなんて言ったって、きっと大したことない)

京子(きっと結衣はけろっとして心配かけたねって笑うんだ)

 京子の期待は裏切られることになる。

京子「……集中、治療室」

 船見結衣は何者かに背中を刺され、意識不明の重体だった。
 
 待合室に連絡を聞き、駆けつけた七森中の生徒たちが集まっていた。
 京子はその中に見知った2人を発見し、近寄った。

あかり「京子ちゃん」

ちなつ「結衣先輩は、どうなってしまうんでしょうか……?」

 ごらく部の後輩である赤座あかりと吉川ちなつだ。


あかり「……大丈夫だよね?大丈夫に決まってるよね……」

ちなつ「結衣先輩……」

京子「……っ。大丈夫に決まってるだろ?あの結衣だよ?そう簡単に……」

京子「そう簡単に死ぬわけないって……」

 皆、集中治療室を見つめていた。泣いていた。祈っていた。それしかできなかった。
 京子だけは泣いていなかった。
 涙を流し、震えるあかりとちなつをずっと励ましていた。

 どれほど時間が経っただろうか。
 待合室にいる生徒はもう京子とあかりとちなつの3人しかいなくなっていた。


京子母「……もう夜も遅いから」

京子「……そうだね」

京子母「2人も一緒に送るね」
 
あかりちなつ「」コクリ

 病院を出て、京子は一度病院へ振り返った。

京子(結衣……結衣……!)

京子(大丈夫だよね……そうだよね……)

京子母「京子」

京子「……今行く」

 車中、言葉を発する者はなかった。
 淡々と2人を家に送り届け、京子も自宅に到着した。


京子母「夕飯は?」

京子「いい。もう寝る」

京子母「……そう。おやすみ」

 自分の部屋に入り、扉を閉めると同時に京子は泣き崩れた。
 本当は泣きたかった。叫びたかった。
 しかし、病院ではあえて明るくふるまった。
 あかりやちなつを励ます側に回った。

 我慢していた分、流れ始めた涙は止まらない。

京子「結衣ぃ……ヒック、グス……結衣、結衣……」

 今の京子に出来るのは結衣の無事を祈ること、それだけだった。
 涙は悲しみか、結衣がいなくなるかもしれない恐怖心か、祈ることしかできない自分への悔しさか……。

**

 翌日の学校は暗いムードに包まれていた。
 登下校中の事件ではないとはいえ、今日は親に送迎してもらう子が目立った。

 それでも授業は淡々と進む。
 京子は上の空で過ごした。

 放課後になると京子のクラスにあかりとちなつが現れた。

あかり「京子ちゃん」

ちなつ「病院へ行きましょう」

京子「うん」

あかり(京子ちゃんの目が赤い)

ちなつ(隈もできてるみたい)

京子「行くよ」

あかり(京子ちゃん……)

ちなつ(京子先輩……)


 病院で3人は結衣の母親に会った。

結衣母「あ、京子ちゃん……それにあかりちゃんも、それと……」

ちなつ「吉川ちなつです」ペコ

結衣母「昨日もありがとうね」

京子「結衣は!結衣は、今……?」

結衣母「集中治療室からは出てきたの。だけど……」

あかり「だけど?」
 
結衣母「意識が戻ってないの……」

 結衣の母に案内され、3人は結衣の病室にやってきた。
 ベッドには結衣が横たわっている。


京子「眠ってるだけみたいに見える……ね」

あかり「結衣ちゃん?あかりだよ?ねぇ結衣ちゃん……」

ちなつ「結衣先輩……もう夕方ですよ。寝坊ですよ……」

京子「結衣。……結衣!」

 必死に3人は思い思いの言葉を結衣にかけるが結衣は目覚めなかった。

 結衣の事件のこともあり、3人は日が暮れる前に帰ることになった。
 
ちなつ「……」

あかり「……」

京子「……」

 会話も少なく、重苦しい空気が漂った。

 京子はあかりとちなつと別れた後、ふらりと公園に立ち寄った。

 夕暮れの公園には京子以外誰もいなかった。

 京子はブランコに腰をかけ、小さく揺らしながらそこから見える景色を見つめた。

京子(小さい頃、知らない子に絡まれた私を結衣が守ってくれたな)

京子(転んだ時、泣くなって言いながら傷跡舐めてくれたっけ)

京子(中学生になって私の同人のネタのために付き合ってくれたよね)

 ブランコから見える景色に結衣との思い出が蘇り、京子は涙を流した。
 昨日あれほど泣いたのに、涙は止まらない。

京子「……結衣……」


 「何?」

京子(幻聴……?ほんと、もう、こんな時にやめてよ)

京子(もっと辛くなるじゃん……)

京子「結衣、結衣ぃぃ……」

 「……泣くなって、京子」

 はっきりと京子の耳に届いた優しい声。今一番聞きたい声。

 「こっち」

 呼ばれた方向に顔を向けた京子の前に結衣がいた。

 わけがわからなかった。混乱した。

京子「え……?結衣?どうして、なんで……?」

結衣「わからないけど、気付いたらここにいた」

 結衣は困ったように頬を掻き、笑った。


京子「結衣」スッ

 京子は結衣に触れようと手を伸ばした。
 でも触れることができなかった。

 少し透ける結衣の体。

京子「……結衣!結衣!まさか……!?」

結衣「うーん……」

結衣「ゆ、幽霊……かな?」

京子「……」

京子「……わけ……よ」

結衣「え?」


京子「そんなわけないよ!」

京子「結衣は、結衣は……!死んでないよ!」バッ

 京子は叫び、結衣の手を握ろうと手を伸ばした。
 しかし、触れることができず、京子の手は空を切った。

京子「……っ」

 京子は空を切った手をぐっと握った。

京子「……結衣、ついてきて!」

 京子は結衣を連れ、元来た道を戻り、再び病院へ向かった。


**


結衣母「あ、京子ちゃん。忘れ物?」

京子「う、うん」

結衣母「ちょっと、お花の水を代えてくるから」

 京子の曖昧な返事は気にも留めず、結衣の母親は病室を出て行った。

 病室には眠る結衣がいた。
 繋がれた心電図も正常に反応しており、結衣が生きていることを告げていた。

京子「結衣は……、生きてるよ」

結衣「……」

 結衣は何も言わず、眠る自分自身を見つめていた。

結衣母「忘れ物は見つかった?」

 病室へ戻ってきた結衣の母親が、京子に声をかけた。

京子「……ありました」


 京子が病室を出ようとした時、病室いっぱいに結衣の声が響いた。

結衣「お母さん!!」

京子(結衣……)

 京子は結衣の声に反応して振り返った。
 結衣の母親は、不思議そうに京子を見た。
 
京子(結衣のお母さんには見えないんだ……)

京子(結衣……)

 結衣を見ると、結衣は目に涙を浮かべて母親を見つめていた。

京子(……行こう?)

 京子が目で結衣を促すと、結衣は寂しそうに従った。


**


 道中2人に会話はなかった。

京子「……幽体離脱」

 京子の部屋に着き、京子が呟いた。

結衣「幽体離脱?でも、そんなこと、本当に?」

京子「でも実際に!実際に……起こってるじゃん」

結衣「……」

京子「どうしたら戻るのかな……」

結衣「戻れるのかな」

京子「戻れるよ!あ、そうだ!」

結衣「なに?」


京子「ちょっと前に双子のお笑い芸人がやってたネタをやってみよう」

結衣「え」

京子「あんな感じで幽体離脱したのかもしれないし」

結衣「……他に何も浮かばないしな」

京子「うん」

結衣「明日、実際にやってみよう!」

 ふざけてなんかいない。2人は真剣だった。


**


 京子がお風呂に行った間、結衣は京子の部屋で一人、考えていた。

 自分がいま、何者なのか分からず、一人でいるのは怖かった。
 気付いたらあの公園にいたように、ふとした拍子に消えてしまうのではないか。
 本当に戻れるのだろうか……。

 結衣は不安だった。

結衣「もしも、突然消えることになったら……」

結衣「そのとき、京子は……」


 京子も不安だった。

 結衣の存在、結衣と離せること、それは嬉しいことであったが、いつ消えてもおかしくないような不安定さは拭い去れなかった。
 結衣に触れられない、それが一層京子を不安にさせた。


京子「結衣って眠るの?」

 お風呂から出た京子が結衣に尋ねた。

結衣「うん、まぁ……普通とそんなに変わらないと思うよ?」

京子「そっか」

結衣「もう夜も遅いよ」

京子「うん」

結衣「寝ないの?」

京子(もし、もしさ……)

京子(目が覚めて結衣がいなくなってたら……)

京子「もうちょっと起きてる」

結衣「……そう」

京子「ねぇ、結衣」

結衣「ん?」

京子「……いなくならないでね?」

結衣「いるよ」

京子「うん…………すぅ」zzz

結衣(京子……)


 正直にいえば、幽体離脱状態の結衣に睡眠は不要だった。
 結衣は京子を見守った。

結衣(これから、どうなるんだろう)

 月が雲に隠れ、暗闇と孤独が結衣を包んだ。

 「……結衣……」

結衣「京子?」

京子「……」zzz

 雲の隙間から月がおぼろげに京子を照らした。

京子「結衣ぃ……」

 京子は泣いていた。


 眠りながらも自分の名前を呼ぶ京子の涙を拭おうと結衣は手を伸ばした。

 しかし京子に触れられず、涙を拭う事も叶わない。

結衣「京子……」

結衣(不安なのは、京子も同じだ……)

結衣(分かってるのに、何もできない)

結衣(ただ見つめることしかできないなんて……)

結衣「京子……」

京子「……結衣……」


**


京子「ん……ふぁぁ……」

京子「あ、本当に結衣も寝てる」

京子「あれ……、もしかして私、泣いてた?」

京子(結衣に見られちゃったかな)

京子(結衣が1番不安だろうに。余計な心配かけたくないのに)

京子(結衣が起きる前に顔を洗おう。涙に気付かれないように……)




京子「早速昨日話したネタを試したいところだけど……」

 制服に着替えながら京子が言った。

京子「学校があるんだよなぁ。……さぼっちゃおうかな」

結衣「学校には行けよ」

京子「なんだよー、結衣は私のお母さんかよー」

 変わらない掛け合いが楽しかった。



 学校が終わると、すぐに病院へ向かった。

 結衣の母親が席をはずすと同時に結衣と京子は実験に取り組んだ。

京子「はい、結衣。体を合わせてみて」

 結衣は自分の体に自分を重ねた。

結衣「よしっ」

京子「いけっ」

結衣「幽体離脱~♪」

京子「……」

結衣「……」

京子「……」


結衣「……なぁ、京子」

京子「う、うん」

結衣「このネタって幽体離脱するネタであって、戻るネタじゃないよな」

京子「そ、そうだね」

 実験は失敗。

結衣「あぁもう!」

京子(結衣、顔真っ赤だ)

結衣「こんな時に何をやっているんだ、私は……」

 普段の京子なら悪戯っ子のようにニシシと笑うだろう。
 しかし、京子は笑っていなかった。

京子(どうして幽体離脱が起こったんだろう……?)

京子(幽霊ってこの世に何か未練があって留まってるんだっけ?)

京子(じゃあ、結衣も、何か未練があって、今ここにいる……?)

結衣「京子?」

京子(未練……?)

京子「結衣は、犯人を見たの?」

結衣「……わかんない。たぶん見てない」

京子「そっか」

京子(結衣は犯人を見てない)

京子(もしかして……犯人を捕まえれば、結衣は戻るんじゃないかな)


 「他に方法も浮かばないし……」

 2人には他にすがるものがなかった。
 犯人を捕まえれば、結衣が戻ると信じた。
 未練がなくなった幽霊は成仏する……

 未練のなくなった結衣が本当に逝ってしまう可能性を無視して、京子は希望だけを信じた。


京子「よし、犯人を探すぞ!」

 事件から3日経った今もまだ、警察は犯人の逮捕に至っていない。

京子「まずは、あの日の行動を教えて」

 京子は結衣に事情聴取を始めた。

 
結衣「あの日は……そうだな、夕方に買い物に行ったんだ」
 
京子「いつものスーパー?」
 
結衣「そう」
 
 2人はスーパーに移動した。
 
結衣「行きは特に何もなかったと思う」
 
 スーパーは結衣の事件なんかお構いなしにいつも通り人が溢れていた。
 
結衣「あの日もいつも通り混んでたな。だけど何もなかった」
 
京子「そう」
 
結衣「買い物の帰り道の途中で……記憶を失った。だからたぶんそこで……」
 
京子「う、うん……」

 こうやって直接尋ねることに京子は急に怖気づいてしまった。
 自分が襲われる瞬間なんて思い出したくないものだ。

結衣「気にしないで聞いていいよ。大丈夫だから」

京子「うん……。いつもと違うこととかなかった?」
 
結衣「うーん……あ、そうだ」
 
京子「な、なに!?」
 
結衣「いつもと違う道を帰ったんだ」
 
京子「いつもと違う道…?」
 
結衣「そう」

結衣「ついてきて」スタッ

 
京子「なんでこの道を?」
 
結衣「猫がいたんだ」

京子「猫?」

結衣「可愛い猫がいて、思わずついていっちゃった」

京子(少し照れる結衣も可愛いな……って今はそんな場合じゃない)

京子「そして……?」
 
結衣「うん、ついていったら……」
 
 この狭い道の路地に猫が集まっていた。
 
結衣「つい、買ってきた魚をあげたんだ」
 
京子「そうだったんだ……」

 
結衣「うん。そして後は家に帰ろうとしたんだ」
 
結衣「帰れなかったんだけどね……」ボソリ
 
京子「……」

 にゃーにゃー。

 結衣は道の先を見ていた。

 あの日歩いたであろう道を。途中で襲われたであろう道を。
 結衣が何を思ってその道を見ているのか京子には分からなかった。

 ただ自然と京子の頬を涙が濡らした。
 
結衣「京子……?」
 

 京子の様子に気付いた結衣が京子に声をかけた。
 京子ははっとして涙を拭い、笑顔を作った。

京子「猫に魚をあげただけかー。じゃあそれが原因だったりして」

 それは自分が泣いていたのをごまかすように発した言葉だった。

結衣「そんなまさか」

結衣「それはないだろう」

京子(……でも)

 
 周りの住宅を見回すと、いわゆる猫よけであるペットボトルがあった。

 猫に餌をあげた……そんな些細な理由で?と思う反面…
 「ピアノがうるさいと言って隣人を殺す話はめずらしくもなんともない」
 というセリフを何かの漫画で読んだことを京子は思い出した。


結衣「京子?」

 黙っている京子に結衣は不思議そうに声をかけた。
 
京子「ねぇ、結衣……」

 京子は決意した。結衣は驚いた。止めようとした。

 京子の決意は固かった。

京子「魚をあげたくらいで襲われるわけないんだから、大丈夫だよ」



 結衣が襲われた日からちょうど1週間が経った。

 京子は学校が終わるとすぐに家に帰った。
 そして私服に着替え、バッグにこの1週間に集めたハリセンやバールのようなものを詰め込んで「よしっ」と気合を入れて立ち上がった。

 家を出て、結衣の証言通りの時間にスーパーに訪れた。
 そこで1週間前に結衣が買ったものと同じものを買い集めた。

京子「ふぅ」

 京子は囮になろうとしたのだ。

 1週間前に結衣が襲われたのと同じように行動し、自分を襲ってきた犯人を捕まえる。
 漫画や小説の世界のようなことを京子はやろうとしていたのだ。
 
 結衣は止めたかった。猫に魚をあげたくらいで……その考えに変化はない。

 ただ京子が心配だった。
 京子を危険な目に会わせたくなかった。
 もし自分の体があるのなら、京子に触れられるのなら、結衣は体を張って、京子の行動を止めただろう。

 しかし今の自分は京子に触れることすらできない。
 止めることもできす、文字通り京子を見守り、京子の無事を祈ることしかできなかった。

京子「行くよ」
 
 誰に言うでもなく京子は呟き、あの日結衣が歩いた道をなぞり始めた。

 結衣は後ろをついていくしかなかった。

 にゃーとどこからともなく猫が現れた。
 京子は体をびくりと震わせた。
 猫はあの人同じように2人を路地に誘った。


 ごくりと京子が唾を飲み込み、歩を進めた。

 路地に入る時、結衣は後方に気配を感じ、振り返った。
 しかし、そこには誰も見えなかった。


京子「ほら、魚あげるぞー」

 京子はスーパーの袋から魚を取り出し、猫の前で振った。
 猫がそれに合わせて体を揺らした。

京子 「ほれほれー」
 
 京子は楽しそうに魚を揺らし、猫が早くとせかすように前足をしゃがむ京子の膝に乗せた。
 
京子「しょうがないな」

 京子は魚を揺らすのをやめ、猫に渡した。
 猫たちがそれを取り合うように喰いついた。
 その様子を京子は黙って見ていた。

 
 もう、笑顔は消えていた。
 
 結衣は胸騒ぎを感じていた。
 京子は小さい頃から運動が苦手だ。よく転んだ。
 今でこそ活発であるものの、運動音痴は変わらない。

 もし、犯人に襲われた時、京子はとっさに反撃できるだろうか。

 答えはNOだ。

 実体のない結衣は、犯人が現れないことを願うしかなかった。

 猫が魚を食べ終わる頃、京子は「ん」と気合を入れて立ち上がった。

京子「大丈夫」

 自分に言い聞かせるように呟き、あの日結衣が途中までしか歩けなかった道を歩き始めた。

 緊張がそばにいる結衣にも伝わった。
 一歩二歩……ゆっくりと、しかし確実に歩を進める。

 ぞわっと結衣に悪寒が走った。


結衣(ここだ)
 
 1週間前の今日、まさにこの場所で結衣は襲われたのだ。

 結衣がそれを思い出した瞬間、京子の背後に黒い影が現れた。
 結衣は直感的に分かった。
 この人物が自分を襲った犯人であると。

 手に握られたナイフは確実に京子を狙っている。

京子「ん?」

 京子は振り返ろうとした。

 瞬間、ナイフが振りおろされた。



 パァッン




 同時に何かが割れる音。
 降り注ぐガラスの欠片。

 それは京子を避けるように襲撃犯だけに降り注ぐ。

 「ぐぁあぁぁ」
 「キャーーーー」

 襲撃犯の悲鳴と女の子の悲鳴が重なった。
 バタバタと近隣の住民が何事かと顔を出し、閑静な住宅街が一斉に賑やかになる。
 誰が通報したのか警察も現れた。
 
 腰を抜かす京子に2つの影が駆けよった。
 先ほどの悲鳴の主である、ちなつとあかりだった。

あかり「京子ちゃん!」

ちなつ「京子先輩!」

 この1週間の京子の様子を心配していた2人は、京子の後をつけていたのだ。

 結衣が感じた後方の気配はその2人だったのだ。

 立ち上がれずに固まり、目に涙をためる京子をちなつとあかりは抱きしめた。
 結衣はその様子をただ眺めていた。

  
 
**


  
 警察による事情聴取が終わり、4人は帰路についた。
 
あかり「京子ちゃん、あんまり無理しないでよう」
 
京子「ごめんって」
 
ちなつ「私たちだって力になりますし、相談してくださいよ」

 
あかり「でも、よかったよ。京子ちゃんが無事で」 
 
 ちなつとあかりは京子に心配の言葉などをかける。

 京子は笑っていた。
 結衣はそれを見て安心した。

ちなつ「じゃあ、気をつけて帰ってくださいね」
 
京子「2人もね」

 ちなつとあかりと別れると、京子と結衣は2人が出会った公園に向かった。


 あの日より少し遅い時間。
 あの日と同じように京子はブランコに腰かけた。

 京子の気持ちは晴れていた。希望と安心を感じていた。

 結衣は京子の隣のブランコに腰かけた。

京子「犯人捕まったね」

京子「本当に猫が原因だったなんてね」

 犯人はあの住宅街に住む男で、猫を嫌っていた。
 どうにかして猫を追い払おうと対策を重ねていたが、どうしてもこの辺に住み着いて離れない猫を憎んだ。

 そしてあの日、結衣が猫に魚をあげるのを見てしまった。

 猫への憎悪は同時にその猫に餌をあげる人間にも湧いてしまった。
 
京子「ほんと、やられるかと思った」
 
 京子が振り返った瞬間に降りおろされたナイフは、京子に突き刺さる前に男の手から離れた。
 ナイフが振り下ろされると同時に、男の上にあった街灯が割れて、その破片が男を襲ったのだ。

 不思議なことに、近くにいたにもかかわらず京子には怪我ひとつない。

 
京子「……あれって、もしかして結衣がやったの?」
 
 結衣はそれには答えず、立ち上がった。

 京子の座るブランコに乗り、実際に触れることはできないものの、二人乗りの形になった。
 京子は小さくブランコを揺らした。

京子 「これで結衣は戻るよね……?」

 不安げに京子は呟き、しかし、自分でそれを否定するように明るく笑った。

京子「こんなに頑張ったんだから、今度何かおごれよ!」

結衣「……京子はすごいなぁ」

結衣「今回の事件だって、頑張ったし、犯人も捕まったし……本当にすごいよ」
 
京子「へへへ」
 
結衣「でも、あんまり危ないことするなよ」

京子「わかってるよ」

 揺れるブランコから感じる風を京子は心地よく思った。

結衣「……私がいなくても、京子なら大丈夫だな」

 その唐突な言葉は京子を固まらせるには十分だった。

結衣「もう、一緒にはいられないかもしれない……」

 ブランコから落ちるように降り、結衣へ振り返った京子は現実を突きつけられた。

 初めから結衣の体は透けていた。
 しかし今、結衣の体が消えようとしていた。

京子「う、嘘!?なんで!?どうして!?」

 希望が打ち壊され、理解できない状況に京子は混乱した。
 混乱する京子に、結衣は優しく微笑んだ。

結衣「私、京子が好きだったよ」

京子「私も好きだよ!」

 京子は結衣に抱きつこうとした。
 しかし触れられない。

結衣「……ごめんね、京子」

京子「好きだよ、結衣……。だからいかないで」
 
京子「私を置いていかないでよ。ずっと守ってくれるんでしょ……」

京子「私、結衣ともっと一緒にいたいよ」

京子「2人でしてないこと……まだ……、まだ、たくさんあるよ」

 結衣はそんな京子を包んだ。
 触れられずとも、その温かさは京子には確かに伝わった。
 
結衣「京子……」

京子「まだ……キスだって……」
 
結衣「京子、顔を上げて……」
 
 顔を上げた京子の顔は涙と鼻水とでぐちゃぐちゃだった。
 
結衣「好きだよ……ごめんね」




 
 2人の唇が触れる寸前、結衣は消えた。




**



 結衣の温もりが消えたのが分かった。
 目を開けるのがこわかった。
 目を開けると結衣はいない。

 そこで呆然と立ち尽くしていると携帯電話が鳴り響いた。
 
 京子は流した涙を拭う暇なく、病院へ走り出した。

 結衣の病室の前にはちなつやあかりも集まっていた。
 そこに合流した京子は扉の前に立った。

 病室の扉を開ける手が震えた。
 心臓がドキドキして、痛かった。

 ガラッ

 京子は思いきってドアを開いた。
 その視線の先にはベッドがあって、そこで結衣が眠っている。

 病室へ一歩ずつ進む。


 結衣を取り囲む機械は作動している。結衣は生きている。
 京子がベッドまでやってくると、ベッドの主と目が合った。

結衣母「さっき目が覚めたの」

 結衣の母親が笑った。
 電話では「結衣が……!早く来て!」としか聞いていないから、最悪の事態も想定していた分、嬉しいよりもまず気が抜けてしまった。

ちなつ「結衣せんぱ~い」
 
あかり「結衣ちゃん」

 緊張が解かれた病室であかりとちなつが涙を流した。
 
結衣「あかり、ちなつちゃん……ごめんね、心配掛けて」

 結衣はベッドから手を伸ばし、2人の頭を1人ずつなでた。


京子「……まったく心配かけやがって」
 
 京子は公園での会話にどれだけ自分が悲しんだか、動揺したか、心配したか、すべて言いたかった。
 しかし、結衣が見えていたのは自分だけだったし、この場で言っても変だと思い、言わなかった。

 結衣の反応は、京子の期待したものではなかった。

 小首を傾げ、京子を見つめる結衣が発した言葉に病室は凍りついた。




 「……あの、知り合いでしたっけ?」




**

 ナイフが振りおろされるあの一瞬、結衣は天使と会った。
 天使と言ってもよく絵に描かれるような裸の子どもではなく、結衣と同世代くらいの普通の少年だった。

結衣「誰?」

天使「君たちの世界でいえば、天使かな?」

結衣(天使……?いや、そんなことより)

結衣「それどころじゃない!」

天使「わかっているさ。あの金髪の子を助けたいんだろ?」

結衣「助けたいに決まってるだろ」

 天使は頭をがりがりかきながら、ぶっきらぼうに告げた。

天使「助けられるよ」

結衣「じゃあ早くっ…!」

天使「ただし」

結衣「……?」

天使「ただし、君は消えちゃうよ」

結衣「え」

天使「そんなにこの世界も甘くないのさ」

結衣「……」

天使「おっと、この世界は君の世界とは違うからまだナイフは振り下ろされていない」

天使「好きなだけ悩むといいさ」フッ

結衣「京子を助けて……」

天使「随分早い答えだな。本当にそれでいいのか……?」

結衣「京子は絶対に助かるんだよな」

天使「あぁ、そこは保障する」

結衣「京子が助かるなら、自分はどうなったってかまわない」

結衣「京子が殺されようとしているのを指をくわえて見ているなんてできない」
 
天使「……」

結衣「だから……!だから京子を助けて!」

天使「よかろう。それが君の選択だね」

結衣「」コクリ

 結衣がうなずくと同時に目の前は真っ暗となり、闇の中で天使の声だけが響いた。

天使「君は消えちゃうといったけど、正確にはそうではない」

天使「君が助けようとしている金髪の子の記憶だけが君の記憶から消えてしまうんだ」

天使「つまり“彼女の記憶を持つ“君が消えちゃうというわけ」

結衣「京子の記憶が、消える……?」

天使「あ、もちろん僕とここで会ったことも消えるだろうし」

天使「幽体離脱している間彼女と一緒にいたんだろ?だからそれも消えるだろう……」

結衣「私の中から京子が、消える……」

天使「……さて、僕は彼女を助けに行くとしよう」


結衣「待って!」

結衣「この世界から戻ったら消えてしまうの?」

天使「この世の君の体と君が合体し、元に戻った時さ」

結衣「ということは……」

天使「少しだけ君と彼女の時間は残されている、ということになるだろう」

結衣「……」

天使「では、僕は行く」

結衣「京子の記憶がなくなる……私の中から京子が消える」

結衣「今まで溜めてきた、思い出も、京子への想いも……すべて」

結衣「……伝えない方が幸せなんだろうか……」

結衣「でも、今言わなきゃ、一生言えない……」
 
パァッン

 視界が晴れると外灯が割れ、京子は助かった。

**


結衣「……あの、知り合いでしたっけ?」

京子「え?何言ってるの結衣?こんな時にそんな冗談……」

あかり「京子ちゃんがわからないの?」

結衣「きょうこ……?」

ちなつ「結衣先輩の幼馴染で、ごらく部を結衣先輩と作った……」

結衣「ごらく部……?」

結衣「そんな部活あったかな?」

京子「えっ?」

ちなつ「結衣先輩と私が出会ったのはごらく部じゃないですか?」

結衣「え、ちなつちゃんと出会ったのは……確か」

結衣「今は使われていない茶道部であかりと喋っていた時に、茶道部に入部しようとちなつちゃんがやってきたんじゃなかったっけ?」

あかり「え……?」

結衣「茶道部は廃部だけどお茶の道具はあるからって……そして放課後は自然と茶道部で過ごすようになったんだよな」


京子「……」

あかり「……」

ちなつ「……」

結衣「何変な顔してるんだよ」

京子「どうして……?」

あかり「結衣ちゃんのお母さん、結衣ちゃんが……」

ちなつ「京子先輩……」

京子「結衣……?どうして……?」


**


 記憶喪失。

 船見結衣の記憶から歳納京子のことが、歳納京子のことだけが消えてしまった。

 病室の外で結衣の母はそのことを京子に伝えた。

結衣母「ごめんね、京子ちゃん」

京子「そんな……謝らないでください」

結衣母「でも……」

京子「結衣がこうやって意識を取り戻したってだけで十分ですよ」

 原因は事件によるショックではないかとされた。
 京子が結衣の幼馴染であり、結衣の記憶の様々な部分で繋がっているから、何かきっかけがあれば…
 と医者は言ったが、記憶が戻らない可能性はないとは言い切れなかった。

京子「結衣が生きてるってそれだけで……」

結衣母「京子ちゃん……」

京子「だから、私は大丈夫です」

 結衣の母親はそれ以上は何も言えなかった。

 病室に戻るとあかりとちなつが結衣にごらく部の写真を見せていた。

あかり「ほら、これがあかりで、結衣ちゃんで、ちなつちゃんで……京子ちゃんだよ」

結衣「……なんで、一緒に写真を?」

ちなつ「私達4人で、ごらく部なんですよ」

結衣「ご、らくぶ……?きょうこ……?」

京子(結衣……)

結衣「……なんだよ、それ?……わかんないよ」

あかり「京子ちゃんだよ?あかりたちは幼馴染だよ?」

結衣「わかんないよ!」

あかり「!」ビクッ

結衣「あ……ごめん」

結衣「……ごめん。疲れてるから、今日は……」

あかり「……ごめん、結衣ちゃん」

結衣「ううん、大きな声出してごめんね、あかり」

ちなつ「結衣先輩……」

京子「あかり、ちなつちゃん」

 病室の出入り口から京子は2人を呼んだ。

 何か言いたげな2人に京子は落ち着いた口調で言った。

京子「帰ろう?」

ちなつ(京子先輩……)

あかり「……うん」

結衣「……」

あかり「また来るね、結衣ちゃん」

ちなつ「お大事になさってください、結衣先輩」

結衣「ありがとう」

 あかりとちなつは京子とともに病室を出た。

 それを見送った結衣が溜息をついた時、京子がひょいと顔を出した。

京子「……結衣」

結衣「……」

 京子は病室に入らない。

 結衣は無言でそれを見ていた。

 はたから見たら睨んでるような様子だったかもしれない。

京子「結衣の意識が戻ってよかったよ」ニコッ

 京子はそう言って笑った。

 嬉しそう、切なそう、楽しそう、泣きそう……
 色々な感情が混ざったようなその笑顔は形容できない美しさを持っていた。

結衣「……っ」

京子「本当に……よかったよ」

 崩れかけた京子の笑顔は一瞬にして消えた。

 聞こえるのは廊下を駆けて行く足音。
 看護師のそれをとがめる声。


結衣「……」

 もう誰もいない病室の扉を結衣はただ眺めていた。

結衣(あんなに人って、美しく笑うんだな)

 目に焼き付いて離れなかった。

 美しい笑顔が。

 そして、一瞬見えた崩れた笑顔とその涙が。

結衣「なんなんだよ、もう……」

 写真、周囲の様子、京子の表情。
 
 自分の中で歳納京子が抜け落ちていることくらい、結衣にも分かった。

 それは分かるが……

結衣「……分かんない……」


結衣「……こんなさ、1人だけ思い出せないなんてさ」

結衣「そんなの、漫画や小説の世界の話だろ……」

結衣「なんでわからないんだよぅ……」


 京子の記憶がないことは分かるのに、京子の記憶は分からない。

 京子は自分のことを知っているのに、自分は京子のことを知らない。

 それが結衣は怖いと思った。


**

 本当なら結衣の意識が戻ったことの喜びを分かち合うはずだった帰り道。

 あかりとちなつは何も言えないでいた。

 そんな2人を尻目に京子は明るく二人の肩を抱いた。 

京子「何暗い顔してるんだよ」

あかり「だって……」

京子「結衣の意識が戻ったんだよ?」

ちなつ「そうですけど」

京子「結衣が生きてるんだから、もっと喜ぼうよ」

あかり「だけど、結衣ちゃん……」

京子「……あかり、ちなつちゃん」

 京子は声のトーンを落とした。

京子「結衣のことを頼んだよ」


ちなつ「そ、それって、どういう……」

 京子はまた明るく笑う。

京子「今日で、ごらく部は解散だ」

あかり「えっ」

ちなつ「な、なんでですか!?」

あかり「そうだよ、京子ちゃん。ごらく部でいれば結衣ちゃんだって……」

京子「結衣さ……すごく戸惑ってた」

ちなつ「……」

京子「分かるはずなのに分からない私の存在に戸惑ってた」

あかり「……」

京子「思い出すかどうかなんて分からないのに、これ以上戸惑わせたらら、さ」


京子「結衣はああ見えて、弱いところあるのに……」

京子「不安なことがあってもそれをなかなか見せないから」

京子「きっと私といたら、結衣は疲れちゃうよ」

あかり「そんなこと……」

ちなつ「そんなことないです!」

京子「……じゃあ、私が弱いんだよ」

ちなつ「京子先ぱ……」

京子「結衣が生きててくれて嬉しいって言うのは本当だよ」


京子「だけど、私のことだけ憶えてないっていうのは辛いんだ……」

京子「一緒にいると私も辛いから……だからさ……」

あかり「京子ちゃん……」

京子「なーんてね!」

ちなつ「……」

京子「そんなわけで結衣の事頼んだよ」


**


 2人と別れ、家に帰った京子は夕飯を取らずに部屋に引きこもった。


京子「……結衣」

 通じ合ったはずの想いは揺らぐ。
 結衣の記憶に京子はいない。

京子「ばか……」

京子「ばか……。結衣が生きてるんだから、それでいいじゃん」

京子「それで、いいんだよ」

京子「結衣の私を見る目さ……あんな目、初めてだよ……」

京子「あー、もう……」

京子「結衣は私のことなんか憶えてないけど……」


京子「私の事思い出して、とか、私への気持ちはどこにいったの、とか」

京子「今の結衣は違うんだから、そんなの押しつけられないよ」

『もう一緒にいられないかもしれない』

京子(あの時の結衣の言葉は、結衣の死を意味していると思った)

京子「だけど今、一緒にいられない、ね」

京子「結衣……結衣……」


**

 その次の日から京子はお見舞いに行かなくなった。

 その後結衣は無事に退院し、学校へ来るようになった。

 結衣が学校に来ると、クラスメイト達が結衣を囲んだ。

 クラスで作った退院祝いを渡した。
 
 京子はそれを黙って見ていた。

結衣「ありがとう。ごめん、なんかこんなによくしてもらっちゃって」

 「そんなことないよ」
 「よかったよ、結衣ちゃんが無事で」

結衣「はは……でも勉強とかすごく遅れちゃってるし」

 お見舞いに行かなくなってから京子は何もすることがなかった。

 大好きなはずなのに、絵を描く気も起きず、真面目に勉強していた。

 母親やクラスメイトは「雨が降るわ」と言いながら京子の様子を見ていた。


京子「……結衣」

結衣「綾乃!休んでた分のノート貸してもらえないかな?」

 京子は自分のノートとは別に結衣のノートも作っていた。

 渡せなくなったそのノートを京子はそっと机にしまった。

京子(……私に頼るわけないか)



 京子がお見舞いに来ない間、結衣の中に怖さ以外の何かが芽生えていた。

 美しい笑顔とそれが崩れた瞬間の京子の表情が忘れられなかった。

 歳納京子という存在は船見結衣の中に確かにいた。


結衣(色々、話してみたい)

結衣(だけど、何て話せばいいか、わからない)


 放課後、結衣は旧茶道室に向かう。

 京子はそれを見送り、結衣の机に結衣用に作ったノートを忍ばせた。

京子「こんなことしたって、仕方ないのにな」

京子「お見舞いに行かない間、色々考えたけど」

京子「どうすればいいかなんてわかんないよ……」


**


あかり「あ、結衣ちゃん」

ちなつ「学校復帰おめでとうございます」

結衣「ありがとう」

あかり「お祝いに今日はケーキ用意したんだよ」

ちなつ「私はおいしいお茶を淹れてきますね」

 京子がお見舞いに行かない間、ほとんど毎日あかりとちなつはお見舞いにいった。

 直接「京子」の名前を出すことはせず、あかりは幼いころの話をし、ちなつは茶道部室での日々の話をしたりした。

 京子のかけらを結衣に気付いてほしいと考えた2人なりの優しさだった。

あかり「あかりも準備しに行くね」

結衣「うん」

 茶道室には結衣一人になった。


結衣「……こんなにここって広かったかな」

結衣「うまく、思い出せないや……」

ちなつ「お茶です」

結衣「あ、ありがとう」ズズ

結衣「おいしいよ」

ちなつ「よかったです」ニコ

結衣(うん、いつも飲んでた味だな)

あかり「結衣ちゃんはどのケーキがいい?」

結衣「そうだな……じゃ、チーズケーキにしようかな」

結衣(広すぎるなんて……そんなの久しぶりだったから感じただけで)

結衣(そう、きっと私達はこうやってゆるい時間を3人で過ごしてたんだよな)


**

結衣「……あれ?」

結衣「休んでた分のノート……」

結衣「綾乃かな?でも、字がちょっと違うよな……」

京子「おはよー」

結衣「あ、おはよ」

結衣(なんて呼んだらいいかわからないな)

京子(結衣が昨日入れたノートを見てる)

結衣「あ、の……」

京子「え?」

結衣「目が覚めた時とか、みんなの会話とか、アルバムとか……」

結衣「私……、あなたのことだけ忘れちゃってるんだね……」

京子「あの、もしかして……」

結衣「ごめん」


京子「……そんなの謝ることじゃないよ」

結衣「でも……。あれからお見舞いもこなかったから」

京子「忙しかったからさ……」

結衣「そっか……だけど、私、あのきょ、きょうこ…さん、と」

京子「ぷぷぷ」

結衣「ごめん」

京子「呼びやすい名前で呼べばいいよ」

結衣「じゃあ、京子ちゃん」

京子「……うん」

結衣「思い出せないけど……だけど、京子ちゃんとは仲良くなりたい……というか」

京子(結衣……)

結衣「だから、よかったら放課後に茶道部で一緒にお茶したりとか……どうかな?」

京子「……ありがとう」

結衣「よかった」

京子「……」

京子「今日の放課後から、そっちに付き合う事になった」

あかり「よかった」

京子「私はとりあえず結衣に合わせるつもり」

ちなつ「……京子先輩」

京子「何だろうね、わかんないんだ」

京子「思い出してほしいって思うけど……」

京子「結衣にそれで迷惑かけたくないし」

京子「本当は、どうすればいいかなんてわかんないんだ」

あかり「京子ちゃん……」

京子「結衣さ、私の事、京子ちゃんって呼ぶんだ」

京子「それ聞いちゃったら、なんかもう……」

京子「“結衣”なんて気軽に呼べないよね」

ちなつ「結衣先輩は何て京子先輩を誘ったんですか?」

京子「『思い出せないけど……だけど、京子ちゃんとは仲良くなりたい……というか』って……」

ちなつ「京子先輩」

京子「なに?ちなつちゃん」

ちなつ「私、結衣先輩のことが好きです」

京子「うん」

ちなつ「だけど、京子先輩のことだって大好きです」

ちなつ「二人とも大好きな先輩です」

ちなつ「だから……、私も何が正解か分からないけど」

ちなつ「どちらかが我慢して不幸なんて許しません……許しませんよ……」

京子「ちなつちゃん……」

ちなつ「結衣先輩が事件にあったとき、目が覚めるまでの間……」

ちなつ「私は何もできませんでした。」

ちなつ「泣くだけで、祈るだけで……何もできませんでした」

ちなつ「でも、今ならきっと、結衣先輩のために、そして京子先輩のために」

ちなつ「何か出来ると思うし、したいです」

あかり「あかりも、2人には笑っていてほしいよ」

あかり「あかりも2人が大好きだし、大切な友達だから」

京子「ちなつちゃん……あかり……」

あかり「無理、しないでね?」

京子「ありがとう……」

京子「結衣と避けないで接してみるよ」

京子「無理に思い出させようとはしないし、大変なこともあるかもしれないけど」

京子「私には大切な仲間がいるもんね」

京子「だから、大丈夫だよ」


**


 京子が茶道部室でだらだらと放課後を過ごす会に参加して1週間が経った。

 この1週間、京子は結衣の事件が起こる前と同じように過ごしてみた。


京子「ちなちゅ~」ダキッ

ちなつ「ちょ!京子先輩!」

京子「ちゅちゅー」

ちなつ「も、もう……やめてください!京子先輩」ゲシッ

あかり「あわわ」

結衣「……」

京子「いたたた……まったくちなつちゃんは照れ屋さんなんだから☆」

ちなつ「何言ってるんですか、京子先輩」

ちなつ「私は結衣先輩一筋なんですからね!」

結衣「……ぷっ」

ちなつ「……え」


京子(結衣……?)

あかり「結衣ちゃん?」

結衣「ふふふ。ごめんごめん」

結衣「京子ちゃんとちなつちゃんって仲いいんだなって思ってさ」

あかり「えっと……あれ?」

京子「……そーなんだよー!こうやって嫌がってるふりしてるだけなんだよ」ギュー

ちなつ「京子先輩?」

京子「ちなちゅー」ギュー

ちなつ「い、痛……あっ……」

京子「……っ」ギュー

ちなつ(京子先輩。笑ってるのに……泣いてるよ……)

結衣「」ニコニコ

京子「でさー……」

結衣「そうだったなー」

ちなつ「でもでも……」

あかり「」ニコニコ

ちなつ「……あれ?あかりちゃんいたの?」

あかり「最初からずっといたよ!?」

京子「あかりは相変わらず影が薄いなー」

あかり「もうっ!京子ちゃんったらひどいよー」ブゥ

結衣「あかりは影薄くなんてないよ」ニコ

結衣「まったく京子ちゃんもちなつちゃんも酷いじゃないか」


ちなつ「……」

京子「……」

あかり「あ、ありがとう、結衣ちゃん」

あかり(でも、なんか複雑な気分だよ……)

結衣「ほら、あかりに謝らないと!」

あかり「いいよ、そんな謝らなくても……」

京子「ごめん!あかり。ちょっと調子に乗りすぎた」

ちなつ「……ごめんね、あかりちゃん」



 結衣の記憶が戻る気配はなかった。

ちなつ「京子先輩、大丈夫ですか?」

京子「……うん」

ちなつ「基本的には結衣先輩は結衣先輩なのに……」

京子「でも、同じように接すれば接するほど、苦しくなるのは何でなんだろうね」

あかり「……京子ちゃんの記憶は、きっと結衣ちゃんの中で大きすぎるんだと思うんだ」

あかり「結衣ちゃんを構成する大きな要素が京子ちゃんの存在だから……」

あかり「だから、きっと……」

ちなつ「じゃあ、このままこうやって刺激し続ければ記憶は戻るんじゃ……」

京子「……そんなの分かんないよ」

あかり「京子ちゃん……」

京子「普段通りで辛いのなら、……もう私はそれをやめるよ」

京子「私がくれる楽しいが好きだって言ってくれた結衣は、やっぱりもういないんだよ」

ちなつ「京子先輩、あの時の記憶……」

京子「嬉しかったんだ。いつもはちゃめちゃやって、結衣に迷惑かけてないかな?って心配もなくはなかったし」

京子「恥ずかしいから記憶ないことにしてたけど、ちゃんと覚えてるよ」

京子「結衣は泣きながら言ってくれたんだよね」

あかり「あの時、結衣ちゃんは京子ちゃんを元に戻そうと必死に……」

京子「わかってるよ。でも、ただ転んで頭を打ったなんて単純な話じゃないから」

京子「……私は、そんな私を見守ってくれて好きだって言ってくれる結衣が、好きだったんだ……」

ちなつ「京子先輩……」

京子「ごめん。でも、ちゃんとするから」

あかり「ちゃんとって……?」

京子「結衣を避けたりはしないよ」

京子「ちょっと私が変わるだけだよ……少し頭を打ったみたいな感じにさ」

京子「こんなことくらいしか、もう……今の私には出来ないよ」


**


 結衣の事件から3カ月が経とうとしていた。


 いまだに結衣の記憶は戻らない。

 結衣と京子は一緒に過ごす時間も増え、放課後以外も一緒に過ごした。

 結衣は京子と過ごす日々に安心と幸せを覚えていった。

 京子は、結衣の前ではあくまで“京子ちゃん”だった。

 結衣と一緒にいる日々が嬉しくもあり、幸せとも思うが、悲しかった。苦しかった。


 結衣が京子ちゃんに惹かれているのは明らかだった。


**


結衣「……私、京子ちゃんの事、好きかもしれない」

京子「え……」

結衣「……」

京子「……」

結衣「なんでもない」タタッ

京子「……私、今、結衣に告白された……?」


 京子は走り去る結衣の背中を見送った。

 その場からすぐには動けなかった。


あかり「あ、京子ちゃん。遅かったね」

ちなつ「結衣先輩は一緒じゃなかったんですか?」

 茶道室であかりとちなつが京子を出迎えた。

ちなつ「何かあったんですか?」

 様子のおかしい京子にちなつが尋ねた。

京子「……告られた」

あかり「えっ?」

京子「結衣に……告白された……」

 あかりとちなつは黙った。

 しかし予感はあった。

 恋愛に疎いあかりにさえ、結衣の京子への好意は明白だった。

ちなつ「きょ、京子先輩は何て……?」

京子「何も言えなかった」

京子「結衣はなんでもないって言って帰っちゃった」

京子「なんでだろう……結衣のこと好きなのに……」

京子「どうしていいかわかんないよ……」

あかり「記憶が戻ったとか……?」

京子「ううん」

あかり「そっか……」

京子「結衣のこと好きだけど……好きなのに……でも……」

京子(今の結衣は私が本当に愛した結衣じゃないんだよ)

ちなつ「結衣先輩は……」

ちなつ「……記憶を失ってもまた、京子先輩に恋したんですね」

京子「ちなつちゃん」

ちなつ「結衣先輩の事好きだったから、わかりました」

ちなつ「事件前から結衣先輩は京子先輩のことが好きで、京子先輩も結衣先輩のことが好き」

ちなつ「事件の後、京子先輩の記憶をなくしてもまた、結衣先輩は、京子先輩に恋をした……」

京子「だけど、私は……」

ちなつ「……少し京子先輩の気持ちはわかります」

ちなつ「京子先輩の記憶がない結衣先輩はやっぱり、前とはちょっと違うから」

京子「……」

ちなつ「でも!でも、結衣先輩を傷つけたくないって理由で、その告白を受けないでください」

ちなつ「私にとって、京子先輩も大切な人ですから」

あかり「うん、どんなことがあってもあかりたちで2人を支えるよ」

あかり「ちょっと力不足かもしれないけど……だけど、頑張るから」

京子「……ありがとう」

京子「ちょっと1人で考えさせて……」

ちなつ「京子先輩……」



あかり「支えるって言ったけど……」

ちなつ「うん。なんで私達ってこんなに無力なんだろうね」

ちなつ「告白の返事なんてきっとどっちの選択をしても、傷付かないわけないのに……」

あかり「ちなつちゃん……」ジワ

ちなつ「あかりちゃん、泣いちゃダメだよ」

あかり「……」グッ

ちなつ「……本当に辛いはずの人が泣いてないんだから……」


**


結衣「……やってしまった」

結衣「私京子ちゃんのこと好きかもしれない……なんて」

結衣「京子ちゃん、すごく困った顔してたし……あーもう……」

 
 結衣は自分の告白シーンを思い返し、赤面した。


結衣「うあー……今日は1人になりたいな」

 結衣はアパートの存在を思い出した。
 退院して以降は実家に住んでいたものの、一人暮らしをしていたアパート自体は引き払っていない。
 落ち着いたら一人暮らしに戻りたいかな、という結衣の希望を汲んでのものだった。

結衣「久しぶりに、アパートに行こうかな。あそこだったら1人になれるし」


結衣「久しぶりだな……」

 親戚が大家をやっているだけあって、少し埃がたまっているものの保存状態は良好だった。

結衣「そういえば、退院した時に服とか必要なものを実家で改めて揃えたんだっけ?」

結衣「ゲーム機とか貴重品類は実家に持ってこられてたけど、ほとんど変わってないな」

結衣「なんだか、懐かしいな」

結衣「そういえば気に入ってる服もあるし、いくつか持っていこうかな?」ガサゴソ

結衣「あれ……?これ……私の服じゃない」

 結衣は無言で部屋を見回った。

結衣「洗面所に歯ブラシが2つ」

結衣「買った覚えのない漫画……」

結衣「見覚えのないノート……」

結衣「鍋つかみと思ったらボクシンググローブ……」

 結衣の部屋には結衣以外の誰かの痕跡がはっきりと残されていた。


 「これあげる!」

 「私が欲しかったものだからきっと結衣も嬉しいよ!」


結衣「あ……あ……誰……?」

結衣「もう少しで分かりそうなのに……何か思い出しそうなのに……」

結衣「なんで……こんなに……」

 パサッ

結衣「あ、ノートが……」

結衣「なんだこれ?相合傘?」

結衣「京子・ラムレーズン」

結衣「……ラムレーズン……」バッ

結衣「あっ、そうだ。電気とか止めてたんだ……」

結衣「でも、覚えてる。よく、ラムレーズンを買ってた事」

結衣「自分ではあまり食べなかったこと」

結衣「他の誰かのためだったこと」


結衣「この字……あの机に入ってたノートとおんなじ……?」


 「結衣ー、宿題見せてよー」

 「私らって歳とらないんだって」

 「まあでもそのほうがいいよね」

 「ずーっと一緒にいられるじゃん」ニヘッ

結衣「……これって……」


prrrr


結衣「もしもし……?あ、お母さん」

結衣母「結衣!あなた今どこにいるの?」

結衣「アパートだけど」

結衣母「京子ちゃんも一緒?」

結衣「え?一緒じゃないけど」

結衣母「……そう」

結衣「京子ちゃんに何かあったの!?」

結衣母「京子ちゃんがまだ家に帰ってこないみたいなの」

結衣「え……?」

結衣母「まだ7時とはいっても……ねぇ」

結衣母「とにかく、結衣は早く帰ってきなさい。お母さんたちで探しに行くから」

結衣「でも……!」

結衣母「いいから」

結衣「……」

結衣母「夕飯は作ってあるから温めて食べてね」

結衣「……うん」


ツー ツー ツー


結衣「……京子ちゃんが?」

結衣「じっとしていられるわけないじゃん……」

結衣『……私、京子ちゃんの事、好きかもしれない』

結衣「私のせいかもしれないし……」

 結衣はアパートを飛び出た。


**


 学校。登下校のルート。近所の公園。

 結衣は思い当たる所を駆けて回った。

結衣「はぁはぁ……いない」

結衣「どこに、いるんだよ……?」

結衣「だいたい回ったと思うんだけど……」

 にゃー。にゃー。

結衣「ねこ?」

 にゃー。にゃー。

 猫は結衣を誘うように鳴き、背を向けた。

結衣「……ついてこいってこと?」


結衣「ここは……私が襲われた所……?」

結衣「ずっと避けてたから来るのは久しぶりだけど……」

結衣「……外灯が割れて、犯人にガラスが降り注いで、犯人と女の子の悲鳴がして……」

結衣「あれ?」

結衣「……違う。私は確か猫に魚をあげて、その帰りに……」

結衣「じゃあ、この記憶は……?」


 「魚をあげたくらいで襲われるわけないんだから、大丈夫だよ」

 「でも、あんまり危ないことするなよ」


結衣「大切な記憶だ……忘れるわけなんてない……」


 「京子を助けて!」

 「……ごめんね、京子」

 「私を置いていかないでよ」

 「私、結衣ともっと一緒にいたいよ。2人でしてないこと……まだ……、まだ、たくさんあるよ」


結衣「……京子……」

 
 「そんなの絶対やだ」

 「確かにお前は迷惑ばっかりかけるし非常識だし自己中だし」

 「でも!」

 「それが楽しかった」

 「何をしでかすかわからなくて無茶な行動に付き合わされてきたけど」

 「楽しかった」

 「私はお前のくれる楽しいが好きなんだよ」





 「私、京子が好きだったよ」




結衣「京子……京子だ」

結衣「幼馴染で、今も同じクラスで、ごらく部なんて言って放課後に茶道室で一緒に過ごした……京子だ」

結衣「なんで、私は京子のことを……謝らなくちゃ。謝らなくちゃ」

結衣「迷惑かけて傷つけた……ごめん、京子」

 にゃー。

 「あっ」

結衣「!」バッ

 京子だった。
 スーパーの袋をぶら下げた京子は結衣が振りかえると同時に逃げるように駆けだした。

結衣「待って!」ダッ

 本来の結衣ならすぐに追いつく。
 しかし、入院していた間に体力が落ちたせいか、なかなか追いつけなかった。


結衣「待って!きょ、こ」ハァハァ

 京子が公園に入ろうとした時にやっと結衣は追いついた。

結衣「待ってって……ゼェゼェ、言ったのに…」ゼェゼェ

京子「……」ハァハァ

結衣「とりあえず、座ろ?」

 2人の訪れた公園は、幽体離脱した結衣と京子が出会い、そして想いを伝えあった公園だった。

 2人はそれぞれブランコに腰をおろして息を整えた。

京子「心配かけてごめんね」

結衣「……」
 
 京子が小さくブランコを揺らし、景色を見た。
 あの日の思い出が、結衣と自分の記憶が浮かび、涙があふれた。


結衣「京子……」

京子「……え」

結衣「京子」

京子(今、京子って……呼んだ?結衣が?)

 京子は涙を拭って結衣へ顔を向けた。

結衣「ごめん」

京子「……何が?」

 結衣はそれに応えず、ブランコを降り、京子のブランコに乗った。

 二人乗り。あの日と同じ。
 違うのは結衣の感触があること。

結衣「私がいなくても、京子は大丈夫なんて言って……色々なものを京子一人に押し付けちゃったね」

京子「……え、結衣?」


 ブランコが小さく揺れる。
 京子が結衣へ振り返ると、優しい目をした結衣と目があった。

結衣「……ただいま、京子」

京子「え……」

京子はブランコを降り、結衣と向かい合った。

京子「結衣……?結衣なの?」

結衣「」コクリ

京子「本当に……?」

結衣「うん」

京子「でも……」

結衣「……幽体離脱……」

京子「……!」

結衣「あんなに危ないこと、もう絶対するなよ。……でもありがとう」


結衣「私、京子が好きだよ」

京子「……結衣、結衣ぃぃ……」

京子「私も、好きだよ……」ギュッ

 今度は触れられた。
 触れることがなかった手が、重ならなかった体が……。
 結衣が記憶を失ってからすれ違っていた心が。

結衣「京子、顔を上げて……」

 顔を上げた京子の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。
 でも笑っていた。

京子「結衣……」


 二人の唇が今度は重なった。



京子「……おかえり、結衣」


**


天使「まったく君たちには驚かされたよ」

天使「船見結衣、君が彼女、歳納京子についての記憶を失ったのは確かだ」

天使「しかし、それは2人に天が与えた試練なんて高尚なものなんかではない」

天使「君が僕の事を憶えていないのは分かる。だから、君たちは純粋にお互いを見つけたのだろう」

天使「君達2人はお互いに切っても切れないような関係なのかもしれないな」

天使「君たちの想いの強さには感服したよ。だからこの世は侮れん」

天使「おっと、そんなことは置いといて、1つだけ言わせてもらおう」

天使「船見結衣。歳納京子。おめでとう。そして」



天使「2人の未来に幸多からんことを……」

**


京子「なんだか夢みたいだよ」

結衣「夢じゃないよ」

京子「まったく……私のことだけ忘れるなんてさ」

結衣「ごめん……」

京子「いいよ」

京子「でも、まさかまた私を好きになるなんてね」

結衣「……不思議だな」

京子「3回も結衣から告白されるなんて思わなかったよ」

結衣「私だってそんなの予想外だよ」

京子「……3回も好きって言われたのに、ちょっと怖いな」

結衣「何が?」

京子「だってやっぱり夢みたいなんだもん」

結衣「好きだよ、京子」

京子「結衣?」

結衣「好きだよ」

京子「……結衣ぃ」

結衣「好きだよ。何回だって伝えるよ」

京子「……」

結衣「好きだよ、京子」

京子「……わかった!わかったよ……」

結衣「……」

京子「……これ以上言われても」

結衣「じゃあ、今日一緒にいよう?」

京子「え……?」

結衣「電気も水もないんだけど」

京子「目が覚めたらいないなんてこと」

結衣「ないよ」

京子「……じゃあ、そうする」


結衣「もしもしお母さん?」

結衣「ごめん。でも、京子を見つけた。今一緒にいるよ」

結衣「で、今日はアパートで京子と泊まるから」

結衣「大丈夫。明日ちゃんと帰るからさ」


京子「もしもし……お母さん?うん、これ結衣の携帯」

京子「ごめん、心配かけて……」

京子「今日は結衣の所に泊まるね」

京子「お説教は明日聞くから……うん、じゃあ明日ね」


結衣「さて……行こう?」

京子「うん」

結衣「電気も水もないけど、大丈夫?」

京子「結衣がいればいいよ」

結衣「私も京子がいればいいかな」

京子「明日みんなに会いに行こうね」

結衣「うん」



京子「あ、でもさっき買った魚が腐るかも!」


終わり

早朝から長々と駄文ごめんなさい
支援などありがとでした

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